特許第6020746号(P6020746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020746
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20161020BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20161020BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G02B5/22
   G02B5/28
   B32B7/02 103
【請求項の数】21
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-555008(P2015-555008)
(86)(22)【出願日】2014年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2014084352
(87)【国際公開番号】WO2015099060
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-270008(P2013-270008)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-232201(P2014-232201)
(32)【優先日】2014年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 麻奈
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】有嶋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】保高 弘樹
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/54864(WO,A1)
【文献】 特開2013−190553(JP,A)
【文献】 特開2004−102223(JP,A)
【文献】 特開2008−39961(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/105301(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20−5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収層および誘電体多層膜からなる光反射層を有する光学フィルタにおいて、下記(i)および(ii)の要件を満たし、
前記光吸収層が、下記(iv−1)および(iv−2)の要件を満たす紫外線吸収体を含む透明樹脂から構成されることを特徴とする光学フィルタ。
(i)入射角0°の分光透過率曲線において、波長430nm〜620nmの平均透過率が80%以上であり、波長430nm〜450nmの平均透過率が76%以上であり、波長735nm〜1100nmの平均透過率が5%以下であり、かつ波長350nm〜395nmの平均透過率が5%以下である。
(ii)入射角0°の分光透過率曲線において、400nm〜425nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ(UV)を有し、入射角30°の分光透過率曲線において、400nm〜425nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ30(UV)を有し、かつ前記波長の差の絶対値|λ(UV)−λ30(UV)|が5nm以下である。
(iv−1)ジクロロメタンに溶解して測定される350nm〜800nmの波長領域の光吸収スペクトルにおいて、415nm以下の波長領域に、少なくとも一つの吸収極大波長を有し、415nm以下の波長領域における吸収極大のうち、最も長波長側の吸収極大波長λmax(UV)は、360nm〜415nmにある。
(iv−2)ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、前記吸収極大波長λmax(UV)における透過率を10%としたとき、前記吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が90%となる波長λL90と、前記吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λL50との差λL90−λL50が13nm以下である。
【請求項2】
下記(iii)の要件をさらに満たす請求項1に記載の光学フィルタ。
(iii)入射角0°の分光透過率曲線において、600nm〜700nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ(IR)を有し、入射角30°の分光透過率曲線において、600nm〜700nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ30(IR)を有し、かつ前記波長の差の絶対値|λ(IR)−λ30(IR)|が5nm以下である。
【請求項3】
紫外線吸収体を含む前記透明樹脂は、350nm〜800nmの波長領域の光吸収スペクトルにおいて、415nm以下の波長領域に、少なくとも一つの吸収極大波長を有し、415nm以下の波長領域における吸収極大のうち、最も長波長側の吸収極大波長λmax・p(UV)が、360nm〜415nmにあり、
前記紫外線吸収体のλmax・P(UV)における透過率が10%となる量で含有したときに前記λmax・p(UV)より長波長で透過率が90%となる波長λp90と、前記λma
x・p(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λp50との差λp90−λp50
14nm以下である請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記紫外線吸収体が、オキサゾール系およびメロシアニン系からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記紫外線吸収体が、下記式(M)で表されるメロシアニン系色素を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【化13】
式(M)における記号は以下のとおりである。
Yは、QおよびQで置換されたメチレン基または酸素原子を表し、
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表し、
〜Qは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表し、
Zは、下記式(Z1)〜(Z5)で表される2価の基のいずれかを表す(ただし、QおよびQは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表し、Q10〜Q19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。)。
【化14】
【請求項6】
式(M)中、Q、QおよびQが、それぞれ独立に、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基であり、Q〜QおよびQ10〜Q19が、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜6のアルキル基である請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
式(M)中、Q、QおよびQが、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基であり、Q〜QおよびQ10〜Q19が、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
式(M)中、QおよびQが、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基である請求項5〜7のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
式(M)中、Yが酸素原子であり、Zが前記式(Z1)または式(Z2)で表される基である請求項5〜8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記紫外線吸収体が、下記式(N)で表される色素である請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【化15】
式(N)における記号は以下のとおりである。
は、それぞれ独立に、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示し、
は、それぞれ独立に、シアノ基、または−COOR(ただし、Rは、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基)を示す。
【請求項11】
前記光吸収層は、前記紫外線吸収体を透明樹脂100質量部に対して、0.01〜30質量部で含有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
前記光吸収層が、下記(v)の要件を満たす近赤外線吸収体を含む透明樹脂から構成される請求項1〜11のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(v)ジクロロメタンに溶解して測定される350nm〜800nmの波長領域の光吸収スペクトルにおいて、650nm〜800nmの波長領域に、最も長波長の吸収極大波長λmax(IR)を有する。
【請求項13】
前記近赤外線吸収体が、スクアリリウム系、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタ
ロシアニン系、ジチオール金属錯体系、アゾ系、ポリメチン系、フタリド系、ナフトキノン系、アン卜ラキノン系、インドフェノール系、ピリリウム系、チオピリリウム系、ク口コニウム系、テ卜ラデヒドオコリン系、卜リフェニルメタン系、アミニウム系およびジイモニウム系からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項12に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
前記光吸収層は、前記近赤外線吸収体を透明樹脂100質量部に対して、0.1〜30質量部で含有する請求項12または13に記載の光学フィルタ。
【請求項15】
前記光吸収層が、屈折率1.45以上の透明樹脂を含む請求項1〜14のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項16】
前記透明樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項15に記載の光学フィルタ。
【請求項17】
透明基材と、前記透明基材に積層された前記光吸収層および前記光反射層とを有する請求項1〜16いずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項18】
前記透明基材は、CuOを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはCuOを含有するリン酸塩系ガラスである請求項17に記載の光学フィルタ。
【請求項19】
前記透明基材の一方の主面上に前記吸収層を備え、前記透明基材の他方の主面上に前記光反射層を備える請求項17または18に記載の光学フィルタ。
【請求項20】
前記吸収層上に反射防止層を備える請求項19に記載の光学フィルタ。
【請求項21】
前記光反射層は、入射角0°の分光透過率曲線において、波長420nm〜695nmの透過率が85%以上であり、波長350nm〜400nmの透過率が5%以下であり、波長735nm〜1100nmの透過率が5%以下である請求項1〜20いずれか1項に記載の光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定波長領域の光を選択的に遮蔽する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な用途に、可視波長領域の光は透過するが、近赤外波長領域の光は遮断する光学フィルタが使用されている。
【0003】
例えば、固体撮像素子(CCD、CMOS等)を用いたデジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話カメラ等の撮像装置や、受光素子を用いた自動露出計等の表示装置には、良好な色再現性を得るため、光学フィルタが用いられている。固体撮像素子または受光素子の分光感度は紫外波長領域から近赤外波長領域にわたる一方で、人間の視感度は可視波長領域のみにある。固体撮像素子または受光素子の分光感度を人間の視感度に近づけるため、固体撮像素子の被写体側に光学フィルタが配置されている。
【0004】
このような光学フィルタは、様々な方式が提案されている。例えば、透明基板の片面または両面に、屈折率が異なる誘電体薄膜を交互に積層(誘電体多層膜)し、光の干渉を利用して遮蔽したい光を反射する反射型のフィルタが挙げられる。誘電体多層膜を有するフィルタは、光の入射角により光学特性が変化する場合がある。そのため、このようなフィルタを使用すると、固体撮像素子の分光感度が入射角の影響を受けるおそれがある。
【0005】
これに対し、特許文献1および2では、波長600nm〜800nmの光の入射角の影響が小さい光学フィルタとして、透明樹脂中に吸収色素を含有する吸収層を有する吸収型のフィルタや、誘電体多層膜と吸収層とを組み合わせたフィルタが記載されている。吸収層を有するフィルタは、光の入射角による光学特性の変化が小さいので、固体撮像素子の分光感度に対し、波長600nm〜800nmの光の入射角の影響を小さくできる。
【0006】
また、特許文献3には、波長380nm〜450nmの光を吸収する化合物を含む吸収層を有する光学フィルタが記載されている。また、これにより、波長380nm〜450nmの光の入射角依存性を低減できることが記載されている。
これに対し、固体撮像素子への高性能化が進み、光学フィルタには、透過率50%の波長を400nm以上とすること、および透過率が10%程度の波長から透過率が80%程度の波長の間にわたる平均透過率を高くすること(透過率の変化が急峻であること)が求められている。特許文献3に記載の光学フィルタは、これらの要求を十分に応えられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−181028号公報
【特許文献2】特開2008−051985号公報
【特許文献3】特開2013−190553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したとおり、従来の光学フィルタは、固体撮像素子の高性能化への要求に十分に応えられていなかった。すなわち、光の入射角の影響が小さく、固体撮像素子に取り込む可視波長領域の光の量を増やすことができる光学フィルタの提供が求められている。
本発明はこのような課題に基づいてなされたものであり、波長500nm以下において、光の入射角依存性が小さく、可視波長領域(可視光域ともいう。)の平均透過率が高い光学フィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る光学フィルタは、光吸収層および誘電体多層膜からなる光反射層を有する光学フィルタにおいて、下記(i)および(ii)の要件を満たし、光吸収層が、下記(iv−1)および(iv−2)の要件を満たす紫外線吸収体を含む透明樹脂から構成されることを特徴とする。
(i)入射角0°の分光透過率曲線において、波長430nm〜620nmの平均透過率が80%以上であり、波長430nm〜450nmの平均透過率が76%以上であり、波長735nm〜1100nmの平均透過率が5%以下であり、かつ波長350nm〜395nmの平均透過率が5%以下である。
(ii)入射角0°の分光透過率曲線において、400nm〜425nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ(UV)を有し、入射角30°の分光透過率曲線において、400nm〜425nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ30(UV)を有し、かつ前記波長の差の絶対値|λ(UV)−λ30(UV)|が5nm以下である。
(iv−1)ジクロロメタンに溶解して測定される350nm〜800nmの波長領域の光吸収スペクトルにおいて、415nm以下の波長領域に、少なくとも一つの吸収極大波長を有し、415nm以下の波長領域における吸収極大のうち、最も長波長側の吸収極大波長λmax(UV)は、360nm〜415nmにある。
(iv−2)ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、前記吸収極大波長λmax(UV)における透過率を10%としたとき、前記吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が90%となる波長λL90と、前記吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λL50との差λL90−λL50が13nm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学フィルタは、波長500nm以下において、光の入射角依存性が小さく、可視光域の平均透過率が高い。そのため、本発明の光学フィルタを使用すれば、固体撮像素子または受光素子の分光感度を人間の視感度に近付けることができ、また入射角の違いによる分光感度の違いを小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の光学フィルタを概略的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態の光学フィルタの変形例を概略的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態の光学フィルタの変形例を概略的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態の光学フィルタの変形例を概略的に示す断面図である。
図5】本発明の一実施例で得られた光学フィルタについて測定した分光透過率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明するが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に何ら限定されない。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、厚みの比率等は実際のものとは異なることに留意されたい。さらに、以下の説明において、同一もしくは略同一の機能および構成を有する構成用途については、同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
本発明の一実施形態による光学フィルタ(以下、本フィルタという)は、透明基材11、光吸収層(以下、吸収層という)12および光反射層(以下、反射層という)13を有する。
吸収層12および反射層13は、本フィルタの中にそれぞれ1層有し、一方を2層以上有してもよく、両方を2層以上有してもよい。吸収層12を、例えば2層有する場合、例えば、一方の層を、波長670nm〜780nmに吸収極大波長(後述するλmax・P(IR)に相当)を有する吸収体Aを含む樹脂からなる近赤外線吸収層とする。さらに、もう一方の層を、波長360nm〜415nmに吸収極大波長(後述するλmax・P(UV)に相当)を有する吸収体Uを含む樹脂からなる紫外線吸収層として、分けて構成してもよい。
また、吸収層12および反射層13は、透明基材11の同一主面上に有してもよく、異なる主面上に有してもよい。吸収層12と反射層13を同一主面上に有する場合、これらの積層順は限定されない。
【0014】
以下に本フィルタ構成例を、断面図を用いて説明する。ただし、本フィルタの構成は、これらの例に限定されない。
【0015】
図1(a)は、透明基材11の一方の主面に吸収層12を備え、透明基材11の他方の主面上に反射層13を備える構成の例である。
なお、「透明基材11の一方の主面に、吸収層12、反射層13等の他の層を備える」とは、透明基材11に接触して他の層が備わる場合に限らず、透明基材11と他の層との間に、別の機能層が備わっている場合も含むものと解釈し、以下の構成も同様である。
また、図1(b)は、吸収層12および反射層13を備えた構成例であり、本フィルタとして透明基材11を含まない構成であってもよい。
図2は、透明基材11の一方の主面に吸収層12および反射層13を備える構成の例である。
【0016】
図1(a)、図1(b)および図2において、吸収層12は、前述の近赤外線吸収層および紫外線吸収層の2層が含まれてもよい。例えば、図1(a)において、透明基材11上に近赤外線吸収層を有し、近赤外線吸収層上に紫外線吸収層を有する構成であってもよく、透明基材11上に紫外線吸収層を有し、紫外線吸収層上に近赤外線吸収層を有する構成であってもよい。
同様に、図2において、透明基材11上に近赤外線吸収層を有し、近赤外線吸収層上に紫外線吸収層を有する構成であってもよく、透明基材11上に紫外線吸収層を有し、紫外線吸収層上に近赤外線吸収層を有する構成であってもよい。
【0017】
図3は、透明基材11の一方の主面に吸収層12を備え、透明基材11の他方の主面上および吸収層12の主面上に、反射層13aおよび13bを備えた構成の例である。
図4は、透明基材11の両主面に吸収層12aおよび12bを備え、さらに吸収層12aおよび12bの主面上に、反射層13aおよび13bを備える構成の例である。
【0018】
図3および図4に示す構成の光学フィルタにおいて、組み合わせる2層の反射層13aと反射層13bは、同一でも異なってもよい。例えば、反射層13a、13bは、紫外波長領域および赤外波長領域を反射し、可視光域を透過する特性を有し、反射層13aが、紫外波長領域と第1の赤外波長領域を反射し、反射層13bが、紫外波長領域と第2の赤外波長領域を反射する構成であってもよい。なお、赤外波長領域のうち、第1の赤外波長領域は、第2の赤外波長領域よりも短波長側に位置するものとする。この場合、例えば、反射層13a、13bは、紫外波長領域として、波長350nm〜400nmの透過率を5%以下とする。さらに、反射層13aは、波長735nm〜900nmの透過率を5%以下とし、反射層13bは、波長900nm〜1100nmの透過率を5%以下にするような光学設計が与えられるようにしてもよい。
【0019】
また、図4に示す構成の光学フィルタにおいて、2層の吸収層12aと12bは、同一でも異なってもよい。2層の吸収層12aと12bが異なる場合、前述のように、例えば、吸収層12aが上述した近赤外線吸収層、吸収層12bが上述した紫外線吸収層であってもよく、吸収層12aが上述した紫外線吸収層、吸収層12bが上述した近赤外線吸収層であってもよい。
【0020】
なお、図示は省略したが、吸収層12、または第1の吸収層12aもしくは第2の吸収層12bが最表面の構成をとる場合には、吸収層上で反射による可視光透過率損失が発生するため、吸収層上に反射防止層を設けることが好ましい。さらに、反射防止層は、吸収層12、または第1の吸収層12aもしくは第2の吸収層12bの最表面だけでなく、吸収層の側面全体も覆う構成であってもよい。その場合、吸収層の防湿の効果を高めることができる。
【0021】
本フィルタは、下記(i)および(ii)の要件を満たす。
(i)入射角0°の分光透過率曲線において、波長430nm〜620nmの平均透過率が80%以上であり、波長430nm〜450nmの平均透過率が76%以上であり、波長735nm〜1100nmの平均透過率が5%以下であり、かつ波長350nm〜395nmの平均透過率が5%以下である。
(ii)入射角0°の分光透過率曲線において、400nm〜425nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ(UV)を有し、入射角30°の分光透過率曲線において、400nm〜425nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ30(UV)を有し、かつ前記波長の差の絶対値|λ(UV)−λ30(UV)|が5nm以下である。
【0022】
要件(i)を満たすフィルタを使用することで、波長430nm〜620nmにおいて固体撮像素子が取り込む光の量を多くでき、波長735nm以上や波長395nm以下の領域の光を遮蔽できる。これにより、固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけることができる。
要件(ii)を満たすフィルタを使用することで、波長400nm〜425nmにおける光の入射角依存性を低くできる。その結果、この波長における固体撮像素子の分光感度の入射角依存性を小さくできる。
【0023】
本明細書において、「入射角0°の分光透過率曲線」とは、光学フィルタの主面に垂直に入射する光の分光透過率曲線をいい、「入射角30°の分光透過率曲線」とは、光学フィルタの主面に垂直な方向に対して30°の角度をもって入射する光の分光透過率曲線をいう。
【0024】
本フィルタは、さらに要件(iii)を満たすことが好ましい。
(iii)入射角0°の分光透過率曲線において、600nm〜700nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ(IR)を有し、入射角30°の分光透過率曲線において、600nm〜700nmの波長領域に透過率が50%となる波長λ30(IR)を有し、かつ前記波長の差の絶対値|λ(IR)−λ30(IR)|が5nm以下である。
【0025】
要件(iii)を満たすフィルタを使用することで、波長600nm〜700nmにおける光の入射角依存性を低くできる。その結果、この波長における固体撮像素子の分光感度の入射角依存性を小さくできる。
【0026】
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長430nm〜620nmの平均透過率は、80%以上であり、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がさらに好ましい。光学フィルタの波長430nm〜620nmの平均透過率が高いほど、固体撮像素子の光の利用効率を高くできる。
【0027】
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長430nm〜450nmの波長領域の平均透過率は、76%以上であり、78%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。光学フィルタの波長430nm〜450nmの平均透過率が高いほど、波長λ(UV)より長波長側における光の透過率を高くでき、この波長領域における固体撮像素子の光の利用効率を高くできる。
【0028】
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長735nm〜1100nmの平均透過率は、5%以下であり、4%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長350nm〜395nmの平均透過率は、5%以下であり、4%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
光学フィルタの波長735nm〜1100nmおよび波長350nm〜395nmの平均透過率が低いほど、これらの領域の光を遮蔽できる。その結果、固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近付けることができる。光学フィルタの波長735nm〜1100nmおよび波長350nm〜395nmは、この波長領域の全波長において透過率が所定の値を超えないことがより一層好ましい。
【0029】
本フィルタは、波長395nm〜430nmにおいて、波長が長くなると透過率が高くなる。上記波長領域における透過率の変化は大きいが、波長λ(UV)および波長λ30(UV)は波長400nm〜425nmにある。波長λ(UV)および波長λ30(UV)は、波長405nm〜420nmにあることが好ましく、波長410nm〜420nmにあることがより好ましい。波長λ(UV)および波長λ30(UV)が、波長400nm〜425nmにあれば、この波長領域における光の入射角依存性を小さくできる。
【0030】
本フィルタは、|λ(UV)−λ30(UV)|が、5nm以下であり、3nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。|λ(UV)−λ30(UV)|は、波長400〜425nmにおける本フィルタの光の入射角依存性を示す指標である。この値が小さいほど入射角依存性が低いことを示している。
【0031】
本フィルタは、波長λ(IR)および波長λ30(IR)が波長620nm〜700nmにあることが好ましく、波長620nm〜680nmにあることがより好ましい。波長λ(IR)および波長λ30(IR)が波長620nm〜700nmにあれば、この波長領域における光の入射角依存性を小さくできる。
【0032】
本フィルタは、|λ(IR)−λ30(IR)|が5nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましく、2nm以下であることがより一層好ましい。|λ(IR)−λ30(IR)|は、600〜700nmの波長領域における本フィルタの光の入射角依存性を示す指標である。この値が小さいほど入射角依存性が低いことを示している。
【0033】
以下、本フィルタを構成する透明基材11、吸収層12および反射層13について説明する。
【0034】
(透明基材)
透明基材11の形状は特に限定されるものではなく、ブロック状であっても、板状であっても、フィルム状であってもよい。
【0035】
透明基材11の厚みは、構成する材料にも依存するが、0.03mm〜5mmが好ましく、薄型化の点から、0.05mm〜1mmがより好ましい。
【0036】
透明基材11は、可視光域の光を透過するものであれば、構成する材料は特に制限されない。例えば、ガラスや結晶等の無機材料や、樹脂等の有機材料が挙げられる。透明基材11は、光学フィルタとしての光学特性、機械特性等長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性等から無機材料であることが好ましい。加工性の観点から、ガラスが好ましい。
【0037】
透明基材11に使用できる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
【0038】
透明基材11に使用できるガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。
透明基材11に使用できる結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0039】
上記の材料は、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置において、モアレや偽色を低減するためのローパスフィルタや波長板の材料として使用される場合がある。透明基材11の材料として、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の複屈折性結晶を用いた場合には、本実施形態に係る光学フィルタに、ローパスフィルタや波長板の機能を付与できる。その結果、部品点数が削減できることから、撮像装置の小型化、薄型化に有効である。
【0040】
(吸収層)
吸収層12は、紫外線吸収体Uを含む透明樹脂から構成される。吸収層12は、近赤外線吸収体Aをさらに含むことが好ましい。
【0041】
本フィルタにおいて、吸収層12は、吸収体Uを含む透明樹脂からなる層と、吸収体Aを含む透明樹脂からなる層を別の層として複数の吸収層を設けるようにしてもよい。
この場合、吸収体Uを含む透明樹脂からなる層と、吸収体Aを含む透明樹脂からなる層はいずれが透明基材11の同一主面上に形成してもよく、透明基材11を挟むように両面にそれぞれ設けてもよい。
【0042】
本フィルタにおいて、吸収層12の厚さは、0.1μm〜100μmが好ましい。吸収層12が複数の吸収層からなる場合、各吸収層の合計の厚さが0.1μm〜100μmとなることが好ましい。吸収層12の厚さは、用途、すなわち使用する装置内の配置スペースや要求される吸収特性等に応じて適宜定められる。厚さが0.1μm未満では、所望の光学特性を十分に発現できないおそれがある。また、厚さが100μm超では層の平坦性が低下し、吸収率に面内のバラツキが生じるおそれがある。吸収層12の厚さは、0.3μm〜50μmがより好ましい。厚さが0.3μm〜50μmであれば、十分な光学特性と層の平坦性を両立できる。
【0043】
(紫外線吸収体U)
紫外線吸収体U(以下、吸収体Uともいう)は、波長430nm以下の光を吸収する化合物である。吸収体Uは、下記(iv−1)および(iv−2)の要件を満たすものが好ましい。
(iv−1)ジクロロメタンに溶解して測定される波長350nm〜800nmの吸収スペクトルにおいて、波長415nm以下に、少なくとも一つの吸収極大波長を有し、波長415nm以下における吸収極大のうち最も長波長側の吸収極大波長λmax(UV)が波長360nm〜415nmにある。
(iv−2)ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、前記吸収極大波長λmax(UV)における透過率を10%とする量で吸収体Uを溶かした場合に、前記吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が90%となる波長λL90と、前記吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λL50との差(λL90−λL50)が13nm以下である。
【0044】
(iv−1)の要件を満たす紫外線吸収体Uの吸収極大波長は、透明樹脂中においても大きく変化しない。すなわち、(iv−1)の要件を満たす吸収体Uを、透明樹脂に溶解または分散しても、樹脂中吸収スペクトルにおける吸収極大波長λmax・P(UV)が波長360〜415nmにあることが好ましい。
(iv−2)の要件を満たす紫外線吸収体Uは、透明樹脂に含まれる場合にも優れた急峻性を示す。すなわち、(iv−2)の要件を満たす吸収体Uを、透明樹脂に溶解または分散しても、透過率が50%となる波長λP50と透過率90%となる波長λP90の差(λP90〜λP50)が14nm以下であれば、ジクロロメタン中と同等の急峻性を示すので好ましく、13nm以下がより好ましく、12nm以下がより一層好ましい。
【0045】
(iv−1)の要件を満たす吸収体Uを使用すれば、透明樹脂中に溶解または分散して吸収層12として得られる本フィルタの波長λ(UV)と波長λ30(UV)をいずれも波長400nm〜425nmにできる。
(iv−2)の要件を満たす吸収体Uを使用すれば、透明樹脂中に溶解または分散して吸収層12として得られる本フィルタの透過率が50%となる波長と透過率が90%となる波長の差を小さくできる。すなわち、該波長において、分光透過率曲線の変化を急峻にできる。
【0046】
本明細書において、吸収体Uを、ジクロロメタンに溶解して測定される350nm〜800nmの波長領域の吸収スペクトルを「吸収体Uの吸収スペクトル」ともいう。
吸収体Uの吸収スペクトルにおける吸収極大波長λmax(UV)を「紫外線吸収体Uのλmax(UV)」という。
吸収体Uを、ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線を「紫外線吸収体Uの分光透過率曲線」という。
紫外線吸収体Uの分光透過率曲線において、紫外線吸収体Uのλmax(UV)における透過率が10%となる量で含有したときに、紫外線吸収体Uのλmax(UV)より長波長で透過率が90%となる波長を「λL90」といい、紫外線吸収体Uのλmax(UV)より長波長で透過率が50%となる波長を「λL50」という。
【0047】
また、本明細書において、吸収体Uを、透明樹脂に溶解して作製される吸収層の、測定される350nm〜800nmの波長領域の吸収スペクトルを「吸収体Uの樹脂中吸収スペクトル」ともいう。
吸収体Uの樹脂中吸収スペクトルにおける吸収極大波長λmax・P(UV)を「紫外線吸収体Uのλmax・P(UV)」という。
吸収体Uを、透明樹脂に溶解して作製される吸収層の測定される分光透過率曲線を「紫外線吸収体Uの樹脂中分光透過率曲線」という。
紫外線吸収体Uの樹脂中分光透過率曲線において、紫外線吸収体Uのλmax・P(UV)における透過率が10%となる量で含有したときに、紫外線吸収体Uのλmax・P(UV)より長波長で透過率が90%となる波長を「λP90」といい、紫外線吸収体Uのλmax・P(UV)より長波長で透過率が50%となる波長を「λP50」という。
【0048】
紫外線吸収体Uの波長λmax(UV)は、365nm〜415nmにあることが好ましく、370nm〜410nmにあることがより好ましい。紫外線吸収体Uの波長λmax(UV)がこの波長領域にあることで上述した効果、すなわち、波長400nm〜425nmにおいて、分光透過率曲線の急峻な変化が得られやすい。
また、吸収体UのλL90とλL50の差(λL90−λL50)は、12nm以下が好ましく、11nm以下がより好ましく、9nm以下であることがより一層好ましい。λL90−λL50がこの波長領域にあることで上述した効果が得られやすい。
【0049】
上記要件(iv−1)および(iv−2)を満たす吸収体Uの具体例としては、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。
市販品としては、例えば、オキサゾール系として、Uvitex(登録商標)OB(Ciba社製 商品名)、Hakkol RF−K(昭和化学工業(株)製 商品名)、Nikkafluor EFS、Nikkafluor SB−conc(以上、いずれも日本化学工業(株)製 商品名)等が挙げられる。メロシアニン系として、S0511(Few Chemicals社製 商品名)等が挙げられる。シアニン系として、SMP370、SMP416(以上、いずれも(株)林原製 商品名)等が挙げられる。ナフタルイミド系として、Lumogen(登録商標)F violet570(BASF社製 商品名)等が挙げられる。
【0050】
吸収体Uとして、下記一般式(N)で示される色素も挙げられる。なお、本明細書中、特に断らない限り、式(N)で表される色素を色素(N)と記す。他の式で表される色素も同様に記す。また、式(1n)で表される基を基(1n)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
【0051】
【化1】
【0052】
式(N)中、Rは、それぞれ独立に、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。
また、式(N)中、Rは、それぞれ独立に、シアノ基、または下記式(n)で示される基である。
−COOR …(n)
式(n)中、Rは、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。
【0053】
色素(N)中のRとしては、下記式(1n)〜(4n)で示される基が中でも好ましい。また、色素(N)中のRとしては、下記式(5n)で示される基が中でも好ましい。
【0054】
【化2】
【0055】
色素(N)の具体例としては、表1に示す構成の色素(N−1)〜(N−4)が例示できる。なお、表1におけるRおよびR6の具体的な構造は、上記式(1n)〜(5n)に対応する。表1には対応する色素略号も示した。なお、色素(N−1)〜(N−4)において、2個存在するRは同じであり、Rも同様である。
【0056】
【表1】
【0057】
以上例示した吸収体Uの中でも、オキサゾール系、メロシアニン系の色素が好ましく、その市販品としては、例えば、Uvitex(登録商標)OB、Hakkol RF−K、S0511が挙げられる。
【0058】
(メロシアニン系色素)
吸収体Uとしては、特に、下記一般式(M)で示されるメロシアニン系色素が好ましい。
【0059】
【化3】
式(M)中、Yは、QおよびQで置換されたメチレン基または酸素原子を示す。ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基であることが好ましく、いずれも水素原子であるか、少なくとも一方が水素原子で他方が炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。特に好ましくは、QおよびQはいずれも水素原子である。
【0060】
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
が無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
置換基を有する炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0061】
好ましいQは、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。
特に好ましいQは炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0062】
〜Qは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。
およびQは、少なくとも一方がアルキル基であることが好ましく、いずれもアルキル基であることがより好ましい。QまたはQがアルキル基でない場合は、水素原子であることがより好ましい。QおよびQは、いずれも炭素数1〜6のアルキル基であることが特に好ましい。
およびQは、少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、いずれも水素原子であることがより好ましい。QまたはQが水素原子でない場合は、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0063】
Zは、下記式(Z1)〜(Z5)で表される2価の基のいずれかを表す。
【化4】
【0064】
式(Z1)〜(Z5)において、QおよびQは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。QおよびQは、異なる基であってもよいが、同一の基であることが好ましい。
置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および、水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
およびQが無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
置換基を有する1価の炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
好ましいQおよびQは、いずれも、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。
特に好ましいQおよびQは、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0065】
10〜Q19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基は、前記Q、Qと同様の炭化水素基である。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
10とQ11は、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましく、それらは同一のアルキル基であることが特に好ましい。
12、Q15は、いずれも水素原子であるか、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。同じ炭素原子に結合した2つの基(Q13とQ14、Q16とQ17、Q18とQ19)は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0066】
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物、および、YがQおよびQで置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物が好ましい。
Yが酸素原子である場合のZとしては、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも水素原子であるかいずれも炭素数炭素数1〜6のアルキル基、Q、Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)がより好ましい。特に、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q、Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)が好ましい。
YがQおよびQで置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物としては、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも水素原子であるかいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q〜Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)が好ましく、Qが炭素数1〜6のアルキル基、Q〜Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)がより好ましい。
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物が好ましく、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)である化合物が特に好ましい。
【0067】
色素(M)の具体例としては、以下の式(M−1)〜(M−11)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0068】
【化6】
【0069】
また、吸収体Uとして、Exiton社製のABS407、QCR Solutions Corp.社製のUV381A、UV381B、UV382A、UV386A、VIS404A、HW Sand社製のADA1225、ADA3209、ADA3216、ADA3217、ADA3218、ADA3230、ADA5205、ADA2055、ADA6798、ADA3102、ADA3204、ADA3210、ADA2041、ADA3201、ADA3202、ADA3215、ADA3219、ADA3225、ADA3232、ADA4160、ADA5278、ADA5762、ADA6826、ADA7226、ADA4634、ADA3213、ADA3227、ADA5922、ADA5950、ADA6752、ADA7130、ADA8212、ADA2984、ADA2999、ADA3220、ADA3228、ADA3235、ADA3240、ADA3211、ADA3221、ADA5220、ADA7158、CRYSTALYN社製のDLS381B、DLS381C、DLS382A、DLS386A、DLS404A、DLS405A、DLS405C、DLS403A等を用いてもよい。
【0070】
吸収層12中における吸収体Uの含有量は、本フィルタの入射角0°の分光透過率曲線の波長400nm〜425nmに透過率が50%となる波長を有するように定めることが好ましい。吸収体Uは、吸収層12中において、透明樹脂100質量部に対して、0.01〜30質量部含有されるのが好ましく、0.05〜25質量部がより好ましく、0.1〜20質量部がより一層好ましい。
吸収体Uは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
(近赤外線吸収体A)
近赤外線吸収体A(以下、吸収体Aともいう)としては、下記(v)の要件を満たすものが好ましい。
(v)ジクロロメタンに溶解して測定される350nm〜800nmの波長領域の光吸収スペクトルにおいて、650nm〜800nmの波長領域に、最も長波長の吸収極大波長λmax(IR)を有する。
(v)の要件を満たす吸収体Aを使用すれば、透明樹脂中に溶解または分散して吸収層12として得られる本フィルタの波長λ(IR)と波長λ30(IR)を波長600nm〜700nmにできる。
【0072】
本明細書において、吸収体Aを、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350nm〜800nmの波長領域の吸収スペクトルを、「吸収体Aの吸収スペクトル」という。また、吸収体Aの吸収スペクトルにおける吸収極大波長λmax(IR)を「近赤外線吸収体のλmax(IR)」という。
【0073】
吸収体Aの吸収極大波長λmax(IR)は、波長670nm〜780nmにあるとより好ましく、波長680nm〜765nmにあるとより一層好ましい。また、吸収体Aの吸収スペクトルにおいて、波長620nm以下に実質的に吸収極大を持たないものであることが好ましい。ここで、実質的に吸収極大を持たないとは、ジクロロメタン中において、吸収極大波長λmax(IR)の透過率が10%となる量で吸収体Aを溶かした場合に、波長620nm以下において、透過率が90%以上であることをいう。
【0074】
本実施形態に好適な、上記要件(v)を満たしている吸収体Aの具体例としては、例えば、ジイモニウム系、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ジチオール金属錯体系、アゾ系、ポリメチン系、フタリド、ナフトキノン系、アントラキノン系、インドフェノール系、ピリリウム系、チオピリリウム系、スクアリリウム系、クロコニウム系、テトラデヒドオコリン系、トリフェニルメタン系、アミニウム系等の色素が挙げられ
る。
【0075】
吸収体Aとしては、吸収波長を多種自在に選定できること、吸収の急峻性を任意に設計でき、可視光域での吸収が少ないこと、高い信頼性を有すること等の点から、上記吸収体Aの中でも、スクアリリウム系、シアニン系、およびジイモニウム系の色素が好ましく、スクアリリウム系、およびシアニン系の色素がより好ましい。
シアニン系色素の市販品としては、例えば、S0322、S0830、S2086、S2137、S2138、S2139、S2265(以上、いずれもFew Chemicals社製 商品名)等が挙げられる。
【0076】
(スクアリリウム系色素)
吸収体Aとしては、下記一般式(A1)で示されるスクアリリウム系色素(A1)が特に好ましい。
【0077】
【化7】
【0078】
ただし、式(A1)中の記号は以下のとおりである。
Xは、独立して1つ以上の水素原子が炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい下記式(1)または式(2)で示される2価の有機基である。
−(CHn1− …(1)
式(1)中n1は、2または3である。
−(CHn2−O−(CHn3− …(2)
式(2)中、n2とn3はそれぞれ独立して0〜2の整数であり、n2+n3は1または2である。
は、独立して飽和環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜12の飽和もしくは不飽和炭化水素基、炭素数3〜12の飽和環状炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜13のアルアリール基を示す。
およびRは、独立して水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
は、独立して1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよく、分岐を有してもよい炭素数1〜25の炭化水素基である。
【0079】
上述において、飽和もしくは不飽和の環構造とは、炭化水素環および環構成原子として酸素原子を有するヘテロ環をいう。さらに、環を構成する炭素原子に炭素数1〜10のアルキル基が結合した構造もその範疇に含むものとする。
また、アリール基は芳香族化合物が有する芳香環、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フラン環、チオフェン環、ピロール環等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。アルアリール基は、1以上のアリール基で置換された、飽和環構造を含んでもよい直鎖状もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和炭化水素基または飽和環状炭化水素基をいう。
式(2)において、酸素原子の位置は、特に制限されない。すなわち、窒素原子と酸素原子が結合してもよく、ベンゼン環に酸素原子が直接結合してもよい。また、炭素原子に挟まれるように酸素原子が位置してもよい。
【0080】
なお、色素(A1)中、左右のXは同一であっても異なってもよいが、生産性の観点から同一が好ましい。またR〜Rについても、スクアリリウム骨格を挟んで左右で同一であっても異なってもよいが、生産性の観点から同一が好ましい。
【0081】
色素(A1)は、下記式(A11)および(A12)で表される色素(A11)および色素(A12)がさらに好ましい。式(A11)および(A12)中、R〜Rは色素(A1)におけるR〜Rと同じ意味である。また、Meはメチル基を表す。
【0082】
【化8】
【0083】
【化9】
【0084】
色素(A1)中、Rは、耐熱性と信頼性向上の観点から、独立して分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基が好ましく、分岐を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシ基がより好ましい。透明樹脂への溶解性を高めるため、分岐を有する炭素数1〜6のアルキル基がさらに好ましい。
また、色素(A1)中、RおよびRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましい。RおよびRは、いずれも水素原子がより好ましい。
【0085】
色素(A1)中のRは、下記式(4)で示される炭素数5〜25の分枝状の炭化水素基が好ましい。
−CH3−m13 …(4)
ただし、式(4)中、mは1、2または3であり、R13はそれぞれ独立して、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよい直鎖状または分枝状の炭化水素基(ただし、mが1のときは分枝状である。)を示し、かつm個のR13の炭素数の合計は4〜24である。透明樹脂への溶解性の観点から、mは2または3が好ましい。
【0086】
13が有してもよい飽和環構造としては、炭素数4〜14の環状エーテル、シクロアルカン、アダマンタン環、ジアダマンタン環等が挙げられる。また、不飽和環構造としてはベンゼン、トルエン、キシレン、フラン、ベンゾフラン等が挙げられる。環構造を有する場合、R13の炭素数は環の炭素数を含む数で示される。
【0087】
また、Rは、有機溶媒および透明樹脂への溶解性の観点から独立して置換基を有しない炭素数6〜20の分枝状の炭化水素基が好ましい。Rの炭素数はより好ましくは6〜17であり、さらに好ましいのは6〜14である。
【0088】
色素(A1)中のRとしては、基(4)のうちでも、m=1の基として下記式(1a)、(1b)で示される基が、m=2の基として下記式(2a)〜(2e)で示される基が、m=3の基として下記式(3a)〜(3e)で示される基が好ましい。これらの中でも、溶解性の観点から基(1b)、(2a)〜(2e)、(3b)が特に好ましい。
【0089】
【化10】
【化11】
【0090】
吸収体Aは色素(A11)がより好ましく、色素(A11)の中でも、表2に示す構成の色素(A11−1)〜(A11−19)が、溶解性、色素の耐熱性の観点から特に好ましい。なお、表2中、「−」は水素原子を意味する。n−Cは直鎖のプロピル基を示し、i−Cは1−メチルエチル基を示す。表2におけるRの具体的な構造は、上記式(1a)、(1b)、(2a)〜(2e)、(3a)〜(3e)に対応する。表2には対応する色素略号も示した。なお、色素(A11−1)〜(A11−19)において、左右に1個ずつ計2個存在するRは左右で同じであり、R〜Rについても同様である。
【0091】
【表2】
【0092】
吸収層12中における吸収体Aの含有量は、透明樹脂100質量部に対して、0.1〜30質量部の範囲が好ましい。0.1質量部以上とすることで所望の近赤外線吸収能が得られ、30質量部以下とすることで、近赤外線吸収能の低下やヘイズ値の上昇等が抑制される。これらの観点から、0.5〜25質量部の範囲がより好ましく、1〜20質量部がより好ましい。また、これらの吸収体Aは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0093】
吸収層12には、上述の吸収体Uおよび吸収体Aの他にさらに、本発明の効果を損なわない範囲で、この種の吸収層が通常含有する各種任意成分を含有してもよい。任意成分としては、例えば、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。また、上述の吸収体Uおよび吸収体A以外の紫外線吸収体および近赤外線吸収体も、本発明の効果を損なわない範囲で、含有してもよい。
【0094】
上述の吸収体U以外の紫外線吸収体としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、トリアジン系、オキザニリド系、ニッケル錯塩系、その他の無機系化合物(例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト)等が挙げられる。
市販品としては、例えば、TINUVIN 326、TINUVIN 460、TINUVIN 479(以上、いずれもBASF社製 商品名)、BONA 3911(オリエント化学(株)製 商品名)等が挙げられる。
【0095】
吸収体A以外の近赤外線吸収体としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、ホウ化ランタン等の無機微粒子が挙げられる。
【0096】
吸収層12における透明樹脂は、上述した吸収体Uおよび吸収体A、さらには各種任意成分の溶解性または分散性観点から、屈折率(n)(波長589nm)が1.45以上であることが好ましく、1.5以上がより好ましく、1.6以上がより一層好ましい。透明樹脂の屈折率の上限は特にないが、入手のしやすさ等から1.72程度が好ましい。また、透明樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、0℃〜380℃であることが好ましく、40℃〜370℃がより好ましく、100℃〜360℃がより一層好ましい。透明樹脂のガラス転移温度(Tg)が0℃〜380℃の範囲であれば、本フィルタの製造プロセスや使用中において、熱による劣化や変形を抑制できる。
【0097】
透明樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、が挙げられる。これらの中でも、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、または環状オレフィン樹脂が好ましい。透明樹脂は、原料成分の分子構造を調整する等により、屈折率を調整できる。具体的には、原料成分のポリマーの主鎖や側鎖に特定の構造を付与する方法が挙げられる。ポリマー内に付与する構造は特に限定されないが、例えば、フルオレン骨格が挙げられる。
【0098】
透明樹脂として、市販品を用いてもよい。市販品としては、アクリル樹脂として、オグソール(登録商標)EA−F5003(大阪ガスケミカル(株)製、商品名、屈折率:1.60)、ポリメチルメタクリレート(屈折率:1.49)、ポリイソブチルメタクリレート(屈折率:1.48)(以上、いずれも東京化成工業(株)製、商品名)、BR50(三菱レイヨン(株)製、商品名、屈折率:1.56)等が挙げられる。
【0099】
また、ポリエステル樹脂として、OKP4HT(屈折率:1.64)、OKP4(屈折率:1.61)、B−OKP2(屈折率:1.64)、OKP−850(屈折率:1.65)(以上、いずれも大坂ガスケミカル(株)製、商品名)、バイロン(登録商標)103(東洋紡(株)製、商品名、屈折率:1.55)、ポリカーボネート樹脂として、LeXan(登録商標)ML9103(sabic社製、商品名、屈折率:1.59)、EP5000(三菱ガス化学(株)社製、商品名、屈折率1.63)、SP3810(帝人化成(株)製、商品名、屈折率1.63)、SP1516(帝人化成(株)製、商品名、屈折率1.60)、TS2020(帝人化成(株)製、商品名、屈折率1.59)、やxylex(登録商標) 7507(sabic社製、商品名)、ポリシクロオレフィン樹脂として、ARTON(登録商標)(JSR(株)製、商品名、屈折率:1.51)、ZEONEX(登録商標)(日本ゼオン(株)製、商品名、屈折率:1.53)等が挙げられる。
【0100】
吸収層12は、例えば、紫外線吸収体Uと、近赤外線吸収体Aと、透明樹脂または透明樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを透明基材11に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させることにより形成できる。
【0101】
紫外線吸収体U、近赤外線吸収体A、透明樹脂等を溶解または分散するための溶媒としては、紫外線吸収体U、近赤外線吸収体A、透明樹脂または透明樹脂の原料成分、必要に応じて配合される各成分を、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であれば、特に限定されない。なお、本明細書において「溶媒」の用語は、分散媒および溶媒の両方を含む概念で用いられる。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、トリデシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレンアルコール、グリセリン等のグリコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコール等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチレンエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロルエチレン、四塩化炭素、トリクロルエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の芳香族、またはn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサノリグロイン等の脂肪族炭化水素類、テトラフルオロプロピルアルコール、ペンタフルオロプロピルアルコール等のフッ素系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で、または2種以上を混合して使用できる。
【0102】
溶媒の量は、透明樹脂または透明樹脂の原料成分100質量部に対して、10質量部〜5,000質量部が好ましく、30質量部〜2,000質量部がより好ましい。なお、塗工液中の不揮発成分(固形分)の含有量は、塗工液全量に対して2質量%〜50質量%が好ましく、5質量%〜40質量%がより好ましい。
【0103】
塗工液には、界面活性剤を含有させることもできる。界面活性剤を含有させることにより、外観、特に、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじきを改善できる。界面活性剤は、特に限定されず、カチオン系、アニオン系、ノニオン系等の公知のものを任意に使用できる。
【0104】
塗工液中の透明樹脂、紫外線吸収体U、近赤外線吸収体A等の固形分濃度は、塗工液の塗工方法にもよるが、一般には、10質量%〜60質量%の範囲である。固形分濃度が低すぎると、塗工ムラが生じやすくなる。逆に、固形分濃度が高すぎると、塗工外観が不良となりやすくなる。
【0105】
塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、インクジェット法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
【0106】
上記塗工液を透明基材11上に塗工した後、乾燥させることにより吸収層12が形成される。乾燥には、熱乾燥、熱風乾燥等の公知の方法を使用できる。塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合には、さらに硬化処理を行う。反応が熱硬化の場合は乾燥と硬化を同時に行うことができるが、光硬化の場合は、乾燥と別に硬化工程を設ける。
【0107】
なお、上記塗工液を透明基材11とは別の剥離性の支持基材上に塗工して形成した吸収層12を、支持基材から剥離して透明基材11上に貼着してもよい。剥離性の支持基材は、フィルム状であっても板状であってもよく、剥離性を有するものであれば、材料も特に限定されない。具体的には、ガラス板や、離型処理されたプラスチックフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等からなるフィルム、ステンレス鋼板等が使用される。
【0108】
また、吸収層12は、透明樹脂の種類によっては、押出成形によりフィルム状に製造することも可能であり、さらに、このように製造した複数のフィルムを積層し熱圧着等により一体化させてもよい。これらを、その後、透明基材11上に貼着する。
【0109】
なお、塗工液の塗工にあたって、透明基板11(または剥離性の基材)に前処理を施すこともできる。前処理剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、(3−ウレイドプロピル)トリメトキシシラン等を使用できる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0110】
(反射層)
反射層13は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。ここで、低屈折率と高屈折率とは、隣接する層の屈折率に対して低い屈折率と高い屈折率を有することを意味する。
高屈折率の誘電体膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2〜2.5である。高屈折率の誘電体膜材料としては、例えばTa、TiO、Nbが挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiOが好ましい。
一方、低屈折率の誘電体膜は、好ましくは、屈折率1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満であり、より一層好ましくは1.45〜1.47である。低屈折率の誘電体膜材料としては、例えばSiO、SiO等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiOが好ましい。
【0111】
反射層13は、光の干渉を利用して特定の波長領域の光の透過と遮蔽を制御する機能を発現し、その透過・遮蔽特性には入射角依存性がある。一般的には、反射により遮蔽する光の波長は、垂直に入射する光(入射角0°)より、斜めに入射する光のほうが短波長になる。
本実施形態において、反射層13を構成する誘電体多層膜は、入射角0°の分光透過率曲線において、波長420nm〜695nmの透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がより一層好ましい。また、入射角0°の分光透過率曲線において、波長350nm〜400nmの透過率が5%以下であることが好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がより一層好ましい。さらに、入射角0°の分光透過率曲線において、波長735nm〜1100nmの透過率が5%以下であることが好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がより一層好ましい。
【0112】
さらに、誘電体多層膜は、透過光波長と遮光波長の境界波長領域で透過率が急峻に変化するものであることが好ましい。この目的のためには、誘電体多層膜は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜との合計積層数として15層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、30層以上がさらに好ましい。ただし、合計積層数が多くなると、誘電体多層膜の反り等が発生し、また、誘電体多層膜の膜厚が増加するため、100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。低屈折率誘電体膜と高屈折率誘電体膜の積層順は交互であれば、最初の層が低屈折率誘電体膜であっても高屈折率誘電体膜であってもよい。
【0113】
誘電体多層膜の膜厚としては、上記好ましい積層数を満たした上で、光学フィルタの薄型化の観点からは、薄い方が好ましい。このような誘電体多層膜の膜厚としては、選択波長遮蔽特性によるが、2μm〜10μmが好ましい。
【0114】
誘電体多層膜の形成にあたっては、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0115】
なお、反射層13は、本実施形態のように、単層で所定の反射特性を有するようにしてもよく、複数層で所定の反射特性を有するようにしてもよい。複数層設ける場合には、透明基材11の一方の側に設けてもよく、透明基材11を挟んでその両側に設けるようにしてもよい。
【0116】
本フィルタの構成は、透明基材11、吸収層12および反射層13を有する以外は特に制限されない。したがって、他の構成要素を加えることもできる。他の構成要素としては、例えば、特定の波長領域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等が挙げられる。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光域の光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域も含めた広範囲の光吸収性を有するため、かかる赤外波長領域の光の遮蔽性を必要とする場合に好ましい。
【0117】
本フィルタは、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等のNIRフィルタとして使用できる。本フィルタは、上記撮像装置において好適に用いられ、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間、撮像レンズとカメラの窓材との間、およびその両方に配置できる。また、上述のとおり、本フィルタは、撮像レンズおよびカメラの窓材を透明基材として、撮像レンズおよび窓材の一方の主表面側に赤外線吸収層を有してもよい。
【0118】
また、本フィルタは、撮像装置の固体撮像素子、自動露出計の受光素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着して使用することもできる。さらに、車両(自動車等)のガラス窓やランプにも同様に粘着剤層を介して直接貼着して使用できる。
【実施例】
【0119】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0120】
[評価]
各例における透過率は、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて分光透過率曲線を測定し、算出した。
【0121】
各例で使用した吸収体Uおよびこれらに対応する式番号とジクロロメタンに溶解して測定されるλmax(UV)、波長λL90、波長λL50およびλL90−λL50を表3に
示す。表3において、(U15)は下記式(U15)で表されるインドール化合物であり、(U18)は、下記式(U18)で表されるベンゾトリアゾール化合物である。
吸収体Aは、スクアリリウム系色素(A1、明細書中のA11−14に相当)とシアニン系色素(A2、Few Chemicals社製、商品名:S2137)を使用した。
【0122】
【表3】
【0123】
【化12】
【0124】
(1)透明樹脂中における吸収体Uの急峻性評価
以下に、要件(iv−2)を満たす紫外線吸収体Uが、透明樹脂に含まれる場合にも優れた急峻性を持つことを示す。
表3に示すとおり、紫外線吸収体(U1)〜(U14)は、紫外線吸収体Uの上記要件(iv−1)および(iv−2)をいずれも満たす。一方、紫外線吸収体(U15)は上記要件(iv−2)を満たさない。また、紫外線吸収体(U16)〜(U18)は、上記要件(iv−1)および(iv−2)をいずれも満たさない。
【0125】
a.透明樹脂サンプル(I)の作製および評価
表4に示すとおり、紫外線吸収体(U1)〜(U18)のいずれかと、ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:B−OKP2、屈折率:1.64)の15質量%シクロヘキサノン溶液とを混合し、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。いずれの例においても、吸収体Uの吸収極大波長λmax・P(UV)において、透過率が10%になるような含有量で、吸収体Uを混合した。
【0126】
上記で得られた塗工液を、透明基板(旭硝子(株)製、商品名:AN100)上にスピンコート法により塗布し、加熱乾燥させ、厚さ3.0μmの吸収層を形成し、透明樹脂サンプル(例2−1〜例2−18)とした。
作製した透明樹脂サンプルについて、分光透過率曲線(入射角0°)を測定した結果を表4に示す。表4におけるλmax・P(UV)は、各透明樹脂サンプルの極大吸収波長である。λP50とλP90は各透明樹脂サンプルについて、前記吸収極大波長λmax・P(UV)における透過率を10%とする量で吸収体Uを溶かした場合に、前記吸収極大波長λmax・P(UV)より長波長でそれぞれ、波長500nm以下の透過率50%および透過率90%となる波長である。
【0127】
表4に示す値は、透明樹脂サンプルの分光透過率曲線から、ガラス板の透過率等を減算した値である。具体的にはガラス板の吸収、ガラス板と吸収層界面、ガラス板と空気界面の反射の影響を差し引いて、吸収層と空気界面での反射を計算した値となっている。なお、次述する表5以降も表4と同様に計算した値を示す。
【0128】
【表4】
【0129】
表4から、例2−1〜2−18において、紫外線吸収体(U1)〜(U14)を含む例2−1〜例2−14は、λP90−λP50が8nm〜11nmである。一方、紫外線吸収体(U15)〜(U18)を含む例2−15〜例2−18は、λP90−λP50が16nm〜53nmであった。これから、ポリエステル樹脂を用いた例において、要件(iv−2)を満たす吸収体Uを含む例は、樹脂膜(吸収層)としてもλP90−λP50が短く、要件(iv−2)を満たさない吸収体を含む例は、樹脂膜(吸収層)としてもλP90−λP50が長くなることがわかる。
【0130】
b.透明樹脂サンプル(II)の作製および評価
透明樹脂として、ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:OKP850、屈折率:1.65)を使用した以外は、例2−1〜例2−18と同様にして、例3−1〜例3−14の透明樹脂サンプルを作製した。作製した透明樹脂サンプルについて、分光透過率曲線(入射角0°)を測定した結果を表5に示す。
【0131】
【表5】
【0132】
表5から、例3−1〜3−14において、各紫外線吸収体を含む例3−1〜例3−10は、λP90−λP50が8nm〜14nmである。一方、紫外線吸収体(U15)〜(U18)を含む例3−11〜例3−14は、λP90−λP50が17nm〜35nm、若しくは該当する値が得られなかった。
【0133】
c.透明樹脂サンプル(III)の作製および評価
透明樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製、商品名:SP3810、屈折率:1.63)を使用した以外は、例2−1〜例2−18と同様にして、例4−1〜例4−18の透明樹脂サンプルを作製した。作製した透明樹脂サンプルについて、分光透過率曲線(入射角0°)を測定した結果を表6に示す。
【0134】
【表6】
【0135】
表6から、例4−1〜例4−18において、紫外線吸収体(U1)〜(U14)を含む例4−1〜例4−14は、λP90−λP50が9nm〜11nmである。一方、紫外線吸収体(U15)〜(U18)を含む例4−15〜例4−18は、λP90−λP50が17nm〜58nmであった。これから、ポリカーボネート樹脂を用いた例において、要件(iv−2)を満たす吸収体Uを含む例は、樹脂膜(吸収層)としてもλP90−λP50が短く、要件(iv−2)を満たさない吸収体を含む例は、樹脂膜(吸収層)としてもλP90−λP50が長くなることがわかる。
【0136】
d.透明樹脂サンプル(IV)の作製および評価
透明樹脂として、ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学(株)製、商品名:EP5000、屈折率:1.63)を使用した以外は、例2−1〜例2−18と同様にして、例5−1〜例5−18の透明樹脂サンプルを作製した。作製した透明樹脂サンプルについて、分光透過率曲線(入射角0°)を測定した結果を表7に示す。
【0137】
【表7】
【0138】
表7から、例5−1〜5−18において、紫外線吸収体(U1)〜(U14)を含む例5−1〜例5−14は、λP90−λP50が9nm〜12nmである。一方、紫外線吸収体(U15)〜(U18)を含む例5−15〜例5−18は、λP90−λP50が16nm〜64nmであった。これから、ポリカーボネート樹脂を用いた例において、要件(iv−2)を満たす吸収体Uを含む例は、樹脂膜(吸収層)としてもλP90−λP50が短く、要件(iv−2)を満たさない吸収体を含む例は、樹脂膜(吸収層)としてもλP90−λP50が長くなることがわかる。
【0139】
e.透明樹脂サンプル(V)の作製および評価
透明樹脂として、アクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名:BR50、屈折率:1.56)を使用した以外は、例2−1〜例2−18と同様にして、例6−1〜例6−16の透明樹脂サンプルを作製した。作製した透明樹脂サンプルについて、分光透過率曲線(入射角0°)を測定した結果を表8に示す。
【0140】
【表8】
【0141】
表8から、例6−1〜例6−16において、各紫外線吸収体を含む例6−1〜例6−12は、λP90−λP50が9nm〜11nmである。一方、紫外線吸収体(U15)〜(U18)を含む例6−13〜例6−16は、λP90−λP50が15nm〜70nm、若しくは該当する値が得られなかった。
【0142】
f.透明樹脂サンプル(VI)の作製および評価
透明樹脂として、ポリシクロオレフィン樹脂(JSR(株)製、商品名:ARTON(登録商標)、屈折率:1.51)を使用した以外は、例2−1〜例2−18と同様にして、例7−1〜例7−16の透明樹脂サンプルを作製した。作製した透明樹脂サンプルについて、分光透過率曲線(入射角0°)を測定した結果を表9に示す。
【0143】
【表9】
【0144】
表9から、例7−1〜例7−16において、各紫外線吸収体を含む例7−1〜例7−12は、λP90−λP50が9nm〜12nmである。一方、紫外線吸収体(U15)〜(U18)を含む例7−13〜例7−16は、λP90−λP50が15nm、若しくは該当する値が得られなかった。
【0145】
上記のように、ポリエステル樹脂OKP850、ポリカーボネート樹脂SP3810、EP5000、アクリル樹脂BR50、ポリシクロオレフィン樹脂ARTON(登録商標)のいずれの透明樹脂においても、ポリエステル樹脂B−OKP2同様の傾向の結果が得られる。したがって、要件(iv−2)を満たす吸収体(U1)〜(U14)を含む例は、樹脂膜としてもλP90−λP50が短く、要件(iv−2)を満たさない吸収体(U15)〜(U18)を含む例は、樹脂膜としてもλP90−λP50が長くなることがわかる。以上から、要件(iv−2)を満たす吸収体Uは、透明樹脂に含まれた場合おいても急峻性を示すといえる。
【0146】
(2)光学フィルタの評価(光学特性)
[反射層の設計]
反射層は、厚さ0.3mmのガラス(旭硝子(株)製、商品名:AN100)基板に蒸着法によりシリカ(SiO;屈折率1.46)層とチタニア(TiO;屈折率2.41)層とを交互に積層して、表10に示すような構成からなる反射層13(34層)を形成した。反射層の構成は、シリカ層の層厚、チタニア層の層厚、および反射層13の積層数をパラメータとしてシミュレーションし、入射角0°の分光透過率曲線において、波長420nm〜695nmの透過率が90%以上、波長350nm〜400nmの透過率が5%以下、波長735nm〜1100nmの透過率が5%以下となるように求めたものである。
【0147】
【表10】
【0148】
上記設計をもとに作製した、誘電体多層膜からなる光反射層の、分光透過率曲線(入射角0°および30°)を測定し、その測定結果から各光学特性を算出した結果を、表11に示す。なお、反射層の入射角0°の分光透過率曲線において、400nm〜425nmの波長領域に透過率が50%となる波長をλ(反射層UV)とし、入射角30°の分光透過率曲線において、400nm〜425nmの波長領域に透過率が50%となる波長をλ30(反射層UV)、反射層の入射角0°の分光透過率曲線において、650nm〜750nmの波長領域に透過率が50%となる波長をλ(反射層IR)、入射角30°の分光透過率曲線において、650nm〜750nmの波長領域に透過率が50%となる波長をλ30(反射層IR)とした。
【0149】
【表11】
【0150】
[反射層を有する光学フィルタの光学特性]
(例9−1〜例9−33)
表12〜表15に示す割合で、透明樹脂のシクロヘキサノン溶液に、紫外線吸収体U、または、紫外線吸収体Uおよび近赤外線吸収体Aを混合し、塗工液を調整した。この塗工液を、ガラス基板にスピンコート法により塗布し、溶媒を加熱乾燥させた後に吸収層を形成した。形成した吸収層の透過率を、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて測定し、前述の誘電体多層膜の分光データと掛け合わせることで、吸収層と反射層を有する光学フィルタの入射角0°および30°の各光学特性を算出した。その結果を表12〜表15に併せ示す。例9−1〜例9−19が実施例、例9−20〜例9−33が比較例である。
【0151】
【表12】
【0152】
【表13】
【0153】
【表14】
【0154】
【表15】
【0155】
(例10−1〜例10−7)
表16に示す割合で、ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:B−OKP2、屈折率:1.64)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、紫外線吸収体U、または、紫外線吸収体Uおよび近赤外線吸収体Aとを混合し、十分に撹拌して溶解させ、塗工液を調製した。この塗工液を、反射層を成膜した上記ガラス基板の他方の主面(反射層13を形成した面とは反対側の面)にスピンコート法により塗布し、溶媒を加熱乾燥させた後、厚さ2.7μmの吸収層を形成した。
【0156】
得られた各光学フィルタの分光透過率曲線(入射角0°および30°)を測定し、その測定結果から、各光学特性を算出した。結果を、表16に併せ示す。例10−1〜例10−3が実施例、例10−4〜例10−7が比較例である。また、実施例10−2の分光透過率曲線を図5に示す。
【0157】
【表16】
【0158】
表16等から明らかなように、例10−1の光学フィルタは、波長430nm〜450nmにおける透過率が十分に高く、さらに|λ(UV)−λ30(UV)|が小さい。例10−2および例10−3の光学フィルタは、波長430nm〜450nmにおける透過率が十分に高く、|λ(UV)−λ30(UV)|が小さく、さらに、|λ(IR)−λ30(IR)|が小さい。すなわち、例10−1〜10−3は、可視波長領域の光の利用効率が高く、可視波長領域の短波長領域における入射角依存性が低い光学フィルタである。さらに、例10−2および例10−3は、可視波長領域の長波長領域における入射角依存性も低い光学フィルタである。
【0159】
一方、例10−4は吸収層を有さず、例10−5は吸収層を有するが紫外線吸収体Uを含まないため、|λ(UV)−λ30(UV)|が大きい。すなわち、これらは入射角依存性が大きい光学フィルタである。
例10−6の吸収層には、要件(iv−2)を満たさない紫外線吸収体を含む。そのため、波長430〜450nmの透過率が低く、可視波長領域の光の利用効率が低い光学フィルタである。
例10−7の吸収層には、要件(iv−1)および(iv−2)を満たさない紫外線吸収体(U9)を含む。そのため、入射角依存性が高い光学フィルタである。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の光学フィルタは、良好な近赤外線遮蔽特性を有し、かつ紫外線遮蔽特性にも優れているので、近年、高性能化が進むデジタルスチルカメラ等の撮像装置、プラズマディスプレイ等の表示装置等の用途に非常に有用である。
【符号の説明】
【0161】
11…透明基材、12…吸収層、12a…第1の吸収層、12b…第2の吸収層、13…反射層、13a…第1の反射層、13b…第2の反射層。
図1
図2
図3
図4
図5