特許第6016316号(P6016316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016316
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】長時間スケールからの系補正
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20161013BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20161013BHJP
   G02B 17/08 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   G03F7/20 521
   G02B13/00
   G02B17/08 Z
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-521991(P2015-521991)
(86)(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公表番号】特表2015-524575(P2015-524575A)
(43)【公表日】2015年8月24日
(86)【国際出願番号】EP2013002077
(87)【国際公開番号】WO2014012643
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2015年3月18日
(31)【優先権主張番号】102012212758.5
(32)【優先日】2012年7月20日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】61/673,770
(32)【優先日】2012年7月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100158469
【弁理士】
【氏名又は名称】大浦 博司
(72)【発明者】
【氏名】ビットナー ボリス
(72)【発明者】
【氏名】ワブラ ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】フォン ホーデンベルク マーチン
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー ソーニャ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー リカルダ
(72)【発明者】
【氏名】マック リューディガー
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−517279(JP,A)
【文献】 特表2012−503870(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/078774(WO,A1)
【文献】 特開2003−045794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 −17/08 、21/02 −21/04 、
25/00 −25/04 、
G03F 7/20 − 7/24 、 9/00 − 9/02 、
H01L21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部分調節と第2の部分調節とを含むマイクロリソグラフィ投影露光装置を調節する方法であって、該第1の部分調節が、(a)第1の時間的調節持続時間t1を指定する段階と、(b)投影レンズの第1の収差b1を確立する段階と、(c)該第1の時間的調節持続時間t1中に該第1の収差b1を調節する段階とを含み、該第2の部分調節が、(d)第2の時間的調節持続時間t2を指定する段階と、(e)該投影レンズの第2の収差b2を確立する段階と、(f)該第2の時間的調節持続時間t2中に該第2の収差b2を調節する段階とを含み、
(g)t1<t2であり、
(h)b1は、前記調節持続時間t2中にb2よりも高速に変化する収差であり、
(i)前記第1の部分調節は、前記第2の部分調節が実施される間に並行して実施され、
前記第1の収差b1及び前記第2の収差b2は、スカラー収差であり、該第1の収差b1は、該第2の収差b2よりも低い波形を有する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の部分調節と第2の部分調節とを含むマイクロリソグラフィ投影露光装置を調節する方法であって、該第1の部分調節が、(a)第1の時間的調節持続時間t1を指定する段階と、(b)投影レンズの第1の収差b1を確立する段階と、(c)該第1の時間的調節持続時間t1中に該第1の収差b1を調節する段階とを含み、該第2の部分調節が、(d)第2の時間的調節持続時間t2を指定する段階と、(e)該投影レンズの第2の収差b2を確立する段階と、(f)該第2の時間的調節持続時間t2中に該第2の収差b2を調節する段階とを含み、
(g)t1<t2であり、
(h)b1は、前記調節持続時間t2中にb2よりも高速に変化する収差であり、
(i)前記第1の部分調節は、前記第2の部分調節が実施される間に並行して実施され、
前記第1の部分調節を実施する段階は、前記第2の部分調節が実施される間に繰り返し実施され、
前記第1の収差b1及び前記第2の収差b2は、スカラー収差であり、該第2の収差b2の桁数が、該第1の収差b1の桁数よりも大きくない、
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記第1の部分調節を実施する段階は、前記第2の部分調節が実施される間に繰り返し実施される、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1<100ミリ秒又はt1<20ミリ秒が適用され、t2は、t1よりも少なくとも2桁、より具体的には少なくとも3桁だけ大きい、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記投影露光装置のマニピュレータのうちのより高速のマニピュレータのクラスからの1つ又はそれよりも多くのマニピュレータが、前記第1の部分調節中に使用され、該投影露光装置の該マニピュレータのうちのより低速のマニピュレータのクラスからの1つ又はそれよりも多くのマニピュレータが、前記第2の部分調節中に使用される、
ことを特徴とする請求項2から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
設計に関して同等のマニピュレータ、特に熱マニピュレータが、前記第1の部分調節中及び前記第2の部分調節中の両方に使用される、
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記マニピュレータは、前記第1の部分調節中よりも前記第2の部分調節中により高い精度の設定を用いて使用される、
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項8】
第1のアルゴリズムが、前記第1の部分調節に対するマニピュレータ移動を決定するために使用され、第2のアルゴリズムが、前記第2の部分調節に対するマニピュレータ移動を決定するために使用され、該第1のアルゴリズムは、該第2のアルゴリズムよりも短い実行時間又は低い精度を有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1及び/又は前記第2の収差は、測定によって又は予測モデルからの予測によって確立される、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリソグラフィ投影露光装置を調節する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロリソグラフィのための投影露光装置は、一般的に、光源と、光源によって放出された光線を処理する照明系と、一般的にレチクル又はマスクと呼ぶ投影される物体と、物体視野を像視野上に結像する下記でレンズと略記する投影レンズと、投影がその上に行われる一般的にウェーハと呼ぶ更に別の物体とから構成される。レチクル又はレチクルの少なくとも一部は物体視野に置かれ、ウェーハ又はウェーハの少なくとも一部は像視野に置かれる。一般的に、レンズは、レンズに属する光学要素を配置する際に基準とする光軸を定める。一般的に、これらの光学要素は、この光軸に関して回転対称であり、光軸は、物体視野及び像視野に対して直角である。この場合に、レンズの設計は回転対称であると呼ばれる。
【0003】
レチクルが完全に物体視野の領域に置かれ、かつウェーハがウェーハと像視野の間の相対移動なしに露光される場合に、この投影露光装置を一般的にウェーハステッパと呼ぶ。レチクルの一部しか物体視野の領域に置かれず、かつウェーハがウェーハと像視野の間の相対移動中に露光される場合に、この投影露光装置を一般的にウェーハスキャナと呼ぶ。ウェーハの露光中に、投影露光装置は、予め決められた開口数と、照明系によって予め決められた設定、例えば、完全にコヒーレント又は部分的にコヒーレントな設定、特に二重極設定又は四重極設定とを用いて作動される。開口数は、一般的にレンズの開口絞りによって定められる。マイクロリソグラフィレンズにおける従来の像側開口数は、0.5と0.6の間、0.6と0.7の間、0.7と0.8の間、又は0.8と0.9の間の値、又は他にそれよりも大きい値である。これらの像側開口数は、最後の光学媒質として約1.0の屈折率を有するガスを有するレンズに適用される。
【0004】
レンズの最後の光学要素とウェーハの間の領域が媒質としての液体で充填される場合に、このレンズを液浸レンズと呼ぶ。考えられる液浸液は、約1.43の屈折率を有する水である。この屈折率では、それに関する液浸レンズの像側開口数を決定するために、上記に指定した開口数を1.43倍だけ高めなければならい。従って、液浸レンズでは、約0.75から0.9、0.9から1.05、1.05から1.2、又は1.2から1.35、又は他にそれよりも大きい像側開口数がもたらされる。
【0005】
設定は、一般的に、アキシコン、絞り、又はマイクロミラーアレイ、又は1つ又はそれよりも多くの交換可能なDOE(回折光学要素)のような照明系の光学要素によって予め決定される。露光中には、物体視野に属する各視野点からの開口絞りによって切り込まれた最大光ビームが物体視野から像視野に到達する。収差がレンズの設計だけによって決定される理想的なレンズでは、視野点に属する像点の近くにおいてこの最大光ビームによって定められる波面は、像点を中心点とする球面波にほぼ対応する。従って、そのようなレンズの可能な分解能は、開口絞りを依然として通過するレチクルにおいて発生する回折の次数によって決定される。従って、そのようなレンズを回折限界レンズとも呼ぶ。
【0006】
マイクロリソグラフィのためのそのようなレンズによって達成することができる可能な分解能Rは、次式のように開口数NAに反比例し、レンズの動作波長λ及び処理パラメータk1に比例する。
【0007】
動作波長、すなわち、投影光の波長は、一般的に365nm、248nm、193nm、又は13.5nmである。13.5nmの場合に、レンズは反射のものであり、すなわち、ミラーのみから構成される。これらのミラーは真空中で作動され、真空を周囲の媒質とする場合に、開口数は、0.2から0.25、0.25から0.3、0.3から0.4、0.又は4から0.45、又はそれよりも大きい。
【0008】
更に別のタイプのマイクロリソグラフィレンズは、屈折結像レンズ、すなわち、屈折レンズ要素のみから構成されるレンズ、及び反射屈折レンズ、すなわち、レンズ要素とミラーから構成されるレンズである。反射屈折レンズは、回転対称設計の場合に光軸を含まない使用可能物体視野を有することができる。この場合に、この設計を軸外設計と呼ぶ。これは、例えば、いわゆるRCR設計の場合であり、すなわち、投影レンズは、物体視野を第1の中間像上に結像する第1の屈折結像部分レンズ、第1の中間像を第2の中間像上に結像する反射屈折部分レンズ、及び第2の中間像を像視野上に結像する第2の屈折結像部分レンズという3つの部分レンズに再分割される。反射屈折部分レンズは、投影光の伝播方向の反転に起因して一般的に光軸が物体視野と交わるのを防止する少なくとも1つのミラーを含む。これから、軸外という表現の由来を見ることができる。しかし、物体視野が光軸から過度に遠く、それによって十分に良好な収差補正が困難になることのないように、反射屈折部分レンズ内の2つの中間像の近くに折り返しミラーが置かれる、WO2004019128A2を参照されたい。
【0009】
動作波長での光で投影露光装置を作動させる場合に、投影露光装置のレンズに属する光学要素に変化がもたらされ、それによってレンズの光学特性に部分的に不可逆の変化が引き起こされる。本明細書に例示的に列挙するものは、光学要素の可能なコーティングにおける圧密化、希薄化、及び化学的に引き起こされる変化である。光学要素のそれらのマウント内でのドリフトによって更に別の不可逆変化が発生し、この変化は時間が長くなる時に進行する。レンズの光学特性における他の変化、例えば、レンズ要素の加熱と、それに関連付けられたレンズ要素の形状変化、及びレンズ要素の屈折率分布の変化の事例のようなものは可逆性のものである。これらの変化は、レンズの光学特性において時間依存及び空間依存の変化を導く。
【0010】
従って、マイクロリソグラフィレンズは、その開発の途上で益々多くの操作オプションによって相補されている。これらの操作オプションは、レンズの光学特性の変化を相殺するために使用することができる。この目的を実現するために、レンズに属するレンズ要素、ミラー、又は回折光学要素のような1つ又はそれよりも多くの光学要素を変位、回転、交換、変形、加熱、又は冷却するマニピュレータが使用される。交換の場合に、非球面化平面板が、レンズ内に交換要素として与えられる。交換要素は、レンズのマニピュレータが設けられた光学要素とすることができる。これらの光学要素は、好ましくは、光伝播方向に見てレンズの最初の光学要素及び最後の光学要素のうちの1つ又はそれよりも多く、レンズの中間像の近くに置かれた光学要素のうちの1つ又はそれよりも多く、又はレンズの瞳平面の近くに置かれた光学要素のうちの1つ又はそれよりも多くである。この場合に、近いという表現は、いわゆる部分口径比を用いて定められる。この点に関しては、引用によって全文が本出願に組み込まれているWO2008034636A2を参照されたい。特にこの引用文献の41ページ及び42ページの全文が本出願に組み込まれている。
【0011】
更に、例えば、WO2008037496A2は、マニピュレータを用いて複数の力及び/又はトルクによる影響を及ぼし、それによって形状に関して高い局所変動性が得られるようにする光学要素を含むマイクロリソグラフィのためのレンズを開示している。
【0012】
光学要素を変形するマニピュレータは、特にその高速な応答挙動によって区別される。R.K.Tyson著「適応光学系の原理(Principles of Adaptive Optics)」、Academic Press,Inc.、ISBN 0.12.705900−8は、望遠鏡のミラーのための高速応答マニピュレータの概要紹介を提供している。そのようなタイプのマニピュレータは、マイクロリソグラフィのためのレンズ内でも使用される。
【0013】
更に、例えば、WO2008034636A2は、マイクロリソグラフィのためのレンズ内の平面板を開示している。電流を印加することができる導体トラックが、この平面板内又はその上に置かれる。それによって引き起こされる温度変化中に、平面板の屈折率に局所的に影響を及ぼすことができ、従って、平面板は、その屈折率に関して高い局所変動性を有する。
【0014】
更に、例えば、WO2009026970A1では、WO2008034636A2からの平面板に、この板の空間平均温度を時間と共に一定に保つことを可能にするヒートシンクが設けられる。
【0015】
更に、例えば、EP851305B1は、マイクロリソグラフィのためのレンズ内の平面板対、いわゆるアルバレス板を開示している。このアルバレス板対は、互いに対面するアルバレス板の面上にそれぞれ1つの非球面レンズ要素を有し、これらの非球面レンズ要素は、互いに対するアルバレス板の相対ゼロ位置において光学効果に関して他方のものを補償する。一方のアルバレス板又は両方のアルバレス板が、レンズの光軸と垂直に互いに相対的に撓んだ場合に、補償効果及びマニピュレータとしてのこれらのアルバレス板セットの光学効果はもはや存在しない。
【0016】
更に、例えば、EP1670041A1は、特に、マイクロリソグラフィのためのレンズ内に二重極照明の吸収によって導入される収差を補償するように機能するデバイスを開示している。二重極照明の場合に、レンズの瞳平面に置かれた光学要素が非回転対称な加熱を受ける。この光学要素は、好ましくは、動作波長のものとは異なる波長を有する光をこの加熱に関して少なくとも近似的に相補的な方式で放出する2次光源からの追加の光に露光される。それによって望ましくない収差が補償されるか、又はこれらの収差が少なくとも低減されるか、又はこれらの収差が、それとは質的に異なる収差に変換される。この場合に、これらの収差のゼルニケ多項式としての級数展開のゼロとは大きく異なる係数インデックスが対毎に異なる場合に、第1の収差は、第2の収差とは質的に異なると理解しなければならない。上述の級数展開の実質的に1つのインデックスしかゼロとは大きく異ならない場合に、収差をスカラー収差と呼ぶ。ゼルニケ多項式としての収差の級数展開に関しては、DE102008042356A1及びDE102004035595A1を参照されたい。
【0017】
更に、例えば、DE19827602A1では、ペルチェ要素を用いて、光学要素に対してその円周にわたって加熱又は冷却の作用が与えられる。
【0018】
例示的に上記に挙げた方式でレンズの光学要素に対してマニピュレータが影響を及ぼす操作オプションが装備されたマイクロリソグラフィのためのそのようなレンズは、その作動中に上述の変化を相殺することができるように操作することができる。
【0019】
そのような操作を調節と呼ぶ。投影レンズは、製造された後に最初の調節を受ける。この調節は、後にリソグラフィ製造を行うべき場所に投影レンズを配送した後に製造に向けて投影レンズを使用することができるように、すなわち、投影レンズの収差レベルが予め決められた仕様を下回った状態になるように繰り返される。
【0020】
作動中かつ部分的には個々の露光処理中であっても、投影レンズは、異なる個数のマニピュレータを用いて繰り返し調節を受け、それによって投影レンズの収差レベルが仕様を下回った状態に留まり続けることが確実にされる。これらの繰り返しの調節がなければ、例えば、圧密化、希薄化、コーティングの劣化、光学要素のドリフト、光学要素の加熱のような上述の効果に起因して、投影レンズの収差レベルは、投影露光装置の結像品質を確実にする仕様よりも大きいことになるであろう。この仕様は、例えば、DE102008042356A1に記載されているように、調節なしでは再度直ぐに超過されることが推測されるので、一般的にこれらの繰り返しの調節を非常に高速に実施しなければならない。この高速調節を行う上で、1秒又は数ミリ秒よりも短い最大調節時間は、ことの外短いわけではない。この場合及び以下では、調節時間は、仕様から外れた投影レンズの収差が存在することが既知である場合に投影レンズの光学要素を操作することによってこの収差を仕様の範囲に戻すために与えられる期間を意味するものと理解しなければならない。この期間は、一般的に個々のマニピュレータ撓みを決定する段階(数値問題を解いて)、及びマニピュレータを撓ませる段階を含む。この点に関しては、再度DE102008042356A1を参照されたい。比較的高速に実施されるそのような調節は、この調節をそれと比較して比較的低速な調節から区別する一部の境界条件を必要とする。一例として、これらの境界条件は、マニピュレータ範囲及び/又はマニピュレータ自由度である。一例として、熱マニピュレータは、その平衡状態(同義的に定常状態)に到達するのに、光学要素の位置を変更するマニピュレータよりも長い時間を必要とする。マニピュレータ撓みを確立するための逆問題を解くために利用可能な計算時間から更に別の制約が発生する可能性がある。逆問題の高速な求解は、必然的に解の精度の低下をもたらす。この点に関しても再度DE102008042356A1を参照されたい。
【0021】
この場合に、上述の高速な調節又は短い最大調節時間は、それと比較して低速なマニピュレータを適正に撓ませることさえ可能ではないという効果を有する。言い換えれば、低速マニピュレータは、その純粋に設計依存の最大撓みにも、及びその全ての設計依存の自由度にも達することができない。その欠点は、投影露光装置が長期的に仕様から外れて、例えば、光学要素を交換することに関して発生するような低速調節の範囲のある程度の時間にわたって投影露光装置がリソグラフィ製造に利用不能になる点である。この欠点は、明らかな経済的欠点を有する。最悪の場合のシナリオでは、明確にこの欠点の理由から、比較的低速なマニピュレータは、投影露光装置内への設置に向けてもはや準備さえされることはなく、その頻繁な運転休止期間は回避不能と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】WO2004019128A2
【特許文献2】WO2008034636A2
【特許文献3】WO2008037496A2
【特許文献4】WO2009026970A1
【特許文献5】EP851305B1
【特許文献6】EP1670041A1
【特許文献7】DE102008042356A1
【特許文献8】DE102004035595A1
【特許文献9】DE19827602A1
【特許文献10】DE102007058158A1
【特許文献11】WO09080279A1
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】R.K.Tyson著「適応光学系の原理(Principles of Adaptive Optics)」、Academic Press,Inc.、ISBN 0.12.705900−8
【非特許文献2】Herbert Gross編集「技術光学の基礎、第1巻(Vol.1:Fundamentals of Technical Optics)」、Wiley、2005年
【非特許文献3】Mizunoi他著「光源−マスク最適化のための照明光学系(Illumination Optics for Source−Mask Optimization)」、Nikon Corp.、〒360−8559埼玉県熊谷市御稜威ケ原201−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従って、これらの運転休止期間の頻度を低減する改善された調節概念に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
収差、例えば、レンズの光学要素の加熱によって引き起こされる収差を以下の2つのクラスに再分割することができることが見出されている。
【0026】
持続時間t及び閾値pであって、リソグラフィ処理に関する収差の少なくとも一部のものをt及びpに依存する2つのクラス、すなわち、収差の将来のサイズが現在のサイズに関係なく持続時間tの後に無視することができない値だけ増大することによって区別される第1の収差クラスと、閾値pに到達した後に、各更に別の持続時間後に無視することができる値だけしか増大しない第2の収差クラスとに再分割することを可能にする持続時間t及び閾値pを指定することができる。この場合に、「無視することができる」は、持続時間t中に、投影レンズが、予め決められた仕様の範囲に留まるか、又は調節なしでも少なくとも持続時間t以内ではこの仕様をそのごく僅かな分量だけしか超過せず、そのような超過の場合が、リソグラフィ処理中に限って不合格品を引き起こさないかのいずれかであることが事前に既知であることを意味する。
【0027】
従って、これらの2つの収差クラスを時間的に並行して調節するが、それらの時間的仕様に関して互いに独立して調節する調節方法を提案する。本提案の調節方法は、2つの部分調節を含み、これらは、逆に、それ自体の調節であるが、明瞭化の理由から部分調節と呼ぶ。
【0028】
本発明を以下に続く陳述に基づいて説明する。
【0029】
陳述1。第1の部分調節と第2の部分調節を含むマイクロリソグラフィ投影露光装置を調節する方法。第1の部分調節は、(a)第1の時間調節持続時間t1を指定する段階と、(b)投影レンズの第1の収差b1を確立する段階と、(c)第1の時間的調節持続時間t1中に第1の収差b1を調節する段階とを含み。第2の部分調節は、(d)第2の時間的調節持続時間t2を指定する段階と、(e)投影レンズの第2の収差b2を確立する段階と、(f)第2の時間的調節持続時間t2中に第2の収差b2を調節する段階とを含み、(g)t1<t2であり、(h)b1は、調節持続時間t2中にb2よりも高速に変化する収差であり、(i)第1の部分調節は、第2の部分調節が実施される間に並行して実施されることを特徴とする。
【0030】
陳述1に記載の方法により、投影露光装置の2つの収差が時間的に並行して調節される。調節される2つの収差b1及びb2は、これらの収差が変化する速度に従って調節され、高速に変化する収差は、第2の部分調節中に調節される低速に変化する収差よりも高速にかつ第1の部分調節中に調節される。「高速」及び「低速」は、この場合と下記の両方において、互いに相対的なものであると理解しなければならない。低速に変化する収差の低速調節機能に対する高速に変化する収差のこの高速調節機能は、高速マニピュレータを使用する介入するマニピュレータの最適な撓みを確立することにおける計算精度を下げるか、又は使用するマニピュレータをその自由度の全てのものにおいて撓ませないという様々な手法で得ることができる。この場合に、これらの3つのタイプの組合せを使用することができる。マニピュレータのそのような「分離」の結果として、2つの収差を有利に並行して調節することができ、又は例えば調節時間t1が十分ではないことが推測されることで陳述1に記載の方法なしでは調節することが全くできないことが推測される収差b2を調節することができる。言い換えれば、単に長い調節持続時間t2に対する緩和は、収差b2の調節さえも、又はマニピュレータの使用又はその自由度のうちの1つの使用さえも可能にする。
【0031】
陳述2。第2の部分調節が実施される間の第1の部分調節の繰り返し実施段階を特徴とする陳述1に記載の方法。
【0032】
陳述2に記載の方法は、第1の部分調節後に収差b1が再度成長する場合に、この収差を再調節することを可能にする。この処理では、第2の部分調節は影響を受けない。
【0033】
陳述3。t1<100ミリ秒又はt1<20ミリ秒が成り立ち、t2が、t1よりも少なくとも2桁、より具体的には少なくとも3桁だけ大きいことを特徴とする陳述2に記載の方法。
【0034】
陳述3に記載の方法は、第1の部分調節に対して3桁だけ長い調節持続時間を第2の部分調節に対して可能にする。それによって第2の部分調節に対して利用されるマニピュレータを大きく最適性の高い方式で撓ませることができ、これらのマニピュレータの設計によってマニピュレータ内により高い自由度が存在する場合に、この高い自由度に対処することができることを確実にする。
【0035】
陳述4。第1の収差b1及び第2の収差b2がスカラー収差であり、第2の収差b2の桁数が、第1の収差b1の桁数よりも大きくないことを特徴とする陳述2及び陳述3に記載の方法。
【0036】
更に、低速変化収差の桁数が、高速変化収差の桁数よりも大きくないか、又はそれよりも小さくさえある場合に、第1の部分調節の場合におけるものよりも小さい範囲を有するマニピュレータを第2の部分調節に対して使用することができる。
【0037】
陳述5。第1の収差b1及び第2の収差b2がスカラー収差であり、第1の収差b1が、第2の収差b2よりも低い波形を有することを特徴とする陳述1から陳述4のいずれか1項に記載の方法。
【0038】
光学要素を加熱することによって引き起こされる収差の場合に、低い波形を有するそのような収差は、主として高速変化収差の中に見られる。従って、低い波形を有する収差を主として第1の部分調節によって調節し、高い波形を有するものを第2の部分調節によって調節することが有利である。波形の定義に対しては下記を参照されたい。
【0039】
陳述6。投影露光装置のマニピュレータのうちの高速マニピュレータのクラスからの1つ又はそれよりも多くのマニピュレータが、第1の部分調節中に使用され、投影露光装置のマニピュレータのうちの低速マニピュレータのクラスからの1つ又はそれよりも多くのマニピュレータが、第2の部分調節中に使用されることを特徴とする陳述2から陳述5のいずれか1項に記載の方法。
【0040】
比較的低速なマニピュレータと比較的高速なマニピュレータへの投影露光装置のマニピュレータ選択の再分割は、この場合に、陳述1に記載の利用可能な調節時間t2及びt1に従う。この再分割の結果として、介入するマニピュレータの範囲及び自由度は、そのような分類を用いない場合に推測されるものよりも改善された方式で有利に使用される。
【0041】
陳述7。第1の部分調節中と第2の部分調節中の両方において、設計に関して同等のマニピュレータ、特に熱マニピュレータが使用されることを特徴とする陳述6に記載の方法。
【0042】
熱マニピュレータは、作動に依存して収差の調節を比較的低速又は比較的高速にもたらすことができる。従って、異なる作動により、そのようなマニピュレータを両方の部分調節に対して使用することができる。
【0043】
陳述8。マニピュレータが第1の部分調節中よりも第2の部分調節中に高い精度設定に使用されることを特徴とする陳述7に記載の方法。
【0044】
陳述8に記載の熱マニピュレータは、第2の部分調節のためのマニピュレータとしての割り当ての場合に、第1の部分調節に割り当てられる場合よりも長い利用可能な調節時間t2を有する。従って、この熱マニピュレータは、第2の部分調節にかかわる場合により高い精度設定で作動させることができ、収差b2の改善された調節が可能になる。この場合に、精度設定は、マニピュレータ撓みを計算するのに使用されるアルゴリズムの精度を意味すると理解しなければならない。この場合に、アルゴリズムの精度は、事前の誤差推定によって設定される。
【0045】
陳述9。第1の部分調節に対するマニピュレータ移動を決定するために第1のアルゴリズムが使用され、第2の部分調節に対するマニピュレータ移動を決定するために第2のアルゴリズムが使用され、第1のアルゴリズムが、高い精度を有する第2のアルゴリズムよりも短い実行時間又は低い精度を有することを特徴とする陳述1から陳述8のいずれか1項に記載の方法。
【0046】
第2の部分調節に対して利用可能な長い調節持続時間t2は、より正確なアルゴリズムの使用をその実行時間を考慮に入れる必要なく可能にする。その結果、陳述8の場合と同様に、第2の部分調節中に高い精度設定を得ることができる。精度設定に関係なく、可能性として、第2の部分調節は、第2の収差b2に対する第1の部分調節の適用によって可能になると推測されるものよりも大きい第2の収差b2の低減を提供することができる。一例として、模擬アニーリング及び進化(例えば、遺伝的)アルゴリズムのようなDE102008042356A1に言及されているアルゴリズムを参照されたい。これらのアルゴリズムは、高い精度を有するアルゴリズムの例である。
【0047】
陳述10。第1及び/又は第2の収差が測定によるか又は予測モデルからの予測によって確立されることを特徴とする陳述1から陳述9のいずれか1項に記載の方法。
【0048】
収差b1及びb2が、第2の部分調節の間隔でしか測定されない場合に、この第1の収差は、第1の部分調節とこの収差の高速変動性の結果との両方に起因して変化してしまっているので、第1の部分調節の終了後の第1の収差b1の発達を陳述10に記載の予測によって補正することができる。収差b1が、第1の部分調節の間隔で測定される場合に、第2の収差の発達を予測モデルによってモデル化することが有利である。その結果、第2の収差が発達してしまっている可能性が最も高い値に第2の収差を適応させることができ、それに応じて第2の部分調節を編成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】様々な収差の時間的挙動を示す図である。
図2】マニピュレータと調節時間の1つの割り当てを示す図である。
図3a】比較的高速及び比較的低速な熱マニピュレータの説明を示す図である。
図3b】比較的高速及び比較的低速な熱マニピュレータの説明を示す図である。
図3c】比較的高速及び比較的低速な熱マニピュレータの説明を示す図である。
図3d】比較的高速及び比較的低速な熱マニピュレータの説明を示す図である。
図4a-c】図4a〜cは、比較的高速なマニピュレータと比較的低速なマニピュレータへの再分割を示す図である。
図5】並行する第1の部分調節と第2の部分調節に対する調整ユニットを有するレンズを示す図である。
図6】並行する第1の部分調節と第2の部分調節の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、投影光の吸収の結果としてレンズの光学要素が受ける加熱によって生成された一部の収差の典型的な時間プロファイルを示している。レンズは、走査作動に向けて設計され、走査方向に対して直角に25mmの広がりの像視野を有する反射屈折レンズである。3つのゼルニケ係数Z5、Z12、及びZ21に関する時間的収差プロファイルを比較し、ゼルニケ係数の定義に対してはDE102008042356A1及びDE102004035595A1を参照されたい。図示の3つの行内の3つのゼルニケ係数は、Z5からZ21に増大する2次、4次、及び6次の(半径方向)波形R、並びに2次の一定の方位角方向の波形θを有する3つの非点収差項であり、この場合(R,θ)は、正規化瞳座標である。より正確には、


である。5つのものがそれぞれ一行に置かれた図は、走査方向に対して直角に等距離配分された5つの視野点への再分割に対応する。
【0051】
ゼルニケ多項式及びその係数の一般的な定義は、Herbert Gross編集「技術光学の基礎、第1巻(Vol.1:Fundamentals of Technical Optics)」、Wiley、2005年から引用することができる。各ゼルニケ多項式pは、半径方向引数rと方位角方向引数φとに依存し、多項式である半径方向係数p1と、三角多項式である方位角方向係数p2とから構成される積p(r,φ)=p1(r)・p2(φ)によって与えられる。両方の多項式は、それぞれ半径方向引数rと方位角方向引数φとにしか依存しない。ゼルニケ多項式の半径方向波形及び方位角方向波形は、半径方向係数p1の多項式次数及び方位角方向係数p2の多項式次数それぞれによって与えられる。ゼルニケ多項式pは、pの半径方向係数がqの半径方向係数よりも高い多項式次数を有する場合に、ゼルニケ多項式qよりも高い半径方向波形を有すると呼ばれる。ゼルニケ多項式pは、pの方位角方向係数がqの方位角方向係数よりも高い多項式次数を有する場合に、ゼルニケ多項式qよりも高い方位角方向波形を有すると呼ばれる。ゼルニケ多項式pは、pがqよりも高い半径方向波形を有し、qの方位角方向波形がpのものよりも大きくないか、又はpがqよりも高い方位角方向波形を有し、qの半径方向波形がpのものよりも大きくない場合に、ゼルニケ多項式qよりも高い波形を有すると呼ばれる。
【0052】
それぞれの個々の図は、像視野の関連の視野点での対応するゼルニケ係数の時間的発展を示している。2つの異なる投影レンズに対して、それぞれ1つのシミュレーション値及び1つの測定値が示されている。図1は、各画像内に5つの異なるレンズからの5つの測定プロファイルを示している。
【0053】
横座標は、秒を単位としてプロットしたものであり、縦座標は、ナノメートルを単位としてプロットしたものである。これらの関数値は、DE102008042356A1及びDE102004035595A1に例示されているゼルニケ多項式に従う球面波からの波面偏位の級数展開において対応するゼルニケ係数の振幅(又は同義的に値)に対応する。
【0054】
すなわち、例えば、先頭行内の最初の図は、最外側左手視野縁部における収差Z5の時間的発展を示している。負荷印加の場合は、193ナノメートルの動作波長の投影光、35°のY−二重極設定、及び0.7〜0.9のシグマイン対シグマアウト比における投影レンズの作動である。最初の約1800秒内では、ゼロ点として定められる初期値の振幅は、約25nmの振幅まで平方根関数状に増大する。投影光による作動は、この1800秒の後に終了し、光学要素は再度クールダウンし、それによって振幅の減衰がもたらされる。
【0055】
先頭行からは、Z5の挙動が着目視野点には比較的依存しないことを推察することができる。
【0056】
図1の第2、次いで第3の行における収差に注意すると、時間的発展が着目視野点にほぼ依存しないことが同じく見られる。しかし、増大(絶対値に関しての)の形状はそれ程急勾配ではなく、最終的に小さい振幅(絶対値に関しての)で急速に飽和に遷移する。
【0057】
一般的に、例えば、Z21のような高い(半径方向)波形を有する収差又はゼルニケ係数は、例えば、Z5のような低い(半径方向)波形を有する収差と比較して相対的に低い振幅(絶対値に関しての)の挙動と飽和により急速に到達する挙動とを示すと判断することができる。
【0058】
投影露光装置を作動させる範囲で、投影光でレンズを作動させる期間及びそれに関連付けられた加熱と、投影光でレンズを作動させることのない期間及びそれに関連付けられた冷却との間で比較が行われた場合に、この比は1よりも有意に大きい。従って、一般的に、3つ全ての収差Z5、Z12、及びZ21において、ある時間量の後には収差の振幅が有意に成長してしまっているので、調節なしてはレンズが仕様から外れることになるということができる。
【0059】
一般的に、そのような仕様は、上述の3つのゼルニケ係数Z5、Z12、Z21のような収差に対する上限によって与えられる。従って、そのような調節は、繰り返すように指定され、繰り返しは、高い頻度を有するように指定される。この点に関してはDE102008042356A1を参照されたい。この場合に、利用可能な調節時間は、数秒から数ミリ秒とすることができる。予め決定される調節頻度は、最速成長収差によって設定される。図1ではZ5である。こうして予め決定されるこの頻度の観点から、例えば、Z21のような(半径方向)高次収差は、仕様に対する初期の強い増大と、それに続く無視することができる成長とを合わせた挙動を示している。Z21のような収差は、言わばこの挙動で変化する。
【0060】
従って、仕様から外れるという恐れを絶え間なく示すので、収差Z5が各調節サイクルにおいて調節されることになる。最初に、同じく収差Z21も、収差Z5と同じ頻度又は同じ程度の頻度で調節しなければならなくなる。しかし、約100秒後に、Z21の振幅の成長は非常に小さく、この成長は、仕様の範囲に留まる。その後に、Z5と対比してみると、収差Z21は低速変化収差になる。
【0061】
従って、一般的に、収差は、互いに相対的に定められ、高速変化収差及び低速変化収差という2つのクラスに分割することができる。この再分割は、時間に関して、かつ予め決められた最大調節時間に関して変化する可能性がある。一例として、収差Z12の分類は、これらの2つのパラメータ及び予め決められた仕様に明確に依存する。
【0062】
ここで、この異なる収差成長挙動は、高頻度で同じ調節概念が常に使用される場合に、低速変化収差のクラスが、その振幅が仕様を破る恐れを示すまで長期にわたって調節アルゴリズムによって殆ど無視されることになるという問題をもたらす。従って、そのような状況では、予め決められた調節アルゴリズムは、予め決められた時に非常に短いその最大調節時間の範囲で、高速変化収差Z5に加えて、もはや仕様から外れた低速変化収差Z21も調節することが強いられる。一般的に、調節アルゴリズムは、全ての誤差に同時に対処する。しかし、ここでもまた比較的高速に変化するZ5がしばらくの間優勢である場合に、調節は、収差Z21を無視し続ける可能性がある。一方の問題は、特に(半径方向)高次ゼルニケ係数が高速調節を受け入れないことである。次いで、これに対して以下に説明する。
【0063】
投影露光装置、特にレンズの光学要素の冒頭に示した操作オプションも、同じくクラスに再分割することができる。
【0064】
図2は、マニピュレータタイプの例示的な選択を用いたそのようなクラス再分割を示している。100ミリ秒の調節時間では、投影レンズの光学要素を投影レンズの他の光学要素に対して変位させるマニピュレータを一般的に使用することができる。そのような変位マニピュレータの作動に基づいて、10ミリ秒の調節時間を得ることができる。しかし、これは、一般的に、マニピュレータの撓み精度に損失を与えるか、又は精度に対して可能なマニピュレータ撓みに損失を与える。従って、100ミリ秒の場合は依然として制御ループを使用することができるが、10ミリ秒の場合は純粋な制御に依存する。すなわち、変位マニピュレータは、その閉ループ制御又は開ループ制御に基づいて、同じ設計を有しながら異なる最大調節時間を満たすことができる。
【0065】
EP851305B1に示されているアルバレスマニピュレータは、100ミリ秒の調節時間の範囲で撓ませることができる。しかし、アルバレスマニピュレータの板対を交換しなければならない場合は(例えば、DE102007058158A1を参照されたい)、100秒の調節時間を必要とする可能性がある。従って、そのようなアルバレスマニピュレータも同じく2つのクラス、すなわち、アルバレスマニピュレータを高速に撓ませることができ、このマニピュレータが、互いに対する2つの板の相対位置によって与えられる1つの自由度を有する第1のクラスと、アルバレスマニピュレータの板対が代替対と交換され、その後にこの代替対がその部分に対して撓む第2のクラスという2つのクラスに分類することができる。第1のクラスでは、アルバレスマニピュレータは1つの自由度を有し、第2のクラスでは、交換に利用可能な板対が存在することで多数の自由度を有する。
【0066】
そのようなアルバレスマニピュレータには、ユーザの要求に従ってまだ製造されていない板対を設けることができる(カスタム化)。この場合に、数日の調節時間が必要である。この場合に、そのようなカスタム化の自由度は、投影レンズ内のアルバレスマニピュレータの位置だけによって決定される。
【0067】
図3a〜図3dは、WO2009026970A1に記載されている熱マニピュレータの時間的挙動を記載している。この熱マニピュレータは、それぞれ1から16までの番号及びR1からR16までの番号が振られた水平方向及び垂直方向のワイヤ(1)が行き渡る平面板(2)である。これらのワイヤには抵抗密度が適用され、ワイヤは、その端部(3)において異なる電圧で作動させることができる。光学効果は、温度変化に関連付けられた平面板の屈折率の局所変化によって引き起こされる。この熱マニピュレータのゼロ撓みを設定することができるように、熱マニピュレータには、例えば、連続冷却空気流のようなヒートシンクが設けられる。この図には、このヒートシンクを示していない。
【0068】
図3a〜図3dは、投影光が平面板を通過する方向から平面板を示している。
【0069】
例示を簡略化するために、この図では、図示のピクセルの各個々のものの熱作動を他のものから切り離してアドレス可能なという仮定を行い、それを示している。
【0070】
図3aは、座標[5,12]×[R5,R12]におけるピクセル(4)の一定の連続的な熱作動の1秒後の板内の温度分布を示している。この図に示すのは、各場合のピクセルが共通の温度を有する内側領域及び外側領域、並びにそれと比較して幅狭の温度勾配を有する中間領域である。
【0071】
図3bは、同じ作動において、約5秒後に到達する平衡状態を示している。平面板の内側領域内の温度は変化しないままに留まっており、温度勾配を有する外側領域は幅広になっているが、熱作動が変化しないままに留まる限り、それ以上変化しないことになる。全体的に、平衡状態では、熱によって作動されたピクセル(4)によって追加される量と同量の熱が平面板(2)全体から放散する。
【0072】
図3c及び図3dは、今度は座標[5,6]×[R5,R6]における個々のピクセル(5)が、その隣接ピクセルと比較して異なる熱作動を受けるように熱作動が選択される場合の挙動を示している。
【0073】
小さい領域内の平面板(2)の屈折率変化は、温度変化に厳密に単調に依存するので、低い温度差における平面板(2)の温度差が、波面の位相誤差に比例することを見ることができる。従って、図3bに従って到達可能な平衡状態を熱マニピュレータの第1のマニピュレータ自由度と考えることができ、図3dに従って到達可能な平衡状態をこの熱マニピュレータの第2のマニピュレータ自由度と考えることができる。
【0074】
5秒又はそれよりも長い調節時間が計画される場合に、この熱マニピュレータは、図3b及び図3dに対応する自由度を有する。
【0075】
しかし、例えば、最大で1秒の調節時間が計画される場合に、図3dに記載の自由度を得ることができない。対照すると、図3aと図3bの間の温度差は質的に比較的軽微であるように見え、対応する位相差は許容されがちであり、1秒の調節時間では図3bに記載の自由度がこの熱マニピュレータに属すると見なされる傾向がある。量的には、この最初に質的である観点は、温度変化を受けるピクセルの面積に対する一定温度を有するピクセルの面積の比が、図3c及び図3dの場合よりも図3a及び図3bの場合には有意に低いことによって表される。
【0076】
熱による平面板(2)の小さい領域の作動は、一般的に、対応する位相誤差の高い波形をもたらす。
【0077】
従って、熱マニピュレータは、2つのクラス、すなわち、マニピュレータが低い波形を有する波面変化を引き起こさなければならない場合の比較的高速なマニピュレータのクラスと、マニピュレータがこれに加えて高い波形を有する波面変化を引き起こさなければならない場合の比較的低速なマニピュレータのクラスとに属するということができる。
【0078】
図4a〜図4cでは、上記に解説した収差及びマニピュレータの分類は、並行して実施される部分調節として例示的な方式に実施される。
【0079】
図4a〜図4bは、第1の部分調節と、それと並行して実施される第2の部分調節とを示している。
【0080】
図4aに記載の第1の部分調節は、投影光による作動に関するレンズの加熱の結果として1s以内で仕様から外れる恐れを示す収差b1に対処しなければならない。一例として、5nmの仕様では、この収差は、作動の開始時に即時に5nmよりも大きい収差Z5をもたらす非点収差b1である。この点に関しては、再度図1を参照されたい。従って、この第1の部分調節では、t1=1sの調節時間が与えられる。図4aでは、第1の部分調節に対して利用されるマニピュレータを太線を用いて強調表示している。これらは、低速変位マニピュレータ、設定変更、投影光の波長変更、軸外マニピュレータ、アルバレスマニピュレータの撓み、低分解能熱マニピュレータ、及びレンズ内の圧力条件変更である。図4bに記載の第2の部分調節は、投影光による作動に関するレンズの加熱の結果として100s以内で仕様から外れる恐れを示す収差b2に対処しなければならない。一例として、5nmの仕様では、この収差は、作動の開始時に即時に5nmよりも大きい収差Z5をもたらす非点収差b1である。この点に関しては、再度図1を参照されたい。従って、この第2の部分調節では、t2=100sの調節時間が与えられる。利用されるマニピュレータは、低速変位マニピュレータ、設定変更、投影光の波長変更、軸外マニピュレータ、アルバレスマニピュレータ撓み、高分解能熱マニピュレータ、レンズ内の圧力条件変更、及びレンズの絞り変更である。
【0081】
第2の例として、今度は図4b〜図4cは、第1の部分調節と、それと並行して実施される第2の部分調節とを示している。
【0082】
第1の部分調節は、上述の第2の部分調節に対応し、対応する収差及び仕様に対処する。この場合に、第2の部分調節は、投影レンズ内に固定的に設けられるマニピュレータに基づいて、一般的にもはや補償することができない非常に高い波形を有する収差に対処する。一例として、この収差は、冒頭に示した投影光の入射を受けた場合のガラスのような光学材料又は層の圧密化を含む。この入射は、例えば、いわゆる自由形状設定が使用される場合の非常に局所性のものとすることができる。この点に関しては、WO09080279A1又はMizunoi他著「光源−マスク最適化のための照明光学系(Illumination Optics for Source−Mask Optimization)」、Nikon Corp.、〒360−8559埼玉県熊谷市御稜威ケ原201−9を参照されたい。この場合に、第2の部分調節は、例えば、絞り、レンズ要素、ミラー、又は1つ又はそれよりも多くの非球面化平面板のような投影レンズの光学要素の交換又は後処理を含む。そのような交換の時点では、並行する第1の部分調節は、もはや意味をなさない。この第2の例における第1の部分調節と第2の部分調節との並行性は、低速成長収差b2図4cに記載の連続作動マニピュレータによって補償されるようなものであると理解しなければならない。最初に見た時には、図4bの太字で印刷されたマニピュレータとの相違点はないように見えるが、予め決定される調節時間は異なり、異なる収差が補償されると考えられたい。従って、例えば、設定に影響を及ぼすマニピュレータは、図4bに記載の部分調節において、瞳の近くの光学要素の加熱によって引き起こされる収差を比較的高い強度及び低い分解能で補償する。しかし、この同じマニピュレータは、図4cに記載の部分調節において、層の劣化によって引き起こされる収差に比較的低い強度及び高分解能で対処することになる。
【0083】
図5は、DE102008042356A1から部分的に引用したものである。図5は、物体視野101を像視野102上に結像するためのマイクロリソグラフィのための投影露光装置100の例示的実施形態を示している。投影装置100はレンズ110を含む。物体視野に置かれ、レンズによって像平面102に結像される2つの視野点103及び104を例示的に示している。レンズの瞳平面の近くに置かれた絞りにより、ビーム経路の境界が定められる。
【0084】
レンズは、レンズ要素111、ミラー112、及び平面板113のような光学要素を含む。レンズ要素のうちの1つに対して、レンズ要素を変位、湾曲、加熱、及び/又は冷却することができ、又は上述のように平面板を高分解能又は低分解能で局所的に加熱することができるマニピュレータ121が作用する。第2のマニピュレータ122は、ミラー112に対して同じ方式で作用し、第3のマニピュレータ123は、個々の平面板(この図には例示していない)を非球面化された更に別の個々の平面板(同じくこの図には例示していない)と交換するように機能する。これに代えて、この第3のマニピュレータは、交換可能板対113を有するアルバレスマニピュレータ123、又は絞りを変更するか又は絞り形状又は絞り直径を操作するマニピュレータとすることができる。
【0085】
2つの視野点103及び104により、後に絞りによって制限される光ビームが放出される。この図には、この光ビームの最外側光線を破線形式で例示している。これらの最外側光線は、視野点103及び104にそれぞれ属する波面を区切る。本発明を例示する目的で、これらの波面が球面であることを仮定する。波面センサ、更に別のセンサ、及び/又は予測モデルが、決定された波面から確立される収差に関する情報を提供する決定ユニット150を形成する。これらの更に別のセンサは、例えば、空気圧センサ、レンズ要素上又はミラーの裏側の温度を測定するためのセンサである。
【0086】
マニピュレータ121、122、123は、調整ユニット130によって制御することができる。調整ユニット130は、上限及びマニピュレータ仕様をメモリ140から取得し、かつ測定された収差又は波面に関する情報を決定ユニット150から取得するために使用することができる。DE102008042356A1とは対照的に、調整ユニット130は、それぞれ第1及び第2の部分調節を調整又は制御する第1の調節ユニット132及び第2の調節ユニット133と、決定された収差の比較的低速な収差と比較的高速な収差への再分割に関する情報を提供し、かつ第1の部分調節に対して使用すべき比較的低速なマニピュレータと第2の部分調節に対して使用すべき比較的高速なマニピュレータとに関する情報を含むルックアップテーブル131とを含む。
【0087】
図6は、並行する第1の部分調節及び第2の部分調節の原理を示している。
【0088】
第1の段階201において、波面誤差又は収差が決定ユニット150によって確立される。次いで、第2の段階202において、これらの波面誤差又は収差は、ルックアップテーブル131を用いて、それぞれ互いに相対的な高速変化収差b1及び低速変化収差b2という2つのクラスに再分割される。それと並行して、マニピュレータは、同じく131で表す更に別のルックアップテーブルに従って比較的低速なマニピュレータのクラスと比較的高速なマニピュレータのクラスとに再分割される。次の段階203と204は並行して実施され、段階203は、比較的高速に変化する収差b1が比較的高速なマニピュレータによって調節される第1の部分調節を表し、段階204は、比較的低速に変化する収差b2が比較的低速なマニピュレータによって調節される第2の部分調節を表している。この場合に、段階203は繰り返し実施され、各通し実行の後に、追加の段階205において、高速変化収差が決定ユニット150によって測定し直されるか、又は密に分配された第1の調節時間t1の理由から決定ユニット150によって予測される。一例として、この予測は、自動的に較正されたモデルによって達成することができる。
【0089】
第2の部分調節が、第2の調節時間t2の後に完了した状態で、段階201〜205の全体を繰り返し同じく実施することができる。
【符号の説明】
【0090】
201 収差を確立する段階
202 収差を再分割する段階
203 第1の部分調節段階
204 第2の部分調節段階
205 高速変化収差を測定し直す又は予測する段階
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a-c】
図5
図6