(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコン0.02重量%以上0.5重量%以下、マンガン0.2重量%以上0.5重量%以下、ニッケル1.0重量%以上3.0重量%以下、クロム16重量%以上19重量%以下、モリブデン1.5重量%以上2.5重量%以下、チタン0.1重量%以上0.5重量%以下、ニオブ0.2重量%以上0.8重量%以下、スズ0.1重量%以上0.5重量%以下、ビスマス0.02重量%以上0.1重量%以下を含有し、かつ鉄残量及び不可避的な不純物からなり、高耐発錆性及びロストワックス鋳造法による鋳造適応性を有するフェライト系ステンレス鋼。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態(実施の形態)について説明する。本発明は、下記に記載する実施の形態の内容に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変形が可能である。
【0013】
ステンレス鋼とは、耐食性を向上させる目的で、クロム又はクロム及びニッケルを含有させた合金鋼である。一般にはクロム含有量が約11%以上の鋼をステンレス鋼といい、主としてその組織によって、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系及び析出硬化系の五つに分類される(JIS G 0203)。
【0014】
本実施の形態に係るステンレス鋼は、シリコン(Si)0.02重量%以上0.5重量%以下、マンガン(Mn)0.2重量%以上0.5重量%以下、ニッケル(Ni)1.0重量%以上3.0重量%以下、クロム(Cr)16重量%以上19重量%以下、モリブデン(Mo)1.5重量%以上2.5重量%以下、チタン(Ti)0.1重量%以上0.5重量%以下、ニオブ(Nb)0.2重量%以上0.8重量%以下、スズ(Sn)0.1重量%以上0.5重量%以下、ビスマス(Bi)0.02重量%以上0.1重量%以下を含有し、かつ鉄(Fe)残量及び不可避的な不純物からなり、高耐発錆性及びロストワックス鋳造法による鋳造適応性を有するフェライト系ステンレス鋼である。
【0015】
本実施の形態に係るステンレス鋼の組成について説明する。Siの含有は、組成中の酸素を除去する作用があるが、Siの含有量が多くなると脆化、すなわち脆くなりやすい。このため、Siの含有量は0.02重量%以上0.5重量%以下であることが好ましい。この範囲であれば、本実施の形態に係るステンレス鋼は、組成中の酸素を除去できると共に、適度な延性を確保することができる。
【0016】
Niの含有量が少なくなるとステンレス鋼の硬度及び延性が低下する。また、Niは、含有量が3.0重量%を上回るとステンレス鋼の上述した熱膨張率が増加する。そして、ステンレス鋼の熱膨張率が増加する場合、ステンレス鋼は、精密または高精度部品用途に不向きとなる。つまり、Niの含有量が多くなると、ロストワックス鋳造法による鋳造による成形性が低下する。このため、本実施の形態に係るステンレス鋼は、Niの含有量は1.0重量%以上3.0重量%以下が好ましい。この範囲であれば、成形性、適度な硬度及び延性を確保することができる。その結果、本実施の形態に係るステンレス鋼は、ロストワックス鋳造法による精密部品又は高精度部品を形成することができる。そして、本実施の形態に係るステンレス鋼は、ロストワックス鋳造法による鋳造適応性を有している。
【0017】
本実施の形態に係るステンレス鋼は、Crの含有量を、16重量%以上19重量%以下の範囲とすることにより、ステンレス鋼の組織はフェライトになる。これにより、ステンレス鋼は、耐食性を確保することができる。一般的なステンレス鋼では、Crは、耐食性を向上させるが、Crの含有量が増加するにつれて、ステンレス鋼の結晶粒が増大し、脆性が高まる可能性がある。このため、本実施の形態に係るステンレス鋼は、Crの含有量を、16重量%以上19重量%以下の範囲とすると共に、本実施の形態に係るステンレス鋼は、一般的なステンレス鋼、例えば、SUS304等と比較すると、Mn、Ti、Nb及びBiの含有量が異なるようにする。そして、本実施の形態に係るステンレス鋼は、Mnの含有量を0.2重量%以上0.5重量%以下、Moの含有量を1.5重量%以上2.5重量%以下、Tiの含有量を0.1重量%以上0.5重量%以下及びNbの含有量を0.2重量%以上0.8重量%以下とすることにより、ステンレス鋼の結晶粒の増大を抑制する。
【0018】
本実施の形態に係るステンレス鋼は、Moの含有量を1.5重量%以上2.5重量%以下、Tiの含有量を0.1重量%以上0.5重量%以下及びSnの含有量を0.1重量%以上0.5重量%以下とすることにより、ステンレス鋼の耐食性を向上させ、熱膨張率の増加、機械加工特性(機械的性質)の低下を抑制している。
【0019】
本実施の形態に係るステンレス鋼は、Biが0.02重量%以上0.1重量%以下の含有量を有する場合、切削加工性が向上する。
【0020】
本実施の形態に係るステンレス鋼は、上述した組成の残部がFeである。本実施の形態に係るステンレス鋼は、不可避的な不純物、例えば、炭素(C)、窒素(N)、硫黄(S)等を含んでいてもよい。
【0021】
このような組成とすることにより、本実施の形態に係るステンレス鋼は、Mo、Ti及びNbの所定量の含有によって熱膨張率の増加を抑制する。また、本実施の形態に係るステンレス鋼は、Cr、Mo、Ti及びNbの所定量の含有によって、耐食性を向上させ高耐錆性を有する。そして、本実施の形態に係るステンレス鋼は、Niの所定量の含有によって成形を容易にする。さらに、本実施の形態に係るステンレス鋼は、Biの所定量の含有によって切削加工性が向上する。
【0022】
このため、本実施の形態に係るステンレス鋼を加工装置の部材に用いると、切削水等の付着による錆はほとんど発生しない。また、熱膨張率が抑制されており制振能力が高いため、切削時又は研磨時において発生した振動は、加工装置の部材で効率よく吸収されるので、加工装置の工具及び加工装置の振動が効率よく抑制される。その結果、加工装置は、被加工物の加工精度を確保することができる。
【0023】
(製造方法)
本実施の形態に係るステンレス鋼による部材は、いわゆるロストワックス鋳造法によって製造することができ、例えば、次のような工程を有する製造方法により製造できる。なお、本実施の形態に係るステンレス鋼による部材の製造方法は、下記の製造方法には限定されない。
図1は、実施の形態に係るステンレス鋼を用いた部材のロストワックス鋳造法による製造方法のフローチャートである。
【0024】
図1に示すように、まず、溶解工程では、上述した本実施の形態に係るステンレス鋼の組成に調整された鋼材を、所定の溶解温度の真空高周波溶解炉で溶解させる(ステップS1)。溶解温度は、1550℃以上1600℃以下である。
【0025】
鋳型製造工程では、ろうで模型を製作し、ケイ酸エチルまたはケイ酸ソーダを混合した微粉耐火物あるいはセラミックスをコーティングして乾燥させ、鋳型の型枠内に型込めする。そして、この鋳型を高温にし、ろうを溶融流出させ、鋳型を焼成する(ステップS11)。
【0026】
鋳込み工程では、ステップS11において製造した鋳型を鋳造温度に加熱する。鋳造温度は、1000℃以上1050℃以下となるように制御される。そして、ステップS1において、溶解された鋼材が鋳型に流し込まれ、鋳込みが行われる(ステップS2)。そして、鋳込みが終了した鋳型は自然冷却される。
【0027】
鋳込み工程において、前述した範囲を超えて溶解温度及び鋳造温度が高い場合には、ステンレス鋼の結晶粒が増大し、脆性が高くなる可能性がある。鋳込み工程において、前述した範囲を下回り、溶解温度及び鋳造温度が低い場合には、鋼材が鋳型内で回り込みが不十分となり回り込み不良となる可能性、又は鋳型から分離した部材の表面である鋳肌の荒れが発生する可能性がある。このように、鋳込み工程において、前述した範囲の溶解温度及び鋳造温度を維持した場合、ステンレス鋼の結晶粒の増大が抑制され、鋼材が鋳型内で回り込みが十分であり、かつ鋳肌の荒れも抑制される。
【0028】
分離工程では、ステップS2で鋳込まれた鋳型から、粗形状が粗形成された鋼塊を分離する(ステップS3)。次に、熱処理工程では、ステップS3において分離された鋼塊を熱処理温度で熱処理し、鋼塊の焼鈍を行う(ステップS4)。熱処理温度は、600℃以上850℃以下である。次に、加工工程では、切削又は研削等の加工を行い、仕上げ加工を行う(ステップS5)。上述した工程により、本実施の形態に係るステンレス鋼の部材がロストワックス鋳造法により製造される。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態のステンレス鋼の製造方法は、例えば、シリコン(Si)0.2重量%、マンガン(Mn)0.3重量%、ニッケル(Ni)2.0重量%、クロム(Cr)18重量%、モリブデン(Mo)2.0重量%、チタン(Ti)0.3重量%、ニオブ(Nb)0.5重量%、スズ(Sn)0.3重量%、ビスマス(Bi)0.05重量%を含有し、かつ残量を鉄(Fe)とした鋼材を所定の溶解温度の高周波溶解炉で溶解後、ロストワックス製法により生成され鋳造温度に加熱された鋳型に鋳込みを行い、自然冷却する。ここで、各組成は、±10%のコントロール誤差がある。このため、ステンレス鋼は、Siの含有量が0.18重量%以上0.22重量%以下、Mnの含有量が0.27重量%以上0.33重量%以下、Niの含有量が1.8重量%以上2.2重量%以下、Crの含有量が16.2重量%以上19.8重量%以下、Moの含有量が1.8重量%以上2.2重量%以下、Tiの含有量が0.27重量%以上0.33重量%以下、Nbの含有量が0.45重量%以上0.55重量%以下、Snの含有量が0.27重量%以上0.33重量%以下、Biの含有量が0.045重量%以上0.055重量%以下、かつ残量がFe及び不可避不純物を含む組成範囲で製造される。このような範囲であれば、製造されたステンレス鋼は、熱膨張を抑制すると共に、耐食性を向上し、かつ成形の容易となる。そして、製造されたステンレス鋼は、切削水等が付着する環境で使用される加工装置の部材の材料としての性能を確保できる。またロストワックス鋳造法は、ステンレス鋼及びステンレス鋼を用いた部品の生産性も向上させる。なお、溶解温度は、1550℃以上1600℃以下であり、鋳造温度は、1000℃以上1050℃以下である。
【0030】
このように、本実施の形態に係るステンレス鋼は、ロストワックス鋳造法による製造方法で製造できるので、一般的な圧延工程は不要である。その結果、本実施の形態に係るステンレス鋼の製造は、工程の簡略化が可能となり、製造コストの増加を抑制できるという利点がある。そして、本実施の形態に係るステンレス鋼は、ロストワックス鋳造法による鋳造適応性を有している。
【0031】
(加工装置)
本実施の形態に係るステンレス鋼による部材は、ロストワックス鋳造法により、半導体ウエーハを加工する加工装置において切削水又は研削水が付着する環境下で用いられる部材に鋳造される。本実施の形態に係るステンレス鋼による部材は、例えば、次のような加工装置のホイールカバーである。なお、本実施の形態に係るステンレス鋼による部材は、下記の加工装置又はホイールカバーには限定されない。
図2は、実施の形態に係る加工装置の構成例を示す説明図である。
【0032】
加工装置1は、図示しない被加工物に切削加工又は研削を行う切削装置あるいは研磨装置であり、
図2に示すように、チャックテーブル10と、少なくともスピンドル22、スピンドルハウジング23等を含む切削手段20と、X軸移動手段30と、Y軸移動手段40と、Z軸移動手段50と、制御手段70と、報知手段80とを少なくとも備える。
【0033】
ここで、被加工物は、加工装置1により切削加工が行われる加工対象であり、シリコン、サファイア、ガリウム等を母材とする半導体ウエーハ、ガラス、樹脂等からなる板状部材である。被加工物は、本実施の形態では、デバイスが複数形成されているデバイス側の表面と反対側の裏面がダイシングテープに貼着され、被加工物に貼着されたダイシングテープがフレームに貼着されることで、フレームに固定される。
【0034】
チャックテーブル10は、被加工物を保持する。チャックテーブル10は、表面に載置された被加工物を吸引することで、被加工物の表面を露出させた状態で保持する。なお、チャックテーブル10は、加工装置1の装置本体に設けられたテーブル移動基台2に着脱可能に固定されている。
【0035】
切削手段20は、チャックテーブル10に保持された被加工物に対して切削加工を行う。切削手段20は、
図2及び
図3に示すように、切削ブレード21と、スピンドル22と、スピンドルハウジング23と、ホイールカバー24と、切削水供給源25から切削水が供給される複数の切削水ノズル26a、26b、26cと、ブレード破損検出器27と、を備えている。
【0036】
切削ブレード21は、被加工物を切削加工する環状に形成されており、切削砥石である。切削ブレード21は、高速回転することでチャックテーブル10に保持された被加工物に切削加工を施すことができる。切削ブレード21は、フランジ28等によりスピンドル22に対して着脱自在に固定される。そして、切削ブレード21は、スピンドル22の先端に装着される。
【0037】
スピンドル22は、切削ブレード21を回転可能に支持する。スピンドル22は、スピンドルハウジング23の内部空間に収容されており、先端側と反対側で図示しない回転駆動源に連結されて、回転駆動源の回転駆動力により軸芯回りに回転される。スピンドル22は、回転駆動源の回転駆動力により軸芯回りに回転されることにより、切削ブレード21を、例えば矢印K方向に回転させる。
【0038】
ホイールカバー24は、切削ブレード21に外周を覆うように配設され、スピンドルハウジング23の先端に固定される。このホイールカバー24は、切削ブレード21を保護すると共に、切削加工に伴う切削水、切削屑等が切削手段20の外部に飛散することを低減する。このため、ホイールカバー24は、切削水が付着する環境に配置されている。
【0039】
複数の切削水ノズル26a、26b、26cは、切削ブレード21等に切削水を供給する。複数の切削水ノズル26a、26b、26cのうちの一つの切削水ノズル26aは、切削ブレード21の外周縁と相対した状態でホイールカバー24に配設されている。切削水ノズル26aは、切削水供給源25から供給された切削水を切削ブレード21の外周縁に供給する。複数の切削水ノズル26a、26b、26cのうちの他の二つの切削水ノズル26b、26cは、切削ブレード21を両側から挟むようにして水平方向に配設されており、切削ブレード21に相対する面に切削水供給孔(図示せず)が所定間隔毎に水平方向に複数設けられている。切削水ノズル26b、26cは、切削水供給源25から供給された切削水を、複数の切削水供給孔から複数の切削ブレード21及び切削ブレード21が切削する被加工物に供給する。なお、切削水ノズル26a、26b、26cから切削ブレード21等に供給される切削水の温度は、切削水供給源25等において、所定の温度に保たれている。
【0040】
ブレード破損検出器27は、切削ブレード21の回転中に切削ブレード21の破損又は磨耗を検出するものであり、ホイールカバー24に取り付けられている。ブレード破損検出器27は、検出結果を制御手段70に出力する。
【0041】
X軸移動手段30は、切削ブレード21に対してチャックテーブル10に保持された被加工物を加工装置1におけるX軸方向に相対移動させる。X軸移動手段30は、図示しないX軸パルスモータにより発生した回転力により、テーブル移動基台2を図示しないX軸ガイドレールによりガイドしつつX軸方向に移動させる。ここで、テーブル移動基台2は、図示しないチャックテーブル回転源に連結されている。チャックテーブル回転源が発生した回転力が伝達されて、チャックテーブル10は、Z軸と平行な中心軸線回りに任意の角度、例えば90度回転又は連続回転する。その結果、チャックテーブル10に保持された被加工物は、切削ブレード21に対してチャックテーブル10の中心軸線を中心に任意の角度で回転する。
【0042】
Y軸移動手段40は、チャックテーブル10に保持された被加工物に対して切削ブレード21を加工装置1におけるY軸方向に相対移動させる。Y軸移動手段40は、図示しないY軸パルスモータにより発生した回転力により、切削手段20を図示しないY軸ガイドレールによりガイドしつつY軸方向に移動させる。
【0043】
Z軸移動手段50は、チャックテーブル10に保持された被加工物に対して切削ブレード21を加工装置1におけるZ軸方向に相対移動させる。Z軸移動手段50は、図示しないZ軸パルスモータにより発生した回転力により、切削手段20を図示しないZ軸ガイドレールによりガイドしつつZ軸方向に移動させる。
【0044】
制御手段70は、加工装置1における切削手段20と、X軸移動手段30と、Y軸移動手段40と、Z軸移動手段50とをそれぞれ制御する。制御手段70は、回転駆動源を駆動制御することで発生した回転力により切削ブレード21を高速回転(数千rpm以上数万rpm以下)させ、チャックテーブル10と切削ブレード21とをX軸方向、Y軸方向、Z軸方向、中心軸線回りに相対移動させることで、被加工物を切削する加工を切削手段20に行わせる。
【0045】
さらに、制御手段70は、ブレード破損検出器27からの情報に基いて、切削ブレード21が破損又は磨耗していると判断すると、報知手段80に報知指令を出力する。なお、制御手段70は、例えばCPU等で構成された演算処理装置、ROM、RAM等を備える図示しないマイクロプロセッサを含む。制御手段70は、加工装置1の加工動作の状態を表示する表示手段90、あるいはオペレータが加工内容情報等を登録する際に用いる図示しない操作手段と接続されている。
【0046】
ホイールカバー24は、本実施の形態に係るステンレス鋼の部材である。
図4は、比較例のホイールカバーの構成例を示す説明図である。
図5は、実施の形態に係るホイールカバーの構成例を示す説明図である。本実施の形態に係るホイールカバー24は、ブレード破損検出器27が取り付けられているので、複雑な形状をしている。従来、
図4に示すように、ホイールカバー24は、カバー部材24A、24B、24C及び24Dの4つの部材がねじBa、Bb、Bdにより組み立てられていた。例えば、カバー部材24A、24B、24C及び24Dは、全て切削加工で部品の成形が行われる。これに対し、
図5に示すように、本実施の形態に係るホイールカバー24は、カバー部材24A、24B、24C及び24Dの4つの部材がロストワックス鋳造法により、一体に鋳造されている。このため、
図4に示すカバー部材24A、24B、24C及び24Dが全て切削加工で部品の成形が行われる場合に比較して、ロストワックス鋳造法により一体に鋳造されている本実施の形態に係るホイールカバー24は、製造コストを大幅に抑えることができる。また、本実施の形態に係るホイールカバー24の製造では、ねじBa、Bb、Bdにより組み立てられていた工程が不要となり、ホイールカバー24の組み立て及び調整作業に要していた製造時間が短縮される。また、本実施の形態に係るホイールカバー24は、ねじBa、Bb、Bdにより生じるカバー部材24A、24B、24C及び24D間の緩み又は組み立て不良の発生が抑制され、部品の信頼性が向上している。そして、本実施の形態に係るホイールカバー24は、ロストワックス鋳造法により鋳造されているため、不要な厚みを軽減し、軽量にすることができる。その結果、周囲の部材へかかるホイールカバー24の荷重が減り、加工装置1の切削手段20と、X軸移動手段30と、Y軸移動手段40と、Z軸移動手段50への負荷が軽減され、加工装置1の寿命を延ばすことができる。
【0047】
以上、本実施の形態に係るステンレス鋼は、ロストワックス鋳造法により、半導体ウエーハを加工する加工装置において切削水又は研削水が付着する環境下で用いられる部材に鋳造される。上述したように、本実施の形態に係るステンレス鋼は、熱膨張を抑制すると共に、耐食性を向上し、かつ成形が容易である。そして、本実施の形態に係るステンレス鋼は、半導体ウエーハを加工する加工装置1のホイールカバー24、チャックテーブル10及びスピンドル22等といった、切削水又は研削水が付着する環境で使用する部材の材料として使用しても、切削水等の付着による錆はほとんど発生しない。また、加工装置1は、熱膨張率が低く、制振能力が高いため、切削時又は研磨時において発生した振動は、ホイールカバー24、チャックテーブル10及びスピンドル22で効率よく吸収されるので、切削ブレード21等の工具及びウエーハ等の被加工物の振動が効率よく抑制される。その結果、加工装置1は、ウエーハの加工精度を確保することができる。
【実施例】
【0048】
上述した実施の形態に係るステンレス鋼を、上述したロストワックス鋳造法によって製造し、性能を評価した。上述した溶解工程の真空高周波溶解炉による鋼材の溶融温度は1550℃、鋳込み工程の鋳造温度は1000℃とした。製造したステンレス鋼の組成は、シリコン(Si)0.2重量%、マンガン(Mn)0.3重量%、ニッケル(Ni)2.0重量%、クロム(Cr)18重量%、モリブデン(Mo)2.0重量%、チタン(Ti)0.3重量%、ニオブ(Nb)0.5重量%、スズ(Sn)0.3重量%、ビスマス(Bi)0.05重量%を含有し、残量がFeである。このステンレス鋼を実施例とした。比較例1としてSUS303を、比較例2としてSUS430を、比較例3としてSUS431を評価した。
【0049】
(機械的性質の評価)
実施例、比較例1、比較例2及び比較例3の機械的性質を評価した。評価項目及び評価結果を表1に示す。耐力(0.2%耐力)及び引張強さは、実施例、比較例1、比較例2及び比較例3に対する引張試験の結果から求めた。硬さは、実施例、比較例1、比較例2及び比較例3に対するロックウェル硬さ試験により求めた。比重は、20℃の環境下で、実施例、比較例1、比較例2及び比較例3の単位体積あたりの質量を求めた。熱膨張率は、実施例、比較例1、比較例2及び比較例3の試料を0℃から100℃まで一定速度で昇温させたときにおける熱膨張率である。0℃のときの試料長をL0、100℃のときの試料長をL100とすると、熱膨張率は、(L100−L0)/(100×L0)となる。孔食電位は、JIS G 0577に規定されるステンレス鋼の孔食電位測定方法により測定した動電位法孔食電位V’
C,PITである。
【0050】
表1の結果から理解できるように、実施例及び比較例3は、比較例1及び比較例2よりも大きい耐力、引張強さ及び硬さ(ロックウェル硬さ)を有している。加工装置のホイールカバー、チャックテーブル及びスピンドル等には、例えば、SUS430(比較例2)が用いられることが多いが、表1に示す評価結果から理解できるように、実施例は、比較例2よりも機械的強度が高いので、ホイールカバー、チャックテーブル及びスピンドル等の材料として好適に使用することができる。
【0051】
表1の結果から理解できるように、実施例は、比較例1、比較例2及び比較例3よりも大きい孔食電位を有している。切削水又は研削水が付着する環境下で用いられるホイールカバー、チャックテーブル及びスピンドル等には、例えば、SUS431(比較例3)が用いられても発錆が生じる可能性があるが、表1に示す評価結果から理解できるように、実施例は、比較例3よりも孔食電位が高いので錆びにくく、ホイールカバー、チャックテーブル及びスピンドル等の材料として好適に使用することができる。
【0052】
表1の結果から理解できるように、実施例は、比較例1よりも小さい熱膨張率を有しており、比較例2及び比較例3と同等の熱膨張率を有している。このため、実施例は、比較例2及び比較例3と同等程度の防振性能を有している。なお、比較例1は、非磁性であるが、実施例、比較例2及び比較例3は、強磁性の磁性を有する。
【0053】
【表1】
【0054】
(耐食性の評価)
耐食性を評価するため、実施例、比較例1及び比較例2の発錆実験を行った。発錆実験は、直径20mm、長さが20mmの丸棒の供試体を実施例、比較例1及び比較例2それぞれについて用意し、これらに塩水を噴霧して錆が発生する時間を調査した。発錆実験は、JIS Z 2371(平成12年2月20日改正、2005確認)に規定する塩水噴霧試験方法に従った。
【0055】
図6から
図8は、発錆実験の結果を示す図である。
図6は比較例1の評価結果、
図7は比較例2の評価結果、
図8は実施例の評価結果である。比較例1は塩水の噴霧を開始してから50時間で錆の発生が認められた。比較例2は塩水の噴霧を開始してから20時間で錆の発生が認められた。そして、
図6、
図7に示すように、比較例1及び比較例2は240時間で相当量の錆が発生している。なお、錆は、
図6、
図7に現れている黒い斑点状の部分である。
【0056】
これに対し、実施例の評価結果を示す
図8には、
図6、
図7に見られるような黒い斑点状の部分は現れていない。このことから、実施例は、1000時間の時点で錆の発生は認められないことが理解できる。このように、実施例は、比較例1(SUS304)及び比較例2(SUS430)に対して、高い耐食性を有していることが理解できる。
【0057】
(添加元素の影響)
Siについて含有量を0.02重量%以上0.5重量%以下の間で変化させて、これらの元素の含有量がステンレス鋼の特性に与える影響を調査した。Siは、含有量が0.02重量%を下回るとステンレス鋼の組成中の酸素を除去する効果が低下する。また、Siは、含有量が0.5重量%を上回るとステンレス鋼の延性が低下し、脆性を呈するようになる。なお、延性又は脆性は、引張り破断試験によって評価した。
【0058】
Niについて含有量を1.0重量%以上3.0重量%以下の間で変化させて、これらの元素の含有量がロストワックス鋳造法による成形性に与える影響を調査した。Niは、含有量が1.0重量%を下回るとステンレス鋼の硬度、引張強度が低下する。より具体的には、上述した機械的特性の低下が認められた。また、Niは、含有量が3.0重量%を上回るとステンレス鋼の上述した熱膨張率が増加する。その結果、Niは、含有量が3.0重量%を上回るとロストワックス鋳造法による成形性が低下し、精密または高精度の部品用途に不向きであることが分かった。
【0059】
Crの含有量が16重量%以上19重量%以下の範囲の場合、Mnの含有量を0.2重量%以上0.5重量%以下、Moの含有量を1.5重量%以上2.5重量%以下、Tiの含有量を0.1重量%以上0.5重量%以下及びNbの含有量を0.2重量%以上0.8重量%以下で変化させて、これらの元素の含有量がステンレス鋼の特性に与える影響を調査した。Crの含有量が16重量%以上19重量%以下の範囲の場合、Mnの含有量を0.2重量%以上0.5重量%以下、Moの含有量を1.5重量%以上2.5重量%以下、Tiの含有量を0.1重量%以上0.5重量%以下及びNbの含有量を0.2重量%以上0.8重量%以下とすることにより、走査型顕微鏡で観察した結晶粒が縮小した。この範囲をはずれたMn、Mo、Ti、及びNbを添加した場合、ステンレス鋼は結晶粒が増大し、耐力(0.2%耐力)及び引張強さが低下し、加工装置の部材、特にホイールカバー、チャックテーブル及びスピンドル等の材料としての性能を確保できない可能性がある。
【0060】
Mo、Ti及びSnについて、Moの含有量を1.5重量%以上2.5重量%以下、Tiの含有量を0.1重量%以上0.5重量%以下及びSnの含有量を0.1重量%以上0.5重量%以下の間で変化させて、これらの元素の含有量がステンレス鋼の特性に与える影響を調査した。ステンレス鋼は、Moの含有量が1.5重量%、Tiの含有量が0.1重量%及びSnの含有量が0.1重量%よりもそれぞれ下回ると、ステンレス鋼の耐食性が低下する。より具体的には、上述した発錆実験において、1000時間で錆の発生が認められた。ステンレス鋼は、Moの含有量が2.5重量%、Tiの含有量0.5重量%及びSnの含有量が0.5重量%よりもそれぞれ下回ると、ステンレス鋼の延性が低下し、脆性を呈するようになる。このため、加工装置の部材の材料、特に切削水等が付着する環境で使用される部材の材料としての性能を確保できない可能性がある。
【0061】
また、Biについて含有量を0.02重量%以上0.1重量%以下の間で変化させて、これらの元素の含有量がステンレス鋼の特性に与える影響を調査した。Biが0.02重量%以上0.1重量%以下の含有量を有していない場合、切削加工性が低下した。このため、実施例のステンレス鋼は、仕上げ精度が困難になる可能性がある。
【0062】
上記結果から、実施例のステンレス鋼は、Siの含有量が0.02重量%以上0.5重量%以下、Mnの含有量が0.2重量%以上0.5重量%以下、Niの含有量が1.0重量%以上3.0重量%以下、Crの含有量が16重量%以上19重量%以下、Moの含有量が1.5重量%以上2.5重量%以下、Tiの含有量が0.1重量%以上0.5重量%以下、Nbの含有量が0.2重量%以上0.8重量%以下、Snの含有量が0.1重量%以上0.5重量%以下、Biの含有量が0.02重量%以上0.1重量%以下、かつ残量がFeであるフェライト系ステンレス鋼であることが好ましい。このような範囲であれば、実施例は、熱膨張を抑制すると共に、耐食性を向上し、かつ成形の容易なステンレス鋼となる。そして実施例は、切削水等が付着する環境で使用される加工装置の部材の材料としての性能を確保できる。また実施例は、ステンレス鋼及びステンレス鋼を用いた部品の生産性も向上する。