特許第6020740号(P6020740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許6020740紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び版材の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020740
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び版材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20161020BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20161020BHJP
   C08K 3/10 20060101ALI20161020BHJP
   B41N 10/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K3/10
   B41N10/00
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-542533(P2015-542533)
(86)(22)【出願日】2014年8月19日
(86)【国際出願番号】JP2014071598
(87)【国際公開番号】WO2015056483
(87)【国際公開日】20150423
【審査請求日】2016年2月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-217177(P2013-217177)
(32)【優先日】2013年10月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真弓 夕佳
(72)【発明者】
【氏名】池野 正行
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/055735(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
B41N 10/00
C08K 3/10
C08L 83/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(A−1)1分子中に、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有する直鎖のオルガノポリシロキサン:(A)成分の50〜90質量%及び(A−2)R122SiO1/2単位、R13SiO1/2単位、及びSiO2単位(式中、R1はアルケニル基を除く非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基、R2はアルケニル基)を含有し、SiO2単位に対するR122SiO1/2単位及びR13SiO1/2単位の合計のモル比;(R122SiO1/2+R13SiO1/2)/SiO2が0.5〜1.5であり、かつ1×10-4〜50×10-4mol/gのアルケニル基を含有する三次元網状オルガノポリシロキサンレジン:(A)成分の10〜50質量%((A−1)成分と(A−2)成分の合計で100質量%):100質量部、
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有し、分子中にアルコキシ基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分と(D)成分が有するアルケニル基の合計に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計のモル比が0.5〜6.0となる量、
(C)光活性型白金錯体硬化触媒として、β−ジケトン白金錯体又は環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体:有効量、
(D)R122SiO1/2単位又はR122SiO1/2単位及びR13SiO1/2単位と、R1SiO3/2単位と(式中、R1はアルケニル基を除く非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基、R2はアルケニル基)を含有し、SiO2単位を含まない、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンオリゴマー:(A)成分と(D)成分中のアルケニル基の合計に対する(D)成分中のアルケニル基のモル比が0.01〜0.6となる量
を含有してなる紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
光活性型白金錯体触媒が、トリメチル(アセチルアセトナト)白金錯体、トリメチル(2,4−ペンタンジオネ−ト)白金錯体、トリメチル(3,5−ヘプタンジオネート)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4−ペンタンジオナト)白金錯体、ビス(2,4−へキサンジオナト)白金錯体、ビス(2,4−へプタンジオナト)白金錯体、ビス(3,5−ヘプタンジオナト)白金錯体、ビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオナト)白金錯体、ビス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジメチル白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジフェニル白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジプロピル白金錯体、(2,5−ノルボラジエン)ジメチル白金錯体、(2,5−ノルボラジエン)ジフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)ジエチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジフェニル白金錯体、(メチルシクロオクタ−1,5−ジエニル)ジエチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)エチルジメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)アセチルジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(ジメチルフェニルシリルシクロペンタジエニル)トリフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチルトリメチルシリルメチル白金錯体から選ばれる1種又は2種以上である請求項記載の紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材又は3Dプリンタ用形状形成材用である請求項1又は2記載の紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材及び3Dプリンタ用形状形成材から選ばれる版材を製造する方法であって、請求項1又は2記載の紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物を反転すべき微細パターンが形成されている母材に適用し、光造形法により紫外線を照射して上記オルガノポリシロキサン組成物を硬化させ、上記母材から脱型して、表面に上記母材の微細パターンを反転形成することを特徴とする上記版材の製造方法。
【請求項5】
ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材及び3Dプリンタ用形状形成材から選ばれる版材であって、請求項1又は2記載の紫外線硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物からなり、該硬化物の線収縮率が0.5%以下であることを特徴とする上記版材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関し、更に詳しくは、ゴム状に硬化し、光硬化性樹脂などを押し当てて微細パターンを反転するためのマスターなどとして使用されるナノインプリント用マスター部材等の凹凸パターンを転写する部材、導電インクや半導電インク等を転写して微細パターンを形成する、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材、3Dプリンタ用形状形成材等の版材(印刷用材)に好適に用いられる紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関する。
【0002】
なお、本発明において、版材とは、微細パターンを形成した母材上に紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物を未硬化状態で流動させ、光造形法により紫外線を照射し、硬化させて脱型し、微細パターンを反転させたナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、平坦度の高い基材(例えばガラス基板など)の上に硬化させたオフセット印刷用ブランケット材、又は3Dプリンタ用形状形成材に使用されるものである。
【背景技術】
【0003】
従来、シリコーンゴムは、その優れた耐熱性、耐寒性、電気特性等を活かして、いろいろな分野で広く利用されている。特に、流動性がよく、微細パターンを有した母材からの寸法再現性のよい反転も可能であることから、ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材又は3Dプリンタ用形状形成材としても注目を集めるようになってきた。特に寸法再現性、作業性の点で、付加反応硬化型の液状シリコーンゴム組成物が多用されるようになってきたが、母材に未加硫状態のシリコーンゴム組成物を注型し、加熱硬化させ、微細パターンを反転する従来の付加反応硬化型液状シリコーンゴムの場合、母材の素材、寸法精度に依存していた。
【0004】
具体的には、母材としてフォトリソグラフィー技術を用いて、Siウエーハに微細パターンを形成する方法が一般的であるが、現状、市販されているSiウエーハでは直径300mmが最大径であるため、A4サイズ(210mm×297mm)のような大型なマイクロコンタクトプリント用版材は作製することができなかった。
【0005】
そのため、母材としてガラス基板にレジスト材料等で微細パターンを形成する方法も提案されているが、フォトリソグラフィー技術を用いたSiウエーハ製母材と比較して、パターン精度が悪くなるきらいがあった。
【0006】
また、ナノインプリント用版材として使用されるシリコーンゴム組成物は、一般的には高重合度のオルガノポリシロキサンと補強性レジンとを含有する組成物の形で供給される。この組成物は、万能混合機、ニーダー等の混合装置を用いて原料ポリマーに補強性レジンや各種分散剤を混合することにより調製されている。付加反応硬化型の液状シリコーンゴム組成物は通常加熱による硬化が用いられているが、得られるシリコーンゴム組成物及びその硬化物であるシリコーンゴムは、熱により膨張又は収縮してしまい、特に、光硬化性樹脂のナノインプリント時の微細パターンの反転や、曲面印刷に使用されるパッド材料やオフセット印刷に使用されるブランケット材料では、所定の寸法のパターンが転写、印刷できないなどの問題があった。
【0007】
また、現状の光造形でアクリル変性紫外線硬化シリコーン樹脂を使用する事例がある。通常、紫外線硬化シリコーン樹脂はラジカル架橋になるため、酸素による硬化阻害を受けるという問題があった。シリコーン組成物は他の有機樹脂と異なり、シリコーン特有の高い酸素透過性が硬化抑制効果を生じ、大気開放下での保存安定性を確保する。
しかし、短時間で局所的にシリコーン樹脂中に拡散した酸素を排除することは困難であるため、照射部分の架橋も不安定になり、照射部と非照射部分の硬化後の界面が不安定となり、高い寸法精度での造形が困難となる。
更に、積層式光造形の場合は、紫外線照射部位からの光漏れ出しを紫外線光吸収剤や遮光顔料等で遮蔽しないとエッジが不鮮明になるが、シリコーン樹脂本来の透明性を損なうため、用途が限定される。
【0008】
紫外線硬化性シリコーン樹脂は、紫外線照射により活性化する白金触媒を用いて付加硬化反応を得るが、使用する触媒は200〜400nmで高い反応性を持ち、ベースとなるシロキサンポリマーも250nm前後から吸光度が上昇する。一般に、アクリル系やウレタン系紫外線硬化樹脂を用いた光造形の場合、光源にg線(436nm)以下を用いるとビームスポット(液面に形成される照射光領域)からの光漏れ出しはベース樹脂に吸収され、シャープなエッジが形成出来るが、アクリル変性シリコーン樹脂などの紫外線硬化性シリコーン樹脂の場合、i線(365nm)でもベース樹脂が透過性を残すため、ビームスポットからの光漏れ出しは回避出来ず、エッジはシャープにならない。
【0009】
なお、本発明に関連する先行文献は下記の通りである。特許文献1(特開2012−74644号公報)には低分子シロキサン含有量を低減させたマイクロコンタクトプリント用版材が提案されているが、メルカプト変性紫外線硬化シリコーン樹脂は耐熱性が悪いという問題がある。また、シリコーンゴム組成物の表面にフッ素化ポリエーテル骨格を有するフッ素系ゴム組成物の硬化物を被覆積層した系(特許文献2:特許第5168510号公報)は加熱による熱膨張が起こり、寸法精度の良いパターン転写が難しくなる。
特許文献3(特許第3417230号公報)、特許文献4(特許第4788863号公報)には光造形でアクリル変性紫外線硬化シリコーン樹脂を使用する事例が提案されているが、酸素を排除することが困難であるため、照射部分の架橋や照射部と非照射部分の硬化後、界面が不安定となり高い寸法精度での造形が困難となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材、3Dプリンタ用形状形成材等の印刷用材としての十分な強度を有しつつ、かつ、加熱による熱膨張が抑制でき、寸法精度の良いパターン転写、印刷が可能なナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材又は3Dプリンタ用形状形成材を得るのに有効な紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、付加反応硬化における硬化後の高い寸法精度というポリマー設計上の利点と、紫外線照射による速硬化性とを兼ね備えた光硬化性の付加反応型オルガノポリシロキサン組成物及びその硬化物を提供することにより、十分な強度を有しつつ、かつ、寸法精度の良いパターン転写、印刷が可能なナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材又は3Dプリンタ用形状形成材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記に示す紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び下記版材とその製造方法を提供する。
〔1〕
(A)(A−1)1分子中に、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有する直鎖のオルガノポリシロキサン:(A)成分の50〜90質量%及び(A−2)R122SiO1/2単位、R13SiO1/2単位、及びSiO2単位(式中、R1はアルケニル基を除く非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基、R2はアルケニル基)を含有し、SiO2単位に対するR122SiO1/2単位及びR13SiO1/2単位の合計のモル比;(R122SiO1/2+R13SiO1/2)/SiO2が0.5〜1.5であり、かつ1×10-4〜50×10-4mol/gのアルケニル基を含有する三次元網状オルガノポリシロキサンレジン:(A)成分の10〜50質量%((A−1)成分と(A−2)成分の合計で100質量%):100質量部、
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有し、分子中にアルコキシ基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分と(D)成分が有するアルケニル基の合計に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計のモル比が0.5〜6.0となる量、
(C)光活性型白金錯体硬化触媒として、β−ジケトン白金錯体又は環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体:有効量、
(D)R122SiO1/2単位又はR122SiO1/2単位及びR13SiO1/2単位と、R1SiO3/2単位と(式中、R1はアルケニル基を除く非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基、R2はアルケニル基)を含有し、SiO2単位を含まない、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンオリゴマー:(A)成分と(D)成分中のアルケニル基の合計に対する(D)成分中のアルケニル基のモル比が0.01〜0.6となる量
を含有してなる紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

光活性型白金錯体触媒が、トリメチル(アセチルアセトナト)白金錯体、トリメチル(2,4−ペンタンジオネ−ト)白金錯体、トリメチル(3,5−ヘプタンジオネート)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4−ペンタンジオナト)白金錯体、ビス(2,4−へキサンジオナト)白金錯体、ビス(2,4−へプタンジオナト)白金錯体、ビス(3,5−ヘプタンジオナト)白金錯体、ビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオナト)白金錯体、ビス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジメチル白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジフェニル白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジプロピル白金錯体、(2,5−ノルボラジエン)ジメチル白金錯体、(2,5−ノルボラジエン)ジフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)ジエチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジフェニル白金錯体、(メチルシクロオクタ−1,5−ジエニル)ジエチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)エチルジメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)アセチルジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(ジメチルフェニルシリルシクロペンタジエニル)トリフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチルトリメチルシリルメチル白金錯体から選ばれる1種又は2種以上である〔〕記載の紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材又は3Dプリンタ用形状形成材用である〔1〕又は〔2〕記載の紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材及び3Dプリンタ用形状形成材から選ばれる版材を製造する方法であって、〔1〕又は〔2〕記載の紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物を反転すべき微細パターンが形成されている母材に適用し、光造形法により紫外線を照射して上記オルガノポリシロキサン組成物を硬化させ、上記母材から脱型して、表面に上記母材の微細パターンを反転形成することを特徴とする上記版材の製造方法。

ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材及び3Dプリンタ用形状形成材から選ばれる版材であって、〔1〕又は〔2〕記載の紫外線硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物からなり、該硬化物の線収縮率が0.5%以下であることを特徴とする上記版材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、ナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材、3Dプリンタ用形状形成材等の印刷用材などに使用される紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、高強度を維持し、熱による膨張又は収縮抑制に優れるため、寸法精度の良いパターン転写、印刷が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について更に詳しく説明する。
[(A)成分]
本発明の(A)成分は、アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンであり、(A−1)アルケニル基含有直鎖状ジオルガノポリシロキサンと(A−2)アルケニル基含有オルガノポリシロキサンレジンとからなる。
(A−1)成分のオルガノポリシロキサンは、この組成物の主剤(ベースポリマー)であり、1分子中に、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上(通常、2〜50個)、特には2〜20個程度有する直鎖状のオルガノポリシロキサンであり、代表的には、主鎖がジオルガノポリシロキサン単位の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンである。
【0015】
(A−2)成分のオルガノポリシロキサンレジンは、R122SiO1/2単位、R13SiO1/2単位及びSiO2単位(式中、R1はアルケニル基を除く非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基、R2はアルケニル基)を含有し、SiO2単位に対するR122SiO1/2単位及びR13SiO1/2単位の合計のモル比;(R122SiO1/2+R13SiO1/2)/SiO2が0.5〜1.5、好ましくは0.7〜1.0であり、かつ1×10-4〜50×10-4mol/gのアルケニル基を含有する三次元網状オルガノポリシロキサンレジンである。なお、(A−2)成分の三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジンは、通常、分子中に三官能性のシロキサン単位を含有しないものであることが好適であるが、分子中にSiO2単位を必須に含有するものである点において、後述する(D)成分の分岐状オルガノポリシロキサンオリゴマーとは明確に差別化されるものである。
【0016】
なお、上記(A−2)成分のオルガノポリシロキサンレジンには、更に上記単位に加えてR12SiO単位、R12SiO単位、R22SiO単位、R1SiO3/2、R2SiO3/2単位を含有しても差支えないが、その含有量は、(A−2)成分のオルガノポリシロキサンレジン中30質量%以下(0〜30質量%)、特に20質量%以下(0〜20質量%)とすることが好ましい。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算重量平均分子量は400〜100,000、特に、500〜30,000であることが、安定して硬化物を補強できる点で好ましい。重量平均分子量が小さすぎると硬化物の補強効果がなくなる場合があり、大きすぎると安定して製造できない場合がある。
【0017】
(A)成分中(即ち、(A−1)成分及び(A−2)成分)に含まれるケイ素原子に結合するアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等の、通常、炭素原子数2〜8個、好ましくは炭素原子数2〜6個程度のものが挙げられ、特に、ビニル基が好ましい。
【0018】
(A−1)成分のアルケニル基の結合位置(即ち、分子中におけるケイ素原子に結合するアルケニル基の位置)としては、例えば、分子鎖末端のケイ素原子及び/又は分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基が挙げられるが、少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するものであることが好ましい。
【0019】
(A)成分のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基(例えば、非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の、通常、炭素原子数1〜10、好ましくは炭素原子数1〜8個程度の、非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基が挙げられ、特に、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0020】
(A−1)成分の25℃における粘度は、組成物の取扱作業性(例えば、十分な流れ性)が良好であり、また、得られる硬化物の物理的特性(例えば、硬さ(軟らかさ)、強度、伸び)が良好であるために、10〜500,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に、100〜100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。なお、本発明において、粘度は通常、25℃において回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)によって測定することができる。
【0021】
上記(A−1)成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖片末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され分子鎖の他方の末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン・メチルビニルポリシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルポリシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、及びこれらのオルガノポリシロキサンの二種以上からなる混合物等が挙げられる。
【0022】
上記(A−2)成分のオルガノポリシロキサンレジンとしては、例えば、式:R13SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R122SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R12SiOで示される単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:R13SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R122SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:R122SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R12SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、及び、これらのオルガノポリシロキサンの二種以上からなる混合物等が挙げられる。
【0023】
なお、上記式中のR1は前記と同様の、アルケニル基以外の非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等である。また、上記式中のR2はアルケニル基を表し、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基等である。なお、(A−1)成分と(A−2)成分との配合比率は、質量比で(A−1)成分/(A−2)成分=90/10〜50/50、特に85/15〜60/40程度であることが好ましい。この範囲において組成物の取扱作業性(例えば、十分な流れ性)が良好であり、また、得られる硬化物の物理的特性(例えば、硬さ(軟らかさ)、強度、伸び)が最適となる。この範囲を外れると取扱作業性、硬化物の物理的特性が得られないため、精度の良いパターン転写が不可能となる。
【0024】
[(B)成分]
(B)成分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有し、分子中にアルコキシ基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、この組成物において架橋剤として作用するものである。
【0025】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、前記(A)成分(即ち、(A−1)成分及び(A−2)成分)と反応し、架橋剤として作用するものであり、その分子構造に特に制限はなく、従来製造されている、例えば直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、三次元網状構造(樹脂状)等各種のものが使用可能であるが、一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiHで表されるヒドロシリル基)を有する必要があり、通常2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のSiH基を有することが望ましい。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(1)で示されるものが用いられる。
4bHcSiO(4-b-c)/2 (1)
【0026】
上記式(1)中、R4は、脂肪族不飽和結合を除く、好ましくは炭素数1〜10の、ケイ素原子に結合した非置換又は置換の一価炭化水素基であり、このR4における非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等が挙げられる。R4の非置換又は置換の一価炭化水素基としては、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。また、bは0.7〜2.1、cは0.001〜1.0で、かつb+cが0.8〜3.0を満足する正数であり、好ましくはbは1.0〜2.0、cは0.01〜1.0、b+cが1.5〜2.5である。
【0027】
一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上含有されるSiH基は、分子鎖末端、分子鎖途中のいずれに位置していてもよく、またこの両方に位置するものであってもよい。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は通常2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のものが望ましく、組成物の取扱作業性(例えば、十分な流れ性)が良好であり、また、得られる硬化物の物理的特性(例えば硬さ(軟らかさ)、耐熱性)が良好であるために、25℃における粘度が、通常、1〜1,000mPa・s、特に5〜500mPa・s程度の室温(25℃)で液状のものが好適に使用される。
【0028】
なお、本発明において、重合度(又は分子量)は、例えば、トルエン等を展開溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析における重量平均重合度(又は重量平均分子量)等として求めることができる。また、粘度は、25℃において回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)によって測定することができる。
【0029】
式(1)で示される(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして具体的には、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C653SiO1/2単位とからなる共重合体や、これらの例示化合物においてメチル基の一部又は全部が他のアルキル基やフェニル基等で置換されたものなどが挙げられ、特に下記分子式(2)で示されるものが好適に用いられる。
【0030】
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、mは0≦m、nは1≦nの整数であり、m+nは1〜299の整数である。)
【0031】
(B)成分は、公知の製造方法によって得ることが可能である。一般的な製造方法を挙げると、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はテトラメチルシクロジシロキサンと末端基となり得るヘキサメチルジシロキサン或いは1,1’−ジハイドロ−2,2’,3,3’−テトラメチルジシロキサン単位を含む化合物とを、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸等の触媒の存在下に−10〜+40℃程度の温度で平衡化させることによって容易に得ることができる。
【0032】
(B)成分の配合量は、(A)成分と(D)成分のオルガノポリシロキサンが有するアルケニル基の合計に対する(B)成分のケイ素原子に結合した水素原子のモル比が0.5〜6.0、好ましくは1.0〜5.0となる量である。前記モル比が0.5未満や6.0を超えると、組成物は十分に硬化しない。
【0033】
[(C)成分]
本発明に使用される(C)成分は、光活性型白金錯体触媒であり、光を照射して活性化すると、(A)成分、(B)成分、(D)成分との付加反応を促進する触媒作用を有する。本発明において、該(C)成分である光活性型白金錯体触媒となる化合物は、好適にはβ−ジケトン白金錯体又は環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体を意味する。
【0034】
ここで、β−ジケトン白金錯体としては、例えば、トリメチル(アセチルアセトナト)白金錯体、トリメチル(2,4−ペンタンジオネ−ト)白金錯体、トリメチル(3,5−ヘプタンジオネート)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4−ペンタンジオナト)白金錯体、ビス(2,4−へキサンジオナト)白金錯体、ビス(2,4−へプタンジオナト)白金錯体、ビス(3,5−ヘプタンジオナト)白金錯体、ビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオナト)白金錯体、ビス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)白金錯体等が挙げられる。また、環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体としては、例えば、(1,5−シクロオクタジエニル)ジメチル白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジフェニル白金錯体、(1,5−シクロオクタジエニル)ジプロピル白金錯体、(2,5−ノルボラジエン)ジメチル白金錯体、(2,5−ノルボラジエン)ジフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)ジエチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジフェニル白金錯体、(メチルシクロオクタ−1,5−ジエニル)ジエチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)エチルジメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)アセチルジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(ジメチルフェニルシリルシクロペンタジエニル)トリフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチルトリメチルシリルメチル白金錯体等が挙げられる。
【0035】
上記(C)成分の含有量は、触媒としての有効量であればよいが、例えば、(A)成分の重量に対して、白金金属として1〜5,000ppmとなる量、好ましくは10〜500ppmの範囲で用いられる。前記配合量が1ppm未満では付加反応が著しく遅くなるか、もしくは硬化しなくなる。
【0036】
[(D)成分]
本発明に使用される(D)成分の分岐状オルガノポリシロキサンオリゴマーは、この組成物において補強剤として用いられるものであり、R1SiO3/2単位と、R122SiO1/2単位又はR122SiO1/2単位及びR13SiO1/2単位と(式中、R1はアルケニル基を除く非置換又はハロゲン置換の一価炭化水素基、R2はアルケニル基)を含有し、好ましくは1分子中にアルケニル基を2個以上含有する、アルケニル基含有の分岐状オルガノポリシロキサンオリゴマーである。(D)成分は、分子中にSiO2単位を含有しないものである点において、前述の(A−2)成分の三次元網状オルガノポリシロキサンレジンとは明確に差別化されるものである。
【0037】
この場合、R1SiO3/2単位に対するR122SiO1/2単位又はR122SiO1/2単位及びR13SiO1/2単位の割合(モル比)は(R122SiO1/2)又は(R122SiO1/2+R13SiO1/2)/R1SiO3/2=0.1〜10、特に0.5〜5が好ましい。また、この(D)成分に含まれるアルケニル基の量は0.0001〜0.05(mol/g)、特に0.0002〜0.02(mol/g)であることが好ましい。アルケニル基量が少なすぎると硬化物の補強硬化が弱く、多すぎると組成物は十分に硬化しないおそれがある。また、25℃における回転粘度計による粘度は1〜1,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に10〜100mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0038】
(D)成分は、公知の製造方法によって得ることが可能である。一般的な製造方法を挙げると、例えば、メチルトリクロルシランの水、メタノールによる加水分解物をヘキサメチルジシロキサン及び/又はテトラメチルジビニルジシロキサンを含む化合物と、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸等の触媒の存在下に+50度以下の温度で攪拌し、水を+65度以下の温度で滴下して共加水分解させることによって容易に得ることができる。
【0039】
(D)成分の配合量は、(A)成分と(D)成分中のアルケニル基の合計に対する(D)成分中のアルケニル基のモル比が、0.01〜0.6となる量である。前記モル比が0.01未満であると硬化物の補強効果がなくなる場合があり、組成物0.6を超えると、組成物は十分に硬化しない場合がある。なお(A)成分と(D)成分との配合比率は、質量比で(A)成分/(D)成分=99.99/0.01〜50/50、特に99.95/0.05〜60/40程度であることが好ましい。
【0040】
[その他の配合成分]
本発明の組成物は、上記(A)成分〜(D)成分以外の任意の成分として、付加硬化反応を抑制・制御する効果を有する化合物(ヒドロシリル化反応制御剤)を含有することができる。このような化合物としては、トリフェニルホスフィンなどのリン含有化合物;トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾールなどの窒素含有化合物:硫黄含有化合物、アセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上有する化合物、ハイドロパーオキシ化合物、マレイン酸誘導体などが挙げられる。当該化合物による硬化遅延効果の度合いは、その化学構造によって大きく異なる。従って、その添加量は、使用する化合物の個々について最適な量に調整すべきであるが、一般的には、その添加量が少な過ぎると室温での長期貯蔵安定性が得られず、逆に多過ぎると硬化が阻害される。
【0041】
また、その他の任意の成分として、透明性を損なわない程度に、例えば、ヒュームドシリカ、ポリオルガノシルセスキオキサン等の無機質充填剤、及び、これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面処理した充填剤を使用してもよい。
【0042】
更に、本発明の組成物には、例えば、耐熱性付与剤、難燃性付与剤等を含有させることも任意である。
【0043】
[紫外線硬化]
本発明の硬化方法は、本発明のオルガノポリシロキサン組成物に、200〜500nmの光を照射することが望ましい。紫外線照射するランプは波長が200〜500nmの紫外線を供給できるものなら特に制限されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LEDランプ等が挙げられる。紫外線照射量は、使用する光活性型白金錯体の種類や量により異なるが、光活性型白金錯体が活性化するのに十分な量であればよく、10〜1,000mW/cm2、特に20〜400mW/cm2の紫外線強度を0.1秒〜5分、特に0.5秒〜1分程度照射することが好ましい。
【0044】
得られたナノインプリント用マスター部材、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材、3Dプリンタ用形状形成材等の版材に使用されるシリコーン硬化物は、デュロメーターA硬度計による硬度が通常40以上、特に50以上、引裂き強度[クレセントタイプ]が1kN/m以上、特に2kN/m以上である。なお、硬度の上限は、通常80以下、特に75以下程度であればよく、引裂き強度の上限は、通常10kN/m以下、特に8kN/m以下程度であればよい。ここで、硬度及び引裂き強度はJIS−K6249に記載の方法により測定できる。
【0045】
また、得られたナノインプリント用マスター材料、曲面印刷用パッド材、オフセット印刷用ブランケット材、3Dプリンタ用形状形成材等の版材に使用されるシリコーン硬化物の膨張防止性能としては、硬化前後の線収縮率を測定し、この変化がより小さいことが好ましく、本発明の組成物の場合、そのJIS−K6294に基づく線収縮率は通常0.5%以下(0〜0.5%)、特に0.3%以下(0〜0.3%)である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限られるものではない。なお、粘度は回転粘度計による25℃における測定値であり、重量平均分子量は、トルエンを展開溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析によるポリスチレン換算による測定値である。部とは質量部である。
【0047】
以下の例で(A)〜(D)成分の内容と略号は以下のとおりである。なお、Viはビニル基を、Meはメチル基を表す。
(A−1)成分:
a−1:粘度1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン。ビニル基含有量0.000125mol/g
a−2:粘度5,000mPa・sの分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン。ビニル基含有量0.00006mol/g
(A−2)成分:
a−3:Me3SiO1/2単位、ViMe2SiO1/2及びSiO2単位からなる樹脂質共重合体(Me3SiO1/2単位+ViMe2SiO1/2単位)/SiO2単位=0.85(モル比)、ビニル基含有量0.0009mol/g、重量平均分子量3,800
(B)成分:
両末端及び側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度64、SiH基量0.0112mol/g)
(C)成分:
ビス(2,4−ペンタンジオナト)白金錯体の酢酸2−(2−ブトキシエトキシ)エチル溶液(濃度1質量%)
(D)成分:
MeSiO3/2単位、Me2ViSiO1/2単位からなり、ビニル基を0.0054mol/g含有する、重量平均分子量が2,000であり、1分子中にビニル基を平均で約12.5個含有する、粘度24mPa・sのオルガノポリシロキサンオリゴマー。Me2ViSiO1/2単位/MeSiO3/2単位=1/1(モル比)
【0048】
[実施例1]
(A)成分として、(a−1)成分14部と、(a−2)成分60部と、(a−3)成分26部と、(B)成分7.9部、(C)成分0.48部、(D)成分0.61部を均一に混合して、紫外線硬化性オルガノポリシロキサン組成物[(A)成分と(D)成分中のアルケニル基の合計に対する(B)成分中のSiH基のモル比[H/Vi];約2.7、(A)成分と(D)成分中のアルケニル基の合計に対する(D)成分中のアルケニル基のモル比;約0.10、25℃でのBL型粘度計、ローター4番、60rpmでの測定結果が2.6Pa・s]を調製した。
上記組成物を型に流し、室温(25℃)で120mW/cm2,1.7秒間(=200mW/cm2)の紫外線照射条件で硬化させた。紫外線照射後、室温(25℃)で1時間冷却後脱型し、JIS−K6249に基づき線収縮率を求めた。
また、上記組成物を枠に流し、120mW/cm2,1.7秒間の紫外線照射条件で硬化させ、厚さ2mmの硬化シートを作製し、JIS−K6249に基づき、硬さ、引裂き強度(クレセント)を測定した。それらの結果を表1に示した。
【0049】
[比較例1]
(A)成分として、(a−1)成分17.4部と、(a−2)成分62.3部と、(a−3)成分24.9部と、(B)成分として、HMe2SiO1/2及びSiO2単位からなる樹脂質共重合体[HM2SiO1/2単位/SiO2単位=1.6(モル比)、SiH基量0.00915mol/g、重量平均分子量1,230]5部、制御剤としてMeViSiO単位からなり、アルケニル基を0.0116mol/g含有する粘度3.45mPa・sの環状オルガノポリシロキサンオリゴマー0.3部、塩化白金酸の2−エチルヘキサノール溶液(Pt濃度2質量%)0.05部を均一に混合して、熱硬化性シリコーン組成物[(A)成分中のアルケニル基に対する(B)成分中のSiH基のモル比[H/Vi];約1.6、25℃でのBL型粘度計、ローター4番、60rpmでの測定結果が3.5Pa・s]を調製した。
上記組成物を型に流し、150℃で30分の加熱条件で硬化させた。室温(25℃)で1時間静置後脱型し、JIS−K6249に基づき線収縮率を求めた。
また、上記組成物を枠に流し、150℃で30分の加熱条件で硬化させ、厚さ2mmの硬化シートを作製し、JIS−K6249に基づき硬さ、引裂き強度(クレセント)を測定した。それらの結果を表1に示した。
【0050】
【表1】