特許第6016326号(P6016326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明治の特許一覧

<>
  • 特許6016326-乳酸菌のスクリーニング方法 図000002
  • 特許6016326-乳酸菌のスクリーニング方法 図000003
  • 特許6016326-乳酸菌のスクリーニング方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016326
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】乳酸菌のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20161013BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20161013BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20161013BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20161013BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   A23L33/10
   A61K35/74 A
   A61P31/12
   C12Q1/06
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-274620(P2010-274620)
(22)【出願日】2010年12月9日
(65)【公開番号】特開2011-139700(P2011-139700A)
(43)【公開日】2011年7月21日
【審査請求日】2013年8月27日
【審判番号】不服2015-17165(P2015-17165/J1)
【審判請求日】2015年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2009-279110(P2009-279110)
(32)【優先日】2009年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】牧野 聖也
(72)【発明者】
【氏名】池上 秀二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕之
【合議体】
【審判長】 中島 庸子
【審判官】 山本 匡子
【審判官】 高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−194259(JP,A)
【文献】 特開2000−247895(JP,A)
【文献】 特開2005−40123(JP,A)
【文献】 特開2008−295450(JP,A)
【文献】 ミルクサイエンス,2004年12月,Vol.53,No.3,161−164頁
【文献】 ミルクサイエンス,2004年 7月,Vol.53,No.2,103−104頁
【文献】 炭水化物の多面的利用技術の展開,ニューフード・クリエーション技術研究組合,2003年11月20日,172−178,180−189頁
【文献】 ミルクサイエンス,2009年 8月,Vol.58,No.2,35−40頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N1/00,A23L1/00,A61K35/00,A61P31/00,C12Q1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 乳酸菌の複数の菌株の中から、フェノール−硫酸法による産生多糖体量の測定値が、培養物1kgあたり、110〜170mgの範囲内で適宜定めた基準値以上である乳酸菌の菌株を選抜する工程と、
(B) 工程(A)で選抜された乳酸菌の菌株の中から、精製による産生多糖体量の測定値が、培養物1kgあたり、110〜170mgの範囲内で定めた基準値以上である乳酸菌の菌株を選抜する工程と、
(C) 工程(B)で選抜された乳酸菌の菌株の中から、これら菌株が産生する多糖体のIFN−γ産生誘導活性の測定値に基づいて、乳酸菌の菌株を選抜する工程と、
を含むことを特徴とする乳酸菌のスクリーニング方法。
【請求項2】
精製による前記産生多糖体量の測定値が、以下の工程a)〜i)をこの順で行なうことにより得られるものである、請求項に記載の乳酸菌のスクリーニング方法。
a)トリクロロ酢酸を用いて除タンパクする工程
b)エタノール沈殿法により多糖体を沈澱させる工程
c)得られた多糖体の水溶液に透析膜を用いて、水に対して透析を行う工程
d)高分子側の水溶液に対して、デオキシリボヌクレアーゼおよびリボヌクレアーゼを加えて、核酸の消化を行う工程
e)さらにプロテイナーゼを加えて、タンパク質の消化を行う工程
f)酵素を失活させる工程
g)エタノール沈殿法により多糖体を沈澱させる工程
h)得られた多糖体の水溶液を透析膜を用いて、水に対して透析を行い、高分子側の水溶液を得る工程
i)高分子側の水溶液を乾燥して、これを秤量する工程
【請求項3】
工程(A)及び工程(B)における前記産生多糖体量の測定値の基準値が、120mg/kgである、請求項1又は2に記載の乳酸菌のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記乳酸菌がLactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricusである請求項1〜のいずれか1項に記載の乳酸菌のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌のスクリーニング方法に関し、特に乳酸菌が産生する多糖体量等を測定することにより抗ウイルス活性を有する乳酸菌をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界中で猛威を振るっている新型インフルエンザを始めとして、人類は常に新たなウイルスの脅威にさらされている。特に、季節性のものを含めたインフルエンザなどの呼吸器感染症は、日常的に罹患者が周囲に存在する様な状況であるため、高齢者など免疫力が低下している者にとっては罹患しやすい。また重篤に陥る可能性も高く、合併症を併発しての死亡率は非常に高くなっている。
【0003】
現在、こうしたウイルス性の呼吸器感染症に対しては、ウイルス自体に作用し効果を示す抗ウイルス薬が用いられている。これらの抗ウイルス薬は、それぞれのウイルス性感染症に対して極めて有効なものであり、発病後早期に服用することで症状を速やかに緩和することができる。近年、ウイルス表面のノイラミニダーゼ蛋白質を阻害し、体内での増殖を防止するノイラミニダーゼ阻害薬が開発されている。その中でもA型及びB型インフルエンザに有効なものとして、カプセル内服薬として処方されるオセタミビル(商品名:タミフル;タミフルは登録商標である。)や粉末性吸入薬のザナミビル(商品名:リレンザ;リレンザは登録商標である。)といった薬剤が実用されている。しかし、これらはウイルスの増殖を抑制する薬剤であり、感染後早期に服用する必要がある(症状が出現して48時間程度以内)。また一定期間一定量を継続して服用しなければならない。
【0004】
またワクチン接種による予防も行われている。しかし、ワクチンは事前に対象となるウイルス種を特定して製造しなければならず、また大量生産には非常に時間がかかってしまう。またワクチン接種は、あくまで感染後の重症化リスクを下げる効果しかない。さらに抗体が定着するまで一定期間を必要とし、流行する前に予防接種をしなければならず、さらには接種したワクチンの種類と実際に感染したウイルスの種類が異なれば全く効果を発揮することができない。
【0005】
このような状況の中、安全性が高いことはもちろん、予防的な摂取で効果を発揮し、しかも服用によってどのようなウイルスに対しても効果を発揮する抗ウイルス剤の開発が急務となっている。
【0006】
一方、ウイルスの脅威に対処するためには、生体内へのウイルスの侵入及び増殖を最前線で防ぐ自然免疫を、普段から高めておくことも重要である。自然免疫において、白血球は特に重要な役割を果たす。白血球の中でもNK細胞(ナチュラルキラー細胞ともいう。)は、ウイルス感染が小規模なうちに自発的に感染細胞を攻撃し、ウイルスの増殖及び感染の拡大を抑制する。
【0007】
生体内ではウイルス感染を感知するとインターフェロン(以下、IFN)などが、免疫細胞やウイルス感染細胞で産生される。このIFNは自身に抗ウイルス活性と抗腫瘍活性があると共に、IFN−γは自然免疫を高め、NK細胞活性化によっても、ウイルスの増殖を抑制し、感染の拡大を防ぐことが可能となる。NK細胞はワクチンのような特定のウイルスのみへの効果ではなく、広く様々なウイルス感染に対して効果があるために、このIFN―γの産生を誘導することで、全体としての免疫活性を高めることができるとも言える(免疫賦活効果)。
【0008】
これまでに、免疫賦活効果を増強する物質が様々な方法で探索されている。例えば特許文献1には、ラクトコッカス属乳酸球菌を樹状細胞又は脾臓細胞と共培養して、IL−18産生誘導能などにより選抜する方法が開示されている。
また特許文献2には、松茸の菌糸体より特定成分を陰イオン交換樹脂で吸着させ、そのなかでフェノール硫酸法による糖質含量と銅フェリン法による蛋白質含量とで細菌感染予防・治療剤を選択することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−154387号公報
【特許文献2】特開2004―210694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、これまで様々な免疫賦活効果を増強する物質が探索されており、その中でもヨーグルトの発酵に用いられる乳酸菌などの食品微生物は様々な有用物質を産生しうることが知られている。これらの有用物質が免疫賦活効果の増強に有効であれば、日常生活において安全かつ簡便に摂取し、免疫力の増強が期待されると考えた。しかし十分な活性促進効果を得ることができる有効な乳酸菌を選抜しうる方法は見つかっていなかった。
【0011】
そこで本発明の目的は、簡便な手法により免疫賦活効果の増強に有効な乳酸菌を選定しうるスクリーニング方法提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の問題点に鑑み本発明者等は鋭意研究を進めたところ、乳酸菌の多糖体産生量をフェノール−硫酸法等の方法により測定して比較する方法に注目し、さらに、乳酸菌の多糖体産生量の測定値と該多糖体のIFN−γの産生誘導活性についての関連性を検討したところ、特定の基準によれば、免疫賦活効果の増強に有効な乳酸菌を選定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、(A)乳酸菌の複数の菌株の中から、フェノール−硫酸法による産生多糖体量の測定値が、培養物1kgあたり、110〜170mgの範囲内で適宜定めた基準値(例えば、120mg/kg)以上である乳酸菌の菌株を選抜する工程と、(B)工程(A)で選抜された乳酸菌の菌株の中から、精製による産生多糖体量の測定値が、培養物1kgあたり、110〜170mgの範囲内で定めた基準値(例えば、120mg/kg)以上である乳酸菌の菌株を選抜する工程と、(C)工程(B)で選抜された乳酸菌の菌株の中から、これら菌株が産生する多糖体のIFN−γ産生誘導活性の測定値に基づいて、抗ウイルス活性の高い乳酸菌の菌株を選抜する工程と、を含むことを特徴とする乳酸菌のスクリーニング方法である。
【0015】
前記スクリーニング方法においては、前記乳酸菌がLactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus(ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス)であることが好ましい。
【0016】
本発明の乳酸菌のスクリーニング方法によれば、抗ウイルス活性の高い乳酸菌(以下、本発明の乳酸菌ともいう。)が提供される。
【0017】
また、本発明の乳酸菌のスクリーニング方法によれば、例えば、有効量の乳酸菌からなる抗ウイルス剤(以下、本発明の抗ウイルス剤ともいう。)が提供される。
【0018】
前記抗ウイルス剤においては、前記乳酸菌がLactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricusであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の乳酸菌のスクリーニング方法によれば、例えば、有効量の乳酸菌を含む抗ウイルス用飲食品組成物(以下、本発明の飲食品組成物ともいう。)が提供される。
【0020】
前記抗ウイルス用飲食品組成物においては、前記乳酸菌がLactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricusであることが好ましい。また、抗ウイルス用飲食品組成物は発酵乳飲食品であることが好ましく、またヨーグルト、ヨーグルト飲料等のヨーグルト飲食品であることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の乳酸菌のスクリーニング方法によって選抜した抗ウイルス活性の高い乳酸菌の菌株は、該乳酸菌を摂取した者の自然免疫を高めることができるので、ワクチンのようなウイルス特異性がなく、ウイルス感染前から可能な予防的効果を与えることができる。選抜された乳酸菌は、安全性が高く、予防的な摂取で効果を発揮し、服用によってどのようなウイルスに対しても効果を発揮する免疫賦活活性を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1の結果として、ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスの多糖体産生量(フェノール−硫酸法による測定値)を示したグラフ図である。
図2】実施例2の結果として、実施例1における多糖体産生量(測定値)が多い上位10株について、精製による多糖体産生量(測定値)を示したグラフ図である。
図3】実施例3の結果として、実施例2における多糖体産生量(測定値)が多い上位3株の多糖体によるIFN−γ産生誘導活性を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0024】
本発明で用いられるフェノール−硫酸法は一般的に知られている糖類の定量に用いられる方法が適用される。
本発明はこれには限定されないが、例えば、以下のような試薬を使用する。
・フェノール試薬(例えば5%(W/V))
・濃硫酸
・標準単糖水溶液(例えば、グルコースなどの水溶液)
測定方法としては例えば以下の手順が挙げられる。所定量の試料水溶液に所定量のフェノール試薬を加え攪拌する。これに所定量の濃硫酸を加え良く攪拌し、常温で冷却したのち分光光度計で490nmの吸光度を測定する。同様の操作で標準単糖水溶液についても測定し、これを試料水溶液の結果と比較することで、含有する糖類を定量することが可能となる。
【0025】
本発明では、スクリーニング対象となる乳酸菌を既知の方法により培養し、培養液より産生する糖類(特に多糖体)を既知の方法により分離し、この菌体外の多糖体(Exopolysaccharide、EPS)をフェノール−硫酸法により定量する。本発明においては、この定量値をフェノール−硫酸法による産生多糖体量の測定値とする。
また、培養液からの多糖体の分離方法としては、例えば、以下の工程a)〜d)をこの順で行なう方法が挙げられる。
a)トリクロロ酢酸を用いて除タンパクし、
b)エタノール沈殿法により多糖体を沈澱させ、
c)得られた多糖体の水溶液に透析膜を用いて、水に対して透析を行い、
d)高分子側の水溶液を得る。
但し、前記除タンパク、エタノール沈殿法、透析等の工程は、乳酸菌、培養液、培養条件等に応じて適宜条件を調整して行うことができる。また、使用する透析膜についても、分画分子量(MWCO) 3500〜5000ダルトンを例示できるが、他の分画分子量を使用することもできる。
【0026】
また、本発明では前記培養液から菌体外多糖体を精製したもの(以降、精製多糖体ともいう。)を秤量して、産生多糖量を測定する。本発明においては、この秤量値を精製による産生多糖体量の測定値とする。培養液から菌体外多糖類を精製する方法としては、例えば、以下の工程a)〜i)をこの順で行なう方法が挙げられる。
a)トリクロロ酢酸を用いて除タンパクし、
b)エタノール沈殿法により多糖体を沈澱させ、
c)得られた多糖体の水溶液に透析膜を用いて、水に対して透析を行い、
d)高分子側の水溶液に対して、Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中、デオキシリボヌクレアーゼI(TypeII、ウシ膵臓由来、Enzyme Commission (EC) Number3.1.21.1、Cas番号9003-98-9)およびリボヌクレアーゼA(RNaseA、ウシ膵臓由来、Enzyme Commission (EC) Number3.1.27.5、Cas番号9001-99-4)を加えて、37℃、6時間(hr)インキュベートすることで、核酸の消化を行い、
e)さらにプロテイナーゼK(エンドペプチダーゼK、Tritirachium album由来、Commission (EC) Number 3.4.21.64、Cas番号39450-01-6)を加えて37℃、16hrでインキュベートすることで、タンパク質の消化を行い、
f)90℃、10分間(min)で加熱することで、酵素を失活させ、
g)エタノール沈殿法により多糖体を沈澱させ、
h)得られた多糖体の水溶液を透析膜を用いて、水に対して透析を行い、高分子側の水溶液を得て、
i)高分子側の水溶液を乾燥して、これを秤量して、精製による産生多糖体量の測定値を得る。
但し、前記除タンパク、エタノール沈殿法、透析、核酸の消化、タンパク質の消化等の工程は、乳酸菌、培養液、培養条件等に応じて適宜条件を調整して行うことができる。また、使用する透析膜についても、分画分子量(MWCO) 3500〜5000ダルトンを例示できるが、他の分画分子量を使用することもできる。また、デオキシリボヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼおよびプロテイナーゼは、前記の例に限定されず、他のものを使用することもできる。
【0027】
本発明では、フェノール−硫酸法による産生多糖体量の測定値が基準値(例えば、120mg/kg)以上である乳酸菌の中から、精製による産生多糖体量の測定値(例えば、基準値として120mg/kg以上)に基づいて、乳酸菌を選抜した後、該選抜された乳酸菌の中から、該多糖体のIFN−γ産生誘導活性の測定値の大きさに基づいて、抗ウイルス活性の高い乳酸菌を選抜する
この場合、フェノール−硫酸法により定量された多糖体量が好ましくは120mg/kg以上、さらに好ましくは170mg/kg以上である乳酸菌を選抜する。なお、ここでの基準値は、120mg/kg及び170mg/kgに限定されるものではなく、本発明では、110〜170mg/kgの範囲内で適宜定めた値(例えば、110、120、130、140、150、160または170mg/kg)を採用することができる。
また、前記精製により定量された多糖体量が好ましくは120mg/kg以上、さらに好ましくは170mg/kg以上である乳酸菌を選抜する。なお、ここでの基準値も、120mg/kg及び170mg/kgに限定されるものではなく、本発明では、110〜170mg/kgの範囲内で適宜定めた値(例えば、110、120、130、140、150、160または170mg/kg)を採用することができる。
フェノール−硫酸法における基準値と、精製における基準値は、同じでもよいし、異なってもよい。例えば、フェノール−硫酸法における基準値が120mg/kgである場合、精製における基準値は、120mg/kgでもよいし、他の値(例えば、140mg/kg)でもよい。
【0028】
さらに本発明においては、前記フェノール−硫酸法および精製よって測定された多糖体量が所定量以上でありかつ該多糖体がIFN−γ産生誘導活性を有する乳酸菌が選抜される。
菌体外多糖体のIFN−γ産生誘導活性については、例えば以下の方法により測定することが可能である。
常法に従って、C3H/HeJマウスの脾臓細胞を培地に懸濁し、これに菌体培養上清から得た多糖体を加える。この脾臓細胞を所定条件において培養し、培養上清を回収し、該培養上清中に含まれるIFN−γを所定のキット(例えば、商品名:BD OptEIATM Mouse IFN−γ ELISASet(BD OptEIAは登録商標である。BD Pharmingen社製、カタログ番号555138))などにより測定することで前記多糖体に誘導されたIFN−γ産生量が得られる。これを対照と比較することでIFN−γ産生誘導活性が判る。本発明において、IFN−γ産生誘導活性の測定対象として、菌体外多糖体を精製したもの、前記精製多糖体等を挙げることができる。
【0029】
本発明に用いられる乳酸菌としては、多糖体を生産する乳酸菌であれば、種類を問わない。特に乳酸菌としては、ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス、またはラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis ssp. cremoris)等が好ましく、この中から選抜を行った。本発明の方法により選抜された乳酸菌としては、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R−1(寄託番号:FERM P−17227、国際寄託番号:FERM BP−10741)(以下、1073R−1株ともいう。)が好ましく、特に抗ウイルス剤として用いることができることが判明した。
本発明者らは、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R−1を独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託した。以下に、寄託を特定するための内容を記載する。
(1)寄託機関名:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(2)連絡先:〒305-8566
茨城県つくば市東1丁目1番1 中央第6
(3)受託番号:FERM BP−10741
(4)識別のための表示:Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL 1073R-1
(5)原寄託日:平成11年2月22日
(6)ブタペスト条約に基づく寄託への移管日:平成18年11月29日
また、菌株名にJCMと記載された菌株は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室から入手した基準株を示す。
【0030】
本発明の抗ウイルス剤に用いられる乳酸菌は、その培養物、その濃縮物、ペースト状に加工したペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、媒体に分散させた液状物、希釈剤で希釈した希釈物、乾燥物をミルなどで破砕した破砕物などの、処理工程を経た被処理物として用いることができる。前記処理工程は単独であっても複数を併用してもかまわない。
【0031】
本発明の乳酸菌を有効成分とする抗ウイルス剤の投与量は、投与経路、ヒトを含む投与対象動物の年齢、体重、症状など、種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。
本発明はこれに限定されないが、好ましくは、有効成分として少なくとも9×109cfu/body/dayを投与するのが適当である。しかしながら、長期間に亘って予防及び/または治療の目的で摂取する場合には、上記範囲よりも少量であってもよいし、また本有効成分は、通常のヨーグルト食品としての安全性について問題がないので、上記範囲よりも多量に投与してもさしつかえない。
【0032】
また本発明の乳酸菌を有効成分とする抗ウイルス剤は、経口投与又は非経口投与(筋肉内、皮下、静脈内、坐薬、経皮等)のいずれでも投与できる。
本発明の乳酸菌を有効成分とする抗ウイルス剤の投与形態としては、治療目的や投与経路等に応じて剤型を選択することができ、例えば錠剤、被覆錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤、坐剤、浸剤、煎剤、チンキ剤等が挙げられる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に対して必要に応じて充填剤、増量剤、賦形剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤(以降、製剤の補助剤ともいう。)を用いて製剤化することができる。また、この医薬製剤中に着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を含有させてもよい。
【0033】
本発明の飲食品組成物は、抗ウイルス剤である乳酸菌を有効量含んでなる。飲食品組成物の形態としては、ヨーグルトの様な発酵乳、飲料等を始めとして保健機能食品や病者用食品にも適用することができる。保健機能食品制度は、内外の動向、従来からの特定保健用食品制度との整合性を踏まえて、通常の食品のみならず錠剤、カプセル等の形状をした食品を対象として設けられたもので、特定保健用食品(個別許可型)と栄養機能食品(規格基準型)の2種類の類型からなる。本発明の抗ウイルス剤である乳酸菌を含有する特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として直接摂取することにより、ウイルス感染に対する予防および/または治療が可能となる。
【0034】
本発明の飲食品組成物の典型例としては、各種飲食品(例えば、牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、栄養食品、栄養補助食品等)に抗ウイルス剤である乳酸菌を添加したものが挙げられる。本有効成分をそのまま使用し、あるいは他の食品ないし食品成分と混合するなど、通常の食品組成物における常法にしたがって使用できる。また、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。
【0035】
その他の成分についても特に限定されないが、本発明の抗ウイルス剤である乳酸菌を含有する飲食品組成物には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することができる。
タンパク質またはその分解物としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;ホエイ、クリーム、非タンパク態窒素等の各種乳由来成分などが挙げられる。
糖質としては、例えば、糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維、乳糖などが挙げられる。
脂質としては、例えば、バター、クリーム、リン脂質等の各種乳由来成分;ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。
ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラルなどが挙げられる。
有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。
これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができる。また、本発明の飲食品組成物の主成分は、合成品でもよいし、合成品を多く含むものでもよい。
【0036】
本発明の抗ウイルス剤の主成分である乳酸菌の量は、その目的、用途に応じて任意に定めることができ、特に限定されないが、抗ウイルス剤または飲食品組成物の全体量に対して通常、1×108cfu/g以上が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、本明細書において%表示は明示しない場合には重量%を示す。
【0038】
実施例1[フェノール−硫酸法による各種乳酸菌の産生多糖体量の測定]
以下の方法により、各種乳酸菌(140菌株)より産生される多糖体量を測定した。
まず、酵母エキスを添加していない10w/v%脱脂粉乳培地を調製し、15mlコニカルチューブに4mlずつ分注した。次に、各乳酸菌を2回賦活した後、分注した培地に対し1v/v%(40μl)の量を接種し、37℃、18hr、好気条件下で静置培養した。培養終了後、培養液に100w/v%トリクロロ酢酸(和光純薬社製)を400μl(培養物の10v/v%の量、培養物に添加した後のトリクロロ酢酸の最終濃度は約10w/v%になる)で加え、粘性が無くなるまで攪拌し、除タンパクを行った。遠心分離(12000g、4℃、20min)により上清を得、これを新たな15mlコニカルチューブに全量を移した。回収した上清にMilliQ水を加え、コニカルチューブの目盛りで4mlまでメスアップした。8ml(2倍量)の冷エタノールを徐々に加えて完全に混合し、その後4℃で一晩静置することで多糖体を沈澱させた。遠心により多糖体を沈澱として回収し、4mlのMilliQ水を加え、voltexにより完全に溶解させた。ディスポ96穴透析器(商品名:96−well Dispo DIALYZERTM(96−well DispoDIALYZERは、登録商標である。)、25−300μl/well;MWCO 5000ダルトンの透析膜を使用、HARVARD社製、型番74−0902)にて、多糖体水溶液をMilliQ水に対して2日間透析を行った。透析終了後、高分子側の水溶液についてフェノール−硫酸法により多糖体濃度の測定を行い、培養物1kgあたりの多糖体量(mg)を算出した。
【0039】
図1に、得られた結果をフェノール−硫酸法による産生多糖体の測定値として示す。
フェノール−硫酸法による定量の結果、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R−1(以下、1073R−1株ともいう。)は、2番目に多糖体産生量が多いことが明らかとなった。
【0040】
実施例2[多糖体産生量上位10菌株の培養物からの多糖体の精製]
実施例1の方法により産生多糖体量の測定値を得た、乳酸菌140株の中の産生量のうち上位10株について、産生多糖体の免疫賦活活性について調べるために、以下の方法で多糖体を単離精製した。
まず各乳酸菌を2回賦活した後、それぞれ600mlの培地で培養を行った。培地は酵母エキスを含まない10%脱脂粉乳培地を用い、37℃、18hr、好気条件下で静置培養した。培養終了後、培養液をそれぞれ500gずつはかり取り、100w/v%トリクロロ酢酸(和光純薬社製)を50ml(培養液の10v/w%の量、培養物に添加した後のトリクロロ酢酸の最終濃度は約10w/w%になる)加え、粘性が無くなるまで攪拌し、除タンパクを行った。遠心分離(12000g、4℃、20min)により上清を回収し、これに2倍量の冷エタノールを加えて、4℃で一晩静置することで多糖体を沈澱させた。多糖体は遠心分離(12000g、4℃、20min)により沈澱として回収し、MilliQ水を加えて完全に溶解させた。
前記多糖体水溶液をMWCO 3500ダルトンの透析チューブに入れ、MilliQ水に対して3日間透析を行った。その後、高分子側の水溶液にTris−HCl水溶液、MgCl2水溶液および水を添加して、0.05M Tris−HCl(pH8.0)、1mM MgCl2の溶液とした。ここに最終濃度2μg/mlでデオキシリボヌクレアーゼI(DNaseI、TypeII、ウシ膵臓由来、Enzyme Commission (EC) Number3.1.21.1、Cas番号9003-98-9、Sigma社製)、およびリボヌクレアーゼA(RNaseA、ウシ膵臓由来、Enzyme Commission (EC) Number3.1.27.5、Cas番号9001-99-4、Sigma社製)を加えて、37℃、6hrでインキュベートすることで、核酸の消化をおこなった。次いで、最終濃度0.1mg/mlでプロテイナーゼK(ProteinaseK、別名エンドペプチダーゼK、Tritirachium album由来、Commission (EC) Number 3.4.21.64、Cas番号39450-01-6、Sigma社製)を加えて37℃、16hrでインキュベートすることで、タンパク質の消化を行った。酵素処理終了後、90℃、10minで加熱することで、酵素を失活させた。
酵素処理後の多糖体水溶液に2倍量の冷エタノールを加え、4℃で一晩静置することで、再度多糖体を沈澱させた。多糖体は遠心分離(12000g、4℃、20min)により沈澱として回収し、MilliQ水に溶解した。この多糖体水溶液をMWCO 3500ダルトンの透析膜を用いて、MilliQ水に対して4日間透析を行った後、高分子側の水溶液について凍結乾燥を行い(以降、これを精製多糖体ともいう。)、これを秤量した。
【0041】
得られた精製多糖体の量を図2に示す。
図2からも明らかなように、精製多糖体の量は1073R−1株が最も多く、以下、図2に「A」として示す株1、及び、図2に「G」として示す株2の精製多糖体の量が多いことが判った。
【0042】
実施例3[実施例2の精製多糖体の量が多い上位3菌株の各々が産生する精製多糖体の、マウスC3H/HeJの脾臓細胞に対するIFN−γ産生誘導活性の測定]
マウスC3H/HeJ(8週齢、オス、SLC)5匹より脾臓細胞を調製し、1×107cell/mlでRPMI1640培地に懸濁した。多糖体は凍結乾燥物を1mg/mlでRPMI1640培地に溶解し、0.45μフィルターで滅菌した後、RPMI1640培地で各濃度に希釈を行った。96穴マイクロプレート(Corning社製;型番3596)に脾臓細胞を5×105cell/well(50μl/well)、多糖体溶液を150μl/wellでアプライし、5%CO2条件下で37℃、72hr培養を行った。このとき、多糖体の最終作用濃度は10,50,100μg/mlであった。
培養終了後、培養上清を回収した。培養上清中のIFN−γをマウスIFN−γ測定キット(商品名:BD OptEIATM Mouse IFN−γ ELISA Set、BD Pharmingen社製、カタログ番号555138)を用いて、測定した。
【0043】
なお、多糖体については、実施例2において得られた精製多糖体の量が多かった上位3株(図2における「A」(図3中の株1)、「G」(図3中の株2)、及び、「1073R−1株」(図3中でも同じ名称))を用いて産生させたものである。
得られた結果を図3に示す。図3から明らかなように、1073R−1株が産生する多糖体に、高いIFN−γ産生誘導活性が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の乳酸菌のスクリーニング方法によって、IFN−γ産生誘導活性が高い菌株を選抜することで、自然免疫を高め、ワクチンのようなウイルス特異性がないウイルス感染前から可能な予防的効果を得ることができる乳酸菌を容易かつ迅速に見出すことができる。この選抜された乳酸菌は、予防的な摂取で効果を発揮し、服用によってどのようなウイルスに対しても効果を発揮して、免疫賦活活性を提供でき、産業上の利用価値が高い。
図1
図2
図3