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特許6018928選択的水素化方法、その方法に使用する触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018928
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】選択的水素化方法、その方法に使用する触媒
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/36 20060101AFI20161020BHJP
   C07C 211/47 20060101ALI20161020BHJP
   C07C 29/141 20060101ALI20161020BHJP
   C07C 33/02 20060101ALI20161020BHJP
   C07D 209/08 20060101ALI20161020BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20161020BHJP
   B01J 23/66 20060101ALI20161020BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20161020BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20161020BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   C07C209/36
   C07C211/47
   C07C29/141
   C07C33/02
   C07D209/08
   B01J37/08
   B01J23/66 Z
   B01J37/04 102
   B01J35/08 B
   !C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-5320(P2013-5320)
(22)【出願日】2013年1月16日
(65)【公開番号】特開2014-62083(P2014-62083A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2016年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-47231(P2012-47231)
(32)【優先日】2012年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 発行者名 一般社団法人 触媒学会 刊行物名 第108回触媒討論会 討論会A予稿集 発行年月日 平成23年9月13日 研究集会名 第108回触媒討論会 主催者名 触媒学会 開催日 平成23年9月20日 掲載年月日 平成23年10月24日 掲載アドレス http://dx.doi.org/10.1002/anie.201106244 http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201106244/pdf 研究集会名 第4回触媒表面化学研究発表会 主催者名 社団法人 近畿化学協会 開催日 平成23年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】金田 清臣
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−036748(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/060886(WO,A1)
【文献】 特開平08−268977(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/013156(WO,A1)
【文献】 特表2005−538078(JP,A)
【文献】 特開2003−221351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/66
B01J 35/08
B01J 37/04
B01J 37/08
C07C 29/141
C07C 33/02
C07C 211/47
C07D 209/08
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を含む液相中において、銀成分粒子と該銀成分粒子の表面に担持されたセリウム酸化物を含んでなる銀−セリウム酸化物複合体の存在下、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物、又は炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドを水素ガスと接触させることにより、該芳香族化合物が有するニトロ基を選択的に水素化してアミノ基、又は該テルペノイドが有するアルデヒド基を選択的に水素化して水酸基に変換することを含む、炭素−炭素二重結合とニトロ基を含有する芳香族化合物、又は炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を含有するテルペノイドの選択的水素化方法。
【請求項2】
前記銀成分粒子と該銀成分粒子の表面に担持されたセリウム酸化物を含んでなる銀−セリウム酸化物複合体において、銀成分とセリウム酸化物のモル比が、[金属銀(Ag)/セリウム酸化物(CeO2)]換算で0.5〜3である触媒を使用した請求項1記載の選択的水素化方法。
【請求項3】
前記炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物が、ニトロスチリル基を有する化合物である請求項1または2に記載の選択的水素化方法。
【請求項4】
前記炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドが、シトラールである請求項1または2に記載の選択的水素化方法。
【請求項5】
前記芳香族化合物又は前記テルペノイドを水素ガスと温度20〜200℃、圧力0.1〜3MPaにおいて接触させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の選択的水素化方法。
【請求項6】
液相中の有機溶剤が炭素原子数5〜20の脂肪族炭化水素及び炭素原子数7〜9の芳香族炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の選択的水素化方法。
【請求項7】
銀粒子と該銀粒子の表面に担持されたセリウム酸化物を含んでなる銀−セリウム酸化物複合体からなり、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物のニトロ基のアミノ基、又は炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドのアルデヒド基の水酸基への選択的水素化用銀−セリウム酸化物複合触媒。
【請求項8】
水溶性銀化合物を含む逆ミセルと水溶性セリウム化合物を含む逆ミセルとを混合し、得られた混合物を乾燥し、焼成することを含む、請求項7に記載の銀―セリウム酸化物複合触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物のニトロ基を選択的に水素化してアミノ基とする選択的水素化方法、及び炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドのアルデヒド基を選択的に水素化して水酸基とする選択的水素化方法、これらの選択的水素化に使用する触媒、並びにこれらの方法によって製造された炭素−炭素二重結合とアミノ基を含む芳香族化合物、炭素−炭素二重結合と水酸基を含むテルペノイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物におけるニトロ基の選択的水素化、及び炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドにおけるアルデヒド基の選択的水素化については、液相中で、銀粒子を固定化したハイドロタルサイトを触媒に使用し、この液相にアルコール類や一酸化炭素を供給することで、脱水素反応または水素ガスシフト反応から生成する水素を利用し、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物のニトロ基を選択的に水素化してアミノ基にする選択的水素化方法、及び炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドのアルデヒド基を選択的に水素化して水酸基にする選択的水素化方法が知られている。
【0003】
このような脱水素反応または水素ガスシフト反応から生成する水素は、銀粒子とハイドロタルサイトの塩基点との協奏効果により、その界面で選択的に極性の高い水素種として生成したものである。この極性の高い水素種は、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物のニトロ基を選択に水素化してアミノ基とするのに適している。また、この極性の高い水素種は、炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドのアルデヒド基を選択に水素化して水酸基とするのに適している。
【0004】
しかし、この銀粒子を固定化したハイドロタルサイト触媒を使用した選択的水素化方法では、水素源として使用するアルコール類や一酸化炭素により副生する脱水素体と目的生成物との分離操作が必要であったり、毒性の強いCOガスの使用が必要であるという問題があった。
【0005】
一方、水素化反応における水素源としては理想的には分子状水素も知られている。このような分子状水素は、副生成物の生成や毒性の問題がなく極めて環境負荷が小さいという、水素源として優れた点を有している(非特許文献1)。しかし、このような分子状水素を、公知の触媒を使用して炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物のニトロ基の選択的水素化に使用すると、ニトロ基だけでなく炭素−炭素二重結合も水素化してしまい、高選択的にニトロ基を水素化することができなくなる場合があった。また、上記分子状水素を、公知の触媒を使用して炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドのアルデヒド基の選択的水素化に使用すると、アルデヒド基だけでなく炭素−炭素二重結合も水素化してしまい、高選択的にアルデヒド基を水素化することができなくなる場合があった。
【0006】
不均一開裂による極性の高い水素種はニトロ基、又はアルデヒド基の水素化には有効であるが、水素分子の開裂による極性の低い水素は炭素−炭素二重結合の水素化能力が高いとされている。分子状水素を使用した場合にはこのような不均一開裂および均一開裂の両方が起こり、ニトロ基、又はアルデヒド基の水素化に有効な、極性の高い水素種のみを生成させることは困難であった。このように、水素源として分子状水素を用いた場合には、ニトロ基、又はアルデヒド基の水素化のみならず炭素−炭素二重結合の水素化も進めてしまい、ニトロ基、又はアルデヒド基の水素化の選択率を向上させることは難しかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y. Mikami et al., Chem. Lett., 39(2010)223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、分子状水素を還元剤として使用しつつも、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物のニトロ基を高い効率で選択的に水素化してアミノ基とする選択的水素化方法、炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドのアルデヒド基を高い効率で選択的に水素化して水酸基とする選択的水素化方法、およびこれらの選択的水素化方法に使用する銀成分−セリウム酸化物複合触媒、並びにこれらの方法によって炭素−炭素二重結合とアミノ基を含む芳香族化合物、及び炭素−炭素二重結合と水酸基を含むテルペノイドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、第一に、
有機溶媒を含む液相中において、銀成分粒子と該銀成分粒子の表面に担持されたセリウム酸化物を含んでなる銀−セリウム酸化物複合体の存在下、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物、又は炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドと水素ガスと接触させることにより、該芳香族化合物が有するニトロ基、又はテルペノイドが有するアルデヒド基を選択的に水素化してアミノ基、又は水酸基に変換することを含む、炭素−炭素二重結合とニトロ基を含有する芳香族化合物、又は炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を含有するテルペノイドの選択的水素化方法を提供する。
【0010】
本発明は、第二に、銀成分粒子と該銀成分粒子の表面に担持されたセリウム酸化物とを含んでなる銀−セリウム酸化物複合体からなり、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物のニトロ基のアミノ基への選択的水素化触媒、又は、炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドのアルデヒド基の水酸基への選択的水素化触媒を提供する。
【0011】
本発明は、第三に、水溶性銀化合物を含む逆ミセルと水溶性セリウム化合物を含む逆ミセルとを混合し、得られた混合物を乾燥し、焼成することを含む、上記銀−セリウム酸化物複合体からなる選択的水素化反応用触媒の製造方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、第四に、上記の選択的水素化方法により得られた炭素−炭素二重結合とアミノ基を含む芳香族化合物、炭素−炭素二重結合と水酸基を含むテルペノイドを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば以下のような効果を得ることができる。
【0014】
本発明の選択的水素化方法の発明によれば、水素源として分子状水素を使用し、アルコールや一酸化炭素を使用しないので目的生成物と副生物との分離操作が不要である。毒性の高い一酸化炭素の使用は避けることができる。
【0015】
基質である芳香族化合物中の炭素−炭素二重結合は水素化せずに保持したまま、ニトロ基を選択的にアミノ基に還元することができ、その選択率は顕著に高い。また、基質であるテルペノイド中の炭素−炭素二重結合は水素化せずに保持したまま、アルデヒド基を選択的に水酸基に還元することができ、その選択率も顕著に高い。特に好適な実施形態においては、いずれも99%以上の選択率を達成することが可能である。
【0016】
また、本発明の銀−セリウム酸化物複合触媒は水素化反応に使用後に、ろ過によって容易に回収可能であり、この回収した触媒は当初の活性・選択性を維持するので再利用が可能である。
【0017】
また、本発明の上記触媒の製造方法によれば、上記の選択性の高い水素化触媒を得ることができる。
【0018】
本発明の選択的水素化方法により得られる目的生成物であるアミノ基を含む芳香族化合物は高純度である。また、本発明の選択的水素化方法により得られる目的生成物である水酸基を含むテルペノイドは高純度である。したがって、副生物等の分離操作が不要であるため簡便であり、生成物の回数コストも低い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】製造例1で得られた銀−セリウム酸化物複合触媒をFE−SEM(Field Emission−Scanning Electron Microscope;電界放射型走査電子顕微鏡)で観察して得た画像を示す。
図2図2の左側の画像は製造例1で得られた銀−セリウム酸化物複合触媒をTEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)で観察して得られた画像であり、右側の図はそれを説明するための模式図である。
図3】製造例1で得られた銀−セリウム酸化物複合触媒をSTEM−EDS(Scanning Transmission Electron Microscope − Energy Dispersive X−ray Spectrometry;走査透過型電子顕微鏡によるエネルギー分散X線分光法)によって構成成分の組成分布の情報を解析した結果を示す解析チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態、特に様々な好適実施形態について詳細に説明する。
<選択的水素化方法>
・触媒:
[担持状態]
本発明に使用する触媒は、銀成分粒子の表面にセリウム酸化物が担持されている銀−セリウム酸化物複合体である。この銀−セリウム酸化物複合体は、銀成分粒子を核(コア)とし、この核の表面にセリウム酸化物が担持されている。この「担持」の態様は、核の表面にセリウム酸化物が海島構造を形成するように分散して担持された状態を初めとして、核の表面のかなりの部分がセリウム酸化物により被覆されているが、銀成分粒子の核が部分的に露出している状態、さらに核の全表面がセリウム酸化物で完全に被覆されている状態まで様々であり得る。このような担持の態様に応じてセリウム酸化物の状態は、粒子状態、隣接する粒子どうしが連結した状態、その連結が高まって核表面を網目状に覆い、網目において銀成分粒子表面が露出している状態、そしてセリウム酸化物が層状態で銀成分粒子表面を完全に被覆した状態であり得る。セリウム酸化物の担持状態は次に述べるAg/CeO2のモル比によっても影響を受ける。典型的状態では、銀成分からなる核の表面を粒子状のセリウム酸化物が被覆し、この隣接するセリウム酸化物粒子同士の隙間から核となる銀成分が露出している。
【0021】
なお、銀成分からなる核をセリウム酸化物で完全に被覆するより、銀成分からなる核の一部が露出している場合に、反応性、選択性に優れることがある。銀成分からなる核を被覆するセリウム酸化物は一次粒子でもよく、二次粒子でもよい。
【0022】
ここで、銀成分は金属銀でもよく、酸化物状態でもよいし、金属銀の一部が酸化物状態になっている複合状態でもよい。即ち、銀成分は金属銀、銀酸化物及びこれらの組合せから選ばれる。
【0023】
銀成分粒子は一次粒子でもよく、二次粒子であってもよい。銀成分粒子の平均粒子径は5〜30nmが好ましく、7〜20nmがより好ましい。なお、本願において「平均粒径」とは、電子顕微鏡写真観察による、任意の粒子数の直径の平均値のことをいう。本発明の実施例では、図2のようなTEM画像によって確認された。
【0024】
[Ag/CeO2のモル比]
触媒粒子中の銀成分とセリウム酸化物の組成比は、[金属としての銀(Ag)のモル数/セリウム酸化物(CeO2)としてのモル数]換算で、Ag/CeO2=0.5〜3が好ましく、0.5〜2であることがより好ましく、0.5〜0.9であることがさらに好ましい。モル比が0.5以上であると活性の向上に効果的であり、3以下であると選択性向上に効果的である。
【0025】
[触媒の粒子径]
銀−セリウム酸化物複合触媒の粒子径は特に限定されるものではないが、平均粒子径で5〜100nmであることが望ましく、10〜50nmであることがより好ましい。粒子径が5nm以上であると選択性の向上に効果的であり、100nm以下であると触媒活性向上に効果的である。
【0026】
[触媒がコア−シェル型構造の場合]
銀−セリウム酸化物複合触媒が、所謂コア−シェル型の構造を取る場合、その大きさは特に限定されるものではないが、平均粒子径が10〜100nmであることが好ましく、20〜60nmであることがより好ましい。粒子径が10nm以上であると選択性の向上に効果的であり、100nm以下であると活性向上に効果的である。ここで、「コア−シェル型の構造」とは、銀からなるコア粒子の表面に、セリウム酸化物からなるシェルが形成された二層構造をいうが、必ずしもシェルがコアを完全に覆っていることを意味する訳ではない。例えばシェルがセリウム酸化物粒子からなる場合、セリウム酸化物粒子がコアを少なくとも部分的に取り囲んでいるか覆っている状態、また、コアの表面が透過型電子顕微鏡などを用いて識別できなくても、反応分子がコアにアクセスできる程度の大きさの連続する隙間をシェル層が有し、その隙間を通してコア粒子がシェルの外側に通じている状態である構造をいう。
【0027】
また、コア表面の露出が識別できなくても反応分子がコアにアクセスできる程度の大きさの連続する隙間をシェル層が有している状態とは、シェル層がコア相を一様に覆っていながらも、反応分子がコアである銀成分とシェルであるセリウム酸化物の両方の作用を受けながら反応することができる程度の細孔をシェル層が有することをいう。このようなシェル層の細孔は、銀−セリウム酸化物複合触媒に対して、窒素、ヘリウム、クリプトンなどのガスを用いて行うガス吸着法等によって測定できる。この細孔の大きさは特に限定されないが、基質分子が通過可能な程度の大きさの細孔径を有すれば良く、その一例としては、本発明の実施例や明細書に記載の基質が通過可能な、平均細孔径として0.5〜5nm程度であることが好ましい。細孔径が0.5nmより小さいと、芳香族化合物の中には細孔を通過できず転化率が低くなる恐れがある。また、細孔径が5nmより大きいと、反応分子がコアである銀成分とシェルであるセリウム酸化物の両方の作用を充分に受けることができず選択率が低くなる恐れがある。
【0028】
また、このようなコア−シェル型粒子としては、その核(コア)となる銀成分粒子の大きさは、5〜30nmであることが好ましく、7〜20nmであることがより好ましい。コア粒子径が5nm以上であると選択性の向上に効果的であり、30nm以下であると活性向上に効果的である。そして、シェルとなるセリウム酸化物は、核の周囲に2〜40nmの厚みのシェル層として被覆していることが好ましく、5〜15nmの厚みのシェル層として被覆していることがより好ましい。シェル厚みが2nm以上であると選択性の向上に効果的であり、40nm以下であると活性向上に効果的である。
【0029】
なお、本発明の触媒が所謂コア−シェル型の構造を取る場合、前記のように、完全な被覆であってもよいが、核となる銀成分の一部が露出していてもよい。
【0030】
また、銀−セリウム酸化物複合触媒が所謂コア−シェル型の構造を取り、シェルを構成するセリウム酸化物が粒子状である場合、セリウム酸化物の粒子径は2〜40nmであることが好ましく、5〜15nmであることがより好ましい。シェル粒子径が2nm以上であると選択性の向上に効果的であり、40nm以下であると活性向上に効果的である。
【0031】
なお、銀−セリウム酸化物複合触媒がコア−シェル型の状態である場合、その形状は特に限定されるものではないが、ほぼ真球状であることが好ましい。このように、触媒粒子の形状がほぼ真球状であることが好ましい理由は以下のように考えられる。
【0032】
すなわち、本発明に使用する触媒のニトロ基、又はアルデヒド基の水素化に対する高い選択性は、水素分子の不均一開裂による極性の高い水素種を効率よく生成させて、水素分子の均一開裂による極性の低い水素種をほとんど生成させないことによると考えられる。水素分子の不均一開裂は銀成分とセリウム酸化物の境界面近傍で起こり、水素分子の均一開裂は銀成分の表面上で起こる。
【0033】
本発明の触媒が、セリウム酸化物によって銀成分表面が適当に被覆された、コア−シェル型の銀−セリウム酸化物複合触媒であると、反応分子がアクセスできる活性点のほとんどを銀成分とセリウム酸化物の境界面近傍とすることができると共に、水素分子の均一開列が起きるような銀成分単独の表面が少ないためではないかと考えられる。
【0034】
銀−セリウム酸化物複合触媒の形状がほぼ真球状であれば、セリウム酸化物による銀成分の被覆を均一にしやすく、前記のような作用が得やすい触媒を形成し易く、選択性の高い触媒が得られるものと思われる。
【0035】
なお、本発明に使用する触媒がほぼ真球状のコア−シェル型である場合にも、セリウム酸化物による銀成分の被覆は完全に被覆する状態の他、隣接するセリウム酸化物粒子の間に隙間がある不完全な被覆であってもよい。銀成分粒子が一部露出している状態の場合、その露出状態は特に限定されるものではないが、若干の露出があると反応効率、並びに本発明の選択性が優れることがある。
【0036】
[触媒の製法]
本発明の方法に使用される触媒の製法は特に限定されるものではなく、Journal
of Catalysis 282(2011)289−298 や、WO2007/011062などに記載されている公知の共沈法の他、逆ミセル法によっても得ることができる。共沈法については公知文献の記載のとおりである。逆ミセル法による製法の一例を示すと凡そ以下のとおりである。この逆ミセル法を使用する方法によれば核となる銀成分粒子表面が適度に露出した状態でセリウム酸化物で被覆した触媒を得やすいという利点がある。
【0037】
逆ミセルとは、有機溶剤中で界面活性剤の分子が親水基を内側に、疎水基を外側にして粒状に会合した状態をいう。本発明の触媒を調製する場合、この逆ミセルを銀成分、並びにセリウム成分についてそれぞれ調製し、銀の逆ミセル溶液とセリウムの逆ミセル溶液を混合し、これを乾燥、焼成することによって本発明の触媒を得ることができる。
【0038】
銀成分の逆ミセルを調製するためには、有機溶剤中に界面活性剤を加え、これを攪拌して逆ミセルを形成する。続いて、この逆ミセル溶液中に銀塩水溶液を加えて更に攪拌し、銀の逆ミセル溶液を調製する。
【0039】
セリウム成分の逆ミセルを調製する方法も同様であり、有機溶剤中に界面活性剤を加え、これを攪拌して逆ミセルを形成する。続いて、この逆ミセル溶液中にセリウム塩水溶液を加えて更に攪拌し、セリウム塩の逆ミセル溶液を調製する。
【0040】
このような逆ミセル法に使用する有機溶剤としては、シクロヘキサン、ヘキサン、ドデカンなどの非極性有機溶媒が好ましい。また、界面活性剤としては、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテルなどの非イオン系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0041】
・基質
本発明の方法によって選択的水素化が行われる炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物は特に限定されない。ここで、炭素−炭素二重結合は、芳香環の内部に存在していてもよく、該結合を有する基からなる置換基として芳香環に結合していてもよく、またその一部として芳香環を形成していてもよい。炭素−炭素二重結合を有する基としては、例えば、炭素原子数2〜6のアルケニル基が挙げられる。芳香環は炭素環式でも複素環式でもよい。芳香環は2以上の環が縮合していてもよい。このような芳香環を有する芳香族化合物を、ニトロ基が結合しない状態で例示すると、スチレン、cis−スチルベン、trans−スチルベン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、ジヒドロナフタレン、インドール、スカトール、ベンゾイミダゾール、キノリン、ベンゾチオフェンが挙げられ、特にスチレン、trans−スチルベン、インドールにおいて優れた効果が確認されている。
【0042】
炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物の中でも、ニトロスチリル基を有する化合物において本発明の顕著な効果が確認されている。
【0043】
このようなニトロスチリル基を有する化合物としては、o−ニトロスチレン、p−ニトロスチレン、m−ニトロスチレン、o−ニトロスチリルベンゼン、p−ニトロスチリルベンゼン、m−ニトロスチリルベンゼン、2−クロロ−4−ニトロスチレン、4,4’−ジニトロ−cis−スチルベンなどがある。
【0044】
また、ニトロスチリル基を有する化合物の他、p−ニトロ(2−プロペニル)ベンゼン、2−ニトロ−6−ビニルナフタレン、2−ニトロ−6−ビニルピリジンなども本発明の方法によって選択的水素化が可能である。
【0045】
本発明の方法によって選択的水素化が行われる炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイド(terpenoid)は特に限定されない。ここで、テルペノイドとは、イソプレン(C5)を構成単位とする炭化水素であるテルペン(terpene)類のうち、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドロキシ基等の官能基を有するテルペン誘導体であって、アルデヒド基を少なくとも一つ有しているテルペノイド誘導体をいう。
【0046】
炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドを構成するイソプレンを構成単位とする炭化水素としては、イソプレン(C5)の構成単位に応じて、モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)セスタテルペン(C25)、トリテルペン(C30)、テトラテルペン(C40)が挙げられる。
【0047】
炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するモノテルペン(C10)から構成されるテルペノイドとしては、例えば、ゲラニアールとネラールからなるシトラール、d−シトロネラール、ロジナール(α−シトロネラール)、これらのテルペノイドに類似するテルペノイド誘導体が挙げられる。
【0048】
炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドの中でも、ゲラニアールとシトラールからなるシトラールにおいて本発明の顕著な効果が確認されている。
【0049】
・溶媒
本発明の選択的水素化反応は液相で行われ、使用される溶媒は有機溶剤を含む。有機溶媒の他に水を含む混合溶媒であってもよい。ただし、水が多すぎると、液相が二層に分離して、触媒と反応成分が別相になって反応が進みにくくなる恐れがあるため、混合溶媒を使用する場合には水の量は適宜調整されることが好ましく、有機溶媒のみを使用することが特に好ましい。
【0050】
本発明に使用される有機溶媒は特に限定されないが、炭素原子数5〜20の脂肪族炭化水素や、炭素原子数7〜9の芳香族炭化水素から選択される有機溶剤の一種以上を使用することが好ましい。このような有機溶剤としては、ドデカン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどが挙げられ、特にドデカンは溶媒として水素化に対する安定性が高く好ましい。
【0051】
また、本発明に使用される有機溶媒として、水と任意の割合で混和することができ、多くの有機化合物及び高分子化合物と溶解することができる鎖状構造又は環状構造を有するエーテルを使用することが好ましい。鎖状構造を有するエーテルとして、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル等を挙げることができ、環状構造を有するエーテルとしては、オキセタン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒロドピラン(THP)、フラン、ジベンゾフラン、フラン等を挙げることができる。また、クラウンエーテル等の特殊な環状エーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルを挙げることができる。特に、テトラヒドロフラン(THF)は溶媒として水素化に対する安定性が高く好ましい。
【0052】
・水素との接触
本発明では液相中で基質である炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物、又は炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドを水素ガスと接触させる。具体的には、液相に水素ガスを通気させる他、液相を水素ガスとともに容器に収納して容器中の水素ガスを加圧するなどの方法を行えばよい。
【0053】
・反応温度
本発明の触媒を使用した炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物のニトロ基、又は炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有するテルペノイドのアルデヒド基を選択的に水素するに際し、その反応温度は常識的な範囲であれば特に限定されないが、20〜200℃であることが好ましく、100〜120℃であることがより好ましい。反応温度が20℃以上であれば水素化反応が好適に進行し、200℃以下であれば芳香族化合物の芳香環が水素化され難くなる。
【0054】
・反応圧力
本発明の触媒を使用した選択的水素化方法では、その反応系の水素圧も常識的な範囲であれば特に限定されないが、0.1〜3MPaであることが好ましく、0.5〜1MPaであることがより好ましい。反応系の圧力が0.1MPa以上であれば、ニトロ基又はアルデヒド基の水素化反応が好適に進行し、3MPa以下であれば芳香族化合物の芳香環、又はテルペノイドの炭素−炭素二重結合が水素化され難くなる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の選択的水素化方法に使用する触媒、並びに本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で広く応用が可能なものである。
【0056】
[製造例1]
(実施例用触媒Aの製造)
シクロヘキサン20mlに、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル8mlを加え、テフロン攪拌子で攪拌しながら、ジアンミン銀(I)硝酸塩水溶液(0.15mol/L)2mlを加え、更に激しく攪拌し、逆ミセル液を調製した。
【0057】
別の容器にて、シクロヘキサン20mlに、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル8mlを加え、テフロン攪拌子で攪拌しながら、これに硝酸セリウム(III)水溶液(0.10mol/L)2mlを加え激しく攪拌し、逆ミセル液を調製した。
【0058】
続いて、Ar気流下で、上記2つの逆ミセル液を混合し、60℃で1時間攪拌しながら室温まで冷却後、40mlのエタノールを加え、更に30分攪拌したところ黒色沈殿が生じた。
【0059】
このようにして生成した黒色沈殿を遠心分離し、エタノールにて洗浄、室温で真空乾燥後、400℃空気中で4時間焼成し、本発明の実施例に使用する銀−セリウム酸化物複合触媒0.06gを得た。
【0060】
このようにして得られた、銀−セリウム酸化物複合触媒をFE−SEMで観察したところ、粒子径が20〜60nmの形状がほぼ球形の粒子が得られていた。画像を図1として示す。
【0061】
また、この銀−セリウム酸化物複合触媒粒子を、TEMで観察したところ、中心にコアを有し、このコアの周りを覆っているシェルが観察された。TEM画像と模式図を図2として示す。なお、TEM画像中のスケールは5nmであり、図中のAgNPは、銀ナノ粒子を示す。
【0062】
この銀−セリウム酸化物複合触媒をSTEM−EDSによって成分の組成分布の情報を解析したところ、コアが銀成分で、CeO2がシェル層のコア−シェル構造物であることが分かった。STEM−EDSによる解析チャートを図3に示す。コアとなる銀成分の粒子径は概ね10nmであった。図3のSTEM−EDSによる解析チャートでは、横軸は銀−セリウム酸化物複合触媒粒子の直径を示し、「×」が銀成分の強度、「■」がセリウム酸化物の強度である。
【0063】
また、このようにして得た触媒について、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy;ICP発光分光分析法)によって銀−セリウム酸化物複合触媒のモル比について解析したところ、[金属としての銀のモル数/セリウム酸化物としてのモル数]換算で、Ag/CeO2=0.7であった。
【0064】
[製造例2]
(比較例用触媒Bの製造)
硝酸セリウム(III)溶液(0.77mol/L)37.5mlに、アンモニア水(2.8mol/L)35mlを室温でゆっくりと滴下し、水酸化セリウム(III)の黄色スラリーを調製した。この黄色スラリーを110℃で15分保持攪拌したのち、冷却し、ろ過、水洗し、室温で一晩真空乾燥し乾燥固体を得た。この得られた乾燥固体を空気中500℃で5hr焼成して酸化セリウム(IV)5.4gを得た。
【0065】
この酸化セリウム(IV)のうち1gを、硝酸銀水溶液(0.031mol/L)30ml中に添加し、室温で2hr攪拌後、混合物を蒸発乾固したのち、テトラヒドロホウ酸カリウム水溶液(0.094mol/L)100mlを加えて処理し、スラリーをろ過、水洗、真空乾燥し、本出願の比較例に使用するCeO2母材に銀成分が担持した触媒を得た。
【0066】
このように調製したCeO2母材に銀成分が担持した触媒について、銀成分、セリウム酸化物のモル比は[金属としての銀のモル数/セリウム酸化物のモル数]換算で、Ag/CeO2=0.12である。
【0067】
また、この比較例触媒1を、TEMで観察したところ、銀成分粒子の粒子径は概ね10nmであった。
【0068】
[実施例1、2]
(ニトロ基の選択的水素化)
製造例1で得られた実施例用の触媒Aを、触媒量27mg(金属としての銀の量は12mg)で、そして基質3−ニトロスチレン0.5mmol、溶媒ドデカン5ml、水素圧0.6MPa、反応温度110℃の条件で水素化還元処理を行った。反応時間を実施例1で10時間とし、実施例2で24時間とし、それぞれガスクロマトグラフを用いて収率、選択性を測定した。結果を表1に記す。
【0069】
[比較例1、2]
触媒Aの代わりに比較例用の触媒Bを触媒量で159mg(金属としての銀の量は12mg)使用した以外は実施例1と同様の条件で水素化還元処理を行い収率、選択性を測定した。結果を表1に記す。
【0070】
【表1】
【0071】
このように、実施例1、実施例2の触媒Aと比較例1、比較例2の触媒Bは、活性種としての銀成分の量が同じであり、実施例1、実施例2と比較例1、比較例2は、ほぼ同等の転化率を有するが、比較例1、比較例2は3−アミノスチレンの収率、選択率共に実施例1、実施例2よりも劣る。さらに、比較例1、比較例2では、多量の3−エチルアニリンが生成していることから炭素−炭素二重結合をも還元してしまっていることがわかる。
【0072】
(モル比の変更)
[製造例3]
(実施例用触媒C及びDの製造)
製造例1において、ジアンミン銀(I)硝酸塩の逆ミセル液と、硝酸セリウム(III)の逆ミセル液の量を変えて、Ag/CeO2=0.97と、Ag/CeO2=0.57の触媒を得た。Ag/CeO2=0.97の触媒を触媒Cと、Ag/CeO2=0.57の触媒を触媒Dとする。この触媒C、触媒Dともに、コア−シェル型の銀−セリウム酸化物複合触媒であった。
【0073】
[実施例3、4]
(ニトロ基の選択的水素化)
製造例3で得られた触媒C、Dを用いて、実施例1と同様に3−ニトロスチレンの選択的水素化反応を行った。触媒Cを使用した反応を実施例3、触媒Dを使用した反応を実施例4とする。実施例1、比較例1と共に、結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2の結果から、Ag/CeO2を変えると実施例1に比べて、転化率や収率や選択率が低下することがあるが、実施例3、実施例4いずれの場合も、比較例1より優れた性能を発揮していることがわかる。
【0076】
[実施例5、6、7]
(触媒の再利用性の検証)
実施例1における反応時間を変更した以外は同様にして、本発明における触媒の再利用性能について評価した。
【0077】
触媒の再利用は、反応に使用した触媒Aをエタノールで洗浄した後に乾燥した。実施例5が再利用性評価の初回、実施例6が2回目、実施例7が3回目の反応である。結果を表3に記す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3の結果から、本発明は使用される触媒の再利用性にも経済的に優れた方法であることが分かる。
【0080】
[実施例8、9、10]
(ニトロ基の選択的水素化)
触媒Aを使用し、基質、反応時間及び温度を変更した以外は、実施例1と同様に選択水素化性能を評価した。結果を表4に示す。なお、表4中、収率、選択率は共に選択水素化された反応生成物について表したものである。
【0081】
【表4】
【0082】
表4の結果から、本発明の方法は、いずれの化合物においても優れた選択的水素化性能を発揮することができている。このことから、本発明の方法は、炭素−炭素二重結合とニトロ基を有する芳香族化合物であれば、多様な化合物に対して炭素−炭素二重結合を還元すること無く、ニトロ基のみを選択的に水素化することができることがわかる。
【0083】
[製造例4]
(実施例用触媒E、F及びGの製造)
製造例1において、ジアンミン銀(I)硝酸塩の逆ミセル液と、硝酸セリウム(III)の逆ミセル液の量を変えて、Ag/CeO2=0.7(触媒E)、Ag/CeO2=0.57(触媒F)及びAg/CeO2=0.97(触媒G)を得た。この触媒E、F及びGはいずれも、コア−シェル型の銀−セリウム酸化物複合触媒であった。
【0084】
[実施例11〜13]
(アルデヒド基の選択的水素化)
製造例4においてそれぞれ製造した触媒E〜Gを使用して、炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有する芳香族化合物の選択的水素化反応を行った。触媒Eを使用した反応を実施例11、触媒Fを使用した反応を実施例12、触媒Gを使用した反応を実施例13とした。
【0085】
製造例4で得られた実施例用の触媒E〜Gをそれぞれ金属換算の銀の量で0.008mmol、なお、炭素−炭素二重結合とアルデヒド基を有する基質として、シトラール0.25mmol(シス−トランス異性体であるゲラニアール(geranial)とネラール(neral)が2:1の混合物)、溶媒テトラヒドロフラン(THF)5ml、水素圧1.5MPa、反応温度150℃の条件で水素化還元処理を行った。反応時間は、実施例11〜13のいずれにおいても72時間とし、ガスクロマトグラフを用いて収率、選択性を測定した。結果を表5に記す。
【0086】
なお、実施例11、12及び13において、基質として、シトラール(I)を使用してアルデヒド基の選択的水素化反応を行った場合に生成する目的生成物(II)及び副生成物(IIII)、(IV)及び(V)の構造式を反応スキームとともに下記に示した。
【0087】
【化1】
【0088】
【表5】
【0089】
表5の結果から、本発明の選択的水素化触媒を用いると目的生成物(II)を高収率で得ることができることがわかる。また、Ag/CeO2のモル比を変えると、基質(I)の転化率が低下することはあるが、目的生成物(II)の収率はきわめて高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は種々の医薬、農薬、その他種々の工業分野において中間体として有用な炭素−炭素−炭素二重結合とアミノ結合を含有する芳香族化合物、及び炭素−炭素二重結合と水酸基を含有するテルペノイドの製造に有用である。
図1
図2
図3