(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016644
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】物質の粘弾性係数の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-1219(P2013-1219)
(22)【出願日】2013年1月8日
(65)【公開番号】特開2014-134396(P2014-134396A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】市橋 素子
(72)【発明者】
【氏名】楠本 淑郎
【審査官】
北川 創
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/053189(WO,A1)
【文献】
特開2007−010519(JP,A)
【文献】
特開2004−251873(JP,A)
【文献】
特開2004−325257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01N 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中または溶液中に両側又は片側が浸される圧電素子を用いたセンサーによる、前記圧電素子表面、或いは、前記圧電素子上に固定化された膜に物質が吸着されて膜が形成される系における粘弾性係数の測定方法であって、以下の(1)〜(4)のステップ、
(1)前記センサーの配置される測定環境変数αの変動範囲として、大気中の変動範囲又は溶液中の変動範囲を設定するステップ、
(2)測定時に前記センサーの基本波の共振周波数の変化ΔF
S,1及びN倍波(N=3,5,7・・・)の共振周波数の変化ΔF
S,Nを測定し、これらの値ΔF
S,1及びΔF
S,Nに基づいたN倍波の共振周波数の変化の補正関数のΔF
S,N’(C(α,A(α))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α))を得るステップ、
(尚、A(α)は、ΔF
S,1及びΔF
S,Nと、ΔF
S,1及びΔF
S,Nにより得られる半値半幅の変化ΔF
W,1及びΔF
W,Nと、変数αにより得られる関数とする。C(α,A(α))は、変数α及び関数A(α)に基づく関数とする。また、半値半幅F
W,k(k=1,3,5,...N)とは、共振周波数F
s,kのコンダクタンスの1/2のコンダクタンス値となる周波数F
1,k,F
2,k(F
1,k<F
2,k)を求め、共振周波数と前記周波数F
1,k又はF
2,kとの差をいうものとする。)
(3)測定したN倍波の共振周波数の変化ΔF
S,N及びこれから得られた半値半幅の変化ΔF
W,Nに対して、最小誤差となる前記N倍波の共振周波数の変化の補正関数ΔF
S,N’(C(α,A(α)))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α)))となる値αを算出し、値αを関数C(α,A(α))に代入して値Cを算出するステップ、
(4)以下の場合に分けてステップ(イ)又は(ロ)により粘弾性係数G'及びG''を算出するステップ、
(イ)大気中の場合
【数1】
【数2】
(ロ)溶液中の場合
【数3】
【数4】
(上記(イ)又は(ロ)において、G’:貯蔵弾性率(動的弾性率)(Pa)、G”:損失弾性率(動的損失)(Pa)、ω:角周波数、h
1:吸着した物質の厚み(m)、ρ
1:吸着した物質の密度(kg/m
3)、η
2:溶液の粘度(Pa・s)、ρ
2:溶液の密度(kg/m
3)、r
sw=ΔF
s1/ΔF
w1である。)
を含むことを特徴とする粘弾性係数の測定方法。
【請求項2】
前記関数A(α)は、以下の数5で表され、
【数5】
(イ)大気中の場合において、
前記関数C(α,A(α))は以下の数6で表され、
【数6】
前記補正関数のΔF
S,N’(C(α,A(α))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α))は、以下の数7及び数8で表され、
【数7】
【数8】
(ロ)溶液中の場合において、
前記関数C(α,A(α))は以下の数9で表され、
【数9】
補正関数のΔF
S,N’(C(α,A(α))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α))は、以下の数10及び数11で表され、
【数10】
【数11】
ることを特徴とする請求項1に記載の粘弾性係数の測定方法。
【請求項3】
前記N倍波は3倍波とし、大気中の場合の前記測定環境変数αは、9<α≦81であり、溶液中の場合の前記測定環境変数αは、1<α≦9であることを特徴とする請求項2に記載の粘弾性係数の測定方法。
【請求項4】
前記粘弾性係数G'を使用し、前記物質の剛性率μ及び前記物質の粘性率ηの少なくとも何れかを測定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の物質の粘弾性係数の測定方法。
【請求項5】
前記剛性率μ又は前記粘性率ηの測定は、前記共振周波数の変化ΔFS,1及び前記N倍波の共振周波数の変化ΔFS,Nの測定とともに行うことを特徴とする請求項4に記載の物質の粘弾性係数の測定方法。
【請求項6】
前記物質の質量と膜厚とを、前記粘弾性係数G'及びG''とともに算出することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の物質の粘弾性係数の測定方法。
【請求項7】
前記圧電素子は、水晶振動子、APM(ACOUSTIC PLATE MODE SENSOR)、FPW(FLEXURAL PLATE-WAVE SENSOR)又はSAW(SOURFACE ACOUSTIC-WAVE SENSOR)であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の物質の粘弾性係数の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学・物理・生化学・薬学・材料など分野で、大気中や圧電素子の両側または片側が溶液に浸された状態で物質の吸着量測定や物性評価に用いられるセンサーを使用し、物質の質量や膜厚及び粘弾性係数の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
QCMの吸着による周波数変化ΔFと質量負荷Δmの関係は以下の式で示すSauerbreyの式が用いられる。
【数12】
ところが、大気中や溶液中で粘弾性の性質を持つ物質の測定においては、Sauerbreyの式が成り立たず、従来のQCMで測定できる共振周波数F
Sの周波数変化は、吸着物質による質量負荷と吸着物質自体の粘弾性効果を含んだ値、溶液中では更に溶液の粘性負荷も一緒に測定してしまい、それぞれを分離することはできていなかった。
そこで、我々は特許文献1に記載した発明により、上記のF
Sの周波数変化量に含まれる3つの要素を分離し、それを周波数変化量としてそれぞれ算出することが可能なことを見出した。
しかしながら、分離した質量負荷による周波数変化から上記Sauerbreyの式を使って質量を換算することができても、分離した粘弾性要素から吸着物質の粘弾性係数を算出することはできなかった。
そこで、溶液中においては特許文献1記載の発明により、各N倍波の各周波数変化ΔF
S,ΔF
2、ΔF
Wを質量負荷項、粘性負荷項及び粘弾性項にそれぞれ分離して得られた各要素の周波数変化量から、物質の粘弾性を表す変数として一般的なG’、G”値を算出する方法を可能とする発明を先に提案した。(文献2:特願2010-235657)
しかし、文献2においては、溶液中の粘弾性物質の粘弾性係数の算出だけを可能とするもので大気中において適用することは出来なかった。また、溶液中の粘弾性物質の測定においても、粘弾性の性質をあまり持たない剛体に近い物質の場合は、粘弾性係数の算出が出来なかったり、精度よく係数を求めることが困難であった。
また、一般的な粘弾性計測装置では、1μm以下の厚みをもつ試料の粘弾性測定は困難とされていた。
なお、ここでいう剛体とは密に出来たたんぱく質やポリマー等をさすこととする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4669749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、大気中、溶液中の両方での吸着物質の粘弾性の情報を、粘弾性を表すときに一般的に使われている係数G’ 、G”で表すことを可能とし、更には、粘弾性係数をリアルタイムで算出することが可能な物質の粘弾性係数の測定方法を提供することを目的とする。また、粘弾性の性質をあまり持たない剛体に近い物質の場合でも精度よく粘弾性係数を算出し、更に得られた粘弾性係数から、吸着物質の粘弾性の剛性率及び粘性率を算出し、同時に吸着物質の質量と膜厚を算出することを目的とする。
また、更に、従来の粘弾性計測装置では測定する事が困難な1μm以下の厚みの物質の粘弾性係数を算出する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の解決手段は、大気中又は溶液中に両側又は片側が浸される圧電素子を用いたセンサーによる、前記溶液中で前記圧電素子表面、或いは、前記圧電素子上に固定化された膜に物質が吸着されて膜が形成される系における粘弾性係数の測定方法であって、以下の(1)〜(4)のステップ、
(1)前記センサーの配置される測定環境変数αの変動範囲として、大気中の変動範囲又は溶液中の変動範囲を設定するステップ、
(2)測定時に前記センサーの基本波の共振周波数の変化ΔF
S,1及びN倍波(N=3,5,7・・・)の共振周波数の変化ΔF
S,Nを測定し、これらの値ΔF
S,1及びΔF
S,Nに基づいたN倍波の共振周波数の変化の補正関数のΔF
S,N’(C(α,A(α))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α))を得るステップ、
(尚、A(α)は、ΔF
S,1及びΔF
S,Nと、ΔF
S,1及びΔF
S,Nにより得られる半値半幅の変化ΔF
W,1及びΔF
W,Nと、変数αにより得られる関数とする。C(α,A(α))は、変数α及び関数A(α)に基づく関数とする。また、半値半幅F
W,k(k=1,3,5,...N)とは、共振周波数F
S,kのコンダクタンスの1/2のコンダクタンス値となる周波数F
1,k,F
2,k(F
1,k<F
2,k)を求め、共振周波数と前記周波数F
1,k又はF
2,kとの差をいうものとする。)
(3)測定したN倍波の共振周波数の変化ΔF
S,N及びこれから得られた半値半幅の変化ΔF
W,Nに対して、最小誤差となる前記N倍波の共振周波数の変化の補正関数ΔF
S,N’(C(α,A(α)))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α)))となる値αを算出し、値αを関数C(α,A(α))に代入して値Cを算出するステップ、
(4)以下の場合に分けてステップ(イ)又は(ロ)により粘弾性係数G'及びG''を算出するステップ、
(イ)大気中の場合
【数1】
【数2】
(ロ)溶液中の場合
【数3】
【数4】
(上記(イ)又は(ロ)において、G’:貯蔵弾性率(動的弾性率)(Pa)、G”:損失弾性率(動的損失)(Pa)、ω:角周波数、h
1:吸着した物質の厚み(m)、ρ
1:吸着した物質の密度(kg/m
3)、η
2:溶液の粘度(Pa・s)、ρ
2:溶液の密度(kg/m
3)、r
sw=ΔF
s1/ΔF
w1である。)
を含むことを特徴とする。
また、請求項2記載の本発明は、請求項1記載の発明において、前記関数A(α)は、以下の数5で表され、
【数5】
(イ)大気中の場合において、
前記関数C(α,A(α))は以下の数6で表され、
【数6】
前記補正関数のΔF
S,N’(C(α,A(α))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α))は、以下の数7及び数8で表され、
【数7】
【数8】
(ロ)溶液中の場合において、
前記関数C(α,A(α))は以下の数9で表され、
【数9】
補正関数のΔF
S,N’(C(α,A(α))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α))は、以下の数10及び数11で表され、
【数10】
【数11】
ることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項2記載の発明において、前記N倍波は3倍波とし、大気中の場合の前記測定環境変数αは、9<α≦81であり、溶液中の場合の前記測定環境変数αは、1<α≦9であることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の発明において、前記粘弾性係数G'を使用し、前記物質の剛性率μ及び前記物質の粘性率ηの少なくとも何れかを測定することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の発明において、前記剛性率μ又は前記粘性率ηの測定は、前記共振周波数の変化ΔF
S,1及び前記N倍波の共振周波数の変化ΔF
S,Nの測定とともに行うことを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の発明において、前記物質の質量と膜厚とを、前記粘弾性係数G'及びG''とともに算出することを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の発明において、前記圧電素子は、水晶振動子、APM(ACOUSTIC PLATE MODE SENSOR)、FPW(FLEXURAL PLATE-WAVE SENSOR)又はSAW(SOURFACE ACOUSTIC-WAVE SENSOR)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
従来は吸着による質量負荷と吸着物質の粘弾性の要素を含んだ共振周波数F
Sのみの測定しかできないため、粘弾性の情報を正確に得られなかった。また、特許文献1に提案した発明により質量、粘性、粘弾性の要素をそれぞれ分離して求めることが可能であったが、周波数変化量として表すことしかできなかった。
しかし、本発明によれば、大気中や溶液中で得られた各要素の周波数変化量から、粘弾性を表す変数として一般的なG'、G''値を算出する方法を可能とした。また、これにより、周波数変化量を測定中にリアルタイムで粘弾性係数G'、G''を求めることが可能となり、周波数以外の物理的情報(損失係数、弾性率、粘性率)も瞬時に取得できることから、吸着物質のより正確な物性評価が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の基本波及びN倍波(N=3,5,7・・・)の周波数とコンダクタンスとの関係を示すグラフ
【
図4】文献2(特願2010-235657)による粘弾性解析結果
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の測定原理について以下に説明する。
(1)
図1に示すように、測定により得られる基本波及びN倍波(N=3,5・・・)のそれぞれについて、共振周波数をF
s、共振周波数のコンダクタンス値の半分のコンダクタンス値を持つ半値周波数をF
1,F
2(F
2>F
1)とし、これらのうち2つを使って求められる半値半幅をF
W(F
W=(F
1-F
2)/2、F
W=F
1-F
S又はF
W=F
S-F
2)とする。また、これらの値の前に「Δ」を付けたものは、所定の時間での変化量をいうものとする。
(1−a)大気中で測定をする場合、 R.LUCKLUM,et al(Meas,Sci.Techonl,12,1854-1864(2003))によれば、水晶振動子上に薄膜が形成されて、この薄膜による負荷の音響負荷インピーダンス(Acoustic Load Impedance)は、下記の式(4)となる。
【数13】
式(4)において、
【数14】
のとき、式(4)のtan項をテーラー展開し、式(4)は、下記の式(5)に近似することができる。
【数15】
更に、式(5)は、下記の式(6)に変形される。
【数16】
このとき水晶振動子の直列共振周波数の変化ΔF
Sは、下記の式(7)で表される。
【数17】
更に、半値半幅の変化ΔF
Wは、式(8)で表される。
【数18】
また式(7)及び式(8)から、F
2の変化量ΔF
2が求められる。
【数19】
(1−b)溶液中の測定の場合は、Martin らの伝送理論(V.E.Granstaff,S.J..Martin,J.Appl.Phys. 1994,75,1319)により粘弾性膜が溶液中で水晶振動子に吸着した場合のインピーダンスZの変化は、式(10)で表される。
【数20】
式(10)から、共振周波数の変化ΔF
Sは下記の式(11)、半値半幅の変化ΔF
Wの変化は式(12)で表される。
【数21】
【数22】
また、式(11)、式(12)から、周波数変化ΔF
2が求められる。
【数23】
【0009】
(2)ここで膜の粘弾性のモデルとしてよく使用されるVoigt モデルをG’、G”に適用する。
弾性要素のばねGとダッシュポットηを並列に接続したVoigtモデルは、以下の式(14)で表される。
【数24】
【0010】
ここで、ωη=Cμとおくことで(C:定数、μ:剛性率、η:粘性率)、CはC=G″/G´の意味を持つことになる。粘弾性解析において、G″/G´はtanδ(損失係数)と呼ばれ、物体の硬軟性を表す粘弾性の変数であることは公知である。
【0011】
その値Cを求める為に、まず、下記の関数A(α)(数25)により値Aを算出する。尚、α(整数に限定しない値とする。)は、センサーが配置される環境に応じて設定される測定環境変数であり、その変動範囲は、大気中と溶液中とで分けて設定されるものであれば特に制限はない。尚、以下に説明する例では、基本波と3倍波とを使用し、大気中の場合の測定環境変数αの設定範囲は、9<α≦81とし、溶液中の場合の測定環境変数αの設定範囲は、1<α≦9としている。
測定時に基本波の共振周波数の変化ΔF
S,1及びN倍波(N=3,5,7・・・)の共振周波数の変化ΔF
S,Nを測定し、これらの値から基本波の半値半幅の変化ΔF
W,1とN倍波の半値半幅の変化ΔF
W,Nを算出し、これらの値を、設定された範囲で測定環境変数αを変動させて(値α
Lとし、Lは1〜Mとする。)を、以下の式(数25)に代入し、M個の値A(α
1〜M)を得る。尚、半値半幅F
W,k(k=1,3,5,...N)とは、共振周波数F
W,kのコンダクタンスの1/2のコンダクタンス値となる周波数F
1,k,F
2,k(F
1,k<F
2,k)を求め、共振周波数F
W,kと前記周波数F
1,k又はF
2,kとの差をいうものとする。
【数25】
この式(数25)で求めた値A(α
L)を、測定環境に応じて、下記の式(数26又は数27)に代入することで、関数C(α,A(α))の具体的な値C
L(L=1〜M)値が算出される。
(3)大気中で粘弾性係数を測定する場合
【数26】
(4)溶液中で粘弾性係数を測定する場合
【数27】
(5)次に、関数C(α,A(α))から、値ΔF
S,1及びΔF
S,Nに基づいたN倍波の共振周波数の変化の補正関数のΔF
S,N’(C(α,A(α))及び半値半幅の変化の補正関数ΔF
W,N’(C(α,A(α))を求める。具体的には、求められた値C
L(L=1〜M)を使用してN倍波の共振周波数変化ΔF
S,Nの補正値ΔF
S,N´と半値半幅の変化ΔF
W,Nの補正値ΔF
W,N´を求める。それぞれの補正値を求める式(数28又は数29)を以下に示す。尚、以下の式において、C(α,A(α))は具体的な値であるC
L(L=1〜M)となる。
(5−a)大気中で粘弾性係数を測定する場合
【数28】
【数29】
(5−b)溶液中で粘弾性係数を測定する場合
【数30】
【数31】
(6)次に、測定して得られたN倍波の共振周波数の変化ΔF
S,Nと半値半幅の変化ΔF
W,N、更にα値を各測定雰囲気により各指定範囲内で設定して求めた補正値のΔF
S,N´とΔF
W,N´から、測定値と補正値の相対誤差を求める。
α値の設定毎の測定値と補正値の相対誤差を求め、その相対誤差が最小になったときのα値で求めた値A,値Cを使用して、測定環境に応じて下記の式(数32及び数33、又は、数34及び数35)から粘弾性係数を算出する。
(6−a)大気中で粘弾性係数を測定する場合
【数32】
【数33】
(6−b)溶液中で粘弾性係数を測定する場合
【数34】
【数35】
(式中においてG’:貯蔵弾性率(動的弾性率)(Pa)、G”:損失弾性率(動的損失)(Pa)、ω:角周波数、h
1:吸着した物質の厚み(m)、ρ
1:吸着した物質の密度(kg/m
3)、η
2:溶液の粘度(Pa・s)、ρ
2:溶液の密度(kg/m
3)、r
sw=ΔF
s1/ΔF
w1である。)
【0012】
尚、上記の測定方法で使用される各N倍波のF
S,F
1,F
2の周波数の測定は、発振回路による方法やインピーダンスアナライザーやネットワークアナライザーなど外部機器からの周波数掃引によって得られる方法など、共振周波数F
s、共振周波数のコンダクタンス値の半分のコンダクタンス値を持つ半値周波数F
1,F
2(F
2>F
1)であれば、その測定方法を制限するものではない。
測定方法に使用する装置についての例を挙げると、
図2に示すように、圧電素子を備えたセンサー1をネットワークアナライザー2を介して、ネットワークアナライザー2の制御手段、測定手段、CPU等の演算手段及びメモリ等の記憶手段を備えたパソコン等の制御手段3に接続して構成する。尚、図示した例では、センサー1の温度調整を行うために、ペルチェ素子等の温度制御手段4をセンサー1の下面に備え、温度制御手段4を調整するための温度調整手段5を、同様に制御手段3により制御する構成としている。
また、上記説明した式では、基本波と3倍波を使用したが、1,3,5,7・・・N倍波の何れか2つであれば、本発明を使用することができる。
【0013】
また、上記の方法により得られた値Cにより、ωη=Cμ(μ:剛性率、η:粘性率)の関係式から、剛性率μ及び粘性率ηの少なくとも何れかを測定することが可能となる。尚、上記値Cを求める演算、剛性率μ及び粘性率ηの少なくとも何れかの測定は、上記した共振周波数の変化ΔF
S,1及び前記N倍波の共振周波数の変化ΔF
S,Nの測定と同時に(リアルタイムに)行うことができる。
また、同様に、上記した式(数32〜35)により、吸着した物質の厚み(膜厚)(h
1(m))や吸着した物質の密度(ρ
1(kg/m
3))も同時に測定を行うことができる。
【0014】
また、本発明において使用される圧電素子は、上記対象となる周波数を測定できるものであれば制限はなく、水晶振動子、APM(ACOUSTIC PLATE MODE SENSOR)、FPW(FLEXURAL PLATE-WAVE SENSOR)又はSAW(SOURFACE ACOUSTIC-WAVE SENSOR)も使用することができる。
【実施例】
【0015】
本実施例では、水晶振動子として、円形状の水晶板の両面それぞれの中央部に円形状の金電極を設けた構成のものを使用し、測定した周波数変化は、基本波と3倍波の周波数とした。尚、以下において付着されるPDMSは、東レ・ダウコーニング社製のSylgard184を使用し、エリプソメーターは、ULVAC社製、Laser Ellipsometer、ESM−1ATを使用した。また、本測定で使用する装置の測定には、
図2で示す構成のものを使用した。
(1)大気中の測定例
PDMS膜をスピンコーターで27MHzの水晶振動子の片面全体に薄膜を形成したものをサンプル1〜3とし、また、同じ水晶振動子で薄膜が形成されていないものとを用意し、サンプル1〜3の基本波と3倍波の共振周波数F
S,
1及びF
S,
3を測定して記憶手段に記憶した。併せて、基本波と3倍波の半値半幅F
W,1及びF
W,
3を演算手段により求めて記憶手段に記憶した。また、基本波と3倍波の共振周波数の変化ΔF
S,
1及びΔF
S,
3並びに基本波と3倍波の半値半幅の変化ΔF
W,1及びΔF
W,
3を求めるために、薄膜を形成していないものとの比較演算をして記憶手段により記憶した。
また、記憶手段に記憶された基本波と3倍波の共振周波数の変化ΔF
S,
1及びΔF
S,
3並びに基本波と3倍波の半値半幅の変化ΔF
W,1及びΔF
W,
3を用いて、α
Lとして、9<α
L≦81とし、その範囲で1000等分した値を各α
Lとして、下記の式(数36)に代入し、A(α
L)を求め記憶手段に記憶した。
【数36】
下記式(数37)にα
Lを代入してC
Lを演算手段により求め記憶手段に記憶した。
【数37】
下記式(数38及び数39)にC
Lを代入して、3倍波の共振周波数変化ΔF
S,3の補正値ΔF
S,3´と半値半幅の変化ΔF
W,3の補正値ΔF
W,3´を演算手段により求め、記憶手段に記憶した。
【数38】
【数39】
そして、得られた補正値と、実測値との相対誤差を求めて、その相対誤差が最小になったときのα
Lから、値A及びCを決定して、上記実施の形態で説明した方法により、粘弾性係数として貯蔵弾性率(動的弾性率)G’(Pa)、損失弾性率(動的損失)G”(Pa)、損失係数(tanδ)及び膜厚(nm)を算出した。その結果を表1に示す。比較の為に同試料の膜厚をエリプソ測定により測定した結果も表1に示した。
【0016】
【表1】
【0017】
この結果から、本発明によれば、周波数変化を測定することにより、大気中における100nm以下の薄膜の粘弾性値が算出することができることがわかった。また、用意した試料に対して、エリプソ測定を行った結果、本発明の方法で算出した膜厚とほぼ同じ値であることから、従来の粘弾性測定装置では、1μm以下の厚みの物質の粘弾性測定は難しいが、本発明の方法を使用することで、1μm以下の厚みの物質の粘弾性測定が十分可能であることがわかった。
【0018】
(2)溶液中の測定例
27MHzの水晶振動子の金電極を洗浄した後、セル底部にセンサーとして固定した。そして、セル内に500μLのBuffer溶液を入れて、周波数変化が安定するのを待ち、周波数が安定したら、1mg/mLトリプシン(タンパク質)を5μLを添加して、金電極への吸着量を測定した。
測定及び演算手段による演算により、
図3に示すように、基本波の共振周波数((a)ΔF
S,1)及び半値半幅((b)ΔF
W,1)、並びに3倍波の共振周波数((c)ΔF
S,3)及び半値半幅((d)ΔF
W,3)について測定又は演算により求め記憶手段に記憶した。
また、リアルタイムで記憶手段に記憶された基本波と3倍波の共振周波数の変化ΔF
S,
1及びΔF
S,
3並びに基本波と3倍波の半値半幅の変化ΔF
W,1及びΔF
W,
3を用いて、α
Lとして、1<α
L≦9とし、その範囲を1000等分した値を各α
Lとして、下記の式(数40)に代入し、A(α
L)を求め記憶手段に記憶した。
【数40】
下記式(数41)にα
Lを代入してC
Lを演算手段により求め記憶手段に記憶した。
【数41】
下記式(数42及び数43)にC
Lを代入して、3倍波の共振周波数変化ΔF
S,3の補正値ΔF
S,3´と半値半幅の変化ΔF
W,3の補正値ΔF
W,3´を演算手段により求め、記憶手段に記憶した。
【数42】
【数43】
そして、得られたそれぞれの補正値と、対応する実測値との相対誤差を求めて、その相対誤差が最小になったときのα
Lから、値A及びCを決定して、上記実施の形態で説明した方法により、粘弾性係数として貯蔵弾性率(動的弾性率)G’(Pa)、損失弾性率(動的損失)G”(Pa)、損失係数(tanδ)及び膜厚(nm)を算出した。
以上の測定、演算をリアルタイムで行い、その結果を
図5に示した。
トリプシンは振動のエネルギー損失をほとんど起こさない剛体に近い物質の為、特許文献2(特願2010-235657)に開示した従来の解析方法では解析できない。このことを示すために、貯蔵弾性率(動的弾性率)G’(Pa)及び損失弾性率(動的損失)G”(Pa)の解析を文献2に開示される方法により行った例を
図4に示した。
図4及び
図5を比較すれば明らかな通り、本発明の方法では、1800秒辺りまで粘弾性の解析ができているのに対して、特許文献1開示の方法では、300秒を経過した時点で解析ができないことがわかった。
【符号の説明】
【0019】
1 セル
2 測定手段(ネットワークアナライザー)
3 制御手段
4 温度制御手段
5 温調調整手段
6 第1の演算部
7 第2の演算部
8 表示部