(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。以下において、「A〜B」との記載は、「A以上、B以下」を意味する。
【0018】
[実施形態1:非水電解液二次電池用積層セパレータ]
本発明の非水電解液二次電池用積層パラメータは、ポリオレフィン成分を多孔質フィルム全体の体積に対して80体積%以上含む多孔質フィルムと、フィラーを含む多孔質層と、を備える積層多孔質フィルムであって、前記多孔質フィルムの膜厚が、5μm以上、20μm以下であり、前記積層多孔質フィルムの膜厚が、6μm以上、25μm以下であり、前記積層多孔質フィルムのガーレー値が、250sec/100mL以下であり、前記積層多孔質フィルムの突き刺し強度および前記積層多孔質フィルムから前記多孔質層を除去した後の前記多孔質フィルムの突き刺し強度が、下記式(1)および(2)を満たすことを特徴とする。
【0019】
式(1):2
gf ≦ Sp−S ≦ 25
gf
式(2):300
gf ≦ S ≦ 400
gf
(ここで、Sは積層多孔質フィルムの突き刺し強度を表し、Spは上記積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度を表す)。
【0020】
上記非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する各部材について以下に詳細に説明する。
【0021】
<多孔質フィルム(A層)>
本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータにおける多孔質フィルム(以降、A層とも称する)は、その内部に連結した細孔を有す構造を有しており、一方の面から他方の面に気体や液体を透過させることができる。多孔質フィルムは、1つの層から形成されるものであってもよいし、複数の層から形成されるものであってもよい。
【0022】
A層は、ポリオレフィン成分をA層全体の80体積%以上含み、90体積%以上含むことが好ましく、95体積%以上含むことがより好ましい。ここで、ポリオレフィン成分とは、A層に含まれるポリオレフィンからなる成分を意味する。
【0023】
A層に含まれるポリオレフィンとしては、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンまたは1−ヘキセンなどを重合してなる高分子量の重合体が挙げられる。上記重合体は、単独重合体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン)であってもよく、共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体)であってもよい。また、上記重合体としては、A層およびA層を含む本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータ全体の強度を、当該A層および当該セパレータが薄膜である場合においても、高くすることができるという面において、重量平均分子量100万以上のポリオレフィンが含まれることが好ましい。特に、過大電流が流れることをより低温で阻止(シャットダウン)することができるという面において、重量平均分子量が100万以上である、エチレンを主体とする高分子量のポリエチレンが好ましい。上記ポリオレフィン成分は、1種類の重合体からなる成分であってもよく、2種類以上の重合体の混合物からなる成分であってもよい。例えば、重量平均分子量が100万以上の高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリエチレンとの混合物からなる成分が挙げられる。なお、多孔質フィルムは、当該層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン系樹脂以外の成分を含むことを妨げない。
【0024】
A層のガーレー値(透気度)は、50〜200sec/100mlであることが好ましく、60〜180sec/100mlであることがより好ましい。A層のガーレー値(透気度)が上述の範囲内であることは、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータのガーレー値(透気度)が250sec/100ml以下となり、当該セパレータが充分なイオン透過性を得ることができる面において好ましい。
【0025】
A層の膜厚は、5μm〜20μmであり、6μm〜14μmであることが好ましく、7μm〜14μmであることがより好ましい。A層が上述の範囲であることにより、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータは、当該セパレータを含む電池の高エネルギー密度化を達成することができる。また、A層が5μm以上であることは、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータが充分な突き刺し強度を有し、電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができるという面において好ましく、A層が20μm以下であることは、当該多孔質フィルムを含む非水電解二次電池用セパレータ全域におけるリチウムイオンの透過抵抗の増加を抑制し、充放電サイクルを繰り返した場合の正極の劣化、レート特性やサイクル特性の低下を防ぐことができる面、および正極および負極間の距離の増加を抑えることにより非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができる面において好ましい。
【0026】
A層の目付は、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として使用する際に、当該非水二次電池用積層セパレータの強度、厚み、ハンドリング性および重量、さらには、当該セパレータを含む非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる点で、通常、4g/m
2〜12g/m
2の範囲であり、5g/m
2〜8g/m
2の範囲が好ましい。
【0027】
A層の空隙率は、非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として使用する際、当該非水電解液二次電池において、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)する機能を得ることができるように、30〜50体積%であることが好ましく、35〜50体積%であることがより好ましい。
【0028】
多孔質フィルムの空隙率が30体積%を下回ると、当該多孔質フィルムの抵抗が増加する。また、多孔質フィルムの空隙率が55体積%を上回ると、当該多孔質フィルムの機械的強度が低下する。
【0029】
また、多孔質フィルムが有する細孔の孔径は、当該多孔質フィルムを非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として使用する際、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極や負極への粒子の入り込みを防止することができるように、0.3μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータにおいては、多孔質層が、後述の方法により、多孔質フィルム上にて形成される。上記多孔質層の形成において、媒体として水を含む塗工液を塗布することによって上記多孔質層を形成する場合、多孔質層を形成する前に、つまり、後述する塗工液を塗工する前に、多孔質フィルムに親水化処理を施しておくことがより好ましい。多孔質フィルムに親水化処理を施しておくことにより、塗工液の塗工性がより向上し、それゆえ、より均一な多孔質層を形成することができる。この親水化処理は、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に占める水の割合が高い場合に有効である。前記親水化処理としては、具体的には、例えば、酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ処理、プラズマ処理等の公知の処理が挙げられる。前記親水化処理のうち、比較的短時間で多孔質フィルムを親水化することができる上に、親水化が多孔質フィルムの表面近傍のみに限られ、多孔質フィルムの内部を変質しないことから、コロナ処理がより好ましい。
【0031】
<多孔質フィルム(A層)の製造方法>
本発明における多孔質フィルムの製造方法は、後述の耐熱層を積層し、積層多孔質フィルムとしたときに本発明の効果を発現するものであれば、特に限定されるものではなく、前出の特許文献1〜3に記載の、
(i)熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法、
(ii)公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法、および、
(iii)超高分子量ポリエチレンに低分子量ポリオレフィンと微粒子を加えてフィルム成型した後、該微粒子を除去する方法、等が挙げられる。
【0032】
多孔質層の組成や構造、積層方法にも大きく依存するが、上述の超高分子量ポリエチレンに低分子量ポリオレフィンと微粒子を加えてフィルム成型した後、該微粒子を除去する方法においては、低分子量ポリオレフィン原料の粒径、炭酸カルシウム原料の粒径、および炭酸カルシウム原料の表面形状などの、原料形状の最適化により、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータの部材に適したポリオレフィン多孔質フィルムを得ることができる。また、超高分子量ポリエチレン、低分子量ポリオレフィン、および炭酸カルシウムの混合比率、並びに、これらを混合して得られるポリオレフィン樹脂組成物の溶融初期の混練状態の最適化により、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータの部材に適したポリオレフィン多孔質フィルムを得ることができる。
【0033】
<多孔質層>
本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータにおける多孔質層は、樹脂を含む。また、当該多孔質層には、樹脂の他に、さらにフィラーが含まれることが好ましい。
【0034】
本発明における多孔質層は、好ましくは、多孔質フィルムの片面または両面に積層される。当該多孔質層に含まれる樹脂は、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、非水電解液二次電池としたときの、多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層され、より好ましくは、正極と接する面に積層される。
【0035】
多孔質層を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;芳香族ポリアミド;全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂);スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステル等の融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー等が挙げられる。これらの中でも、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、セルロースエーテル類などの耐熱樹脂が好ましい。これらの耐熱樹脂は、単独、又は、二種以上を混合して用いることができる。
【0036】
多孔質層に含まれていてもよいフィラーは、微粒子であり得、有機微粒子または無機微粒子であり得る。従って、多孔質層に含まれる樹脂は、フィラー同士、並びに、フィラーと多孔質フィルムとを結着させるバインダー樹脂としての機能を有することとなる。
【0037】
本発明において多孔質層に含まれる有機微粒子としては、具体的には、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単量体の単独重合体或いは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸;等が挙げられる。
【0038】
本発明において多孔質層に含まれる無機微粒子としては、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム、マイカ、ゼオライト、ガラス等の無機物からなるフィラーが挙げられる。フィラーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記フィラーのうち、無機物からなるフィラーが好適であり、シリカ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト等の無機酸化物からなるフィラーがより好ましく、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、およびアルミナからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーがさらに好ましく、アルミナが特に好ましい。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、何れも好適に使用することができる。この中でも、熱的安定性および化学的安定性が特に高いため、α−アルミナが最も好ましい。
【0040】
多孔質層にフィラーが含まれる場合、当該フィラーと、前記樹脂との総量に対する当該フィラーの占める割合は、好ましくは30体積%以上である。フィラーの占める割合が30体積%以上である場合、多孔質層の除去前後の突刺し強度変化が大きくなり、本発明の効果が顕著になる。
【0041】
また、また、多孔質層にフィラーが含まれる場合、当該フィラーと前記樹脂の総量に対する当該フィラーの占める割合は、より好ましくは50質量%以上、99質量%以下である。フィラーの占める割合を上記範囲とすることにより、フィラー同士の接触によって形成される空隙が、樹脂等によって閉塞されることが少なくなり、充分なイオン透過性を得ることができると共に、単位面積当たりの目付を適切な値にすることができる。
【0042】
本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータの製造においては、通常、上記樹脂を溶媒に溶解または分散させると共に、上記フィラーを分散させることにより、多孔質層を形成するための塗工液を作製する。
【0043】
上記溶媒(分散媒)は、多孔質フィルムに悪影響を及ぼさず、上記樹脂を均一かつ安定に溶解または分散し、上記フィラーを均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。上記溶媒(分散媒)としては、具体的には、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール;アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。上記溶媒(分散媒)は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)やフィラー量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。塗工液の形成方法としては、具体的には、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法等が挙げられる。また、例えば、スリーワンモーター、ホモジナイザー、メディア型分散機、圧力式分散機等の従来公知の分散機を使用して微粒子を溶媒(分散媒)に分散させてもよい。そのときの混合順序も、沈殿物が発生する等の特段の問題がない限り、樹脂と、フィラー等のその他成分とを一度に溶媒に添加して混合してもよいし、任意の順番で溶媒に添加して混合してもよいし、それぞれを溶媒に溶解又は分散した後にそれぞれを混合してもよい。また、上記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記樹脂およびフィラー以外の成分として、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0045】
塗工液の多孔質フィルムへの塗布方法、つまり、必要に応じて親水化処理が施された多孔質フィルムの表面への多孔質層の形成方法は、特に制限されるものではない。多孔質フィルムの両面に多孔質層を積層する場合においては、多孔質フィルムの一方の面に多孔質層を形成した後、他方の面に多孔質層を形成する逐次積層方法や、多孔質フィルムの両面に多孔質層を同時に形成する同時積層方法を行うことができる。多孔質層の形成方法としては、例えば、塗工液を多孔質フィルムの表面に直接塗布した後、溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液を適当な支持体に塗布し、溶媒(分散媒)を除去して多孔質層を形成した後、この多孔質層と多孔質フィルムとを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体に塗布した後、塗布面に多孔質フィルムを圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液中に多孔質フィルムを浸漬し、ディップコーティングを行った後に溶媒(分散媒)を除去する方法;等が挙げられる。多孔質層の厚さは、塗工後の湿潤状態(ウェット)の塗工膜の厚さ、樹脂とフィラーとの重量比、塗工液の固形分濃度(樹脂濃度とフィラー濃度との和)等を調節することによって制御することができる。尚、支持体としては、例えば、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、ドラム等を用いることができる。
【0046】
上記塗工液を多孔質フィルムまたは支持体に塗布する方法は、必要な目付や塗工面積を実現し得る方法であればよく、特に制限されるものではない。塗工液の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクターブレードコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。
【0047】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒(分散媒)を充分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。また、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから除去する方法としては、例えば、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に溶解し、かつ、塗工液に含まれる樹脂を溶解しない他の溶媒(以下、溶媒X)を使用し、塗工液が塗布されて塗膜が形成された多孔質フィルムまたは支持体を上記溶媒Xに浸漬し、多孔質フィルム上または支持体上の塗膜中の溶媒(分散媒)を溶媒Xで置換した後に、溶媒Xを蒸発させる方法が挙げられる。この方法は、塗工液から溶媒(分散媒)を効率よく除去することができる。尚、多孔質フィルムまたは支持体に形成された塗工液の塗膜から溶媒(分散媒)或いは溶媒Xを除去するときに加熱を行う場合には、多孔質フィルムの細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、多孔質フィルムの透気度が低下しない温度、具体的には、30〜120℃、より好ましくは40〜80℃で行うことが望ましい。
【0048】
上述した方法により形成される本発明における多孔質層の膜厚は、製造する非水電解液二次電池用積層セパレータの厚さを考慮して適宜決定すればよいものの、多孔質フィルムを基材として用い、多孔質フィルムの片面または両面に多孔質層を積層する場合においては、0.5〜15μm(片面当たり)であることが好ましく、2〜10μm(片面当たり)であることがより好ましい。
【0049】
多孔質層の物性に関する下記説明においては、多孔質フィルムの両面に多孔質層が積層される場合には、非水電解液二次電池としたときの、多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層された多孔質層の物性を少なくとも指す。
【0050】
多孔質層の単位面積当たりの目付(片面当たり)は、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータの強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよいものの、当該非水電解液二次電池用積層セパレータを部材として含む非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、通常、1〜20g/m
2であることが好ましく、2〜10g/m
2であることがより好ましい。多孔質層の目付が上記範囲内であることが、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータを部材とする非水電解液二次電池の重量が軽くなるため好ましい。
【0051】
多孔質層の空隙率は、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータが充分なイオン透過性を得ることができるという面において、20〜90体積%であることが好ましく、30〜80体積%であることがより好ましい。また、多孔質層が有する細孔の孔径は、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータが充分なイオン透過性を得ることができるという面において、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0052】
<積層多孔質フィルム>
本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータは、上記多孔質フィルムおよび上記多孔質層を備える積層多孔質フィルムである。
【0053】
本発明における積層多孔質フィルムの膜厚は、6μm以上、25μm以下であり、10μm以上、20μm以下であることが好ましい。当該積層多孔質フィルムの膜厚が6μm以上であることにより、電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができ、上記膜厚が25μm以下であることにより、当該積層多孔質フィルムである非水電解二次電池用セパレータ全域におけるリチウムイオンの透過抵抗の増加を抑制し、充放電サイクルを繰り返した場合の正極の劣化、レート特性やサイクル特性の低下を防ぐことができ、また、正極および負極間の距離の増加を抑えることにより非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができる。
【0054】
本発明における積層多孔質フィルムのガーレー値(透気度)は、250sec/100mL以下であり、200sec/100mL以下であることが好ましい。当該積層多孔質フィルムのガーレー値が250sec/100mL以下であることにより、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータが充分なイオン透過度を得ることができる。
【0055】
本発明における積層多孔質フィルムの突き刺し強度(
S)および当該積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度(
Sp)は、以下の(i)〜(iii)の工程からなる方法にて測定される。
(i)積層多孔質フィルムを12mmΦのワッシャで固定し、当該積層多孔質フィルムの多孔質層側からピン(ピン径1mmΦ、先端0.5R)を、200mm/minで突き刺したときの最大応力(gf)を測定し、その測定値を積層多孔質フィルムの突き刺し強度(
S)とする。
(ii)その後、上記積層多孔質フィルムから多孔質層を除去する。
(iii)積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後の残った多孔質フィルムを12mmΦのワッシャで固定し、ピン(ピン径1mmΦ、先端0.5R)を、200mm/minで突き刺したときの最大応力(gf)を測定し、その測定値を積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度(
Sp)とする。
【0056】
なお、積層多孔質フィルムから多孔質層を除去する方法は、特に特定されないが、例えば、積層多孔質フィルムからテープ(3M社製:Scotch)を用いて多孔質層を剥離させる方法、積層多孔質フィルムを水に浸漬させ、超音波を当てて洗浄し、室温で乾燥させる方法、等が挙げられる。
【0057】
本発明における積層多孔質フィルムの突き刺し強度(
S)および当該積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度(
Sp)は、下記式(1)および(2)を満たす。
【0058】
式(1):2gf ≦ Sp−S ≦ 25gf
式(2):300gf ≦ S ≦ 400gf
[実施形態2:非水電解液二次電池用部材、実施形態3:非水電解液二次電池]
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極がこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材である。また、本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池は、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを備える。以下、非水電解液二次電池用部材として、リチウムイオン二次電池用部材を例に挙げ、非水電解液二次電池として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。尚、上記非水電解液二次電池用積層セパレータ以外の非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0059】
本発明に係る非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池においては、例えばリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、Li
2B
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4等が挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記リチウム塩のうち、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、およびLiC(CF
3SO
2)
3からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩がより好ましい。
【0060】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトン等の含硫黄化合物;並びに、上記有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒;等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記有機溶媒のうち、カーボネート類がより好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または、環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、作動温度範囲が広く、かつ、負極活物質として天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合においても難分解性を示すことから、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒がさらに好ましい。
【0061】
正極としては、通常、正極活物質、導電材および結着剤を含む正極合剤を正極集電体上に担持したシート状の正極を用いる。
【0062】
上記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。上記リチウム複合酸化物のうち、平均放電電位が高いことから、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のα−NaFeO
2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネル等のスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物がより好ましい。当該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでいてもよく、複合ニッケル酸リチウムがさらに好ましい。さらに、Ti、Zr、Ce、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、上記少なくとも1種の金属元素の割合が0.1〜20モル%となるように当該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル特性に優れるのでさらにより好ましい。中でもAlまたはMnを含み、かつ、Ni比率が85%以上、さらに好ましくは90%以上である活物質が、当該活物質を含む正極を備える非水電解液二次電池の高容量での使用におけるサイクル特性に優れることから、特に好ましい。
【0063】
上記導電材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。上記導電材は、1種類のみを用いてもよく、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いる等、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0065】
正極合剤を得る方法としては、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧して正極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0066】
上記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0067】
シート状の正極の製造方法、即ち、正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0068】
負極としては、通常、負極活物質を含む負極合剤を負極集電体上に担持したシート状の負極を用いる。シート状の負極には、好ましくは上記導電材、および、上記結着剤が含まれる。
【0069】
上記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化するアルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、シリコン(Si)などの金属、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、Mg
2Si、NiSi
2)、リチウム窒素化合物(Li
3-xM
xN(M:遷移金属))等を用いることができる。上記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料が好ましく、黒鉛とシリコンの混合物であって、その黒鉛を構成する炭素(C)に対するSiの比率が5%以上である負極活物質がより好ましく、10%以上である負極活物質がさらに好ましい。
【0070】
負極合剤を得る方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧して負極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0071】
上記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0072】
シート状の負極の製造方法、即ち、負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。上記ペーストには、好ましくは上記導電材、および、上記結着剤が含まれる。
【0073】
上記正極、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極をこの順で配置して本発明に係る非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明に係る非水電解液二次電池を製造することができる。非水電解液二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体等の角柱型等のどのような形状であってもよい。尚、非水電解液二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。
【0074】
本発明の非水電解液二次電池は、薄型であり、多孔質層を備える積層多孔質フィルムでありながら、充分な突き刺し強度、充分なイオン透過性、および充分なシャットダウン特性を備える非水電解液二次電池用積層セパレータを含む。従って、本発明の非水電解液二次電池は、優れた出力特性および高い安全性を両立することができる。また、同様に、本発明の非水電解液二次電池用部材は、優れた出力特性および高い安全性を両立できる非水電解液二次電池の製造に好適に使用できる。
【0075】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
[測定方法]
実施例および比較例において、積層多孔質フィルムの特性を以下の方法にて測定した。
(1)厚さ測定(単位:μm)
フィルムの厚さは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。
(2)目付(単位:g/m
2)
積層多孔質フィルムのサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り、重量W1(g)を測定した。積層多孔質フィルムの多孔質層をテープ(3M社:Scotch)で1回剥離した後の多孔質フィルム重量W2(g)を測定した。下記式を用いて多孔質フィルムの目付、多孔質層の目付を算出した。
多孔質フィルムの目付(g/m
2)=W2(g)/(0.1m×0.1m)
多孔質層の目付(g/m
2)=(W1−W2)(g)/(0.1m×0.1m)
(3)透気度(単位:sec/100cc)
フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社東洋精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレー式デンソメータを用いて測定した。
(4)突き刺し強度(gf)
積層多孔質フィルムの突き刺し強度(
S)および当該積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度(
Sp)を、以下の(i)〜(iii)の工程からなる方法にて測定した。
(i)積層多孔質フィルムを12mmΦのワッシャで固定し、当該積層多孔質フィルムの多孔質層側からピン(ピン径1mmΦ、先端0.5R)を、200mm/minで突き刺したときの最大応力(gf)を測定し、その測定値を積層多孔質フィルムの突き刺し強度(
S)とした。
(ii)その後、上記積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した。
(iii)積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後の残った多孔質フィルムを12mmΦのワッシャで固定し、ピン(ピン径1mmΦ、先端0.5R)を、200mm/minで突き刺したときの最大応力(gf)を測定し、その測定値を積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度(
Sp)とした。
(5)シャットダウン(SD)特性の測定
SD測定用セル(以降「セル」と称す。)にてSD温度を測定した。
【0078】
具体的には、以下に示す方法にてSD特性を測定した。(a)17.5mmφの膜に電解液を含浸した後、2枚のSUS製電極に挟み、クリップで固定し、セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネート50vol%:ジエチルカーボネート50vol%の混合溶媒に、1mol/LのLiBF
4を溶解させたものを用いた。(b)組み立てたセルの両極に、インピーダンスアナライザーの端子を接続した。(c)オーブン中で15℃/分の速度で昇温しながら、1kHzでの抵抗値を測定し、500Ωを超えたときの温度をSD温度とした。
【0079】
[混練機のスクリュー構成]
実施例、比較例において、以下に示す構成を有する二種類のスクリューのうちのどちらかのスクリューを備える二軸混練機を用いた。なお、上記二種類のスクリューは、双方とも、加熱・溶融・混練の3ゾーンからなる以下の構成を有する:
スクリュー長:スクリュー長(L)/スクリュー径(D)=60.5
加熱ゾーン:L/D=12.5
順送りセグメントのみで構成
溶融ゾーン:L/D=15.5
ニーディングセグメント合計長はL/D=13.5
混練ゾーン:L/D=32.5
ニーディングセグメント合計長はL/D=17.5。
【0080】
一方のスクリュー構成(スクリュー構成Iと称する)は、溶融ゾーンのニーディングセグメントとして、すべて条数2のセグメントを使用する構成であり、もう一方のスクリュー構成(スクリュー構成IIと称する)は、溶融ゾーンのニーディングセグメントが、条数2のものでL/D=8.5、条数3のセグメントでL/D=5.0のセグメントを使用する構成である。
【0081】
[多孔質層形成用塗工液の調製]
[製造例1]
以下に記載の方法を用いて、樹脂としてポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、および、フィラーとしてアルミナを含む塗工液Aを調製した。
【0082】
攪拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、3リットルのセパラブルフラスコを充分乾燥させた後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2200gを加え、さらに、200℃にて2時間かけて真空乾燥させた塩化カルシウム粉末151.07gを添加し、当該フラスコを100℃に昇温して、上記塩化カルシウム粉末を完全に溶解させた。その後、当該フラスコを室温に戻し、パラフェニレンジアミン68.23gを添加した後、上記パラフェニレンジアミンを完全に溶解させた。上述の操作にて得られた溶液の温度を20℃±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド124.97gを10分割して約5分おきにそれぞれ添加した。その後も攪拌しながら、得られた溶液を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成させたあと、上記溶液を1500メッシュのステンレス金網を用いてろ過し、パラアラミド濃度6重量%のパラアラミド溶液を得た。得られたパラアラミド濃度6重量%のパラアラミド溶液100gをフラスコに秤取し、300gのNMPを添加し、パラアラミド濃度が1.5重量%の溶液を調製して60分間攪拌した。上記のパラアラミド濃度が1.5重量%の溶液に、アルミナC(日本アエロジル社製)を6g、アドバンスドアルミナAA−03(住友化学株式会社製)を6g混合し、240分間攪拌した。得られた溶液を1000メッシュの金網を用いてろ過し、その後、酸化カルシウム0.73gを添加して240分間攪拌して中和を行い、減圧下で脱泡してスラリー上の塗工液Aを得た。
【0083】
[製造例2]
以下に記載の方法を用いて、樹脂としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、および、フィラーとしてアルミナを含む塗工液Bを調製した。
【0084】
純水:イソプロピルアルコールの重量比が95:5である媒体に対して、固形分濃度が28重量%となるようにカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセルファインケム株式会社製:1110)とアルミナ(住友化学株式会社製:AKP3000)とを3:100の重量比で添加、混合して、高圧分散条件(50Pa)にて3回処理することにより、CMCおよびアルミナを含む溶液を調製した。上記溶液を塗工液Bとした。
【0085】
[実施例1]
超高分子量ポリエチレン粉末(ティコナ社製、GUR4032)を70重量%および重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(日本精鑞社製、FNP−0115、メジアン径46μm)30重量%と、該超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスとの合計量100重量部に対して、酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、Irg1010)を0.4重量%、酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、P168)を0.1重量%、ステアリン酸ナトリウムを1.3重量%加え、更に全体積に対して36体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した。その後、スクリュー構成Iの二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。
【0086】
該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延し、膜厚約72μmのシートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃でTDに6.2倍に延伸し多孔質フィルム(1)を得た。上述の測定方法を用いて、得られた多孔質フィルム(1)の特性を測定した。その結果を表2に示す。
【0087】
得られた多孔質フィルム(1)の片面に塗工液Aをバーコーター法にて塗布し、温度:50℃、湿度:70%の雰囲気下にて1分間放置してポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)を析出させ、流水を用いて5分間かけて洗浄した後、70℃のオーブン内にて5分間かけて乾燥させ、積層多孔質フィルム(1)を得た。上述の測定方法を用いて、得られた積層多孔質フィルム(1)および当該積層多孔質フィルム(1)から多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの特性を測定した。その結果を表3に示す。
【0088】
なお、積層多孔質フィルム(1)から多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度を測定するにあたって、多孔質層の除去は、テープ(3M社製:Scotch)を用いて、剥離操作を3回繰り返すことにより行った。
【0089】
また、上述の製造条件を表1に示す。
【0090】
[実施例2]
重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(日本精鑞社製、FNP−0115、メジアン径46μm)の代わりに、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(日本精鑞社製、FNP−0115、メジアン径137μm)を使用したこと、二軸混練機のスクリューの構成をスクリュー構成IIに変更したこと、および、ポリオレフィン樹脂組成物を圧延して作製されるシートの膜厚を62μmとしたこと以外は、実施例と同様の操作を行い、多孔質フィルム(2)を得た。また、多孔質フィルム(2)を用いて、実施例1と同様の操作を行い、積層多孔質フィルム(2)を得た。上述の測定方法によって、多孔質フィルム(2)、積層多孔質フィルム(2)、および、当該積層多孔質フィルム(2)から多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの特性を測定した。その測定結果を表2、3に示す。
【0091】
なお、積層多孔質フィルム(2)から多孔質層を除去する方法は、実施例1と同様の方法を用いた。
【0092】
[実施例3]
ポリオレフィン樹脂組成物を圧延して作製されるシートの膜厚を68μmとしたこと以外は、実施例2と同様の操作を行い、多孔質フィルム(3)を得た。また、多孔質フィルム(3)を用いて、実施例1と同様の操作を行い、積層多孔質フィルム(3)を得た。上述の測定方法によって、多孔質フィルム(3)、積層多孔質フィルム(3)、および、当該積層多孔質フィルム(3)から多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの特性を測定した。その測定結果を表2、3に示す。
【0093】
なお、積層多孔質フィルム(3)から多孔質層を除去する方法は、実施例1と同様の方法を用いた。
【0094】
[実施例4]
実施例3にて得られた多孔質フィルム(3)の片面にコロナ処理を施した後、当該多孔質フィルム(3)のコロナ処理を施した側の面に塗工液Bをグラビア法にて塗布し、乾燥させることによって、積層多孔質フィルム(4)を得た。当該多孔質フィルム(3)の製造条件を表1に示す。その後、上述の測定方法によって、積層多孔質フィルム(4)、および、当該積層多孔質フィルム(4)から多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの特性を測定した。その測定結果を表2、3に示す。
【0095】
なお、積層多孔質フィルム(4)から多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度を測定するにあたって、多孔質層の除去は、当該積層多孔質フィルムを水に浸漬させ、超音波を当てて3分間洗浄した後、室温で乾燥させることにより行った。
【0096】
[比較例1]
二軸混練機のスクリューの構成をスクリュー構成IIからスクリュー構成Iに変更したこと以外は、実施例3と同様の操作を行うことにより、多孔質フィルム(4)および積層多孔質フィルム(5)を得た。上述の測定方法によって、多孔質フィルム(5)、積層多孔質フィルム(4)、および、当該積層多孔質フィルム(5)から多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの特性を測定した。その測定結果を表2、3に示す。
【0097】
なお、積層多孔質フィルム(5)から多孔質層を除去する方法は、実施例1と同様の方法を用いた。
【0098】
[比較例2]
重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(日本精鑞社製、FNP−0115、メジアン径137μm)の代わりに、顆粒状にした重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(日本精鑞社製、FNP−0115)を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行うことにより、多孔質フィルム(5)および積層多孔質フィルム(6)を得た。上述の測定方法によって、多孔質フィルム(5)、積層多孔質フィルム(6)、および、当該積層多孔質フィルム(6)から多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの特性を測定した。その測定結果を表2、3に示す。
【0099】
なお、積層多孔質フィルム(6)から多孔質層を除去する方法は、実施例1と同様の方法を用いた。
【0102】
[結果]
実施例1〜4、比較例1〜3における製造条件を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
また、実施例1〜4、比較例1〜3における測定結果を表2、3に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
表3から、実施例にて製造された積層多孔質フィルムは、比較例にて製造された積層多孔質フィルムと比較して、シャットダウン(SD)温度が低くなることが分かった(実施例:約133℃、比較例:約135℃)。すなわち、積層多孔質フィルムの突き刺し強度(
S)と、積層多孔質フィルムから多孔質層を除去した後に残った多孔質フィルムの突き刺し強度(
Sp)との差(
Sp−S)が2
gf〜25
gfであり、かつ、Sが300
gf〜400
gfであるとの条件を満たす、実施例にて製造された積層多孔質フィルムの方が、SpおよびSが上記の条件を満たさない、比較例にて製造された積層多孔質フィルムよりも、優れたシャットダウン特性を有することが分かった。従って、Sp、Sが上記の条件を満たす、本発明の積層多孔質フィルムは、薄型で、多孔質層を有しながらも、シャットダウン特性が優れた非水電解液二次電池用積層セパレータとして利用できることが分かった。
【解決手段】本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータは、多孔質フィルムと、多孔質層とを備える積層多孔質フィルムであって、前記積層多孔質フィルムの突き刺し強度(Sp)および前記多孔質層を除去した後の突き刺し強度(S)が、下記式(1)および(2)を満たす。