(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調整後のストライプの幅は、前記荷電粒子ビームの照射開始からのドリフトの変化量に応じた幅であることを特徴とする請求項1または2に記載のドリフト補正方法。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの回路パターンの形成工程では、原版となるマスクが用いられる。かかるマスクの製造工程において、電子ビームリソグラフィ技術が利用されている。
【0003】
電子ビームリソグラフィ技術は、荷電粒子ビームを用いるため、本質的に優れた解像度を有する。また、焦点深度を大きく確保できることにより、高い段差上でも寸法変動を抑制できるという利点も有している。さらに、この技術に使用される電子ビーム描画装置は、複雑且つ任意に設計される回路パターンをデータ処理して描画するシステムを備えている。
【0004】
こうしたことから、電子ビームリソグラフィ技術は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)を代表とする最先端デバイスの開発に適用されている他、一部ASIC(Application Specific Integrated Circuit)の生産にも用いられている。さらに、近年では、電子ビームを用いて回路パターンをウェハに直接描画する技術の開発も進められている。
【0005】
特許文献1には、電子ビームリソグラフィ技術に使用される可変成形型電子ビーム描画装置が開示されている。
【0006】
電子ビーム描画装置における描画データは、CAD(Computer Aided Design)システムを用いて設計された半導体集積回路などの設計データ(CADデータ)に、補正や図形パターンの分割などの処理を施し、さらにこれを同じ幅の複数のストライプに分割することによって作成される。ストライプの幅は、主偏向で偏向可能な幅である。さらに各ストライプは、多数の副偏向領域に分割される。これにより、チップ全体の描画データは、主偏向領域のサイズにしたがった複数の帯状のストライプデータと、ストライプ内で主偏向領域よりも小さい複数の副偏向領域単位とからなるデータ階層構造になる。
【0007】
ステージに載置されたマスクにパターンを描画する際には、ステージをストライプの幅方向に直交する方向に移動させつつ、電子ビームを各副偏向領域に位置決めする。そして、副偏向領域の所定位置に電子ビームを照射する。
【0008】
ところで、電子ビーム描画装置内でステージ上に載置されたマスクに電子ビームが照射されると反射電子が発生する。この反射電子は、電子ビーム描画装置内の光学系や検出器などに衝突してチャージアップされ、これによって新たな電界が発生する。すると、マスクへ向けて偏向された電子ビームの軌道が変化し、描画位置が所望の位置からずれるドリフトが起こる。
【0009】
ドリフトの原因は上記のみによるものではないが、いずれにおいても、描画途中でステージ上の基準マークの位置を検出してドリフト量を測定し、描画位置が所望の位置となるように補正する必要がある。具体的には、まず、描画直前に基準マークの座標を求め、次いで、描画中に描画動作を一時停止して再び基準マークの座標を求める。この座標と先の座標との差がドリフト量となるので、得られた値を用いて電子ビームの描画位置を補正する。
【0010】
従来法において、描画途中における基準マークの位置検出は、所定の時間間隔で行われていた。具体的には、予め設定された補正インターバルにしたがい、ストライプエンドまで描画を終えた後に、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークを走査してその位置を検出していた。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量と定義して、補正を行っていた。ここで、ドリフト補正後に許容される誤差は、マスクパターンの位置精度より十分に小さいものとする必要がある。
【0011】
近年、半導体集積回路の高集積化に伴って、回路パターンは、より微細化および複雑化している。それ故、マスクに要求されるパターンの位置精度は益々高くなっており、ドリフト補正後の誤差についてもより小さくすることが求められている。しかしながら、予め設定された補正インターバルにしたがってドリフト補正を行う場合、補正誤差を小さくするにはドリフト量の測定回数を増やす必要があり、その結果、全体の描画時間が長くなるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、従来検出が困難であったドリフトを検出して補正精度を向上させることのできるドリフト補正方法と、かかるドリフト補正方法に適した描画データの作成方法とを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、試料上の描画領域に描画されるパターンのパターンデータからレイアウトデータを作成する工程と、
このレイアウトデータを基準となる幅のストライプに分割するとともに、所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成し、小領域毎にパターンの面積密度を算出して、基準となる幅のストライプに含まれる小領域の面積密度の平均値を求める工程と、
この平均値に応じて基準となる幅を調整する工程と、
調整後のストライプにしたがって、試料上に荷電粒子ビームでパターンを描画する工程とを有し、
調整後のストライプの少なくとも1つについて描画を終えたところで、または、調整後のストライプの1つを描画している最中に、描画を停止してドリフト量を測定し、このドリフト量を用いて荷電粒子ビームの照射位置を補正することを特徴とするドリフト補正方法に関する。
【0016】
本発明の第1の態様においては、荷電粒子ビームでパターンを描画する工程は、荷電粒子ビームの光路上に配置された主偏向器および副偏向器で荷電粒子ビームを偏向しながら行い、
基準となる幅の値は、ゼロより大きく、主偏向器の偏向幅の最大値以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の第1の態様においては、平均値に応じて基準となる幅を調整した後、ストライプ間におけるパターンの面積密度の変化量に応じてさらに幅を調整することが好ましい。
【0018】
本発明の第1の態様において、調整後のストライプの幅は、荷電粒子ビームの照射開始からのドリフトの変化量に応じた幅であることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の態様は、荷電粒子ビームによって試料上に所定のパターンを描画するための描画データの作成方法であって、
パターンが定義されたレイアウトデータを、パターンの面積密度に応じた幅の複数のストライプに分割して描画データを作成することを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第2の態様において、ストライプの幅は、さらに荷電粒子ビームの照射開始からのドリフトの変化量に応じた幅であることが好ましい。
【0021】
本発明の第2の態様においては、レイアウトデータを基準となる幅のストライプに分割するとともに、所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成し、小領域毎にパターンの面積密度を算出して、基準となる幅のストライプに含まれる小領域の面積密度の平均値を求め、この平均値に応じて基準となる幅を調整することが好ましい。
【0022】
本発明の第2の態様において、面積密度の平均値が所定値より大きい場合には、基準となる幅より狭い幅のストライプとし、面積密度の平均値が所定値より小さい場合には、基準となる幅より広い幅のストライプとすることが好ましい。
【0023】
本発明の第2の態様においては、平均値に応じて基準となる幅を調整した後、ストライプ間におけるパターンの面積密度の変化量に応じてさらに幅を調整することが好ましい。
【0024】
本発明の第3の態様は、荷電粒子ビームによって試料上に描画されるパターンの面積密度に応じた幅で試料の描画領域を複数のストライプに分割し、
ストライプの少なくとも1つについて描画を終えたところでまたはストライプの1つを描画している最中に描画を停止してドリフト量を測定し、
このドリフト量を用いて荷電粒子ビームの照射位置を補正することを特徴とするドリフト補正方法に関する。
【0025】
本発明の第3の態様においては、描画領域を基準となる幅のストライプに分割するとともに、所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成し、小領域毎にパターンの面積密度を算出して、基準となる幅のストライプに含まれる小領域の面積密度の平均値を求め、この平均値に応じて基準となる幅を調整することが好ましい。
【0026】
本発明の第3の態様において、面積密度の平均値が所定値より大きい場合には、基準となる幅より狭い幅のストライプとし、面積密度の平均値が所定値より小さい場合には、基準となる幅より広い幅のストライプとすることが好ましい。
【0027】
本発明の第3の態様では、平均値に応じて基準となる幅を調整した後、ストライプ間におけるパターンの面積密度の変化量に応じてさらに幅を調整することが好ましい。
【0028】
本発明の第3の態様において、ストライプの幅は、さらに荷電粒子ビームの照射開始からのドリフトの変化量に応じた幅であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の態様によれば、レイアウトデータを基準となる幅のストライプに分割するとともに、所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成し、小領域毎にパターンの面積密度を算出して、基準となる幅のストライプに含まれる小領域の面積密度の平均値を求める工程と、この平均値に応じて基準となる幅を調整する工程とを有するので、従来検出が困難であったドリフトを検出して補正精度を向上させることのできるドリフト補正方法が提供される。
【0030】
本発明の第2の態様によれば、パターンが定義されたレイアウトデータを、パターンの面積密度に応じた幅の複数のストライプに分割して描画データを作成するので、従来検出が困難であったドリフトを検出して補正精度を向上させることのできるドリフト補正方法に適した描画データの作成方法が提供される。
【0031】
本発明の第3の態様によれば、荷電粒子ビームによって試料上に描画されるパターンの面積密度に応じた幅で試料の描画領域を複数のストライプに分割するので、従来検出が困難であったドリフトを検出して補正精度を向上させることのできるドリフト補正方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、マスクMの表面に電子ビームBを照射して所望のパターンを描画する電子ビーム描画装置を示している。この電子ビーム描画装置は、描画室1と、描画室1の天井部に立設した電子ビーム照射手段たる電子光学鏡筒2とを備えている。
【0034】
描画室1には、ステージ3が配置されている。そして、ステージ3の上には、マスクMが載置されている。マスクMは、電子ビームの描画対象となる試料の一例であり、例えば、ガラス基板上にクロム膜などの遮光膜とレジスト膜とが積層されたものである。
【0035】
ステージ3は、電子ビームBの光軸方向と直交するX方向およびY方向に移動可能である。ステージ3の上には、マーク台4が立設されている。マーク台4には、図示されない基準マークが設けられている。基準マークは、電子の反射率がマスクMと同程度の材料を用いて形成されることが好ましい。また、基準マークの形状は、矩形、円形、三角形または十字形などとすることができる。
【0036】
電子ビーム描画装置は、描画途中で基準マークの位置を検出する。これにより、ビームドリフト量を測定して、描画位置が所望の位置となるように補正する。例えば、まず、描画直前に基準マークの座標を求め、次いで、描画中に描画動作を一時停止して再び基準マークの座標を求める。例えば、電子ビームで基準マークの上を走査し、その反射電子を検出器に取り込む。得られた波形を解析することにより、基準マークの位置を検出することができる。次いで、先の座標との差を求めてビームドリフト量を検出する。尚、マーク台4を設けずに、マスクMの上に基準マークを設けてもよい。
【0037】
図1において、電子光学鏡筒2は、内蔵する電子銃101から発せられた電子ビームBを所要の断面形状に成形した後、偏向させてマスクMに照射する部分である。
【0038】
電子光学鏡筒2の内部には、
図1で上から順に、電子銃101、照明レンズ102、ブランキング偏向器103、ブランキングアパーチャ104、第1成形アパーチャ105、投影レンズ106、成形偏向器107、第2成形アパーチャ108、主偏向器109、対物レンズ110、副偏向器111が配置されている。
【0039】
電子銃101から発せられた電子ビームBは、照明レンズ102により、第1成形アパーチャ105に照射される。尚、ブランキングオン時(非描画時期)には、電子ビームBは、ブランキング偏向器103により偏向されて、ブランキングアパーチャ104の上に照射され、第1成形アパーチャ105には照射されない。
【0040】
第1成形アパーチャ105には、矩形状の開口が設けられている。これにより、電子ビームBは、第1成形アパーチャ105を透過する際に、その断面形状が矩形に成形される。その後、電子ビームBは、投影レンズ106によって、第2成形アパーチャ108の上に投影される。ここで、成形偏向器107は、第2成形アパーチャ108への電子ビームBの投影場所を変化させる。これによって、電子ビームBの形状と寸法が制御される。
【0041】
第2成形アパーチャ108を透過した電子ビームBの焦点は、対物レンズ110によりマスクMの上に合わせられる。そして、主偏向器109と副偏向器111とによって、マスクMの上での電子ビームBの照射位置が制御される。
【0042】
描画室1と電子光学鏡筒2における電子ビームBの形状や照射位置、照射のタイミングなどは、照射制御部7を通じて全体制御部10によって制御される。
【0043】
全体制御部10には、記憶媒体であるメモリ11が接続されている。メモリ11には、パターンデータが記憶されている。全体制御部10は、メモリ11からのパターンデータに基づいて、描画すべき図形の形状や位置を規定するレイアウトデータを作成する。
【0044】
設計者(ユーザ)が作成したCADデータは、OASISなどの階層化されたフォーマットの設計中間データに変換される。設計中間データには、レイヤ(層)毎に作成されて各マスクに形成されるパターンデータ(設計パターンデータ)が格納される。メモリ11には、このパターンデータが記憶される。
【0045】
ここで、一般に、電子ビーム描画装置は、OASISデータを直接読み込めるようには構成されていない。すなわち、電子ビーム描画装置の製造メーカー毎に、独自のフォーマットデータが用いられている。このため、OASISデータは、レイヤ毎に各電子ビーム描画装置に固有のフォーマットデータに変換されてから装置に入力される。
【0046】
全体制御部10には、メモリ11を通じてフォーマットデータが入力される。パターンデータに含まれる図形は、長方形や三角形を基本図形としたものであるので、全体制御部10では、例えば、図形の基準位置における座標(x,y)、辺の長さ、長方形や三角形などの図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報であって、各パターン図形の形、大きさ、位置などを定義したレイアウトデータが作成される。
【0047】
さらに、数十μm程度の範囲に存在する図形の集合を一般にクラスタまたはセルと称するが、これを用いてデータを階層化することが行われている。クラスタまたはセルには、各種図形を単独で配置したり、ある間隔で繰り返し配置したりする場合の配置座標や繰り返し記述も定義される。
【0048】
レイアウトデータは、電子ビームBのサイズにより規定される最大ショットサイズ単位で分割され、併せて、分割された各ショットの座標位置、サイズおよび照射時間が設定される。そして、描画する図形パターンの形状や大きさに応じてショットが成形されるように、描画データが作成される。描画データは、短冊状のストライプ単位で区切られ、さらにその中は副偏向領域に分割されている。つまり、チップ全体の描画データは、複数の帯状のストライプ単位と、ストライプ内に配置される複数の副偏向領域単位とからなるデータ階層構造になっている。
【0049】
電子ビーム描画装置は、ステージ3のX方向およびY方向の位置を測定するステージ位置測定手段12を備えている。ステージ位置測定手段12は、ステージ3に固定したステージミラー3aへのレーザ光の入反射でステージ3の位置を測定するレーザ測長計を有する。
【0050】
照射制御部7は、全体制御部10から入力される描画データに基づき、ステージ位置測定手段12で測定したステージ3の位置を確認しつつ、電子光学鏡筒2内の電子ビームBの成形制御や偏向制御を行って、マスクMの所要の位置に電子ビームBを照射する。
【0051】
図2は、電子ビームによる描画方法の説明図である。この図に示すように、マスクMの描画領域51は、複数の短冊状のストライプ52に分割されている。電子ビームBによる描画は、ステージ3が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、ストライプ52毎に行われる。ストライプ52は、さらに複数の副偏向領域53に分割されており、電子ビームBは、副偏向領域53内の必要な部分のみを描画する。尚、
図2では、各ストライプ52の幅を同じとしている。この場合、通常、ストライプ52は、主偏向器109の偏向幅で決まる短冊状の領域であり、副偏向領域53は、副偏向器111の偏向幅で決まる単位領域である。
【0052】
副偏向領域53の基準位置の位置決めは、主偏向器109で行われ、副偏向領域53内での描画は、副偏向器111によって制御される。すなわち、主偏向器109によって、電子ビームBが所定の副偏向領域53に位置決めされ、副偏向器111によって、副偏向領域53内での描画位置が決められる。さらに、成形偏向器107と、第1成形アパーチャ105および第2成形アパーチャ108とによって、電子ビームBの形状と寸法が決められる。そして、ステージ3を一方向に連続移動させながら、副偏向領域53内を描画し、1つの副偏向領域53の描画が終了したら、次の副偏向領域53を描画する。ストライプ52内の全ての副偏向領域53の描画が終了したら、すなわち、ストライプエンド(ストライプの終端)に到達したら、ステージ3を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、ストライプ52を順次描画して行く。
【0053】
副偏向領域53は、副偏向器111によって、主偏向領域よりも高速に電子ビームBが走査されて描画される領域であり、一般に最小描画単位となる。副偏向領域53内を描画する際には、パターン図形に応じて準備された寸法と形状のショットが成形偏向器107により形成される。具体的には、電子銃101から出射された電子ビームBが、第1成形アパーチャ105で矩形状に成形された後、成形偏向器107で第2成形アパーチャ108に投影されて、そのビーム形状と寸法を変化させる。その後、電子ビームBは、副偏向器111と主偏向器109により偏向されて、ステージ3上に載置されたマスクMに照射される。
【0054】
従来は、予め設定された補正インターバルにしたがい、ストライプエンドまで描画を終えた後に、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークを走査してその位置を検出し、次いで、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正していた。この場合、ドリフト量の測定は一定の時間間隔で行われる。したがって、補正誤差を小さくしようとすると、測定の時間間隔を短くして、基準マークの検出回数を増やす必要がある。しかしながら、これは描画時間の増加を招くことになる。
【0055】
従来法において、描画データは、同じ幅の複数のストライプに分割されていた。これに対して、本実施の形態では、マスクMに描画されるパターンの面積密度に応じてストライプの幅を変える。より詳しくは、マスクMに描画される図形パターンの面積密度に応じた幅で、マスクMの描画領域を複数のストライプに分割する。描画データは、図形パターンが定義されたレイアウトデータを、この図形パターンの面積密度に応じた幅の複数のストライプに分割することによって得られる。
【0056】
本実施の形態において、ストライプの幅は、次のようにして決定される。但し、これに限られるものではない。
【0057】
まず、描画領域を基準となる幅のストライプに分割するとともに、描画領域を所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成する。ここで、「基準となる幅」は適宜設定することができるが、その上限は主偏向器の偏向幅の最大値であり、下限はゼロより大きい値、例えば、副偏向器の偏向幅とすることができる。尚、メッシュは、(後述する)かぶり補正において、パターンの面積密度を算出する際に用いるメッシュと同じものとすることができる。次いで、小領域毎にパターンの面積密度を算出し、基準となる幅のストライプに含まれる小領域の面積密度の平均値を求める。この平均値が、本実施の形態におけるパターンの面積密度である。そして、得られた平均値に応じて基準となる幅を調整する。例えば、面積密度の平均値が所定値より大きい場合には、基準となる幅より狭い幅、より詳しくは、ゼロより大きい値で基準となる幅より小さい値のストライプとする。一方、面積密度の平均値が所定値より小さい場合には、基準となる幅より広い幅、より詳しくは、主偏向器の偏向幅の最大値以下で基準となる幅より大きい値のストライプとする。
【0058】
パターンの面積密度とドリフト量には相関があり、一般に、パターンの面積密度が大きいとドリフト量は大きくなる。そこで、例えば、1つのストライプ中におけるパターンの面積密度の平均値が50%以上である場合には、ストライプをその幅方向と直交する方向に2つに分割する。これにより、ストライプエンドが2倍になるので、ストライプエンドまで描画した後に基準マークの位置を検出する動作を2倍にすることができる。また、ストライプの幅は、基準となるストライプ幅の半分になるので、ストライプエンドまで描画するのに要する時間が短くなる。つまり、電子ビームによる基準マークの位置検出について、次回検出するまでの時間を短くすることができるので、従来法では見逃していたドリフトを検出することができるようになる。これにより、ドリフト補正の精度を従来より向上させることが可能となる。
【0059】
一方、パターンの面積密度が小さい場合には、ドリフト量が小さくなると予測されるので、ストライプ幅を基準値より拡げることができる。これにより、基準マークを検出する回数を減らせるので、ストライプ幅を狭くすることで増えた基準マークの検出回数を相殺し、全体の描画時間が増えるのを抑制することが可能である。
【0060】
図3は、本実施の形態の比較例であり、ストライプの幅が全て同じ基準の幅の例である。S101〜S108は、それぞれストライプを示している。
【0061】
図3では、例えば、S101について、ストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。次いで、S102を描画し、続いてS103を描画する。S103のストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。
【0062】
次に、S104を描画し、続いてS105を描画する。S105のストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。同様に、S106を描画し、続いてS107を描画した後、電子ビームを照射して基準マークの位置を検出する。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正した後、S108を描画する。
【0063】
図3のように、ストライプの幅が全て同じ場合において、補正精度を高めようとすると、基準マークの検出回数を増やすことになる。これは、全体の描画時間の増加を招く結果となる。
【0064】
図4は、本実施の形態によるストライプ幅が異なる例である。尚、マスクMに描画されるパターンは、
図3の例と同じとする。
【0065】
図4において、S203、S204およびS208は、いずれも
図3のストライプ幅と同じである。ここでは、これらの幅を基準となるストライプ幅とする。
【0066】
S201、S202、S206およびS207の各ストライプ幅は、基準となるストライプ幅よりも狭い。これに対して、S205とS209の各ストライプ幅は、基準となるストライプ幅より広い。
【0067】
本実施の形態では、ストライプの少なくとも1つについて描画を終えたところでドリフト量を測定する。尚、ドリフト量測定のタイミングは、描画を開始する前に予め決定されている。
【0068】
例えば、S201について、ストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。次いで、S202をストライプエンドまで描画し、同様に、電子ビームで基準マークの位置を検出する。検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。
【0069】
S203についても、ストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。次に、S204、S205の順に描画した後、S206のストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。
【0070】
次に、S207のストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。S208についても同様である。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正した後、S209を描画する。
【0071】
図4のようにストライプ幅を変えることにより、全体の描画時間が増加するのを抑制しつつ、ドリフト補正の精度を向上させることができる。このことを
図3の例と比較しながら説明する。
【0072】
図4において、S201とS202は、それぞれ、基準となるストライプをその幅方向と直交する方向に2つに分割して得られたものとする。一方、
図3のストライプ幅は、いずれも基準となるストライプ幅である。したがって、この場合、
図3のS101の幅は、
図4のS201とS202を合わせた幅に一致する。
【0073】
図3では、S101について、ストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。これに対して、
図4では、S201について、ストライプエンドまで描画した後に基準マークの位置を検出する。次いで、S202をストライプエンドまで描画し、同様に、基準マークの位置を検出する。つまり、
図3の例で、描画開始から基準マークの位置を検出するまでの間に、
図4の例では、基準マークの位置を2回検出していることになる。
【0074】
S101におけるパターンの面積密度が、S102におけるパターンの面積密度より大きいとすると、S101におけるドリフト量は、S102におけるドリフト量よりも大きいことが予想される。このため、S102と同じ描画時間を要してS101を描画したのでは、ドリフトを十分に検出できないおそれがある。
【0075】
これに対して、
図4の例(S201とS202)では、
図3の例(S101)で基準マークを1回検出する間に2回検出するので、
図3の例で検出できないドリフトも検出できるようになる。したがって、
図4の例によれば、ドリフト補正精度を
図3の例より向上させることができる。
【0076】
ところで、一般に、電子ビームの照射開始直後は、パターンの面積密度に関係なく、ドリフトの変化量が大きくなる。
図5はこの様子を示したものである。
【0077】
図5に実線で示すように、ドリフトの変化量は、電子ビームの照射開始直後で大きく、その後、次第に小さくなっていく。これは、電子ビームの照射開始時は、電子ビーム描画装置内の光学系や検出器などがチャージアップされていないためと推測される。このため、電子ビームの照射開始直後におけるドリフト補正の間隔は短い方が好ましい。本実施の形態では、電子ビームの照射開始直後における補正間隔が短くなるように、ストライプ幅を狭くすることが好ましい。
【0078】
図5において、破線は、ドリフト量測定の時間間隔を示しており、パターンの面積密度のみを考慮してストライプ幅を決定した場合の例である。つまり、破線によって示される期間のそれぞれにおいて、対応する第1のストライプ、第2のストライプ、第3のストライプの描画が行われる。
【0079】
破線の例において、電子ビームの照射は、第1のストライプで開始される。例えば、第1のストライプのストライプエンドまで描画を終えた後に、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させてその位置を検出する。第2のストライプについても同様に描画を行い、そのストライプエンドに達したら、電子ビームで基準マークの位置を検出する。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正した後、第3のストライプを描画する。
【0080】
尚、破線の第1のストライプ、第2のストライプおよび第3のストライプの各パターンの面積密度はいずれも同じとする。したがって、これらのストライプの幅は等しく、また、破線で示す通り、ドリフト量の測定が行われる時間間隔も等しい。
【0081】
一方、
図5において、点線は、ドリフト量測定の時間間隔の他の例を示している。これは、パターンの面積密度に加えて、電子ビームの照射直後におけるドリフトの変化量を考慮してストライプ幅を決定した場合に対応する。点線によって示される期間のそれぞれにおいて、対応する第1のストライプ、第2のストライプ、第3のストライプ、・・・、第6のストライプの描画が行われる。
【0082】
図5に実線で示すドリフト量を見ると、その変化量は、破線の第1のストライプを描画しているときの方が、破線の第2のストライプを描画しているときより大きい。そして、破線の第3のストライプを描画しているときのドリフト量は略一定である。したがって、ドリフト補正の精度を向上させる点からは、ドリフトの変化量に応じた測定間隔となるようにストライプ幅を決定することが好ましい。すなわち、変化量の大きいところでは、ストライプ幅を狭くして測定間隔が短くなるようにし、変化量の小さいところでは、ストライプ幅を広くして測定間隔が長くなるようにする。こうして得られたのが、第1のストライプから第6のストライプであり、ドリフト量測定の時間間隔は点線で示す通りである。
【0083】
図5において、例えば、第1のストライプを描画している際のドリフトの変化量は、第4のストライプを描画している際のドリフトの変化量より大きい。そして、第1のストライプに対応する点線の間隔は、第4のストライプに対応する点線の間隔より短くなっている。これは、第1のストライプの描画時間が、第4のストライプの描画時間より短いことを示しており、つまり、第1のストライプの方が、第4のストライプより、ドリフト量測定までの時間間隔が短いことを示している。
【0084】
また、
図5において、例えば、第6のストライプを描画している際のドリフトの変化量は、第1のストライプを描画している際のドリフトの変化量より小さい。そして、第6のストライプに対応する点線の間隔は、第1のストライプに対応する点線の間隔より長くなっている。これは、第6のストライプの描画時間が、第1のストライプの描画時間より長いことを示しており、つまり、第6のストライプの方が、第1のストライプより、ドリフト量測定までの時間間隔が長いことを示している。
【0085】
また、例えば、点線の第1のストライプ、第2のストライプおよび第3のストライプは、破線で示す第1のストライプをその幅方向と直交する方向に3つに分割して得られたものである。これらのストライプはこの順に描画され、また、それぞれストライプエンドまで描画した後に基準マークの位置検出が行われる。つまり、この場合には、破線の第1のストライプを描画して基準マークを検出するまでの間に、3回の位置検出が行われることになる。
【0086】
点線で示す、第4のストライプおよび第5のストライプは、破線で示す第2のストライプをその幅方向と直交する方向に2つに分割して得られたものである。これらのストライプはこの順に描画され、また、それぞれストライプエンドまで描画した後に基準マークの位置検出が行われる。つまり、この場合には、破線の第2のストライプを描画して基準マークを検出するまでの間に、2回の位置検出が行われることになる。
【0087】
点線で示す第6のストライプは、破線で示す第3のストライプと同じ幅を有しており、第3のストライプと同じように描画される。そして、ストライプエンドに達した後は、いずれのストライプにおいても基準マークの位置検出が行われる。
【0088】
このように、点線で示す6つのストライプによれば、ドリフトの変化量の大きいところで測定回数を増やすので、ドリフト補正の精度を向上させることができる。一方、ドリフトの変化量の小さいところでは、測定回数を減らすので、ドリフトの変化量の大きいところで測定回数を増やすことで全体の描画時間が長くなるのをこれによって抑制することが可能である。
【0089】
上記したように、パターンの面積密度とドリフト量には相関があり、パターンの面積密度が大きいとドリフト量は大きくなる。そして、ストライプ間のパターンの面積密度の変化量もドリフト量に影響する。すなわち、パターンの面積密度の変化量が大きいほど、ドリフト量は大きくなる。このため、ストライプ幅を決定するに際しては、パターンの面積密度に加えて、パターンの面積密度の変化量も考慮することが好ましい。具体的には、パターンの面積密度が大きく、且つ、次に描画するストライプとのパターンの面積密度の変化量が大きいものほど、ストライプの幅を狭くすることが好ましい。尚、電子ビームの照射開始からのドリフトの変化量も考慮すればより好ましい。
【0090】
例えば、描画領域を基準となる幅のストライプに分割するとともに、所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成する。そして、小領域毎にパターンの面積密度を算出して、基準となる幅のストライプに含まれる小領域の面積密度の平均値を求め、この平均値に応じて基準となる幅を調整する。その後、ストライプ間におけるパターンの面積密度の変化量に応じてさらに幅を調整する。
【0091】
次に、
図1および
図6を用いて、本実施の形態による描画方法を説明する。
【0092】
まず、
図1のメモリ11からのパターンデータに基づいて、全体制御部10のレイアウトデータ生成回路13でレイアウトデータが作成される(
図6の工程(1))。
【0093】
次に、パターン面積密度演算回路17において、レイアウトデータのパターンの面積密度が求められる(工程(2))。例えば、基準となるストライプ幅を決定するとともに、主偏向領域をメッシュ状に分割する。そして、メッシュ毎にパターンの面積密度を計算し、1つのストライプに含まれるメッシュのパターンの面積密度の平均値を求める。また、パターン面積密度演算回路17では、ストライプ間のパターンの面積密度の変化量も求めることができる。
【0094】
尚、電子ビーム描画装置においては、レジスト膜に照射された電子がその表面で反射し、さらに電子ビーム描画装置の光学部品に反射した後、レジスト膜を広範囲に渡って再照射してしまう現象(かぶり効果)が見られる。この現象は、レジスト膜に電子が照射されて発生した二次電子によっても引き起こされる。かぶり効果によって、描画されるパターンの寸法は変動する。そこで、レジストに蓄積される電子ビームの蓄積照射量が調整される。このとき、寸法変動には周囲のパターンの面積密度が影響することから、パターンの面積密度の値を用いて寸法変動を補正することが行われている。本実施の形態においては、かぶり補正で求めたパターンの面積密度を転用してもよい。例えば、
図6の工程(2)において、パターン面積密度演算回路17へかぶり補正で求めたパターンの面積密度のマップを送ってもよい。
【0095】
ストライプ幅決定情報取得回路18は、レイアウトデータをどのようなストライプに分割するかについての情報を取得する(工程(3))。例えば、パターン面積密度演算回路17で取得されたパターンの面積密度やストライプ間のパターンの面積密度の変化量の情報は、ストライプ幅決定情報取得回路18が取得する情報である。
【0096】
メモリ11に格納されている履歴データも、ストライプ幅決定情報取得回路18が取得する情報の1つである。ここでいう履歴データとは、以前に描画されたレイアウトパターンに関する情報であって、ドリフト補正後に残る設計値との差を基準値より小さくするのに必要な情報のことである。
【0097】
ドリフト補正では、補間によって描画時点でのドリフト値を予測している。つまり、マスク上に設けた基準マークを検出してドリフト量を算出し、描画時点のドリフト値を補間により予測演算して補正している。このため、ドリフト補正精度をいかに向上させたとしても、ドリフト補正後の描画位置と設計位置とを完全に一致させることは困難である。尚、本願において、ドリフト補正後の描画位置と設計位置との差を「補正残差」と称す。
【0098】
補正残差は、マスクパターンの位置精度より十分に小さいものとする必要があり、特に、回路パターンの微細化が進んでいる近年にあっては、補正残差を一層小さくすることが求められている。そこで、過去の描画データを基に、補正残差を基準値より小さくするのに必要な情報を履歴データとしてメモリ11に格納しておく。例えば、以前に描画されたレイアウトパターンの中で今回描画するパターンと同様のパターンに関するドリフト量のマップは、履歴データの1つとなる。さらに、この履歴データの中で、(
図5に示すような)電子ビームの照射開始直後におけるドリフトの変化量のデータは、ストライプ幅を決定するうえで参照される重要な情報の1つである。
【0099】
尚、本実施の形態において、かぶり補正で求めたパターンの面積密度を転用する場合、そのマップをストライプ幅決定情報取得回路18へ送り、レイアウトデータをストライプに分割する際の情報の1つとしてもよい。この場合、
図6の工程(2)は不要とすることができる。
【0100】
ストライプ生成回路19は、ストライプ幅決定情報取得回路18からの情報を基に、レイアウトデータを所定のストライプ幅に分割する(工程(4))。このとき、レイアウトデータのパターンの面積密度に応じてストライプの幅を変える。例えば、パターン面積密度演算回路17からのデータが、レイアウトパターンを基準となる幅のストライプに分割したときの各ストライプのパターンの面積密度であるとする。この場合、パターンの面積密度が所定値以上であれば、ストライプの幅が基準値より狭くなるようにし、パターンの面積密度が所定値以下であれば、基準値より広くなるようにする。例えば、1つのストライプ中におけるパターンの面積密度が50%以上である場合には、ストライプをその幅方向と直交する方向に2つに分割する。
【0101】
ストライプ生成回路19では、パターンの面積密度だけでなく、電子ビームBの照射開始直後におけるドリフトの変化量や、ストライプ間のパターンの面積密度の変化量も考慮に入れて、ストライプ幅を決定することが好ましい。
【0102】
尚、電子ビームBの照射が開始される第1のストライプについては、第1のストライプの前に描画されるストライプがないため、パターンの面積密度の変化量を求めることができない。そこで、第1のストライプについては、例えば、メモリ11に保存された履歴データから、同様のパターンにおける第1のストライプのドリフト量を参照してストライプ幅を決定することができる。あるいは、上記の通り、第1のストライプでドリフトの変化量が大きくなる傾向はパターンの面積密度によらないので、パターンの種類に関係なく、第1のストライプの幅を設定することもできる。
【0103】
ストライプ生成回路19でレイアウトパターンを所定のストライプに分割することにより、描画データが作成される。描画データは、照射制御部7に送られて描画が行われる(工程(5))。具体的には、照射制御部7は、この描画データに基づき、ステージ位置測定手段12で測定したステージ3の位置を確認しつつ、電子光学鏡筒2内の電子ビームBの成形制御や偏向制御を行って、マスクMの所要の位置に電子ビームBを照射する。
【0104】
第1のストライプを描画し、第1のストライプのストライプエンドに到達した後は、工程(6)においてドリフト量の測定を行うか否かの判定を行う。測定を行う場合には、工程(7)に進む。具体的には、電子ビームBの照射位置を基準マークまで移動させる。そして、電子ビームBで基準マークの位置を走査してその位置を検出し、ドリフト量測定回路14でドリフト量を測定する。
【0105】
次に、測定したドリフト量に基づいて、ドリフト補正量演算回路15でドリフト補正値を算出する(工程(8))。メモリ11には補正係数が格納されているので、ドリフト補正量演算回路15でこの情報を呼び出し、ドリフト量に応じた補正値を算出する。
【0106】
ストライプ生成回路19で生成された描画データは設計値のデータである。そこで、この設計値の描画データと、ドリフト補正量演算回路15からの補正値のデータとを、加算器16で加算して合成する。これにより、設計値の描画データが書き換えられ、ビームドリフト量が補正された描画データが得られる。
【0107】
続いて、補正された描画データに基づき、第2のストライプの描画が行われる(工程(5))。
【0108】
第2のストライプのストライプエンドに到達した後は、工程(6)において、ドリフト量の測定を行うか否かの判定を行う。ドリフト量を測定する場合には、工程(7)と工程(8)を行った後、工程(5)に進んで描画を行う。
【0109】
工程(6)において、ドリフト量の測定を行わないと判定した場合には、工程(9)に進んで描画を終えるか否かの判定を行う。描画すべきパターンがある場合には、工程(5)に戻って描画を行う。このとき、前回測定したドリフト量から第3のストライプにおけるドリフト量を補間により予測し、ドリフト補正量演算回路15で、このドリフト量に基づく補正値を算出して、第3のストライプの描画データに加算する。その後、補正された描画データに基づき、第3のストライプを描画する。一方、工程(9)で描画すべきパターンがない場合には、かかる一連の描画工程を終了する。
【0110】
図7は、ドリフト補正残差の時間変化について、本実施の形態と従来法とを比較した例である。
【0111】
破線は、従来法による補正残差の時間変化を示したものである。また、破線の矢印は、従来法におけるドリフト量測定のタイミングを示している。
【0112】
従来法では、描画途中における基準マークの位置検出を一定の時間間隔で行う。つまり、破線の矢印で示すように、ドリフト量の測定は一定の時間間隔で行われる。このため、測定と測定の間でドリフトが生じた場合、これを検出することができない。その結果、ドリフト補正の精度が低下し、補正残差が許容範囲を超えることが起こる。特に、描画開始直後は、ドリフトの変化量が大きいため、
図7に示すように、許容範囲を超える補正残差が見られやすい。尚、許容範囲の大きさは、マスクパターンの位置精度より十分に小さい値である。
【0113】
一方、
図7において、実線は、本実施の形態による補正残差の時間変化を示したものである。また、実線の矢印は、本実施の形態におけるドリフト量測定のタイミングを示している。
【0114】
本実施の形態では、パターンの面積密度に応じてストライプの幅を変え、これによってドリフト測定の間隔をストライプ間で変えている。パターンの面積密度が同じであれば、ストライプエンドまで描画するのに要する時間は、幅の狭いストライプの方が、幅の広いストライプより短くなる。ドリフト量の測定は、ストライプエンドに達した後に行われるので、ストライプエンドまでの描画時間が短くなれば、ドリフト測定の時間間隔も短くなる。したがって、従来法では検出が困難であった急に起こるドリフトを検出して、補正の精度を向上させることができるので、補正残差が許容範囲を超えないようにすることが可能である。
【0115】
また、本実施の形態においては、描画開始直後のドリフトの変化量の大きさを考慮に入れてストライプ幅を決めることで、ドリフト補正の精度を一層向上させることができる。さらに、パターンの面積密度の小さいところでは、ドリフト測定の間隔を長くすることにより、全体の描画時間が長くなるのを抑制することができる。
【0116】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0117】
例えば、上記実施の形態においては、ストライプの少なくとも1つについて描画を終えたところ、すなわち、ストライプエンドに達したところで描画を停止してドリフト量の測定を行ったが、本発明はこれに限られるものではない。
【0118】
本実施の形態においては、ストライプの1つを描画している最中に描画を停止してドリフト量を測定してもよい。これにより、ドリフト測定の時間間隔をより短くすることができる。また、ストライプ中でパターン密度の大きいところや、履歴データからドリフト量が大きくなると予想されるところなど、特定の場所に絞って測定時間を短くすることもできる。一例として、描画領域を所定のサイズでメッシュ状に分割して得られる小領域毎にパターンの面積密度を算出する場合、所定の小領域を描画し終えた後にドリフト量を測定することができる。
【0119】
また、ストライプの少なくとも1つについて描画を終えたところで描画を停止してドリフト量を測定する場合と、ストライプの1つを描画している最中に描画を停止してドリフト量を測定する場合とを組み合わせてもよい。つまり、1つのマスクに対して、ストライプエンドに達したところでドリフト量を測定する場合と、ストライプの1つを描画している最中にドリフト量を測定する場合とがあってもよい。このようにすることで、ドリフト補正の精度を一層向上させることができる。
【0120】
また、本実施の形態においては、主偏向器と副偏向器を有する電子ビーム描画装置について述べたが、本発明はこれに限られるものではない。主偏向器と副偏向器の二段(あるいは複数段)ではなく、一段の偏向器で電子ビームを偏向しながらマスク上での照射位置を決定してパターンを描画する電子ビーム描画装置であっても構わない。
【0121】
さらに、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明は、これに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。