【文献】
Journal of Chromatography,1992年,Vol. 577,pp.267-273
【文献】
Thromb Haemost,1999年,Vol. 81,pp.782-792
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
タンパク質等の生体分子の精製方法として一般的にクロマトグラフィーが知られており、その具体例としては陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーがある。これらを組み合わせることで対象タンパク質を高度に精製することができるため、血液や血漿又は細胞等の培養液に含まれている、例えばバイオ医薬品となるエリスロポエチンや免疫グロブリン等の精製において、クロマトグラフィーは重要な技術となっている。特にアフィニティークロマトグラフィーは、他に比べて対象物質に対する選択性が非常に高いため、1回の操作で高度に精製することができ、短い操作時間で高い生産性を得られるものとして重要である。
【0003】
アフィニティークロマトグラフィーは対象物質と相互作用を有するリガンドを利用して行われ、そのリガンドとしてタンパク質を用いる精製が行われることがある。例えば、プロテインA固定化充填剤により免疫グロブリンを精製して抗体医薬を製造したり、ゼラチン固定化充填剤によりフィブロネクチン等の血液成分等を精製したりすることが知られている。
【0004】
タンパク質をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィーは、高い選択性による効率の良い精製を可能とするが、アルカリ洗浄によるリガンドの変性や分解、タンパク質分解酵素によるリガンドの分解、又はリガンド自体の脆弱性に起因して、リガンドが劣化するという問題がある。
また、タンパク質をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィーでは、そのリガンド材料に動物由来材料が混入する場合があり、その安全性の問題もある。すなわち、近年狂牛病等の人畜共通感染症への懸念から、例えばウシ由来のゼラチンをリガンドとして用いることは避けたいという需要があり、動物由来材料に替わるリガンド材料が求められている。
さらに、タンパク質をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィーでは、リガンドと対象物質との高い親和性ゆえに、対象物質の回収条件が必ずしも温和なものとならない場合がある。例えば、前述のプロテインA固定化ゲルから免疫グロブリンを溶出させる場合に酸性条件(例えばpH3)を要したり、ゼラチン固定化ゲルからフィブロネクチンを溶出させる場合に8M 尿素、1M NaBr又はアルギニン等を使用したりすることがある(非特許文献1)。このような厳しい溶出条件のもとでは、対象物質のタンパク質が変性するおそれや、溶出に使用する尿素やアルギニン等の試薬が高濃度でコストがかかる点や、溶出工程後に中和等の処理を要しそのコストや煩雑さが問題となる。
このように、タンパク質の精製においては、対象物質との高い親和性と劣化しにくさを有しつつ、温和な条件で、簡便な手順で、かつ安価で安全に、タンパク質を精製できるアフィニティーリガンドが求められている。
【0005】
ところで、生体分子としてよく知られるコラーゲンは、Gly−X−Y(X、Yは様々なアミノ酸で、XはPro、YはHypである場合が多い)の繰り返しから成るポリペプチドが同じ向きに3本寄り集って形成された3重らせん構造を有するタンパク質の総称である。
天然コラーゲンは種々の生体分子と結合したり、血小板凝集能を有したりすることが知られている。これまでに天然コラーゲン中の特定のアミノ酸配列に対して特定のタンパク
質等の分子が結合したりすることが分かっている(非特許文献3)。このような知見を利用して特定の対象分子に結合するコラーゲン様ペプチドを創出する研究も行われており、例えばフォン・ウィルブランド因子等のコラーゲン結合分子と結合する特定のアミノ酸配列を有するコラーゲン様ペプチドが開示されている(非特許文献2)。
また、コラーゲン様ペプチドとして創出されたものとしてPro−X−Gly(XはPro又はHyp)の配列の繰り返し構造を有するポリペプチドがある。このポリペプチドは血小板凝集能を有することが分かっており(非特許文献4)、これを含む血小板凝集惹起物質が開示されている(特許文献1)。しかしながら、上記配列の繰り返し構造を有するポリペプチドフラグメントが、フィブロネクチンやフォン・ウィルブランド因子等と高い親和性で結合することは知られていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては各種アミノ酸残基を次の略語で記述する。
Ala:L−アラニン残基
Arg:L−アルギニン残基
Asn:L−アスパラギン残基
Asp:L−アスパラギン酸残基
Cys:L−システイン残基
Gln:L−グルタミン残基
Glu:L−グルタミン酸残基
Gly:グリシン残基
His:L−ヒスチジン残基
Hyp:L−ヒドロキシプロリン残基
Ile:L−イソロイシン残基
Leu:L−ロイシン残基
Lys:L−リジン残基
Met:L−メチオニン残基
Phe:L−フェニルアラニン残基
Pro:L−プロリン残基
Sar:サルコシン残基
Ser:L−セリン残基
Thr:L−トレオニン残基
Trp:L−トリプトファン残基
Tyr:L−チロシン残基
Val:L−バリン残基
なお、本明細書におけるペプチド鎖のアミノ酸配列は、定法に従い、N末端のアミノ酸残基を左側に、C末端のアミノ酸残基を右側に位置させて記載する。
【0012】
<1>本発明の吸着剤
本発明の吸着剤に含有されるポリペプチドは、次式(1)で示されるペプチドフラグメ
ント(以降、ポリPHGと記す)を有する。
―(Pro−Hyp−Gly)
n― (1)
ここでHypは、例えば4Hypであり、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリンが好ましい。
【0013】
また、式(1)中、繰り返し数nは2〜9000の整数である。nがこの範囲であることにより、血液凝固因子等や細胞接着因子等と高い親和性で吸着することができる。nは、3重らせん構造形成によるリガンド安定性の観点から5〜1000が好ましく、10〜500がより好ましい。
【0014】
本発明の吸着剤に含有されるポリペプチドは、繰り返し数nが5以上で3重らせん構造をとり得る。血液凝固因子や細胞接着因子等との吸着作用が生じるために、ポリペプチドが3重らせん構造であることは必ずしも必要ではなく、ランダムコイル構造を有していてもよいが、ポリペプチドが3重らせん構造をとると前述のようにリガンドとしての安定性が向上する。3重らせん構造を形成しているポリペプチド鎖は、直線状または1以上の分岐を有していてもよい。分岐を有する場合、分岐点以降に3重らせん構造が形成されていてもよく、さらにその3重らせん構造の後ろに分岐を有していてもよい。
なお、ポリペプチドが3重らせん構造をとっているか否かは、ポリペプチド溶液について円二色性スペクトルを測定することにより確認することができる。具体的には、波長220〜230nmに正のコットン効果、および波長195〜205nmに負のコットン効果を示す場合、そのポリペプチドは3重らせん構造をとっていると考えられる。
また、本発明の吸着剤に含有されるポリペプチド鎖どうしは、互いに架橋されていてもよい。
【0015】
本発明の吸着剤に含有されるポリペプチドの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、血液凝固因子や細胞接着因子との高親和性及び3重らせん構造の安定性の観点から570〜700万が好ましく、2850〜30万がより好ましい。
ここで、ポリペプチドの重量平均分子量は、例えば特開2003-321500号公報に記載されている、カラム:Superdex 200 HR 10/30(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)、流速:0.5mL/min、溶離液:150mMのNaClを含む10mMリン酸塩緩衝液(pH7.4))分子量標準としてGelFiltration LMW Calibration Kit及びGel Filtration HMW Calibration Kit(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる方法、あるいは、カラム:Superdex peptide PE 7.5/300(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)、流速:0.25mL/min、溶離液:150mMのNaClを含む10mMリン酸塩緩衝液(pH7.4))、分子量標準としてGel Filtration LMW Calibration Kit(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)とヒトインシュリン、グリシンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる方法により測定することができる。別の方法として、カラム:TSK-GEL6000PW XL-CP 8.0 x 300mm(東ソー製)、移動相20mM KH2PO4・H
3PO
4(pH3.0):MeOH=8:2、カラム温度40℃、流速0.5mL/min、検出はUVモニターによる215nm及び示差屈折系、分子量標準として分子量50000から1600000のプルラン(昭和電工製)および分子量11900000のデキストラン(Polymer Standards Service GmbH)によるHPLCゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定できる。また、このHPLCゲルパーミエーションクロマトグラフィーの検出器にWyatt Technology社のDAWN HELEOS、Optolab rEXを用いる事で、ゲル浸透クロマトグラフ/多角度レーザー光散乱検出器 (GPC-MALS)法としても測定する事ができる。本明細書においてポリペプチドの重量平均分子量は、これらの方法によって測定された値である。
【0016】
本発明の吸着剤に含有されるポリペプチドは、ポリPHGのみからなるものであっても
よいが、3重らせん構造の安定性を損なわず、また本発明の効果を損なわない範囲において、ポリPHGの他にアミノ酸残基もしくはペプチドフラグメントまたはアルキレンを含んでもよい。
アミノ酸残基としては、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Hyp、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Sar、Ser、Thr、Trp、Tyr、Valから選択された少なくとも1種が挙げられる。ペプチドフラグメントとしては、前記アミノ酸残基の1種以上が複数個結合したペプチドが挙げられる。アルキレンとしては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、特に限定されるものではないが、具体的には炭素数1〜18のアルキレンが挙げられ、実用的には炭素数2〜12のアルキレンが好ましい。
本発明の吸着剤に含有されるポリペプチドは、ポリPHGとポリPHGの他のアミノ酸残基もしくはペプチドフラグメントまたはアルキレンを、重量比においてポリPHG:他のアミノ酸残基もしくはペプチドフラグメントまたはアルキレン他のペプチドフラグメント=1:99〜100:0、好ましくは10:90〜100:0の範囲で有する。
【0017】
本発明の吸着剤に含有されるポリペプチドは、血液凝固因子や細胞接着因子の吸着を阻害しない限り、無機酸(塩酸、硫酸等)、有機酸(酢酸、乳酸、マレイン酸、シュウ酸、クエン酸等)、金属(ナトリウム、カリウム等)、有機塩基(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)との塩であってもよい。本発明の吸着剤に含有されるポリペプチドの塩化合物は、単独または二種類以上の組合せであってもよい。
【0018】
本発明の吸着剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリPHGを有するポリペプチド以外の物質を含むものであってもよい。その他の物質は、保存性、取扱い易さ、活性の安定性等を考慮して選定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、後述のような保存溶媒を挙げることができる。
【0019】
ポリPHGを有するポリペプチドは、いずれの方法により得られたものであってもよい。
例えば、既知の固相合成法または液相合成法により取得したポリPHGを構成するアミノ酸からなるペプチドオリゴマーを用いて、縮合反応を行う方法により好ましく取得できる。
【0020】
上記ペプチドオリゴマーの縮合反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒は、原料となるペプチドオリゴマーを溶解(一部または全部を溶解)または懸濁可能なものであればよく、通常、水または有機溶剤が使用できる。具体的には、水、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホロアミド等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、窒素含有環状化合物(N−メチルピロリドン、ピリジン等)、ニトリル類(アセトニトリル等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等)、およびこれらの混合溶媒等である。これらの溶媒のうち、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドが好ましく使用される。
【0021】
また、上記ペプチドオリゴマーの縮合反応は、脱水剤(脱水縮合剤、縮合助剤)の存在下で行うことが好ましい。脱水縮合剤と縮合助剤との存在下で反応させると、脱保護とアミノ酸結合とを繰返す煩雑な処理を経ることなく、二量化や環化を抑制しつつ円滑に縮合反応が進行する。
【0022】
脱水縮合剤は、前記溶媒中で脱水縮合を効率よく行える限り特に限定されるものではなく、例えば、カルボジイミド系縮合剤(ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC=WSCI)
、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等)、フルオロホスフェート系縮合剤(O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N′,N′−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(BOP))等)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)が例示できる。
これらの脱水縮合剤は単独で又は二種以上組み合わせて混合物として使用できる。好ましい脱水縮合剤は、カルボジイミド系縮合剤(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩)である。
【0023】
脱水縮合剤の使用量は、ペプチドフラグメントの総量1モルに対して、通常、水を含まない非水系溶媒を用いる場合0.7〜5モル、好ましくは0.8〜2.5モル、さらに好ましくは0.9〜2.3モル(例えば1〜2モル)の範囲である。水を含む溶媒(水系溶媒)においては、水による脱水縮合剤の失活があるので、脱水縮合剤の使用量は、ペプチドフラグメントの総量1モルに対して、通常、2〜500モル、好ましくは5〜250モル、さらに好ましくは10〜125モルの範囲である。
【0024】
縮合助剤は、縮合反応を促進する限り特に制限されず、例えば、N−ヒドロキシ多価カルボン酸イミド類(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド(HONSu)、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド(HONB)等のN−ヒドロキシジカルボン酸イミド類)、N−ヒドロキシトリアゾール類(例えば、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等のN−ヒドロキシベンゾトリアゾール類)、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジン(HOObt)等のトリアジン類、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステルが例示できる。
これらの縮合助剤も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい縮合助剤は、N−ヒドロキシジカルボン酸イミド類(HONSu等)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール又はN−ヒドロキシベンゾトリアジン類(HOBt等)である。
【0025】
縮合助剤の使用量は、溶媒の種類に関係なく、ペプチドフラグメントの総量1モルに対して、通常、0.5〜5モル、好ましくは0.7〜2モル、さらに好ましくは0.8〜1.5モルの範囲である。
【0026】
脱水縮合剤と縮合助剤とは適当に組み合わせて使用することが好ましい。脱水縮合剤と縮合助剤との組合せとしては、例えば、DCC−HONSu(HOBtまたはHOOBt)、WSCI−HONSu(HOBt又はHOOBt)が挙げられる。
【0027】
上記ペプチドオリゴマーの縮合反応においては、反応溶液のpHを調節してもよく、通常、反応溶液のpHは中性付近(pH=6〜8程度)に調整される。pHの調節は、通常、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなど)、有機塩基、無機酸(塩酸など)や有機酸を用いて行うことができる。
また、縮合反応に関与しない塩基を反応溶液に添加してもよい。縮合反応に関与しない塩基としては、第三級アミン類、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのトリアルキルアミン類、N−メチルモルホリン、ピリジンなどの複素環式第三級アミン類などが例示できる。このような塩基の使用量は、通常、本ペプチドオリゴマーの総モル数の1〜2倍程度の範囲から選択できる。
【0028】
以上のようにして得られたポリペプチドには、反応に用いた試薬が残存している。これ
は本発明の吸着剤の血液凝固因子又は細胞接着因子に対する吸着能に影響するため、除去することが好ましい。残存している試薬の除去は、透析法、カラム法、限外ろ過法等の既知の手法を用いることができる。
【0029】
また、ポリペプチドの安定性および取扱いの容易さから考えると、反応溶媒を保存溶媒に置換することが好ましい。反応溶媒から目的とする保存溶媒への置換は、透析法においては目的とする保存溶媒を透析外液として使用することにより、カラム法においては目的とする保存溶媒を移動相として用いることにより置換することができる。
保存溶媒としては、得られた有効成分ポリペプチドの物理的性質等の変化を抑えられるものであれば特に限定されない。例えば、水、生理食塩水、弱酸から弱アルカリに緩衝能を有するバッファーを挙げることができる。ただし、血液凝固因子や細胞接着因子に影響を与える物質を含有しないことが好ましい。
【0030】
本発明の吸着剤は、血液凝固因子や細胞接着因子を高い親和性で吸着することができる。前記血液凝固因子や細胞接着因子のうちフォン・ウィルブランド因子(以降、vWFと記す)、フィブロネクチン(以降、FNと記す)、グリコプロテインVI(以降、GPVIと記す)、インテグリン、ヒートショックプロテイン47、ビトロネクチンが特に吸着剤への親和性が高いため好ましい。
本発明の吸着剤は、血液等のタンパク質の混合物から血液凝固因子や細胞接着因子を精製あるいは除去したり、菌体や酵母等で製造した組換えタンパク質を精製したりできるため、目的とする血液凝固因子や細胞接着因子の精製や製造に好適に使用できる。
【0031】
本発明の吸着剤は、固相担体に固定化する態様とすることができる。このような固相担体の材料としては、特に限定されず、セルロース系、ポリマー系、シリカ系、アガロース系等既知のものを用いることができる。また、その形態もビーズ、プレート、繊維等、特に限定されない。
固定化は、固相担体に対して本発明の吸着剤を共有結合で固定することが、操作中の吸着剤の脱離を防ぐ観点から好ましい。共有結合による固定化は、例えば、上記固相担体の表面にエステル基、アルデヒド基、エポキシ基等の反応性基を導入し、本発明の吸着剤に含有されるポリペプチドのアミノ基や水酸基とのカップリング反応を固相担体表面で行う一般的な公知の方法により行うことができる。なお、表面に反応性基が導入された固相担体は市販のものが種々存在するので、これらを好適に利用できる。固相担体へのポリペプチドの固定化量は、本発明の効果を妨げない限りにおいて任意に設定することができる。
このような固定化固相担体は、例えばタンパク質精製キット等に含めて、後述する血液凝固因子又は細胞接着因子の精製方法に好適に用いることができる。
【0032】
<2>本発明の精製方法
本発明の精製方法は、本発明の吸着剤又は本発明の吸着剤を固定化した固相担体に、前記試料溶液を接触させて前記血液凝固因子又は細胞接着因子を前記吸着剤に吸着させる吸着工程を含む。また、さらなる態様では、さらに前記吸着工程後の吸着剤又は固相担体に溶出剤を含む溶出液を接触させて前記血液凝固因子又は細胞接着因子を溶出させる溶出工程を含む。
本発明の精製方法では、試料溶液中の血液凝固因子又は細胞接着因子を精製することができる。特に、前記血液凝固因子又は細胞接着因子のうち、vWF、FN、GPVI、インテグリン、ヒートショックプロテイン47、ビトロネクチンを好ましく精製対象とすることができる。
また、前記試料としては、特に限定されないが、全血、血漿、細胞等の培養液、細胞抽出液、血清、体液、組み替え細胞の生産物等が挙げられ、特に血漿が好ましい。全血や血漿等の生体由来の試料の場合は、いずれの動物のものでも構わないが、ヒトのものに好ましく適用できる。
本発明の精製方法は、血液等のタンパク質の混合物からの血液凝固因子や細胞接着因子の精製あるいは除去や、菌体や酵母等で製造した組換えタンパク質の精製に適用できるため、目的とする血液凝固因子や細胞接着因子の精製や製造に好適に使用できる。
以下に、本発明の精製方法の各工程について説明する。
【0033】
本発明の精製方法における吸着工程において、試料溶液は通常には0.01〜0.5Mの塩又は尿素を含む。0.01Mより低い濃度では、血液凝固因子や細胞接着因子の安定性が損なわれ、また0.5Mより高い濃度では、血液凝固因子や細胞接着因子の吸着剤への吸着が阻害されてしまうからである。なお、塩の種類としては、NaCl、KCl、MgCl
2、CaCl
2、Na
2SO
4、NaBr、KBr、酢酸ナトリウム、トリス塩酸塩、リン酸塩、グアニジン塩、アルギニンおよびその塩等が挙げられ、特に限定されず、2種類以上の塩あるいは塩と尿素とを組み合わせて用いてもよい。試料は、Tris−HCl、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸、グッドの緩衝塩等公知の緩衝液で希釈することにより調整することができ、そのpHは血液凝固因子又は細胞接着因子の安定性を損なわない範囲、例えば4〜9に調整する。
吸着工程においては、試料溶液を本発明の吸着剤に接触させることにより、血液凝固因子又は細胞接着因子を吸着剤に吸着させるが、これは本発明の吸着剤を固定化した固相担体を用いれば、操作を容易に行うことができる。例えば、そのような固定化担体を充填したカラムに試料溶液を通過させてもよく、その場合は吸着が十分に行われるように、試料溶液の通過速度や通過回数を適宜調整することができる。また、固定化担体を入れた容器(容器自体が固定化担体であってもよい)に試料溶液を入れ、吸着に十分な時間おいた後(溶液の攪拌はあってもなくてもよい)、試料溶液の除去等により固定化担体を回収してもよい。
吸着工程後は、必要に応じて、洗浄液、例えば濃度0.01〜0.5Mの塩又は尿素を含む緩衝液等で洗浄して、吸着剤に非特異吸着した分子や未吸着の分子を取り除いてもよい。
また、吸着工程は、特に限定されないが、2〜37℃の温度において行うことが好ましく、吸着剤やタンパク質の変性を防ぐ観点から4〜25℃がより好ましい。
【0034】
本発明の精製方法における溶出工程において、用いる溶出液は溶出剤を含み、該溶出剤の濃度は通常には0.5〜1Mである。0.5Mより低い濃度では、血液凝固因子又は細胞接着因子を吸着剤から脱離させにくく、また1Mより高い濃度では、溶出効率が頭打ちになるだけでなく、血液凝固因子又は細胞接着因子の安定性が損なわれるからである。なお、溶出剤の種類としては、NaCl、KCl、MgCl
2、CaCl
2、Na
2SO
4、NaBr、KBr、酢酸ナトリウム、トリス塩酸塩、リン酸塩、グアニジン塩、アルギニンおよびその塩、尿素等が挙げられ、特に限定されず、2種類以上の溶出剤を組み合わせて用いてもよい。また溶出液のpHは血液凝固因子又は細胞接着因子の安定性を損なわない範囲、例えば4〜9に調整すればよい。
本発明の精製方法においては、吸着工程で用いた溶液よりも溶出液の塩又は尿素の濃度を上昇させるという簡便な手段で、吸着剤に吸着している血液凝固因子又は細胞接着因子を溶出・回収することができる。これは、従来のアフィニティークロマトグラフィーに比べて、各段に温和な条件での精製を可能とするものであり、血液凝固因子又は細胞接着因子やリガンドとなるポリPHGを有するポリペプチドを劣化させるおそれがない。また、高価な試薬を大量に使用することもないため、非常に効率が良い。
溶出工程も前記吸着工程同様に、固定化した固相担体を用いれば、操作を容易に行うことができる。すなわち、吸着工程後の固定化担体を充填したカラムに溶出液を通過させてもよく、その場合溶出が十分に行われるように、溶出液の通過速度や通過回数を適宜調整することができる。また、吸着工程後の固定化担体を入れた容器(容器自体が固定化担体であってもよい)に溶出液を入れ、溶出に十分な時間おいた後(溶液の攪拌はあってもなくてもよい)、溶出液を回収してもよい。
また、溶出工程は、特に限定されないが、4〜25℃の温度において行うことが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
≪リガンドの固定化≫
本発明の吸着剤であるポリPHG含有ポリペプチド又は比較のためのコラーゲンを、アフィニティーリガンドとしてゲル担体に公知の方法で固定化した。
<実施例1>
セルファインホルミル(JNC(株)製)を50mM炭酸ナトリウムで洗浄し、吸引ろ過して得られた洗浄ゲル4.3gを200mLの三角フラスコに入れ、さらに0.5重量%のポリPHG含有ポリペプチド水溶液を16g、50mM炭酸ナトリウムを6.4mL、水9.6mLを加えて、よく混合したのち、40℃で2時間振盪した。水素化ホウ素ナトリウム50mg/mL水溶液0.7mLを加えて、更に40℃で2時間振盪した。反応終了後、反応スラリーを吸引ろ過してゲルを回収した。ゲルに残存する未反応物などを除くために、50mM炭酸ナトリウム、塩酸水溶液(pH3)、純水で洗浄、吸引ろ過してポリPHG固定化ゲルを得た。
洗浄液中の残存ポリPHG含有ポリペプチド量を定量し、反応に用いたポリPHG含有ポリペプチドとの差から、固定化されたポリPHG含有ポリペプチドの量を算出した。洗浄液中のポリPHG含有ポリペプチド量は、210nmの吸光度から濃度を測定して算出した。
ここで用いたポリPHG含有ポリペプチドは、式(1)で示されるペプチドフラグメントのみで構成された重量平均分子量が約500万のポリペプチドであり、以降の実施例・比較例においても同様である。
【0037】
<比較例1>
セルファインホルミル(JNC(株)製)を50mM炭酸ナトリウムで洗浄し、吸引ろ過して得られた洗浄ゲル4.3gを200mLの三角フラスコに入れ、さらブタ皮膚精製コラーゲン溶液1%(日本ハム(株)製)を8g、50mM炭酸ナトリウム24mLを加えて、よく混合したのち、40℃で2時間振盪した。水素化ホウ素ナトリウム50mg/mL水溶液0.7mLを加えて、更に40℃で2時間振盪した。反応終了後、反応スラリーを吸引ろ過してゲルを回収した。ゲルに残存する未反応物などを除くために、50mM炭酸ナトリウム、塩酸水溶液(pH3)、純水で洗浄、吸引ろ過してコラーゲン固定化ゲルを得た。
洗浄液中の残存コラーゲン量を定量し、反応に用いたコラーゲンとの差から、固定化されたコラーゲンの量を算出した。洗浄液中のコラーゲン量は、210nmの吸光度から濃度を測定して算出した。
【0038】
<実施例2>
Shodex BIOACT gel EPOシリーズ(昭和電工(株)製)を乾燥重量で2.7gを量り、30mLの0.25重量%のポリPHG含有ポリペプチド、50mM炭酸ナトリウム溶液に加え、40℃で一夜振盪し反応させた。反応終了後、反応スラリーを吸引ろ過してゲルを回収した。ゲルに残存する未反応物などを除くために、50mM炭酸ナトリウム、塩酸水溶液(pH3)、純水で洗浄、吸引ろ過してポリPHG固定化ゲルを得た。
洗浄液中の残存ポリPHG含有ポリペプチド量を定量し、反応に用いたポリPHG含有ポリペプチドとの差から、固定化されたポリPHG含有ポリペプチドの量を算出した。洗浄液中のポリPHG含有ポリペプチド量は、210nmの吸光度から濃度を測定して算出
した。
【0039】
<実施例3>
反応温度を40℃から4℃に変えた以外は、実施例2と同様にした。
【0040】
<比較例2>
Shodex BIOACT gel EPOシリーズ(昭和電工(株)製)を乾燥重量で2.7gを量り、30mLの0.25重量%に希釈したブタ皮膚精製コラーゲン溶液(日本ハム(株)製)、50mM炭酸ナトリウム溶液に加え、40℃で一夜振盪し反応させた。反応終了後、反応スラリーを吸引ろ過してゲルを回収した。ゲルに残存する未反応物などを除くために、50mM炭酸ナトリウム、塩酸水溶液(pH3)、純水で洗浄、吸引ろ過してコラーゲン固定化ゲルを得た。
洗浄液中の残存コラーゲン量を定量し、反応に用いたコラーゲンとの差から、固定化されたコラーゲンの量を算出した。洗浄液中のコラーゲン量は、210nmの吸光度から濃度を測定して算出した。
【0041】
<比較例3>
反応温度を40℃から4℃に変えた以外は、比較例2と同様にした。
【0042】
表1に上記実施例1〜3及び比較例1〜3のゲル担体へのリガンド固定化量を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
≪血漿成分の吸着溶出実験1≫
実施例1及び比較例1の固定化ゲル担体並びにゲル担体の原料である6重量%セルロース粒子(JNC(株)製)各1mLを、ポリプロピレン製のカラムに充填した。100mMのTris−HCl、pH7.5(TB)を5mL以上通液して平衡化した後、TBで10倍に希釈したPlasma,human(Sigma/P9523−5ML)5mLをカラムへ流した(1回)。その後、TBを5mL流して、吸着していない血漿成分を洗い流した(1回)。これらのカラム出口からの液は合わせて素通り・洗浄液として回収した。洗浄終了後に、1M NaClを含んだTBを5mLカラムに流し(1回)、そのカラム出口からの液は、溶出液として回収した。以上の操作は全て室温下(25℃)で行った。
素通り・洗浄液及び溶出液それぞれに含まれるFN及びvWFの各量をELISAによって測定した。
【0045】
表2にFNの吸着及び溶出結果を、表3にvWFの吸着及び溶出結果を示す。
本発明の吸着剤は血漿中のFN及びvWFを効率よく吸着し、また1M NaClを含む溶出液により容易に吸着したFN及びvWFを回収することができた。特にvWFはコ
ラーゲンに比べて吸着剤への吸着量が多く、本発明の吸着剤がvWFへの親和性が高いことがわかった。また、特にFNは吸着剤への吸着量はコラーゲンと同程度であるものの、塩濃度を上昇させるだけの簡便な溶出操作のみで容易に回収できることがわかった。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
≪血漿成分の吸着溶出実験2≫
溶出液を0.7Mアルギニン及び0.3MNaClを含んだTBに変更した以外は、前記吸着溶出実験1と同様に行った。素通り・洗浄液及び溶出液それぞれに含まれるFN量をELISAによって測定した。
【0049】
表4にFNの吸着及び溶出結果を示す。
表2及び表4より、FNの吸着量は実施例1と比較例1とで同程度であるが、その溶出条件において本発明の吸着剤が有利であることがわかった。すなわち、比較例1(コラーゲン)では1M NaClの条件では吸着したFNの34.4%しか溶出できず、0.7M アルギニン及び0.3M NaClの条件で99.2%溶出できた。それに対し、実施例1では、アルギニンを用いずとも1M NaClの温和な条件で吸着したFNの100%の回収が可能であった。
【0050】
【表4】