特許第6018565号(P6018565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018565
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】透明多孔体の細孔パラメータの算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   G01N21/27 Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-265918(P2013-265918)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-121492(P2015-121492A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 重男
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 巧
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−274032(JP,A)
【文献】 特開2010−091279(JP,A)
【文献】 特開平07−004925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00,21/01
G01N 21/17−21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光光度計に接続されたコンピュータにより、透明多孔体の細孔パラメータを算出する方法であって、
平行平板状に加工された前記透明多孔体の平行平板厚と空隙率とを、予め前記コンピュータに入力するステップと、
前記分光光度計において測定した前記透明多孔体の透過率スペクトルを、前記コンピュータに入力するステップであって、前記透過率スペクトルは、可視領域において波長掃引して測定される、ステップと、
前記透過率スペクトルの対数を取って前記透明多孔体の平行平板厚で除した値を、前記透明多孔体の骨格部材の屈折率で除した波長の逆4乗に対してプロットするステップと、
前記プロットした前記透過率スペクトルの対数を取って前記平行平板厚で除した値を、線型回帰分析して、傾きパラメータと縦軸切片を算出するステップと、
前記縦軸切片から空気と多孔体界面とにおける反射率を算出するステップと、
前記多孔体界面での反射率から前記透明多孔体の実効屈折率を算出するステップと、
前記傾きパラメータから、前記透明多孔体の平均細孔半径並びに細孔数密度を算出するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記空隙率と前記平均細孔半径を用いて、前記透明多孔体の比表面積を算出するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記透明多孔体は、アセトン、エタノール、及び超純水による、透明度を向上させるための洗浄であって、それぞれ単独もしく2つ以上を複数組み合せ、かつ各洗浄をそれぞれ複数回以上、洗浄を施されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記透明多孔体が多孔質ガラスである場合、前記透明多孔体は、前記洗浄工程は、0.1%希釈フッ酸による前記透明多孔体のライトエッチング処理がさらに施されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記透明多孔体は、前記洗浄により洗浄したのち、真空中で150度℃以上に6時間以上加熱し、過熱後に乾燥窒素保管して乾燥させる乾燥工程がさらに施されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記透明多孔体の透過率スペクトルを測定する分光光度計と、
前記分光光度計に接続されたコンピュータとを備え、
請求項1又は2に記載の方法を実行することを特徴とする細孔パラメータ計測システム。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明多孔体の細孔パラメータの算出方法に関し、詳細には、可視光に対して透明な多孔体の平均細孔半径、細孔数密度、光学定数(実効屈折率)、及び比表面積などを透過率測定結果より算出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長範囲0.2〜0.8μmの紫外・可視領域の光に対して透明な多孔体、例えば、多孔質シリカガラスは、(1)可視域(0.35〜0.8μm)の光を透過するという透明性と、(2)数百m/gに達する比表面積(1g当りの物質の総表面積)を有するが故に気体分子を吸着するというガス吸着特性の二つの特性を有している。この2つの特性を利用することにより、多孔質シリカガラスに対して、光学素子への利用、及びガス検知素子への利用等、様々な利用手法が提案されている。多孔質シリカガラスをガス検知素子として利用する場合、例えば、特定の検知対象ガスと選択的に反応して可視領域で変色(発色あるいは退色)する色素を、多孔質シリカガラスに担持させてガス検知素子を作成する。このガス検知素子を使用すると、超小型の蓄積型センサを製造することが可能となる。(特許文献1、2参照)。
【0003】
この蓄積型ガスセンサのガス検知素子は、色素を担持する母材となる多孔体と、多孔体の細孔内に担持される色素との2つの要素より構成されている。
【0004】
ここで、多孔質シリカガラス等の透明な多孔体により作成したガス検知素子の性能の評価を行うためには、透明多孔体の細孔パラメータ、具体的には平均細孔半径、細孔数密度、光学定数(実効屈折率)、及び比表面積を算出しなければならない。透明多孔体の平均細孔径及び比表面積等は、従来、窒素ガスなどの無極性分子の飽和蒸気(吸着質)を細孔表面に等温状態において吸着させて吸着等温線や脱着等温線を測定し、測定した吸脱着等温線を解析することにより導出されてきた。例えば、比表面積(BET比表面積:Brunauer,Emmett,Tellerの吸着理論に基づく比表面積)は、飽和蒸気圧に対する蒸気圧の比が約0.2から0.35程度の範囲の吸着等温線をBET解析することによって求められる(非特許文献1参照)。さらに、細孔径分布については、吸着等温線あるいは脱着等温線をDollimore−Heal法(非特許文献2参照)などの手法で解析することで求められている。
【0005】
細孔パラメータを求めるには、いずれの方法においても、解析対象となる透明多孔体の吸脱着等温線を正確に測定しなくてはならない。
【0006】
ここで、吸脱着等温線の測定法には、吸着質の試料への吸着量を気体の体積と圧力の関係から求める容量法(Volmetric method)と、吸着質の吸着量を試料重量の変化から求める重量法(gravimetric method)と、2つの方法がある。
【0007】
前者の容量法では、吸着質の吸着量を、吸着質に対する近似的状態方程式を用いて吸着前後の圧力変化より見積もる。その測定原理は非常に簡単であるが、温度以外に、圧力を測定する圧力センサの精度と、死容積測定の精度及び測定系全体の真空漏れなどにより測定誤差が生じるため、測定には細心の注意を要する。また、容量法による吸脱着等温線の測定には長い時間が掛かり、そのため測定の自動化がかなり進んできる。
【0008】
他方、後者の重量法による吸脱着等温線の測定は、容量法のように死容積を求める必要が無いものの、重量変化を正確に測る必要があり、恒温槽温度と試料温度との差を少なくし、熱対流による影響や、浮力や容器への吸着による重量変化を補正しなくてはならない。また、恒温槽等からの振動や静電気の影響も受けやすい。さらに、容量法に比較して、重量法によって吸脱着等温線測定を行うための自動化された装置は少ない。吸着質の蒸気圧を変えるのに、吸着質をその気液相転移点よりも昇温させ、これにより吸着等温線を測定するが、試料温度と恒温槽温度をなるべく一致するように温度制御することが測定精度を高める上で重要である。同様に、脱着等温線を測定する場合には、上記とは逆に恒温槽温度を下げる。従って、温度変化の影響が大きいので、装置全体を恒温状態にしておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3943008号公報
【特許文献2】特許第3700877号公報
【特許文献3】特許第5032352号公報
【特許文献4】特許第5192341号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】近藤精一、石川達雄、安部郁夫共著、「吸着の化学」(丸善株式会社、1991年)、pp.40-46.
【非特許文献2】D. Dollimore and G. R. Heal, J. Appl. Chem., 14, 109 (1964).
【非特許文献3】小川重男、丸尾容子、Vycor多孔質ガラスの乾燥過程における1/λ4の光散乱、2008年(平成20年)春季第55回応用物理学関係連合講演会予稿集、20080327(発行)、第1分冊、第179頁
【非特許文献4】M. Kerker, The Scattering of Light and Other Electromagnetic Radiation (1969, Academic, New York), p.37, Eq.(3.2.24).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記2つの吸着等温線の測定方法のいずれにおいても、実際に吸着質を試料表面に吸着させて測定することになるので、測定結果は、被測定対象試料の表面状態に敏感にかつ微妙に依存する。そのため、試料の前処理に関しては、測定対象の試料から不純物、付着ガス等を取り除く工程が必要である(脱ガス処理)。また、吸着等温線の測定においては、容量法においては複数回の圧力の測定、死容積の測定等、重量法においては、さらに質量表示の監視、浮力補正、装置全体の温度の調整等の工程を経なければならない。したがって、吸着等温線の測定には、試料の適正な前処理も含めて、測定の操作が複雑であり、かつ時間もかかる。非多孔性固体試料であっても、通常、一組の吸脱着等温線を測定するのに失敗なしで、8時間程度は必要である。被測定対象が多孔体となると、更なる長時間を要し、大抵一昼夜を必要とすることが多い。さらに、吸着質を試料に直接吸着させる測定法では、非極性ガスが多孔体の表面と連結した細孔の壁表面に吸着される必要があり、多孔体内に存在する孤立した孔(泡など)がある場合などには、そもそも吸着されず、こうした孤立細孔は検出されない。
【0012】
本発明は、こうした従来法のもつ本質的な限界や問題点、並びに操作の複雑さや時間が掛かることなどの種々の不便さに鑑み、透明多孔体が示す光学特性のみから、平均細孔半径、細孔数密度、実効屈折率、及び比表面積などを短時間に算出する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、コンピュータにより、透明多孔体の細孔パラメータを算出する方法であって、平行平板状に加工された前記透明多孔体の平行平板厚と空隙率とを取得するステップと、前記透明多孔体の透過率スペクトルを取得するステップであって、前記透過率スペクトルは、可視領域において波長掃引して測定される、ステップと、前記透過率スペクトルの対数を取って前記透明多孔体の平行平板厚で除した値を、前記透明多孔体の骨格部材の屈折率で除した波長の逆4乗に対してプロットするステップと、前記プロットした前記透過率スペクトルの対数を取って前記平行平板厚で除した値を、線型回帰分析して、傾きパラメータと縦軸切片を算出するステップと、前記縦軸切片から空気と多孔体界面とにおける反射率を算出するステップと、前記多孔体界面での反射率から前記透明多孔体の実効屈折率を算出するステップと、前記傾きパラメータから、前記透明多孔体の平均細孔半径並びに細孔数密度を算出するステップとを含むことを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法であって、前記空隙率と前記平均細孔半径を用いて、前記透明多孔体の比表面積を算出するステップをさらに含むことを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の方法であって、前記透明多孔体は、アセトン、エタノール、及び超純水による、透明度を向上させるための洗浄であって、それぞれ単独もしく2つ以上を複数組み合せ、かつ各洗浄をそれぞれ複数回以上、洗浄を施されることを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の方法であって、前記透明多孔体が多孔質シリカガラスである場合、前記透明多孔体は、前記洗浄工程は、0.1%希釈フッ酸による前記透明多孔体のライトエッチング処理がさらに施されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から4に記載の方法であって、前記透明多孔体は、前記洗浄により洗浄したのち、真空中で150度℃以上に6時間以上加熱し、過熱後に乾燥窒素保管して乾燥させる乾燥工程がさらに施されることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、細孔パラメータ計測システムであって、前記透明多孔体の透過率スペクトルを測定する分光光度計と、前記分光光度計に接続され、請求項1又は2に記載の方法を実行するコンピュータとを含むことを特徴とする。
【0019】
また、請求項7に記載の発明は、コンピュータ可読記憶媒体であって、請求項1又は2に記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを格納したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明術によれば、透明多孔体の細孔パラメータの算出において、従来の細心の注意を払いつつ、長時間を要する前処理と、ほぼ一昼夜にわたる吸脱着等温線の測定とを経ることなく、透明多孔体の透過率を測定するだけで、平均細孔半径、細孔数密度、実効屈折率、及び比表面積などの細孔パラメータの概算値を簡易に短時間に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の1実施形態にかかる細孔パラメータの算出方法の工程を示す流れ図である。
図2】実施例における細孔パラメータ算出の流れの詳細を示す図である。
図3】透明多孔体の有機溶媒による前処理工程を示す図である。
図4】多孔質シリカガラス試料の希フッ酸によるライトエッチングを示す図である。
図5】本発明の実施例において使用する細孔パラメータ測定システムの構成を示すブロック図である。
図6】透明多孔体試料の透過率スペクトルを示す図表である。
図7】本実施例における、細孔パラメータ抽出の方法の詳細を示すフローチャートである。
図8】ln(1/T)/dの媒質内波長の逆4乗(1/λ)依存性を線型回帰分析した結果を示す図表である。
図9】従来技術における容量式自動吸着量装置により測定した透明多孔体の窒素ガス吸脱着等温曲線を示す図表である。
図10】従来技術により求めた細孔径分布を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の1実施形態にかかる細孔パラメータの算出方法の工程を示す流れ図である。図1に記載の細孔パラメータの算出方法は、評価対象の透明多孔体を平行平面板状に加工し、必要に応じて透明多孔体の透明度を向上させるための洗浄を行う「加工・洗浄工程」と、評価対象の多孔体の光の透過率を測定し、データ処理をする「測定・解析工程」とから構成されている。
【0024】
また、「測定・解析工程」は、以下の6つの工程により構成される。
・第1工程:評価対象の多孔体の空隙率の該略値を与えた上で、可視領域(波長0.35〜0.8μm)にて波長掃引して、透過率スペクトルを測定する。
・第2工程:透明多孔体の透過率の対数を取って平行平板厚で除した値を、透明多孔体の骨格部材の屈折率で除した波長の逆4乗に対してプロットする。
・第3工程:第2工程で作成された対数透過率の波長逆4乗プロットを、線型回帰分析して傾きパラメータと縦軸切片を求める。
・第4工程:第3工程より得られた縦軸切片より、空気と多孔体界面での反射率を算出し、算出した反射率から、透明多孔体の実効屈折率を算出する。
・第5工程:第3工程より得られた傾きパラメータを用いて、透明多孔体の平均細孔半径並びに細孔数密度を算出する。
・第6工程:上記空隙率の該略値と第5工程で得られた平均細孔半径を用いて、透明多孔体の比表面積を算出する。
【0025】
透明多孔体の可視領域における透過率スペクトルの僅かな減少は、着色などの吸収性のものではなく、入射光波長の逆4乗に依存するものである。したがって、透過率スペクトルの僅かな減少は、ナノ細孔に起因するレイリー散乱によるものであるということができる(非特許文献3、特許文献3及び4参照)。よって、本実施形態においては、この事実を利用して、従来の吸脱着等温線の解析を用いずに、透過率スペクトルの測定結果から、透明多孔体の実効的な平均細孔半径、細孔数密度、実効屈折率、並びに比表面積などの細孔パラメータを求めることができ、その値も従来法と同程度のオーダである。
【0026】
次に、「測定・解析工程」における、各細孔パラメータの算出について、透明多孔体の光学的性質に基づき、本発明が立脚する物理的性質と共に説明する。
【0027】
一般に、組成が一様で構造的に均質な媒質内では、光の強度は、媒質内の光の透過距離Lによって指数関数的に減衰することが実験的に見出されており、ランバートの法則として、
meas=Iref・exp(−α・L)
と表示される。
【0028】
ここで、Irefは、入射光(参照光とも云う)の強度、Imeasは試料の透過光強度、Lは媒質内の光の透過距離(あるいは光路長)、そしてαは物質固有の性質で吸収係数と呼ばれる。
【0029】
光源波長をλ(単位:μm)とするとき、透過率スペクトルT(λ)は、この波長λにおいて得られた透過光の強度Imeas(λ)および参照光の強度Iref(λ)の比で定義される。
【0030】
媒質が透明である基本条件は、波長λでの吸収係数α(λ)が非常に小さいことであり、もし吸収係数α(λ)が可視光の波長によって大きく変化すれば、着色することになる。無色透明であれば、可視域の特定波長で吸収係数が変化することはない。透明な多孔体には、通常ナノサイズの多数の細孔群が媒体中に存在しているが、可視光に対して透明であるということは、媒体内の細孔群の分布が一様であり、構造的にも可視光の波長に匹敵するようなスケールでの不均一性が存在していないことを意味する。このような場合、多孔体は非吸収性で光学的に均一な媒体と見なせる。但し、ナノ細孔と媒体との屈折率の違いに起因する散乱は僅かであるが存在している。数十nmオーダの孔径に比較して入射光の波長は、短波長側でも350nm程度はあり、孔径に対する入射光の波長の比は、1/10程度である。このことから、ナノ細孔による散乱は、その形状には依存せず、レイリー型の散乱となることが判る。また、これらの細孔群はナノ孔多孔体内に一様ランダムに分布していると考えられ、各細孔による散乱はインコヒーレントに起こる。その結果、透明なナノ孔多孔体の単位体積当りの散乱強度は、各散乱体からの散乱効果の総和としてよい。単位体積当りの細孔(=散乱体)の個数をN(体積の逆数の次元を有する)とし、光の強度をIとする。散乱による光の強度減衰は、
−dI/dx=N・Csca・I
と記述できる。ここで、Cscaは一つの散乱体の散乱断面積で面積の次元を有する。散乱体の集団に対しては、上記の吸収係数の代わりに濁度τ(距離の逆数の次元を有する)を導入すると、
τ=N・Csca
と書ける。
【0031】
空気と透明なナノ孔多孔体の各境界面での表面反射率rを考慮して、この微分方程式を解くと、厚さdの物質に対して、透過率スペクトルT(λ)は次のようになる(第1工程)。
T(λ)=Imeas(λ)/Iref(λ)=(I−r)・exp(−τ・d)(1)
【0032】
ここで、光ビームは屈折率nの媒質1(空気:n=1.0003)から、屈折率nの媒質2(透明多孔体での吸収がなければ実数の屈折率:n)へ垂直入射するので、表面反射係数rは
【0033】
【数1】
【0034】
で表わされる。
【0035】
レイリー散乱体に対して、その散乱断面積Cscaは、
【0036】
【数2】
【0037】
で与えられることが知られている(非特許文献4参照)。ただし、Vは散乱体として作用する細孔の体積で、平均半径rの球状単一散乱体を仮定して、
【0038】
【数3】
【0039】
で与えられる。また、λは媒質2内部での光の波長であり、λを真空中での波長とすると、
λ=λ/n
で与えられる。また、mは媒質1の屈折率nと媒質2の屈折率nとの比で、
m=n/n
で与えられる。
【0040】
ところで、空隙率φ(無次元量)は、多孔体試料全体の体積Vに対して、その骨格を成す固体部分以外の部分の体積比率として定義される。多孔体の固体骨格部分の体積がVskeltonのとき、空隙部分の体積(細孔の総体積)Vは、
=V−Vskelton
であるから、空隙率φは次式で定義される。
【0041】
【数4】
【0042】
そして、散乱体として作用する細孔の体積がVで、単位体積当りの細孔数(細孔数密度)がNであるから、その積N・Vは、多孔体の空隙率φに他ならない。
φ=N・V (6)
【0043】
τ=N・Cscaで定義される濁度は、式(3)と(6)を考慮すると、
N・V=φ・V
に比例している。
【0044】
式(1)の両辺の自然対数をとって試料厚dで除した量を作ると、濁度τが波長の逆4乗に比例することから、横軸1/λに対して線型の依存性を示すはずである。即ち、
【0045】
【数5】
【0046】
となる。つまり、透過率スペクトルTから、ln(1/T)/dを作成して、対応する媒質内波長(λ=λ/n)の逆4乗(1/λ)に対してプロットすると(第2工程)、傾きβ、縦軸切片Cの直線に載ることが期待される(第3工程)。
【0047】
傾きのパラメータβは体積の次元を有し、式(3)、(4)、(6)を組み合わせると、
【0048】
【数6】
【0049】
となる。この式(8)を細孔の体積Vに対して解き、式(4)と組み合わせれば、散乱体、即ち、細孔の平均半径rが求まることになる(第4工程)。さらに、細孔の体積Vを式(6)と組み合わせれば、散乱体、即ち細孔の数密度Nも算出できることになる(第5工程)。
【0050】
他方、縦軸切片Cは長さの逆数の次元を有し、式(7)の二番目の等式をrに対して、条件0<r<1を満足するように解くと、単一界面の反射率rとして、
【0051】
【数7】
【0052】
が得られる。式(9)を式(2)と等値して、多孔体の実効屈折率nに対して解けば、
【0053】
【数8】
【0054】
となる。
【0055】
最後に、透過率測定より求めた諸量を用いて、多孔体の単位質量当りの内部表面積を表わす比表面積を導出する(第6工程)。
【0056】
球状細孔が単位体積当りN個開孔した多孔体の総内部表面積Sは、理論的には
=(4πr)・N
となる。他方、この多孔体の見掛密度をρ[kg/m]とすると、固体骨格部分の密度ρskelton[kg/m]とは、ρ=(1−φ)ρskeltonの関係にある。従って、この多孔体の単位質量当りの細孔総表面積を示す比表面積σ[m/kg]は、
【0057】
【数9】
【0058】
により算出される。
【0059】
球状細孔に対して総体積Vは、理論的には
=V・N
で与えられるので、式(11)の最終項に含まれる比(S/V)は、式(4)と組み合わせると3/rに等しくなる。なお、細孔として半径rの円筒状貫通細孔を仮定する場合には、この比(S/V)は、2/rに等しくなる。
【0060】
[実施例]
本発明の実施例として、上記原理の具体的適用例を、以下図面を参照して詳細に説明する。
【0061】
図2に、実施例における細孔パラメータ算出の流れの詳細を示す。本細孔パラメータ算出法の構成要素は、図1において説明した通り、第1に「加工・洗浄工程」、第2に「測定・解析工程」の二つである。まず「加工・洗浄工程」において、被検試料を作製し、前処理を行う。次に「測定・解析工程」において、被検試料の透過率スペクトルを測定し、測定された透過率スペクトルを解析して、細孔パラメータを算出する。なお、本実施例では、参考として「検証工程」を設けているが、「検証工程」では、本実施例のパラメータ算出法により抽出されたパラメータを、従来法である吸脱着等温線から求めた結果と比較して、その妥当性を評価している。
【0062】
本実施例においては、具体的な適用対象の透明多孔体として公称細孔径4.2nmのコーニング社製Vycor7930(Thirsty Glass)多孔質シリカガラスを用いて、細孔パラメータの算出を行う。表1に示すように、このシリカガラス試料(透明多孔体試料)の平均細孔直径の公称値は4.2〜4.6nmで、従来法のBET法で測定すると、比表面積は約195〜200[m/g]とされる。
【0063】
【表1】
【0064】
[加工・洗浄工程]
まず、「加工・洗浄工程」から説明する。
【0065】
加工・洗浄工程において、試料の加工を行う(試料作成工程)。被測定対象である透明多孔体試料を平行平面板形状の加工するに当たり、試料の厚さdに関しては、透過率を測定可能な範囲内の厚みとし、試料の縦横の大きさについては、透過率測定の光学系に合わせて任意の大きさとする。なお、本実施例では、透過率スペクトルを測定する分光光度計の試料ホルダに適合させた。
【0066】
本実施例では、試料準備として、試料となる透明多孔体を厚さ1mm程度、縦横幅8mm×8mm程度の平行平面板に加工する。
【0067】
次に、透明多孔体試料の洗浄を行うが(洗浄工程)、有機物の吸着とその酸化に起因する黄ばみなどが透明多孔体試料に見られる場合には、有機物そのものと黄ばみを取り除くため、有機溶媒による洗浄を行う。有機溶媒による洗浄工程として、アセトン、エタノール、超純水による洗浄を、それぞれ単独もしくは2つ以上を複数組み合せ、かつ各洗浄をそれぞれ複数回以上、被測定対象である透明多孔体試料に対して、測定前処理として実施する。
【0068】
透明多孔体は、一般的に、大気中に長時間放置すると細孔内に有機物質を吸着し、そのために黄ばむ傾向がある。光透過率の測定に際して、これら有機物汚染の影響を取り除くために、透明多孔体試料は、最初にアセトン(純度99%)、エタノール(純度99.5%)、及び超純水(18MΩ・cm)を用いて洗浄する必要がある。ここでは、透明多孔体が、有機溶媒では侵食されないという前提で、実施例を展開する。
【0069】
なお、透明多孔体の素材が、これら有機溶媒によって侵食される場合には、以下の洗浄は実施できない。代わって、塩酸、硫酸などの酸による洗浄に切り替えることもあり得る。洗浄に用いる溶媒に関しては、洗浄対象となる多孔体の化学的組成を充分に検討して決定する必要がある。
【0070】
図3は、透明多孔体の有機溶媒による洗浄工程を示す図であり、図3(a)は洗浄工程、図3(b)は洗浄後の乾燥工程を示している。
【0071】
洗浄手順は、図3(a)に示すように、最初に、透明多孔体試料をアセトンで満たした容器内に浸漬し、さらにその容器そのものを、水を張った超音波洗浄器内に浸漬して、10分間超音波洗浄を行う。このステップを、10分後の洗浄終了毎に新しいアセトンに入れ替えて3回繰返す。次に、全試料を純水でリンスした後、再度図3(a)に示すように、エタノールを満たした新しい容器内に浸漬し、さらにその容器そのものを、水を張った超音波洗浄器内に浸漬して10分間超音波洗浄を実施する。このステップも3回繰り返す。試料を再度純水でリンスした後、微量の残留エタノールを取り除くために、再々度、図3(a)に示すように、超純水で満たされた容器内に透明多孔体試料を浸漬し、この容器を、水を張った超音波洗浄器内に浸漬して10分間超音波洗浄を実施する。これも3回繰返す。
【0072】
最後に、透明多孔体試料を乾燥させる(乾燥工程)。乾燥工程は、図3(b)に示すように、透明多孔体試料を、乾燥窒素を流したデシケータ中に6時間程度保管することで、充分に乾燥させる。また、他の乾燥方法として、洗浄工程により洗浄した透明多孔体試料を、真空中で150度℃以上に6時間以上加熱し、過熱後に乾燥窒素保管して透明多孔体試料を乾燥させてもよい。
【0073】
ここで、被測定対象の透明多孔体が、多孔質シリカガラスである場合、測定・解析工程を実施するに先立ち、洗浄工程に追加して、0.1%希釈フッ酸によるライトエッチング処理を測定前処理として実施することもできる。被測定透明多孔体が多孔質シリカガラスの場合には、試料表面を希フッ酸により化学的にエッチングすることにより、さらに透明度を向上させることができる。
【0074】
図4は、多孔質シリカガラスの透明多孔体試料の希フッ酸によるライトエッチングを示し、図4(a)は希フッ酸エッチング、図4(b)はエッチング後の流水による洗浄を示している。
【0075】
エッチング工程としては、図4(a)に示すように、濃度1%の希釈フッ酸溶液を満たしたテフロン(登録商標)容器に1分間、透明多孔体試料を浸漬する。浸漬の際は、試料をハンドリングするためテフロン製のチップホルダーを用いる。
【0076】
次に、図4(b)に示すように、希フッ酸によるライトエッチングの後、試料を超純水の流水中に20分間浸漬してリンスし、これにより微量のフッ酸を除去する。
【0077】
実際、この工程を経ることによって、透明多孔体試料を真空中で約450℃まで加熱した後でも光学的に透明な状態に保持することが可能である。
【0078】
最後に、図3(b)に戻って、試料を、乾燥窒素を流したデシケータ中に6時間程度保管することで、充分に乾燥させる。
【0079】
[測定・解析工程]
「測定・解析工程」について、詳細に説明する。
【0080】
まず、本実施例の測定・解析工程に使用する細孔パラメータ計測システムについて説明する。図5は、本実施例において使用する細孔パラメータ計測システムの構成を示すブロック図である。
【0081】
細孔パラメータ計測システム500は、透明多孔体試料501の透過率スペクトルを測定する分光光度計510と、分光光度計510により計測された透明多孔体試料501の透過率スペクトルから、透明多孔体試料の細孔パラメータを測定する解析用コンピュータ520とにより構成される。なお、分光光度計510と、解析用コンピュータ520とは、有線又は無線により接続されていてもよい。
【0082】
分光光度計510は、透明多孔体試料501に、可視光を照射する光源511と、測定対象の透明多孔体試料501を挿入する試料室512と、透明多孔体試料501を透過した可視光を検出する検出部513と、検出した可視光から透過率スペクトルを算出する演算部とにより構成される。
【0083】
透過率スペクトルの測定を行う分光光度計510は、島津製作所製U−3500分光光度計を用いる。透明多孔体試料は8mm角程度の大きさとしたので、孔径6mmのアルミ製試料ホルダ(プレート)に取り付けて、測定した。
【0084】
次に、「測定・解析工程」の手順について説明する。
【0085】
まず、可視領域の透過率スペクトルの測定を行う(図1の第1工程に該当)。本工程では、上記加工・洗浄工程を経た透明多孔体試料501を、分光光度計510の試料室512に挿入し、光源511の波長(λ)を可視領域0.35〜0.8μmの波長範囲で透明多孔体試料に照射し、検出部513において透過光強度Imeas(λ)を検出する。検出された透過高強度Imeas(λ)は、演算部514に入力され、演算部514において、透過光強度Imeas(λ)と参照光強度Iref(λ)とを式(1)に従って透過率T(λ)に変換する。これは標準的なダブルビーム分光光度計であれば、容易に実施できる測定である。
【0086】
図6は、本工程により測定された、透明多孔体試料の透過率スペクトルを示す図表である。この試料とした多孔質シリカガラスは、短波長側0.33μm以下には、シリカガラス自体に起因すると考えられる吸収がみられる。他方、0.35〜0.8μmの可視領域はほぼ透明で、この領域での透過率は90%を超える。
【0087】
次に、上記工程により測定した透過率スペクトルから、細孔パラメータを算出する。図7は、本実施例における、細孔パラメータ算出の方法の詳細を示すフローチャートである。細孔パラメータ算出の方法は、透過率スペクトルを計測する分光光度計に接続された細孔パラメータ解析用コンピュータ520において行う。
【0088】
細孔パラメータ算出は、まずステップ701において開始し、ステップ702において、コンピュータ720に測定ファイル名と初期パラメータを入力する。初期パラメータとしては、試料厚(d)、空隙率(φ)、そして、解析対象の透明多孔体の実効屈折率nを入力する。
【0089】
ステップ703において、上記工程により得られた透過率スペクトルT(λ)が分光光度計510からコンピュータ720に取り込まれ、コンピュータ720において、式(7)に従って解析が進められる。
【0090】
ステップ704において、媒体内波長λ(=λ/n)の計算をおこなう。本実施例では、多孔質シリカガラスを被測定対象としていることから、暫定的にシリカ骨格の屈折率1.45を透明多孔体の実効屈折率nの第1の出発値として採用する。
【0091】
ステップ705において、透過率スペクトルT(λ)を、式(7)の左辺に従って、対数を取り試料の厚dさで除した量ln{1/T(λ)}/dを縦軸に、媒体内波長λの逆4乗1/λを横軸にとってプロットする。図4のステップ703〜705は、図1の第2工程の詳細を示すものである。
【0092】
ステップ705において得られたln{1/T(λ)}/dの媒質内波長の逆4乗1/λに対するプロットを、ステップ706において、式(7)の右辺に示す一次関数でカーブフィッティングすることによって、傾きのパラメータβおよび縦軸切片Cの値を求める。図7のステップ706は、図1の第3工程の詳細を示すものである。
【0093】
ステップ707において、線型回帰分析より求まる縦軸切片Cの値と式(9)とを用いて、単一界面の反射率rが求め、反射率rを式(10)に代入することにより、多孔体の新実効屈折率nを算出する。図7のステップ707は、図1の第4工程の詳細を示すものである。
【0094】
ステップ708において、線型回帰分析より求まる縦軸切片Cの値より、式(9)及び(10)を用いて求めた1番目の算出値である新実効屈折率nと第1の出発値nとを比較して屈折率の誤差|δ|を求める。差|δ|が許容誤差を超えているようであれば、ステップ709において、その誤差|δ|が小さくなるように、第1の算出値nと第1の出発値nの中間値を新たな第2の出発値nとして採用して、再度、ステップ704に戻る。ステップ704〜ステップ707による線型回帰分析を繰返し、再度、第2の算出値nを求める。この差|δ|が許容誤差内に小さくなるまで、この計算ループを繰返すことで、精度よく、最終解に到達できる。
【0095】
図8は、ステップ705のln{1/T(λ)}/dの媒質内波長の逆4乗1/λ依存性を線型回帰分析した結果を示す図表で、図8(a)が初回(第1の出発値で計算)、図8(b)が収束後の結果を示す図である。図8(a)は屈折率n=1.45を用いた際の初回の結果、図8(b)は上記の計算ループにより収束した実効屈折率n=1.3179に達した際の結果である。
【0096】
図8(b)に示すように、最終的にβ=9.499513×10−7[μm]、C=3.791246×10−5[μm−1]の値がそれぞれ得られる。
【0097】
また、表2に、図7に示す反復計算ループ(ステップ704〜709)による、実効屈折率、縦軸切片、単一反射率を示す。縦軸切片の値は、反復計算によっても殆んど変化しないことが判る。
【0098】
【表2】
【0099】
ステップ710において、上式(8)を体積Vに対して解き、式(4)と組み合わせることにより、散乱体、即ち、細孔の平均半径rを求める。また、体積Vを式(6)と組み合わせれば、細孔数密度Nも算出できる。シリカ骨格の密度ρskelton=2.65[g/cm]であるから、式(11)を用いると、比表面積σも算出できる。結果を表3にまとめる。
【0100】
【表3】
【0101】
図7のステップ710は、図1の第5の工程及び第6の工程の詳細を示したものある。
【0102】
本実施例の細孔パラメータ算出の方法は、プログラム・モジュールの中に含まれ、細孔パラメータ解析用コンピュータ520において、目標の現実のプロセッサ上または仮想のプロセッサ上で実行されるコンピュータ実行可能命令の一般的な文脈で説明することができる。プログラム・モジュールのためのコンピュータ実行可能命令は、ローカルのコンピューティング環境内で、または分散コンピューティング環境において実行することができる。
【0103】
また、本実施例の細孔パラメータ算出の方法は、コンピュータ可読媒体の一般的な文脈で説明することができる。コンピュータ可読媒体は、コンピューティング環境内でアクセスすることが可能な任意の可用な媒体である。例として、限定としてではなく、コンピューティング環境内で、コンピュータ可読媒体には、メモリ、ストレージ、通信媒体、および以上のいずれの組合せも含まれる。
【0104】
「検証工程」
「検証工程」では、本実施例のパラメータ決定法により抽出されたパラメータを、従来法である吸脱着等温線から求めた結果と比較して、本実施例の細孔パラメータ決定法による結果の妥当性を評価する。
【0105】
細孔直径分布を求めるには、透明多孔体の比表面積と平均細孔半径を求めるために、容量式自動ガス吸着装置(BELSORP−mx)を用いて吸脱着等温線を決定する。この装置は、多孔体の孔内壁面への窒素ガスの吸着量を自動的に測定できる。次に、この吸着等温線から、Dollimore and Heal法(非特許文献2)を用いて細孔直径分布を求める。
【0106】
従来法では、本実施例にて使用したのと同一の多孔質シリカガラス試料に対して、吸脱着等温線を求めた。
【0107】
この吸着量測定に先立ち、多孔質シリカガラス試料を、実施例に示した洗浄工程を施した後に、6時間に渡り約450℃で真空加熱し、細孔内部に吸着した水分を乾燥させた。乾燥後、多孔質シリカガラス試料について77Kにおける窒素ガスの吸脱着等温線を測定した。
【0108】
図9に、多孔質シリカガラスの窒素ガス吸脱着等温線を示す。横軸に、液体窒素温度における飽和蒸気圧に対する窒素ガス圧の相対値を取り、縦軸に吸着量をとっている。吸着等温線と脱着等温線とはメソポーラス多孔物質に典型的なヒステリシス特性を示している。この吸着等温線を相対圧P/P=0.02〜0.5の範囲で、BET解析することによって、比表面積としてσ=207[m/g]の値を得る。
【0109】
この値と表3に示された本発明の方法により導出された値とを比較すると、本発明による値は、従来法で求められた値の約7割程度(=145/207)であることがわかる。本パラメータ決定法では、細孔の幾何学形状として球形を想定しており、他方、従来法が円柱状の細孔形状を想定していることと考え合わせると、本評価法による値と従来法による値とは、全く同一の値を与えてはいないものの、同一オーダの値を与えていることから、簡易な手法による細孔パラメータ決定法としては充分な精度を有すると結論される。
【0110】
図10に、上記多孔質シリカガラスの細孔直径分布を示す。これは、図9に示した吸脱着等温線をDollimore−Heal法(非特許文献2)により解析して求めたものである。
【0111】
吸着等温線を解析すると、細孔直径6.4nm当りにピークを有するブロードな細孔径分布曲線が得られる。他方、脱着等温線を解析すると、細孔直径4.2nmに顕著なピークを有するシャープな細孔径分布曲線が得られる。
【0112】
本発明のパラメータ決定法によれば、表3に示すように、平均細孔半径(r)として、初回は2.95nm、収束後は3.35nmが得られており、直径(d)換算すると、それぞれ5.9nm(初回)、6.7nm(収束後)が得られる。
【0113】
この結果から、本発明による細孔パラメータ決定法では、オーダ的にはほぼ同一であるが、吸着等温線に基づく細孔径分布に非常に近い結果が得られていることがわかる。
【符号の説明】
【0114】
501 透明多孔体試料
510 分光光度計
511 光源
512 試料室
513 検出器
514 演算部
520 解析用コンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10