(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガラス板の少なくとも一方の面に、前記マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜が、その最外層に形成されている、請求項1に記載の低反射膜付きガラス板。
走査型プローブ顕微鏡装置によって測定した前記低反射膜の表面の算術平均粗さ(Ra)が、3.0〜5.0nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低反射膜付きガラス板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、反射率が充分に低く、かつ油脂汚れの除去性が良好である単層の低反射膜をガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板、前記低反射膜付きガラス板を製造できる製造方法、および前記低反射膜付きガラス板を有する表示装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の低反射膜付きガラス板は、マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜を、ガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板であって、前記マトリックスが、シリカを主成分とし、前記
マトリックスが、
含フッ素
エーテル化合物に由来する構造を有し、波長300〜1,200nmの範囲内における前記低反射膜の最低反射率が、1.7%以下であり、前記低反射膜の表面における水接触角が、97°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸接触角が、50°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸転落角が、25°以下であることを特徴とする。
上記した数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下本明細書において「〜」は、同様の意味をもって使用される。
本発明の低反射膜付きガラス板において、単層の低反射膜とは、低反射機能を付与する均質な、あるいは実質的に均質な、あるいは不均質な1層構成をなす膜を意味する。また、本発明の低反射膜付きガラス板とは、ガラス板の少なくとも一方の表面の最外層に前記低反射膜が形成されたガラス板を意味する。従って、前記低反射膜付きガラス板の低反射膜が形成されていない反対側のガラス面に、あるいは最外層に形成された低反射膜の下層に、導電膜、近赤外線カット膜、電磁波防止膜、色調調整膜、接着性改善膜、耐久性向上膜、帯電防止膜、その他各種の所望の機能膜を1層ないし複層層形成してもよい。
【0010】
前記ガラス板の少なくとも一方の面に、前記マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜が、その最外層に形成されていることが好ましい。
X線光電子分光法によって測定した前記低反射膜の表面におけるフッ素元素の割合は、3〜20原子%であることが好ましい。
走査型プローブ顕微鏡装置によって測定した前記低反射膜の表面の算術平均粗さ(Ra)は、3.0〜5.0nmであることが好ましい。
前記低反射膜の屈折率は、1.30〜1.46であることが好ましい。
【0011】
前記低反射膜の厚さは、80〜100nmであることが好ましい。
前記ガラス板と前記低反射膜との間に、前記低反射膜以外の層が形成されていることが好ましい。
前記低反射膜は、金属化合物をさらに含有することが好ましい。
前記マトリックスが
、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を主鎖に有し、かつ前記主鎖の少なくとも一方の末端に加水分解性シリル基を有する、含フッ素エーテル化合物に由来する構造を有することが好ましい。
【0012】
前記含フッ素エーテル化合物が、下式(A)で表される化合物(A)であることが好ましい。
R
F1O(CF
2CF
2O)
aCF
2−(Q)
b(−(CH
2)
d−SiL
pR
3−p)
c ・・・(A)。
ただし、R
F1は、炭素数1〜20の1価のペルフルオロ飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20の1価のペルフルオロ飽和炭化水素基であり、かつ−OCF
2O−構造を含まない基であり、
aは、1〜200の整数であり、
bは、0または1であり、
Qは、bが0である場合には存在せず、bが1である場合には2または3価の連結基であり、
cは、Qが存在しない、またはQが2価の連結基である場合には1であり、Qが3価の連結基である場合には2であり、
dは、2〜6の整数であり、
Lは、加水分解性基であり、
Rは、水素原子または1価の炭化水素基であり、
pは、1〜3の整数である。
前記中空微粒子は、中空シリカ微粒子であることが好ましい。
【0013】
本発明の低反射膜付きガラス板の製造方法は、マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜をガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板を製造する方法であって、マトリックス前駆体と中空微粒子と溶媒とを含む塗布液を、ガラス板の表面に塗布し、焼成する工程を有し、マトリックス前駆体が、シリカ前駆体と、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を主鎖に有し、かつ前記主鎖の少なくとも一方の末端に加水分解性シリル基を有する、含フッ素エーテル化合物および/またはその加水分解縮合物とを含み、塗布液中における中空微粒子とシリカ前駆体(SiO
2換算)との質量比(中空微粒子/SiO
2)が、6/4〜4/6であり、塗布液中における含フッ素エーテル化合物の割合が、中空微粒子とシリカ前駆体(SiO
2換算)との合計(100質量%)に対して、0.8〜3.0質量%であることを特徴とする。
なお、上記した「含フッ素エーテル化合物および/またはその加水分解縮合物」とは、本明細書において、含フッ素エーテル化合物および含フッ素エーテル化合物の加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0014】
前記含フッ素エーテル化合物が、下式(A)で表される化合物(A)であることが好ましい。
【0015】
R
F1O(CF
2CF
2O)
aCF
2−(Q)
b(−(CH
2)
d−SiL
pR
3−p)
c ・・・(A)。
R
F1、a、b、Q、c、d、L、Rおよびpは前記と同じ意味を有する。
【0016】
前記シリカ前駆体は、アルコキシシランの加水分解縮合物であることが好ましい。
本発明の低反射膜付きガラス板の製造方法における塗布液の調整の工程においては、アルコキシシランを加水分解した後、化合物(A)を加え、ついで中空微粒子の分散液を加えて塗布液とすることが好ましい。
前記中空微粒子は、中空シリカ微粒子であることが好ましい。
【0017】
また本発明は、筐体、表示部材、および前記表示部材の表示面に配置された低反射膜付きガラス板を含む表示装置であって、前記低反射膜付きガラス板は、マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜を、ガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板であり、波長300〜1,200nmの範囲内における前記低反射膜の最低反射率が、1.7%以下であり、前記低反射膜の表面における水接触角が、97°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸接触角が、50°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸転落角が、25°以下である、低反射膜付きガラス板であることを特徴とする表示装置を提供する。
【0018】
また本発明は、マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜を、ガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板であって、波長300〜1,200nmの範囲内における前記低反射膜の最低反射率が、1.7%以下であり、前記低反射膜の表面における水接触角が、97°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸接触角が、50°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸転落角が、25°以下である、表示装置用低反射膜付きガラス板を提供する。
【0019】
すなわち本発明の表示装置は、筐体、表示部材、および前記表示部材の表示面に配置された前記低反射膜付きガラス板を含むことを特徴とする。
また本発明は表示装置用である前記低反射膜付きガラス板を提供する。
前記した表示装置の低反射膜付きガラス板、および表示用の低反射膜付きガラス板において、前記低反射膜は、表示装置の外側、すなわち、視認者側、あるいは操作者側の最外面に形成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の低反射膜付きガラス板は、反射率が充分に低く、かつ油脂汚れの除去性が良好である単層の低反射膜をガラス板の表面に有する。
【0021】
本発明の低反射膜付きガラス板の製造方法によれば、反射率が充分に低く、かつ油脂汚れの除去性が良好である単層の低反射膜をガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板を製造できる。
【0022】
本発明の表示装置は、反射率が充分に低く、かつ油脂汚れの除去性が良好である単層の低反射膜を有するガラス板を、カバーガラスとして有する表示装置である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の低反射膜付きガラス板、および本発明の表示装置用低反射膜付きガラス板(以下、単に低反射膜付きガラス板ともいう。)の一例を示す断面図である。低反射膜付きガラス板10は、ガラス板12と、ガラス板12の表面に形成された低反射膜14とを有する。
【0025】
図3は、本発明の表示装置100の一例を示す断面図である。表示装置100は、表示装置用低反射膜付きガラス板10(以下、単に低反射膜付きガラス板10ともいう。)と、表示部材20と、筐体30とを含む。低反射膜付きガラス板10は、ガラス板12と、ガラス板の表面に形成された低反射膜14とを有する。そして、低反射膜14は、ガラス板の表示部材と対向する面と反対側の面に形成されている。
図1、3において、低反射膜付きガラス板10の低反射膜14の上面側が、表示装置の外側、すなわち、視認者側、あるいは操作者側となる。
【0026】
本発明の表示装置には、携帯電話、または携帯情報端末等の小型ディスプレイ、各種テレビ等の大型ディスプレイ、またはタッチパネル等、種々の表示装置が含まれる。特に、携帯電話、携帯情報端末、またはタッチパネル等は、表示装置の表示面に直接人の手が触れる機会が多いため、指紋除去性に優れる低反射膜付きガラス板を有する本発明の表示装置の好ましい具体例として挙げられる。
【0027】
表示部材としては、液晶表示部材、プラズマ表示部材、または有機EL表示部材等が挙げられる。
【0028】
筐体は、表示部材20および低反射膜付きガラス板10を収納する箱状の部材であり、材質は樹脂、または金属等が挙げられる。
【0029】
(ガラス板)
ガラス板12としては、たとえば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、または無アルカリガラス等が挙げられる。また、フロート法等により成形された平滑なガラス板であってもよく、表面に凹凸を有する型板ガラスであってもよい。また、ガラス板12の屈折率は、低反射膜と屈折率との関係から、1.45〜1.60であるのが好ましい。
【0030】
ガラス板12の表面には、アルカリバリア層、プライマー層等の低反射膜14以外の層があらかじめ形成されていてもよい。
【0031】
(低反射膜)
低反射膜14は、たとえば、後述する低反射膜形成用の塗布液を1回塗布することによって形成される、マトリックスと中空微粒子とを含む単層の膜である。しかし、低反射膜14は、低反射膜形成用の塗布液を複数回重ねて塗布することによって膜が形成されても構わず、当該膜が低反射膜として機能する単層構成あるいは実質的に単層構成とみなすことができるものであれば良い。
【0032】
マトリックスとしては、比較的屈折率が低く、低反射率が得られ、化学的安定性に優れ、ガラス板12との密着性に優れる点から、シリカを主成分とし、更に少量の含フッ素エーテル化合物に由来する構造を有する成分を有するものが好ましい。マトリックス中の含フッ素エーテル化合物に由来する構造を有する成分以外は、実質的にシリカからなるものがより好ましい。シリカを主成分とするとは、シリカの割合がマトリックス(100質量%)のうち90質量%以上であることを意味し、実質的にシリカからなるとは、後述する化合物(A)に由来する構造および不可避不純物を除いてシリカのみから構成されていることを意味する。
【0033】
また、マトリックスは、油脂汚れの除去性に優れる点から、後述する、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を主鎖に有し、かつ前記主鎖の少なくとも一方の末端に加水分解性シリル基を有する、含フッ素エーテル化合物に由来する構造を有することが好ましい。
【0034】
マトリックスとしては、下記するマトリックス前駆体(a)、(b)および(c)の群から選ばれる少なくとも1種のマトリックス前駆体の焼成物等が挙げられ、油脂汚れの除去性に優れる点から、マトリックス前駆体(a)の焼成物がより好ましい。
【0035】
(a)後述するシリカ前駆体と、後述するフッ素エーテル化合物とを含むマトリックス前駆体。
(b)後述するシリカ前駆体と、後述するフッ素エーテル化合物と、フッ素エーテル化合物同士の加水分解縮合物とを含むマトリックス前駆体。
(c)後述するシリカ前駆体と、後述するフッ素エーテル化合物同士の加水分解縮合物と、シリカ前駆体(アルコキシシラン)とフッ素エーテル化合物との加水分解縮合物とを含むマトリックス前駆体。
【0036】
中空微粒子のシェルの材料としては、Al
2O
3、SiO
2、SnO
2、TiO
2、ZrO
2、ZnO、CeO
2、Sb含有SnO
X(ATO)、Sn含有In
2O
3(ITO)、RuO
2等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、中空微粒子の形状としては、球状、楕円状、針状、板状、棒状、円すい状、円柱状、立方体状、長方体状、ダイヤモンド状、星状、不定形状等が挙げられる。
【0037】
また、中空微粒子は、各微粒子が独立した状態で存在していてもよく、各微粒子が鎖状に連結していてもよく、各微粒子が凝集していてもよい。
中空微粒子としては、低反射膜14の屈折率が低く、低反射率が得られ、化学的安定性に優れ、ガラス板12との密着性に優れる点から、中空シリカ微粒子が好ましい。
【0038】
中空シリカ微粒子の平均一次粒子径は、5〜150nmが好ましく、50〜100nmがより好ましい。中空シリカ微粒子の平均一次粒子径が5nm以上であれば、低反射膜14の反射率が充分に低くなる。中空シリカ微粒子の平均一次粒子径が150nm以下であれば、低反射膜14のヘイズが低く抑えられる。
【0039】
平均一次粒子径は、電子顕微鏡写真から100個の微粒子を無作為に選び出し、各微粒子の粒子径を測定し、100個の微粒子の粒子径を平均して求める。
【0040】
波長300〜1,200nmの範囲内における低反射膜14の最低反射率は、1.7%以下であり、0.2〜1.7%が好ましく、0.8〜1.1%がより好ましく、0.9〜1.0%がさらに好ましい。低反射膜14の最低反射率が1.7%以下であれば、低反射膜付きガラス板10が、各種ディスプレイ、自動車用窓ガラス、またはタッチパネル等に要求される低い反射率を充分に満足する。低反射膜14の最低反射率が1.7%より大きいと、低反射特性として不十分な場合がある。
【0041】
低反射膜14の表面における水接触角は、97°以上であり、95°〜121°が好ましく、97°〜109°がより好ましく、97°〜99°がさらに好ましい。
【0042】
低反射膜14の表面におけるオレイン酸接触角は、50°以上であり、50°〜90°が好ましく、52°〜87°がより好ましく、55°〜85°が特に好ましい。
【0043】
低反射膜14の表面におけるオレイン酸転落角は、25°以下であり、5°〜25°が好ましく、5°〜20°がより好ましく、6°〜10°がより好ましい。
【0044】
低反射膜14の表面における水接触角、オレイン酸接触角およびオレイン酸転落角が、同時に前記範囲を満足すれば、低反射膜14の表面における油脂汚れの除去性が良好となる。
【0045】
X線光電子分光法によって測定した低反射膜14の表面におけるフッ素元素の割合は、3〜20原子%が好ましく、5〜18原子%がより好ましく、5〜16原子%がさらに好ましい。低反射膜14の表面におけるフッ素元素の割合は、後述する化合物(A)等の含フッ素化合物に由来する構造が、低反射膜14の表面およびその近傍にどの程度存在するかを示す。低反射膜14の表面におけるフッ素元素の割合が3原子%以上であれば、油脂汚れの除去性がさらに向上する。低反射膜14の表面におけるフッ素元素の割合が20原子%以下であれば、膜の光学設計に影響がなく、低反射性が維持され好ましい。なお、X線光電子分光法においては、X線の照射により試料表面から脱出される光電子を観察する手法であるため、分析結果は、観察可能な光電子の脱出深さ、より具体的には低反射膜の空気側の最表面から概ね数nm〜数10nmの深さの最表面層の分析情報である。
【0046】
走査型プローブ顕微鏡装置によって測定した低反射膜14の表面の算術平均粗さ(Ra)は、3.0〜5.0nmが好ましく、3.0〜4.5nmがより好ましく、3.0〜4.0nmがさらに好ましい。低反射膜14の表面の算術平均粗さ(Ra)が3.0nm以上であれば、非常に微細な凹凸が形成されていることを示しており、撥水撥油性が向上しやすい。低反射膜14の表面の算術平均粗さ(Ra)が5.0nm以下であれば、油脂汚れの除去性がさらに向上する。
【0047】
低反射膜14の屈折率は、1.20〜1.46が好ましく、1.20〜1.40がより好ましく、1.20〜1.35がさらに好ましい。低反射膜14の屈折率が1.20以上であれば、低反射膜14の空隙率が高くなりすぎず、耐久性が向上する。低反射膜14の屈折率が1.46以下であれば、低反射膜14の反射率が充分に低くなる。
【0048】
低反射膜14の屈折率nは、単層の低反射膜14をガラス板12の表面に形成し、前記単層の低反射膜14について分光光度計で測定した波長300〜1,200nmの範囲内における最低反射率(いわゆるボトム反射率)Rminと、ガラス板12の屈折率nsとから下式(1)によって算出する。
【0049】
Rmin=(n−ns)
2/(n+ns)
2 ・・・(1)。
【0050】
低反射膜14の厚さは、80〜100nmが好ましく、85〜95nmがより好ましい。低反射膜14の厚さが80nm以上であれば、低反射膜14の耐久性が発現する。低反射膜14の厚さが100nm以下であれば、用いる膜の屈折率によるが、単層膜として低反射性が発現するため好ましい。
【0051】
低反射膜14の厚さは、低反射膜14の断面を走査型電子顕微鏡にて観察して得られる像から測定される。
【0052】
(低反射膜付きガラス板の製造方法)
本発明の低反射膜付きガラス板10は、たとえば、低反射膜14を形成するための塗布液を、ガラス板12の表面に塗布し、所望により予熱し、最後に焼成することによって製造できる。
【0053】
塗布液は、マトリックス前駆体と、中空微粒子と、溶媒とを含むものである。
塗布液は、レベリング性向上のための界面活性剤、または低反射膜14の耐久性向上のための金属化合物等を含んでいてもよい。
【0054】
マトリックス前駆体は、シリカ前駆体と、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を主鎖に有し、かつ前記主鎖の少なくとも一方の末端に加水分解性シリル基を有する、含フッ素エーテル化合物および/またはその加水分解縮合物とを含む。
【0055】
前記含フッ素エーテル化合物の加水分解縮合物は、含フッ素エーテル化合物同士の加水分解縮合物であってもよく、シリカ前駆体であるアルコキシシランと含フッ素エーテル化合物との加水分解縮合物であってもよい。
【0056】
マトリックス前駆体としては、具体的には下記のマトリックス前駆体(a)、(b)および(c)の群から選ばれる少なくとも1種のマトリックス前駆体が挙げられ、低反射膜14の油脂汚れの除去性に優れる点から、マトリックス前駆体(a)がより好ましい。
【0057】
(a)シリカ前駆体と、含フッ素エーテル化合物とを含むマトリックス前駆体。
(b)シリカ前駆体と、含フッ素エーテル化合物と、化合物(A)の加水分解縮合物とを含むマトリックス前駆体。
(c)シリカ前駆体と、含フッ素エーテル化合物同士の加水分解縮合物と、シリカ前駆体(アルコキシシラン)と含フッ素エーテル化合物との加水分解縮合物とを含むマトリックス前駆体。
【0058】
シリカ前駆体としては、アルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解縮合物(ゾルゲルシリカ)、またはシラザン等が挙げられ、低反射膜14の各特性の点から、アルコキシシランの加水分解縮合物が好ましい。
【0059】
アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、またはテトラブトキシシラン等)、ペルフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン(ペルフルオロポリエーテルトリエトキシシラン等)、ペルフルオロアルキル基を有するアルコキシシラン(ペルフルオロエチルトリエトキシシラン等)、ビニル基を有するアルコキシシラン(ビニルトリメトキシシラン、またはビニルトリエトキシシラン等)、エポキシ基を有するアルコキシシラン(2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、または3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等)、またはアクリロイルオキシ基を有するアルコキシシラン(3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等)等が挙げられる。
【0060】
アルコキシシランの加水分解は、テトラアルコキシシランの場合、アルコキシシランの4倍モル以上の水、および触媒として酸またはアルカリを用いて行う。酸としては、無機酸(たとえば、硝酸、硫酸、または塩酸等)、または有機酸(たとえば、ギ酸、シュウ酸、モノクロル酢酸、ジクロル酢酸、またはトリクロル酢酸等)が挙げられる。アルカリとしては、アンモニア、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム等が挙げられる。触媒としては、アルコキシシランの加水分解縮合物の長期保存性の点から、酸が好ましい。アルコキシシランの加水分解に用いる触媒としては、中空微粒子の分散を妨げないものが好ましい。
【0061】
含フッ素エーテル化合物は、主鎖の一方の末端に加水分解性シリル基を有していてもよく、主鎖の両方の末端に加水分解性シリル基を有していてもよい。低反射層に耐摩擦性を充分に付与する点からは、主鎖の一方の末端のみに加水分解性シリル基を有することが好ましい。
前記低反射層とは、膜の最表面に形成されている層であり、指紋や汚れが直接接触する膜の最表面部分である。
含フッ素エーテル化合物は、単一化合物であってもよく、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖、末端基、または連結基等が異なる2種類以上の混合物であってもよい。
【0062】
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、500〜10,000が好ましく、800〜8,000がより好ましい。数平均分子量が前記範囲内であれば、耐摩擦性に優れる。マトリックス前駆体を構成する他の成分との相溶性の点からは、前記化合物の数平均分子量は、800〜2,000が特に好ましい。
通常、含フッ素エーテル化合物においては、数平均分子量が小さいほど、基材との化学結合が強固となると考えられる。この理由は、単位分子量当たりに存在する加水分解性シリル基の数が多くなるためと考えられる。しかしながら、数平均分子量が前記範囲の下限値未満であると、耐摩擦性が低下しやすいことを、本発明者等は確認した。また、数平均分子量が前記範囲の上限値を超えると、耐摩擦性が低下する。この理由は、単位分子量当たりに存在する加水分解性シリル基の数の減少による影響が大きくなるためであると考えられる。
【0063】
含フッ素エーテル化合物は、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有するため、フッ素原子の含有量が多い。そのため、含フッ素エーテル化合物は、初期の撥水撥油性が高く、耐摩擦性、または指紋汚れ除去性に優れる低反射層を形成できる。
【0064】
含フッ素エーテル化合物中の加水分解性シリル基(−SiL
mR
3−m)が加水分解反応することによってシラノール基(Si−OH)が形成され、前記シラノール基は分子間で反応してSi−O−Si結合が形成され、または前記シラノール基が基材の表面の水酸基(基材−OH)と脱水縮合反応して化学結合(基材−O−Si)が形成される。すなわち、本発明における低反射層は、本化合物を、本化合物の加水分解性シリル基の一部または全部が加水分解反応した状態で含む。
【0065】
含フッ素エーテル化合物としては、たとえば、化合物(A)が挙げられる。
化合物(A)は、下式(A)で表される化合物である。
【0066】
R
F1O(CF
2CF
2O)
aCF
2−(Q)
b(−(CH
2)
d−SiL
pR
3−p)
c ・・・(A)。
【0067】
R
F1は、炭素数1〜20の1価のペルフルオロ飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20の1価のペルフルオロ飽和炭化水素基であり、かつ−OCF
2O−構造を含まない基である。
【0068】
aは1〜200の整数であり、2〜100の整数が好ましく、3〜50の整数がより好ましく、5〜25の整数がさらに好ましい。
bは、0または1であり、1が好ましい。
Qは、bが0である場合には存在せず、bが1である場合には2または3価の連結基である。
cは、Qが存在しない、またはQが2価の連結基である場合には1であり、Qが3価の連結基である場合には2である。
dは、2〜6の整数である。
Rは、水素原子または1価の炭化水素基である。
【0069】
Lは、加水分解性基である。加水分解性基とは、Si−L基の加水分解によって、Si−OH基を形成し得るような基である。
【0070】
Lとしては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、またはハロゲン原子等が挙げられ、化合物(A)の安定性と加水分解のしやすさとのバランスの点から、アルコキシ基、イソシアネート基およびハロゲン原子(特に塩素原子)が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。含フッ素化合物中にLが2以上存在する場合には、Lが同じ基でも異なる基でもよく、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
【0071】
pは、1〜3の整数である。pが1以上であれば、Si−OH基同士の縮合によって化合物(A)に由来する構造がマトリックスに強固に結合できる。pは、2または3が好ましく、3が特に好ましい。
【0072】
化合物(A)としては、油脂汚れの除去性や化合物(A)の合成のしやすさの点から、下記の化合物(A−1)または化合物(A−2)が好ましい。
【0073】
CF
3O(CF
2CF
2O)
a1CF
2C(O)NH−(CH
2)
3−Si(OCH
3)
3 ・・・(A−1)。
【0074】
CF
3O(CF
2CF
2O)
a2CF
2CH
2O(CH
2)
3Si(OCH
3)
3 ・・・(A−2)。
【0075】
ただし、a1、およびa2は、5〜25の整数である。
【0076】
化合物(A)は、−OCF
2O−構造が存在しないことから、酸触媒の存在下、かつ高温条件下におかれたとしても、劣化耐性に優れた低反射膜14を形成できる。
【0077】
また、化合物(A)の(CF
2CF
2O)
a構造は、分子の運動性を低下させるCF
3基が存在しないアルキレンオキシ構造である。よって、化合物(A)自体の分子の運動性が高くなり、化合物(A)を含むマトリックス前駆体から形成された低反射膜14は、油脂汚れの除去性に優れた膜となる。
【0078】
塗布液中における中空微粒子とシリカ前駆体(SiO
2換算)との質量比(中空微粒子/SiO
2)は、6/4〜4/6が好ましい。中空微粒子の割合が6/4より少なければ、低反射膜14の表面の算術平均粗さ(Ra)が小さくなり、低反射膜14の油脂汚れの除去性が向上する。中空微粒子の割合が4/6より多ければ、低反射膜14の屈折率が低くなり、低反射膜14の反射率が充分に低くなる。
【0079】
塗布液中における含フッ素エーテル化合物の割合は、中空微粒子とシリカ前駆体(SiO
2換算)との合計(100質量%)に対して、0.8〜3.0質量%が好ましく、1.0〜1.8質量%がより好ましい。含フッ素エーテル化合物の割合が0.8質量%以上であれば、油脂汚れの除去性がさらに向上する。含フッ素エーテル化合物の割合が2.0質量%以下であれば、含フッ素エーテル化合物の膜表面の局部的偏在に起因するヘイズの上昇等が生じず好ましい。
【0080】
溶媒としては、マトリックス前駆体の溶液の溶媒、中空微粒子の分散液の分散媒が挙げられる。
【0081】
アルコキシシランの加水分解縮合物の溶液の溶媒としては、水とアルコール類(たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、またはジアセトンアルコール等)との混合溶媒が好ましい。
【0082】
含フッ素エーテル化合物の溶液の溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、フッ素系有機溶媒であってもよく、非フッ素系有機溶媒であってもよく、両溶媒を含んでもよい。前記溶媒としては、たとえば、メタノール、またはエタノール等が挙げられる。
【0083】
中空微粒子の分散液の分散媒としては、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、または含硫黄化合物等が挙げられる。
【0084】
塗布液の調製方法としては、下記する方法(α)から(γ)の方法が挙げられ、ガラス板12の表面に塗布液を塗布した際に含フッ素エーテル化合物が塗膜の表面に浮き上がり、焼成後に含フッ素エーテル化合物に由来する構造が低反射膜14の表面に偏在し、優れた油脂汚れの除去性が発揮される点から、方法(β)が好ましい。また、中空微粒子の分散液は、中空微粒子の凝集を抑制する点から、マトリックス前駆体の溶液を希釈した後に加えることが好ましい。
【0085】
(α)溶液中のアルコキシシランおよび含フッ素エーテル化合物を加水分解した後、所望により溶媒で希釈し、ついで中空微粒子の分散液を加える方法。
【0086】
(β)溶液中のアルコキシシランを加水分解した後(好ましくは加水分解から2時間以上経過した後)、含フッ素エーテル化合物の溶液を加え、所望により溶媒で希釈し、ついで中空微粒子の分散液を加える方法。
【0087】
(γ)溶液中のアルコキシシランを加水分解した後、溶媒で希釈し、ついで含フッ素エーテル化合物の溶液を加え、ついで中空微粒子の分散液を加える方法。
【0088】
塗布方法としては、公知のウェットコート法(たとえば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フローコート法、グラビアコート法、バーコート法、フレキソコート法、スリットコート法、またはロールコート法等)等が挙げられる。
【0089】
塗布温度は、室温〜200℃が好ましく、室温〜150℃がより好ましい。
焼成温度は、30℃以上が好ましく、100〜180℃がより好ましく、ガラス板、微粒子またはマトリックスの材料に応じて適宜決定すればよい。
焼成時間は、3分以上が好ましく、10分〜60分がより好ましく、ガラス板、微粒子またはマトリックスの材料に応じて適宜決定すればよい。
【0090】
本発明の低反射膜付きガラス板は、マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜を、ガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板であって、前記マトリックスが前記含フッ素エーテル化合物に由来する構造を有し、かつ前記中空微粒子が前記中空シリカ微粒子であることが好ましく、前記含フッ素エーテル化合物が下式(A)で表される化合物(A)であることがより好ましい。
本発明の低反射膜付きガラス板は、マトリックス前駆体と、中空微粒子と、溶媒とを含む塗布液を、ガラス板の表面に塗布することによって製造される。
すなわち、本発明の低反射膜付きガラス板は、表面に低反射膜を有し、前記低反射膜は、マトリックス前駆体と、中空微粒子とを含む。前記低反射膜は、シリカ前駆体と、含フッ素エーテル化合物および/またはその加水分解縮合物と、を含むマトリックス前駆体と、中空シリカ微粒子と、溶媒とを含む塗布液により形成することが好ましく、かかる塗布液は、アルコキシシランと下式(A)で表される化合物(A)との加水分解縮合物とを含むマトリックス前駆体と、中空シリカ微粒子と、溶媒とを含むことがより好ましく、テトラエトキシシランと下式(A)で表される化合物(A)との加水分解縮合物とを含むマトリックス前駆体と、中空シリカ微粒子と、溶媒とを含むことがさらに好ましい。
【0091】
R
F1O(CF
2CF
2O)
aCF
2−(Q)
b(−(CH
2)
d−SiL
pR
3−p)
c ・・・(A)。
R
F1、a、b、Q、c、d、L、Rおよびpは前記と同じ意味を有する。
【0092】
(作用効果)
以上説明した本発明の低反射膜付きガラス板は、マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜を、ガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板であって、波長300〜1,200nmの範囲内における前記低反射膜の最低反射率が、1.7%以下であり、前記低反射膜の表面における水接触角が、97°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸接触角が、50°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸転落角が、25°以下であるため、低反射膜における反射率が充分に低く、かつ油脂汚れの除去性が良好である。
【0093】
以上説明した本発明の低反射膜付きガラス板の製造方法は、マトリックス前駆体と中空微粒子と溶媒とを含む塗布液を、ガラス板の表面に塗布し、焼成する工程を有し、マトリックス前駆体が、シリカ前駆体と、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を主鎖に有し、かつ前記主鎖の少なくとも一方の末端に加水分解性シリル基を有する、含フッ素エーテル化合物および/またはその加水分解縮合物を含み、塗布液中における中空微粒子とシリカ前駆体(SiO
2換算)との質量比(中空微粒子/SiO
2)が、6/4〜4/6であり、塗布液中における含フッ素エーテル化合物の割合が、中空微粒子とシリカ前駆体(SiO
2換算)との合計(100質量%)に対して、0.8〜3.0質量%であるため、低反射膜における反射率が充分に低く、かつ油脂汚れの除去性が良好である単層の低反射膜をガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板を製造できる。
【0094】
以上説明した本発明の表示装置は、マトリックスと中空微粒子とを含む単層の低反射膜を、ガラス板の表面に有する低反射膜付きガラス板を含む。そして前記低反射膜付きガラス板において、波長300〜1,200nmの範囲内における前記低反射膜の最低反射率が、1.7%以下であり、前記低反射膜の表面における水接触角が、97°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸接触角が、50°以上であり、前記低反射膜の表面におけるオレイン酸転落角が、25°以下であるため、低反射膜における反射率が充分に低く、かつ油脂汚れの除去性が良好である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
例15〜18、21〜23、26〜28、31〜34、37〜42、45〜50、53〜58、および61〜66は実施例であり、例1〜14、19、20、24、25、29、30、35、36、43、44、51、52、59、および60は比較例である。
【0096】
(視感反射率)
低反射膜の反射率は、分光光度計(日立製作所社製、型式:U−4100)を用いて測定した。視感反射率は、波長380〜780nmの反射率に重み関数を乗じて平均化した反射率である。
【0097】
(最低反射率)
波長300〜1,200nmにおける低反射膜の反射率を、分光光度計(日立製作所社製、型式:U−4100)を用いて測定し、反射率の最小値(最低反射率)を求めた。
【0098】
(ヘイズ)
低反射膜付きガラス板のヘイズは、ヘイズ測定装置(BYK−Gardner社製、ヘイズガードプラス)を用いて測定した。
【0099】
(水接触角)
低反射膜の表面に、約48μLの蒸留水を3箇所に置き、それぞれの水接触角を、接触角計(協和界面科学社製、FAMAS)を用いて測定し、3つの値の平均値を求めた。
【0100】
(オレイン酸接触角)
低反射膜の表面に、約48μLのオレイン酸を3箇所に置き、それぞれのオレイン酸接触角を、接触角計(協和界面科学社製、FACE SLIDING ANGLE METER)を用いて測定し、3つの値の平均値を求めた。
【0101】
(オレイン酸転落角)
低反射膜付きガラス板を水平に保持し、低反射膜の表面に48μLのオレイン酸を滴下した後、低反射膜付きガラス板を徐々に傾け、オレイン酸が転落し始めたときの低反射膜付きガラス板と水平面との角度(転落角)を測定した。測定結果として、「測定不能」とは、オレイン酸が基板上に広がり、低反射膜付きガラス板を傾けてもオレイン酸の移動等が観測されない状態を示す。
【0102】
(フッ素元素の割合)
例11、23、および35の3つの低反射膜付きガラス板について、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ社製、Quantera SXM)を用いて、低反射膜の表面におけるフッ素元素の割合を求めた。3点の測定結果から、塗布液中の化合物(A)の割合に対する低反射膜の表面におけるフッ素元素の割合の検量線を作成した。例11、23、および35を除く、その他の例の低反射膜付きガラス板については、検量線を用いて塗布液中の化合物(A)の割合から、低反射膜の表面におけるフッ素元素の割合を求めた。
【0103】
(算術平均粗さ)
低反射膜の表面の算術平均粗さ(Ra)は、走査型プローブ顕微鏡装置(SIIナノテクノロジー社製、SPA400DFM)を用いて測定した。
【0104】
(屈折率)
低反射膜の屈折率nは、単層の低反射膜について分光光度計で測定した波長300〜1,200nmの範囲内における最低反射率Rminと、ガラス板の屈折率nsとから下式(1)によって算出した。
【0105】
Rmin=(n−ns)
2/(n+ns)
2 ・・・(1)。
【0106】
(油脂汚れの付着性)
油性マーカー(ゼブラ社製、マッキー(登録商標))を用いて低反射膜の表面に直線を描き、下記の基準にて評価した。
A:線が全て水滴状となり、全く明確に書けない状態。
B:線が一部水滴状となるが、線としては認識される状態。
C:線を書くことができ、明確に線が認識される。
【0107】
(油脂汚れの除去性)
油脂汚れの付着性の評価をした後、低反射膜の表面の油性インクをキムワイプ(kimwipe)紙で拭き取り、下記の基準にて評価した。
A:3回擦るのみで完全に油性インクがとれる。
B:10回擦るとほぼとれるが微かに油性インク跡が残る。
C:30回擦ると若干油性インクの色が薄くなるが、ほとんど取れない。
D:100回擦ると若干油性インクの色が薄くなるが、ほとんど取れない。
E:100回擦っても、油性インクの色の変化が全くない。
【0108】
(ガラス板)
ガラス板として、ソーダライムガラス(旭硝子社製、サイズ:100mm×100mm、厚さ:3.2mm、屈折率:1.52、可視光線透過率:90.4%)を用意した。
【0109】
(化合物(A))
化合物(A)として、化合物(A−1)を用意した。
化合物(A−1)は、国際公開第2009/008380号の実施例1、および2に記載の方法を用いて製造したものである。
【0110】
(アルコキシシラン)
アルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと記す。)の溶液(純正化学社製、SiO
2換算固形分濃度:5質量%、イソプロピルアルコール:30質量%,2−ブタノール:25質量%、エタノール:8質量%、ジアセトンアルコール:15質量%、メタノール:17質量%)を用意した。
【0111】
(中空微粒子)
中空微粒子としては、下記のものを用意した。
中空シリカ微粒子(C−1)の分散液:旭硝子社製、中空粒子ゾル、SiO
2換算固形分濃度:20質量%、平均一次粒子径:10nm、水:40質量%、アルコール:40質量%。
中空シリカ微粒子(C−2)の分散液:日揮触媒化成社製、中空粒子ゾル、SiO
2換算固形分濃度:20質量%、平均一次粒子径:20nm、アルコール:80質量%。
【0112】
〔例1〕
TEOSの溶液の10gに、8mol/Lの硝酸水溶液の0.02gを加え、2時間撹拌し、TEOSの加水分解縮合物の溶液を得た。
【0113】
TEOSの加水分解縮合物の溶液に、化合物(A−1)の溶液の0.005gを加え、15分間撹拌した後、混合溶媒(イソプロピルアルコール:30質量%、2−ブタノール:25質量%、エタノール:8質量%、ジアセトンアルコール:15質量%、メタノール:17質量%)の12gを加え、120分間撹拌し、マトリックス前駆体の溶液を得た。
【0114】
マトリックス前駆体の溶液に、中空シリカ微粒子(C−1)の分散液の6gを加え、15分間撹拌し、塗布液を得た。塗布液の組成を表1に示す。
【0115】
ガラス板の表面に、塗布液をスピンコート(180rpm、60秒間)にて塗布した後、150℃で30分間焼成し、低反射膜付きガラス板を得た。低反射膜付きガラス板の評価結果を表2に示す。
【0116】
〔例2〕
スピンコートの回転数を180rpmから250rpmに変更した以外は、例1と同様にして低反射膜付きガラス板を得た。塗布液の組成を表1に示す。低反射膜付きガラス板の評価結果を表1に示す。
【0117】
〔例3〜12〕
塗布液の組成を表1に示す組成に変更した以外は、例1または例2と同様にして低反射膜付きガラス板を得た。前記低反射膜付きガラス板を評価した。結果を表2に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
〔例13〜23〕
化合物(A−1)の割合を表3に示す割合に変更した以外は、例1〜12と同様にして低反射膜付きガラス板を得た。前記低反射膜付きガラス板を評価した。結果を表4に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
〔例24〜34〕
化合物(A−1)の割合を表5に示す割合に変更した以外は、例1〜12と同様にして低反射膜付きガラス板を得た。前記低反射膜付きガラス板を評価した。結果を表6に示す。
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
〔例35〜42〕
塗布液の組成を表7に示す組成に変更し、化合物(A−1)の添加のタイミングをTEOSの加水分解前に変更した以外は、例1〜12と同様にして低反射膜付きガラス板を得た。前記低反射膜付きガラス板を評価した。結果を表8に示す。
【0127】
〔例43〜50〕
化合物(A−1)の添加のタイミングをTEOSの加水分解の1時間後に変更した以外は、例35〜42と同様にして低反射膜付きガラス板を得た。前記低反射膜付きガラス板を評価した。結果を表8に示す。
【0128】
【表7】
【0129】
【表8】
【0130】
〔例51〜58〕
化合物(A−1)の添加のタイミングをTEOSの加水分解の2時間後に変更した以外は、例35〜42と同様にして低反射膜付きガラス板を得た。前記低反射膜付きガラス板を評価した。結果を表10に示す。
【0131】
〔例59〜66〕
化合物(A−1)の添加のタイミングをTEOSの加水分解の2時間後かつ溶媒希釈後に変更した以外は、例35〜42と同様にして低反射膜付きガラス板を得た。前記低反射膜付きガラス板を評価した。結果を表10に示す。
【0132】
【表9】
【0133】
【表10】
【0134】
例37の低反射膜付きガラス板の断面の走査型電子顕微鏡写真を
図2に示す。
図2は、低反射膜付きガラスを集束イオンビームで切断したのちの膜断面方向の100,000倍の倍率のSEM像を示す。低反射膜は、膜厚が凡そ100nmであり、中空粒子とマトリックス成分(シリカとフッ素化合物)よりなる。膜中で空孔が確認される部分は中空粒子が切断され、中空粒子の内部の空孔が見えている箇所である。