【文献】
Koji Ishizu et al.,"Microdomain control in graft copolymer and polymer blends by means of epitaxial growth"",Makromol. Chem.,1988年,Vol.189,pp.2875-2883
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
果汁含有アルコール溶液に含まれる無機および/または分子量1000以下の有機の電解質を電気透析により除去する方法において、陽イオン交換膜として、アニオン性基を有するアニオン性重合体セグメントとビニルアルコール重合体セグメントを有するポリビニルアルコール系共重合体を含有し、ドメインサイズ(X)が0nm<X≦150nmの範囲内にあるミクロ相分離構造を有する陽イオン交換膜を用いることを特徴とする、果汁含有アルコール溶液に含まれる電解質の除去方法
前記ビニルアルコール重合体セグメントは、アニオン性基を含有しないビニルアルコール重合体から形成されるセグメントであり、該セグメントを有するビニルアルコール系共重合体を含有する陽イオン交換膜を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の電解質の除去方法。
前記ビニルアルコール系共重合体が、ビニルアルコール重合体ブロックとアニオン性基を有するアニオン性重合体ブロックを有するアニオン性ブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解質の除去方法。
前記ビニルアルコール系共重合体が、ビニルアルコール重合体ブロックとアニオン性基を有するアニオン性重合体ブロックを有するアニオン性グラフト共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解質の除去方法。
前記電気透析により除去される前記有機電解質が、分子量1000以下の有機酸または有機塩であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電解質の除去方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(無機および/または分子量1000以下の有機の電解質が除去された果汁含有アルコール溶液)
本発明は、果汁含有アルコール溶液から電気透析により無機および/または分子量1000以下の有機の電解質を除去するにあたり、陽イオン交換膜としてアニオン性基を有するアニオン性重合体セグメントとビニルアルコール重合体セグメントを有するポリビニルアルコール系共重合体を含有し、ドメインサイズ(X)が0nm<X≦150nmの範囲内にあるミクロ相分離構造を有する陽イオン交換膜を用いる点にある。そこで、以下、本発明において用いられる陽イオン交換膜について詳述する。
【0022】
(陽イオン交換膜)
本発明に用いる陽イオン交換膜は、アニオン性基を有するアニオン性重合体セグメントとビニルアルコール重合体セグメントとを有するポリビニルアルコール系共重合体とから構成されている。通常、アニオン性重合体セグメントとビニルアルコール重合体セグメントとは共有結合で結合されて、ポリビニルアルコール系共重合体を構成している。本発明において、重合体セグメントとは、同一のモノマー単位が2個以上連結した同一の繰り返し単位を含む重合体鎖を意味し、ブロック共重合体における重合体ブロック、グラフト重合体における幹鎖または枝鎖に相当する重合体ブロックを包含する用語として用いられている。また、アニオン性基を有するアニオン性重合体セグメントにおいて、アニオン性基は重合体末端に含まれていてもよいので、アニオン性基を有する単量体が繰り返した単位でなくてもよい。
本発明に用いる陽イオン交換膜は、上記のように、アニオン性基を有するアニオン性重合体セグメントとビニルアルコール重合体セグメントを有するポリビニルアルコール系共重合体から構成されるが、この共重合体だけでなく、この共重合体に加えて、アニオン性重合体セグメントと結合していない、アニオン性基を有しないポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール重合体と結合していないアニオン性重合体を、相分離構造に影響しない程度に含んでいてもよい。
【0023】
本発明に用いる陽イオン交換膜は、ポリビニルアルコール系共重合体に含まれる塩類の含有量を低下させて製膜することにより、膜を構成するポリビニルアルコール系共重合体はミクロ相分離構造を示し、そのドメインサイズを150nm以下にできることを本発明者は見出した。本発明の陽イオン交換膜は、通常、ビニルアルコール重合体セグメントが架橋処理されて実用に供されるが、ドメインサイズ(X)が、0nm<X≦150nmの範囲に特定されることにより、イオンパス構造に変化がなく、膜構造が安定し、荷電密度や膜抵抗などの電気特性が優れた、電気透析用として有用な陽イオン交換膜を得ることができる。上記のドメインサイズ(X)は、塩類含有量を低下させるほど小さくなり、0nm<X≦130nm、さらには0nm<X≦100nmとすることができる。
【0024】
本発明に用いる陽イオン交換膜は、上記のようにビニルアルコール重合体セグメントを有するポリビニルアルコール系共重合体から構成されているので、親水性のイオン交換膜である。このことにより被処理液中の有機汚染物質の付着による汚染を抑制できる利点を有する。ここで構成ポリマーが親水性であるとは、上記アニオン性重合体であるために必要な官能基(アニオン性基)がない構造において親水性を有することを意味する。このように、構成重合体が親水性重合体であることにより、親水性度の高い陽イオン交換膜が得られ、被処理液中の有機汚染物質が陽イオン交換膜に付着して膜の性能を低下させる問題を低減できる。また、膜強度が高くなるという利点を有する。
【0025】
(アニオン性重合体)
本発明で用いられるアニオン性重合体セグメントを構成するアニオン性重合体は、分子鎖中にアニオン性基を含有する重合体である。当該アニオン性基は主鎖、側鎖、末端のいずれに含まれていても構わない。アニオン性基としては、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基などが例示される。また、スルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基のように、水中において少なくともその一部が、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基に変換し得る官能基も、アニオン性基に含まれる。この中で、イオン解離定数が大きい点から、スルホネート基が好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみのアニオン性基を含有していてもよいし、複数種のアニオン性基を含有していてもよい。また、アニオン性基の対カチオンは特に限定されず、水素イオン、アルカリ金属イオン、などが例示される。この中で、設備の腐蝕問題が少ない点から、アルカリ金属イオンが好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみの対カチオンを含有していてもよいし、複数種の対カチオンを含有していてもよい。
【0026】
本発明で用いられるアニオン性重合体は、上記アニオン性基を含有する構造単位のみからなる重合体であってもよいし、上記アニオン性基を含有しない構造単位をさらに含む重合体であってもよい。また、これらの重合体は架橋性を有するものであることが好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみの重合体からなるものであってもよいし、複数種のアニオン性重合体を含むものであってもよい。また、これらアニオン性重合体と別の重合体との混合物であっても構わない。ここでアニオン性重合体以外の重合体はカチオン性重合体でないことが望ましい。
【0027】
アニオン性重合体としては、以下の一般式(1)および(2)の構造単位を有するもの
が例示される。
【0028】
【化1】
[式中、R5は水素原子またはメチル基を表す。Gは−SO3H、−SO3−M+、−PO3H、−PO3−M+、−CO2Hまたは−CO2−M+を表す。M+はアンモニウムイオンまたはアルカリ金属イオンを表す。]
【0029】
一般式(1)で表わされる構造単位を含有するアニオン性重合体としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の単独重合体または共重合体などが例示される。
【0030】
【化2】
[式中、R5は水素原子またはメチル基を表わし、Tは水素原子がメチル基で置換されていてもよいフェニレン基またはナフチレン基を表わす。Gは一般式(1)と同義である。]
【0031】
一般式(2)で表わされる構造単位を含有するアニオン性重合体としては、p−スチレンスルホン酸ナトリウムなどp−スチレンスルホン酸塩の単独重合体または共重合体などが例示される。
【0032】
また、アニオン性重合体としては、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸などのスルホン酸またはその塩の単独重合体または共重合体、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸、その誘導体またはその塩の単独重合体または共重合体なども例示される。
【0033】
一般式(1)または(2)において、Gは、より高い荷電密度を与えるスルホネート基、スルホン酸基、ホスホネート基、またはホスホン酸基であることが好ましい。また一般式(1)および一般式(2)中、M+で表わされるアルカリ金属イオンとしてはナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられる。
【0034】
(ビニルアルコール重合体セグメント)
本発明において、ビニルアルコール重合体セグメントを構成するポリビニルアルコールとしては、ビニルエステル系モノマー重合して得られたビニルエステル系重合体をけん化し、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位としたものが用いられる。前記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらのなかでも酢酸ビニルを用いるのが好ましい。
ビニルエステル系モノマーを共重合させる際には、必要に応じて共重合可能なモノマーを、発明の効果を損なわない範囲内(好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下の割合)で共重合させても良い。
このようなビニルエステル系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数3〜30のオレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ドデシルアクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステル;イタコン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等を挙げることができる。
【0035】
ポリビニルアルコール系共重合体におけるアニオン性基以外の部分の構造単位は、それぞれ独立に選択することができるが、前記共重合体は、同一の構造単位を有する単量体から構成されることが好ましい。これにより、ドメイン同士の間の親和性が高くなるため、陽イオン交換膜の機械的強度が増大する。ポリビニルアルコール系共重合体は、同一の構造単位を50モル%以上有していることが好ましく、70モル%以上有していることがより好ましい。
【0036】
また、親水性であることが望ましいことから、同一の構造単位がビニルアルコール単位であることが特に好ましい。ビニルアルコール単位を有することにより、グルタルアルデヒドなどの架橋処理剤によりドメイン同士の間を化学的に架橋することができるので、陽イオン交換膜の機械的強度をさらに高くすることもできる。
【0037】
上記のように、本発明において、アニオン性重合体セグメントとビニルアルコール重合体セグメントとを有するポリビニルアルコール系共重合体は、アニオン性重合体セグメントとビニルアルコール重合体セグメントとが結合している構造が好ましい。
【0038】
本発明に用いる陽イオン交換膜は、上記のようにアニオン性重合体セグメントにビニルアルコール重合体セグメントを有するポリビニルアルコール系共重合体から構成されているが、ポリビニルアルコール系共重合体は、アニオン性基を含有しないビニルアルコール重合体を含み混合物から構成されていてもよい。
【0039】
(ブロックまたはグラフト共重合体)
本発明において、前記ポリビニルアルコール系共重合体は、アニオン性重合体セグメントとビニルアルコール重合体セグメントとがブロック共重合体またはグラフト共重合体を形成しているのが好ましい。なかでも、ブロック共重合体がより好適に用いられる。こうすることにより、陽イオン交換膜全体の強度の向上、膜の膨潤度の抑制、および形状保持についての機能を担うビニルアルコール重合体ブロックと、陽イオンを透過させる機能を担うアニオン性基単量体を重合してなるアニオン性重合体ブロックとが役割分担でき、陽イオン交換膜のイオン透過機能と寸法安定性とを両立することができる。アニオン性基単量体を重合してなる重合体ブロックの構造単位は特に限定されないが、前記一般式(1)〜(2)で表わされるものなどが例示される。この中で、入手容易である点から、アニオン性重合体を構成する単量体としては、p−スチレンスルホン酸塩または2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩を用いて、p−スチレンスルホン酸塩を重合してなるアニオン性重合体ブロックとビニルアルコール重合体ブロックとを含有するアニオン性ブロック共重合体、または2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩を重合してなるアニオン性重合体ブロックとビニルアルコール重合体ブロックとからなるブロック共重合体が好ましく用いられる。
また、グラフト共重合体としては、アニオン性重合体セグメントを幹鎖として、ビニルアルコール重合体性セグメントを枝鎖とする場合と、ビニルアルコール重合体セグメントを幹鎖として、アニオン性重合体セグメントを枝鎖とする場合とがある。本発明においては特に限定されないが、強度的性質を得やすい点から、ビニルアルコールを幹鎖として、アニオン性重合体セグメントを枝鎖とするグラフト共重合体が好ましい。グラフト共重合方法としては、公知の方法が適用される。
【0040】
(ブロック共重合体の製造方法)
本発明で用いられるアニオン性単量体を重合してなるアニオン性重合体ブロックとビニルアルコール重合体ブロックとを含有するブロック共重合体の製造方法は主に次の2つの方法に大別される。すなわち、(1)所望のブロック共重合体を製造した後、特定のブロックにアニオン性基を結合させる方法、および(2)少なくとも1種類のアニオン性基単量体を重合させて所望のブロック共重合体を製造する方法である。このうち、(1)については、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの存在下、1種類または複数種の単量体をブロック共重合させ、次いでブロック共重合体中の1種類または複数種の重合体成分にイオン基を導入する方法、(2)については、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの存在下、少なくとも1種類のアニオン性基単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体を製造する方法が挙げられるが、これらの方法は、工業的な容易さから好ましい。特に、ブロック共重合体中のビニルアルコールブロックとアニオン性基単量体を重合してなるアニオン性重合体ブロックの各ブロックにおける構成単量体の種類や量を容易に制御できることから、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの存在下、少なくとも1種類のアニオン性基単量体をラジカル重合させてブロック共重合体を製造する方法が好ましい。こうして得られるアニオン性基単量体を重合してなる重合体ブロックとビニルアルコール重合体ブロックとを含有するブロック共重合体には、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールが未反応のまま含まれていても構わない。
【0041】
これらのブロック共重合体の製造に用いられる、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体は、例えば、特開昭59−187003号公報などに記載されている方法により得ることができる。すなわち、チオール酸の存在下にビニルエステル系単量体、例えば酢酸ビニルをラジカル重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化する方法が挙げられる。このようにして得られる末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールと、アニオン性基単量体とを用いてブロック共重合体を得る方法としては、例えば、特開昭59−189113号公報などに記載された方法が挙げられる。すなわち、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの存在下にアニオン性基単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体を得ることができる。このラジカル重合は公知の方法、例えばバルク重合、溶液重合、パール重合、乳化重合などによって行うことができるが、末端にメルカプト基を含有するポリビニルアルコールを溶解し得る溶剤、例えば水やジメチルスルホキシドを主体とする媒体中で行うのが好ましい。また、重合プロセスとしては、回分法、半回分法、連続法のいずれをも採用することができる。
【0042】
上記ラジカル重合は、通常のラジカル重合開始剤、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、4,4′−アゾビス−(4−シアノペンタノイックナトリウム)、4,4′−アゾビス−(4−シアノペンタノイックアンモニウム)、4,4′−アゾビス−(4−シアノペンタノイックカリウム)、4,4′−アゾビス−(4−シアノペンタノイックリチウム)等や2,2′−アゾビス{2−メチル−N−[1,1′−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の中から重合系にあったものを使用して行うことができるが、水系での重合の場合、ビニルアルコール系重合体末端のメルカプト基と臭素酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤によるレドックス開始や,2′−アゾビス[2−メチル−N(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等でも可能である。特には、分解後もイオン性残基が発生しないものが特に好まれる。
【0043】
ビニルエステル系重合体のけん化反応の触媒としては通常アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加しても良い。けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましい。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式にても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和しても良く、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などが挙げられる。
【0044】
(ビニルアルコール重合体のけん化度)
ビニルアルコール重合体のけん化度は特に限定されないが、40〜99.9モル%であることが好ましい。けん化度が40モル%未満だと、結晶性が低下し、陽イオン交換膜の強度が不足するおそれがある。けん化度が60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。通常、けん化度は99.9モル%以下である。このとき、前記ポリビニルアルコールが複数種のポリビニルアルコールの混合物である場合のけん化度は、混合物全体としての平均のけん化度をいう。なお、ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
【0045】
(ポリビニルアルコールの重合度)
ビニルアルコール重合体セグメントを構成するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(以下単に重合度と言うことがある)は特に限定されないが、50〜10000であることが好ましい。重合度が50未満だと、実用上で陽イオン交換膜が十分な強度を保持できないおそれがある。重合度が100以上であることがより好ましい。重合度が10000を超えると重合体水溶液の粘度が高すぎて、塗布が困難になり、得られる膜に欠陥が生じやすくなるおそれがある。重合度が8000以下であることがより好ましい。このとき、前記ポリビニルアルコールが複数種のポリビニルアルコールの混合物である場合の重合度は、混合物全体としての平均の重合度をいう。なお、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて測定した値である。本発明で用いられるイオン基を含有しないポリビニルアルコールの重合度も、上記範囲であることが好ましい。
【0046】
(アニオン性基単量体単位の含有量)
陽イオン交換膜を構成するビニルアルコール系共重合体中のアニオン性基単量体単位の含有量は特に限定されないが、前記共重合体のアニオン性基単量体単位の含有量、すなわち、前記共重合体中の単量体単位の総数に対するアニオン性基単量体単位の数の割合が、0.1モル%以上であることが好ましい。アニオン性基単量体単位の含有量が0.1モル%未満だと、陽イオン交換膜中の有効荷電密度が低下し、電解質選択透過性が低下するおそれがある。アニオン性基単量体単位の含有量が0.5モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましい。また、アニオン性基単量体単位の含有量は50モル%以下であることが好ましい。アニオン性基単量体単位の含有量が50モル%を超えると、陽イオン交換膜の膨潤度が高くなり、陽イオン交換膜中の有効荷電密度が低下し、電解質選択透過性が低下するおそれがある。アニオン性基単量体単位の含有量が30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコール系共重合体が、アニオン性基を含有する重合体とアニオン性基を含有しない重合体との混合物である場合や、アニオン性基を含有する重合体の複数種の混合物である場合のアニオン性基単量体単位の含有量は、混合物中の単量体単位の総数に対するアニオン性基単量体単位の数の割合をいう。
【0047】
(陽イオン交換膜の製造方法)
本発明の陽イオン交換膜の製造方法の特徴は、ビニルアルコール重合体セグメントと、アニオン性基を有するアニオン性重合体セグメントを構成成分とするポリビニルアルコール系共重合体(好ましくは、ブロック共重合体)を主成分とし、前記共重合体中の塩類を低減し、製膜することで相分離ドメインサイズを小さくしたことにある。ここで言う塩類とは、ビニルアルコール重合体セグメントを構成するポリビニルアルコール中に含まれる不純物である硫酸塩、酢酸塩や、アニオン性基を有するアニオン性重合体セグメントを構成する、アニオン性基を有するモノマーに不純物として含まれる、臭化物塩、塩化物塩、硝酸塩、リン酸塩などの金属塩が挙げられる。これらの塩類は、ポリビニルアルコール系共重合体に不可避的に不純物として混入するものであるが、本発明者らはこの不純物の混入が、製膜時において、ポリビニルアルコール系共重合体におけるアニオン性重合体セグメントのミクロ相分離を大きくして、膜特性に悪影響を及ぼすことを見出した。本発明においては、ポリビニルアルコール系共重合体に含まれる塩類の含有量を低下させて製膜することで、膜の相分離ドメインサイズを小さくすることができる。このときのポリビニルアルコール系共重合体の重量(P)に対する塩類の重量(C)の比(重量比)(C)/(P)は、4.5/95.5以下が必要で、より相分離ドメインサイズを小さくするには、4.0/96.0以下、さらに好ましくは、3.5/96.5以下である、重量比(C)/(P)が4.5/95.5を超えると、アニオン性基重合体セグメントのミクロ相分離ドメインサイズが大きくなり、陽イオン交換膜として使用したとき、イオンパス構造に変化が生じて、耐久性にある陽イオン交換膜を得ることができない。
【0048】
ポリビニルアルコール系共重合体に含まれる塩類の含有量を所定値以下に減少させるには、特に限定されないが、例えば、ビニルアルコール重合体セグメントを構成するポリビニルアルコール中に含まれる不純物については、ポリマーフレークを水洗することにより減少させることができる。
また、アニオン性重合体セグメントを構成するポリマー中に含まれる不純物については、該ポリマーを適当な溶媒に溶解したポリマー溶液を貧溶媒中で再沈殿精製することにより減少させて、ポリマーを精製することができる。
なお、本発明において、塩類の含有量は上記のように低減されておればよく、したがって、ポリビニルアルコールとアニオン性重合体のどちらか一方または両方を精製して上記に規定する含有量に低減させればよい。
【0049】
(製膜)
上記により塩類含有量を調整されたポリビニルアルコール系共重合体を、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの低級アルコール、又はこれらの混合溶媒から構成される溶媒に溶解して、ダイから押し出して膜状に成形し、溶媒を揮発除去することにより所定厚みの膜を形成することができる。皮膜をプレート上またはローラ上で成形する際の製膜温度は、特に限定されないが、通常、室温〜100℃程度の温度範囲が適当である。溶媒除去は、適宜加熱しておこなうことができる。
【0050】
(膜厚)
本発明で用いられる陽イオン交換膜においては、電気透析用電解質膜として必要な性能、機械的強度、ハンドリング性等の観点から、その膜厚が30〜1000μm程度であることが好ましい。膜厚が30μm未満である場合には、膜の機械的強度が不充分となる傾向がある。逆に、膜厚が1000μmを超える場合には、膜抵抗が大きくなり、充分なイオン交換性が発現しないため、電気透析効率が低くなる傾向となる。好ましくは40〜500μmであり、より好ましくは50〜300μmである。
【0051】
(架橋処理)
本発明で用いられる陽イオン交換膜においては、製膜後、架橋処理を施すことが好ましい。架橋処理を施すことによって、得られる陽イオン交換膜の機械的強度が増大する。架橋処理の方法は、重合体の分子鎖同士を化学的に結合する方法でもよく、また、熱処理などにより物理的な結合を導入してもよく、特に限定されない。
【0052】
化学的に結合する場合には、通常、架橋処理剤を含む溶液に浸漬する方法などが用いられる。該架橋処理剤としては、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキザールなどのポリビニルアルコールのアセタール化剤が例示される。該架橋処理剤の濃度は、通常、溶液に対する架橋処理剤の体積濃度が0.001〜10体積%である。架橋反応は、上記のアルデヒドを、水、アルコールまたはそれらの混合溶媒中で、酸性条件下で、ポリビニルアルコール系共重合体を処理して、化学的に架橋結合を導入することにより行うことができる。架橋反応後、水洗して未反応のアルデヒド、酸などを取り除くのが好ましい。
【0053】
また、架橋処理の方法として、熱処理を行って分子鎖間に物理的な架橋を導入してもよい。熱処理を施すことによって、物理的な架橋が生じ、得られるイオン交換膜の機械的強度が増大する。熱処理の方法は特に限定されず、熱風乾燥機などが一般に用いられる。熱処理の温度は、特に限定されないが、ポリビニルアルコールの場合、50〜250℃であることが好ましい。熱処理の温度が50℃未満だと、得られるイオン交換膜の機械的強度が不足するおそれがある。該温度が80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。熱処理の温度が250℃を超えると、結晶性重合体が融解するおそれがある。該温度が230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0054】
前記製造方法においては、熱処理と化学的な架橋処理の両方を行ってもよいし、そのいずれかのみを行ってもよい。熱処理と架橋処理を両方行う場合、熱処理の後に架橋処理を行ってもよいし、架橋処理の後に熱処理を行ってもよいし、両者を同時に行ってもよい。熱処理の後に架橋処理を行うことが、得られるイオン交換膜の機械的強度の面から好ましい。
【0055】
(イオン交換容量)
電気透析用の陽イオン交換膜として使用するのに十分なイオン交換性を発現するためには、得られるビニルアルコール系共重合体のイオン交換容量は0.30meq/g以上であることが好ましく、0.50meq/g以上であることがより好ましい。ビニルアルコール系共重合体のイオン交換容量の上限については、イオン交換容量が大きくなりすぎると親水性が高まり膨潤度の抑制が困難となるので、3.0meq/g以下であるのが好ましい。
【0056】
(荷電密度)
また、電気透析用の陽イオン交換膜として使用するのに十分な電気特性を発現するためには、得られる陽イオン交換膜の荷電密度は0.6mol/dm
3以上であることが好ましく、1.0mol/dm
3以上であることがより好ましい。陽イオン交換膜の荷電密度としては、より高いものが好まれるが、膜抵抗との兼ね合いで、比較的低膜抵抗性を維持して、荷電密度を発現するものが好ましい。
【0057】
本発明の陽イオン交換膜は、必要に応じて、不織布、織布、多孔体などの支持体と積層することにより補強されて使用することができる。
【0058】
(果汁含有アルコール溶液)
本発明において、果汁含有アルコール溶液に用いられる果汁としては、果汁であれば特に限定されるものではないが、例えば、柑橘類果実(オレンジ、温州ミカン、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ユズ、タンジェリン、テンプルオレンジ、タンジェロ、カラマンシー等)、リンゴ、ブドウ、モモ、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、スモモ類等が挙げられる。
【0059】
本発明において、アルコール溶液、好ましくはアルコール飲料としては、飲料用アルコールであれば特に限定されない。例えば、醸造用アルコール、スピリッツ類(ラム、ウォッカ、ジン等)、リキュール類、ウイスキー、ワイン、ブランデー又は焼酎等を例示することができる。また、果汁にアルコールを混合する場合だけでなく、果汁液をアルコール発酵させて、果汁含有アルコール溶液を調整してもよい。
【0060】
本発明において、果汁含有アルコール溶液を形成する液としては、水のほか、豆乳、乳
汁であってもよい。
【0061】
本発明においては、上記の果汁含有アルコール溶液中に含まれる無機電解質および/または分子量1000以下の有機電解質としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、カルシウム塩、マグネシウム塩などの無機塩、ブドウに含まれる亜硫酸などの無機酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリシン、アラニン、またはシステインなどの有機酸またはその塩などが挙げられる。
【0062】
一方、分子量が1000を超える高分子量有機化合物は、被処理液中に残したい有用成分であるか或いは除去する必要のない成分を意味する。このような高分子量有機化合物としては、グルコース、スクロース、フラクトース、マルトース、キシロース、サッカロース、ラフィノース、およびその他のオリゴ糖などのような糖類;メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリンなどのようなアルコール類;グリコール類;グルコン酸、フミン酸などのような有機酸またはその塩;グルタミン酸、グリシンなどのようなアミノ酸またはその塩;ビタミン類;果肉や魚介類のなどのようなエキス類;ポリフェノールや各種タンパク質、核酸、酵素などのような天然高分子;オリゴペプチド;抗生物質;補酵素;ドデシルベンゼンスルホン酸などのような界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのような水溶性の合成高分子等が挙げられる。
【0063】
本発明における電気透析処理が適用される果汁含有アルコール溶液は、上記のような無機電解質および/または分子量1000以下の有機電解質を含むだけでなく、分子量が1000を超す有機電解質や有機化合物(高分子量有機化合物と総称する)を含有しているが、本発明では、このような高分子量有機化合物を含む溶液から、分子量1000以下の有機電解質を除去することができる。
なお、製造効率の観点から、処理される液中における、分子量1000以下の有機電解質と分子量が1000を超える高分子量有機化合物の含有量は、それぞれ1〜100,000ppm(重量基準、以下同じ)及び1〜500,000ppm、特にそれぞれ100〜10,000ppm及び100〜100,000ppmであるのが好適である。
【0064】
このような被処理液としては、分子量1000以下の有機電解質として有機酸等を100〜10,000ppm含有し、分子量が1000を超える高分子量有機化合物としてポリフェノールや糖分等を合計で1,000〜50,000ppm含有する未蒸留酒類(例えば、ワイン等)や果汁等;無機塩を100〜10,000ppm含有し、高分子量有機化合物として多糖類等を合計で1,000〜100,000ppm含有するグルコースやフルクトース等の糖蜜類等が例示される。即ち、前記本発明の方法は、特に、食品、医薬品、農薬などの合成工程若しくは精製工程、又はかん水若しくは廃水の脱塩工程や飲料水の製造工程において好適に採用できる。
【0065】
(電気透析)
本発明における除去方法において、電気透析槽は、陽極と陰極との間に少なくとも一方が本発明における陽イオン膜を用いて、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを配列して構成される基本構造を有するものであれば、公知の電気透析槽を特に制限なく用いうる。例えば、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を交互に配列しこれらのイオン交換膜と室枠とによって脱塩室と濃縮室とが形成された基本構造よりなるフィルタープレス型やユニットセル型などのような電気透析槽が好適に使用できる。なお、かかる電気透析槽に用いる膜数あるいは脱塩室および濃縮室の流路間隔(膜間隔)等は、処理する有機物の種類や処理量により適宜選定される。前記高分子量有機化合物が正に荷電している場合には陽イオン交換膜として本発明の陽イオン交換膜を使用するのが好適である。
【0066】
このような電気透析槽を用いて前記被処理液である果汁含有アルコール溶液から無機電解質および/または分子量が1000以下の有機電解質を除去する本発明の方法は、電気透析槽の脱塩室に前記した被処理液を、濃縮室に電解質溶液をそれぞれ供給し、さらに、陰極室及び陽極室に電解質溶液よりなる電極液を供給した状態で、陽極と陰極との間に直流電流を通ずることにより実施される。このようにして通電することにより、脱塩室中に供給される果汁含有アルコール溶液中の無機電解質および/または分子量が1000以下の有機電解質がアニオンとカチオンに解離し、それぞれが陰イオン交換膜と陽イオン交換膜を透過して濃縮室側に排出される為、時間の経過と共に被処理液からこれらの電解質を除去することができる。なお、かかる電気透析において、電気透析槽に印加する電圧、電流密度および処理時間は除去すべき無機電解質および/または分子量1000以下の有機電解質の種類や濃度等により適宜決定すればよい。
【0067】
(電気透析処理において用いられる陰イオン交換膜)
本発明における電気透析処理において、上述の陽イオン交換膜とともに用いられる陰イオン交換膜としては、特に限定はなく、第4級アンモニウム基等の強塩基性基を有するポリマーからなる膜、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基等の弱塩基性官能基を有するポリマーからなる膜を適宜選択して使用できる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を更に詳細に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるべきではない。なお、実施例中に、特に断りのない限り、「%」および「部」は重量基準である。
【0069】
実施例および比較例に示す陽イオン交換膜の特性は、以下の方法により測定した。
【0070】
1)膜含水率(H)
イオン交換膜の乾燥重量を予め測定しておき、その後、脱イオン水に浸漬し膨潤平衡に達したところで湿潤重量を測定した。膜含水率(H)は下式により算出した。H=<(Ww−Dw)/ 1.0> /<(Ww−Dw)/ 1.0+(Dw/1.3)>
ここで1.0と1.3はそれぞれ水とポリマーの比重を示している。
・H:膜含水率[−]
・Dw:膜の乾燥重量[g]
・Ww:膜の湿潤重量[g]
【0071】
2)陽イオン交換容量の測定
陽イオン交換膜を1mol/LのHCl水溶液に10時間以上浸漬する。その後、1mol/LのNaNO
3水溶液で水素イオン型をナトリウムイオン型に置換させ、遊離した水素イオンを酸-塩基滴定により定量した(Amol)。
【0072】
次に、同じ陽イオン交換膜を1mol/LのNaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分に水洗したのち熱風乾燥機中で105℃、8時間乾燥し、乾燥時の重さW(g)を測定した。
イオン交換容量は次式により算出した。
・ イオン交換容量=A×1000/W [mmol/g−乾燥膜]
【0073】
3)ポリビニルアルコール系共重合体中の塩の測定
ポリビニルアルコール系共重合体中の塩類の量は、ポリビニルアルコール系共重合体の架橋前の皮膜をメタノール溶液にて48時間ソックスレー抽出を行い、抽出物を乾固後、イオンクロマトグラフィICS−5000(DIONEX社製)により測定を行った。
【0074】
4)膜抵抗の測定
膜抵抗は、
図2に示される白金黒電極板を有する2室セル中に陽イオン交換膜を挟み、膜の両側に0.5mol/L−NaCl溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数10サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間抵抗と陽イオン交換膜を設置しない場合の電極間抵抗との差により求めた。上記測定に使用する膜は、あらかじめ0.5mol/L−NaCl溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0075】
5)ドメインサイズの測定
蒸留水に浸漬した陽イオン交換膜を一辺1cmの正方形に切り出して測定試料を作製した。この測定試料を、酢酸鉛(II)で染色した後、TEM(透過電子顕微鏡)を用いて観察し、測定試料中の粒子群についての画像を得た。得られた画像について、三谷商事株式会社製画像処理ソフト「WINROOF」を用いて画像処理を行い、各々の粒子の最大粒子径を求めた。約400個の粒子について最大粒子径を求め、最大粒子径の累積頻度が50%である粒子径を、陽イオン交換膜のアニオン性基ポリマーセグメントのドメインサイズとした。
【0076】
<PVA−1(分子末端にメルカプト基をポリビニルアルコール系共重合体の合成)の作製>
特開昭59−187003号公報に記載された方法によって、表1に示す分子末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール(PVA−1)を合成した。PVA−1の重合度およびけん化度を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
<NaSS−1(アニオン性単量体)>
表2に示すポリスチレンスルホン酸ナトリウムモノマー(NaSS:東ソー製)をそのまま用いた。塩類の含有量はイオンクロマトグラフィICS−5000(DIONEX社製)により測定を行った。なお、表2に示す全塩量以外のモノマー中の不純物は水分とした。
【0079】
<NaSS−2の作製>
ポリスチレンスルホン酸ナトリウムモノマー(NaSS:東ソー製)を1000gと純水950g、水酸化ナトリウム40g、硝酸ナトリウム、1gを60℃で1時間溶解させ、20℃に冷却して再結晶を行った。その後、遠心ろ過によりポリスチレンスルホン酸モノマーの結晶を分離し、結晶を乾燥させ表2に示すNaSS−2(精製ポリスチレンスルホン酸モノマー)を得た。塩類の含有量はイオンクロマトグラフィICS−5000(DIONEX社製)により測定を行った。
【0080】
【表2】
【0081】
<P−1(アニオン性ブロック共重合体)の合成>
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた1L四つ口セパラブルフラスコに水660g、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体として表1に示すPVA−1を80gと、NaSS−1を46.6g仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ビニルアルコール系重合体とNaSS−1を溶解した。また、水溶液中に窒素をバブリングしながら30分間系内を窒素置換した。窒素置換後、90℃まで冷却し、上記水溶液に2,2′−アゾビス[2−メチル−N(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]5.4%溶液13mlを1.5時間かけて逐次的に添加してブロック共重合を開始、進行させた後、系内温度を90
℃に1時間維持して重合をさらに進行させ、ついで冷却して、固形分濃度15%のPVA−(b)−p−スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでの1H−NMR測定に付した結果、パラスチレンスルホン酸ナトリウム単位の変性量は10モル%であった。得られたアニオン性ブロック共重合体の特性を表3に示す。
【0082】
<P−2の合成>
アニオン性基含有単量体の種類および仕込み量を表3に示す内容に変更した。これ以外はP−1と同様の方法により固形分濃度15%のPVA−(b)−p−スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。得られたアニオン性ブロック共重合体の特性を表3に示す。
【0083】
<P−3の合成>
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた1L四つ口セパラブルフラスコに、水616g、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体として表1に示すPVA−1を80gと、NaSS−1を46.6gと、を仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ビニルアルコール系重合体とNaSS−1を溶解した後、室温まで冷却した。該水溶液に1/2規定の硫酸を添加してpHを3.0に調整した。90℃まで加温し、また、水溶液中に窒素をバブリングしながら30分間系内を窒素置換した。窒素置換後、上記水溶液に過硫酸カリウムの2.5%水溶液63mLを1.5時間かけて逐次的に添加してブロック共重合を開始、進行させた後、系内温度を90℃に1時間維持して重合をさらに進行させ、ついで冷却して、固形分濃度15%のPVA−(b)−p−スチレンスルホン酸ナトリウムブロック共重合体水溶液を得た。得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでの1H−NMR測定に付した結果、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単位の変性量は10モル%であった。得られたアニオン性ブロック共重合体の特性を表3に示す。
【0084】
<P−4〜5の合成>
アニオン性基含有単量体の種類および仕込み量を表3に示す内容に変更した。これ以外はP−3と同様の方法により固形分濃度15%のPVA−(b)−p−スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。得られたアニオン性ブロック共重合体の特性を表3に示す。
【0085】
<P−6(アニオン性ランダム共重合体)の合成>
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗および還流冷却管を備え付けた6Lのセパラブルフラスコに、酢酸ビニル2450g、メタノール762g、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(AMPS)27gを仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この系に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.8g含有するメタノール20gを添加し、重合反応を開始した。重合開始時点より2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(AMPS)を25質量%含有するメタノール溶液568gを系内に添加しながら、4時間重合反応を行った後、重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における系内の固形分濃度、すなわち、重合反応スラリー全体に対する固形分の含有率は30質量%であった。ついで、系内にメタノール蒸気を導入することにより、未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル共重合体を30質量%含有するメタノール溶液を得た。
【0086】
このビニルエステル共重合体を30質量%含有するメタノール溶液に、該共重合体中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル共重合体の固形分濃度が30質量%となるように、メタノール、水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液をこの順序で攪拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
【0087】
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後に、これを反応系から取り出して粉砕し、ついで、ゲル化物が生成してから1時間が経過した時点で、この粉砕物に酢酸メチルを添加することにより中和を行い、膨潤状態のポリビニルアルコール−ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム)のランダム共重合体の水溶液を得た。この膨潤したアニオン性重合体に対して質量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、該重合体をろ取した。該重合体を65℃で16時間乾燥した。得られた重合体を重水に溶解し、400MHzでの1H−NMR測定を行ったところ、該アニオン性重合体中のアニオン性単量体の含有量、すなわち、該重合体中の単量体単位の総数に対する2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム単量体単位の数の割合は5モル%であった。得られたアニオン性ランダム共重合体の特性を表4に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
<CEM−1の作製>
P−3の樹脂を濃度10wt%まで希釈し、樹脂溶液の1倍の体積のメタノールにより再沈して塩類を除去した樹脂を取り出した。このとき含有塩量(C)は、4.5wt%であった。次いで、必要量の蒸留水を加えて濃度15wt%の水溶液を調整した。この水溶液を縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、皮膜を作製した。
【0091】
こうして得られた皮膜を、160℃で30分間熱処理し、物理的な架橋を生じさせた。ついで、皮膜を2mol/Lの硫酸ナトリウムの電解質水溶液に24時間浸漬させた。該水溶液にそのpHが1になるように濃硫酸を加えた後、1.0体積%グルタルアルデヒド水溶液に皮膜を浸漬し、25℃で24時間スターラーを用いて撹拌し、架橋処理を行った。ここで、グルタルアルデヒド水溶液としては、石津製薬株式会社製「グルタルアルデヒド」(25体積%)を水で希釈したものを用いた。架橋処理の後、皮膜を脱イオン水に浸漬し、途中数回脱イオン水を交換しながら、皮膜が膨潤平衡に達するまで浸漬させ、陽イオン交換膜を得た。
【0092】
(イオン交換膜の評価)
このようにして作製した陽イオン交換膜を、所望の大きさに裁断し、測定試料を作製した。得られた測定試料を用い、上記方法にしたがって、膜含水率、荷電密度、陽イオン交換容量、膜抵抗の測定、相分離ドメインサイズの評価を行った。得られた結果を表5に示す。また、上記の方法に従って、スクロースリーク率、エタノールリーク率、脱塩率、及び耐有機汚染性の評価の測定を行なった。得られた結果を表6に示す。
【0093】
<CEM−2の作製>
P−3の樹脂を濃度10wt%まで希釈し、樹脂溶液の2倍の体積のメタノールにより再沈して塩類を除去した樹脂を取り出した。次いで、必要量の蒸留水を加えて濃度15wt%の水溶液を調整した。この水溶液を縦270mm×横210mmのアクリル製キャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、皮膜を作製した。このとき含有塩量(C)は、4.0wt%であった。これ以外は、CEM−1と同様にして陽イオン交換膜の膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
【0094】
<CEM−3の作製>
P−2の水溶液を縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、皮膜を作製した。このとき含有塩量(C)は、2.8wt%であった。これ以外は、CEM―1と同様にして陽イオン交換膜の膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
【0095】
<CEM−4作製>
CEM−3において、熱処理温度を表5に示すように変更した以外は、CEM−3と同様にして陽イオン交換膜の膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
【0096】
<CEM−5作製>
P−3の樹脂を濃度10wt%まで希釈し、樹脂溶液の5倍の体積のメタノールにより再沈して塩類を除去した樹脂を取り出した。次いで、必要量の蒸留水を加えて濃度15wt%の水溶液を調整した。この水溶液を縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間燥させることにより、皮膜を作製した。このとき含有塩量(C)は、2.0wt%であった。これ以外は、CEM−1と同様にして陽イオン交換膜の膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
【0097】
<CEM−6作製>
P−3の樹脂を濃度10wt%まで希釈し、樹脂溶液の10倍の体積のメタノールにより再沈して塩類を除去した樹脂を取り出した。次いで、必要量の蒸留水を加えて濃度15wt%の水溶液を調整した。この水溶液を縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、皮膜を作製した。このとき含有塩量(C)は、1.5wt%であった。これ以外は、CEM−1と同様にして陽イオン交換膜の膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
【0098】
<CEM−7〜11の作製>
陽イオン交換樹脂を表5に示した内容に変更した以外はCEM−1と同様にして陽イオン交換膜の膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
図1(a)、
図1(b)、
図1(c)、
図1(d)および
図1(e)は、塩含有量の異なるブロック共重合体を用いた陽イオン交換膜のTEM写真を示している(塩含有量は、表5を参照)。
図1(a)〜
図1(e)のTEM写真から、相分離構造は塩含有量により変化し、塩含有重量(C)/ブロック共重合体の重量(P)の減少と共にドメインサイズが小さくなることがわかる。特に変性量10モル%での含有塩の重量(C)が最も少ない
図1(b)[CEM−7]では、膜の相溶性が向上し、ドメインサイズが4nmと非常に小さいものであった。一方で、含有塩重量(C)の最も多い
図1(C)[CEM−8]では、相分離が激しく空隙が発生した。
【0101】
表5の結果からは、特に塩含有重量(C)が4.0%以下のブロック共重合体(P)を用いた陽イオン交換膜は、ドメインサイズが150nm以下となり、膜抵抗が低い膜となり、陽イオン交換膜として優れていることが判る(CEM−1〜7)。さらに、塩含有重量(C)が3.5%以下の膜は、ドメインサイズが130nm以下であり、膜抵抗が低くなることがわかる(CEM−2〜7)。一方で、塩含有重量が4.0%よりも多いブロック共重合体を用いた陽イオン交換膜はドメインサイズが150nmよりも大きく、高い膜抵抗であり、陽イオン交換膜としての特性が発現しなかった(CEM−8〜10)。特に、塩含有量(C)の多いものは膜のポリマーセグメントの相分離が激しく、イオン交膜全体で空隙が発生し、イオン交換膜として満足のいく特性を発現していない(CEM−8)。なお、CEM−9では、精製したNaSS−2を使用しているが、重合開始剤としてKPSを使用しているため、得られた陽イオン交換樹脂中の塩含有量は高い。
【0102】
<実施例1>
陽イオン交換膜にビニルアルコール系共重合体膜、陰イオン交換膜にAMX((株)アストム社製)を用いて陰極と陽極の両電極間に交互に配列して締め付けた小型電気透析装置マイクロアシライザーS3((株)アストム製)を用いて有機化合物の脱塩試験を実施した。この際、使用する膜は洗浄して0.4mol/lの食塩水に1時間浸漬しコンデショニングした。次いで、スクロース1mol/L、エタノール0.3mol/L、塩化カリウム0.4mol/Lおよび塩化ベンゼトニウム0.1mol/Lを含む水溶液1Lを濃縮槽、希釈槽それぞれに入れた、25℃で電流密度10mA/cm2にて1時間電気透析をした。その時、一対の両膜の近傍に白金線を固定し、膜間電圧の変化を測定した。通電中に有機汚染性が起こると膜間電圧が上昇してくる。通電を開始して1時間後の膜間電圧と汚染物質を添加しない場合の電圧との差(ΔE)を、膜の汚染性の尺度として記録した。ΔEが小さいほど耐有機汚染性が高いといえる。1時間後の脱塩率、スクロースとエタノールのリーク率および有機汚染度(開始時点の電圧からの1時間運転後の電圧の上昇率)を測定した。なお、サンプルのスクロースリーク率はスクロース含有量を高速液体クロマトグラフ(LC-10A島津製作所)で測定し算出した。エタノールリーク率はエタノール含有量をガスクロマトグラフ(GC-2014島津製作所)で測定し算出した。脱塩率はサンプルの伝導度を電気伝導率計(ES-51 HORIBA)で測定し算出した。
【0103】
<実施例2〜7>
用いる陽イオン交換膜を表6に示す内容に変更した以外は実施例1と同様にして果汁含有アルコール溶液の脱塩試験を行った。得られた結果を表6に示す。
【0104】
<比較例1〜4>
用いる陽イオン交換膜を表6に示す内容に変更した以外は実施例1と同様にして果汁含有アルコール溶液の脱塩試験を行った。得られた結果を表6に示す。
【0105】
<比較例5>
陽イオン交換膜に市販品AMX(アストム(株)社製)を用いて実施例1と同じ条件で測定した。結果を表6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
表6の結果からは、特に塩含有重量(C)が4.0%以下のブロック共重合体(P)を用いた陽イオン交換膜を用いた電気透析では、スクロース、エタノールリーク率が低く、脱塩率が高く、電気上昇率が低い(膜の汚染が少ない)ことが判る(実施例1〜7)。さらに、塩含有重量(C)が3.5%以下の陽イオン交換膜を用いた電気透析では、より脱塩率が高いことがわかる(実施例2〜7)。一方で、塩含有重量が4.0%よりも多いブロック共重合体を用いた陽イオン交換膜を用いた電気透析では、スクロース、エタノールリーク率が共に高く、脱塩率が低かった(比較例1〜3)。一方で、完全相溶系であると考えられるミクロ相分離が確認されなかったランダム共重合体からなる陽イオン交換膜CEM−11を使用した場合(比較例4)は、相分離ドメインサイズの小さいブロック共重合体からなる陽イオン交換膜CEM−7(実施例5)に比べ、脱塩率が低くなった。また、市販品の陽イオン交換膜を用いた場合は、電圧上昇率が著しく高く、停止時の各リーク率と脱塩率のみしか量れなかった(比較例5)。以上のことから、ビニルアルコール系共重合体からなるイオン交換膜でポリマーセグメントの相分離を抑えた膜はイオン交換膜としての特性や、リーク率、耐汚染性に優れていることが分かる。