【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成26年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第71号 2.土木学会論文集 A2(応用力学)Vol.70(2014)No.2,応用力学論文集Vol.17(特集) ウエブサイト
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
河床の侵食を抑制するために前記河床に設置される河床侵食抑制部材であって、平面視で網目状に仕切られた複数の砂礫捕捉領域部を有するとともに、これら各砂礫捕捉領域部を囲っている砂礫捕捉壁の高さが前記河床における砂礫の平均粒径の0.88倍以上に形成されている、河床侵食抑制部材。
前記各砂礫捕捉領域部において対向位置にある前記砂礫捕捉壁同士の間隔が前記砂礫捕捉壁の高さの3倍以上10倍以下に形成されている、請求項1から請求項3のいずれかに記載の河床侵食抑制部材。
前記各砂礫捕捉領域部が略菱形状に形成されており、そのいずれかの対角線が河川の平均的な流れ方向に沿うように配置されている、請求項1から請求項4のいずれかに記載の河床侵食抑制部材。
前記河床の表面に沿って敷設される網目状の敷設シートと、前記敷設シートに前記河床侵食抑制部材を取り付ける取付金具とを有している、請求項1から請求項6のいずれかに記載の河床侵食抑制部材。
前記取付金具は、前記敷設シートの網目に掛止する掛止部と、前記掛止部から延出されて前記砂礫捕捉壁を高さ方向に沿って挟持する一対の挟持部と、前記挟持部の先端をつなぎ留める留金部とを有している、請求項7に記載の河床侵食抑制部材。
河床の侵食を抑制する河床侵食抑制工法であって、侵食を抑制したい対象河床に対し、平面視で網目状に仕切られた複数の砂礫捕捉領域部を有するとともに、これら各砂礫捕捉領域部を囲っている砂礫捕捉壁が前記河床における砂礫の平均粒径の0.88倍以上の高さを有している河床浸食抑制部材を設置する、河床侵食抑制工法。
前記各砂礫捕捉領域部において対向位置にある前記砂礫捕捉壁同士の間隔が前記砂礫捕捉壁の高さの3倍以上10倍以下に形成されている、請求項9から請求項11のいずれかに記載の河床侵食抑制工法。
前記各砂礫捕捉領域部が略菱形状に形成されており、そのいずれかの対角線が河川の平均的な流れ方向に沿うように配置されている、請求項9から請求項12のいずれかに記載の河床侵食抑制工法。
前記河床の表面に沿って敷設される網目状の敷設シートに対して、前記敷設シートに前記河床侵食抑制部材を取り付ける取付金具を用いて、複数の前記河床侵食抑制部材を取り付けた後、前記河床に設置する、請求項9から請求項14のいずれかに記載の河床侵食抑制工法。
前記取付金具は、前記敷設シートの網目に掛止する掛止部と、前記掛止部から延出されて前記砂礫捕捉壁を高さ方向に沿って挟持する一対の挟持部と、前記挟持部の先端をつなぎ留める留金部とを有しており、
前記敷設シート上に前記河床侵食抑制部材を載置した後、前記一対の挟持部が前記砂礫捕捉壁を挟持するように前記取付金具を前記敷設シートの下から差し込み、前記掛止部を前記敷設シートの網目に引っ掛けた後、各挟持部の先端を前記留金部でつなぎ留める、請求項15に記載の河床侵食抑制工法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る河床侵食抑制部材および河床侵食抑制工法の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0023】
本実施形態の河床侵食抑制部材1は、河床に設置されて前記河床の粗度を高めることで近傍の流速を減速させ、水の力によって河床近傍を移動している砂礫を停止・捕捉し、さらにその捕捉した砂礫を河床上に保持して堆積させるためのものであり、
図1および
図2に示すように、平面視で網目状に形成された砂礫捕捉壁を有する。なお、本発明において、粗度とは、河川の水が河床と触れる際の抵抗の度合いを意味するものとする。
【0024】
砂礫捕捉壁2は、平面視で網目状に仕切られた複数の砂礫捕捉領域部3を囲むように設けられており、本実施形態では、高密度ポリエチレン等の合成樹脂製の可撓性を有する帯状部材によって形成されている。本実施形態における砂礫捕捉領域部3は、
図2に示すように、略菱形状に形成されており、砂礫捕捉壁2に衝突する河川の流れを受け流し易くするため、いずれかの対角線が河川の平均的な流れ方向に沿うように構成されている。換言すれば、略菱形状に形成された砂礫捕捉壁2の角部を河川の流れ方向に向けて配置することにより、河川の水流を前記砂礫捕捉壁2の正面で受けるのではなく、当該砂礫捕捉壁2に沿って下流に逃がすようになっている。
【0025】
また、砂礫捕捉壁2には、砂礫を保持させつつ砂礫捕捉領域部3間の通水を可能とするため、河床における砂礫の平均粒径より小径の通水孔4が複数個形成されている。ここで、河床における砂礫の平均粒径は、粒径の重量割合等によって定めることのできる値であり、例えば、次に示すような方法によって求められる。
【0026】
まず、所定の重量の砂礫を目の大きさの異なる篩(フルイ)によって粒径毎に分別を行う。次に、分別された各粒径毎の重量を計測し、砂礫全体の重量との重量比を算出する。次に、各粒径と各重量比とに応じて重み付けを行い、重み付けされた各値の和を算出する。そして、前記各値の和を前記砂礫全体の重量で割り、得られる値を平均粒径と定める。
【0027】
なお、平均粒径を定める方法は、特に限定されるものではなく、例えば、デジタルカメラ等で河川に堆積された砂礫の撮影を行い、得られたデジタル画像から各粒毎の粒径をデジタル処理等によって計測し、そこから平均粒径を定めるようにしてもよい。
【0028】
砂礫捕捉壁2は、河床の粗度を高めるとともに捕捉された砂礫を保持するための高さを有しており、後述の実施例1において説明する通り、砂礫を捕捉するために適した河床の粗度を考慮すると、その高さは河床における砂礫の平均粒径の0.88倍以上に形成されていることが好ましい。
【0029】
また、砂礫捕捉壁2の高さの上限は、後述の実施例2において説明する通り、砂礫を捕捉するために適した河床の粗度を考慮すると、河床における砂礫の平均粒径の66倍以下に形成されていることが好ましい。なお、砂礫捕捉壁2の高さの上限は、製造コストや施工コスト、河川の環境に与える影響等を考慮すれば低い方がよく、後述の実施例2において説明する通り、河床において移動する砂礫層厚を基準として、前記砂礫の平均粒径の20倍以下に形成されていることが好ましい。
【0030】
また、各砂礫捕捉領域部3において対向位置にある砂礫捕捉壁2同士の間隔Wは、広すぎると単位面積当たりの砂礫捕捉壁2の数が減って粗度が低くなり、狭すぎると河床侵食抑制部材1の上部が面の状態に近くなるため粗度が低くなる。そこで、本実施形態では、前記間隔Wが、河床の粗度が上がり易い、前記砂礫捕捉壁2の高さの3倍以上10倍以下に形成されている。
【0031】
次に、本発明に係る河床侵食抑制部材1を用いた河床侵食抑制工法について説明する。
【0032】
本実施形態の河床侵食抑制工法は、侵食を抑制したい対象河床に対し、前記河床侵食抑制部材1を面的に設置することによって行う。本実施形態では、まず、侵食を抑制したい対象河床を複数の区画に分割し、各区画の周縁にアンカーボルトを埋め込む。次に、河床侵食抑制部材1を区画毎に被せ、前記アンカーボルトに固定する。このとき、河床侵食抑制部材1は、略菱形状に配置された砂礫捕捉壁2のいずれかの対角線が河川の平均的な流れ方向に沿うように設置する。
【0033】
なお、河床侵食抑制部材1の設置方法は、流されないように固定しうる方法であれば、アンカーボルトによるものに限定されるものではなく、ロープによる固定や河床侵食抑制部材1の一部を河床に埋設させる等して設置してもよい。
【0034】
次に、本発明に係る河床侵食抑制部材1および河床侵食抑制工法における各構成の作用について説明する。
【0035】
河床侵食抑制部材1は、侵食を抑制したい対象河床に設置されることにより、砂礫捕捉壁2が河床に凹凸を形成し、当該凹凸に水流が衝突することによる慣性エネルギーの減少や砂礫捕捉壁2と水流との摩擦抵抗の増加等を要因として、河床の粗度が高まる。
【0036】
河床の粗度が高まると、水流の抵抗となり前記河床近傍の流速が減速し、前記河床近傍を移動してきた砂礫も減速される。河床侵食抑制部材1では、減速された砂礫を砂礫捕捉壁2で囲まれた砂礫捕捉領域部3内に捕捉する。
【0037】
また、砂礫捕捉領域部3内に捕捉された砂礫は、河床侵食抑制部材1の近傍における流速が遅いため河床の掃流力も弱く、砂礫捕捉壁2を乗り越えられずに保持される。また、砂礫が河床に保持されることによって、河床の粗度はさらに高まり、砂礫が堆積され易くなる。さらに、河床侵食抑制部材1を河床に設置することにより、砂礫が捕捉されるまでの間も、河床侵食抑制部材1自体のカバー効果によって岩盤河床に砂礫が衝突する頻度が低減されるため、河床侵食抑制部材1を設置しない状態よりも河床の侵食が抑制される。また、河床にあった砂礫に河床侵食抑制部材1を覆い被すように配置することにより、在来の砂礫の移動も効果的に抑えられる。
【0038】
よって、河床侵食抑制部材1が設置された河床は、常に砂礫で覆われた状態となり、岩盤の露出が抑制される。このため、流砂が岩盤に衝突することがなく侵食が抑制される。また、河床に砂礫を堆積させることで、サケ等の魚類の生息・産卵場が増大される。さらに、河床侵食抑制部材1は面的に設置されるため、帯工や床止め工等のように、その周辺部が局所的に侵食されてしまうことを抑制できる。
【0039】
本実施形態における砂礫捕捉壁2は、合成樹脂によって形成されているため、水中に長期間に渡って設置しても腐食による劣化が少ない。また、砂礫捕捉壁2は、高さが必要最低限の範囲内で低く抑えられているとともに、その可撓性によって水流による負荷が集中しないようになっている。さらに、砂礫捕捉壁2の配置を略菱形状にし、角部を河川の平均的な流れ方向に向けることで、前記砂礫捕捉壁2が直交方向から水流を受けないため、水流から受ける力を受け流すことができる。さらにまた、通水孔4では、水流によって通水が行われるため、砂礫の保持力を低下させることなく砂礫捕捉壁2が受ける水流からの抵抗が抑制されている。
【0040】
よって、本実施形態における河床侵食抑制部材1は、破損や流出がしづらく、安定的に河床に保持される。また、本実施形態では、河床侵食抑制部材1を複数の区画毎に設置しているため、仮に、破損や流出が生じた場合でも、一部を取り替えるか、または設置し直すだけでよく施工性が良い。
【0041】
また、河床の砂礫は、生魚の生活の場や産卵場となる。通水孔4では、通水が行われるため、砂礫捕捉壁2で囲まれた砂礫捕捉領域部3内の水質を新鮮な状態で保つことができる。また、この通水孔4が平均粒径よりも小さく形成されているため、砂礫の流出は抑制される。
【0042】
以上のような本実施形態の河床侵食抑制部材1および河床侵食抑制工法によれば、以下の効果を得ることができる。
1.河床の粗度を高めることで河床近傍における河川の流速を減速させ、前記河床近傍を移動する砂礫を停止・捕捉し、河床の侵食を抑制することができる。
2.捕捉した砂礫を砂礫捕捉壁2で囲まれた砂礫捕捉領域部3内に保持して堆積させ、河床を砂礫で被覆することで、魚類の生息・産卵場を増大させるとともに、生魚等の生活環境を向上させることができる。
3.河床における在来の砂礫の移動を抑制し、岩盤の露出を低減することができる。
4.河床における岩盤の露出を抑制し、洗掘による岩盤の侵食を防止することができる。
5.安定的に河床に設置することができるとともに、容易に維持管理することができる。
【0043】
つぎに、本発明に係る河床侵食抑制部材および河床侵食抑制工法の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0044】
実施例1では、本発明に係る河床侵食抑制部材における砂礫捕捉壁の適切な高さと河床の粗度について検討を行った。具体的には、室内に設置した全長22m、幅0.5m、勾配0.01の水路において、河床の状態が異なる水路床(疑似的な岩盤河床)を敷設して行った。
図3は、RunA、RunBおよびRunCという異なる三つのケースにおいて用いられた水路床のデジタル写真画像である。
【0045】
RunAにおける水路床は、非侵食性のモルタルに粒径5mmの礫が埋め込まれている。また、RunBおよびRunCでは、モルタル床の上に一辺30mmの平面視で略正方形状の砂礫捕捉領域部を有するネットが敷設されている。ネットの高さは、それぞれRunBが2mm、RunCが4mmである。
【0046】
まず、各水路床における粗度の計測を行った。具体的には、前記水路に0.03m
3/sの水を流し、ポイントゲージによってその時の水位を計測する。計測された箇所は、水路の幅方向の中央で水路上流端から7〜12mの区間を縦断方向に1m間隔である。
【0047】
そして、計測した水位を下記のManning-Stricklerの関係式に代入することで水理学的な粗度を表す等価粗度高さK
sを算出した。
[数1]
[数2]
【0048】
ここで、n
mはManningの粗度係数、gは重力加速度、Uは平均流速(=Q/BD)、Qは流量、Bは水路幅、Dは水深、S
eはエネルギー勾配である。
【0049】
砂礫のない各水路床における水理学的な粗度を表す等価粗度高さをK
sとし、初期の水理学的な粗度高さをK
sbとして下記表1にまとめる。ここで、添え字のbは砂礫のない初期の状態を表すために用いたものである。
【表1】
【0050】
表1に示すように、RunAの初期の水理学的な粗度高さK
sbは3.8、RunBの初期の水理学的な粗度高さK
sbは9.6、RunCの初期の水理学的な粗度高さK
sbは36.3であった。よって、初期の水理学的な粗度高さK
sbは、RunC>RunB>RunAの順に高い値を示した。
【0051】
次に、各水路床における砂礫の捕捉性能を調べるため、水路の流量を0.03m
3/sの一定状態とし、そこに異なる給砂量q
bsを定常的に与え、平衡状態に達した際の砂礫により河床が被覆される面積割合である被覆率P
cの計測を行った。このとき砂礫としては、平均粒径dが5mm、水中比重が1.65のものを用いた。
【0052】
また、これら初期の水理学的な粗度高さK
sbを砂礫の粒径dとの比を取って無次元化し、相対粗度とした。初期の相対粗度K
sb/dは、表1に示すように、RunAで0.8、RunBで1.9、RunCで7.3であった。
【0053】
給砂量q
bsは、水路床が砂礫によって完全に被覆されるまで、ゼロから段階的に増やしていった。
図4は、RunA、RunBおよびRunCのケースにおいて、給砂量q
bsがいずれも3.73×10
−5m
2/sのときの砂礫による被覆状態を平面視の状態でデジタルカメラにより撮影した画像である。これらの画像において、白い領域は砂礫に被覆されていない箇所を示しており、黒い領域は砂礫に被覆されている箇所を示している。
【0054】
図4に示すように、RunAでは、多くの領域が白いままであり、砂礫がほとんど捕捉されなかった。また、RunBにおいても、わずかに黒い領域が認められたものの、ほとんどの領域で砂礫がうまく捕捉されていなかった。一方、RunCでは、ほぼ全ての領域が黒くなっており、砂礫がしっかりと捕捉されて水路床が被覆されていた。
【0055】
本実施例1では、
図4に示した、デジタルカメラ画像を白黒2階調化処理し、それぞれのピクセル数の比によって被覆率P
cを計測した。計測した結果を、その他の実験条件の場合も含めて、上記表1および
図5に示す。
【0056】
図5に示すように、初期の水理学的な粗度高さK
sbまたは初期の相対粗度K
sb/dが比較的大きいRunCについては、給砂量q
bsが少ない段階から砂礫が徐々に被覆している。一方、初期の水理学的な粗度高さK
sbまたは初期の相対粗度K
sb/dが比較的小さいRunAおよびRunBについては、給砂量q
bsが一定量以上にならなければ砂礫は被覆されないことが示された。
【0057】
つまり、上述した室内実験の結果からは、河床が、RunCのように相対粗度K
sb/dが7.3以上の比較的高い粗度を有する場合、上流からの給砂が見込まれる場所であれば、給砂量にほぼ比例した高い被覆率で前記河床を砂礫で覆うことができ、岩盤層が露出しないことが示された。
【0058】
ただし、上記室内実験は、人工的な水路や人工的に制御された水流を用いて室内で行われたモデル実験に過ぎない。しかしながら、実際の河川では、河床の形状は千差万別であり、河川の流量や流速も一定ではなく場所や時間等によって大きく変化するものである。そこで、本実施例1では、モデル実験の結果を実際の河川に相当する結果に換算するため、上記水理学的な粗度高さK
sと、河床表面の凹凸高さである地形的な粗度高さσ
tとの関係性について検討を行った。
【0059】
具体的には、まず、上述したRunA、RunBおよびRunCの各ケースにおける各段階において、上述の初期の水理学的な粗度高さK
sbを算出した方法と同様の算出方法を用いて、実験後の砂礫が被覆された河床における水理学的な粗度高さK
sを算出した。
【0060】
一方、実験水路の河床における凹凸の高さを評価するため、通水前および各ケースでの実験後の河床標高をレーザー砂面計によって測定した。具体的には、水路上流端から9〜10mの区間を水路の幅方向の中央、右壁から0.15m、左壁から0.15mの縦断3側線を5mm間隔で計測した。そして、本実施例1では、Johnson and Whippleと同様に計測した河床標高から平均勾配を引いた値の標準偏差を地形的粗度高さσ
tとした。
【0061】
以上のように算出した水理学的な粗度高さK
sと地形的な粗度高さσ
tとの関係をプロットしたものを
図6に示す。ややバラツキがあるものの、地形的粗度高さσ
tの増加に伴い、水理学的な粗度高さK
sも増加する傾向にある。具体的には、地形的な粗度高さσ
tは、少なくとも水理学的な粗度高さK
sの約0.06倍(
図6における実線の傾き)の関係にあることが示された。このため、当該関係式(σ
t=0.06K
s)から実際の河床の凹凸の高さを換算した。
【0062】
まず、地形的な粗度高さσ
tは、上述のとおり、河床の凹凸高さの標準偏差であることから、標準的な凹凸高さT
nと地形的な粗度高さσ
tとは、T
n=2σ
t程度の関係にある。この式に、地形的な粗度高さσ
tと水理学的な粗度高さK
sとの上記関係式(σ
t=0.06K
s)を代入すると、T
n=0.12K
sとなる。また、上記室内実験の結果より、河床における高い覆礫効果が期待できるのは、相対粗度K
sb/dが7.3以上の場合であった。
【0063】
以上より、本実施例1によれば、上記室内実験の結果(K
sb/d≧7.3)を上記式(T
n=0.12K
s)に代入することにより求められる、T
n≧0.88dの場合、すなわちT
nに相当する河床侵食抑制部材における砂礫捕捉壁の高さが、砂礫の平均粒径dの0.88倍以上に形成されている場合、砂礫を速やかに捕捉して河床を被覆し、効果的に侵食を抑制することが示された。
【実施例2】
【0064】
本実施例2では、本発明に係る河床侵食抑制部材における砂礫捕捉壁の高さの上限値について検討を行った。
【0065】
ここで、砂礫捕捉壁の高さは、砂礫捕捉領域部内に捕捉された砂礫の保持力を考慮すると高いほどよい。しかし、河床の岩盤層の侵食を抑制するには、僅かでも砂礫が保持されていればよく、保持する砂礫の層を過度に厚くしても侵食抑制効果には大きな違いはない。また、砂礫捕捉壁が高すぎても、製造コストや施工コストの増加を招くとともに、河川の環境に与える負荷が大きくなるため、過度の高さは不要である。そこで、砂礫捕捉壁の高さの上限値について理論的な計算に基づき検討を行った。
【0066】
ここで、本実施例2で用いた被覆率P
cの理論計算について説明する。まず、河床に堆積している砂礫の量は、堆積する場を想定した場合、その場に入ってくる給砂量q
bsと、その場を流れる飽和流砂量q
bcの収支によって決まる。したがって、給砂量q
bsと飽和流砂量q
bcが等しければその場の砂礫量は動的な平衡状態となる。また、砂礫量が変化しなければ、砂礫の被覆面積割合(被覆率)P
cも変化しないため、この状態は被覆率の平衡状態とも言える。すなわち、被覆率の平衡条件は、下記数式3によって表される。
[数3]
給砂量q
bs=飽和流砂量q
bc
【0067】
飽和流砂量q
bcは、Wong and Parkerによって提唱された下記数式4によって求めることができる。
[数4]
ここで、τ
*は無次元掃流力、τ
*cは無次元限界掃流力、R
bは砂礫の水中比重(1.65)、dは砂礫の平均粒径である。
【0068】
また、数式4におけるτ
*およびτ
*cは、初期の水理学的な粗度高さK
sbと被覆率P
cを用いて、以下の数式5および数式6で表すことができる。
[数5]
[数6]
ここで、k
saは完全な砂礫床の等価粗度高さであり、一般的に1〜4dと言われているところ、本実施例2では2.2dを採用した。また、Qは流量、Bは川幅、gは重力加速度(9.81)、Sは河床勾配である。
【0069】
よって、上記数式3〜6を組合わせることにより、給砂量q
bsに対し平衡状態となる被覆率P
cを逆算することができる。
【0070】
上記数式3〜6等に基づき、相対粗度K
sb/dを100とした場合と、200とした場合について被覆率P
cを計算した結果を
図7に示す。
図7に示すように、相対粗度K
sb/dが100の場合も200の場合も僅かな給砂量q
bsで河床が砂礫で被覆され、その値はほとんど変わらない。つまり、相対粗度K
sb/dを100より大きくしても、覆礫効果は頭打ちになるため、コストおよび環境的な負荷を考慮すると、K
sb/d≦100であることが好ましい条件といえる。
【0071】
一方、実施例1で求めた
図6に示されるように、地形的な粗度高さσ
tは、最高でも水理学的な粗度高さK
sの約0.33倍(
図6における破線の傾き)である。よって、この関係式(σ
t=0.33K
s)を実施例1で用いた標準的な凹凸高さT
nと地形的な粗度高さσ
tとの関係式(T
n=2σ
t)に代入すると、T
n=0.66K
sである。したがって、この式(T
n=0.66K
s)に上述した相対粗度の条件式(K
sb/d≦100)を代入すると、凹凸の高さT
nはT
n≦66dということになる。よって、砂礫捕捉壁の高さT
nは、砂礫の平均粒径dの66倍以下とすることが好ましいといえる。
【0072】
また、砂礫捕捉壁の高さの上限値については、移動する砂礫層の厚さから検討することができる。まず、河床において移動する砂礫層の厚さは砂礫の最大粒径の2倍程度といわれており、最大粒径の2倍以上、砂礫が堆積すれば、岩盤に流砂が接触しなくなり、岩盤の侵食が抑制できる。つまりは、最大粒径の2倍以上、砂礫捕捉壁の高さがあっても過度に高いと考えられる。砂礫の平均粒径が50mmと仮定すると、最大粒径はその約10倍の500mm位である。よって、砂礫捕捉壁の高さは、砂礫の平均粒径に対して約20倍の高さであればよいとも考えられる。
【0073】
以上より、本実施例2によれば、砂礫捕捉壁の高さは、製造コストや施工コスト、環境面を考慮すると、平均粒径の66倍以下とすることが好ましく、よりコスト面等を抑制するとすれば、平均粒径の20倍以下としてもよいことが示された。
【実施例3】
【0074】
本実施例3では、実際の河川において、本発明に係る河床侵食抑制部材の砂礫の捕捉効果および砂礫の保持効果について実証実験を行った。
【0075】
実験を行った河川は、岩盤層が露出されている部分が比較的多く見られた。実験は、岩盤層が露出されている部分がある周辺の縦断長さが約40m(幅が約5m)の河床に、本発明に係る河床侵食抑制部材を設置することによって行った。また、河川の砂礫の平均粒径は40mmであった。
【0076】
本実施例3において、河床侵食抑制部材として、前田工繊株式会社製の、ジオセル工法に用いられる高密度ポリエチレン製の連続的・周期的なセル材を用いた。この河床侵食抑制部材は、砂礫の平均粒径(40mm)の0.88倍以上を満たす約2.5倍にあたる100mmの高さを有しており、メッシュ間隔は300mm×300mm(対角が420mm)の略菱形状の砂礫捕捉領域部を有するハニカム構造に形成されている。
【0077】
本実施例3では、この河床侵食抑制部材を、長さ8m、幅2.5mの略矩形状に形成する。そして、
図8に示すように、対象となる河床において河床侵食抑制部材を設置する外周および縦断方向3m毎にアンカーボルトを横一列に埋め込み、4ブロック分の河床侵食抑制部材を前記アンカーボルトに固定した。
【0078】
初期条件として、砂礫が捕捉されるか否かを検証するため、上流側半分の河床侵食抑制部材における砂礫捕捉領域部を砂礫が無い状態とした。一方、下流側半分の河床侵食抑制部材における砂礫捕捉領域部は、捕捉された砂礫が保持し続けることができるか否かを検証するため、予め砂礫が入っている状態とした。
【0079】
実験は、河床侵食抑制部材の設置前(平成26年7月25日)、河床侵食抑制部材の設置後(平成26年8月27日)、設置後約3週間後の大雨から約1週間経過した後(平成26年9月19日)、および1年以上経過した後(平成27年10月15日)の河床の高さの計測を行った。計測は、縦断方向に対して2m間隔毎に20箇所の高さを計測した。このとき、対象河床の幅方向の中央と、この中央を中心として幅方向に±50cmの高さとを計測し、平均した高さを該当箇所における河床高さとした。その結果を
図9に示す。
【0080】
図9に示すように、上流側の砂礫が無い状態で実験を開始した河床侵食抑制部材の区間(「ネット敷設」区間)では、大雨による出水の前後で河床の高さが上昇しており、河床侵食抑制部材の砂礫捕捉領域部によって砂礫が効果的に捕捉されていた。
【0081】
次に、下流側の砂礫を入れた状態で実験を開始した河床侵食抑制部材の区間(「ネット+覆礫敷設」区間)では、上流から29m〜33mの最下流部を除いて、出水の前後で河床の高さに大きな違いは見られなかった。すなわち、河床侵食抑制部材の砂礫捕捉領域部に捕捉された砂礫は、保持されたままで流出が抑制されていた。
【0082】
また、河床侵食抑制部材を設置した区間においては、大雨後1年以上経過した後も、河床の高さがおおむね微増しており、砂礫の捕捉効果および保持効果が持続されていた。これは、砂礫捕捉領域部から砂礫が多少流出したとしても、その分、砂礫捕捉壁2が露出して砂礫を捕捉しやすくなるため、砂礫の量は常に所定量を保持するためと考えられる。なお、河床侵食抑制部材を設置していない35mより下流側の区間では、出水の前後で河床の高さに大きな変化がなかった。
【0083】
以上の本実施例3によれば、本発明に係る河床侵食抑制部材は、実際の河川においても、砂礫を効果的に捕捉する捕捉効果、および砂礫の流出を抑制し保持し続ける保持効果が長期的に発揮されることが実証された。
【0084】
なお、本発明に係る河床侵食抑制部材および河床侵食抑制工法は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0085】
例えば、各砂礫捕捉領域部は、略菱形形状に限定されるものではなく、略六角形状等のように他の形状に形成してもよい。
【0086】
また、上述した本実施形態では、河床侵食抑制部材1を単体で河床に設置する構成について説明したが、この構成に限定されるものではない。例えば、他の実施形態として、
図10に示すように、河床の表面に沿って敷設される網目状の敷設シート5と、この敷設シート5に河床侵食抑制部材1を取り付ける取付金具6とを有していてもよい。
【0087】
上記構成を用いて河床侵食抑制工法を実施する場合、敷設シート5に対して、陸上で複数の河床侵食抑制部材1を取付金具6で取り付けた後、河床に設置する。これにより、一度で河床侵食抑制部材1を広範囲に設置することができ、施工性が向上する。また、寒い時期に河川を締め切らずに施工する場合、水中での作業が作業者に大きな負担となることも考えられる。しかしながら、上記工法によれば、河床侵食抑制部材1を一つずつ直接河床に設置する場合と比較して、上記負担を大幅に減らすことができる。
【0088】
なお、取付金具6としては、
図11に示すように、敷設シート5の網目に掛止する掛止部61と、この掛止部61から延出されて砂礫捕捉壁2を高さ方向に沿って挟持する一対の挟持部62,62と、これら挟持部62,62の先端をつなぎ留める留金部63とを有する構成が考えられる。
【0089】
この構成によれば、まず、
図11(a)に示すように、敷設シート5上に河床侵食抑制部材1を載置した後、取付金具6を敷設シート5の下から差し込む。このとき、
図11(b)に示すように、一対の挟持部62,62が砂礫捕捉壁2を挟持するように差し込み、掛止部61を敷設シート5の網目に引っ掛ける。そして、
図11(c)に示すように、各挟持部62,62の先端を留金部63でつなぎ留めるだけで、簡単かつ迅速に河床侵食抑制部材1を敷設シート5に取り付けることができる。
【0090】
なお、約15m程度の広い川幅を有する実際の河川に対して、上述した他の実施形態の河床侵食抑制部材1を敷設する実験を行った。具体的には、まず、幅が5.12m、長さが16.7mの矩形状に複数枚の敷設シート5を重畳させた後、取付金具6を用いて河床侵食抑制部材1を取り付けた。このとき、上流側の敷設シート5の下流側端部が、下流側の敷設シート5の上流側端部の上に重なるように敷設し、敷設シート5の裏側に異物が入りにくくした。そして、当該敷設シート5を河床に設置し、多数のアンカーで打ち込んで固定した。その結果を
図12に示す。
【0091】
図12に示すように、川幅が広くて川の流れによる水圧が大きな河川においても、河床侵食抑制部材1は敷設シート5と取付金具6とによって安定的に設置された。また、設置後3ヶ月が経過した時点で確認した際も、河床侵食抑制部材1は流されることなく、しっかりと河床に固定されていた。
【課題】河床の粗度を効率よく高めることによって砂礫を捕捉して堆積を促し、河床の侵食を抑制するとともに、魚類の生息・産卵場を増やすことのできる河床侵食抑制部材および河床侵食抑制工法を提供する。
【解決手段】河床の侵食を抑制するために前記河床に設置される河床侵食抑制部材1であって、平面視で網目状に仕切られた複数の砂礫捕捉領域部3を有するとともに、これら各砂礫捕捉領域部3を囲っている砂礫捕捉壁2の高さが前記河床における砂礫の平均粒径の0.88倍以上に形成されている。