特許第6021037号(P6021037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6021037ペットフード用組成物、ペットフード用フード粒、ペットフード、およびペットフード包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6021037
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ペットフード用組成物、ペットフード用フード粒、ペットフード、およびペットフード包装体
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/45 20160101AFI20161020BHJP
【FI】
   A23K50/45
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-255927(P2015-255927)
(22)【出願日】2015年12月28日
【審査請求日】2016年8月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 浩一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光多郎
(72)【発明者】
【氏名】山西 洋斗
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/194208(WO,A1)
【文献】 特開2002−96835(JP,A)
【文献】 特開昭55−92659(JP,A)
【文献】 特開昭56−148242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00−50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を5質量%以上含有し、下記の変形試験における測定値(X)について、25℃での値が0.5N以上であり、60℃での値が0.1N未満である、ペットフード用組成物。
変形試験:平皿上に測定対象物を置き、その中央部に、上方からプランジャー(直径15mm、厚さ5mmの円柱状)を押しつけて負荷をかけ、プランジャーを一定速度で下方に進行させながら応力を測定する。プランジャーが測定対照物に接触してから4mm進むまでの間の応力の最大値を求める。3個のサンプルについて測定を繰り返し、該最大値の平均値を求める。得られた平均値の単位をニュートン(N)に変換し測定値(X)とする。
【請求項2】
油脂を5〜89.5質量%、ゲル化剤を0.5〜10質量%、保湿剤を10〜80質量%、水を0〜35質量%含み、油脂、ゲル化剤、保湿剤、および水の合計が88〜100質量%である、請求項1に記載のペットフード用組成物。
【請求項3】
前記ゲル化剤がゼラチンを含む、請求項2に記載のペットフード用組成物。
【請求項4】
前記ゲル化剤がゼラチンと寒天を含む、請求項3に記載のペットフード用組成物。
【請求項5】
前記保湿剤がグリセリンを含む、請求項2〜4のいずれか一項に記載のペットフード用組成物。
【請求項6】
前記油脂の含有量が50質量%以上である、請求項2〜5のいずれか一項に記載のペットフード用組成物。
【請求項7】
水分活性が0.6以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のペットフード用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のペットフード用組成物からなる熱融解部を有し、該熱融解部の少なくとも一部が露出している、ペットフード用フード粒。
【請求項9】
請求項8に記載のペットフード用フード粒を含む、ペットフード。
【請求項10】
さらに、60℃での、前記変形試験における測定値(X)が0.5N以上である固体粒を含む、請求項9に記載のペットフード。
【請求項11】
前記固体粒として、水分含量が10質量%以下のドライフード粒を含む、請求項10に記載のペットフード。
【請求項12】
前記固体粒として、乾燥野菜を含む、請求項10または11に記載のペットフード。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項に記載のペットフードが、イージーピール包材からなる容器に収容されている、ペットフード包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペットフード用組成物、該ペットフード用組成物を含むペットフード用フード粒(本明細書では単にフード粒ともいう。)、該ペットフード用フード粒を含むペットフード、および該ペットフードを有するペットフード包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ペットフードにあっては、従来よりペットに好んで食されるように、すなわち嗜好性を向上させるために様々な工夫がなされている。
下記特許文献1には、加熱することで嗜好性が向上する粒状のペットフードが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5752310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の粒状ペットフードは、個々のフード粒に特定の加工デンプンと油脂を配合することによって、加熱したときにフード粒の柔らかさと香りが増すように工夫されているものの、視覚的な特長が乏しく、消費者へのアピール力(需要喚起)が充分とは言えない。
本発明は、給餌前に加温するペットフードに視覚的な特長を付与できるペットフード用組成物、ならびに、これを用いたペットフード用フード粒、ペットフード、およびペットフード包装体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の構成を有する。
[1] 油脂を5質量%以上含有し、下記の変形試験における測定値(X)について、25℃での値が0.5N以上であり、60℃での値が0.1N未満である、ペットフード用組成物。
変形試験:平皿上に測定対象物を置き、その中央部に、上方からプランジャー(直径15mm、厚さ5mmの円柱状)を押しつけて負荷をかけ、プランジャーを一定速度で下方に進行させながら応力を測定する。プランジャーが測定対照物に接触してから4mm進むまでの間の応力の最大値を求める。3個のサンプルについて測定を繰り返し、該最大値の平均値を求める。得られた平均値の単位をニュートン(N)に変換し測定値(X)とする。
[2] 油脂を5〜89.5質量%、ゲル化剤を0.5〜10質量%、保湿剤を10〜80質量%、水を0〜35質量%含み、油脂、ゲル化剤、保湿剤、および水の合計が88〜100質量%である、[1]のペットフード用組成物。
[3] 前記ゲル化剤がゼラチンを含む、[2]のペットフード用組成物。
[4] 前記ゲル化剤がゼラチンと寒天を含む、[3]のペットフード用組成物。
[5] 前記保湿剤がグリセリンを含む、[2]〜[4]のいずれか一項に記載のペットフード用組成物。
[6] 前記油脂の含有量が50質量%以上である、[2]〜[5]のいずれか一項に記載のペットフード用組成物。
[7] 水分活性が0.6以下である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のペットフード用組成物。
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載のペットフード用組成物からなる熱融解部を有し、該熱融解部の少なくとも一部が露出している、ペットフード用フード粒。
[9] [8]に記載のペットフード用フード粒を含む、ペットフード。
[10] さらに、60℃での、前記変形試験における測定値(X)が0.5N以上である固体粒を含む[9]に記載のペットフード。
[11] 前記固体粒として、水分含量が10質量%以下のドライフード粒を含む、[10]に記載のペットフード。
[12] 前記固体粒として、乾燥野菜を含む、[10]または[11]に記載のペットフード。
[13] [9]〜[12]のいずれか一項に記載のペットフードが、イージーピール包材からなる容器に収容されている、ペットフード包装体。
【発明の効果】
【0006】
本発明のペットフード用組成物は、常温では変形し難い固体状であり、加熱によって融解する。すなわち、加熱によって視覚的な状態変化を生じるため、給餌前に加温するペットフードに配合すると視覚的な特長を付与できる。
本発明のペットフード用フード粒は、本発明のペットフード用組成物からなる熱融解部が露出しているため、加熱による状態変化を視認することができる。したがって給餌前に加温するペットフードに配合すると視覚的な特長を付与できる。
本発明のペットフードは、加熱するとフード粒の融解が生じるという視覚的な特長を有する。
本発明のペットフード包装体は、加熱するとフード粒の融解が生じるという、視覚的な特長を有する。またフード粒の融解物が容器内面に付着し難いため、加熱後に容器からペットフードを取り出しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<水分含量の測定方法>
本発明において、水分含量は以下の測定方法で得られる。
被測定物を粉砕機にかけて1mmの篩を通過するように粉砕し、これを分析試料とする。分析試料2〜5gを正確に量ってアルミニウム製秤量皿(あらかじめ乾燥して重さを正確に量っておいたもの)に入れ、135±2℃で2時間乾燥し、デシケーター中で放冷後、重さを正確に量って、乾燥前後の重量差から水分含量を求める。
本明細書において、ペットフード用フード粒の水分含量は、製造後、包装容器に収容して密閉して製造したペットフード製品を、製造日から30日以内に開封した直後に測定した値、またはこれと同等の条件で測定した値とする。
【0008】
<水分活性含量の測定方法>
本発明において、水分活性(Aw)は、被測定物を粉砕した試料について、公知の水分活性測定装置を用い、測定温度25℃で測定して得られる値である。
例えば、DKSHジャパン社製の水分活性測定装置「Novasina IC−500
AW−LAB(製品名)」を使用して測定できる。
【0009】
<ペットフード用組成物の変形試験(測定値(X)の測定方法)>
ペットフード用組成物を固化させてサンプルを作製し、サンプルの温度を所定の値に調整したものを測定対象物とする。
プラットフォーム上に測定対象物を置き、該測定対象物の中央部に、上方からプランジャーを押しつけて負荷をかける。プランジャーを一定速度で下方に進行させながら応力を測定する。プランジャーが測定対照物に接触してから4mm進むまでの間の応力の最大値を求める。3個のサンプルについて測定を繰り返し、該最大値の平均値を求める。得られた平均値の単位をニュートン(N)に変換し測定値(X)とする。具体的には、得られた平均値の単位が「kgw」である場合は、その平均値に9.8を掛け算する(乗じる)ことによって数値単位をニュートン(N)に変換し、測定値(X)(単位:N)を得る。
【0010】
[測定条件]
測定装置:島津小型卓上試験機EZ Test(島津製作所社製、型番:EZ−SX、最大負荷容量:500N)。
プランジャー:直径15mm、厚さ5mmの円柱状。
プラットフォーム:平皿。
サンプルの作製方法:開口部の内径が37mm、底面の内径が31mm、高さが23mmのカップ内に、融解したペットフード用組成物の15mLを流し込み、室温(25℃)で一晩静置して固化させたものをサンプルとする。
【0011】
[サンプルの温度調整方法]
測定温度が25℃の場合は、上記の方法で製造したサンプル(25℃)を、そのまま測定対象物とする。
測定温度が60℃の場合は、上記の方法で製造したサンプルを電子レンジで加温し、赤外線放射温度計(佐藤計量器製作所社製、型番:SK−8920)で60℃になっていることを確認し、直ちに測定対象物としてプラットフォーム上に置く。
測定温度が50℃の場合は、上記の方法で製造したサンプルを、庫内の温度が50℃に保たれている電気オーブン中で4時間保温し、直ちに測定対象物としてプラットフォーム上に置く。
【0012】
≪ペットフード用組成物≫
本発明のペットフード用組成物(以下、組成物(Z)ともいう。)は油脂を5質量%以上含有する組成物である。本発明における組成物とは、組成が均一であるものいう。例えば油相と水相とが2層に分離して一体となっているものは組成物には含まれない。
組成物(Z)における油脂の含有量が5質量%以上であると、組成物(Z)をペットフードに配合することによる嗜好性の向上効果が十分に得られる。油脂の含有量は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
特に、組成物(Z)中の油脂の含有量が50質量%以上であると、組成物(Z)を10℃以下に冷却することで切断しやすい性状となり、組成物(Z)の成形が容易である点で好ましい。
組成物(Z)に含まれる油脂は1種でもよく2種以上でもよい。2種以上の場合はそれらの合計量が上記の範囲内であればよい。
【0013】
組成物(Z)は、上記の変形試験における測定値(X)が、25℃で0.5N以上、かつ60℃で0.1N未満である。測定値(X)が小さいほど、変形しやすい性状であることを意味する。固体は測定値(X)が大きく、液体は測定値(X)が小さい。
25℃での測定値(X)が0.5N以上であると、常温において変形が生じ難い固体状であるため、粒状のペットフードに配合して用いることができる。25℃での測定値(X)は1N以上が好ましく、3N以上がより好ましく、10N以上がさらに好ましい。
60℃での測定値(X)が0.1N未満であると、60℃で融解状態または外力で容易に変形する程度に融解した状態となる。60℃での測定値(X)は0.09N以下が好ましく、0.08N以下がより好ましく、0.07N以下がさらに好ましい。
このように、組成物(Z)は、常温における性状と60℃における性状との差が大きく、加温前後で視覚的な状態変化を生じる。したがって、給餌前に加温するペットフードに組成物(Z)を配合することにより、視覚的な特長を付与できる。
【0014】
組成物(Z)は、50℃で耐熱性を有することが好ましい。本発明において、50℃で耐熱性を有するとは、50℃の環境下で変形を生じ難いことを意味する。かかる耐熱性を有していると、夏季であっても保冷設備を用いずに保存および流通が可能である。また、加熱によって組成物(Z)の温度が上昇するとき、50℃までは変形が生じ難い固体状であり、60℃に達するまでに熱融解を生じるという特性が得られる。したがって、給餌前に加温するペットフードに組成物(Z)を配合しておくと、該ペットフードを加温する際に、50〜60℃の間で組成物(Z)の状態が急激に変化するため、ペットフードが適温に加温されたことを視覚的に認識することができる。
【0015】
[油脂]
組成物(Z)に含まれる油脂は、植物性油脂でもよく、動物性油脂でもよい。油脂は1種類でもよく、2種以上を併用してもよい。
油脂の例としては、パーム油、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、加工油脂、魚油、亜麻仁油、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等が挙げられる。
常温で固体状であり保形性が良好な固体脂である点で、パーム油、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油、加工油脂からなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0016】
[ゲル化剤]
組成物(Z)はゲル化剤を含むことが好ましい。
ゲル化剤の例としては、ゼラチン、寒天、カラギナン、ペクチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、タラヤガム、カラヤガム、アルギン酸、タラガム、デンプン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ゲル化剤は組成物(Z)の保形性に寄与する。
特にゼラチンは乳化にも寄与するため、組成物(Z)にゼラチンを含有させることで、乳化剤の使用量を少なくできる、または乳化剤不使用にできる点で好ましい。
特に寒天は50℃での保形性向上に寄与するため、組成物(Z)にゼラチンおよび寒天を含有させることが好ましい。
【0017】
[保湿剤]
組成物(Z)は保湿剤を含むことが好ましい。保湿剤は、組成物(Z)中の水分を保持し、水分活性の低下に寄与する。保湿剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
保湿剤の例としては、糖類、グリセリン、糖アルコール(ソルビトール、マルチトール等)、プロピレングリコールが挙げられる。
糖類としては、砂糖、グルコース(ブドウ糖)、マルトース、ガラクトース、スクロース(ショ糖)、フルクトース(果糖)、トレハロース等が挙げられる。糖類は粉末でもよく、液状(液糖)でもよい。
嗜好性の点で、糖類、グリセリン、糖アルコールからなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。糖類は砂糖または液糖が好ましい。
水分活性を効率良く低下させるために、少なくともグリセリンを用いることが好ましい。例えば、組成物(Z)中の保湿剤が、ソルビトールとグリセリンであることが好ましい。
【0018】
[水]
組成物(Z)は水を含むことが好ましい。水は電子レンジ加熱による組成物(Z)の昇温に寄与する。また水はゲル化剤のゲル化に寄与する。
組成物(Z)中の水は、原料中に含まれている水分であってもよく、原料とは別に水を添加してもよい。
【0019】
特に、電子レンジで加温されたときに良好な融解性が得られやすい点で、組成物(Z)が油脂、水、ゲル化剤および保湿剤を含むことが好ましい。電子レンジで加熱されるとき、油脂自体の温度は上昇し難いが、水はマイクロ波との相互作用によって熱を発生する。したがって、組成物(Z)中に油脂と水を共存させることにより、電子レンジ加熱により、水の発熱を利用して油脂を融解させることができる。またゲル化剤および保湿剤は水分の保持に寄与する。したがって、油脂および水を含む組成物(Z)中に、ゲル化剤および保湿剤を含有させて水を保持した状態で電子レンジ加熱することにより、組成物(Z)を速やかに融解させることができる。
【0020】
[その他の成分]
組成物(Z)は、本発明の効果が得られる範囲で、油脂、ゲル化剤、保湿剤、および水以外の、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては乳化剤、乳素材、卵素材、エキス・タンパク加水分解物等の嗜好性向上剤、香料、着色料等が挙げられる。
乳化剤は組成物(Z)が水を含む場合に、水相と油相の分離を抑制する。食品添加物として使用可能な乳化剤を用いることができる。例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、シュガーエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレン酸エステル等が挙げられる。乳化剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
[原料組成]
組成物(Z)は油脂を5〜89.5質量%、ゲル化剤を0.5〜10質量%、保湿剤を10〜80質量%、水を0〜35質量%含み、油脂、ゲル化剤、保湿剤、および水の合計が88〜100質量%であることが好ましい。
組成物(Z)は、油脂を15.0〜61.0質量%、ゲル化剤を1.0〜6.0質量%、保湿剤を28.3〜65.0質量%、水を9.0〜22.5質量%含み、油脂、ゲル化剤、保湿剤、および水の合計が88〜100質量%であることがより好ましい。
組成物(Z)は、油脂を15.0〜25.0質量%、ゲル化剤を3.0〜6.0質量%、保湿剤を53.5〜65.0質量%、水を15.0〜16.5質量%含み、油脂、ゲル化剤、保湿剤、および水の合計が88〜100質量%であることがさらに好ましい。
また組成物(Z)は、良好なレンジ融解性が得られやすい点で、常温で固体である成分の含有量が多すぎない方が好ましい。具体的に、砂糖の含有量が38質量%以下、かつソルビトールの含有量が40質量%以下の範囲で上記組成を満たすことが好ましい。また、油脂と砂糖の合計が30質量%未満であり、かつグリセリンの含有量が10質量%以上の範囲で上記組成を満たすことが好ましい。
さらに、良好な50℃耐熱性が得られやすい点で、組成物(Z)がゼラチンと寒天を含み、寒天の含有量が0.5質量%以上の範囲で上記組成を満たすことが好ましい。該寒天の含有量は1.5質量%以上がより好ましい。
組成物(Z)の好ましい原料組成を以下に挙げる。
ソルビトールが14.0〜30.0質量%、グリセリンが23.5〜65.0質量%、水が15.0〜16.5質量%、ゼラチンが1.5〜4.5質量%、寒天が0.5〜2.0質量%、油脂が15.0〜25.0質量%であり、これらの合計が88〜100質量%。
【0022】
またレンジ融解性が良好であるとともに、成形加工適性に優れる点では、組成物(Z)が油脂を50〜65質量%、ゲル化剤を1〜3質量%、保湿剤を20〜40質量%、水を5〜20質量%含み、油脂、ゲル化剤、保湿剤、および水の合計が88〜100質量%であることが好ましい。
この組成であると油脂の含有量が高く、組成物(Z)を冷却することにより変形し難く切断しやすい性状となるため、成形加工し易い点で好ましい。
【0023】
[水分活性]
組成物(Z)の水分活性(Aw)は、0.87以下が好ましく、0.80以下がより好ましい。水分活性(Aw)は、0.87以下であると良好な保存性が得られる。
特に、組成物(Z)と後述のドライフード粒を組み合わせて用いる場合は、組成物(Z)の水分活性(Aw)を0.6以下とすることが好ましい。該水分活性(Aw)が0.6以下であると、ドライフード粒への水分移行が良好に防止される。
【0024】
<ペットフード用組成物の製造方法>
組成物(Z)は、全原料を均質に混合し、降温して固化させる方法で製造できる。常温で固体の原料は加温して液状にして混合する。
例えば、水、ゲル化剤および保湿剤を含む水相組成物と、油脂を含む油相組成物をそれぞれ調製し、これらを混合し均質化した後、固化させる方法を用いることができる。ゲル化剤を溶解させるために、必要に応じて水相組成物を加温する。また油脂を融解させるために、必要に応じて油相組成物を加温する。
【0025】
≪ペットフード用フード粒≫
組成物(Z)をペットフードに配合する際の形態は、加熱による組成物(Z)の状態変化が視覚的に認識できる形態が好ましい。
例えば、組成物(Z)からなる熱融解部を有し、該熱融解部の少なくとも一部が露出しているフード粒(z)の形態が好ましい。
フード粒(z)は、組成物(Z)のみからなる粒でもよい。組成物(Z)のみからなるフード粒(z)は、組成物(Z)を適度な形状および大きさの粒に成形して得られる。例えば組成物(Z)を板状に成形し、これを柱状に切断または型抜きする方法で成形することができる。
組成物(Z)のみからなるフード粒(z)は加熱により融解するため、その大きさは特に限定されない。視覚的な特長を付与する効果の点で、例えば最短径及び最長径が、共に1〜20mmの範囲内であることが好ましく、共に2〜15mmであることがより好ましい。
【0026】
または、筒状の可食容器、または凹部を有する可食容器の内部に、組成物(Z)が充填されているフード粒(z)でもよい。可食容器はペットが食することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、後述の膨化粒または非膨化粒の製造に用いられる原料組成物を成形して焼成する方法で可食容器を製造できる。可食容器はペットが食やすい大きさであることが好ましい。例えば最短径及び最長径が、共に3〜30mmの範囲内あることが好ましく、共に5〜20mmであることがより好ましい。
【0027】
≪ペットフード≫
本発明のペットフードは、フード粒(z)を含む。フード粒(z)のみからなるペットフードでもよく、フード粒(z)以外の粒を含んでもよい。
本発明のペットフードは、給餌前に加温されるペットフードが好ましい。加熱手段は限定されないが、給餌前に電子レンジで加温されるペットフードがより好ましい。加温終了時のペットフード温度は、50℃超〜65℃以下が好ましく、55〜60℃がより好ましい。
【0028】
フード粒(z)以外の粒は、60℃における測定値(X)が0.5N以上である固体粒を含むことが好ましい。測定値(X)が0.5N以上であるとは、変形が生じ難い固体状であることを意味する。固体粒の60℃での測定値(X)は1N以上が好ましく、3N以上がより好ましく、10N以上がさらに好ましい。
固体粒としては、水分含量が10質量%以下のドライフード粒、水分含量が10質量%を超えるセミモイストフード粒、乾燥野菜、乾燥肉、乾燥魚介類等が挙げられる。
かかる固体粒とフード粒(z)を含むペットフードは、加熱によりフード粒(z)が融解して液体となり、該液体が固体粒に絡まるため、固体粒の嗜好性が向上するとともに、固体粒の外観がより美味しそうなる。
【0029】
ドライフード粒は膨化粒であってもよく、非膨化粒であってもよい。
「膨化粒」は原料混合物を粒状に成形した粒であって、原料混合物の内部で起泡させる膨化工程を経て得られる粒である。「膨化工程」は、加熱、発酵、化学反応または減圧などの手法により、原料混合物の内部で気体を発生させる工程をいう。膨化工程では、気体が発生することにより原料混合物の体積が増加し多孔質の性状となる。原料混合物の体積が増加することにより嵩密度が低下する。膨化工程の前、膨化工程の後、または膨化工程と同時に原料混合物を粒状に成形することにより「膨化粒」が得られる。「非膨化粒」は膨化工程を経ずに製造された粒である。
ドライフード粒は表面に、油脂および/または嗜好性向上剤を含むコーティング層を有することが好ましい。
ドライフード粒は加温による状態変化が小さいため、特に、フード粒(z)と組み合わせることによる視覚的なアピール力の向上効果が大きい。
【0030】
セミモイストフード粒の水分含量は15〜30質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。またセミモイストタイプのフード粒の水分活性(Aw)は0.60〜0.87が好ましく、0.70〜0.80がより好ましい。
セミモイストフード粒は膨化粒であってもよく、非膨化粒であってもよい。
セミモイストフード粒は表面に、油脂および/または嗜好性向上剤を含むコーティング層を有することが好ましい。
【0031】
乾燥野菜は、原料野菜をカットし、必要に応じて乾燥前処理を施した後に乾燥させたものである。乾燥野菜は、健康志向の消費者に好まれるものの、ペットの良好な嗜好性が得られ難い。乾燥野菜とフード粒(z)と組み合わせて用いると、加熱によりフード粒(z)が融解して液体となり、該液体が乾燥野菜に絡まるため、乾燥野菜の嗜好性が向上する。また乾燥野菜が色鮮やかになり、外観がより美味しそうになる。
【0032】
フード粒(z)とそれ以外の固体粒とを含むペットフードにおいて、フード粒(z)の含有量は特に限定されないが、視覚的な特長を十分に付与するためには、ペットフード全体のうち、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定されず、例えば栄養バランス等を考慮し設定される。ペットフードの総合栄養食の場合、フード粒(z)の含有量は30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。ゼロでもよい。
【0033】
≪ペットフード包装体≫
本発明のペットフードの製品形態は特に限定されないが、イージーピール包材からなる容器にペットフードが収容されたペットフード包装体の形態が好ましい。イージーピール包材は離型性が良好であるため、融解したフード粒(z)の容器内面への付着が抑えられる。したがって、加熱後のペットフードの全量を容器からスムーズに取り出すことができる。
イージーピール包材として公知の材料を適宜用いることができる。耐熱性を有するものが好ましい。電子レンジで加熱可能な材料が好ましい。
好ましい材料の例としては、エチレンープロピレンランダム共重合体と線状低密度ポリエチレン(LLDPE)とのポリマーブレンド;ポリプロピレン系樹脂と高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンまたはエチレンー酢酸ビニル共重合体などを組合せたポリマーブレンド;ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)やポリスチレン(PS)とポリエチレン(PE)等ランダムPP、PE、PS等のポリマーブレンド;ポリエチレン系ポリマーをベースとした特殊ポリマー複合体のCFフィルム(東レフィルム加工株式会社)等が挙げられる。
【0034】
容器の形状は特に限定されない。例えば袋状でもよく、ボウル(bowl)状の容器の開口部を包装用フィルムでヒートシールした形状でもよい。
ペットフード包装体は、ペットフードが使い切り量で容器に収容されたものが好ましい。使い切り量とは、1回の給餌で使い切ることができる量であり、1回の給餌量またはその一部を小分けした量である。
容器に、給餌直前の加熱に関する表示が設けられていることが好ましい。ペットフードの温度が、予め設定された目的の温度になるように設定された加熱方法や加熱条件の表示でもよい。具体的には、湯煎による加熱方法として沸騰したお湯に浸漬させる時間を表示してもよい。または電子レンジによる加熱方法として、定格高周波出力(ワット数)と加熱時間を表示してもよい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[製造例1:ドライフード粒の製造]
穀類71質量部、肉類24質量部、その他添加剤等5質量部を混合した。得られた原料混合物をエクストルーダに投入し、混練しながら約115℃で約2分間の加熱処理を施してデンプン成分をアルファ化し、エクストルーダの出口で粒状に押出造粒すると同時に膨化させた。エクストルーダの出口では、混練物を直径5.3mmの孔(円形)から柱状に押し出し、該柱状物を厚さが4mmとなるようにカッターで切断して造粒物とした。
得られた造粒物を、乾燥機を用いて約100℃で約30分間の乾燥処理した後、外添剤(油脂と嗜好性向上剤の混合物)をコーティングしてドライフード粒を得た。
得られたドライフード粒の水分含量は8質量%であった。また60℃に加熱されても粒の硬さはほとんど変化せず、60℃での測定値(X)は300N以上と推定される。
【0036】
[例1〜12:ペットフード用組成物からなるフード粒の製造]
表1に示す配合で組成物(Z)を調製した。
水相組成物の原料を90℃で混合してゲル化剤を溶解させた。これとは別に油相組成物の原料を60℃で混合して油脂を融解させた。得られた水相組成物を90℃に保ちながら、油相組成物(60℃)を少量ずつ加え、高圧ホモミキサーで均質化して組成物(Z)を得た。得られた組成物(Z)を型に流し込み、4℃に冷却して板状に成形し、包丁で四角柱状に切断した。こうして縦、横、高さがいずれも10mmの、組成物(Z)からなるフード粒を得た。
得られたフード粒について、上述の方法で25℃および60℃における測定値(X)と、水分活性を測定した。また下記の方法でレンジ融解性と50℃耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0037】
[例13:比較例のフード粒の製造]
本例は水相組成物を用いずにフード粒を製造した例である。
表1に示す配合で、砂糖に60℃で完全溶解した油脂を添加し、十分に撹拌して混合した。得られた油相組成物を、例1と同様に型に流し込み冷却し切断して、例1と同じ形状のフード粒を得た。例1と同様に測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0038】
<レンジ融解性の評価方法>
各例で得られたフード粒を、500Wの電子レンジでフード粒の温度が60℃となるように加熱した。加熱後のフード粒の融け具合を目視で観察し、下記の基準で評価した。
5:完全に液状に融解している。
4:全体的に液状に融解しているが、溶け方が弱い。
3:部分的に液状に融解しているが、固形分が残っている。
2:表面が僅かに融解している。
1:全く融解していない。
【0039】
<50℃耐熱性の評価方法>
各例で得られたフード粒を、庫内の温度が50℃に保たれている電気オーブン中で4時間保温した。電気オーブンから取り出してフード粒の保形性を目視で観察し、下記の基準で評価した。
5:変形融解していない。
4:表面がわずかに融解している。
3:部分的に変形融解している。粒の半分以上が形状を残している。
2:部分的に変形融解している。形状を残している部分が粒の半分未満。
1:完全に変形融解している。
【0040】
<ペットフードのレンジ加熱後の嗜好性(1)の評価>
例1、4、8、9、または10で得られた組成物(Z)からなるフード粒を、ペットフードに配合したときの嗜好性(食いつき)の向上効果を評価した。結果を表1に示す。
製造例1で得たドライフード粒の90質量部と、各例で得られたフード粒の10質量部を混合してペットフードPを製造した。
製造例1で得たドライフード粒のみからなるペットフードQと、ペットフードPとの組み合わせにおいて摂食量を比較する方法で嗜好性を評価した。20頭の犬をモニターとして2日間でテストした。各ペットフードは500Wの電子レンジで60℃になるように加温した直後に給餌した。
第1日は、ペットフードPおよびQのうち、一方を左から、他方を右から、犬1頭に対して所定の給餌量で同時に与え、犬がどちらか一方を完食した時点で又は1時間後に、犬が食べたペットフード量を測定した。
犬1頭が第1日に食べた合計のペットフードの質量に対して、ペットフードPの摂食量とペットフードQの摂食量の比(P:Q、P+Q=100%)を百分率で求めた。モニターとした犬の数に基づいて、得られた百分率を平均して、第1日の結果とした。
第2日は、ペットフードPおよびQのうち、第1日とは反対に、一方を右から、他方を左から同時に与えたほかは第1日と同様にして、第2日の結果を得た。
第1日と第2日の結果を平均して、摂食量の比「P:Q」を求めた。PまたはQの数値が高いほどモニターである犬が好んで摂食したことを示す。
Pの値が高いほど、組成物(Z)からなるフード粒を配合したことによる嗜好性の向上効果が大きいことを意味する。
例1の嗜好性(1)の評価におけるPの値を100%としたときの、各例のPの値の比率を表に示す。
【0041】
<ペットフードのレンジ加熱後の嗜好性(2)の評価>
組成物(Z)の組成の違いによる、ペットフードの嗜好性(食いつき)の違いを評価した。結果を表1に示す。
製造例1で得たドライフード粒の90質量部と、例13で得られたフード粒の10質量部を混合してペットフードPを製造した。
一方、製造例1で得たドライフード粒の90質量部と、例1で得られたフード粒の10質量部を混合してペットフードQを製造した。
上記嗜好性(1)の評価と同様にして嗜好性を評価した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の結果に示されるように、例1〜12のフード粒は、25℃での測定値(X)が0.5N以上の固体状であり、60℃では測定値(X)が0.1N未満に融解した状態となるような熱融解性を示す。したがって、加熱によって視覚的な状態変化を生じ、給餌前に加温するペットフードに配合することにより視覚的な特長を付与できる。
特に例1〜9で得られたフード粒はレンジ加熱したときの融解性に優れ、例1、4、8、9では加温後のペットフードの嗜好性が向上した。
なお例8は、油脂の含有量が比較的多く、グリセリンの含有量が比較的少ないため、60℃で全体的に液状に融解しても、60℃での測定値(X)は比較的高い値となった。
例10のフード粒は、レンジで加熱されたときに固形分が残り、加温後のペットフードの嗜好性はドライフード粒のみからなるペットフードQと同等であった。
例13のフード粒は60℃でも融解しない固体状であり、レンジ融解性が悪い。嗜好性(2)の評価の結果に示されるように、例13のフード粒の方が、例1のフード粒よりも油脂の含有量が多いにもかかわらず、加温後のペットフードの嗜好性は例1の方がやや良い。これらのことから、例1ではフード粒が加熱により融解してドライフード粒に付着したことにより、ドライフード粒の嗜好性が向上したと考えられる。
また例8、9は、特に、組成物(Z)を4℃に冷却した成形体を切断する際に変形が生じ難く成形加工性に優れていた。
【要約】
【課題】給餌前に加温するペットフードに視覚的な特長を付与できるペットフード用組成物の提供。
【解決手段】油脂を5質量%以上含有し、下記の変形試験における測定値(X)について、25℃での値が0.5N以上であり、60℃での値が0.1N未満である、ペットフード用組成物。変形試験:平皿上に測定対象物を置き、その中央部に、上方からプランジャー(直径15mm、厚さ5mmの円柱状)を押しつけて負荷をかけ、プランジャーを一定速度で下方に進行させながら応力を測定する。プランジャーが測定対照物に接触してから4mm進むまでの間の応力の最大値を求める。3個のサンプルについて測定を繰り返し、該最大値の平均値を求める。得られた平均値の単位をニュートン(N)に変換し測定値(X)とする。
【選択図】なし