特許第6016788号(P6016788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特許6016788DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途
<>
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000024
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000025
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000026
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000027
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000028
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000029
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000030
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000031
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000032
  • 特許6016788-DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途 図000033
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016788
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】DOCK−Aサブファミリー分子によるRac活性化を制御する低分子化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4152 20060101AFI20161013BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20161013BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20161013BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20161013BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161013BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20161013BHJP
【FI】
   A61K31/4152ZNA
   A61K31/4439
   A61P35/00
   A61P37/06
   A61P43/00 111
   !C12N15/00 G
【請求項の数】12
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2013-515051(P2013-515051)
(86)(22)【出願日】2012年4月17日
(86)【国際出願番号】JP2012060390
(87)【国際公開番号】WO2012157389
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2015年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-109334(P2011-109334)
(32)【優先日】2011年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省 平成22年度科学技術試験研究委託事業「タンパク質構造に立脚したDOCK2シグナル伝達機構の解明と創薬への応用」に関する成果
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 宣規
(72)【発明者】
【氏名】錦見 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】金井 求
(72)【発明者】
【氏名】神田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 貴士
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−534072(JP,A)
【文献】 特開2007−186492(JP,A)
【文献】 特表2009−508809(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/020647(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0176372(US,A1)
【文献】 特表2007−506661(JP,A)
【文献】 Chemistry & Biology, 2012, Vol.19, p.488-497
【文献】 Atreya, Lmke et al.,Rational development of 6-Thio-GTP analogues: A novel class of immunosuppressive drugs for inflammat,Gastroenterology,2007年 4月,Vol. 132, No. 4, Suppl. 2,p. A554
【文献】 Wang, Shuang et al., Transplant Immunology, 2007, Vol. 18, No. 1, p. 53-61
【文献】 Chemistry of Heterocyclic Compounds, 2007, Vol43(9), p.1131-1137
【文献】 Journal of the Serbian Chemical Society, 1992, Vol.57(4), p.221-231
【文献】 Annales Pharmaceutiques Francaises, 1980, Vol.38(5), p.429-438
【文献】 Archiv der Pharmazie und Berichte der Deutschen Pharmazeutischen Gesellschaft, 1965, Vol.298(8), p.516-532
【文献】 Canadian Journal of Chemistry, 1954, Vol.32, p.823-838
【文献】 Journal of Chemical Physics,1950, Vol.18, p.1307-1308
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4152
A61K 31/4439
A61P 35/00
A61P 37/06
A61P 43/00
C12N 15/113
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするRac活性化阻害剤:
【化1】
〔式(1)中、Zはメチン(C-H)または窒素原子(N)、R1は水素原子を示し、Xは下式(2)で示される置換基を意味し:
【化2】
式(2)中、nは0〜2の整数であって、
nが1〜2の整数である場合、2水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数1〜4のアルキル基を示し、
nが0である場合、R2は6員環のオルト位に位置する塩素原子を示す。〕。
【請求項2】
上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、nが1〜2の整数であって、2が水素原子、ハロゲン原子、水酸基、またはメチル基である化合物である、請求項1に記載するRac活性化阻害剤。
【請求項3】
上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、nが1である化合物である、請求項1または2に記載するRac活性化阻害剤。
【請求項4】
上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、Zがメチンである化合物である、請求項1乃至のいずれかに記載するRac活性化阻害剤。
【請求項5】
一般式(1)で示されるピラゾリジンジオン誘導体が、下記(a)〜(p)からなる群から選択される少なくとも1つであるRac活性化阻害剤:
(a)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(b)4-[3-(2-クロロフェニル)プロピル]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(c)4‐[(2‐クロロフェニル)メチリデン]‐1‐フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(d)4‐[5-(2-クロロフェニル)ペンタ‐2,4-ジエニリデン]-1-フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(e)4-(3-フェニルアリリデン)-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(f)4-[3-(2-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(g)4-[3-(2-フルオロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(h)4-[3-(2-ブロモフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(i)4-[3-(2-メチルフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(j)4-[3-(3-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(k)4-[3-(4-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(l)4-[3-(3-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(m)4-[3-(4-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(n)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(o)4-(3-フェニルアリリデン)-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(p)(Z)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれかに記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする、Rac活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項7】
上記Rac活性化が、DOCK2、DOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化である、請求項に記載する医薬組成物。
【請求項8】
上記疾患または病態が、DOCK2を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である、請求項またはに記載する医薬組成物。
【請求項9】
上記疾患または病態が、免疫関連疾患、または生体移植に対する拒絶反応である、請求項に記載する医薬組成物。
【請求項10】
上記医薬組成物が免疫抑制剤である、請求項に記載する医薬組成物。
【請求項11】
上記疾患または病態が、DOCK180またはDOCK 5を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である、請求項またはに記載する医薬組成物。
【請求項12】
上記疾患または病態が悪性腫瘍である、請求項11に記載する医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDOCK-Aサブファミリーに属するDOCK2、DOCK180、またはDOCK5を介したRacの活性化を抑制する作用を有する低分子化合物の用途、詳細には、DOCK2、DOCK180、またはDOCK5とRacとの会合を阻害し、Racの活性化を阻止する作用を有するピラゾリジンジオン誘導体の新規医薬用途に関する。より詳細には、本発明は、当該ピラゾリジンジオン誘導体の、自己免疫疾患などの各種免疫関連疾患の予防または治療剤、免疫抑制剤、並びに抗癌剤としての医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫応答は生体防御に必須であるが、一方免疫応答は、自己免疫疾患やアレルギー疾患といった免疫関連疾患を引き起こしたり、また移植時に拒絶反応を引き起こす原因となる。このような不適切な免疫応答は、リンパ球などの免疫細胞が標的組織に浸潤し、活性化されることによって引き起こされる。このため、細胞内のタンパク質の構造と機能に基づいて、免疫細胞の運動や活性化を制御することができれば、自己免疫疾患や拒絶反応の治療や予防に役立つと考えられる。一方、「がん」が「がん」たる所以は、その浸潤能や転移能にあると言っても過言ではない。転移の有無が、がんの予後を規定する重要な因子のひとつとなっていることを考慮すると、がん細胞の運動や浸潤、接着を制御することは、「次世代のがん治療」において重要な意味を持つと考えられる。
【0003】
免疫応答には、ケモカイン刺激によるリンパ球遊走、T細胞受容体(TCR)による主要組織適合抗原(MHC)に結合した同種または自己ペプチドの認識、副刺激分子や接着分子のリガンドとの相互作用、及びリンパ球の増殖や組織破壊の鍵となるサイトカイン放出といった、分子間の相互作用に起因する細胞内シグナル伝達経路の活性化と細胞応答からなる複雑なカスケードが関与している。従来は、TCRシグナル経路が創薬のターゲットとされており、その結果、カルシニューリン阻害剤(calcineurin inhibitor)であるサイクロスポリン及びFK560等といった薬剤が、移植片拒絶を抑制するのに有効な免疫抑制剤として開発されている。最近では、スフィンゴシン 1-リン酸受容体の機能的アンタゴニストであるFTY720が、胸腺や2次リンパ系組織から成熟リンパ球の移出を阻害する新規な免疫抑制剤として開発された。
【0004】
リンパ球の遊走を始めとする細胞の運動には、細胞極性の変化と細胞骨格の再構築が必須であり(例えば、非特許文献1等参照)、これらはいずれもRho、Rac、Cdc42といった低分子Gタンパク質(GTPase)によって制御されていることが知られている(例えば、非特許文献2〜5等参照)。この中でも特にRacは、葉状突起と呼ばれるアクチンに富んだ突起を形成することで細胞運動の際の駆動力を提供している(非特許文献3及び6参照)。このため、免疫細胞特異的にRacの活性化を抑制することができれば、新しい機能に基づく免疫抑制剤が創薬できると期待される。また、Racの活性化は、乳がん、グリオーマ、白血病等、多くのがんにおいて悪性化と相関することが知られており、がん治療においても重要なターゲットとなる。しかしながら、Rac自身は3つのアイソフォームからなり、またユビキタスに発現する分子であるため、創薬のターゲットとするには不適切である。
【0005】
線虫、ヒト、及びショウジョウバエにおいて、CED5、DOCK180、Myoblast city(MBC)という構造上相同性を示す分子が同定されている。これらの分子は頭文字をとってCDMファミリー分子と称されており、いずれもRacの上流で機能することで細胞骨格の再構築に関与すると考えられている(例えば、非特許文献7〜12参照)。DOCK2は、ヒトやマウスにおいて造血細胞等の免疫細胞に特異的に発現するCDMファミリー分子の一員であり(非特許文献13)、SH3ドメイン、DHR-1ドメイン及びDHR-2ドメインを有する約1830個(ヒト:1831個、マウス1828個)のアミノ酸から構成されている。本発明者らは、当該DOCK2を欠損させたノックアウトマウスを作製することで、この分子(DOCK2)がリンパ球の遊走に不可欠であることを明らかにしている(非特許文献14参照)。さらにDOCK2欠損リンパ球では種々のケモカインで刺激しても活性型Racは検出できないことから、DOCK2はRacの活性化に不可欠であり、DOCK2はRacの活性化に介してリンパ球の遊走を制御していると考えられる。ちなみに、Racは、GDPが結合している時は「不活性型」、GTPが結合している時は「活性型」となり、GDP/GTP交換反応によりシグナル伝達において「分子スイッチ」として機能する。DOCK2は、そのDHR-2ドメインを介してRacと会合し、GTP/GDP交換反応を触媒していると考えられている。
【0006】
また、DOCK180はグリオブラストーマやその他のがんにおいて、浸潤や悪性化に関与していることが知られている(非特許文献15〜19参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-177226号公報
【特許文献2】特開2004-226418号公報
【特許文献3】特表2004-534072号公報
【特許文献4】特表2007-506661号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cell 84, 359-369, 1996
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 5027-5031, 1995
【非特許文献3】Science 279, 509-514 1998
【非特許文献4】J. Cell Biol. 141, 1147-1157, 1998
【非特許文献5】Science 287, 1037-1040, 2000
【非特許文献6】Cell 103, 227-238, 2000
【非特許文献7】Mol. Cell. Biol. 16, 1770-1776, 1996
【非特許文献8】J. Cell Biol. 138, 589-603, 1997
【非特許文献9】Nature 392, 501-504, 1998
【非特許文献10】Genes Dev. 12, 3331-3336, 1998
【非特許文献11】Genes Dev. 12, 3337-3342, 1998
【非特許文献12】Nature Cell Biol. 2, 131-136, 2000
【非特許文献13】DNA Res. 3, 321-329
【非特許文献14】Nature, 412, 826-831, 2001
【非特許文献15】Cancer Res. 67: 7203-7211, 2007
【非特許文献16】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109: 3018-3023, 2012
【非特許文献17】J Clin Invest. 121:4670-4684, 2011
【非特許文献18】Histopathology. 59:1163-1172, 2011
【非特許文献19】Tumour Biol. 31:59-67, 2010
【非特許文献20】Immunity, 19, 119-129, 2003
【非特許文献21】J. Cell Biol. 174, 647-652, 2006
【非特許文献22】Blood, 111, 2973-2976, 2008
【非特許文献23】J. Exp. Med. 207, 721-730, 2010
【非特許文献24】J. Exp. Med. 202, 1121-1130, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述するDOCK2、DOCK180、またはDOCK5を標的とし、DOCK2、DOCK180、またはDOCK5を介したRacの活性化を抑制することによって、当該Rac活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態を予防または治療するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【0010】
その一態様として、本発明は、DOCK2を標的とし、DOCK2を介したRacの活性化を抑制することによって免疫応答を制御する機能を備えた、従来の免疫抑制剤とは異なる作用機序に基づく医薬組成物を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、移植医療において移植片拒絶を抑制するために有効な免疫抑制剤、並びに過剰な免疫応答によって生じる自己免疫疾患やアレルギー疾患等の免疫関連疾患を予防または治療するために有効な薬剤を提供することを目的とする。
【0011】
また他の態様として、本発明は、DOCK180またはDOCK5を標的とし、DOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化を抑制することによって、がん細胞の浸潤、遊走、及び足場非依存的な増殖を抑制する作用を備えた、抗がん剤として有用な医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、今までDOCK2がリンパ球、好中球および形質細胞様樹状細胞(pDC)の遊走や活性化に重要なRacを活性化させる分子であることを実証するとともに(非特許文献20〜24参照)、DOCK2を欠損させたノックアウトマウスに心臓移植を行ったところ、免疫抑制剤を投与しなくても移植片拒絶が抑制でき、同種移植心臓が長期にわたり生着できること、またDOCK2の欠損により自己免疫疾患の発症をブロックできることを確認した(実験例1参照)。かかる知見から、DOCK2は免疫関連疾患を予防または治療する薬剤を開発するうえで、また免疫抑制剤を開発するうえで、格好の分子標的になると考えられる。
【0013】
そこで、本発明者らは、DOCK2の全長またはそのDHR-2ドメインを哺乳類細胞または大腸菌で発現させ、DOCK2により活性化されたGTP結合型Racを検出するアッセイ系を用いて、DOCK2によるRacの活性化を抑制するリード化合物を取得し、当該リード化合物が、リンパ球や好中球の遊走や活性化をin vitroで抑制すること、さらに自己免疫モデル動物を用いたin vivo試験において、当該モデル動物の自己免疫疾患の発症を有意に抑制できることを確認した。さらに、かかるリード化合物との構造相関から、当該リード化合物と類似の構造を有し、かつリード化合物と同様にRac活性化を抑制する作用を有するアナログを開発した。
【0014】
かかる本発明が対象とする一連の化合物は、特許文献3及び4に記載されているピラゾリジンジオン誘導体と一部共通するものの、従来、ピラゾリジンジオン誘導体に、DOCK2を介した免疫細胞におけるRacの活性化を抑制する作用があることは勿論、不適切な免疫応答を抑制する作用があることについては知られていない。
【0015】
さらに本発明者らは、上記作用を有する一連の化合物に、DOCK2のみならず、さらにDOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化を抑制する作用、特にDOCK180及びDOCK5のGEF活性を阻害する作用があり、がん細胞の浸潤、遊走、足場非依存的な増殖を抑制することを見出した。
【0016】
本発明は、これらの研究で得られた知見の積み重ねにより開発されたものであり、下記の態様のものが含まれる。
【0017】
(I)Rac活性化阻害剤
(I-1).一般式(1)で表されるピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするRac活性化阻害剤:
【0018】
【化1】
【0019】
〔式中、Zはメチン(C-H)または窒素原子(N)を示し、Xは下式(2)で示される置換基を意味し:
【0020】
【化2】
【0021】
1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0〜2の整数を意味する。〕。
【0022】
(I-2)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、R1が水素原子である化合物である、(I-1)に記載するRac活性化阻害剤。
【0023】
(I-3)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、R2が水素原子、ハロゲン原子、水酸基、またはメチル基である化合物である、(I-1)または(I-2)に記載するRac活性化阻害剤。
【0024】
(I-4)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、nが1である化合物である、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するRac活性化阻害剤。
【0025】
(I-5)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、Zがメチンである化合物である、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載するRac活性化阻害剤。
【0026】
(I-6).一般式(1)で示されるピラゾリジンジオン誘導体が、下記(a)〜(p)からなる群から選択される少なくとも1つである、(I-1)に記載するRac活性化阻害剤:
(a)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(b)4-[3-(2-クロロフェニル)プロピル]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(c)4‐[(2‐クロロフェニル)メチリデン]‐1‐フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(d)4‐[5-(2-クロロフェニル)ペンタ‐2,4-ジエニリデン]-1-フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(e)4-(3-フェニルアリリデン)-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(f)4-[3-(2-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(g)4-[3-(2-フルオロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(h)4-[3-(2-ブロモフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(i)4-[3-(2-メチルフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(j)4-[3-(3-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(k)4-[3-(4-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(l)4-[3-(3-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(m)4-[3-(4-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(n)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(o)4-(3-フェニルアリリデン)-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(p)(Z)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン。
【0027】
なお、本発明のRac活性化阻害剤は、DOCK2、DOCK180またはDOCK5によるRac活性化を阻害する作用を有するとともに、後述する試験例4及び9に示すようにDOCK2、DOCK180またはDOCK5のGEF活性を阻害する作用を有することから、DOCK2阻害剤、DOCK180阻害剤、またはDOCK5阻害剤、ということもできる。
【0028】
(II)Rac活性化に関連する疾患または病態を予防または治療するための医薬組成物
(II-1)(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする、Rac活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態を予防または治療するための医薬組成物。(II-2)上記Rac活性化が、DOCK2、DOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化である、(II-1)に記載する医薬組成物。
【0029】
(II-3)上記疾患または病態が、DOCK2を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である(II-1)または(II-2)に記載する医薬組成物。
【0030】
(II-4)上記疾患または病態が、免疫関連疾患、または生体移植に対する拒絶反応である、(II-3)に記載する医薬組成物。
【0031】
(II-5)上記医薬組成物が免疫抑制剤である(II-4)に記載する医薬組成物。
【0032】
(II-6)上記疾患または病態が、DOCK180またはDOCK 5を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である(II-1)または(II-2)に記載する医薬組成物。
【0033】
(II-7)上記疾患または病態が、悪性腫瘍である(II-6)に記載する医薬組成物。
【0034】
(II-8)上記悪性腫瘍が固形がんである(II-7)に記載する医薬組成物。
【0035】
(II-9)上記医薬組成物が抗がん剤である(II-7)または(II-8)に記載する医薬組成物。
【0036】
(III)Rac活性化に関連する疾患または病態を予防または治療する方法
(III-1)一般式(1):
【0037】
【化3】
【0038】
〔式中、Zはメチン(C-H)または窒素原子(N)を示し、Xは下式(2)で示される置換基を意味し:
【0039】
【化4】
【0040】
1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0〜2の整数を意味する。〕
で表されるピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩を、Rac活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態に罹患しているか、その罹患する可能性のある患者に投与する工程を有する、
Rac活性化に関連する疾患または病態を予防または治療する方法。
【0041】
(III-2)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、R1が水素原子である化合物である、(III-1)に記載する方法。
【0042】
(III-3)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、R2が水素原子、ハロゲン原子、水酸基、またはメチル基である化合物である、(III-1)または(III-2)に記載する方法。
【0043】
(III-4)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、nが1である化合物である、(III-1)乃至(III-3)のいずれかに記載する方法。
【0044】
(III-5)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、Zがメチンである化合物である、(III-1)乃至(III-4)のいずれかに記載する方法。
【0045】
(III-6).一般式(1)で示されるピラゾリジンジオン誘導体が、下記(a)〜(p)からなる群から選択される少なくとも1つである、(III-1)に記載する方法:
(a)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(b)4-[3-(2-クロロフェニル)プロピル]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(c)4‐[(2‐クロロフェニル)メチリデン]‐1‐フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(d)4‐[5-(2-クロロフェニル)ペンタ‐2,4-ジエニリデン]-1-フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(e)4-(3-フェニルアリリデン)-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(f)4-[3-(2-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(g)4-[3-(2-フルオロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(h)4-[3-(2-ブロモフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(i)4-[3-(2-メチルフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(j)4-[3-(3-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(k)4-[3-(4-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(l)4-[3-(3-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(m)4-[3-(4-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(n)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(o)4-(3-フェニルアリリデン)-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(p)(Z)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン。
【0046】
(III-7)上記Rac活性化が、DOCK2、DOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化である、(III-1)乃至(III-6)のいずれかに記載する方法。
【0047】
(III-8)上記疾患または病態が、DOCK2を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である(III-1)乃至(III-6)のいずれかに記載する方法。
【0048】
(III-9)上記疾患または病態が、免疫関連疾患、または生体移植に対する拒絶反応である、(III-8)に記載する方法。
【0049】
(III-10)免疫抑制方法である(III-9)に記載する方法。
【0050】
(III-11)上記疾患または病態が、DOCK180またはDOCK 5を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である(III-1)乃至(III-6)のいずれかに記載する方法。
【0051】
(III-12)上記疾患または病態が、悪性腫瘍である(III-11)に記載する方法。
【0052】
(III-13)上記悪性腫瘍が固形がんである(III-12)に記載する方法。
【0053】
(III-14)抗がん療法である(III-12)または(III-13)に記載する方法。
【0054】
(IV)ピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩の用途
(IV-1)Rac活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態に罹患しているか、その罹患する可能性のある患者について、当該疾患または病態を予防または治療するために使用される、一般式(1):
【0055】
【化5】
【0056】
〔式中、Zはメチン(C-H)または窒素原子(N)を示し、Xは下式(2)で示される置換基を意味し:
【0057】
【化6】
【0058】
1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0〜2の整数を意味する。〕
で表されるピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0059】
(IV-2)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、R1が水素原子である化合物である、(IV-1)に記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0060】
(IV-3)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、R2が水素原子、ハロゲン原子、水酸基、またはメチル基である化合物である、(IV-1)または(IV-2)に記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0061】
(IV-4)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、nが1である化合物である、(IV-1)乃至(IV-3)のいずれかに記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0062】
(IV-5)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、Zがメチンである化合物である、(IV-1)乃至(IV-4)のいずれかに記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0063】
(IV-6).一般式(1)で示されるピラゾリジンジオン誘導体が、下記(a)〜(p)からなる群から選択される少なくとも1つである、(IV-1)に記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩:
(a)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(b)4-[3-(2-クロロフェニル)プロピル]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(c)4‐[(2‐クロロフェニル)メチリデン]‐1‐フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(d)4‐[5-(2-クロロフェニル)ペンタ‐2,4-ジエニリデン]-1-フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(e)4-(3-フェニルアリリデン)-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(f)4-[3-(2-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(g)4-[3-(2-フルオロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(h)4-[3-(2-ブロモフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(i)4-[3-(2-メチルフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(j)4-[3-(3-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(k)4-[3-(4-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(l)4-[3-(3-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(m)4-[3-(4-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(n)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(o)4-(3-フェニルアリリデン)-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(p)(Z)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン。
【0064】
(IV-7)上記Rac活性化が、DOCK2、DOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化である、(IV-1)乃至(IV-6)のいずれかに記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0065】
(IV-8)上記疾患または病態が、DOCK2を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である(IV-1)乃至(IV-6)のいずれかに記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0066】
(IV-9)上記疾患または病態が、免疫関連疾患、または生体移植に対する拒絶反応である、(IV-8)に記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0067】
(IV-10)上記疾患または病態が、DOCK180またはDOCK 5を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である(IV-1)乃至(IV-6)のいずれかに記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0068】
(IV-11)上記疾患または病態が、悪性腫瘍である(IV-10)に記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0069】
(IV-12)上記悪性腫瘍が固形がんである(IV-11)に記載するピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【0070】
(V)ピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩の医薬組成物調製のための使用
(V-1)Rac活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態を予防または治療するための医薬組成物の製造のための、一般式(1):
【0071】
【化7】
【0072】
〔式中、Zはメチン(C-H)または窒素原子(N)を示し、Xは下式(2)で示される置換基を意味し:
【0073】
【化8】
【0074】
1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0〜2の整数を意味する。〕
で表されるピラゾリジンジオン誘導体またはその薬学的に許容される塩の使用。
【0075】
(V-2)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、R1が水素原子である化合物である、(V-1)に記載する使用。
【0076】
(V-3)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、R2が水素原子、ハロゲン原子、水酸基、またはメチル基である化合物である、(V-1)または(V-2)に記載する使用。
【0077】
(V-4)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、式(2)中、nが1である化合物である、(V-1)乃至(V-3)のいずれかに記載する使用。
【0078】
(V-5)上記ピラゾリジンジオン誘導体が、一般式(1)中、Zがメチンである化合物である、(V-1)乃至(V-4)のいずれかに記載する使用。
【0079】
(V-6)一般式(1)で示されるピラゾリジンジオン誘導体が、下記(a)〜(p)からなる群から選択される少なくとも1つである、(V-1)に記載する使用:
(a)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(b)4-[3-(2-クロロフェニル)プロピル]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(c)4‐[(2‐クロロフェニル)メチリデン]‐1‐フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(d)4‐[5-(2-クロロフェニル)ペンタ‐2,4-ジエニリデン]-1-フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン
(e)4-(3-フェニルアリリデン)-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(f)4-[3-(2-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(g)4-[3-(2-フルオロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(h)4-[3-(2-ブロモフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(i)4-[3-(2-メチルフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(j)4-[3-(3-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(k)4-[3-(4-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(l)4-[3-(3-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(m)4-[3-(4-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン
(n)4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(o)4-(3-フェニルアリリデン)-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン
(p)(Z)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン。
【0080】
(V-7)上記Rac活性化が、DOCK2、DOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化である、(V-1)乃至(V-6)のいずれかに記載する使用。
【0081】
(V-8)上記疾患または病態が、DOCK2を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である(V-1)乃至(V-6)のいずれかに記載する使用。
【0082】
(V-9)上記疾患または病態が、免疫関連疾患、または生体移植に対する拒絶反応である、(V-8)に記載する使用。
【0083】
(V-10)上記疾患または病態が、DOCK180またはDOCK 5を介したRacの活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態である(V-1)乃至(V-6)のいずれかに記載する使用。
【0084】
(V-11)上記疾患または病態が、悪性腫瘍である(V-10)に記載する使用。
【0085】
(V-12)上記悪性腫瘍が固形がんである(IV-11)に記載する使用。
【発明の効果】
【0086】
本発明の化合物(1)は、後述する試験例で示すようにDOCK2とRacとの会合を阻害することにより、免疫反応に必要不可欠な免疫細胞におけるRacの活性化を阻害する作用(Rac活性化阻害作用)を有している。このため、本発明の化合物(1)は、リンパ球などの免疫細胞の遊走を阻止し、不適切な免疫反応(例えば、自己免疫疾患やアレルギー疾患などの過剰な免疫反応、並びに同種移植片拒絶反応など)を抑制することが可能である。従って、本発明の化合物(1)は、in vitro及びin vivoにおいて、免疫細胞におけるDOCK2を介したRacの活性化を阻害するために使用されるRac活性化阻害剤の有効成分として、また自己免疫疾患やアレルギー疾患などの免疫関連疾患の予防または治療剤の有効成分として、さらに免疫抑制剤の有効成分として有用である。
【0087】
また本発明の化合物(1)は、後述する試験例で示すようにDOCK180またはDOCK5とRacとの会合を阻害することにより、がん細胞におけるRacの活性化を阻害する作用(Rac活性化阻害作用)、特にDOCK180及びDOCK5のGEF活性を阻害する作用を有している。このため、本発明の化合物(1)は、がん細胞の浸潤、遊走、並びに足場非依存的な増殖を阻止することにより、がん細胞の増殖及び転移を抑制することが可能である。従って、本発明の化合物(1)は、in vitro及びin vivoにおいて、がん細胞におけるDOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化を阻害するために使用されるRac活性化阻害剤の有効成分として、また悪性腫瘍の予防または治療剤(抗がん剤)の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
図1】DOCK2のドメイン構造とRacを活性化する機序を示す概略図である。
図2】試験例1の試験結果を示す。(A)の上段の画像は、DOCK2を発現したマウス(ここではWTと記載)とDOCK2欠損マウス(DOCK2-/-)に、同種心臓を移植し、その移植心臓の切片をヘマトキシリン・エオジン染色して観察した組織画像を示す。(A)の下段の数値は、各マウスの移植心臓の生着日数を、単独ではほとんど効果のない量(3.2 mg/kg/day)のFK506を移植後10日間投与した場合(FK506(+))と投与しなかった場合(FK506(−))とで対比したものである。(B)の上段は、自己免疫性糖尿病モデルマウスであるNODを対象に、DOCK2を発現した場合(DOCK2+/-)とDOCK2を発現しない場合(DOCK2-/-)について、糖尿病の発症率(上左図)と膵島炎の発症率(上右図)を対比したものである。(B)の下段の画像では、各マウス(DOCK2+/-とDOCK2-/-)の膵臓切片をヘマトキシリン・エオジン染色して観察した組織画像を示す。
図3】試験例3の試験結果を示す。(A)は、大腸菌で発現させたTrigger factor(TF)融合DOCK2-DHR-2およびTiam1 DH-PHを化合物6の存在下で処理した後、GST融合Rac1を結合したビーズを加え、4℃で1時間反応させ、SDS-PAGEにて結合を調べた結果を示す。(B)は、DOCK2、Tiam1または Trio(DH-D1/PH-D1ドメイン)を導入したHEK293T細胞において、化合物6がDOCK2によるRac活性化を選択的に阻害することを示す。
図4】試験例4の結果を示す。(A)はDOCK2, DOCK180, DOCK5のGEF活性阻害効果を示す。また(B)は、化合物6がDOCK2-DHR2かRac1のいずれと会合するかについて、STD-NMR法により調べた結果を示す。
図5】試験例5の結果を示す。(A)は、ケモカインによって誘導される免疫細胞(T細胞、B細胞)におけるRac活性化が、化合物6の存在により阻害されることを示す。(B)は、ケモカインによって誘導される免疫細胞(T細胞、B細胞)の遊走応答が、化合物6により用量依存的に阻害されることを示す。
図6】試験例6の結果を示す。(A)は、TCRに対する刺激で誘導されるRac活性化が、化合物6の存在により阻害されることを示す。(B)は、化合物6の存在により、混合リンパ球反応が用量依存的に阻害されることを示す。
図7】試験例7の結果を示す。(A)はTLR9のリガンドであるCpGで誘導される形質細胞様樹状細胞(pDC)のRac活性化が、化合物6の存在により阻害されることを示す。(B)は、化合物6の存在により、CpGに応答したINF-αの産生は用量依存的に阻害されるものの、IL-12の産生は阻害されないことを示す。
図8】試験例8の実験手法とその結果を示す。化合物6の投与により、自己免疫脳脊髄炎の臨床スコア(左図)ならびに自己免疫脳脊髄炎の発症率(右図)が顕著に改善することを示している。
図9】試験例9の結果を示す。(A)はグリア芽腫細胞株(LN-229株)および肺がん細胞株(3LL)の細胞外マトリクスへの浸潤が化合物6の存在により阻害されることを示す。(B)は、化合物6の存在により、LN229株の遊走が阻害されることを示す。(C)は、化合物6の存在により、3LL株の遊走が阻害されることを示す。
図10】試験例10の結果を示す。3LL株の足場非依存的な増殖が、化合物6の存在により阻害されることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0089】
(I)ピラゾリジンジオン誘導体またその薬学的に許容される塩
本発明が対象とするRac活性化阻害剤、並びにRac活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態を予防または治療するための医薬組成物(以下、これを単に「医薬組成物」ともいう)は、いずれもDOCK2、DOCK180またはDOCK5を介したRacの活性化を阻害する作用を有する下記一般式(1)で表されるピラゾリジンジオン誘導体またその薬学的に許容される塩(以下、これらを総称して「本発明の化合物」という)を有効成分とする:
【0090】
【化9】
【0091】
〔式中、Zはメチン(C-H)または窒素原子(N)を示し、Xは下式(2)で示される置換基を意味し:
【0092】
【化10】
【0093】
1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0〜2の整数を意味する。〕。
【0094】
一般式(1)及び式(2)中、RまたはRとして表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等の炭素数1〜4のアルキル基を挙げることができる。好ましくは炭素数1〜2のメチル基及びエチル基、より好ましくはメチル基を挙げることができる。
【0095】
一般式(1)及び式(2)中、RまたはRとして表されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を挙げることができる。特に制限されないが、好ましくは塩素原子及びフッ素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
【0096】
一般式(1)及び式(2)において、R及びRの六員環における位置は、メタ位、オルト位、パラ位のいずれでもよいが、好ましくはオルト位である。
【0097】
なお、Rとして好ましい置換基は水素原子であり、Rとして好ましい置換基は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、またはメチル基;より好ましくはハロゲン原子であり、なかでも塩素原子が好適である。
【0098】
一般式(1)及び式(2)において、nは0、1及び2のいずれの整数であってもよいが、好ましくは1または2の整数、より好ましくは1の整数である。
【0099】
一般式(1)及び式(2)中、実線と破線からなる二重線は、飽和結合(一重結合)と不飽和結合(二重結合)の両方を意味する。つまり、隣接する炭素同士が飽和結合で結合していてもよいし、また不飽和結合により結合していてもよい。但し、nが1または2の場合、一方の炭素同士が飽和結合であれば、残りの炭素同士も飽和結合であり、また一方の炭素同士が不飽和結合であれば、残りの炭素同士も不飽和結合であることが好ましい。
【0100】
本発明の化合物(1)には、下式(1-1)及び(1-2)で示される互変異性体も含まれる:
【0101】
【化11】
【0102】
(式中、Z、X、及びRは前記と同じ。)
さらに本発明の化合物(1)には幾何異性体が含まれ、具体的にはシス異性体、トランス異性体、またはこれらの混合物の状態であってもよいが、好ましくはシス異性体である。幾何異性体と互変異性体を考慮すると本発明の化合物(1)は、下記の状態で存在していてもよい。
【0103】
【化12】
【0104】
(式中、Z、X、及びRは前記と同じ。)
さらに本発明の化合物(1)には立体異性体も含まれ、具体的には光学的に純粋なエナンチオマー、エナンチオマー混合物、ラセミ体、エナンチオマー的に純粋なジアステレオマー、ジアステレオマー混合物、エピマーの状態であってもよい。
【0105】
このような異性体は、当業者に公知の方法により調製取得することができる。例えばキラルシントン若しくはキラル試薬を用いて立体化学的に制御された合成により、またクロマトグラフィー法、若しくは結晶化法などの古典的分離手段によって、またはその他の公知の方法、例えばエナンチオマー的に純粋なキラル酸との塩形成によるジアステレオマー塩の形成を介して、あるいは、例えばキラルリガンド変性クロマトグラフ材料を使用したクロマトグラフィーによって得ることができる。
【0106】
一般式(1)で示されるピラゾリジンジオン誘導体は、薬学的に許容される塩の形で用いることができる。本発明において「薬学的に許容される塩」とは、親化合物(塩フリーの化合物)の生物学的有効性を備えており、生物学的に無毒性か、若しくは生物学的に毒性の低い無機または有機の酸または塩基の付加塩を意味する。
【0107】
本発明のある種の化合物は、アミノ基等の塩基性官能基を含み、このため薬学的に許容される酸付加塩を形成することができる。このような酸付加塩は、適当な溶媒中、式(1)で示される親化合物と、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸;酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、デカン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、安息香酸、桂皮酸、サリチル酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸と反応させることによって調製することができる。
【0108】
また本発明のある種の化合物は、水酸基等の酸性官能基を含むことができ、このため薬学的に許容される塩基付加塩を形成することができる。このような塩基付加塩としては、アンモニウム塩;ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩やカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;または亜鉛塩などを挙げることができる。有機塩から導かれる塩としては、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、リシン、アルギニン、N−エチルピペリジン、ピペリジンなどの第一級、第二級および第三級アミン類、置換アミン類、及び環状アミン類等を例示することができる。
【0109】
さらに本発明の化合物(1)は、溶媒和、例えば水和された状態であってもよいし、また溶媒和されていない状態であってもよい。さらに異なる結晶状態のものが混在したものであってもよい。
【0110】
一般式(1)で表されるピラゾリジンジオン誘導体の具体例として、4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例1:化合物6)、4-[3-(2-クロロフェニル)プロピル]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例1:化合物5)、4‐[(2‐クロロフェニル)メチリデン]‐1‐フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン(製造例3:化合物7)、4‐[5-(2-クロロフェニル)ペンタ‐2,4-ジエニリデン]-1-フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン(製造例4:化合物8)、4-(3-フェニルアリリデン)-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例5:化合物9)、4-[3-(2-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例6:化合物10)、4-[3-(2-フルオロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例7:化合物11)、4-[3-(2-ブロモフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例8:化合物12)、4-[3-(2-メチルフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例9:化合物13)、4-[3-(3-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例10:化合物14)、4-[3-(4-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例11:化合物15)、4-[3-(3-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例12:化合物16)、4-[3-(4-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例13:化合物17)、4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例14:化合物18)、4-(3-フェニルアリリデン)-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例15:化合物19)、(Z)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(製造例2:化合物20)を挙げることができる。好ましくは化合物6、7、8、10、14、15、16、17、18、19、及び20であり、より好ましくは化合物6、7、及び20である。
【0111】
本発明のピラゾリジンジオン誘導体(1)は、制限はされないが、例えば特許文献3及び4に記載されている公知の方法、あるいはそれを適切に変更した方法に従って製造することができる。
【0112】
具体的には、下記反応式1に示すように、本発明のピラゾリジンジオン誘導体(1)は、式(I)で示されるピラゾリジンジオン誘導体と式(II)で示される芳香族アルデヒド化合物とを、適切な溶媒(例えばエタノールまたはメタノール、THF等)中で任意に、適切な塩基(例えばピリジン、NMO、DIEA、TEA、プロリン等)の存在下で数時間(例えば、2〜24時間程度)に渡り反応(Knoevenagel縮合)させることによって取得することができる。
【0113】
【化13】
【0114】
(式中、Z、R、R及びnは前記と同じ。)
好適な反応条件は、特に制限されないが、ピラゾリジンジオン誘導体(I)と芳香族アルデヒド化合物(II)とをTHF中、触媒量のプロリンの存在下で、室温で24時間攪拌する方法を例示することができる。
【0115】
なお、式(I)で示されるピラゾリジンジオン誘導体は、下記反応式2に示すように、式(III)で示されるフェニルヒドラジン誘導体と式(IV)で示されるマロン酸誘導体とを反応させることによって調製することができる。式(IV)中、「LG1」または「LG2」で示される置換基は任意の適切な脱離基である。制限はされないが、ハロゲン原子、1−ヒドロキシ−ピロリジン−2,5−ジオン、ベンゾトリアゾール−1−オル、脂肪族又は芳香族アルコキシ基を例示することができる。
【0116】
【化14】
【0117】
(式中、Z、及びRは前記と同じ。LG及びLGは脱離基を意味する。)
ピラゾリジンジオン誘導体(I)を調製するための好適な方法としては、フェニルヒドラジン誘導体(III)とモノエチルマロニルクロリド(IV)との、THF等の適切な溶媒中Et3N存在下での縮合、又はフェニルヒドラジン誘導体(III)とジアルコキシマロネート(IV)とのエタノール又はメタノール等の適切な溶媒中、適切な塩基(例えばナトリウムエトキシドまたはナトリウムメトキシド)の存在下または非存在下での縮合を例示することができる。
【0118】
また式(I)で示されるピラゾリジンジオン誘導体は、下記反応式3に示すように、フェニルヒドラジン誘導体(III)とマロン酸誘導体(IV)から生成される、式(V)で示される化合物を、エタノールやTHF若しくはDMF等の適切な溶媒中、ナトリウムエトキシド又はナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、K2CO3、NaH、LDA、LiH、DMS若しくはDIEA等の適切な塩基の存在下で、環状化させることによって調製することもできる。
【0119】
【化15】
【0120】
(式中、Z、R、LG及びLGは前記と同じ。)
より詳細には、後述する製造例において説明する方法に従って製造することができる。
【0121】
斯くして得られるピラゾリジンジオン誘導体(1)は、通常の分離手段、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶等により反応混合物から容易に単離精製することができる。
【0122】
(II)Rac活性化阻害剤、Rac活性化関連疾患の予防または治療用医薬組成物
上記本発明の化合物(1)は、後述する試験例で示すようにDOCK2とRacとの会合を阻害することにより、免疫反応に必要不可欠な免疫細胞におけるRacの活性化を阻害する作用(Rac活性化阻害作用)を有している。その結果、本発明の化合物(1)は、リンパ球などの免疫細胞の遊走を阻止し、不適切な免疫反応(例えば、自己免疫疾患やアレルギー疾患などの過剰な免疫反応、並びに同種移植片拒絶反応など)を抑制することが可能である。
【0123】
このため、本発明の化合物(1)は、in vitro及びin vivoにおいて、免疫細胞におけるDOCK2を介したRacの活性化を阻害するために使用されるRac活性化阻害剤の有効成分として、また自己免疫疾患やアレルギー疾患などの免疫関連疾患の予防または治療剤の有効成分として、さらに免疫抑制剤の有効成分として有用である。
【0124】
また本発明の化合物(1)は、後述する試験例で示すようにDOCK180またはDOCK5とRacとの会合を阻害することにより、がん細胞におけるRacの活性化を阻害する作用(Rac活性化阻害作用)を有している。その結果、本発明の化合物(1)は、がん細胞の浸潤、遊走及び足場非依存的な増殖を阻止し、がん細胞の増殖や転移を抑制することが可能である。
【0125】
このため、本発明の化合物(1)は、in vitro及びin vivoにおいて、がん細胞におけるDOCK2を介したRacの活性化を阻害するために使用されるRac活性化阻害剤の有効成分として、また悪性腫瘍、特に固形がんの予防または治療剤(抗がん剤)の有効成分として有用である。
【0126】
ゆえに本発明は、上記本発明の化合物(1)を有効成分とするRac活性化阻害剤、及びRac活性化に関連して発症または増悪する疾患または病態を予防または治療するための医薬組成物を提供する。なお、当該医薬組成物には、具体的には免疫抑制剤、または免疫関連疾患の予防または治療剤(抗免疫関連疾患剤)、および抗がん剤が包含される(以下、これらを総称して、「本発明の製剤」ともいう)。
【0127】
本発明の製剤は、上記本発明の化合物(1)だけからなるものであってもよいし、または、任意の担体や添加剤と組み合わせて、従来公知の方法で所望の用途(投与経路及び投与方法)に適した形態に調製した組成物であってもよい。本発明の製剤の形態としては、制限されないが、例えば錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤、粉末シロップ剤およびカプセル剤(硬カプセルおよび軟カプセル)などの固体状の経口投与に適した製剤;液状、乳液状または凍結乾燥された形状を有する注射剤や点滴剤に適した製剤;クリーム、軟膏およびジェルなどのペースト状またはゲル状の外用剤に適した製剤;液剤、懸濁剤、乳液剤、シロップ、エリキシル剤、噴霧剤およびエアゾールなどの液体状の製剤、等とすることができる。
【0128】
本発明の製剤に配合する本発明の化合物(1)の割合としては、例えばこれを免疫抑制剤、または抗免疫関連疾患剤として使用する場合、免疫細胞においてRac活性化を阻害する作用を発揮する割合、好ましくはリンパ球の遊走を阻害する作用を発揮する割合、より好ましくは免疫反応を抑制する割合であれば特に制限されず、例えば、製剤100重量%中、0.001〜99重量%、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.05〜10重量%の範囲で適宜設定調製することができる。また、例えばこれを抗がん剤として使用する場合、がん細胞においてRac活性化を阻害する作用を発揮する割合、好ましくはがん細胞の浸潤、遊走または増殖を阻害する作用を発揮する割合であれば特に制限されず、例えば、製剤100重量%中、0.001〜99重量%、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.05〜10重量%の範囲で適宜設定調製することができる。
【0129】
当該製剤は、本発明の化合物(1)を上記割合で含むものであればよく、この効果を妨げない範囲で他成分を配合することもできる。かかる他成分は、本発明のRac活性化阻害剤、またはRac活性関連疾患用医薬組成物(免疫抑制剤、または抗免疫関連疾患剤、抗がん剤)の使用目的、投与経路(投与形態)、使用対象疾患の種類、使用対象者の体重、年齢及び疾患の程度などに応じて適宜選択することができる。例えば、制限されないが、かかる他成分には、賦形剤、結合剤、分散剤、増粘剤、滑沢剤、pH調整剤、可溶化剤などの一般に製剤の製造に使用される担体のほか、抗生物質、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、ビルダー、漂白剤、酵素、キレート剤、消泡剤、着色料(染料、顔料など)、柔軟剤、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、矯味剤、矯臭剤、溶媒などが含まれる。
【0130】
本発明の製剤のうち免疫抑制剤は、上記本発明の化合物(1)に加えて、他の免疫抑制剤を含有していてもよい。かかる免疫抑制剤としては、制限はされないが、例えばカルシニューリン阻害剤(calcineurin inhibitor)であるサイクロスポリンやFK560、スフィンゴシン 1-リン酸受容体の機能的アンタゴニストであるFTY720などを例示することができる。
【0131】
また本発明の製剤のうち、抗免疫関連疾患剤は、上記本発明の化合物(1)に加えて、免疫抑制作用を増強または補助する作用を有する成分を含有していてもよい。かかる成分としては、コルチコステロイド、メトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミド、クロラムブチルシクロスポリン、タクロリムス、ラパマイシン等を例示することができる。ここで好ましいコルチコステロイドとしては、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、ブデソニド、ベタメタゾン等が挙げられる。
【0132】
また本発明の製剤のうち、抗がん剤は、上記本発明の化合物(1)に加えて、他の抗がん剤、抗がん作用を増強または補助する作用を有する成分、または免疫賦活剤を含有していてもよい。
【0133】
また本発明の製剤が、外用組成物の形態を有する場合、当該製剤には、皮膚への浸透を促進する作用を有する成分を配合することもできる。かかる成分としては、アルコール、プロピレングリコール、ビタミンE,メントール、ラウロカプラム等を例示することができる。
【0134】
本発明において、「免疫関連疾患」という用語は特に断りのない限り、免疫系の応答により細胞、組織、器官や複数の系統において病的症状が誘発されることを特徴とする全ての疾患若しくは障害、又は、免疫系の任意部分の機能不全に起因する全ての疾患若しくは障害を意味する。かかる疾患には、慢性関節リウマチ、若年性慢性関節リウマチ、全身性若年性慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、胃潰瘍、血清反応陰性関節症、変形性関節症、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、虹彩毛様体炎/ブドウ膜炎/視神経炎、特発性肺線維症、全身性脈管炎/ウェゲナー肉芽腫症、サルコイドーシス、精巣炎/精管切除を戻す手術処置、アレルギー性/アトピー性疾患、湿疹、アレルギー性接触皮膚炎、アレルギー性結膜炎、過敏反応性肺炎、移植、臓器移植拒絶反応、移植片対宿主病、全身性炎症反応症候群、敗血症症候群、グラム陽性菌敗血症、グラム陰性菌敗血症、培養陰性菌敗血症、真菌性敗血症、好中球減少に伴う発熱、尿路性敗血症、髄膜炎菌症、外傷/出血、やけど、電離放射線暴露、急性膵炎、成人呼吸窮迫症候群、慢性関節リウマチ、アルコール性肝炎、慢性炎症性疾患、サルコイドーシス、クローン病、鎌状赤血球貧血、ネフローゼ、アトピー性疾患、超過敏反応、結膜炎、子宮内膜症、じんましん、全身性アナフィラキシー、皮膚炎、悪性貧血、溶血性疾患、血小板減少症、任意の器官又は組織の移植片拒絶反応、腎臓移植拒絶反応、心臓移植拒絶反応、肝臓移植拒絶反応、膵臓移植拒絶反応、肺移植拒絶反応、骨髄移植(BMT)拒絶反応、同種移植片拒絶反応、軟骨移植拒絶反応、骨移植片拒絶反応、小腸移植拒絶反応、胎児胸腺移植拒絶反応、副甲状腺移植拒絶反応、任意の器官又は組織の異種移植片拒絶反応、同種移植片拒絶反応、抗受容器超過敏反応、グレーブス病、レイノー病、B型インスリン抵抗性糖尿病、重症筋無力症、抗体による細胞傷害、III型超過敏反応、全身性エリテマトーデス、POEMS症候群(多発神経炎、臓器肥大症、内分泌障害、単クローン性免疫グロブリン血症及び皮膚症状症候群)、多発神経炎、臓器肥大症、内分泌障害、単クローン性免疫グロブリン血症、皮膚症状症候群、抗リン脂質抗体症候群、天疱瘡、強皮症、混合性結合組織病、特発性アジソン病、慢性活動性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、尋常性白斑、脈管炎、心筋梗塞における心臓切開後の症候群、IV型過敏症、接触皮膚炎、過敏反応性肺炎、同種移植片拒絶反応、細胞内有機体による肉芽腫、薬物過敏、代謝性/特発性、ウィルソン病、ヘモクロマトーシス、α−1−アンチトリプシン欠損症、橋本病、骨粗鬆症、視床下部−脳下垂体−副腎系の評価、原発性胆汁性肝硬変、甲状腺炎、脳脊髄炎、悪液質、嚢胞性線維症、新生児慢性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、家族性血球食細胞性リンパ組織球症、皮膚状態、脱毛、ネフローゼ症候群、腎炎、糸球体腎炎、急性腎不全、血液透析、尿毒症、毒、子癇前症、OKT3療法、抗CD3療法、サイトカイン療法、化学療法、放射線療法(例えば無気力、貧血及び悪液質等を含むが、これらに制限されない)及び慢性サリチル酸中毒が含まれる。
【0135】
また本発明において、「自己免疫疾患」という用語は、器官又は組織特異的自己免疫疾患、全身性自己免疫疾患及び自己免疫型の症状を示す疾患を含むものとし、特に、グレーブス病、橋本病、多腺性自己免疫症候群、インスリン依存性糖尿病、インスリン抵抗性糖尿病、免疫性不妊、自己免疫性アジソン病、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、疱疹状皮膚炎、自己免疫性脱毛症、尋常性白斑、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性血小板減少性紫斑病、悪性貧血、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、スティフ・マン症候群、急性リウマチ熱、交感性眼炎、グッドパスチャー症候群、自己免疫性ブドウ膜炎、側頭動脈炎、ベーチェット病、クローン病、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎、線維筋痛症、多発性筋炎、皮膚筋炎、強直性脊椎炎、高安動脈炎、脂肪織炎、類天疱瘡、原因不明の脈管炎、ANCA陰性の脈管炎、ANCA陽性の脈管炎、全身性エリテマトーデス、乾癬性関節炎、慢性関節リウマチ、強皮症、全身性壊死性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、CREST症候群、抗リン脂質抗体症候群、シェーグレン症候群、好酸球性胃腸炎、異型局所皮膚炎、心筋症、感染後症候群及び感染後心内膜心筋炎等の自己免疫疾患を含むものとする。
【0136】
器官又は組織特異的自己免疫疾患には、グレーブス病、橋本病、多腺性自己免疫症候群、インスリン依存性糖尿病、インスリン抵抗性糖尿病、免疫性不妊、自己免疫性アジソン病、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、疱疹状皮膚炎、自己免疫性脱毛症、尋常性白斑、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性血小板減少性紫斑病、悪性貧血、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、スティフ・マン症候群、急性リウマチ熱、交感性眼炎、グッドパスチャー症候群、自己免疫性ブドウ膜炎、側頭動脈炎、ベーチェット病、クローン病、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎、線維筋痛症、多発性筋炎、皮膚筋炎、強直性脊椎炎、高安動脈炎、脂肪織炎、類天疱瘡、原因不明の脈管炎、ANCA陰性の脈管炎及びANCA陽性の脈管炎が含まれる。
【0137】
また全身性自己免疫疾患には、全身性エリテマトーデス、乾癬性関節炎、慢性関節リウマチ、強皮症、全身性壊死性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、CREST症候群、抗リン脂質抗体症候群及びシェーグレン症候群が含まれる。
【0138】
なお、本発明が対象とする自己免疫疾患には、「自己免疫型の症状を示す疾患」も含まれる。当該疾患は、自己抗体濃度は上昇するにも関わらず自己免疫疾患であるとは見なされない全ての疾患を意味する。例えば、好酸球性胃腸炎、異型局所皮膚炎、心筋症、及び、感染後心内膜心筋炎等の感染後症候群等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0139】
本発明が対象とする悪性腫瘍は、浸潤または転移し、身体の各所で増大することで生命を脅かす腫瘍であり、がんはまたは悪性新生物ともいう。悪性腫瘍には、造血細胞悪性腫瘍(白血病、リンパ腫[ホジキン病、非ホジキンリンパ腫]、多発性骨髄腫)、脳腫瘍、乳がん、子宮体がん、子宮頚がん、卵巣がん、食道癌、胃癌、虫垂癌、大腸癌(大腸、直腸、肛門およびその付随組織)、肝癌、肝細胞癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓がん(膵がん)、副腎癌、消化管間質腫瘍、中皮腫(胸膜、腹膜、心膜など)、頭頚部癌、喉頭癌、口腔癌、口腔底癌、歯肉癌、舌癌、頬粘膜癌、唾液腺癌、副鼻腔癌、上顎洞癌、前頭洞癌、篩骨洞癌、蝶型骨洞癌、甲状腺癌、腎臓がん、肺癌、骨肉腫、前立腺癌、精巣腫瘍(睾丸がん)、腎細胞癌、膀胱癌、横紋筋肉腫、皮膚癌(「ほくろ」と形成異常母斑を含む)、肛門癌等が含まれる。
【0140】
本発明のある実施形態において、本発明の化合物(1)の治療上有効な量は、哺乳動物、好ましくはヒト1日当たり約5〜約500mgである。本発明の別の実施形態において、本発明の化合物(1)の治療上有効な量は、1日当たり約5〜約250mgである。また、本発明の別の実施形態において、本発明の化合物(1)の治療上有効な量は、1日当たり約5〜約100mgである。そして、本発明の別の実施形態において、本発明の化合物(1)の治療上有効な量は、1日当たり約5〜約50mgである。更に、本発明の別の実施形態において、本発明の化合物(1)の治療上有効な量は、1日当たり約50mg未満である。
【実施例】
【0141】
以下に、本発明の化合物(1)の製造例及び試験例を挙げて、本発明を一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
製造例1
4-[3-(2-クロロフェニル)プロピル]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物5)の製造
【0142】
【化16】
【0143】
(1) (N'-フェニルヒドラジノカルボニル)酢酸エチルエステル(化合物V)、および(N-フェニルヒドラジノカルボニル)酢酸エチルエステル(化合物V')の合成(Houille, O.; Fretz, H.; Hilpert, K.; Riederer, M.; Giller, T.; Valdenaire, O., WO 2005/002574 A1)
Et3N(25.9ml、186mmol)を、THF(300ml)に溶解した−10℃のフェニルヒドラジン溶液(17.5ml、177mmol)に添加し、撹拌した。これに、−10℃の条件で塩化メチルマロニル(22.9ml、181mmol)を30分間以上かけて滴下し、次いで反応液を室温まで温めて撹拌した。1日後、反応液に水を入れて反応を停止し、得られた生成物をEtOAcで抽出した。次いで回収した有機相を、水及び塩水で繰り返し洗浄した。Na2SO4を用いて有機相を脱水し、溶媒を減圧下で蒸発させた。得られた粗生成物をCH2Cl2およびヘキサンで再結晶し、標記化合物VとV'の混合物を黄色の固形物として取得した(26.6g、収率68%、化合物V:V’=3:1混合物)。なお、化合物VとV’とは分離できなかった。
【0144】
1H-NMR(500MHzおよびCDCl3)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.72 (s), 7.29-7.23 (m), 6.99-6.79 (m), 6.20 (s, 1 H, major isomer), 5.99 (s, 1 H, minor isomer), 4.28 (q, J = 7 Hz, 2 H, major isomer), 4.16 (q, J = 7 Hz, 2 H, minor isomer), 3.53 (s, 2 H, minor isomer), 3.45 (s, 2 H, major isomer), 1.35 (t, J = 7 Hz, 3 H, major isomer), 1.27 (t, J = 7 Hz, 3 H, minor isomer)。
【0145】
(2)1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物I)の合成(Holzer, W.; Hallak, L. Heterocycles2004, 63, 1311-1334.)
EtOH(10ml)に溶解した1Mの中のNaOH溶液を、(1)で調製した化合物VとV’の混合物(1.0g、4.5 mmol)の中に添加し、反応混合物を室温で30分間撹拌した。その後、AcOHを添加し、H2Oを添加した後、生成物をCH2Cl2で抽出した。回収した有機相を、水と塩水で繰り返し洗浄し、Na2SO4を用いて脱水した。次いで溶媒を減圧下で蒸発させて標題の化合物Iを黄色の固形物として取得した(462mg、収率58%)。
【0146】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.56 (d, J = 8.6 Hz, 2 H), 7.44 (t, J = 15.9 Hz, 2
H ), 7.26 (m, 1H), 3.45 (s, 2 H)。
【0147】
(3) 4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物6)の合成
THF(140ml)に溶解した化合物Iの溶液(6.28g、35.6 mmol)に、3-(2-クロロフェニル)プロペナール(5.0g、30.0 mmol)(Dong, H.; Shen, M.; Redford, J. E.; Stokes, B. J.;Pumphrey, A. L.; Driver, T. G. Org. Lett., 2007, 9, 5191-5194)、およびプロリン(35mg、0.3 mmol)を添加した。その混合液を、室温で1日間撹拌した後、得られた反応混合物を減圧下で蒸発処理に供した。斯くして得られた粗生成物を、THFとヘキサンで再結晶し、赤い固形物として標題の化合物6(6.80g、収率70%、E:Z=1:1混合)を取得した。
【0148】
1H NMR (500 MHz, CDCl3)δ 8.45 (dd, J = 15.6, 11.9 Hz, 1 H), 8.31 (dd, J = 15.6, 11.9 Hz, 1 H), 7.89-7.80 (m, 5 H), 7.68-7.66 (m, 4 H), 7.45-7.41 (m, 5 H), 7.36-7.29 (m, 5 H), 7.23-7.20 (m, 2 H)。
【0149】
(4)4-[3-(2-クロロフェニル)プロピル]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物5):の合成
Pd/C(10mol%、4.3mg)を、室温でEtOH(1.0ml)に溶解した化合物6(13mg、40.0μmol)の溶液に添加し、また、水素ガスを1気圧の条件で加えた。次いで溶液を45分間撹拌し、その後、反応液をセライトパットを用いてろ過し、溶媒を蒸発させた。斯くして得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(溶離剤: ヘキサン/EtOAc、1/1)に供し、淡黄色固形物として標題の化合物5(10.4mg、収率79%)を取得した。
【0150】
m.p. 107-108 oC (decomposition);
IR (KBr) νmax 3196, 3071, 2931, 2868, 1680, 1597, 1507, 1356, 749 cm-1; 1H NMR (500 MHz, CDCl3)δ7.57 (d, J = 7.9 Hz, 2 H), 7.40(t, J = 7.9 Hz, 2 H), 7.30 (d, J = 6.1 Hz, 1 H), 7.23-7.04 (m, 4 H), 3.28 (t, J = 6.1 Hz, 1 H), 2.79-2.64 (m, 2H) (2.78 (t, J = 7.8 Hz, 1.5 H), 2.66 (t, J = 7.5 Hz, 0.5 H, enol)), 2.11-2.03 (m, 2 H), 1.90-1.82 (m, 2 H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3)・172.3, 166.6, 138.9, 135.3, 133.9, 130.3, 129.5, 129.4, 128.4, 127.5, 126.8, 126.0, 118.8, 46.8, 35.6, 33.1, 27.2, 25.9;
MS (ESI-MS) 329 [M+H+], 351 [M+Na+];
HRMS (ESI-MS) calcd. for C18H18ClN2O2+ [M+H+] 329.1057, found 329.1058。
【0151】
製造例2
(Z)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物20)の製造
標題の化合物20は、製造例1(3)で合成した化合物6(E/Z混合、200mg、616μmol)をクロロホルムで5回洗浄することにより、赤い固形物として単離された (90mg、278μmol)。
m.p. 186-187 oC (decomposition);
IR (KBr) νmax 3160, 3064, 2845, 1677, 1616, 1499, 1378, 1300, 1165, 753 cm-1;1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.31 (dd, J = 15.6, 11.9 Hz, 1 H), 7.88 (d, J = 9.2 Hz, 1 H), 7.86 (s, 1H), 7.83 (d, J = 4.9 Hz, 1 H), 7.66 (d, J = 7.6 Hz, 2 H), 7.44 (t, J = 8.0 Hz, 3 H), 7.34 (t, J = 5.4 Hz, 2 H), 7.23-7.21 (m, 1 H);13C NMR (125 MHz, CDCl3)δ165.2, 160.3, 156.0, 150.4, 147.2, 136.5, 135.7, 133.1, 132.0, 130.4, 129.3, 128.2, 127.3, 125.7, 124.9, 118.7;
MS (ESI-MS) 325 [M+H+], 347 [M+Na+];
HRMS (ESI-MS) calcd. for C18H13ClN2NaO2+ [M+Na+] 347.0563, found 347.0566。
【0152】
製造例3
4‐[(2‐クロロフェニル)メチリデン]‐1‐フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン (化合物7)の製造
Aldrich社から入手した2‐クロロベンズアルデヒドを用いて、製造例1の(3)の方法に従って標題の化合物7を合成した。
orange solid (収率32%, E/Zmixture):
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 8.80 (d, J = 7 Hz, 1 H), 8.13 (s, 2 H), 7.75 (s, 4 H), 7.66 (d, J = 8 Hz, 2 H), 7.63 (t, J = 8 Hz, 2 H), 7.52-7.43 (m, 7 H), 7.22 (s, 3 H) ;
MS (ESI-MS) 321 [M+Na+]。
【0153】
製造例4
4‐[5-(2-クロロフェニル)ペンタ‐2,4-ジエニリデン]-1-フェニルピラゾリジン‐3,5‐ジオン (化合物8)の製造
既知法(Rekha, S.; Sunil K. G. Tetrahedron, 2010, 66, 2284-2292)に従って合成した(2E,4E)-5-(2-クロロフェニル)ペンタ‐2,4‐ジエナールを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物8を合成した。
orange solid (収率37%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.89-7.83 (m, 1 H), 7.72-7.64 (m, 3 H ), 7.46-7.40 (m, 3 H), 7.12-7.07 (m, 1 H);
MS (ESI-MS) 351 [M+H+], 373 [M+Na+]。
【0154】
製造例5
4-(3-フェニルアリリデン)-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物9)の製造
Aldrich社から入手したシンアムアルデヒドを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物9を合成した。
orange solid (収率67%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.53 (d, J = 9 Hz,1 H), 8.48 (d, J = 7 Hz, 2 H), 8.31 (dd, J = 15.3, 10.4 Hz, 1 H), 8.07-8.05 (m, 2 H), 7.80 (d, J = 10 Hz, 1 H), 7.67 (dd, J = 15.0, 8 Hz, 5 H) 7.60-7.58 (m, 2 H), 7.52 (t, J = 8 Hz, 4 H), 7.46-7.43 (m, 9 H) ;
MS (ESI-MS) 291 [M+H+]。
【0155】
製造例6
4-[3-(2-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物10)の製造
既知法(Lian, S. Z.; Shilei, Z.; Hexin, X.; Wei, W. Org. Lett., 2009, 11, 1627-1630)で合成した(E)-3-(2-ヒドロキシフェニル)アクリルアルデヒドを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物10を合成した。
red solid (収率33%, E/Zmixture):
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 10.5 (s, 1 H), 8.49-8.31 (m, 1 H), 7.84-7.77 (m, 5 H), 7.60-7.57 (m, 1 H), 7.49-7.46 (m, 2 H), 7.35-7.32 (m, 2H), 7.22 (s, 1 H), 6.97-6.94 (m, 2 H);MS (ESI-MS) 307 [M+H+]。
【0156】
製造例7
4-[3-(2-フルオロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物11)の製造
既知法(Laihia, K.; Kolehmainen, E.; Manttari, P.; Kauppinen, R. Magn. Reson. Chem., 1993, 31, 512-515)で合成した(E)-3-(2-フルオロフェニル)アクリルアルデヒドを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物11を合成した。
red solid (収率42%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.48 (dd, J = 16.6, 10.9 Hz, 1 H), 8.35 (dd, J = 16.6, 10.9 Hz, 2 H), 7.82-7.76 (m, 4 H), 7.66 (d, J = 7.5 Hz, 5 H), 7.60-7.55 (m, 4 H), 7.45-7.42 (m, 7 H), 7.22-7.11 (m, 8 H);
MS (ESI-MS) 331 [M+Na+]。
【0157】
製造例8
4-[3-(2-ブロモフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物12)の製造
既知法 (Shu-Yu, Z.; Yong-Qiang, T.; Chun-An, F.; Ming, Y.; Fu-Min, Z. Org. Lett., 2009, 50, 4178-4181)で合成した(E)-3-(2-ブロモフェニル)アクリルアルデヒドを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物12を合成した。
red solid (収率27%, E/Zmixture):
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.42 (dd, J = 15.6, 11.9 Hz, 1 H), 8.28 (dd, J = 15.6, 11.9 Hz, 1 H), 7.87-7.76 (m, 5 H), 7.68-7.62 (m, 5 H), 7.46-7.42 (m, 4 H), 7.38-7.34 (m, 2 H);
MS (ESI-MS) 391 [M+Na+]。
【0158】
製造例9
4-[3-(2-メチルフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物13)の製造
既知法(Jie, L.; Jin, Z.; Hualiang, J.; Wei, W.; Jian, L. Asian. J. Chem., 2009, 4, 1712-1716) で合成した(E)-3-(2-メチルフェニル)アクリルアルデヒドを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物13を合成した。
red solid (収率54%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.40 (dd, J = 15.3, 11.9 Hz, 1 H), 8.27 (dd, J = 15.3, 11.9 Hz, 2 H), 8.02-7.91 (m, 3 H), 7.86-7.80 (m, 5 H), 7.76-7.65 (m, 11 H), 7.61-7.59 (m, 2 H), 7.45-7.42 (m, 8 H), 7.34-7.28 (m, 4 H), 7.20-7.03 (m, 2 H), 2.48 (s, 6 H), 2.43 (s, 3 H);
MS (ESI-MS) 305 [M+H+], 327 [M+Na+]。
【0159】
製造例10
4-[3-(3-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物14)の製造
既知法(Laihia, K.; Kolehmainen, E.; Manttari, P. Magn. Reson. Chem., 1991, 29, 1109-1113)で合成した(E)-3-(3-クロロフェニル)アクリルアルデヒドを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物を合成した。
orange solid (収率26%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.32 (dd, J = 17.4, 12.8 Hz, 1 H), 7.83-7.81 (m, 3 H), 7.67-7.60 (m, 5 H), 7.54-7.50 (m, 6 H), 7.40-7.38 (m, 4 H), 7.16-7.08 (m, 2 H);
MS (ESI-MS) 325 [M+H+], 347 [M+Na+]。
【0160】
製造例11
4-[3-(4-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物15)の製造
既知法(Omori, K.; Onzuka, K.; Fuse, K.; Miyata, H.(Ube Industry, Ltd., Japan) Jpn. Kokai Tokkyo Koho, 2000204057) で合成した(E)-3-(4-クロロフェニル)アクリルアルデヒドを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物15を合成した。orange solid (収率58%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 8.31 (dd, J = 15.6, 11.9 Hz, 1 H), 8.12 (s, 1 H), 7.78 (s, 4 H), 7.68 (t, J = 7 Hz, 4 H), 7.65-7.54 (m, 8 H), 7.45-7.35 (m, 4 H), 7.15 (d, J = 7.4 Hz, 2 H);
MS (ESI-MS) 325 [M+H+], 347 [M+Na+]。
【0161】
製造例12
4-[3-(3-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物16)の製造
既知法(Kim, J.; Lee, S.; Kwon, M.; Park, Y.; Choi, S.; Kwon, B. Synth. Commun., 2004, 34, 1223-1228)で合成した3-(3-ヒドロキシルフェニル)プロペナールを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物を合成した。(収率 26%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 9.78 (s, 2 H), 8.30 (dd, J = 16.1, 9.2 Hz, 1 H), 8.81 (s, 1 H), 7.94-7.13 (m, 24 H);
MS (ESI-MS) 307 [M+H+]。
【0162】
製造例13
4-[3-(4-ヒドロキシフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物17)の製造
既知法(Fujisawa, T.; Mori, T.; Tsuge, S.; Sato, T. Tetrahedron Lett., 1983, 24, 1543-1546)で合成した3-(4-ヒドロキシルフェニル)-プロペナールを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物を合成した。(収率 75%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 10.33 (s, 2 H), 8.13 (dd, J = 15.6, 11.9 Hz, 1 H),7.96 (s, 1 H), 7.72-7.54 (m, 14 H), 7.42 (t, J = 7 Hz, 4 H), 7.17-7.16 (m, 2 H), 6.87 (d, J = 8 Hz, 4 H);
MS (ESI-MS) 307 [M+H+]。
【0163】
製造例14
4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物18)の製造
既知法(Houille, O.; Fretz, H.; Hilpert, K.; Riederer, M.; Giller, T.; Valdenaire, O. WO 2005/002574 A1)で合成した1-ピリジン-2-イル-ピラゾリジン-3,5-ジオンを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物を合成した。(収率 46%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.44-8.33 (m, 3 H), 7.92-7.77 (m, 4 H), 7.46-7.44 (m, 1 H), 7.37-7.32 (m, 2 H), 7.12-7.09 (m, 1 H)。
【0164】
製造例15
4-(3-フェニルアリリデン)-1-(2-ピリジニル)ピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物19)の製造
既知法(Houille, O.; Fretz, H.; Hilpert, K.; Riederer, M.; Giller, T.; Valdenaire, O. WO 2005/002574 A1)で合成した1-ピリジン-2-イル-ピラゾリジン-3,5-ジオンを用いて、製造例1の(3)の方法に従って、標題の化合物を合成した。(収率 25%, E/Z mixture):
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.40 (dd, J = 15.3, 11.6 Hz, 1 H), 8.35-8.33 (m, 1 H), 7.82-7.77 (m, 2 H), 7.68 (s, 2 H), 7.44 (s, 3 H), 7.37 (d, J = 15.6 Hz, 1 H), 7.10 (t, J = 6 Hz, 1 H), 3.75 (s, 1 H), 1.85 (s, 1 H)。
【0165】
試験例1
DOCK2は、図1に示すように、SH3ドメイン、DHR-1ドメイン及びDHR-2ドメインを有する、マウスでは1828、ヒトでは1831アミノ酸残基からなるタンパク質であり、DHR-2ドメインを介してRacを活性化するグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)である。DOCK2は、免疫系組織に特異的に発現しており、リンパ球などの免疫細胞においてRacを活性化させるマスター分子であるといわれている。ケモカイン受容体からのシグナルがDOCK2を介して伝わり、Racを活性化することにより、細胞骨格のアクチン繊維が再構築されて免疫細胞の分化、遊走、活性化が起こることが知られている。
【0166】
ここでは、DOCK2遺伝子を欠損させたDOCK2ノックアウトマウス(DOCK2欠損マウス)を作製し、DOCK2を発現するマウス(以下、「WT」または「DOCK2+/-」と表記する)とDOCK2欠損マウス(以下、「DOCK2-/-」ともいう)のそれぞれについて、同種マウスの心臓を移植し、免疫抑制剤(FK506)の投与下または非投与下で、移植心臓の生着状態を測定した。また、I型糖尿病のモデルマウスであるNODマウスにDOCK2-/-マウスを8世代戻し交配した後、DOCK2遺伝子座が+/-もしくは-/-となるNODマウスを作製し、糖尿病及び膵島炎の発症の有無について評価した。
【0167】
(1)試験方法
(a)DOCK2ノックアウトマウスの作製
非特許文献14(Nature, 412, 826-831, 2001)に記載する方法に従って、DOCK2ノックアウトマウス(DOCK2欠損マウス:DOCK2-/-マウス)を作製した。
【0168】
(b)アロ心臓移植試験について
非特許文献20(J Exp Med 202, 1121-1130, 2005)に記載する方法に従って、アロ心臓移植試験を行った。具体的には、まずドナーとレシピエントのマウスを、ケタミンとキシラジンで麻酔をかけた。ドナーマウスから心臓を取り出し、レシピエントマウスに移植するまでの間、氷冷した生理的食塩水の中に保管した。次いでその心臓を、ドナーの大動脈及び肺動脈をそれぞれレシピエントの腹大動脈及び下大静脈に端側吻合することによって、レシピエントマウスに異種移植した。少なくとも84%は技術的に成功した。移植片の生着は毎日触診することによって判断した。明白に心拍が停止した段階で拒絶が生じたと判断し、開腹して肉眼で確認した。
【0169】
(c)自己免疫糖尿病を発症試験について
I型糖尿病のモデルマウスであるNODマウスとDOCK2-/-マウスを8世代戻し交配した後、DOCK2遺伝子座が+/-もしくは-/-となるNODマウスを作製した。これらのマウス(4〜5ヶ月齢)より尿を採取し、尿糖検査用試験紙を用いて尿糖を測定し、陽性と判定されたものを糖尿病発症動物として、DOCK2+/-およびDOCK2 -/-についてそれぞれの発症率を求めた。また、これらのマウス(3〜5ヶ月齢)より採取した膵臓のパラフィン包埋切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色した。マウス1匹あたり15〜25個の膵島を観察し、それらへのリンパ球浸潤率をもとに次の様にステージ分類し、その平均値を指標として用いた。
ステージ0:膵島へのリンパ球浸潤なし、
ステージ2:膵島の25%未満にリンパ球の浸潤が見られる、
ステージ3:膵島の25〜50%未満にリンパ球の浸潤が見られる、
ステージ4:膵島の50%以上にリンパ球の浸潤が見られる。
【0170】
(2)試験結果
結果を図2に示す。
(a)アロ心臓移植試験
図2(A)に示すように、同種心臓を移植したWTマウスにおける移植心臓の生着日数(median survival time; MST)は、単独使用ではほとんど効果のない量のFK506 (3.2 mg/kg/day for 10 days after transplantation)の投与下で13日、非投与下で7日であったのに対して、同種心臓を移植したDOCK2欠損マウス(DOCK2-/-)のMSTは、投与下で100日以上、FK506非投与下でも60日と、DOCK2を欠損させることで、移植心臓の長期生着が可能になることが確認された。
【0171】
(b)自己免疫糖尿病を発症試験
図2(B)に示すようDOCK2+/- NODマウスは、自己免疫糖尿病及び膵島炎を発症したのに対して、DOCK2欠損マウス(DOCK2-/-)NODマウスでは殆ど発症しなかった。このことから、DOCK2を欠損させることにより、自己免疫疾患の発症を抑制することができることが確認された。
【0172】
これらの結果から、DOCK2の働き、特にDOCK2からRacへの信号伝達を阻害することにより、同種移植片拒絶や自己免疫疾患など、不適切な免疫反応を抑制することが可能になると考えられる。
【0173】
試験例2 DOCK2−Rac1相互作用を阻害する化合物の探索
試験例1の結果から、DOCK2とRacとの相互作用を阻害する化合物は、免疫抑制剤の有効成分として、また自己免疫疾患の予防または治療剤の有効成分になり得ると考えられる。そこで、9,392個の化合物を対象として、(a)DOCK2-Racとの相互作用を阻害する化合物の探索、(b)DOCK2のRac活性化を阻害する化合物の探索、及び(c)生存性を損なわずにリンパ球の遊走を阻害する化合物の探索を、順次行った。
【0174】
(1)DOCK2-Racとの相互作用を阻害する化合物の探索
ELISAを用いて、ライブラリーからDOCK2-Rac間の相互作用を阻害する化合物を探索した。まず、96-ウエルのポリスチレン・プレートの各ウエルを、50 mM炭酸塩緩衝液(pH 9.6
)に溶解したstreptavidin(250 ng/well)を用いて4℃で一晩処理してコートした。各ウエルを、TBST(20 mMトリス塩酸、150 mM NaCl、0.1%のTween-20、pH7.5)に溶解した5%のスキムミルク150μlで、室温で1時間処理してブロッキングした。次いで、ウエルをTBST 150μlで4回洗浄した。TF-DOCK2-DHR2-SBP(50μl、TBST中の濃度60μg/ml)を、各ウエルに添加し、室温で1時間培養した。その後、ウエルを、1 mM EDTAを添加したTBST(TBST/1 mM EDTA)150μl で4回洗浄した。各ウエルに、ライブラリー由来の被験化合物またはDMSO(担体)(50μl、TBST/1 mM EDTA中に200μM)を添加して、室温で1時間インキュベートした。インキュベーション後、各ウエルにGST-Rac1あるいはGST-Cdc42(50μl、TBST/1 mM EDTA中に50μg/ml)を添加し、室温で1時間インキュベートした。その後、ウエルを、TBST/1 mM EDTA 150μlで4回洗浄した。次いで各ウエルにペルオキシダーゼを標識した抗GST抗体(50μl、TBST/1 mM EDTA)を添加して、室温で1時間インキュベートした。その後、ウエルを、TBST/1 mM EDTA 150μlで4回洗浄した。各ウエルに、ペルオキシダーゼの基質(50μl、0.1 Mのクエン酸塩緩衝液に溶解した0.4 mg/mlのo-フェニレンジアミンおよび0.01%のH2O2、pH 5.0)を添加し、室温で30〜60分間インキュベートした。次いで、Multiskan Bichromatic plate reader (Labsystems)を用いて、波長450nmの吸光度を測定した。GST-Cdc42を添加したウエルをブランクとして各ウエルの吸光度から差し引いた。また被験化合物の代わりにDMSOのみを加えたウエルをコントロールにした。被験化合物の阻害率(DOCK2-Rac間の相互作用を阻害する割合)は、下式により計算した。
[数1]
阻害率(%)
={[(DMSOを加えた際の吸光度)−(被験化合物を加えた際の吸光度)]/DMSOを加えた際の吸光度}x 100
以上のスクリーニング試験により、9,392個の化合物の中から、DOCK2-Racの相互作用を阻害する作用を有する化合物を131個取得した。
【0175】
(2)DOCK2のRac活性化を阻害する化合物の探索
反応バッファーA(20 mM MES-NaOH、150 mM NaCl、10 mM MgCl2、0.4 mg/mlのBSA、20μM GDP、pH 7.0)もしくは反応バッファーB(20 mM MES-NaOH, 150 mM NaCl, 10 mM MgCl2, 0.2 mg/ml BSA, 20 mM GDP, pH 7.0)の中で希釈したGEFを、室温で30分間、被験化合物またはDMSO(溶媒)の存在下で遮光しながらインキュベートした。DMSOの最終濃度は、反応バッファーAを用いた系では3%、反応バッファーBを用いた系では1%になるように調整した。次に、GDPとRac(15μM)を混合して氷上で30分間静置することにより作製したGDP-Rac(100μl)と、3.6μM mant-GTPを反応バッファーに加え、30℃で8分間平衡化させた。平衡化後、前処理したGEF (50μl)を添加し30℃で反応させた。反応中のmant-GTP蛍光強度の変化を、Molecular Devices XS-N蛍光光度分光計を用いてモニターした(励起波長:360 nm、発光波長:440 nm)。得られた測定値について、反応開始時(0秒)での蛍光強度が0となるよう補正した値を算出した。そして、GraphPad Prism5(GraphPad software)を用いて、算出した補正値をy軸に、時間(t)をx軸にとってプロットした際の近似曲線(双曲線)を求め、t=0〜10秒における傾きをグアニンヌクレオチド交換反応の初速度とした。IC50は、溶媒(DMSO)のみを加えた時の反応初速度を100%として計算した。
【0176】
かかる試験により、DOCK2-Rac間の相互作用を阻害する作用を有する131個の化合物の中からDOCK2のRac活性化を阻害する作用を有する化合物を31個取得した。
【0177】
(3)生存性を損なわずにリンパ球の遊走を阻害する化合物の探索
(3-1)生存性試験
マウス脾細胞(1 x 106個)を0.5% BSA/RPMI-1640培地(100μl)に懸濁し、100μMの被験化合物もしくは等量のDMSO存在下、37℃で1時間培養したものに、等量の0.4% Trypan blue/PBSを加え、光学顕微鏡で観察した。トリパンブルー陰性細胞を生細胞として、細胞100個あたりの生細胞の割合を求めた。1時間培養後の生細胞の割合が80%以上であったものを、生存性に影響しない化合物とした。
【0178】
(3-2)リンパ球の遊走阻害の評価
Transwellを用いた走化性解析を行った。具体的には、まず細胞(1×107/ml)を、被験化合物またはDMSOを配合した0.5%BSA含有RPMI-1640(Transwell培地)中で37 ℃で1時間培養した。24-ウエルプレートに、ケモカインと被験化合物を所定量添加したTranswell培地を加えた後、ウエルにTranswells(コーニング、5μm孔径)をセットし、前培養した細胞(1×10/100μl)を))ロードした。37℃で2時間インキュベートした後、下層のチャンバーに移動した細胞を集め、PE標識-抗Thy1.2抗体(53-2-1、BD Pharmingen)、およびFITC標識-抗B220抗体(RA-6B2、eBiosciences)で染色した。移動した細胞の割合(%)は、下層チャンバー中のThy1.2+細胞(T細胞)とB220+細胞(B細胞)の数を、Transwellsに入れた細胞の数で割ることで算出した。
【0179】
かかる試験により、DOCK2のRac活性化を阻害する作用を有する31個の化合物の中からリンパ球の生存性を損なうことなく、リンパ球の遊走を阻害する化合物を1個取得した。
【0180】
当該化合物は、下記に示す(E)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(以下、この化合物を「化合物6」という)であった。
【0181】
【化17】
【0182】
試験例3 化合物6のDOCK2−Rac1相互作用の選択的阻害活性
試験例2で取得した(E)-4-[3-(2-クロロフェニル)アリリデン]-1-フェニルピラゾリジン-3,5-ジオン(化合物6)について、下記の方法によりDOCK2−Rac1相互作用の選択的阻害活性を評価した。
【0183】
(1)DOCK2 DHR-2またはTiam DH-PHとGST融合Rac1との会合に対する阻害作用(pull-down assay)
大腸菌で発現させたTrigger factor(TF)融合DOCK2-DHR-2およびTiam1 DH-PHを、化合物存在下、氷上で1時間前処理したものに、GST融合Rac1を結合したビーズを加え、4℃で1時間反応させた。ビーズを3回洗浄した後、SDS-PAGEでタンパク質を分離し、CBBで染色した。染色したバンドの濃度をデンシトメトリーにより測定した。
【0184】
結果を図3(A)に示す。この結果から、化合物6は、Tiam DH-PHとGST融合Rac1との会合を全く阻害しないのに対して、DOCK2 DHR-2とGST融合Rac1との会合を用量依存的に阻害した。このことから、化合物6は、DOCK2のDHR-2との会合を介したRacのGEF活性化を選択的に阻害することが判明した。
【0185】
(2)様々なRac GEFsを発現するHEK293T細胞におけるRac活性化に対する阻害作用
HEK293T細胞を、12穴プレートで培養し、polyethylenimineを用いてDOCK2、Tiam1および Trio(DH-D1/PH-D1ドメイン)発現ベクターを導入した。24時間後に、100μMの化合物6もしくは等量のDMSOを含む培養液(500μl)に交換して1時間培養した後、Rac activation assay kit (Millipore 17-283)を用いて、細胞レベルでのRac活性化を検討した。
【0186】
結果を図3(B)に示す。化合物6の存在下で培養することにより、DOCK2を導入した細胞におけるRac活性化は顕著に阻害されたが、古典的なGEFであるTiam1やTrioによるRac活性化には影響が見られなかった。この結果から、化合物6は細胞レベルにおいてもDOCK2のGEF活性を選択的に阻害することが判明した。
【0187】
試験例4 化合物6によるDOCK2、DOCK180、及びDOCK5のGEF活性阻害
DOCK2、DOCK180、及びDOCK5のGEF活性阻害効果を、試験例2-(2)に記載した方法で検討した。DOCK2のGEF活性阻害効果を評価するためのサンプルとして、0, 1, 3, 10, 30, 50, 100, 150, 300μMの化合物6に対しSUMO-DOCK2DHR-2 DlobeA(SUMOタグを有する、lobe Aを欠損したDOCK2 DHR2ドメインの組み換えタンパク質)とGST-Rac1が、それぞれ0.1μM , 10μMとなるようにそれぞれ調整した。また、DOCK180のGEF活性阻害効果を評価するためのサンプルとして、0, 1, 3, 10, 30, 50, 100μMの化合物6に対しSUMO-DOCK180DHR-2 DlobeA(SUMOタグを有する、lobe Aを欠損したDOCK180 DHR2ドメインの組み換えタンパク質)とGST-Rac1が、それぞれ0.1μM , 10μMとなるようにそれぞれ調整した。さらに、DOCK5のGEF活性阻害効果を評価するためのサンプルとして、0, 1, 3, 10, 30, 50, 100μMの化合物6に対しSUMO-DOCK2DHR-2 DlobeA(SUMOタグを有する、lobe Aを欠損したDOCK5 DHR2ドメインの組み換えタンパク質)とGST-Rac1が、それぞれ0.1μM , 10μMとなるようにそれぞれ調整した。
【0188】
化合物がDOCK2-DHR2と会合するのか、それともRac1と会合するのかについて、STD-NMR法により検討した。すなわち、NMRスペクトルはBruker BioSpin Avance600 NMRスペクトロメータ(共鳴周波数600.03 MHz)を使用し、10 mM MgCl2が入った10 mM Tris-d11-2HCl, p2H 8.0の重水バッファー中で測定した。これらのサンプルそれぞれに対して、選択的飽和パルスをタンパク質シグナル上の-0.2 ppmとタンパク質のシグナルが存在しない-30 ppmにそれぞれ2秒間照射し、スペクトルを比較した。
【0189】
結果を図4に示す。図4(A)に示す結果から化合物6は、in vitroにおけるDOCK2のGEF活性を容量依存的に阻害し、50%阻害濃度(IC50)は、それぞれ、バッファーA中で測定した場合46.8±7.1μMであり、バッファーB中で測定した場合22.8±2.4μMであった。同様に、DOCK180およびDOCK5のGEF活性も用量依存的に阻害し、バッファーB中で測定したIC50はそれぞれ33.6±3.6μMおよび31.6±2.5μMであった。
【0190】
また図4(B)に示すように、タンパク質シグナル照射時にSUMO-DOCK2DHR-2 DlobeA のサンプルでは化合物6のシグナル強度が減少したのに対し、Rac1のサンプルではシグナル強度の減少は観察されなかった。すなわち化合物6がDOCK2-DHR2に特異的に会合していることが判明した。これらの結果から、化合物6はDOCK2-DHR2に結合することにより、DOCK2のGEF活性を阻害していることが示された。
【0191】
試験例5 化合物6によるRac活性化とリンパ球遊走の阻害
マウス脾臓より、Pan T cell isolation kit (Miltenyi Biotech, 130-095-130)もしくはB cell isolation kit (Miltenyi Biotech, 130-090-862)を用いて、それぞれT細胞、B細胞を単離した。単離した細胞(1〜2 x 107個)を200μlのHBSS (Invitrogen)に懸濁し、100μMの化合物6もしくは等量のDMSO存在下、37℃で1時間培養した。培養後、ケモカイン[T細胞の場合は1μg/ml SLC (CCL21)、B細胞の場合は1μg/ml BLC (CXCL13)]を加えて所定の時間培養し、Rac activation assay kit (Millipore 17-283)を用いて、Rac活性化を検討した。遊走試験は、試験例2-(3)に記載した方法で行い、T細胞の走化性因子としてSLCを、B細胞の走化性因子としてBLCをそれぞれ用いた。
【0192】
図5(A)に示すように、ケモカインによって誘導される免疫細胞(T細胞、B細胞)におけるRac活性化が、化合物6の存在により阻害されることが確認された。また、図5(B)に示すように、ケモカインによって誘導される免疫細胞(T細胞、B細胞)の遊走応答が、化合物6により用量依存的に阻害されることが確認された。なお、免疫細胞(T細胞、B細胞)は化合物6の存在によっても生存性が維持されていたことから、化合物6には細胞毒性はないことが確認された。
【0193】
試験例6 化合物6によるTCRを介したRac活性化とT細胞増殖応答の阻害
マウス脾臓より、Pan T cell isolation kit (Miltenyi Biotech, 130-095-130)を用いてT細胞を単離した。単離した細胞(1〜2 x 107個)を200 μlのHBSSに懸濁し、抗CD3ε抗体(Becton Dickinson, 145-2C11)を10μg/mlとなるように加え、氷上で20分間静置した。細胞を氷冷したHBSSで3回洗浄した後、200μlのHBSSに再懸濁し、100μMの化合物6もしくは等量のDMSO存在下、37℃で1時間培養した。培養後、抗ハムスター抗体(Becton Dickinson, G94-56)を10μg/mlとなるように加え、所定の時間37℃で保温し、Rac activation assay kit (Millipore 17-283)を用いて、Rac活性化を検討した。
【0194】
B6マウス由来のT細胞(3×105/well)を、放射線照射されたB10.BRマウス由来の脾臓細胞とともに、種々濃度の被験化合物またはDMSO(溶媒)の存在下で84時間培養した。培養の後半16時間の間[3H]チミジン(0.037MBq)を添加して培養した後、セルハーベスターを用いて細胞をガラス繊維ろ紙の上に回収し、1分間あたりのカウントを液体シンチレーションカウンターで測定した。
【0195】
図6(A) に示すように、TCRに対する刺激で誘導されるRac活性化が、化合物6の存在により阻害されることが確認された。また、図6(B)に示すように、化合物6の存在により、混合リンパ球反応が用量依存的に阻害されることが明らかになった。このことから、化合物6はTCRの下流でもDOCK2によるRacの活性化を阻害することにより、T細胞の活性化を抑制することが判明した。
【0196】
試験例7 化合物6によるpDCにおけるCpG誘導Rac活性化とIFN-α産生の阻害
マウス骨髄細胞をFlt3リガンド存在下で培養することにより、pDCに分化させた。得られた細胞(1〜2 x 107個)を200 μlのHBSSに懸濁し、100μMの化合物6もしくは等量のDMSO存在下、37℃で1時間培養した。培養後、3μMのCpG-A〔ODN D19、ggTGCATCGATGCAgggggG(配列番号1)、上流側の小文字はリン酸ジエステルで、下流側の小文字はホスホロチオエートで、それぞれ基本骨格が修飾されていることを示す〕を加えて、所定の時間37℃で保温し、Rac activation assay kit (ミリポア17-283)を用いてRac活性化を検討した。
【0197】
pDCを化合物6もしくはDMSO(溶媒)存在下で15分間処理した後、3μM のCpG-Aで24時間刺激した。細胞培養上清中の、IFN-α(R&D systems)とIL-12 p40(Thermo Fisher Scientific) の濃度をELISAキットによって測定した。
【0198】
図7(A)に示すように、CpGで誘導されるpDCのRac活性化が、化合物6の存在により阻害されることが確認された。また図7(B)に示すように、化合物6の存在により、CpGに応答したINF-αの産生は用量依存的に阻害されたが、IL-12の産生は阻害されなかった。これまでに、CpG刺激で誘導されるINF-α産生はDOCK2依存的で、IL-12産生はDOCK2非依存的であることが明らかになっている。これらのことから、pDCにおけるCpGに応答したシグナル伝達経路において、化合物6がDOCK2の活性を特異的に阻害していることが示された。
【0199】
試験例8 化合物6による自己免疫脳脊髄炎の改善
自己免疫脳脊髄炎(EAE)を誘導するために、0日目にCFA(5 mg/ml 結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を添加)中で乳化したミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)ペプチド35-55(Mimotopes)を、B6マウスの皮下に1匹あたり100μgを、0日目および2日目に腹腔内に1匹あたり500ngの百日咳毒素(Calbiochem)をそれぞれ投与した。
【0200】
自己免疫脳脊髄炎誘導の有無は、次の臨床スコアシステムを使用した:
0:無症状、1:尾が弛緩、2:後肢不完全麻痺、3:後肢完全麻痺、4:前肢不完全麻痺、5:四肢麻痺、6:死。
【0201】
スコアリングは、25日間、毎日行った。CPYPPを、最終濃度5 mg/mlになるようにDMSOに溶解し、0、 3、 6、 9日目に 100μlを上記マウスに腹腔内注射した。対照群には、DMSOのみを100μl注射した。
【0202】
図8に示すように、化合物6の投与により、自己免疫脳脊髄炎の臨床スコアならびに発症率が顕著に低下した。このことから、化合物6がマウス個体レベルで自己免疫疾患を阻害することが判明し、免疫抑制剤として有効であることが示された。同様の結果は、CPYPPを最終濃度4 mg/mlになるように0.5%メチルセルロースに溶解し、連日250μlを上記マウスに経口投与した場合にも認められた(データ省略)。
【0203】
試験例9 化合物6によるがん細胞浸潤および遊走の阻害
グリア芽腫細胞株(LN-229)ならびに肺がん細胞株(3LL)の細胞外マトリクスへの浸潤に対する化合物6の効果を検討した。
【0204】
DMEMで30分間平衡化させたマトリゲル(BD)の上部チャンバーに、DMEM(無血清)に懸濁したLN-229株もしくは3LL株を500μl、下部チャンバーに10% FCSを加えたDMEMを750μl入れ、37℃、5% CO2下で22時間培養した。チャンバーを外して培養液を除いた後、綿棒を用いて浸潤しなかった細胞を除去し、残った細胞(マトリゲルに浸潤した細胞)をDiff-quick(Sysmex)を用いて染色した。染色後、メスを用いてインサートを切り取り、プレパラートに封入し、光学顕微鏡下で計数した。
【0205】
LN-229株の遊走に対する化合物6の効果に関しては、創傷治癒試験(wound healing assay)により検討した。LN-229株(1 x 105個)を200μlの10% FCSを加えたDMEMに懸濁し、ガラスボトムディッシュ上で一晩培養し、細胞単層を形成させた。単層上を、200μlのチップを直線状に擦過することにより形成した創傷部を経時的に撮影した。創傷部の幅を測定することにより細胞遊走の距離を求めた。また、3LL株の遊走に対する化合物6の効果に関しては、Transwell試験により検討した。10% FCSを加えたDMEMを1ウエルあたり500μl入れた24穴プレートに、あらかじめDMEMで30分間平衡化させたTranswellチャンバー(孔径8.0 μm)をセットし、DMEM(無血清)に懸濁した3LL株を100μlをチャンバーに入れ、7℃、5% CO2下で10時間培養した。
【0206】
結果を図9に示す。図9(A)からわかるように、化合物6は、LN-229株および3LL株のいずれにおいても、がん細胞株の浸潤を効果的に阻害することが明らかになった。また、図9(B)および(C)にそれぞれ示すように、LN-229株(B)および3LL株(C)の遊走は化合物6により用量依存的に阻害されることが確認された。これらのことから、化合物6はがん細胞の浸潤や遊走を阻害する能力を有することが明らかになった。
【0207】
試験例10 化合物6によるがん細胞の足場非依存的な増殖の阻害
足場非依存的ながん細胞の増殖に対する化合物6の抑制効果を、ソフトアガーアッセイを用いて行った。3LL株(1 x 105個)を0.3%アガロース、10% FCSを含むDMEMに懸濁し、0.7%寒天、10% FCSを含むDMEM により6ウエルプレート中に形成させたベースアガー上に重層した。37℃、5%CO2環境下で10日間培養した後、0.005%クリスタルバイオレットで室温1時間の反応により細胞を染色し、形成されたコロニーの数を計数した。
【0208】
結果を図10に示す。化合物6の濃度依存的に形成される細胞コロニーの数が減少しており、化合物6が、がん細胞の特徴のひとつである足場非依存的な増殖を抑制することが示された。これらの結果から、化合物6は抗がん剤の有効成分として有用である可能性が示唆された。
【0209】
試験例11 化合物6のアナログによるDOCK2のGEF活性阻害
製造例1(化合物5)及び製造例3〜15(化合物7〜19)に記載する方法で製造した、化合物6のアナログ(14化合物)を対象として、試験例4と同様にして、DOCK2のGEF活性に対する阻害作用を評価し、IC50値を求めた。また、化合物6からシス体(化合物20)を単離し、その阻害活性も合わせて検討した。測定は、試験例2−(2)で記載したバッファーAおよびバッファーBの両方を用いて行い、それぞれについてIC50値を求めた。
【0210】
結果を表1に示す。この結果からわかるように、いずれのアナログもDOCK2のGEF活性に対する阻害作用を備えており、化合物6と同様に、不適切な免疫反応を抑制し、免疫抑制剤や免疫関連疾患の予防また治療剤の有効成分として有用であると考えられる。また、この結果から、これら化合物6のアナログには、化合物6と同様にDOCK180及びDOCK5のGEF活性に対する阻害作用も備えていることが強く推察される。
【0211】
【表1】
【0212】
【0213】
【配列表フリーテキスト】
【0214】
配列番号1は、CpG-Aの塩基配列を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]