【文献】
PETROV, A. D. et al.,Preparation of organosilicon derivatives of bicyclo[2.2.1]- heptane,Zhurnal Obshchei Khimii,1961年,31,1199-208
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項2〜5のいずれか1項に記載の製造方法で得られた[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物に、R’OH(R’は同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基)で示されるアルコールを反応させることを特徴とする[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]オルガノオキシシラン化合物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ビニル基を有する[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]シラン化合物は、分子内にビニル基を有しているため、加水分解等によりシリコーンコーティング剤等として利用する場合に、ビニル基の酸化等により経時で着色するおそれがあり、電子材料用のコーティング剤の原料としては適当でなかった。
【0008】
一方、高屈折材料の原料等としてシリコーンオイルにノルボルニル基が2分子結合した置換基を有するシラン化合物、例えば[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシランを用いて他のシラン化合物と共加水分解した場合には、オイル状を保つためには、3官能基であるトリクロロシランの配合割合には限界がある。このため、オイル状の性状を保ったままで添加割合を高めることのできるノルボルニル基が2分子結合した置換基を有する2官能性のシラン化合物、例えば[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]オルガノジクロロシラン等を製造することが望まれていた。また、カップリング剤として加水分解して使用する場合に、腐食性の塩化水素が副生しない[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]オルガノオキシシラン等のノルボルニル基が2分子結合した置換基を有するシラン化合物が望まれていた。
【0009】
以上のことから、ビニル基等の脂肪族不飽和基を有さないノルボルニル基が2分子結合した置換基を有する2官能性のシラン化合物や、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]基を有するオルガノオキシシラン化合物を開発することが望まれていた。また、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシランを高収率で製造する方法の開発が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記要望に応えたもので、2分子のノルボルニル基が結合した置換基を有する2官能性のシラン化合物として[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]オルガノジクロロシランや[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]基を有するオルガノオキシシラン化合物を提供することを目的とする。また、ホスフィンを含有しないパラジウム化合物にホスファイト化合物を添加した触媒を用いて、2−ノルボルネンとヒドロシラン化合物を反応させることにより、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]シラン化合物を収率よく製造する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ホスフィンを含有していないパラジウム化合物とホスファイト化合物とを触媒として用いて2官能性の[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]オルガノジクロロシランや、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]基を有するオルガノオキシシラン化合物を製造することができること、また、従来の触媒と比較して、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]シラン化合物を高収率で製造することができることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
従って、本発明は、以下の[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]シラン化合物及びその製造方法を提供する。
〔1〕
下記一般式(1)
【化1】
[式中、R
1は同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、Xはハロゲン原子又はOR
2(R
2は、同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基である)で表されるオルガノオキシ基であり、nはXがハロゲン原子の場合は1又は2であり、Xがオルガノオキシ基の場合は0、1又は2である。]
で表される[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]シラン化合物。
〔2〕
ホスフィンを含有していないパラジウム化合物とホスファイト化合物の存在下に、下記一般式(2)
HSiR
1mX’
3-m (2)
(式中、R
1は同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、X’はハロゲン原子であり、mは0、1又は2である。)
で表されるヒドロシラン化合物と2−ノルボルネンとを反応させることを特徴とする下記一般式(3)
【化2】
(式中、R
1、X’、mは上記と同じである。)
で表される[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物の製造方法。
〔3〕
ホスファイト化合物が、下記一般式(4)
P(OR
3)(OR
4)(OR
5) (4)
(式中、R
3、R
4及びR
5は同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基である。)
で表される化合物である〔2〕に記載の[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物の製造方法。
〔4〕
パラジウム化合物が、酢酸パラジウムである〔2〕又は〔3〕に記載の[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物の製造方法。
〔5〕
mが1又は2であり、X’が塩素原子である〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
〔6〕
〔2〕〜〔5〕のいずれかに記載の製造方法で得られた[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物に、R’OH(R’は同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基)で示されるアルコールを反応させることを特徴とする[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]オルガノオキシシラン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電子材料用の表面コーティング剤の原料として有用な[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]シラン化合物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]シラン化合物は、下記一般式(1)
【化3】
[式中、R
1は同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、Xはハロゲン原子又はOR
2(R
2は、同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基である)で表されるオルガノオキシ基であり、nはXがハロゲン原子の場合は1又は2であり、Xがオルガノオキシ基の場合は0、1又は2である。]
で表される化合物である。
【0016】
ここで、R
1が炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基としては、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、テキシル基、シクロヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ビニル基、プロペニル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基等が例示される。また、炭化水素基の水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、該置換基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる基、シアノ基、芳香族炭化水素基、アルキルシリル基等が挙げられ、これらを組み合わせて用いることができる。
【0017】
Xは、ハロゲン原子又はOR
2で表されるオルガノオキシ基である。ここで、ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、特に原料のヒドロシラン化合物の入手のし易さから塩素原子が好ましい。また、R
2の炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基としては、上記R
1と同様の置換基が挙げられる。
【0018】
上記一般式(1)で示される[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]シラン化合物の具体例としては、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジクロロシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジメチルクロロシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]エチルジクロロシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジエチルクロロシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]プロピルジクロロシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジプロピルクロロシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリメトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリエトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジメトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジエトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]エチルジメトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]エチルジエトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]プロピルジメトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]プロピルジエトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジメチルメトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジメチルエトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジエチルメトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジエチルエトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジプロピルメトキシシラン、
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジプロピルエトキシシラン
等が挙げられる。
【0019】
また、本発明における下記一般式(3)で示される[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物の製造方法は、ホスフィンを含有しないパラジウム化合物に、ホスファイト化合物を添加した触媒存在下に、下記一般式(2)
HSiR
1mX’
3-m (2)
(式中、R
1は上記と同じであり、X’はハロゲン原子であり、mは0、1又は2である。)
で表されるヒドロシラン化合物と2−ノルボルネンとを反応させることにより行う。
【化4】
(式中、R
1は上記と同じであり、X’はハロゲン原子であり、mは0、1又は2である。)
上記一般式(2)におけるR
1は、上述した置換基が挙げられる。
【0020】
また、上記一般式(2)で示されるヒドロシラン化合物としては、トリクロロシラン、メチルジクロロシラン、エチルジクロロシラン、プロピルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、ジエチルクロロシラン、ジプロピルクロロシラン等が挙げられる。
【0021】
また、上記一般式(3)で示される[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物としては、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシラン、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジクロロシラン、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジメチルクロロシラン、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]エチルジクロロシラン、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジエチルクロロシラン、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]プロピルジクロロシラン、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ジプロピルクロロシラン等が挙げられる。
【0022】
本発明において、2−ノルボルネンを反応させる場合、その配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、2−ノルボルネン1モルに対して式(2)のヒドロシラン化合物を好ましくは0.2〜1.0モル、更に好ましくは0.25〜0.7モル、特に好ましくは0.4〜0.6モル用いる。
【0023】
本発明のホスフィンを含有しないパラジウム化合物としては、例えばパラジウムクロライド、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、酢酸パラジウム等が挙げられる。反応性、触媒の安定性等の点から酢酸パラジウムを用いることが好ましい。
【0024】
本発明のホスフィンを含有しないパラジウム化合物の使用量は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、2−ノルボルネン1モルに対して好ましくは0.000001〜0.01モル、更に好ましくは0.000005〜0.005モル、特に好ましくは0.00001〜0.001モルである。ホスフィンを含有しないパラジウム化合物の使用量が0.000001モル未満だと触媒の効果が十分に発現しない可能性があり、0.01モルを超えると触媒量に見合うだけの反応促進効果が見られない可能性がある。
【0025】
本発明のホスファイト化合物としては、下記一般式(4)
P(OR
3)(OR
4)(OR
5) (4)
(式中、R
3、R
4及びR
5は同一又は異なる炭素数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基である。)
で表される化合物が好ましい。
【0026】
ここで、R
3、R
4、R
5の非置換又は置換一価炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状の脂肪族一価炭化水素基、特に直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、2−エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0027】
上記一般式(4)で示されるホスファイト化合物としては、具体的には、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリイソブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリ−sec−ブチルホスファイト、トリ−tert−ブチルホスファイト、トリシクロペンチルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリベンジルホスファイト、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト等が挙げられる。
【0028】
本発明のホスファイト化合物の使用量は特に限定されないが、反応性、選択性の点で、用いるホスフィンを含有しないパラジウム化合物中のパラジウム1モルに対して、好ましくは1.0〜10.0モル、更に好ましくは1.5〜8.0モル、特に好ましくは3.0〜6.0モルである。ホスファイト化合物の使用量が、1.0モル未満だと反応の選択性が低下したり、反応が進行しない可能性があり、10.0モルを超えると反応性が低下する可能性がある。
【0029】
本発明は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。用いられる溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられる。また、これらの溶媒は単独で使用してもよく、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。更に、特に2−ノルボルネンは、融点が44〜46℃の常温で固体の化合物であるので、取り扱いを容易にするために、2−ノルボルネンを上記溶媒に溶解した状態で用いることもできる。
【0030】
本発明の反応は、ホスフィンを含有しないパラジウム化合物にホスファイト化合物を添加した触媒と2−ノルボルネン中に上記一般式(2)で示されるヒドロシラン化合物を添加して行ってもよく、ホスフィンを含有しないパラジウム化合物にホスファイト化合物を添加した触媒と上記一般式(2)で示されるヒドロシラン化合物中に2−ノルボルネンを添加して行ってもよい。2−ノルボルネンを後から添加する場合、2−ノルボルネンを溶媒に溶解して添加することが好ましい。
【0031】
また、本発明の2−ノルボルネンと上記一般式(2)で示されるヒドロシラン化合物の反応は、ホスフィンを含有しないパラジウム化合物と上記一般式(4)で示されるホスファイト化合物を、2−ノルボルネン又はヒドロシランに添加してすぐに反応を行ってもよいが、添加した後に加熱下に、1〜10時間、好ましくは2〜4時間撹拌した後に、反応を行うことが好ましい。特に、2−ノルボルネンをトルエン等に溶解した溶液に、ホスフィンを含有しないパラジウム化合物とホスファイト化合物を添加して、80〜90℃で1〜10時間、好ましくは2〜4時間撹拌した後に、上記一般式(2)で示されるヒドロシラン化合物を添加して反応を行うことが好ましい。ヒドロシラン化合物を添加する前に加熱下に撹拌することにより、目的の上記一般式(3)で示される[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物のガスクロマトグラフィーの面積から求められる生成比が向上する。
【0032】
本発明の反応温度は特に限定されないが、常圧又は加圧下で0〜200℃、好ましくは10〜120℃である。なお、反応時間は、通常1〜100時間、好ましくは2〜20時間である。また、反応雰囲気としては、特に限定されないが、安全上、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが好ましい。
【0033】
また、本発明の上記式(1)で示される化合物において、XがOR
2で示されるオルガノオキシ基である化合物は、対応する上記一般式(3)で示される[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]ハロシラン化合物とR
2OH(R
2は上記に同じ)で表されるアルコールとを反応させることにより製造することができる。
【0034】
R
2OH(R
2は上記に同じ)で表されるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられる。アルコールの使用量は、ハロゲン原子1molに対して好ましくは0.8〜2.0mol、更に好ましくは1.0〜1.3molである。
【0035】
アルコールとの反応は、副生するハロゲン化水素を系外に除去しながら行うこともでき、塩基存在下に反応を行い、副生するハロゲン化水素と反応させて除去することもできる。ハロゲン化水素を系外に除去しながら反応させる場合には、ハロゲン化水素が除去される前に未反応のアルコールが反応して水とハロゲン化アルキルが副生し、この水とハロシラン又は生成したアルコキシシランが反応してシロキサンを副生し、収率が低下する場合があるため、塩基を用いて反応を行うことが好ましい。
【0036】
用いられる塩基化合物としては、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ピリジン等が挙げられる。塩基の使用量は、ハロゲン原子1molに対して好ましくは0.8〜2.0mol、更に好ましくは1.0〜1.3molである。
【0037】
また、塩基を用いる場合は、塩基塩酸塩が副生するため、溶媒を用いて行うことが好ましい。用いられる溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒を用いることが好ましい。
【0038】
反応温度は特に限定されないが、常圧又は加圧下で、好ましくは0〜150℃、更に好ましくは10〜100℃である。なお、反応時間は、通常好ましくは0.5〜100時間、更に好ましくは1〜20時間である。また、反応雰囲気としては、特に限定されないが、安全上、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが好ましい。更に、上記一般式(3)で示される化合物と溶媒と塩基とを含有する混合液中に、アルコールを添加して反応を行うことが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリメトキシシランの製造
1,000mlの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、2−ノルボルネン94.2g(1.0mol)をトルエン31.4gに溶解した溶液と、酢酸パラジウム22.5mg(0.0001mol)を仕込み、撹拌溶解した後にトリイソプロピルホスファイト104.2mg(0.0005mol)を添加した。内温を85〜95℃に温調しながら、3時間撹拌した後、トリクロロシラン81.3g(0.6mol)を6時間かけて滴下し、そのままの温度で2時間熟成した。得られた反応液に、メタノール42.2g(1.32mol)を、内温を55〜65℃に温調しながら、2時間かけて滴下し、1時間熟成した。更に、トルエン150mlとトリエチルアミン72.9g(0.72mol)を添加した後、メタノール21.1g(0.66mol)を1時間で滴下し、1時間熟成した。生成した塩酸塩をろ過により除いた後、減圧蒸留を行い、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリメトキシシランを沸点123〜124℃/0.4kPaの留分として128.9g(0.415mol)得た。収率は83.0%であった。
【0041】
得られた留分の質量スペクトル、
1H−NMRスペクトル、IRスペクトルを測定した。
質量スペクトル
m/z 310,278,215,183,121
1H−NMRスペクトル(重クロロホルム)
図1にスペクトルチャートを示す。
IRスペクトル
図2にチャートを示す。
以上の結果より、得られた化合物は[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリメトキシシランであることが確認された。
【0042】
[実施例2]
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリエトキシシランの製造
実施例1と同様にして、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシラン反応液を得た。得られた反応液に、エタノール60.7g(1.32mol)を、内温を55〜65℃に温調しながら、2時間かけて滴下し、1時間熟成した。更に、トルエン150mlとトリエチルアミン72.9g(0.72mol)を添加した後、エタノール30.4g(0.66mol)を1時間で滴下し、1時間熟成した。生成した塩酸塩をろ過により除いた後、減圧蒸留を行い、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリエトキシシランを沸点135〜126℃/0.4kPaの留分として140.2g(0.398mol)得た。収率は79.6%であった。
【0043】
得られた留分の質量スペクトル、
1H−NMRスペクトル、IRスペクトルを測定した。
質量スペクトル
m/z 352,324,306,257,163
1H−NMRスペクトル(重クロロホルム)
図3にスペクトルチャートを示す。
IRスペクトル
図4にチャートを示す。
以上の結果より、得られた化合物は[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリエトキシシランであることが確認された。
【0044】
[実施例3]
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジクロロシランの製造
300mlの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、2−ノルボルネン94.2g(1.0mol)をトルエン31.4gに溶解した溶液と酢酸パラジウム22.5mg(0.0001mol)を仕込み、撹拌溶解した後にトリイソプロピルホスファイト104.2mg(0.0005mol)を添加した。内温を85〜95℃に温調しながら3時間撹拌した後、メチルジクロロシラン57.5g(0.5mol)を、途中酢酸パラジウム11.2mgを2回追加しながら12時間かけて滴下した後、そのままの温度で10時間熟成した。
得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、目的の[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジクロロシランと2−メチルジクロロシリルノルボルナンとのガスクロマトグラフィーの面積から求められる生成比は75.5:24.5であった。また、得られた反応液を減圧蒸留して[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジクロロシランを沸点144〜145℃/0.5kPaの留分として80.3g(0.265mol)得た。収率は53.0%であった。
【0045】
得られた留分の質量スペクトル、
1H−NMRスペクトル、IRスペクトルを測定した。
質量スペクトル
m/z 302,277,261,207,189,113,95,87
1H−NMRスペクトル(重クロロホルム)
図5にスペクトルチャートを示す。
IRスペクトル
図6にチャートを示す。
以上の結果より、得られた化合物は[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジクロロシランであることが確認された。
【0046】
[実施例4]
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジメトキシシランの製造
500mlの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、2−ノルボルネン94.2g(1.0mol)をトルエン31.4gに溶解した溶液と酢酸パラジウム22.5mg(0.0001mol)を仕込み、撹拌溶解した後にトリイソプロピルホスファイト104.2mg(0.0005mol)を添加した。内温を85〜95℃に温調しながら3時間撹拌した後、メチルジクロロシラン57.5g(0.5mol)を、途中酢酸パラジウム11.2mgを2回追加しながら12時間かけて滴下した後、そのままの温度で10時間熟成した。得られた反応液に、メタノール17.6g(0.55mol)を、内温を55〜65℃に温調しながら、1時間かけて滴下し、1時間熟成した。更に、トルエン150mlとトリエチルアミン72.9g(0.72mol)を添加した後、メタノール17.6g(0.55mol)を1時間で滴下し、1時間熟成した。生成した塩酸塩をろ過により除いた後、減圧蒸留を行い、[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジメトキシシランを沸点118〜119℃/0.3kPaの留分として69.9g(0.237mol)得た。収率は47.5%であった。
【0047】
得られた留分の質量スペクトル、
1H−NMRスペクトル、IRスペクトルを測定した。
質量スペクトル
m/z 294,279,262,188,105
1H−NMRスペクトル(重クロロホルム)
図7にスペクトルチャートを示す。
IRスペクトル
図8にチャートを示す。
以上の結果より、得られた化合物は[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]メチルジメトキシシランであることが確認された。
【0048】
[実施例5]
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシランの製造
200mlの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、2−ノルボルネン47.1g(0.5mol)をトルエン15.7gに溶解した溶液と酢酸パラジウム11.2mg(0.00005mol)を仕込み、撹拌溶解した後にトリイソプロピルホスファイト20.8mg(0.0001mol)を添加した。内温を85℃まで昇温後直ちに、トリクロロシランの滴下を開始し、内温を85〜95℃に温調しながらトリクロロシラン67.8g(0.5mol)を4時間かけて滴下した後、そのままの温度で1時間熟成した。
得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、目的の[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシランと2−トリクロロシリルノルボルナンのガスクロマトグラフィーの面積から求められる生成比は80.3:19.7であった。
【0049】
[実施例6]
[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシランの製造
300mlの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、2−ノルボルネン94.2g(1.0mol)をトルエン31.4gに溶解した溶液と、酢酸パラジウム22.5mg(0.0001mol)を仕込み、撹拌溶解した後にトリイソプロピルホスファイト104.2mg(0.0005mol)を添加した。内温を85〜95℃に温調しながら、3時間撹拌した後、トリクロロシラン81.3g(0.6mol)を6時間かけて滴下し、そのままの温度で2時間熟成した。
得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、目的の[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシランと2−トリクロロシリルノルボルナンとのガスクロマトグラフィーの面積から求められる生成比は96.8:3.2であった。また、得られた反応液を減圧蒸留して[3−(2−ノルボルニル)−2−ノルボルニル]トリクロロシランを沸点124−126℃/0.4kPaの留分として146.5g(0.453mol)得た。収率は90.5%であった。