特許第6019054号(P6019054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019054ガスバリアフィルムおよびガスバリアフィルムの製造方法
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  • 特許6019054-ガスバリアフィルムおよびガスバリアフィルムの製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019054
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルムおよびガスバリアフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20161020BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20161020BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   C23C16/42
   C23C16/505
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-59541(P2014-59541)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-182274(P2015-182274A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】望月 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】向井 厚史
【審査官】 安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−184703(JP,A)
【文献】 特開2009−196155(JP,A)
【文献】 特開2001−164372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムおよび無機層を含むガスバリアフィルムであって、
前記無機層はSiとNとHとOとを含み、
前記無機層は、膜厚方向中央部において、SiとNとHとOとの比が均一であり、かつ、以下の式で表されるO比率が10%以下である均一領域を5nmよりも大きい膜厚で含み、
前記無機層のいずれか一方または両方それぞれの界面に接する領域が、以下の式で表されるO比率が前記の均一領域側から界面方向で増加しており、かつO比率の単位膜厚当たりの変化量が2%/nm〜8%/nmである酸素含有領域であるガスバリアフィルム;
O比率:(Oの数/Si、NおよびOの総数)×100%。
【請求項2】
前記の両方の界面に接する領域それぞれが、前記酸素含有領域である請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項3】
前記酸素含有領域の膜厚がいずれも、4〜15nmである請求項1または2に記載のガスバリアフィルム。
【請求項4】
前記無機層の膜厚が15〜65nmである請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
【請求項5】
前記無機層の膜厚が20〜40nmである請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
【請求項6】
前記均一領域の組成が、SiNxyz
式中、0.8≦x≦1.1、0.7≦y≦0.9、かつz<0.1;
である請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
【請求項7】
前記均一領域の組成が、SiNxyz
式中、0.9≦x≦1.0,0.8≦y≦0.9,z<0.1;
である請求項6に記載のガスバリアフィルム。
【請求項8】
前記無機層の密度が2.1〜2.4g/cm3である請求項1〜7のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
【請求項9】
前記無機層と少なくとも1層以上の有機層とを含むバリア性積層体を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルムおよびガスバリアフィルムの製造方法に関する。本発明は特にSiとNとHとOとを含む無機層を含むガスバリアフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気や酸素などを遮断する機能を有するガスバリアフィルムとして、無機層、特に窒化シリコン層や水素化窒化シリコン層を含むガスバリアフィルムが広く知られており、高いバリア性、耐酸化性などの耐久性、屈曲性を得るための検討が多くなされている。一般的に、緻密で硬い膜ほどバリア性が高くなるが割れやすくなるため、屈曲性との両立が難しい。
屈曲性向上等のために特許文献1では無機層と有機材料基板の界面に界面混合層を形成することが提案されている。また、特許文献2では応力緩和のための応力緩和層をガスバリア層に積層することが提案されている。特許文献3には、窒化シリコンを主成分とするガスバリア膜であって可撓性に優れたガスバリア膜の、フーリエ変換赤外吸収スペクトルの特徴が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−203050号公報
【特許文献2】特開2006−68992号公報
【特許文献3】特開2011−63851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、バリア性能と屈曲性とを両立するガスバリアフィルムを提供すること、およびバリア性能と屈曲性を両立するガスバリアフィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが、上記課題の解決のために、ガスバリアフィルム中の水素化窒化シリコン層の形成について詳細に検討している過程で、水素化窒化シリコン層の膜厚方向の組成変化に応じてバリア性能と屈曲性とが変化する傾向があることを見出し、さらに検討を重ねて、バリア性能と屈曲性とが向上する無機層の特徴を見出して本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下<1>〜<10>を提供するものである。
<1>基材フィルムおよび無機層を含むガスバリアフィルムであって、上記無機層はSiとNとHとOとを含み、上記無機層は、膜厚方向中央部において、SiとNとHとOとの比が均一であり、かつ、以下の式で表されるO比率が10%以下である均一領域を5nmよりも大きい膜厚で含み、上記無機層のいずれか一方または両方それぞれの界面に接する領域が、以下の式で表されるO比率が上記の均一領域側から界面方向で増加しており、かつO比率の単位膜厚当たりの変化量が2%/nm〜8%/nmである酸素含有領域であるガスバリアフィルム; O比率:(Oの数/Si、NおよびOの総数)×100%。
<2>上記の両方の界面に接する領域それぞれが、上記酸素含有領域である<1>に記載のガスバリアフィルム。
<3>上記酸素含有領域の膜厚がいずれも、4〜15nmである<1>または<2>に記載のガスバリアフィルム。
<4>上記無機層の膜厚が15〜65nmである<1>〜<3>のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
【0007】
<5>上記無機層の膜厚が20〜40nmである<1>〜<3>のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
<6>上記均一領域の組成が、SiNxyz:式中、0.8≦x≦1.1、0.7≦y≦0.9、かつz<0.1;である<1>〜<5>のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
<7>上記均一領域の組成が、SiNxyz:式中、0.9≦x≦1.0,0.8≦y≦0.9,z<0.1;である<6>に記載のガスバリアフィルム。
<8>上記無機層の密度が2.1〜2.4g/cm3である<1>〜<7>のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
<9>上記無機層と少なくとも1層以上の有機層とを含むバリア性積層体を含む<1>〜<8>のいずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
<10>SiとNとHとOとを含む無機層を含むガスバリアフィルムの製造方法であって、高周波を供給してプラズマ状態にしたシラン、アンモニア、および水素を蒸着して、上記無機層を形成することを含み、上記高周波を供給する電力が0kWから最大値に達成する時間および上記高周波を供給する電力の最大値から0kWに達する時間のいずれか1つ以上を1.5〜7秒とし、かつ1.5〜7秒とした上記のいずれか1つ以上の時間において、電力を連続的に変化させる製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、バリア性能および屈曲性を両立するガスバリアフィルムが提供される。本発明のガスバリアフィルムはバリア性能と屈曲性との双方が優れている。本発明はまたバリア性能と屈曲性と両立するガスバリアフィルムの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例5のガスバリアフィルムの無機層について、膜厚方向のSi、N、およびOの比率のそれぞれの変化をXPSで測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」との記載は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味を表す。「(メタ)アクリル酸」等も同様である。
【0011】
(ガスバリアフィルム)
本発明は基材フィルムおよび無機層を含むガスバリアフィルムに関する。ガスバリアフィルムは、基材フィルム上に少なくとも上記の無機層1層と少なくとも1層の有機層を含むバリア積層体を含むものであってもよい。
プラスチックフィルムなどの基材フィルム上に無機層、または無機層と有機層とを積層したガスバリアフィルムは広く知られている。通常、緻密な無機層がガスバリア機能を有し、有機層は表面を平滑化する機能や応力を緩和する機能を有する。
【0012】
(無機層)
無機層は、緻密であるほど、または膜厚が厚いほど、ガスバリア性が高くなるが、膜の応力が大きくなるため屈曲性が低下する傾向がある。屈曲性の低下によっては、無機層にクラックが生じたり、無機層と有機層とが剥離したりすることによりガスバリア機能が低下する。本発明者らは、水素化窒化シリコン層の界面に近辺に酸素原子が検出される領域が形成されていることに着目し、かつ、この領域において、以下の式で表されるO比率の単位膜厚当たりの変化量が2%/nm〜8%/nmとなるように、界面から中央部に向かってO比率を減少させることによって、従来トレードオフの関係であった高いバリア性能と屈曲性とが両立できることを見出した。
O比率:(Oの数/Si、NおよびOの総数)×100%
【0013】
本明細書において、O比率の単位膜厚当たりの変化量が2%/nm〜8%/nmである界面に接する領域を酸素含有領域ということがある。界面は、膜厚方向を法線方向とする面であり、無機層の界面としては、基材フィルム方向の界面と基材フィルムの反対側の方向の界面とがある。基材フィルムの反対側の方向の界面は、空気層との界面、すなわち、ガスバリアフィルムの表面であってもよい。
【0014】
無機層のいずれか一方のみの界面に酸素含有領域があってもよく、無機層の両方の界面それぞれに酸素含有領域があってもよい。酸素含有領域の膜厚はいずれの界面においても、3〜20nmであればよく、4〜15nmであることが好ましい。基材フィルム方向の界面と基材フィルムの反対側の方向の界面の酸素含有領域の膜厚は同じであっても異なっていてもよい。
なお、本明細書において、膜厚は、層やフィルムの断面の透過型電子顕微鏡(TEM)の撮影像で測定した平均膜厚で示される。ただし、酸素含有領域の膜厚はエッチングを行いながら測定したXPSの結果と合わせて算出した値が示される。すなわち、酸素含有領域の膜厚はTEMでは測定できないためXPSのプロファイルから決定する。具体的には、エッチング速度を一定として、無機層のエッチングに要した時間と、TEMにて測定した膜厚から計算できる。
【0015】
特定の理論に拘泥するものではないが、上述のように層中のO比率が変化していることにより、層内で密度が変化、すなわち応力が変化していると考えられる。急峻なO比率の変化は大きな応力変化を生じさせることとなると考えられ、一方で緩やかすぎるO比率の変化はバリア性能を得るために無機層膜厚の増加をもたらし、全膜厚が厚くなることで、応力増大につながると考えられる。本発明者らは、上記の範囲のO比率の変化量で応力が顕著に緩和されることを見出した。
【0016】
上記のOの数、Siの数、およびNの数はそれぞれX線光電子分光(XPS)測定により検出されるケイ素原子(Si)、窒素原子(N)、酸素原子(O)の数とする。膜厚方向のO比率の変化量は、無機層を界面からエッチングを行いながらXPS測定を行い、さらにエッチング前に透過型電子顕微鏡(TEM)により無機膜の膜厚を測定しておくことで算出することができる。
【0017】
本発明者らはさらに、水素化窒化シリコン層は膜厚方向中央部において、O比率が低い領域を5nmよりも大きい膜厚で維持することにより、ガスバリア機能を高く維持できることを見出した。具体的には、SiとNとOとの比が均一であり、かつ、O比率が10%以下、より好ましくは5%以下である領域を設けることにより、ガスバリア機能が向上した。本明細書において、上記のSiとNとOとの比が均一であるO比率が低い領域を均一領域ということがある。均一領域の膜厚は、6nm以上、7nm以上、8nm以上、9nm以上、または10nm以上であることも好ましい。
【0018】
本明細書において、SiとNとOとの比が均一であるとは、O比率ならびに以下の式で示されるSi比率およびN比率の変化がいずれも5%以内であることを意味する。
Si比率:(Siの数/Si、NおよびOの総数)×100%
N比率:(Nの数/Si、NおよびOの総数)×100%
【0019】
均一領域の組成を、SiNxyzと表すとき、0.8≦x≦1.1、0.7≦y≦0.9、かつz<0.1であることが好ましく、0.9≦x≦1.0、0.8≦y≦0.9、かつz<0.1であることがより好ましい。
上記の均一領域の組成は、RBS(ラザフォード後方散乱)およびHFS(水素前方散乱)測定により得たものとする。なお、水素を含んだ膜の組成解析は、GD−OES(Glow discharge optical emission spectrometry:グロー放電発光分析装置)によっても測定できる。
【0020】
[密度]
無機層の密度は2.1〜2.4g/cm3であることが好ましい。低密度の無機層はバリア性能が低く、逆に密度が高すぎると屈曲性が低下し、応力による剥離やクラックが生じるためである。
本明細書において示される無機層の密度はXRR(X線反射率)により決定されるものである。XRR測定結果からの密度の計算は、ソフトを用いたシミュレーションにより行うものであってもよい。XRR測定は、例えばATX(リガク社製)により行うことができる。シミュレーションは、例えば、解析ソフトGXRR(リガク社製)を使用して行うことができる。無機層は単一層であることを仮定している。すなわち、密度は均一領域、酸素含有量域、中間領域を含む無機層密度の平均値を意味する。
【0021】
無機層は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも形成することができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法があり、プラズマCVD法が好ましい。 SiとNとHとOとを含む無機層は、例えば原料ガスとして、シラン(SiH4)、アンモニア(NH3)、水素(H2)を使用するプラズマCVD法により形成することができる。プラズマCVD法においては、直流(DC)、高周波(RF)、マイクロ波などを供給することで原料ガスをプラズマ状態にして基板に蒸着させる。
【0022】
無機層の酸素含有量域のO比率の制御は、ガス流量比、圧力、電力などの調整により行うことができる。特に、プラズマCVD法における電力の上昇,下降速度を変化させることでO比率の変化量を制御できる。すなわちプラズマCVD設定電力まで上昇させる時間が長いほど、O比率の変化量が小さい界面が形成される。プラズマのオンオフを毎度行う枚葉式のCVDで無機層を作製する場合は、通常、真空排気後、無機層を形成するためのRF形成のための電力の設定値(最大値)(例えば2.5kW)まで、0kWから1秒以内で上昇させる。それに対して、1秒より長い時間で連続的に電力を上昇させることで、酸素原子比率の変化量が2%/nm〜8%/nmである領域を形成することができる。0kWから最大値まで連続的に電力を上昇させる時間は、例えば2.5kWの設定パワーの場合、1.5秒以上の時間であることが好ましく、1.5〜7秒であることがより好ましく、1.5〜6秒であることがさらに好ましい。電力の上昇,下降時間による制御は一例に過ぎず、ガス流量比や圧力だけでなく、電極の大きさや電極間距離などの装置形状にも依存するため、装置毎に適切なO比率の変化量を得るための条件を見出せばよい。
【0023】
ロールツーロールで無機層を作製する場合、搬送方向にプラズマの分布があることが通常である。特に電極の端部では、中央付近と比べて電界が広がるため相対的に低電力で処理した場合と同様の効果となる。そして、このプラズマ分布と基材の搬送速度(成膜時間に対応)によりO比率の変化量が決定される。そのため、所望のO比率の変化量が形成されるよう、プラズマ分布と搬送速度を調整することが好ましい。プラズマ分布は、例えば、ガス流量や圧力、電極間距離によって調整することができる。電極中央付近にガス導入部がある場合、ガス流量を大きくするほどプラズマ分布を広げることができる。また、圧力を下げるほどプラズマガスの平均自由行程が長くなるためプラズマが広がる。電極間距離も大きくすれば、プラズマは広がる方向である。このようにロールツーロールにおいても、成膜条件や装置形状により、装置毎に適切なO比率の変化量を得るための条件を見出すことができる。
【0024】
無機層の膜厚は、1層に付き、15〜65nmであればよく、20〜40nmであることが好ましい。無機層は、膜厚方向に均一領域および酸素含有領域以外の領域を含んでいてもよい。すなわち、均一領域と酸素含有領域との間に中間領域を含んでいてもよい。
【0025】
(基材フィルム)
ガスバリアフィルムは、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、バリア性積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
基材フィルムの膜厚は10μm〜250μmであることが好ましく、20μm〜130μmであることがより好ましい。
【0026】
(バリア性積層体)
ガスバリアフィルムは、少なくとも上記の無機層1層と少なくとも1層の有機層を含むバリア積層体を含むものであってもよい。バリア性積層体は、2層以上の有機層と2層以上の無機層とが交互に積層しているものであってもよい。また、有機層および無機層以外の他の構成層を含んでいてもよい。バリア性積層体の膜厚は0.5μm〜10μmであることが好ましく、1μm〜5μmであることがより好ましい。
【0027】
(有機層)
有機層は、好ましくは、重合性化合物を含む重合性組成物の硬化により形成することができる。
(重合性化合物)
上記重合性化合物は、エチレン性不飽和結合を末端または側鎖に有する化合物、および/または、エポキシまたはオキセタンを末端または側鎖に有する化合物であることが好ましい。重合性化合物としては、エチレン性不飽和結合を末端または側鎖に有する化合物が特に好ましい。エチレン性不飽和結合を末端または側鎖に有する化合物の例としては、(メタ)アクリレート系化合物、アクリルアミド系化合物、スチレン系化合物、無水マレイン酸等が挙げられ、(メタ)アクリレート系化合物が好ましく、特にアクリレート系化合物が好ましい。
【0028】
(メタ)アクリレート系化合物としては、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートやポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が好ましい。
スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、4−ヒドロキシスチレン、4−カルボキシスチレン等が好ましい。
(メタ)アクリレート系化合物として具体的には、例えば特開2013−43382号公報の段落0024〜0036または特開2013−43384号公報の段落0036〜0048に記載の化合物を用いることができる。また、WO2013/047524に記載のフルオレン骨格を有する多官能アクリルモノマーを用いることもできる。
【0029】
(重合開始剤)
有機層形成のための重合性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤を用いる場合、その含量は、重合に関与する化合物の合計量の0.1モル%以上であることが好ましく、0.5〜5モル%であることがより好ましい。このような組成とすることにより、活性成分生成反応を経由する重合反応を適切に制御することができる。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、ランベルティ(Lamberti)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZT、エザキュアKTO46など)等が挙げられる。
【0030】
(シランカップリング剤)
有機層形成のための重合性組成物は、シランカップリング剤を含んでいてもよい。シランカップリング剤としては、ケイ素に結合するメトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基等の加水分解可能な反応基とともに、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、ハロゲン基、メルカプト基、(メタ)アクリロイル基から選択される1つ以上の反応性基を有する置換基を同じケイ素に結合する置換基として有するものが好ましい。シランカップリング剤は、(メタ)アクリロイル基を有していること特に好ましい。シランカップリング剤の具体例としては、WO2013/146069に記載の一般式(1)で表されるシランカップリング剤およびWO2013/027786に記載の一般式(I)で表されるシランカップリング剤などが挙げられる。
シランカップリング剤の、重合性組成物の固形分(揮発分が揮発した後の残分)中に占める割合は、0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0031】
(有機層の作製方法)
有機層の作製のため、上記重合性組成物はまず、層状とされる。層状にするためには、通常、基材フィルムまたは無機層等の支持体の上に、重合性組成物を塗布すればよい。塗布方法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法(ダイコート法とも呼ばれる)が例示され、この中でもエクストル−ジョンコート法が好ましく採用できる。
【0032】
重合性組成物は、光(例えば、紫外線)、電子線、または熱線にて、硬化させればよく、光によって硬化させることが好ましい。特に、重合性組成物を25℃以上の温度(例えば、30〜130℃)をかけて加熱しながら、硬化させることが好ましい。加熱により、重合性組成物の自由運動を促進させることで効果的に硬化させ、かつ、基材フィルム等にダメージを与えずに成膜することができる。
【0033】
照射する光は、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線であればよい。照射エネルギーは0.1J/cm2以上が好ましく、0.5J/cm2以上がより好ましい。重合性化合物は空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で0.5J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うことが特に好ましい。
【0034】
硬化後の重合性組成物における重合性化合物の重合率は20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(例えば、アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。
【0035】
有機層は、平滑で、膜硬度が高いことが好ましい。有機層の平滑性は1μm角の平均粗さ(Ra値)として3nm未満であることが好ましく、1nm未満であることがより好ましい。
【0036】
有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
有機層の硬度は高いことが好ましい。有機層の硬度が高いと、無機層が平滑に成膜されその結果としてバリア能が向上することがわかっている。有機層の硬度はナノインデンテーション法に基づく微小硬度として表すことができる。有機層の微小硬度は100N/mm以上であることが好ましく、150N/mm以上であることがより好ましい。
【0037】
有機層の膜厚については特に限定はないが、脆性や光透過率の観点から、50nm〜5000nmが好ましく、200nm〜3500nmがより好ましい。
【0038】
(有機層と無機層の積層)
有機層と無機層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機層を順次繰り返し製膜することにより行うことができる。
【0039】
(機能層)
ガスバリアフィルムまたはバリア積層体は、機能層を有していてもよい。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、耐溶剤層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層または易滑性層等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0041】
[ガスバリアフィルムの作製]
75μmのポリエチレンテレフタレート(東レ社製、S10)の片面に、密着改善のためのプラズマ処理を行った後、重合性化合物(化合物I)を15質量%、重合開始剤(Lamberti社、Esacure KTO46)を0.5質量%、および2−ブタノン84.5質量%を含む重合性組成物を乾燥膜厚が2000nmとなるように塗布成膜した。塗布膜を、酸素含有量100ppm以下の窒素雰囲気下、紫外線照射量0.5J/cm2の照射により硬化させ、第1の有機層を作製した。その第1の有機層上に、第1の無機層(窒化ケイ素)を容量結合プラズマCVD法で作製した。プラズマCVD法の、ガス流量比、圧力、RFパワーなどの主な成膜パラメータを調整することで下表に記載の界面状態や組成を持つ無機層を形成した。さらに第1の無機層表面上に、第2の有機層を第1の有機層と同様の方法で作製した。
【0042】
【化1】
【0043】
上記プラズマCVD法においては、原料ガスとして、シラン(SiH4)、アンモニア(NH3)、水素(H2)を使用した。成膜流量は表中に示している。全ての水準において圧力は50Paに設定し、ガス流量に関わらず圧力調整を自動で行う機構となっている。
O比率制御は、プラズマCVD装置のRFパワーの上昇速度および下降速度を変化させることで、無機層からみて表面側の界面および基材側の界面の両方それぞれに所定のO比率の変化量を有する領域を形成した。表中の界面1とは無機層からみて表面側(第2の有機層側)、界面2とは基材側(ポリエチレンテレフタレート側)の界面を意味する。
【0044】
[O比率の変化量の測定方法]
Arイオンにより、第2の有機層側面からエッチングを行いながら、X線光電子分光装置(島津製作所社製ESCA-3400)を用いてX線光電子分光(XPS)測定を行い、無機層界面領域に含まれる原子を検出した。測定においてケイ素原子の信号が見えた時点で無機層のエッチングに入ったと判断した。検出したケイ素原子、窒素原子、酸素原子につき、それぞれの原子数と総原子数から、O比率を算出した。さらにTEM (H−9000NAR、日立製作所製) 観察で得られた無機膜の膜厚と、エッチング時間の関係から単位膜厚あたりの酸素原子比率の変化量を算出した。
【0045】
[均一領域のSiとNとHとOとHとの比率の測定]
RBS(ラザフォード後方散乱)およびHFS(水素前方散乱)測定(National Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDH)により、無機層均一領域における組成分析を行い、無機層におけるSiとNとOとHとの比率を得た。RBS測定および HFS測定では、検出感度を得るため無機層を厚く形成する必要がある。そのため、上記で作製したガスバリアフィルムの無機層中央部領域よりも厚い無機膜を本測定のために同じ成膜条件で作製し、SiとNとOとHとの比率を測定した。
【0046】
[密度測定]
XRR(X線反射率)測定(リガク社製 ATX)により無機層の密度を決定した。XRR測定結果から密度を計算するにあたり、基板と有機層は単一の密度(1.3g/cm3)、無機膜は単一密度を仮定し、シミュレーションにより算出した(リガク社製シミュレーションソフト GXRR)。
【0047】
[屈曲性試験]
得られたガスバリアフィルムについて、φ5mm×1000回の屈曲を行ったのち、バリア性能評価を行った。バリア性能評価はカルシウム腐食法(Asia Display/IDW'01 pp.1435〜1438参照)と呼ばれる、金属カルシウムの退色により水分進入を評価する方法により実施した。具体的には、ガラス基板に金属カルシウムを蒸着した後、ガスバリアフィルムで封止し、温度25℃、湿度50%の環境下で保管したものを用いて水蒸気透過率を算出した。すなわち、ガスバリアフィルムを通過した水分は金属カルシウムと反応し、水酸化カルシウムが生成するが、金属カルシウムは水酸化カルシウムになると透明になるため、金属カルシウムの退色面積を測定することで、進入した水分量を下記の反応式より算出することができる。
Ca + 2H2O => Ca(OH)2 + H2
上記のように算出した進入水分量、バリアフィルム面積、および保管時間から、水蒸気透過率(g/m2・day)を算出した。なお、水分が拡散し平衡に達するまでに時間(誘導時間)を要するため、上記の測定は、金属カルシウムの退色面積速度が一定になった後からの退色面積に基づいて行った。
【0048】
屈曲性試験後の水蒸気透過率は以下の基準により評価した。
A:5×10-5 未満
B:5×10-5以上 5×10-4未満
C:5×10-4以上
(単位は(g/m2・day))

得られた結果をガスバリアフィルムの作製条件とともに、表1〜6に示す。また、表1,2中の実施例5のガスバリアフィルムの無機層について、膜厚方向のSi比率、N比率、およびO比率のそれぞれの変化をXPSで測定した結果を図1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
図1