特許第6022114号(P6022114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6022114
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】容器入り小麦粉
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20161027BHJP
   A47J 47/04 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   A23L7/10 H
   A47J47/04 Z
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-512725(P2016-512725)
(86)(22)【出願日】2015年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2015072498
【審査請求日】2016年3月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】大村 雅人
(72)【発明者】
【氏名】榊原 通宏
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−030495(JP,A)
【文献】 特開平09−266862(JP,A)
【文献】 実開平04−048179(JP,U)
【文献】 特開2005−270058(JP,A)
【文献】 特表2001−503000(JP,A)
【文献】 冬木 正,食品粉体と粒度,食品と技術,2004年 7月,No.397,pp.1-10
【文献】 食品科学,2013年,Vol.34,No.5,p.17-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FROSTI/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大幅2〜20mmの振出し孔を1つ以上有する振出し容器に充填された、差角13.5〜30度の小麦粉である容器入り小麦粉。
【請求項2】
前記振出し容器が前記振出し孔を2〜9個有する、請求項1記載の容器入り小麦粉。
【請求項3】
前記小麦粉が造粒小麦粉であるか、又は造粒小麦粉と非造粒小麦粉との混合物である、請求項1又は2記載の容器入り小麦粉。
【請求項4】
前記小麦粉の差角が14.5〜26度である、請求項1〜3のいずれか1項記載の容器入り小麦粉。
【請求項5】
前記小麦粉が薄力粉である、請求項1〜4のいずれか1項記載の容器入り小麦粉。
【請求項6】
前記小麦粉の平均粒径が60〜320μmである、請求項1〜5のいずれか1項記載の容器入り小麦粉。
【請求項7】
最大幅2〜20mmの振出し孔を2〜9個有する振出し容器に充填された差角13.5〜30度の小麦粉を、該振出し孔から振り出して対象に適用することを含む、小麦粉の適用方法。
【請求項8】
最大幅2〜20mmの振出し孔を2〜9個有する振出し容器に充填された差角13.5〜30度の小麦粉を、該振出し孔から振り出して対象に適用することを含む、振出し操作による小麦粉の拡散またはダマ生成を抑制する方法。
【請求項9】
前記小麦粉が造粒小麦粉であるか、又は造粒小麦粉と非造粒小麦粉との混合物である、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記小麦粉が薄力粉である、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記小麦粉の平均粒径が60〜320μmである、請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器から振り出して用いることができる容器入り小麦粉に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉は、パン、ケーキ、麺類などの原料としてだけではなく、食材のコーティングとして、例えば、食材表面の水を吸わせて他の食材とのまとまりをよくするため、食材のべたつきを抑えて食材同士の付着を防止するため、または食材の加熱中に旨味の流出を防止したり食材の焦げ付きを防止するために用いられている。
【0003】
小麦粉は、粉塵となって飛散しやすい反面、粒子同士が固まってダマになりやすいという性質を有する。そのため、従来、小麦粉を食材に満遍なく付着させるためには、多量の小麦粉をまな板等に広げ、その上で食材を転動させることで食材表面に小麦粉を付着させるという手法が用いられている。しかしこの手法は、食材に対して過剰量の小麦粉が必要であり、さらに食材に付着しなかった大量の小麦粉を廃棄しなければならないという問題があるため、特に比較的少量の食材しか扱わない家庭においては、煩雑かつ無駄の多い作業である。また、この手法により食材等の水分を吸った小麦粉が手に付着することで、手がべたついてその他の作業ができなくなる。
【0004】
作業中における粉の飛散やダマの生成が少ない小麦粉として、特許文献1には、粒径150μm以下が90%以上であり、かつ20μm以下の粒子を20積算体積%以下とした小麦粉が提案されている。特許文献2には、穀粉を含む粉体組成物に乳化剤を含有する液体を噴霧しながら造粒したバッター用造粒組成物が提案されている。しかし、これらも食材に適用する際には上記の手法を行う必要があり、廃棄の問題や手に付着するという問題を解決するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−000098号公報
【特許文献2】特開2002−171924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の小麦粉を振出し容器から食材の上に振り出そうとしても、小麦粉はダマとなって振出し孔に詰まり容器から出てこないが、一方で振出し孔を大きくすると、小麦粉は一度に大量に出てきて食材に過剰にかかってしまううえ、舞い上がって周囲に飛散したり、食材やまな板に当たって跳ねて周囲を汚損しやすくなる。そこで、本発明者らは、飛散、跳ねやダマの生成が少なく、振出し容器から食材に少量ずつ狙った部分に振り出すことができる小麦粉の提供を課題として、鋭意検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その結果、本発明者らは、特定の大きさの振出し孔を1つ以上有する容器に特定の差角を有する小麦粉を充填すれば、少量ずつ定量的に、しかも粉の跳ねや飛散を抑えて狙った一定範囲にムラなく小麦粉を振り出すことができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、最大幅2〜20mmの振出し孔を1つ以上有する振出し容器に充填された、差角13.5〜30度の小麦粉である容器入り小麦粉を提供する。
また本発明は、最大幅2〜20mmの振出し孔を1つ以上有する振出し容器に充填された差角13.5〜30度の小麦粉を、該振出し孔から振り出して対象に適用することを含む、小麦粉の適用方法を提供する。
また本発明は、最大幅2〜20mmの振出し孔を1つ以上有する振出し容器に充填された差角13.5〜30度の小麦粉を、該振出し孔から振り出して対象に適用することを含む、振出し操作による小麦粉の拡散またはダマ生成を抑制する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の容器入り小麦粉は、小麦粉に直接手を触れることなく、食材などの対象の表面の狙った部分に薄く均等に振りかけることができ、しかも振りかけた際に、舞い上がりや跳ねにより広範囲に拡散して手や周辺を汚すことがない。また本発明の容器入り小麦粉は、振出し孔に詰まりにくいため、容器を何度もまたは強く振ったりしなくとも、軽度の操作で一定量の小麦粉を振り出すことができる。本発明の容器入り小麦粉により、小麦粉を使った調理の作業がより簡便かつ経済的になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の容器入り小麦粉は、特定の大きさの振出し孔を1つ以上有する振出し容器に充填されており、該容器の振出し孔から振り出すことによって対象に少量ずつ適用(例えば、ふりかけたりまぶしたり)するために使用される小麦粉である。本発明において振出しとは、容器の開口部を下方に向けて振動を与える操作に限定されず、容器の開口部を真下にする操作や、容器を斜めにする操作、容器を逆さにしたり傾けて振動を与える操作なども包含する。本発明の容器入り小麦粉を適用する対象としては、食材、および鍋、天板、まな板、皿等の調理器具などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の容器入り小麦粉を用いることにより、上記のように小麦粉を適用、特にふりかけたりまぶしたりする際に、小麦粉が舞い上がりや跳ねによって周囲に拡散したり、ダマを生成することを防止することができる。
【0011】
好適には、本発明の容器入り小麦粉は、小麦粉を調理材料として食材や調理器具に適用する際に使用され得る。例えば、本発明の容器入り小麦粉は、ムニエル等の焼き調理の際の打ち粉、もしくはから揚げやフライ等の揚げ物の衣材として少量の小麦粉を食材に付着させるとき、ベーカリー生地や麺生地の付着防止用の打ち粉として少量の小麦粉を調理器具に付着させるとき、または料理のとろみ付け材として少量の小麦粉を食材に加えるときなどに使用することができる。
【0012】
本発明の容器入り小麦粉に使用される小麦粉の原料となる小麦としては、硬質系小麦、軟質系小麦、中間質系小麦、普通系小麦、デュラム小麦などのいかなる系統に属する小麦であってもよく、またそれらに属する何れの品種の小麦であってもよい。例えば、カナダ産のウェスタンレッドスプリング(CW)、米国産のダークノーザンスプリング(DNS)、ハードレッドウィンター(HRW)、オーストラリア産のプライムハード(PH)等の硬質系小麦;日本産の普通系小麦;オーストラリア産のスタンダードホワイト(ASW)等の中間質系小麦;米国産ウエスタンホワイト(WW)等の軟質系小麦;デュラム小麦などを挙げることができるが、これらに限定されない。上記に挙げた小麦は、いずれかの品種もしくは系統を単独で使用してもよく、または2種以上の異なる品種もしくは系統を併用してもよい。本発明に使用される小麦粉は、上記に挙げた小麦を製粉して得られる小麦粉であればよく、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉、デュラム粉のいずれであってもよく、またはそれらの混合物であってもよいが、好ましくは薄力小麦粉である。
【0013】
本発明に使用される小麦粉は、造粒小麦粉であってもよい。当該造粒小麦粉は、上述した小麦粉以外に、他の粉体原料、例えば小麦粉以外の穀粉、澱粉、糖類、賦形剤、色素粉末などを含有していてもよい。ただし、該造粒小麦粉が小麦粉の本来の性質を保つことができ、かつ従来の小麦粉と同様の用途に適用しやすいように、該造粒小麦粉における当該他の粉体原料の含有量はより少ないほうが好ましい。したがって好ましくは、該造粒小麦粉中(乾物換算)における該他の粉体原料の含有量は、上記小麦粉および該他の粉体原料を含めた原料粉全体の5質量%未満である。より好ましくは、該造粒小麦粉には上記小麦粉以外の粉体原料は含まれていない。言い換えると、該造粒小麦粉中(乾物換算)における上記小麦粉の含有量は、好ましくは95質量%超であり、より好ましくは100質量%である。
【0014】
造粒小麦粉は、小麦粉を含む原料粉に加水して造粒することによって製造することができる。当該造粒は、非加熱条件下で行われるのが好ましい。本明細書において、非加熱条件とは、処理工程中に原料粉のα化度を5%以上増加させない温度条件をいう。例えば、原料粉が小麦粉の場合、造粒前の小麦粉のα化度が6%であれば、非加熱条件下で造粒された小麦粉の造粒後のα化度は11%未満である。このような非加熱条件とは、例えば、処理工程中に加熱手段を用いて外部から加熱することがないか、または当該加熱の時間が短く、原料粉のα化をほとんど引き起こさない条件であり得る。また例えば、当該非加熱条件とは、処理工程中に加熱手段を用いた外部からの加熱がないかまたは当該加熱の時間が短く、かつ処理工程中における内的な熱の発生も少なく、原料粉のα化をほとんど引き起こさない条件であり得る。本明細書において、原料粉のα化度とは、従来法であるβ−アミラーゼ・プルラナーゼ法により測定した値である。
【0015】
本発明で使用される造粒小麦粉を造粒するための方法としては、特に限定されないが、転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒などを用いることができ、好ましくは上述した非加熱条件を達成できる方法である。造粒工程の例としては、上記小麦粉を含む原料粉を縦型のミキサーで攪拌しながら徐々に加水して造粒する工程や、該原料粉をフィーダー型の横型ミキサーで攪拌移送しながら、移送途中に噴霧装置等で加水し、混合と移送を同時に行いながら造粒する工程などが挙げられるが、これらに限定されない。簡便性の点からは、攪拌造粒が好ましい。上記に挙げた各造粒方法は、いずれも市販の造粒装置を用いることで実施することができる。なお、造粒後に必要に応じ、造粒小麦粉を整粒処理や乾燥処理することもできるが、当該処理も、原料粉からのα化度を5%以上増加させない条件で行うことが好ましい。
【0016】
本発明に使用される小麦粉は、製粉後に造粒処理されていない非造粒小麦粉であっても、造粒小麦粉であってもよく、またはそれらの混合物であってもよい。さらに上記の小麦粉を分級して得られる分級粉であってもよい。以下の本明細書においては、特に区別して使用しない限り、「小麦粉」という語は、非造粒小麦粉および造粒小麦粉を包含する。
【0017】
本発明の容器入り小麦粉に使用される小麦粉は、差角が13.5度以上、好ましくは14度以上、より好ましくは14.5度以上であって、かつ30度以下、好ましくは28度以下、より好ましくは26度以下である。例えば、本発明の容器入り小麦粉に使用される小麦粉の差角の範囲は、13.5〜30度、好ましくは14〜28度、さらに好ましくは14.5〜26度などであり得る。小麦粉の差角が13.5度未満であると、容器からの小麦粉の振出しに大きな力が必要になり振出し量のコントロールがしにくくなり、また小麦粉が振出し孔に詰まりやすくなる。一方、該小麦粉の差角が30度を超えると、一度の振出し操作で容器から多量の小麦粉が振り出されて、小麦粉が対象に過剰に振りかかるかまたは必要以上に使用されて経済性が低下するだけでなく、小麦粉が舞い上がって飛散したり、まな板や調理台等の上で跳ね返ることで辺りに拡散し、周囲を汚損する。
【0018】
差角とは、安息角と崩潰角の差の角度をいう。より詳細には、差角とは、紛体の安息角と、該安息角を保った紛体を一定の衝撃によって崩したときに得られる該紛体の崩潰角との差の角度をいう。安息角が同じ紛体であっても、それらの崩れやすさが互いに異なれば崩潰角が異なるため、それらの差角は異なる。本明細書における小麦粉の差角は、同一の小麦粉を用いて下記の手法で測定される安息角と崩潰角の差によって得られる。一般的な小麦粉の差角は、薄力粉も強力粉も11〜12.5度程度である。
安息角
円形テーブル(直径8cm)をセット後、試料小麦粉100gを、目開き1.7mmのメッシュに通し、振幅1.5mmで振動させながら、開口部の径5mmの漏斗を用いて、該テーブル面の中央部7.5cm上から円形テーブル上に落下させ堆積させる。このとき、テーブルの端部から小麦粉があふれる程度に堆積させる。このときのテーブル上に堆積した小麦粉の稜線と円形テーブル面との間に形成された角度をレーザー光で測定した値を安息角とする。
崩潰角
安息角測定後、円形テーブルを乗せているバットにショッカーで3回衝撃を加える。その後テーブルに残った小麦粉の稜線と円形テーブル面との間に形成された角度をレーザー光を用いて測定した値を崩潰角とする。
上記手法に基づく小麦粉の安息角、崩潰角および差角の測定は、好ましくはパウダテスタPT−X(ホソカワミクロン製)を用いて、取扱い説明書に従って行うことができる。
【0019】
好ましくは、本発明の小麦粉の安息角は36〜57度、崩潰角は16〜43.5度である。ただし、本発明の小麦粉の安息角は必ず崩潰角よりも大きい。
【0020】
小麦粉の差角を上記範囲に調整する手法としては、小麦粉を分級するなどして粒子径や粒度分布を調整し、差角が所定の範囲となるように小麦粉を取り分ける方法が挙げられる。小麦粉の差角を調整する他の手法としては、小麦粉の表面性状を変えることによって、差角が上記範囲となるように小麦粉を改質する方法が挙げられる。小麦粉の表面性状を変える方法としては、小麦粉に賦形剤を混合する方法、小麦粉を造粒する方法、微粒二酸化ケイ素などの流動性改良剤を添加する方法などが挙げられる。さらに、当該表面性状を改質された小麦粉を、上述の手法で粒子径や粒度分布を調整してから用いてもよい。あるいは、上記の分級や改質によって得られた小麦粉を適宜混合するか、又はそれらをさらに通常の小麦粉と混合して、所望の差角を有する小麦粉を調製してもよい。しかし、小麦粉の均質性を高め、調理材料としての品質や振り出す際の安定性を考慮すると、前記小麦粉の表面性状を変えることによって得られる改質小麦粉を単独で用いるのが好ましい。
【0021】
好ましくは、本発明に使用される小麦粉の例としては、小麦粉を95質量%以上含む原料粉100質量部を、水25〜40質量部を加えながら上述した非加熱条件下で攪拌造粒することによって、またはさらにそれを整粒、乾燥することによって得られた造粒小麦粉であって、粒径が150μm未満の粉を15〜70体積%、好ましくは20〜60体積%、および粒径150μm以上の粉を85〜30体積%含有する造粒小麦粉が挙げられる。ここで、上記造粒小麦粉の粒径は、レーザー回折・散乱法により算出された粒子径である。
【0022】
さらに、本発明に使用される小麦粉は、平均粒径が60〜320μm、より好ましくは70〜300μm、さらに好ましくは80〜250μmであると、振り出された小麦粉の舞い上がりや跳ねがより抑えられるため好ましい。本明細書において、小麦粉の平均粒径とは、レーザー回折・散乱法により算出された粒径の体積平均径(MV)をいう。
【0023】
本発明に使用される小麦粉は、その用途に応じて、その他の粉体と混合された小麦粉組成物として提供されてもよい。当該その他の粉体としては、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉、デュラム粉等の通常の小麦粉;ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、豆粉等の小麦粉以外の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等の澱粉類、およびこれらのα化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、アセチル化澱粉、架橋処理澱粉等の加工澱粉類;糖類;卵粉、卵白粉;増粘剤;油脂類;乳化剤;賦形剤;流動化剤;調味料、香辛料等;活性グルテン;酵素剤、などが挙げられる。該小麦粉組成物中における本発明に使用される特定の差角を有する小麦粉の量は、該小麦粉組成物の用途や製造コスト等の要因によって異なるが、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。当該小麦粉組成物の差角が上記所定の範囲にあることが好ましい。
【0024】
本発明において、上記小麦粉または小麦粉組成物は、振出し孔を1つ以上有する振出し容器に充填された状態で提供される。当該振出し容器は、片手で持ち上げて内部の小麦粉の振出し操作を行うことのできる大きさおよび形状の容器であればよく、例えば、調味料容器や香辛料容器のような大きさおよび形状の容器が好ましい。より詳細には、直径または一辺の長さが20〜100mm、高さ80〜200mm程度の円柱状、楕円柱状、角柱状を有し、50〜300g程度の小麦粉を充填できる大きさを有する自立型の容器であることが好ましい。さらに使い勝手を考慮すると、50〜200g程度の小麦粉を充填できる大きさで、かつ一辺の長さが30〜80mm、高さ70〜140mm程度のサイズの容器がより好ましい。容器の素材としては、小麦粉を保存可能であって、かつ振出し操作の際に変形しない素材であれば特に限定されず、例えばプラスチック、金属、紙などが挙げられる。
【0025】
上記振出し容器の1つ以上の振出し孔の形状は、特に限定されないが、円形、三角形、四角形、多角形などが挙げられる。該1つ以上の振出し孔の各々の大きさは、最大幅として、好ましくは2〜20mm、より好ましくは3〜12mm、さらに好ましくは4〜8mmであり、また該振出し孔の数は、好ましくは2〜9個、より好ましくは4〜7個である。該振出し孔の大きさが小さすぎる場合や孔の数が少ない場合、振出し量が過少になりやすいか、または孔が小麦粉で詰まりやすくなり、逆に該振出し孔の大きさが多すぎる場合や孔の数が多い場合、一度の振出し操作で多量の小麦粉が振り出されて、小麦粉が対象に過剰に振りかかるかまたは必要以上に使用されて経済性が低下するだけでなく、舞い上がったり跳ねたりして拡散し、周辺を汚損しやすくなる。本発明に使用される振出し容器は、好ましくは直径2〜20mmの円形の振出し孔を2〜9個有し、より好ましくは直径3〜12mmの円形の振出し孔を4〜7個有し、さらに好ましくは直径4〜8mmの円形の振出し孔を4〜7個有する。また好ましくは、本発明に使用される振出し容器は、対角線長さ2〜20mmの略四角形もしくは略多角形の振出し孔を2〜9個有し、より好ましくは対角線長さ3〜12mmの略四角形もしくは略多角形の振出し孔を4〜7個有し、さらに好ましくは対角線長さ4〜8mmの略四角形もしくは略多角形の振出し孔を4〜7個有する。
【0026】
さらに、上記振出し容器は、上記1つ以上の振出し孔とは別に、スプーン取出し部を備えていてもよい。当該スプーン取出し部は、該容器から計量スプーンや茶さじなどにより内部の小麦粉を取り出す際に、あるいはまとまった量の小麦粉を該容器から振り出す際の取り出し口として使用され得る。好ましくは、上記振出し容器において、該スプーン取出し部は、上記1つ以上の振出し孔とは離れた位置に配置される。例えば、振出し容器の天面上で、一端に振出し孔を配置し、そこから90〜180°ずれた側にスプーン取出し部を設けることができる。
【0027】
上記振出し容器の1つ以上の振出し孔およびスプーン取出し部は、好ましくは蓋を備えている。当該蓋の種類は特に限定されないが、片手で簡便に開閉可能な蓋、例えば、スライド蓋やフラップ蓋が好ましい。また好ましくは、該振出し孔の蓋は、複数の振出し孔を一度に開閉することができる1つの蓋である。該1つ以上の振出し孔の蓋と該スプーン取出し部の蓋とは、共通の蓋であっても独立した別々の蓋であってもよいが、いずれの場合も、該1つ以上の振出し孔と該スプーン取出し部とが同時に開口しないようにできる構造であることが好ましい。例えば、該1つ以上の振出し孔の蓋と該スプーン取出し部の蓋とは、独立して開閉可能な2つのフラップ蓋である。またあるいは、該1つ以上の振出し孔の蓋と該スプーン取出し部の蓋は、該振出し孔と該スプーン取出し部の少なくとも一方が閉じるように動く1つの共通したスライド蓋である。
【0028】
好ましくは、本発明の容器入り小麦粉を容器から振り出した場合、容器の開口部を真下に傾ける1回の振出し操作で、肉や魚等の具材にまぶす際に丁度よい量の小麦粉、例えば約0.5g〜2g、好ましくは約0.8〜1.4gの小麦粉を振り出すことができる。また好ましくは、本発明の容器入り小麦粉を10cm下の平面上の目標点に向けて、上記1回の振出し操作で容器から振り出した場合、狙った部分を中心に丁度よい範囲、例えば目標点を中心に最大幅約8〜18cm、好ましくは最大幅約10cm〜14cmとなる限られた範囲に小麦粉を散布することができる。より多くの量の小麦粉を容器から振り出したり、より広範囲に小麦粉を散布する場合は、上記振出し操作を繰り返したり、より強く振出し操作を行えばよい。
【実施例】
【0029】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を掲げるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、小麦粉の安息角、崩潰角および差角は、パウダテスタPT−X(ホソカワミクロン製)を用いて測定された値である。
【0030】
製造例1〜11:容器入り小麦粉
市販の小麦粉(薄力粉:日清製粉製「フラワー」;平均粒径54μm;差角12.2度、安息角56.8度)1kgを容器に入れ、ハンドミキサーで攪拌しながら霧吹きで加水し、その後恒温槽で乾燥した。加水量、攪拌中の温度、および乾燥時間の各種条件を変更して、表1に示す差角を有する小麦粉を製造した。得られた各小麦粉の平均粒径は、約60〜320μmであった。平均粒径は、マイクロトラックMT3000II(日機装株式会社)を用いたレーザー回折・散乱法により測定した粒径の体積平均径(MV)である。各小麦粉を、それぞれ直径50mm、高さ120mmの円筒容器に100gずつ充填した後、該容器の天面に直径5mmの振出し孔を5個有する直径50mm、厚さ0.2mmの円形プラスチック板をはめ込み、振出し容器入り小麦粉を製造した。なお、製造例1〜11の各小麦粉は、安息角は47.2〜55.3度の範囲であり、崩潰角は16.5〜41.2度の範囲であった。
【0031】
製造例12:容器入り小麦粉
製造例5の小麦粉(差角16.1度)と、原料小麦粉(差角12.2度)を適宜混合して、差角14.6度を有する小麦粉を製造した。この小麦粉から、製造例1〜11と同様の手順で振出し容器入り小麦粉を製造した。なお、製造例12の小麦粉の安息角は56.0度、崩潰角は41.4度であった。
【0032】
試験例1:振出し量、拡散範囲の測定
製造例1〜12の各容器入り小麦粉を、水平に設置した平滑な平面の上に振り出した。振出しは、平面中央に設けた目印の直上10cmから、目印に向けて、容器の開口部を真下に傾ける操作を1回行った。振り出された小麦粉の量を測定して振出し量とした。また、振り出された小麦粉が飛散したり跳ねて拡散した範囲を特定し、その外縁の一点から上記目印を通り、別の外縁に至る直線の長さを測定して、その最大値を拡散範囲とした。各小麦粉について計10回の測定を行い、振出し量および拡散範囲の平均値を求め、以下の基準でA、B、Cの3段階で評価した。また、振り出した小麦粉の分布の均一性を評価した。分布均一性は、上記と同様の操作で容器から振り出された小麦粉を目視観察し、振り出された小麦粉が拡散した状態を以下の基準でA、B、C、Dの4段階で評価した。3回の評価で2回以上同じスコアが出た場合に、それを分布均一性の評価結果として採用した。3回の評価がすべて異なった場合には、評価不可とした。
振出し量: A 0.8〜1.4g
B 0.5g以上0.8g未満又は1.4g超2g以下
C 0.5g未満又は2g超
拡散範囲: A 10〜14cm
B 8cm以上10cm未満又は14cm超18cm以下
C 8cm未満又は18cm超
分布均一性:A ほぼ均一でムラがほとんどない
B ややムラがある
C ムラが多い
D ムラが多く、全く分布しない部分又は塊状に分布する
部分がある
【0033】
結果を表1に示す。なお、参考例1として市販の薄力粉(日清製粉製「フラワー」;差角12.2度、安息角56.8度)、参考例2として市販の強力粉(日清製粉製「カメリヤ」;差角11.9度、安息角57.4度)での結果を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すとおり、小麦粉を容器から振り出して使用する場合、小麦粉の差角が小さくなる程、振出し量と拡散範囲が減少し、また孔が詰まって振り出しにくくなった。一方で小麦粉の差角が大きくなる程、振出し量が増えて広範囲に転がるようになり、均一に分散しにくくなった。本試験の結果、一般的な食材の狙った部位に振り掛けるのに適切な量および範囲で、振出し孔が詰まることなく小麦粉を容器から振り出すためには、小麦粉の差角を13.5〜30度程度にすることが好ましいことが見出された。該差角を有する容器入り小麦粉(製造例2〜10、12)は、適度な振出し量や拡散範囲になり、振出し操作ごとの振出し量や範囲のばらつきも少なく、さらに繰り返し振り出しても孔が詰まることなく操作性が良好であった。小麦粉の差角が13.5度よりも小さい製造例1では、1回の振出し操作で少量の小麦粉しか振出されなかった。小麦粉の差角が30度よりも大きい製造例11では、1回の振出し操作で広範囲に小麦粉が散らばった。製造例1よりもさらに差角が小さい市販の小麦粉では、1回目の振出しから孔が詰まって小麦粉が容器から全く振り出されなかった。
【0036】
試験例2:振出し容器の検討
振出し容器の振出し孔の寸法を表2のとおりに変更した以外は、製造例7と同様の手順で振出し容器入り小麦粉を製造した(製造例13〜25)。各容器入り小麦粉について、試験例1と同様の手順で振出し量、飛散範囲および分布均一性を評価した。その結果を表2に示す。なお、表2には製造例7の結果を再掲する。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すとおり、振出し孔のサイズおよび個数を適切に設計することにより、小麦粉の振出し量および飛散範囲を適切な範囲に調整することができた。
【要約】
振出し操作による飛散や跳ね、及びダマの生成が少なく、振出し容器から食材に少量ずつ振り出すことができる小麦粉の提供。最大幅2〜12mmの振出し孔を1つ以上有する振出し容器に充填された、差角13.5〜30度の小麦粉である容器入り小麦粉。