(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1〜第3の親水性繊維含有層の各層が熱融着性繊維を含有し、第1の親水性繊維含有層に含有される熱融着性繊維と、第3の親水性繊維含有層に含有される熱融着性繊維とが熱融着しており、第2の親水性繊維含有層に含有される熱融着性繊維と、第3の親水性繊維含有層に含有される熱融着性繊維とが熱融着している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の不織布。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の不織布及びウェットワイプスについて説明する。
本発明の不織布に関する各種パラメータは、以下の通り、測定される。
不織布の各種パラメータの測定には、状態調節した不織布が使用される。不織布の状態調節は、乾燥状態にある不織布を、標準状態(温度23±2℃,相対湿度50±5%)において24時間以上保存することにより実施される。乾燥状態にある不織布は、水分率が通常12%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下である不織布である。
【0009】
[水分率]
不織布の水分率(%)の測定は、以下の通り、実施される。
不織布から切り出された10個の試験片(長さ30cm×幅30cm)について、乾燥前の重量(W1)と、JIS P8127に準じて105℃±2℃で60分間乾燥させた後の重量(W2)とを測定し、水分率=(W1−W2)/W1×100(%)に基づいて算出された10個の試験片の水分率の平均値を、不織布の水分率とする。乾燥処理には、温度を105℃±2℃に維持できるとともに,空気を適切に置換できる乾燥器が使用される。
【0010】
[嵩密度]
不織布の嵩密度(g/cm
3)は、不織布の嵩密度(g/cm
3)=不織布の坪量(g/m
2)/不織布の乾燥時厚み(mm)×10
-3に基づいて算出される。なお、不織布の坪量及び乾燥時厚みの測定は、以下に記載される。
【0011】
[坪量]
不織布の坪量(g/m
2)の測定は、以下の通り、実施される。
状態調節後の不織布から切り出された3個の試験片(10mm×10mm)の質量を直示天秤(例えば、研精工業株式会社製 電子天秤HF−300)で測定し、3個の試験片の質量の平均値から算出された不織布の単位面積当たりの質量(g/m
2)を、不織布の坪量とする。
なお、不織布の坪量の測定に関し、上記で特に規定しない測定条件については、ISO 9073−1又はJIS L 1913 6.2に記載の測定条件を採用する。
【0012】
[乾燥時厚み]
不織布の乾燥時厚み(mm)の測定は、以下の通り、実施される。
厚み計(例えば、株式会社大栄科学精器製作所製FS−60DS,測定子面積15cm
2)を用いて、状態調節後の不織布の異なる3つの部位(厚み計FS−60DSを使用する場合、各部位の面積は15cm
2)を定圧3g/cm
2で加圧し、各部位における加圧10秒後の厚みを測定し、3つの部位の厚みの平均値を不織布の乾燥時厚みとする。
【0013】
[湿潤時厚み]
不織布の湿潤時厚み(mm)の測定は、以下の通り、実施される。
状態調節後の不織布から切り出された3個の試験片(長さ10mm×幅10mm)に自重の150%の蒸留水を含浸させた後(含浸後の試験片の質量は、含浸前の試験片の質量の250%である)、10分間放置する。次いで、厚み計(例えば、株式会社大栄科学精器製作所製FS−60DS,測定子面積15cm
2)を用いて、各試験片の所定部位(厚み計FS−60DSを使用する場合、当該部位の面積は15cm
2)を定圧3g/cm
2で加圧し、当該部位における加圧10秒後の厚みを測定する。3個の試験片の厚みの平均値を不織布の湿潤時厚みとする。
【0014】
[吸水倍率]
不織布の吸水倍率(%)の測定は、以下の通り、実施される。
状態調節後の不織布から切り出された5個の試験片(長さ100mm×幅100mm)の吸水前の質量(g)を測定する。各試験片を蒸留水に1分間浸漬させた後、網(80メッシュ)上に1分間放置することにより水切りし、水切り後の試験片の質量を測定する。試験片の吸水倍率(%)=水切り後の試験片の質量/吸水前の試験片の質量×100に基づいて、試験片の吸水倍率を算出する。5個の試験片の吸収倍率の平均値を、不織布の吸水倍率とする。
【0015】
[乾燥時最大引張り強度]
不織布の乾燥時最大引張り強度(N/25mm)の測定は、以下の通り、実施される。
状態調節後の不織布から切り出された試験片(長さ150mm×幅25mm)を、引張試験機(島津製作所製オートグラフAGS−1kNG)につかみ間隔100mmで取り付け、100mm/分の引張速度で試験片が切断されるまで荷重(最大点荷重)を加えて、試験片の乾燥時最大引張り強度を測定する。3個の試験片の乾燥時最大引張り強度の平均値を、不織布の乾燥時最大引張り強度とする。
【0016】
[湿潤時最大引張り強度]
不織布の湿潤時最大引張り強度(N/25mm)の測定は、以下の通り、実施される。
状態調節後の不織布から切り出された試験片(長さ150mm×幅25mm)に自重の150%の蒸留水を含浸させた後(含浸後の試験片の質量は、含浸前の試験片の質量の250%である)、引張試験機(島津製作所製オートグラフAGS−1kNG)につかみ間隔100mmで取り付け、100mm/分の引張速度で試験片が切断されるまで荷重(最大点荷重)を加えて、試験片の湿潤時最大引張り強度を測定する。3個の試験片の湿潤時最大引張り強度の平均値を、不織布の湿潤時最大引張り強度とする。
【0017】
不織布の乾燥時及び湿潤時最大引張り強度に関し、「N/25mm」は、不織布の長さ方向における幅25mmあたりの最大引張り強度(N)を意味する。不織布のMDにおける引張り強度の測定には、長さ方向が不織布のMDと一致する試験片が使用され、不織布のCDにおける引張り強度の測定には、長さ方向が不織布のCDと一致する試験片が使用される。乾燥時及び湿潤時最大引張り強度の測定に関し、上記で特に規定しない測定条件については、ISO 9073−3又はJIS L 1913 6.3に記載の測定条件を採用する。
【0018】
本発明の不織布の一態様(態様1A)は、最外層に設けられた第1及び第2の親水性繊維含有層と、第1及び第2の親水性繊維含有層の間に設けられた第3の親水性繊維含有層とを有する不織布であって、第1及び第2の親水性繊維含有層が、熱膨張した中空粒子を含有せず、第3の親水性繊維含有層が、熱膨張した中空粒子を、第3の親水性繊維含有層の総質量を基準として5質量%以上含有し、不織布の嵩密度が0.10g/cm
3未満であり、不織布の吸水倍率が350倍以上である、不織布である。
【0019】
態様1Aの不織布では、最外層に設けられた第1及び第2の親水性繊維含有層が熱膨張した中空粒子を含有しないので、熱膨張した中空粒子の存在に起因する不織布の表面強度の低下を防止することができる。このため、態様1Aの不織布は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じる摩擦力に耐え得る表面強度を有することができる。したがって、態様1Aの不織布は、ウェットワイプスとして好適である。
【0020】
態様1Aの不織布では、熱膨張した中空粒子が、最外層に設けられた第1及び第2の親水性繊維含有層には含有されず、第1及び第2の親水性繊維含有層の間に設けられた第3の親水性繊維含有層に含有されるので、熱膨張した中空粒子を外力から保護することができる。このため、態様1Aの不織布は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じる摩擦力に起因する熱膨張した中空粒子の破壊、脱落等を防止することができる。したがって、態様1Aの不織布は、ウェットワイプスとして好適である。
【0021】
態様1Aの不織布では、第3の親水性繊維含有層が、熱膨張した中空粒子を、第3の親水性繊維含有層の総質量を基準として5質量%以上含有することにより、0.10g/cm
3未満という不織布の嵩密度及び350倍以上という不織布の吸水倍率が実現されている。このため、態様1Aの不織布は、嵩高で柔らかい風合いを有するとともに、吸水性、保水性及びこれらに起因する高洗浄性を有することができる。したがって、態様1Aの不織布は、ウェットワイプス、特に、おしり拭き等の対人用ウェットワイプスとして好適である。
【0022】
態様1Aの不織布では、第3の親水性繊維含有層が、熱膨張した中空粒子を、第3の親水性繊維含有層の総質量を基準として5質量%以上含有するとともに、不織布の嵩密度が0.10g/cm
3未満であることにより、不織布内に十分な気体(中空粒子内に存在する気体及び不織布の空隙内に存在する気体)が内包される。このため、態様1Aの不織布では、加温後の温度低下が緩やかであり、加温状態が維持されやすい。したがって、態様1Aの不織布は、加温されたウェットワイプス、特に、温度変化に敏感な乳児、老人用のウェットワイプスとして好適である。
【0023】
態様1Aの不織布の好ましい態様(態様2A)では、第3の親水性繊維含有層に含有される熱膨張した中空粒子の量が、第3の親水性繊維含有層の総質量を基準として30質量%以下である。第3の親水性繊維含有層に含有される熱膨張した中空粒子の量が増加するほど、不織布の強度は低下するが、第3の親水性繊維含有層に含有される熱膨張した中空粒子の量が、第3の親水性繊維含有層の総質量を基準として30質量%以下であれば、不織布が十分な強度を保持することができる。このため、態様2Aの不織布は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に破れにくい。したがって、態様2Aの不織布は、ウェットワイプスとして好適である。
【0024】
態様2Aの不織布の好ましい態様(態様3A)では、湿潤時の最大引張り強度が1.5N/25mm以上である。態様3Aの不織布は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に破れにくい。したがって、態様3Aの不織布は、ウェットワイプスとして好適である。「N/25mm」は、不織布の平面方向における幅25mmあたりの最大引張り強度(N)を意味し、不織布の平面方向としては、例えば、不織布の製造時の搬送方向(MD)、MDと直交する方向(CD)等が挙げられる。不織布の湿潤時の最大引張り強度は、MD及びCDの少なくとも一方において1.5N/25mm以上であることが好ましく、MD及びCDの両方において1.5N/25mm以上であることがさらに好ましい。
【0025】
態様1A〜3Aのいずれか一態様の不織布の好ましい態様(態様4A)では、湿潤時厚みが0.5mm以上である。態様4Aの不織布は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に、柔らかい使用感(例えば、拭き心地)を実現することができる。したがって、態様4Aの不織布は、ウェットワイプスとして好適である。
【0026】
態様1A〜4Aのいずれか一態様の不織布の好ましい態様(態様5A)では、第1及び/又は第2の親水性繊維含有層が、スパンレース処理された層である。スパンレース処理は、高圧水流の噴射により繊維同士を交絡させる処理である。スパンレース処理により、第1及び/又は第2の親水性繊維含有層の強度が増加するので、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じるおそれがある第1及び/又は第2の親水性繊維含有層の破断を防止することができる。また、スパンレース処理により、第1及び/又は第2の親水性繊維含有層が緻密となるので、第3の親水性繊維含有層に含有される熱膨張した中空粒子が、第1及び/又は第2の親水性繊維含有層を通過して漏出することを防止することができる。したがって、態様5Aの不織布は、ウェットワイプスとして好適である。
【0027】
態様1A〜5Aのいずれか一態様の不織布の好ましい態様(態様6A)では、第1〜第3の親水性繊維含有層の各層が熱融着性繊維を含有し、第1の親水性繊維含有層に含有される熱融着性繊維と、第3の親水性繊維含有層に含有される熱融着性繊維とが熱融着しており、第2の親水性繊維含有層に含有される熱融着性繊維と、第3の親水性繊維含有層に含有される熱融着性繊維とが熱融着している。熱融着性繊維同士の熱融着により、層間接着強度を増加させることができる。このため、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じるおそれがある層間剥離を防止することができる。したがって、態様6Aの不織布は、ウェットワイプスとして好適である。
【0028】
態様6Aの不織布の好ましい態様(態様7A)では、第1〜第3の親水性繊維含有層の各層が、各層の総質量を基準として1〜10質量%の熱融着性繊維を含有する。これにより、不織布の吸水性、保水性及びこれらに起因する高洗浄性を低下させることなく、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じるおそれがある層間剥離を効果的に防止することができる。したがって、態様7Aの不織布は、ウェットワイプスとして好適である。
【0029】
本発明の不織布において、態様1A〜6Aの2以上の態様を組み合わせることができる。
【0030】
本発明のウェットワイプスの一態様(態様1B)は、態様1A〜6Aのいずれか一態様の不織布に液体が含浸してなるウェットワイプスである。
【0031】
態様1Bのウェットワイプスの好ましい態様(態様2B)では、ウェットワイプスが所定温度に加温されている。
【0032】
以下、本発明の不織布の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、不織布1は、最外層に設けられた親水性繊維含有層11及び12と、親水性繊維含有層11及び12の間に設けられた親水性繊維含有層13とを有する。
【0033】
不織布1は、親水性繊維含有層11及び13の間、及び/又は、親水性繊維含有層12及び13の間に、1又は2以上の中間層を有していてもよい。中間層としては、例えば、親水性繊維含有層、接着剤層等が挙げられる。中間層として設けられる1又は2以上の親水性繊維含有層は、親水性繊維含有層11〜13の1又は2以上と同様に構成することができる。
【0034】
本実施形態に係る不織布1では、
図1に示すように、親水性繊維含有層11及び12の端部が分離しているが、親水性繊維含有層11及び12の端部が連続していてもよい。例えば、別の実施形態に係る不織布1’では、
図14に示すように、親水性繊維含有層11及び12が、1つの親水性繊維層が折り曲げられることにより形成されたものであり、親水性繊維含有層11及び12の端部が連続している。
【0035】
親水性繊維含有層11〜13は、親水性繊維を含有する限り、親水性繊維以外の繊維(例えば、疎水性繊維)を含有してもよい。例えば、親水性繊維含有層に疎水性繊維を混合することにより、親水性繊維含有層の親水性をコントロールすることができる。親水性繊維含有層11に含有される親水性繊維の量は、親水性繊維含有層11の総質量を基準として通常20〜100質量%、好ましくは30〜100質量%、さらに好ましくは40〜100質量%である。親水性繊維含有層12に含有される親水性繊維の量は、親水性繊維含有層12の総質量を基準として通常20〜100質量%、好ましくは30〜100質量%、さらに好ましくは40〜100質量%である。親水性繊維含有層13に含有される親水性繊維の量は、親水性繊維含有層13の総質量を基準として通常65〜95質量%、好ましくは80〜95質量%、さらに好ましくは90〜95質量%である。
【0036】
親水性繊維としては、例えば、セルロース系繊維が挙げられ、セルロース系繊維としては、例えば、針葉樹又は広葉樹を原料として得られる木材パルプ(例えば、砕木パルプ、リファイナーグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等の機械パルプ;クラフトパルプ、サルファイドパルプ、アルカリパルプ等の化学パルプ;半化学パルプ等);木材パルプに化学処理を施して得られるマーセル化パルプ又は架橋パルプ;バガス、ケナフ、竹、麻、綿(例えばコットンリンター)等の非木材パルプ;レーヨン、フィブリルレーヨン等の再生セルロース;アセテート、トリアセテート等の半合成セルロース等が挙げられるが、これらのうち、木材パルプ、レーヨン繊維又はこれらの混合物が好ましい。親水性繊維含有層11〜13に含有される親水性繊維の繊維長は、通常15mm以下、好ましくは12mm以下、さらに好ましくは10mm以下である。
【0037】
親水性繊維含有層11及び12は、熱膨張した中空粒子を含有していない一方、親水性繊維含有層13は、熱膨張した中空粒子を、親水性繊維含有層13の総質量を基準として5質量%以上、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上含有している。不織布1では、最外層に設けられた親水性繊維含有層11及び12が熱膨張した中空粒子を含有しないので、熱膨張した中空粒子の存在による不織布1の表面強度の低下を防止することができる。このため、不織布1は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じる摩擦力に耐え得る表面強度を有することができる。また、不織布1では、熱膨張した中空粒子が、最外層に設けられた親水性繊維含有層11及び12には含有されず、親水性繊維含有層11及び12の間に設けられた親水性繊維含有層13に含有されるので、熱膨張した中空粒子を外力から保護することができる。このため、不織布1は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じる摩擦力に起因する熱膨張した中空粒子の破壊、脱落等を防止することができる。したがって、不織布1は、ウェットワイプスとして好適である。
【0038】
熱膨張した中空粒子は、熱膨張性粒子が膨張したものである。
図2は、熱膨張性粒子の一実施形態を説明するための概略図である。
図2(a)に示すように、熱膨張性粒子60は、熱可塑性樹脂で構成される殻61と、低沸点溶剤が封入されている核62とからなる。熱膨張性粒子60の殻61を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の共重合体が挙げられる。熱膨張性粒子60の核62に封入される低沸点溶剤としては、例えば、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、低沸点ハロゲン化炭化水素、メチルシラン等が挙げられる。
【0039】
熱膨張性粒子60の熱膨張前の平均粒径は、通常5〜30μm、好ましくは8〜14μmである。かかる粒径は、JIS R 6002:1998に記載のふるい分け試験方法に準拠して測定された場合の粒径である。
【0040】
熱膨張性粒子60を加熱すると、熱可塑性樹脂の殻61は軟化するとともに核62封入されている低沸点溶剤が気化する。これにより、
図2(b)に示すように、熱膨張性粒子60は膨張して中空粒子60’となる。熱膨張後の中空粒子60’の体積は、熱膨張前の熱膨張性粒子60の体積の通常20〜125倍、好ましくは50〜80倍である。熱膨張性粒子60としては、市販品、例えば、マツモトマイクロスフェアー(F−36,F−30D,F−30GS,F−20D,F−50D,F−80D)(松本油脂製薬(株)製)、エクスパンセル(WU,DU)(スウェーデン製、販売元日本フィライト(株))等を使用することができる。
【0041】
親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量は、親水性繊維含有層13の総質量を基準として、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、さらに一層好ましくは20質量%以下である。親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量が増加するほど、不織布1の強度は低下するが、第3の親水性繊維含有層に含有される熱膨張した中空粒子の量が、親水性繊維含有層13の総質量を基準として30質量%以下であれば、不織布1が十分な強度を保持することができる。このため、不織布1は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に破れにくい。したがって、不織布1は、ウェットワイプスとして好適である。なお、親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量に関して記載した上限値及び下限値は適宜組み合わせることができる。例えば、親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量は、親水性繊維含有層13の総質量を基準として、好ましくは5質量%〜30質量%、さらに好ましくは10質量%〜30%、さらに一層好ましくは20質量%〜25%質量%という範囲をとることができる。
【0042】
親水性繊維含有層13は、熱膨張した中空粒子の定着性を向上させるために、ファイレックスRC−104(明成化学工業(株)製、カチオン変性アクリル系重合体)、ファイレックスM(明成化学工業(株)製、アクリル系共重合体)等の定着剤を含んでもよい。また、親水性繊維含有層13は、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性の歩留まり向上剤、サイズ剤等をさらに含んでもよい。
【0043】
親水性繊維含有層11及び/又は12は、スパンレース処理された層であることが好ましい。スパンレース処理は、高圧水流の噴射により繊維同士を交絡させる処理である。スパンレース処理により、親水性繊維含有層11及び/又は12の強度が増加するので、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じるおそれがある親水性繊維含有層11及び/又は12の破断を防止することができる。また、スパンレース処理により、親水性繊維含有層11及び/又は12が緻密となるので、親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子が、親水性繊維含有層11及び/又は12を通過して漏出することを防止することができる。したがって、不織布1は、ウェットワイプスとして好適である。
【0044】
スパンレース処理において、高圧水流の噴射は、1回又は2回以上実施することができる。高圧水流のエネルギー量(噴射が2回以上である場合にはその合計エネルギー量)は、通常0.06264〜0.39728kW/m
2、好ましくは0.09397〜0.33939kW/m
2、さらに好ましくは0.11276〜0.2846kW/m
2である。
【0045】
親水性繊維含有層11及び/又は12がスパンレース処理された層である場合、親水性繊維含有層11及び/又は12は、高圧水流が噴射された面が不織布1の表面となるように、不織布1の最外層に設けられることが好ましい。高圧水流が噴射された面には、溝部が形成されるので、不織布1の表面の凹凸により汚れを効果的に拭き取ることができる。
【0046】
親水性繊維含有層11〜13の各層は熱融着性繊維を含有し、親水性繊維含有層11に含有される熱融着性繊維と、親水性繊維含有層13に含有される熱融着性繊維とが熱融着しているとともに、親水性繊維含有層12に含有される熱融着性繊維と、親水性繊維含有層13に含有される熱融着性繊維とが熱融着していることが好ましい。熱融着性繊維同士の熱融着により、層間接着強度を増加させることができる。このため、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じるおそれがある層間剥離を防止することができる。したがって、不織布1は、ウェットワイプスとして好適である。
【0047】
親水性繊維含有層11〜13の各層に含有される熱融着性繊維の量は、各層の総質量を基準として、好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは1〜8質量%、さらに一層好ましくは1〜5質量%である。これにより、不織布1の吸水性、保水性及びこれらに起因する高洗浄性が低下することなく、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に生じるおそれがある層間剥離を効果的に防止することができる。したがって、不織布1は、ウェットワイプスとして好適である。
【0048】
熱融着性繊維としては、例えば、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維等が挙げられるが、これらのうち、親水性を有する点から、ビニロン繊維が好ましい。
【0049】
ポリオレフィン繊維を構成するポリオレフィンとしては、例えば、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、ポリブチレン、これらを主体とした共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−プロピレンランダム共重合体(EP))等が挙げられる。軟化点が100℃前後と比較的低いので熱加工性に優れる点、並びに、剛性が低く、しなやかな触感である点から、ポリエチレン、特にHDPEが好ましい。
【0050】
ポリエステル繊維を構成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンタレフタレート(PET)、ポリトリメチレテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレタレート(PBT)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸をはじめとする直鎖状又は分岐状の炭素数20までのポリヒドロキシアルカン酸等のポリエステル、これらを主体とした共重合体、アルキレンテレフタレートを主成分として他の成分を少量共重合してなる共重合ポリエステル等が挙げられる。弾性反発性を有するのでクッション性が高い繊維及び不織布を構成することが可能である点、並びに工業的に安価に得られるという経済的な点から、PETが好ましい。
【0051】
ポリアミド繊維を構成するポリアミドとしては、例えば、6−ナイロン、6,6−ナイロン等が挙げられる。
【0052】
熱融着性繊維は、1種類の熱可塑性樹脂で構成されてもよいし、2種類以上の熱可塑性樹脂を含有する複合繊維(例えば、芯鞘型複合繊維、サイド・バイ・サイド型複合繊維)であってもよい。熱融着性繊維は、短繊維ステープルファイバである。熱融着性繊維の太さは、例えば、1〜7dtexに調整することができる。熱融着性繊維の繊維長は、通常15mm以下、好ましくは12mm以下、さらに好ましくは10mm以下である。
【0053】
熱融着性繊維同士の熱融着は、例えば、熱融着性繊維の融点以上の温度で加熱することにより実施される。加熱温度は、熱融着性繊維の種類に応じて適宜調節することができる。熱融着性繊維の融点以上の温度は、熱融着性繊維の一部が融解する温度以上であればよく、例えば、熱融着性繊維が芯鞘型複合繊維である場合、鞘成分が融解する温度以上であればよい。
【0054】
熱融着のための加熱処理は、熱融着性繊維の融点以上の温度に加熱可能である限り特に限定されない。加熱処理としては、例えば、高圧水蒸気の噴射等が挙げられる。高圧水蒸気以外の熱媒体、例えば、熱風、マイクロウェーブ、超音波、赤外線等の使用も可能である。なお、加熱処理により、熱融着とともに、熱膨張性粒子の膨張も生じる。
【0055】
高圧水蒸気の圧力は、通常0.1〜1.0MPa、好ましくは0.3〜0.8MPa、さらに好ましくは0.4〜0.6MPaである。高圧水蒸気の圧力が0.1MPaよりも小さいと、熱膨張性粒子60に高圧水蒸気が十分当たらず、熱膨張性粒子60が十分に加熱されない場合がある。また、高圧水蒸気の蒸気圧力が1.0MPaよりも大きいと、親水性繊維含有層に孔が開いたり、破れたり、吹き飛んだりする場合がある。高圧水蒸気噴き付けノズルとシートの間隙は、2mmで処理を行った。2mm以下だとシートが膨張した際にノズルで擦れてしまいシートが破れてしまうトラブルが発生し、6mm以上間隙をあけると処理効率が著しく悪くなり、十分処理できないというトラブルが発生する。
【0056】
不織布1の嵩密度は、0.10g/cm
3未満、好ましくは0.098g/cm
3以下、さらに好ましくは0.095g/cm
3以下である。不織布の吸水倍率は、350倍以上、好ましくは360倍以上、さらに好ましくは365倍以上である。親水性繊維含有層13が、熱膨張した中空粒子を、親水性繊維含有層13の総質量を基準として5質量%以上含有することにより、0.10g/cm
3以下という不織布1の嵩密度及び350倍以上という不織布1の吸水倍率が実現されている。このため、不織布1は、嵩高で柔らかい風合いを有するとともに、吸水性、保水性及びこれらに起因する高洗浄性を有することができる。したがって、不織布1は、ウェットワイプス、特に、おしり拭き等の対人用ウェットワイプスとして好適である。
【0057】
不織布1では、親水性繊維含有層13が、熱膨張した中空粒子を、親水性繊維含有層13の総質量を基準として5質量%以上含有するとともに、不織布1の嵩密度が0.10g/cm
3以下であることにより、不織布1内に十分な気体(中空粒子内に存在する気体及び不織布の空隙内に存在する気体)が内包される。このため、不織布1では、加温後の温度低下が緩やかであり、加温状態が維持されやすい。したがって、不織布1は、加温されたウェットワイプス、特に、温度変化に敏感な乳児、老人用のウェットワイプスとして好適である。
【0058】
不織布1の湿潤時最大引張り強度は、好ましくは1.5N/25mm以上、さらに好ましくは1.6N/25mm以上、さらに一層好ましくは1.7N/25mm以上である。不織布1の湿潤時最大引張り強度が1.5N/25mm以上であることにより、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に破れにくなる。したがって、かかる不織布は、ウェットワイプスとして好適である。「N/25mm」は、不織布1の平面方向における幅25mmあたりの最大引張り強度(N)を意味し、不織布1の平面方向としては、例えば、不織布1の製造時の搬送方向(MD)、MDと直交する方向(CD)等が挙げられる。不織布1の湿潤時の最大引張り強度は、MD及びCDの少なくとも一方において1.5N/25mm以上であることが好ましく、MD及びCDの両方において1.5N/25mm以上であることがさらに好ましい。
【0059】
不織布1の乾燥時最大引張り強度は、好ましくは3.0N/25mm以上、さらに好ましくは4.0N/25mm以上、さらに一層好ましくは5.0N/25mm以上である。最大引張り強度が3.0N/25mm未満の場合、折り加工時にかかるテンションにより不織布が切れてしまい、加工適正が悪くなる場合がある。「N/25mm」は、不織布1の平面方向における幅25mmあたりの最大引張り強度(N)を意味し、不織布1の平面方向としては、例えば、不織布の製造時の搬送方向(MD)、MDと直交する方向(CD)等が挙げられる。不織布1の乾燥時最大引張り強度は、MD及びCDの少なくとも一方において3.0N/25mm以上であることが好ましく、MD及びCDの両方において3.0N/25mm以上であることがさらに好ましい。
【0060】
不織布1の湿潤時厚みは、好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.54mm以上、さらに一層好ましくは0.58mm以上である。不織布1の湿潤時厚みが0.5mm以上であることにより、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に、柔らかい使用感(例えば、拭き心地)を実現することができる。したがって、かかる不織布は、ウェットワイプスとして好適である。不織布1の湿潤時厚みの上限は、通常2.0mm、好ましくは1.8mm、さらに好ましくは1.6mmである。不織布1の湿潤時厚みのうち親水性繊維含有層11が占める割合は、好ましくは6〜24%、さらに好ましくは7〜22%、さらに一層好ましくは9〜20%である。不織布1の湿潤時厚みのうち親水性繊維含有層12が占める割合は、好ましくは6〜24%、さらに好ましくは7〜22%、さらに一層好ましくは9〜20%である。不織布1の湿潤時厚みのうち親水性繊維含有層13が占める割合は、好ましくは52〜88%、さらに好ましくは56〜86%、さらに一層好ましくは60〜82%である。
【0061】
不織布1の乾燥時厚みは、好ましくは0.58mm以上、さらに好ましくは0.60mm以上、さらに一層好ましくは0.65mm以上である。湿潤時厚みは、乾燥時厚みより低下する傾向にあるので、湿潤時厚みで0.50mm以上を確保するためには、乾燥時厚みが0.58mm以上あることが好ましい。不織布1の乾燥時厚みの上限は、通常2.5mm、好ましくは2.3mm、さらに好ましくは2.0mmである。不織布1の乾燥時厚みのうち親水性繊維含有層11が占める割合は、好ましくは9〜25%、さらに好ましくは10〜24%、さらに一層好ましくは11〜23%である。不織布1の乾燥時厚みのうち親水性繊維含有層12が占める割合は、好ましくは9〜25%、さらに好ましくは10〜24%、さらに一層好ましくは11〜23%である。不織布1の乾燥時厚みのうち親水性繊維含有層13が占める割合は、好ましくは50〜82%、さらに好ましくは52〜80%、さらに一層好ましくは54〜78%である。
【0062】
不織布1の坪量は、好ましくは30〜100g/m
2、さらに好ましくは40〜90g/m
2、さらに一層好ましくは45〜80g/m
2である。坪量が30g/m
2より小さいと保持できる水分量が少なくなり過ぎ、拭き取り性が悪くなる一方、坪量が100g/m
2よりも大きくなると、シートの厚みと剛性が高くなり過ぎ、拭き取り難くなる場合がある。不織布1の坪量のうち親水性繊維含有層11が占める割合は、好ましくは15〜30%、さらに好ましくは18〜27%、さらに一層好ましくは20〜25%である。不織布1の坪量のうち親水性繊維含有層12が占める割合は、好ましくは15〜30%、さらに好ましくは18〜27%、さらに一層好ましくは20〜25%である。不織布1の坪量のうち親水性繊維含有層13が占める割合は、好ましくは40〜70%、さらに好ましくは46〜74%、さらに一層好ましくは50〜60%である。
【0063】
不織布1に液体を含浸させることにより、ウェットワイプスが得られる。かかるウェットワイプスは、使用時(例えば拭き取り時)に生じる摩擦力に耐え得る表面強度を有することができる。また、使用時(例えば拭き取り時)に生じる摩擦力に起因する熱膨張した中空粒子の破壊、脱落等を防止することができる。さらに、嵩高で柔らかい風合いを有するとともに、吸水性、保水性及びこれらに起因する高洗浄性を有することができる。さらに、加温後の温度低下が緩やかであり、加温状態が維持されやすい。したがって、不織布1に液体を含浸してなるウェットワイプスは、特に、おしり拭き等の対人用ウェットワイプスとして、又は温度変化に敏感な乳児、老人用のウェットワイプスとして好適である。
【0064】
不織布1に液体を含浸してなるウェットワイプスは、所定温度に加温されていることが好ましい。所定温度は、通常30〜60℃、好ましくは35〜55℃、さらに好ましくは40〜50℃である。
【0065】
不織布1に含浸させる液体としては、例えば、蒸留水等の水、水とプロピレングリコール、パラベン等の防腐剤との混合液等が挙げられる。不織布1に含浸させる液体の量は、不織布1の水分率が通常200〜580%、好ましくは250〜450%、さらに好ましくは300〜360%となるように調節される。不織布1に液体を含浸させる方法は、例えば、スプレー含浸、浸漬含浸等が挙げられる。
【0066】
ウェットワイプスは、例えば、汚れの拭き取りに使用することができる。この際、ウェットワイプスは、吸収・保持する水による高洗浄性を発揮することができるとともに、柔らかい拭き心地を発揮することができる。また、親水性繊維含有層11及び/又は12がスパンレース処理された層であり、親水性繊維含有層11及び/又は12が、高圧水流が噴射された面が不織布1の表面となるように、不織布1の最外層に設けられている場合、不織布1の表面には、高圧水流噴射により形成された溝部が存在するので、不織布1の表面の凹凸により、汚れを効果的に拭き取ることができる。
【0067】
以下、本発明の不織布の製造方法の一実施形態を説明する。
本実施形態では、
図3に示す不織布製造装置100が使用される。
抄紙原料A(不図示)が原料供給ヘッド111に供給される。原料供給ヘッド111に供給された抄紙原料Aは、原料供給ヘッド111から紙層形成コンベアベルト112上に供給され、紙層形成コンベアベルト112上に堆積する。紙層形成コンベアベルト112は、蒸気が通過可能な通気性を有する支持体であることが好ましく、例えば、ワイヤーメッシュ、毛布等を紙層形成コンベアベルト112として使用することができる。
【0068】
抄紙原料Aは、親水性繊維及び水を含有する。抄紙原料Aは、熱融着性繊維を含有することが好ましい。抄紙原料Aは、例えば、水中に繊維を分散させた繊維懸濁液である。
【0069】
紙層形成コンベアベルト112上に堆積した抄紙原料Aは、吸引ボックス113により適度に脱水され、これにより、紙層131が形成される。紙層131は、その後の処理を経て、親水性繊維含有層11となる。紙層131は、紙層形成コンベアベルト112の上方に配置された2台の高圧水流ノズル114と、紙層形成コンベアベルト112を挟んで高圧水流ノズル114に対向する位置に配置された2台の吸引ボックス113との間を通過する。高圧水流ノズル114は、紙層131に高圧水流を噴射し、吸引ボックス113は、高圧水流ノズル114から噴射された水を吸引して回収する。高圧水流ノズル114から高圧水流が紙層131に噴射されると、紙層131の表面には溝部が形成される。
【0070】
高圧水流ノズル114の一例を
図4に示す。高圧水流ノズル114は、紙層131の幅方向(CD)に並んだ複数の高圧水流141を紙層131に向けて噴射する。噴射により、紙層131の表面には、紙層131の幅方向(CD)に並び、機械方向(MD)に延びる複数の溝部142が形成される。
【0071】
高圧水流ノズル114のノズル孔の一例を
図5に示す。高圧水流ノズル114のノズル孔1141は、例えば、紙層の幅方向(CD)に一列に並んで配置される。ノズル孔1141の孔径は、好ましくは90〜150μmである。ノズル孔1141の孔径が90μmよりも小さいと、ノズルが詰まりやすくなる場合がある一方、ノズル孔1141の孔径が150μmよりも大きいと、処理効率が悪くなる場合がある。
【0072】
ノズル孔1141の孔ピッチ(幅方向(CD)に隣接する孔の中心間の距離)は、好ましくは0.5〜1.0mmである。ノズル孔1141の孔ピッチが0.5mmよりも小さいと、ノズルの耐圧が低下して破損する場合がある一方、ノズル孔1141の孔ピッチが1.0mmよりも大きいと、繊維交絡が不十分となる場合がある。
【0073】
紙層131が高圧水流を受けると、紙層131の繊維同士が交絡し、紙層131の強度が増加する。高圧水流の噴射により紙層131の繊維同士が交絡する原理を、
図6を参照して説明する。しかし、この原理は本発明を限定するものではない。
【0074】
図6に示すように、高圧水流141が高圧水流ノズル114から紙層131に向けて噴射されると、高圧水流141は、紙層131及び紙層形成コンベアベルト112を通過する。この際、紙層131の繊維は、高圧水流141が紙層形成コンベアベルト112を通過する部分1121に向かって引き込まれる。その結果、高圧水流141が紙層形成コンベアベルト112を通過する部分1121に向かって、紙層131の繊維が集まり、繊維同士が交絡することになる。
【0075】
紙層131の繊維同士が交絡することにより、紙層131の強度が増加する。これにより、後の工程で、高圧水蒸気を紙層に噴射しても、紙層に孔が開いたり、紙層が破れたり、吹き飛んだりすることが少なくなる。また、抄紙原料に紙力増強剤を添加しなくても、紙層131の湿潤強度を増加させることができる。
【0076】
高圧水流噴射処理後の紙層131の幅方向の断面図を
図7に示す。
図7に示すように、高圧水流によって紙層131の表面には溝部142が形成される。高圧水流が噴射された面の反対側の面には、紙層形成コンベアベルト112のパターンに対応するパターン(不図示)が形成される。
【0077】
図3に示すように、紙層131は、高圧水流噴射処理の後、紙層搬送コンベアベルト115に転写される。そして、紙層131に、別の紙層132が積層され、積層体151が形成される。
【0078】
紙層132は、次のようにして形成される。回転する円網117が設けられている抄造槽116の中に、抄紙原料B(不図示)が供給される。抄紙原料Bは、親水性繊維、熱膨張性粒子及び水を含有する。抄紙原料Bは、熱融着性繊維を含有することが好ましい。抄紙原料Bは、例えば、水中に繊維及び熱膨張性粒子を分散させた懸濁液である。繊維に対する熱膨張粒子の定着をよくするために、抄紙原料Bは、定着剤を含有することが好ましい。抄紙原料Bは、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性の歩留まり向上剤、サイズ剤等をさらに含んでもよい。
【0079】
抄紙原料Bをシート化することによって紙層132が形成される。例えば、抄造槽116の中に供給された抄紙原料Bを、回転する円網117に吸引することにより、紙層132を円網117上に形成することができる。紙層132は、その後の処理を経て、親水性繊維含有層13となる。
図8を参照して、紙層132を説明する。
図8は、紙層132を説明するための概略図である。
図8に示すように、紙層132では、繊維70の中に熱膨張性粒子60が分散している。
【0080】
円網117上に形成された紙層132は、紙層搬送コンベアベルト115に転写される際、紙層搬送コンベアベルト115上の紙層131に積層されるとともに圧縮され、
図9に示すように、紙層131及び紙層132の積層体151が形成される。
図9は、積層体151の幅方向(CD)の断面図である。
【0081】
図3に示すように、積層体151には、紙層132側の面に別の紙層133が積層され、積層体152が形成される。紙層133は、紙層131と同様にして製造される。原料供給ベッド111に供給される供給される抄紙原料C(不図示)は、親水性繊維及び水を含有する。抄紙原料Cは、熱融着性繊維を含有することが好ましい。抄紙原料Cは、例えば、水中に繊維を分散させた繊維懸濁液である。紙層形成コンベアベルト112上に堆積した抄紙原料Cは、吸引ボックス113により適度に脱水され、これにより、紙層133が形成される。紙層133は、その後の処理を経て、親水性繊維含有層12となる。高圧水流ノズル114から高圧水流が紙層133に噴射されると、紙層133の表面には溝部が形成されるとともに、紙層133の繊維同士が交絡し、紙層133の強度が増加する。
【0082】
紙層搬送コンベアベルト112上に形成された紙層133は、紙層搬送コンベアベルト115に転写される際、紙層搬送コンベアベルト115上の積層体151に積層されるとともに圧縮され、
図10に示すように、紙層131、紙層132及び紙層133の積層体152が形成される。
図10は、積層体152の幅方向(CD)の断面図である。
【0083】
図3に示すように、積層体152は、紙層搬送コンベア118に転写され、次いで、乾燥ドライヤ119に転写される。
【0084】
乾燥ドライヤ119は、積層体152を加熱して乾燥する。乾燥ドライヤ119には、例えば、ヤンキードライヤが用いられる。乾燥ドライヤ119は、回転する円筒状ドライヤを含み、円筒状ドライヤの表面は蒸気等により約110℃に加熱される。乾燥ドライヤ119は、回転する円筒状ドライヤの表面に積層体152を付着させて、積層体152を乾燥する。
【0085】
乾燥ドライヤ119は、積層体152の水分率が、通常10〜80%、好ましくは20〜80%、さらに好ましくは20〜60%となるように、積層体152を乾燥する。ここで、水分率とは、積層体の乾燥質量を100%としたときの積層体に含有される水の量である。積層体152の水分率が10%よりも小さいと、積層体152の繊維間の水素結合力が強くなり、この繊維間の強い水素結合によって後述の高圧水蒸気による積層体152の膨張が妨げられる場合がある一方、積層体152の水分率が80%よりも大きいと、後述の高圧水蒸気により付与される熱の多くが水分の蒸発に使用され、熱膨張性粒子に十分な熱が付与できない場合がある。また、後述の高圧水蒸気によって積層体152を所定の水分率以下に乾燥させるために必要なエネルギーが非常に高くなる場合がある。
【0086】
乾燥ドライヤ119の円筒状ドライヤの表面に積層体152を付着させるとき、積層体152の表面のうち紙層131又は紙層133が設けられている面を乾燥ドライヤ119の円筒状ドライヤの表面に付着させることが好ましい。すなわち、積層体152を加熱して乾燥するときの加熱面は、紙層131側の面又は紙層133側の面であることが好ましい。これにより、乾燥ドライヤ119の熱は、積層体152における紙層131又は紙層133の部分を通過して、熱膨張性粒子が存在する紙層132の部分に到達する。したがって、積層体152における紙層132の部分は過度に熱くならないので、乾燥ドライヤ119によって積層体152が乾燥しているときに、紙層132の部分が過度に乾燥したり、紙層132の部分の中の熱膨張性粒子が膨張したりすることを抑制できる。また、積層体152における紙層131又は紙層133の部分が優先的に乾燥するため、積層体152における紙層131又は紙層133の部分の繊維同士の水素結合が強くなり、紙層131又は紙層133の部分の強度が高くなる。
【0087】
図3に示すように、積層体152は、乾燥ドライヤ119による乾燥後、円筒状のサクションドラム120のメッシュ状の外周面上に移動する。このとき、高圧水蒸気が、サクションドラム120の外周面の上方に配置された1台の蒸気ノズル121から、積層体152に噴射される。サクションドラム120は、吸引装置を内蔵しており、蒸気ノズル121から噴射された水蒸気は吸引装置によって吸引される。蒸気ノズル121から噴射された高圧水蒸気の熱によって、積層体152中の熱膨張性粒子が膨張し、積層体152の嵩が増加する。
【0088】
蒸気ノズル121から噴射される高圧水蒸気は、100%の水からなる水蒸気でもよいし、空気等の他の気体を含んだ水蒸気でもよい。しかし、蒸気ノズル121から噴射される高圧水蒸気は、100%の水からなる水蒸気であることが好ましい。
【0089】
高圧水蒸気の温度は、好ましくは、熱膨張性粒子60の殻61が軟化して熱膨張性粒子60が膨張する温度以上の温度である。また、熱膨張性粒子60は、所定温度以上になると収縮するので、高圧水蒸気の温度は、好ましくは、熱膨張性粒子60が収縮する温度以下の温度である。したがって、高圧水蒸気の温度は、使用される熱膨張性粒子60によって、適宜選択される。例えば、高圧水蒸気の温度は、140〜190℃である。なお、蒸気ノズル121から噴射される高圧水蒸気の温度は、後述の高圧水蒸気の蒸気圧力と相関関係があるので、高圧水蒸気の蒸気圧力を測定することによって高圧水蒸気の温度を測定できる。
【0090】
サクションドラム120の上方に配置された蒸気ノズル121の一例を
図11に示す。蒸気ノズル121は、機械方向(MD)及び積層体152の幅方向(CD)に並んだ複数の高圧水蒸気181を積層体152に向けて噴射する。その結果、積層体152中の熱膨張性粒子が膨張し、積層体152の嵩が増加する。
【0091】
図12は、蒸気ノズル121のノズル孔1211の一例を示す図である。
図12に示す蒸気ノズル121のように、幅方向(CD)に並んだ複数のノズル孔1211のノズル孔列が、機械方向(MD)に6列に並ぶ。
図11では、高圧水蒸気181を見やすくするために、高圧水蒸気181を機械方向(MD)に3列並べたが、実際は6列並ぶ。なお、幅方向(CD)に並んだ複数のノズル孔が、機械方向(MD)に並ぶ列の数は、好ましくは4以上であり、6に限定されない。幅方向(CD)に並んだ複数のノズル孔を、機械方向(MD)に4列以上並べて配置することによって、積層体152の機械方向(MD)の移動速度が速い場合であっても、熱膨張性粒子が膨張するのに十分な熱量を、高圧水蒸気によって積層体152に付与することができる。これにより、不織布の生産効率を高めることができる。複数の高圧水蒸気ノズルを機械方向(MD)に並べて配置することによって、幅方向(CD)に並んだ複数のノズル孔を、機械方向(MD)に4列以上並べて配置するようにしてもよい。
【0092】
蒸気ノズル121のノズル孔の孔径は、好ましくは100〜250μmである。ノズル孔の孔径が100μmよりも小さいと、エネルギーが不足し、熱膨張性粒子を十分に加熱できない場合がある。また、蒸気ノズル121の孔径が250μmよりも大きいと、積層体152に付与されるエネルギーが大き過ぎてしまい、積層体152のダメージが大きくなり過ぎる場合がある。
【0093】
ノズル孔の孔ピッチ(幅方向(CD)に隣接するノズル孔の中心間の距離)は、好ましくは0.5〜1.0mmである。ノズル孔の孔ピッチが0.5mmよりも小さいと、蒸気ノズル121の耐圧が低下し、破損が生じる恐れがある。また、ノズル孔の孔ピッチが1.0mmよりも大きいと、加熱が不十分である領域が積層体152に生じる場合がある。これにより、積層体152に嵩のばらつきが大きくなる場合がある。
【0094】
蒸気ノズル114から噴射される高圧水蒸気の蒸気圧力は、好ましくは0.4〜1.5MPaである。高圧水蒸気の蒸気圧力が0.4MPaよりも小さいと積層体152中の熱膨張性粒子60に高圧水蒸気が十分当たらず、熱膨張性粒子60が十分に加熱されない場合がある。また、高圧水蒸気の蒸気圧力が1.5MPaよりも大きいと、積層体152に孔が開いたり、紙層133が破れたり、及び吹き飛んだりする場合がある。
【0095】
図13は、高圧水蒸気が噴射された積層体152の幅方向(CD)の断面図である。積層体152は、縦方向と、縦方向に交差する横方向と、縦方向及び横方向に対して垂直をなす厚さ方向と、厚さ方向に対して垂直をなす一方の面と、一方の面に対して厚さ方向に対向する他方の面とを有し、縦方向に延在し、横方向に並ぶ複数の溝部142を有し、紙層131を一方の面に備え、紙層133を他方の面に備え、紙層132を紙層131及び紙層133の間に備える。ここで、縦方向は機械方向(MD)(
図10参照)に対応し、横方向は幅方向(CD)に対応する。
【0096】
高圧水蒸気によって熱膨張性粒子が膨張したため、
図10に示す高圧水蒸気を噴射する前の積層体152における紙層132の部分に比べて、高圧水蒸気を噴射した後の積層体152における紙層132の部分は厚くなる。これにより、高圧水蒸気を噴射する前の積層体152と比較して、高圧水蒸気を噴射した後の積層体152の嵩を30%以上高くすることができる。
【0097】
また、積層体152のうち、紙層131及び紙層133の部分は高圧水流が噴射され、強度が強くなっている部分である。一方、紙層132の部分は、熱膨張性粒子が膨張することによって繊維がほぐれ強度が弱くなっているものの、厚さが大きくなっている部分である。このように、積層体152に強度の強い部分131及び133と、強度は弱いが嵩は高い部分132とを形成すことによって、積層体152において強度と嵩高とのバランスをとることができる。すなわち、これにより、嵩高であり、強度が高い積層体152を形成することができる。このためには、紙層132の部分の厚さは、紙層131及び紙層133の部分の厚さの2倍以上であることが好ましい。
【0098】
なお、紙層131と紙層132との間、及び/又は紙層132と紙層133との間に、1以上の他の層を設けてもよい。この場合も、紙層131及び紙層133の部分と紙層132の部分とによって、嵩高であり、強度が高い紙層を形成することができる。
【0099】
不織布の嵩が高くなると、不織布を使用して対象物を拭いたときの不織布の汚れを捕捉する能力が高くなる。したがって、積層体152の非常に高くなった嵩により、不織布の拭き取り性は改善される。また、不織布における水を蓄積するための空間が増えるため、不織布の保水性も向上する。
【0100】
サクションドラム120に内蔵された吸引装置により、積層体152はサクションドラム120に吸引される。サクションドラム120が積層体152を吸引する吸引力は、好ましくは−5〜−12kPaである。サクションドラム120の吸引力が−5kPaよりも小さいと蒸気を吸いきれず吹き上がりが生ずる場合がある。また、サクションドラム120の吸引力が−12kPaよりも大きいとサクション内への繊維脱落が多くなる場合がある。
【0101】
蒸気ノズル121の先端と積層体152の表面との間の距離は、好ましくは1.0〜10mmである。蒸気ノズル121の先端と積層体152の表面との間の距離が1.0mmよりも小さいと、積層体152に孔が開いたり、積層体152が破れたり、吹き飛んだりする場合がある。また、蒸気ノズル121の先端と積層体152の表面との間の距離が10mmよりも大きいと、高圧水蒸気が分散してしまい、積層体152中の熱膨張性粒子に熱を付与する能率が悪くなる場合がある。
【0102】
高圧水蒸気を噴射した後の積層体152の水分率は、好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。高圧水蒸気を噴射した後の積層体152の水分率が40%よりも大きいと、後述の乾燥ドライヤによる乾燥によって積層体152の水分率を5%以下にすることが難しい場合がある。また、後述の乾燥ドライヤの他に、さらに追加の乾燥が必要になり、不織布の製造効率が悪くなる場合がある。
【0103】
その後、
図3に示すように、乾燥ドライヤ122に転写される。乾燥ドライヤ122は、高圧水蒸気を噴射した積層体152を、最終製造物である不織布になるまで乾燥する。乾燥ドライヤ122には、例えば、ヤンキードライヤが用いられる。乾燥ドライヤ122は、蒸気により約150℃に加熱された円筒状ドライヤの表面に積層体152を付着させて、積層体152を乾燥する。
【0104】
乾燥ドライヤ122を通過した後の積層体152は十分に乾燥していることが必要である。具体的には、乾燥ドライヤ122を通過した後の積層体152の水分率は、好ましくは5%以下である。なお、高圧水蒸気を噴射した直後の積層体152の水分率が5%以下である場合、高圧水蒸気を噴射した積層体152を、乾燥ドライヤ122等を使用してさらに乾燥しなくてもよい。
【0105】
乾燥した積層体152(不織布)は、巻き取り機123に巻き取られる。
【0106】
以上のように製造した不織布を所定寸法に裁断することによって、この不織布を乾燥ワイプスとして使用することができる。また、以上のように製造した不織布を所定寸法に裁断し、裁断した不織布に液体を含浸させることによって、この不織布を湿潤ワイプスとして使用することができる。上述したように紙層の嵩が高くなることによって不織布の汚れを捕捉する能力が向上するので、この不織布から作製されたワイプスは、汚れをよく落とすことができる。不織布の紙層131及び/又は紙層133の部分は強度が高いため、不織布の紙層131及び/又は紙層133の部分で対象物を拭き取ることによって、対象物を拭き取ったときに不織布の表面の繊維が脱落することを抑制できる。また、以上のように製造した不織布は、嵩が高いことにより、不織布の肌触りが良好になるので、人間や動物の体を拭くためのワイプスに好適な不織布である。さらに、以上のように作製した不織布は、嵩が高いことにより、多くの水を保持できるので、湿式のワイプスに好適である。
【実施例】
【0107】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0108】
実施例及び比較例で製造した不織布の各種パラメータの測定には、状態調節した不織布を使用した。不織布の状態調節は、乾燥状態にある不織布を、標準状態(温度23±2℃,相対湿度50±5%)において24時間以上保存することにより実施した。乾燥状態にある不織布として、水分率が7〜10%である不織布を使用した。不織布の水分率(%)、嵩密度(g/cm
3)、坪量(g/m
2)、乾燥時厚さ(mm)、湿潤時厚み(mm)、吸水倍率(%)、乾燥時最大引張り強度(N/25mm)及び湿潤時最大引張り強度(N/25mm)の測定は、上記の通り実施した。
【0109】
以下、実施例及び比較例の不織布の製造方法について説明する。
【0110】
[実施例1]
図3に示す不織布製造装置100を使用して、最外層に設けられた親水性繊維含有層11及び12と、親水性繊維含有層11及び12の間に設けられた親水性繊維含有層13とを有する不織布1を製造した。
(1)第1工程
本工程は、親水性繊維含有層11に対応する紙層131を製造する工程である。
繊維材料A及び水を質量比(繊維材料:水)2:98で混合して抄紙原料Aを調製した。繊維材料Aとして、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)59重量%と、レーヨン繊維(ダイワボウレーヨン株式会社製コロナ,繊度1.1dtex,繊維長8mm)40重量%と、ビニロン繊維(株式会社クラレ製VPB103,繊度1.1dtex,繊維長3mm)1重量%とを含む繊維材料を使用した。
原料ヘッド111を使用して紙層形成ベルト112上に抄紙原料Aを供給し、供給された抄紙原料に対して、吸引ボックス113による脱水処理、高圧水流ノズル114による高圧水流の噴射処理(2回)を順次実施した。
具体的な仕様は、以下の通りである。
紙層形成ベルト112:日本フィルコン(株)製OS80
高圧水流ノズル114のノズル孔径:92μm
高圧水流ノズル114のノズル孔の間隔:0.5mm
高圧水流ノズル114のノズル先端と紙層上面との間の距離:10mm
1回の噴射における高圧水流のエネルギー量:0.14230kW/m
2
【0111】
なお、高圧水流のエネルギー量は、次式に基づいて算出される。
エネルギー量(kW/m
2)=1.63×噴射圧力(kg/cm
2)×噴射流量(m
3/分)/処理速度(m/分)/60
また、噴射流量(m
3/分)は、次式に基づいて算出される。
噴射流量(m
3/分)=750×オリフィス開孔総面積(m
2)×噴射圧力(kg/cm
2)
0.495
【0112】
高圧水流の噴射処理を2回実施した後、形成された紙層131を紙層搬送コンベア115に転写した。
【0113】
(2)第2工程
本工程は、親水性繊維含有層13に対応する紙層132を製造し、これを紙層に積層して積層体151を製造する工程である。
繊維材料B及び水を質量比(繊維材料:水)2:98で混合して抄紙原料Bを調製した。繊維材料Bとして、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)73重量%と、熱膨張性粒子(松本油脂製薬株式会社製マツモトマイクロスフィアーF−36,粒径5〜15μm,熱膨張開始温度75〜85℃)20重量%、第1の熱膨張性粒子定着剤(明成化学工業株式会社製ファイレックスRC−104,カチオン変性アクリル系共重合体)3.0重量%、第2の熱膨張性粒子定着剤(明成化学工業株式会社製ファイレックスM,アクリル系共重合体)3.0重量%と、ビニロン繊維(株式会社クラレ製VPB103,繊度1.1dtex,繊維長3mm)1重量%とを含む繊維材料を使用した。
調製した抄紙原料Bを抄造槽116の中に供給し、熱膨張性粒子を繊維に定着させた後、回転する円網117によって抄紙原料Bを吸引して、紙層132を円網17上に形成した。その後、円網117上に形成された紙層132を、紙層搬送コンベア115上の紙層131に積層して積層体151を製造した。
【0114】
(3)第3工程
本工程は、親水性繊維含有層12に対応する紙層133を製造し、これを積層体151の紙層132側に積層し、積層体152を製造する工程である。
繊維材料C及び水を質量比(繊維材料:水)2:98で混合して抄紙原料Cを調製した。繊維材料Cとして、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)59重量%と、レーヨン繊維(ダイワボウレーヨン株式会社製コロナ,繊度1.1dtex,繊維長8mm)40重量%と、ビニロン繊維(株式会社クラレ製VPB103,繊度1.1dtex,繊維長3mm)1重量%とを含む繊維材料を使用した。
原料ヘッド111を使用して紙層形成ベルト112上に抄紙原料Cを供給し、供給された抄紙原料に対して、吸引ボックス113による脱水処理、高圧水流ノズル114による高圧水流の噴射処理(2回)を順次実施した。
具体的な仕様は、第1工程と同様である。
高圧水流の噴射処理を2回実施した後、形成された紙層133を積層体151の紙層132上に積層し、積層体152を製造した。
【0115】
(4)第4工程
積層体152を紙層搬送コンベア118に転写した後、110℃に加熱したヤンキードライヤ119により水分率が60%となるように積層体152を乾燥した。
【0116】
(5)第5工程
乾燥後の積層体152に対して、蒸気ノズル121を使用して高圧水蒸気を紙層133側から噴射した。具体的仕様は以下の通りである。
高圧水蒸気の蒸気圧力:0.7MPa
高圧水蒸気の温度:175℃
蒸気ノズル先端と紙層表面との間の距離:2.0mm
蒸気ノズルの列数:機械方向(MD)に6列
蒸気ノズルのノズル孔径:200μm
蒸気ノズルのノズル孔ピッチ:1.0mm
サクションドラムの吸引力:−5.0kPa
サクションドラムの外周:ステンレス製の18メッシュ開孔スリーブ
【0117】
(6)第6工程
高圧水蒸気の噴射後、150℃に加熱したヤンキードライヤ122により、水分量が5%以下となるように積層体152を乾燥した。
第1〜第6工程を経て製造された積層体152が実施例1の不織布である。
【0118】
[実施例2]
繊維材料Bにおいて、NBKPの含有量を73重量%から63重量%に、熱膨張性粒子の含有量を20重量%から30重量%に変更した点を除き、実施例1と同様にして、不織布を製造した。
【0119】
[実施例3]
繊維材料Bにおいて、NBKPの含有量を73重量%から88重量%に、熱膨張性粒子の含有量を20重量%から5重量%に変更した点を除き、実施例1と同様にして、不織布を製造した。
【0120】
[実施例4]
繊維材料Bにおいて、NBKPの含有量を73重量%から53重量%に、熱膨張性粒子の含有量を20重量%から40重量%に変更した点を除き、実施例1と同様にして、不織布を製造した。
【0121】
[比較例1]
繊維材料Bにおいて、NBKPの含有量を73重量%から99重量%に、熱膨張性粒子の含有量を20重量%から0重量%に、第1及び第2の熱膨張性粒子定着剤の含有量を3.0重量%から0重量%に変更した点を除き、実施例1と同様にして、不織布を製造した。
【0122】
[比較例2]
繊維材料Bにおいて、NBKPの含有量を73重量%から90重量%に、熱膨張性粒子の含有量を20重量%から3重量%に変更した点を除き、実施例1と同様にして、不織布を製造した。
【0123】
実施例1〜4並びに比較例1及び2で製造した不織布の物性は表1に示される。
【0124】
【表1】
【0125】
実施例1〜4並びに比較例1及び2で製造した不織布を加温器(製造元:SANYO,型式:MOV−212F)に入れて40℃に加温した後、加温器から取り出し、不織布の温度の経時的変化を測定した。結果は表2に示される。
【0126】
【表2】
【0127】
親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量が、親水性繊維含有層13の総質量に基準として5質量%以上である実施例1〜4の不織布では、0.10g/cm
3未満という不織布の嵩密度及び350倍以上という不織布の吸水倍率が実現されている。一方、親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量が、親水性繊維含有層13の総質量を基準として5質量%未満である比較例1及び2の不織布では、0.10g/cm
3未満という不織布の嵩密度及び350倍以上という不織布の吸水倍率のいずれも実現されていない。したがって、実施例1〜4の不織布は、比較例1及び2の不織布と比較して、嵩高で柔らかい風合いを有するとともに、吸水性、保水性及びこれらに起因する高洗浄性を有する。
【0128】
親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量が、親水性繊維含有層13の総質量を基準として5質量%以上であるとともに、不織布の嵩密度が0.10g/cm
3未満である実施例1〜4の不織布では、親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量が、親水性繊維含有層13の総質量を基準として5質量%未満であるとともに、不織布の嵩密度が0.10g/cm
3を超える比較例1及び2の不織布と比較して、不織布内に十分な気体(中空粒子内に存在する気体及び不織布の空隙内に存在する気体)が内包されるため、加温後の温度低下が緩やかであり、加温状態が維持されやすい。
【0129】
実施例1〜4の不織布では、0.5mm以上という湿潤時厚みが実現されている。一方、比較例1及び2の不織布では、0.5mm以上という湿潤時厚みが実現されていない。したがって、実施例1〜4の不織布は、比較例1及び2の不織布と比較して、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に、柔らかい使用感(例えば、拭き心地)を実現することができる。
【0130】
したがって、実施例1〜4の不織布は、ウェットワイプス、特に、おしり拭き等の対人用ウェットワイプスとして、又は温度変化に敏感な乳児、老人用のウェットワイプスとして好適である。
【0131】
親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量が増加するほど、不織布の強度は低下する。ウェットワイプスとしての使用中に生じるおそれがある破断を防止するためには、不織布の湿潤時最大引張り強度がMD及びCDの両方において1.5N/25mm以上であることが好ましい点を考慮すると、親水性繊維含有層13に含有される熱膨張した中空粒子の量は、親水性繊維含有層13の総質量を基準として30質量%以下であること(実施例1〜3)が好ましい。したがって、実施例1〜3の不織布は、ウェットワイプスとして使用される際(例えば拭き取り時)に破れにくく、ウェットワイプスとして好適である。