【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、負極活物質として用いる黒鉛等の炭素材料粉末と固体電解質粉末を原料として用い、これを導電性容器内に充填し、非酸化性雰囲気下において、加圧下に直流パルス電流を通電して加熱反応させる方法によれば、炭素材料と固体電解質が強固に結合し、しかも、固体電解質が僅かに還元されて格子体積が増大した炭素−固体電解質複合体を得ることができることを見出した。そして、この複合体を全固体リチウムイオン二次電池の負極層として用いる場合には、導電率が向上して、高容量の全固体リチウム二次電池用負極層として優れた性能を発揮でき、特に、電解質として硫化物固体電解質を用いる全固体リチウムイオン二次電池では、該複合体の優れた性能を活用した上で、サイクル特性や出力特性を大きく向上させることが可能となることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記の炭素−固体電解質複合体、該複合体の製造方法、及び該複合体を含む全固体リチウムイオン二次電池を提供するものである。
項1. 炭素材料粉末と固体電解質粉末の混合物を導電性を有する容器に充填し、非酸化性雰囲気下において、該混合物を加圧した状態で、直流パルス電流を通電して焼結させることを特徴とする炭素−固体電解質複合体の製造方法。
項2. 固体電解質が硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質である上記項1に記載の方法。
項3. 炭素材料粉末と固体電解質粉末の混合物が、両者の合計量を基準として、炭素材料粉末を20〜90重量%含むものである、上記項1又は2に記載の方法。
項4. 炭素材料粉末と固体電解質粉末が互いに接合した複合体であって、
(1)炭素材料の量が、炭素材料粉末と固体電解質粉末の合計量を基準として20〜90重量%であり、
(2)該複合体のタップ密度が、原料として用いた炭素材料粉末と固体電解質粉末の混合物のタップ密度と比較して10%以上大きい値である、
ことを特徴とする炭素−固体電解質複合体。
項5. 炭素−固体電解質複合体に含まれる固体電解質が、未焼結の固体電解質と比較して格子体積が0.3%以上増大したものである上記項4に記載の炭素−固体電解質複合体。
項6. 固体電解質が、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質であり、炭素材料が黒鉛、メソポーラスカーボン又は難黒鉛化炭素材料である上記項4又は5に記載の炭素−固体電解質複合体。
項7. 上記項4〜6のいずれかに記載の炭素−固体電解質複合体からなる全固体リチウムイオン二次電池用負極材料。
項8. 上記項7に記載の負極材料からなる負極層を有する全固体リチウムイオン二次電池。
【0014】
以下、まず、本発明の炭素−固体電解質複合体の製造方法について説明する。
【0015】
炭素−固体電解質複合体の製造方法
本発明の炭素−固体電解質複合体は、炭素材料粉末と固体電解質粉末の混合物を導電性を有する容器内に充填し、非酸化性雰囲気下において、該混合物を加圧した状態で、直流パルス電流を通電して焼結させることによって得ることができる。この方法によれば、炭素材料粉末と固体電解質粉末とが、強固に接合されて界面の電気抵抗が低下すると共に、固体電解質が僅かに還元される。以下、この方法について具体的に説明する。
【0016】
(i)
炭素材料粉末
本発明では、原料として用いる炭素材料としては、全固体リチウムイオン二次電池において、負極活物質として使用することか可能な炭素材料であれば特に限定なく使用できる。この様な炭素材料の具体例としては、黒鉛、メソポーラスカーボン、ハードカーボン(難黒鉛化炭素材料)等を挙げることができる。
【0017】
炭素材料粉末の粒径については特に限定的ではないが、通常、平均粒子径として0.01〜100μm程度、好ましくは0.05〜50μm程度である。尚、本願明細書では、平均粒径とは、乾式のレーザー回折・散乱式による粒度分布測定で、累積度数分布が50%となる粒径である。
【0018】
(ii)
固体電解質粉末、
固体電解質粉末の種類については特に限定的ではなく、全固体リチウムイオン二次電池において使用可能なリチウムイオン伝導性を有する固体電解質であればよい。この様な固体電解質としては、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが代表的なものである。
【0019】
これらの内で、硫化物系固体電解質としては、Li
2S-P
2S
5系固体電解質(例えば、7:3比率のLi
7P
3S
11など)、Li
2S-SiS
2-Li
3PO
4系固体電解質(Li
2S:SiS
2:Li
3PO
4=63:36:1のモル比の材料)、チオリシコン系固体電解質(Li
4SiS
4, Li
4GeS
4, Li
3PS
4を基本とする化合物群。Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4、Li
10GeP
2S
12など)等を例示できる。酸化物系固体電解質としては、ペロブスカイト型構造イオン導電体(Li
0.35La
0.55TiO
3など)、リシコン型構造イオン導電体(Li
14Zn(GeO
4)
4など)、ガーネット型構造イオン導電体(Li
7La
3Zr
2O
12など)等を例示できる。
【0020】
炭素−固体電解質複合体の製造に用いる固体電解質粉末としては、固体電解質層と負極層との界面における反応による導電性の低下などを防ぐために、全固体リチウムイオン二次電池の電解質として用いる固体電解質と同種の固体電解質粉末を用いることが好ましい。例えば、固体電解質として硫化物系固体電解質を用いる場合には、炭素−固体電解質複合体の製造に用いる固体電解質粉末としても、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。
【0021】
本発明では、リチウムイオン伝導率が高い点で、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。特に、正極活物質として硫黄系材料(Li
2S等)を用いる高容量型の全固体リチウムイオン二次電池では、正極材料との反応によるリチウムイオン伝導率の低下を抑制するために、固体電解質層として硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。この点からも炭素−固体電解質複合体の原料としても硫化物系固体電解質粉末を用いることが好ましい。
【0022】
固体電解質粉末の粒径については、特に限定はないが、通常、平均粒径0.1〜50μm程度の粉末状のものを用いることが好ましい。
【0023】
(iii)
複合体の製造方法
本発明の炭素−固体電解質複合体の製造方法では、まず、炭素材料粉末と固体電解質粉末からなる出発原料を十分に混合した後、導電性を有する容器に充填し、非酸化性雰囲気下において、該混合物を加圧した状態で、放電プラズマ焼結法、パルス通電焼結法、プラズマ活性化焼結法等と呼ばれる直流パルス電流を通電する通電焼結法によって原料混合物を焼結させる。これによって、目的とする炭素−固体電解質複合体を得ることができる。
【0024】
具体的には、電子伝導性を有する容器に原料とする炭素材料粉末と固体電解質粉末の混合物を充填し、非酸化性雰囲気下において加圧しながらパルス状のON−OFF直流電流を通電することによって、通電焼結を行うことができる。
【0025】
通電焼結は、非酸化性雰囲気下、例えば、Ar、N
2などの不活性ガス雰囲気下、H
2などの還元性雰囲気下等で行う。また、酸素濃度が十分に低い減圧状態、例えば、酸素分圧が、20Pa程度以下の減圧状態としてもよい。
【0026】
導電性を有する容器として十分な密閉状態を確保できる容器を用いる場合には、該容器内を非酸化性雰囲気とすればよい。また、導電性を有する容器は完全な密閉状態でなくてもよく、不完全な密閉状態の容器を用いる場合には、該容器を反応室内に収容して、該反応室内を不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気などの非酸化性雰囲気とすればよい。これにより、炭素材料粉末と固体電解質粉末との反応を非酸化性雰囲気下で行うことが可能となる。この場合、例えば、反応室内を0.1MPa程度以上の不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気などとすることが好ましい。
【0027】
炭素材料粉末と固体電解質粉末の混合比は、両者の合計量を基準として、炭素材料粉末の量が20〜90重量%程度であることが好ましく、40〜80重量%程度であることがより好ましく、50〜70重量%程度であることが更に好ましい。この範囲の混合比率とすることによって、高いエネルギー密度と良好なリチウムイオン伝導性を兼ね備えた負極材料とすることができる。
【0028】
電子伝導性を有する容器としては、電子伝導性を有するものであれば特に限定されず、炭素、鉄、酸化鉄、銅、アルミニウム、タングステンカーバイド、炭素及び/又は酸化鉄に窒化珪素を混合した混合物等から形成されているものを好適に使用できる。
【0029】
このような電子伝導性容器に上記した炭素材料と固体電解質の混合粉末を充填した状態で直流パルス電流を印加することにより、充填された混合粉末の粒子間隙に生じる放電現象を利用して、放電プラズマ、放電衝撃圧力等による粒子表面の浄化活性化作用、電場により生じる電界拡散効果、ジュール熱による熱拡散効果、加圧による塑性変形圧力等が粒子接合の駆動力となって炭素材料粉末と固体電解質粉末が強固に接合される。同時に、還元性雰囲気下で通電焼結を行うことによって、固体電解質が還元される。
【0030】
通電焼結を行う装置としては、炭素材料粉末及び固体電解質粉末の混合粉末を加熱、冷却、加圧等することが可能であり、放電に必要な電流を印加できるものであれば特に限定されない。例えば、市販の通電焼結装置(放電プラズマ焼結装置)を使用できる。このような通電焼結装置及びその原理は、例えば、特開平10−251070号公報等に開示されている。
【0031】
以下に通電焼結装置の模式図を示した
図1を参考にしながら、本発明の炭素−固体電解質複合体の製造方法の具体例を説明する。
【0032】
通電焼結装置1は、試料2が装填されるダイ(電子伝導性容器)3と上下一対のパンチ4および5とを有する。パンチ4および5は、それぞれパンチ電極6および7に支持されており、このパンチ電極6および7を介して、ダイ3に装填された試料2に必要に応じて加圧しながらパルス電流を供給することができる。ダイ3の素材は限定されず、例えば、黒鉛等の炭素材料が挙げられる。
【0033】
図1に示す装置では、上記した電子伝導性を有する容器3、通電用パンチ4,5、パンチ電極6,7を含む通電部は、水冷真空チャンバー8に収容されており、チャンバー内は、雰囲気制御機構15による所定の雰囲気に調整できる。従って、雰囲気制御機構15を利用して、チャンバー内を非酸化性雰囲気に調整すればよい。
【0034】
制御装置12は、加圧機構13、パルス電源11、雰囲気制御機構15、水冷却機構16、10、及び温度計測装置17を駆動制御するものである。制御装置12は加圧機構13を駆動し、パンチ電極6、7が所定の圧力で原料混合物を加圧するよう構成されている。
【0035】
通電処理の条件については、目的とする強固な接合を有する複合体が形成される条件とすればよい。具体的な通電処理時のダイ(電子伝導性容器)3の温度(加熱温度)は、原料とする炭素材料粉末および固体電解質粉末の種類およびその粒径等に応じて適宜選択することができるが、通常50〜800℃程度とすればよく、好ましくは100〜700℃程度とすればよい。加熱温度が50℃未満では炭素材料粉末と固体電解質粉末の接合が不十分となる場合があり、また、固体電解質粉末の還元反応も十分には進行しない可能性がある。一方、加熱温度が800℃を上回ると、炭素粉末または電子伝導性容器の還元効果による固体電解質の還元が進行しすぎて分解等が起こるため好ましくない。従って、100〜700℃程度の加熱温度が好適である。
【0036】
加熱のために印加するパルス電流は、例えばパルス幅2〜3ミリ秒程度で、周期は3Hz〜300kHz程度のパルス状ON−OFF直流電流を用いることができる。具体的な電流値は電子伝導性容器の種類、大きさ等により異なるが、上記した温度範囲となるように、具体的な電流値を決めればよい。例えば内径15mmの黒鉛型材を用いた場合には200〜1000A程度、内径100mmの型材を用いた場合には1000〜8000A程度が好適である。処理時は、型材温度をモニターしながら電流値を増減させ、所定の温度を管理できるように電流値を制御すればよい。
【0037】
通電焼結は、炭素材料粉末及び固体電解質粉末からなる原料粉末を加圧した状態で行うことが好ましい。具体的な方法としては、例えば、上記した電子伝導性容器3に充填した原料粉末をパンチ電極6,7を介して加圧すればよい。原料粉末を加圧する際の圧力としては、例えば、5〜60MPa程度、好ましくは10〜50MPa程度とすればよい。5MPa未満の加圧力では炭素材料粉末と固体電解質粉末との接合が不十分となるので好ましくない。
【0038】
通電焼結による焼結時間については、使用する原料の量、焼結温度などによって異なるので、一概に規定できないが、通常、上記した加熱温度範囲に到達するまで加熱すれば良く、上記した温度範囲に到達すれば直ちに放冷しても良く、或いは、例えば2時間程度までこの温度範囲に保持してもよい。
【0039】
上記した方法で所定の温度で通電焼結処理を行った後、電子伝導性容器を冷却し、形成された複合体を容器から取り出し、必要に応じて乳鉢等で軽く粉砕することにより、目的とする炭素−固体電解質複合体を回収することができる。多量の通電焼結処理を行う場合には、大きな型材を用い、上記のプロセスをスケールアップすればよい。
【0040】
炭素−固体電解質複合体
上記した方法で得られる炭素−固体電解質複合体は、炭素材料と固体電解質とが単に混合された状態ではなく、両者が強固に接合した状態の複合体であり、原料混合物と比較して密度が大きく増加している。具体的には、原料として用いた炭素材料粉末と固体電解質粉末の混合物のタップ密度と比較して、該複合体のタップ密度は10%以上大きい値となる。尚、タップ密度の増大の上限については特に限定的ではなく、加圧通電焼結の際の温度、圧力などによって異なるが、通常、原料混合物のタップ密度と比較して、50%程度までの増大となる。
【0041】
尚、本願明細書におけるタップ密度は、露点-80℃のアルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で試料を乳鉢で10分間以上粉砕した後、約1.2gを採取して、容量10mLのメスシリンダーに投入し、100回タップした後、密度を測定した値である。
【0042】
該複合体における炭素材料と固体電解質の割合は、原料における炭素材料粉末と固体電解質粉末の混合比と同じであり、両者の合計量を基準として、炭素材料の量が20〜90重量%程度であることが好ましく、40〜80重量%程度であることがより好ましく、50〜70重量%程度であることが更に好ましい。
【0043】
上記した方法で得られる炭素−固体電解質複合体は、非酸化性雰囲気で通電焼結を行うことによって、固体電解質が還元され、固体電解質に若干の電子が導入されており、導電キャリアであるリチウムと固体電解質の骨格構造を形成するイオン(硫化物イオン、酸化物イオンなど)との結合エネルギーが低下してリチウムの移動度が増大している。更に、リチウムイオンの濃度がわずかに減少し、それによりリチウムサイトに空孔が生じて、リチウムイオンの移動度がより増加し、加えて固体電解質の構成元素のイオン半径が大きくなり、格子体積が増大して、リチウムのキャリアパスにおけるボトルネックのサイズが大きくなってリチウムイオン移動度が更に上昇している。通常、原料として用いる未焼結の固体電解質と比較すると、格子体積は0.3%以上の増大が認められる。格子体積の増大の上限は、固体電解質の種類によって異なるので一概に規定できないが、通常、10%程度までの増大となる。
【0044】
この様に、本発明の複合体では、固体電解質の構成元素のイオン半径が増大してキャリアパスにおけるボトルネックのサイズが大きくなり、リチウムイオン伝導性が向上していると考えられる。
【0045】
炭素−固体電解質複合体の用途
本発明方法で得られる炭素−固体電解質複合体は、負極活物質として用いる炭素材料と固体電解質が強固に接合されたものであり、単なる混合物と比較すると、両者の界面における電気抵抗が低下している。また、炭素材料と固体電解質との接合が強化されていることにより、充放電に伴う炭素材料の膨張、収縮による固体電解質との剥離が抑制されており、サイクル特性が向上している。更に、通電焼結により固体電解質の格子体積が増大しており、これによりリチウムイオン導電性が向上している。
【0046】
本発明の炭素−固体電解質複合体は、この様な優れた特性を有するものであり、全固体リチウムイオン二次電池の負極層を形成するための負極材料として有効に利用できる。
【0047】
本発明の炭素−固体電解質複合体を用いる全固体リチウムイオン二次電池の構造については特に限定はなく、従来公知のものと同様でよい。基本的な構造としては、リチウムイオン伝導性の固体電解質層を挟んで、正極層と負極層が積層された構造であって、本発明炭素−固体電解質複合体を負極層とすればよい。この場合、リチウムイオン伝導性の固体電解質としては、炭素−固体電解質複合体の原料とする固体電解質粉末と同様に、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質等を用いることができる。特に、炭素−固体電解質複合体からなる負極層と固体電解質層との界面における導電性の低下を防ぐためには、炭素−固体電解質複合体と同種の固体電解質を用いることが好ましい。
【0048】
正極層では、正極活物質としては、公知の活物質、例えば、Li
2S、Li
2S
2、Li
2S
4、Li
2S
8等を用いることができる。通常、これらの正極活物質は、固体電解質と混合して用いられる。