特許第6019809号(P6019809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019809
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】絶縁電線及びそれを用いたコイル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20161020BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20161020BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20161020BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20161020BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20161020BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20161020BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20161020BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   H01B7/02 A
   C09D201/02
   C09D179/08 A
   C09D179/08 B
   C09D179/08 D
   C09D5/25
   C09D5/00 D
   C08L79/08 Z
   H01F5/06 H
   H01F5/06 Q
   H01B3/30 E
   H01B3/30 F
   H01B3/30 G
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-143609(P2012-143609)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2013-33727(P2013-33727A)
(43)【公開日】2013年2月14日
【審査請求日】2014年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-146071(P2011-146071)
(32)【優先日】2011年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137855
【弁理士】
【氏名又は名称】沖川 寛
(72)【発明者】
【氏名】本田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 秀太
(72)【発明者】
【氏名】牛渡 剛真
(72)【発明者】
【氏名】阿部 富也
(72)【発明者】
【氏名】菊池 英行
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−224697(JP,A)
【文献】 特開2012−234625(JP,A)
【文献】 特開平10−247422(JP,A)
【文献】 特開昭63−221126(JP,A)
【文献】 特開平07−073743(JP,A)
【文献】 特開2010−067408(JP,A)
【文献】 特開2010−262789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
C08L 79/08
C09D 5/00
C09D 5/25
C09D 179/08
C09D 201/02
H01B 3/30
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の周囲に設けられた絶縁被覆と、を備えた絶縁電線であって、
前記絶縁被覆は、前記導体の周囲に、ポリイミド樹脂からなる第1絶縁皮膜と、
前記第1絶縁皮膜の周囲に、下記化1で表される繰返し単位を有し、イミド濃度が15.7%以上29.5%以下であるポリイミド樹脂からなる第2絶縁皮膜と、を有することを特徴とする絶縁電線。
【化1】
但し、R1は芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基(但し、R1の原料となる芳香族テトラカルボン酸二無水物として2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボン酸フェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)を除く)であり、
2は芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であり、前記芳香族ジアミンは、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルが含まれている。
【請求項2】
前記第2絶縁皮膜は、その皮膜厚さが前記絶縁被覆の全体の厚さに対して80%以上100%未満である請求項1記載の絶縁電線。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の絶縁電線を用いて形成されたことを特徴とするコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線に係り、特に、モータや変圧器等の電気機器のコイル用として好適な絶縁電線及びそれを用いたコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転電機や変圧器などの電気機器のコイルには、コイルの用途・形状に合致した断面形状(例えば、丸形状や矩形状)を有する金属導体(導体)の周囲に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等の樹脂を有機溶剤に溶解させた絶縁塗料を塗布・焼付けして得られる絶縁皮膜を1層又は2層以上形成してなる絶縁被覆層を備えた絶縁電線(エナメル線)が、広く用いられている。
【0003】
回転電機や変圧器などの電気機器は、インバータ制御にて駆動されるようになってきており、このようなインバータ制御を用いた電気機器では、インバータ制御により発生するインバータサージ(サージ電圧)が高い場合、電気機器のコイルを構成する絶縁電線に、このインバータサージ電圧に起因して部分放電が発生し、絶縁皮膜が劣化することや損傷することがある。
【0004】
インバータサージ電圧による絶縁皮膜の劣化や損傷を防ぐための方法として、例えば3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミン成分と、酸成分とを含有する芳香族イミドプレポリマーに、2つ以下の芳香環を有する芳香族ジイソシアネート成分を混合してなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体上に塗布し、焼付けして絶縁皮膜を形成した絶縁電線が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、このようなポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いることで、比誘電率の低い絶縁皮膜が得られ、部分放電開始電圧(PDIV:Partial Discharge Inception Voltage)の高い絶縁電線が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−161683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、モータの小型化、高出力化等が望まれているため、インバータ制御により発生するインバータサージ電圧の値が上昇する傾向にあり、従来よりも部分放電が発生しやすい環境下で絶縁電線が使用されることになる。このため、最近の絶縁電線には、従来よりも部分放電開始電圧を高くすることでインバータサージ電圧の値が上昇しても部分放電自体が発生しないことが望まれている。
【0007】
また、モータの小型化、高電圧駆動等のために、コイルを構成する絶縁電線の高占積率化が検討されている。このため、コイルの放熱性の低下や、コイルに流す電流の大電流化などの環境因子の変化によって、コイルを構成する絶縁電線が高温(例えば180℃以上)の環境下で使用されることになるが、このような高温の環境下においても部分放電によって絶縁皮膜が劣化・損傷しないように、高温の環境下において部分放電自体が発生しにくい絶縁電線が望まれている。
【0008】
しかし、上述のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いた場合では、高温の環境下において十分な部分放電開始電圧が得られないことがあった。
【0009】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決し、高温の環境下においても高い部分放電開始電圧を有する絶縁被覆を備えた絶縁電線及びそれを用いたコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために創案された本発明は、導体と、前記導体の周囲に設けられた絶縁被覆と、を備えた絶縁電線であって、前記絶縁被覆は、前記導体の周囲に、ポリイミド樹脂からなる第1絶縁皮膜と、前記第1絶縁皮膜の周囲に、下記化1で表される繰返し単位を有し、イミド濃度が15.7%以上29.5%以下であるポリイミド樹脂からなる第2絶縁皮膜と、を有する絶縁電線である。
【0011】
【化1】
但し、R1は芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基(但し、R1の原料となる芳香族テトラカルボン酸二無水物として2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボン酸フェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)を除く)であり、
2は芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であり、前記芳香族ジアミンは、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルが含まれている。

【0012】
前記第2絶縁皮膜は、その皮膜厚さが前記絶縁被覆の全体の厚さに対して80%以上100%未満であると良い。
【0015】
また本発明は、上記いずれかに記載の絶縁電線を用いて形成されたコイルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温の環境下においても高い部分放電開始電圧を有する絶縁被覆を備えた絶縁電線及びそれを用いたコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る絶縁電線の構造例を示す断面図である。
図2】本発明に係る絶縁電線の構造例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施の形態を図面を用いて説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る絶縁電線の構造例を示す断面図である。
【0020】
この絶縁電線10は、導体1と、導体1の周囲に設けられた絶縁被覆11と、を備え、その絶縁被覆11は、導体1の周囲に、分子中にイミド構造を含む樹脂からなる第1絶縁皮膜2と、第1絶縁皮膜2の周囲に、下記化2で表される繰返し単位を有し、イミド濃度が15%以上36%以下であるポリイミド樹脂からなる第2絶縁皮膜3と、を有することが必須である。ここで、イミド濃度とは、下記化3で表されるイミド構造の分子量[M1]を、下記化4で表される1ユニット当たりの化学構造の分子量[M2]で除して表される濃度[M1]/[M2]をいう。
【0021】
【化2】
但し、R1は芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、
2は芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基である。
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
次に、第1絶縁皮膜2および第2絶縁皮膜3の詳細について説明する。
【0025】
[部分放電開始電圧の高い絶縁被覆]
本実施の形態に係る絶縁電線10は、導体1の周囲に形成された分子中にイミド構造を含む樹脂からなる第1絶縁皮膜2と、該第1絶縁皮膜2の直上に形成された第2絶縁皮膜3と、の少なくとも2層を有する絶縁被覆11を備え、第2絶縁皮膜3はイミド濃度[M1]/[M2]が15%以上36%以下であり、高温の環境下においても高い部分放電開始電圧を有することを特徴とする。
【0026】
第2絶縁皮膜3のイミド濃度[M1]/[M2]は、15%以上36%以下が好ましい。イミド濃度が15%以上36%以下の絶縁樹脂であれば製法は特に限定されないが、R1の原料となる芳香族テトラカルボン酸二無水物とR2の原料となる芳香族ジアミンとのイミド化反応により合成することが好ましい。
【0027】
上記化2におけるR1の原料として好適な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸無水物(PMDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボン酸フェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)などが挙げられ、これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物を1つ又は複数用いることができる。
【0028】
他方、上記化2におけるR2の原料として好適な芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(FDA)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)などが挙げられ、これらの芳香族ジアミンを1つ又は複数用いることができる。
【0029】
特に、イミド濃度[M1]/[M2]が15%以上36%以下である第2絶縁皮膜3を得るために、上記化2で表されるポリイミド樹脂中のR1の原料、R2の原料の少なくとも一方に300以上の分子量を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物、あるいは芳香族ジアミンが含まれていることが好ましい。より好ましくは、300以上の分子量を有する芳香族ジアミンとして、BAPP、或いはBAPPと類似した化学構造を持つBAPBのうちの少なくとも1つが含まれているのがよい。BAPP、BAPBのうちの少なくとも1つが芳香族ジアミンとして含まれていると、耐熱性の低下を抑制しながらポリイミド樹脂中のイミド濃度を36%以下に低減するのに有効である。このため、高温の環境下においても高い部分放電開始電圧を有することができる。
【0030】
また、イミド濃度[M1]/[M2]が15%以上36%以下である第2絶縁皮膜3を得るために、上記化2で表されるポリイミド樹脂中のR1の原料となる芳香族テトラカルボン酸二無水物の分子量と、R2の原料となる芳香族ジアミンの分子量との総和が500以上であることが好ましい。例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物(R1)としてPMDAが含まれており、芳香族ジアミン(R2)としてBAPPが含まれているポリイミド樹脂などがある。
【0031】
第1絶縁皮膜2は、分子中にイミド構造を含む樹脂からなる絶縁塗料を導体1上に塗布し、焼付けして形成される。この第1絶縁皮膜2を構成する分子中にイミド構造を含む樹脂としては、例えばポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などを用いることができる。
【0032】
第1絶縁皮膜2がポリイミド樹脂から構成される場合は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとのイミド化反応によって得られるポリイミド樹脂からなることが好ましい。この第1絶縁皮膜2を構成するポリイミド樹脂としては、本発明の効果をより得やすくするために、芳香族テトラカルボン酸二無水物の分子量と芳香族ジアミンの分子量との総和が500未満であることが好ましい。
【0033】
特に、第1絶縁皮膜2を構成するポリイミド樹脂としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物の分子量と芳香族ジアミンの分子量とが共に250未満であると効果的である。このとき、第1絶縁皮膜2を構成するポリイミド樹脂を構成する芳香族テトラカルボン酸二無水物、および芳香族ジアミンは、第2絶縁皮膜3を構成するものから選択できる。例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸無水物(PMDA)、芳香族ジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)などの反応から得られ、この場合のイミド濃度は36.6%である。
【0034】
言い換えると、絶縁電線10は、36%よりも大きいイミド濃度を有するポリイミド樹脂からなる第1絶縁皮膜2と、この第1絶縁皮膜2の直上に形成されて15%以上36%以下のイミド濃度を有するポリイミド樹脂からなる第2絶縁皮膜3と、を有する絶縁被覆11を備える。
【0035】
また、第1絶縁皮膜2がポリアミドイミド樹脂からなる場合は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネートとトリメリット酸無水物(TMA)などのトリカルボン酸無水物からなる酸との反応によって得られるポリアミドイミド樹脂を用いることができる。
【0036】
また、第1絶縁皮膜2がポリエステルイミド樹脂からなる場合は、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DAM)などからなる芳香族ジアミンとトリメリット酸無水物(TMA)やジメチルテレフタレート(DMT)などからなる酸とトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(THEIC)、グリセリン(G)、エチレングリコール(EG)などからなるアルコールとの反応によって得られるポリエステルイミド樹脂を用いることができる。
【0037】
第1絶縁皮膜2を構成するこれらのポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂は、ポリイミド樹脂の場合と同様に、イミド濃度が36%よりも大きいことが好ましい。
【0038】
また、第1絶縁皮膜2は、導体との密着性を向上させるための密着向上剤が含まれていてもよい。
【0039】
この絶縁被覆11において、部分放電開始電圧を高めるためには、第2絶縁皮膜3は、その皮膜厚さが絶縁被覆11の全体の厚さに対して80%以上100%未満であるとよい。なお、絶縁被覆11の全体の厚さは、好ましくは40μm〜150μmである。
【0040】
本実施の形態に係る絶縁電線は、上述したような絶縁被覆を有することにより、高い部分放電開始電圧を有し、高温(例えば、180℃以上)での部分放電開始電圧の高い絶縁被覆が得られる。また、絶縁電線の端末部分の導体同士をTIG(Tungsten Inert Gas)溶接などの溶接方法によって接続する際に、溶接時の熱で端末周辺の絶縁被覆が剥がれたり、発泡が発生したりするような不具合を防止することができる。
【0041】
絶縁電線10に用いられる導体1は、銅導体からなり、主に無酸素銅や低酸素銅が使用される。なお、銅導体はこれに限定されるものではなく、例えば、銅の外周にニッケルなどの金属めっきを施した導体1も使用可能である。また、導体1として、断面が丸形状、あるいは四角形状などの断面形状を有するものが使用できる。なお、ここでいう四角形状とは、図2に示すように、角部が丸みを有する略四角形状の断面からなるものも含むものとする。
【0042】
上述のように、本発明に係る絶縁電線は、断面が丸形状、あるいは四角形状の導体の表面に、分子中にイミド構造を含むポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂などの樹脂からなる絶縁塗料を塗布し、焼付けして第1絶縁皮膜を形成し、その後、第1絶縁皮膜の表面に、ポリイミド樹脂(化2)からなる絶縁塗料を塗布、焼付けして、イミド構造(化3)の分子量を1ユニット当たりの化学構造(化4)の分子量で除して表されるイミド濃度が15%以上36%以下である第2絶縁皮膜を形成して得られる。分子中にイミド構造を含む樹脂で形成した絶縁皮膜(第1絶縁皮膜)を有する絶縁被覆の高温での部分放電開始電圧は、絶縁皮膜上に形成される皮膜(第2絶縁皮膜)のイミド濃度が大きく影響しており、イミド濃度が15%未満である場合、23℃といった常温での部分放電開始電圧を向上させることは可能であるが、高温での弾性率が大幅に低下するため、180℃以上での部分放電開始電圧が大幅に低下してしまう。イミド濃度が36%を超える場合は、イミド濃度が高く極性が高いために25℃といった常温での部分放電開始電圧を向上させることが困難となる。
【0043】
また、本実施の形態に係る絶縁電線10では、絶縁被覆11の周囲に潤滑性を付与するための潤滑性付与絶縁皮膜や、耐傷性を付与するための耐傷性付与絶縁皮膜などを形成しても良い。これらの潤滑性付与絶縁皮膜、および耐傷性付与絶縁皮膜は、絶縁塗料を塗布、焼付けすることによって形成することが好ましい。
【0044】
以上要するに、本発明の絶縁電線では、導体と、導体の周囲に設けられた絶縁被覆と、を備え、その絶縁被覆は、導体の周囲に、分子中にイミド構造を含む樹脂からなる第1絶縁皮膜と、第1絶縁皮膜の周囲に、上記化2で表される繰返し単位を有し、イミド濃度が15%以上36%以下であるポリイミド樹脂からなる第2絶縁皮膜と、を有するようにしている。
【0045】
これにより、高い部分放電開始電圧を有し、溶接時の導体からの熱伝導による皮膜樹脂の温度上昇による皮膜溶融を抑え、180℃以上での部分放電開始電圧の高い絶縁被覆を備えた絶縁電線とすることができる。
【0046】
また、導体の周囲に形成した第1絶縁皮膜と、第1絶縁皮膜の直上に形成した第2絶縁皮膜の2層を有する絶縁被覆を備えた絶縁電線としたので、第1絶縁皮膜で導体との密着性を向上させつつ、第2絶縁皮膜で部分放電開始電圧を向上させることができる。
【0047】
さらに、本発明の絶縁電線は、高温の環境下においても高い部分放電開始電圧を有する絶縁被覆を備えるので、小型化、高出力化したモータを構成するためのコイルを形成するのに好適である。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の実施例および比較例を説明する。
【0049】
実施例、および比較例におけるポリイミド樹脂塗料、絶縁電線は以下のように調製した。
【0050】
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、および温度計を備えたフラスコに、ピロメリット酸無水物(PMDA、分子量:218)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA、分子量:200)を等モルとなるように配合し、固形分濃度が15mass%となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を配合した後、室温で12時間反応し、樹脂塗料Aを得た。
【0051】
また、攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、および温度計を備えたフラスコに、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボン酸フェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA、分子量:520)と2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP、分子量:410)を等モルとなるよう配合し、固形分濃度が15mass%となるようにN−メチル−2−ピロリドンを配合した後、室温で12時間反応し、樹脂塗料1(絶縁塗料)を得た。
【0052】
銅導体上に樹脂塗料Aを塗布、焼付けし、皮膜厚0.002mmの絶縁皮膜を形成した後、更に樹脂塗料1を塗布、焼付けを繰り返して、膜厚0.038mmの絶縁皮膜を形成することで、合計膜厚0.040mmの絶縁皮膜を有する実施例1の絶縁電線を得た。
【0053】
(実施例2)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、および温度計を備えたフラスコに、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA、分子量:310)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA、分子量:200)を等モルとなるよう配合し、固形分濃度が15mass%となるようにN−メチル−2−ピロリドンを配合した後、室温で12時間反応し、樹脂塗料2を得た。
【0054】
銅導体上に樹脂塗料Aを塗布、焼付けし、膜厚0.002mmの絶縁皮膜を形成した後、更に樹脂塗料2を塗布、焼付けを繰り返して、膜厚0.038mmの絶縁皮膜を形成することで、合計膜厚0.040mmの絶縁皮膜を有する実施例2の絶縁電線を得た。
【0055】
(実施例3)
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、および温度計を備えたフラスコに、ピロメリット酸無水物(PMDA、分子量:218)と2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP、分子量:410)を等モルとなるよう配合し、固形分濃度が15mass%となるようにN−メチル−2−ピロリドンを配合した後、室温で12時間反応し、樹脂塗料3を得た。
【0056】
銅導体上に樹脂塗料Aを塗布、焼付けし、膜厚0.002mmの絶縁皮膜を形成した後、更に樹脂塗料3を塗布、焼付けを繰り返して、膜厚0.038mmの絶縁皮膜を形成することで、合計膜厚0.040mmの絶縁皮膜を有する実施例3の絶縁電線を得た。
【0057】
(比較例1)
銅導体上に樹脂塗料Aを塗布、焼付けを繰り返して、膜厚0.040mmの絶縁皮膜を有する比較例1の絶縁電線を得た。
【0058】
得られた実施例1〜3、比較例1の絶縁電線およびそれに用いた絶縁塗料に対し、以下の評価を行った。
【0059】
(部分放電開始電圧)
部分放電開始電圧測定は、次の手順で行った。得られた絶縁電線を500mmに切り出し、ツイストペアの絶縁電線の試料を10個作製し、端部から10mmの位置まで絶縁皮膜を削って端末処理部を形成した。測定は、端末処理部に電極を接続し、25℃−湿度50%、あるいは180℃および220℃の雰囲気で、50Hzの電圧を10〜30V/sで昇圧させながら、ツイストペアの絶縁電線に10pCの放電が毎秒50回発生する電圧まで昇圧していった。これを3回繰り返しそれぞれの値の平均値を部分放電開始電圧とした。
【0060】
(溶接性)
作製した絶縁電線から採取した約10cmの長さの試験片を、120℃の温度の恒温槽中に30分間放置した後、デシケータ中で冷却し、乾燥状態の試験片とした。また、採取した約10cm長さの試験片を、温度25℃、湿度50%の恒温槽中に3時間放置し、吸湿状態の試験片とした。その後、これら乾燥状態あるいは吸湿状態の試験片の、端末部分の絶縁被覆を先端から約5mmまで除去し、TIG溶接装置にて電流80Aで0.3秒の条件で端末部分をそれぞれ溶接した。そのときの外観を電子顕微鏡で観察し、絶縁被覆の剥がれ、発泡の無いものを「○」(合格)、絶縁被覆の剥がれ、発泡が見られるものを「×」(不合格)とした。
【0061】
実施例、および比較例の各種測定評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例1〜3に係る絶縁電線では、常温および高温での部分放電開始電圧が共に高く、溶接性も良好な結果が得られた。他方、比較例1では、高温での部分放電開始電圧が低く、また溶接性が劣る結果であった。
【0064】
以上より、導体と、導体の周囲に設けられた絶縁被覆と、を備え、その絶縁被覆は、導体の周囲に、分子中にイミド構造を含む樹脂からなる第1絶縁皮膜と、第1絶縁皮膜の周囲に、上記化2で表される繰返し単位を有し、イミド濃度が15%以上36%以下であるポリイミド樹脂からなる第2絶縁皮膜と、を有することにより、高い部分放電開始電圧を有し、溶接時の導体からの熱伝導による皮膜樹脂の温度上昇による皮膜溶融を抑え、180℃以上での部分放電開始電圧の高い絶縁皮膜を有する絶縁被覆を備えた絶縁電線を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 導体
2 第1絶縁皮膜
3 第2絶縁皮膜
10 絶縁電線
11 絶縁被覆
図1
図2