特許第6023083号(P6023083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023083
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】EUVリソグラフィ用のミラーの基板
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
   G03F7/20 503
   G03F7/20 521
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-549778(P2013-549778)
(86)(22)【出願日】2012年1月14日
(65)【公表番号】特表2014-506724(P2014-506724A)
(43)【公表日】2014年3月17日
(86)【国際出願番号】EP2012050533
(87)【国際公開番号】WO2012098062
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2015年1月8日
(31)【優先権主張番号】102011002953.2
(32)【優先日】2011年1月21日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】61/434,869
(32)【優先日】2011年1月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア エクスタイン
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー マルトア
【審査官】 植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−518883(JP,A)
【文献】 特開平06−279897(JP,A)
【文献】 特開平05−346497(JP,A)
【文献】 特開平10−090505(JP,A)
【文献】 特開昭61−266535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 1/00〜1/86
G02B 5/08
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース体を備えたEUVリソグラフィ用のミラーの基板であって、
前記ベース体は、アルミニウム−銅二元系の合金からなり、
前記合金が、対応の合金系の状態図において相安定線で囲まれた領域にある組成を有することを特徴とする基板。
【請求項2】
請求項に記載の基板において、前記合金は、置換格子を有する合金であることを特徴とする基板。
【請求項3】
請求項に記載の基板において、前記合金を析出硬化させたことを特徴とする基板。
【請求項4】
ベース体を備えたEUVリソグラフィ用のミラーの基板であって、前記ベース体(2)は粒子複合材からなり、
前記粒子複合材は、セラミックマトリックスを有し、
前記セラミックマトリックスは、ケイ素マトリックス又は炭素マトリックスであることを特徴とする基板。
【請求項5】
請求項に記載の基板において、前記粒子複合材は、1nm〜20nm程度の分散質を有することを特徴とする基板。
【請求項6】
請求項4または5に記載の基板において、前記セラミックマトリックスは、炭化ケイ素分散質を含むケイ素マトリックス又は炭素マトリックスであることを特徴とする基板。
【請求項7】
ベース体を備えたEUVリソグラフィ用のミラーの基板であって、前記ベース体(2)は、合金系の金属間化合物相からなり、
前記合金系は、アルミニウム−銅二元系であることを特徴とする基板。
【請求項8】
請求項に記載の基板において、前記ベース体(2)は、化学量論的標準組成が観察される金属間化合物相からなることを特徴とする基板。
【請求項9】
請求項7または8に記載の基板において、前記ベース体(2)は、前記合金系の状態図における相安定線に対応する組成を有する金属間化合物相からなることを特徴とする基板。
【請求項10】
請求項7または8に記載の基板において、前記合金は、対応の合金系の状態図において相安定線で囲まれた領域にある組成を有することを特徴とする基板。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載の基板において、前記金属間化合物相は、結晶形態でその成分と同じブラヴェ格子を有することを特徴とする基板。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の基板において、前記ベース体(2)の材料は、面心立方構造を有することを特徴とする基板。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の基板において、前記ベース体(2)の材料は、1年間という期間にわたって20℃〜150℃の温度変化の場合に微細構造の変化を生じないことを特徴とする基板。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の基板において、研磨層(3)を前記ベース体(2)上に配置したことを特徴とする基板。
【請求項15】
請求項14に記載の基板において、接着促進層(4)を前記ベース体(2)と前記研磨層(3)との間に配置したことを特徴とする基板。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の基板(1)と、該基板(1)上の高反射層(6)とを備えたEUV投影露光装置用のミラー。
【請求項17】
請求項14または15に記載の基板(1)と、前記研磨層(3)上の高反射層(6)とを備えたEUV投影露光装置用のミラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース体を備えたEUVリソグラフィ用のミラーの基板に関し、当該基板を備えたEUV投影露光装置用のミラーにも関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体コンポーネントの製造時にリソグラフィ法を用いて、より微細な構造を作製することを可能にするためには、さらにより短い波長を有する光を利用する。極紫外(EUV)波長範囲の、例えば約5nm〜20nmの波長の光を用いる場合、レンズ状素子を透過で用いることはできなくなり、各作動波長に適合させた高反射性コーティングを有するミラー素子から照明及び投影対物レンズが構成される。可視波長範囲及び紫外波長範囲でのミラーとは対照的に、理論上は、ミラー毎に80%未満の最大反射率しか達成できないことにもなる。EUV投影デバイスは、概して複数のミラーを有するので、十分に高い全体的反射率を確保するためには、ミラーのそれぞれが最大限の反射率を有する必要がある。
【0003】
迷放射線の結果としての強度の損失を最低限に抑えると共に結像収差を回避するために、高反射層をミラー基板に施すことによって製造したミラー基板又はミラーは、できる限り低いマイクロラフネスを有するべきである。二乗平均(RMS)粗さは、中央領域に対する表面上の測定点の偏差の二乗の平均値から計算され、中央領域は、中央領域に対する偏差の和が最小になるよう表面に位置する。特にEUVリソグラフィ用の光学素子では、0.1μm〜200μmの空間周波数範囲の粗さが、光学素子の光学特性に対する悪影響を回避するために特に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、EUV波長範囲の波長で用いるミラーの基板として適したミラー基板を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本目的は、ベース体が析出硬化型合金、好ましくは析出硬化型の銅又はアルミニウムの合金からなることを特徴とする、ベース体を備えたEUVリソグラフィ用のミラーの基板によって達成される。
【0006】
析出硬化中、合金の硬化強度を高めるために合金に熱処理を施す。熱処理中、準安定相を微細に分布した形態で析出させて、準安定相が転位運動(dislocation movements)の効果的な障害を形成するようにする。結果として、ベース体の構造の長期安定性又は一定の限度内での温度安定性をさらに高めることができる。析出硬化は、通常は3ステップで実行する。溶体化焼鈍とも称する第1ステップにおいて、析出に必要な元素の全てが溶液中に存在するようになるまで合金を加熱する。混合相のできる限り純粋な分布を得るためには、温度を非常に高く、但し微細構造の個々の成分が融解するほど高くないよう選択すべきである。溶体化焼鈍後、焼入れによって粗粒子の溶融、したがって沈降を防止することができる。固溶体は準安定の過飽和単相状態に留まる。溶体化焼鈍と比べて低い温度へのその後の加熱により、過飽和単相固溶体を二相合金に転換する。主に凝集しており概して高比率で生じる相をマトリックス(matrix)と呼び、他方の相を析出相(precipitation)と呼ぶ。前の焼入れ中に多くの核が形成されたので、微細構造中に均一に分布して構造強度を高める多くの小さな析出相が形成される。析出硬化型合金からなるベース体に基づく基板及びミラーを、溶体化焼鈍温度よりもかなり低い、好ましくは析出温度よりも低い温度で用いることが有利である。
【0007】
さらに別の態様では、本目的は、ベース体を備えたEUVリソグラフィ用のミラーの基板であって、ベース体が状態図において相安定線で囲まれた領域内にある組成を有する合金からなる基板によって達成される。かかる組成を有する合金には、いかなる偏析プロセスも熱処理によって完全に停止させることができ、したがって上記合金が高い高温強度を有するという利点がある。この基板が高い長期安定性を有する結果として、この基板に基づくミラーを備えたEUV投影露光装置の耐用寿命を通して粗さ値の変化が最小限であることを確実にすることが可能である。特に、ミラーをビーム経路内のはるか後方に、例えば投影系に配置した場合、そこではミラーが受ける熱負荷が小さく、粗さ値が長期にわたって一定のままであることを確実にすることが可能である。
【0008】
合金は、置換格子(substitution lattice)を有する合金であることが好ましい。置換格子の場合、比較的低い濃度を有する合金成分が、最高濃度を有する成分の格子構造に組み込まれることで、格子強度がさらに高まる。これにより、温度上昇の場合の、特に長期にわたる構造安定性が高まる。
【0009】
合金を析出硬化させることが特に好ましい。析出硬化中、合金の硬化強度を高めるために合金に熱処理を施す。熱処理中、準安定相を微細に分布した形態で析出させて、準安定相が転位運動の効果的な障害を形成するようにする。結果として、ベース体の構造の長期安定性又は一定の限度内での温度安定性をさらに高めることができる。析出硬化は、通常は3ステップで実行する。溶体化焼鈍とも称する第1ステップにおいて、析出に必要な元素の全てが溶液中に存在するようになるまで合金を加熱する。混合相のできる限り純粋な分布を得るためには、温度を非常に高く、但し微細構造の個々の成分が融解するほど高くないよう選択すべきである。溶体化焼鈍後、焼入れによって粗粒子の溶融、したがって沈降を防止することができる。固溶体は準安定の過飽和単相状態に留まる。溶体化焼鈍と比べて低い温度へのその後の加熱により、過飽和単相固溶体を二相合金に転換する。主に凝集しており概して高比率で生じる相をマトリックスと呼び、他方の相を析出相と呼ぶ。前の焼入れ中に多くの核が形成されたので、微細構造中に均一に分布して構造強度を高める多くの小さな析出相が形成される。析出硬化型合金からなるベース体に基づく基板及びミラーを、溶体化焼鈍温度よりもかなり低い、好ましくは析出温度よりも低い温度で用いることが有利である。
【0010】
特に好ましい実施形態では、合金は銅合金又はアルミニウム合金、特になお好ましくは析出硬化型銅合金である。銅合金は特に、冷却し易く、したがって構造変化の防止を可能にするために、特に析出硬化型合金の場合にはEUVリソグラフィ中の動作温度が十分に低いことを確実にすることが可能である。さらに、銅合金の場合及びアルミニウム合金の場合の両方で、室温よりもかなり高い温度でも高い強度を得ることが可能である。
【0011】
さらに別の態様では、本目的は、ベース体を備えたEUVリソグラフィ用のミラーの基板であって、ベース体が粒子複合材からなる基板によって達成される。粒子複合材も同様に、高い強度又は構造安定性を有する。結果として、粒子複合材も同様に、EUVリソグラフィ用の、特に長期用途向けのミラー基板での使用に適している。粒子複合材は、マトリックスに不溶性である分散質を有する。分散質は、セラミック材料、特に酸化物、炭化物、窒化物、及び/又はホウ化物からなることが好ましい。析出硬化における析出相と同様に、分散質は、特に微細に分散した形態で存在する場合にマトリックス中での転位運動の障害を形成する。
【0012】
粒子複合材は、球状の分散質を有することが好ましい。それにより、粒子複合材における応力又は歪みエネルギーを低減することが可能であり、これは高い高温強度につながり得る。球状の幾何学的形状を有する分散質は、特定の軟化焼鈍プロセスによって得ることができる。例として、粒子複合材のマトリックスの母相が安定する一方で溶液中の他の相はただ溶解する温度で材料を1時間〜2時間保持する、軟化焼鈍プロセスを実行することが可能である。続いて、材料の温度をこの温度範囲付近で繰り返し変動させ、その後、材料を1時間に約10℃〜20℃でゆっくりと冷却する。かかる温度処理は、特に析出硬化型合金の場合に、いかなる析出相も球状化するよう上述の合金で実行することができる。
【0013】
粒子複合材が1nm〜20nm程度の分散質を有することが特に有利であると分かった。それにより、特に良好な強度を得ると同時にマイクロラフネス値への悪影響を最小化することが可能である。
【0014】
好ましい実施形態では、粒子複合材は金属マトリックスを有し、これは、銅マトリックス又はアルミニウムマトリックスであることが特に好ましい。この場合に適した分散質の例は、炭化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化ケイ素、又は黒鉛若しくはダイヤモンド変態中の炭素(carbon in a graphite or diamond modification)である。
【0015】
さらに他の好ましい実施形態では、粒子複合材はセラミックマトリックス、特にケイ素又は炭素マトリックスを有する。この場合、特に炭化ケイ素粒子が分散質として適していることが分かった。
【0016】
さらに別の態様では、本目的は、ベース体を備えたEUVリソグラフィ用のミラーの基板であって、ベース体が合金系の金属間化合物相(intermetallic phase)からなる基板によって達成される。
【0017】
金属間化合物相は、高強度及び高融解温度を有する材料である。例として、金属間化合物相は、航空機エンジン又は排気ターボ過給機で用いられる。構造上の点では、これらの特殊合金の基本セルは、高い価電子密度を有する。結果として、それらは金属にしては高い共有結合率を有することにより、特に高い格子強度を有する。高い比強度及び高い融解温度に加えて、金属間化合物相は、全体として高い熱安定性と共に低い拡散率及び高いクリープ強度を有することが分かった。これらの特性から、EUV投影露光装置において、特にEUV投影露光装置の照明系において、例えばビーム経路内のはるか前方に配置したミラーの場合に生じ得るような高い熱負荷下においても、基板が比較的長期間にわたってさえ最小限の変化しか受けず、結果としてマイクロラフネス等の特性もできる限り一定のままであることが確実になり得る。
【0018】
ベース体は、化学量論的標準組成が観察される金属間化合物相からなることが有利である。換言すれば、整数指数を有する組成を有する金属間化合物相が好ましい。特に好ましいのは、最小限の基本セルを有する金属間化合物相である。それにより、温度上昇に伴って混合相が生じる可能性をさらに低減することが可能である。例えば粒界における適切な析出相の発生の結果として、異なる構造を有する合金の混合相がマイクロラフネスの増加をもたらし、これがかかる基板を備えたミラーの光学的品質を損なわせ得る。
【0019】
特に好ましい実施形態では、ベース体は、対応の合金系の状態図における相安定線に対応する組成を有する金属間化合物相からなる。これに関して、「相安定線」は、状態図において温度軸と平行に延びる相境界線を意味すると理解されたい。かかる組成には、温度上昇に伴う偏析が生じないという大きな利点がある。特に好ましいのは、融点まで相転移のない相安定線上の金属間化合物相である。特にEUV投影露光装置での使用中に生じ得る温度範囲内にある相転移が少なく、また相境界線が温度軸に対して平行であるほど、基板のベース体の構造変化の結果としての熱負荷の影響下でマイクロラフネスが悪影響を受ける可能性が低い。
【0020】
ベース体は、状態図において相安定線で囲まれた領域にある組成を有する合金からなることが特に好ましい。かかる組成を有する合金には、いかなる偏析プロセスも熱処理によって完全に停止させることができ、したがって上記合金が高い高温強度を有するという利点がある。
【0021】
金属間化合物相は、結晶形態でその成分と同じブラヴェ格子を有することが有利である。結果として、温度上昇に伴い且つ/又は長期にわたる構造変化をさらに減らすことができる特に安定した結晶構造を得ることで、かかる基板に基づくEUVリソグラフィ用のミラーの粗さ値が耐用寿命を通してできる限り損なわれないようにすることが可能である。
【0022】
特に好ましい実施形態では、合金系は、好ましくは2つの成分の一方として銅を含む二元合金系、特に好ましくはアルミニウム−銅二元系である。銅は特に、高い熱伝導率を有する。したがって、銅分の多いベース体を備えた基板は、特に冷却し易いことにより、耐用寿命を通した構造変化をさらに防止することができる。アルミニウムに基づいて、寸法安定性に優れた高強度材を得ることが可能である。他の合金系の金属間化合物相も、EUVリソグラフィ用のミラー基板に適し得ることを指摘すべきである。特に、三元若しくは四元合金系、又は5つ以上の成分を含む合金系も関与し得る。これに関して、合金が常に微量の不純物も含むことを指摘すべきである。各成分が各合金系の状態図に顕著な影響を及ぼす場合にのみ、ここでは合金系の成分について言及する。
【0023】
概して、ここに記載したベース体材料の場合、ベース体の材料が面心立方格子構造を有することが有利であると分かった。それにより、例えば体心立方構造と比べて構造強度をさらに高めることが可能であり、したがって面心立方材料は、長期にわたる、また適切な場合は高温での使用に特に適している。
【0024】
ベース体の材料は、1年間という期間にわたって20℃〜150℃の温度変化の場合に微細構造の変化を生じないことが特に好ましい。この温度範囲は、この基板に基づくミラーをEUV投影露光装置で用いる場合に達成される温度を含む。ベース体材料は、150℃よりも高い温度でしか構造変化を生じないので、ベース体の構造がミラー基板又はそれに基づくミラーの粗さ値に及ぼす影響を事実上ゼロに低減することが可能である。構造変化は、非常に多様な効果、例えば、転位の位置変化、原子の振動、いわゆるオレンジピール効果等の粗面化の例、又は偏析プロセスを含み得る。
【0025】
好ましい実施形態では、研磨層をベース体上に配置する。接着促進層をベース体と研磨層との間に配置することが有利である。
【0026】
好ましい研磨層は、特に、無電解めっきで堆積させた層、例えばニッケル−リン層又はニッケル−ホウ素層である。この場合、研磨層は、結晶相又はX線的非晶質相中に存在し得る。ニッケル−リン層の場合、リンを11重量%よりも多く含有する層が好ましい。これらの層は、1つ又は2つのさらに他の金属も含むニッケル−リン合金層であってもよい。これらの層は、適切な場合は同様に1つ又は2つのさらに他の金属を含有するニッケル−リン分散層又はニッケル−ホウ素分散層であってもよい。これは、ニッケル−ホウ素層にも当てはまる。さらに、銅層、石英ガラス層、非晶質若しくは結晶シリコン層、非晶質炭化ケイ素層、又は酸化インジウム−スズ(ITO)層が有利であると分かった。これらの層の全てが、特に10nm〜1μmの空間周波数範囲で5オングストローム又はそれよりもかなり低いRMS値の粗さに研磨することができるという共通の特徴を有する。ここに記載したベース体材料を用いて、熱負荷下及び長期動作下でも10nm〜250μmの空間周波数範囲のマイクロラフネスの安定性を観察することが可能であるが、これは、これらの条件下で形態学的な表面分解を有さないベース体材料が提案されるからである。特に、RMS値でオングストロームスケールのマイクロラフネスが得られる。10nm〜1μmの空間周波数範囲では、粗さ変化は2.5オングストローム未満の領域にあり得る。1μm〜250μmの空間周波数範囲では、3オングストローム未満の粗さ値の変動を達成することが可能である。
【0027】
ベース体材料及び研磨層材料の組み合わせに応じて、ベース体と研磨層との間で良好な結合を達成するためにベース体と研磨層との間に接着促進層を設けることが有利であり得る。
【0028】
さらに別の態様では、本目的は、上述の基板と基板上の、特に研磨層上の高反射層とを備えたEUV投影露光装置用のミラーによって達成される。
【0029】
EUV投影露光装置用のミラーは、長い動作期間に関して高温でも高い構造強度を、したがって使用期間を通してほぼ一定の粗さ値を特徴とする。この場合、数年の耐用寿命を得ることが可能である。特に金属間化合物相、析出硬化型銅合金、又は粒子複合材からなるベース体に基づく、ここで述べた基板は、例えばファセットミラーの形態のEUV投影露光装置の照明系での使用に特に適しているがそれに限らない。
【0030】
上述の特徴及びさらに他の特徴は、特許請求の範囲からだけでなく説明及び図面からも明らかとなり、個々の特徴のそれぞれは、単独で又は複数として本発明の実施形態において副次的な組み合わせで、また他の分野で実現することができ、有利で本質的に保護可能な実施形態を構成することができる。
【0031】
本発明を、好ましい例示的な実施形態を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1a】基板の一変形形態を断面で概略的に示す。
図1b】基板の一変形形態を断面で概略的に示す。
図2a】ミラーの一変形形態を断面で概略的に示す。
図2b】ミラーの一変形形態を断面で概略的に示す。
図3】アルミニウム−銅二元系の状態図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1aは、ベース体2及びそれに施した研磨層3を備えた基板1の実施形態の第1変形形態を概略的に示す。ベース体2及び研磨層3は、異なる機能を果たす。良好な寸法安定性がベース体2に最優先される一方で、良好な機械加工特性及び研磨特性が研磨層3にとって最重要である。
【0034】
研磨層は、従来の真空コーティングプロセス、例えばスパッタリングプロセス、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシ、又はイオンビーム支援コーティングによって塗布することができる。研磨層が金属材料、例えば銅、ニッケル−リン又はニッケル−ホウ素である場合、無電解めっきでの塗布が好ましい。ニッケル−リン又はニッケル−ホウ素研磨層は、特に、分散層として塗布することもでき、その場合、例えばポリテトラフルオロエチレンが分散剤としての役割を果たし得る。
【0035】
ニッケル−リン又はニッケル−ホウ素研磨層は、特に、比較的高濃度のリン又はホウ素を塗布して、主に又は完全に非晶質形態で存在することによってより良好な研磨特性を有するようにすることが好ましい。続いてこれらを、例えば熱処理、プラズマ処理、又はイオン衝撃によって硬化させることができる。研磨層材料としてのケイ素を、コーティングプロセスによる制御下で非晶質形態又は結晶形態で堆積させることもできる。非晶質シリコンは、結晶シリコンよりも効果的に研磨することができ、必要であれば、熱処理、プラズマ処理、又はイオン衝撃によって同様に硬化させることができる。ケイ素又は二酸化ケイ素からなる研磨層も、イオンビームによって平滑化することができる。研磨層は、炭化ケイ素又は酸化インジウム−スズからなることもできる。
【0036】
研磨層3の好ましい厚さは、金属ベースの研磨された研磨層で約5μm〜10μmであり得る。非金属研磨層3の場合、好ましい層厚は約1.5μm〜3μmである。従来の研磨プロセスを用いると、金属研磨層は、1μm〜200μmの空間周波数範囲で0.3nm未満の二乗平均粗さに、また0.01μm〜1μmの空間周波数範囲で0.25nmの二乗平均粗さに研磨することができる。従来の研磨プロセスを用いると、非金属研磨層は、0.01μm〜200μmの全空間周波数範囲にわたって0.3nm未満の二乗平均粗さに研磨することができる。
【0037】
図1bは、接着促進層4をベース体2と研磨層3との間に配置した、図1aに示す基板1の変形形態を概略的に示す。接着促進層4は、最大1μm、好ましくは100nm〜500nmの厚さを有し得ることが好ましい。例として、これは、CVD(化学蒸着)プロセス又はPVD(物理蒸着)プロセスを用いて塗布することができる。
【0038】
かかる基板1をさらに加工して、高反射層6を研磨層3に塗布することにより、実施形態の第1変形形態で図2に概略的に示すようなEUVミラー5を形成することができる。約5nm〜20nmの波長範囲のEUV放射線の垂直入射の場合の使用のためには、高反射層6は、ブラッグ回折が起こる網面を有する結晶をある程度模倣するようにする複素屈折率の実部の異なる材料層を交互にした多層系であることが特に好ましい。ケイ素層及びモリブデン層を交互にした多層系を、例えば、13nm〜14nmでの使用に適用することができる。特に、高反射層6を多層系として構成する場合、これを、例えばスパッタリングプロセス、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシ、又はイオンビーム支援コーティング等の従来の真空コーティングプロセスを用いて塗布することが好ましい。約5nm〜20nmの波長範囲のEUV放射線の斜入射の場合の使用のためには、金属、例えばルテニウムの最上層を有するミラーが好ましい。
【0039】
図2bは、接着促進層4をミラー5の基板1のベース体2と研磨層3との間に配置した、図2aに示すミラー5のさらに別の変形形態を概略的に示す。
【0040】
第1実施例では、ミラー5又は基板1のベース体2が粒子複合材からなり得る。特に、ベース体2は、金属マトリックスを有する粒子複合材から成り得る。例として、粒子複合材は、2000系〜7000系のアルミニウム合金、好ましくは5000系〜7000系のアルミニウム合金、銅、低合金の銅合金、又は銅ニオブであり得る。1nm〜20nm程度の好ましくは球状の分散質は、炭化チタン、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化ケイ素、黒炭、又はダイヤモンド状炭素であることが有利であり、異なる材料の分散質をマトリックス中に与えることも可能である。これらの材料は、例えば粉末冶金によって製造することができる。ベース体2は、セラミックマトリックスを有する粒子複合材からなることもできる。例として、ケイ素マトリックス又は炭素マトリックス及び炭化ケイ素分散質を有する粒子複合材が特に適している。これらは、共有結合の結果として、特に高い格子剛性を有する。分散質をマトリックス中にできる限り均一に分配し、上記分散質ができる限り小さく、複合材が最小限の分散質間隔を有することが特に好ましい。
【0041】
第2実施例では、ベース体2は、原子半径が同様であり且つ置換格子を有する構造を有する成分を含む合金からなり得る。例として、これは、合金系銅−ニッケル又はケイ素−アルミニウムであり得る。
【0042】
第3実施例では、ベース体2は、析出硬化型合金からなり得る。例として、これは、AlCuMg、CuCr、CuNiSi、CuCrZr、CuZr、CuCoBe、CuNiSi等の析出硬化型の銅又はアルミニウム合金からなり得る。特定の実施形態では、析出硬化後に合金にさらなる熱処理を施し、これには、高温強度をさらに高めるよう材料の応力又は歪みエネルギーを低減するために析出相が球状形態をとるという効果がある。このために、粒子複合材のマトリックスの母相が安定する一方で溶液中の他の相はただ溶解する温度で材料を1時間〜2時間保持する。続いて、材料の温度をこの温度範囲付近で繰り返し変動させ、その後、材料を1時間に約10℃〜20℃でゆっくりと冷却する。
【0043】
第4実施例では、ベース体2は、金属間化合物相からなり得る。図3は、ベース体2の材料として特に適している金属間化合物相を有するアルミニウム−銅二元系の状態図を示す。300℃では、AlCuの16個の金属間化合物相が安定しており、ここでx、yは整数である。これらのうち、10個の金属間化合物相は室温への冷却時に安定したままである(図示せず)。最も重要な相を、図3にその化学量論的組成で示す。それらの全てが、特定の温度範囲にわたって温度軸と平行に延びる相境界線にある。結果として、それらの微細構造は、それらの各温度範囲内では完全に不変のままである。AlCu、AlCu、又はAlCuが特に、EUVリソグラフィ用のミラー基板のベース体の材料として特に好ましい。変更形態では、一方の成分が銅である他の二元合金系、例えば、銅及び亜鉛、スズ、ランタン、セリウム、ケイ素、又はチタンの二元系を用いることも可能である。
【0044】
第5実施例では、ベース体2は、2つの相安定線間にある組成を有する合金からなることができる。これらの領域を図3にグレーの陰影で示す。析出プロセスを熱処理によって停止させたので、これらの合金は、熱的に安定な相にある。この点で、特に広範囲からの、例えばAlCu〜AlCuの組成が好ましい。
【0045】
ここで述べた実施例の基板は、最高150℃の温度でも300MPa以上の特に高い強度を有し、良好な長期安定性も有する。そのベース体に銅を含む基板は、高い熱伝導率をさらに有し、したがって冷却し易い。その特殊なベース体を理由として、基板は、EUV投影露光装置のミラーの長期動作で生じる温度範囲において微細構造の変化を生じない。結果として、かかる基板を有するEUVミラーには、その粗さ値がその耐用寿命にわたって実質的に一定、特に0.1μm〜200μmの空間周波数範囲のままであるという利点がある。ここに記載したEUVミラーは、マスク又はレチクルをEUV放射線で照明する照明系での使用と、マスク又はレチクルの構造をEUV投影露光装置の露光対象物、例えば半導体ウェハに投影する投影系での使用との両方に適している。高い高温強度により、それらは、例えば照明系において、熱負荷がより高いビーム経路内のはるか前方に配置したミラーに特に適している。これらは、瞳ファセットミラーの、特に視野ファセットミラーのファセットとしての使用に特に適している。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3