【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。実施例において、試料の物性測定は、下記の条件のもとで下記の装置を使用して行った。
【0050】
(1)GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)
装置:東ソー(株)製 HLC−8220GPC
カラム:昭和電工(株)製 Shodex(登録商標) KF−804L + KF−803L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:UV(254nm)、RI
(2)
1H NMRスペクトル
装置:日本電子(株)製 JNM−L400
溶媒:CDCl
3
内部標準:テトラメチルシラン(0.00ppm)
(3)
13C NMRスペクトル
装置:日本電子(株)製 JNM−ECA700
溶媒:CDCl
3
緩和試薬:トリスアセチルアセトナートクロム(Cr(acac)
3)
基準:CDCl
3(77.0ppm)
(4)ICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)
装置:(株)島津製作所製 ICPM−8500
(5)AFM(原子間力顕微鏡)
装置:Veeco Instruments社製 Dimension 3100
プローブ:Veeco Instruments社製 単結晶Si(バネ定数:約3N/m、共振周波数:約80kHz)
測定:形状、位相
ラフネス:1×1μm、2箇所の平均
【0051】
また使用した試薬の略号は以下のとおりである。
HPS:ハイパーブランチポリスチレン[日産化学工業(株)製 ハイパーテック(登録商標)HPS−200]
PAA:ポリアクリル酸[アルドリッチ(株)製、平均分子量〜450,000]
IPA:イソプロパノール
IPE:ジイソプロピルエーテル
THF:テトラヒドロフラン
ABS:アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体
PET:ポリエチレンテレフタラート
PI:ポリイミド
PVC:ポリ塩化ビニル
PC:ポリカーボネート
ITO:酸化インジウムスズ
【0052】
[合成例1]HPS−Clの製造
【化9】
500mLの反応フラスコに、塩化スルフリル[キシダ化学(株)製]27g及びクロロホルム50gを仕込み、撹拌して均一に溶解させた。この溶液を窒素気流下0℃まで冷却した。
別の300mLの反応フラスコに、ジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーHPS15g及びクロロホルム150gを仕込み、窒素気流下均一になるまで撹拌した。
前述の0℃に冷却されている塩化スルフリル/クロロホルム溶液中に、窒素気流下、HPS/クロロホルム溶液が仕込まれた前記300mLの反応フラスコから、送液ポンプを用いて、該溶液を反応液の温度が−5〜5℃となるように60分間かけて加えた。添加終了後、反応液の温度を−5〜5℃に保持しながら6時間撹拌した。
さらにこの反応液へ、シクロヘキセン[東京化成工業(株)製]16gをクロロホルム50gに溶かした溶液を、反応液の温度が−5〜5℃となるように加えた。添加終了後、この反応液をIPA1,200gに添加してポリマーを沈殿させた。この沈殿をろ取して得られた白色粉末をクロロホルム100gに溶解し、これをIPA500gに添加してポリマーを再沈殿させた。この沈殿物を減圧ろ過し、真空乾燥して、塩素原子を分子末端に有するハイパーブランチポリマー(HPS−Cl)8.5gを白色粉末として得た(収率99%)。
得られたHPS−Clの
1H NMRスペクトルを
図1に示す。ジチオカルバメート基由来のピーク(4.0ppm、3.7ppm)が消失していることから、得られたHPS−Clは、HPS分子末端のジチオカルバメート基がほぼ全て塩素原子に置換されていることが明らかとなった。また、得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは14,000、分散度Mw/Mnは2.9であった。
【0053】
[合成例2]HPS−NBu
3Clの製造
【化10】
還流塔を付した50mLの反応フラスコに、合成例1で製造したHPS−Cl3.0g(20mmol)、トリブチルアミン[純正化学(株)製]3.7g(20mmol)及びクロロホルム/エタノール混合液(体積比2:1)30mLを仕込み、窒素置換した。この混合物を、撹拌しながら48時間加熱還流した。
液温30℃まで冷却後、溶媒を留去した。得られた残渣を、クロロホルム50mLに溶解し、これをIPE200mLに添加して再沈精製した。析出したポリマーを減圧ろ過し、40℃で真空乾燥して、トリブチルアンモニウム基を分子末端に有するハイパーブランチポリマー(HPS−NBu
3Cl)5.8gを薄茶色粉末として得た。
得られたHPS−NBu
3Clの
13C NMRスペクトルを
図2に示す。塩素原子が結合したメチレン基と、アンモニウム基が結合したメチレン基のピークから、得られたHPS−NBu
3Clは、HPS−Cl分子末端の塩素原子の80%がアンモニウム基に置換されていることが明らかとなった。また、HPS−ClのMw(14,000)及びアンモニウム基導入率(80%)から算出されるHPS−NBu
3Clの重量平均分子量Mwは28,000となった。
【0054】
[合成例3]Pd[HPS−NBu
3Cl]の製造
50mLの二つ口フラスコに、合成例2で製造したHPS−NBu
3Cl200mg、酢酸パラジウム[エヌ・イー ケムキャット(株)製]100mg及びクロロホルム/エタノール混合液(体積比2:1)10mLを仕込み、窒素置換した。この混合物を、撹拌しながら70℃で6時間撹拌した。
液温30℃まで冷却後、溶媒を留去した。得られた残渣をクロロホルム10mLに溶解し、これをIPE50mLに添加して再沈精製した。析出したポリマーを減圧ろ過し、60℃で真空乾燥して、アンモニウム基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーとPd粒子の複合体(Pd[HPS−NBu
3Cl])167mgを黒色粉末として得た。
ICP発光分析の結果から、得られたPd[HPS−NBu
3Cl]のPd含有量は12質量%であった。
【0055】
[合成例4]HPS−NOct
3Clの製造
【化11】
還流塔を付した1Lの反応フラスコに、合成例1に従って製造したHPS−Cl30.4g(0.2mol)及びクロロホルム100gを仕込み、均一になるまで撹拌した。この溶液へ、トリオクチルアミン[広栄化学工業(株)製]77.8g(0.22mol)をクロロホルム50gに溶解させた溶液を、滴下ロートを使用して加えた。この滴下ロート内を、クロロホルム50g、続いてIPA50gを使用して前記反応フラスコへ洗い込んだ。この混合物を60℃で48時間撹拌した。
液温30℃まで冷却後、溶媒を留去した。得られた残渣を、THF200gに溶解し、0℃に冷却した。この溶液を0℃のIPE4,000gに添加して再沈精製した。析出したポリマーを減圧ろ過し、50℃で真空乾燥して、トリオクチルアンモニウム基を分子末端に有するハイパーブランチポリマー(HPS−NOct
3Cl)79.9gを淡黄色粉末として得た。
得られたHPS−NOct
3Clの
13C NMRスペクトルを
図3に示す。塩素原子が結合したメチレン基と、アンモニウム基が結合したメチレン基のピークから、得られたHPS−NOct
3Clは、HPS−Cl分子末端の塩素原子の71%がアンモニウム基に置換されていることが明らかとなった。また、HPS−ClのMw(14,000)及びアンモニウム基導入率(71%)から算出されるHPS−NOct
3Clの重量平均分子量Mwは37,000となった。
【0056】
[合成例5]Pd[HPS−NOct
3Cl]の製造
1Lの二つ口フラスコに、酢酸パラジウム[川研ファインケミカル(株)製]4.3g及びクロロホルム200gを仕込み、均一になるまで撹拌した。この溶液へ、合成例4で製造したHPS−NOct
3Cl18.0gをクロロホルム200gに溶解させた溶液を、滴下ロートを使用して加えた。この滴下ロート内を、エタノール100gを使用して前記反応フラスコへ洗い込んだ。この混合物を60℃で17時間撹拌した。
液温30℃まで冷却後、溶媒を留去した。得られた残渣をTHF300gに溶解し、0℃に冷却した。この溶液を0℃のIPE6,000gに添加して再沈精製した。析出したポリマーを減圧ろ過し、60℃で真空乾燥して、アンモニウム基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーとPd粒子の複合体(Pd[HPS−NOct
3Cl])19.9gを黒色粉末として得た。
ICP発光分析の結果から、得られたPd[HPS−NOct
3Cl]のPd含有量は11質量%であった。また、TEM(透過型電子顕微鏡)画像から、そのPd粒子径はおよそ2〜4nmであった。
【0057】
[参考例1]無電解ニッケルめっき液Aの調製
300mLのビーカーに、メルプレートNI−871 M1[メルテックス(株)製]12mL及びメルプレートNI−871 M2[メルテックス(株)製]20mLを仕込み、さらに純水を加えて溶液の総量を200mLとした。この溶液へ10体積%硫酸水溶液を加え、溶液のpHを4.5に調整した。この溶液を撹拌しながら90℃に加熱し、無電解めっき液Aとした。
【0058】
[参考例2]無電解ニッケルめっき液Bの調製
1Lのフラスコに、メルプレートNI−6522LF1[メルテックス(株)製]50mL、メルプレートNI−6522LF2[メルテックス(株)製]150mL及びメルプレートNI−6522LFアディティブ[メルテックス(株)製]5mLを仕込み、さらに純水を加えて溶液の総量を1Lとした。この溶液へ10体積%硫酸水溶液を加え、溶液のpHを4.6に調整した。この溶液を撹拌しながら80℃に加熱し、無電解めっき液Bとした。
【0059】
[参考例3]無電解ニッケルめっき液Cの調製
1Lのフラスコに、純水700mLを仕込み、続けてブルーシューマー[日本カニゼン(株)製]200mLをよく撹拌しながら加えた。この溶液に、さらに純水を加えて溶液の総量を1,000mLとした。このとき、この溶液のpHは6.0であった。この溶液を撹拌しながら80℃に加熱し、無電解めっき液Cとした。
【0060】
[実施例1]クエン酸を含む下地剤を用いたABS基板への無電解めっき
合成例3で製造したPd[HPS−NBu
3Cl]10mg、及びクエン酸[東京化成工業(株)製]200mgを、IPA4.0gに溶解し、固形分濃度5質量%の無電解めっき下地剤を調製した。
予めエタノールで洗浄した25×25mmのABS基板[三菱樹脂(株)製]に、上記下地剤0.3mLを基板中央に滴下し、slope5秒、1,500rpm×30秒間、slope5秒でスピンコートした。この基板を、80℃のホットプレートで1時間乾燥し、基板上全面に下地層を具備したABS基板を得た。
得られた基板を、参考例1で調製した90℃の無電解めっき液A中に20秒間浸漬した。その後、取り出した基板を水洗し、1時間風乾した。
無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
得られためっき基板上の金属めっき膜部分に、幅18mmのセロテープ(登録商標)[ニチバン(株)製 CT−18S]を貼り、手の指で強く擦りつけてしっかり密着させた。その後、密着させたセロテープ(登録商標)を一気に剥がし、金属めっき膜の基板密着性を評価した。金属めっき膜の状態を目視で確認したところ、金属めっき膜は基板から剥がれることなく、基板上に密着したままであった。
また、下地剤塗布前基板表面、下地層(下地剤塗布膜)表面及び金属めっき膜表面の各ラフネスをAFMにより測定したところ、それぞれ4.1nm、3.3nm、2.9nmであった。
【0061】
[実施例2]コハク酸を含む下地剤を用いたABS基板への無電解めっき
実施例1において、クエン酸に替えてコハク酸[東京化成工業(株)製]200mgを使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法でめっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜は基板から剥がれることなく、基板上に密着したままであった。
【0062】
[実施例3]マレイン酸を含む下地剤を用いたABS基板への無電解めっき
実施例1において、クエン酸に替えてマレイン酸[和光純薬工業(株)製]200mgを使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法でめっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜は基板から剥がれることなく、基板上に密着したままであった。
【0063】
[比較例1]有機酸を含まない下地剤を用いたABS基板への無電解めっき−1
実施例1において、クエン酸を添加しなかった以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法で金属めっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜の大部分は基板から剥離し、セロテープ(登録商標)に付着した。
【0064】
[実施例4]PAAを含む下地剤を用いたABS基板への無電解めっき
合成例5で製造したPd[HPS−NOct
3Cl]100mg、及びPAA7mgを、プロパノール3.46gに溶解し、固形分濃度3質量%の無電解めっき下地剤を調製した。
上記下地剤をベンコット(登録商標)M−1[旭化成せんい(株)製]に滲み込ませ、25×25mmのABS基板[三菱樹脂(株)製]全面に塗布した。この基板を、室温(およそ25℃)で1時間乾燥し、基板上全面に下地層を具備したABS基板を得た。
得られた基板を、参考例2で調製した80℃の無電解めっき液B中に60秒間浸漬した。その後、取り出した基板を水洗し、80℃のホットプレートで5分間乾燥した。
無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
得られた金属めっき膜の基板密着性を、実施例1と同様の方法により評価したところ、金属めっき膜は基板から剥がれることなく、基板上に密着したままであった。
【0065】
[実施例5]PAAを含む下地剤を用いたPET基板への無電解めっき
実施例4において、ABS基板に替えてPET基板[日本ポリペンコ(株)製]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法でめっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜は基板から剥がれることなく、基板上に密着したままであった。
【0066】
[実施例6]PAAを含む下地剤を用いたPIフィルムへの無電解めっき−1
実施例4において、ABS基板に替えてPIフィルム[東レ・デュポン(株)製 カプトン(登録商標)200EN]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成したフィルム上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法でめっき膜のフィルム密着性を評価したところ、金属めっき膜はフィルムから剥がれることなく、フィルム上に密着したままであった。
【0067】
[実施例7]PAAを含む下地剤を用いたPVC基板への無電解めっき
実施例4において、ABS基板に替えてPVC基板[笠井産業(株)製 薄板硬質塩化ビニール板]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法でめっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜は基板から剥がれることなく、基板上に密着したままであった。
【0068】
[実施例8]PAAを含む下地剤を用いた6,6−ナイロン基板への無電解めっき
実施例4において、ABS基板に替えて6,6−ナイロン基板[旭化成(株)製]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法でめっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜は基板から剥がれることなく、基板上に密着したままであった。
【0069】
[実施例9]PAAを含む下地剤を用いたPC基板への無電解めっき
実施例4において、ABS基板に替えてPC基板[タキロン(株)製]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法でめっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜は基板から剥がれることなく、基板上に密着したままであった。
【0070】
[比較例2]有機酸を含まない下地剤を用いたABS基板への無電解めっき−2
実施例4において、PAAを添加しなかった以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法で金属めっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜の大部分は基板から剥離し、セロテープ(登録商標)に付着した。
【0071】
[比較例3]有機酸を含まない下地剤を用いたPET基板への無電解めっき
実施例4において、PAAを添加せず、ABS基板に替えてPET基板[日本ポリペンコ(株)製]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法で金属めっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜の大部分は基板から剥離し、セロテープ(登録商標)に付着した。
【0072】
[比較例4]有機酸を含まない下地剤を用いたPIフィルムへの無電解めっき−1
実施例4において、PAAを添加せず、ABS基板に替えてPIフィルム[東レ・デュポン(株)製 カプトン(登録商標)200EN]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成したフィルム上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法で金属めっき膜のフィルム密着性を評価したところ、金属めっき膜の大部分はフィルムから剥離し、セロテープ(登録商標)に付着した。
【0073】
[比較例5]有機酸を含まない下地剤を用いたPVC基板への無電解めっき
実施例4において、PAAを添加せず、ABS基板に替えてPVC基板[笠井産業(株)製 薄板硬質塩化ビニール板]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法で金属めっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜の大部分は基板から剥離し、セロテープ(登録商標)に付着した。
【0074】
[比較例6]有機酸を含まない下地剤を用いた6,6−ナイロン基板への無電解めっき
実施例4において、PAAを添加せず、ABS基板に替えて6,6−ナイロン基板[旭化成(株)製]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法で金属めっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜の大部分は基板から剥離し、セロテープ(登録商標)に付着した。
【0075】
[比較例7]有機酸を含まない下地剤を用いたPC基板への無電解めっき
実施例4において、PAAを添加せず、ABS基板に替えてPC基板[タキロン(株)製]を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成した基板上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法で金属めっき膜の基板密着性を評価したところ、金属めっき膜の大部分は基板から剥離し、セロテープ(登録商標)に付着した。
【0076】
[実施例10]PAAを含む下地剤を用いたPIフィルムへの無電解めっき−2
合成例5で製造したPd[HPS−NOct
3Cl]100mg、及びPAA50mgを、プロパノール4.85gに溶解し、固形分濃度3質量%の無電解めっき下地剤を調製した。
上記下地剤をベンコット(登録商標)M−1[旭化成せんい(株)製]に滲み込ませ、25×25mmのPIフィルム[東レ・デュポン(株)製 カプトン(登録商標)200EN]全面に塗布した。このフィルムを、室温(およそ25℃)で1時間乾燥し、フィルム上全面に下地層を具備したPIフィルムを得た。
得られたフィルムを、参考例3で調製した80℃の無電解めっき液C中に60秒間浸漬した。その後、取り出したフィルムを水洗し、80℃のホットプレートで5分間乾燥した。
無電解めっき処理により、下地層を形成したフィルム上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
得られた金属めっき膜のフィルム密着性を、実施例1と同様の方法により評価したところ、金属めっき膜はフィルムから剥がれることなく、フィルム上に密着したままであった。
【0077】
[比較例8]有機酸を含まない下地剤を用いたPIフィルムへの無電解めっき−2
実施例10において、PAAを添加しなかった以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成したフィルム上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
実施例1と同様の方法で金属めっき膜のフィルム密着性を評価したところ、金属めっき膜の大部分はフィルムから剥離し、セロテープ(登録商標)に付着した。
【0078】
[実施例11]PAAを含む下地剤を用いたITO付PET基板への無電解めっき
実施例4において、ABS基板に替えてITO付PET基板を使用した以外は同様に操作したところ、無電解めっき処理により、下地層を形成したITO膜上全面に金属光沢のある金属めっき膜が生じた。
【0079】
上記実施例1乃至10及び比較例1乃至8で得られた、各金属めっき膜の均一性及び基板(又はフィルム)密着性を表1に併せて示す。なお、表中、有機酸添加量は、ハイパーブランチポリマーと金属微粒子の複合体1質量部に対する添加量[質量部]を表し、均一性及び密着性は以下の基準に従って目視により評価した。
【0080】
<均一性評価>
○:基材全面がムラ無く完全に被覆
×:基材露出部があり被覆が不完全
<密着性評価>
○:めっき膜の基材からの剥離が確認できない
×:めっき膜の基材からの剥離が確認できる
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示されるように、有機酸を添加しない下地剤を使用した無電解めっき膜が各種基材に対し何れも密着性が低いのに対し(比較例1乃至8)、本発明の有機酸を添加した下地剤を使用した場合では、テープ剥離試験に耐えうる密着性が発現することが明らかとなった(実施例1乃至10)。また、有機酸としてPAAを添加した場合には、極めて少量の有機酸の添加で密着性が向上した(実施例4乃至10)。