特許第6022350号(P6022350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6022350そぼろ状鶏挽肉、そぼろ状鶏挽肉含有調味液及び容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6022350
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】そぼろ状鶏挽肉、そぼろ状鶏挽肉含有調味液及び容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/10 20160101AFI20161027BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20161027BHJP
【FI】
   A23L13/10
   A23L27/10 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-286518(P2012-286518)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-128202(P2014-128202A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 拓
(72)【発明者】
【氏名】佐野 晴美
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−108356(JP,A)
【文献】 特開2001−178392(JP,A)
【文献】 特開平07−051025(JP,A)
【文献】 特開2005−073616(JP,A)
【文献】 特開2008−048614(JP,A)
【文献】 特開2005−073614(JP,A)
【文献】 特開平06−181724(JP,A)
【文献】 特開平09−107937(JP,A)
【文献】 特開2003−033154(JP,A)
【文献】 特開平11−178550(JP,A)
【文献】 特公平06−055119(JP,B2)
【文献】 米国特許第05871794(US,A)
【文献】 特開昭57−043669(JP,A)
【文献】 特開2008−092815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/10
A23L 27/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬し、加熱して得られるpH4.6以下のそぼろ状鶏挽肉。
【請求項2】
酸溶液の酸が、酢酸である請求項1に記載のそぼろ状鶏挽肉。
【請求項3】
生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬し、加熱してpH4.6以下のそぼろ状鶏挽肉を得、次いで、該そぼろ状鶏挽肉を調味液に混合した後、加熱調味して得られるそぼろ状鶏挽肉含有調味液。
【請求項4】
生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬し、加熱してpH4.6以下のそぼろ状鶏挽肉を得、該そぼろ状鶏挽肉を調味液に混合し、加熱調味して得られるそぼろ状鶏挽肉含有調味液が包装容器に充填されている容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液。
【請求項5】
生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬し、加熱してpH4.6以下のそぼろ状鶏挽肉を得、該そぼろ状鶏挽肉を調味液に混合し、加熱調味してそぼろ状鶏挽肉含有調味液を得、次いで、該そぼろ状鶏挽肉含有調味液を包装容器に充填、密封し100℃以下の温度で殺菌して容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液を得る、容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挽肉の粒子が相互に結着した大きなダマの割合が少なく、また、挽肉粒子が相互に結着した少ない割合で生じた大きなダマの崩壊性及び分散性が良好であるそぼろ状鶏挽肉に関する。さらに、該そぼろ状鶏挽肉を含有するそぼろ状鶏挽肉含有調味液及び該そぼろ状鶏挽肉含有調味液が容器に充填された容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液に関する。
なお、本発明でいうダマとは、挽肉の粒子が相互に結着し、塊状、団子状あるいはブロック状である挽肉のことである
【背景技術】
【0002】
従来、鶏挽肉には、挽肉単体で炒めたり茹でたりすると挽肉の粒子が互いに結着(粘着)する性質が増大して、より大きなダマとなりやすく、また、炒めたり茹でたりして生じた大きなダマは崩壊性及び分散性が悪いため、大きさ及び形状が不揃いとなり他の素材(又は食材)、あるいは調味液と均一に混ぜにくい欠点を有することが知られている。それゆえ、挽肉粒子によるダマ形成を抑制し、挽肉粒子の大きさ及び形状が均一なそぼろ状にするために、終始ヘラ等で混ぜながら仕上げるかあるいは箸等でほぐしながら(崩壊させながら)調理する必要があり、食味に優れたそぼろを調理するためには、さらに手間がかかることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、鶏挽肉のそぼろが大きなダマにならないようにするために、そぼろの粉砕を強化した場合は、挽肉の粒が細かくなりすぎて、過度に細かいそぼろとなる欠点を有していた。
【0003】
鶏挽肉特有の上記に示した欠点を解消する手段として、幾つかの方法が提案されているが十分満足ゆく方法とはいいがたい。
すなわち、生の鶏挽肉を水中に分散させてから70〜100℃の温度でボイル処理する方法(例えば、特許文献2参照)は、大きなダマ形成の防止効果が十分でなく、また鶏肉本来の風味が損なわれたり、生臭くなったりする欠点を有する。また、水中に分散させた挽肉は、結着性の抑制が十分ではないため、不均一な粒径となってしまう。そして、一度結着し大きなダマとなったものは、その後の工程で崩壊することはあまりなく、加熱後に再度粒径を小さくするような工程が必要となってしまう欠点を有する。
【0004】
また、鶏胸肉に油脂を添加し良くなじませた後、肉を挽くことにより挽肉を得て、これを90℃以上の熱湯に入れて茹でた後、該挽肉を撹拌する方法(例えば、特許文献3参照)は、後の工程で不必要な油脂を分離除去する手段が必要となる欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−178392号公報
【特許文献2】特開2005−73616号公報
【特許文献3】特許第4584207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、鶏肉本来の風味が損なわれず、不必要な油脂を分離除去する必要性もなく、相互に結着せず、大きなダマの割合が少なく、また、そぼろ状挽肉を得る際に生じた少ない割合で形成された大きなダマの崩壊性及び分散性が良好であるそぼろ状鶏挽肉を得ることを目的とする。さらに、該そぼろ状鶏挽肉を含有するそぼろ状鶏挽肉含有調味液及び該そぼろ状鶏挽肉含有調味液が容器に充填された容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬してpH4.6以下の鶏挽肉としたところ、相互の結着性が弱くなり、ダマ形成が少なく、また生じたダマは崩壊しやすく、調味液に混和すると分散性が良好なそぼろ状鶏挽肉が得られることを知った。また、該そぼろ状鶏挽肉は、風味が良好で、油脂を過剰に含んでいないため、従来公知のあんかけ用調味液、炒め物用調味液、煮物用調味液、麻婆豆腐用調味液、ミートソース(調味液)等の調味液の具材として好適であることを知った。また、そぼろ状鶏挽肉含有調味液全体のpHが4.6以下のそれは、包装容器に充填後100℃以下の温度で殺菌された場合でも、耐熱性芽胞菌のような危害微生物に対する保存安定性が良好に保持されることを知った。
そして、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、以下のそぼろ状鶏挽肉、そぼろ状鶏挽肉含有調味液及び容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液である。
【0009】
(1)生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬し、加熱して得られるpH4.6以下のそぼろ状鶏挽肉。
(2)酸溶液の酸が、酢酸である前記(1)に記載のそぼろ状鶏挽肉。
(3)生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬し、加熱してpH4.6以下のそぼろ状鶏挽肉を得、次いで、該そぼろ状鶏挽肉を調味液に混合した後、加熱調味して得られるそぼろ状鶏挽肉含有調味液。
(4)生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬し、加熱してpH4.6以下のそぼろ状鶏挽肉を得、該そぼろ状鶏挽肉を調味液に混合し、加熱調味してそぼろ状鶏挽肉含有調味液を得、次いで、該そぼろ状鶏挽肉含有調味液を包装容器に充填、密封し100℃以下の温度で殺菌して得られる容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鶏肉本来の風味が損なわれず、不必要な油脂を分離除去する必要性もなく、相互に結着せず、大きなダマの割合が少なく、また、そぼろ状挽肉を得る際に生じた少ない割合で形成された大きなダマの崩壊性及び分散性が良好であるそぼろ状鶏挽肉が得られる。さらに、該そぼろ状鶏挽肉が調味液へ良好に分散しているそぼろ状鶏挽肉含有調味液が得られる。また、そぼろ状鶏挽肉が調味液中に良好に分散している該そぼろ状鶏挽肉含有調味液を容器に充填して100℃以下で加熱殺菌した容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】挽肉の種類によるダマの大きさの割合を示す写真である。
図2】挽肉の種類によるダマの大きさの割合を示す図である。
図3】有機酸の種類によるダマの大きさの割合を示す写真である。
図4】有機酸の種類によるダマの大きさの割合を示す図である。
図5】酸度14に調整した有機酸のダマ形成に与える影響を示す写真である。
図6】酸度14に調整した有機酸のダマ形成に与える影響を示す図である。
図7】ダマ崩壊試験結果を示すもので、有機酸の種類によるダマの大きさの割合を示す写真である。
図8】ダマ崩壊試験結果を示すもので、有機酸の種類によるダマの大きさの割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(酸溶液の酸度の測定)
本発明でいう酸度とは、実施例で用いた各有機酸及び無機酸の酸溶液から3mlを試料として採取して水で希釈し100mlとした酸希釈液に、N/10水酸化ナトリウム溶液を添加して、試料希釈液のpHが8.3になるまで変化するのに要したN/10水酸化ナトリウム溶液の液量の数値(ml数)で表される。
【0013】
(酸溶液の酸度)
酸溶液は酸度12〜25が好ましく、12〜23がより好ましい。すなわち、酸度12未満ではダマ形成防止効果が少なく、反対に酸度25を超えるときはそぼろ状鶏挽肉に余分な酸味が生じるので好ましくない。
【0014】
(酸の種類)
酸溶液の酸の種類としては酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸、塩酸、リン酸等の無機酸が挙げられるが、これらの酸の一種又は二種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。このうち酢酸は、水溶液の酸度が12〜25(pH:2.57〜2.39)においてダマ形成防止効果が優れているので好ましい。酢酸としては、醸造酢、合成酢あるいは濃縮された醸造酢等を用いることができる。
【0015】
(酸溶液の浸漬)
浸漬する際の酸溶液の温度は、25℃以下が好ましく、5〜15℃がより好ましく、8〜12℃が最も好ましい。温度が25℃より高いときは浸漬中に肉の風味が劣化し、また肉に附着した微生物が増殖するので好ましくない。
【0016】
浸漬時間は、生の鶏挽肉を酸度12〜25の酸溶液に浸漬して(懸濁して)、pH4.6以下の鶏挽肉となるのに十分な時間とすることが必要で、25℃以下の温度で0.5〜24時間が好ましく、1.0〜12時間がより好ましい。
【0017】
(生の鶏挽肉の調製)
鶏挽肉は、ミートチョッパー、挽肉機、カッター等を用い、鶏肉を粒状に細かく切りきざむか、又はカットすることで得ることができる。一般的に家庭あるいは業務用として使用される挽肉機は、種々の大きさの目穴を持つプレートを回転カッターとともに用いることで、使用目的に応じた粒の大きさの挽肉を得ることができる。例えば、本実施例で用いた電動挽肉機(ボニー社製キッチンミンサーBK-220)の場合、目穴の直径が1.2〜8mmのプレートがあり、挽肉の粒子の大きさとして1.2mmの細切れ挽肉から8mmの粗びき挽肉を得ることができる。したがって、鶏挽肉のそぼろを調味液等に含有させる場合、そぼろの使用目的に応じて食感や具材感を出すためにプレートの穴目を変えることで、最適な大きさの挽肉粒子を使用することができる。また、カッター等を用いてサイコロ状に切ることで8mm以上のサイコロ状の挽肉、例えば、10mmのサイズの挽肉を得ることができる。
【0018】
本願発明における挽肉の粒子が相互に結着した大きなダマの割合が少なく、また、挽肉粒子が相互に結着した少ない割合で生じた大きなダマの崩壊性及び分散性が良好であるそぼろ状鶏挽肉の場合、挽肉粒子が細かすぎると具材感がなくなり、大きすぎるとそぼろ状挽肉としての食感が悪くなってしまうため、具材感があり、食感が良い鶏挽肉のそぼろを製造するためには、生の鶏の挽肉として2〜10mmが好ましく、5〜8mmがより好ましい。
【0019】
(浸漬後の加熱)
鶏挽肉を酸溶液に浸漬後、鶏挽肉を油脂の存在下で加熱する(油炒めする)が、その際には、鶏挽肉を金網製のザルなどで酸溶液と分離したあとで鶏挽肉のみを加熱してもよいし、あるいは、鶏挽肉を酸溶液と分離することなく加熱してもよい。例えば、フライパンに油脂を入れ、熱媒体(火炎など)でフライパンを加熱し該油脂が90〜100℃に達温後、鶏挽肉を酸溶液と分離した後、あるいは酸溶液と分離することなく該フライパンに投入し、撹拌を行ないながら加熱(油炒め)してもよい。油脂としては、サラダ油等の植物油脂あるいは豚脂等の動物油脂を適宜選択して用いることができる。
【0020】
(挽肉のpH測定法)
挽肉を酸溶液に浸漬し加熱後の挽肉粒子のpHの測定は下記のように実施する。
すなわち、挽肉を所定時間浸漬後、浸漬液とともにフライパンで加熱した該挽肉を金網製のザルに掬い取ってから3分以上静置して酸溶液を水切りする。ついで、該挽肉を紙製タオル上に広げて挽肉表面に残存している酸溶液を除去後、さらに挽肉表面の酸溶液の影響を受けないように挽肉の表面をカッターにて薄くトリミングする。トリミング後の該挽肉を水で三倍量(重量)としたうえで、すり鉢で挽肉を擂り潰しペースト状としてから、当該ペーストのpHをpHメーターで測定する。
【0021】
加熱終了後は、通常のそぼろ状鶏挽肉の製造法に従って、水切りし、必要により醤油、味噌、砂糖等の調味料で味付けし、乾燥することで、そぼろ状鶏挽肉を製造できる。
【0022】
(そぼろ状鶏挽肉含有調味液)
本発明のそぼろ状鶏挽肉は、挽肉粒子間の相互の結着性が弱くなり、ダマ形成が少なく、また生じたダマは崩壊しやすく、調味液に混和すると分散性が良好であるとともに、鶏挽肉としての風味が良好で、油脂を過剰に含んでいないという特徴を有する。したがって、具材として鶏挽肉を含有する各種の調味料に配合するそぼろ状鶏挽肉として最適である。具材として鶏挽肉を含有する調味液としては、従来公知のあんかけ用調味液、炒め物用調味液、蒸し物用調味液、煮込み用調味液、麻婆豆腐用調味液、ミートソース等の調味液をあげることができる。該調味液に本発明のそぼろ状鶏挽肉を混合して、加熱、調味することによって、そぼろ状鶏挽肉含有調味液を得ることができる。
【0023】
そぼろ状鶏挽肉含有調味液は、調味液全体のpHを3.5〜4.6の範囲とすることが必要である。
pHが3.5よりも小さくなると、調味液の酸味が強くなりすぎるので好ましくない。反対にpHが4.6よりも大きくなると、該調味液を食材の調理等に使用した場合、食材や料理の甘味が強く感じるようになるなど風味が悪くなり、またサッパリ感もなくなるので好ましくない。また、pHが4.6よりも大きい場合、耐熱性芽胞菌のような危害微生物対策のため120℃以上の高温殺菌(すなわち、F値=4以上のレトルト加熱殺菌)を必要とするが、120℃以上の加熱は、調味液の風味劣化が避けられない欠点を有する。
なお、F値はレトルト加熱殺菌の指標値である(食品殺菌工学、芝崎勲著、光琳書院)。
【0024】
そぼろ状鶏挽肉含有調味液に配合する調味成分には、特に限定はない。すなわち、砂糖、醤油、鰹節や酵母のエキス、塩、香辛料、香味野菜、味噌類、酒類調味料、トマトペースト等の野菜加工品類、澱粉類、増粘剤等一般的な液体調味料に配合される調味料等を適宜選択して使用できる。
【0025】
(容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液)
そぼろ状鶏挽肉含有調味液を包装容器に充填、密封し、100℃以下で殺菌することで、容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液が製造できる。該容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液は、調味液のpHが4.6以下であるため、100℃以下の温度で殺菌した場合でも、危害微生物に対して耐性があり、殺菌目的が達成される。
【0026】
本発明で使用する包装容器の包装材は、100℃を超える耐熱性、また酸素不透過性を必ずしも必要としない。そのためレトルト加熱殺菌に耐えうる包装材ばかりでなく、レトルト加熱殺菌に耐えないナイロン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレンやこれらの樹脂にアルミニウム蒸着したアルミニウム蒸着フィルム、さらにこれらの樹脂フィルムとアルミニウム蒸着フィルムからなる積層フィルム等の一種又は二種以上を素材とした包装材が使用可能である。
包装容器としてはフィルム状袋容器、ペットボトル、スタンディングパウチ等が挙げられるが、レトルト加熱殺菌に耐えうる容器を使用することもできる。
【0027】
以下、実験例及び実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0028】
(酸溶液の酸度の測定)
各有機酸及び無機酸溶液の酸度は、各酸溶液から3mlを試料として採取して水で希釈し100mlとした酸希釈液をN/10水酸化ナトリウム溶液で滴定した。次いで、酸希釈液のpHが8.3になるまでに要したN/10水酸化ナトリウム溶液の液量を測定して、該N/10水酸化ナトリウム溶液の液量の数値(ml数)で表した。なお、酸希釈液のpHが8.3になるまでのN/10水酸化ナトリウム溶液の液量は、酸度計(東亜DKK社製TA−70)を用いて測定した。
【0029】
(挽肉の処理)
表1記載の、生の塊状の肉(鶏胸肉、豚こま肉又は牛肩肉)を、直径6.4mmの穴目のプレートを取り付けた挽肉機(ボニー社製キッチンミンサーBK-220)により挽肉処理を行い、挽肉粒子の粒径が約6.4mmのそれぞれの挽肉を得た。次いで該挽肉300gを5℃に冷却した150gの浸漬水(水又は有機酸溶液)に投入、分散し、品温5℃で1時間浸漬し、水又は酸溶液に浸漬した挽肉を得た。次いで、フライパンに市販のサラダ油を20g入れ、火で加熱し該サラダ油が100℃達温後、該挽肉を浸漬水と共に投入し、1分毎にシャモジを用いダマが崩壊しないように注意をしながら撹拌を行ない、全体に火が通るまで炒めた。
【0030】
(挽肉のpH測定)
火が通るまで炒めた加熱後の挽肉粒子のpHの測定は下記のように実施した。
フライパンで火が通るまで炒めた挽肉を金網製のザルに掬い取ってから3分以上静置して酸溶液を水切りした。ついで、該挽肉を紙製タオル上に広げて挽肉表面に残存している酸溶液を除去した後、さらに挽肉表面の酸溶液の影響を受けないように挽肉の表面をカッターにて薄くトリミングした。トリミング後の該挽肉を水で三倍量(重量)としたうえで、すり鉢で挽肉を擂り潰しペースト状としてから、当該ペーストのpHをpHメーター(東亜DKK製)で測定した。
【0031】
(肉そぼろの大きさの測定)
炒めた挽肉について、2.5メッシュ(目開き8mm、筒枠の高さ3cm)、5メッシュ(4mm、筒枠の高さ3cm)及び50メッシュ(目開き0.3mm、筒枠の高さ3cm)の篩を3段重ねたものに投入して、篩振盪機(タナカテック社製)にて振盪数250rpm、振幅25mm、ハンマー打数68tpmの条件にて1分間振盪を行ない、挽肉と浸漬水とに分離した。なお、炒めた挽肉を篩で分離する際に、50メッシュの篩を通過する挽肉粒子は、観察されなかった。次いで、各メッシュの篩に残存した挽肉を、分別して紙製タオル上に3分間放置し、挽肉に残存した水分を除去した後、それぞれのサイズのそぼろ状挽肉の重量を計量した。
その結果を表1及び図1図6に示した。
なお、2.5メッシュの篩に残存した8mm以上のサイズの挽肉を大ダマ、5メッシュの篩に残存した8mm未満、且つ、4mm以上のサイズの挽肉を中ダマ及び50メッシュの篩に残存した4mm未満のサイズの挽肉を小ダマとした。
【0032】
【表1】
【0033】
表1、図1及び図2の結果から、試験に用いた各種の挽肉は一般に単体で水中に分散した後、加熱すると、相互に結着しやすく、ダマが形成しやすいことが判る。そして、鶏挽肉では、豚挽肉や牛挽肉に比べて、非常にダマを形成しやすく、粒径8mm以上の大ダマが大量(87%)に発生することが判る。
【0034】
表1の区分1(対照例1)、区分4(実施例1)、区分5(比較例1)、区分6(比較例2)、図3及び図4の結果から、鶏挽肉はpH2.7付近の乳酸水溶液(区分5、比較例1)及びクエン酸水溶液(区分6、比較例2)に浸漬、分散した後熱湯でボイルすると、各大きさの挽肉全体に対する8mm以上の大ダマの割合(以下、「大ダマ形成率」という。)はそれぞれ約84%、約80%であって、水(区分1、対照例1)を用いた場合のそれ約87%と対比すると殆ど同じであり、大ダマ形成の防止効果は認められないことが判る。これに対し、pH2.7付近の酢酸水溶液(区分4、実施例1)を用いた場合は、8mm以上の大ダマ形成率は約44%であって、大ダマ形成の防止効果が顕著に認められることが判る。すなわち、鶏挽肉の大ダマ形成防止効果は、酢酸が顕著であることが判る。
【0035】
表1の区分4(実施例1)、区分7(実施例2)、区分8(実施例3)、図4及び図6の結果から、鶏挽肉は酸度を14.45に調整した有機酸であれば、酢酸水溶液(区分4、実施例1)ばかりでなく、乳酸水溶液(区分7、実施例2)及びクエン酸水溶液(区分8、実施例3)においても8mm以上の大ダマ形成率を顕著に低下させることが可能となることが判る。
【0036】
表1の区分9(比較例3)〜区分12(比較例6)の結果から、鶏挽肉は酸度が12未満、すなわち酸度0.1〜1.4に調整した有機酸では大ダマ形成防止効果を期待できないことが判る。
従来、pH4.0以下、特にpH2.5〜3.0の乳酸、塩酸、クエン酸溶液を用いて、これに肉類を浸漬させ、柔らかく、ジューシーな食感を保持した肉類を得る方法(特開平6−181724号公報)が知られているが、これら酸溶液は、酸度に換算すると0.1〜1.4の値となり、鶏挽肉の大ダマ形成防止効果を期待できないことが判る。
【0037】
表1の区分13〜区分18の結果から、酸度12未満の酢酸溶液(区分13及び区分14)では、大ダマ形成防止効果は少ないが、酸度12以上の酢酸溶液(区分15から区分17)においては、十分な大ダマ形成防止効果を奏することが判る。また、酸度27(区分18)においては、肉そぼろに余計な酸味が生ずるので好ましくないことが判る。すなわち、酸度12〜25の酢酸濃度が好ましいことが判る。
【0038】
表1の区分4及び区分13〜区分18の結果から、酸度12以上の酢酸溶液で浸漬した加熱後の鶏挽肉粒子のpHは4.6以下であることが判る。したがって、鶏挽肉粒子を調味液全体のpHが3.5〜4.6の範囲の調味液に配合した場合、挽肉粒子のpHが4.6を超えた場合は危害微生物対策のためにレトルト殺菌が必要となるが、本発明の鶏挽肉粒子のpHは4,6以下であるため、レトルト殺菌を必要としないことが判る。
【実施例2】
【0039】
(有機酸の種類によるダマの崩壊性への影響)
水、pH2.50の乳酸及びpH2.45の酢酸溶液を用いて、鶏挽肉を実施例1と同様に浸漬させた後、浸漬液とともに鶏挽肉をフライパンで炒め、ダマの大きさとその崩壊のしやすさを試験した。
【0040】
(ダマ崩壊装置)
有機酸の種類によるダマの崩壊性への影響は、下記のような構造を有するダマ崩壊装置を試験に用いて解析した。すなわち、上端が開口し、下端が底板を有する円筒形のステンレス製容器(内径155mm、高さ175mm、容量3リットル)と、その内周壁で相互に180度隔てた2箇所の位置の垂直方向に、向き合うように中央方向に向かって突出するように固着した長方形邪魔板(巾27mm、高さ160mm、厚さ2mm)と、該容器の軸方向中央部分に垂下し、モータで駆動する回転軸と、その下端部に十文字状に設けた4枚の撹拌翼(巾20mm、高さ14mm、厚さ1mm、撹拌翼の回転軌跡外径は65mm)とからなり、該撹拌翼下端部が底板から1cm隔てた位置となるように設置したダマ崩壊装置を用いた。
【0041】
表2記載の鶏肉は、生の鶏胸肉を、直径6.4mmの穴目のプレートを取り付けた挽肉機(ボニー社製キッチンミンサーBK-220)により挽肉処理を行い、挽肉粒子の粒径が約6.4mmの挽肉を得た。次いでそれぞれの試験区において、該挽肉300gを5℃に冷却した150gのそれぞれの浸漬水(水又は有機酸溶液)に投入、分散し、品温5℃で1時間浸漬し、上記pH測定法により測定した値がpH4.6以下であるそぼろ状挽肉を得た。
次いで、フライパンに市販のサラダ油を20g入れ、火で加熱し該サラダ油が100℃達温後、該挽肉を浸漬水と共に投入し、1分毎にシャモジを用いダマが崩壊しないように注意をしながら撹拌を行ない、全体に火が通るまで炒めた。
次いで、炒めた挽肉について、浸漬水を分離することなく、そのまま2.5メッシュ(目開き8mm、筒枠の高さ3cm)、5メッシュ(目開き4mm、筒枠の高さ3cm)及び50メッシュ(目開き0.3mm、筒枠の高さ3cm)の篩を3段重ねたものに投入して、篩振盪機(タナカテック社製)にて振盪数250rpm、振幅25mm、ハンマー打数68tpmの条件にて1分間振盪を行ない、大ダマ、中ダマ及び小ダマのそぼろ状鶏挽肉を分別、計量した。表2に大ダマのそぼろ状鶏挽肉の重量を記載した。
【0042】
一方、ダマ崩壊装置のステンレス容器に2%(w/v)のアルファ化澱粉(松谷化学工業社製マツノリンM−22)溶解液2リットルを投入し、次いで、上記で得られた大ダマ、中ダマ及び小ダマのそぼろ状鶏挽肉を全量混ぜてから該アルファ化澱粉溶解液に投入した後、ダマ崩壊装置の撹拌翼を300rpmの回転速度で2分撹拌した。その後、上記と同様にダマを篩分けして、8mm以上、4mm以上−8mm未満、4mm未満のそぼろ状鶏挽肉を得た。8mm以上のサイズの大ダマの重量を表2に記載した。そして、撹拌前後の8mm以上の大ダマ重量と、大ダマの減少率(%)を調べた。その結果を表2、図7及び図8に示した。
【0043】
大ダマの減少率(%)は、下記のようにして計算した。
酸溶液に浸漬した挽肉を炒めた後、上記と同様にダマを大ダマ、中ダマ及び小ダマに篩分けし、8mm以上の大ダマの重量を撹拌前の大ダマの肉そぼろ量(g)とした。ついで、篩分けされた大ダマ、中ダマ及び小ダマのそぼろ状挽肉を再度混ぜて全量をダマ崩壊装置に投入し、ダマ崩壊装置を運転して、ダマを崩壊させた後、上記と同様にダマを大ダマ、中ダマ及び小ダマに篩分けし、8mm以上の大ダマの重量を撹拌後の大ダマの肉そぼろ量(g)とした。大ダマの減少率(%)は、ダマ崩壊装置による撹拌前後の8mm以上の大ダマの肉そぼろの重量(g)の差(8mm以上の大ダマの減少量(g))を、ダマ崩壊装置による撹拌前の8mm以上の大ダマの肉そぼろの重量(g)で除した後、百分率で表した。
【0044】
【表2】
【0045】
表2の区分1〜区分3、図7及び図8の結果から、生の鶏挽肉を酸度20の酸溶液に浸漬し加熱して得られるそぼろ状鶏挽肉は、8mm以上の大ダマの重量が少なく、しかもこの大ダマはその後の撹拌により容易に崩壊して、細粒となることが判る。
【実施例3】
【0046】
(そぼろ状鶏挽肉含有調味液の製造)
本発明のそぼろ状鶏挽肉を用いて、そぼろ状鶏挽肉含有麻婆豆腐のたれを調製した。
【0047】
(本発明のそぼろ状鶏挽肉の調製)
鶏胸肉を直径6.4mmの穴目のプレートを取り付けた挽肉機(ボニー社製キッチンミンサーBK-220)により挽肉処理を行い、挽肉粒子の粒径が約6.4mmの挽肉を得た。該挽肉300gを150gの酸度20の酢酸溶液に投入、分散し、品温5℃で1時間浸漬した。挽肉を浸漬してから1時間経過後、フライパンに市販のサラダ油を20g投入し、火で加熱した。フライパン内の油が100℃に達温後、酸度20の酢酸溶液に1時間浸漬した挽肉を酢酸溶液ごと投入し、1分毎にシャモジを用いそぼろ状になるように注意をしながら撹拌を行ない、全体に火が通るまで炒めた。ついで、炒めた挽肉を金網製のザルに酸溶液ごと投入し、酸溶液を水切りして本発明のそぼろ状鶏挽肉(pH4.36)を得た。
【0048】
次いで、表3に示す材料を、同表記載の配合で混和し、麻婆豆腐の調味液を調製した。次いで、この調味液100g当り、本実施例で調製したpH4.36のそぼろ状鶏挽肉20gを混和し、さらに80℃に加熱混合した後、40℃まで冷却して、そぼろ状鶏挽肉含有麻婆豆腐のたれを調製した。
【0049】
【表3】
【実施例4】
【0050】
(容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液の製造)
実施例3で得られた、そぼろ状鶏挽肉含有麻婆豆腐のたれ70gを、ナイロン/アルミニウム/ポリプロピレンの三層からなるアルミパウチ袋(縦140mm、横100mm)に充填、密封し、品温(液温)100℃で5分間加熱殺菌し、本発明の容器入りそぼろ状鶏挽肉含有調味液を製造した。このたれは、120℃を超える過酷な条件でレトルト加熱殺菌(F値=4以上)をしないため、室温で3ヶ月経過後も風味が劣化せず、また色調も殆ど増色(濃色化)することもなく、またレトルト殺菌をしないにもかかわらず、微生物学的に安定なものであった。
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8