(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューターなどの電子機器に使用されるCPU、ドライバICやメモリー等のLSIチップは、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになり、その熱によるチップの温度上昇は、チップの動作不良、破壊を引き起こす。そのため、動作中のチップの温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法及びそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
また、近年スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックに代表されるような携帯可能な電子端末が急速に発展、普及している。例えば、スマートフォンは手の平の上で操作し、更に通話のときには端末本体が頬及び耳に直接触れることになる。タブレットPCにおいても、腕や膝の上に乗せて操作する場面がある。端末背面へメモリーやチップから発生した熱が効率よく伝わると、端末背面の温度分布に偏りが生まれ、その部分だけ熱く感じてしまう。所謂ヒートスポットと呼ばれるもので、直接肌に触れる機会の多い、スマートフォンやタブレットPCにおいては、できるだけヒートスポットを無くして、温度分布を均一化したい。このような場合に、メモリーやチップなどの発熱体と筐体の間にグラファイトシートに代表されるような、面内方向の熱伝導に優れたシートを介在させることで、発熱体から発生した熱を素早く拡散し、ヒートスポットを無くす手法が取られている。
【0004】
また、携帯可能な電子端末の高性能化が急速に進み、搭載されるICチップに求められる性能が上がっている。それに伴い、ICチップから発生する熱も多くなり、チップへの熱ストレスが無視できない状況になっている。ICチップから発生した熱を放熱グリースや放熱シートを介してケースに伝えると、前述のようなヒートスポットが生じてしまう。更に、電子端末の高性能化と同時に軽量化、薄型化が進んでいるため、ますますヒートスポットが生じやすい状況になっている。
【0005】
このように、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックに代表されるような携帯可能な電子端末に搭載されるICチップから発生する熱をできるだけ拡散させて、ケースにヒートスポットを生じさせないことが求められている。
【0006】
面方向に高い熱伝導率を有する熱伝導層と、熱伝導性樹脂層を積層させてなる熱伝導性複合シートはこれまでも多くの提案がなされている。
特開平06−291226号公報:特許文献1では、アルミニウム箔の片面もしくは両面に熱伝導性物質を含むゲル状シリコーン樹脂組成物を積層させているが、この樹脂組成物は十分な粘着性を有しておらず、ICチップに実装した際に、剥離するおそれがある。特に、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックなどの電子端末は携帯することを想定しており、大きな振動や、落下による衝撃があった場合にも、剥離しないことが必要となる。
【0007】
特開2003−158393号公報:特許文献2では、グラファイトシートの少なくとも片面に、熱で低粘度化、軟化又は溶融する熱伝導性材料層を積層させている。また、特開2002−329989号公報:特許文献3では、金属箔もしくは金属メッシュの両面に40℃付近で軟化点を有する熱伝導性樹脂層を積層させているが、これらの熱伝導性樹脂層は十分な粘着性を有していない。
【0008】
特開2007−1038号公報:特許文献4では、グラファイトシートやアルミニウム箔に金属水酸化物を主成分とする充填剤を含有するアクリル共重合体を積層させているが、このアクリル共重合体は十分な粘着性を有していない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱伝導性複合シートは、面方向の熱伝導率が20〜2,000W/mKである熱伝導層の少なくとも片面に、0.4W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなるものである。
【0015】
[熱伝導層]
熱伝導層の面方向の熱伝導率は、20〜2,000W/mKであり、好ましくは100〜2,000W/mKであり、より好ましくは200〜2,000W/mKである。熱伝導層の面方向の熱伝導率が低いと、熱拡散性が得られない。
このような面方向の熱伝導率を有する熱伝導層としては、例えば、グラファイトシート、アルミニウム箔、銅箔などが挙げられる。なお、熱伝導層の面方向の熱伝導率は、サーモウェーブアナライザーにより熱拡散率を測定し、熱拡散率から熱伝導率を算出することにより測定することができる。
【0016】
熱伝導層の厚みは、0.01〜2.0mmが好ましく、より好ましくは0.03〜2.0mm、更に好ましくは0.03〜1.0mmである。熱伝導層の厚みが薄すぎると熱伝導性複合シートの剛性が乏しくなり、取り扱いが困難になる場合がある。また、熱伝導層の厚みが厚すぎると実装される箇所のクリアランスに適応できない場合がある。
【0017】
[熱伝導性粘着層]
熱伝導性粘着層の熱伝導率は、0.4W/mK以上であることが必要で、好ましくは0.6W/mK以上である。熱伝導率が低いとICチップから発生した熱を熱伝導層に素早く伝えることができない。なお、熱伝導性粘着層の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法を用いて測定することができる。
【0018】
該熱伝導性複合シートにおける熱伝導性粘着層の厚みが100μmの時の剥離接着強度は、2.0N/cm以上、好ましくは3.0N/cm以上、より好ましくは3.5N/cm以上である。剥離接着強度が低いと、実装後に剥がれる可能性がある。特に、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックに代表される携帯可能な電子端末は、使用者によって持ち運びされるもので、強い振動が加わったり、使用者が電子端末を落としたりすることが想定されるためである。
ここで、剥離接着強度は、室温(25℃)下、25mm幅で熱伝導性粘着層の片面をアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、熱伝導性粘着層の反対側の面をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどの基材に同様にして接着させ、JIS Z 0237に準じて、その一端の熱伝導性粘着層をアルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分を引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から熱伝導性粘着層を引き剥がし、引き剥がしに要した力とする。
【0019】
熱伝導性粘着層のポリマーマトリックスとしては、有機ゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゲル、合成ゴム、天然ゴムなどのゴムや、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマーから選ばれる。中でもシリコーンゴムやシリコーン樹脂は、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気特性などの観点から、他のポリマーマトリックスよりも優れている。該熱伝導性複合シートが、電子部品の寿命や正確な作動を司る重要な部材であることを考えれば、シリコーンゴム、あるいはシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
ポリマーマトリックスは1種類に限らず、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0020】
ポリマーマトリックスとしてシリコーンゴム及び/又はシリコーン樹脂を用いた熱伝導性粘着層としては、シリコーン熱伝導性組成物を硬化させたものを例示することができる。ここで、シリコーン熱伝導性組成物の硬化方法は、白金化合物を用いるヒドロシリル化を経由した付加硬化でもよいし、過酸化物を用いた硬化方法でもよいし、これらに限らない。
【0021】
このようなシリコーン熱伝導性組成物として、具体的には、
(a)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200〜4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5〜5.0となる量、
(d)白金系化合物:白金系元素量で(a)成分の0.1〜1,000ppm、
(f)シリコーン樹脂:50〜500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物(I)や、
(b)熱伝導性充填剤:100〜3,000質量部、
(f)シリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1〜2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物(II)を挙げることができる。
【0022】
〔(a)オルガノポリシロキサン〕
(a)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上、好ましくは2〜100個有するオルガノポリシロキサンであり、付加反応硬化型組成物における主剤(ベースポリマー)である。通常は主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0023】
ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の基としては、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、ならびにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等が挙げられ、代表的なものは炭素原子数が1〜10、特に代表的なものは炭素原子数が1〜6のものであり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1〜3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基である。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の官能基は同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
また、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数2〜8程度のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が、特にはビニル基が好ましい。
【0025】
このオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、通常、10〜100,000mm
2/s、特に好ましくは500〜50,000mm
2/sの範囲である。前記動粘度が低すぎると、得られる組成物の保存安定性が悪くなる場合があり、また高すぎると得られる組成物の伸展性が悪くなる場合がある。なお、本発明において、動粘度はオストワルド粘度計により測定できる。
【0026】
この(a)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、動粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
〔(b)熱伝導性充填剤〕
(b)成分である熱伝導性充填剤としては、非磁性の銅やアルミニウム等の金属、アルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア、ジルコニア、亜鉛華等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等の金属窒化物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、人工ダイヤモンドあるいは炭化ケイ素等一般に熱伝導性充填剤とされる物質を用いることができる。熱伝導性充填剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
熱伝導性充填剤の平均粒径は、0.1〜200μmであることが好ましく、0.1〜100μmであることがより好ましく、更に好ましくは0.5〜50μmである。ここで述べる平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EX(日機装(株))による測定値である。
【0029】
熱伝導性充填剤の配合量としては、(a)成分100質量部に対して200〜4,000質量部であることが好ましく、より好ましくは200〜3,000質量部である。また、後述する(f)成分をベースポリマーとして用いるシリコーン熱伝導性組成物(II)とする場合、(f)成分100質量部に対して100〜3,000質量部であることが好ましく、より好ましくは200〜2,500質量部である。熱伝導性充填剤の配合量が少なすぎると、熱伝導性粘着層の熱伝導率が十分得られない場合があり、配合量が多すぎると成形性が悪化したり、粘着性が低下してしまう場合がある。
【0030】
〔(c)オルガノハイドロジェンポリシロキサン〕
(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を1分子中に2個以上、好ましくは2〜100個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(a)成分に対する架橋剤として作用する成分である。即ち、後述する(d)成分である白金系化合物の存在下で、(c)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が、ヒドロシリル化反応により(a)成分中のアルケニル基に付加し、架橋結合を有する三次元網状構造を有する架橋硬化物を生成する。
【0031】
(c)成分中のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基等が挙げられる。具体的には、(a)成分で説明した脂肪族不飽和基以外のケイ素原子に結合する基として例示したものと同種の、非置換又は置換の1価炭化水素基が挙げられるが、それらの中でも、合成容易性及び経済性の観点から、メチル基が好ましい。
【0032】
本発明における(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状である。
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重合度(ケイ素原子の数)は、2〜100、特に2〜50であることが好ましい。
【0033】
(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの好適な具体例としては、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたメチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたメチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。なお、(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
(c)成分の配合量は、(c)成分中のSiH基が(a)成分中のアルケニル基1モルに対して0.5〜5.0モルとなる量であることが好ましく、より好ましくは0.8〜4.0モルとなる量である。(c)成分中のSiH基の量が(a)成分中のアルケニル基1モルに対して0.5モル未満では、熱伝導性組成物が硬化しなかったり、硬化物の強度が不十分であって、成形体、複合体として取り扱うことができない等の問題が発生する場合がある。一方、5.0モルを超える量を使用した場合には、硬化物表面の粘着性が不十分となり、被接着物に自着して本発明の熱伝導性複合シートを固定することができないという問題が発生するおそれがある。
【0035】
〔(d)白金系化合物〕
(d)成分の白金系化合物は、(a)成分中のアルケニル基と(c)成分中のケイ素原子に結合した水素原子との付加反応を促進させ、本発明の組成物を三次元網状構造の架橋硬化物に変換するために配合される触媒成分である。
【0036】
上記(d)成分は、通常のヒドロシリル化反応に用いられる公知の触媒の中から適宜選択して使用することができる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H
2PtCl
4・nH
2O、H
2PtCl
6・nH
2O、NaHPtCl
6・nH
2O、KHPtCl
6・nH
2O、Na
2PtCl
6・nH
2O、K
2PtCl
4・nH
2O、PtCl
4・nH
2O、PtCl
2、Na
2HPtCl
4・nH
2O(但し、式中のnは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス、白金黒、パラジウム等の白金族金属を、アルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム−オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。これらの白金系化合物は、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
上記(d)成分の白金系化合物の配合量は、本発明の組成物を硬化させるために必要な量であればよいが、通常は(a)成分に対する白金族金属元素の質量換算で、0.1〜1,000ppm、好ましくは0.5〜500ppmである。
【0038】
〔(e)反応制御剤〕
(e)成分の反応制御剤は、必要により配合される成分で、(d)成分の存在下で進行する(a)成分と(c)成分の付加反応であるヒドロシリル化反応の速度を調整するためのものである。このような(e)成分の反応制御剤は、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応抑制剤の中から適宜選択することができる。その具体例としては、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、3−ブチン−1−オール、エチニルメチリデンカルビノール等のアセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、硫黄化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。これらの付加反応抑制剤は、1種単独で使用することも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0039】
上記(e)成分の配合量は、(d)成分の使用量によっても異なるので一概に決定することはできない。ヒドロシリル化反応の進行を所望の反応速度に調整できる有効量であれば足りる。通常、(a)成分の質量に対して、10〜50,000ppm程度とするのがよい。(e)成分の配合量が少なすぎると本発明の組成物の保存安定性が不十分となり、十分な使用可能時間を確保することができない場合があり、逆に多すぎると、本発明の組成物の硬化性が低下する場合がある。
【0040】
〔(f)シリコーン樹脂〕
(f)成分のシリコーン樹脂は、シリコーン熱伝導性組成物を硬化させた硬化物表面に粘着性を付与する作用を有する。このような(f)成分の例としては、R
13SiO
1/2単位(M単位)とSiO
4/2単位(Q単位)の共重合体であって、M単位とQ単位の比(モル比)M/Qが0.5〜1.5、好ましくは0.6〜1.4、更に好ましくは0.7〜1.3であるシリコーン樹脂が挙げられる。上記M/Qが上記範囲であると所望の粘着力が得られる。この場合、必要に応じ、R
12SiO
2/2単位(D単位)やR
1SiO
3/2単位(T単位)を含んでいてもよいが、これらD単位及びT単位の配合は15モル%以下、特に10モル%以下が好ましい。
【0041】
上記M単位等を表す一般式中のR
1は、非置換又は置換の1価炭化水素基、好ましくは脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基である。このようなR
1の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等の、炭素原子数が1〜12、好ましくは炭素原子数が1〜6のものが挙げられる。
本発明においては、これらの中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1〜3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基が好ましい。また、R
1は全てが同一であっても異なっていてもよい。R
1は、耐溶剤性等の特殊な特性を要求されない限り、コスト、その入手のし易さ、化学的安定性、環境負荷等の観点から、全てメチル基であることが好ましい。
【0042】
(a)〜(f)成分を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物(I)に配合する場合、(f)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して50〜500質量部であることが好ましく、より好ましくは60〜350質量部であり、更に好ましくは70〜250質量部である。(f)成分の配合量が、50質量部未満であるか500質量部を超える場合には、所望の粘着性が得られなくなる場合がある。
【0043】
なお、(f)成分そのものは室温で固体又は粘稠な液体であるが、溶剤に溶解した状態で使用することも可能である。その場合、組成物への添加量は、溶剤分を除いた量で決定される。
【0044】
〔(g)有機過酸化物系化合物〕
有機過酸化物によるシリコーン組成物の硬化反応は、分子鎖末端(片末端又は両末端)及び分子鎖非末端のどちらか一方又はその両方にビニル基等のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンを有機過酸化物系化合物存在下でラジカル重合させることにより起こる。(g)有機過酸化物系化合物を上記シリコーン熱伝導性組成物(II)に用いる場合、上記(f)成分としては、1分子中に2個以上のビニル基、アリル基等のアルケニル基を有するものを用いることが好ましい。(g)成分である有機過酸化物系化合物としては、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイドが挙げられる。有機過酸化物系化合物は、光や熱に弱く、不安定であること、固体の有機過酸化物化合物を組成物に分散させるのが困難であることから、有機溶媒に希釈されたり、シリコーン成分に分散させた状態で用いられる場合が多い。
【0045】
有機過酸化物系化合物の配合量は、(f)成分をベースポリマーとして用いるシリコーン熱伝導性組成物(II)とする場合、(f)シリコーン樹脂100質量部に対して有機過酸化物換算で0.1〜2質量部が好ましく、0.1〜1.6質量部がより好ましい。配合量が少なすぎると硬化反応が十分進行しない場合があり、多すぎると組成物の安定性に欠ける場合がある。
【0046】
〔その他の成分〕
熱伝導性粘着層を構成するシリコーン熱伝導性組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、上記成分以外の成分を添加することができる。
【0047】
シリコーン熱伝導性組成物には、組成物の調製時に(b)成分の熱伝導性充填剤を疎水化処理して(a)成分のオルガノポリシロキサンとの濡れ性を向上させ、該熱伝導性充填剤を(a)成分からなるマトリックス中に均一に分散させることを目的として、表面処理剤(ウェッター)(h)を配合することができる。この(h)成分としては、特に下記の(h−1)及び(h−2)が好ましい。
【0048】
(h−1):下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物
R
2aR
3bSi(OR
4)
4-a-b (1)
(式中、R
2は独立に炭素原子数6〜15のアルキル基、R
3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜8の1価炭化水素基、R
4は独立に炭素原子数1〜6のアルキル基であり、aは1〜3の整数、bは0,1又は2であり、a+bは1〜3の整数である。)
【0049】
上記一般式(1)におけるR
2で表されるアルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。このように、R
2で表されるアルキル基の炭素原子数が6〜15の範囲であると、(b)成分の熱伝導性充填剤の濡れ性が十分に向上し、取り扱い作業性がよくなるので、本発明の組成物の低温特性が良好なものとなる。
【0050】
また、上記R
3で表される非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(へプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0051】
上記R
4で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0052】
上記(h−1)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
C
6H
13Si(OCH
3)
3
C
10H
21Si(OCH
3)
3
C
12H
25Si(OCH
3)
3
C
12H
25Si(OC
2H
5)
3
C
10H
21Si(CH
3)(OCH
3)
2
C
10H
21Si(C
6H
5)(OCH
3)
2
C
10H
21Si(CH
3)(OC
2H
5)
2
C
10H
21Si(CH=CH
2)(OCH
3)
2
C
10H
21Si(CH
2CH
2CF
3)(OCH
3)
2
【0053】
上記(h−1)成分は、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。(h−1)成分の配合量は、後述する配合量を超えてもそれ以上ウェッター効果が増大することがないので不経済である。またこの成分は揮発性があるので、開放系で放置すると組成物及び硬化後の硬化物が徐々に硬くなるので、必要最低限の量に止めることが好ましい。
【0054】
(h−2):下記一般式(2)で表される、分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化1】
(式中、R
5は、独立に炭素原子数1〜6のアルキル基であり、上記式(1)中のR
4で表されるアルキル基と同種のものである。また、cは5〜100の整数である。)
【0055】
上記(h−2)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【化2】
【0056】
なお、(h−2)成分は1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。この(h−2)成分の配合量が後述する配合量を超えると、得られる硬化物の耐熱性や耐湿性が低下する傾向がある。
【0057】
本発明においては、(h)成分の表面処理剤として、前記(h−1)成分と(h−2)成分からなる群の中から選択した少なくとも1種を選択して使用することができる。この場合、全(h)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して0.01〜50質量部であることが好ましく、特に0.1〜30質量部であることが好ましい。
【0058】
本発明においては、その他の任意成分として、例えば、フッ素変性シリコーン界面活性剤;着色剤としてカーボンブラック、二酸化チタン等を添加してもよい。更に、熱伝導性充填剤の沈降防止や補強を目的として、沈降性シリカ又は焼成シリカ等の微粉末シリカ、チクソ性向上剤等を適宜添加することもできる。
【0059】
シリコーン熱伝導性組成物は、上記(a)〜(f)成分又は(b)、(f)、(g)成分、及び必要に応じてその他の成分を常法に準じて混合することにより調製することができる。
なお、シリコーン熱伝導性組成物を成形する硬化条件としては、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物や有機過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよい。
【0060】
[熱伝導性複合シートの製造方法]
本発明の熱伝導性複合シートは、例えば上記シリコーン熱伝導性組成物を、熱伝導層上にコーティングし、硬化させて熱伝導性粘着層とすることにより得られる。コーティング方法としては、バーコーター、ナイフコーター、コンマコーター、スピンコーター等を用いて、熱伝導層上に液状の組成物を薄膜状に塗布する方法が挙げられるが、本発明においてはこれらの方法に限定されるものではない。
【0061】
熱伝導性粘着層の厚みは、0.03〜0.3mmが好ましく、より好ましくは0.04〜0.2mmであり、更に好ましくは0.05〜0.15mmである。0.03mmよりも薄くなると、粘着性が低下してしまい、発熱体と十分密着しない場合がある。また、0.3mmよりも厚くなると発熱体から発生した熱が熱伝導層に伝わりづらくなり、素早い熱拡散に不利になってしまうおそれがある。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例
、参考例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0063】
実施例
、参考例及び比較例を行なうに当り、熱伝導性複合シートの成形方法を以下に記載する。
(熱伝導層)
アルミニウム箔:厚み50μm、面方向の熱伝導率237W/mK
銅箔:厚み30μm、面方向の熱伝導率398W/mK
黒鉛由来のグラファイトシート:厚み100μm、面方向の熱伝導率600W/mK
【0064】
(熱伝導性粘着層)
下記に示す材料を用い、表1に示す組成で組成物イ〜ホを得た。なお、材料の混練にはプラネタリーミキサーを用いた。
【0065】
(a)成分:
(a−1)25℃における動粘度が600mm
2/sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
(a−2)25℃における動粘度が30,000mm
2/sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【0066】
(b)成分:
(b−1)平均粒径10μmの酸化アルミニウム粉末
(b−2)平均粒径1μmの酸化アルミニウム粉末
【0067】
(c)成分:
下記構造式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化3】
【0068】
(d)成分:
5質量%塩化白金酸2−エチルヘキサノール溶液
【0069】
(e)成分:
付加反応制御剤として、エチニルメチリデンカルビノール
【0070】
(f)成分:
(f−1):実質的に、Me
3SiO
0.5単位(M単位)とSiO
2単位(Q単位)のみからなるシリコーン樹脂(M/Qモル比は1.15)のトルエン溶液(不揮発分60%;25℃における動粘度30mm
2/s)
(f−2):実質的に、Me
3SiO
0.5単位(M単位)とSiO
2単位(Q単位)のみからなるシリコーン樹脂(M/Qモル比は0.85)のトルエン溶液(不揮発分70%;25℃における動粘度30mm
2/s)
(f−3):KR−101−10(シリコーン樹脂粘着剤、信越化学工業(株)製)
【0071】
(g)成分:
ナイパーBMT−K40(ジベンゾイルパーオキサイドの40質量%キシレン溶液、日本油脂(株)製)
【0072】
(h)成分:
下記構造式で表される、分子鎖片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化4】
【0073】
得られた組成物イ〜ホについて、下記に示す方法により熱伝導率及び剥離接着強度を測定した。結果を表1に併記する。
【0074】
〔熱伝導率〕
レーザーフラッシュ法を用いて測定した。
【0075】
〔剥離接着強度〕
室温(25℃)下、120℃で10分間の条件で硬化させた25mm幅、厚み100μmの組成物イ〜ホの硬化物層の片面を厚さ1mmのアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、次いで上記アルミニウム板と接着されていない組成物イ〜ホの硬化物層の他方の片面を厚さ0.1mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに同様に接着させ、JIS Z 0237に準じて、熱伝導性粘着層の一端を上記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分から引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から組成物イ〜ホの硬化物層を引き剥がし、この引き剥がしに要した力(熱伝導性粘着層の剥離接着強度)をそれぞれ測定した。
【0076】
【表1】
【0077】
[実施例1〜
5、参考例1]
表2に示す材料を用いて熱伝導性複合シートを作製した。上記で得られた組成物イ〜ホに対して、トルエンを適量添加し、この溶液を熱伝導層上にスペーサーを用いてコーティングし、80℃,10分でトルエンを揮発させ、続いて120℃,10分で硬化させた。
熱伝導層の熱伝導性粘着層を積層させた側を表面とし、その反対の面を裏面とした。裏面に積層させる場合も同様に、コーティング成形を行なった。実施例
4の場合、組成物イをアルミニウム箔に塗工した後に、アルミニウム箔の裏面にPCS−CR−10(フェイズチェンジマテリアル、信越化学工業(株)製)をラミネートして得た。
【0078】
[比較例1〜6]
表3に示す材料を用いて熱伝導性複合シートを作製した。比較例1,3は実施例と同様にして、比較例6は組成物イ〜ホに代えてPCS−CR−10(信越化学工業(株)製)を用いた以外は実施例と同様にして熱伝導性複合シートを作製した。
また、比較例4は熱伝導層のみであり、比較例5はTC−20CG(信越化学工業(株)製、一般的な熱伝導性シート、厚さ0.2mm、熱伝導率1.7W/mK)を用い、比較例2は、組成物イにトルエンを適量添加し、フッ素処理PETフィルム上に溶工し、80℃で10分間乾燥した後に120℃で10分間加熱硬化させる方法により、厚み200μmの組成物イの硬化物層のみからなる熱伝導性シートを作製した。
【0079】
このようにして得られた実施例
、参考例及び比較例の熱伝導性(複合)シートについて、下記に示す方法により、熱源から5mm離れた点の温度を測定した。これらの結果を表2,3に併記する。
【0080】
〔熱源から5mm離れた点の温度〕
得られた熱伝導性複合シートに対して、100℃一定になるように制御された15mm×15mm角の熱源を400g荷重を掛けて、熱伝導性粘着層に接触させた。接触させてから1分後の、熱源の端部から5mm離れた点の熱伝導性粘着層表面の温度を測定した。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
実施例1〜
5のように、0.4W/mK以上の熱伝導率を有し、かつ高い剥離接着強度を持つ熱伝導性粘着層を熱伝導層に積層させることで、実装の際にICチップによく接着し、かつICチップから発生する熱を素早く熱伝導層に伝えることができ、熱伝導層がその熱を拡散させることができる、熱伝導性複合シートを得た。
比較例1のように、熱伝導率が高くても粘着性が低いと、実装の際に剥がれ落ちる可能性がある。比較例2のように熱伝導層を持たないと、面方向の熱伝導性が著しく悪くなり、十分な熱拡散性が得られない。比較例3のように粘着層に十分な熱伝導性がないと、熱源からの熱を素早く熱伝導層に伝えることができず、十分な熱拡散性が得られない。比較例4のように、熱伝導性粘着層を持たないと熱源との接触が悪くなり、熱源からの熱が熱伝導層にスムーズに伝わらず、十分な熱拡散性が得られない。比較例5のように、熱伝導層を持たず、更に粘着性を有していないと、十分な熱拡散性が得られないし、すぐに熱源から剥がれてしまう。比較例6のように信越化学工業(株)製のPCS−CR−10(粘着性なし)の熱伝導層と積層させると、熱源との接触がよく、熱拡散性は得られるが、十分な接着強度が得られない。