特許第6017315号(P6017315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017315
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】研磨材及び研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20161013BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20161013BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20161013BHJP
   C01G 25/02 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   B24B37/00 H
   H01L21/304 622D
   C09K3/14 550Z
   !C01G25/02
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-554758(P2012-554758)
(86)(22)【出願日】2012年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2012051119
(87)【国際公開番号】WO2012102180
(87)【国際公開日】20120802
【審査請求日】2014年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-15799(P2011-15799)
(32)【優先日】2011年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-117743(P2011-117743)
(32)【優先日】2011年5月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森永 均
(72)【発明者】
【氏名】山田 英一
(72)【発明者】
【氏名】玉井 一誠
(72)【発明者】
【氏名】石橋 智明
(72)【発明者】
【氏名】大津 平
(72)【発明者】
【氏名】石原 直幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋平
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−197664(JP,A)
【文献】 特開平10−036819(JP,A)
【文献】 特開平04−357115(JP,A)
【文献】 特開2004−269331(JP,A)
【文献】 特開2003−206475(JP,A)
【文献】 特開2005−170700(JP,A)
【文献】 特開平11−135467(JP,A)
【文献】 特表2014−504324(JP,A)
【文献】 特開2001−269858(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123562(WO,A1)
【文献】 特開2008−078233(JP,A)
【文献】 特開2003−188122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
C01G 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム粒子を含有する研磨材であって、前記酸化ジルコニウム粒子が1〜15m/gの比表面積を有し、
前記酸化ジルコニウム粒子が98質量%以上の純度を有し、
サファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、及びリン化インジウムから選ばれる少なくとも一種の硬脆材料の研磨に用いられることを特徴とする研磨材。
【請求項2】
前記酸化ジルコニウム粒子が99質量%以上の純度を有する請求項1に記載の研磨材。
【請求項3】
前記酸化ジルコニウム粒子の比表面積が、さらに2m/g以上、又は9m/g以下である請求項1又は2に記載の研磨材。
【請求項4】
前記酸化ジルコニウム粒子が1.03μm以下の平均一次粒子径を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨材。
【請求項5】
前記酸化ジルコニウム粒子が0.1〜5μmの平均二次粒子径を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨材。
【請求項6】
前記酸化ジルコニウム粒子のうち5μm以上の二次粒子径を有する粒子の個数が、1質量%の酸化ジルコニウム粒子を含有する水分散液1mL当たり10,000,000個以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨材。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の研磨材を製造する方法であって、酸化ジルコニウム粒子を乾式粉砕する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の研磨材と水とを含んでなり、研磨用組成物中の前記研磨材の含有量が0.1質量%以上であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項9】
更に、セリウム塩及び/又はジルコニウム塩を含んでなる、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
請求項又はに記載の研磨用組成物を用いてサファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、及びリン化インジウムから選ばれる少なくとも一種の硬脆材料を研磨する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法を用いてサファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、及びリン化インジウムから選ばれる少なくとも一種の硬脆材料基板を研磨する工程を含むことを特徴とする硬脆材料基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、リン化インジウム等の硬脆材料を研磨する用途において使用される研磨材及び研磨用組成物に関する。本発明はまた、硬脆材料の研磨方法、及び硬脆材料基板の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク用ガラス基板や液晶ディスプレイパネルのガラス基板やフォトマスク用合成石英基板などの基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物に対しては、研磨後の基板の品質向上のために、研磨後の基板の表面粗さが小さいこと及び研磨後の基板にスクラッチのような表面欠陥が少ないことが強く要求されている。また、研磨作業にかかる時間を短縮させるためには、基板の研磨速度(除去速度)が高いことも要求されている。
【0003】
ガラス基板を研磨する用途では従来、酸化セリウム系の研磨材が用いられることがある(特許文献1)。しかしながら、日本ではセリウムを始めとするレアアースが現在、国外からの輸入に頼られている。そのため、レアアースには国際情勢によって供給不足やそれに伴う価格上昇の起こる懸念がある。従って、レアアースを必要としない代替材料による研磨材の開発が望まれている。
【0004】
一方、ガラス基板を研磨する用途とは別の用途において、例えば特許文献2に記載の研磨用組成物が使用されている。特許文献2に記載の研磨用組成物は、酸化ジルコニウム微粒子及び研磨促進剤からなるものである。しかしながら、特許文献2に記載の研磨用組成物をガラス基板などの硬脆材料を研磨する用途で使用した場合には、上述した要求の全てを十分に満足させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−16064号公報
【特許文献2】特開平10−121034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、サファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、リン化インジウム等の硬脆材料を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨材及び研磨用組成物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、その研磨材を用いた硬脆材料の研磨方法及び硬脆材料基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の酸化ジルコニウム粒子を含有する研磨材を用いることにより、上記の目的が達成されることを見出した。表面粗さが小さく表面欠陥の少ない研磨後表面を得ると同時に研磨速度を向上するという要求を満たすために、酸化ジルコニウム粒子の比表面積、純度、粒子径の値をそれぞれ所定の範囲内に設定することは当業者といえども容易に着想しえるものではない。特に、ガラス基板などの硬脆材料基板を研磨する用途において、特定の酸化ジルコニウム粒子を用いることにより、酸化セリウム粒子を用いた場合と同等以上の研磨特性が得られることは当業者が容易に想到し得るものではない。
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様では、酸化ジルコニウム粒子を含有する研磨材であって、前記酸化ジルコニウム粒子が1〜15m/gの比表面積を有し、前記酸化ジルコニウム粒子が98質量%以上の純度を有し、サファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、及びリン化インジウムから選ばれる少なくとも一種の硬脆材料の研磨に用いられる研磨材が提供される。
【0009】
酸化ジルコニウム粒子の純度は99質量%以上であることが好ましい。酸化ジルコニウム粒子の比表面積が、さらに2m/g以上、又は9m/g以下であってもよい。酸化ジルコニウム粒子の平均一次粒子径は1.03μm以下であることが好ましい。酸化ジルコニウム粒子の平均二次粒子径は0.1〜5μmであることが好ましい。酸化ジルコニウム粒子のうち5μm以上の二次粒子径を有する粗大粒子の個数は、1質量%の酸化ジルコニウム粒子を含有する水分散液1mL当たり10,000,000個以下であることが好ましい
【0010】
本発明の別の態様では、上記研磨材と、水を含み、研磨用組成物中の研磨材の含有量が0.1質量%以上である研磨用組成物が提供される。研磨用組成物は更に、セリウム塩及び/又はジルコニウム塩を含むことが好ましい。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、上記研磨用組成物を用いてサファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、及びリン化インジウムから選ばれる少なくとも一種の硬脆材料を研磨する研磨方法と、その研磨方法を用いてサファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、及びリン化インジウムから選ばれる少なくとも一種の硬脆材料基板を研磨する工程を含む硬脆材料基板の製造方法とが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、リン化インジウム等の硬脆材料を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨材及び研磨用組成物が提供される。また、その研磨材を用いた硬脆材料の研磨方法及び硬脆材料基板の製造方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0014】
本実施形態の研磨用組成物は、研磨材及び水を含有する。研磨材は、酸化ジルコニウム粒子を含有する。研磨用組成物は、サファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、リン化インジウム等の硬脆材料を研磨する用途での使用に好適なものである。
【0015】
研磨材中に含まれる酸化ジルコニウム粒子は立方晶系や正方晶系、単斜晶系などの結晶質ジルコニアからなるものであってもよいし、非晶質ジルコニアからなるものであってもよい。研磨材として好ましいのは、正方晶系や単斜晶系のジルコニアである。酸化ジルコニア粒子はカルシウム、マグネシウム、ハフニウム、イットリウム、ケイ素等を含んでいても良い。ただし、酸化ジルコニウム粒子の純度はできるだけ高いことが好ましく、具体的には、好ましくは99質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上、更に好ましくは99.8質量%以上である。酸化ジルコニウム粒子の純度が99質量%以上の範囲で高くなるにつれて、研磨用組成物による硬脆材料の研磨速度は向上する。この点、酸化ジルコニウム粒子の純度が99質量%以上、さらに言えば99.5質量%以上、もっと言えば99.8質量%以上であれば、研磨用組成物による硬脆材料の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまでを向上させることが容易となる。
【0016】
なお、酸化ジルコニウム粒子の純度は、例えば株式会社島津製作所製XRF−1800等の蛍光X線分析装置による酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムの合計量の測定値より算出が可能である。
【0017】
酸化ジルコニウム粒子中の不純物は、粉末X線回折法によっても測定することが出来る。例えば株式会社リガク製MiniFlex等の粉末X線回折装置を用いて測定される2θが26.5°付近の回折ピークの強度が200cps以下であることが好ましい。より好ましくは、2θが26.5°付近に回折ピークが現れないことであり、これは酸化ジルコニウム粒子が不純物として石英シリカを実質含有していないことを示す。また、粉末X線回折装置を用いれば酸化ジルコニウムの結晶子サイズを測定することが出来る。好ましいのは、2θが28.0°付近での回折強度及び31.0°付近での回折強度に基づいて算出される結晶子サイズが共に330Å以上であることであり、これは酸化ジルコニウムの結晶系が単斜晶系であり、またその結晶子サイズが大きいことを示す。
【0018】
酸化ジルコニウム粒子中に含まれる金属不純物の量は少ないほうが良い。酸化ジルコニウム粒子中に含まれる金属不純物の例としては、先に記載したカルシウム、マグネシウム、ハフニウム、イットリウム、ケイ素の他、アルミニウム、鉄、銅、クロム、チタン等が挙げられる。酸化ジルコニウム粒子中の酸化ケイ素の含有量は、1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.2%質量以下である。酸化ジルコニウム粒子中の酸化アルミニウム及び酸化鉄の含有量は、それぞれ0.1質量%以下が好ましい。なお、酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び酸化鉄の含有量は、例えば株式会社島津製作所製ICPE−9000等のICP発光分光分析装置による測定値より算出が可能である。
【0019】
酸化ジルコニウム粒子の比表面積は1m/g以上であることが好ましく、より好ましくは2m/g以上である。また、酸化ジルコニウム粒子の比表面積は15m/g以下であることが好ましく、より好ましくは13m/g以下、更に好ましくは9m/g以下である。酸化ジルコニウム粒子の比表面積が1〜15m/gの範囲であれば、研磨用組成物による硬脆材料基板の研磨速度を実用上好適なレベルにまで向上させることが容易となる。なお、酸化ジルコニウム粒子の比表面積は、例えば島津株式会社製FlowSorbII2300等の窒素吸着法による比表面積測定装置により測定が可能である。
【0020】
酸化ジルコニウム粒子の平均一次粒子径は0.3μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2μm以下、さらに好ましくは0.15μm以下である。平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨後の硬脆材料基板の表面粗さが向上する。この点、酸化ジルコニウム粒子の平均一次粒子径が0.3μm以下、さらに言えば0.2μm以下、もっと言えば0.15μm以下であれば、研磨用組成物を用いて研磨後の硬脆材料基板の表面粗さを実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。なお、酸化ジルコニウム粒子の一次粒子径は、例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ製S−4700等の走査型電子顕微鏡により撮影される写真に基づいて算出が可能である。例えば倍率10,000〜50,000倍で撮影した電子顕微鏡写真の酸化ジルコニウム粒子の画像の面積を計測し、それと同じ面積の円の直径として酸化ジルコニウム粒子の一次粒子径は求められる。酸化ジルコニウム粒子の平均一次粒子径は、無作為に選択される100個以上の粒子について、こうして求められる一次粒子径の平均値として算出される、体積基準の積算分率における50%粒子径である。一次粒子径及び平均一次粒子径の算出は市販の画像解析装置を用いて行うことができる。
【0021】
酸化ジルコニウム粒子の平均二次粒子径は0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上である。平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による硬脆材料基板の研磨速度は向上する。この点、酸化ジルコニウム粒子の平均二次粒子径が0.1μm以上、さらに言えば0.3μm以上、もっと言えば0.5μm以上であれば、研磨用組成物による硬脆材料基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。なお、酸化ジルコニウム粒子の平均二次粒子径は、例えば株式会社堀場製作所製LA−950等のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置によって求められる、体積基準の積算分率における50%粒子径である。
【0022】
また、酸化ジルコニウム粒子の平均二次粒子径は5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1.5μm以下である。平均二次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物の分散安定性が向上し、また、研磨用組成物を用いて研磨後の硬脆材料基板のスクラッチ発生が抑制される。この点、酸化ジルコニウム粒子の平均二次粒子径が5μm以下、さらに言えば3μm以下、もっと言えば1.5μm以下であれば、研磨用組成物の分散安定性、並びに、研磨用組成物を用いて研磨後の硬脆材料基板の表面精度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0023】
酸化ジルコニウム粒子のうち5μm以上の二次粒子径を有する粗大粒子の個数は、1質量%の酸化ジルコニウム粒子を含有する水分散液1mL当たり10,000,000個以下であることが好ましく、より好ましくは5,000,000個以下、さらに好ましくは2,000,000個以下である。粗大粒子の個数が少なくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨後の硬脆材料基板のスクラッチ発生が抑制される。この点、粗大粒子の個数が、1質量%の酸化ジルコニウム粒子を含有する水分散液1mL当たり10,000,000個以下、さらに言えば5,000,000個以下、もっと言えば2,000,000個以下であれば、研磨用組成物を用いて研磨後の硬脆材料基板の表面精度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。なお、5μm以上の二次粒子径を有する酸化ジルコニウム粒子の個数は、例えばPaeticle Sizing Systems社製AccuSizer780FX等の個数カウント式粒度分布測定機によって求めることができる。
【0024】
酸化ジルコニウム粒子の製造方法は、特に限定されるものでは無く、湿式法及び乾式法のいずれでもよい。湿式法では、ジルコンやジルコン砂などのジルコニウム含有鉱石を原料とし、それを溶融、溶解及び精製して得られるジルコニウム化合物を加水分解して水酸化ジルコニウムを得た後、それを焼成及び粉砕して酸化ジルコニウム粒子が得られる。乾式法では、高温処理によりジルコンやジルコン砂などのジルコニウム含有鉱石から酸化ケイ素を取り除くことで酸化ジルコニウム粒子が得られるか、あるいはバデライト等の酸化ジルコニウム鉱石を、粉砕したのち、不純物を取り除くことで酸化ジルコニウム粒子が得られる。乾式法よりも湿式法のほうが、純度の高い酸化ジルコニウム粒子を得ることが可能であることに加え、焼結、粉砕、分級等の操作により、得られる酸化ジルコニウム粒子の粒度や比表面積の調整が比較的容易である。そのため、本発明で使用される酸化ジルコニウム粒子は湿式法で製造されることが好ましい。なお、乾式法により純度の高い酸化ジルコニウム粒子を得るためには、高温処理により酸化ケイ素などの不純物を昇華させる工程を含めることが好ましい。その場合の高温処理は、例えばアーク炉を用いて、通常2000℃以上、好ましくは約2700℃以上にまで原料鉱石を加熱することにより行われる。
【0025】
酸化ジルコニウム粒子の製造方法のうち、粉砕工程は、得られる酸化ジルコニウム粒子の粒子径を小さく揃えるために、また、不純物を取り除くために必要な工程である。粉砕により、一次粒子がいくつか凝集して形成されている二次粒子の少なくとも一部が、一次粒子を最小単位として崩壊する。酸化ジルコニウム粒子を粉砕する方法の例としては、メディアを用いたボールミル、ビーズミル、ハンマーミルなどによる方法や、メディアを用いないジェットミルなどによる方法が挙げられる。またもう一方で、溶媒を用いた湿式法と溶媒を用いない乾式法が挙げられる。
【0026】
粉砕にボールやビーズなどのメディアを用いた場合、メディアの摩耗又は破壊により生じる破片が酸化ジルコニウム粒子中に混入する虞がある。また、メディアから受ける圧力により一次粒子の形状が変化することがあり、酸化ジルコニウム粒子の比表面積や研磨性能に影響を与える虞がある。メディアを用いない粉砕の場合には、これらの懸念はない。
【0027】
湿式法による粉砕の場合には、粉砕に際し分散剤の添加を必要とし、その分散剤が研磨材の安定性に影響を与えることがある。また、乾燥粉末状の酸化ジルコニウム粒子で得るためには、粉砕後に乾燥の工程を必要とする。その点、乾式法による粉砕の場合には、分散剤を必要としない点で有利がある。また、乾式法による粉砕は、粉砕効率が比較的高く、所望とする粒子径の酸化ジルコニウム粒子が効率よく得られる。
【0028】
以上より、酸化ジルコニウム粒子の粉砕工程は、メディアを用いないジェットミルを用いて乾式法により行われることが好ましい。
【0029】
研磨材は、酸化ジルコニウム粒子の他に、酸化ジルコニウム粒子以外の粒子を含有していてもよい。酸化ジルコニウム粒子以外の粒子の例としては、酸化アルミニウム粒子、二酸化ケイ素粒子、酸化セリウム粒子、酸化チタニウム粒子、ジルコン粒子等が挙げられる。例えば、本実施形態の研磨材は、酸化ジルコニウムと酸化セリウムとを含有するものであってもよい。ただし、研磨材中に占める酸化ジルコニウムの割合は高い方が好ましい。具体的には、研磨材中の酸化ジルコニウムの含有量は50質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上である。また、研磨材中の二酸化ケイ素の含有量は10質量%未満であることが好ましく、より好ましくは1質量%未満である。研磨材中の酸化セリウムの含有量は40質量%未満であることが好ましく、より好ましくは9質量%未満である。
【0030】
研磨用組成物中の研磨材の含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。研磨材の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による硬脆材料の研磨速度は向上する。この点、研磨用組成物中の研磨材の含有量が0.1質量%以上、さらに言えば1質量%以上、もっと言えば3質量%以上であれば、研磨用組成物による硬脆材料の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0031】
研磨用組成物のpHは3以上であることが好ましい。また、研磨用組成物のpHは12以下であることが好ましい。研磨用組成物のpHが上記範囲内であれば、研磨用組成物による硬脆材料の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0032】
研磨用組成物のpHは種々の酸、塩基、又はそれらの塩を用いて調整が可能である。具体的には、カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸などの有機酸や、燐酸、亜燐酸、硫酸、硝酸、塩酸、ホウ酸、炭酸などの無機酸、テトラメトキシアンモニウムオキサイド、トリメタノールアミン、モノエタノールアミンなどの有機塩基、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアなどの無機塩基、又はそれらの塩が好ましく用いられる。
【0033】
研磨用組成物には、研磨促進のためにセリウム塩又はジルコニウム塩を添加してもよい。セリウム塩の例としては、硝酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム等が挙げられる。ジルコニウム塩の例としては、オキシ塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0034】
研磨用組成物中のセリウム塩の含有量は2mM以上であることが好ましく、より好ましくは20mM以上である。研磨用組成物中のジルコニウム塩の含有量は1mM以上であることが好ましく、より好ましくは10mM以上である。セリウム塩又はジルコニウム塩の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による硬脆材料の研磨速度は向上する。
【0035】
また、研磨用組成物中のセリウム塩の含有量は360mM以下であることが好ましい。研磨用組成物中のジルコニウム塩の含有量は180mM以下であることが好ましい。セリウム塩を研磨用組成物に添加した場合には、pH調整のために使用されるアルカリの種類によってはセリウム塩の析出が起こることがある。セリウム塩が析出すると、セリウム塩の添加による研磨促進の効果が十分得られない。
【0036】
研磨用組成物には、分散安定性の向上のために分散剤が添加されてもよい。分散剤は、先にも述べたとおり、酸化ジルコニウム粒子の製造時の粉砕又は分級の工程で使用されることもある。分散剤の例としては、例えばヘキサメタリン酸ナトリウムや、ピロリン酸ナトリウムなどのポリリン酸塩が挙げられる。また、ある種の水溶性高分子又はそれらの塩も分散剤として用いることができる。分散剤を添加することによって研磨用組成物の分散安定性が向上し、スラリー濃度の均一化により研磨用組成物の供給の安定化が可能になる。その一方、分散剤を過剰に添加した場合には、研磨用組成物中の研磨材が保管又は輸送時に沈降して生じる沈殿が強固となりやすい。そのため、研磨用組成物の使用に際してその沈殿を分散させることが容易でない、すなわち、研磨用組成物中の研磨材の再分散性が低下することがある。
【0037】
分散剤として使用される水溶性高分子の例としては、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリスルホン酸、ポリスルホン酸塩、ポリアミン、ポリアミド、ポリオール、多糖類の他、それらの誘導体や共重合体などが挙げられる。より具体的には、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリイソプレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、イソプレンスルホン酸とアクリル酸の共重合体、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、ジアリルアミン塩酸塩二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン、キトサン塩類などが挙げられる。
【0038】
研磨用組成物中の分散剤の含有量は、0.001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上である。分散剤の含有量が0.001質量%以上であれば、良好な分散安定性を有する研磨用組成物を得ることが容易である。その一方、研磨用組成物中の分散剤の含有量は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下である。分散剤の含有量が10質量%以下であれば、研磨用組成物中の研磨材の再分散性を低下させることなく、研磨用組成物の保存安定性の向上を図ることができる。
【0039】
研磨用組成物には更に、ロールオフ低減剤として各種の界面活性剤を添加してもよい。ロールオフ低減剤は、硬脆材料基板の外周部分が中央部分に比べて過剰に研磨されることによりその外周部分の平坦度が劣ることになるロールオフと呼ばれる現象の発生を防ぐ働きをする。ロールオフ低減剤の添加により硬脆材料基板の外周部分の過剰な研磨が抑制される理由としては、硬脆材料基板と研磨パッドとの摩擦が適度に調整されることが推察される。
【0040】
ロールオフ低減剤として使用される界面活性剤は、アニオン系及びノニオン系のいずれの界面活性剤であってもよい。好ましいノニオン系界面活性剤の例としては、同一または異なる種類のオキシアルキレン単位を複数個有する重合体、その重合体にアルコール、炭化水素又は芳香環を結合させた化合物が挙げられる。より具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオキシブチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ポリオキシエチレンカルボン酸ジエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンカルボン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンカルボン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオキシブチレンカルボン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオキシブチレンコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノカプリル酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、及び下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0041】
【化1】
(式(1)中、Xは活性水素原子を有する化合物とアルキレンオキシドとから誘導されたポリエーテルポリオールの残基(ただし、ポリエーテルポリオールのポリエーテル鎖中にはオキシエチレン基が20〜90重量%含まれる)を表す。mは2〜8の整数を表し、ポリエーテルポリオール1分子中の水酸基の数に等しい。Yは二価の炭化水素基を表す。Zは活性水素原子を有する一価の化合物の残基を表す。nは3以上の整数を表す。)
アニオン系界面活性剤の例としてはスルホン酸系活性剤が挙げられ、より具体的にはアルキルスルホン酸、アルキルエーテルスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸、アルキル芳香族スルホン酸、アルキルエーテル芳香族スルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル芳香族スルホン酸などが挙げられる。
【0042】
研磨用組成物中のロールオフ低減剤の含有量は、0.001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.005質量%以上である。ロールオフ低減剤の含有量が0.001質量%以上であれば、研磨用組成物を用いて研磨後の硬脆材料基板のロールオフ量が低減するため、良好な平坦性を有する硬脆材料基板を得ることが容易である。その一方、研磨用組成物中のロールオフ低減剤の含有量は、1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。ロールオフ低減剤の含有量が1質量%以下であれば、研磨用組成物による硬脆材料の研磨速度を実用上特に好適なレベルに維持させることが容易である。
【0043】
前記実施形態によれば、以下の利点が得られる。
【0044】
前記実施形態の研磨用組成物中に含まれる酸化ジルコニウム粒子は1〜15m/gの比表面積を有する。1〜15m/gの比表面積を有する酸化ジルコニウム粒子は、硬脆材料基板を高い除去速度で研磨する能力を有し、かつ、研磨後の硬脆材料基板の表面粗さを良好に低減する能力を有する。従って、前記実施形態の研磨用組成物は、硬脆材料基板を研磨する用途で好適に使用することができる。硬脆材料とは、脆性材料の中でも硬度の高いもののことをいい、例えばガラス、セラミックス、石材及び半導体材料が含まれる。
【0045】
前記実施形態の研磨用組成物は、硬脆材料の中でもサファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、リン化インジウムを研磨する用途で特に好適に使用することが出来る。さらに、石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、無アルカリガラス、結晶化ガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、シリコン酸化膜等のガラスまたは酸化物基板を研磨する用途では現在、酸化セリウムを主体とした研磨材が主に使用されており、前記実施形態の酸化ジルコニウム粒子は、従来の酸化セリウム研磨材に替わる代替材料としての使用が期待される。
【0046】
前記実施形態の研磨用組成物は、酸化ジルコニウムを水に分散させ、必要に応じ公知の添加剤を添加することにより調製される。ただし、研磨用組成物を調製するに際しての各成分の混合順序は任意である。酸化ジルコニウム、水及び添加剤を含有する濃縮組成物をまず製造し、その濃縮組成物を水希釈することにより研磨用組成物を調製してもよい。あるいは、添加剤を溶解した水溶液に酸化ジルコニウムを分散させることにより研磨用組成物を調製してもよい。あるいは、粉末状の酸化ジルコニウムに粉末状の添加剤を混合し、その混合物に水を加えることより研磨用組成物を調製してもよい。
【0047】
前記実施形態の研磨用組成物は、硬脆材料基板の研磨で通常に用いられるのと同じ装置及び条件で使用することができる。片面研磨装置を使用する場合には、キャリアと呼ばれる保持具を用いて基板を保持し、研磨パッドを貼付した定盤を基板の片面に押しつけた状態で、研磨用組成物を基板に対して供給しながら定盤を回転させることにより基板の片面を研磨する。両面研磨装置を使用する場合には、キャリアと呼ばれる保持具を用いて基板を保持し、研磨パッドをそれぞれ貼付した上下の定盤を基板の両面に押しつけた状態で、上方から基板に対して研磨用組成物を供給しながら、2つの定盤を互いに反対方向に回転させることにより基板の両面を研磨する。このとき、研磨パッド及び研磨用組成物中の研磨材が基板の表面に摩擦することによる物理的作用と、研磨用組成物中の研磨材以外の成分が基板の表面に与える化学的作用によって基板の表面は研磨される。
【0048】
研磨時の荷重、すなわち研磨荷重を高くするほど、研磨速度が上昇する。前記実施形態の研磨用組成物を用いて硬脆材料基板を研磨するときの研磨荷重は特に限定されないが、基板表面の面積1cm当たり50〜1,000gであることが好ましく、より好ましくは70〜800gである。研磨荷重が上記範囲内である場合には、実用上十分な研磨速度が得られると同時に、研磨後に表面欠陥の少ない基板を得ることができる。
【0049】
研磨時の線速度、すなわち研磨線速度は一般に、研磨パッドの回転数、キャリアの回転数、基板の大きさ、基板の数等のパラメータの影響を受ける。線速度が大きくなるほど、基板に加わる摩擦力が大きくなるため、基板はより強く機械的な研磨作用を受ける。また、摩擦熱が大きくなるために、研磨用組成物による化学的な研磨作用が強まることもある。ただし、線速度が大きすぎると、研磨パッドが基板に対して十分に摩擦せず、研磨速度の低下をきたすことがある。前記実施形態の研磨用組成物を用いて硬脆材料基板を研磨するときの線速度は特に限定されないが、10〜150m/分であることが好ましく、より好ましくは、30〜100m/分である。線速度が上記範囲内である場合には、実用上十分な研磨速度を得ることが容易である。
【0050】
前記実施形態の研磨用組成物を用いて硬脆材料基板を研磨するときに使用される研磨パッドは、例えばポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等のいずれのタイプのものであってもよい。また、砥粒を含むものであっても、砥粒を含まないものであってもよい。研磨パッドの硬度や厚みも特に限定されない。
【0051】
硬脆材料基板の研磨に使用した研磨用組成物は、回収して再利用(循環使用)してもよい。より具体的には、研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内にいったん回収し、タンク内から再び研磨装置へと供給するようにしてもよい。この場合、使用済みの研磨用組成物を廃液として処理する必要が減るため、環境負荷の低減及びコストの低減が可能である。
【0052】
研磨用組成物を循環使用するときには、基板の研磨に使用されることより消費されたり損失したりした研磨用組成物中の研磨材などの成分のうち少なくともいずれかの減少分の補充を行うようにしてもよい。補充する成分は個別に使用済みの研磨用組成物に添加してもよいし、あるいは、二以上の成分を任意の濃度で含んだ混合物のかたちで使用済みの研磨用組成物に添加してもよい。
【0053】
研磨装置に対する研磨用組成物の供給速度は、研磨する基板の種類や、研磨装置の種類、研磨条件によって適宜に設定される。ただし、基板及び研磨パッドの全体に対してむら無く研磨用組成物が供給されるのに十分な速度であることが好ましい。
【0054】
半導体基板やハードディスク用基板、液晶ディスプレイパネル、フォトマスク用合成石英基板などの特に高い面精度が要求される基板の場合、前記実施形態の研磨用組成物を用いて研磨した後に、精研磨を行うことが好ましい。精研磨では研磨材を含有した研磨用組成物、すなわち精研磨用組成物が使用される。精研磨用組成物中の研磨材は、基板表面のうねり、粗さ、欠陥を低減する観点から、0.15μm以下の平均粒子径を有することが好ましく、より好ましくは0.10μm以下、さらに好ましくは0.07μm以下である。また、研磨速度向上の観点から、精研磨用組成物中の研磨材の平均粒子径は0.01μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上である。精研磨用組成物中の研磨材の平均粒子径は、例えば日機装株式会社製Nanotrac UPA−UT151を用いて、動的光散乱法により測定することができる。
【0055】
精研磨用組成物のpHは、1〜4又は9〜11であることが好ましい。精研磨用組成物のpHの調整は、前記実施形態の研磨用組成物の場合と同様、種々の酸、塩基又はそれらの塩を用いて行うことができる。
【0056】
前記実施形態の研磨用組成物には、必要に応じて、キレート剤や界面活性剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤などの添加剤を添加してもよい。
【0057】
精研磨用組成物には、必要に応じて、キレート剤や水溶性高分子、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤などの添加剤を添加してもよい。
【0058】
前記実施形態の研磨用組成物及び精研磨用組成物はそれぞれ組成物の原液を水で希釈することによって調製されてもよい。
【0059】
前記実施形態の研磨用組成物及び精研磨用組成物はそれぞれ粉末状態の組成物を水に溶解又は分散することによって調製されてもよい。
【0060】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0061】
実施例1〜5,7〜24、参考例6及び比較例1〜3の研磨用組成物は、単斜晶酸化ジルコニウム粒子を水に混合し、亜リン酸又は水酸化カリウムによってpHを調整することにより調製した。参考例1の研磨用組成物は、市販の酸化セリウム研磨材である株式会社フジミインコーポレーテッド製CEPOL132を水と混合し、水酸化カリウムによってpHを調整することにより調製した。各研磨用組成物の詳細を表1に示す。
【0062】
表1の“製法”欄には、実施例1〜5,7〜24、参考例6及び比較例1〜3の各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子の製造方法を示す。“W”は湿式法により製造された酸化ジルコニウム粒子を使用したことを表し、“D”は乾式法により製造された酸化ジルコニウム粒子を使用したことを表す。
【0063】
表1の“SA”欄には、各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子又は酸化セリウム粒子の比表面積を測定した結果を示す。比表面積の測定は、島津株式会社製FlowSorbII2300を用いて窒素吸着法により行った。
【0064】
表1の“純度”欄には、実施例1〜5,7〜24、参考例6及び比較例1〜3の各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子の純度を測定した結果を示す。純度の測定には株式会社島津製作所製XRF−1800を使用した。
【0065】
表1の“SiO”欄及び“TiO”欄にはそれぞれ、実施例1〜5,7〜24、参考例6及び比較例1〜3の各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子中に含まれる二酸化ケイ素及び二酸化チタンの量を測定した結果を示す。二酸化ケイ素及び二酸化チタンの含有量の測定には株式会社島津製作所製ICPE−9000を使用した。
【0066】
表1の“一次粒子径”欄には、各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子又は酸化セリウム粒子の平均一次粒子径を測定した結果を示す。同欄の平均一次粒子径の測定値は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製S−4700により撮影した走査型電子顕微鏡写真から、株式会社マウンテック製の画像解析装置であるMac−Viewを用いて求められた、体積基準の積算分率における50%粒子径を示す。
【0067】
表1の“二次粒子径”欄には、各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子又は酸化セリウム粒子の平均二次粒子径を測定した結果を示す。同欄の平均二次粒子径の測定値は、株式会社堀場製作所製LA−950を用いて求められた、体積基準の積算分率における50%粒子径を示す。
【0068】
表1の“粗大粒子数”欄には、各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子又は酸化セリウム粒子のうち5μm以上の二次粒子径を有する粗大粒子の個数を測定した結果を示す。同欄の粗大粒子の個数の測定値は、Paeticle Sizing Systems製AccuSizer780FXを用いて求められる、1質量%の酸化ジルコニウム粒子又は酸化セリウム粒子を含有する水分散液1mL当たりの個数を示す。
【0069】
表1の“XRD 26.5°”欄には、実施例2〜,10〜18,20〜22、参考例6及び比較例2の各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子について、株式会社リガク製MiniFlexを用いて測定される2θが26.5°付近の回折ピークの強度を示す。
【0070】
表1の“結晶子サイズ 28.0°”欄及び“結晶子サイズ 31.0°”欄にはそれぞれ、実施例2〜,10〜18,20〜22、参考例6及び比較例2の各研磨用組成物で使用した酸化ジルコニウム粒子について、株式会社リガク製MiniFlexを用いて測定される2θが28.0°付近での回折強度及び31.0°付近での回折強度に基づいて算出した結晶子サイズを示す。
【0071】
表1の“粒子濃度”欄及び“pH”欄にはそれぞれ、各研磨用組成物中に含まれる酸化ジルコニウム粒子又は酸化セリウム粒子の量及び各研磨用組成物のpHを示す。
【0072】
直径65mm(約2.5インチ)の磁気ディスク用アルミノシリケートガラス基板の表面を、各研磨用組成物を用いて表2に示す条件で研磨し、研磨前後の基板の重量の差に基づいて研磨速度を求めた。求められた研磨速度の値が0.6μm/分以上の場合には“6”、0.5μm/分以上0.6μm/分未満の場合には“5”、0.4μm/分以上0.5μm/分未満の場合には“4”、0.3μm/分以上0.4μm/分未満の場合には“3”、0.2μm/分以上0.3μm/分未満の場合には“2”、0.2μm/分未満の場合には“1”と評価した結果を表3の“研磨速度”欄に示す。
【0073】
各研磨用組成物を用いて研磨後のアルミノシリケートガラス基板の表面におけるスクラッチ数を、VISION PSYTEC社製の“Micro Max VMX−2100”を使用して計測した。面当たりで計測されたスクラッチ数が20未満の場合には“5”、20以上100未満の場合には“4”、100以上300未満の場合には“3”、300以上500未満の場合には“2”、500以上の場合には“1”と評価した結果を表3の“スクラッチ”欄に示す。
【0074】
直径50mm(約2インチ)の液晶ディスプレイガラス用無アルカリガラス基板の表面を、各研磨用組成物を用いて表4に示す条件で研磨し、研磨前後の基板の重量の差に基づいて研磨速度を求めた。求められた研磨速度の値が0.6μm/分以上の場合には“6”、0.5μm/分以上0.6μm/分未満の場合には“5”、0.4μm/分以上0.5μm/分未満の場合には“4”、0.3μm/分以上0.4μm/分未満の場合には“3”、0.2μm/分以上0.3μm/分未満の場合には“2”、0.2μm/分未満の場合には“1”と評価した結果を表5の“研磨速度”欄に示す。
【0075】
各研磨用組成物を用いて研磨後の無アルカリガラス基板の表面におけるスクラッチ数を、VISION PSYTEC社製の“Micro Max VMX−2100”を使用して計測した。面当たりで計測されたスクラッチ数が10未満の場合には“5”、10以上100未満の場合には“4”、100以上200未満の場合には“3”、200以上400未満の場合には“2”、400以上の場合には“1”と評価した結果を表5の“スクラッチ”欄に示す。
【0076】
各研磨用組成物のスラリー安定性に関して、常温で静置を開始してから10分経過してもなお砥粒の凝集や沈殿の生成が認められなかった場合には“5”、5分以降10分までにそれらが認められた場合には“4”、1分以降5分までにそれらが認められた場合には“3”、30秒以降1分までにそれらが認められた場合には“2”、30秒までにそれらが認められた場合には“1”と評価した結果を表3及び表5の“スラリー安定性”欄に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
表3及び表5に示すように、実施例1〜5,7〜24、参考例6の研磨用組成物はいずれも、研磨速度の評価が3以上で合格レベルであった。これに対し、比較例1〜3の研磨用組成物はいずれも、研磨速度の評価が2以下で合格レベルではなかった。
【0082】
実施例25〜33では、実施例3で用いたのと同じ単斜晶酸化ジルコニウム粒子を水に混合し、セリウムイオンとしての硝酸セリウム(IV)アンモニウムと、ジルコニウムイオンとしての二硝酸ジルコニウム(IV)オキシド水和物とを、それぞれ所定量添加した後、水酸化カリウムによってpHを調整することにより、酸化ジルコニウム粒子の含有量が10質量%である研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物中のセリウムイオン及びジルコニウムイオンの添加量と、各研磨用組成物のpHの値を表6に示す。
【0083】
【表6】
実施例25〜33の研磨用組成物について、実施例1〜5,7〜24、参考例6の研磨用組成物の場合と同様の手順で、研磨速度、スクラッチ及びスラリー安定性に関する評価を行った。直径65mm(約2.5インチ)の磁気ディスク用アルミノシリケートガラス基板の表面を表2に示す条件で研磨したときの評価の結果を表7に示し、直径50mm(約2インチ)の液晶ディスプレイガラス用無アルカリガラス基板の表面を表4に示す条件で研磨したときの評価の結果を表8に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
表7及び表8に示すように、実施例25〜27,30〜33の研磨用組成物ではいずれも、実施例3の研磨用組成物と同等のレベルの研磨速度が得られた。それに対し、実施例28,29の研磨用組成物では、実施例3の研磨用組成物に比べて研磨速度の低下が認められた。研磨速度が低下した理由としては、研磨用組成物のpHの値が原因で、添加したセリウムイオンが析出したことが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、サファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、リン化インジウム等の硬脆材料を研磨するに際し、表面欠陥が少なく、優れた表面精度を有する基板を高効率で得ることが出来る。また、酸化ジルコニウム粒子を用いることで、研磨材として使用される酸化セリウム粒子の使用量を削減することができる。