(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項19〜21のいずれか一項に記載の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液を、インクジェット法により塗布して作製された請求項22〜24のいずれか一項に記載の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜。
請求項19〜21のいずれか一項に記載の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液を、インクジェット法により塗布し、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜を形成する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが特許文献1または2に記載の化合物を用いた有機薄膜トランジスタについて検討したところ、ベンゼン環の左右にチエノチオフェン環が異なる向きに縮環した化合物は、キャリア移動度が低いことがわかった。また、特許文献1に開示されているベンゼン環の左右にチオチオフェン環が同じ向きに縮環した化合物も、キャリア移動度が低いことがわかった。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために検討を進めた。
本発明が解決しようとする課題は、キャリア移動度が高い有機薄膜トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ベンゼン環に4つのヘテロ5員環が縮環した骨格(以下、ヘテロ縮合環骨格とも言う)構造を有する化合物に、特定の範囲の炭素数のアルキル基を含む置換基を置換させることで、有機薄膜トランジスタの半導体活性層に用いたときにキャリア移動度が高くなることを見出し、本発明に至った。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物を半導体活性層に含む有機薄膜トランジスタ:
一般式(1)
【化1】
一般式(1)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にNR
100、O原子またはS原子を表し、
R
100は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アリール基またはヘテロアリール基を表し、
R
1〜R
6はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
6のうち少なくとも1つが下記一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Rは炭素数5〜19のアルキル基を表し、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化2】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
[2] [1]に記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2−1)または(2−2)で表される化合物であることが好ましい:
一般式(2−1)
【化3】
一般式(2−1)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1〜R
3、R
4AおよびR
5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
3、R
4AおよびR
5は、−L
a−R
aで表される基ではなく、
R
aは炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
aは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
一般式(2−2)
【化4】
一般式(2−2)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1、R
2、R
3CおよびR
4Bはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
bおよびR
cはそれぞれ独立に炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
bおよびL
cはそれぞれ独立に下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化5】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
[3] [1]または[2]に記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2−2A)で表される化合物であることが好ましい:
一般式(2−2A)
【化6】
一般式(2−2A)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
bおよびR
cはそれぞれ独立に炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
bおよびL
cはそれぞれ独立に下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化7】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、L、L
a、L
bおよびL
cがそれぞれ独立に一般式(L−1)〜(L−5)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基であることが好ましい。
[5] [1]〜[4]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、L、L
a、L
bおよびL
cがそれぞれ独立に一般式(L−1)〜(L−3)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基、あるいは、一般式(L−2)、(L−3)および(L−13)〜(L−24)のいずれか1つで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基とが結合した2価の連結基であることが好ましい。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、L、L
a、L
bおよびL
cがそれぞれ独立に一般式(L−2)、(L−3)、(L−14)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基とが結合した2価の連結基であることが好ましい。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、R、R
a、R
bおよびR
cがそれぞれ独立に無置換のアルキル基であることが好ましい。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、R、R
a、R
bおよびR
cの少なくとも一つが、分枝アルキル基であることが好ましい。
[9] 下記一般式(1)で表される化合物:
一般式(1)
【化8】
一般式(1)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にNR
100、O原子またはS原子を表し、
R
100は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アリール基またはヘテロアリール基を表し、
R
1〜R
6はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
6のうち少なくとも1つが下記一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Rは炭素数5〜19のアルキル基を表し、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化9】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
[10] [9]に記載の化合物は、一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2−1)または(2−2)で表される化合物であることが好ましい:
一般式(2−1)
【化10】
一般式(2−1)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1〜R
3、R
4AおよびR
5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
3、R
4AおよびR
5は、−L
a−R
aで表される基ではなく、
R
aは炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
aは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
一般式(2−2)
【化11】
一般式(2−2)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1、R
2、R
3CおよびR
4Bはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
bおよびR
cはそれぞれ独立に炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
bおよびL
cはそれぞれ独立に下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化12】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
[11] [9]または[10]に記載の化合物は、一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2−2A)で表される化合物であることが好ましい:
一般式(2−2A)
【化13】
一般式(2−2A)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
bおよびR
cはそれぞれ独立に炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
bおよびL
cはそれぞれ独立に下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化14】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
[12] [9]〜[11]のいずれかに記載の化合物は、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、L、L
a、L
bおよびL
cがそれぞれ独立に一般式(L−1)〜(L−5)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基であることが好ましい。
[13] [9]〜[12]のいずれかに記載の化合物は、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、L、L
a、L
bおよびL
cがそれぞれ独立に一般式(L−1)〜(L−3)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基、あるいは、一般式(L−2)、(L−3)および(L−13)〜(L−24)のいずれか1つで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基とが結合した2価の連結基であることが好ましい。
[14] [9]〜[13]のいずれかに記載の化合物は、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、L、L
a、L
bおよびL
cがそれぞれ独立に一般式(L−2)、(L−3)、(L−14)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基とが結合した2価の連結基であることが好ましい。
[15] [9]〜[14]のいずれかに記載の化合物は、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、R、R
a、R
bおよびR
cがそれぞれ独立に無置換のアルキル基であることが好ましい。
[16] [9]〜[15]のいずれかに記載の化合物は、一般式(1)、(2−1)、(2−2)または(2−2A)中、R、R
a、R
bおよびR
cの少なくとも一つが、分枝アルキル基であることが好ましい。
[17] [9]〜[16]のいずれかに記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料。
[18] [9]〜[16]のいずれかに記載の化合物を含有する有機薄膜トランジスタ用材料。
[19] [9]〜[16]のいずれかに記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液。
[20] [9]〜[16]のいずれかに記載の化合物と、ポリマーバインダーとを含有する非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液。
[21] [19]または[20]に記載の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液は、非ハロゲン系溶媒をさらに含む。
[22] [9]〜[16]のいずれかに記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜。
[23] [9]〜[16]のいずれかに記載の化合物と、ポリマーバインダーとを含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜。
[24] [22]または[23]に記載の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、溶液塗布法により作製されたことが好ましい。
[25] [22]〜[24]のいずれかに記載の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、[19]〜[21]のいずれかに記載の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液を、インクジェット法により塗布して作製されたことが好ましい。
[26] [19]〜[21]のいずれかに記載の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液を、インクジェット法により塗布し、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜を形成する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キャリア移動度が高い有機薄膜トランジスタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、各一般式の説明において特に区別されずに用いられている場合における水素原子は同位体(重水素原子等)も含んでいることを表す。さらに、置換基を構成する原子は、その同位体も含んでいることを表す。
【0013】
[有機薄膜トランジスタ]
本発明の有機薄膜トランジスタは、下記一般式(1)で表される化合物を半導体活性層に含むことを特徴とする。
一般式(1)
【化15】
一般式(1)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にNR
100、O原子またはS原子を表し、
R
100は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アリール基またはヘテロアリール基を表し、
R
1〜R
6はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
6のうち少なくとも1つが下記一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Rは炭素数5〜19のアルキル基を表し、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化16】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0014】
このような構成により、本発明の有機薄膜トランジスタは、キャリア移動度が高い。
ここで、特許文献1および2には、ベンゼン環に、置換又は未置換のチエノチオフェン環が2つ縮環した化合物が記載されている。その中でも、ベンゼン環の左右にチエノチオフェン環が異なる向きに縮環した化合物は、分子の対称性が高いことにより溶解性が極端に低く、そのため基板上での結晶化速度が速く、単結晶が成長しにくく、多結晶になりやすい。結果、結晶間の粒界部分が多くなるため、高いキャリア移動度が得られない。また、特許文献1に開示されているベンゼン環の左右にチオチオフェン環が同じ向きに縮環した化合物は、ベンゼン環の左右にチオチオフェン環が同じ向きに縮環した母核に、短いアルキル基または短いアルキル基でさらに置換された置換基が置換した構造であり、いかなる理論に拘泥するものでもないが、アルキル鎖長が短いために高キャリア移動度をもたらす結晶構造をとれないことがキャリア移動度の低さの原因と考えられる。
これに対し、一般式(1)で表される化合物は、ベンゼン環の左右にチオチオフェン環が同じ向きに縮環した緩やかなV字の骨格構造を有しており、末端のアルキル鎖長が適度に長い置換基をさらに導入することで結晶系が特許文献1に記載の化合物とは異なった結果、高キャリア移動度をもたらす結晶構造をとることができる。
【0015】
一般式(1)で表される化合物については、一般式(W)で表される基の導入が一般的な有機溶剤に対する溶解性向上に効果的であり、一般式(1)で表される化合物はこれまで困難であった高移動度と溶解性の両立ができることが好ましい。
【0016】
さらに、一般式(1)で表される化合物を用いた本発明の有機薄膜トランジスタは、繰り返し駆動後の閾値電圧変化も小さいことが好ましい。繰り返し駆動後の閾値電圧変化を小さくするためには、有機半導体材料のHOMOが浅すぎずかつ深すぎないこと、有機半導体材料の化学的安定性(特に耐空気酸化性、酸化還元安定性)、薄膜状態の熱安定性、空気や水分が入りこみにくい高い膜密度、電荷がたまりにくい欠陥の少ない膜質、等が必要である。また、一般式(1)で表される化合物は、成膜時の有機溶媒への溶解性が高いほど、有機薄膜トランジスタの半導体活性層に用いたときの繰り返し駆動後の閾値電圧変化を小さくできる。一般式(1)で表される化合物はこれらを満足するため、繰り返し駆動後の閾値電圧変化が小さいと考えられる。すなわち、繰り返し駆動後の閾値電圧変化が小さい有機薄膜トランジスタは、半導体活性層が高い化学的安定性や膜密度等を有し、長期間に渡ってトランジスタとして有効に機能し得る。
【0017】
一般式(1)で表される化合物は、ベンゼン環の左右にチオチオフェン環が同じ向きに縮環した緩やかなV字の骨格構造を有していることで、分子が棒状であるベンゼン環の左右にチエノチオフェン環が異なる向きに縮環した化合物に比べてキャリア移動度のバラツキが小さいことが好ましい。
【0018】
さらに一般式(1)で表される化合物は、ベンゼン環の左右にチオチオフェン環が同じ向きに縮環した緩やかなV字の骨格構造を有しており、末端のアルキル鎖長が適度に長い置換基をさらに導入することで結晶系が特許文献1に記載の化合物とは異なった結果、相転移温度も上昇することが好ましい。すなわち、一般式(1)で表される化合物は有機薄膜トランジスタに用いたときに、(キャリア移動度の)耐熱性も向上することが好ましい。
【0019】
以下、本発明の化合物や本発明の有機薄膜トランジスタなどの好ましい態様を説明する。
【0020】
<一般式(1)で表される化合物>
本発明の化合物は、一般式(1)で表されることを特徴とする。本発明の化合物は、本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、後述の半導体活性層に含まれる。すなわち、本発明の化合物は、有機薄膜トランジスタ用材料として用いることができる。
【0021】
一般式(1)
【化17】
一般式(1)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にNR
100、O原子またはS原子を表し、
R
100は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アリール基またはヘテロアリール基を表し、
R
1〜R
6はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
6のうち少なくとも1つが下記一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Rは炭素数5〜19のアルキル基を表し、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化18】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0022】
一般式(1)中、X
1〜X
4はそれぞれ独立にNR
100、O原子またはS原子を表し、R
100は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子であることが合成容易性の観点から好ましい。一方、X
1〜X
4のうち少なくとも1つがS原子であることが、キャリア移動度を高める観点から好ましい。X
1〜X
4は、同じ連結基であることが好ましい。X
1〜X
4はいずれもS原子であることがより好ましい。
R
100は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アリール基またはヘテロアリール基を表し、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアシル基であることが好ましく、水素原子またはアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜14のアルキル基であることが特に好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより特に好ましい。
R
100がアルキル基を表す場合、直鎖アルキル基でも、分枝アルキル基でも、環状アルキル基でもよいが、直鎖アルキル基であることが、分子の直線性が高まり、キャリア移動度を高めることができる観点から好ましい。
【0023】
一般式(1)中、R
1〜R
6はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、少なくとも1つは一般式(W)で表される基を表す。
一般式(1)のR
1〜R
6がそれぞれ独立にとりうる置換基として、ハロゲン原子、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等の炭素数1〜40のアルキル基、ただし、2,6−ジメチルオクチル基、2−デシルテトラデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−エチルオクチル基、2−デシルテトラデシル基、2−ブチルデシル基、1−オクチルノニル基、2−エチルオクチル基、2−オクチルテトラデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基等を含む)、アルケニル基(1−ペンテニル基、シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基等を含む)、アルキニル基(1−ペンチニル基、トリメチルシリルエチニル基、トリエチルシリルエチニル基、トリ−i−プロピルシリルエチニル基、2−p−プロピルフェニルエチニル基等を含む)、アリール基(フェニル基、ナフチル基、p−ペンチルフェニル基、3,4−ジペンチルフェニル基、p−ヘプトキシフェニル基、3,4−ジヘプトキシフェニル基の炭素数6〜20のアリール基等を含む)、複素環基(ヘテロ環基といってもよい。2−ヘキシルフラニル基等を含む)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アシル基(ヘキサノイル基、ベンゾイル基等を含む)、アルコキシ基(ブトキシ基等を含む)、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基(ウレイド基含む)、アルコキシおよびアリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルおよびアリールチオ基(メチルチオ基、オクチルチオ基等を含む)、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールおよびヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基(ジトリメチルシロキシメチルブトキシ基等)、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(−B(OH)
2)、ホスファト基(−OPO(OH)
2)、スルファト基(−OSO
3H)、その他の公知の置換基が挙げられる。
また、これら置換基は、さらに上記置換基を有していてもよい。また、一般式(1)で表される化合物が繰り返し構造を有する高分子化合物である場合は、R
1〜R
6が重合性基由来の基を有していてもよい。
これらの中でも、R
1〜R
6がそれぞれ独立にとりうる置換基として、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アルキルチオ基、後述の一般式(W)で表される基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基、炭素数1〜11のアルコキシ基、炭素数5〜12の複素環基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、後述の一般式(W)で表される基がより好ましく、後述の連結基鎖長が3.7Å以下の基および後述の一般式(W)で表される基が特に好ましく、後述の一般式(W)で表される基がより特に好ましい。
【0024】
一般式(W)で表される基について説明する。
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、Rは炭素数5〜19のアルキル基を表し、Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【化19】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0025】
一般式(W)において、Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上が結合した2価の連結基を表す。
【化20】
【0026】
一般式(L−1)〜(L−25)において、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表す。なお、本明細書中、Lが、2以上の一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す場合、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置および一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基のいずれかとの結合位置を表してもよい。
*は一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基およびRのいずれかとの結合位置を示す。
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表す。
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
R
Nは水素原子または置換基を表す。
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
一般式(L−1)および(L−2)中のR’はそれぞれLに隣接するRと結合して縮合環を形成してもよい。
【0027】
この中でも、一般式(L−17)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)で表される2価の連結基は、下記一般式(L−17A)、(L−18A)、(L−18B)、(L−19A)〜(L−21A)、(L−23A)および(L−24A)で表される2価の連結基であることがより好ましく、下記一般式(L−17A)、(L−18A)、(L−18B)で表される2価の連結基であることが特に好ましく、下記一般式(L−18B)で表される2価の連結基であることがより特に好ましい。
【化21】
【0028】
ここで、一般式(W)で表される置換基の末端に存在する炭素数5〜19のアルキル基であるRは、一般式(L−1)で表される2価の連結基の繰り返しを置換基内部に1または複数個含む基として考えられるため、一般式(W)における−R単独と解釈することもでき、一般式(W)における−L−Rと解釈することもできる。
本発明では、一般式(W)で表される置換基の末端にある「主鎖の炭素数N個のアルキル基」は、置換基の末端から可能な限りの連結基をRに含めた上で、一般式(W)における−L−Rと解釈することとし、−R単独とは解釈しない。具体的には「一般式(W)におけるLに相当する(L−1)1個」と「一般式(W)におけるRに相当する主鎖が炭素数N−1個の置換または無置換のアルキル基」とが結合した置換基として解釈する。例えば、炭素数8のアルキル基であるn−オクチル基が置換基の末端に存在する場合、2個のR’が水素原子である(L−1)1個と、炭素数7のn−ヘプチル基とが結合した置換基として解釈する。また、一般式(W)で表される置換基が炭素数8のアルコキシ基である場合、−O−である一般式(L−4)で表される連結基1個と、2個のR’が水素原子である(L−1)で表される連結基1個と、炭素数7のn−ヘプチル基とが結合した置換基として解釈する。
【0029】
Lが一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した連結基を形成する場合、一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基の結合数は2〜4であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。
【0030】
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)中の置換基R’としては、上記の一般式(1)のR
1〜R
6が採りうる置換基として例示したものを挙げることができる。その中でも一般式(L−6)中の置換基R’はアルキル基であることが好ましく、(L−6)中のR’がアルキル基である場合は、アルキル基の炭素数は1〜9であることが好ましく、4〜9であることが化学的安定性、キャリア輸送性の観点からより好ましく、5〜9であることがさらに好ましい。(L−6)中のR’がアルキル基である場合は、アルキル基は直鎖アルキル基であることが、キャリア移動度を高めることができる観点から好ましい。
【0031】
R
Nは水素原子または置換基を表し、R
Nとしては、上記の一般式(1)のR
1〜R
6が採りうる置換基として例示したものを挙げることができる。その中でもR
Nとしては水素原子またはメチル基が好ましい。
【0032】
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基を表し、アルキル基であることが好ましい。R
siがとり得るアルキル基としては特に制限はないが、R
siがとり得るアルキル基は炭素数は1〜3であることが好ましく、例えば、メチル基やエチル基やイソプロピル基が結合することが好ましい。Si原子には、同一のアルキル基が結合してもよく、異なるアルキル基が結合してもよい。R
siがとり得るアルケニル基としては特に制限はないが、置換または無置換のアルケニル基が好ましく、分枝アルケニル基であることがより好ましく、アルケニル基の炭素数は2〜3であることが好ましい。R
siがとり得るアルキニル基としては特に制限はないが、置換または無置換のアルキニル基が好ましく、分枝アルキニル基であることがより好ましく、アルキニル基の炭素数は2〜3であることが好ましい。
【0033】
Lは、化学的安定性、キャリア輸送性の観点から一般式(L−1)で表される2価の連結基を、一般式(L−1)で表される2価の連結基がRに連結するように含む2価の連結基であることが好ましい。
Lは、一般式(L−1)〜(L−5)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基であることが好ましい。
Lは、一般式(L−1)〜(L−3)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基、あるいは、一般式(L−2)、(L−3)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基とが結合した2価の連結基であることが耐熱性を高める観点から好ましく、一般式(L−2)、(L−3)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基が結合した2価の連結基であることがより好ましい。
Lは、一般式(L−2)、(L−3)、(L−14)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)のいずれかで表される2価の連結基、あるいは、一般式(L−2)、(L−3)、(L−14)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基とが結合した2価の連結基であることがキャリア移動度および耐熱性を高める観点から好ましく、一般式(L−2)、(L−3)、(L−14)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)のいずれかで表される2価の連結基またはこれらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基が結合した2価の連結基であることがより好ましく、一般式(L−2)、(L−3)、(L−14)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)のいずれかで表される2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基が結合した2価の連結基であることが特に好ましい。
Lは、一般式(L−17)または(L−18)で表される2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基が結合した2価の連結基であることがキャリア移動度および耐熱性を高める観点から好ましく、一般式(L−18)で表される2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基が結合した2価の連結基であることがキャリア移動度および耐熱性を高める観点からより好ましい。
【0034】
一般式(W)において、Rは炭素数5〜19のアルキル基を表す。
Rがアルキル基を表す場合、直鎖アルキル基でも、分枝アルキル基でも、環状アルキル基でもよいが、直鎖アルキル基であることが、分子の直線性が高まり、キャリア移動度を高めることができる観点から好ましい。
一方、有機溶媒への溶解性を高め、キャリア移動度のバラツキを抑制する観点からは、Rが分枝アルキル基であることが好ましい。
【0035】
Rが表すアルキル基の炭素数の好ましい範囲は、一般式(W)におけるRとLの組み合わせによって異なる。
一般式(1)のLが一般式(L−1)で表される2価の連結基である場合、Rが炭素数7〜19のアルキル基であることが、キャリア移動度を高める観点から好ましい。この場合、Rが炭素数8〜17のアルキル基であることがキャリア移動度を高める観点からより好ましい。その中でも、分枝の炭素数8〜17のアルキル基であることがキャリア移動度と溶解性を高め、キャリア移動度のバラツキを抑制する観点から特に好ましく、分枝の炭素数8〜12のアルキル基であることがより特に好ましい。一方、直鎖の炭素数8〜17のアルキル基であることがキャリア移動度および耐熱性を高める観点から特に好ましく、直鎖の炭素数10〜14のアルキル基であることがより特に好ましい。
一般式(1)のLが一般式(L−2)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基が結合した2価の連結基である場合、Rが炭素数5〜18のアルキル基であることが好ましい。この場合、Rが炭素数5〜13のアルキル基であることがキャリア移動度を高める観点からより好ましい。その中でも、分枝の炭素数7〜13のアルキル基であることがキャリア移動度を高め、キャリア移動度のバラツキを抑制する観点から特に好ましく、分枝の炭素数7〜11のアルキル基であることがより特に好ましい。一方、直鎖の炭素数8〜17のアルキル基であることがキャリア移動度および耐熱性を高める観点から特に好ましく、直鎖の炭素数10〜14のアルキル基であることがより特に好ましい。
一般式(W)におけるRとLの組み合わせとしては、一般式(1)のLが一般式(L−2)、(L−3)および(L−13)〜(L−24)のいずれか1つで表される2価の連結基と一般式(L−1)で表される2価の連結基が結合した2価の連結基であり、かつ、Rが分枝アルキル基であることがキャリア移動度、有機溶媒への溶解性、耐熱性を高め、キャリア移動度のバラツキを抑制する観点からさらにより好ましく、一般式(1)のLが一般式(L−2)、(L−3)、(L−14)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)のいずれかで表される2価の連結基であり、かつ、Rが分枝の炭素数8〜17のアルキル基であることが特に好ましい。
【0036】
Rが置換基を有するアルキル基である場合の置換基としては、ハロゲン原子などを挙げることができ、フッ素原子が好ましい。なお、Rがフッ素原子を有するアルキル基である場合はアルキル基の水素原子が全てフッ素原子で置換されてパーフルオロアルキル基を形成してもよい。ただし、Rは無置換のアルキル基であることが好ましい。
【0037】
一般式(W)において、LおよびRに含まれる炭素数の合計は6〜20であることが好ましい。例えば、Lが(L−1)であり、Rが炭素数5〜19のアルキル基である場合、LおよびRに含まれる炭素数の合計は6〜20である。LおよびRに含まれる炭素数の合計が上記範囲の下限値以上であると、キャリア移動度が高くなり、駆動電圧を低くなる。LおよびRに含まれる炭素数の合計が上記範囲の上限値以下であると、有機溶媒に対する溶解性が高くなる。
LおよびRに含まれる炭素数の合計は8〜20であることが好ましく、8〜16であることがより好ましく、8〜14であることが特に好ましく、8〜12であることがより特に好ましい。
【0038】
一般式(1)で表される化合物中、R
1〜R
6のうち、一般式(W)で表される基は1〜4個であることが、キャリア移動度を高め、有機溶媒への溶解性を高める観点から好ましく、1または2個であることがより好ましく、2個であることが特に好ましい。
R
1〜R
8のうち、一般式(W)で表される基の位置に特に制限はないが、R
3〜R
6であることが好ましく、R
5またはR
6であることが、キャリア移動度を高め、有機溶媒への溶解性を高める観点からより好ましい。
【0039】
R
1〜R
6のうち、一般式(W)で表される基以外の置換基は、0〜4個であることが好ましく、0〜2個であることがより好ましく、0または1個であることが特に好ましく、0個であることがより特に好ましい。
【0040】
R
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基は、連結基鎖長が3.7Å以下の基であることが好ましく、連結基鎖長が1.0〜3.7Åの基であることが好ましく、連結基鎖長が1.0〜2.1Åの基であることがより好ましい。
ここで、連結基鎖長とはC−R
0結合におけるC原子から置換基R
0の末端までの長さのことを指す。構造最適化計算は、密度汎関数法(Gaussian03(米ガウシアン社)/基底関数:6−31G*、交換相関汎関数:B3LYP/LANL2DZ)を用いて行うことができる。なお、代表的な置換基の分子長としては、プロピル基は4.6Å、ピロール基は4.6Å、プロピニル基は4.5Å、プロペニル基は4.6Å、エトキシ基は4.5Å、メチルチオ基は3.7Å、エテニル基は3.4Å、エチル基は3.5Å、エチニル基は3.6Å、メトキシ基は3.3Å、メチル基は2.1Å、水素原子は1.0Åである。
R
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基はそれぞれ独立に炭素数2以下の置換または無置換のアルキル基、炭素数2以下の置換または無置換のアルキニル基、炭素数2以下の置換または無置換のアルケニル基、炭素数2以下の置換または無置換のアシル基であることが好ましく、炭素数2以下の置換または無置換のアルキル基であることがより好ましい。
R
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基がそれぞれ独立に炭素数2以下の置換アルキル基を表す場合、アルキル基がとり得る置換基としては、シアノ基、フッ素原子、重水素原子などを挙げることができ、シアノ基が好ましい。一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基が表す炭素数2以下の置換または無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、シアノ基置換のメチル基が好ましく、メチル基またはシアノ基置換のメチル基がより好ましく、シアノ基置換のメチル基が特に好ましい。
R
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基がそれぞれ独立に炭素数2以下の置換アルキニル基を表す場合、アルキニル基がとり得る置換基としては、重水素原子などを挙げることができる。一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基が表す炭素数2以下の置換または無置換のアルキニル基としては、エチニル基、重水素原子置換のアセチレン基を挙げることができ、エチニル基が好ましい。
R
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基がそれぞれ独立に炭素数2以下の置換アルケニル基を表す場合、アルケニル基がとり得る置換基としては、重水素原子などを挙げることができる。一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基が表す炭素数2以下の置換または無置換のアルケニル基としては、エテニル基、重水素原子置換のエテニル基を挙げることができ、エテニルが好ましい。
R
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基がそれぞれ独立に炭素数2以下の置換アシル基を表す場合、アシル基がとり得る置換基としては、フッ素原子などを挙げることができる。一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の置換基が表す炭素数2以下の置換または無置換のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、フッ素置換のアセチル基を挙げることができ、ホルミル基が好ましい。
【0041】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2−1)または(2−2)で表される化合物であることが好ましく、高移動度の観点からは一般式(2−2)で表される化合物であることが特に好ましい。また、一般式(2−2)で表される化合物は、後述する一般式(2−2A)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(1)で表される化合物が下記一般式(2−1)で表される化合物である場合について、まず説明する。
【0043】
一般式(2−1)中、X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1〜R
3、R
4AおよびR
5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
3、R
4AおよびR
5は、−L
a−R
aで表される基ではなく、
R
aは炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
aは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【0044】
【化23】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0045】
一般式(2−1)中、X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表す。一般式(2−1)におけるX
1〜X
4の好ましい範囲は一般式(1)におけるX
1〜X
4の好ましい範囲と同様である。
一般式(2−1)中、R
1〜R
3、R
4A、及び、R
5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
3、R
4A、及び、R
5は−L
a−R
aで表される基ではない。一般式(2−1)中のR
1〜R
3、R
4A、及び、R
5が置換基を表す場合、この置換基の好ましい範囲は、一般式(1)中のR
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の好ましい範囲と同様である。
一般式(2−1)中、L
aは一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表し、R
aは炭素数5〜19のアルキル基を表す。一般式(2−1)中のL
aおよびR
aの好ましい範囲は、一般式(1)中のLおよびRの好ましい範囲と同様である。
【0046】
前記一般式(2−1)で表される化合物は、下記一般式(2−1A)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(2−1A)
【化24】
【0047】
一般式(2−1A)中、X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1〜R
3およびR
5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R
1〜R
3およびR
5は、−L
a−R
aで表される基ではなく、
R
aは炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
aは前記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の前記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
一般式(2−1A)におけるX
1〜X
4の好ましい範囲は一般式(1)におけるX
1〜X
4の好ましい範囲と同様である。
一般式(2−1A)中、R
1〜R
3およびR
5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。一般式(2−1)中のR
1〜R
3およびR
5が置換基を表す場合、この置換基の好ましい範囲は、一般式(1)中のR
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の好ましい範囲と同様である。
一般式(2−1A)中のL
aの好ましい範囲は一般式(1)中のLの好ましい範囲と同様であり、一般式(2−1A)中のR
aの好ましい範囲は一般式(1)中のRの好ましい範囲と同様である。
【0048】
次に、一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2−2)で表される化合物である場合について説明する。
【0050】
一般式(2−2)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1、R
2、R
3CおよびR
4Bはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
bおよびR
cはそれぞれ独立に炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
bおよびL
cはそれぞれ独立に下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【0052】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0053】
一般式(2−2)中、X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表す。一般式(2−2)におけるX
1〜X
4の好ましい範囲は一般式(1)におけるX
1〜X
4の好ましい範囲と同様である。
【0054】
一般式(2−2)中、R
1、R
2、R
3CおよびR
4Bはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。一般式(2−2)中のR
1、R
2、R
3CおよびR
4Bが置換基を表す場合、この置換基の好ましい範囲は、一般式(1)中のR
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の好ましい範囲と同様である。
一般式(2−2)中、L
bおよびL
cはそれぞれ独立に一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表し、R
bおよびR
cはそれぞれ独立に炭素数5〜19のアルキル基を表す。一般式(2−2)中のL
bおよびL
cの好ましい範囲は一般式(1)中のLの好ましい範囲と同様であり、一般式(2−2)中のR
bおよびR
cの好ましい範囲は一般式(1)中のRの好ましい範囲と同様である。
【0055】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2−2A)で表される化合物であることが特に好ましい。下記構造の化合物は、高キャリア移動度をもたらす平面性の高い結晶構造を取りやすいので、キャリア移動度の高い有機薄膜トランジスタが得られやすい。
【0056】
一般式(2−2A)
【化27】
一般式(2−2A)中、
X
1〜X
4はそれぞれ独立にO原子またはS原子を表し、
R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
bおよびR
cはそれぞれ独立に炭素数5〜19のアルキル基を表し、
L
bおよびL
cはそれぞれ独立に下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または2以上の下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した2価の連結基を表す;
【0058】
一般式(L−1)〜(L−25)中、波線部分はヘテロ縮合環骨格との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
R
Nは水素原子または置換基を表し、
R
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0059】
一般式(2−2A)におけるX
1〜X
4の好ましい範囲は一般式(1)におけるX
1〜X
4の好ましい範囲と同様である。
【0060】
一般式(2−2)中のR
1およびR
2が置換基を表す場合、この置換基の好ましい範囲は、一般式(1)中のR
1〜R
6が一般式(W)で表される置換基以外の置換基である場合の好ましい範囲と同様である。
一般式(2−2A)中のL
bおよびL
cの好ましい範囲は一般式(1)中のLの好ましい範囲と同様であり、一般式(2−2A)中のR
bおよびR
cの好ましい範囲は一般式(1)中のRの好ましい範囲と同様である。
【0061】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明で用いることができる一般式(1)で表される化合物は、これらの具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0066】
上記一般式(1)で表される化合物は、繰り返し構造をとってもよく、低分子でも高分子でも良い。一般式(1)で表される化合物が低分子化合物の場合は、分子量が3000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、850以下であることが特に好ましい。分子量を上記上限値以下とすることにより、溶媒への溶解性を高めることができるため好ましい。
一方で、薄膜の膜質安定性の観点からは、分子量は400以上であることが好ましく、450以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましい。
また、一般式(1)で表される化合物が繰り返し構造を有する高分子化合物の場合は、重量平均分子量が3万以上であることが好ましく、5万以上であることがより好ましく、10万以上であることがさらに好ましい。一般式(1)で表される化合物が繰り返し構造を有する高分子化合物である場合に、重量平均分子量を上記下限値以上とすることにより、分子間相互作用を高めることができ、高い移動度が得られるため好ましい。
繰り返し構造を有する高分子化合物としては、一般式(1)で表される化合物が少なくとも1つ以上のアリーレン基、ヘテロアリーレン基(チオフェン、ビチオフェン)を表して繰り返し構造を示すπ共役ポリマーや、一般式(1)で表される化合物が高分子主鎖に側鎖を介して結合したペンダント型ポリマーがあげられ、高分子主鎖としては、ポリアクリレート、ポリビニル、ポリシロキサンなどが好ましく、側鎖としては、アルキレン基、ポリエチレンオキシド基などが好ましい。
【0067】
一般式(1)で表される化合物は、後述のScheme1に記載の化合物aを出発原料として公知文献(Bull.Chem.Soc.Jpn.,1987,60,4187、J.Am.Chem.Soc.2011,133,5024、Chem.Eur.J.2013,19,3721)を参考に合成することができる。
本発明の化合物の合成において、いかなる反応条件を用いてもよい。反応溶媒としては、いかなる溶媒を用いてもよい。また、環形成反応促進のために、酸または塩基を用いることが好ましく、特に塩基を用いることが好ましい。最適な反応条件は、目的とする化合物の構造により異なるが、上記の文献に記載された具体的な反応条件を参考に設定することができる。
【0068】
各種置換基を有する合成中間体は公知の反応を組み合わせて合成することができる。また、各置換基はいずれの中間体の段階で導入してもよい。中間体の合成後は、カラムクロマトグラフィー、再結晶等による精製を行った後、昇華精製により精製する事が好ましい。昇華精製により、有機不純物を分離できるだけでなく、無機塩や残留溶媒等を効果的に取り除くことができる。
【0069】
<有機薄膜トランジスタの構造>
本発明の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)で表される化合物を含む半導体活性層を有する。
本発明の有機薄膜トランジスタは、さらに半導体活性層以外にその他の層を含んでいてもよい。
本発明の有機薄膜トランジスタは、有機電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、FET)として用いられることが好ましく、ゲート−チャンネル間が絶縁されている絶縁ゲート型FETとして用いられることがより好ましい。
以下、本発明の有機薄膜トランジスタの好ましい構造の態様について、図面を用いて詳しく説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0070】
(積層構造)
有機電界効果トランジスタの積層構造としては特に制限はなく、公知の様々な構造のものとすることができる。
本発明の有機薄膜トランジスタの構造の一例としては、最下層の基板の上面に、電極、絶縁体層、半導体活性層(有機半導体層)、2つの電極を順に配置した構造(ボトムゲート・トップコンタクト型)を挙げることができる。この構造では、最下層の基板の上面の電極は基板の一部に設けられ、絶縁体層は、電極以外の部分で基板と接するように配置される。また、半導体活性層の上面に設けられる2つの電極は、互いに隔離して配置される。
ボトムゲート・トップコンタクト型素子の構成を
図1に示す。
図1は、本発明の有機薄膜トランジスタの一例の構造の断面を示す概略図である。
図1の有機薄膜トランジスタは、最下層に基板11を配置し、その上面の一部に電極12を設け、さらに電極12を覆い、かつ電極12以外の部分で基板11と接するように絶縁体層13を設けている。さらに絶縁体層13の上面に半導体活性層14を設け、その上面の一部に2つの電極15aと15bとを隔離して配置している。
図1に示した有機薄膜トランジスタは、電極12がゲートであり、電極15aと電極15bはそれぞれドレインまたはソースである。また、
図1に示した有機薄膜トランジスタは、ドレイン−ソース間の電流通路であるチャンネルと、ゲートとの間が絶縁されている絶縁ゲート型FETである。
【0071】
本発明の有機薄膜トランジスタの構造の一例としては、ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子を挙げることができる。
ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子の構成を
図2に示す。
図2は本発明の実施例でFET特性測定用基板として製造した有機薄膜トランジスタの構造の断面を示す概略図である。
図2の有機薄膜トランジスタは、最下層に基板31を配置し、その上面の一部に電極32を設け、さらに電極32を覆い、かつ電極32以外の部分で基板31と接するように絶縁体層33を設けている。さらに絶縁体層33の上面に半導体活性層35を設け、電極34aと34bが半導体活性層35の下部にある。
図2に示した有機薄膜トランジスタは、電極32がゲートであり、電極34aと電極34bはそれぞれドレインまたはソースである。また、
図2に示した有機薄膜トランジスタは、ドレイン−ソース間の電流通路であるチャンネルと、ゲートとの間が絶縁されている絶縁ゲート型FETである。
【0072】
本発明の有機薄膜トランジスタの構造としては、その他、絶縁体、ゲート電極が半導体活性層の上部にあるトップゲート・トップコンタクト型素子や、トップゲート・ボトムコンタクト型素子も好ましく用いることができる。
【0073】
(厚さ)
本発明の有機薄膜トランジスタは、より薄いトランジスタとする必要がある場合には、例えばトランジスタ全体の厚さを0.1〜0.5μmとすることが好ましい。
【0074】
(封止)
有機薄膜トランジスタ素子を大気や水分から遮断し、有機薄膜トランジスタ素子の保存性を高めるために、有機薄膜トランジスタ素子全体を金属の封止缶やガラス、窒化ケイ素などの無機材料、パリレンなどの高分子材料や、低分子材料などで封止してもよい。
以下、本発明の有機薄膜トランジスタの各層の好ましい態様について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0075】
<基板>
(材料)
本発明の有機薄膜トランジスタは、基板を含むことが好ましい。
基板の材料としては特に制限はなく、公知の材料を用いることができ、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリイミドフィルム、およびこれらポリマーフィルムを極薄ガラスに貼り合わせたもの、セラミック、シリコン、石英、ガラス、などを挙げることができ、シリコンが好ましい。
【0076】
<電極>
(材料)
本発明の有機薄膜トランジスタは、電極を含むことが好ましい。
電極の構成材料としては、例えば、Cr、Al、Ta、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、In、NiあるいはNdなどの金属材料やこれらの合金材料、あるいはカーボン材料、導電性高分子などの既知の導電性材料であれば特に制限することなく使用できる。
【0077】
(厚さ)
電極の厚さは特に制限はないが、10〜50nmとすることが好ましい。
ゲート幅(またはチャンネル幅)Wとゲート長(またはチャンネル長)Lに特に制限はないが、これらの比W/Lが10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
【0078】
<絶縁層>
(材料)
絶縁層を構成する材料は必要な絶縁効果が得られれば特に制限はないが、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、PTFE、CYTOP等のフッ素ポリマー系絶縁材料、ポリエステル絶縁材料、ポリカーボネート絶縁材料、アクリルポリマー系絶縁材料、エポキシ樹脂系絶縁材料、ポリイミド絶縁材料、ポリビニルフェノール樹脂系絶縁材料、ポリパラキシリレン樹脂系絶縁材料などが挙げられる。
絶縁層の上面は表面処理がなされていてもよく、例えば、二酸化ケイ素表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の塗布により表面処理した絶縁層を好ましく用いることができる。
【0079】
(厚さ)
絶縁層の厚さに特に制限はないが、薄膜化が求められる場合は厚さを10〜400nmとすることが好ましく、20〜200nmとすることがより好ましく、50〜200nmとすることが特に好ましい。
【0080】
<半導体活性層>
(材料)
本発明の有機薄膜トランジスタは、半導体活性層が一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含むことを特徴とする。
半導体活性層は、本発明の化合物からなる層であってもよく、本発明の化合物に加えて後述のポリマーバインダーがさらに含まれた層であってもよい。また、成膜時の残留溶媒が含まれていてもよい。
半導体活性層中におけるポリマーバインダーの含有量は、特に制限はないが、好ましくは0〜95質量%の範囲内で用いられ、より好ましくは10〜90質量%の範囲内で用いられ、さらに好ましくは20〜80質量%の範囲内で用いられ、特に好ましくは30〜70質量%の範囲内で用いられる。
【0081】
(厚さ)
半導体活性層の厚さに特に制限はないが、薄膜化が求められる場合は厚さを10〜400nmとすることが好ましく、10〜200nmとすることがより好ましく、10〜100nmとすることが特に好ましい。
【0082】
[非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料]
本発明は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料にも関する。
【0083】
(非発光性有機半導体デバイス)
なお、本明細書において、「非発光性有機半導体デバイス」とは、発光することを目的としないデバイスを意味する。非発光性有機半導体デバイスは、薄膜の層構造を有するエレクトロニクス要素を用いた非発光性有機半導体デバイスとすることが好ましい。非発光性有機半導体デバイスには、有機薄膜トランジスタ、有機光電変換素子(光センサ用途の固体撮像素子、エネルギー変換用途の太陽電池等)、ガスセンサ、有機整流素子、有機インバータ、情報記録素子などが包含される。有機光電変換素子は光センサ用途(固体撮像素子)、エネルギー変換用途(太陽電池)のいずれにも用いることができる。好ましくは、有機光電変換素子、有機薄膜トランジスタであり、さらに好ましくは有機薄膜トランジスタである。すなわち、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料は、上述のとおり有機薄膜トランジスタ用材料であることが好ましい。
【0084】
(有機半導体材料)
本明細書において、「有機半導体材料」とは、半導体の特性を示す有機材料のことである。無機材料からなる半導体と同様に、正孔をキャリアとして伝導するp型(ホール輸送性)有機半導体材料と、電子をキャリアとして伝導するn型(電子輸送性)有機半導体材料がある。
本発明の化合物はp型有機半導体材料、n型の有機半導体材料のどちらとして用いてもよいが、p型として用いることがより好ましい。有機半導体中のキャリアの流れやすさはキャリア移動度μで表される。キャリア移動度μは高い方がよく、1×10
-3cm
2/Vs以上であることが好ましく、5×10
-3cm
2/Vs以上であることがより好ましく、1×10
-2cm
2/Vs以上であることが特に好ましく、3×10
-2cm
2/Vs以上であることがより特に好ましく、5×10
-2cm
2/Vs以上であることがよりさらに特に好ましく、7×10
-2cm
2/Vs以上であることが最も好ましい。キャリア移動度μは電界効果トランジスタ(FET)素子を作製したときの特性や飛行時間計測(TOF)法により求めることができる。
【0085】
[非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜]
(材料)
本発明は、上記一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜にも関する。
本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含有し、ポリマーバインダーを含有しない態様も好ましい。
また、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物とポリマーバインダーを含有してもよい。
【0086】
ポリマーバインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの絶縁性ポリマー、およびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどの光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレンなどの導電性ポリマー、半導体ポリマーを挙げることができる。
ポリマーバインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
また、有機半導体材料とポリマーバインダーとは均一に混合していてもよく、一部または全部が相分離していてもよいが、電荷移動度の観点では、膜中で膜厚方向に有機半導体とバインダーが相分離した構造が、バインダーが有機半導体の電荷移動を妨げず最も好ましい。
薄膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高いポリマーバインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造のポリマーバインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。
ポリマーバインダーの使用量は、特に制限はないが、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜中、好ましくは0〜95質量%の範囲内で用いられ、より好ましくは10〜90質量%の範囲内で用いられ、さらに好ましくは20〜80質量%の範囲内で用いられ、特に好ましくは30〜70質量%の範囲内で用いられる。
【0087】
さらに、本発明では、化合物が上述した構造をとることにより、膜質の良い有機薄膜を得ることができる。具体的には、本発明で得られる化合物は、結晶性が良いため、十分な膜厚を得ることができ、得られた本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は良質なものとなる。
【0088】
(成膜方法)
本発明の化合物を基板上に成膜する方法はいかなる方法でもよい。
成膜の際、基板を加熱または冷却してもよく、基板の温度を変化させることで膜質や膜中での分子のパッキングを制御することが可能である。基板の温度としては特に制限はないが、0℃から200℃の間であることが好ましく、15℃〜100℃の間であることがより好ましく、20℃〜95℃の間であることが特に好ましい。
本発明の化合物を基板上に成膜するとき、真空プロセスあるいは溶液プロセスにより成膜することが可能であり、いずれも好ましい。
【0089】
真空プロセスによる成膜の具体的な例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー(MBE)法などの物理気相成長法あるいはプラズマ重合などの化学気相蒸着(CVD)法が挙げられ、真空蒸着法を用いることが特に好ましい。
【0090】
溶液プロセスによる成膜とは、ここでは有機化合物を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、その溶液を用いて成膜する方法をさす。具体的には、キャスト法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法などの塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの各種印刷法、Langmuir−Blodgett(LB)法などの通常の方法を用いることができ、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法を用いることが特に好ましい。
本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、溶液塗布法により作製されたことが好ましい。溶液塗布法としては、インクジェット法が好ましい。インクジェット法による塗布方法については後述する。また、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜がポリマーバインダーを含有する場合、層を形成する材料とポリマーバインダーとを適当な溶媒に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により形成されることが好ましい。
以下、溶液プロセスによる成膜に用いることができる、本発明の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液について説明する。
【0091】
[非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液]
本発明は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液にも関する。
溶液プロセスを用いて基板上に成膜する場合、層を形成する材料を適当な有機溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、デカリン、1−メチルナフタレンなどの炭化水素系溶媒、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル系溶媒、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールなどのアルコール系溶媒、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチルー2−ピロリドン、1−メチルー2−イミダゾリジノン等のアミド・イミド系溶媒、ジメチルスルフォキサイドなどのスルホキシド系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒)および/または水に溶解、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。溶媒は単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、非ハロゲン系溶媒が環境への負荷が小さい観点から好ましく、炭化水素系溶媒またはエーテル系溶媒がより好ましく、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジクロロベンゼンまたはアニソールが特に好ましく、トルエン、キシレン、テトラリン、アニソールがより特に好ましい。その塗布溶液中の一般式(1)で表される化合物の濃度は、好ましくは、0.1〜80質量%、より好ましくは0.1〜10質量%、特に好ましくは0.5〜10重量%とすることにより、任意の厚さの膜を形成できる。
【0092】
溶液プロセスで成膜するためには、上記で挙げた溶媒などに材料が溶解することが必要であるが、単に溶解するだけでは不十分である。通常、真空プロセスで成膜する材料でも、溶媒にある程度溶解させることができる。しかし、溶液プロセスでは、材料を溶媒に溶解させて塗布した後で、溶媒が蒸発して薄膜が形成する過程があり、溶液プロセス成膜に適さない材料は結晶性が高いものが多いため、この過程で不適切に結晶化(凝集)してしまい良好な薄膜を形成させることが困難である。一般式(1)で表される化合物は、このような結晶化(凝集)が起こりにくい点でも優れている。
【0093】
本発明の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含み、ポリマーバインダーを含有しない態様も好ましい。
また、本発明の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物とポリマーバインダーを含有してもよい。この場合、層を形成する材料とポリマーバインダーとを前述の適当な溶媒に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。ポリマーバインダーとしては、上述したものから選択することができる。
【0094】
[非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜の製造方法]
本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜の製造方法は、本発明の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液を、インクジェット法により塗布し、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜を形成する。
非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜の製造方法では、本発明の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液を、インクジェット法により任意の基板上に塗布し、基板上に非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜を形成することが好ましい。
本発明に用いることができるインクジェット法としては、特開2003−306623号公報に記載の方法を採用することができ、この公報に記載の内容は本発明に組み込まれる。
以下、インクジェット法を用いる、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜の製造方法の好ましい態様について説明する。
本発明に用いることができるインクジェット法の好ましい態様としては、公知文献(“インクジェットプリント法による有機トランジスタ”,応用物理, Vol.70, No.12, p.1452, 200)の方法が挙げられる。また、Nature,2011.475,364に記載の有機半導体を溶解させたインクと有機半導体の結晶化を促すインクをミクロ液滴として交互に印刷するダブルショットインクジェット印刷法も、高移動度の半導体薄膜が得られる観点から好ましく用いることができる。
【実施例】
【0095】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0096】
[実施例1]
<合成例1> 化合物1〜5、8〜10、21、31、33および41の合成
以下のScheme1に示した具体的合成手順にしたがって、一般式(1)で表される化合物である、化合物1〜5、8〜10、21、31、33および41を合成した。
【0097】
【化33】
【0098】
化合物1の合成の詳細を以下に示す。
【0099】
(化合物1の合成)
bは、aを出発物質として公知文献(Bull.Chem.Soc.Jpn.,1987,60,4187)に従って合成した。
c〜e、h、iは、公知文献(J.Am.Chem.Soc.,2011,133,5024)を参考にして合成した。なお、化合物1の合成では上記スキーム1におけるhおよびiのRはn−オクチル基であり、iは化合物1を表す。
fは、公知文献(Org.Lett.,2001,3,3471)を参考にして合成した。
gは、公知文献(J.Am.Chem.Soc.,2012,134,8944)を参考にして合成した。
化合物1の構造は、
1H−NMRにより同定した。
【0100】
また、上記の化合物1の合成方法と類似の合成方法にて、上述のScheme1にしたがって他の一般式(1)で表される化合物を合成した。
なお、得られた一般式(1)で表される各化合物の同定は元素分析、NMR及びMASSスペクトルにより行った。
【0101】
比較素子の半導体活性層(有機半導体層)に用いた比較化合物1〜4の構造を以下に示す。
比較化合物1〜3は、特開2009−54810号公報に記載の方法に従って合成した。また、比較化合物4は、国際公開WO2010/000670号公報に記載の方法に従って合成した。
比較化合物1および2はそれぞれ特開2009−54810号公報の化合物25および27である。比較化合物4は国際公開WO2010/000670号公報のCompound 2および4と同じ骨格であり、Compound 2および4の中間の炭素数のアルキル基を置換基として有する化合物である。
【化34】
【0102】
[実施例2]
<素子作製・評価>
素子作製に用いた材料は全て昇華精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(東ソーTSKgel ODS−100Z)により純度(254nmの吸収強度面積比)が99.5%以上であることを確認した。
【0103】
<化合物単独で半導体活性層(有機半導体層)を形成>
本発明の化合物または比較化合物(各1mg)とトルエン(1mL)を混合し、100℃に加熱したものを、非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液とした。この塗布溶液を窒素雰囲気下、90℃に加熱したFET特性測定用基板上にキャストすることで、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜を形成し、FET特性測定用の実施例2の有機薄膜トランジスタ素子を得た。FET特性測定用基板としては、ソースおよびドレイン電極としてくし型に配置されたクロム/金(ゲート幅W=100mm、ゲート長L=100μm)、絶縁膜としてSiO
2(膜厚200nm)を備えたボトムゲート・ボトムコンタクト構造のシリコン基板(
図2に構造の概略図を示した)を用いた。
【0104】
[評価]
実施例2の有機薄膜トランジスタ素子のFET特性は、セミオートプローバー(ベクターセミコン製、AX−2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、4156C)を用いて常圧・窒素雰囲気下で、キャリア移動度、繰り返し駆動後の閾値電圧変化、素子のバラツキ、耐熱性の観点で評価した。また、実施例2の有機薄膜トランジスタ素子の作製に用いた各化合物の溶解性についても評価した。
各評価方法を以下に記載する。また、得られた結果を下記表1に示す。
【0105】
(a)キャリア移動度
各有機薄膜トランジスタ素子(FET素子)のソース電極−ドレイン電極間に−80Vの電圧を印加し、ゲート電圧を20V〜−100Vの範囲で変化させ、ドレイン電流I
dを表わす下記式を用いてキャリア移動度μを算出した。
I
d=(w/2L)μC
i(V
g−V
th)
2
式中、Lはゲート長、Wはゲート幅、C
iは絶縁層の単位面積当たりの容量、V
gはゲート電圧、V
thは閾値電圧を表す。
【0106】
(b)繰り返し駆動後の閾値電圧変化
各有機薄膜トランジスタ素子(FET素子)のソース電極−ドレイン電極間に−80Vの電圧を印加し、ゲート電圧を+20V〜−100Vの範囲で100回繰り返して(a)と同様の測定を行い、繰り返し駆動前の閾値電圧V前と繰り返し駆動後の閾値電圧V後の差(|V後−V前|)を以下の3段階で評価した。この値は小さいほど素子の繰り返し駆動安定性が高く、好ましい。
A:|V後−V前|≦5V
B:5V<|V後−V前|≦10V
C:|V後−V前|>10V
【0107】
(c)溶解性
本発明の化合物または比較化合物(各20mg)とトルエン(1mL)を混合し、溶解性を以下の2段階で評価した。
A:完溶した
B:僅かに溶け残った
C:大部分が溶け残った
【0108】
(d)素子のバラツキ
各有機薄膜トランジスタ素子を再度作製し、キャリア移動度を測定し、1回目の素子と2回目の素子のキャリア移動度の差を求め、バラツキを評価した。
A:キャリア移動度の差が20%未満であった。
B:キャリア移動度の差が20%以上50%未満であった。
C:キャリア移動度の差が50%以上であった。
【0109】
(e)耐熱性
各有機薄膜トランジスタ素子を150℃30分ホットプレート上で加熱し、移動度の低下を評価した。
A:移動度の低下幅が10%未満であった。
B:移動度の低下幅が10%以上30%未満であった。
C:移動度の低下幅が30%以上であった。
【0110】
【表1】
【0111】
上記表1より、本発明の化合物を用いた有機薄膜トランジスタ素子は、キャリア移動度が高いことが分かった。そのため、本発明の化合物は非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料として好ましく用いられることがわかった。
一方、比較化合物1〜4は、キャリア移動度が低いことが分かった。
なお、本発明の化合物は有機溶媒への溶解性が良好であった。本発明の化合物を用いた有機薄膜トランジスタ素子は、繰り返し駆動後の閾値電圧変化も小さく、素子のバラツキも小さく、耐熱性にも優れていた。
【0112】
[実施例3]
<化合物をバインダーとともに用いて半導体活性層(有機半導体層)を形成>
本発明の化合物または比較化合物(各1mg)、PαMS(ポリ(α−メチルスチレン、Mw=300,000)、Aldrich製)1mg、トルエン(1mL)を混合し、100℃に加熱したものを塗布溶液として用いる以外は実施例2と同様にしてFET特性測定用の有機薄膜トランジスタ素子を作製し、キャリア移動度、繰り返し駆動後の閾値電圧変化の観点で、実施例2と同様の基準で評価を行った。
得られた結果を下記表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
上記表2より、本発明の化合物をバインダーとともに用いて半導体活性層を形成した有機薄膜トランジスタ素子は、キャリア移動度が高いことがわかった。そのため、本発明の化合物は非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料として好ましく用いられることがわかった。
一方、比較化合物1または2をバインダーとともに用いて半導体活性層を形成した有機薄膜トランジスタ素子は、キャリア移動度が低いものであった。
【0115】
さらに、実施例2で得られた各有機薄膜トランジスタ素子について、肉眼による観察および光学顕微鏡観察を行ったところ、バインダーとしてPαMSを用いた薄膜はいずれも膜の平滑性・均一性が非常に高いことが分かった。
なお、本発明の化合物を用いた有機薄膜トランジスタ素子は、繰り返し駆動後の閾値電圧変化も小さく、素子のバラツキも小さく、耐熱性にも優れていた。
【0116】
以上より、比較素子ではバインダーと比較化合物の複合系で半導体活性層を形成した場合にキャリア移動度が非常に低くなるのに対し、本発明の有機薄膜トランジスタ素子では本発明の化合物をバインダーとともに用いて半導体活性層を形成した場合も良好なキャリア移動度を示し、膜の平滑性・均一性が非常に高い素子を得ることができることが分かった。
【0117】
[実施例4]
<半導体活性層(有機半導体層)形成>
ゲート絶縁膜としてSiO
2(膜厚370nm)を備えたシリコンウエハーを用い、オクチルトリクロロシランで表面処理を行った。
本発明の化合物または比較化合物(各1mg)とトルエン(1mL)を混合し、100℃に加熱したものを、非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液とした。この塗布溶液を窒素雰囲気下、90℃に加熱したオクチルシラン表面処理シリコンウエハー上にキャストすることで、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜を形成した。
更にこの薄膜表面にマスクを用いて金を蒸着することで、ソースおよびドレイン電極を作製し、ゲート幅W=5mm、ゲート長L=80μmのボトムゲート・トップコンタクト構造の有機薄膜トランジスタ素子を得た(
図1に構造の概略図を示した)。
実施例4の有機薄膜トランジスタ素子のFET特性は、セミオートプローバー(ベクターセミコン製、AX−2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、4156C)を用いて常圧・窒素雰囲気下で、キャリア移動度、繰り返し駆動後の閾値電圧変化の観点で、実施例2と同様の基準で評価した。
得られた結果を下記表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
上記表3より、本発明の化合物を用いた有機薄膜トランジスタ素子は、キャリア移動度が高いことがわかった。そのため、本発明の化合物は非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料として好ましく用いられることがわかった。
一方、比較化合物1を用いた有機薄膜トランジスタ素子は、キャリア移動度が低かった。
なお、本発明の化合物を用いた有機薄膜トランジスタ素子は、繰り返し駆動後の閾値電圧変化も小さいものであった。
【0120】
[実施例5]
<インクジェット法による半導体活性層(有機半導体層)形成>
本発明の化合物1〜5、8〜10、21、31、33および41または比較化合物1〜4(各1mg)を含むインクジェット用の溶液を用いて、インクジェット法による半導体活性層(有機半導体層)形成を行い、有機薄膜トランジスタ素子を作製した。
得られた有機薄膜トランジスタ素子を作製し、実施例2と同様の評価を行った。
その結果、実施例2とほぼ同様の傾向であることがわかった。