特許第6020564号(P6020564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6020564-複合プレートおよびその製造方法 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020564
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】複合プレートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/04 20060101AFI20161020BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20161020BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C04B37/04
   C04B37/02 A
   B32B9/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-522434(P2014-522434)
(86)(22)【出願日】2013年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2013004006
(87)【国際公開番号】WO2014002498
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-144677(P2012-144677)
(32)【優先日】2012年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 勲
(72)【発明者】
【氏名】今井 紘平
(72)【発明者】
【氏名】山内 正一
(72)【発明者】
【氏名】津久間 孝次
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−113621(JP,A)
【文献】 特開昭50−39723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00 − 37/04
C04B 35/48
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア質焼結体、接着層、基材が積層してなる、厚み2mm以下の複合プレートであって、基材の弾性率が100GPa以下であり、且つ、複合プレートの見かけ密度が4.3g/cm以下である複合プレート。
【請求項2】
ジルコニア質焼結体、接着層、強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材が積層してなる、厚み2mm以下の複合プレートであって、ジルコニア質焼結体と上記基材との厚み比率(ジルコニア質焼結体厚み/上記基材厚み)が0.1〜1であり、且つ、複合プレートの見かけ密度が4.3g/cm以下である複合プレート。
【請求項3】
ジルコニア質焼結体が、2〜10mol%のイットリアを含有するジルコニアである請求項1又は2記載の複合プレート。
【請求項4】
ジルコニア質焼結体が、白色顔料、遷移金属酸化物、着色顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するジルコニアである請求項1乃至3のいずれかに記載の複合プレート。
【請求項5】
ジルコニア質焼結体の相対密度が97%以上である請求項1乃至4のいずれかに記載の複合プレート。
【請求項6】
ジルコニア質焼結体のビッカース硬度が1000以上である請求項1乃至5のいずれかに記載の複合プレート。
【請求項7】
基材が強化ガラスである請求項1乃至6のいずれかに記載の複合プレート。
【請求項8】
強化ガラスが、化学強化されたアルミノシリケートガラスである請求項7に記載の複合プレート。
【請求項9】
130gの鋼球を自由落下させる試験において、破壊高さが10cm以上である高耐衝撃性を示すことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の複合プレート。
【請求項10】
ジルコニア質焼結体と基材とを、エポキシ系熱硬化型接着剤を用いて300℃以下の温度で接合することを特徴とする、請求項1に記載の複合プレートの製造方法。
【請求項11】
ジルコニア質焼結体と強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材とを、エポキシ系熱硬化型接着剤を用いて300℃以下の温度で接合することを特徴とする、請求項2に記載の複合プレートの製造方法。
【請求項12】
ジルコニア質焼結体が、ジルコニア粉末と有機バインダーを混合したスラリーを厚さ0.1〜1mmのグリーンシートに成膜し、次いで1300〜1500℃で焼結したものである請求項10又は11記載の複合プレートの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合プレートを用いた携帯用電子機器の筐体。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合プレートを用いた時計部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦傷性、耐衝撃性を有するジルコニア質焼結体と特定の弾性率の基材との複合プレート又はジルコニア質焼結体と強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材との複合プレートおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等に代表される携帯用電子機器において耐擦傷性、耐衝撃性の優れた部材の需要が高まっている。特に携帯電子機器の外装部品は、厚み1〜2mm程度の薄板形状で且つ、落下等の衝突にも耐えなくてはならないため、とりわけ耐衝撃性の高い材質が要求されている。
【0003】
現在使用されている素材は、イオン交換によって強化された強化ガラスである。イオン交換によってガラス表面に数十μm程度の強化層を生成し、表面に圧縮応力を発生させ傷の進展を防いでいる。しかしながら強化ガラスの強化機構は、強化層に由来するため強化層を超える傷が入ると直ちに破壊してしまう。またガラスのビッカース硬度は600程度であり、金属、コンクリート等との接触により容易に傷が付き、使用に伴う加傷により強度が著しく低下することが問題であった。
【0004】
セラミックスは耐熱性、耐摩耗性、耐食性に優れていることから、産業部材用途に広く使用されている。とりわけジルコニア質焼結体は高強度、高靭性かつ高硬度で耐擦傷性を有しており、更に着色による意匠性の向上が容易であることから、時計部材などへの使用が進んでいる。また、携帯用電子機器等の外装部材への使用も検討されているが、特に携帯電子機器の外装部材の場合、衝撃性を向上するためには厚くする必要があるため、部材が重くなり実用的ではなかった。また軽量化のために薄くすると、落下、衝突等の衝撃に対する耐性が十分でなく、容易に割れて使用することが出来なかった。
【0005】
セラミックス部材の耐衝撃性の向上については、繊維強化プラスティックと接合し砲弾などの飛翔体の貫通を防ぐといった、いわゆる合わせガラスと類似した方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2等)。しかしながら、この手法は飛翔体の貫通を防ぐことを目的としたものであって、衝突によるセラミックスの割れを防ぐことは出来ない。
【0006】
特許文献3には、サファイヤと無機ガラスを接合した時計用カバーガラスが記述されているが、これは時計のカバーガラスの表面に高硬度のサファイヤを配置することで耐擦傷性を向上させることを目的としたものであり、この方法では携帯電子機器用途に要求される高い耐衝撃性は得られない。
【0007】
従って、これまでに厚さ数mm程度のジルコニア質焼結体板において落下、衝突等の衝撃に対する耐割れ性を向上させた耐衝撃部材およびその製造方法は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4869915号公報(特開2008−162164号公報)
【特許文献2】特開2009−264692号公報
【特許文献3】特開平6−242260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ジルコニア質焼結体において耐衝撃性を向上するためには、部材を厚くする必要があり携帯用電子機器として不向きであった。本発明は、耐衝撃性、特に衝撃による耐割れ性を向上させたジルコニア質焼結体と特定の弾性率の基材との複合プレート又はジルコニア質焼結体と強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材との複合プレートおよびその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を鑑み、本発明者等は、ジルコニア質焼結体薄板の鋼球落下における破壊現象を詳細に検討した。その結果、鋼球の落下衝撃によりセラミックス板がたわみ、曲げモーメントが発生し、インパクト面の裏側の面のインパクト点近傍より引っ張り破壊が生じていることを見出した。また材料の弾性率が小さいものほど、衝撃により大きく変形し、長い時間をかけて衝撃を吸収することで、インパクト面の裏面にかかる最大引っ張り応力の絶対値が減少することを見出した。
【0011】
本発明者等は、上記の知見を基に鋭意検討することで、ジルコニア質焼結体薄板(弾性率200GPa)の裏面に弾性率が半分以下(弾性率70GPa程度)の強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材を配置し、両者を強固に接着接合することで、衝撃変形能をジルコニア質焼結体薄板に付与し、最大引っ張り応力の低減を図ると共に、引っ張り応力が発生する裏面を上記基材とし、専ら圧縮応力が発生するインパクト面をジルコニア質焼結体薄板とする構造を実現し、ジルコニア質焼結体薄板の耐衝撃性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ジルコニア質焼結体、接着層、基材が積層してなる、厚み2mm以下の複合プレートであって、基材の弾性率が100GPa以下であり、且つ、複合プレートの見かけ密度が4.3g/cm以下である複合プレート(複合プレート1)及びジルコニア質焼結体、接合層、強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材との順で積層してなる、厚み2mm以下の複合プレートであって、ジルコニア質焼結体と上記基材との厚み比率(ジルコニア質焼結体厚み/上記基材厚み)が0.1〜1であり、且つ、複合プレートの見かけ密度を4.3g/cm以下である複合プレート(複合プレート2)並びにそれらの製造方法に関する。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の複合プレート1はジルコニア質焼結体、接着層、基材が積層してなる、厚み2mm以下の複合プレートであって、基材の弾性率が100GPa以下であり、且つ、複合プレートの見かけ密度が4.3g/cm以下である複合プレートである。
【0015】
ここで、基材としては、例えば強化ガラス、ベークライト、アルミニウム、マグネシウム等が挙げられる。該基材の弾性率は、基材の変形能を向上させ、最大引っ張り応力の低減を図ると共に、引っ張り応力が発生する裏面とすることが可能となることから100GPa以下であり、好ましくは3〜100GPa、特に好ましくは5〜70GPaである。
【0016】
本発明の複合プレート2は、ジルコニア質焼結体、接着層、強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材との順で積層してなり、その厚みが2mm以下である複合プレートである。本発明の複合プレートにおける、ジルコニア質焼結体の厚みと上記基材の厚みの比率(ジルコニア質焼結体厚み/上記基材厚み)は、0.1〜1である。ジルコニア質焼結体の厚みと上記基材の厚みの比率を0.1〜1とすることで、軽量かつ耐擦傷性に優れる耐衝撃性複合プレートとすることができる。ジルコニア質焼結体焼結体の厚みが増加して複合プレートの見かけ密度が増加することを抑制し、耐衝撃強度の低下を抑制できる点、及びジルコニア質焼結体の厚みが薄くなることによる耐擦傷性の低下を抑制できる点で、好ましくは0.1〜0.75、更に好ましくは0.1〜0.5である。
【0017】
本発明の複合プレート1,2の見かけ密度(ρ(複合プレート))は、ジルコニア質焼結体の真密度(ρ(ジルコニア質焼結体))と基材又は強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材の真密度(ρ(基材))から式(1)で与えられる。
【0018】
ρ(複合プレート)=ρ(ジルコニア質焼結体)×ジルコニア質焼結体体積分率+ρ(基材)×基材の体積分率
=ρ(ジルコニア質焼結体)×ジルコニア質焼結体厚み分率+ρ(基材)×基材厚み分率 (1)
ここで強化ガラスの密度は、アルミノシリケート系強化ガラスの密度、2.45g/cmとした。また、ベークライト、アルミニウム又はマグネシウムの密度(ρ(基材))については、各基材を構成する成分によって変化するので、基材毎に測定する必要がある。
【0019】
本発明の複合プレート1,2の見かけの密度が4.3g/cm以下であれば、外装部品として使用するのに十分な軽量感を得ることができる。
【0020】
本発明の複合プレート1における基材又は複合プレート2における強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材とは、接着層を介して接着されるが、接着層の厚みは、200μm以下が好ましい。接着層の厚みは、好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下である。このような接着層の厚みとすることにより、ジルコニア質焼結体と上記基材とが一体となって変形して衝撃吸収するために耐衝撃性の向上を図ることができる。
【0021】
本発明の複合プレート1,2におけるジルコニア質焼結体としては、高強度、耐摩耗性、高靭性を併せ持つイットリア安定化ジルコニアが好ましい。更にジルコニア質焼結体は2−10mol%のイットリアを含有するジルコニアであることが好ましい。さらに好ましくは2−4mol%である。イットリアの組成は、ジルコニアに対して、2−10mol%とすることで高強度、耐摩耗性、高靭性とすることができる。ジルコニア質焼結体は、イットリア以外の安定化剤のものも使用できる。他の安定化剤としては、カルシア、マグネシア、セリア等が例示できる。
【0022】
本発明の複合プレート1,2におけるジルコニア質焼結体には、更に着色剤等を含有させて、意匠性を向上しても良い。このような着色剤としては、例えば、アルミナ等の白色顔料、遷移金属酸化物等の着色顔料を含有することが好ましい。白色顔料としては、アルミナ、シリカ、ムライト、スピネル等の酸化物を使用することができる。白色以外の色調については、一般的な無機顔料であれば使用することができ、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属が含まれるスピネル系複合酸化物やエルビウム、ネオジム、プラセオジム等の希土類酸化物が使用できる。また遷移金属を添加したジルコンなども使用できる。またニッケル、鉄などの遷移金属酸化物も顔料として使用することができる。
【0023】
本発明の複合プレート1,2におけるジルコニア質焼結体は、その相対密度が97%以上であることが好ましく、より耐擦傷性を向上させるため、また、残留気孔に基づく焼結体表面の凹凸に起因する鏡面仕上げ時の意匠性低下を抑制するためには、98%以上がより好ましく、99%以上が更に好ましい。
【0024】
本発明の複合プレート1,2におけるジルコニア質焼結体は、十分な耐擦傷性を示すために、そのビッカース硬度が1000以上であることが好ましく、1100以上が更に好ましい。
【0025】
本発明の複合プレート1の例示の一つである強化ガラス、複合プレート2に用いる強化ガラスは、化学強化されたアルミノシリケートガラスであることが好ましい。強化ガラスには、風冷強化ガラスもあるが、強化後の衝撃強度が低く、また薄板形状にすることは困難なため化学強化ガラスが好ましい。化学強化ガラスとしては、一般的なシリカ系のソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス等が使用できるが、耐衝撃性の高い、アルミノシリケートガラスを用いることが好ましい。
【0026】
本発明の複合プレート1の例示の一つであるベークライト、複合プレート2に用いるベークライトとは、一般にフェノールとホルムアルデヒドとを原料とした熱硬化性樹脂であり、フェノール樹脂とも呼ばれるものである。具体的には、布に原料となるフェノール樹脂を塗布した後、熱硬化させてなる布ベークライト、紙に原料となるフェノール樹脂を塗布した後、熱硬化させてなる紙ベークライト等が好ましい。
【0027】
また、本発明の複合プレート1の例示の一つであるアルミニウム、複合プレート2に用いるアルミニウムとしては、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。アルミニウム合金としては、アルミニウムを最大含有成分とする2元系以上の合金であり、合金成分としては、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn,Ti等を例示することができる。
【0028】
更に、本発明の複合プレート1の例示の一つであるマグネシウム、複合プレート2に用いるマグネシウムとしては、マグネシウム又はマグネシウム合金が好ましい。マグネシウム合金としては、マグネシウムを最大含有成分とする2元系以上の合金であり、合金成分としては、Al、Zn、Zr、Mn、Fe、Si、Cu,Ni、Ca等を例示することができる。
【0029】
本発明の複合プレート1,2における耐衝撃性(耐割れ性)は、複合プレート1,2を、アルミ合金の上に厚さ0.1mmの両面テープで接着し、130gの鋼球を任意の高さから、自然落下させるという衝撃試験において、ジルコニア質焼結体に割れが発生する高さ(破壊高さ)が10cm以上、好ましくは15cm以上、更に好ましくは20cm以上という高い耐衝撃性値を示すものである。10cm以上の破壊高さとすることで、携帯用電子機器の筐体として使用した場合、落下や衝突などに対する耐衝撃性を付与することができる。
【0030】
なお、本発明においては、複合プレート1では基材を2種以上を積層したものを用いてもよく、複合プレート2では強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる基材の2種以上を積層したものを基材として用いてもよい。
【0031】
次に、本発明の複合プレート1の製造方法について詳述する。
【0032】
本発明の複合プレート1は、例えば、ジルコニア質焼結体と基材とをエポキシ系の熱硬化型接着剤を用いて300℃以下の温度で接合することで製造できる。接合に用いる接着剤としては、接着のための加熱により基材の強化層に働く圧縮応力を緩和して基材の強度を低下させるおそれがなく、また、ジルコニア質焼結体と基材との接合強度が高く、耐熱性、耐衝撃性も高いと言う点で、エポキシ系熱硬化型接着剤を使用することが好ましい。また、接着剤中に無機粒子などのフィラーを添加し、接着層の剛性を向上させることも可能である。
【0033】
本発明の複合プレート1に係るジルコニア質焼結体の薄板の作製方法は、一般的なセラミックスの成型方法を用いて作製することができる。例えば、プレス法、押し出し法、泥漿鋳込み法、射出成形法、シート成型法が例示できるが、この中でもドクターブレードによるシート成型法が好ましい。具体的には、ジルコニア粉末と有機バインダーを混合したスラリーを、ドクターブレードを用いて厚さ0.1〜1mmのグリーンシートに成膜し、1300〜1500℃で焼結し、ジルコニア質焼結体を得て、それを基材に接合した後、ジルコニア質焼結体表面を研削・研磨し複合プレートを製造することができる。焼結は、通常の大気焼結の他、真空焼結、ホットプレス、熱間等方圧加圧法(HIP)なども使用することができる。
【0034】
次に、本発明の複合プレート2の製造方法について詳述する。
【0035】
本発明の複合プレート2は、例えば、ジルコニア質焼結体と強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材とをエポキシ系の熱硬化型接着剤を用いて300℃以下の温度で接合することで製造できる。接合に用いる接着剤としては、接着のための加熱により強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材の強化層に働く圧縮応力を緩和してガラスの強度を低下させるおそれがなく、また、ジルコニア質焼結体と強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材との接合強度が高く、耐熱性、耐衝撃性も高いと言う点で、エポキシ系熱硬化型接着剤を使用することが好ましい。また、接着剤中に無機粒子などのフィラーを添加し、接着層の剛性を向上させることも可能である。
【0036】
本発明の複合プレート2に係るジルコニア質焼結体の薄板の作製方法は、一般的なセラミックスの成型方法を用いて作製することができる。例えば、プレス法、押し出し法、泥漿鋳込み法、射出成形法、シート成型法が例示できるが、この中でもドクターブレードによるシート成型法が好ましい。具体的には、ジルコニア粉末と有機バインダーを混合したスラリーを、ドクターブレードを用いて厚さ0.1〜1mmのグリーンシートに成膜し、1300〜1500℃で焼結し、ジルコニア質焼結体を得て、それを強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材に接合した後、ジルコニア質焼結体表面を研削・研磨し複合プレートを製造することができる。焼結は、通常の大気焼結の他、真空焼結、ホットプレス、熱間等方圧加圧法(HIP)なども使用することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の複合プレート1,2は、薄板状であり且つ耐衝撃性や耐擦傷性も高いことから、スマートフォン、タブレット型端末、ノートPC、小型音楽プレーヤー等の携帯電子機器用の筐体部材として使用することができる。またタッチパッドなどの入力装置部材としても使用することができる。また、基材として強化ガラスやベークライトを使用した複合プレート2の場合、強化ガラスと同程度の誘電特性を有するために、アンテナの保護部材等の電波透過性が必要とされる部材にも使用できる。更に着色ジルコニア質焼結体を使用することで、意匠性の向上が容易なことから時計部材としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】白色ジルコニア(東ソー株式会社製、商品名「3YS20A」)を用いた複合プレートにおけるジルコニア質焼結体厚みと強化ガラス厚みの比率と、鋼球破壊高さの相関を示す図である。○:実施例1〜4および実施例14(複合プレート厚:約1mm)、●:比較例1(複合プレート厚:1.49mm)
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
(相対密度)
アルキメデス法を用いて試料の密度を測定した。得られた密度を真密度に対する相対密度として求めた。以下の実施例・比較例で使用した粉末を焼結して得られる、それぞれの焼結体の真密度は、白色ジルコニア粉末(3YS20A)を用いた焼結体:5.51g/cm、黒色ジルコニア粉末(東ソー株式会社製、商品名「TZ−Black」)を用いた焼結体:6.06g/cm、ジルコニア粉末(東ソー株式会社製、商品名「3YSE」)を用いた焼結体:6.09g/cmとした。またジルコニア粉末(東ソー株式会社製、商品名「3YS」)に高純度アルミナを40wt%、60wt%添加した粉末を3YS40A,3YS60Aと表記し、それぞれの焼結体真密度を、3YS40A:5.03g/cm、3YS60A:4.63g/cmとした。
(衝撃強度測定)
複合プレートの衝撃強度評価は鋼球落下試験を用いて行った。鋼球落下試験は、「ウオッチ用ガラスの寸法、試験方法」規格のISO14368−3に類似した方法を適用した。すなわち、厚さ5mmの平坦なアルミ合金上(50mm×52mm)に厚さ0.1mmの両面テープ(3M社製、商品番号「4511−100」)で、実施例又は比較例で得られた複合プレートを固定し、当該複合プレートの中心位置に130gの鋼球を任意の高さから自由落下させ、破壊する高さを1cm刻みで測定した。なおインパクト面については表面粗さRa=0.02μm以下に鏡面研磨したものを用いた。
(誘電率測定)
誘電率測定は、インピーダンスアナライザーを用いた容量法を用いて行った。電極に接着する面は鏡面研磨し、室温で1GHzの周波数で誘電率と誘電正接を測定した。
(二軸曲げ測定)
二軸曲げ強度測定(ISO/DIS6872)に準じて複合プレートの曲げ強度を測定した。サポート半径を6mmとし、複合プレートの中央をサポートに設置し、ジルコニア質焼結体薄板を表向き、基材面を裏面として、圧子がジルコニア質焼結体薄板の中央に荷重が懸かるようにして測定を行なった。曲げ強度の算出は、平板面積を用いた換算半径を用いた。ジルコニア質焼結体は表面粗さRa=0.02μm以下に両面鏡面研磨したものを用いた。
実施例1−13
(ジルコニア質焼結体の作製)
白色ジルコニア粉末(東ソー株式会社製、商品名「3YS20A」)、黒色ジルコニア粉末(東ソー株式会社製,商品名「TZ−Black」)及びジルコニア粉末(東ソー株式会社製、商品名「3YSE」)のそれぞれを金型プレスによって圧力50MPaで成形した。成形体を更に圧力200MPaの冷間静水圧プレス(CIP)で成形し、円盤状成形体を得た。
【0040】
ジルコニア粉末(3YS40A、3YS60A)については、以下の通りに製造した。3mol%イットリア含有ジルコニア粉末(東ソー株式会社製,商品名「TZ−3YS」)及び高純度アルミナ粉末を、ジルコニアに対して、それぞれ40wt%、60wt%添加し、エタノール溶媒中で直径10mmのジルコニア製ボールで72時間ボールミル混合した後、乾燥し、原料粉末とし、同様の条件で成型した。
【0041】
得られた成形体を、大気中、昇温速度100℃/h、焼結温度1400〜1500℃で焼結し、φ17mmの焼結体を得た。得られた焼結体の特性を参考例として表6に示す。得られた焼結体を両面研削、両面研磨し所定の厚みとし、ジルコニア質焼結体薄板を得た。なお表中のHv10とは、圧子荷重10kgfを用いて測定されたビッカース硬度を示す。
【0042】
得られたジルコニア質焼結体薄板とアルミノシリケート系の化学強化ガラス(32mm×25mm)の各表面をアセトンにより洗浄し、次いで、エポキシ系熱硬化性樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、商品番号「XN1245SR」)を接着面に均一に塗布し、複合プレートの上下面に均等に荷重が懸かる状態とし、140℃、30分の条件で接着した。得られた複合プレートにおける各層の厚みを表1に示した。
【0043】
評価結果を表1に示す。複合プレートの見かけ密度は、いずれも4.3g/cm以下であり、複合プレートのビッカース硬度は、いずれも1000以上であった。また耐衝撃試験の結果も、いずれも10cm以上となり高い耐衝撃性を示すことが分かった。
実施例14
実施例1と同様の条件で、白色ジルコニア粉末(東ソー株式会社製、商品名「3YS20A」)を用いて、寸法が32mm×25mmのジルコニア質焼結体薄板を得た以外は実施例1と同じ条件で複合プレートを作製した。耐衝撃試験の結果を表1に示す。複合プレートの割れは、29cmとなり高い耐衝撃性を示すことが分かった。
実施例15
接着剤として2液系のエポキシ系接着剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品番号「XNR3324」、「XNH3324」)を用いた以外は、実施例1と同じ条件で複合プレートを作製した。接着は100℃、30分とした。耐衝撃試験の結果を表1に示す。複合プレートの破壊高さは24cmとなり、高い耐衝撃性を示すことが分かった。
実施例16
実施14と同様な方法にて、3YS20Aの32mm×25mmの複合プレートを製造した。この複合プレートのジルコニア質焼結体薄板表面に#100の紙ヤスリを置き、更に3kgの鉄製おもりによる荷重をかけて、鉄製おもりを紙ヤスリ上で30cmの距離を5回往復させて加傷した。加傷処理した複合プレートの鋼球落下試験の結果を表1に示す。鋼球破壊高さは、30cmであり、加傷処理による衝撃強度の低下は見られなかった。実施例17
実施例14と同様な方法にて、3YS20Aの32mm×25mmの複合プレートを製造した。接着は140℃、30分の条件でホットプレスを用いて行い、プレートに4MPaの圧力がかかるように行った。得られた複合プレートの接着層の厚みは7μmであった。鋼球破壊高さは47cmとなり、高い耐衝撃性を示すことが分かった。
実施例18、19
実施例14と同様の方法にて3YS20Aの32mm×25mmの複合プレートを製造した。この複合プレートにおける、室温、1GHzでの比誘電率及び誘電正接を表2に示す。複合プレートの比誘電率及び誘電正接は、アルミノシリケートガラスと同程度であることが分かった。
【0044】
別途、室温、1GHzで測定したアルミノシリケートガラスの比誘電率は7.5、誘電正接は0.0125、3YS20Aの誘電率は28.4、誘電正接は0.003であった。両者の値から直列モデルを仮定して計算した比誘電率は、9.5であり、実測値とよく一致した。複合プレートの比誘電率は、ジルコニア質焼結体と強化ガラスの直列モデルで再現できることがわかった。
実施例20、21
実施例14と同様の方法にて3YS20Aの32mm×25mmの複合プレートを製造し、二軸曲げ強度を測定した。曲げ強度は940MPa程度の高い値であることがわかった。試験における荷重−変位曲線から曲げ弾性率を見積もると、80GPa程度であり、いずれも強化ガラス(70GPa)と同程度の弾性率であることがわかった。
実施例22
3YS20Aを用い、実施例1と同様の方法で、ジルコニア質焼結体厚み/強化ガラス厚みの比率を0.09にしたものを製造した。結果を表4に示す。複合プレートは高い耐衝撃性を示すものの、ビッカース硬度は800となり、耐擦傷性は少し低いものであった。
実施例23
TZ−3YS粉末を700g、分散剤として市販のポリカルボン酸エステル型高分子分散剤14g、消泡剤として市販のポリエチレングリコールモノ−パラ−イソ−オクチルフェニルエーテル3.5g、溶剤として酢酸エチル245g及び酢酸n−ブチル245g、結合剤としてブチラール樹脂(重合度約1000)粉末49g、及び可塑剤として、工業用のフタル酸ジオクチル42gを添加してボールミルにて48時間混合した。ドクターブレード装置およびブレードを使用しキャリヤーフィルムとしてPETを使用し、キャリヤーフィルム上にグリーンシートを成膜した。
【0045】
得られたグリーンシートを、多孔質アルミナセッター上に重しのアルミナセッターを載せて焼結した。焼結は、室温から450℃までは、5℃/hとして、450℃で10時間保持し脱脂を行い、450℃から1000℃までは、50℃/hとし、1000℃で5時間保持し、その後1450℃で2時間保持して焼結した。得られた焼結体の相対密度は99%以上であった。
【0046】
得られた焼結体を、32mm×25mm、厚み0.698mmの化学強化ガラスにエポキシ系の熱硬化性樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、商品番号「XN1245SR」)を用いて実施例1と同様に接着処理した。接着した複合プレートのジルコニア質焼結体薄板表面を研削・研磨し複合プレートを作製した。
【0047】
焼結体の厚みは、0.302mmであり、接着層の厚みは45μmであった。ジルコニア質焼結体の厚み/ガラスの厚みは0.43であった。複合プレートの見かけ密度は、3.55g/cm、ビッカース硬度は1430であった。実施例1と同様な鋼球落下にて耐衝撃試験を行った結果、複合プレートの破壊高さは26cmであった。
比較例1
3YS20Aを用い、実施例1と同様の方法で、ジルコニア質焼結体厚み/強化ガラス厚みの比率を1.66にしたものを製造した。結果を表4に示す。複合プレートの見かけの密度は4.3g/cmを超えた。
比較例2
3YS20Aを用い、実施例1と同様の方法で、接着材なしの条件で鋼球落下試験を行った。結果を表4に示す。接着せずガラスに直置きしてある場合、3cm程度で破壊し、耐衝撃特性は著しく低いことが分かった。
比較例3〜5
厚みの異なるアルミノシリケート系の強化ガラス(32mm×25mm、厚み0.55mm、0.7mm、1.1mm)の表面に対して、実施例15と同じ方法で加傷処理を行い、加傷前後の耐衝撃性を評価した。結果を表5に示す。0.55mmについては、加傷処理により母材が割れ、0.7、1.1mmの強化ガラスについては、加傷によって鋼球破壊高さは、半分程度となった。
比較例6、7
ジルコニア質焼結体の代わりにサファイヤ単結晶(株式会社オルベ・パイオニア製)(32mm×25mm)を用いて実施例1と同様の方法で複合プレートを作製し、同様の条件で鋼球落下試験を行った。結果を表7に示す。ここでサファイヤの密度は、3.99g/cmとした。
【0048】
サファイヤを用いたものでは、鋼球破壊高さは10cm未満となりジルコニア質焼結体と比較して低い耐衝撃特性となった。ジルコニア質焼結体と比較してサファイヤの弾性率は倍程度(400GPa)であるため、サファイヤ側に引っ張り応力が発生したものと考えられる。
実施例24〜28
3YS20Aを用い、実施例1と同様の方法で、基材として、アルミニウム(97wt%)−マグネシウム合金(Eggs社製、#5052)、マグネシウム(90wt%)−アルミニウム−亜鉛合金(エムジープレシジョン株式会社製、商品名「AZ91D」)、布ベークライト、紙ベークライト(株式会社扶桑ゴム産業製)をそれぞれ用いて32mm×25mmの複合プレートを作製した。
【0049】
3YS20Aを用い、接着剤をシアノアクリレートとした以外、実施例1と同様の方法で、硬質ポリ塩化ビニル(株式会社ミスミ)を用いて32mm×25mmの複合プレートを作製した。
【0050】
評価結果を表8に示す。複合プレートの見かけ密度は、いずれも4.3g/cm以下であり、複合プレートのビッカース硬度は、いずれも1000以上であった。また耐衝撃試験の結果も、いずれも10cm以上となり高い耐衝撃性を示すことが分かった。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のジルコニア質焼結体焼結体と強化ガラス、ベークライト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群のうち少なくとも1種類から構成される基材との複合プレートは、耐衝撃性、耐擦傷性を有するため携帯用電子機器、時計部材等の小型・薄型部品に好適に使用することができる。
図1