特許第6017380号(P6017380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許60173801×N光スイッチ素子及びN×N光スイッチ素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017380
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】1×N光スイッチ素子及びN×N光スイッチ素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/313 20060101AFI20161020BHJP
   G02F 1/025 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G02F1/313
   G02F1/025
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-147274(P2013-147274)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-21977(P2015-21977A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−079082(JP,A)
【文献】 特開2006−259600(JP,A)
【文献】 特開平05−040215(JP,A)
【文献】 特開2012−044485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125,1/21−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マッハツェンダー干渉計からなり、両アームのそれぞれに電圧あるいは電流を付与するための電極を備えた複数の2×2MZI光スイッチ素子と、複数の光ゲート素子とを、半導体基板上に形成して成る1×N光スイッチ素子であって、
前記複数の2×2MZI光スイッチ素子は多段に配設され、前段の2×2MZI光スイッチ素子の二つの出力ポートのそれぞれに対して、後段の2×2MZI光スイッチ素子の二つの入力ポートのうちの一つが接続されており、
前記複数の光ゲート素子が、1×N光スイッチ素子の各出力ポートにそれぞれ設けられており、
多段に配設された前記2×2MZI光スイッチ素子のうち、信号光を通過させない2×2MZI光スイッチ素子は、当該2×2MZI光スイッチ素子の少なくとも一方のアームに信号光を消光するための負電圧を印加すること特徴とする1×N光スイッチ素子。
【請求項2】
請求項1に記載の1×N光スイッチ素子において、
前記光ゲート素子は、電界吸収型の光ゲート素子であることを特徴とする1×N光スイッチ素子。
【請求項3】
請求項1に記載の1×N光スイッチ素子において、
前記光ゲート素子は、前記2×2MZI光スイッチ素子と同じ構成の2×2MZI素子であることを特徴とする1×N光スイッチ素子。
【請求項4】
請求項3に記載の1×N光スイッチ素子において、
前記光ゲート素子として用いる前記2×2MZI素子の二つの出力ポートのうち、光信号を透過させない一方の出力ポートは、光信号を透過させる他方の出力ポートと異なる方向に向けられていることを特徴とする1×N光スイッチ素子。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の1×N光スイッチ素子において、
1×N光スイッチ素子の各出力ポートからの光出力が、マイクロレンズアレイを介して光ファイバに結合されていることを特徴とする1×N光スイッチ素子。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか1項に記載の1×N光スイッチ素子をN個と、N個のN×1光カプラとを備えており、
前記N個の1×N光スイッチ素子の各出力ポートを、前記N個のN×1光カプラの各入力ポートに接続した構成であることを特徴とするN×N光スイッチ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量光通信ネットワークを支えるための重要な光部品である光スイッチ素子に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、通信トラフィックの急激な増大に起因して、電気ルータの膨大な電力消費量が大きな課題となっている。そこで、ルータ内において入力光パケットを光のまま所望の出力ポートにパケット毎にスイッチングするN入力N出力(以下、N×Nとする)型の光スイッチ素子は、例えば40Gbit/sや100Gbit/sなどの高速なビットレートの光パケット信号を光−電気変換及び電気−光変換を必要とせずにスイッチングできるため、ルータの低消費電力化に有効な光部品として期待されている。
【0003】
図9に示すN×N光スイッチ素子は、N個の1×N光スイッチ素子101とN個のN×1光カプラ102を図9に示すように接続することで構成できる。入力ポート103より入力された光パケットは、1×N光スイッチ素子101により、所望の出力ポート104に接続されたN×1光カプラ102に対し出力される。N×1光カプラ102は、各1×N光スイッチ素子101から転送された光パケット信号を等しく出力ポート104に結合させる受動部品である。
【0004】
N×N光スイッチ素子に入力される信号光の波長が同一の場合、各1×N光スイッチ素子101から漏れ出た光(コヒーレントクロストーク光)は信号光と干渉し、ビートノイズを発生させ、信号品質を劣化させる。従って、それを抑制するため1×N光スイッチ素子101に求められる消光比は、8×8スイッチ規模で40dB以上であり、より大規模になるほど高い消光比が求められる。
【0005】
1×N光スイッチ素子の従来技術として、例えば特許文献1の様なフェーズドアレイ型素子が提案されている。図10にその概念図を示す。この図10に示す1×N光スイッチ素子は、光信号を入力させる入力導波路111と、アレイ導波路112に光信号を分配するためのスラブ導波路113と、屈折率を変化させるために電流注入又は電圧印加を行うための三角形状の電極114が装備されたアレイ導波路112と、アレイ導波路112からの出力光を出力導波路115に結合させるためのスラブ導波路116と、光信号を取り出すN本の出力導波路115から構成されている。
【0006】
図10に示すように、入力導波路111から入力された光信号は、スラブ導波路113で広がり、アレイ導波路112の各々に結合する。図10では全てのアレイ導波路112の長さが等しい場合を示している。この時、図10に示すように、全ての波長の光はアレイ導波路112の出射端において、波面が揃った状態になる。アレイ導波路112からスラブ導波路116に出射したそれぞれの光は、スラブ導波路116の反対側の端面でお互い干渉しあい、ある点に集光される。出力導波路115をその焦点に設定しておくと、入力導波路111から入力された光信号は、出力導波路115から出力される。
【0007】
図10では、アレイ導波路112上に、隣接するアレイ導波路112間でΔLずつ長さが異なる三角形状の電極114が形成されている。また、パケット毎にスイッチングするために、アレイ導波路112は、半導体材料のpin構造により構成されており、電極114からの電流注入によるプラズマ効果や、電圧印加によるフランツケルディッシュ効果(量子井戸構造の場合は量子閉じ込めシュタルク効果)等により電極114直下の導波路112の屈折率をナノ秒以下の応答速度で変化させることができるようになっている。
【0008】
このとき入力光は、屈折率の変化Δnに応じ、隣接導波路112間で、2πΔnΔL/λの位相差が生じるため、図10の破線で示す様にその波面が回転し、スラブ導波路116の焦点面での焦点位置が変化する。即ち、電極114への制御信号を変化させることにより、出力導波路115を切り替えることが可能である。
【0009】
上記方法により入力光を複数の出力導波路115間で切り替えることは可能であるが、出力ポート数を多くするためには、Δn及びΔLを大きくする必要がある。プラズマ効果やフランツケルディッシュ効果による屈折率変化は、プラズマ効果で高々1%、フランツケルディッシュ効果では更にその10分の1以下である。また、アレイ導波路112の本数は、少なくとも出力導波路N本以上を必要とし、例えば、非特許文献1に示されている様に30dB以上の消光比を得るためには1.6×N本以上のアレイ導波路本数が求められる。
【0010】
更に、隣接アレイ導波路112間において最大2πの位相差を生じさせる必要がある。従って、ΔL、即ち電極面積は必然的に大きくなってしまった。電極面積の増大は電極114の寄生容量を増大させて応答速度の低下を招くため、電極面積の低減がフェーズドアレイ型素子の課題の一つである。
【0011】
この課題を解決するため、図11(a)で示す三角電極114を逆向きに2つ配置する構成や、図11(b)に示す櫛型形状の電極117による構成や、図11(c)に示すアレイ導波路112ごとに直線状電極118を形成して個別に電極制御する方法が挙げられる。
【0012】
図11(a)の電極構成の場合、隣接アレイ導波路112間の必要な最大位相差はπと半減する。また、図11(b)はアレイ導波路112以外の不要な電極部分を除去するため、寄生容量の低減が期待される。従って、実際には図11(a)と図11(b)を組み合わせて作製されるが、電極形成された全てのアレイ導波路112の容量が2つの電極に集中するため、その容量は依然として大きい。また、スイッチ規模が増大するほど増加し、1×8規模の素子でもスイッチング速度は数10ナノ秒以上を必要とし、パケット毎のスイッチングには不適であった。
【0013】
一方、図11(c)の構成は、電極118の一つあたりの寄生容量が小さいため、スイッチング速度は数ナノ秒以下が得られるが、アレイ導波路112の本数分の電極118の制御を必要とする。上述したようにアレイ導波路112の本数は、少なくともN本以上を必要とする。N個の出力導波路に対する最適な電流値/電圧値の探索を少なくともN本以上の電極118に対して作製した素子毎に行う必要があるため(N2の電流値/電圧値の組合せ)、実用上大きな課題があった。更に、ルータ内で使用される8×8光スイッチ素子に求められる消光比は、コヒーレントクロストークを抑制するため、40dB以上が求められるため、その消光比を確保するためアレイ導波路112の本数は2Nを超える。つまり、簡便な電気制御でスイッチング速度が数ナノ秒以下、消光比40dB以上をもつフェーズドアレイ型光スイッチ素子を実現することは困難であった。
【0014】
他方、1×Nの光カプラとN個の半導体光増幅器ゲートアレイで構成される分配選択型1×N光スイッチも提案されている。図12にその構成図を示す。この図12の構成では、1×Nの光カプラ121により入力光を等しく分配し、半導体光増幅器122(Nアレイ光ゲート)のOn/Offにより所望の出力導波路123への接続を決定する。例えば非特許文献2に示されているように、半導体光増幅器122の電流Off時の高い吸収率を利用することで70dB以上の高消光比が得られる。しかし、Nの増加とともに原理損失が増大し、その損失はデシベルで10Log10(1/N) 以上となる点が課題である。例えば1×8の光スイッチの場合、9dBもの原理損失となり、光スイッチの大規模化に課題がある。また、半導体光増幅器の場合、遅い利得回復時間によるパタン効果や4光波混合などの非線形光学効果により入力信号が劣化し、入力信号強度やビットレート、更には波長多重信号の場合には波長間隔に制限がある点も大きな課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−072157号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Takuo Tanemura, et al., "Design and scalability analysis of optical phased-array 1xN switch on planar lightwave circuit", IEICE Electronics Express, VOL. 5, No. 16, pp. 603-609, 2008.
【非特許文献2】Shinsuke Tanaka, et al., "Monolithically Integrated 8:1 SOA Gate Switch With Large Extinction Ratio and Wide Input Power Dynamic Range", IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL. 45, NO. 9, pp. 1155-1161, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記の事情に鑑みて本発明は、大規模化が可能かつ簡便な電気制御でスイッチング速度が数ナノ秒以下、低損失、極めて高い消光比の1×N光スイッチ素子及びN×N光スイッチ素子を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決する第1発明の1×N光スイッチ素子は、マッハツェンダー干渉計からなり、両アームのそれぞれに電圧あるいは電流を付与するための電極を備えた複数の2×2MZI光スイッチ素子と、複数の光ゲート素子とを、半導体基板上に形成して成る1×N光スイッチ素子であって、
前記複数の2×2MZI光スイッチ素子は多段に配設され、前段の2×2MZI光スイッチ素子の二つの出力ポートのそれぞれに対して、後段の2×2MZI光スイッチ素子の二つの入力ポートのうちの一つが接続されており、
前記複数の光ゲート素子が、1×N光スイッチ素子の各出力ポートにそれぞれ設けられており、
多段に配設された前記2×2MZI光スイッチ素子のうち、信号光を通過させない2×2MZI光スイッチ素子は、当該2×2MZI光スイッチ素子の少なくとも一方のアームに信号光を消光するための負電圧を印加することを特徴とする
【0019】
また、第2発明の1×N光スイッチ素子は、第1発明の1×N光スイッチ素子において、前記光ゲート素子は、電界吸収型の光ゲート素子であることを特徴とする。
【0020】
また、第3発明の1×N光スイッチ素子は、第1発明の1×N光スイッチ素子において、前記光ゲート素子は、前記2×2MZI光スイッチ素子と同じ構成の2×2MZI素子であることを特徴とする。
【0021】
また、第4発明の1×N光スイッチ素子は、第3発明の1×N光スイッチ素子において、前記光ゲート素子として用いる前記2×2MZI素子の二つの出力ポートのうち、光信号を透過させない一方の出力ポートは、光信号を透過させる他方の出力ポートと異なる方向に向けられていることを特徴とする。
【0023】
また、第発明の1×N光スイッチ素子は、第1〜第3発明の何れか1つの1×N光スイッチ素子において、
1×N光スイッチ素子の各出力ポートからの光出力が、マイクロレンズアレイを介して光ファイバに結合されていることを特徴とする。
【0024】
また、第発明のN×N光スイッチ素子は、第1〜第3発明の何れか1つ1×N光スイッチ素子をN個と、N個のN×1光カプラとを備えており、
前記N個の1×N光スイッチ素子の各出力ポートを、前記N個のN×1光カプラの各入力ポートに接続した構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、大規模化が可能かつ簡便な電気制御でスイッチング速度が数ナノ秒以下、低損失、極めて高い消光比の1×N光スイッチ素子及びN×N光スイッチ素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態1に係る1×8光スイッチ素子の構成図である。
図2】(a)は本発明の実施形態1に係る2×2MZI光スイッチ素子の構成図、(b)は前記2×2MZI光スイッチ素子の透過特性である。
図3】本発明の実施形態1に係る1×N光スイッチ素子と分配選択型1×N光スイッチの損失を比較する図である。
図4】本発明の実施形態1に係る1.4Q組成EA光ゲート素子の透過率と印加電圧の関係を示す特性図である。
図5】本発明の実施形態1に係る2×2MZI光スイッチ素子のクロスポートの透過率と両アームへの印加電圧の関係を示す図である。
図6】本発明の実施形態2に係る1×8光スイッチ素子の構成図である。
図7】本発明の実施形態3に係る8×64光スイッチ素子の構成図である。
図8】本発明の実施形態3に係る64×64光スイッチ素子の構成図である。
図9】N個の1×N光スイッチ素子とN個のN×1光カプラで構成されるN×N光スイッチ素子の構成図である。
図10】従来技術であるフェーズドアレイ型光スイッチ素子の構成図である。
図11】フェーズドアレイ型光スイッチ素子における電極の構成図であり、(a)は三角電極を逆向きに2つ配置する構成図、(b)は櫛型形状の電極による構成図、(c)はアレイ導波路ごとに直線状電極を形成し個別に電極制御する構成図である。
図12】分配選択型1×N光スイッチの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る1×8光スイッチ素子の構成を図1に示す。本実施形態1の1×8光スイッチ素子では、対称マッハツェンダー干渉計(以下MZIと表す)を2×2MZI光スイッチ素子11とし、図1の様に半導体基板13上に7個の2×2MZI光スイッチ素子11を多段に配設して接続することで1×8MZI光スイッチ部12を構成している。即ち、1段目(前段)の2×2MZI光スイッチ素子11の二つの出力ポートのそれぞれに対して、2段目(後段)の2×2MZI光スイッチ素子11の二つの入力ポートのうちの一つが接続され、同様に2段目(前段)2×2MZI光スイッチ素子11の二つの出力ポートのそれぞれに対して、3段目(後段)の2×2MZI光スイッチ素子11の二つの入力ポートのうちの一つが接続されることにより、ツリー状の1×8MZI光スイッチ部12を構成している。
【0029】
更に、同一半導体基板13上にMZI(2×2MZI光スイッチ素子11)と同一組成を光導波層とする電界吸収型(Electro absorption:EA)光ゲート素子14を8個出力側に配置して(即ち出力ポート17−1〜17−8のそれぞれに配置して)、EAゲートアレイ部15を構成している。光ゲート素子14には電極18が設けられている。また、入力ポート16から各出力ポート17−1〜17−8までの光路は、伝搬による損失が経路によらず等しくなるように長さが揃えられている。
【0030】
2×2MZI光スイッチ素子11は、図2(a)に示すように2つの2×2光カプラ21と、長さの等しい2つのアーム(光導波路)22とで構成されている。2つのアーム22上には電極23が形成され、電流を注入できるようになっている。また、2つのアーム22は光導波層の直下までエッチングされたハイメサ光導波路構造によって作製されており、更に半導体pin構造をもつ。電極形成されたアーム22の長さは200μmである。電極23を介して電流を注入すると、注入電流は光導波層に効率的に閉じ込められ、プラズマ効果により導波路の屈折率が変化し、アーム22間に位相差を与える。
【0031】
2×2MZI光スイッチ素子11に入力された信号光は、通常、電流0mAで図2(a)のクロス(Cross)ポート24aに光が出力される。どちらか一方の電極23に電流を注入すると、注入した方の導波路の位相が変化し、電流4mAでクロスポート24aの光出力は最小となり、バー(Bar)ポート24bへの光出力が最大となった(図2(b))。このとき、バーポート24bへの光出力とクロスポート24aへの光出力との比は20dB以上が得られた。本実施形態1の1×8MZI光スイッチ部12の7個の2×2MZI光スイッチ素子11において、電流0mAと4mAの二つの状態、即ち2値をデジタル的に切り替えることで、所望の出力ポート17−1〜17−8に信号光が出力可能となる。
【0032】
従来技術の図11(c)の構成のフェーズドアレイ型光スイッチの場合はN値であり、それに比べ制御が極めて簡便である。また、2×2MZI光スイッチ素子11の二つのアーム22のうち、どちらか一方のアーム22上の電極23を制御すればよく、1×8MZI光スイッチ部12の制御電極23は1×8MZI光スイッチ部12において7個であり、光スイッチ素子を1×Nに一般化した場合、N−1個の制御電極数となる。また、1×NMZI光スイッチ部の挿入損失は、2×2MZI光スイッチ単位素子の損失をデシベルでLとすると、L×Log2(N)と表され、分配選択型1×N光スイッチの損失10Log10(1/N)に比べ低損失で大規模化可能である。本実施形態1の場合、Lは1dBであった。図3に本実施形態1の1×N光スイッチ素子と分配選択型1×N光スイッチの損失を比較した図を示す。
【0033】
本実施形態1では、8×8規模で要求される消光比40dB以上とするため、MZI(2×2MZI光スイッチ素子11)と同じ導波路構造、同一組成を光導波層とするEA光ゲート素子14を、各出力ポート17−1〜17−8に配置した点が特徴である。
【0034】
図4に1.4Q組成InGaAsPコア層(フォトルミネッセンスピーク波長1.4μm)を光導波層とするEA光ゲート素子14の消光特性を示す。このときのEA光ゲート素子14の長さは400μmであり、MZI(2×2MZI光スイッチ素子11)と同様にハイメサ光導波路直上に電極18を形成している。EA光ゲート素子14にマイナス電圧を印加すると半導体の吸収端がシフトし、吸収係数が増加する(フランツケルディッシュ効果)。本実施形態のEA光ゲート素子14では、−3Vで消光比20dBを得ることが可能であり、1×8光スイッチ素子全体で消光比は40dB以上となった。また、使用波長1.55μmに対して吸収端が100nm以上離れており、EA光ゲート素子14における伝搬損失は0.5dB/mmと無視できるほど小さい。また、本実施形態1のEA光ゲート素子14は電圧のOn/Offで動作し、制御電極数はMZI光スイッチ部とEAゲートアレイ部を合わせて2N−1となる。電流/電圧のOn/Offの2値で制御できる点が従来技術の図11(c)と比較して大きな特長である。本実施形態1において半導体光増幅器を用いて同様に光ゲート機能を実現することも可能であるが、EA光ゲート素子14を用いると、パタン効果や非線形光学効果による入力信号の劣化を避けることが可能である。
【0035】
更に、本実施形態1では、2×2MZI光スイッチ素子11に2×2光スイッチとしての機能だけでなく、光ゲート機能をもたせることができる。2×2MZI光スイッチ素子11の両アーム22の電極23にマイナス電圧を同時に印加すると、二つのアーム22を形成する半導体の吸収係数がフランツケルディッシュ効果により増大し、上記EA光ゲート素子14と同様に信号光を消光させることが可能である。図5に2×2MZI光スイッチ素子11のクロスポートにおける透過率と印加電圧の関係を示す。この効果により、例えば、図1の出力ポート17−1に信号光を出力させているとき、信号光が通過しない4つの2×2MZI光スイッチ素子11を消光させて出力ポート17−3から出力ポート17−8までのクロストークを極めて小さくできる(各2×2MZI光スイッチ素子11で20dBの光ゲート消光比が得られると、出力ポート17−5から出力ポート17−8の消光比は80dB以上、出力ポート17−3及び出力ポート17−4の消光比は60dB以上)。ビートノイズの雑音電力は、クロストーク光の総和で表されるため、この2×2MZI光スイッチ素子11の光ゲート機能は極めて低いクロストークが求められる大規模光スイッチ素子を構成する際に有効である。更に、2×2MZI光スイッチ素子11の光ゲート機能により、入力される信号光を1×NもしくはN×N光スイッチ内部で極めて高い消光比で遮断できる。
【0036】
例えば、図1の7つの2×2MZI光スイッチ素子11すべてを消光させた場合、3段の2×2MZI光スイッチ素子11の消光比:60dB+EA光ゲート素子14の消光比:20dB=80dB以上の高消光比で遮断できる(2×2MZI光スイッチ素子11の光ゲート機能がない場合、EA光ゲート素子14の消光比:20dBしか得られない)。これにより、ルータに入力される光パケットのうち所望の光パケット、例えばラベルエラーを起こした光パケットやTTL(Time To Live)カウントが0になった光パケットなどを光スイッチ内部で選択的に廃棄する機能を1×NもしくはN×N光スイッチにもたせることが可能である。一方、2×2MZI光スイッチ素子11に光ゲート機能をもたせる場合、理想的な消光比を得るためには両アーム22に同時に電圧を印加することが求められるが、制御すべき電極23がN−1個増加する。これを否とする場合、片側のアーム22にのみマイナス電圧を印加しても消光が得られる。片側のアーム22のみ消光した場合、2×2MZI光スイッチ素子11は干渉計としては動作せず、伝搬光は二つの2×2光カプラ21の分岐損失6dBを受けて出力される(2×2MZI光スイッチ素子単体で消光比6dB)。
【0037】
次に本実施形態1の作製方法について述べる。n−InP基板上に、n−InP下部クラッド層、1.4Q組成0.3μm膜厚のバルクi−InGaAsPコア層、p−InP上部クラッド層、p+−InGaAs層を予め有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)により成長させた。次にフォトリソグラフィとドライエッチングとにより、ハイメサ光導波路構造を一括形成した。本実施形態1では、導波路幅を1.4μmとして作製した。本実施形態1では、光スイッチ部の光カプラ部分を含むすべての光導波路をハイメサ光導波路構造で作製した。本実施形態1では作製が容易、かつ低損失に作製可能な3−dBマルチモード干渉(MMI)光カプラを2×2光カプラ21として用いている。導波路を形成後,局所領域への埋め込みが可能で平坦化に優れた有機材料であるベンゾシクロブテン(Benzocyclobutene:BCB)をスピンコートにより塗布し、O2/C26混合ガスを用いたRIEにより基板表面(ハイメサ光導波路表面)が露出するまでエッチバックを実施し、基板表面(ハイメサ光導波路表面)を平坦化した。その後、電流注入用/電圧印加用電極を2×2MZI光スイッチ素子11の2つのアーム22及びEA光ゲート素子14における各ハイメサ光導波路のp+−InGaAs層上、及び基板裏面に形成し完成となる。以上説明したように、1度のMOVPE成長を用いて簡便に作製できる点が特徴である。
【0038】
本実施形態1では、プラズマ効果とフランツケルディッシュ効果の二つの異なる効果を効率よく同時に使用するため、1.4Q組成0.3μm膜厚の光導波層、導波路幅は1.4μmである。この設計値は、この1×N光スイッチ素子の動作特性を決める重要なパラメータとなる。低損失、高速、かつ低消費電力なスイッチング動作を実現するにあたり、下記の条件が満たされることが好ましい。
【0039】
1) 駆動回路の消費電力を低減する観点から、動作波長1.55μmに対して、2×2MZI光スイッチ素子11への注入電流が20mA以下、EAゲート素子14及びMZIゲート(光ゲート機能の2×2MZI光スイッチ素子11)への印加電圧が−7V以下となる条件で光導波層の組成は1.35Q〜1.45Qで各電極長は100μm〜1000μm。
2) 光導波層の厚さはシングルモード条件で、かつ光導波層への十分な光閉じ込めを有する条件であり、0.1μm〜0.4μm。
3) 光導波路の幅はシングルモード条件であり、0.8μm〜3μm。
【0040】
本実施形態1は、EA光ゲート素子14の光導波層としてバルク層を用いたが、多重量子井戸構造として量子閉じ込めシュタルク効果により高効率に消光できるように作製してもよい。また、導波路構造をハイメサ光導波路構造としているが、ハイメサ構造以外の構造、例えばリッジ型光導波路構造として作製してもよい。あるいは光導波層の両横が半導体で埋め込まれた埋め込み型導波路やリブ型導波路構造などでも実現できる。
【0041】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る1×8光スイッチ素子の構成を図6に示す。本実施形態2では、実施形態1と同様に半導体基板32上に7個の2×2MZI光スイッチ素子11を多段に配設して接続することで1×8MZI光スイッチ部12を構成している。一方、光ゲート素子としては、8個の2×2MZI素子31を出力ポート17−1〜17−8に並列配置している。即ち、2×2MZI素子31は2×2MZI光スイッチ素子11と同じ構成の光ゲート素子であり、8個が並列配置されてMZIゲートアレイ部34を構成している。
【0042】
各出力ポート17−1〜17−8はシングルモード光ファイバ径との整合から250μmピッチで配置され、1×8光スイッチ素子の8つの光出力は2枚のマイクロレンズアレイ35により8つの光ファイバ36に各々結合している。また、8つのシングルモード光ファイバ36は、アレイ状に配置されファイバアレイブロック40上に固定されている。1×8光スイッチの出力光39は、いったん回折により広がるが、1×8光スイッチ側のマイクロレンズアレイ35によってコリメート光とされ、光ファイバ36側のマイクロレンズアレイ35により光ファイバ36のスポット径にまで集光され結合される。このとき、1×8光スイッチと光ファイバ36との結合損失は2dB程度であった。
【0043】
本実施形態2では光ゲート素子として2×2MZI素子31を各出力ポート17−1〜17−8に接続しているが、これは、実施形態1の図2(b)に示す様に2×2MZI素子31の消光比(バーポート38−1〜38−8への光出力とクロスポート37−1〜37−8への光出力との比)が20dB以上得られることを利用している。但し、図6の構成で示す様に、2×2MZI素子31のバーポート38−1〜38−8を出力ポート17−1〜17−8としており、消光状態においては(2×2MZI素子31への電流0mA)、クロスポート37−1〜37−8側に光が放出される。そのため不要な光が迷光となって光ファイバ36側に漏れ出て、クロストーク値を劣化させていた。
【0044】
そこで、本実施形態2では、クロスポート37−1〜37−8側の光出力がマイクロレンズアレイ35に対して180°向きを反転させて出力するように、クロスポート37−1〜37−8の向きを180°反転させることにより、クロストーク値を改善してある。
なお、図6の構成では、2×2MZI素子31のバーポート38−1〜38−8を出力ポート17−1〜17−8としクロスポート37−1〜37−8からの迷光が出力用の光ファイバ36に結合しないようにクロスポート37−1〜37−8の向きを反転させているが、これとは逆に、2×2MZI素子31のクロスポート37−1〜37−8を出力ポート17−1〜17−8としバーポート38−1〜38−8からの迷光が出力用の光ファイバ36に結合しないようにバーポート38−1〜38−8の向きを反転させるようにしてもよい。迷光が出力用の光ファイバ36に結合しないことが重要であり、クロスポート37−1〜37−8又はバーポート38−1〜38−8を反転させる向きは180°に限定されるものではない。即ち、2×2MZI素子の二つの出力ポートのうち、光信号を透過させない一方の出力ポート(クロスポート37−1〜37−8又はバーポート38−1〜38−8)は、光信号を透過させる他方の出力ポート(バーポート38−1〜38−8又はクロスポート37−1〜37−8)と異なる方向に向けられていればよい。
【0045】
この効果により、実施形態1と同様に消光比を要求されるレベルである40dB以上にまで低減できた。本実施形態2の1×8光スイッチの導波路構造及び作製方法は実施形態1と同様である。また、2×2MZI光スイッチ素子11は2×2光スイッチとしてだけでなく、光ゲート機能をもつ点も実施形態1と同様である。
【0046】
(実施形態3)
本発明の実施形態3に係る8×64光スイッチ素子の構成を図7に示す。本実施形態3では、実施形態2と同様に7個の2×2MZI光スイッチ素子11を多段に接続することで1×8MZI光スイッチ部12を構成し、光ゲート素子として8個の2×2MZI素子31を出力ポート17−1〜17−8にそれぞれ配置してMZIゲートアレイ部34を構成することにより、1×8光スイッチ素子としている。更に、この1×8光スイッチ素子を1チップ上に8個並列に集積することにより、8×64光スイッチ素子を構成している。また、8個の入力ポート16と64個の出力ポート17−1〜17−8は、それぞれ2対のマイクロレンズアレイ35を用いて、複数本のシングルモード光ファイバ36をアレイ状に配置してなる8ファイバアレイ41及び64ファイバアレイ42のシングルモード光ファイバアレイに結合されている。本実施形態3の1×8光スイッチ素子(8×64光スイッチ素子)とマイクロレンズアレイ35はすべて半導体プロセスで作製される。従って、フォトリソグラフィとエッチングの精度でアレイ間の位置精度が決定される。光スイッチを本実施形態3のように小型化のためにアレイ化しても、光ファイバ36への結合が極めて低損失に可能であった。
【0047】
更に、図8のように、本実施形態3の8×64光スイッチ(即ち並列に配置した8つの1×8光スイッチ素子)と、8つの8×1光カプラ51を用いれば、簡便な電気制御でスイッチング速度が数ナノ秒以下、低損失で極めて低いクロストークの8×8光スイッチ素子が実現できる。一般的にはN個の1×N光スイッチ素子の各出力ポートを、N個のN×1光カプラの各入力ポートに接続することにより、N×N光スイッチ素子を実現することができる。図8にはNが8の場合を示しており、8個の1×8光スイッチ素子の出力ポート17−1〜17−8のそれぞれを、8個の8×1光カプラ51の入力ポート52−1〜52−8のそれぞれに接続することにより、8×8光スイッチ素子を実現している。
【0048】
最後に本実施形態では、InP系の化合物半導体を用いたがGaAs系導波路やシリコン細線導波路などのナノ秒オーダの屈折率と吸収係数の変化が可能な材料系を用いれば、同様に実現できる事を付記しておく。
実施形態1,2では、7つの2×2MZI光スイッチ素子11を3段に配設して接続することで1×8光スイッチ素子を構成したが、この構成に限定されるものではない。例えば、15個の2×2MZI光スイッチ素子11を4段に配設して接続することで1×16光スイッチ素子としてもよい。その場合は、16の出力ポートに16個のEA光ゲート素子14ないしは2×2MZI素子31を設けるようにすればよい。また、実施形態3では、1×8光スイッチ素子を1チップ上に8個並列に集積することにより、8×64光スイッチ素子を構成したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、1×16光スイッチ素子を1チップ上に16個並列に集積して、16×256光スイッチ素子としてもよい。16×256光スイッチ素子と16個の16×1光カプラを用いて、16×16光スイッチ素子としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は1×N光スイッチ素子及びN×N光スイッチ素子に関するものであり、従来と比較して、高性能で低コスト、電気制御が簡便という特長があり、大容量通信用のルータ内部のスイッチ素子として利用できる。
【符号の説明】
【0050】
11 2×2MZI光スイッチ素子
12 1×8MZI光スイッチ部
13 半導体基板
14 EA光ゲート素子
15 EAゲートアレイ部
16 入力ポート
17−1〜17−8 出力ポート
18 電極
21 2×2光カプラ
22 アーム
23 電極
24a クロスポート
24b バーポート
31 2×2MZI素子
32 半導体基板
34 MZIゲートアレイ部
35 マイクロレンズアレイ
36 光ファイバ
37−1〜37−8 クロスポート
38−1〜38−8 バーポート
39 出力光
40 ファイバブロック
41 8ファイバアレイ
42 64ファイバアレイ
51 8×1光カプラ
52−1〜52−8 入力ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12