(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電材が、金属箔、導電性テープ、フレキシブルプリント基板、及び導電性を有する面を有する透明導電性樹脂基材からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の導電材付き調光フィルム。
導電性を有する面を有する2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持され、樹脂マトリックス及び前記樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液を含む調光層と、を有する調光フィルムの前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面に、導電フィルムを介して導電材を熱圧着する工程を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の導電材付き調光フィルムの製造方法。
前記熱圧着する工程が、前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面に前記導電フィルムを熱圧着する工程と、前記導電材を前記透明導電性樹脂基材上の導電フィルムに熱圧着する工程とを含む、請求項4に記載の導電材付き調光フィルムの製造方法。
前記熱圧着する工程が、前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面と、前記導電フィルム及び前記導電材の積層体と、を前記積層体の前記導電フィルム側が前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面に接するようにして熱圧着する工程を含む、請求項4に記載の導電材付き調光フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の導電材付き調光フィルムは、導電性を有する面を有する2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持され、樹脂マトリックス及び前記樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液を含む調光層と、前記導電性を有する面に導電フィルムを介して接合された導電材と、を有する。
【0013】
本発明の導電材付き調光フィルムは、上記構成とすることにより、透明導電性樹脂基材に導電性テープなどの導電材をそのまま貼り付ける場合に比べて、導電材と透明導電性樹脂基材との初期密着力に優れ、かつ時間を経た後の剥がれが少なく密着強度の経時安定性に優れる。
【0014】
さらに、導電材の下地層として導電ペースト層を樹脂基材上に設けることにより導電材の密着力の低下を防ぐ方法に比べて生産性が高く、製造コスト面で有利である。これは、本願発明では導電ペーストの乾燥工程等を設ける必要がなく、導電材の接合を要する時間が短いこと、及び材料費が導電ペーストよりも安価であること等による。
さらに、導電ペースト層を使用する方法に比べて調光性能の低下が抑制できる。これは例えば、透明導電性樹脂基材に導電材を接合するために要する加熱時間が短いこと、及び振動ストレスによるクラック発生がなく導通不良が少ないためと考えられる。
【0015】
<調光層>
調光層は、一般に、調光材料を用いて形成することが可能である。調光材料は、樹脂マトリックスを形成する、エネルギー線を照射することにより硬化する高分子媒体と、高分子媒体中に光調整粒子が流動可能な状態で分散した光調整懸濁液と、を含有する。光調整懸濁液中の分散媒が、高分子媒体及びその硬化物と相分離しうるものであることが好ましい。調光材料を用いて、2つの透明導電性樹脂基材の間に、高分子媒体から形成された樹脂マトリックス中に光調整懸濁液が分散した調光層を形成することにより、調光フィルムが得られる。すなわち、前記調光フィルムの調光層では、液状の光調整懸濁液が、高分子媒体が硬化した固体状の樹脂マトリックス内に微細な液滴の形態で分散されている。光調整懸濁液に含まれる光調整粒子は、棒状又は針状であることが好ましい。
【0016】
このような調光フィルムに電界を印加すると、樹脂マトリックス中に分散されている光調整懸濁液の液滴中に浮遊分散されている電気的双極子モーメントをもつ光調整粒子が、電界に対し平行に配列されることにより、液滴が入射光に対して透明な状態に転換され、視野角度による散乱、又は透明性低下が殆どない状態で入射光を透過させる。
【0017】
(調光材料)
調光層の形成に用いる調光材料は、樹脂マトリックスを形成する高分子媒体と、高分子媒体中に分散した光調整懸濁液とを含む。具体的には、まず、光調整粒子を溶媒に分散した液と光調整懸濁液の分散媒とを混合し、ロータリーエバポレーター等で溶媒を留去し、光調整懸濁液を作製する。次いで、光調整懸濁液及び高分子媒体を混合し、光調整懸濁液が高分子媒体中に液滴状態で分散した混合液(調光材料)とする。
【0018】
前記高分子媒体及び分散媒(光調整懸濁液中の分散媒)としては、高分子媒体及びその硬化物と分散媒とが、少なくともフィルム化したときに互いに相分離しうるものを用いる。互いに非相溶又は部分相溶性の高分子媒体と分散媒とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0019】
本発明において用いられる高分子媒体は、(A)エチレン性不飽和結合を有する樹脂及び(B)光重合開始剤を含み、紫外線、可視光線、電子線等のエネルギー線を照射することにより硬化するものである。(A)エチレン性不飽和結合を有する樹脂としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂等が合成容易性、調光性能、耐久性等の点から好ましい。これらの樹脂は、置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を有することが、調光性能、耐久性等の点から好ましい。
【0020】
前記シリコーン系樹脂は、例えば、両末端シラノールポリジメチルシロキサン、両末端シラノールポリジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー、両末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン等の両末端シラノールシロキサンポリマー、トリメチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン等のエチレン性不飽和結合含有シラン化合物などを、2−エチルヘキサン錫等の有機錫系触媒の存在下で、脱水素縮合反応及び脱アルコール反応させて合成される。シリコーン系樹脂の形態としては、無溶剤型が好ましく用いられる。すなわち、シリコーン樹脂の合成に溶剤を用いた場合には、合成反応後に溶剤を除去することが好ましい。
【0021】
前記アクリル系樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン等の主鎖形成モノマーと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和結合導入用官能基含有モノマーなどを共重合して、プレポリマーを一旦合成し、次いで、このプレポリマーの官能基と反応させるべく(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸等のモノマーを前記プレポリマーに付加反応させることにより得ることができる。
【0022】
前記ポリエステル樹脂は、公知の方法で容易に製造できる。
これらエチレン性不飽和結合を有する樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって得られるポリスチレン換算の重量平均分子量は、20,000〜100,000であることが好ましく、30,000〜80,000であることがより好ましい。
【0023】
エチレン性不飽和結合を有する樹脂のエチレン性不飽和結合濃度は0.3モル/Kg〜0.5モル/Kgであることが好ましい。この濃度が0.3モル/Kg未満では、調光フィルム端部の処理が容易に行えず、相対する透明電極間がショートしやすく電気的信頼性が劣る傾向となる。一方この濃度が0.5モル/Kgを超えると硬化した高分子媒体が、光調整懸濁液の液滴を構成する分散媒に溶け込みやすくなり、溶け込んだ高分子媒体が液滴中の光調整粒子の動きを阻害し調光性能が低下する傾向がある。 エチレン性不飽和結合を有する樹脂のエチレン性不飽和結合濃度は、NMRの水素の積分強度比から求められる。また、仕込み原料の樹脂への転化率がわかる場合は計算によっても求められる。
【0024】
なお、シリコーン系樹脂の製造時の各種原料の仕込み配合において、(3−アクリロキシプロピル)メトキシシラン等のエチレン性不飽和結合含有シラン化合物の量は、原料シロキサン及びシラン化合物総量の19〜50重量%とすることが好ましく、25〜40重量%とすることがより好ましい。エチレン性不飽和結合含有シラン化合物の量は、19重量%未満であると最終的に得られる樹脂のエチレン性不飽和結合濃度が所望の濃度より低くなりすぎる傾向があり、50重量%を超えると得られる樹脂のエチレン性不飽和結合濃度が所望の濃度より高くなりすぎる傾向がある。
【0025】
光重合開始剤としては、J.Photochem. Sci. Technol.,2,283(1977)に記載される化合物、具体的には2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、(1−ヒドロキシシクロヘキシル)フェニルケトン等を使用することができる。
光重合開始剤の使用量は、上記の樹脂100重量部に対して0.1〜20重量部であることが好ましく、0.2〜1重量部であることがより好ましい。
【0026】
また、上記の樹脂の他に、有機溶剤可溶型樹脂又は熱可塑性樹脂、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜100,000のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等も併用することができる。
上記の組み合わせに用いられる、光調整懸濁液中の分散媒としては、光調整懸濁液中で分散媒の役割を果たし、また光調整粒子に選択的に付着被覆し、高分子媒体との相分離の際に光調整粒子が相分離された液滴相に移動するように作用し、電気導電性がなく、高分子媒体とは親和性がない液状共重合体を使用することが好ましい。
【0027】
例えば、フルオロ基及び/又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーが好ましく、フルオロ基及び水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーがより好ましい。このような共重合体を使用すると、フルオロ基、水酸基のどちらか1つのモノマー単位は光調整粒子に向き、残りのモノマー単位は高分子媒体中で光調整懸濁液が液滴として安定に維持するために働くことから、光調整懸濁液内に光調整粒子が非常に均質に分散され、相分離の際に光調整粒子が相分離される液滴内に誘導される。
【0028】
このようなフルオロ基及び/又は水酸基を有するアクリル酸エステルオリゴマーとしては、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸3,5,5−トリメチルヘキシル/アクリル酸2−ヒドロキシプロピル/フマール酸共重合体、アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体などが挙げられる。フルオロ基及び水酸基の両方を有することがより好ましい。
【0029】
これらのアクリル酸エステルオリゴマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜10,000であることがより好ましい。
【0030】
これらのアクリル酸エステルオリゴマーの原料となるフルオロ基含有モノマーの使用量は、原料であるモノマー総量の6〜12モル%であることが好ましく、より効果的には7〜8モル%である。フルオロ基含有モノマーの使用量が12モル%を超える場合には、屈折率が大きくなり、光透過率が低下する傾向がある。また、これらのアクリル酸エステルオリゴマーの原料となる、水酸基含有モノマーの使用量は0.5〜22.0モル%であることが好ましく、より効果的には1〜8モル%である。水酸基含有モノマーの使用量が22.0モル%を超える場合には、屈折率が大きくなり、光透過性が低下する傾向がある。
【0031】
本発明に使用される光調整懸濁液は、分散媒中に光調整粒子が流動可能に分散したものである。光調整粒子としては、例えば、高分子媒体、又は高分子媒体中の樹脂成分、即ち上記のエチレン性不飽和結合を有する置換基をもつシリコーン樹脂と親和力がなく、また光調整粒子の分散性を高めることができる高分子分散剤の存在下で、光調整粒子の前駆体(基板形成物質)であるピラジン−2,3−ジカルボン酸・2水和物、ピラジン−2,5−ジカルボン酸・2水和物、ピリジン−2,5−ジカルボン酸・1水和物からなる群の中から選ばれた1つの物質とヨウ素及びヨウ化物を反応させて作ったポリヨウ化物の針状結晶が用いられる。使用しうる高分子分散剤としては、例えば、ニトロセルロース等が挙げられる。ヨウ化物としては、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。このようにして得られるポリヨウ化物としては、例えば、下記一般式
CaI
2(C
6H
4N
2O
4)・XH
2O (X:1〜2)
CaI
a(C
6H
4N
2O
4)b・cH
2O (a:3〜7、b:1〜2、c:1〜3)
で表されるものが挙げられる。これらのポリヨウ化物は針状結晶であることが好ましい。
【0032】
上記の光調整粒子の他、例えば、炭素繊維等の無機繊維、τ型無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン等のフタロシアニン化合物などを使用することもできる。フタロシアニン化合物において、中心金属としては、銅、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、チタン、ベリリウム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、クロム等が挙げられる。
【0033】
本発明において、光調整粒子の大きさは1μm以下であることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましく、0.1〜0.5μmであることがさらに好ましい。光調整粒子の大きさが1μmを超える場合には、光散乱が生じたり、電界が印加された場合に光調整懸濁液中での配向運動が低下するなど、透明性が低下する問題が発生する場合もある。なお、光調整粒子の大きさは、サブミクロンアナライザ(例えば、N4MD(ベックマン・コールタ社製)で測定した光子相関分光分析法による50%体積平均粒径の値とする。
【0034】
本発明に使用される光調整懸濁液は、光調整粒子1〜70重量%及び分散媒30〜99重量%からなることが好ましく、光調整粒子4〜50重量%及び分散媒50〜96重量%からなることがより好ましい。本発明における高分子媒体と分散剤との屈折率の差は、好ましくは0.002以下、より好ましくは0.001以下、更に好ましくは0.0005以下である。本発明の調光材料は、高分子媒体100重量部に対して、光調整懸濁液を通常1〜100重量部、好ましくは6〜70重量部、より好ましくは6〜60重量部含有する。
【0035】
上記の調光材料を、一方の透明導電性樹脂基材上に一定な厚さで塗布した後、もう一方の透明導電性樹脂基材を重ねた後に紫外線を照射し、高分子媒体を硬化させる。2枚の透明導電性樹脂基材の両方の上に調光層を形成し、それを調光層同士が密着するようにして積層してもよい。透明導電性樹脂基材上にプライマー層を設けた上に調光材料を塗布してもよい。調光層の厚みは、5μm〜1,000μmが好ましく、45μm〜150μmがより好ましい。
【0036】
樹脂マトリックス中に分散されている光調整懸濁液の液滴の大きさ(平均液滴径)は、通常0.5μm〜100μm、好ましくは0.5μm〜20μm、より好ましくは1μm〜5μmである。液滴の大きさは、光調整懸濁液を構成している各成分の濃度、光調整懸濁液及び高分子媒体の粘度、光調整懸濁液中の分散媒の高分子媒体に対する相溶性等により調整することができる。
【0037】
平均液滴径は、例えば、SEMを用いて、調光フィルムの一方の面方向から写真等の画像を撮影し、任意に選択した複数の液滴直径を測定し、その平均値として算出することができる。また、調光フィルムの光学顕微鏡での視野画像をデジタルデータとしてコンピュータに取り込み、画像処理インテグレーションソフトウェアを使用し算出することも可能である。
【0038】
調光層となる調光材料の塗布には、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ロールコーター、ダイコーター、コンマコーター等の公知の塗工手段を用いることができる。なお、塗布する際は、調光材料を必要に応じて、適当な溶剤で希釈してもよい。溶剤を用いた場合には、調光材料を透明導電性樹脂基材上に塗布した後に乾燥させることが好ましい。
【0039】
調光材料の塗布に用いる溶剤としては、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、エタノール、メタノール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができる。液状の光調整懸濁液が、固体の樹脂マトリックス中に微細な液滴形態で分散されている調光層を形成するためには、調光材料をホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等で混合して高分子媒体中に光調整懸濁液を微細に分散させる方法、高分子媒体中の樹脂成分の重合による相分離法、溶剤揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用することができる。
【0040】
上記の方法によれば、電場の形成により任意に光透過率が調節できる調光フィルムが提供される。この調光フィルムは、電場が形成されていない場合にも、光の散乱のない鮮明な着色状態を維持し、電場が形成されると透明な状態に転換される。この能力は、20万回以上の可逆的反復特性を示す。透明な状態においての光透過率向上と、着色された状態における鮮明度の向上のためには、液状の光調整懸濁液の屈折率と、樹脂マトリックスの屈折率を一致させることが好ましい。
【0041】
調光フィルムを作動させるための使用電源は交流で、10V〜200V(実効値)、30Hz〜500Hzの周波数範囲とすることができる。
【0042】
調光フィルムに電界が印加されていないときには、光調整懸濁液内の光調整粒子のブラウン運動のため、光調整粒子の光吸収、2色性効果による鮮明な着色状態を示す。しかし、電界が印加されると、液滴又は液滴連結体の中の光調整粒子が電場に平行に配列され、透明な状態に転換される。また、調光フィルムはフィルムの状態であるため、液状の光調整懸濁液をそのまま使用する従来技術による調光硝子の問題点、即ち、2枚の透明導電性樹脂基材の間への液状の懸濁液の注入の困難性、製品の上下間の水圧差による下部の膨張現象、風圧等の外部環境による基材間隔の変化による局部的な色相変化、透明導電性樹脂基材の間の密封材の破壊による調光材料の漏洩などが解決される。
【0043】
<透明導電性樹脂基材>
調光フィルムに使用される透明導電性樹脂基材としては、例えば、透明樹脂基材に、光透過率が80%以上の透明な導電層(ITO、SnO
2、In
2O
3等)がコーティングされている表面抵抗値が3Ω/□〜10KΩ/□の透明導電性樹脂基材を使用することができる。表面抵抗はJIS K 7194準拠して測定することができる。一方、光透過率はJIS K7105の全光線透過率の測定法に準拠して測定することができる。
【0044】
透明樹脂基材としては、例えば、高分子フィルム等を使用することができる。高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂系のフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等の樹脂フィルムが挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレートフィルムが透明性に優れ、成形性、接着性、加工性等に優れるので好ましい。
【0045】
透明樹脂基材にコーティングされる導電層の厚みは、10nm〜5,000nmであることが好ましい。透明樹脂基材の厚みは特に制限はないが、例えば、高分子フィルムの場合には10μm〜200μmが好ましい。2つの透明樹脂基材の間隔が狭い場合には、導電層の上に数nm〜1μm程度の厚さの透明絶縁層が形成されている透明樹脂導電性基材を使用することにより、異物質の混入等により発生する短絡を防止することができる。また、調光フィルムを反射型の調光窓に利用する場合(例えば、自動車用リアビューミラー等)は、反射体であるアルミニウム、金、又は銀のような導電性金属の薄膜を駆動用電極として直接用いてもよい。
【0046】
<プライマー層>
調光フィルムを構成する透明導電性樹脂基材の上にプライマー層を形成することにより、調光層との密着性を向上させることができる。
プライマー層の材料は特に制限されないが、シリコーン樹脂、ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートを含有する材料、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートを含有する材料、金属酸化物微粒子を有機バインダー樹脂に分散させた材料、分子内に1つ以上の重合性基を有するリン酸エステル、アミノ基を有するシランカップリング剤等からなる薄膜で形成されるのが好ましい。中でも、UV硬化性シリコーン樹脂が高硬度膜形成の観点から好ましい。
【0047】
プライマー層の形成は、例えば、プライマー層を形成する材料を透明導電性樹脂基材に塗布することにより行うことができる。塗布する際は、上記材料を適当な溶剤で希釈してもよい。プライマー層の厚みは、40nm〜100nmであることが密着性と着色、ヘイズ上昇の観点から好ましい。また、塗布後に必要に応じて硬化処理を行ってもよい。
【0048】
<導電フィルム>
調光フィルムの駆動用電極の接合に使用される導電フィルムは、透明導電性樹脂基材と導電性薄膜材料とを熱圧着可能な導電性を有するフィルム状の材料であれば特に限定されない。例えば、導電性粒子が分散された熱硬化性樹脂をテープ状に成型したものを使用できる。
導電フィルムに使用することができる熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル樹脂系などが挙げられ、中でもアクリル樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂が低温短時間硬化の観点から好ましい。
【0049】
導電性粒子としては、例えば、ニッケルメッキと金メッキが施された樹脂粒子や、金メッキが施されたニッケル粒子、銀メッキが施された銅粒子などの金属コート粒子や、ニッケル粒子、銀粒子などの金属粒子が使用できる。
導電性粒子の粒子径は0.01〜50μmであることが導電性粒子の凝集防止の観点から好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。
導電フィルム中の導電性粒子の含有率は0.01〜20%であることが導電性粒子の均一分散の観点から好ましく、0.1〜10%であることがより好ましい。
【0050】
導電フィルムの厚みは0.1μm〜100μmであることが導電性の観点から好ましく、1μm〜50μmであることがより好ましい。
導電フィルムの例としては、例えば接着剤成分と、導電粒子とを含んでなる接着剤組成物からなることが好ましい。接着剤成分としては、例えば熱や光により硬化性を示す材料を広く適用できる。接続後の耐熱性や耐湿性に優れていることから、架橋性材料の使用が好ましい。熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を主成分として含有するエポキシ系接着剤は、短時間硬化が可能で接続作業性がよく、分子構造上接着性に優れている等の特徴から好ましい。また、国際公開2009/063827号に記載されるようなラジカル硬化系の接着剤組成物も使用することができる。エポキシ系接着剤は、例えば高分子量エポキシ、固形エポキシ又は液状エポキシ、あるいは、これらをウレタン、ポリエステル、アクリルゴム、ニトリルゴム(NBR)、合成線状ポリアミド等で変性したエポキシを主成分とするものを使用することができる。エポキシ系接着剤は、主成分をなす上記エポキシに硬化剤、触媒、カップリング剤、充填剤等を添加してなるものが一般的である。
【0051】
導電粒子としては、例えばAu、Ag、Pt、Ni、Cu、W、Sb、Sn、はんだ等の金属やカーボンの粒子が挙げられる。また、非導電性のガラス、セラミック、プラスチック等を核とし、この核を上記の金属やカーボンで被覆した被覆粒子を使用してもよい。導電粒子の平均粒径は分散性、導電性の観点から1μm〜18μmであることが好ましい。なお、導電粒子を絶縁層で被覆してなる絶縁被覆粒子を使用してもよく、隣接する電極同士の絶縁性を向上させる観点から導電粒子と絶縁性粒子とを併用してもよい。
【0052】
導電粒子の含有割合は、導電フィルムに含まれる接着剤成分100体積部に対して、0.1〜30体積部であることが好ましく、0.1〜10体積部であることがより好ましい。この含有割合が0.1体積部未満であると対向する電極間の接続抵抗が高くなる傾向にあり、30体積部を超えると隣接する電極間の短絡が生じやすくなる傾向がある。なお、これら導電フィルムに含有される成分、その含有量、配合方法等については国際公開2009/063827号に記載される成分、その含有量、配合方法等を使用することができる。
【0053】
<導電材>
調光フィルムの駆動用電極の作製に使用される導電材は、調光フィルムと外部の駆動用電源とを接続可能な材料であれば特に制限はないが、例えば、金属箔、金属箔に導電性粘着材が塗布されている表面抵抗値が1mΩ/□〜100mΩ/□の導電性テープ、フレキシブルプリント基板、上記の透明導電性樹脂基材などが挙げられる。
金属箔としては、銅箔、アルミ箔、鉛箔などが挙げられるが、調光フィルムの駆動電源との接続の際に導電性薄膜材料から配線を施す際に半田付けの必要があるため、半田付けが容易である銅箔であることが好ましい。
【0054】
導電性粘着材としては、ニッケル、銀、銅などの金属微粒子、カーボンからなる繊維もしくは微粒子、および樹脂微粒子に金属を被覆した導電性粒子のいずれかを含むアクリル系粘着材が好ましい。
フレキシブルプリント基板としては、PI(ポリイミド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)を例として挙げることができる。
透明導電性樹脂基材としては、上記した調光フィルムを形成する透明導電性樹脂基材を挙げることができる。
【0055】
導電材は、薄膜形状であることが好ましい。厚みに特に制限はないが、調光フィルムに用いられる透明導電性樹脂基材の厚さを超えない範囲が好ましく、10μm〜200μmがより好ましく、50〜100μmであることがより好ましい。
導電材の抵抗率は1〜100mΩ/cm
2であることが透明導電性樹脂基材との接触抵抗を小さく保つなどの観点から好ましく、0.1〜1Ω/cm
2であることがより好ましい。
【0056】
<導電材付き調光フィルムの製造方法>
本発明の導電材付き調光フィルムは、導電性を有する面を有する2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持され、樹脂マトリックス及び前記樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液を含む調光層と、を有する調光フィルムの前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面に、導電フィルムを介して導電材を熱圧着する工程を含む方法によって製造される。
【0057】
具体的には、例えば、以下の工程を経ることによって形成される。
(1)対向している2つの透明導電性樹脂基材の何れか一方の、もう一方の透明導電性樹脂基材の駆動用電極を形成する部分(駆動用電極部)に対応する部分を所望の電極形状に切断・除去する。
(2)透明導電性樹脂基材の除去後に露出した調光層を削ぎ落とすなどして除去する。(3)調光層を除去して露出した部分のプライマー層3(駆動用電極部)をヘキサンなどの溶剤で拭き取り洗浄する。
溶剤洗浄の後、UVオゾン洗浄を行うことは密着性の観点から好ましい。UVオゾン洗浄の方法は特に制限されないが、例えば、低圧水銀ランプ、エキシマランプ等を挙げることができる。
【0058】
(4)駆動用電極部に導電フィルムと導電性テープなどの導電材を順次貼り付ける。導電材を貼り付ける前に、導電フィルムを駆動用電極部に熱圧着してもよい。この場合の熱圧着の条件は、温度は60〜200℃であることが駆動用電極分部の加熱時の寸法変化の観点から好ましく、70〜90℃であることがより好ましい。時間は1〜10秒間であることが駆動用電極分部の熱による歪みや反りの観点から好ましく、1〜3秒間であることがより好ましい。圧力は0.5〜3MPaであることが密着力の観点から好ましく、1〜2MPaであることがより好ましい。あるいは、導電フィルムと導電材とを予め貼り合わせた積層体の導電フィルム側を、駆動用電極部に貼り付けてもよい。
【0059】
(5)導電材の上から加熱された熱圧着ヘッドを押し付けて、導電フィルム及び導電材を駆動用電極部に熱圧着させる。
熱圧着の温度は160〜190℃であることが駆動用電極分部の熱による歪みや反りの観点から好ましく、70〜100℃であることがより好ましい。
熱圧着の時間は5〜60秒間であることが駆動用電極分部の熱ストレスによるクラック防止の観点から好ましく、10〜20秒間であることがより好ましい。
熱圧着の圧力は1〜5MPaであることが駆動用電極分部との密着力の観点から好ましく、2〜3MPaであることがより好ましい。
熱圧着の方法は、熱及び圧力を導電材及び導電フィルムに付与できるものであれば特に制限されないが、例えば、熱圧着ヘッドを導電材及び導電材に押し当てる方法が挙げられる。
これら一連の工程を、対向している2つの透明導電性樹脂基材の両方に対して実施する。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(光調整粒子の製造例)
光調整粒子を製造するために、撹拌機及び冷却管を装着した500mlの四つ口フラスコに、ニトロセルロース1/4LIG(商品名、ベルジュラックNC社製)15質量%の酢酸イソアミル(試薬特級、和光純薬工業(株)製)希釈溶液87.54g、酢酸イソアミル44.96g、脱水CaI
2(化学用、和光純薬工業(株)製)4.5g、無水エタノール(有機合成用、和光純薬工業(株)製)2.0g、精製水(和光純薬工業(株)製)0.6gの溶液に、ヨウ素(JIS試薬特級、和光純薬工業(株)製)4.5gを溶解し、光調整粒子の基盤形成物質であるピラジン−2,5−ジカルボン酸2水和物(PolyCarbon Industries製)3gを添加した。45℃で3時間撹拌して反応を終了させた後、超音波分散機で2時間分散させた。このとき、混合液の色相は、茶色から暗紺色に変化した。
【0062】
次に、反応溶液から一定な大きさの光調整粒子を取り出すために、遠心分離機を用いて光調整粒子を分離した。反応溶液を750Gの速度で10分間遠心分離して沈殿物を取り除き、更に7390Gで2時間遠心分離して、浮遊物を取り除き、沈殿物粒子を回収した。この沈殿物粒子は、サブミクロン粒子アナライザ(製品名:N4MD、ベックマン・コールター社製)で測定した平均粒径が0.36μmを有する針状結晶であった。この沈殿物粒子を光調整粒子とした。
【0063】
(光調整懸濁液の製造例)
前記の(光調整粒子の製造例)で得た光調整粒子45.5gを、光調整懸濁液の分散媒としてのアクリル酸ブチル(和光特級、和光純薬工業(株)製)/メタクリル酸2、2、2−トリフルオロエチル(工業用、共栄社化学工業(株)製)/アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光1級、和光純薬工業(株)製)共重合体(モノマーモル比:18/1.5/0.5、重量平均分子量:2,000、屈折率1.4719)50gに加え、撹拌機により30分間混合した。次いで酢酸イソアミルをロータリーエバポレーターで133Paの真空で80℃、3時間減圧除去し、光調整粒子の沈降及び凝集現象のない安定な液状の光調整懸濁液を製造した。
【0064】
(エネルギー線硬化型シリコーン系樹脂の製造例)
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、両末端シラノールポリジメチルシロキサン(試薬、チッソ(株)製)17.8g、両末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(試薬、チッソ(株)製)62.2g、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン(試薬、チッソ(株)製)20g、2−エチルヘキサン錫(和光純薬工業(株)製)0.1gを仕込み、100℃のヘプタン中で3時間リフラックスし、反応を行った。
【0065】
次いで、トリメチルエトキシシラン(試薬、チッソ(株)製)25gを添加し、2時間リフラックスし、脱アルコール反応させ、ヘプタンをロータリーエバポレーターを用いて100Paの真空で80℃、4時間減圧除去し、重量平均分子量35000、屈折率1.4745のエネルギー線硬化型シリコーン系樹脂を得た。得られたエネルギー線硬化型シリコーン系樹脂を、高分子媒体として用いた。NMRの水素積分比からこの樹脂のエチレン性不飽和結合濃度は、0.31モル/kgであった。なお、エチレン性不飽和結合濃度は下記の方法により測定した。
【0066】
[エチレン性不飽和結合濃度の測定方法]
エチレン性不飽和結合濃度(モル/kg)は、NMRの水素積分比から算出した(エチレン性不飽和結合の水素の6ppm近傍の積分値、フェニル基の水素の7.5ppm近傍の積分値、及びメチル基の水素の0.1ppm近傍の積分値を使用)。測定溶媒はCDCl
3とした。上記で製造した樹脂においては、NMRの水素積分比から算出した質量比率がメチル基:フェニル基:エチレン性不飽和結合基=11:6.4:1、全体の中のエチレン性不飽和結合基の割合は5.4質量%、各々の分子量から1分子あたりのエチレン性不飽和結合基の数は9.35、よって、1kgあたりのモル数は0.31モル/kgと算出した。
【0067】
(調光材料の製造例)
前記(エネルギー線硬化型シリコーン系樹脂の製造例)で得たエネルギー線硬化型シリコーン系樹脂10g、光重合開始剤としてのビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルス(株)製)0.2g、着色防止剤としてのジブチル錫ジラウレート0.3gに、前記(光調整懸濁液の製造例)で得た光調整懸濁液2.5gを添加し、ポリトロンホモジナイザModel K(KINEMATICA社製)を使用して1分間機械的に混合し、調光材料を製造した。
【0068】
(プライマー層付き透明導電性樹脂基材の製造例)
ITO(インジウム錫の酸化物)透明導電膜(厚み3000nm)がコーティングされている表面電気抵抗値が200〜400Ω/□のPETフィルム(300R、東洋紡績(株)製、厚み125μm)からなる透明導電性樹脂基材の透明導電膜上に、UV硬化型シリコーン樹脂コーティング剤(商品名:AY42−151、東レ・ダウコーニング(株)製)をイソプロピルアルコール:1−メトキシ−2−プロパノール=1:1混合溶剤に1.0質量%となるように溶解した溶液を、マイクログラビア法(メッシュ#150)を用いて、全面塗布した。50℃/30s、60℃/30s、70℃/1minで乾燥後、UV照射1、000mJ/cm2(メタルハライドランプ)で光硬化してプライマー層を形成した。なお、AY42−151には光重合開始剤(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)が含有されている。瞬間分光光度計F−20(フィルメトリクス(株)製)を用いて測定したプライマー層の厚みは、73nmであった。
【0069】
(調光フィルムの製造例)
前記のプライマー層付き透明導電性樹脂基材のプライマー層の全面に、前記(調光材料の製造例)で得た調光材料をダイコータによる塗工方法により塗布し、次いでもう一方のプライマー層付き透明導電性樹脂基材を、プライマー層が調光材料を塗布した面に向くようにして積層して密着させた。メタルハライドランプを用いて3,000mJ/cm
2の紫外線を前記積層した透明導電性樹脂基材の両面のPETフィルム側から照射した。これにより、光調整懸濁液が球形の液滴として紫外線硬化した樹脂マトリックス内に分散した状態で形成されたフィルム状の厚み90μmの調光層が透明導電性樹脂基材に挟まれた構造を有する、厚み340μmの調光フィルムを製造した。
【0070】
(実施例1)
実施例1の導電材付き調光フィルムを、本発明の製造方法の一例に従って製造した。以下、
図2を参照しながら各工程を説明する。導電材は2つの透明導電性樹脂基材のそれぞれに接合される必要があるので、各工程は2つの透明導電性樹脂基材のそれぞれに施されるものである。
【0071】
(1)前記(調光フィルムの製造例)で得られた調光フィルムを50mm×100mmに切断し、長さ50mmの辺の両端において50mm×5mmの範囲の透明導電性樹脂基材4を切り取り、調光層を露出させた。次に、露出した調光層をプラスチック製のヘラで削ぎ落とした。さらに、削ぎ落とした部分のプライマー層3を、ヘキサンを含浸させた不織布で溶剤洗浄して、駆動用電極部とした(
図2(A))。その後、駆動用電極部をUVオゾン洗浄装置(オーク製作所製、UVドライプロセッサー)で90秒間UV洗浄した。
(2)50mm×1.5mmの幅に切断した導電フィルム5(セパレータ7付き)(MF−311、日立化成工業(株)製)を駆動用電極部に貼り付けた(
図2(B))。
【0072】
(3)導電フィルム5のセパレータ7の上から熱圧着ヘッドを押し当てて熱圧着した(
図2(C))。この時、熱圧着ヘッドの温度は140℃(導電フィルム5の温度は80℃)、熱圧着時の圧力は1MPa、圧着時間は1秒とした。
(4)導電フィルム5のセパレータ7を剥離除去して、露出した導電フィルム5の表面に導電材6(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス製銅テープ、CU7636)を貼り付けた(
図2(D))。
(5)導電材6の上から熱圧着ヘッド8を押し当てて熱圧着した(
図2(E))。この時、熱圧着ヘッド8の温度は150℃、熱圧着時の圧力は2MPa、圧着時間は20秒とした。
以上の工程を2つの透明導電性樹脂基材4に対して行い、導電材付き調光フィルムを得た(
図2(F))。
【0073】
(実施例2)
実施例2の導電材付き調光フィルムを、本発明の製造方法の他の一例に従って製造した。以下、
図3を参照しながら各工程を説明する。導電材は2つの透明導電性樹脂基材のそれぞれに接合される必要があるので、各工程は2つの透明導電性樹脂基材のそれぞれに施されるものである。
【0074】
(1)前記(調光フィルムの製造例)で得られた調光フィルムを50mm×100mmに切断し、長さ50mmの辺の両端において50mm×5mmの範囲の透明導電性樹脂基材4を切り取り、調光層を露出させた。次に、露出した調光層をプラスチック製のヘラで削ぎ落とした。さらに、削ぎ落とした部分のプライマー層3を、ヘキサンを含浸させた不織布で溶剤洗浄して、駆動用電極部とした(
図3(A))。その後、駆動用電極部をUVオゾン洗浄装置(オーク製作所製、UVドライプロセッサー)で90秒間UV洗浄した。
【0075】
(2)導電フィルム5と導電材6(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス製銅テープ、CU7636)を事前に貼り合わせて作製した積層体を50mm×1.5mmの幅に切断して、積層体の導電フィルム5側を駆動電極面に貼り付けた(
図3(B))。
(3)導電材6の上から熱圧着ヘッドを押し当てて熱圧着した(
図3(C))。この時、熱圧着ヘッド8の温度は150℃、熱圧着時の圧力は2MPa、圧着時間は20秒とした。
以上の工程を2つの透明導電性樹脂基材4に対して行い、導電材付き調光フィルムを得た(
図3(D))。
【0076】
(実施例3)
実施例2(3)の熱圧着時の圧力を3MPaに変えて導電材付き調光フィルムを作製した。
【0077】
(比較例1)
比較例1として、実施例1〜3と同様にして露出させた透明導電性樹脂基材4の駆動用電極部に対してヘキサンによる溶剤洗浄のみ行った。その後、導電フィルムを介さずに駆動用電極部に導電材6(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス製銅テープ、CU7636)を貼り付けて調光フィルムを作製した。この構造は、単純な従来構造例である。
【0078】
(比較例2)
比較例2として、実施例1〜3と同様にして露出させた透明導電性樹脂基材4の駆動用電極部に対してヘキサンによる溶剤洗浄を行い、次いでUVオゾン洗浄を90秒行った。その後、導電性ペースト(太陽インキ製造株式会社製、ECM−100 AF4810)を駆動用電極部に50mm×5mmの範囲でゴムスキージにより100μmの厚さに塗布し、90℃に温度調節した乾燥機で30分間硬化させて、導電性ペースト下地を形成した。得られた導電性ペースト下地の上に導電材6(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス製銅テープ、CU7636)を貼り付けて、調光フィルムを作製した。この構造は、密着力に優れる構造例である。
【0079】
上記の実施例及び比較例において、一方(片側)の透明導電性樹脂基材4の駆動用電極部に導電材6を接合するのに要した時間は、実施例1及び2では約4分、実施例3では約2分30秒であった。これらは比較例1の約2分に近い値であり、密着力に優れる比較例2の45分から大幅に短縮されたものである。
【0080】
(熱老化試験)
実施例1〜3、及び比較例1、2で作製した試料に対して熱老化試験を実施した。具体的には、100℃の加熱条件で、通電時における透過率保持率の経時的変化を測定した。すなわち、100℃に温度調節した送風定温恒温器(ヤマト科学製、DKM600)に試料を投入・加熱して熱老化試験を実施した。所定時間毎に試料を取り出し、透過率の保持率測定を行なった。試験は約1000時間を目安として行なった
【0081】
導電材付き調光フィルムの通電時における透過率の保持率は、以下のようにして測定した。すなわち、試料の駆動用電極(導電材)を交流電源(菊水電子工業製、PCR500M)に接続し、100V/50Hzの信号を与えて調光フィルムを駆動させながら、ヘイズメータ(東京電色製、TC−1800H)を用いて全線透過率を測定した。この全線透過率を透過率とした。初期の透過率を100%として、下式により試料を取り出した時間毎の透過率の保持率を観察した。
通電時透過率の保持率(%)=試料を取り出した時間での透過率/初期の透過率×100
【0082】
その結果、
図4に示すように、本発明の実施例1〜3の導電材付き調光フィルムと比較例1、2の導電材付き調光フィルムとでは熱老化特性に大きな差は現れなかった。また、比較例1の電極は一部が剥離したが、実施例1〜3及び比較例2の電極は剥がれが発生しなかった。
【0083】
(冷熱衝撃試験)
実施例1〜3、及び比較例1、2で作製した導電材付き調光フィルムの駆動用電極構造の密着強度を評価するために、以下のようにして冷熱衝撃試験を行った。
調光フィルムを製造する前の透明導電性樹脂基材4を50mm×100mmに切断し、長さ50mmの辺の両方において上記の実施例1〜3及び比較例1、2と同様の作製手順で駆動用電極(導電フィルム及び導電材、導電材のみ、又は導電ペースト下地及び導電材)を形成した(
図5)。その後、小型冷熱衝撃装置(エスペック製、TSE−11−A)に試料を投入して−20℃/20分保持と80℃/20分保持のサイクルで冷熱衝撃試験を行った。サイクル試験回数は240サイクルとした。
【0084】
試験の前後に、試料の電極間抵抗をデジタルマルチメータ(三和電気計器製、RD701)を用いて測定した。その結果、表1に示すとおり、比較例1は抵抗増加が見られた。これは導電性テープの剥がれによるものである。一方、実施例1〜3の電極構造は冷熱衝撃試験後も電極間抵抗の急激な上昇はなく、良好な密着力が得られている。
【0085】
【表1】