(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の粘着剤組成物は、アクリル樹脂(A)、架橋剤(B)及び有機酸(C)を含有するものである。まず、粘着剤組成物を構成する各成分について説明する。
【0031】
[アクリル樹脂(A)]
本発明の粘着剤組成物を構成するアクリル樹脂(A)は、前記式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステル(A−1)に由来する構造単位を主成分とし、さらに、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体(A−2)に由来する構造単位、及び前記式(II)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル(A−3)に由来する構造単位を含むものである。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸のいずれでもよいことを意味し、その他、(メタ)アクリレートなどというときの「(メタ)」も同様の趣旨である。本明細書では、前記式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステル(A−1)を単に「単量体(A−1)」と、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体(A−2)を単に「単量体(A−2)」と、また前記式(II)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル(A−3)を単に「単量体(A−3)」と、それぞれ呼ぶことがある。
【0032】
アクリル樹脂(A)の主な構造単位となる前記式(I)において、R
1 は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数14以下のアルキル基又はアラルキル基である。R
2で表されるアルキル基又はアラルキル基は、それぞれの水素原子が、基−O−(C
2H
4O)
n−R
3で置換されていてもよい。ここにnは0又は1〜4の整数を表し、R
3 は炭素数12以下のアルキル基又はアリール基を表す。
【0033】
単量体(A−1)のうち、前記式(I)におけるR
2 が非置換アルキル基であるものとして、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−オクチル、及びアクリル酸ラウリルの如き、直鎖状のアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸イソオクチルの如き、分枝状のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、及びメタクリル酸ラウリルの如き、直鎖状のメタクリル酸アルキルエステル;並びに、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、及びメタクリル酸イソオクチルの如き、分枝状のメタクリル酸アルキルエステルが例示される。
【0034】
これらのなかでもアクリル酸n−ブチルが好ましく、具体的には、アクリル樹脂(A)を構成する全単量体のうち、アクリル酸n−ブチルが50重量%以上となるように、かつ前記した単量体(A−1)に関する規定を満たすように用いるのが好ましい。
【0035】
また、単量体(A−1)のうち、式(I)におけるR
2 がアラルキル基であるものとして、具体的には、アクリル酸ベンジルやメタクリル酸ベンジルなどが例示される。
【0036】
次に、単量体(A−1)のうち、式(I)におけるR
2 を構成するアルキル基又はアラルキル基の水素原子が基−O−(C
2H
4O)
n−R
3で置換されているものについて、説明する。この基−O−(C
2H
4O)
n−R
3において、nは先に定義したとおり、0又は1〜4の整数であるが、とりわけ0、1又は2であることが好ましい。また、R
3 も先に定義したとおり、炭素数12以下のアルキル基又はアリール基であり、アルキル基の炭素数が3以上であれば、直鎖でも分岐していてもよい。R
3 を構成するアリール基の例を挙げると、フェニルやナフチルのほか、トリルやキシリル、エチルフェニルなどを包含する核アルキル置換フェニル、ビフェニリル(又はフェニルフェニル)などがある。R
3 は、特にこれらのアリール基であることが好ましい。
【0037】
単量体(A−1)のうち、式(I)におけるR
2 がアルキル基であり、その水素原子が基−O−(C
2H
4O)
n−R
3で置換されているものとして、具体的には、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸2−フェノキシエチル、アクリル酸2−(2−フェノキシエトキシ)エチル、及びアクリル酸2−(o−フェニルフェノキシ)エチルの如き、アクリル酸のアルコキシアルキル−、アリールオキシアルキル−又はアリールオキシエトキシアルキル−エステル;メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸2−(2−フェノキシエトキシ)エチル、及びメタクリル酸2−(o−フェニルフェノキシ)エチルの如き、メタクリル酸のアルコキシアルキル−、アリールオキシアルキル−又はアリールオキシエトキシアルキル−エステルなどが例示される。
【0038】
これらの単量体(A−1)は、それぞれ単独で用いることができるほか、異なる複数のものを用いてもよい。先述のとおり、単量体(A−1)は特に、アクリル酸n−ブチルを主成分とすることが好ましいが、それに加えて、式(I)に相当する他の(メタ)アクリル酸エステルを共重合させるのも有効である。単量体(A−1)の好適な組成の一つとして、アクリル樹脂(A)を構成する全単量体のうち、アクリル酸n−ブチルが50重量%以上となるようにし、それとは別に、前記式(I)で示され、式中のR
2 が、水素原子が基−O−(C
2H
4O)
n−R
3(ここにn及びR
3 は先に定義したとおりである)で置換されているアルキル基である(メタ)アクリル酸エステルを3〜15重量%の割合で配合したものを挙げることができる。
【0039】
単量体(A−2)は、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体であり、その例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルなどが挙げられる。これらのなかでも、アクリル酸2−ヒドロキシエチルを、アクリル樹脂(A)を構成する単量体(A−2)の一つとして用いるのが好ましい。
【0040】
単量体(A−3)は、前記式(II)で示される。この式(II)において、R
4 は水素原子又はメチル基であり、Aは炭素数2〜4の2価の有機基である。Aで表される2価の有機基は、典型的にはアルキレンであり、それも直鎖のアルキレンであるのが好ましいが、(メタ)アクリル酸部位CH
2=C(R
4)COO−と末端のカルボキシル基−COOHとをつなぐ炭素鎖が直列に少なくとも2となることを前提に、炭素数が3以上であれば分岐していてもよい。式(II)のなかでも、アクリル酸エステルが好ましく、具体的には、アクリル酸2−カルボキシエチル、アクリル酸3−カルボキシプロピル、アクリル酸4−カルボキシブチルなどが例示される。もちろん、これらのアクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変更した化合物も、単量体(A−3)となりうる。
【0041】
アクリル酸2−カルボキシエチルは通常、アクリル酸の2量化によって生産され、その場合には、主成分であるアクリル酸2−カルボキシエチルのほか、アクリル酸自体や、アクリル酸の3量体以上のオリゴマーとの混合物として得られ、そのまま混合物の形で販売されていることが多い。このように、式(II)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル(A−3)とともに、それ以外のカルボキシル基含有(メタ)アクリル系単量体を共重合させることは、もちろん差し支えない。
【0042】
本発明で規定するアクリル樹脂(A)において、前記式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステル、すなわち、単量体(A−1)に由来する構造単位の含有量は、 94.8〜99.89重量%であり、 水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体(A−2)に由来する構造単位の含有量は、 0.1〜5重量%であり、そして、前記式(II)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル、すなわち、単量体(A−3)に由来する構造単位の含有量は、0.01〜0.2重量%である。単量体(A−1)、(A−2)及び(A−3)をこのように限定された割合で共重合させることにより、加工性に優れる粘着剤シートを与える粘着剤組成物とすることができる。単量体(A−1)に由来する構造単位の含有量は、好ましくは95重量%以上、とりわけ96重量%以上であり、また好ましくは 99.5重量%以下である。単量体(A−2)に由来する構造単位の含有量は、好ましくは 0.5重量%以上であり、また好ましくは4重量%以下、とりわけ3重量%以下である。さらに、単量体(A−3)に由来する構造単位の含有量は、好ましくは 0.18重量%以下、とりわけ 0.15重量%以下である。もちろん単量体(A−1)、(A−2)及び(A−3)のそれぞれに由来する構造単位の合計量が100重量%を超えることはない。
【0043】
本発明に用いるアクリル樹脂(A)は、上で説明した単量体(A−1)、(A−2)及び(A−3)以外の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。単量体(A−1)、(A−2)及び(A−3)以外の単量体の例を挙げると、水酸基以外の極性官能基を有する式(II)以外の不飽和単量体、分子内に脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系単量体、ビニル系単量体、(メタ)アクリルアミド誘導体、分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する単量体などがある。
【0044】
水酸基以外の極性官能基を有する式(II)以外の不飽和単量体について説明する。ここでいう水酸基以外の極性官能基は、遊離カルボキシル基や、エポキシ環をはじめとする複素環基などでありうる。先に単量体(A−3)のところで説明したアクリル酸自体やアクリル酸の3量体以上のオリゴマーは、遊離カルボキシル基を有する式(II)以外の不飽和単量体に該当する。また、複素環基を有する不飽和単量体の例を挙げると、アクリロイルモルホリン、ビニルカプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどがある。
【0045】
水酸基以外の極性官能基を有する不飽和単量体を共重合させる場合は、必須成分である水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体(A−2)及び前記式(II)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル(A−3)を含めて、アクリル樹脂(A)を構成する全単量体を基準に、極性官能基を有する不飽和単量体の合計量が5重量%以下、さらには4重量%以下、とりわけ3重量%以下となるようにするのが好ましい。
【0046】
次に、分子内に脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルについて説明する。脂環式構造とは、炭素数が、通常5以上、好ましくは5〜7程度のシクロパラフィン構造である。脂環式構造を有するアクリル酸エステルの具体例を挙げると、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸シクロドデシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸tert−ブチルシクロヘキシル、α−エトキシアクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸シクロヘキシルフェニルなどがある。また、脂環式構造を有するメタクリル酸エステルの具体例を挙げると、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸シクロドデシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸tert−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシルフェニルなどがある。
【0047】
スチレン系単量体の例を挙げると、スチレンのほか、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、及びオクチルスチレンの如きアルキルスチレン;フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、及びヨードスチレンの如きハロゲン化スチレン;さらに、ニトロスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレン、ジビニルベンゼンなどがある。
【0048】
ビニル系単量体の例を挙げると、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、及びラウリン酸ビニルの如き脂肪酸ビニルエステル;塩化ビニルや臭化ビニルの如きハロゲン化ビニル;塩化ビニリデンの如きハロゲン化ビニリデン;ビニルピリジン、ビニルピロリドン、及びビニルカルバゾールの如き含窒素芳香族ビニル;ブタジエン、イソプレン、及びクロロプレンの如き共役ジエン単量体;さらには、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどがある。
【0049】
(メタ)アクリルアミド誘導体の例を挙げると、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(5−ヒドロキシペンチル)(メタ)アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N−(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(エトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、 N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)(メタ)アクリルアミド、N−〔2−(2−オキソ−1−イミダゾリジニル)エチル〕(メタ)アクリルアミド、2−アクリロイルアミノ−2−メチル−1−プロパンスルホン酸などがある。
【0050】
分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する単量体の例を挙げると、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートの如き、分子内に2個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体; トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートの如き、分子内に3個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体などがある。
【0051】
アクリル樹脂(A)の必須成分となる単量体(A−1)、(A−2)及び(A−3)以外であって、極性官能基を有しない単量体を共重合させる場合、その量は、アクリル樹脂(A)を構成する全単量体を基準に、通常5重量%以下、さらには3重量%以下、とりわけ1重量%以下となるようにするのが好ましい。
【0052】
粘着剤組成物を構成する樹脂成分は、以上説明した、式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステル、すなわち単量体(A−1)、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体(A−2)、及び式(II)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル、すなわち単量体(A−3)のそれぞれに由来する構造単位を有するアクリル樹脂(A)を2種類以上混合したものであってもよい。また、単量体(A−1)、(A−2)及び(A−3)に由来する構造単位を所定の割合で有するアクリル樹脂(A)に、それとは異なるアクリル樹脂を混合してもよい。この場合に混合される異なるアクリル樹脂は、例えば、前記式(I)の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を有し、極性官能基を有しないものなどを挙げることができる。単量体(A−1)、(A−2)及び(A−3)に由来する構造単位を所定割合で有するアクリル樹脂(A)は、アクリル樹脂全体のうち、80重量%以上、さらには90重量%以上となるようにするのが好ましい。
【0053】
単量体(A−1)、(A−2)及び(A−3)を含む単量体混合物の共重合によって得られるアクリル樹脂(A)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mw が50万〜200万の範囲にあるものを採用する。この重量平均分子量Mw は、50万〜170万であることがとりわけ好ましい。標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が50万以上であると、高温高湿下での接着性が向上し、ガラス基板と粘着剤シートとの間に浮きや剥れの発生する可能性が低くなる傾向にあり、しかもリワーク性も向上する傾向にあることから好ましい。また、この重量平均分子量が200万以下であると、その粘着剤シートに貼合される光学フィルムの寸法が変化しても、その寸法変化に粘着剤層が追随して変動するので、液晶セルの周縁部の明るさと中心部の明るさとの間に差がなくなり、白ヌケや色ムラが抑制される傾向にあることから好ましい。重量平均分子量Mw と数平均分子量Mn の比Mw/Mnで表される分子量分布は、特に限定されないが、例えば、3〜7程度の範囲にあることが好ましい。
【0054】
また、このアクリル樹脂(A)は、粘着性発現のため、そのガラス転移温度が−10〜−60℃の範囲にあることが好ましい。樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計により測定することができる。
【0055】
アクリル樹脂(A)は、例えば、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法など、公知の各種方法によって製造することができる。このアクリル樹脂の製造においては通常、重合開始剤が用いられる。重合開始剤は、アクリル樹脂の製造に用いられる全ての単量体の合計100重量部に対して、 0.001〜5重量部程度使用される。
【0056】
重合開始剤としては、熱重合開始剤や光重合開始剤などが用いられる。光重合開始剤として、例えば、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトンなどを挙げることができる。熱重合開始剤として、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、及び2,2′−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)の如きアゾ系化合物;ラウリルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジプロピルパーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、及び(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドの如き有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、及び過酸化水素の如き無機過酸化物などを挙げることができる。また、過酸化物と還元剤を併用したレドックス系開始剤なども、重合開始剤として使用しうる。
【0057】
アクリル樹脂の製造方法としては、上に示した方法の中でも、溶液重合法が好ましい。溶液重合法の具体例を挙げて説明すると、所望の単量体及び有機溶媒を混合し、窒素雰囲気下にて、熱重合開始剤を添加して、40〜90℃程度、好ましくは50〜80℃程度にて3〜15時間程度攪拌する方法を挙げることができる。また、反応を制御するために、単量体や熱重合開始剤を重合中に連続的又は間歇的に添加したり、有機溶媒に溶解した状態で添加したりしてもよい。ここで、有機溶媒としては、例えば、トルエンやキシレンの如き芳香族炭化水素類;酢酸エチルや酢酸ブチルの如きエステル類;プロピルアルコールやイソプロピルアルコールの如き脂肪族アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンの如きケトン類などを用いることができる。
【0058】
[架橋剤(B)]
以上のようなアクリル樹脂(A)に、架橋剤(B)及び有機酸(C)を配合して、粘着剤組成物とする。架橋剤(B)は、アクリル樹脂(A)中の極性官能基である水酸基やカルボキシル基と反応し、アクリル樹脂を架橋し得る官能基を分子内に少なくとも2個有する化合物であり、具体的には、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物などが例示される。
【0059】
イソシアネート系化合物は、分子内に少なくとも2個のイソシアナト基(−NCO)を有する化合物であり、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどが挙げられる。また、これらのイソシアネート化合物に、グリセロールやトリメチロールプロパンの如きポリオールを反応せしめたアダクト体や、イソシアネート化合物を二量体、三量体等にしたものも、粘着剤に用いられる架橋剤となりうる。2種以上のイソシアネート系化合物を混合して用いることもできる。
【0060】
エポキシ系化合物は、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物であり、例えば、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N,N′,N′−テトラグリシジル−m−キシレンジアミンなどが挙げられる。2種以上のエポキシ系化合物を混合して用いることもできる。
【0061】
金属キレート化合物としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム及びジルコニウムの如き多価金属に、アセチルアセトンやアセト酢酸エチルが配位した化合物などが挙げられる。
【0062】
アジリジン系化合物は、エチレンイミンとも呼ばれる1個の窒素原子と2個の炭素原子からなる3員環の骨格を分子内に少なくとも2個有する化合物であり、例えば、ジフェニルメタン−4,4′−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、トリエチレンメラミン、イソフタロイルビス−1−(2−メチルアジリジン)、トリス−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、トリメチロールプロパン トリス−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン トリス−β−アジリジニルプロピオネートなどが挙げられる。
【0063】
これらの架橋剤の中でも、イソシアネート系化合物、とりわけ、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート若しくはヘキサメチレンジイソシアネート、又はこれらのイソシアネート化合物を、グリセロールやトリメチロールプロパンの如きポリオールに反応せしめたアダクト体や、イソシアネート化合物を二量体、三量体等にしたもの、これらのイソシアネート系化合物の混合物などが、好ましく用いられる。
【0064】
特に好適なイソシアネート系化合物として、トリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートをポリオールに反応せしめたアダクト体、トリレンジイソシアネートの二量体、及びトリレンジイソシアネートの三量体が挙げられる。
【0065】
架橋剤(B)は、アクリル樹脂(A)100重量部に対し、 0.01〜5重量部の割合で配合される。架橋剤(B)の配合量は、好ましくはアクリル樹脂(A)100重量部に対し、0.1〜3重量部程度、さらに好ましくは0.1〜1重量部程度である。アクリル樹脂(A)100重量部に対する架橋剤(B)の量が0.01重量部以上、特に0.1重量部以上であると、粘着剤シートの耐久性が向上する傾向にあることから好ましく、また5重量部以下であると、粘着剤付き光学フィルムを液晶表示装置に適用したときの白ヌケが目立たなくなることから好ましい。
【0066】
[有機酸(C)]
粘着剤組成物に配合される有機酸(C)は、前記式(III) で示されるカルボン酸であることが好ましい。また、有機酸(C)は、粘着剤組成物を適当な基材上に塗布した後、乾燥する際に揮発することが好ましい。
【0067】
前記式(III)におけるR
5は、水素原子又は炭素数4以下のアルキル基若しくはアルケニル基である。かかるカルボン酸の例を挙げると、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ビニル酢酸などがある。なかでも揮発性の観点からは、蟻酸、酢酸、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0068】
有機酸(C)は、アクリル樹脂(A)100重量部に対し、 0.03〜5重量部の割合で配合される。有機酸(C)の配合量は、アクリル樹脂(A)100重量部に対し、好ましくは0.05重量部以上であり、とりわけ0.1重量部以上である。また、アクリル樹脂(A)100重量部に対し、好ましくは2重量部以下であり、とりわけ 1.5重量部以下である。アクリル樹脂(A)100重量部に対する有機酸(C)の量が 0.03重量部以上、特に 0.1重量部以上であると、溶液状態の粘着剤組成物の粘度変化が小さくなることから好ましく、また5重量部以下であると、乾燥後の粘着剤シート中に有機酸(C)が残りにくいことから好ましい。
【0069】
[シラン系化合物(D)]
本発明の粘着剤組成物は、粘着剤シート又は粘着剤付き光学フィルムとした後、それとガラス基板との密着性を向上させるため、シラン系化合物(D)を含有することが好ましく、とりわけ、架橋剤を配合する前のアクリル樹脂にシラン系化合物(D)を配合しておくことが好ましい。
【0070】
シラン系化合物(D)としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−グリシドキシプロピルエトキシジメチルシランなどが挙げられる。2種以上のシラン系化合物(D)を使用してもよい。
【0071】
シラン系化合物(D)は、シリコーンオリゴマータイプのものであってもよい。シリコーンオリゴマーを(モノマー)−(モノマー)コポリマーの形式で示すと、例えば、次のようなものを挙げることができる。
【0072】
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、及び3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマーの如き、メルカプトプロピル基含有のコポリマー;
【0073】
メルカプトメチルトリメトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、メルカプトメチルトリメトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、メルカプトメチルトリエトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、及びメルカプトメチルトリエトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマーの如き、メルカプトメチル基含有のコポリマー;
【0074】
3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、及び3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマーの如き、メタクリロイルオキシプロピル基含有のコポリマー;
【0075】
3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、及び3−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマーの如き、アクリロイルオキシプロピル基含有のコポリマー;
【0076】
ビニルトリメトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、ビニルトリメトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、ビニルトリエトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、ビニルトリエトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、ビニルメチルジメトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、ビニルメチルジメトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマー、ビニルメチルジエトキシシラン−テトラメトキシシランコポリマー、及びビニルメチルジエトキシシラン−テトラエトキシシランコポリマーの如き、ビニル基含有のコポリマーなど。
【0077】
これらのシラン系化合物は、多くの場合液体である。粘着剤組成物におけるシラン系化合物(D)の配合量は、アクリル樹脂(A)の固形分100重量部に対して通常 0.01〜10重量部程度であり、好ましくは0.03〜2重量部、さらに好ましくは0.03〜1重量部の割合で使用される。アクリル樹脂(A)の固形分100重量部に対するシラン系化合物の量が 0.01重量部以上、特に 0.03重量部以上であると、粘着剤シートとガラス基板との密着性が向上することから好ましい。また、その量が10重量部以下、特に2重量部以下又は1重量部以下であると、粘着剤シートからシラン系化合物がブリードアウトすることが抑制される傾向にあるため好ましい。
【0078】
[粘着剤組成物の調製]
以上説明した各成分は、溶剤に溶かした状態で混合され、粘着剤組成物とされる。ここで、溶剤としては、例えば、トルエンやキシレンの如き芳香族炭化水素類;酢酸エチルや酢酸ブチルの如きエステル類;プロピルアルコールやイソプロピルアルコールの如き脂肪族アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンの如きケトン類などを用いることができる。そしてこの粘着剤組成物は、良好な性能を示すものであるが、特定の剥離フィルムと接触した場合、強固に接着してしまうことを避けるため、アミノ基を含有しないことが好ましい。特に第3級アミノ基を有しないことが好ましい。
【0079】
上記の溶剤に溶かされた粘着剤組成物は、適当な基材上に塗布し、乾燥させて、粘着剤シートとされる。ここで用いる基材は、プラスチックフィルムであるのが一般的であり、その典型的な例として、離型処理が施された剥離フィルムを挙げることができる。剥離フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等の各種樹脂からなるフィルムの粘着剤シートが形成される面に、シリコーン処理の如き離型処理が施されたものなどであることができる。
【0080】
本発明の粘着剤組成物(溶液)は、適当な基材上に塗布し、次いで溶剤を乾燥除去することにより粘着剤シートを形成するため、その溶液状態での粘度の変化は小さいことが好ましい。粘度変化は、粘着剤組成物調製直後の粘度η
1と調製してから6時間後の粘度η
2を用いて、次式で定義することができる。
粘度変化(%)=(η
2−η
1)/η
1×100
【0081】
この式で定義される粘度変化は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。溶液状態にある粘着剤組成物の粘度変化が20%以下であると、その溶液の塗布性が良好であるため好ましい。ここで粘度は、ブルックフィールド社製のアナログ粘度計(LVT)にて2番のスピンドルを用いて回転数12rpm の条件で測定された値である。
【0082】
溶液状態の粘着剤組成物にはさらに、架橋触媒、帯電防止剤、耐候安定剤、タッキファイヤー、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機フィラー、アクリル樹脂(A)以外の樹脂などを配合してもよい。これらの中には、粘着剤組成物を構成する溶剤に溶けず、分散するものもあるが、たとえ一部の成分が分散した状態であっても、上記した粘度の議論は同様に適用できる。粘着剤組成物に架橋剤とともに架橋触媒を配合すれば、粘着剤シートを短時間の養生で調製することができ、得られる粘着剤付き光学フィルムにおいて、光学フィルムと粘着剤シートとの間に浮きや剥れが発生したり粘着剤シート内で発泡が起こったりすることを抑制でき、またリワーク性も一層良好になることがある。
【0083】
さらに、この粘着剤組成物に紫外線硬化性化合物を配合し、粘着剤シート形成後に紫外線を照射して硬化させ、より硬い粘着剤層とするのも有用である。
【0084】
[粘着剤シート]
本発明の粘着剤シートは、先にも述べたとおり、以上説明した粘着剤組成物からシート状に形成されたものである。そしてこの粘着剤シートは、それをシート状に塗工してから室温で8日間放置した後のゲル分率に対する、上記粘着剤組成物をシート状に塗工してから室温で1日放置した後のゲル分率の比を0.8以上にすることができる。この比が0.8以上ということは、シート状に塗工してから架橋反応が素早く進行し、翌日には粘着剤の硬化がかなり進行していることを意味する。すなわち、このゲル分率の比は、養生速度の目安となる。また、粘着剤組成物をシート状に塗工してから室温で8日間放置した後のゲル分率に対する、粘着剤組成物をシート状に塗工してから室温で4日間放置した後のゲル分率の比を0.97以上とすることができる。この比が0.97以上ということは、4日目の時点で粘着剤の硬化がほぼ完了していることを意味する。すなわち、このゲル分率の比は、粘着剤シートの加工性の目安となる。これらの両方を満たすこと、すなわち、粘着剤組成物をシート状に塗工してから室温で8日間放置した後のゲル分率に対する、シート状に塗工してから室温で1日放置した後のゲル分率の比が 0.8以上となり、かつシート状に塗工してから室温で4日間放置した後のゲル分率の比が 0.97以上となることは、一層好ましい。
【0085】
ここでゲル分率は、以下の(1)〜(4)に従って測定される値である。
(1)約8cm×約8cmの面積の粘着剤シートと、約10cm×約10cmの SUS304 からなる金属メッシュ(その重量をWm とする)とを貼合する。
(2)上記(1)で得られた貼合物を秤量して、その重量をWs とし、次に粘着剤シートを包み込むように4回折りたたんでホッチキス(ステープラー)で留めた後秤量して、その重量をWb とする。
(3)上記(2)でホッチキス留めしたメッシュをガラス容器に入れ、酢酸エチル60mLを加えて浸漬した後、このガラス容器を室温で3日間保管する。
(4)ガラス容器からメッシュを取り出し、120℃で24時間乾燥した後秤量して、その重量をWa とし、次式に基づいてゲル分率を計算する。
ゲル分率(重量%)=〔{Wa−(Wb−Ws)−Wm}/(Ws−Wm)〕×100
【0086】
粘着剤シートは上述のとおり、製造後ある程度の時間をかけて養生し、架橋反応を進行させてある程度のゲル分率を示す状態にして使用されることが多い。このように架橋反応が進行した状態、すなわち、養生が終了した状態でのゲル分率は、例えば、それを形成する粘着剤組成物の有効成分であるアクリル樹脂(A)の種類や架橋剤の量によって調整することができる。具体的には、アクリル樹脂(A)における単量体(A−2)及び単量体(A−3)を包含する極性官能基を有する単量体の量を多くするか、又は粘着剤組成物における架橋剤(B)の量を多くすれば、ゲル分率が高くなるので、これらの量を調節することによってゲル分率を調整すればよい。
【0087】
[粘着剤付き光学フィルム]
本発明の粘着剤付き光学フィルムは、光学フィルムの少なくとも一方の面に、以上のような粘着剤組成物から形成される粘着剤シートを貼合したものである。こうして粘着剤シートが光学フィルムに貼合された状態の粘着剤付き光学フィルム、あるいはそれがさらにガラス基板に積層された状態の光学積層体において、当該粘着剤シートの層を、本明細書では単に「粘着剤層」と呼ぶこともある。粘着剤付き光学フィルムに用いる光学フィルムとは、光学特性を有するフィルムであり、例えば、偏光板、位相差フィルムなどが挙げられる。
【0088】
偏光板とは、自然光などの入射光に対し、偏光を出射する機能を持つ光学フィルムである。偏光板には、ある方向の振動面を有する直線偏光を吸収し、それと直交する振動面を有する直線偏光を透過する性質を有する直線偏光板、ある方向の振動面を有する直線偏光を反射し、それと直交する振動面を有する直線偏光を透過する性質を有する偏光分離板、偏光板と後述する位相差フィルムを積層した楕円偏光板などがある。偏光板、特に直線偏光板の機能を発現する偏光フィルム(偏光子と呼ばれることもある)の好適な具体例として、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性色素が吸着配向しているものが挙げられる。
【0089】
位相差フィルムとは、光学異方性を示す光学フィルムであって、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリイミド、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリビニリデンフルオライド/ポリメチルメタクリレート、液晶ポリエステル、アセチルセルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリ塩化ビニルなどからなる高分子フィルムを 1.01〜6倍程度に延伸することにより得られる延伸フィルムなどが挙げられる。中でも、ポリカーボネートフィルムや環状ポリオレフィン系フィルムを一軸延伸又は二軸延伸した高分子フィルムが好ましい。一軸性位相差フィルム、広視野角位相差フィルム、低光弾性率位相差フィルムなどと称されるものがあるが、いずれに対しても適用可能である。
【0090】
また、液晶性化合物の塗布・配向によって光学異方性を発現させたフィルムや、無機層状化合物の塗布によって光学異方性を発現させたフィルムも、位相差フィルムとして用いることができる。このような位相差フィルムには、温度補償型位相差フィルムと称されるもの、また、新日本石油(株)から“LCフィルム”の商品名で販売されている、棒状液晶がねじれ配向したフィルム、同じく新日本石油(株)から“NHフィルム”の商品名で販売されている棒状液晶が傾斜配向したフィルム、富士フイルム(株)から“WVフィルム”の商品名で販売されている円盤状液晶が傾斜配向したフィルム、住友化学(株)から“VACフィルム”の商品名で販売されている完全二軸配向型のフィルム、同じく住友化学(株)から“new VAC フィルム”の商品名で販売されている二軸配向型のフィルムなどがある。
【0091】
さらに、これら光学フィルムに保護フィルムが貼着されたものも、光学フィルムとして用いることができる。保護フィルムとしては、透明な樹脂フィルムが用いられ、その透明樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースに代表されるアセチルセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレートに代表されるメタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン樹脂などが挙げられる。保護フィルムを構成する樹脂には、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などの紫外線吸収剤が配合されていてもよい。保護フィルムとしては、トリアセチルセルロースフィルムなどのアセチルセルロース系樹脂フィルムが好適に用いられる。
【0092】
上で説明した光学フィルムの中でも、直線偏光板は、それを構成する偏光フィルム、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面又は両面に保護フィルムが貼着された状態で用いられることが多い。また、前述した楕円偏光板は、直線偏光板と位相差フィルムを積層したものであるが、その直線偏光板も、偏光フィルムの片面又は両面に保護フィルムが貼着された状態であることが多い。このような楕円偏光板に、本発明による粘着剤シートを貼合する場合は、通常、その位相差フィルム側に貼合される。
【0093】
粘着剤付き光学フィルムは、その粘着剤層の表面に、先述したような離型処理が施された剥離フィルムを貼着し、使用時まで粘着剤層表面を保護しておくのが好ましい。このように剥離フィルムが設けられた粘着剤付き光学フィルムは、例えば、剥離フィルムの離型処理面に上記の粘着剤組成物を塗布して粘着剤シートを形成し、得られた粘着剤シートを光学フィルムに積層する方法、光学フィルムの上に粘着剤組成物を塗布して粘着剤シートを形成し、その粘着剤面に剥離フィルムを貼り合わせて保護し、粘着剤付き光学フィルムとする方法などにより、製造できる。
【0094】
光学フィルム上に形成される粘着剤層の厚みは特に限定されないが、通常は30μm 以下であるのが好ましく、また10μm 以上であるのが好ましく、さらに好ましくは15〜25μm である。粘着剤層の厚みが30μm 以下であると、高温高湿下での接着性が向上し、ガラス基板と粘着剤層との間に浮きや剥れの発生する可能性が低くなる傾向にあり、しかもリワーク性が向上する傾向にあることから好ましく、またその厚みが10μm 以上であると、そこに貼合されている光学フィルムの寸法が変化しても、その寸法変化に粘着層が追随して変動するので、液晶セルの周縁部の明るさと中心部の明るさとの間に差がなくなり、白ヌケや色ムラが抑制される傾向にあることから好ましい。
【0095】
本発明の粘着剤付き光学フィルムは、ガラス基板に貼着して光学積層体とした後、なんらかの不具合があってその光学フィルムをガラス基板から剥離する場合に、粘着剤層は光学フィルムに伴って剥離され、粘着剤層と接していたガラス基板の表面に、曇りや糊残りなどがほとんど発生しないことから、剥離後のガラス基板に再び、粘着剤付き光学フィルムを貼り直すことが容易である。すなわち、いわゆるリワーク性に優れている。
【0096】
[光学積層体]
本発明の粘着剤付き光学フィルムは、その粘着剤層側をガラス基板に積層して、光学積層体とすることができる。粘着剤付き光学フィルムをガラス基板に積層して光学積層体とするには、例えば、上記のようにして得られる粘着剤付き光学フィルムから剥離フィルムを剥がし、露出した粘着剤層面をガラス基板の表面に貼り合わせればよい。ガラス基板としては、例えば、液晶セルのガラス基板、防眩用ガラス、サングラス用ガラスなどを挙げることができる。中でも、液晶セルの前面側(視認側)のガラス基板に粘着剤付き光学フィルム(上偏光板)を積層し、液晶セルの背面側のガラス基板にもう一つの粘着剤付き光学フィルム(下偏光板)を積層してなる光学積層体は、液晶表示装置のためのパネル(液晶パネル)として使用できることから好ましい。ガラス基板の材料としては、例えば、ソーダライムガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラスなどがあるが、液晶セルには無アルカリガラスが好適に用いられる。
【0097】
本発明に係る光学積層体について、いくつかの好適な層構成の例を
図1に断面模式図で示した。
図1(A)に示す例では、偏光フィルム1の片面に、表面処理層2を有する保護フィルム3をその表面処理層2とは反対側の面で貼着して、偏光板5が構成されている。この例では、偏光板5が同時に、本発明でいう光学フィルム10ともなっている。偏光フィルム1の保護フィルム3と反対側の面には、粘着剤層20を設けて、粘着剤付き光学フィルム25が構成されている。そして、その粘着剤層20の偏光板5とは反対側の面を、ガラス基板である液晶セル30に貼合して、光学積層体40が構成されている。
【0098】
図1(B)に示す例では、偏光フィルム1の片面に、表面処理層2を有する第一の保護フィルム3をその表面処理層2とは反対側の面で貼着し、偏光フィルム1の他面には、第二の保護フィルム4を貼着して、偏光板5が構成されている。この例でも、偏光板5が同時に、本発明でいう光学フィルム10となっている。偏光板5を構成する第二の保護フィルム4の外側には、粘着剤層20を設けて、粘着剤付き光学フィルム25が構成されている。そして、その粘着剤層20の偏光板5とは反対側の面を、ガラス基板である液晶セル30に貼合して、光学積層体40が構成されている。
【0099】
図1(C)に示す例では、偏光フィルム1の片面に、表面処理層2を有する保護フィルム3をその表面処理層2とは反対側の面で貼着し、偏光板5が構成されている。偏光フィルム1の保護フィルム3と反対側の面には、層間粘着剤8を介して位相差フィルム7を貼着し、光学フィルム10が構成されている。光学フィルム10を構成する位相差フィルム7の外側には、粘着剤層20を設けて、粘着剤付き光学フィルム25が構成されている。そして、その粘着剤層20の光学フィルム10とは反対側の面を、ガラス基板である液晶セル30に貼合して、光学積層体40が構成されている。
【0100】
また、
図1(D)に示す例では、偏光フィルム1の片面に、表面処理層2を有する第一の保護フィルム3をその表面処理層2とは反対側の面で貼着し、偏光フィルム1の他面には、第二の保護フィルム4を貼着して、偏光板5が構成されている。偏光板5を構成する第二の保護フィルム4の外側には、層間粘着剤8を介して位相差フィルム7を貼着し、光学フィルム10が構成されている。光学フィルム10を構成する位相差フィルム7の外側には、粘着剤層20を設けて、粘着剤付き光学フィルム25が構成されている。そして、その粘着剤層20の光学フィルム10とは反対側の面を、ガラス基板である液晶セル30に貼合して、光学積層体40が構成されている。
【0101】
これらの例において、第一の保護フィルム3及び第二の保護フィルム4は、トリアセチルセルロースフィルムで構成するのが一般的であるが、その他、先に述べた各種透明樹脂フィルムで構成することもできる。また、第一の保護フィルム3の表面に形成される表面処理層は、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層などであることができる。これらのうち複数の層を設けることも可能である。
【0102】
図1の(C)及び(D)に示す例のように、偏光板5に位相差フィルム7を積層する場合、中小型の液晶表示装置であれば、この位相差フィルム7の好適な例として、1/4波長板を挙げることができる。この場合は、偏光板5の吸収軸と1/4波長板である位相差フィルム7の遅相軸とがほぼ45度で交差するように配置するのが一般的であるが、液晶セル30の特性に応じてその角度を45度からある程度ずらすこともある。一方、テレビなどの大型液晶表示装置であれば、液晶セル30の位相差補償や視野角補償を目的に、当該液晶セル30の特性に合わせて各種の位相差値を有する位相差フィルムが用いられる。この場合は、偏光板5の吸収軸と位相差フィルム7の遅相軸とがほぼ直交又はほぼ平行の関係となるように配置するのが一般的である。位相差フィルム7を1/4波長板で構成する場合は、一軸又は二軸の延伸フィルムが好適に用いられる。また、位相差フィルム7を液晶セル30の位相差補償や視野角補償の目的で設ける場合には、一軸又は二軸延伸フィルムのほか、一軸又は二軸延伸に加えて厚み方向にも配向させたフィルム、支持フィルム上に液晶等の位相差発現物質を塗布して配向固定させたフィルムなど、光学補償フィルムと呼ばれるものを、位相差フィルム7として用いることもできる。
【0103】
同じく
図1の(C)及び(D)に示す例のように、偏光板5と位相差フィルム7とを、層間粘着剤8を介して貼合する場合、その層間粘着剤8には、一般的なアクリル系粘着剤を用いるのが通例であるが、ここに本発明で規定する粘着剤シートを用いることも、もちろん可能である。先に述べた大型液晶表示装置のように、偏光板5の吸収軸と位相差フィルム7の遅相軸とがほぼ直交又はほぼ平行の関係となるように配置する場合で、偏光板5と位相差フィルム7とをロール・ツウ・ロール貼合することができ、両者の間の再剥離性が要求されない用途においては、
図1の(C)及び(D)に示す層間粘着剤8に代えて、一旦接着したら強固に接合し、剥離できなくなる接着剤を用いることも可能である。このような接着剤としては、例えば、水溶液又は水分散液で構成され、溶剤である水を蒸発させることによって接着力を発現する水系接着剤、紫外線照射によって硬化し、接着力を発現する紫外線硬化型接着剤などを挙げることができる。
【0104】
なお、
図1の(C)及び(D)に示した、位相差フィルム7に粘着剤層20が形成されたもの自体も、それ自身で流通させることができ、本発明でいう粘着剤付き光学フィルムとなりうる。粘着剤層を位相差フィルム上に形成した粘着剤付き光学フィルムは、その粘着剤層をガラス基板である液晶セルに貼合して光学積層体とできるほか、その位相差フィルム側に偏光板を貼合して、別の粘着剤付き光学フィルムとすることもできる。
【0105】
図1には、粘着剤付き光学フィルム25を液晶セル30の視認側に配置する場合を想定した例を示したが、本発明に係る粘着剤付き光学フィルムは、液晶セルの背面側、すなわちバックライト側に配置することもできる。本発明の粘着剤付き光学フィルムを液晶セルの背面側に配置する場合は、
図1に示した表面処理層2を有する保護フィルム3の代わりに、表面処理層を有しない保護フィルムを採用し、他は
図1の(A)〜(D)と同様に構成することができる。またこの場合は、偏光板を構成する保護フィルムの外側に、輝度向上フィルム、集光フィルム、拡散フィルムなど、液晶セルの背面側に配置されることが知られている各種光学フィルムを設けることも可能である。
【0106】
以上説明したように、本発明の光学積層体は、液晶表示装置に好適に用いることができる。本発明の光学積層体から形成される液晶表示装置は、例えば、ノート型、デスクトップ型、PDA(Personal Digital Assistant)などを包含するパーソナルコンピュータ用液晶ディスプレイ、テレビ、車載用ディスプレイ、電子辞書、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、電子卓上計算機、時計などに用いることができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、使用量ないし含有量を表す%及び部は、特に断らない限り重量基準である。
【0108】
以下の例において、重量平均分子量は、GPC装置にカラムとして、東ソー(株)製の“TSKgel XL”を4本と、昭和電工(株)製で昭光通商(株)が販売する“Shodex GPC KF
-802”を1本、計5本を直列につないで配置し、溶出液としてテトラヒドロフランを用いて、試料濃度5mg/mL、試料導入量100μL 、温度40℃、流速1mL/分の条件で、標準ポリスチレン換算により測定した値である。
【0109】
まず、粘着剤組成物の主成分となる本発明で規定するアクリル樹脂(A)、及びそれに類似するが、本発明の規定から外れるアクリル樹脂を製造した重合例を示す。以下の重合例では、カルボキシル基含有単量体として、次のものを用いた。
【0110】
β−CEA: ダイセルサイテック株式会社から“β−CEA”の商品名で販売されているβ−カルボキシエチルアクリレート。その化学組成は、
CH
2=CH(COOCH
2CH
2)
nCOOH(n=平均1)
と表示されており、具体的には、アクリル酸2−カルボキシエチル(すなわちアクリル酸の2量体)40%、アクリル酸の3量体以上のオリゴマー40%、アクリル酸20%である。以下、その商品名に倣って「β−CEA」と表示する。なお、以下で「アクリル酸2−カルボキシエチル」というときは、アクリル酸の2量体、すなわち
CH
2=CHCOOCH
2CH
2COOH
自体を指すものとする。
【0111】
[重合例1]
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌機を備えた反応器に、酢酸エチル120部を仕込み、窒素ガスで装置内の空気を置換し、酸素不含としたあと、内温を75℃に上げた。アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤) 0.05部を酢酸エチル5部に溶かした溶液を全量添加したあと、内温を74〜76℃に保ちながら、単量体(A−1)としてアクリル酸ブチル69.9部、アクリル酸メチル20.0部及びアクリル酸2−(2−フェノキシエトキシ)エチル8.0部、単量体(A−2)としてアクリル酸2−ヒドロキシエチル2.0部、並びに単量体(A−3)としてβ−CEA 0.1部の混合溶液を、2時間かけて反応系内に滴下した。その後、内温74〜76℃で5時間保温し、反応を完結した。最後に酢酸エチルを添加して、アクリル樹脂の濃度が40%となるように調節し、アクリル樹脂の酢酸エチル溶液を調製した。得られたアクリル樹脂は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが68万、Mw/Mnが4.9であった。これをアクリル樹脂Aとする。
【0112】
[重合例2]
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌機を備えた反応容器に、 酢酸エチル81.8部、単量体(A−1)としてアクリル酸ブチル69.7部、アクリル酸メチル20.0部及びアクリル酸2−(2−フェノキシエトキシ)エチル8.0部、 単量体(A−2)としてアクリル酸2−ヒドロキシエチル2.0部、並びに単量体(A−3)としてβ−CEA0.3部を仕込み、窒素ガスで装置内の空気を置換して酸素不含としながら、内温を55℃に上げた。その後、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤) 0.14部を酢酸エチル10部に溶かした溶液を全量添加した。開始剤の添加後1時間、この温度で保持し、次に内温を54〜56℃に保ちながら、添加速度17.3部/hr で酢酸エチルを反応容器内へ連続的に加え、アクリル樹脂の濃度が35%となった時点で酢酸エチルの添加を止め、さらに酢酸エチルの添加開始から12時間経過するまでこの温度で保温した。最後に酢酸エチルを加えて、アクリル樹脂の濃度が20%となるように調節し、アクリル樹脂の酢酸エチル溶液を調製した。得られたアクリル樹脂は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mw が153万、Mw/Mn が4.2であった。これをアクリル樹脂Bとする。
【0113】
[重合例3]
アクリル酸ブチルの仕込み量を68.85部に、 アクリル酸2−ヒドロキシエチルの仕込み量を3.0部に、そしてβ−CEAの仕込み量を0.15部にそれぞれ変更し、その他は重合例2と同様にして、アクリル樹脂の酢酸エチル溶液を調製した。得られたアクリル樹脂は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mw が144万、 Mw/Mn が4.6であった。これをアクリル樹脂Cとする。
【0114】
[重合例4]
アクリル酸ブチルの仕込み量を67.9部に、 アクリル酸2−ヒドロキシエチルの仕込み量を4.0部に、そしてβ−CEAの仕込み量を0.1部にそれぞれ変更し、その他は重合例2と同様にして、アクリル樹脂の酢酸エチル溶液を調製した。得られたアクリル樹脂は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mw が147万、Mw/Mn が4.5であった。これをアクリル樹脂Dとする。
【0115】
[重合例5]
アクリル酸ブチルの仕込み量を70.4部に、 アクリル酸2−ヒドロキシエチルの仕込み量を1.0部にそれぞれ変更し、β−CEAを仕込まず、代わりにアクリル酸を0.6部仕込んだ以外は、重合例1と同様にして、アクリル樹脂の酢酸エチル溶液を調製した。得られたアクリル樹脂は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mw が63万、Mw/Mn が5.0であった。これをアクリル樹脂Xとする。
【0116】
以上の重合例1〜5における単量体の仕込み組成、並びに得られたアクリル樹脂の重量平均分子量及びMw/Mnの一覧を表1にまとめた。なお、重合例1において、β−CEAの仕込み量は、表1に記載のとおり、単量体の合計(すなわち得られるアクリル樹脂)を基準に 0.1%であるが、β−CEA中に含まれるアクリル酸2−カルボキシエチルは上述のとおり40%なので、アクリル樹脂中のアクリル酸2−カルボキシエチルに由来する構造単位の割合は、0.04%になっている。重合例2〜4もこれに準ずる。
【0117】
【表1】
【0118】
(表1の脚注:単量体を表す符号の意味)
(A−1)
BA :アクリル酸ブチル
MA :アクリル酸メチル
PEA2 :アクリル酸2−(2−フェノキシエトキシ)エチル
(A−2)
2HEA :アクリル酸2−ヒドロキシエチル
(A−3)
β−CEA:アクリル酸2−カルボキシエチル(アクリル酸の2量体)40%、
アクリル酸の3量体以上のオリゴマー40%、アクリル酸20%の混合物
AA :アクリル酸
【0119】
次に、上で製造したアクリル樹脂を用いて粘着剤を調製し、光学フィルムに適用した実施例及び比較例を示す。以下の例では、架橋剤、有機酸及びシラン系化合物として、それぞれ次のものを用いた。“コロネートL”と“KBM-403”は商品名である。
【0120】
〈架橋剤〉
コロネートL:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体の酢酸エチル溶液(固形分濃度75%)、日本ポリウレタン(株)から入手。
【0121】
〈有機酸〉
アクリル酸:CH
2=CHCOOH、液体、日本触媒(株)から入手。
【0122】
〈シラン系化合物〉
KBM-403 :3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、液体、信越化学工業(株)から入手。
【0123】
[実施例1〜11及び比較例1〜5]
(a−1)粘着剤組成物1〜5の製造
重合例1で得たアクリル樹脂Aの40%酢酸エチル溶液を用い、その固形分100部に対して、上述の架橋剤(コロネートL)、有機酸(アクリル酸)を表2に示すそれぞれの量、及び上述のシラン系化合物(KBM-403)を0.5部混合し、さらに固形分濃度が28%となるように酢酸エチルを添加して、粘着剤組成物1〜5を調製した。なお、架橋剤(コロネートL)は、上述のとおり固形分濃度75%の酢酸エチル溶液であるが、表2に示す添加量は、その固形分量である。
【0124】
(a−2)粘着剤組成物6及び7の製造
重合例2で得たアクリル樹脂Bの20%酢酸エチル溶液を用いた以外は、(a−1)に準ずる操作を行って粘着剤組成物6及び7を調製した。
【0125】
(a−3)粘着剤組成物8及び9の製造
重合例3で得たアクリル樹脂Cの20%酢酸エチル溶液を用いた以外は、(a−1)に準ずる操作を行って粘着剤組成物8及び9を調製した。
【0126】
(a−4)粘着剤組成物10及び11の製造
重合例4で得たアクリル樹脂Dの20%酢酸エチル溶液を用いた以外は、(a−1)に準ずる操作を行って粘着剤組成物10及び11を調製した。
【0127】
(a−5)粘着剤組成物12〜15の製造
有機酸を混合しなかった以外は、(a−1)〜(a−4)にそれぞれ準ずる操作を行って粘着剤組成物12〜15を調製した。
【0128】
(a−6)粘着剤組成物16の製造
重合例5で得たアクリル樹脂Xの40%酢酸エチル溶液を用い、有機酸を混合しなかった以外は、(a−1)に準ずる操作を行って粘着剤組成物16を調製した。
【0129】
(b)粘着剤組成物の粘度変化の評価
上記(a−1)〜(a−6)で調製したそれぞれの粘着剤組成物につき、調製直後及び調製6時間後に、先に述べた方法で粘度を測定した。 調製直後の値を表2の「η
1」の欄に、調製6時間後の値を表2の「η
2」の欄にそれぞれ示し、(η
2−η
1)/η
1×100で算出される粘度の変化率を表2の「粘度変化」の欄に示した。
【0130】
(c)粘着剤シートの作製
上記(a−1)〜(a−6)で調製したそれぞれの粘着剤組成物を、離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム〔商品名“PLR-382050”、リンテック(株)から入手、セパレーターと呼ぶ〕の離型処理面に、乾燥後の厚さが20μm となるようにアプリケーターを用いて塗布し、100℃で1分間乾燥して、粘着剤シートを作製した。
【0131】
(d)粘着剤シートのゲル分率測定
上記(c)で作製した粘着剤シートを室温で1日放置した後、4日放置した後、及び8日放置した後のそれぞれについて、先に述べた方法でゲル分率を測定した。1日放置後の値を表2の「1日目」の欄に、4日放置後の値を表2の「4日目」の欄に、8日放置後の値を表2の「8日目」の欄にそれぞれ示し、そして8日放置後のゲル分率に対する1日放置後のゲル分率の比を表2の「1日目/8日目」の欄に、8日放置後のゲル分率に対する4日放置後のゲル分率の比を表2の「4日目/8日目」の欄に示した。
【0132】
(e)粘着剤付き偏光板の作製
ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向している偏光フィルムの両面がトリアセチルセルロースからなる保護フィルムで挟まれている3層構造の偏光板の片面に、上記(c)で作製した粘着剤シートのセパレーターと反対側の面(粘着剤面)をラミネーターにより貼り合わせたのち、温度23℃、相対湿度65%の条件で7日間養生して、粘着剤付き偏光板を作製した。
【0133】
(f)光学積層体の作製及び評価
上記(e)で作製した粘着剤付き偏光板からセパレーターを剥がした後、その粘着剤面を液晶セル用ガラス基板〔商品名“EAGLE XG”、コーニング社から入手〕の両面にクロスニコルとなるように貼着し、光学積層体を作製した。この光学積層体につき、温度80℃の乾燥条件下で96時間保管する耐熱試験を行った。その後、一方の偏光フィルム側から光を入射させたときの白ヌケの発現状態を目視で観察した。結果を以下の基準で分類し、表2の「白ヌケ」の欄に示した。
【0134】
〈白ヌケの発現状態〉
◎:白ヌケが全くみられない。
○:白ヌケがほとんど目立たない。
△:白ヌケがやや目立つ。
×:白ヌケが顕著に認められる。
【0135】
また、上と同じ光学積層体につき、温度80℃の乾燥条件で300時間保管する耐熱試験を行った場合(表2では「耐熱」と表記)、温度60℃、相対湿度90%で300時間保管する耐湿熱試験を行った場合(表2では「耐湿熱」と表記)、及び、70℃に加熱した状態から−30℃に降温し、次いで70℃に昇温する過程を1サイクル(1時間)として、これを100サイクル繰り返す耐ヒートショック試験を行った場合(表2では「耐HS」と表記)のそれぞれについて、試験後の光学積層体を目視で観察した。結果を以下の基準で分類し、表2の「耐久性」の欄にまとめた。
【0136】
〈耐熱試験、耐湿熱試験及び耐ヒートショック試験の評価基準〉
◎:浮き、剥れ、発泡等の外観変化が全くみられない。
○:浮き、剥れ、発泡等の外観変化がほとんどみられない。
△:浮き、剥れ、発泡等の外観変化がやや目立つ。
×:浮き、剥れ、発泡等の外観変化が顕著に認められる。
【0137】
(g)粘着剤付き光学フィルムのリワーク性評価
リワーク性の評価は次のように行った。まず、上記(e)で作製した粘着剤付き偏光板を25mm×150mmの大きさの試験片に裁断した。次に、この試験片からセパレーターを剥がした後、貼付装置〔フジプラ(株)製の商品名“ラミパッカー”〕を用いて粘着剤層側で液晶セル用ガラス基板に貼り付け、温度50℃、圧力5kg/cm
2 (490.3kPa)で20分間オートクレーブ処理を行った。続いて70℃で2時間加熱処理し、引き続き50℃のオーブン中にて48時間保管した後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中、この貼着試験片から偏光板を粘着剤層とともに300mm/分の速度で180°方向(偏光板を剥がして裏返しとなった状態でガラス面に平行な方向)に剥離し、ガラス板表面の状態を観察して、以下の基準で分類した。結果を、併せて表2の「リワーク性」の欄に示した。
【0138】
〈リワーク性の評価基準〉
◎:ガラス板表面に曇り等が全く認められない。
○:ガラス板表面に曇り等がほとんど認められない。
△:ガラス板表面に曇り等が認められる。
×:ガラス板表面に粘着剤の残りが認められる。
【0139】
【表2】
【0140】
(表2の脚注)
「アクリル樹脂」の欄の官能基含有単量体を表す符号の意味
2HEA :アクリル酸2−ヒドロキシエチル(水酸基含有成分)
β−CEA:アクリル酸2−カルボキシエチル(アクリル酸の2量体)40%、
アクリル酸の3量体以上のオリゴマー40%、
アクリル酸20%の混合物(カルボキシル基含有成分)
AA :アクリル酸
「粘度」の欄の説明
η
1 :粘着剤組成物調製直後の粘度
η
2 :粘着剤組成物調製から6時間後の粘度
粘度変化(%)=(η
2−η
1)/η
1×100
【0141】
表1及び表2に示すとおり、前記式(II)に相当するアクリル酸2−カルボキシエチルが所定量共重合されているアクリル樹脂Aに、架橋剤を所定量配合し、さらに有機酸を所定量配合して粘着剤組成物を構成した実施例1〜11は、組成物の粘度変化を抑えつつ、シート状に塗工してから8日目のゲル分率に対する1日目および4日目のゲル分率の比が高い粘着剤シートを与えている。そのため、シート状に塗工する際の塗工性が良好なうえ塗工してから裁断等の加工が問題なく行えるようになるまでの養生時間を短くすることができ、加工性に優れたものとなる。これら実施例の粘着剤シートは、耐熱性、耐湿熱性及び耐ヒートショック性においても、ほぼ満足できる結果が得られた。
【0142】
これに対し、アクリル樹脂は前記式(II)に相当するアクリル酸2−カルボキシエチルに由来する構造単位を有するが、有機酸を添加していない比較例1〜4は、組成物の粘度変化が大きく、塗工性が十分ではない。また、前記式(II)に相当するアクリル酸2−カルボキシエチルに由来する構造単位を有しないアクリル樹脂Xを用いた比較例5では、シート状に塗工してから8日目のゲル分率に対する1日目のゲル分率の比が 0.8を大きく下回っており、また4日目のゲル分率の比が 0.97を下回っており、加工性が十分とはいえない。