特許第6016725号(P6016725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6016725アプリケーションの主要品質指標最適値算出装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016725
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】アプリケーションの主要品質指標最適値算出装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 11/36 20060101AFI20161013BHJP
   H04L 12/70 20130101ALI20161013BHJP
【FI】
   G06F9/06 620R
   H04L12/70 100Z
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-145853(P2013-145853)
(22)【出願日】2013年7月11日
(65)【公開番号】特開2015-18455(P2015-18455A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2015年7月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 特許法第30条第2項適用、電子情報通信学会2013年総合大会講演論文集(平成25年3月5日発行)第440頁に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】本多 泰理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 玲
(72)【発明者】
【氏名】新熊 亮一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達郎
【審査官】 多胡 滋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−288115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 11/36
H04L 12/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アプリケーションの各種操作における最適待ち時間を求めるアプリケーションの主要品質指標最適値算出装置であって、
評価対象とするアプリケーションの各操作状態及び状態遷移における主要品質指標(KQI: Key Quality Indicator)とユーザが待ち時間をどれくらい意識せずに済むかを示す指標である無意識度の対応関係を入力情報として取得する入力手段と、
前記入力情報から各状態遷移ついて、前記無意識度が最大となるKQI値を算出するKQI最適値算出手段と、
算出された前記KQI値を最適待ち時間として出力する出力手段と、
を有し、
前記KQI最適値算出手段は、
線形補間により前記KQI最適値を推定する手段を含むことを特徴とするアプリケーションの主要品質指標最適値算出装置。
【請求項2】
前記KQI最適値算出手段は、
前記入力情報の前記無意識度がスカラーの実数値で表現される場合に、前記アプリケーションの操作状態及び状態遷移におけるKQIを独立変数xとし、該無意識度が関数η(x)である場合、該関数η(x)の最大値を実現するKQIの値xを最適値な値として算出する手段を含む
請求項1記載のアプリケーションの主要品質指標最適値算出装置。
【請求項3】
前記入力情報は、
前記アプリケーションの操作状態及び状態遷移におけるKQIとユーザの無意識度を、実数の閉区間の値として評価した評価値の絶対値が大きくなるほどユーザの無意識性は低いとする尺度を用いる
請求項1記載のアプリケーションの主要品質指標最適値算出装置。
【請求項4】
アプリケーションの各種操作における最適待ち時間を求めるアプリケーションの主要品質指標最適値算出方法であって、
入力手段、主要品質指標(KQI: Key Quality Indicator)最適値算出手段、出力手段を有する装置において、
前記入力手段が、評価対象とするアプリケーションの各操作状態及び状態遷移におけるKQIとユーザが待ち時間をどれくらい意識せずに済むかを示す指標である無意識度の対応関係を入力情報をとして取得する入力ステップと、
前記KQI最適値算出手段が、前記入力情報から各状態遷移ついて、前記無意識度が最大となるKQI値を算出するKQI最適値算出ステップと、
前記出力手段が、算出された前記KQI値を最適待ち時間として出力する出力ステップと、
を行い、
前記KQI最適値算出ステップにおいて
線形補間により前記KQI最適値を推定することを特徴とするアプリケーションの主要品質指標最適値算出方法。
【請求項5】
前記KQI最適値算出ステップにおいて、
前記入力情報の前記無意識度がスカラーの実数値で表現される場合に、前記アプリケーションの操作状態及び状態遷移におけるKQIを独立変数xとし、該無意識度が関数η(x)である場合、該関数η(x)の最大値を実現するKQIの値xを最適値な値として算出する
請求項記載のアプリケーションの主要品質指標最適値算出方法。
【請求項6】
前記入力情報は、
前記アプリケーションの操作状態及び状態遷移におけるKQIとユーザの無意識度を、実数の閉区間の値として評価した評価値の絶対値が大きくなるほどユーザの無意識性は低いとする尺度を用いる
請求項記載のアプリケーションの主要品質指標最適値算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アプリケーションの主要品質指標最適値算出装置及び方法に係り、特に、アプリケーションの各種操作における最適待ち時間を、アプリケーション操作のモデル化ならびに新たな品質評価指標の適用により出力するアプリケーションの主要品質指標最適値算出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの社会インフラ化が急速に進んでいる。スマートフォンの日本における利用率は、2012年10月時点で個人が39.9%、企業が41.7%と言われており、スマートフォンの急速な普及によって、人々が時間や場所を問わず、日常的にインターネットを利用する機会が増えている。また、通信インフラの技術が発達するに伴って、インターネットを利用したサービスは多様化の一途を辿っている。メールやチャット、ウェブページなどの従来のサービスをはじめ、テレビ電話や映像配信サービスなどのマルチメディア通信サービス、Facebook(登録商標)やTwitter(登録商標)などのSocial Networking Service(SNS)を用いたコミュニケーション型サービス、Google Maps(登録商標)などの地図情報サービスなど、多種多様な通信サービスが展開されている。そのため、全世界のインターネットのトラヒック総量は爆発的に増加しており、米国Cisco Systems社によると、2016年のインターネットトラヒック総量は、2011年と比較して4倍近い、1.3Zbyteにも達すると予測されている。このような状況下で、快適な通信サービスをユーザに提供し続けることは困難であり、バックボーンネットワークの更なる大容量化や、トラヒック制御の方式など、様々なアプローチから解決策が求められている。代表的な通信ネットワーク制御のアプローチとして、サービスを享受するユーザが体感する品質(QoE: Quality of Experience)の要求条件を、スループット、パケットロス率、許容遅延・許容ジッタ(ゆらぎ)などのネットワーク性能やアプリケーション性能(QoS:Quality of Service)のメトリックに変換して、オペレータが通信品質の管理・制御を行う方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/43592/1/edu_50_07.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、適切にユーザのQoEを評価する技術が必要となる。しかしながら、近年の通信アプリケーションの多様化、またユーザの思考や価値観の多様化に伴い、ユーザの品質要求条件も多様化している。そのため、ユーザ視点での品質、オペレータ視点での効率のどちらの側面においても、ネットワークの適切な制御は困難である。現在、ユーザ視点での通信アプリケーションの分類として、リアルタイム性、非リアルタイム性による区分が広く用いられている。リアルタイム性の高いアプリケーションとして区分されるものは、QoSのメトリックのうち、遅延とジッタの低減が強く求められ、それに基づいた通信ネットワークの制御が行われている。しかしながら、通信アプリケーションの多様化に伴い、QoE評価の観点でこうした分類のみでは不十分となった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、適切にユーザのQoEを評価し、アプリケーションやネットワーク設計時の指針とする最適値を求めることが可能なアプリケーションの主要品質指標最適値算出装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様によれば、アプリケーションの各種操作における最適待ち時間を求めるアプリケーションの主要品質指標最適値算出装置であって、
評価対象とするアプリケーションの各操作状態及び状態遷移における主要品質指標とユーザが待ち時間をどれくらい意識せずに済むかを示す指標である無意識度の対応関係を入力情報として取得する入力手段と、
前記入力情報から各状態遷移ついて、前記無意識度が最大となるKQI値を算出するKQI最適値算出手段と、
算出された前記KQI値を最適待ち時間として出力する出力手段と、
を有し、
前記KQI最適値算出手段は、
線形補間により前記KQI最適値を推定する手段を含むことを特徴とするアプリケーションの主要品質指標最適値算出装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記の一態様によれば、各種操作状態及び状態遷移における主要品質指標(KQI: Key Quality Indicator)の最適値を算出することができる。アプリケーション及び操作は無数に存在するが、本発明における入力情報として規定されているKQIの無意識度の対応関係として整理することにより、まずアプリケーションの操作状態を定式的に扱うことができる。
【0008】
そして、当該入力に対してKQI最適値算出装置が出力する結果により、当該操作状態または状態遷移におけるKQI最適値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のユーザの行動に基づいたアプリケーションモデルである。
図2】本発明の一実施の形態におけるKQI最適値算出装置の構成図である。
図3】本発明の一実施の形態における被験者による状態遷移における待ち時間と無意識度の関係例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、人間の普遍的な性質である、知覚・思考、心理過程、行動に着目した新たな通信アプリケーション利用形態のモデルを提案する。
【0011】
その上で、当該モデルの操作状態及び状態遷移におけるKQIとユーザ体感の関係について「無意識度」を評価尺度に採用し入力情報を構成する。ここで「無意識度」は、ユーザが待ち時間をどれくらい意識せずに済むかを示す指標で、近年、人間の行動を説明する主要な理論となっている「自動性」というアプローチ(非特許文献1参照)に基づく。
【0012】
ここで無意識性の評価とは、人間の行動に対して行われるものである。よって本発明では、通信アプリケーションをユーザの行動によって分類し、モデル化する。
【0013】
図1は、本発明のユーザの行動に基づいたアプリケーションモデルを示す。
【0014】
同図に示すモデルは、ユーザの操作状態と状態遷移の2つから構成される。
【0015】
「操作状態」は、
a:膨大な候補から選択肢を限定する「Narrow Down(N)」
b:限定された選択肢の中から選択する「Select(S)」
c:目的の情報を閲覧する「View(v)」
d:情報を投稿する「Post(P)」
の4つに分類する。
【0016】
「状態遷移」とは、上記の4つの状態のうち、図1における隣接する状態間若しくは同一状態の遷移を示す。図1に示すモデルでは、それぞれの状態の頭文字をとり、「N−S」、「S−V」、「S−P」、「V−P」、「V−V」、「P−P」の6つの状態遷移を提案する。
【0017】
各状態が指し示す具体的内容はアプリケーションにより異なるが、基本的にはこのように分類することが可能であり、例えば、現在広く普及している代表的アプリケーション毎の分類は表1のようにとることができる。
【0018】
【表1】
一般にアプリケーションを利用する際にユーザが品質を感ずるのは、これら操作状態間の遷移時、及び上記のc、dの状態であると見ることができる。例えば、YouTube(登録商標)を例にとれば、コンテンツが表示されるaの状態から、所望のコンテンツを選択し、表示されるbまでの待ち時間や、画像選択b後に再生が開始されるcまでの待ち時間に対して、ユーザは品質を意識することとなる。さらに、再生中の動画の品質は状態cにおいて感ずることとなる。
【0019】
そこで本発明では、上記で定義した各種操作間の状態遷移毎、及び状態c、dに対して、ユーザの品質満足度が定義されるものと考える。
【0020】
ユーザの品質満足度については各種指標が考えられるが、可能な限り多様なアプリケーションや操作に対して汎用的に適用可能であることが望ましい。本発明では、ユーザの主観的感覚の観点から品質に対する無意識度を評価指標として適用する。これはユーザが品質やネットワークの存在を意識しないほど、品質に対する満足度が高いとする発想に基づく、電話を例にとれば、ユーザにとって理想的通話状態とは、電話を介して通話していることを意識しない状態、即ち相手と直接対話しているかのような状態が理想であり、逆に遠話や雑音により通信路の状態を意識してしまう状態は、理想的ではないということができる。
【0021】
一般には各操作状態により、無意識に影響を与えるKQIは異なる。例えば、前述のYouTube(登録商標)の例であれば、所望の動画を検索する画面の表示待ち時間、選択後に再生が開始するまでの待ち時間、各フェーズにおける待ち時間がユーザの無意識度に影響を与える。一方で、映像視聴時は、映像の再生停止発生頻度や回数、時間が影響を与える。従ってユーザの無意識度を用いることにより、各操作状態もしくはその状態遷移におけるKQIの最適値を算出し、当該アプリケーションやネットワーク設計時の指針とすることができる。
【0022】
以下、図面と共に本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
図2は、本発明の一実施の形態におけるKQI最適値算出装置の構成を示す。
【0024】
同図に示すKQI最適値算出装置1は、入力部10、メモリ20、KQI最適値算出部30、出力部40を有する。
【0025】
まず、入力部10に入力される情報について説明する。
【0026】
KQI最適値算出装置1の利用者は、入力情報の構成に先立ち、各操作状態及び状態遷移におけるKQIを決定する。当該KQIの値は単一でも複数でもよい。
【0027】
入力情報は、対象とするアプリケーションの各操作状態及び状態遷移におけるKQIと無意識度の対応関係である。ここで、無意識度はスカラーの実数値で表現される。当該情報は、例えば、被試験者試験により得たものを用いる。
【0028】
入力情報を生成するにあたり、各操作状態におけるKQIとユーザ無意識度の関係を調べる。例えば、実数の閉区間[-50,50]の値として評価し、評価値が0の場合、ユーザは最も無意識的に通信アプリケーションを利用し、評価値の絶対値が大きくなるほどユーザの無意識性は低かったとする尺度の採用も可能である。図3は、被験者評価による前述の状態遷移a,bにおける待ち時間と無意識度の関係例であり、YouTube(登録商標)のN-S及びS−Vフェーズにおける待ち時間と無意識度を示している。これが、KQI最適値算出装置1への入力情報となる。
【0029】
入力部10は、上記の入力情報を取得し、メモリ20に格納する。
【0030】
KQI最適値算出部30は、メモリ20から入力情報を読み込み、各遷移状態について無意識度が最大となるKQI値(最適待ち時間)を算出し、出力部40に出力する。ここで、必要に応じて線形補間を適用する。
【0031】
具体的には、アプリケーションの操作状態もしくは状態遷移におけるKQIを独立変数xとし、無意識度がその関数η(x)であるとした場合、η(x)の最大値を実現するKQIの値xをもって最適なKQIの値として算出する。
【0032】
x_max:=argmaxx η(x)
ここで、KQIはベクトル値でもよい。当該値の算出においては、必要に応じて線形補間によりKQI最適値を推定する。上記過程を各操作状態及び状態遷移について実施し、各状態遷移の最適待ち時間を算出する。
【0033】
出力部40は、KQI最適値算出部30で求められた各状態遷移の最適待ち時間を出力する。
【0034】
以下に具体的に説明する。
【0035】
以下では、YouTube(登録商標)を対象アプリケーションとして例にとって説明する。
【0036】
また、本例では、当該KQI最適値算出装置1への入力情報として、YouTube(登録商標)の操作状態遷移のうち、
(1)Narrow Down→Select(以下、N−S);
(2)Select→View(以下、S−V);
について述べることとする。
【0037】
YouTube(登録商標)の前述の操作状態遷移におけるKQIは、所望の最終的なページが表示されるまでの待ち時間であることから、入力情報の構成においては、KQIとして待ち時間をとり、無意識度との関係を調査する必要がある。調査の結果、図3に示すある被験者評価による得られたN−S及びS−Vの待ち時間と無意識度の関係が得られているものとする。ここでは、無意識度を実数の閉空間[-50,50]の値として評価し、評価値が0の場合、ユーザは最も無意識的に通信アプリケーションを利用し、評価値の絶対値が大きくなるほどユーザの無意識性は低かったとする尺度を採用している。これが本例における入力情報となる。
【0038】
入力部10が上記の入力情報をユーザから取得し、メモリ20に格納し、KQI最適値算出部30は、格納された入力情報を読み出して、各状態遷移について無意識殿絶対値が最小の値を算出する。線形補間により、状態遷移(1)N-Sにおいては0.8秒、(2)S-Vについては1.2秒がそれぞれ最適待ち時間として算出され、出力部40に出力する。
【0039】
なお、上記のKQI最適値算出装置1の処理をプログラムとして構築し、KQI最適値算出装置として利用されるコンピュータにインストールして実行させる、または、ネットワークを介して流通させることが可能である。
【0040】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々変更・応用が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 KQI最適値算出装置
10 入力部
20 メモリ
30 KQI最適値算出部
40 出力部
図1
図2
図3