特許第6020972号(P6020972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020972
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】銅ボンディングワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-117932(P2015-117932)
(22)【出願日】2015年6月11日
(62)【分割の表示】特願2012-268363(P2012-268363)の分割
【原出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2015-159341(P2015-159341A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐川 英之
(72)【発明者】
【氏名】青山 正義
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 亨
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 啓輔
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−234556(JP,A)
【文献】 特開昭62−287634(JP,A)
【文献】 特開昭62−20858(JP,A)
【文献】 特開2012−89685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を主成分とする心材と、
前記心材の表面に配置され、銅よりも酸素との親和性が高い金属である亜鉛及び酸素を含有し、RHEED分析による電子線の回折像がハローパターンを示す層と、
を備えた銅ボンディングワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅ボンディングワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の電極パッドと回路基板の配線パッドとを接続するボンディングワイヤには、金(Au)線が使用されており、特に樹脂モールドタイプの半導体素子では接続信頼性の観点から直径0.02〜0.03mm程度のAu線が多く使用されてきた。
【0003】
近年、Au価格の高騰を背景として、自動車等の車両のパワーモジュール用のワイヤボンディングには、Au線よりも材料コストが大幅に低い直径0.1〜0.3mm程度のアルミニウム線が用いられるようになっている。
【0004】
しかし、自動車などのパワーモジュールでは、装置の小型化や電流密度の増大の面から、アルミニウム線よりも熱伝導率、電気伝導率(導電率)の高い素材が求められている。
【0005】
このため、銅(Cu)又はCu合金を心材とし、この外周に直接又は中間層を介してパラジウム(Pd)又はPd合金を被覆したボンディングワイヤが提案されている(特許文献1参照)。このボンディングワイヤには、表面酸化が防止でき、材料保管時の耐酸化性に優れるメリットがある反面、以下の技術的課題がある。
【0006】
すなわち、Pd被覆したボンディングワイヤは、ボールボンディング時にワイヤ先端にボールを形成する際にPdがCu中へ固溶した場合、ごく微量であってもボールの硬さがCuよりも硬くなるため、また、固溶せずに表層に残ったPd自体も硬いため、ボールボンディング時にシリコンチップ上の脆弱なアルミパッドにダメージを与えてしまうという問題がある。また、被覆材として用いるPd自体の材料コストも高いという問題がある。
【0007】
一方、Cu又はCu合金からなる心材の表面にZnなどからなる被覆層を形成したボンディングワイヤが提案されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭60−160554号公報
【特許文献2】特開昭60−207357号公報
【特許文献3】特開昭62−287634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
Cu又はCu合金からなる心材の表面にZnからなる被覆層を形成した従来のボンディングワイヤは、ZnがPdよりも材料費が安く、また、Cu中にZn成分が固溶した場合にも、Pdを使用する場合に比してボールが硬くなりにくい傾向にある点で有利である。
【0010】
しかし、ボンディングワイヤの保管時にボンディングワイヤ表面に心材中のCuが拡散し、その拡散したCuと酸素が結合して酸化膜が成長し、また、Znからなる被覆層が厚く形成された場合、Zn自体が酸素と結びつき、Znの酸化膜を厚く成長させてしまうことがあり、その結果、ボンディング時にアルミパッドとの接続不良を招くという問題を生じている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、ボンディングワイヤの保管時にボンディングワイヤ表面に酸化膜が成長するのを抑制し、ボンディング時の接続信頼性を向上させることができる銅ボンディングワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、下記[1]の銅ボンディングワイヤを提供する。
【0013】
[1]銅を主成分とする心材と、前記心材の表面に配置され、銅よりも酸素との親和性が高い金属である亜鉛及び酸素を含有し、RHEED分析による電子線の回折像がハローパターンを示す層と、を備えた銅ボンディングワイヤ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボンディングワイヤの保管時にボンディングワイヤ表面に酸化膜が成長するのを抑制し、ボンディング時の接続信頼性を向上させることができる銅ボンディングワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一の実施の形態に係る銅ボンディングワイヤを模式的に示す断面図である。
図2】本発明の他の実施の形態に係る銅ボンディングワイヤを模式的に示す断面図である。
図3】本発明の実施例3に係る銅ボンディングワイヤの恒温(100℃)保持試験における3600時間試験品の、表層からスパッタを繰り返しながら深さ方向のオージェ元素分析を行った結果を示すグラフである。
図4】本発明の実施例3、比較例1、及び従来例1に係る銅ボンディングワイヤの恒温(100℃)保持試験における、表層からの酸素侵入深さ(酸化膜厚さ)の時間変化を示すグラフ図である。
図5】本発明の実施例3に係る銅ボンディングワイヤのRHEED分析結果を示す電子線の回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(銅ボンディングワイヤの構成)
図1は、本発明の一の実施の形態に係る銅ボンディングワイヤを模式的に示す断面図である。また、図2は、本発明の他の実施の形態に係る銅ボンディングワイヤを模式的に示す断面図である。
【0017】
図1に示される本発明の一の実施の形態に係る銅ボンディングワイヤ1は、銅を主成分とする心材2と、心材2の表面に形成された表面処理層3と、を備える。
【0018】
心材2を構成する、銅を主成分とする材料としては、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅等を使用することができる。また、必ずしも純銅である必要はなく、本発明の効果を奏する限りにおいては、銅合金を使用することも可能であり、具体的には、3〜15質量ppmの硫黄と、2〜30質量ppmの酸素と、5〜55質量ppmのTiとを含む希薄銅合金等を使用することができる。
【0019】
表面処理層3は、銅よりも酸素との親和性が高い金属及び酸素を含有し、RHEED分析による電子線の回折像がハローパターンを示す層を有する。或いは、表面処理層3は、銅よりも酸素との親和性が高い金属、酸素、及び心材2から拡散した銅を含有し、RHEED分析による電子線の回折像がハローパターンを示す層を有する。
【0020】
なお、図2に示すように、本発明の他の実施の形態に係る銅ボンディングワイヤ4として、表面処理層5は、銅よりも酸素との親和性が高い金属及び酸素を含有し、RHEED分析による電子線の回折像がハローパターンを示す層7と、層7の下に形成された、銅及び銅よりも酸素との親和性が高い金属、又は、銅、銅よりも酸素との親和性が高い金属及び酸素を含有する拡散層6を有するものであってもよい。銅、銅よりも酸素との親和性が高い金属及び酸素からなる拡散層6であることが好ましい。
【0021】
表面処理層3、及び拡散層6を有する場合は層7を構成する、銅よりも酸素との親和性が高い金属としては、亜鉛が好ましい。亜鉛以外には、例えば、Ti,Mg,Zr,Al,Fe,Sn,Mn等を挙げることができる。とりわけ、リサイクルの観点から、銅の製造時に酸化除去し易いTi、Mg及びZrが好ましい。拡散層6を構成する、銅よりも酸素との親和性が高い金属についても、層7を構成する、銅よりも酸素との親和性が高い金属の場合と同様であり、同じ金属を使用することが好ましい。
【0022】
この銅よりも酸素との親和性が高い金属及び酸素を含有し、RHEED分析による電子線の回折像がハローパターンを示す層が、銅素材の酸化の原因である表面処理層の表面への銅の拡散、及び銅素材中への酸素の侵入を抑制ないし低減させる。その結果、このハローパターンを示す層は、銅及び酸素が結合することを阻止するバリア層として機能すると考えられる。
【0023】
このハローパターンを示す層を形成するためには、酸素と銅以外の他の金属とが優先的に結合することが必要であり、そのハローパターンを示す層の形成を促進するためには、心材2である銅よりも酸素との親和性が高い金属(例えば、亜鉛)が心材の表面に配置されていることが好ましい。
【0024】
表面処理層3及び5は、異種元素が界面で接するため、異種元素界面で、通常なだらかな濃度変化を示すものであり、表面処理層の厚さの定義が難しい。そこで、本発明においては、表面処理層の厚さを、「銅よりも酸素との親和性が高い金属及び酸素、並びに場合に応じて銅を含有する層の厚さであり、かつ、その層を構成する元素のいずれをも元素含有比率としての原子濃度(at%)として2at%以上含有する層の厚さ」と定義する。
【0025】
本実施の形態に係る銅ボンディングワイヤ1に用いられる表面処理層3(拡散層6を有する銅ボンディングワイヤ4の場合は表面処理層5)の厚さは、拡散層6の厚さ及び加熱処理条件にもよるが、3nm以上0.6μm以下が好ましい。より好ましくは、6nm以上0.6μm以下である。
【0026】
拡散層6を有する場合、拡散層6の厚さは、その下限値としては特に制限はなく、心材としての銅が被覆されていればよく、実用上、下限の被覆厚さは3nm程度であることが好ましい。また、拡散層6の厚さの上限値は、0.5μm以下が好ましい。0.5μmを超えると、高い耐食性の発現に寄与する層7が安定して形成されにくくなることがある。層7の厚さとしては、特に制限はないが、3nm以上が好ましい。
【0027】
(銅ボンディングワイヤの製造方法)
本実施の形態に係る銅ボンディングワイヤは、銅よりも酸素との親和性が高い金属が、例えば、亜鉛である場合には、最終製品のサイズ及び形状にて、銅系導体の表面に電解めっきでZn層(厚さが20μm以下が好ましく、17μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい)を形成した後、そのまま50℃以上150℃以下の温度で30秒以上60分以下の時間の条件で大気中にて加熱することで製造することができる。これにより、少なくとも亜鉛及び酸素を含有し、RHEED分析による電子線の回折像がハローパターンを示す層を有する表面処理層を備えた銅ボンディングワイヤが得られる。つまり、銅を主成分とする心材の表面に、亜鉛を被覆して所定の加熱処理を施すだけの簡易な手法によりRHEED分析による電子線の回折像がハローパターンを示す層を形成することができる。
【0028】
本発明の銅ボンディングワイヤの製造方法では、上述のように、被覆層を、50℃以上150℃以下の温度で、30秒以上60分以下の時間で加熱処理することが好ましい。また、Zn層の形成は、めっき法を好ましく用いることができる。めっき法のほか、スパッタ法、真空蒸着法、クラッド法等を用いることもできる。
【0029】
また、その他の実施の形態として、最終製品サイズ、形状に加工する前に、予め亜鉛からなるめっきを行い、その後、最終製品サイズ、形状に加工し、被覆層を0.6μm以下とする方法で製造したものであってもよい。
【0030】
また、拡散層6は、例えば、表面処理層5の層7を形成する前に、銅を主成分とする心材の表面に、亜鉛を被覆し、50℃以上の温度で雰囲気加熱、或いは、油浴、塩浴中で保持することにより製造することができる。また、通電による抵抗発熱を利用して製造することもできる。拡散層6の形成後、その外周に、前述の方法と同様にして、層7を形成する。
【0031】
なお、表面処理層は、ボンディングワイヤとしての線材に形成してもよいし、ボンディングリボンのような平角形状の心材の場合、片面だけに形成してもよいし、両面に形成してもよい。本発明においては、ボンディングリボンをボンディングワイヤの定義に含めるものとする。
【0032】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、表面処理層の表面への銅の拡散、及び心材2への酸素の侵入を抑制ないし低減させるバリア層として機能する表面処理層3或いは5を形成したので、ボンディングワイヤの保管時にボンディングワイヤ表面に酸化膜が成長するのを抑制でき、耐食性(耐酸化性)を有するため、ボンディング時の接続信頼性を向上させることができる。
【0033】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ制限されるものではない。
【実施例】
【0034】
本発明の実施例1〜8、比較例1〜3、及び従来例1〜4の銅ボンディングワイヤの構成を表1に示す。また、後述する評価項目についての評価結果も表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1における実施例1〜8、及び比較例1〜3は、概略として、基材としての銅からなる心材上に、種々の厚さの亜鉛の被覆層を電解めっきにより形成し、作製したものである。
【0037】
すなわち、実施例1〜8の銅ボンディングワイヤは、無酸素銅からなる線に、亜鉛めっきの厚さを変えた被覆層を形成し、その後、大気中で焼鈍をして作製したものである。
【0038】
一方、比較例1の銅ボンディングワイヤは、銅系材料の特性に及ぼす亜鉛層の厚さの影響を評価すべく、厚さを変化させた亜鉛層を形成し、その後、実施例1と同様の加熱処理をしたものであり、比較例2及び3の銅ボンディングワイヤは、銅系材料の特性に及ぼす加熱処理条件の影響を評価すべく、加熱処理をせずに(比較例2)、又は加熱処理条件を変化させ(比較例3)、作製したものである。
【0039】
さらに従来例として、無酸素銅(従来例1)、高純度銅(6N)(従来例2)、無酸素銅の表面にPdめっきを施したもの(従来例3)、Auワイヤ(従来例4)を用意した。
【0040】
以下に、各実施例、比較例及び従来例の詳細を説明する。
【0041】
[実施例1]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ0.07μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、50℃の温度で10分間、大気中で加熱処理して、表面処理層を備えた銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.003μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0042】
[実施例2]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ0.17μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、50℃の温度で1時間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.006μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0043】
[実施例3]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ0.27μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、100℃の温度で5分間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.01μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0044】
[実施例4]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ0.60μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、100℃の温度で5分間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.02μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0045】
[実施例5]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ1.33μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、120℃の温度で10分間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.05μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0046】
[実施例6]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ2.67μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、150℃の温度で30秒間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.1μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0047】
[実施例7]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ17μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、150℃の温度で30秒間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.6μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0048】
[実施例8]
酸素濃度、硫黄濃度、チタン濃度が、それぞれ7〜8 mass ppm、5 mass ppm、13 mass ppmである希薄銅合金からなる直径1mmの銅線を作製した。この銅線に、電解めっきにより厚さ0.27μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、150℃の温度で30秒間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.01μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0049】
[比較例1]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ31.7μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、100℃の温度で5分間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、1μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0050】
[比較例2]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ0.67μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.02μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0051】
[比較例3]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ0.33μmのZn層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。その後、400℃の温度で30秒間、大気中で加熱処理した銅ボンディングワイヤを作製した。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.02μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0052】
[従来例1]
直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線を、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。
【0053】
[従来例2]
直径1mmの6N銅(純度99.9999重量%)線を、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。
【0054】
[従来例3]
心材2として直径1mmの4N銅(純度99.99重量%)線に、電解めっきにより厚さ1.67μmのパラジウム(Pd)層を形成した。その後、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。作製した銅ボンディングワイヤに対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、Pdで構成される表面処理層が、0.05μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0055】
[従来例4]
直径1mmの金(純度99.99重量%)線を、直径0.03mmまで伸線加工を行い、更に続けて、通電焼鈍により銅心材を軟質化させた。
【0056】
[評価方法]
表1における各銅ボンディングワイヤに形成された表面処理層は、オ一ジェ分光分析の結果から求めた。
【0057】
表1におけるハローパターンの存在の確認は、RHEED分析(Reflection High Energy Electron Diffraction)により行った。ハローパターンが確認できたものを「有」とした。
【0058】
表1における作製した各銅ボンディングワイヤのボール硬さ、接続不良率(%)、ループ形状の各評価及び総合評価は、以下のようにして行った。
【0059】
ボール硬さは、フリーエアボールを形成した後、ボールの断面の材料硬さをビッカス硬度計で測定した。60Hv以下を◎、60Hvを超え70Hv以下を○、70Hvを超え80Hv以下を△とした。また、実際のワイヤボンディングの際に、この測定硬さに比例して、アルミパッドのダメージ(アルミスプラッシュ)が大きいことを目視にて確認した。
【0060】
接続不良率は、サンプル数n=30のワイヤボンディング及びプルテストにより評価した。ボンディングの未接着及びプルテストによる接続強度が導体強度の70%以下であるものを不良と判断し、それらの不良数をテスト総数で除した値を接続不良率とした。
【0061】
ループ形状は、ループ高さのばらつきで評価し、ループ高さばらつきが±150μm以内を◎、±150μmを超え±300μm以内を○、±300μmを超える場合を△とした。
【0062】
これらの項目及びコストを合わせ総合的に評価して、◎最良、○良好、△不足、×不適と判断した。
【0063】
[評価結果]
図3は、実施例3に係る銅ボンディングワイヤの恒温(100℃)保持試験における3600時間試験品の、表層からスパッタを繰り返しながら深さ方向のオージェ元素分析を行った結果を示すグラフである。横軸は表面からの深さ(nm)、縦軸は原子濃度(at%)を表し、実線は酸素(O)の含有比率としての原子濃度(at%)、長い破線は亜鉛(Zn)の原子濃度、短い破線は銅(Cu)の原子濃度を示している。酸素侵入深さは、表面から10nm程度であり、特に深さ0〜3nmの表層部位における平均元素含有比率を(深さ0〜3nmでの各元素の最大原子濃度−最小原子濃度)/2と定義すると、実施例3では、亜鉛(Zn)が60at%、酸素(O)が33at%、銅(Cu)が7at%であった。
【0064】
また、他の実施例を含めると、上記平均元素含有比率は、亜鉛(Zn)が35〜68at%、酸素(O)が30〜60at%、銅(Cu)が0〜15at%の範囲にあることがわかった。
【0065】
一方、比較例1の銅ボンディングワイヤは、亜鉛(Zn)が33at%、酸素(O)が41at%、銅(Cu)が26at%であり、比較例2の銅ボンディングワイヤは、亜鉛(Zn)が5at%、酸素(O)が46at%、銅(Cu)が49at%であった。
【0066】
図4は、本発明の実施例3、比較例1、及び従来例1に係る銅ボンディングワイヤの恒温(100℃)保持試験における、表層からの酸素侵入深さ(酸化膜厚さ)の時間変化を示すグラフ図である。酸素侵入深さは、各時間保持したサンプル表面から、スパッタを繰り返しながら、深さ方向にオージェ分析を行うことで求めた。図4において、横軸は100℃等温保持時間(h)、縦軸は酸素侵入深さ(nm)を表し、実線は実施例3、破線は従来例1の酸素侵入深さを示している。なお、比較例1は点で示されている。
【0067】
実施例3では、図3に示すように、3600時間保持経過後の状態で、表面近傍での酸素濃度が増加しているものの、その侵入深さは試験前と殆ど変化せず約0.01μm以下であり、実施例3の銅ボンディングワイヤは高い耐酸化性を示した。
【0068】
一方、図4に示すように、恒温保持試験前の従来例1では酸素を含む層の厚さが表面から約0.006μm程度と、恒温保持試験前の実施例3と同程度の深さであったが、3600時間保持試験後の従来例1では、表面近傍での酸素濃度が恒温保持試験前に比較して顕著に増加し、従来例1の酸素侵入深さは約0.036μmと試験前の5倍以上となった。また、試験後の従来例1は外観上も赤茶系に変色しており、明らかに酸素を含む層が厚く形成されていると判断することができた。また、無酸素銅に1μmのZn層を形成した比較例1は、1000時間保持試験後に既に酸素侵入深さが約0.080μmに達していた。
【0069】
耐食性に優れた実施例3の表面をRHEED分析した結果を図5に示す。電子線の回折像は、ハローパターンを示していることがわかった。
【0070】
(ボール硬さ)
ボール硬さについて、実施例1〜8、比較例1〜3、及び従来例1、2,4のボンディングワイヤは全て良好な特性を示した。実施例8及び素材全体の純度が高い従来例2、及び従来例4は、更にやわらかいボールを形成していた。実施例8において、◎の結果となった理由は、添加したチタンが不純物である硫黄をトラップすることで、銅母材(マトリックス)が高純度化し、素材の軟質特性が向上したためであると考えられる。
【0071】
一方、従来例3に示すPd被覆したボンディングワイヤは、ボールが硬い結果となった。これは、心材のCu中へPdが固溶した場合、その値がごく微量であってもボールが硬くなり易いことを示している。一方、実施例に示すZn被覆は、Cu中へZnが固溶したとしても、硬さの上昇は少ない、この理由として、CuとZnは原子半径がほぼ同等であるため、固溶による歪の発生が小さく、硬さへの影響が小さいためと考えられる。
【0072】
(接続信頼性)
接続信頼性に関して、実施例1〜8については、不良率がゼロの優れた特性を示した。一方、同じくZn系の表面処理層を持つ比較例1〜3であっても、良好な特性が得られない場合が認められた。比較例1のように、亜鉛の厚さが厚い場合、比較例2のようにめっき後の加熱処理を実施していない場合、比較例3のようにめっき後に過剰な加熱処理を行った場合はいずれも、評価結果は不良となった。従来例1、2についても、銅の酸化による接着不良が発生した。また、従来例2は、強度が不十分なネック切れが発生した。これは、高純度銅であるため、結晶粒が粗大化し強度低下が生じたためである。従来例3、4は、良好な特性を示した。
【0073】
以上の結果から、Zn処理を行った場合の加熱処理の条件としては、酸素を1%以上含む雰囲気中で50℃以上であることが好ましいことが確認された。
【0074】
(ループ形状)
ループ形状に関して、軟質である反面ループが安定しなかった従来例2以外は良好であった。特に、実施例8はより安定したループ特性を示した。
【0075】
(コスト)
コスト(経済性)に関して、4Nの銅(従来例1)、及び本発明の実施例1〜8、比較例1〜3は、材料そのものの耐食性に優れていながら材料コストが高い貴金属コーティング等を必要とせず、安価なZnを使用し、しかもその厚さが極めて薄いため、生産性と経済性に極めて優れている。従来例2の高純度銅は、従来例3のPdや従来例4のAuよりは安価であるものの、製造方法が特殊であるため4N銅をベースとした材料よりも高価にならざるを得ない。
【0076】
導電率と熱伝導率について、銅、及び銅を心材とした実施例1〜8が優れていることは言うまでもない。
【0077】
これらの結果から総合的に判断すると、表面処理により酸化劣化を低減させ、優れたワイヤボンディング特性、及び高い導電性と経済性を併せ持つ、ボンディングワイヤ材料として、実施例1〜8に示す本実施例の銅ワイヤボンディングが提案できる。
【0078】
なお、本発明は、上記実施の形態、上記実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1:銅ボンディングワイヤ
2:心材
3:表面処理層
4:銅ボンディングワイヤ
5:表面処理層
6:拡散層
図1
図3
図4
図2
図5