【実施例】
【0028】
図1および
図2において、10は実施例1に係る両面研磨装置の研磨布ドレッシング方法が適用された両面研磨装置(以下、両面研磨装置)である。まず、両面研磨装置を詳細に説明する。
両面研磨装置10は、5枚のシリコンウェーハ(半導体ウェーハ)Wの表裏面を同時に研磨可能なサンギヤ(遊星歯車)方式のものである。具体的には、両面研磨装置10は、平行に設けられた上定盤11および下定盤12と、上定盤11の下面に貼着された上研磨布13と、下定盤12の上面に貼着された下研磨布14と、下定盤12の中央部に設けられた小径なサンギヤ15と、サンギヤ15を中心にして回転自在に設けられた大径なインターナルギヤ16と、5枚の円板形状のキャリアプレート17とを備えている。
【0029】
各キャリアプレート17は、直径が510mm、厚さが0.75μmで、エポキシガラス製のものである。各キャリアプレート17には、直径300mm、厚さ0.8μmのシリコンウェーハWを保持するウェーハ保持孔17aが中央部に1つ形成され、キャリアプレート17の外周部には、サンギヤ15とインターナルギヤ16とに噛合する外歯17bが形成されている。また、上研磨布13および下研磨布14としては、ニッタ・ハース社製のMHS15A(Asker硬度85゜、密度0.53g/cm
3、圧縮率3.0%、直径1340mm、厚さ1000μmの硬質発泡ウレタンフォーム)が採用されている。
【0030】
両面研磨装置10によるウェーハ両面研磨は、ウェーハ保持孔17aにシリコンウェーハWを保持した5枚のキャリアプレート17を上定盤11と下定盤12とによって挟み込み、遊離砥粒を含む研磨液を供給しながら、サンギヤ15とインターナルギヤ16との間でこれらのキャリアプレート17を自転公転させ、各シリコンウェーハWの表裏面を同時に研磨する。このとき、サンギヤ15とインターナルギヤ16とは、互いに反対向きに回転している。
長時間にわたって両面研磨することで、上研磨布13および下研磨布14の各研磨作用面に偏摩耗が発生し、両面研磨後のシリコンウェーハWは変形する。ここでは、一般的な両面研磨時に発生する偏摩耗と同様に、上研磨布13の研磨作用面が外周部に比べて中央部が凹んだ湾曲形状となり、下研磨布14の研磨作用面が外周部に比べて中央部が凸となった湾曲形状となっている。なお、下研磨布14の研磨作用面の曲率は、上研磨布13の研磨作用面の曲率より大きい。
そこで、偏摩耗によるウェーハ変形を低減する目的で、両面研磨装置10を利用し、定期的に上研磨布13の研磨作用面をドレッシングする第1のドレスプレート18と、下研磨布14の研磨作用面をドレッシングする第2のドレスプレート19による上下の研磨布13,14の各研磨作用面の形状(表面形状)を補修するドレッシングを行う。
【0031】
ここで使用される第1のドレスプレート18は、外周部のドレッシング作用面(上面)に、リング形状の第1のドレス工具20がプレート外周部の全周にわたって固定され、かつプレート中央部に、その上面と下面とを貫通する円形状の第1の開口部21が形成されたものである(
図3)。
また、第2のドレスプレート19は、ドレッシング作用面(下面)に、第2のドレスプレート19の直径方向へ延びる矩形状(短冊形状)の第2のドレス工具23が1本固定されたものである(
図4)。第2のドレスプレート19の中央部のうち、第2のドレス工具23の形成部分を除く部分には、第2のドレスプレート19の上面と下面とを貫通する略半円形状の第2の開口部24が一対形成されている。
【0032】
第1のドレスプレート18および第2のドレスプレート19は、ステンレス(SUS)からなる円形状の基板25を本体としている。これにより、両ドレスプレート18,19の剛性確保が図られるとともに、第1のドレス工具20および第2のドレス工具23に用いられるアルミナ、ダイヤモンドなどからなるドレス材の基板25への電着が可能となる。基板25の外径はキャリアプレート17と同一で、基板25の外周部にはサンギヤ15とインターナルギヤ16とに噛合する外歯25aが形成されている。
特に、第2のドレスプレート19は、天気記号の晴れ形状(丸に一つ引きの家紋形状)となるように、円環部分と矩形部分とが一体化した基板25の矩形領域の下面(ドレッシング作用面)に、平均粒径が20〜80μmのダイヤモンドを電着したものである。第1のドレスプレート18の場合も、基板25の外周部の上面(ドレッシング作用面)に電着されるダイヤモンドの平均粒径は20〜80μmである。
【0033】
また、ドレッシング時には、両面研磨装置10の2枚のキャリアプレート17を、第1のドレスプレート18および第2のドレスプレート19に代えるだけでなく、残り3枚のキャリアプレート17を、ドレス補助用キャリアプレート26に代えている。ドレス補助用キャリアプレート26は、キャリアプレート17と同一サイズ、同一形状の円環形状のエポキシガラスからなる薄板で、中央部に形成された1つのウェーハ保持孔26aにダミーウェーハW1が保持され、外周部に外歯26bが形成されている。ダミーウェーハW1は、シリコンウェーハWと同一直径、同一厚さの疑似ウェーハである。
【0034】
次に、
図1〜
図8を参照して、この両面研磨装置10を利用した発明の実施例1に係る両面研磨装置の研磨布ドレッシング方法を説明する。
図1および
図2に示すように、上研磨布13および下研磨布14の同時ドレッシング時には、まず、両面研磨装置10に配置された5枚のキャリアプレート17のうち、
図1上の上側に配置されたキャリアプレート17を、
図3に示すドレッシング作用面が上向きの第1のドレスプレート18と差し替え、
図1上の左下側に配置されたキャリアプレート17を、
図4に示すドレッシング作用面が下向きの第2のドレスプレート19と差し替え、残り3枚のキャリアプレート17を、
図1に示すダミーウェーハW1がウェーハ保持孔26aに保持されたドレス補助用キャリアプレート26と差し替える。
【0035】
その後、この状態のまま上定盤11を徐々に下降し、上定盤11に固定した上研磨布13と下定盤12に固定した下研磨布14との間で、第1および第2のドレスプレート18,19と3枚のドレス補助用キャリアプレート26とを挟み込む(
図1および
図2)。次に、純水からなるドレッシング液を5〜10リットル/分で供給しながら、上定盤11と下定盤12とを互いに反対方向へ回転させるとともに、サンギヤ15とインターナルギヤ16との間で、第1および第2のドレスプレート18,19と各ドレス補助用キャリアプレート26とをそれぞれ所定速度で自転公転させ、上研磨布13と下研磨布14との両研磨作用面を、第1および第2のドレスプレート18,19によって同時にドレッシングする(
図1および
図2)。
【0036】
このとき、第1のドレスプレート18の外周部のドレッシング作用面に形成されたリング形状の第1のドレス工具20によって、上研磨布13の研磨作用面、特に研磨作用面の中央部に比べて隆起した外周部が積極的に研削(ドレッシング)される(
図6の領域A)。一方、第2のドレスプレート19のドレッシング作用面に形成した矩形状の第2のドレス工具23によって、下研磨布14の研磨作用面、特に研磨作用面の外周部に比べて隆起した中央部が積極的に研削される(
図8の領域B)。これにより、上研磨布13の研磨作用面と下研磨布14の研磨作用面との平行度が、
図5のグラフおよび
図7のグラフの対比によって推測される状態から、
図6のグラフと
図8のグラフとの対比によって推測される状態まで高められる。なお、
図5〜
図8のグラフの縦軸は研磨布の厚さであり、グラフの横軸は研磨布の直径方向の位置であって、右方向へ向かうほど研磨布の外周縁に近い位置を示す。
【0037】
ところで、上研磨布13の研磨作用面と下研磨布14の研磨作用面とは、それぞれ平坦化しなくても両研磨作用面に平行性(マッチング性)があれば両面研磨後のウェーハの平坦度は高まる。そのため、上述したようにリング形状の第1のドレス工具20と矩形状の第2のドレス工具23とを使用し、上下の研磨布13,14の両研磨作用面にドレッシングを施して上研磨布13の研磨作用面と下研磨布14の研磨作用面との平行度を高めることにより、両面研磨後のシリコンウェーハWの平坦度を高めることができる。
【0038】
また、ドレッシング時には、上述したように上定盤11と下定盤12との間に、第1および第2のドレスプレート18,19だけでなく、ダミーウェーハW1を保持したドレス補助用キャリアプレート26も挟み込んでいる。そのため、第1および第2のドレスプレート18,19のみによりドレッシングを行った場合に比べて、回転軸から上定盤11に作用するドレッシング圧力の受圧面積が増大する。これにより、その受圧面積が小さいことを原因として発生するドレッシング時の上定盤11の傾きを防止することができる。
さらに、ドレッシング中に発生した上研磨布13のドレス屑は、第1のドレスプレート18の中央部に形成された第1の開口部21を通して、第1のドレスプレート18の外へ排出することができる。また、ドレッシング中に発生した下研磨布14のドレス屑は、第2のドレスプレート19の中央部の両側部分に形成された一対の第2の開口部24を通して、第2のドレスプレート19の外へ排出することができる。これにより、研磨時にドレス屑によってシリコンウェーハWを傷つけることなく、上下の研磨布13,14のドレス屑を両面研磨装置の外へ円滑に排出することができる。しかも、第1および第2のドレスプレート18,19へのドレッシング液の供給も支障なく行うことができる。特に、矩形状を有した第2のドレス工具23の両側に略半月形状の大きな第2の開口部24を形成したので、よりドレッシング液のドレッシング作用面への進入性およびドレス屑の排出効果が高まる。
【0039】
ここで、
図9〜
図15を参照して、本発明法および従来法に係る両面研磨装置の研磨布ドレッシング方法によりドレッシングした後の上下の研磨布を使用し、表裏面が同時研磨されたシリコンウェーハについて、平坦度を比較した結果を報告する。
本発明法では実施例1の両面研磨装置10を使用し、実施例1と同一の条件で上下の研磨布を同時にドレッシングした。また、従来法では、
図9に示すように実施例1と同様に両面研磨装置10を使用し、ドレッシング条件も実施例1に準じて上下の研磨布を同時にドレッシングした。ただし、第2のドレスプレート19に代えて別の第2のドレスプレート19Aを採用した。別の第2のドレスプレート19Aとは、リング形状の第1のドレス工具20がドレッシング作用面(下面)に形成され、かつ円形状の第1の開口部21がプレート中央部に形成されたものであって、上下面を反転した第1のドレスプレート18と同じものである。
【0040】
従来法に則り、上下の研磨布13,14をドレッシングした結果を
図10および
図11に示す。なお、下研磨布14の厚さ分布は下研磨布14の外周部の厚さを0としたときの直径方向の分布であり、上研磨布13の厚さ分布は上研磨布13の外周部の厚さを20μmとしたときの直径方向の分布を示すものである。
図10のグラフと
図11のグラフとの対比から明らかなように、ドレッシングの前後において、上研磨布13の研磨作用面と下研磨布14の研磨作用面との平行度はそれほど改善しなかった。これは、第1および第2のドレスプレート18,19として、ドレッシング作用面にリング形状の第1のドレス工具20が形成されたものを採用したためと考えられる。すなわち、同一形状のドレス工具を用いたドレッシングでは、上下の研磨布13,14の研磨作用面に対するドレッシング量(取り代分布)は略等量となる。このような等量ドレッシングを、長時間の研磨で偏摩耗が増大した上下の研磨布13,14の各研磨作用面に施しても、ドレッシング後の上研磨布13の研磨作用面と下研磨布14の研磨作用面との平行度は、顕著に改善されることはない。
【0041】
次に、本発明法に則ってドレッシングされた上下の研磨布13,14を使用し、シリコンウェーハWを両面研磨した場合と、従来法に則ってドレッシングされた上下の研磨布13,14を使用し、シリコンウェーハWを両面研磨した場合(
図14のグラフおよび
図15のグラフ)とのウェーハ平坦度を対比した。
本発明法において、ドレッシング前の研磨布13,14により実施例1の条件で両面研磨を行ったときのシリコンウェーハWの平坦度は、GBIR;0.36μm(凹形)、SFQD P Ave;−37nmであった(
図12のグラフ)。また、ドレッシング後の研磨布13,14により実施例1の条件で両面研磨を行ったときのシリコンウェーハWの平坦度は、GBIR;0.20μm(凸形)、SFQD P Ave;−25nmであり(
図13のグラフ)、ウェーハ平坦度は明らかに改善された。
【0042】
一方、従来法において、ドレッシング前の研磨布13,14により実施例1の条件で両面研磨を行ったときのシリコンウェーハWの平坦度は、GBIR;0.56μm(凹形)、SFQD P Ave;−45nmであった(
図14のグラフ)。また、ドレッシング後の研磨布13,14により実施例1の条件で両面研磨を行ったときのシリコンウェーハWの平坦度は、GBIR;0.53μm(凹形)、SFQD P Ave;−53nmであり(
図15のグラフ)、ウェーハ平坦度はさほど改善されなかった。