【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人 科学技術振興機構 光コムを用いた空間絶対位置超精密計測装置の開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光ヘテロダイン距離計は、光ヘテロダイン干渉を用いて物体の特定点からの距離(又は、変位、位置)を非接触的に計測する測定装置として広く知られている。その基本原理は、信号光と参照光とから得られるビート(うなり)から信号光の位相情報を取り出し、その位相情報から物体の距離(又は、変位、位置)を得るというものである。
【0003】
発明者らは、この光ヘテロダイン距離計において使用される光信号として、光周波数コムを用いることを提案している。光周波数コムとは、周波数領域において周波数が等間隔になっているような周波数成分からなる光信号のことである。光周波数コムは、時間領域では、超短パルスの列として現れる。
図1は、光周波数コムの周波数スペクトルの例である。光周波数コムのn次モードの周波数f(n)は、次式(1)で表わされる:
f(n)=n・f
R+f
0 ・・・(1)
ここで、f
0はオフセット周波数であり、f
Rは繰り返し周波数である。近年では、極めて周波数精度が高い光周波数コムを発生する光源が実現されており、このような光源を光ヘテロダイン距離計に用いることで、物体の距離の測定の分解能を向上させることができる。
【0004】
より具体的には、非特許文献1(松本 弘一他、「光周波数コムを用いたノンプリズム型距離計測技術」、Proceedings
of 45
th Meeting on Lightwave Sensing Technology, LST45-19, June
2010, pp. 109-114)は、発明者らが提案した光周波数コム距離計を開示している。
図2は、この光周波数コム距離計100の構成を示すブロック図である。光周波数コム距離計100は、光周波数コム光源101と、光ファイバ102と、コリメータ103と、ビームスプリッタ104と、フォトダイオード105、106と、ダブルバランストミキサ107と、ロックイン増幅器108とを備えている。
【0005】
光周波数コム距離計100の動作は、概略的には、次の通りである。光周波数コム光源101は、測定に使用する光信号として光周波数コムを発生する。光周波数コム光源101としては、フェムト秒モード同期ファイバーレーザを使用することが開示されている。発生された光周波数コムのビームは、光ファイバ102を介してコリメータ103に入射され、コリメータ103により平行ビームに形成される。この平行ビームは、ビームスプリッタ104で2つのビームに分割される。一方のビームは、ビームスプリッタ104で反射されてフォトダイオード105に入射し、参照光として使用される。フォトダイオード105は、入射した参照光を電気信号に変換する。この電気信号を、以下では参照信号という。他方のビームは、ビームスプリッタ104を通過して測定対象Sで反射される。測定対象Sで反射されたビームは、ビームスプリッタ104で反射されてフォトダイオード106に入射し、信号光として使用される。フォトダイオード106は、入射した信号光を電気信号に変換する。この電気信号を以下ではプローブ信号という。参照信号とプローブ信号のそれぞれにより、時間・周波数標準として使用されるRF周波数信号109(これは、電気信号である)がダブルバランストミキサ107によって変調され、これにより、参照信号とプローブ信号のヘテロダイン信号がそれぞれに生成される。参照信号とプローブ信号のヘテロダイン信号の位相差φがロックイン増幅器108によって計測され、計測された位相差φから、測定対象Sの特定点からの距離(又は、変位、位置)が算出される。
【0006】
図2に図示されている構成の光周波数コム距離計100における一つの課題は、(例えばGHzオーダーであるような)高周波数の信号を発生可能な高価な発振器が必要になることである。例えば、RF周波数信号109は、光周波数コム光源101によって生成される繰り返し周波数の整数倍に近い周波数に設定される必要がある。非特許文献1には、繰り返し周波数が48.6822MHzである場合に、RF周波数信号109の周波数として、例えば、GPS(global positioning system)から得られるGPS信号の周波数である1557.8408MHzを使用することが開示されている。1557.8408MHzの周波数は、光周波数コムの第32次の周波数(1557.8304MHz)に近いという理由から選択されている。このような高い周波数のRF周波数信号109を発生可能な発振器は、高価である。また、高周波数のRF周波数信号を用いることによって、周期誤差を招くことが多い。
【0007】
しかしながら、発明者の更なる検討によれば、光周波数コムを使用する光ヘテロダイン距離計において、(例えばGHzオーダーのような)高い周波数領域の信号を発生可能な高価な発振器を用いずに距離を計測することができる。高い周波数領域の信号を発生させずに距離を計測できる技術が提供されれば、装置の簡素化及び低廉化のみならず、高分解能化を実現することができ、更に、周期誤差が発生しにくい点でも有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の実施形態:
図3は、本発明の第1の実施形態の光ヘテロダイン距離計1の概略的な構成を示す図である。光ヘテロダイン距離計1は、測定対象Sの距離Dを計測するように構成されており、光周波数コム光源2、3と、光ファイバ4、5と、コリメータ6、7と、ビームスプリッタ8と、コリメータ9と、光ファイバ11と、光検出器12と、周波数シンセサイザ13と、ロックイン増幅器14と、基準発振器15と、演算装置20とを備えている。
【0019】
光周波数コム光源2、3は、光周波数コムのビームを生成する。上述のように、光周波数コムとは、周波数領域において周波数が等間隔になっているような周波数成分からなる光信号のことである。光周波数コム光源2としては、例えば、エルビウム添加光ファイバ(EDF)で形成されたリング共振器をレーザダイオードで駆動する構成のレーザ発振器を用いることができる。
【0020】
光周波数コム光源2、3がそれぞれに生成する光周波数コムのオフセット周波数と繰り返し周波数とは、生成された2つの光周波数コムが、周波数が一致しないが近接する周波数成分を含むように制御されている。即ち、光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムは、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの少なくとも一の周波数成分の周波数に近い周波数の周波数成分を含んでいる。
【0021】
本実施形態では、光周波数コム光源2、3がそれぞれに生成する光周波数コムの繰り返し周波数f
Rが異なっている。より厳密には、光周波数コム光源2、3がそれぞれに生成する光周波数コムの一方の繰り返し周波数が他方の繰り返し周波数の整数倍(1倍を含む)にならないように、繰り返し周波数が調節されている。このような条件を満足する繰り返し周波数を持つ光周波数コムの光周波数コム光源2、3によって生成されていることにより、光周波数コム光源2、3によって生成された2つの光周波数コムが、(同一ではないが)近接する周波数の周波数成分を有するようになっている。
【0022】
図4は、光周波数コム光源2、3の周波数成分の例を示している。
図4の例では、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの繰り返し周波数f
Rが100.0000MHzであり、光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムの繰り返し周波数f
Rが58.4175MHzである。なお、
図4においては、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムのオフセット周波数f
01と光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムのオフセット周波数f
02とが同一値(f
0)であるとし、更に、オフセット周波数f
0を減じて表記している。例えば、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの7次の周波数成分の周波数(f
0+700.0000MHz)は光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムの12次の周波数成分(f
0+701.0100MHz)の周波数に近い。また、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの18次の周波数成分の周波数(f
0+1800.0000MHz)は、光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムの31次の周波数成分(f
0+1810.9425MHz)の周波数に近い。後述されるように、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムの近接する周波数の周波数成分が、測定対象Sの距離Dの同定に使用される。
【0023】
なお、光周波数コム光源2、3がそれぞれに生成する光周波数コムのオフセット周波数f
01、f
02が同一であることには技術的意味はなく、オフセット周波数f
01、f
02は必ずしも同一でなくてもよい。オフセット周波数が同一でなくても、光周波数コム光源2、3がそれぞれに生成する光周波数コムの一方の繰り返し周波数が他方の繰り返し周波数の整数倍(1倍を含む)ではないという条件を満たせば、周波数が近接する(但し一致しない)周波数成分を含むような2つの光周波数コムを生成することができる。
【0024】
光ファイバ4、5及びコリメータ6、7は、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムを信号光21及び参照光22として出射する信号光・参照光生成手段である。本実施形態の光ヘテロダイン距離計1では、光周波数コム光源2によって生成された光周波数コムが光ファイバ4及びコリメータ6を介して出射されて信号光21として使用される。光ファイバ4は、光周波数コム光源2から出射された光周波数コムのビームを伝送してコリメータ6に入射する。コリメータ6は、受け取った光周波数コムのビームを平行ビームに形成してビームスプリッタ8及び測定対象Sに向けて出射する。一方、光周波数コム光源3によって生成された光周波数コムが光ファイバ5及びコリメータ7を介して出射されて参照光22として使用される。詳細には、光ファイバ5は、光周波数コム光源3から出射された光周波数コムのビームを伝送してコリメータ7に入射する。コリメータ7は、受け取った光周波数コムのビームを平行ビームに形成してビームスプリッタ8に向けて出射する。
【0025】
図3を再度に参照して、ビームスプリッタ8は、ハーフミラーとして構成されており、コリメータ6から出射された信号光21を通過させて測定対象Sに入射すると共に、測定対象Sによって反射された信号光21を反射してコリメータ9に入射する。加えて、ビームスプリッタ8は、コリメータ7から出射された参照光22を通過させてコリメータ9に入射する。
【0026】
コリメータ9は、光ファイバ11と光学的に結合されており、コリメータ9に入射された信号光21及び参照光22を光ファイバ11に入射する。光ファイバ11は、信号光21及び参照光22を光検出器12に入射する。光検出器12は、信号光21と参照光22とが重畳されたビームの光強度を検出し、該光強度に対応する信号レベルを持つ電気信号であるビート信号23を生成する。
【0027】
周波数シンセサイザ13は、電気信号である参照信号24を生成してロックイン増幅器14に供給する信号生成器である。周波数シンセサイザ13は、参照信号24の周波数を調節できるように構成されている。後述されるように、周波数シンセサイザ13によって生成される参照信号24の周波数は、ビート信号23の特定の周波数成分の周波数に一致するように調節される。
【0028】
ロックイン増幅器14は、光検出器12から受け取ったビート信号23と周波数シンセサイザ13から受け取った参照信号24との位相差を検出する位相差検出器として使用される。
【0029】
基準発振器15は、光周波数コム光源2、3及び周波数シンセサイザ13の同期(位相ロック)を行うための同期信号25を生成する。光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コム(即ち、信号光21及び参照光22)と、周波数シンセサイザ13によって発生される参照信号24は、いずれも同期信号25に同期して発生される。基準発振器15としては、例えば、周波数安定性に優れるルビジウム発振器を用いることができる。
【0030】
演算装置20は、ビート信号23と参照信号24との位相差から測定対象Sの距離Dを算出する。
【0031】
続いて、本実施形態の光ヘテロダイン距離計1による測定対象Sの距離Dの計測について説明する。本実施形態の光ヘテロダイン距離計1の基本的な原理は、光検出器12に入射する信号光21の位相が測定対象Sの距離Dに依存しているというものである。ただし、光の周波数領域では位相を検出することが困難であることから、信号光21を位相の検出が可能な周波数領域にビートダウンすることが必要になる。
【0032】
ここで、本実施形態では、信号光21及び参照光22として用いられる光周波数コムが、周波数が近接する周波数成分を含むということを利用してビートダウンを実現している。即ち、光検出器12が生成するビート信号23は、信号光21と参照光22とが重畳した光信号の光強度に対応する信号レベルを有する電気信号であるので、結果として、信号光21と参照光22の周波数成分のうち、周波数領域において近接している周波数成分の周波数差に対応する周波数の周波数成分を有している。例えば、
図4を参照して、信号光21として用いられる光周波数コムの18次の周波数成分(周波数:f
0+1800.0000MHz)と、参照光22として用いられる光周波数コムの31次の周波数成分(周波数:f
0+1810.9425MHz)の周波数差Δfは、10.9425MHzであるので、ビート信号23は、10.9425MHzの周波数成分を持っている。ビート信号23のこの周波数成分は、信号光21の18次の周波数成分の位相に対応する位相を持っている。
【0033】
ここで、参照信号24の周波数を、信号光21及び参照光22として用いられる光周波数コムの、周波数領域において近接した周波数成分の周波数差に対応する周波数に設定した上で、ビート信号23と参照信号24との位相差φをロックイン増幅器14で検出すれば、この位相差φから測定対象Sの距離Dを求めることができる。例えば、参照信号24を10.9425MHzに設定すれば、ビート信号23の様々な周波数成分のうち、信号光21の18次の周波数成分(周波数:f
0+1800.0000MHz)と参照光22の31次の周波数成分(周波数:f
0+1810.9425MHz)の周波数差に対応する周波数成分と参照信号24との位相差φが検出される。距離Dは、ロックイン増幅器14で検出された位相差φから下記式(2)で算出できる:
【数1】
ここで、cは、当該光ヘテロダイン距離計1が設けられている媒質(一般的には、空気)における光速であり、n
gは、当該媒質における群屈折率であり、Nは整数であり、Δfは、位相差φを算出したビート信号23の周波数成分に対応する、信号光21(即ち、光周波数コム光源2によって生成された光周波数コム)の周波数f
1と参照光22(即ち、光周波数コム光源3によって生成された光周波数コム)の周波数f
2の差分である。例えば、上述のように、信号光21の18次の周波数成分(f
1=f
0+1800.0000MHz)と参照光22の31次の周波数成分(f
2=f
0+1810.9425MHz)から距離Dを算出する場合、Δfは、それらの周波数の差である10.9425MHzである。
【0034】
式(2)から理解されるように、算出される距離Dには、周期c/2n
gfの不定性がある。しかしながら、この不定性は、距離Dがある程度の範囲で既知であれば問題にならないし、また、別の測定手段で距離Dを測定することで解消することもできる。
【0035】
更に、信号光21と参照光22の周波数成分の複数の組み合わせのそれぞれについて位相差を得れば、得られた位相差のそれぞれについて式(2)が成り立つことから、周期c/2n
gfの不定性の問題を緩和することもできる。即ち、ある信号光21と参照光22の周波数成分の組み合わせから得られる距離Dの集合と、他の信号光21と参照光22の周波数成分の組み合わせから得られる距離Dの集合の両方に、(分解能に依存する誤差範囲内で)一致する要素が存在する場合、その要素D
COMMONは、真の距離としてより確からしい距離と考えられる。このようにして、距離Dの不定性を緩和することができる。より多数の信号光21と参照光22の周波数成分の組み合わせを用いれば、一層に距離Dの不定性を解消し、真の距離Dを確定的に得ることができる。
【0036】
例えば、信号光21の周波数f
0+f
S1、f
0+f
S2、f
0+f
S3の周波数成分と、周波数領域において、これらの周波数成分にそれぞれに近接する参照光22の周波数f
0+f
R1、f
0+f
R2、f
0+f
R3の周波数成分とから距離Dを求める場合について考える。例えば、
図4の例であれば、次の3つの信号光21と参照光22の周波数成分の組み合わせを用いることができる:
(a)信号光21の14次の周波数成分(周波数:f
0+1400.0000MHz)と、参照光22の24次の周波数成分(周波数:f
0+1402.0200MHz)
(b)信号光21の18次の周波数成分(周波数:f
0+1800.0000MHz)と、参照光22の31次の周波数成分(周波数:f
0+1810.9425MHz)
(c)信号光21の21次の周波数成分(周波数:f
0+2100.0000MHz)と、参照光22の36次の周波数成分(周波数:f
0+2103.0300MHz)
【0037】
この場合、参照信号24の周波数を次式(3a)、(3b)、(3c)で与えられる3つの周波数差Δf
1、Δf
2、Δf
3:
Δf
1=|f
S1−f
R1| ・・・(3a)
Δf
2=|f
S2−f
R2| ・・・(3b)
Δf
3=|f
S3−f
R3| ・・・(3c)
に一致するように設定することで、信号光21の周波数f
0+f
S1、f
0+f
S2、f
0+f
S3の周波数成分の位相の情報をビート信号23から取りだすことができる。ここで、周波数差Δf
1、Δf
2、Δf
3は、相互に異なっている必要がある。上記の3つの組み合わせ(a)、(b)、(c)を用いる場合には、参照信号24の周波数は、次のように設定される:
Δf
1=2.0200(MHz)
Δf
2=10.9425(MHz)
Δf
3=3.0300(MHz)
【0038】
参照信号24を周波数Δf
1、Δf
2、Δf
3にそれぞれ設定した状態で検出されたビート信号23と参照信号24の位相差を、それぞれ、φ
1、φ
2、φ
3とすると、下記式(4a)〜(4c)が成り立つ:
【数2】
ここで、N
1、N
2、N
3は整数である。
【0039】
上記の式(4a)〜(4c)のそれぞれについて距離Dの集合を算出し、その集合の全てに、(分解能に依存する誤差範囲内で)同一の要素が存在すれば、該要素の値を、測定対象Sの距離Dとして確からしい値として得ることができる。上記においては、3つの信号光21と参照光22の周波数成分の組み合わせについて述べているが、多数の信号光21と参照光22の周波数成分の組み合わせを用いれば、距離Dの不定性を解消し、真の距離Dを確定的に得ることができる。
【0040】
本実施形態の光ヘテロダイン距離計1において、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムは、必ずしも相互にコヒーレントである必要はない。光検出器12から出力されるビート信号23は、電気信号であるから、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムがコヒーレントでなくてもビート信号23においてビートが発生するからである。しかしながら、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムが相互にコヒーレントであれば、光検出器12に入力される光信号自体に光ビートが発生するから、光検出器12に必要な動作周波数を低くすることができる。これは、光ヘテロダイン距離計1を実際に構成する上で好ましい。
【0041】
以上に述べられた本実施形態の光ヘテロダイン距離計1の利点は、(例えばGHzオーダーのような)高周波数領域の信号を発生する発振器を用いずに測定対象Sの距離Dを測定できることである。ビート信号23の様々な周波数成分のうち、測定対象Sの距離Dの算出に用いられる周波数成分は、距離Dの算出に用いる信号光21と参照光22の周波数成分の周波数差に対応する周波数成分である。これは、信号光21と参照光22の周波数成分として周波数差が近い組み合わせを選択することにより、低い周波数領域の信号しか用いずに、即ち、高周波数領域の信号を発生する発振器を用いずに測定対象Sの距離Dを計測できるようになることを意味している。
【0042】
より詳細には、本実施形態では、測定対象Sの距離Dの計測のために周波数シンセサイザ13によって参照信号24が発生されるが、この参照信号24の周波数は低くすることができる。なぜなら、上述のように、参照信号24の周波数は、距離Dの算出に用いる信号光21と参照光22の周波数成分の周波数差に設定されるからである。これは、信号光21と参照光22の周波数成分として、周波数差が近い組み合わせを選択することで、参照信号24の周波数を低く抑えることができることを意味している。
【0043】
具体的な数値例を挙げれば、信号光21の18次の周波数成分(周波数:f
0+1800.0000MHz)と参照光22の31次の周波数成分(周波数:f
0+1810.9425MHz)の周波数差に対応するビート信号23の周波数成分から距離Dを算出する場合には、参照信号24の周波数は、10.9425MHzでよい。また、信号光21の14次の周波数成分(周波数:f
0+1400.0000MHz)と参照光22の24次の周波数成分(周波数:f
0+1402.0200MHz)の周波数差に対応するビート信号23の周波数成分から距離Dを算出する場合には、参照信号24の周波数は、2.0200MHzでよい。これらの例と、
図2に図示された光周波数コム距離計100におけるRF周波数信号109の周波数(例えば、GPS信号の周波数である1557.8408MHz)と比較すれば、本実施形態における光ヘテロダイン距離計1における低周波数化の利点が理解されよう。このように低い周波数領域の信号しか用いずに距離を計測できることは、装置構成の簡素化・低廉化のみならず、高分解能化を実現するために好適である。
【0044】
なお、上述の本実施形態では、基準発振器15から光周波数コム光源2、3、及び、周波数シンセサイザ13に同期信号25を供給することで光周波数コム光源2、3、及び、周波数シンセサイザ13の位相ロックを実現しているが、光周波数コム光源2、3、及び、周波数シンセサイザ13の動作が安定していれば、位相ロックは必ずしも必要が無い。しかしながら、本実施形態のように、光周波数コム光源2、3、及び、周波数シンセサイザ13の位相ロックを行うことは、距離Dの測定精度の向上に有用である。
【0045】
第2の実施形態:
図5は、本発明の第2の実施形態の光ヘテロダイン距離計1Aの構成を示すブロック図である。第2の実施形態の光ヘテロダイン距離計1Aは、第2の実施形態の光ヘテロダイン距離計1と同様の構成を有しているが、周波数シンセサイザ16とミキサ17とを追加的に備えている点で相違している。
【0046】
周波数シンセサイザ16は、同期信号25の供給を受けて同期信号25に同期した電気信号である変調信号26を発生する変調信号発生器として動作する。ミキサ17は、変調信号26をビート信号23で変調することによりヘテロダイン信号27を生成する。ヘテロダイン信号27は、ビート信号23が更にビートダウンされた信号であり、信号光21の位相の情報が、ビート信号23よりさらに低い周波数の周波数成分に含まれている。
【0047】
本実施形態では、参照信号24の周波数が、ヘテロダイン信号27の周波数成分のうち、信号光21の位相の情報を取り出そうとする周波数成分の周波数に設定される。例えば、信号光21の21次の周波数成分(周波数:f
0+2100.0000MHz)と、参照光22の36次の周波数成分(周波数:f
0+2103.0300MHz)とを用いて測定対象Sの距離Dを測定する場合を考える。これらの周波数成分の周波数差は3.0300MHzであるから、ビート信号23の3.0300MHzの周波数成分に、信号光21の位相の情報が含まれている。この場合、変調信号26の周波数を3.0000MHzに設定すれば、ヘテロダイン信号27の30.0kHz(=0.0300MHz)の周波数成分に信号光21の位相の情報を取り出すことができる。参照信号24の周波数は、ヘテロダイン信号27の周波数に合わせて30.0kHzに設定される。
【0048】
ロックイン増幅器14は、ヘテロダイン信号27と参照信号24の位相差を検出し、演算装置20は、その位相差から測定対象Sの距離Dを算出する。
【0049】
第2の実施形態では、ビート信号23よりも相対的に低い周波数のヘテロダイン信号27を用いて測定対象Sの距離Dを算出するため、ロックイン増幅器14に求められる動作周波数をより低くすることができる。
【0050】
なお、第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、3つ以上の信号光21と参照光22の周波数成分の組み合わせから不定性を解消しながら距離Dを算出してもよい。また、第2の実施形態でも、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムは、コヒーレントであってもよく、インコヒーレントであってもよい。但し、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムが相互にコヒーレントであることは、光検出器12に必要な動作周波数を低くすることができる利点があることは、第1の実施形態と同様である。
【0051】
第3の実施形態:
図6は、本発明の第3の実施形態の光ヘテロダイン距離計1Bの構成を示すブロック図である。第3の実施形態の光ヘテロダイン距離計1Bは、第1の実施形態の光ヘテロダイン距離計1と類似した構成を有しているが、参照信号24を生成する方法が異なっている。本実施形態では、測定対象Sによって反射される前の信号光21の一部と、参照光22の一部が取り出され、それらを合波して得られる光信号(即ち、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの一部と、光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムの一部とを合波して得られる光信号)から参照信号24が生成される。
【0052】
詳細には、第3の実施形態の光ヘテロダイン距離計1Bは、光分配器31、33と、光ファイバ32、34と、光合波器35と、光ファイバ36と、光検出器37と、フィルタ38とを追加的に備えている。光分配器31は、光ファイバ4に設けられており、光ファイバ4を伝送されている(測定対象Sによって反射される前の)信号光21の一部を光ファイバ32に入射する。一方、光分配器33は、参照光22を分配し、参照光22の一部を光ファイバ34に入射する。光合波器35は、それぞれ光ファイバ32、34から受け取った信号光21の一部及び参照光22の一部を合波した光信号を生成する。該光信号は、光ファイバ36を介して光検出器37に入射される。
【0053】
光検出器37は、光ファイバ36から入射された該光信号の光強度を検出し、該光強度に対応する信号レベルを持つ電気信号である参照ビート信号41を生成する。この参照ビート信号41には、(
図4に列挙されているような)光周波数コム光源2、3から出力された光周波数コムの周波数成分と、これらの光周波数コムの周波数成分の周波数差に一致する周波数の成分が含まれている。フィルタ38は、参照ビート信号41に含まれる様々な周波数成分のうち、周波数シンセサイザ13の入力に対応する周波数範囲(典型的には、10〜50MHz)にある周波数成分を取り出して参照同期信号42として出力される。出力された参照同期信号42は、周波数シンセサイザ13に供給されて周波数シンセサイザ13の位相ロックに使用される。
【0054】
具体的な数値例として、例えば、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの繰り返し周波数f
Rが100.0000MHzで、光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムの繰り返し周波数f
Rが58.4175MHzであり、且つ、オフセット周波数f
0が一致する場合を考える。この場合、例えば、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの1次の周波数成分(周波数:f
0+100.0000MHz)と光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムの1次の周波数成分(周波数:f
0+58.4175MHz)の周波数差に一致する周波数41.5825MHzの周波数成分がフィルタ38によって取り出され、参照同期信号42として周波数シンセサイザ13に供給される。周波数シンセサイザ13は、参照同期信号42に同期した参照信号24を生成する。
【0055】
参照信号24を、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムの、周波数領域において近接した周波数成分の周波数差に対応する周波数に設定した上で、ビート信号23と参照信号24との位相差φをロックイン増幅器14で検出すれば、第1及び第2の実施形態と同様に、位相差φから測定対象Sの距離Dを求めることができる。例えば、
図4を参照して、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの18次の周波数成分(周波数:f
0+1800.0000MHz)と、光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムの31次の周波数成分(周波数:f
0+1810.9425MHz)の周波数差Δfは、10.9425MHzであるので、ビート信号23は、10.9425MHzの周波数成分を持っている。加えて、参照信号24を10.9425MHzに設定すれば、ビート信号23の様々な周波数成分のうち、光周波数コム光源2によって生成される光周波数コムの18次の周波数成分(周波数:f
0+1800.0000MHz)と光周波数コム光源3によって生成される光周波数コムの31次の周波数成分(周波数:f
0+1810.9425MHz)の周波数差に対応する周波数成分と参照信号24との位相差φが検出される。距離Dは、ロックイン増幅器14で検出された位相差φから上記の式(2)で算出できる。
【0056】
光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムを重ね合わせた光信号から生成される参照ビート信号41を用いて周波数シンセサイザ13の位相ロックを行う本実施形態では、位相ロックの正確性が増し、より正確に測定対象Sの距離Dを測定することができる。
【0057】
なお、本実施形態においても、第2の実施形態と同様に、周波数シンセサイザ16とミキサ17とを用いてビート信号23に対して更にビートダウンを行ってもよい。
図7は、このような構成の光ヘテロダイン距離計1Cの構成を示すブロック図である。周波数シンセサイザ16は、参照同期信号42の供給を受けて参照同期信号42に同期した電気信号である変調信号26を発生する。ミキサ17は、変調信号26をビート信号23で変調することによりヘテロダイン信号27を生成する。参照信号24の周波数をヘテロダイン信号27の周波数成分のうち、信号光21の位相の情報を取り出そうとする周波数成分の周波数に設定した上で、ヘテロダイン信号27と参照信号24との位相差φをロックイン増幅器14で検出すれば、第2の実施形態と同様に、位相差φから測定対象Sの距離Dを求めることができる。
【0058】
また、本実施形態でも、第1及び第2の実施形態と同様に、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムの周波数成分の3つ以上の組み合わせから不定性を解消しながら距離Dを算出してもよい。更に、第3の実施形態でも、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムは、コヒーレントであってもよく、インコヒーレントであってもよい。但し、光周波数コム光源2、3によって生成される光周波数コムが相互にコヒーレントであることは、光検出器12、37に必要な動作周波数を低くすることができる利点があることは、第1及び第2の実施形態と同様である。
【0059】
なお、上述の実施形態では、簡単のため、光周波数コム光源2、3がそれぞれに生成する光周波数コムのオフセット周波数は同一であるとして説明を行っているが、オフセット周波数は必ずしも同一でなくてもよい。オフセット周波数が同一でなくても、光周波数コム光源2、3がそれぞれに生成する光周波数コムの一方の繰り返し周波数が他方の繰り返し周波数の整数倍(1倍を含む)ではないという条件を満たせば、周波数が近接する(但し一致しない)周波数成分を含むような2つの光周波数コムを生成することができる。
【0060】
以上には、本発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されると解釈してはならない。本発明は、当業者には自明的な様々な変更をしたうえで実施され得る。