【実施例】
【0078】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
はじめに、実施例で評価をした「浸漬前剥離割合」、「耐水性」、及び「作業性」の評価方法について纏めて説明する。
【0080】
「浸漬前剥離割合」は、室温で自然乾燥した評価すべき被覆種子2.5g程度をプラスティック遠沈管(45mL容)に入れて、試験管ミキサー(SCIENTIFIC INDUSTRIES G−560、強度最大)で30秒又は60秒震盪させた。その後、被覆種子から剥離した粉末を秤量し、付着させた資材の重量に対する剥離した資材の重量の割合を、浸漬前剥離割合(剥離無しは0%、全て剥離は100%)とした。なお、ここで「資材」とは、PVAを用いない場合は機能性資材を指し、PVAを用いる場合には機能性資材とPVAとを指す。
【0081】
被覆種子の「耐水性」は、評価すべき被覆種子について10粒(又は5粒)を試験管に入れて蒸留水10mL(又は5mL)を加えた。次いで、試験管立てに試験管をテープで固定し、水を添加して所定の日数後に、水がこぼれないように、試験管立てを両手で持ち、水平に円を描くように激しく震盪し、その直後に様子を観察した。そして、観察時における水が濁った程度によって、被覆層の耐水性を○(ほとんど濁らない)、△(少し濁る=機能性資材の大半は種子に付着を維持)、×(著しく濁る=機能性資材の大半は種子から剥離)に分類して評価した。
【0082】
被覆種子を製造する「作業性」は、被覆種子を製造したときに、種子同士の結合が実質的にない場合を○、種子同士の結合が見られるが、乾燥後に容易に分離できる(容器に入れて揺することで分離可)場合を△、種子同士が強く結合し、乾燥後に分離しにくく、分離に手間がかかる場合を×に分類して評価した。
【0083】
〔実施例1:PVAのケン化度が、種子の被覆強度に及ぼす影響〕
風乾水稲種子(品種:にこまる)に対し、風乾種子重の50%重の酸化鉄(ヘマタイト、三酸化二鉄)粉末(DOWA IPクリエイション(株)製、ヘマタイト#32、平均粒径90μm前後、以下「粗粒酸化鉄」と称する:機能性資材の一例)と、0.2mmolMo/g風乾種子(風乾種子重の3.3%重)に相当するモリブドリン酸カリウム(日本新金属(株)製:機能性資材の一例)とをよく混合した。なお、モリブドリン酸カリウムは、湛水条件下での硫化物イオンの生成抑制剤としても機能する。
【0084】
次いで、室温において霧吹きで水を添加しながら機能性資材の混合物と種子とを一緒に攪拌することで、種子の表面に機能性資材の混合物を付着させた後、室温で自然乾燥させて参照用の被覆種子を製造した。
【0085】
また、これとは別に、粗粒酸化鉄とモリブドリン酸カリウムとの混合物(機能性資材の混合物)に対し、当該混合物の総重量の1%重のPVAを粒子状固体のままよく混合して用いた点以外は、PVAを混合しない上記場合と同様にして、水を添加しながら、風乾水稲種子の表面に機能性資材の混合物とPVAとを付着させた後、室温で自然乾燥させて被覆種子を製造した。
【0086】
用いたPVAは、重合度が1,500〜1,800程度の、ケン化度が異なる4種類(1.和光純薬工業(株)製、試薬特級、ケン化度78〜82mol%、以下、PVA品種を「Wako」と略。2.日本酢ビ・ポバール(株)製、品種:JP−18S、ケン化度86〜90mol%。3.日本酢ビ・ポバール(株)製、品種:JM−17S、ケン化度95.5〜97.5mol%。4.日本酢ビ・ポバール(株)製、品種:JF−17S、ケン化度98〜99mol%。)である。他の実施例で用いたPVAとあわせて、これらPVAの特性を表1に示す。なお、JP−18S、JP−20S、JP−24S、JM−17S、JF−17S、V−S08は、粒径が150μm以下(#100パス品)の微粉末で、他よりも特に細かい。
【0087】
【表1】
【0088】
次いで、得られた5種類の被覆種子について、「浸漬前剥離割合(30秒震盪)」、及び「耐水性(種子10粒/水10mL)」の評価を行った。得られた結果を
図1及び表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2に示すように、浸漬前剥離割合は、PVAを混合しないと半分近くとなり、PVAを添加すると著しく低下した。また、完全ケン化型のJF−17S(ケン化度98〜99モル%)よりも他のPVAを用いる方が、漬前剥離割合がより一層低下した。
【0091】
また、被覆種子の耐水性は、
図1に示すように、PVAを添加しないと資材の剥離が大きく、水が濁った。他方で、ケン化度がより高いJF−17S(ケン化度98〜99モル%)、JM−17S(ケン化度95.5〜97.5モル%)を用いたときは、他のPVAを用いたときに比べてより一層水が濁らず、水中における資材の剥離がほとんど起きず、耐水性が極めて高かった(表2)。
【0092】
以上の結果から、水溶性が低く、予め加熱溶解して用いることが一般的な完全ケン化型(JF−17S)及び中間ケン化型(JM−17S)のPVAを含めて、PVAを予め水に溶解することなく、粒子状固体のまま酸化鉄及び/又は種子と混合し、水を使って被覆層を形成させても、酸化鉄の被覆強度が十分に高まることが確認された。すなわち、水溶性が低く、高温で加熱溶解して用いることが一般的な完全ケン化型及び中間ケン化型のPVAに関しても、作業がより容易な、粉体のままでの利用が可能であると判明した。
【0093】
さらに、水田に播種する前の被覆種子同士の擦れに十分な耐性を付与する観点(浸漬前剥離割合を低減する観点)では、完全ケン化型よりもケン化度が低いPVAを用いることがより好ましいと考えられた。他方で、湛水した水田に播種したのちの機能性資材の剥離を防ぐ観点では、ケン化度がより高いPVAを用いることが望ましいと考えられた。すなわち、両条件に優れるPVAとして、中間ケン化型(JM−17S、ケン化度95.5〜97.5モル%)が特に好ましいと考えられた。
【0094】
〔実施例2:PVAのケン化度及び重合度が、種子の被覆強度に及ぼす影響(1)〕
PVAを添加しない場合と、表1に示した日本酢ビ・ポバール(株)製の9種類のPVAを用いた場合について、実施例1と同様にして、粗粒酸化鉄及びモリブドリン酸カリウムの混合物とPVA(PVAを使用する場合)とを被覆した被覆種子を作成した。そして、実施例1と同様の方法に従い、浸漬前剥離割合及び耐水性を調べた。ただし、耐水性の試験は、各試験管に5粒の被覆種子と5mLの水とを入れ、水を添加した4日後に試験管の震盪を行った。
【0095】
表3に示すように、浸漬前剥離割合は、PVAの添加によって低下し、また、部分ケン化型(ケン化度90mol%未満)のPVA≦中間ケン化型(ケン化度90〜98mol%)のPVA<完全ケン化型(ケン化度98mol%以上)のPVAという傾向がみられた。PVAのケン化度が低いほど親水性がより高く、室温で水に溶解し易いために、粘性が得られやすいためと推定される。
【0096】
さらに、粉末状のPVAは、顆粒状のPVAよりも、浸漬前剥離割合が低くなる傾向があった。これは、粉末状のPVAの方が酸化鉄等の機能性資材とより均一に混合し易く、しかも比表面積が大きいので表面が部分的に溶解し易いからと推定された。また、特に顆粒状のPVAを用いる場合には、重合度が所定の範囲内(1000以上で5000以下、好ましくは1500以上で3500以下、より好ましくは1500以上で2500以下、さらに好ましくは1700以上で2400以下)であるほうが浸漬前剥離割合が低くなる傾向があった。
【0097】
また、耐水性の試験の結果は、表3に示すように、部分ケン化型(ケン化度90mol%未満)のPVAに比べて、完全ケン化型(ケン化度98mol%以上)及び中間ケン化型(ケン化度90〜98mol%)のPVAの方が、水がより濁りにくく、かつ水中における機能性資材の剥離がより生じにくいという傾向が見られた。また、PVAの重合度は大きいほど、耐水性がより高まる傾向がみられた。
【0098】
以上の結果から、浸漬前の機能性資材の剥離割合が低くかつ耐水性を兼ね備える観点では、中間ケン化型(ケン化度90〜98mol%)のPVAがより好ましく、中でもJM−17S(ケン化度95.5〜97.5モル%、重合度1,700)が特に好ましいと考えられた。
【0099】
【表3】
【0100】
〔実施例3:PVAのケン化度及び重合度が、種子の被覆強度に及ぼす影響(2)〕
粗粒酸化鉄(平均粒径90μm前後)の代わりに、平均粒径0.2μm程度の酸化鉄(和光純薬工業(株)製、酸化鉄(III)(三酸化二鉄)、和光一級、以下「細粒酸化鉄」)を用いた点以外は、実施例2に記載の方法に従い、重合度及びケン化度が異なるPVAを用いて、細粒酸化鉄及びモリブドリン酸カリウムの混合物とPVA(PVAを用いる場合)とを被覆した被覆種子を作成し、浸漬前剥離割合と耐水性(種子5粒/水5mL、水を添加して4日後に試験管の震盪)とを調べた。なお、本実施例で用いた酸化鉄は通常は、顔料(ベンガラ)、又は工業用の資材として用いられるもので、農業用の資材として汎用されるものではない。
【0101】
粗粒酸化鉄を用いた場合に比べて、細粒酸化鉄を用いると、浸漬前剥離割合は著しく低下した(表4参照)。なお、部分ケン化型(ケン化度90mol%未満)のPVA及び中間ケン化型(ケン化度90〜98mol%)のPVAを用いた場合は、完全ケン化型(ケン化度98mol%以上)のPVAを用いた場合と比べて、浸漬前剥離割合はさらに低い結果が得られた。
【0102】
耐水性に関しては、細粒酸化鉄を用いるよりも粗粒酸化鉄を用いた場合(実施例2)の方が耐水性により優れる傾向が得られた(結果は図示せず)。また、表4に示すように、細粒酸化鉄を用いる場合、耐水性に特に優れるという観点では、中間ケン化型(JM−17S,JM−33,ケン化度90〜98mol%)及び完全ケン化型(JF−17S)のPVAが好ましく、中間ケン化型がより好ましいことが判った。
【0103】
以上の結果から、細粒酸化鉄でも、PVAを予め溶解させず、粒子状固体のままで、機能性資材と直接混合することによって種子の被覆が可能であることが判る。また、細粒酸化鉄を機能性資材として用いる場合、PVAは、中間ケン化型(ケン化度90〜98mol%)が好ましく、中でもJM−17S(ケン化度95.5〜97.5モル%、重合度1,700)がより好ましいと考えられた。
【0104】
【表4】
【0105】
〔実施例4:PVAの混合比率が種子の被覆強度に及ぼす影響(1)〕
PVAとして後述する量のJM−17Sのみを粒子状固体のまま用いた点以外は、実施例2と同様にして、風乾水稲種子重の50%重の粗粒酸化鉄(機能性資材)及び0.2mmolMo/g風乾種子のモリブドリン酸カリウム(機能性資材)の混合物とPVA(PVAを用いる場合)とを被覆した被覆種子を作成した。ここで、PVA(JM−17S)の使用量は、機能性資材の混合物の総重量に対して0〜10%重(以下、「PVA比率」)とした。
次いで、得られた被覆種子について、実施例2と同様にして、浸漬前剥離割合と耐水性(種子5粒/水5mL)とを調べた。ただし、耐水性の試験は、各試験管に5粒の被覆種子と5mLの水とを入れ、水を添加した3日後に試験管の震盪を行った。あわせて、被覆種子を製造する「作業性」も評価し、表5に評価結果を記載した。
【0106】
耐水性の試験の結果は、表5に示すように、被覆種子を水に浸漬したとき、PVA比率が0.5%重でも、水が濁りにくく、耐水性を十分に示す傾向がみられた。
【0107】
また、PVA比率が高くなるほど、浸漬前剥離割合が低下する傾向が見られた。そして、PVA比率が3%重以上としたときに、浸漬前剥離割合が1%程度に低下したことから、水に浸漬する前の被覆種子の安定性という観点では、PVA比率は2%〜3%重以上が好ましいと考えられた。
【0108】
他方で、PVA比率が低くなるほど、種子同士の結合が抑制されて、被覆作業の効率(作業性)がより向上するという傾向が見られた。また、PVA比率が低くなるほど、水が濁りにくくなる傾向も得られた。PVA比率が低くなるほど水が濁りにくくなり、耐水性が向上する傾向となったのは、PVA比率が低くなるほど作業性が向上して、種子をより均質に被覆しやすくなることを反映している可能性も考えられた。より具体的には、PVA比率が5%重未満では、種子同士が互いに強く付着し難く、被覆作業が比較的効率よく行い得た(表5参照)。
【0109】
以上から、粗粒酸化鉄の被覆において、PVA比率の下限は2〜3%重程度が好ましく、PVA比率の上限は5%重程度が好ましいと考えられた。そして、PVA比率はより好ましくは2%重〜4%重の範囲内であり、特に好ましくは2%重〜3%重の範囲内と考えられた。
【0110】
【表5】
【0111】
〔実施例5:PVAの混合比率が種子の被覆強度に及ぼす影響(2)〕
PVAとして後述する量のJM−17Sのみを粒子状固体のまま用いた点、及びモリブドリン酸カリウムを使用しなかった点以外は、実施例3と同様にして、風乾水稲種子重の50%重の細粒酸化鉄とPVA(PVAを用いる場合)とを被覆した被覆種子を作成した。ここで、PVA(JM−17S)の使用量は、実施例3の結果も参照して、機能性資材である酸化鉄の重量の0〜1%重(以下、「PVA比率」)とした。
【0112】
次いで、得られた被覆種子について、実施例3と同様にして、浸漬前剥離割合と耐水性(種子10粒/水10mL)とを調べた。ただし、耐水性の試験は、各試験管に10粒の被覆種子と10mLの水とを入れ、水を添加した10日後に試験管の震盪を行った。
【0113】
表6に示すように、試験をしたPVA比率の範囲内では、PVA比率が高くなるほど浸漬前剥離割合がより低下した。また、浸漬前剥離割合が1%以下に低下するので、PVA比率は0.4%重以上が好ましいと考えられた。
【0114】
また、耐水性の試験の結果は、表6に示すように、被覆種子を水に浸漬したとき、PVA比率が0.05%重でも水が濁りにくくなることが確認でき、さらにPVA比率が0.2%重以上で水の濁りがなくなり、より一層優れた耐水性が得られた。
【0115】
以上の結果から、粗粒酸化鉄に比べて細粒酸化鉄では、被覆に用いるPVA比率がより低くてよいこと、より具体的には、十分な被覆強度を備えるためには、PVA比率が0.4%重以上で1%重以下程度の範囲内で十分であることが示唆された。
【0116】
【表6】
【0117】
〔実施例6A−1:粒径の異なる機能性資材の混合物が種子の被覆強度に及ぼす影響(1)〕
JM−17Sの使用量としてPVA比率を1%重に固定し、細粒酸化鉄と粗粒酸化鉄とを適宜混合して機能性資材として用いた以外は、実施例5と同様にして被覆種子を作成し、被覆種子の浸漬前剥離割合(ただし30秒震盪ではなく60秒震盪)及び耐水性(種子10粒/水10mL)を調べた。あわせて、被覆種子を製造する「作業性」も評価した。細粒酸化鉄と粗粒酸化鉄との混合割合は、表7の細粒割合、粗粒割合に示す通りの重量比とし、その合計量は常に風乾水稲種子重の50%重とした。ただし、耐水性の試験は、各試験管に10粒の被覆種子と10mLの水とを入れ、水を添加した6日後に試験管の震盪を行った。
【0118】
表7に示す通り、浸漬前剥離割合は、細粒酸化鉄の混合割合が多くなるほど低下した。例えば、粗粒酸化鉄と細粒酸化鉄とを半分ずつ混合することにより、浸漬前剥離割合は1%程度まで低下した。
【0119】
また、耐水性の試験の結果は、表7に示すように、いずれの条件でも耐水性は非常に高かった。また、細粒酸化鉄の割合が80%未満の場合は、種子同士の付着が非常に少なく、被覆作業の作業性に特に優れていた。
【0120】
粗粒酸化鉄は細粒酸化鉄と比べて飛散が少ないという利点がある一方で、細粒酸化鉄と同等の浸漬前剥離割合を確保するためには、より高いPVA比率が求められる。しかし、本実施例の結果から、必要に応じて粗粒酸化鉄を細粒酸化鉄と混合して使用することで、比較的低いPVA比率で、十分な被覆強度を確保できることが示唆された。
【0121】
【表7】
【0122】
〔実施例6A−2:粒径の異なる機能性資材の混合物が種子の被覆強度に及ぼす影響(2)〕
JM−17Sの使用量としてPVA比率を2%重又は3%重に固定し、細粒酸化鉄と粗粒酸化鉄とを適宜混合して機能性資材として用いた以外は、実施例5と同様にして被覆種子を作成し、被覆種子の浸漬前剥離割合(ただし30秒震盪ではなく60秒振盪)及び耐水性(種子10粒/水10mL)を調べた。あわせて、被覆種子を製造する「作業性」も評価した。細粒酸化鉄と粗粒酸化鉄との混合割合は、表8の細粒割合、粗粒割合に示す通りの重量比とし、その合計量は常に風乾水稲種子重の50%重とした。ただし、耐水性の試験は、各試験管に10粒の被覆種子と10mLの水とを入れ、水を添加した6日後に試験管の震盪を行った。
【0123】
表8に示す通り、PVA比率が1%重の場合(表7参照)と比べると、何れも浸漬前剥離割合が低下する傾向があった。ただし、PVA比率が2%重のほうが、当該比率が3%重の場合よりも、種子どうしが付着しがたく作業性がより一層優れていた。
【0124】
また、細粒酸化鉄を粗粒酸化鉄に混合すると、被覆のむらがより小さくなり、かつ被覆層の表面がより滑らかになることが目視で明確に確認できた(データを図示せず)。水に浸漬する前の機能性資材の剥離は、種子同士の擦れの寄与が高いと考えられる。したがって、細粒酸化鉄を粗粒酸化鉄に混合して被覆層の表面を円滑にすることは、被覆むらの発生を抑え、機能性資材の剥離を減らすための有効な手段となる。
【0125】
実施例6A−1及び6A−2の結果から、植物種子を酸化鉄で被覆する場合、粗粒酸化鉄に細粒酸化鉄を加えることによって、被覆の作業性を良好な範囲で維持しつつ、被覆むらの発生を抑え、被覆層の表面を滑らかにして、被覆強度を確保できる。このとき、PVA比率の一例は、1%重以上で3%重以下の範囲内で用いることが特に好ましい。
【0126】
【表8】
【0127】
〔実施例6B:PVAの添加が水稲種子の各種酸化鉄資材の被覆強度に及ぼす影響〕
機能性資材として酸化鉄の種類を変え、JM−17Sの使用量としてPVA比率を1〜5%重とした以外は、実施例5と同様にして、風乾水稲種子重の50%重の酸化鉄を被覆した被覆種子を作成し、被覆種子の浸漬前剥離割合(ただし30秒震盪)及び耐水性(種子10粒/水10mL、水を添加して13日後)を調べた。酸化鉄は、(1)実施例3で示した細粒酸化鉄[Fe
2O
3(w)と略]、(2)酸化鉄(三酸化二鉄、JFEケミカル(株)製、JC−CPW、平均粒径約0.9μm)[Fe
2O
3(js)と略]、(3)実施例1で示した粗粒酸化鉄[Fe
2O
3(d)と略]、(4)粉鉱石微粉(三酸化二鉄、JFEスチール(株)製、75μm以下を篩で採取)[Fe
2O
3(jl)と略]、(5)酸化第一鉄(分子式FeO、半井化学薬品(株)製)[Fe
1O
1(n)と略]、(6)ミルスケール微粉(JFEスチール(株)製、酸化第一鉄を主体とする三酸化二鉄との混合物)[Fe
1O
1(j)と略]、(7)四酸化三鉄(和光純薬工業(株)製、四三酸化鉄)[Fe
3O
4(w)と略]、以上の7種類とした。
【0128】
表9に示したように、PVA比率が上昇するほど浸漬前剥離割合が低下した。また、PVAを用いない浸漬前剥離割合は酸化鉄の種類に依存し、粒径が小さい三酸化二鉄(Fe
2O
3(w)とFe
2O
3(js))及び四酸化三鉄(Fe
3O
4(w))は、PVA比率1%程度で、浸漬前剥離割合が2%未満となった。一方、粒径が大きい三酸化二鉄(Fe
2O
3(d)とFe
2O
3(jl))及び酸化第一鉄(Fe
1O
1(n))は、PVA比率5%程度で、浸漬前剥離割合が2%未満となった。酸化第一鉄と三酸化二鉄との混合物(Fe
1O
1(j))の浸漬前剥離割合は、PVA比率2%程度で、浸漬前剥離割合が2%未満となった。いずれの資材も1%重のPVAを加えると十分な耐水性が得られた。
【0129】
【表9】
【0130】
〔実施例6C:PVAの添加が水稲種子の還元鉄の被覆強度に及ぼす影響〕
機能性資材として還元鉄を用いた以外は、実施例6Bと同様にし、JM−17Sの使用量としてPVA比率を1〜5%重として、風乾水稲種子重の50%重の還元鉄を被覆した被覆種子を作成した(一般的な鉄被覆で添加される石膏は添加していない)。種子に還元鉄を被覆した場合、還元鉄が錆びる過程で被覆強度が上がる。しかし、PVAの役割の一つは錆の形成までの強度を維持することと考えて、錆の形成が十分に進んでいない条件で、被覆強度を調査した。すなわち、被覆種子作成後は、追加の加水をせず、すぐに通風乾燥して、錆色への変色が見られない状態で、被覆種子の浸漬前剥離割合(ただし30秒震盪)及び耐水性(種子10粒/水10mL、ただし水を添加して3日後)を調べた。還元鉄は、(1)還元鉄(和光純薬工業(株)製、和光一級、見た目と手触りから次に示すFe(j)より粒径が小さい)[Fe(w)と略]、(2)還元鉄(JFEスチール(株)製、鉄粉(J6)、平均粒径約65μm)[Fe(j)と略]、以上の2種類とした。
【0131】
表10に示したように、PVA比率が上昇するほど浸漬前剥離割合が低下した。また、PVAを添加しない場合、浸種すると水の懸濁が見られたが、PVAを加えると懸濁が無くなり、高い耐水性が得られた。
【0132】
【表10】
【0133】
〔実施例7−1:PVAの添加が種子の被覆強度に及ぼす影響〕
風乾水稲種子(品種:にこまる)に対し、0.2mmolMo/g風乾種子に相当する各種モリブデン資材(機能性資材)、及びPVA(JM−17S、PVA比率1%重、粒子状固体のまま使用)を用いて、実施例1と同様にして、霧吹きで水を添加しながら種子の表面にモリブデン資材とPVAとを付着させ、室温で自然乾燥させることにより被覆種子を製造した。また、参照用としてPVAを用いない以外は、上記と同様の条件に従い、参照用の被覆種子を製造した。
【0134】
なお、使用したモリブデン資材は、何れも微溶性の、三酸化モリブデン(日本無機化学工業(株)製、以下「MoO」と略)、モリブドリン酸アンモニウム(日本新金属(株)製、以下「MoPNH」と略)、又はモリブドリン酸カリウム(日本新金属(株)製、以下「MoPK」と略)である。
【0135】
次いで、実施例1と同様にして、得られた被覆種子の浸漬前剥離割合(30秒振盪)と耐水性(10粒/10mL)とを調べた。なお、耐水性は、水を添加して4日後(播種後4日後と同義)に試験管の震盪を行い、震盪直後の状態で評価した。
【0136】
使用したモリブデン資材は何れも水の添加により硬化する性質があるため、PVAを使用しなくとも浸漬前剥離割合は比較的低かった。しかし、PVAの添加によって浸漬前剥離割合は何れも1%未満と極めて低くなった(表11参照)。また、
図2及び表11に示すように、PVAを添加した被覆種子では、耐水性の試験において水の濁りが抑制され、参照用の被覆種子と比較して耐水性がより向上した。
【0137】
【表11】
【0138】
〔実施例7―2:PVAの添加が種子の被覆強度に及ぼす影響2〕
風乾水稲種子(品種:にこまる)に対し、風乾種子重の10%重に相当する各種タングステン資材(機能性資材)、及びPVA(JM−17S、PVA比率10%重、粒子状固体のまま使用)を用いて、実施例7−1と同様にして、霧吹きで水を添加しながら種子の表面にタングステン資材とPVAとを付着させ、室温で自然乾燥させることにより被覆種子を製造した。また、参照用としてPVAを用いない以外は、上記と同様の条件に従い、参照用の被覆種子を製造した。
【0139】
なお、使用したタングステン資材は、何れも微溶性の三酸化タングステン(WO)、タングステン酸(WH)、及びタングストリン酸アンモニウム(WPNH)であり、これら資材は、和光純薬工業(株)製である。
【0140】
次いで、実施例1と同様にして、得られた被覆種子の浸漬前剥離割合(30秒振盪)と耐水性(10粒/10mL)とを調べた。なお、耐水性は、水を添加して13日後(播種後13日後と同義)に試験管の震盪を行い、震盪直後の状態で評価した。
【0141】
使用したタングステン資材は何れも水の添加により硬化する性質があるため、PVAを使用しなくとも浸漬前剥離割合は比較的低かった。しかし、PVAの添加によって浸漬前剥離割合は何れも2%以下と低くなった(表12参照)。また、PVAを添加した被覆種子では、耐水性の試験において水の濁りの発生が低下し、参照用の被覆種子と比較して耐水性がより向上した(表12参照)。
【0142】
【表12】
【0143】
〔実施例8−1:PVAの混合比率が種子の被覆強度に及ぼす影響(3)〕
風乾水稲種子(品種:にこまる)に対し、風乾種子重の50%重の過酸化カルシウム資材(和光純薬工業(株)、25重量%の過酸化カルシウム含有製品:機能性資材)又は粘土(ネオライト興産株式会社、大平DLクレー:機能性資材)と、PVA(JM−17S、PVA比率0〜10%重の範囲内で変更、粒子状固体のまま使用)とを用いて、実施例1と同様にして、霧吹きで水を添加しながら種子の表面に機能性資材とPVAとを付着させ、室温で自然乾燥させることにより被覆種子を製造した。
【0144】
次いで、実施例1と同様にして、得られた被縮種子の浸漬前剥離割合(30秒振盪)と耐水性(10粒/10mL)とを調べた。なお、耐水性は、水を添加して1日後(播種後1日後と同義)に試験管の震盪を行い、震盪直後の状態で評価した。
【0145】
表13に示すように、過酸化カルシウム資材の被覆では、PVAを添加しないと浸漬前剥離割合は30%を超えたが、PVAをPVA比率1%重で添加すると浸漬前剥離割合は1%と著しく低くなった。また、過酸化カルシウム資材は、PVAを添加しなくても種子の被覆ができるが、亀裂が入り剥離が起きやすかった。しかし、PVAを添加すると、亀裂が入らず剥離しにくくなった。
【0146】
また、耐水性の試験の結果、過酸化カルシウム資材は、PVAを添加しなくても水に浸漬時の崩壊が小さかったが、PVAを添加することで水に浸漬時の崩壊がより一層抑えられて、耐水性もより一層高まった(表13も参照)。
【0147】
一方、粘土による被覆では、PVAを添加しないと被覆強度が著しく弱く、PVA比率が高まるに従って、浸漬前剥離割合も浸漬時の濁りも低下し、被覆強度が高まる傾向がみられた(表13参照)。
【0148】
【表13】
【0149】
〔実施例8−2 部分ケン化PVAと完全ケン化PVAとの混合による水稲種子の被覆〕
風乾水稲種子(品種:にこまる)に対し、風乾種子重の50%重の粗粒酸化鉄(実施例1と同様のもの:機能性資材)及びモリブドリン酸カリウム(0.2mmolMo/g風乾種子:機能性資材)の混合物と、PVAとを用いて、実施例1と同様にして、霧吹きで水を添加しながら種子の表面に機能性資材とPVAとを付着させ、室温で自然乾燥させることにより被覆種子を製造した。
【0150】
PVAとしては、PVA比率1%重で、JF−17S、JP−18S、又はJM−17Sを用いた場合に加えて、PVA比率1%重ずつのJF−17SとJP−18Sとの混合物を用いた場合について検討をした。
【0151】
そして、実施例1と同様の方法に従い、浸漬前剥離割合及び耐水性を調べた。ただし、耐水性の試験は、各試験管に10粒の被覆種子と10mLの水とを入れ、水を添加した8日後に試験管の震盪を行った。
【0152】
表14に示すように、浸漬前剥離割合は、JP−18S、JM−18S、又はJP−18SとJF−17Sの混合物を用いた場合に11%以下となり、JF−17Sのみを用いた場合(46%)よりも著しく低くなった。また、耐水性はJF−17S、又はJM−17Sを用いた場合に著しく高く、JP−18Sのみを用いた場合、水中での被覆資材の懸濁がやや見られた(
図3)。以上から、中間ケン化PVAは単独で、水に浸漬前の剥離の防止、及び耐水性を兼ね備えることができる。しかし、部分ケン化PVAを用いることで水に浸漬前の剥離を防ぎ、完全ケン化PVAを用いることで耐水性が得られ、両者を併用すれば、水に浸漬前の剥離の防止、及び耐水性を兼ね備えることができる。
【0153】
【表14】
【0154】
〔実施例9:酸化鉄とモリブデン資材との混合物による被覆〕
風乾水稲種子(品種:にこまる)に対し、風乾種子重の50%重の細粒酸化鉄(機能性資材)と、各種モリブデン資材(機能性資材)と、PVA(JM−17S、PVA比率1%重、粒子状固体のまま使用)とを用いて、実施例1と同様にして、霧吹きで水を添加しながら種子の表面に機能性資材とPVAとを付着させ、室温で自然乾燥させることにより被覆種子を製造した。
【0155】
なお、使用したモリブデン資材は、三酸化モリブデン(日本無機化学工業(株)製)、モリブドリン酸アンモニウム(日本新金属(株)製)、又はモリブドリン酸カリウム(日本新金属(株)製)である。また、各種モリブデン資材の使用量は、0、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、及び2mmolMo/g風乾種子に相当する量である。
【0156】
いずれの被覆種子でも、機能性資材の剥離はみられず、水中に入れても崩壊しなかった。
【0157】
〔実施例10:水稲種子におけるモリブデン資材又はタングステン資材での被覆〕
風乾水稲種子(品種:にこまる)に対し、各種モリブデン資材又はタングステン資材(機能性資材)と、PVA(JM−17S、PVA比率1%重、粒子状固体のまま使用)とを用いて、実施例1と同様にして、霧吹きで水を添加しながら種子の表面に機能性資材とPVAとを付着させ、室温で自然乾燥させることにより被覆種子を製造した。
【0158】
使用したモリブデン資材又はタングステン資材は、0.1,0.2,0.5,及び1mmolMoまたはW/g風乾種子に相当する量のモリブデン金属粉末(日本新金属(株)製、Mo−H)またはタングステン金属粉(日本新金属(株)製、W−H)である。
【0159】
いずれの被覆種子でも、機能性資材の剥離はみられず、水中に入れても崩壊しなかった。
【0160】
〔実施例11:麦類及び蕎麦の種子におけるモリブデン資材又はタングステン資材での被覆〕
風乾小麦種子(品種:チクゴイズミ)、風乾大麦種子(品種:ニシノチカラ)、及び風乾蕎麦種子(品種:さちいずみ)に対し、各種モリブデン資材又はタングステン資材(機能性資材)と、PVA(JM−17S、PVA比率1%重、粒子状固体のまま使用)とを用いて、実施例1と同様にして、霧吹きで水を添加しながら種子の表面に機能性資材とPVAとを付着させ、室温で自然乾燥させることにより被覆種子を製造した。
【0161】
使用したモリブデン資材又はタングステン資材は、0.1または0.2mmolMoまたはW/g風乾種子に相当する量の、三酸化モリブデン(日本無機化学工業(株)製)、モリブドリン酸アンモニウム(日本新金属(株)製)、モリブドリン酸カリウム(日本新金属(株)製)、及びタングストリン酸アンモニウム(和光純薬工業(株)製)である。
【0162】
いずれの被覆種子でも、機能性資材の剥離はみられず、水中に入れても崩壊しなかった。
【0163】
〔実施例12:大豆種子におけるモリブデン資材又はタングステン資材での被覆〕
風乾大豆種子(品種:フクユタカ)に対し、各種モリブデン資材又はタングステン資材(機能性資材)と、PVA(JM−17S、PVA比率2%重、粒子状固体のまま使用)とを用いて、実施例1と同様にして、霧吹きで水を添加しながら種子の表面に機能性資材とPVAとを付着させ、室温で自然乾燥させることにより被覆種子を製造した。
【0164】
使用したモリブデン資材又はタングステン資材は、0.5mmolMo/g風乾種子に相当する量の、三酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブドリン酸アンモニウム、モリブドリン酸カリウム、三酸化タングステン、タングステン酸、またはタングストリン酸アンモニウム、及びモリブドリン酸アンモニウムである。なお、これら資材は、モリブドリン酸カリウムのみ日本新金属(株)製で、他は和光純薬工業(株)製である。
【0165】
いずれの被覆種子でも、機能性資材の剥離はみられず、水中に入れても崩壊しなかった。
【0166】
〔実施例13:多量の水稲種子に対する酸化鉄の被覆〕
風乾水稲種子(品種:にこまる)3kgを網袋に入れて室温で1日間、水に浸漬した。この水稲種子を、脱水機(クボタSW−11)で30秒間、脱水した。この風乾3kg分の浸漬脱水種子に対して、風乾種子重の10%、20%、30%、40%、または50%の酸化鉄粉末(森下弁柄工業(株)製、品名:No.1094、酸化鉄(III)(99重量%)、平均粒径 0.57μm)と、当該酸化鉄粉末の1%重に相当するPVA(JM−17S)とを充分に混合した混合粉末を準備した。種子コーティングマシン(啓文社製作所 KC−151)に、風乾3kg分の浸漬脱水種子を入れ、コーティングマシンのドラムを回転させながら、上記混合粉末を少しずつ添加した。混合粉末の添加量が多くなると、種子に付着しない混合粉末が生じる状態になるため、その際は、霧吹きで種子に水を添加して、混合粉末を種子に付着させた。さらに、混合粉末を少しずつ添加し、霧吹きで水を加えるという操作を繰り返して、全ての混合粉末を種子に付着できた。
【0167】
また、水への浸漬日数を1日から3日に変更し(発芽している種子は見られなかった)、風乾種子重の20%または50%の上記酸化鉄粉末(森下弁柄工業(株)製、品名:No.1094)を当該酸化鉄粉末の1%重に相当する上記PVA(JM−17S)と混合して得た混合粉末を用いて、上記と同様に、被覆種子を作成した。また、同様に、風乾種子重の20%または50%の上記酸化鉄粉末(森下弁柄工業(株)製、品名:No.1094)に、0.05mmolMo/g風乾種子に相当する量のモリブドリン酸アンモニウムを加え、さらに酸化鉄粉末とモリブドリン酸アンモニウムの合計重量の1%重に相当する上記PVA(JM−17S)を加えた混合粉末でも、被覆種子を作成した。
【0168】
被覆種子作成後は、3cm程度の厚さに広げて、一晩、室温で乾燥させた。いずれの条件でも、乾燥時の剥離も、水中での剥離もほとんど見られず、正常に発芽した。
【0169】
〔参考例1:水稲の苗立ちに及ぼす石膏の影響〕
水稲の苗立ちに及ぼす石膏の影響について調べた。
【0170】
乾土100g相当量の水田湿潤土壌(福岡県筑後市の水田で採取、湿潤のまま冷蔵保管)を容器(直径約7cm円筒形)に採取した。これに、乾土の1.5倍重に相当する水溶液(土壌が分散しないように、乾土100kg/m
2換算で0.1molK/m
2となるように塩化カリウムを溶解)を添加した。容器に蓋をして室温で1時間ほど振盪した後、4℃で2日間静置し、湛水土壌を作製した。作製した湛水土壌は、土層が約3.5cm、土壌表面上の水層が約1cmとなった。
【0171】
70%エタノールと、次亜塩素酸ナトリウム溶液(和光純薬工業より購入)の5倍希釈液とに、水稲(品種:ヒノヒカリ)の風乾種子を10分間ずつ浸漬して消毒した後、10℃の水に5日間、30℃の水に1日間程度浸漬し、わずかに発芽させた。この催芽種子に、風乾種子重に対してそれぞれ0.00,0.02,0.05,0.1,0.2,0.5,1,2倍重(8条件)の焼石膏(化学用焼きセッコウ、和光純薬工業より購入)を、霧吹きで水を添加しながら少量ずつ混合し、催芽種子に石膏(石膏量8条件)を付着させた。また、催芽種子と同様の方法で、風乾種子にも石膏(石膏量8条件)を付着させた。
【0172】
上述した湛水土壌に、これらの処理種子(催芽の有無×石膏量8条件=16処理)を播種した。1つの容器には、同じ処理を施した8個の種子を深さ15mm、約2cm間隔で播種し、軽く揺らして播種穴を塞いだ。各処理には6容器を充てた。播種した容器は蓋をせずに、1日のうち半日だけ蛍光灯が点灯する30℃の恒温器内に静置した(以下、「30℃催芽種子」あるいは「30℃風乾種子」と表記する)。
【0173】
さらに、風乾種子については、それぞれ0.00,0.005,0.01,0.02,0.05,0.1,0.2,0.5倍重(8条件)の焼石膏(化学用焼きセッコウ、和光純薬工業より購入)を付着させ、播種した容器を、上述した恒温器と同様であって20℃の恒温器内に静置した(以下、「20℃風乾種子」と表記する)。
【0174】
その後、土壌表面の水が蒸発により減った際に蒸留水を補った。播種約3週間後(20℃風乾種子は5週間後)に、各容器の苗立ち割合(第3葉抽出個体数の割合)を調査し、処理別の苗立ち割合の平均と標準誤差とを求めた。
【0175】
水稲の苗立ち割合は、催芽の有無及び処理温度にかかわらず、石膏を付着させない場合(焼石膏量が0倍重)が最も高く、石膏の付着量が多いほど低い傾向がみられた。20℃風乾種子では0.02倍重以上、30℃風乾種子では0.1倍重以上、また30℃催芽種子では1倍重以上の焼石膏を付着させた場合に、苗立ち割合が10%未満となった。
【0176】
別途、硝子容器の側面にこれらの処理種子を播種し、硝子越しに種子近傍を観察したところ、石膏の付着量が多いほど、種子近傍が黒くなった。この黒い物質は硫化鉄(FeS)と考えられ、有害な硫化物イオン(S
2−)の生成を示唆する。この結果から、石膏(CaSO
4・nH
2O)に含まれる硫酸イオン(SO
42−)が湛水土壌中で還元されて硫化物イオン(S
2−)となっていると考えられた。すなわち、石膏が、水稲の苗立ちを悪化させる原因の一つとなっていると考えられた。