特許第6021086号(P6021086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6021086バナジン酸ビスマス積層体の製造方法及びバナジン酸ビスマス積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021086
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】バナジン酸ビスマス積層体の製造方法及びバナジン酸ビスマス積層体
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20161020BHJP
   B01J 23/22 20060101ALI20161020BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20161020BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20161020BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C01G31/00
   B01J23/22 M
   B01J35/02 J
   B01J37/34
   B01J37/02 301N
   B01J37/02 301M
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-504331(P2015-504331)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2014055490
(87)【国際公開番号】WO2014136783
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2015年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-45959(P2013-45959)
(32)【優先日】2013年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度経済産業省「未来開拓研究プロジェクト/グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発(革新的触媒)のうち二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】ジア チンシン
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 顕秀
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−155876(JP,A)
【文献】 特表2006−527779(JP,A)
【文献】 特開2008−024578(JP,A)
【文献】 ジア チンシン他,高効率なソーラー水分解のためのBiVO4薄膜電極の開発,第110回触媒討論会討論会A予稿集,一般社団法人触媒学会,2012年 9月14日,Pages129-130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00 − 47/00
B01J 21/00 − 38/74
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体溶液中に、マイクロ波で加熱可能な基板を配置し、マイクロ波支援化学浴析出法(MW−CBD)により、前記基板上にバナジン酸ビスマス層を形成する工程を含むバナジン酸ビスマス積層体の製造方法。
【請求項2】
前記バナジン酸ビスマス層を焼成処理する工程を更に含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体溶液への尿素の添加の有無及び添加量、並びに前記マイクロ波支援化学浴析出法において用いるマイクロ波の照射出力及び照射時間から選択される少なくとも1つを変えることにより、前記バナジン酸ビスマス層の結晶相におけるジルコン構造テトラゴナル相及びシーライト構造モノクリニック相の割合を変える請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記焼成処理における焼成温度及び焼成時間の少なくとも一方を変えることにより、前記バナジン酸ビスマス層の結晶相におけるジルコン構造テトラゴナル相及びシーライト構造モノクリニック相の割合を変える請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記バナジン酸ビスマス層を平面視したとき、シーライト構造モノクリニック相の結晶が前記基板に占める面積割合が60〜100%である請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロ波支援化学浴析出法により、前記基板上に第1のバナジン酸ビスマス層を形成する工程と、
前記第1のバナジン酸ビスマス層上にバナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体塗布溶液を塗布して焼成することにより、前記第1のバナジン酸ビスマス層上に第2のバナジン酸ビスマス層を形成する工程とを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1のバナジン酸ビスマス層の結晶相がジルコン構造テトラゴナル相であり、前記第2のバナジン酸ビスマス層の結晶相がシーライト構造モノクリニック相である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
透明基板上にフッ素ドープ酸化錫膜を有し、前記フッ素ドープ酸化錫膜の上にバナジン酸ビスマス層を有するバナジン酸ビスマス積層体であって、前記バナジン酸ビスマス層のX線回折パターンにおいて、2θ=31°近傍で観測される回折線のピーク値が2θ=28°近傍で観測される回折線のピーク値よりも大きいバナジン酸ビスマス積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジン酸ビスマス積層体の製造方法及びバナジン酸ビスマス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー・環境問題の観点から、光触媒を利用して水の電気分解により太陽エネルギーを水素エネルギーに変換する技術が注目されている。水の電気分解反応では、理論上1.23V以上の電解電圧が必要となるため、光電極を作成し、低い電圧で水を分解できるようにすることが望ましい。通常、光電極を作製する際には、基板等に光触媒を塗布する方法がとられている。光触媒の均質な薄膜を得るために、光触媒の微粒子化が検討されている。
【0003】
光触媒活性を持つことが知られるバナジン酸ビスマス(BiVO)においても、BiVOの微粒子化が検討されている。例えば、平均粒径10〜20μm程度のBiVO粉末を水系溶媒に分散させた懸濁液を撹拌しながらレーザー光を照射することによって、平均粒径1μm以下のBiVO微粒子にして、コロイド分散液を製造する方法が提案されている(特許文献1を参照)。また、尿素の存在下にNHVOとBi(NOとを反応させることにより、BET表面積0.3m−1程度のBiVOの微粉末を製造する方法が提案されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−19156号公報
【特許文献2】特開2004−24936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような微粉末のBiVOを基板に塗布して得られる薄膜は、光電極として利用するには、十分な性能を示すものではなかったため、より性能の高いBiVO薄膜が求められていた。
【0006】
本発明は、新しいBiVO積層体の製造方法及びBiVO積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、バナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体溶液中に、マイクロ波で加熱可能な基板を配置し、マイクロ波支援化学浴析出法(MW−CBD)によりBiVO層を形成し、必要に応じて焼成処理すると、光触媒や光電極へ利用可能な性能の高いBiVO層が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の(1)〜(9)のとおりである。
【0008】
(1)バナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体溶液中に、マイクロ波で加熱可能な基板を配置し、マイクロ波支援化学浴析出法(MW−CBD)により、上記基板上にバナジン酸ビスマス層を形成する工程を含むバナジン酸ビスマス積層体の製造方法。
(2)上記バナジン酸ビスマス層を焼成処理する工程を更に含む上記(1)に記載の製造方法。
(3)上記前駆体溶液への尿素の添加の有無及び添加量、並びに上記マイクロ波支援化学浴析出法において用いるマイクロ波の照射出力及び照射時間から選択される少なくとも1つを変えることにより、上記バナジン酸ビスマス層の結晶相におけるジルコン構造テトラゴナル相(z−t相)及びシーライト構造モノクリニック相(s−m相)の割合を変える上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)上記焼成処理における焼成温度及び焼成時間の少なくとも一方を変えることにより、上記バナジン酸ビスマス層の結晶相におけるジルコン構造テトラゴナル相(z−t相)及びシーライト構造モノクリニック相(s−m相)の割合を変える上記(2)に記載の製造方法。
(5)上記バナジン酸ビスマス層を平面視したとき、シーライト構造モノクリニック相(s−m相)の結晶が上記基板に占める面積割合が60〜100%である上記(1)から(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)上記マイクロ波支援化学浴析出法により、上記基板上に第1のバナジン酸ビスマス層を形成する工程と、
上記第1のバナジン酸ビスマス層上にバナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体塗布溶液を塗布して焼成することにより、上記第1のバナジン酸ビスマス層上に第2のバナジン酸ビスマス層を形成する工程とを含む上記(1)に記載の製造方法。
(7)上記第1のバナジン酸ビスマス層の結晶相がジルコン構造テトラゴナル相(z−t相)であり、上記第2のバナジン酸ビスマス層の結晶相がシーライト構造モノクリニック相(s−m相)である上記(6)に記載の製造方法。
(8)上記(1)から(7)のいずれかに記載の製造方法により製造されるバナジン酸ビスマス積層体。
(9)透明基板上にフッ素ドープ酸化錫膜を有し、上記フッ素ドープ酸化錫膜の上にバナジン酸ビスマス層を有するバナジン酸ビスマス積層体であって、上記バナジン酸ビスマス層のX線回折パターンにおいて、2θ=31°近傍で観測される回折線のピーク値が2θ=28°近傍で観測される回折線のピーク値よりも大きいバナジン酸ビスマス積層体。
なお、本発明において、近傍とは、±0.5°を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新しいBiVO積層体の製造方法及びBiVO積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験例1で形成したBiVO層の走査型電子顕微鏡(SEM)観察画像を示す図である。
図2】試験例1、2、6、8、及び参考例1で形成したBiVO層のX線回折パターンを示す図である。
図3】試験例2で形成したBiVO層のSEM観察画像を示す図である。
図4】参考例1で形成したBiVO層のSEM観察画像を示す図である。
図5】試験例1、3〜5で形成したBiVO層のX線回折パターンを示す図である。
図6】試験例6で形成したBiVO層のSEM観察画像を示す図である。
図7】試験例9で形成したBiVO層のSEM観察画像を示す図である。
図8】試験例10で形成したBiVO層のSEM観察画像を示す図である。
図9】試験例3、7、9、及び参考例1で製造したBiVO積層体から作製したBiVO電極を用い、擬似太陽光を照射したときの電流−電位曲線を示す図である。
図10】試験例3、7、9、及び参考例1で製造したBiVO積層体から作製したBiVO電極を用い、可視光を照射したときの電流−電位曲線を示す図である。
図11】試験例9、10で製造したBiVO積層体から作製したBiVO電極を用い、擬似太陽光を照射したときの電流−電位曲線を示す図である。
図12】試験例1、3〜5で製造したBiVO積層体から作製したBiVO電極を用い、擬似太陽光を照射したときの電流−電位曲線を示す図である。
図13】試験例3、7で製造したBiVO積層体から作製したBiVO電極を用い、擬似太陽光を照射したときの電流−電位曲線を示す図である。
図14】試験例11で形成したBiVO層のSEM観察画像を示す図である。
図15】試験例11、12、及び参考例2で形成したBiVO層のX線回折パターンを示す図である。
図16】試験例12で形成したBiVO層のSEM観察画像を示す図である。
図17】参考例2で形成したBiVO層のSEM観察画像を示す図である。
図18】試験例11、12、及び参考例2で製造したBiVO積層体から作製したBiVO電極を用い、擬似太陽光を照射したときの電流−電位曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
本発明のバナジン酸ビスマス積層体の製造方法は、バナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体溶液中に、マイクロ波で加熱可能な基板を配置し、マイクロ波支援化学浴析出法(MW−CBD)により、上記基板上にバナジン酸ビスマス層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明で用いられる前駆体溶液は、バナジウム塩とビスマス塩とが溶剤に溶解している。
バナジウム塩としては、塩化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ塩化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、五酸化バナジウム等が挙げられ、これらの中でも、メタバナジン酸アンモニウムが好ましい。
ビスマス塩としては、硝酸ビスマス、塩化ビスマス、三酸化ビスマス、オキシ炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、水酸化ビスマス等が挙げられ、これらの中でも硝酸ビスマスが好ましい。
【0014】
上記前駆体溶液において、バナジウム塩の濃度は、0.01〜0.4mol/lが好ましく、0.05〜0.2mol/lがより好ましい。また、ビスマス塩の濃度は、0.01〜0.4mol/lが好ましく、0.05〜0.2mol/lがより好ましい。上記前駆体溶液中のバナジウムとビスマスの量はV/Bi=0.9〜1.5(mol/mol)であることが好ましく、当量であることがより好ましい。
【0015】
上記前駆体溶液は尿素を含んでもよい。尿素の添加量はバナジウム塩又はビスマス塩のモル数に対し、0〜3000モル%が好ましい。
【0016】
前駆体溶液に用いられる溶剤は、バナジウム塩とビスマス塩とを溶解させるものであれば特に限定されないが、水が好ましい。
上記前駆体溶液には、pHの調製のために他に酸を含んでもよい。酸としては、硝酸、塩酸、硫酸等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられるマイクロ波で加熱可能な基板としては、誘電体、金属酸化物等が挙げられる。
【0018】
製造されるBiVO積層体を光電極として用いる場合には、上記基板として、導電性膜を有する基板を用いることが好ましい。上記導電性膜としては、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等の薄膜が挙げられる。上記導電性膜を、ソーダガラス、耐熱ガラス、石英ガラス等のガラス基板、ポリエステル樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂の樹脂基板等に積層したものを用いることが好ましい。これらの中でも、BiVOを光触媒として用いる反応を行う際に、還元サイトとなるBiVOの010面の結晶面を配向させやすいものとして、FTOガラス基板を用いることが特に好ましい。
【0019】
上記基板に導電性膜を有さない基板を用いる場合には、製造されるBiVO積層体を光触媒として種々の反応に利用することができる。
【0020】
本発明において行うマイクロ波支援化学浴析出法(MW−CBD)は、基板を設置した前駆体溶液にマイクロ波を照射することによって、目的物の核生成と粒子成長を伴い固相を形成させる方法である。マイクロ波を前駆体溶液に照射するには、市販のマイクロ波合成反応装置を用いるとよい。
【0021】
照射するマイクロ波の出力は50〜1500Wが好ましく、100〜500Wがより好ましい。また、マイクロ波の照射時間は0.5〜60分間が好ましく、1〜30分間がより好ましい。
【0022】
本発明のBiVO積層体の製造方法においては、形成されたBiVO層を焼成処理する工程を更に含んでもよい。焼成処理の際の雰囲気は、特に制限はなく、酸素ガス、窒素ガス等の不活性ガス、あるいは酸素と不活性ガスとの任意の混合ガスを用いることができる。そのような混合ガスとして空気(酸素含有ガス)を例示することができる。焼成処理を行う場合は、100〜550℃で0.5〜5時間行うことが好ましい。
【0023】
本発明のBiVO積層体の製造方法において、BiVO層は以下のように基板の表面に成長すると考えられる。すなわち、上記前駆体溶液中に配置されたマイクロ波で加熱可能な基板にマイクロ波を照射すると、上記基板が加熱され、表面にBiVOの核が生じると考えられる。該BiVOの核から、まずBiVOのz−t相の結晶が成長し、長時間マイクロ波を照射すると、z−t相からより熱力学的に安定なs−m相へ変化し、更にs−m相の結晶が成長していくと考えられる。
【0024】
このため、マイクロ波の照射出力が大きいと、あるいは、マイクロ波の照射時間が長いと、基板上に形成されるBiVO層の結晶相において、s−m相の割合を多くすることができる。また、s−m層の結晶を大きく成長させることができる。
【0025】
上記前駆体溶液に尿素を添加する場合には、マイクロ波の照射によって、前駆体溶液が加熱されて尿素の加水分解が起き、発生するアンモニアによるpHの上昇によって前駆体溶液中にBiVOの核が生じると考えられる。前駆体溶液中に生じたBiVOの核は、前駆体溶液中で成長し、結晶性の低い粉末のBiVOが生じやすいと考えられる。このように、尿素を添加していると、マイクロ波によって与えられるエネルギーは粉末のBiVOの形成にも使用されるため、上記基板の上に形成されるBiVO層の結晶相において、z−t相の結晶をs−m相の結晶へ変化させたり、s−m相の結晶を成長させたりするために用いることのできるエネルギーが減り、z−t相の割合が高くなると考えられる。
このため、上記前駆体溶液に添加する尿素の量が多いほど、z−t相の割合が高くなる。
【0026】
また、焼成処理を行うと、一般的に、熱力学的に安定な状態へ移行するので、BiVO層の形成の後に行う焼成処理において、焼成温度が高いと、あるいは、焼成時間が長いと、BiVO層において、s−m相の割合を多くすることができる。また、s−m層の結晶を大きく成長させることができる。
【0027】
一般にz−t相の結晶よりもs−m相の結晶の方が光応答性が高い。このため、BiVO層におけるs−m相、z−t相の割合は、BiVO層を平面視したときに、s−m相の結晶が基板に占める面積割合が60〜100%となっていることが好ましく、80〜100%となっていることがより好ましい。
【0028】
BiVO層の結晶相におけるs−m相及びz−t相の割合は、X線回折パターン、SEM観察、ラマンスペクトル等により観察することができる。
【0029】
X線回折パターンにおいて、BiVOのs−m相の結晶相に特徴的な回折線は、2θ=31°近傍と、2θ=28°近傍とで観測されることが知られている。2θ=31°近傍で観測される回折線は、結晶の040面及びこれに平行な010面に対応する。また、2θ=28°近傍で観測される回折線は、結晶の121面及び−121面に対応する。2θ=31°近傍で観測される回折線のピークが大きいと、010面の配向性の高い結晶が形成されているといえる。また、BiVOのz−t相の結晶相に特徴的な回折線は、2θ=49°近傍、2θ=32°近傍、及び2θ=25°近傍に観測されることが知られている。これらのピーク値の大きさから、BiVO層に形成したs−m相及びz−t相の結晶相の割合やs−m相の配向性の高さを確認することができる。
【0030】
また、BiVO層に形成したs−m相及びz−t相の結晶相の割合やs−m相の配向性の高さは、SEM観察と、ラマンスペクトルとを用いることによっても確認することができる。ラマンスペクトルにおいて829cm−1付近のピークはs−m相に、854cm−1付近のピークはz−t相に特徴的なピークである。SEMで観察される十面体粒子は、s−m相の結晶であり、正方形様の面が基板に平行に存在している場合は、010面の配向性が高い。
【0031】
例えば、基板としてFTO膜を有する基板を用い、本発明の製造方法によりBiVO積層体を製造すると、X線回折パターンにおいて、特に、2θ=31°近傍で観測される回折線のピーク値が、2θ=28°近傍で観測される回折線のピーク値に比べて非常に大きい表面が得られる。また、SEMを観察すると、010面を基板に平行に配置する十面体粒子が多く観察される。このように、010面の配向性の高いs−m相を有するBiVO層は、高い光応答性を示し、光触媒や光電極として利用可能である。
【0032】
BiVO微粉末の懸濁液を基板に塗布する従来法で作成したBiVO積層体のBiVO層は、本発明の製造方法により形成されるBiVO層とは大きく異なる。BiVO微粉末の懸濁液を基板に塗布して作成したBiVO層のX線回折パターンでは、2θ=28°近傍で観測される回折線のピーク値が、2θ=31°近傍で観測される回折線のピーク値に比べて非常に大きく、010面の配向性がない。
【0033】
なお、本発明のBiVO積層体の製造方法においては、マイクロ波支援化学浴析出法(MW−CBD)により形成された第1のBiVO層の上にバナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体塗布溶液を塗布して焼成することにより、第1のBiVO層上に第2のBiVO層を形成する工程を更に含んでもよい。なお、バナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体塗布溶液を塗布して焼成することによりBiVO層を形成する方法(以下、「溶液法」という。)は、本件発明者らによって既に報告されている(Qingxin Jia, Katsuya Iwashina, Akihiko Kudo, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.109, No.29, 11564−11569(2012))。
【0034】
溶液法によって上記のマイクロ波支援化学浴析出法で形成した第1のBiVOの上に更に第2のBiVO層を形成する場合には、まず、第1のBiVO層の上にバナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体塗布溶液を塗布し、室温で乾燥させることにより、塗布膜を得る。そして、その塗布膜を焼成することにより、第1のBiVO層上に第2のBiVO層を形成することができる。
【0035】
前駆体塗布溶液は、上記のマイクロ波支援化学浴析出法で用いられる前駆体溶液と同様でもよいし、用いる塩の種類や濃度等の構成を変えてもよい。上記前駆体塗布溶液において、バナジウム塩としては、塩化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ塩化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、五酸化バナジウム等が挙げられ、これらの中でも、メタバナジン酸アンモニウムが好ましい。また、ビスマス塩としては、硝酸ビスマス、塩化ビスマス、三酸化ビスマス、オキシ炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、水酸化ビスマス等が挙げられ、これらの中でも硝酸ビスマスが好ましい。
【0036】
上記前駆体塗布溶液において、バナジウム塩の濃度は、0.01〜0.4mol/lが好ましく、0.05〜0.3mol/lがより好ましい。また、ビスマス塩の濃度は、0.01〜0.4mol/lが好ましく、0.05〜0.3mol/lがより好ましい。上記前駆体塗布溶液中のバナジウムとビスマスの量はV/Bi=0.9〜1.5(mol/mol)であることが好ましく、当量であることがより好ましい。
【0037】
上記前駆体塗布溶液に用いられる溶剤は、バナジウム塩とビスマス塩とを溶解させるものであれば特に限定されないが、水が好ましい。
上記前駆体塗布溶液には、pH調整のために他の酸を含んでもよい。酸としては、硝酸、塩酸、硫酸等が挙げられる。
【0038】
第1のBiVO層上に上記前駆体塗布溶液を塗布する方法としては、特に制限はなく公知の様々な方法を用いることができ、例えば、浸漬法、スプレー法、滴下法、印刷法、インクジェット法、ノズルコート法、スリットコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法等が挙げられる。例えば滴下法によって塗布する場合には、上記前駆体塗布溶液の塗布量は、0.5〜10μl/cmが好ましく、1〜5μl/cmがより好ましい。
【0039】
塗布膜を焼成する際の雰囲気は、特に制限はなく、酸素ガス、窒素ガス等の不活性ガス、あるいは酸素と不活性ガスとの任意の混合ガスを用いることができる。そのような混合ガスとして空気(酸素含有ガス)を例示することができる。焼成温度は300〜550℃が好ましく、350〜500℃がより好ましい。また、焼成時間は1〜5時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。なお、第2のBiVO層を得るための焼成処理は、第1のBiVO層に対する焼成処理を兼ねることができる。あるいは、第1のBiVO層を焼成処理した後、該第1のBiVO層上に上記前駆体塗布溶液を塗布するようにしても構わない。
【0040】
第1のBiVO層の結晶相は、z−t相であっても、s−m相であっても、s−m相及びz−t相の両方であってもよいが、z−t相であることが好ましい。また、第2のBiVO層の結晶相は、s−m相であることが好ましい。溶液法によれば、緻密なs−m相のBiVO層を容易に形成することが可能であり、BiVO積層体の光応答性をより向上させることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例等に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例等になんら限定されるものではない。
【0042】
[試験例1]
500ml容のセパラブル平底フラスコ中で、NHVOの0.15mol/lの硝酸(1mol/l)溶液25mlとBi(NO・5HOの0.15mol/lの硝酸(1mol/l)溶液25mlとを混合し、前駆体溶液を調製した。5cm×5cmのFTOガラス基板(AGCファブリック製;A−110U80、20Ω/sq)をガラス面を下にして上記の平底フラスコ内の底に1枚配置した。セパラブル平底フラスコに冷却管を取り付け、マイクロ波合成装置(EYELA;MWO−1000)に設置した。周波数2.45GHzのマイクロ波を300Wで10分間照射したところ、FTO層の上にBiVO層が積層した積層体が得られた。積層体を取り出し、純水で洗浄後、乾燥した。
【0043】
この積層体のBiVO層をSEM(JEOL;JAM−6700F)で観察した結果を図1(a)に示す。BiVOの結晶は2種類あり、ラマンスペクトルの結果から、上層の大きい結晶はs−m相の結晶であり、その下の小さい結晶はz−t相の結晶であると帰属できた。また、s−m相の結晶は、正方形様の面を基板に対して平行にして密に存在していた。SEMの観察結果から、BiVO層を平面視したときにs−m相の結晶がFTOガラス基板に占める面積割合(s−m相被覆率)を求めたところ、90%であった。また、BiVO層を平面視したときにz−t相の結晶がFTOガラス基板に占める面積割合(z−t相被覆率)を求めたところ、1%であった。残りの9%は、FTO層が視認できる部分である。
この積層体の断面についてSEMで観察した結果を図1(b)に示す。FTO層の上にBiVOのz−t相の結晶があり、その上にs−m相の結晶が存在していた。
【0044】
また、この積層体のBiVO層のX線回折パターンを図2(a)に示す。s−m相に特徴的な2θ=31°近傍と、2θ=28°近傍の回折線が大きなピークとして現れていた。特に2θ=31°近傍の回折線のピーク値が大きいことから、010面の配向性が高いことがわかり、SEMで観察された正方形様の面は010面であることがわかった。
【0045】
[試験例2]
マイクロ波の照射を300Wで30分間とする他は、試験例1と同様にしてFTOガラス基板上にBiVO層を積層させた。得られた積層体のBiVO層をSEMで観察した結果を図3(a)に示す。BiVOのs−m相の結晶が観察されたが、z−t相の結晶は観察されなかった。また、s−m相の結晶は、正方形様の面を基板に対して平行にして密に存在していた。試験例1と同様にしてs−m相被覆率を求めたところ、93%であった。
この積層体の断面についてSEMで観察した結果を図3(b)に示す。FTO層の上にはBiVOのs−m相の結晶があるが、z−t相の結晶は観察されなかった。このように、試験例1に比べ、マイクロ波の照射時間を長くすると、s−m相の割合が多くなった。
【0046】
この積層体のBiVO層のX線回折パターンを図2(b)に示す。s−m相に特徴的な2θ=31°近傍と、2θ=28°近傍の回折線が大きなピークとして現れており、2θ=31°近傍の回折線のピーク値が大きい様子は試験例1と同様であった。010面の配向性が高いことがわかった。
【0047】
[参考例1]
フラスコ中に、NHVOの0.15mol/lの硝酸(1mol/l)溶液25mlとBi(NO・5HOの0.15mol/lの硝酸(1mol/l)溶液25mlとを混合した。この溶液に尿素3gを加えて溶解させた。これをマイクロ波合成装置に設置し、周波数2.45GHzのマイクロ波を500Wで60分間照射したところ、溶液中にBiVO粉末が析出した。BiVO粉末を濾過し、水で洗浄後、乾燥した。この粉末を溶解アセチレン(溶媒:アセトン)と混合した後、水を加えてペースト状にした。これをFTOガラス基板のFTO層の上にスキージ法で塗布し、乾燥させた後、400℃で1時間焼成した。この基板のBiVO塗布面をSEMで観察した結果を図4に示す。FTO層の上にはBiVOの結晶が乱雑に存在していた。ラマンスペクトルの結果から、この結晶はs−m相であることがわかった。
【0048】
この基板のBiVO塗布面のX線回折パターンを図2(c)に示す。s−m相に特徴的な2θ=31°近傍と、2θ=28°近傍の回折線が大きなピークとして現れていたが、2θ=31°近傍の回折線のピーク値よりも2θ=28°近傍の回折線のピーク値が非常に大きく、010面の配向性がないことがわかった。
【0049】
[試験例3]
試験例1で得られた積層体を350℃で1時間焼成処理した。その後、試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が90%であり、z−t相被覆率が1%であった。
試験例1のBiVO層のX線回折パターンを図5(a)に、試験例3のBiVO層のX線回折パターンを図5(b)に示す。
【0050】
[試験例4]
試験例1で得られた積層体を400℃で1時間焼成処理した。その後、試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が90%であり、z−t相被覆率が1%であった。
試験例4のBiVO層のX線回折パターンを図5(c)に示す。
【0051】
[試験例5]
試験例1で得られた積層体を450℃で1時間焼成処理した。その後、試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が90%であり、z−t相被覆率が1%であった。
試験例5のBiVO層のX線回折パターンを図5(d)に示す。
【0052】
試験例1のBiVO層と、焼成処理を施した試験例3、4、5のBiVO層とを比較すると、2θ=31°近傍の回折線のピーク値と、2θ=28°近傍の回折線のピーク値との割合はほぼ同じであったので、BiVO層の010面の配向性にほとんど違いはないと考えられた。しかし、焼成処理を施すと、2θ=35°近傍の200面及び002面に帰属される回折線の分裂が明確になり、結晶性が高くなったことがわかった。
【0053】
[試験例6]
前駆体溶液に尿素を1g添加する他は、試験例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体のBiVO層をSEMで観察した様子を図6に示す。試験例1で得られたBiVO層と同様に、z−t相の結晶の上にs−m相の結晶が存在していた。s−m相の結晶は、正方形様の面を基板に対して平行にして存在していたが、試験例1で得られたBiVO層の場合に比べてその数は少なかった。試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が61%であり、z−t相被覆率が35%であった。
【0054】
試験例6のBiVO層のX線回折パターンを図2(d)に示す。s−m相に特徴的な回折線とz−t相に特徴的な回折線との両方が現れており、試験例1のBiVO層よりも、z−t相を多く含むことが確認できた。s−m相の2θ=31°近傍の回折線のピーク値は、2θ=28°近傍の回折線のピーク値よりも高く、s−m相においては010面の配向性があることがわかった。
【0055】
[試験例7]
試験例6で得られた積層体を400℃で1時間焼成処理した。その後、試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が61%であり、z−t相被覆率が35%であった。
【0056】
[試験例8]
前駆体溶液に尿素を3g添加する他は、試験例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体のBiVO層をSEMで観察したところ、ほとんどz−t相の結晶で覆われた表面であることがわかった。試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が4%であり、z−t相被覆率が96%であった。
【0057】
試験例8のBiVO層のX線回折パターンを図2(e)に示す。2θ=32°近傍、2θ=49°近傍のz−t相に特徴的な回折線のピーク値が大きくなっており、z−t相が多いことが確認できた。試験例8のBiVO層は、試験例6のBiVO層に比べ、z−t相が多くなっていたことから、前駆体溶液に添加する尿素の量が多いと、z−t相が形成しやすいことがわかった。
【0058】
[試験例9]
試験例8で得られた積層体を400℃で1時間焼成処理した。得られた積層体のBiVO層をSEMで観察した様子を図7に示す。ほとんどz−t相の結晶で覆われた表面であることがわかった。試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が4%であり、z−t相被覆率が96%であった。
【0059】
[試験例10]
試験例9で得られた積層体を500℃で2時間焼成処理した。得られた積層体のBiVO層をSEMで観察した様子を図8に示す。緻密なs−m相の結晶で覆われた表面であることがわかった。試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が99%であり、z−t相被覆率が0%であった。
このことから、試験例8のように、尿素を多く含む前駆体溶液中で形成されたBiVO層にはz−t相が多く含まれるため、焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くしたりしないと、z−t相からs−m相への変換が困難であることがわかった。
【0060】
表1に各積層体の製造条件を示す。また、各積層体におけるs−m相被覆率、z−t相被覆率についても併せて表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[光電極としての評価1]
試験例1〜10、及び参考例1で得られた積層体について、それぞれ、積層体のBiVO層の一部を削り取り、FTOを露出させた。そこに銅線を銀ペーストで接着し、アラルダイトでFTO露出部分を覆い、BiVO電極を作成した。試験例1〜10で得られたBiVO層は、いずれも基板との密着性が良好であった。
【0063】
光電極としての評価は、3極式又は2極式の水素及び酸素生成装置で行った。イオン交換膜ナフィオン(登録商標)によってカソード室とアノード室に仕切られたH型セルに、電解液として0.025mol/lのリン酸緩衝液(KHPO/NaHPO、pH=7)を注入し、測定前にアルゴンガスで脱気した。2極式では、アノード室に、上記のBiVO電極を設置し、カソード室に白金黒からなる対極を設置した。3極式では、BiVO電極を設置したアノード室に、更に参照電極として飽和Ag/AgCl電極を設置した。これらの電極にポテンショスタットHZ−5000(北斗電工社製)を接続した。
【0064】
光源には、ソーラーシミュレーターPEC−L11(Peccell Technologies製;100mW/cm)を用い、疑似太陽光の照射を行った。可視光の照射を行う場合には、カットオフフィルターを用いて420nm以下の波長域の光を遮断して照射した。BiVO電極への光の照射は、ガラス基板側から行った。
【0065】
まず、3極式の装置において、BiVO電極を陽極、対極を陰極として電気的に接続し、掃引速度20mV/秒でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。掃引中、光の照射を断続的に行い、電圧を徐々に上げ、その後徐々に下げて測定した。
【0066】
試験例3、7、9、及び参考例1で得られた積層体から作成したBiVO電極を用い、擬似太陽光を照射してサイクリックボルタンメトリー測定を行ったところ、図9のような電流−電位曲線が得られた。また、可視光を照射してサイクリックボルタンメトリー測定を行ったところ、図10のような電流−電位曲線が得られた。
【0067】
試験例3の積層体から作成したBiVO電極では、擬似太陽光及び可視光のいずれを照射した場合も、高い応答電流が得られた。試験例3の積層体は、ガラス基板上のFTO層の上にBiVOのz−t相が少量存在し、その上に更に010面の配向性の高い厚いs−m相が存在する構造をとっている。このことから、010面の配向性の高いs−m相のBiVO層が、光電極用の膜として優れた働きをすることがわかった。
【0068】
試験例7の積層体から作成したBiVO電極でも、高い応答電流が得られたが、擬似太陽光を照射した場合に比べ、可視光を照射した場合の光応答性が劣っていた。試験例7の積層体は、ガラス基板上のFTO層の上にz−t相のBiVO層が存在し、その上に更にs−m相のBiVO結晶が点在する構造をとっている。このため、ガラス基板側から可視光を照射すると、可視光に吸収を持たないz−t相に遮られ、s−m相の結晶へ到達する光量が減少し、応答電流が低下した。
【0069】
一方、ほとんどz−t相で覆われたBiVO層を有する試験例9の積層体から作成したBiVO電極では、光応答性が非常に劣っていた。このことから、光電極用の膜として利用可能なBiVO層はs−m相であることがわかった。
【0070】
しかし、BiVO粉末を塗布して作成した参考例1のBiVO電極は、s−m相を有していても光応答性がなかった。したがって、本発明の方法によって得られる、基板上に直接形成させたs−m相が光電極用の膜として有効であることがわかった。
【0071】
図11には、試験例9、10で得られた積層体から作成したBiVO電極を用い、疑似太陽光を照射してサイクリックボルタンメトリー測定を行ったときの電流−電圧曲線を示す。試験例10の積層体は、焼成処理によりz−t相からs−m相に変換したBiVO層を有する。s−m相を有する試験例10の積層体から作成したBiVO電極は、高い光応答性を示しており、基板上に直接形成させたs−m相が光電極用の膜として有効であることが確認できた。
【0072】
図12には、試験例1、3〜5で得られた積層体から作成したBiVO電極を用い、疑似太陽光を照射したときの電流−電圧曲線を示す。積層体製造時に焼成処理を施した試験例3〜5の積層体から作成したBiVO電極では、焼成処理を施さなかった試験例1の積層体から作成したBiVO電極の場合よりも応答電流が大きかった。試験例1のBiVO層の表面はほとんどs−m相で覆われていたため、試験例3〜5において焼成条件を変えても、応答電流値には大きな差が生じなかった。
【0073】
次に、2極式の装置において、試験例3、7で得られた積層体から作成したBiVO電極を陽極、対極を陰極として電気的に接続し、掃引速度20mV/秒でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。掃引中、擬似太陽光の照射を断続的に行い、電圧を徐々に上げ、その後徐々に下げて測定した。結果を図13に示す。対極に対して、水の理論分解電圧である1.23Vより小さい電圧を印加しても、水の光電気分解に由来する光電流が観察され、これらのBiVO電極が光エネルギー変換に有用であることを確認できた。
【0074】
[試験例11]
マイクロ波の照射を300Wで3分間とする他は、試験例1と同様にして積層体を得た後、得られた積層体を300℃で1時間焼成処理した。得られた積層体についてSEMで観察した結果を図14に示す。FTO層の上にBiVOのz−t相の結晶があり、その上にs−m相の結晶が存在していた。試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が54%であり、z−t相被覆率が44%であった。
【0075】
試験例11のBiVO層のX線回折パターンを図15(a)に示す。s−m相に特徴的な回折線とz−t相に特徴的な回折線との両方が現れていることが確認できた。
【0076】
[試験例12]
マイクロ波の照射を300Wで1分間とする他は、試験例1と同様にしてFTOガラス基板上に第1のBiVO層を積層させた。なお、第1のBiVO層の結晶相はz−t相であった。
一方、0.2mol/lのNHVOと0.2mol/lのBi(NOとを含む硝酸(3mol/l)水溶液である前駆体塗布溶液を調製した。この前駆体塗布溶液を第1のBiVO層が形成されたFTOガラス基板に3μl/cm滴下した後、室温で乾燥し、塗布膜を形成した。その後、基板を400℃で1時間焼成したところ、第1のBiVO層の上に第2のBiVO層が積層した積層体が得られた。
【0077】
得られた積層体の断面についてSEMで観察した結果を図16に示す。FTO層の上に第1のBiVO層を構成するz−t相の結晶があり、その上に第2のBiVO層を構成するs−m相の緻密な結晶が存在していた。試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が100%であり、z−t相被覆率が0%であった。
【0078】
試験例12のBiVO層のX線回折パターンを図15(b)に示す。s−m相に特徴的な回折線とz−t相に特徴的な回折線との両方が現れていることが確認できた。
【0079】
[参考例2]
第1のBiVO層を形成しない他は、試験例12と同様にして積層体を得た。得られた積層体の断面についてSEMで観察した結果を図17に示す。FTO層の上にBiVOのs−m相の緻密な結晶が存在していた。試験例1と同様にしてs−m相被覆率、z−t相被覆率を求めたところ、s−m相被覆率が100%であり、z−t相被覆率が0%であった。
【0080】
参考例2のBiVO層のX線回折パターンを図15(c)に示す。s−m相に特徴的な回折線は確認できたものの、z−t相に特徴的な回折線は確認できなかった。
【0081】
[光電極としての評価2]
試験例11、12、及び参考例2で得られた積層体について、上記[光電極としての評価1]と同様にしてBiVO電極を作成した。そして、3極式の装置において、BiVO電極を陽極、対極を陰極として電気的に接続し、掃引速度20mV/秒でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。掃引中、光の照射を断続的に行い、電圧を徐々に下げて測定した。
【0082】
試験例11、12、及び参考例2で得られた積層体から作成したBiVO電極を用い、擬似太陽光を照射してサイクリックボルタンメトリー測定を行ったところ、図18のような電流−電位曲線が得られた。
【0083】
試験例11、12の積層体はいずれもz−t相及びs−m相を含むが、試験例12の積層体から作製したBiVO電極の方が高い光応答性を示した。これは、試験例11の積層体は、FTO層の上にz−t相のBiVO層が存在し、その上に更にs−m相のBiVO結晶が点在する構造をとっているのに対し、試験例12の積層体では、FTO層の上にz−t相のBiVO層が存在し、その上に緻密なs−m相のBiVO層が存在するためと考えられる。
【0084】
参考例2の積層体は、FTO層の上に緻密なs−m相のBiVO層が形成されているが、試験例11、12よりも応答電流が低下した。この結果から、マイクロ波支援化学浴析出法により、基板上にBiVO層を形成する工程を含むことが重要であることがわかった。
図2
図5
図9
図10
図11
図12
図13
図15
図18
図1
図3
図4
図6
図7
図8
図14
図16
図17