(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
体腔内を観察する内視鏡と、前記体腔内の患部を検査又は処置する処置具と、前記内視鏡及び前記処置具を前記体腔内に案内する外套管と、を備える内視鏡下外科手術装置であって、
前記外套管は、
体壁を貫通して体腔内に挿入される外套管本体と、
前記外套管本体の内部に設けられ、前記内視鏡を進退自在に挿通可能な内視鏡挿通路と、
前記外套管本体の内部に設けられ、前記処置具を進退自在に挿通可能な処置具挿通路と、
前記外套管本体の内部において進退自在に構成され、前記内視鏡挿通路に挿通された前記内視鏡に連結される内視鏡連結部と、前記処置具挿通路に挿通された前記処置具に連結される処置具連結部とを有し、前記内視鏡及び前記処置具のいずれか一方の進退移動に対して他方が連動しない不感帯領域と、前記内視鏡及び前記処置具のいずれか一方の進退移動に対して他方が連動する感帯領域とを有する連動部材と、を備え、
前記内視鏡連結部の前記内視鏡に対する固定力をF1、前記処置具連結部の前記処置具に対する固定力をF2としたとき、次式を満たすように構成される内視鏡下外科手術装置。
F1>F2
前記連動部材が移動可能範囲の最基端位置に移動した状態において、前記外套管本体の軸方向に関して、前記内視鏡連結部が連結される前記内視鏡の連結位置から前記外套管本体の先端位置までの長さをL、前記連結位置から前記内視鏡の先端位置までの長さをLsとしたとき、次式を満たすように前記連結位置が設定される請求項1又は2に記載の内視鏡下外科手術装置。
Ls≧L
前記連動部材は、前記内視鏡と連結され前記内視鏡と一体的に進退移動するスライダ部材と、前記処置具と連結され前記処置具と一体的に進退移動するスリーブ部材とを有し、前記スリーブ部材は前記スライダ部材に対して進退移動可能な範囲が制限される請求項1〜3のいずれか1項に記載の内視鏡下外科手術装置。
前記連動部材が移動可能範囲の最基端位置に移動した状態において、前記外套管本体の軸方向に関して、前記内視鏡連結部が連結される前記内視鏡の連結位置から前記外套管本体の先端位置までの長さをL、前記連結位置から前記内視鏡の先端位置までの長さをLsとしたとき、次式を満たすように前記連結位置が設定される請求項5又は6に記載の外套管。
Ls≧L
前記連動部材は、前記内視鏡と連結され前記内視鏡と一体的に進退移動するスライダ部材と、前記処置具と連結され前記処置具と一体的に進退移動するスリーブ部材とを有し、前記スリーブ部材は前記スライダ部材に対して進退移動可能な範囲が制限される請求項5〜7のいずれか1項に記載の外套管。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。なお、いずれの図面も説明のために要部を強調して示したものであり、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0025】
<内視鏡下外科手術装置の構成>
図1は、本発明に係る内視鏡下外科手術装置の概略構成図である。
図1に示すように内視鏡下外科手術装置10は、患者の体腔内を観察する内視鏡100と、患者の体腔内の患部を検査又は処置するための処置具200と、内視鏡100及び処置具200を体腔内に案内する外套管300(ガイド部材)と、を備える。
【0026】
<内視鏡の構成>
内視鏡100は、例えば腹腔鏡などの硬性内視鏡であり、体腔内に挿入される細長い挿入部(以下、「内視鏡挿入部」という。)102と、内視鏡挿入部102の基端側に連設される操作部104とを備える。操作部104には、ユニバーサルケーブル106が接続され、このユニバーサルケーブル106の先端部にプロセッサ装置108と光源装置110の各々がコネクタ(不図示)を介して着脱自在に接続される。また、プロセッサ装置108は、ケーブルを介してモニタ112に接続される。
【0027】
図2に示すように、内視鏡挿入部102の先端面114には、観察窓116及び照明窓118、118が設けられる。
【0028】
観察窓116の後方には観察光学系の対物レンズや、この対物レンズの結像位置に配置されたCCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)などの撮像素子が配設されている。この撮像素子を支持する基板には信号ケーブル(不図示)が接続される。信号ケーブルは
図1の内視鏡挿入部102、操作部104、ユニバーサルケーブル106等に挿通されてコネクタ(不図示)まで延設され、プロセッサ装置108に接続される。観察窓116で取り込まれた観察像は、撮像素子の受光面に結像されて電気信号(撮像信号)に変換され、この電気信号が信号ケーブルを介してプロセッサ装置108に出力され、映像信号に変換される。そして、この映像信号はプロセッサ装置108に接続されたモニタ112に出力され、モニタ112の画面上に観察画像(内視鏡画像)が表示される。
【0029】
図2の照明窓118、118の後方にはライトガイド(不図示)の出射端が配設されている。このライトガイドは、
図1の内視鏡挿入部102、操作部104、ユニバーサルケーブル106に挿通され、コネクタ(不図示)内に入射端が配設される。したがって、このコネクタを光源装置110に連結することによって、光源装置110から照射された照明光がライトガイドを介して照明窓118、118に伝送され、照明窓118、118から前方に照射される。なお、
図2では、内視鏡挿入部102の先端面114には2つの照明窓118、118が配設されているが、照明窓118の数には限定はなく、その数は1つでもよいし3つ以上であってもよい。
【0030】
<処置具の構成>
図1に示すように、処置具200は、例えば鉗子からなり、体腔内に挿入される細長い挿入部(以下、「処置具挿入部」という。)202と、処置具挿入部202の基端側に設けられ、術者に把持される操作部204と、処置具挿入部202の先端側に設けられ、操作部204の操作によって動作可能な処置部206と、を備える。
【0031】
処置具挿入部202は、筒状のシース208と、このシース208内に軸心方向に移動自在に挿通された操作軸(不図示)とが設けられている。さらに操作部204は、固定ハンドル210とこの固定ハンドル210に対して回動ピンを介して回動可能に連結された可動ハンドル214が設けられている。そして、可動ハンドル214に操作軸の基端部が連結されている。
【0032】
処置部206には、開閉可能な一対の把持部材が設けられている。これらの把持部材は操作軸の先端部に図示しない駆動機構を介して連結されている。そして、操作部204の可動ハンドル214の回動操作に伴い操作軸及び駆動機構を介して処置部206の把持部材が開閉されるようになっている。
【0033】
なお、処置具200としては、鉗子に限らず、例えば、レーザープローブ、縫合器、電気メス、持針器、超音波吸引器などの他の処置具であってもよい。
【0034】
<外套管の構成>
図3は、外套管300を後左上方向から示した外観斜視図である。
【0035】
同図に示すように、外套管300は、内視鏡100の内視鏡挿入部102が進退自在に挿通される内視鏡挿通路306と処置具200の処置具挿入部202が進退自在に挿通される処置具挿通路308とを有する。
【0036】
内視鏡挿通路306は、外套管300全体の中心軸を示す基準軸300a(長手軸)に平行する内視鏡挿通軸306aを中心軸として、少なくとも内視鏡挿入部102が挿通可能な直径を有し、かつ、外套管300の基端面302から先端面304まで貫通する外套管300内の空間部分を示す。内視鏡挿通軸306aは、内視鏡挿通路306に挿通された内視鏡挿入部102の軸(中心軸)の位置に相当する。
【0037】
基端面302には、内視鏡挿入部102を内視鏡挿通路306に挿入する内視鏡挿入口310が設けられ、先端面304には、内視鏡挿通路306に挿入された内視鏡挿入部102を外部に繰り出す内視鏡繰出口312が設けられる。
【0038】
処置具挿通路308は、基準軸300aに平行する処置具挿通軸308aを中心軸として、少なくとも処置具挿入部202が挿通可能な直径を有し、かつ、外套管300の基端面302から先端面304まで貫通する外套管300内の空間部分を示す。処置具挿通軸308aは、処置具挿通路308に挿通された処置具挿入部202の軸(中心軸)の位置に相当する。
【0039】
基端面302には、処置具挿入部202を処置具挿通路308に挿入する処置具挿入口314が設けられ、先端面304には、処置具挿通路308に挿入された処置具挿入部202を外部に繰り出す処置具繰出口316が設けられる。
【0040】
また、外套管300は、基端面302に送気コネクタ318(流体供給用コネクタ)を備える。送気コネクタ318は、外套管300の内部において内視鏡挿通路306や処置具挿通路308と連通する送気管路の端部に設けられている。
【0041】
この送気コネクタ318には
図1に示した送気チューブ122(チューブ体)の一方の端部が接続され、送気チューブ122の他方の端部が気腹装置120に接続される。したがって、気腹装置120から送気チューブ122に炭酸ガスなどの気腹ガス(気腹用気体)を送気すると、その気腹ガスが送気コネクタ318から外套管300の内部に送られ、外套管300の内部を通じて先端面304の内視鏡繰出口312や処置具繰出口316から外套管300の外部へと送出されるようになっている。
【0042】
なお、外套管300が配置された空間の位置や向きに関して、基準軸300aに沿った方向の基端面302から先端面304への向きを前、基準軸300aから内視鏡挿通軸306aへの向きを左として、前、後、左、右、上、下という用語を用いる。
【0043】
(外套管の内部構造)
外套管300の具体的構成について説明する。
図4は、外套管300の内部構造を示した断面図(
図3の4−4矢視断面図)であり、基準軸300aを含み、かつ、上下方向に直交する平面で切断した断面を示す。本明細書において、単に断面図という場合には
図4と同一平面により切断した断面図を示すものとする。
【0044】
同図に示すように、外套管300は、前後方向のほぼ全体を占める外套管本体320と、外套管300の後部に配置される基端キャップ340と、先端部に配置される先端キャップ360と、外套管300の内部に配置されるスライダ400(連動部材)と、を有する。なお、基端キャップ340及び先端キャップ360は、本発明の外套管本体の構成要素の一部であり、外套管本体320と別体で構成されてもよいし一体で構成されてもよい。
【0045】
(外套管本体の説明)
外套管本体320は、硬質樹脂や金属等により基準軸300aを中心軸とする長細い円筒状に形成されており、外周を囲む外壁322と、外套管本体320の基端から先端まで貫通する管腔324とを有する。
【0046】
管腔324には、内視鏡挿通軸306aと処置具挿通軸308aとが挿通し、内視鏡挿通路306と処置具挿通路308となる空間が設けられる。
【0047】
また、管腔324は、送気コネクタ318から送り込まれた気腹ガスが通過する送気管路となる。
【0048】
基端キャップ340は、外套管本体320の基端に取り付けられており、硬質樹脂や金属等により外套管本体320の外径よりも拡径された円柱状に形成されている。その後側には外套管300の基端面302となる平坦な後端面を有するとともに、基端面302から外套管本体320の管腔324まで貫通する貫通孔342、344を有する。
【0049】
貫通孔342は、その中心軸が内視鏡挿通軸306aと同軸上に配置され、内視鏡挿通路306の一部を形成する。基端面302における貫通孔342の開口は、上述の内視鏡挿入口310に相当する。
【0050】
貫通孔344は、その中心軸が処置具挿通軸308aと同軸上に配置され、処置具挿通路308の一部を形成する。基端面302における貫通孔344の開口は、上述の処置具挿入口314に相当する。
【0051】
貫通孔342と貫通孔344の各々には弁部材346、348(第1弁部材346、第2弁部材348)が配置される。これらの弁部材346、348の詳細な説明については省略するが、例えば、内視鏡挿入部102や処置具挿入部202を挿通する場合にだけ開口して内視鏡挿入部102や処置具挿入部202の外周面(側面)にほぼ隙間なく密接するスリットを有する。これにより弁部材346、348よりも先端側の空間の気密性を確保し、体腔内に注入した気腹ガスの体外への漏れ等が軽減される。
【0052】
なお、弁部材346、348は、特定の構成のものに限定されず、周知かつ任意の構成のものを採用することができる。
図4では、貫通孔342と貫通孔344の各々に2枚の弁部材を配置した構成を示しているが、1枚又は3枚以上の弁部材を配置した構成であってもよい。
【0053】
(送気コネクタの説明)
また、
図5は、基準軸300aを含み、かつ、
図4の紙面に直交する平面で外套管300を切断したときの基端キャップ340周辺の断面図である。同図に示すように基端キャップ340は、基端面302から外套管本体320の管腔324まで貫通する貫通孔350を有する。
【0054】
この貫通孔350は、気腹ガスを流す送気管路の一部であり、その後端部が基準軸300aよりも下側の位置に形成される。その後端部には、気腹装置120からの送気チューブ122(
図1参照)が接続される上述の送気コネクタ318が設けられる。
【0055】
送気コネクタ318は、細長い円筒状に形成されており、その一部が貫通孔350の内部に埋没して固定される。これによって、基端面302において、基準軸300aよりも下側となる位置に、送気コネクタ318の軸(中心軸)が基端面302にほぼ直交して配置(基準軸300aと平行に配置)されると共に、送気コネクタ318が基端面302から後方に突出して配置される。
【0056】
この送気コネクタ318の外周に送気チューブ122を嵌めることによって送気コネクタ318に送気チューブ122が接続される。そして、気腹装置120から送気チューブ122に気腹ガスを送出すると、その気腹ガスが送気コネクタ318から外套管本体320の管腔324内に送り込まれる。
【0057】
(送気コネクタの基端面配置によるメリット)
ここで、一本の医療器具を体腔内に案内する外套管においては、送気コネクタは、外套管の基端面ではなく、側面に設けられるのが一般的である。
【0058】
仮に基端面に送気コネクタを設けたとすると内針と干渉してしまうためであり、また、側面に送気コネクタを設けたとしても、外套管に挿通させた医療器具の位置に影響を与えることなく、送気コネクタや送気チューブが体壁と干渉しないように外套管を軸周りに回転させることができることによる。
【0059】
一方、本実施の形態の外套管300では、外套管300を軸周りに回転させると、内視鏡挿入部102と処置具挿入部202の位置が変化する。そのため、体腔内における内視鏡挿入部102と処置具挿入部202との位置を術者が望む位置に維持しながら送気コネクタ318や送気チューブ122の体壁との干渉を回避することが困難な場合が生じ得る。
【0060】
そこで、本実施の形態の外套管300では、送気コネクタ318を外套管300の基端面302に配置することで、送気コネクタ318や送気チューブ122が体壁と干渉しないようにし、内針との干渉は、後述のように内針の構成を工夫することによって回避するようにしている。
【0061】
なお、送気コネクタ318及び外套管300内の送気管路は、気腹ガス以外の流体を体腔内に供給するために設けられたものであってもよい。
【0062】
図4に示す先端キャップ360は、外套管本体320の先端に取り付けられており、硬質樹脂や金属等により形成されている。その前側には外套管300の先端面304となる前面を有するとともに、外套管本体320の管腔324から先端面304まで貫通する貫通孔362、364を有する。
【0063】
貫通孔362は、その中心軸が内視鏡挿通軸306aと同軸上に配置され、内視鏡挿通路306の一部を形成する。先端面304における貫通孔362の開口は、上述の内視鏡繰出口312に相当する。
【0064】
貫通孔364は、その中心軸が処置具挿通軸308aと同軸上に配置され、処置具挿通路308の一部を形成する。先端面304における貫通孔364の開口は、上述の処置具繰出口316に相当する。
【0065】
また、上述のように気腹装置120から送気チューブ122、基端キャップ340の送気コネクタ318、及び、貫通孔350を介して外套管本体320の管腔324内に送り込まれた気腹ガスは、貫通孔362及び貫通孔364を介して外部(体腔内)に送り出される。
【0066】
以上の外套管本体320、基端キャップ340、及び、先端キャップ360は外套管300の外壁を形成しているものであるが、必ずしも外套管300の外壁がこれらの分離された部材により構成されたものでなくてよい。
【0067】
また、外套管本体320において気腹ガスが通過する送気管路は、管腔324とは別に設けられた管腔であってもよい。
【0068】
(スライダの説明)
次に、スライダ400について説明する。
【0069】
図4に示すスライダ400は、外套管本体320の管腔324内に収容され、基準軸300a方向に進退移動可能に支持される。
【0070】
このスライダ400は、内視鏡挿通路306に挿通された内視鏡挿入部102と、処置具挿通路308に挿通された処置具挿入部202とに連結し、いずれか一方の前後方向(軸方向)への進退移動に対して他方が連動しない不感帯領域と、いずれか一方の進退移動に対して他方が連動する感帯領域とを有する連動部材である。
【0071】
即ち、内視鏡挿入部102は、処置具挿入部202の軸方向の進退移動に対して遊びを持って連動するようになっている。
【0072】
これによって、術者が処置具挿入部202を軸方向に進退操作したとき、処置具挿入部202の軸方向への変位が大きい場合(大振幅の進退動作が行われた場合)には、前後上下左右に内視鏡挿入部102も連動して進退移動するので、術者の意図通りに内視鏡100の視野や向き等を変えることができる。また、視野は常に処置具先端を撮像することになり、処置するために最適な画像が自動で提供される。処置部以外の箇所を確認したい場合は、鉗子を動かすことにより確認ができ、術者が思い通りに操作できる。したがって、術者とは別に内視鏡100の操作を行う助手(スコピスト)を不要にすることができ、術者が助手に対して内視鏡の視野や向き等を逐次指示しなければならないという煩わしさも無くすことができる。
【0073】
また、処置具挿入部202の軸方向への変位が小さい場合(小振幅の進退動作が行われた場合)には、内視鏡挿入部102が連動しないため、観察画像内における観察対象の大きさが不要に変動してしまうことを防止することができ、遠近感を適切に保ち、安定した観察画像を提供することができる。
【0074】
(スライダの内部構造)
スライダ400の内部構造について説明する。
【0075】
図6は、
図4においてスライダ400が配置されている部分を拡大して示した拡大断面図であり、内視鏡挿通路306及び処置具挿通路308の各々に内視鏡挿入部102及び処置具挿入部202を挿通させた状態を示す。
【0076】
図7は、
図6における7−7矢視断面図である。
【0077】
また、
図8及び
図9は、各々、スライダ400を後左上方向と後右上方向から示した斜視図であり、
図10は、スライダ400のみの断面図である。
【0078】
図6〜
図10に示すように、スライダ400は、スライダ400の構成部品を保持するスライダ本体402(スライダ部材)を有する。そのスライダ本体402は、
図7〜
図9に示されているように平坦な上面404及び下面406を有するとともに、上面404及び下面406の各々に凸条部408、410を有する。
【0079】
凸条部408、410は、各々、上面404及び下面406の左右方向のほぼ中央部において、上下方向に突出すると共に、外套管本体320の管腔324内において基準軸300a方向(前後方向)に延在しており、それらは、
図7に示すように外套管本体320の管腔324内の上部及び下部に設けられたガイド溝370、372に嵌入される。
【0080】
各ガイド溝370、372は、管腔324内の上部及び下部の各々に配置される左右一対のガイド板374、374と、ガイド板376、376の隙間によって形成される。
【0081】
図4には、管腔324内の下部に配置されるガイド板376、376が示されており、これに示されるように、各ガイド板374、374、376、376は、長板状に形成されており、基端キャップ340と先端キャップ360との間に掛け渡されることによって、基準軸300a方向に沿って設置される。
【0082】
これによって、各ガイド溝370、372が管腔324内において基端キャップ340から先端キャップ360まで基準軸300a方向に沿って配置される。
【0083】
スライダ400は、
図7に示すように管腔324内に収容配置された状態では、凸条部408、410の各々がガイド溝370、372に嵌入すると共に、上面404及び下面406の各々がガイド板374、374、376、376に接触又は近接する。これにより、スライダ400(スライダ本体402)は、管腔324内において前後方向に進退移動可能に支持され、かつ、上下左右方向への移動や全方向への回転が規制された状態(少なくとも基準軸300a周りの回転が不能な状態)で支持される。
【0084】
なお、ガイド溝370、372は、外套管本体320の管腔324内に配置されたガイド板374、374、376、376によって形成されるものではなく、外套管本体320の外壁322に形成されたものであってもよいし、他の構成により形成されたものであってもよい。
【0085】
また、スライダ400(スライダ本体402)が外套管本体320に対して前後方向に進退移動する範囲(移動可能範囲)は、スライダ400が基端キャップ340に当接する位置を後端(最基端位置)、先端キャップ360に当接する位置を前端(最先端位置)とする範囲となる。ただし、スライダ400の移動可能範囲の後端と前端は、基端キャップ340と先端キャップ360によって規制されたものでなくてもよい。
【0086】
また、スライダ400は、
図10に示すように、内視鏡挿入部102と連結(係合)する内視鏡連結部420と、処置具挿入部202と連結(係合)する処置具連結部422とを有する。
【0087】
(内視鏡連結部の説明)
内視鏡連結部420は、スライダ本体402の左側に設けられており、外套管本体320の管腔324内において内視鏡挿通路306となる空間を確保するとともに
図6のようにして内視鏡挿入部102が挿通される貫通孔424と、内視鏡挿通路306に挿通された内視鏡挿入部102の外周面(側面)に圧接する圧接部材426とを備える。
【0088】
貫通孔424は、スライダ本体402の後端から前端まで貫通形成されており、少なくとも内視鏡挿入部102の外径よりも大きな直径を有する。その貫通孔424の中心軸は、管腔324内において内視鏡挿通軸306aと同軸上に配置される。
【0089】
貫通孔424の後端側には、圧接部材426を取り付けるための圧接部材取付部428が設けられる。
【0090】
圧接部材取付部428は、貫通孔424の他の位置範囲よりも内径が拡大されるとともに、周方向の一部の範囲(スライダ400の左側面)においてスライダ本体402の外面(左側面431)まで貫通した開口430(
図8参照)が形成されている。この開口430から圧接部材426が貫通孔424へと嵌入されて圧接部材426が圧接部材取付部428においてスライダ本体402に固定される。
【0091】
圧接部材426は、
図7に示すように弾性ゴムやバネなどの弾性材により環状に形成されており、その貫通孔432の中心軸が内視鏡挿通軸306aと同軸上に配置される。
【0092】
これによって、内視鏡挿通路306に内視鏡挿入部102を挿通させたときには、
図6のように内視鏡挿入部102が圧接部材426の貫通孔432を挿通する。
【0093】
なお、圧接部材取付部428の開口430における圧接部材426の外周面の位置は、開口430周辺のスライダ本体402の左側面431の位置とほぼ一致している。即ち、圧接部材取付部428の開口430は、圧接部材426を配置するスペースを提供しており、圧接部材426をスライダ本体402の内部に完全に収容する構成と比較すると、スライダ本体402が小型化され、これに伴い外套管本体320の外径も細径化されている。ただし、圧接部材426をスライダ本体402の内部に完全に収容する構成としてもよい。
【0094】
また、圧接部材426の内径(貫通孔432の直径)は、内視鏡挿入部102の外径よりもわずかに小さい。
【0095】
そのため、内視鏡挿入部102を圧接部材426の貫通孔432に挿通させた際には、貫通孔432が押し広げられて圧接部材426が変形する。この変形により、圧接部材426に弾性力が生じて貫通孔432に挿通された内視鏡挿入部102に圧接部材426が圧接(係合)される。
【0096】
したがって、内視鏡挿入部102と圧接部材426との相対的な動きに対して摩擦力が作用する。そして、内視鏡挿入部102と圧接部材426との間に、その摩擦力よりも大きな外力が加わらない限り、内視鏡挿入部102と圧接部材426との間に相対的な動きが生じず、内視鏡挿入部102とスライダ400(スライダ本体402)とが圧接部材426を介して連動可能に連結(係合)された状態となる。
【0097】
これにより、内視鏡挿入部102の前後方向(軸方向)への進退移動に連動してスライダ400(スライダ本体402)も一体的に進退移動する。
【0098】
なお、ここでの連結は、圧接部材426の弾性力によるものなので、スライダ400(スライダ本体402)に対して連結される内視鏡挿入部102の係合位置(内視鏡挿入部102においてスライダ400が係合される位置)を任意に調整することができる。
【0099】
(処置具連結部の説明)
処置具連結部422は、
図10に示すように、スライダ本体402の右側に設けられており、処置具挿入部202に連結されるスリーブ440(スリーブ部材)と、スリーブ440を処置具挿通軸308a方向(前後方向)に進退移動可能にガイドするガイド部460とを備える。
【0100】
スリーブ440は、詳細を後述するガイド部460のスリーブ収容空間464に収容されるとともに、前後方向に進退移動可能に支持されており、
図7に示すように外側を囲むスリーブ本体(枠体)444と、内側に配置される圧接部材446とを備える。
【0101】
スリーブ本体444は、円筒状に形成されており、少なくとも処置具挿入部202の外径よりも大きな直径の貫通孔448を有する。その貫通孔448の中心軸は外套管本体320の管腔324内において処置具挿通軸308aと同軸上に配置され、処置具挿通路308の空間を確保する。
【0102】
圧接部材446は、弾性ゴムやバネなどの弾性材により環状に形成されており、スリーブ本体444の貫通孔448に嵌入されてスリーブ本体444に固定される。圧接部材446の貫通孔450の中心軸は、外套管本体320の管腔324内において処置具挿通軸308aと同軸上に配置される。
【0103】
したがって、処置具挿通路308に処置具挿入部202を挿通させたときには、
図6のように処置具挿入部202が圧接部材446の貫通孔450を挿通する。
【0104】
また、圧接部材446の内径(貫通孔450の直径)は、処置具挿入部202の外径よりもわずかに小さい。
【0105】
そのため、処置具挿入部202を圧接部材446の貫通孔450に挿通させた際には、貫通孔450が押し広げられて圧接部材446が変形する。この変形により、圧接部材446に弾性力が生じて貫通孔450に挿通された処置具挿入部202に圧接部材446が圧接(係合)される。
【0106】
したがって、処置具挿入部202と圧接部材446との相対的な動きに対して摩擦力が作用する。そして、処置具挿入部202と圧接部材446との間に、その摩擦力よりも大きな外力が加わらない限り、処置具挿入部202と圧接部材446との間に相対的な動きが生じず、処置具挿入部202とスリーブ440とが圧接部材446を介して連動可能に連結(係合)された状態となる。
【0107】
これによって、処置具挿入部202の前後方向(軸方向)への進退移動に連動してスリーブ440も一体的に進退移動する。
【0108】
また、処置具挿入部202の軸周りの回転に連動してスリーブ440もスライダ本体402に対して回転する。
【0109】
なお、ここでの処置具挿入部202とスリーブ440との連結は、圧接部材446の弾性力によるものなので、スリーブ440に対して連結される処置具挿入部202の係合位置(処置具挿入部202においてスリーブ440が係合される位置)を任意に調整することができる。
【0110】
また、スライダ400の内視鏡連結部420に内視鏡挿入部102を固定する領域を内視鏡固定領域といい、スライダ400の処置具連結部422に処置具挿入部202を固定する領域を処置具固定領域というものとする。本形態においては、内視鏡固定領域は内視鏡挿入部102の外周面に圧接する圧接部材426の内周面の領域に相当し、処置具固定領域は、処置具挿入部202の外周面に圧接する圧接部材446の内周面の領域に相当する。このとき、内視鏡固定領域は処置具固定領域よりも軸方向に長くなるよう構成することが望ましい。
【0111】
一方、処置具連結部422のガイド部460は、
図7、
図9に示すように、外套管本体320の管腔324内において処置具挿通軸308a(基準軸300a)方向に延びるガイド面462を有する。
【0112】
ガイド面462は基準軸300aに直交する断面において開口を右側に向けてU字状に湾曲しており、
図7のように外套管本体320の管腔324内において、そのガイド面462の開口に外套管本体320(外壁322)の内周面が対向して配置される。
【0113】
これによって、ガイド面462と外套管本体320の内周面とで囲まれた空間がガイド部460のスリーブ収容空間464として形成される。
【0114】
スリーブ収容空間464は、処置具挿通軸308aが挿通する位置に形成され、処置具挿通軸308aに沿って延在する。
【0115】
このスリーブ収容空間464には、上述のようにスリーブ440が収容配置され、スリーブ440の中心軸が処置具挿通軸308aと同軸上に配置される。
【0116】
スリーブ収容空間464においてスリーブ440の外周面は、ガイド面462と外套管本体320の内周面に接触又は近接する。
【0117】
これによって、スリーブ収容空間464においてスリーブ440は、前後方向に移動可能に、かつ、軸周りに回転可能に支持され、上下左右方向への移動が規制された状態で支持される。
【0118】
また、ガイド部460(スライダ本体402)は、
図9、
図10に示すようにその基端側と先端側の各々に、ガイド面462の端縁に沿ってガイド面462に直交する方向に突出形成された端縁部466、468を有する。
【0119】
これらの端縁部466、468は、スリーブ収容空間464に配置されたスリーブ440が前後方向に進退移動した際に、スリーブ440の端部に当接してスリーブ440の移動を規制する。
【0120】
したがって、スリーブ440は、端縁部466に当接する位置を後端、端縁部468の当接する位置を前端として、スライダ本体402に対して前後方向に進退移動する範囲(移動可能範囲)が制限される。ただし、スリーブ440の移動可能範囲の後端と前端は、端縁部466と端縁部468によって規制されたものでなくてもよい。
【0121】
なお、本実施の形態では、ガイド部460のスリーブ収容空間464を、スライダ本体402のガイド面462と外套管本体320の内周面とで形成するものとしている。そのため、スリーブ収容空間464をスライダ本体402のみで形成し、スリーブ440をスライダ本体402の内部に完全に収容する構成と比較して、スライダ本体402が小型化され、これに伴い外套管本体320の外径も細径化されている。しかしながら、スリーブ440をスライダ本体402の内部に完全に収容する構成としてもよい。
【0122】
(内視鏡及び処置具の連結時のスライダの作用)
以上のように構成されたスライダ400によれば、外套管300の内視鏡挿通路306に挿通された内視鏡挿入部102とスライダ本体402が連結し、外套管300の処置具挿通路308に挿通された処置具挿入部202とスリーブ440とが連結する。
【0123】
そして、
図11に示すようにスリーブ440がスライダ本体402に対する移動可能範囲の後端及び前端に到達してない状態において、術者が処置具挿入部202を軸方向(前後方向)に進退移動させるための進退操作を行ったとする。
【0124】
このとき、スリーブ440がスライダ本体402に対する移動可能範囲内で進退移動した場合には、処置具挿入部202の進退移動に対してスライダ本体402が移動しない。したがって、処置具挿入部202の進退移動に対して内視鏡挿入部102が連動しない不感帯領域が存在する。
【0125】
一方、
図12に示すようにスリーブ440がスライダ本体402に対する移動可能範囲の後端に到達している状態において、処置具挿入部202を後退操作すると、処置具挿入部202とともにスリーブ440及びスライダ本体402が外套管本体320に対して後退する。これによって、内視鏡挿入部102が処置具挿入部202と連動して後退する。
【0126】
同様に、
図13に示すようにスリーブ440がスライダ本体402に対する移動可能範囲の前端に到達している状態において、処置具挿入部202を前進操作すると、処置具挿入部202とともにスリーブ440及びスライダ本体402が外套管本体320に対して前進する。これによって、内視鏡挿入部102が処置具挿入部202と連動して前進する。
【0127】
したがって、上記のように処置具挿入部202を軸方向に大きく変位させた場合(大振幅の進退動作が行われた場合)には、処置具挿入部202と連動して内視鏡挿入部102が軸方向に変位し、処置具挿入部202の軸方向の変位が小さい場合(小振幅の進退動作が行われた場合)には内視鏡挿入部102が軸方向に変位しないようになっている。
【0128】
また、本実施の形態では、スライダ本体402が前後方向への進退移動のみに規制されているのに対して、スリーブ440がスライダ本体402に対して軸周りに回転可能に支持されている。そのため、
図14に示すように、処置具挿入部202を軸周りに回転操作した場合に、スライダ本体402が回転せずに、処置具挿入部202及びスリーブ440が軸周りに回転する。
【0129】
したがって、内視鏡挿入部102と処置具挿入部202との外套管300に対する位置(体腔内での位置)を変えることなく、処置具挿入部202の軸周りの回転角度を変えることができる。
【0130】
即ち、体壁に刺入した外套管300に内視鏡挿入部102と処置具挿入部202とを挿通させて所定の患部に処置を施す場合に、一般的な手技においては、内視鏡100は内視鏡挿入部102の上下左右方向の位置と軸周りの回転角度が固定されて使用される。
【0131】
一方、処置具200は、術者が操作しやすいように処置具挿入部202の軸周りの回転操作も進退操作と同様に適宜行われる。
【0132】
本実施の形態の外套管300では、内視鏡挿入部102と処置具挿入部202とをスライダ400により連結しているため、処置具挿入部202の回転操作などによって内視鏡挿入部102の上下左右方向の位置や軸周りの回転角度が変動するおそれがある。
【0133】
しかしながら、上述のようにスライダ400の進退移動以外の動作を規制しているため、内視鏡挿入部102を上下左右方向の位置や軸周りの回転角度を変化させることなく、処置具挿入部202を軸周りに回転させることができ、鉗子操作に必要な自由度(5自由度)が得られるようになっている。なお、鉗子操作の5自由度とは、臓器に対する鉗子の動きで、縦、横、進退方向、回転、鉗子の開閉動作の5つを示す。
【0134】
(スライダの動作条件)
次に、スライダ400の動作条件について説明する。ここでは、スライダ400の動作に関連する各部材に作用する力を以下のように定義する。
【0135】
内視鏡連結部420の圧接部材426が内視鏡挿入部102をその外周面の一定位置で固持する力を、スライダ本体402における内視鏡挿入部102に対する固定力というものとし、軸方向(前後方向)に対するその固定力(内視鏡挿入部102を軸方向の一定位置で固定する固定力)の大きさをF1とする。
【0136】
同様に、処置具連結部422におけるスリーブ440の圧接部材446が処置具挿入部202をその外周面の一定位置で固持する力を、スリーブ440における処置具挿入部202に対する固定力というものとし、軸方向(前後方向)に対するその固定力の大きさをF2とする。
【0137】
一方、内視鏡挿入部102が進退移動する際に弁部材346から受ける摩擦力をF3とし、処置具挿入部202が進退移動する際に弁部材348から受ける摩擦力をF4とする。
【0138】
また、スリーブ440がスライダ本体402に対して進退移動する際に周辺部材から受ける摩擦力をF5とし、スライダ本体402が外套管本体320に対して進退移動する際に周辺部材から受ける摩擦力をF6とする。
【0139】
(a)処置具の進退移動幅が大きい場合に内視鏡と処置具を連動させる条件について
処置具挿入部202が進退操作された際(大幅に進退操作された際)に、内視鏡挿入部102と処置具挿入部202とをスライダ400を介して一体的に進退移動させる条件として、固定力F1、F2、摩擦力F3は、次の条件(1)、(2)を満たす。
【0140】
F1>F3 ・・・(1)
F2>F3 ・・・(2)
これによって、処置具挿入部202が進退操作された際に、
図12又は
図13のようにスリーブ440がスライダ本体402に対する移動可能範囲の後端又は前端に到達すると、スリーブ440はスライダ本体402及び内視鏡挿入部102を介して弁部材346の摩擦力F3を受ける。このとき、摩擦力F3よりも大きな固定力F1により内視鏡挿入部102とスライダ本体402とが連結され、かつ、摩擦力F3よりも大きな固定力F2により処置具挿入部202とスリーブ440とが連結されているため、処置具挿入部202の進退移動と連動してスライダ本体402が進退移動し、スライダ本体402の進退移動と連動して内視鏡挿入部102が進退移動する。
【0141】
したがって、処置具挿入部202の進退操作した際に、弁部材346の摩擦力により、スライダ本体402に対する内視鏡挿入部102の係合位置がずれることがなく、また、スリーブ440に対する処置具挿入部202の係合位置がずれることもない。
【0142】
なお、処置具挿入部202が進退操作された際に、これと連動させてスライダ本体402を外套管本体320に対して進退移動させるための条件として、固定力F2と、摩擦力F6とは、次の条件(3)を満たす。
【0143】
F2>F6 ・・・(3)
同様に、内視鏡挿入部102が進退操作された際に、内視鏡挿入部102と処置具挿入部202とをスライダ400を介して一体的に進退移動させるために、固定力F1、F2、摩擦力F4とは、次の条件(4)、(5)を満たす。
【0144】
F1>F4 ・・・(4)
F2>F4 ・・・(5)
また、内視鏡挿入部102が進退操作された際に、これと連動させてスライダ本体402を外套管本体320に対して進退移動させるための条件として、固定力F1と、摩擦力F6とは、次の条件(6)を満たす。
【0145】
F1>F6 ・・・(6)
(b)処置具の進退移動幅が小さい場合に内視鏡と処置具を連動させない条件について
処置具挿入部202が小幅に進退操作された際に、
図11のように内視鏡挿入部102を進退移動させずに処置具挿入部202のみを進退移動させるための条件として、摩擦力F3、F5、F6は、次の条件(7)を満たす。
【0146】
F3+F6>F5 ・・・(7)
これにより、
図11で示したように処置具挿入部202の移動幅が小さいときは内視鏡挿入部102は移動せず、処置具挿入部202の進退移動幅が大きいときは内視鏡挿入部102が移動する。すなわち、処置具挿入部202の進退移動幅が小さい場合は、スリーブ440がスライダ本体402内のみで進退移動し、スライダ本体402自体は外套管本体320に対して移動しないので内視鏡挿入部102が軸方向(前後方向)に進退移動しない。
【0147】
なお、外套管本体320に対するスライダ本体402の摩擦抵抗が、内視鏡挿入部102と弁部材346との間の摩擦力に対して無視できるほど小さい場合は、F6は略0とみなせるので、条件(7)は、F3>F5となる。
【0148】
一方、処置具挿入部202の進退移動幅が大きい場合は、スリーブ440がスライダ本体402内で進退移動しスライダ本体402の先端側もしくは基端側に突き当てられてスライダ本体402自体を外套管本体320に対して移動させるので、スライダ本体402に連結した内視鏡挿入部102も進退移動する。
【0149】
(c)処置具挿入部202の長さ調整のための条件について
内視鏡100と処置具200とを把持しながら処置具挿入部202の長さ調整を行えるようにするための条件として、固定力F1、F2は、次の条件(8)を満たすことが好ましい。
【0150】
F1>F2 ・・・(8)
これにより、外套管本体320を持って処置具挿入部202を進退移動した場合、又は、内視鏡挿入部102を持って処置具挿入部202を進退移動した場合であっても、スライダ本体402に対する内視鏡挿入部102の係合位置を変えることなく、スライダ本体402に対する処置具挿入部202の係合位置を変えることができる。
【0151】
外套管本体320を持って処置具挿入部202を進退移動することによって処置具挿入部202の長さ調整を行う場合、発生する摩擦力はスリーブ440と処置具挿入部202との間と、弁部材348と処置具挿入部202との間であるので、処置具挿入部202の進退操作に要する操作力はF2+F4である。したがって、このような調整操作を術者がストレスを感じることなく行えるようにする場合には、固定力F2と、摩擦力F4とが、次の条件(9)を満たすことが望ましい。
【0152】
F2+F4<10N(Nはニュートン) ・・・(9)
一方、内視鏡挿入部102を持って処置具挿入部202を進退移動することによって処置具挿入部202の長さ調整を行う場合、F4<F3ならば上記と同様の摩擦力が発生するので、式(9)を満足することが望ましく、F3<F4ならば、発生する摩擦力はスリーブ440と処置具挿入部202との間と、弁部材346と内視鏡挿入部102との間であるので、処置具挿入部202の進退操作に要する操作力はF2+F3である。したがって、このような調整操作を術者がストレスを感じることなく行えるようにする場合には、固定力F2と、摩擦力F3とが、次の条件(10)を満たすことが望ましい。
【0153】
F2+F3<10N(Nはニュートン) ・・・(10)
これらの条件(9)と条件(10)のうち、両方の条件を満たすようにした場合に限らず、いずれか一方のみの条件を満たすようにした場合であっても効果的である。
【0154】
なお、固定力F1、F2が次の式(11)を満たす場合であっても、処置具挿入部202の長さ調整は行えるが、この場合は内視鏡挿入部102とスライダ本体402との係合位置が動いてしまう可能性があり、別途スライダ本体402と内視鏡挿入部102との位置調整が必要となる可能性がある。
【0155】
F1<F2 ・・・(11)
このような調整操作を術者がストレスを感じることなく行えるようにする場合には、固定力F1と、摩擦力F3もしくはF4とが、次の条件(12)もしくは(13)を満たすことが望ましい。
【0156】
F1+F4<10N(Nはニュートン) ・・・(12)
F1+F3<10N(Nはニュートン) ・・・(13)
(d)良好な操作性を確保するための条件について
術者がストレスを感じることなく処置具挿入部202の進退操作を行うことができる条件として、摩擦力F3、F4、F6は、次の条件(14)を満たすことが好ましい。
【0157】
F3+F4+F6<10N(Nはニュートン) ・・・(14)
このように、術者が処置具挿入部202を大幅に進退操作する際に必要な操作力(F3+F4+F6)を設定しておくことにより、術者がストレスを感じることなく良好な操作性を確保することができる。
【0158】
(e)外套管が体壁に対してずれないための条件
処置具挿入部202の進退操作によって外套管300(外套管本体320)が体壁に対してずれないようにするための条件として、外套管300の体壁に対する前後方向(軸方向)の固定力をFtとすると、固定力Ftと、摩擦力F3、F4とは、次の条件(15)を満たす。
【0159】
Ft>F3+F4 ・・・(15)
これによって、処置具挿入部202が進退操作されても、体壁に刺入された外套管300(外套管本体320)はずれることなく安定した状態で固定されているので、良好な操作性を確保することが可能となる。
【0160】
(スライダの他の形態)
以上の外套管300において、外套管本体320に対してスライダ400を前後方向のみに進退移動できるようにしたスライダ400の支持機構は、上記形態に限らない。
【0161】
図15は、基準軸300aに直交する断面により外套管300の他の形態を示した断面図である。なお、上記形態と同一又は類似の作用の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0162】
同図に示す形態では、外套管本体320の管腔324内の上部と下部に、基端(基端キャップ340)から先端(先端キャップ360)まで掛け渡されたガイド棒470、472が、基準軸300a方向に沿って配置される。
【0163】
一方、スライダ400のスライダ本体402の上部と下部には、基端から前端まで貫通するガイド孔474、476が形成される。
【0164】
そして、それらのガイド孔474、476の各々にガイド棒470、472が挿通されて管腔324内でスライダ400が支持される。
【0165】
これにより、外套管本体320に対してスライダ400が前後方向のみに進退移動可能に支持される。
【0166】
図16は、基準軸300aに直交する断面により外套管300のさらに他の形態を示した断面図である。なお、上記形態と同一又は類似の作用の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0167】
同図に示すように、外套管本体320(外壁322)の内周面、即ち、管腔324の外形は、基準軸300aに直交する断面において楕円形に形成される。
【0168】
一方、スライダ400は、その枠体であるスライダ本体402の外周面が基準軸300aに直交する断面において管腔324と同形の楕円に沿った形状を有し、スライダ本体402の外周面が外套管本体320の内周面に接触又は近接するように形成される。
【0169】
これにより、外套管本体320に対してスライダ400が前後方向のみに進退移動可能に支持される。
【0170】
なお、これに限らず、基準軸300aに直交する断面における、外套管本体320の内周面の形状と、スライダ本体402の形状とが回転不能な形状の組み合わせであればよい。例えば、
図7や
図15に示した形態において、外套管本体320の内周面の形状を
図16のように楕円形にして外套管本体320の内周面がスライダ本体402に対して外接するようにすれば、
図16の形態と同様に、
図7の形態における凸条部408、410やガイド板374、376、
図15の形態におけるガイド棒470、472やガイド孔474、476などの特別なガイド手段を不要にすることができる。
【0171】
(内視鏡挿入部が外套管内に入り込むのを防止するための条件)
次に、スライダ400に対する内視鏡挿入部102の係合位置に関して説明する。
【0172】
なお、以下において、スライダ400(スライダ本体402)に対する内視鏡挿入部102の係合位置を主に連結位置といい、スライダ400の
図10等に示した内視鏡連結部420が連結する内視鏡挿入部102の位置を示すものとする。
【0173】
スライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置は、上述のように術者等が自由に変更することができる。
【0174】
そのため、外套管300の内視鏡挿通路306と処置具挿通路308の各々に内視鏡挿入部102と処置具挿入部202とを挿通させている状態において、例えば処置具挿入部202を後退させた際に、これと連動して後退した内視鏡挿入部102の先端(先端面114)が外套管300の内部(内視鏡繰出口312よりも基端側)に入り込む可能性がある。
【0175】
内視鏡挿入部102の先端が外套管300の内部に入り込むと、内視鏡100の観察視野が外套管300により遮られてしまい、処置が行えない等の不具合が生じる。
【0176】
また、内視鏡挿入部102の先端が汚れた場合には、内視鏡挿入部102を外套管300から一旦、抜去して洗浄した後、外套管300に再挿入するという作業が行われる。
【0177】
このとき、処置具挿入部202の先端(処置部206)と内視鏡挿入部102の先端との軸方向に関する位置関係を元の状態に戻すためには、スライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置を元の位置に設定する必要がある。
【0178】
しかしながら、スライダ400は、外套管本体320に対して進退移動可能であるため、スライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置を正確に把握することができず、連結位置を元の位置に戻すことが難しいという問題がある。
【0179】
これらの問題を解消するために以下の形態を採用すると好適である。
【0180】
図17は、外套管300の内視鏡挿通路306と処置具挿通路308とに内視鏡挿入部102と処置具挿入部202とを挿通させた状態においてスライダ本体402が外套管本体320に対する移動可能範囲の後端に配置された状態を示した外套管300の断面図である。
【0181】
まず、基準軸300a方向に関して、スライダ400に対する内視鏡連結部420の連結位置を、スライダ400の圧接部材426の後端426eの位置(後端426eに対向する位置)とする。
【0182】
そして、同図に示すように、スライダ本体402が外套管本体320に対して移動可能範囲の後端に配置されている状態において、内視鏡挿入部102の連結位置から外套管300の先端(先端面304)までの長さをLとする。
【0183】
これに対して、内視鏡挿入部102の連結位置は、その連結位置から内視鏡挿入部102の先端(先端面114)までの長さLsが、次の条件(16)を満たす位置に設定される。
【0184】
Ls≧L ・・・(16)
これによって、スライダ本体402が
図17のように移動可能範囲の後端に移動したときでも内視鏡挿入部102の先端が外套管300の先端に一致した位置又はそれよりも前方に突出した位置に配置される。
【0185】
したがって、内視鏡挿入部102の先端が外套管300の内部に入り込むという事態が未然に防止される。
【0186】
なお、スライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置を圧接部材426の後端426eの位置としたが、圧接部材426の後端426e以外の位置を連結位置と定義した場合であっても上記条件(16)を満たす。ただし、以下において長さLという場合には、圧接部材426の後端426eの位置から外套管300の先端までの長さをいうものとする。
【0187】
また、内視鏡挿入部102の連結位置を、条件(16)を満たす特定の位置に設定できるように構成することで、内視鏡挿入部102を外套管300から一旦、抜去した場合であっても、外套管300に再挿入した際に、内視鏡挿入部102の連結位置を元の位置に容易に設定しなおすことができる。
【0188】
(内視鏡挿入部が外套管内に入り込むのを防止するための構成例)
図18は、内視鏡挿入部102の先端が外套管300内に入り込むことを防止することができる内視鏡100の実施の形態を示す平面図である。
【0189】
同図に示すように内視鏡100の内視鏡挿入部102は、所定位置の段差部154と、段差部154よりも先端側の細径部150と、段差部154よりも基端側の太径部152と、を有する。
【0190】
細径部150は、外套管300の内視鏡挿通路306を挿通可能であるが、スライダ400(内視鏡連結部420)が連結しない大きさの直径を有する。即ち、細径部150は、スライダ400の内視鏡係合部である圧接部材426(
図6等参照)の内径よりも細く、圧接部材426に係合不能である。
【0191】
また、細径部150は、上記長さL以上の長さL0を有する(L0≧L)。
【0192】
太径部152は、細径部150よりも太く、外套管300の内視鏡挿通路306を挿通可能であり、かつ、スライダ400の圧接部材426に圧接されてスライダ400(内視鏡連結部420)が連結する大きさの直径を有する。即ち、太径部152は、圧接部材426の内径よりもわずかに太く、摩擦係合部である圧接部材426に摩擦係合することによって係合可能である。
【0193】
段差部154は、細径部150と太径部152との境界位置に形成され、軸方向に直交する環状の面であって、細径部150の外周面と太径部152の外周面とを連結する連結面を有する。
【0194】
図19は、
図18の内視鏡挿入部102にスライダ400が連結した直後の外套管300の一部を拡大して示した断面図である。
【0195】
外套管300の内視鏡挿通路306に内視鏡挿入部102を挿入して前進させ、スライダ400に対して内視鏡挿入部102を連結させる場合に、同図に示すように、内視鏡挿入部102の細径部150は、スライダ400の圧接部材426に圧接されずに圧接部材426の貫通孔432を通過する。
【0196】
そして、段差部154が圧接部材426の後端426eの位置に到達すると、段差部154に押されてスライダ400が内視鏡挿入部102とともに前進し、外套管本体320に対する移動可能範囲の前端まで移動する。
【0197】
なお、処置具挿入部202は把持せずに解放しているものとする。
【0198】
その後さらに内視鏡挿入部102を前進させると、同図に示すように太径部152が圧接部材426の貫通孔432内に入り込む。
【0199】
これによって、太径部152が圧接部材426に圧接されて圧接部材426と係合し、スライダ400が内視鏡挿入部102に連結する。
【0200】
このとき、内視鏡挿入部102の前進操作を行っている操作者は、前進操作の操作力が大きくなることから、スライダ400が内視鏡挿入部102に連結したことを感知することができる。そして、スライダ400が内視鏡挿入部102に連結したことを感知してから更に内視鏡挿入部102を前進させることによって、スライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置を調整することができる。
【0201】
このようにして、
図18の内視鏡挿入部102を外套管300の内視鏡挿通路306に挿入して、スライダ400に対して内視鏡挿入部102を連結させた場合には、内視鏡挿入部102の段差部154は、スライダ400の圧接部材426の後端426eよりも前側に配置された状態となる。
【0202】
したがって、圧接部材426の後端426eの位置から内視鏡挿入部102の先端までの長さ、即ち、
図17で示した内視鏡挿入部102の連結位置から内視鏡挿入部102の先端までの長さLsは、内視鏡挿入部102の細径部150の長さL0以上となる(Ls≧L0)。
【0203】
上述のように細径部150の長さL0は上記長さL以上(L0≧L)となっているため、スライダ400が内視鏡挿入部102に連結した状態では、上記条件(16)を満たす状態に設定される。
【0204】
また、上述のように内視鏡挿入部102の前進操作の操作力が大きくなり、スライダ400が内視鏡挿入部102に連結したことを感知した場合に、その時点で内視鏡挿入部102の前進操作を停止すると、
図19のようにスライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置(圧接部材426の後端426eの位置)が段差部154とほぼ一致する位置となる。
【0205】
即ち、操作者は内視鏡挿入部102の進退操作の操作感に従って、スライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置を、常に段差部154の近傍位置に設定することができる。
【0206】
したがって、スライダ400に対して内視鏡挿入部102を段差部154の近傍位置で連結させて使用するものとすれば、内視鏡挿入部102を外套管300から一旦、抜去した場合であっても、内視鏡挿入部102を外套管300に再挿入した際にスライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置を元の位置に容易に設定しなおすことができる。
【0207】
以上、上記形態の内視鏡100では、内視鏡挿入部102の段差部154よりも基端側の太径部152の位置においてのみスライダ400に対して連結可能とするようにしたが、これに限らない。
【0208】
(内視鏡挿入部が外套管内に入り込むのを防止するための他の構成例)
図20は、内視鏡挿入部102の先端が外套管300内に入り込むことを防止することができる内視鏡100の他の実施の形態を示した平面図である。
【0209】
同図に示す内視鏡100の内視鏡挿入部102は、全体が一定の大きさの直径を有しており、外套管300の内視鏡挿通路306を挿通可能であり、かつ、スライダ400の圧接部材426に圧接されてスライダ400が連結する大きさの直径を有する。即ち、圧接部材426の内径よりもわずかに太い。
【0210】
一方、内視鏡挿入部102の軸方向の一部の範囲に摩擦係数が他の部分よりも高い高摩擦部170(高摩擦部材)が設けられる。
【0211】
高摩擦部170は、その前端の位置から内視鏡挿入部102の先端までの長さL1が上記長さL以上となる位置に設けられる(L1≧L)。
【0212】
この内視鏡100によれば、外套管300の内視鏡挿通路306に内視鏡挿入部102を挿入して前進させてスライダ400に連結させる際に、高摩擦部170の前端が圧接部材426の後端426eの位置に到達すると、その後、高摩擦部170が圧接部材426の貫通孔432内に入り込む。これによって、内視鏡挿入部102の前進操作を行っている操作者は、前進操作の操作力が大きくなることから、スライダ400に対する内視鏡挿入部102の連結位置が高摩擦部170に到達したことを感知することができる。
【0213】
このとき、圧接部材426の後端426eの位置から内視鏡挿入部102の先端までの長さ、即ち、
図17で示した内視鏡挿入部102の連結位置から先端までの長さLsは、上記長さL1以上となり(Ls≧L1)、長さL1が上記長さL以上(L1≧L)であることから、上記条件(16)を満たす状態に設定される。
【0214】
したがって、内視鏡挿入部102の連結位置が高摩擦部170に到達したことを感知してから更に内視鏡挿入部102をスライダ400に対して前進させた位置でスライダ400を連結させれば、上記条件(16)を満たす状態に設定することができる。
【0215】
一方、内視鏡挿入部102の連結位置が高摩擦部170に到達したことを感知した位置でスライダ400を連結させるものとすれば、内視鏡挿入部102を外套管300の内視鏡挿通路306から一旦、抜去した場合であっても、内視鏡挿入部102の連結位置を元の位置に容易に設定しなおすことができる。
【0216】
以上の形態では、スライダ400を外套管本体320に対する移動可能範囲の後端に配置された状態において、内視鏡挿入部102の先端が外套管300の先端よりも基端側に配置されないようにしたが、これに限らず、外套管300の先端以外の任意の位置を基準位置にして、内視鏡挿入部102の先端がその基準位置よりも基端側に配置されないようにすることもできる。
【0217】
(処置具挿入部への適用)
また、内視鏡挿入部102に関する上記実施の形態は、処置具挿入部202に関しても同様に適用することができる。即ち、スライダ400が外套管本体320に対する移動可能範囲の後端に配置され、かつ、スリーブ440がスライダ本体402に対する移動可能範囲の後端に配置されている状態において、スリーブ440に係合している処置具挿入部202の先端が、少なくとも外套管300の先端面304又は所望の基準位置よりも基端側とならないように
図18や
図20に示した内視鏡挿入部102の段差部154や高摩擦部170と同様の構成部を処置具挿入部202に設けてもよい。
【0218】
(内針の説明)
次に、外套管300を体壁に刺入する際に外套管300に装着して使用する内針500について説明する。
【0219】
図21、
図22は各々、内針500を外套管300に装着した状態を前左上方向と後左下方向とから示した斜視図であり、
図23は内針500のみを前左下方向から示した斜視図である。なお、内針500の前後、左右、上下の関係については、
図21のように外套管300に装着した際の外套管300の前後、左右、上下の関係に従うものとする。
【0220】
これらの図に示すように、内針500は、細長に形成された2本の軸部502、504と、軸部502、504の各々の先端に形成された先端部506、508と、軸部502、504の基端側に設けられた頭部510とから構成される。
【0221】
軸部502(第1軸部)は、上述の内視鏡挿入部102の外径以下の直径を有し、内視鏡挿通路306に挿通可能な太さに形成される。
図21、
図22のように外套管300に内針500を装着する際には、軸部502は、外套管300の内視鏡挿通路306に挿通配置される。
【0222】
また、軸部502は、外套管300(内視鏡挿通路306)の前後方向の長さよりもわずかに長く形成されており、外套管300に内針500を装着した際に、軸部502の先端部506が内視鏡繰出口312から所定長さ分だけ突出する。
【0223】
軸部504(第2軸部)は、上述の処置具挿入部202の外径以下の直径を有し、処置具挿通路308に挿通可能な太さに形成される。
図21、
図22のように外套管300に内針500を装着した際には、軸部504は、外套管300の処置具挿通路308に挿通配置される。
【0224】
また、軸部504は、外套管300(
処置具挿通路
308)の前後方向の長さよりもわずかに長く形成されており、外套管300に内針500を装着した際に、軸部504の先端部508が処置具繰出口316から所定長さ分だけ突出する。
【0225】
先端部506、508は、曲面形状にしてエッジができないように鈍く構成(すなわち、丸みを帯びた非エッジ形状)となっているが、体壁を容易に貫通可能となっている。
【0226】
頭部510は、頭部本体512とロックレバー514とを有する。
【0227】
頭部本体512は、
図22、
図23に示すように、軸部502、504と平行して前後方向に延びる軸520を中心とする円柱面であって、外套管300の基端キャップ340の外径とほぼ一致する直径の円柱面に沿った側面522と、軸520に平行し(前後方向及び左右方向に平行し)、かつ、側面522が沿う円柱面と交差する平面に沿った下面524と、軸520に直交する平面に沿った後端面526と前端面528とに囲まれた形状を有する。
【0228】
なお、軸520は、外套管300に内針500を装着した状態のときには外套管300の基準軸300a(不図示)と同軸上に配置される。
【0229】
頭部本体512の前端面528には、軸部502、504の基端側が固定され、頭部本体512の側面522には、周方向の中央部(最上部)において軸520方向(前後方向)に沿ってロックレバー514が設けられる。
【0230】
ロックレバー514は、内針500の頭部510を外套管300に着脱自在に固定する固定機構の構成要素であり、軸520方向に沿って延びる長板状に形成されており、軸520方向の中央付近を支点にして、前端部と後端部とが上下方向の互いに反対となる向きに揺動可能に頭部本体512に支持されている。
【0231】
ロックレバー514の先端部の下面側には係止爪532(
図23参照)が突設されており、この係止爪532は、
図3、
図5に示されているように基端キャップ340に設けられた係止孔534に嵌合する形状を有する。
【0232】
また、ロックレバー514の基端部の下面側となる位置において頭部本体512にはコイルバネなどの付勢部材が配置されており、ロックレバー514は、後端部が上向き、前端部が下向きとなる方向に付勢されている。
【0233】
(内針装着時の作用)
以上のごとく構成された内針500によれば、外套管300の内視鏡挿入口310と処置具挿入口314の各々から内視鏡挿通路306と処置具挿通路308に内針500の軸部502、504の各々を挿入していくと、
図24のように内針500の頭部510が、外套管300の基端キャップ340に近づいていく。
【0234】
そして、さらに内針500を挿入していくと、
図21、
図22のように頭部本体512の前端面528が外套管300(基端キャップ340)の基端面302に当接するとともに、ロックレバー514の係止爪532が基端キャップ340の係止孔534に嵌合して、内針500が外套管300に装着(固定)された状態となる。
【0235】
このとき、内針500の軸部502、504の先端部506、508が外套管300の先端から所定の長さだけ突出するように配置される。
【0236】
一方、内針500が外套管300に装着された状態において、ロックレバー514の基端部を押圧すれば、係止爪532を基端キャップ340の係止孔534から外すことができ、その状態で内針500を手元側に引き抜けば、内針500を外套管300から取り外すことができる。
【0237】
また、上述のように内針500の頭部本体512は、円柱状の部材に対して下面524により下側を切り欠いた形状を有している。即ち、外套管300に内針500を装着した際に送気コネクタ318と干渉する部分を切り欠いた切欠き部が頭部本体512に設けられている。
【0238】
これによって、外套管300に内針500を装着した際に、
図22のように外套管300(基端キャップ340)の基端面302に突設された送気コネクタ318と干渉することなく、頭部本体512の前端面528を基端面302に当接させることができ、内針500を外套管300に安定した状態で装着することができるようになっている。
【0239】
なお、上記形態に限らず、外套管300に内針500を装着した際に、頭部本体512の少なくとも送気コネクタ318と干渉する部分を切り欠いた切欠き部を頭部本体512が有していればよい。また、軸部502、504により頭部本体512は外套管300に対して回転規制されるため、送気コネクタ318と干渉することがない。
【0240】
<内視鏡下外科手術装置の操作方法>
次に、本実施形態の内視鏡下外科手術装置10を用いた操作方法の一例について説明する。
【0242】
図25は、外套管300が体壁に刺入されるときの様子を示した図である。
【0243】
図26、
図27は、処置具挿入部202が手元側から体腔内の患部側に押し込まれるときの様子を示した図である。
【0244】
図28、
図29は、処置具挿入部202が体腔内の患部側から手元側に引き込まれるときの様子を示した図である。
【0245】
まず、内視鏡下外科手術装置10の操作を開始するための準備工程として、外套管300に内針500を挿通させた状態で、外套管300を体壁に形成された皮切部(切開創)に刺入し、
図25の(A)部の符号1000で示す状態のように外套管300を体腔内に刺入する。
【0246】
次に、内視鏡挿通路306及び処置具挿通路308から内針500を抜去し(外套管300から内針500を取り外し)、送気チューブ122の一方の端部を
図25の(B)部の符号1002で示す状態のように外套管300の送気コネクタ318に接続する。他方の端部は気腹装置120に接続する。そして、気腹装置120から気腹ガスを送り出し、送気チューブ122、外套管300を通じて気腹ガスを体腔内に注入する。
【0247】
次に、外套管300の内視鏡挿入口310から内視鏡挿通路306に内視鏡挿入部102を挿入し、内視鏡挿入部102の先端を内視鏡繰出口312から導出させる。
【0248】
このとき、内視鏡挿入部102は、スライダ400の内視鏡連結部420を挿通し、上述のようにスライダ本体402と連結する。これにより、内視鏡挿入部102とスライダ400とが一体的に移動する状態となる。
【0249】
続いて、外套管300の処置具挿入口314から処置具挿通路308に処置具挿入部202を挿入し、処置具挿入部202の先端(処置部206)を処置具繰出口316から導出させる。
【0250】
このとき、処置具挿入部202は、スライダ400の処置具連結部422のスリーブ440を挿通し、上述のようにスリーブ440と連結する。これにより、処置具挿入部202とスリーブ440とが一体的に移動する状態となる。
【0251】
このようにして準備工程を行うと、
図25の(C)部の符号1004で示す状態のように、内視鏡下外科手術装置10の操作を開始可能な状態となる。
【0252】
なお、内視鏡100によって処置具挿入部202の先端の処置部206の様子を観察できるように、内視鏡挿入部102の先端位置が少なくとも処置具挿入部202の先端位置よりも後方に配置されるようにする。また、外套管300に対する内視鏡挿入部102及び処置具挿入部202の挿入手順は上述した順序に限定されず、処置具挿入部202を挿入してから内視鏡挿入部102を挿入してもよい。
【0253】
次に、処置具挿入部202が手元側から体腔内の患部側に押し込まれる場合(前進する場合)について
図26、
図27を参照して説明する。
【0254】
まず、
図26の(A)部の符号1006に示す状態から
図26の(B)部の符号1008に示す状態のように、処置具挿入部202が軸方向に微小変位した場合(小振幅の進退動作が行われた場合)には、処置具挿入部202のみが進退移動してスライダ400は進退移動しない。したがって、内視鏡挿入部102は進退移動しないので、モニタ112に表示される観察画像の範囲は変化しない。このため、処置具挿入部202の微小変位に応じて観察対象の大きさが変動してしまうのを防止することができ、遠近感を適切に保つことができ、安定した観察画像を得ることができる。
【0255】
これに対し、
図26の(A)部の符号1006と同じ状態の
図27の(A)部の符号1006に示す状態から
図27の(B)部の符号1010に示す状態のように、処置具挿入部202が軸方向に大きく変位した場合(大振幅の進退動作が行われた場合)には、処置具挿入部202の進退移動に連動してスライダ400が進退移動する。この場合、内視鏡挿入部102は進退移動するので、モニタ112に表示される観察画像の範囲が処置具挿入部202の進退移動に追従するように連続的に変更される。これにより、処置具200の操作に応じて観察対象の大きさが変化するので、術者が望む画像を簡単に得ることが可能となる。
【0256】
また、処置具挿入部202が体腔内の患部側から手元側に引き込まれる場合(後退する場合)についても同様である。
【0257】
すなわち、
図28の(A)部の符号1012に示す状態から
図28の(B)部の符号1014に示す状態のように、処置具挿入部202が軸方向に微小変位した場合(小振幅の進退動作が行われた場合)には、処置具挿入部202のみが進退移動してスライダ400は進退移動しない。したがって、内視鏡挿入部102は進退移動しないので、モニタ112に表示される観察画像の範囲は変化しない。このため、処置具挿入部202の微小変位に応じて観察対象の大きさが変動してしまうのを防止することができ、遠近感を適切に保つことができ、安定した観察画像を得ることができる。
【0258】
これに対し、
図28の(A)部の符号1012と同じ状態の
図29の(A)部の符号1012に示す状態から
図29の(B)部の符号1016に示す状態のように、処置具挿入部202が軸方向に大きく変位した場合(大振幅の進退動作が行われた場合)には、処置具挿入部202の進退移動に連動してスライダ400が進退移動する。この場合、内視鏡挿入部102は進退移動するので、モニタ112に表示される観察画像の範囲が処置具挿入部202の進退移動に追従するように連続的に変更される。これにより、処置具200の操作に応じて観察対象の大きさが変化するので、術者が望む画像を簡単に得ることが可能となる。
【0259】
<内視鏡下外科手術>
次に、本実施形態の内視鏡下外科手術装置10を用いた内視鏡下外科手術の一例について説明する。
【0260】
(腹腔鏡下胆嚢摘出手術)
まず、内視鏡下外科手術の第1例として、腹腔鏡下胆嚢摘出手術について説明する。
【0261】
図30は、腹腔鏡下胆嚢摘出手術におけるポート配置(ポートデザイン)を示した図である。
【0262】
本実施形態の内視鏡下外科手術装置10を用いた腹腔鏡下胆嚢摘出手術では、
図30に示すように、患者の腹部には内視鏡や処置具を腹腔内に挿入する穴(ポート)が3箇所に形成される。すなわち、本実施形態では、同一のポートから外套管(第1トラカール:上記外套管300に相当)を介して内視鏡(上記内視鏡100に相当)及び処置具(上記処置具200に相当)が体腔内に挿入されるため、従来のマルチポート(多孔式)腹腔鏡下胆嚢摘出手術に比べてポート数が1つ少なくなっている。
【0263】
図31は、腹腔鏡下胆嚢摘出手術の手順を示した図である。また、
図32は、胆嚢処置工程の手順を示した図である。以下、
図31及び
図32を参照しながら腹腔鏡下胆嚢摘出手術の手順について説明する。
【0264】
[第1トラカール挿入工程]
まず、所定の事前準備を行った後(ステップS10)、第1トラカール挿入工程を行う(ステップS12)。第1トラカール挿入工程では、術者が患者の腹壁表面を皮切した後、術者と助手が皮切部を腹膜までダイレーションを行う。その後、術者と助手が第1トラカールを皮切部に挿入する。なお、第1トラカールを腹腔内に挿入する場合には、第1トラカール内部に内針(上記内針500に相当)を挿通した状態で行う。そして、第1トラカールの挿入後は第1トラカールから内針を抜去する。これにより、第1トラカールの挿入時に第1トラカール内部に腹壁の組織が侵入してしまうのを防止できる。また、患者の腹腔内に挿入された第1トラカールが動きやすい場合には、必要に応じて術者と助手が第1トラカールを糸で腹壁に固定する。
【0265】
[気腹工程]
次に、気腹工程を行う(ステップS14)。気腹工程では、まず、気腹チューブ(上記送気チューブ122に相当)を第1トラカールに接続する。次いで、気腹チューブを気腹装置(上記気腹装置120に相当)に装着し気腹装置を操作する。これにより、気腹装置から気腹チューブ及び第1トラカールを介して患者の腹腔内に気腹ガスが送気される。このとき、患者の腹腔内に送気される気腹ガスの送気圧は8〜12mmHg(mmHgは約133.322Pa)の範囲に調整されていることが好ましい。なお、気腹工程としては、本例に限らず、例えば予め患者の腹壁に図示しない気腹針を穿刺し、気腹ガスを送気して気腹するようにしてもよい。
【0266】
また、気腹工程において、患者の腹腔内に送気された送気ガスが外部に漏れ出す場合には、術者が気腹漏れ部を結紮縫合する。
【0267】
[内視鏡挿入工程]
次に、内視鏡挿入工程を行う(ステップS16)。内視鏡挿入工程では、術者が、第1トラカールの内部に配置されるスライダ(上記スライダ400に相当)に対する内視鏡挿入部の固定位置を調整しながら、第1トラカールに対して内視鏡(上記内視鏡100に相当)を挿入する。このとき、内視鏡挿入部(上記内視鏡挿入部102に相当)の先端部が第1トラカールから所定長さだけ突出するようにスライダとの固定位置が調整されることが好ましい。これにより、患者の腹腔内に第1トラカールを介して内視鏡挿入部が挿入される。
【0268】
[第2トラカール挿入工程]
次に、第2トラカール挿入工程を行う(ステップS18)。第2トラカール挿入工程では、術者が、内視鏡挿入工程で第1トラカールを介して患者の腹腔内に挿入された内視鏡によって得られる観察画像(内視鏡画像)を確認しながら、患者の腹壁表面を約7〜8mm切開して、その切開部に第2トラカール(5mmトラカール)を鈍的挿入する。具体的には、まず、術者が、内視鏡を他のトラカール突破位置に向け、腹膜の画像をモニタに映す。次いで、術者が、その画像を見ながら腹壁のフィンガーサインを送り、トラカール突破位置を確認する。その後、術者が、確認されたトラカール突破位置に対応する腹壁表面を約7〜8mm切開する。切開後、術者が、第2トラカールを切開部に鈍的挿入する。このとき、術者は、内視鏡画像を観察しながら腹壁を突破する。これにより、患者の腹腔内に安全に第2トラカールが挿入される。
【0269】
[第3トラカール挿入工程]
次に、第3トラカール挿入工程を行う(ステップS20)。第3トラカール挿入工程は、第2トラカール挿入工程と同様に行われる。これにより、患者の腹腔内に安全に第3トラカールが挿入される。
【0270】
[観察工程]
次に、観察工程を行う(ステップS22)。観察工程は、全体観察を行ってから要部観察を行う。すなわち、術者が、内視鏡を手元側(後方側)に後退させて、内視鏡で腹腔内の全体を観察し、解剖の確認や癒着状況の確認を行う。続いて、術者が、内視鏡を患部側(前方側)に前進させて、胆嚢と肝臓付近を内視鏡で観察する。
【0271】
[処置具挿入工程]
次に、処置具挿入工程を行う(ステップS24)。処置具挿入工程では、術者又は助手が、患者の腹腔内に第1〜第3トラカールを介してそれぞれ所定の処置具を順次挿入する。
【0272】
具体的には、まず、術者が、処置具として把持鉗子(5mm把持鉗子)を第2トラカールに挿入する。第2トラカールに挿入される処置具は術者の左手で操作されるものであり、以下では術者左処置具という。
【0273】
続いて、術者が、処置具として把持鉗子(5mm把持鉗子)を第1トラカールに挿入する。第1トラカールに挿入される処置具(上記処置具200に相当)は、術者の右手で操作されるものであり、以下では術者右処置具という。上述した第1トラカールの連動機構(上記スライダ400に相当)により、第1トラカールに術者右処置具が挿入された状態において、術者の右手によって術者右処置具が進退操作されると、その操作に連動して術者右処置具とともに内視鏡が所定の遊びをもって進退移動する。これにより、常に第1トラカールに入る鉗子先端を内視鏡は撮像することになる。そのため、術者右処置具を操作することにより同時に内視鏡を操作することが可能となる。
【0274】
さらに続いて、助手が、処置具として把持鉗子(5mm把持鉗子)を第3トラカールに挿入する。第3トラカールに挿入される処置具は、助手の右手(又は左手)で操作されるものであり、以下では助手処置具という。
【0275】
なお、以下の工程では、特に明記しないが、第1〜第3トラカールにそれぞれ挿入される処置具は必要に応じて他の処置具に交換される。
【0276】
[胆嚢処置工程]
次に、胆嚢処置工程を行う(ステップS26)。胆嚢処置工程では、術者が、患者の腹腔内から胆嚢を剥離して摘出する。具体的には、
図32に示した手順に従って行われる。
【0277】
すなわち、
図32に示すように、まず、胆嚢露出工程が行われる(ステップS50)。胆嚢露出工程では、術者が、胆嚢頚部を、術者左処置具(把持鉗子)と術者右処置具(把持鉗子)で保持し、牽引することにより、胆嚢を露出させる。なお、胆嚢露出工程では、具体的には以下のような手順で行われる。
【0278】
(1)術者が術者右処置具を操作し、肝臓の全体像を撮像する。
【0279】
(2)術者が術者左処置具の腹で胆嚢を起こす(把持できるなら把持して胆嚢を起こす)。
【0280】
(3)術者が術者右処置具で胆嚢頚部を把持し持ち上げる。
【0281】
(4)術者が術者左処置具で胆嚢底部と胆嚢頚部の間を持ち直す。
【0282】
(5)術者が術者右処置具を手元側(後方側)に後退させて、内視鏡で腹腔内の全体を観察する。
【0283】
なお、本実施形態においては、内視鏡の観察範囲(撮像範囲)がマルチポート腹腔鏡下外科手術より小さくなるときがある。その時に全体像を見たい場合に臓器の持ち替え直すときがある。一方、術者が処置具を進退させると、それに連動して内視鏡が進退するため、助手の手を借りることなく、内視鏡の視野を変更することができる。また、術者は、周辺の状況を常に把握しながら処置具を操作することができるので、患部(処置部)の持ち替え作業自体にストレスがかからない。
【0284】
次に、胆嚢頚部牽引工程として、助手が、助手処置具(把持鉗子)により胆嚢頚部を把持し牽引する(ステップS52)。
【0285】
次に、キャロット三角確認工程として、術者が、キャロット三角を、内視鏡で目視確認し、術野を設置する(ステップS54)。このとき、キャロット三角が出るように、胆嚢と肝臓を牽引している処置具(把持鉗子)で調整する。
【0286】
次に、胆嚢管等剥離工程として、術者が、左手で術者左処置具(5mm把持鉗子)、右手で術者右処置具(5mm剥離鉗子)を操作し、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆嚢静脈を剥離する(ステップS56)。このとき、剥離操作は小さな動作であるため、そのストロークは第1トラカールの連動機構の遊び内に収まり、内視鏡は連動しない。そのため、剥離操作時は、安定な視野が得られ処置が容易となる。この剥離操作により、3本の管を約15mm程度、肝臓から遊離する。なお、胆嚢管等剥離工程では、具体的には以下のような手順で行われる。
【0287】
(1)術者が術者左処置具で胆嚢管と胆嚢動静脈を把持する。
【0288】
(2)術者が術者左処置具で大きく術者左側にカウンタートラクションをかける。
【0289】
(3)術者が術者右処置具を胆嚢管と胆嚢動静脈に向かって近づける。このとき、内視鏡の観察画像は、術者右処置具の前進に合わせて胆嚢管と胆嚢動静脈が徐々に拡大される。
【0290】
(4)術者が術者右処置具で剥離を行う。このとき、シングルポート(単孔式)腹腔鏡下外科手術に比べて助手による牽引が効いているので容易に剥離することができる。また、術者は、剥離中に術者右処置具で貫通しているかの確認を行う。
【0291】
なお、胆嚢管等剥離工程において、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆嚢静脈を剥離時に出血が出ている場合には、術者は、通電止血、又はガーゼによる圧迫止血を行い、送水吸引管で洗浄する。また、内視鏡に汚れ、曇りが発生している場合には、術者が、内視鏡を拭き、先端をクリーニングする。また、内視鏡をお湯につけたり、曇り止めを塗るようにしてもよい。
【0292】
次に、胆嚢管等結紮工程として、術者が、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆嚢静脈を、5mmクリップで各3箇所(摘出臓器側1箇所、体側2箇所)を結紮する(ステップS58)。このとき用いられる処置具としては、術者左処置具が5mm把持鉗子であり、術者右処置具が5mmクリップである。
【0293】
次に、胆嚢管等切開工程として、術者が、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆嚢静脈を、術者右処置具(5mm鋏鉗子)でモノポーラ通電しながら切開する(ステップS60)。このとき、摘出臓器側1箇所と体側2箇所のクリップの間を切開する。
【0294】
次に、胆嚢剥離工程として、術者が、胆嚢を5mm剥離鉗子で剥離する(ステップS62)。このとき、胆嚢底部から頚部に剥離を進める。また、このとき用いられる処置具としては、術者左処置具が5mm把持鉗子、術者右処置具が5mm剥離鉗子である。なお、胆嚢管等切開工程では、具体的には以下のような手順で行われる。
【0295】
(1)術者が術者左処置具でカウンタートラクションを上部にかける。
【0296】
(2)術者が術者右処置具で剥離をする前に内視鏡を剥離面に近づける。このとき、内視鏡の視野が狭くなるが、剥離する場所を追従するので効果的である。すなわち、操作が容易である。また、内視鏡と術者右処置具の相対位置は術者の好みにより変更することができ、術者の手技に合わせた設定が可能となる。
【0297】
(3)術者が術者右処置具で剥離面を把
持しながら通電切除を行う。なお、術者が術者左処置具の把持部分を変えるときは、術者右処置具で胆嚢を押えながら変更する。
【0298】
(4)上記を繰り返して、胆嚢の剥離を完遂する。
【0299】
なお、胆嚢剥離工程において、胆嚢の剥離時に出血が出ている場合には、術者は、通電止血、又はガーゼによる圧迫止血を行い、送水吸引管で洗浄する。また、内視鏡に汚れ、曇りが発生している場合には、術者が、内視鏡を拭き、先端をクリーニングする。また、内視鏡をお湯につけたり、曇り止めを塗るようにしてもよい。
【0300】
次に、洗浄工程として、術者が、胆嚢遊離後、肝臓遊離部分を送水吸引管で洗浄する(ステップS64)。
【0301】
次に、確認工程として、術者が、内視鏡で肝臓遊離部分を観察して、出血の有無、胆汁漏れ、肝臓損傷の有無などについて確認を行い、さらに腹腔内全体の観察を行い、他臓器損傷がないことを確認する(ステップS66)。
【0302】
以上のようにして胆嚢処置工程が終了する。
【0303】
[抜去工程]
次に、抜去工程として、所定の順序に従って、内視鏡、処置具、第1〜第3トラカールを抜去する(ステップS28)。このとき、術者は、処置具で胆嚢を把持しておき、トラカールを抜去する際に胆嚢を体外に摘出する。
【0304】
[後処理工程]
次に、後処理工程として、術者と助手が切開部2箇所を結紮縫合し、切開部の1箇所にドレーンを配置する(ステップS30)。また、細孔部は接着剤での閉鎖でもよい。
【0305】
その後、所定の作業(片づけ等)を行った後、腹腔鏡下胆嚢摘出手術が終了する。
【0306】
(腹腔鏡下腎臓摘出手術)
次に、内視鏡下外科手術の第2例として、腹腔鏡下腎臓摘出手術について説明する。
【0307】
図33及び
図34は、腹腔鏡下腎臓摘出手術が行われるときの様子を示した概略図である。なお、
図33は患者の外側の様子を示し、
図34は患者の体腔内の様子を示している。これらの図に示すように、本実施形態の内視鏡下外科手術装置10を用いた腹腔鏡下腎臓摘出手術では、上述した腹腔鏡下胆嚢摘出手術と同様に、患者の腹部には内視鏡や処置具を腹腔内に挿入する穴(ポート)が3箇所に形成される。すなわち、本実施形態では、同一のポートから外套管(第1トラカール:上記外套管300に相当)を介して内視鏡(上記内視鏡100に相当)及び処置具(上記処置具200に相当)が体腔内に挿入されるため、従来のマルチポート(多孔式)腹腔鏡下腎臓摘出手術に比べてポート数が1つ少なくなっている。
【0308】
図35は、腹腔鏡下腎臓摘出手術の手順を示した図である。また、
図36は、腎臓処置工程の手順を示した図である。なお、
図35及び
図36において、
図31及び
図32と同一の工程には同一の符号を付し、説明を省略又は簡略する。
【0309】
まず、
図35に示すように、腹腔鏡下胆嚢摘出手術と同様にして、ステップS10からステップS24までの各工程、すなわち、事前準備工程、第1トラカール挿入工程、気腹工程、内視鏡挿入工程、第2トラカール挿入工程、第3トラカール挿入工程、観察工程、処置具挿入工程を順次行う。
【0310】
なお、観察工程(ステップS22)では、全体観察を行った後に要部観察を行う際、術者が、内視鏡を患部側(前方側)に前進させて、腎臓のある後腹膜を内視鏡で観察する。
【0311】
[腎臓処置工程]
次に、腎臓処置工程を行う(ステップS32)。腎臓処置工程では、術者が、患者の腹腔内から後腹膜を剥離し腎臓を剥離して摘出する。具体的には、
図36に示した手順に従って行われる。
【0312】
すなわち、
図36に示すように、まず、腎臓露出工程が行われる(ステップS70)。腎臓露出工程では、術者が、後腹膜を、術者左処置具(把持鉗子)と術者右処置具(剥離鉗子)で後腹膜を剥離し腎臓を露出させる。なお、腎臓露出工程では、具体的には以下のような手順で行われる。
【0313】
(1)術者が術者右処置具を操作し、腎臓の位置を撮像する。
【0314】
(2)術者が術者左処置具で後腹膜を把持する。
【0315】
(3)術者が術者右処置具で後腹膜を剥離する。このときにモノポーラ電極処置具、バイポーラ電極処置具や超音波切開処置具を使用してもよい。
【0316】
(4)剥離された腎臓を助手が牽引する。
【0317】
(5)術者が上記処置を行い、腎臓全体、腎臓動脈、腎臓静脈、尿管を露出させる。
【0318】
なお、本実施形態においては、内視鏡の観察範囲(撮像範囲)がマルチポート腹腔鏡下外科手術より小さくなるときがある。その時に全体像を見たい場合に臓器の持ち替え直すときがある。一方、術者が処置具を進退させると、それに連動して内視鏡が進退するため、助手の手を借りることなく、内視鏡の視野を変更することができる。また、術者は、周辺の状況を常に把握しながら処置具を操作することができるので、患部(処置部)の持ち替え作業自体にストレスがかからない。
【0319】
次に、腎臓牽引工程として、助手が、助手処置具(把持鉗子)により腎臓を牽引する(ステップS72)。
【0320】
次に、尿管、動静脈確認工程として、術者が、大動脈側の尿管、動静脈を、内視鏡で目視確認し、術野を設置する(ステップS74)。このとき、尿管、動静脈が出るように、腎臓を牽引している処置具(把持鉗子)で調整する。必要によっては、小腸を術野からはずれるように処置具(把持鉗子)で移動させる。
【0321】
次に、尿管、動静脈剥離工程として、術者が、左手で術者左処置具(5mm把持鉗子)、右手で術者右処置具(5mm剥離鉗子)を操作し、尿管、腎臓動脈、及び腎臓静脈を剥離する(ステップS76)。このとき、剥離操作は小さな動作であるため、そのストロークは第1トラカールの連動機構の遊び内に収まり、内視鏡は連動しない。そのため剥離操作時は、安定な視野が得られ処置が容易となる。この剥離操作により、3本の管を約15mm程度、遊離する。なお、尿管、動静脈剥離工程では、具体的には以下のような手順で行われる。
【0322】
(1)術者が術者左処置具で尿管と腎臓動静脈を把持する。
【0323】
(2)術者が術者左処置具で大きく術者左側にカウンタートラクションをかける。
【0324】
(3)術者が術者右処置具を尿管と腎臓動静脈に向かって近づける。このとき、内視鏡の観察画像は、術者右処置具の前進に合わせて尿管と腎臓動静脈が徐々に拡大される。
【0325】
(4)術者が術者右処置具で剥離を行う。このとき、シングルポート(単孔式)腹腔鏡下外科手術に比べて助手による牽引が効いているので容易に剥離することができる。また、術者は、剥離中に術者右処置具で貫通しているかの確認を行う。
【0326】
なお、尿管、動静脈剥離工程において、尿管、腎臓動脈、及び腎臓静脈を剥離時に出血が出ている場合には、術者は、通電止血、又はガーゼによる圧迫止血を行い、送水吸引管で洗浄する。また、内視鏡に汚れ、曇りが発生している場合には、術者が、内視鏡を拭き、先端をクリーニングする。また、内視鏡をお湯につけたり、曇り止めを塗るようにしてもよい。
【0327】
次に、尿管、動静脈結紮工程として、術者が、尿管、腎臓動脈、及び腎臓静脈を、5mmクリップで各3箇所(摘出臓器側1箇所、体側2箇所)を結紮する(ステップS78)。このとき用いられる処置具としては、術者左処置具が5mm把持鉗子であり、術者右処置具が5mmクリップである。このとき、動脈から結紮を行う。
【0328】
次に、尿管、動静脈切開工程として、術者が、尿管、腎臓動脈、及び腎臓静脈を、術者右処置具(5mm鋏鉗子)でモノポーラ通電しながら切開する(ステップS80)。このとき、摘出臓器側1箇所と体側2箇所のクリップの間を切開する。
【0329】
次に、腎臓剥離工程として、術者が、腎臓を5mm剥離鉗子で剥離する(ステップS82)。このとき用いられる処置具としては、術者左処置具が5mm把持鉗子、術者右処置具が5mm剥離鉗子である。なお、腎臓剥離工程では、具体的には以下のような手順で行われる。
【0330】
(1)術者が術者左処置具でカウンタートラクションを上部にかける。
【0331】
(2)術者が術者右処置具で剥離をする前に内視鏡を剥離面に近づける。このとき、内視鏡の視野が狭くなるが、剥離する場所を追従するので効果的である。すなわち、操作が容易である。また、内視鏡と術者右処置具の相対位置は術者の好みにより変更することができ、術者の手技に合わせた設定が可能となる。
【0332】
(3)術者が術者右処置具で剥離面を把
持しながら通電切除を行う。なお、術者が術者左処置具の把持部分を変えるときは、術者右処置具で
腎臓を押えながら変更する。
【0333】
(4)上記を繰り返して、腎臓の剥離を完遂する。
【0334】
なお、腎臓剥離工程において、腎臓の剥離時に出血が出ている場合には、術者は、通電止血、又はガーゼによる圧迫止血を行い、送水吸引管で洗浄する。また、内視鏡に汚れ、曇りが発生している場合には、術者が、内視鏡を拭き、先端をクリーニングする。また、内視鏡をお湯につけたり、曇り止めを塗るようにしてもよい。
【0335】
次に、洗浄工程として、術者が、腎臓遊離後、剥離部分を送水吸引管で洗浄する(ステップS64)。
【0336】
次に、確認工程として、術者が、内視鏡で剥離部分を観察して、出血の有無、組織損傷の有無などについて確認を行い、さらに腹腔内全体の観察を行い、他臓器損傷がないことを確認する(ステップS66)。
【0337】
以上のようにして腎臓処置工程が終了する。
【0338】
[抜去工程]
次に、抜去工程として、所定の順序に従って、内視鏡、処置具、第1〜第3トラカールを抜去する(ステップS28)。このとき、術者は、処置具で腎臓を把持しておき、トラカールを抜去する際に腎臓を体外に摘出する。このときに、パウチをもちいてもよい。また、腎臓を取り出すため皮膚を追加切開してもよい。
【0339】
[後処理工程]
次に、後処理工程として、術者と助手が切開部2箇所を結紮縫合し、切開部の1箇所にドレーンを配置する(ステップS30)。また、細孔部は接着剤での閉鎖でもよい。
【0340】
その後、所定の作業(片づけ等)を行った後、腹腔鏡下腎臓摘出手術が終了する。
【0341】
(腹腔鏡下子宮・卵巣摘出手術)
次に、内視鏡下外科手術の第3例として、腹腔鏡下子宮・卵巣摘出手術について説明する。
【0342】
本実施形態の内視鏡下外科手術装置10を用いた腹腔鏡下子宮・卵巣摘出手術では、上述した腹腔鏡下胆嚢摘出手術や腹腔鏡下腎臓摘出手術と同様に、患者の腹部には内視鏡や処置具を腹腔内に挿入する穴(ポート)が3箇所に形成される。すなわち、本実施形態では、同一のポートから外套管(第1トラカール:上記外套管300に相当)を介して内視鏡(上記内視鏡100に相当)及び処置具(上記処置具200に相当)が体腔内に挿入されるため、従来のマルチポート(多孔式)腹腔鏡下外科手術に比べてポート数が1つ少なくなっている。
【0343】
次に、腹腔鏡下子宮・卵巣摘出手術の手順について説明する。
【0344】
腹腔鏡下子宮・卵巣摘出手術では、まず、腹腔鏡下胆嚢摘出手術と同様にして、事前準備工程、第1トラカール挿入工程、気腹工程、第2トラカール挿入工程、第3トラカール挿入工程、観察工程、処置具挿入工程を順次行う(
図31参照)。
【0345】
なお、観察工程では、全体観察を行った後に要部観察を行う際、術者が、内視鏡を患部側(前方側)に前進させて、子宮付近を内視鏡で観察する。
【0346】
また、処置具挿入工程では、術者が、術者左処置具としてバイポーラ鉗子(5mmバイポーラ鉗子)を第2トラカールに挿入し、次いで、術者右処置具として鋏鉗子(5mm鋏鉗子)を第1トラカールに挿入する。さらに続いて、助手が、助手処置具として把持鉗子(5mm把持鉗子)を第3トラカールに挿入する。
【0347】
[子宮遊離工程]
次に、子宮遊離工程を行う。子宮遊離工程では、術者が、患者の子宮を子宮円索、子宮広間膜、卵巣提索から遊離する。なお、子宮遊離工程は、以下の手順で行われる。
【0348】
まず、子宮円索切断工程を行う。具体的には以下のような手順で行われる。
【0350】
(2)助手が助手処置具(把持鉗子)で左側の子宮円索の子宮よりを把持し、右側に牽引する。
【0351】
(3)術者が子宮円索を術者右処置具(鋏鉗子)でバイポーラ通電して凝固し、その後切断する。
【0352】
次に、子宮広間膜切開工程を行う。具体的には以下のような手順で行われる。
【0353】
(1)術者が患者前側の子宮広間膜を膣部(子宮動脈手前)まで術者右処置具(鋏鉗子)でモノポーラ通電しながら切開する。
【0354】
(2)術者が患者後側の子宮広間膜を膣部(子宮動脈手前)まで術者右処置具(鋏鉗子)でモノポーラ通電しながら切開する。
【0355】
(3)術者が患者前側の子宮広間膜を卵巣提索まで術者右処置具(鋏鉗子)でモノポーラ通電しながら切開する。
【0356】
(4)術者が患者後側の子宮広間膜を卵巣提索まで術者右処置具(鋏鉗子)でモノポーラ通電しながら切開する。
【0357】
なお、術者右処置具(鋏鉗子)が主体となる手技であり、内視鏡が術者右処置具に常に追従するため、術者はストレスなく手技がスムーズに行うことができる。
【0358】
次に、卵巣提索切断工程を行う。具体的には以下のような手順で行われる。
【0359】
(1)助手が助手処置具(把持鉗子)で子宮提索の子宮寄りを把持し、右側に牽引する。
【0360】
(2)術者が卵巣提索を卵巣近くで術者右処置具(鋏鉗子)でバイポーラ通電して凝固し、その後切断する。
【0361】
なお、内視鏡に汚れ、曇りが発生している場合には、術者が、内視鏡を拭き、先端をクリーニングする。また、内視鏡をお湯につけたり、曇り止めを塗るようにしてもよい。
【0362】
次に、子宮の右側においても同様に、子宮円索切断工程、子宮広間膜切開工程、卵巣提索切断工程を行う。
【0363】
次に、膀胱剥離工程を行う。具体的には以下のような手順で行われる。
【0364】
(1)助手が助手処置具(把持鉗子)で膀胱を上方向に牽引する。
【0365】
(2)術者が術者右処置具(バイポーラ鉗子)と術者左処置具(把持鉗子)を用い、膀胱と子宮を剥離する。
【0366】
なお、剥離は術者左処置具及び術者右処置具の連携で行うため、術者左処置具が術野から外れる可能性がある。一方、術者一人でクローズした手技となる(助手との連携がない)ため、術者はストレスなくスムーズに手技を行うことができる。
【0367】
[子宮切断工程]
次に、子宮切断工程を行う。子宮切断工程では、子宮動脈を凝固切断し、子宮を膣から切り離す。なお、子宮切断工程は、以下の手順で行われる。
【0368】
まず、子宮動脈切断工程を行う。具体的には以下のような手順で行われる。
【0369】
(1)助手が助手処置具(把持鉗子)で子宮を患者右側に牽引し、術者が子宮根元の子宮動脈部を撮像する。
【0370】
(2)誤って傷つけないように尿管の位置を確認する。
【0371】
(3)術者が術者右処置具(バイポーラ鉗子)で子宮動脈を凝固し、切断する。
【0373】
次に、子宮切除工程を行う。具体的には以下のような手順で行われる。
【0374】
(1)術者が術者左処置具(フック鉗子)で膣上側から子宮用マニピュレータのガイドに沿って膣を切断する。
【0375】
(2)適宜、術者が術者右処置具(剥離鉗子)で止血する。
【0376】
(3)助手が助手処置具(把持鉗子)で子宮を右方向に牽引し、術者が術者左処置具(フック鉗子)で膣左側(約180°)を切断する。
【0378】
(5)左側に子宮を牽引できないため、術者が術者左処置具(剥離鉗子)の腹で子宮を左側に押さえながら術者右処置具(フック鉗子)で膣右側を切断する。
【0379】
(6)助手が、子宮を子宮用マニピュレータとともに膣から体外に取り出す。
【0380】
なお、子宮切除工程において、出血がある場合には、術者は、通電止血、又はガーゼによる圧迫止血を行い、送水吸引管で洗浄する。また、内視鏡に汚れ、曇りが発生している場合には、術者が、内視鏡を拭き、先端をクリーニングする。また、内視鏡をお湯につけたり、曇り止めを塗るようにしてもよい。
【0381】
次に、膣縫合工程を行う。具体的には以下のような手順で行われる。
【0383】
(2)術者が、腹膜、仙骨子宮靭帯を縫合する。
【0384】
以上のようにして子宮切除工程が終了する。
【0385】
[抜去工程]
次に、抜去工程として、所定の順序に従って、内視鏡、処置具、第1〜第3トラカールを抜去する。
【0386】
[後処理工程]
次に、後処理工程として、術者と助手が切開部2箇所を結紮縫合し、切開部の1箇所にドレーンを配置する。また、細孔部は接着剤での閉鎖でもよい。
【0387】
その後、所定の作業(片づけ等)を行った後、腹腔鏡下子宮・卵巣摘出手術が終了する。
【0388】
(腹腔鏡下虫垂切除手術)
次に、内視鏡下外科手術の第4例として、腹腔鏡下虫垂切除手術について説明する。
【0389】
本実施形態の内視鏡下外科手術装置10を用いた腹腔鏡下虫垂切除手術では、患者の腹部には内視鏡や処置具を腹腔内に挿入する穴(ポート)が2箇所に形成される。すなわち、本実施形態では、同一のポートから外套管(第1トラカール:上記外套管300に相当)を介して内視鏡(上記内視鏡100に相当)及び処置具(上記処置具200に相当)が体腔内に挿入されるため、従来のマルチポート(多孔式)腹腔鏡下虫垂切除手術に比べてポート数が1つ少なくなっている。
【0390】
腹腔鏡下虫垂切除手術では、まず、腹腔鏡下胆嚢摘出手術と同様にして、事前準備工程、第1トラカール挿入工程、気腹工程、第2トラカール挿入工程、観察工程、処置具挿入工程を順次行う(
図31参照)。腹腔鏡下虫垂切除手術では、上述したようにポート数は2つであるため、腹腔鏡下胆嚢摘出手術のような第3トラカール挿入工程は行われない。
【0391】
なお、観察工程では、全体観察を行った後に要部観察を行う際、術者が、内視鏡を患部側(前方側)に前進させて、虫垂付近を内視鏡で観察する。
【0392】
また、処置具挿入工程では、術者が、術者左処置具として把持鉗子(5mm把持鉗子)を第2トラカールに挿入し、次いで、術者右処置具として把持鉗子(5mm把持鉗子)を第1トラカールに挿入する。
【0393】
[虫垂剥離工程]
次に、虫垂剥離工程を行う。虫垂剥離工程では、術者が、患者の虫垂を虫垂間膜から剥離する。なお、虫垂剥離工程は、以下の手順で行われる。
【0394】
まず、術者は、術者左処置具及び術者右処置具(すなわち、左右の把持鉗子)を用いて腸に埋もれている虫垂を探し出し、処置しやすいように持ち上げる。次に、術者右処置具を把持鉗子から剥離鉗子に交換した後、術者左処置具(把持鉗子)で虫垂を持ち上げながら、術者右処置具(剥離鉗子)で虫垂間膜を剥離する。ここで、術者一人でクローズした手技となる(助手との連携がない)ため、牽引と剥離の処置がスムーズにストレスなく実施できる。
【0395】
なお、内視鏡に汚れ、曇りが発生している場合には、術者が、内視鏡を拭き、先端をクリーニングする。また、内視鏡をお湯につけたり、曇り止めを塗るようにしてもよい。
【0396】
[虫垂切除工程]
次に、虫垂切除を行う。具体的には、以下の手順で行われる。
【0397】
(1)術者左処置具(把持鉗子)で虫垂を牽引する。
【0398】
(2)術者が虫垂の根元を2回結紮する。
【0400】
(4)術者右処置具を鋏鉗子に交換する。
【0401】
(5)2回結紮側を体内に残るように虫垂を切断する。
【0402】
以上のようにして虫垂切除工程が終了する。
【0403】
[抜去工程]
次に、抜去工程として、所定の順序に従って、内視鏡、処置具、第1〜第2トラカールを抜去する。このとき、術者は、処置具で虫垂を把持しておき、トラカールを抜去する際に虫垂を体外に摘出する。
【0404】
[後処理工程]
次に、後処理工程として、術者と助手が切開部1箇所を結紮縫合し、切開部の1箇所にドレーンを配置する。また、細孔部は接着剤での閉鎖でもよい。
【0405】
その後、所定の作業(片づけ等)を行った後、虫垂切除手術が終了する。
【0406】
以上、本発明に係る内視鏡下外科手術装置及び外套管について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。