特許第6025243号(P6025243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025243
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】光電変換素子及びそれを用いた撮像素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20161107BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   H01L31/10 A
   H01L27/14 E
   H01L27/14 C
   H01L31/04 166
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-108495(P2012-108495)
(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-236008(P2013-236008A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
【審査官】 森江 健蔵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/134432(WO,A1)
【文献】 特開2011−114215(JP,A)
【文献】 特開2007−088033(JP,A)
【文献】 特開2009−182096(JP,A)
【文献】 特開2012−015434(JP,A)
【文献】 特開2011−228623(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136800(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0097233(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/10
H01L 27/146
H01L 51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極に挟持された少なくとも光電変換層を含む受光層を有する有機光電変換素子であって、
前記光電変換層と一方の前記電極との間に備えられた電子ブロッキング層と、
前記光電変換層ともう一方の前記電極との間に備えられた正孔ブロッキング層とを有し、該正孔ブロッキング層が、
フラーレン及び/又はフラーレン誘導体と、
イオン化ポテンシャルが5.5eV以上5.8eV以下である透明正孔輸送材料と、を含む混合層であることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記正孔ブロッキング層が、前記フラーレン及び/又は前記フラーレン誘導体を、含量30体積%以上80体積%以下の割合で含むことを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記含量が、50体積%以上75体積%以下の割合で含むことを特徴とする請求項に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記正孔ブロッキング層の平均層厚が5nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記正孔ブロッキング層の平均層厚が10nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記光電変換層が、p型有機材料とn型有機材料が混合されたバルクへテロ層であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記光電変換層が、フラーレンもしくはフラーレン誘導体を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記正孔ブロッキング層側の前記電極が、受光側に配された透明電極であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記一対の電極に外部から印加される電圧を前記一対の電極間の距離で割った値が1×10V/cm〜1×107V/cmであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項10】
複数の、請求項1〜のいずれかに記載の光電変換素子と、
前記光電変換素子の前記光電変換層で発生した電荷に応じた信号を読み出す信号読出し回路が形成された回路基板とを備えてなることを特徴とする撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機層からなる光電変換層を有する有機光電変換素子及びそれを備えてなる撮像素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話用カメラ、内視鏡用カメラ等に利用されているイメージセンサとして、CCDセンサやCMOSセンサなどの撮像素子が広く知られている。これらの素子には、光電変換層を含む受光層を備えた光電変換素子が備えられている。
【0003】
有機化合物を用いた光電変換素子及びそれを用いた撮像素子の開発が本出願人らによって進められている。本出願人らは、光電変換効率(感度)の向上を目的として、受光層の一部に、p型有機半導体とフラーレン又はフラーレン誘導体との混合層(バルクへテロ層)を用いた有機光電変換素子を出願している(特許文献1)。
【0004】
特許文献1によれば、光電変換効率(感度)の良い有機光電変換素子を提供することができる。しかしながら、光電変換素子のうち、センサや撮像素子等の用途で用いられる受光素子には、光電流/暗電流のS/N比、及び、応答速度がその性能において重要である。
【0005】
本出願人らは、外部電圧印加時にS/N比を低下させることなく光電変換効率(感度)や応答速度を向上させる有機受光素子として、発光素子として機能する有機光電変換素子(有機発光素子)において、外部電界により電極からのキャリア(電荷)注入を防ぐ電荷ブロッキング層を、電極と有機光電変換層との間に設けた有機受光素子を出願している(特許文献2)。
【0006】
また、本出願人らは、特許文献2の有機受光素子において、更に暗電流の抑制効果が得られる構成として、電極からの正孔注入を抑制する電荷ブロッキング層である正孔ブロッキング層に、フラーレン又はフラーレン誘導体と絶縁性材料を混合した層を用いた有機受光素子や(特許文献3)、フラーレン又はフラーレン誘導体と電子輸送性材料を混合した層を用いた有機受光素子を出願している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−123707号公報
【特許文献2】特開2007−88033号公報
【特許文献3】特開2009−182095号公報
【特許文献4】特開2012−19235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3、特許文献4の構成によれば、暗電流の抑制効果を得ることができるが、応答速度が遅く残像を生じやすいという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、感度が良く、光電流/暗電流のS/N比の良好であり、且つ、応答速度の良好な光電変換素子及びそれを備えたセンサ及び撮像素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
正孔ブロッキング層は、特開2009−182095号公報等に記載があるように、通常正孔輸送性の低い、電子輸送性を有する材料を含む構成とする。本出願人の既出願文献である特許文献4においても、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体に、後記する比較例に記載の化合物5(イオン化ポテンシャル6.3eV)の電子輸送性材料を含む正孔ブロッキング層を用いている。
【0011】
しかしながら、本発明者は、フラーレン又はフラーレン誘導体を含む正孔ブロッキング層においては、電子輸送性材料のみを含むことにより、正孔ブロッキング層中のフラーレン又はフラーレン誘導体が入射光(可視光)を吸収して発生したキャリア(正孔)の正孔ブロッキング層内での輸送速度を低下させ、そのキャリアが素子としての応答速度を低下させ、残像の要因となることを見出した。
【0012】
本発明者は、正孔ブロッキング層内において発生した正孔の、正孔ブロッキング層内における輸送速度を低下させることなく、良好に電極からの正孔注入を抑制することができる正孔ブロッキング層の構成について鋭意検討を行い本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明の光電変換素子は、一対の電極と、前記一対の電極に挟持された少なくとも光電変換層を含む受光層を有する有機光電変換素子であって、
前記光電変換層と一方の前記電極との間に備えられた電子ブロッキング層と、
前記光電変換層ともう一方の前記電極との間に備えられた正孔ブロッキング層とを有し、
該正孔ブロッキング層が、
フラーレン及び/又はフラーレン誘導体と、
イオン化ポテンシャルが5.5eV以上である透明正孔輸送材料と、を含むことを特徴とするものである。
【0014】
本明細書における「透明正孔輸送材料」について説明する。ここで「透明」とは、イオン化ポテンシャルと電子親和力との差(HOMO―LUMO間ギャップ)が3.0eV以上であることを意味し、また、「正孔輸送材料」とは、正孔ブロッキング層に含まれるフラーレン又はフラーレン誘導体のうち、最もイオン化ポテンシャル値の低い材料のイオン化ポテンシャルよりも低い材料を意味する。
【0015】
材料のイオン化ポテンシャルは、石英基板上に材料を約100nmの膜厚で成膜して、表面分析装置を用いて測定することができる。本明細書においては、理研計器社製AC−2表面分析装置を用いている。
【0016】
また、イオン化ポテンシャルと電子親和力の差は、まず成膜した材料のスペキュラーを測定し、その吸収端のエネルギーを求めることにより決定される。吸収端のエネルギーが、イオン化ポテンシャルと電子親和力のエネルギー差に相当する。
【0017】
本発明の光電変換素子において、前記正孔ブロッキング層は、前記フラーレン及び/又はフラーレン誘導体と、イオン化ポテンシャルが5.5eV以上である透明正孔輸送材料と、を含む混合層であることが好ましい。本明細書において、混合層とは、複数の材料が混ざり合った又は分散された層を意味する。
【0018】
前記正孔ブロッキング層は、前記フラーレン及び/又は前記フラーレン誘導体を含量30体積%以上80体積%以下の割合で含むことが好ましく、含量50体積%以上75体積%以下の割合で含むことがより好ましい。ここで、含量とは、正孔ブロッキング層に含まれる前記フラーレン及び/又はフラーレン誘導体の総量を意味する。
【0019】
前記正孔ブロッキング層の平均層厚は、5nm以上100nm以下であることが好ましがより好ましい。
【0020】
前記光電変換層は、p型有機材料とn型有機材料が混合されたバルクへテロ層であることが好ましく、また、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体を含むものであることが好ましい。
【0021】
また、本発明の光電変換素子において、前記正孔ブロッキング層側の前記電極が、受光側に配された透明電極である構成、すなわち、本発明の光電変換素子は、正孔捕集電極/電子ブロッキング層/光電変換層/正孔ブロッキング層/透明電子捕集電極の順に積層されてなることが好ましい。
【0022】
更に、前記一対の電極に外部から印加される電圧を前記一対の電極間の距離で割った値が1×10V/cm〜1×107V/cmであることが好ましい。
【0023】
本発明の撮像素子は、複数の、上記本発明の光電変換素子と、前記光電変換素子の前記光電変換層で発生した電荷に応じた信号を読み出す信号読出し回路が形成された回路基板とを備えてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光電変換素子は、正孔ブロッキング層に、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体とイオン化ポテンシャルが5.5eV以上である透明正孔輸送材料とを含む混合層を備えてなる。かかる構成によれば、正孔ブロッキング層内において発生した正孔の、正孔ブロッキング層内における輸送速度を低下させることなく、良好に電極からの正孔注入を抑制することができる。従って、本発明によれば、感度が良く、光電流/暗電流のS/N比の良好であり、且つ、応答速度の速い光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態の光電変換素子の概略構成を示す断面模式図
図2】本発明の一実施形態の撮像素子の概略構成を示す断面模式図
図3】実施例及び比較例の光電変換素子における暗電流値と正孔ブロッキング層中の透明正孔輸送材料のイオン化ポテンシャル値との関係を示す図
図4】実施例及び比較例の光電変換素子における応答速度と正孔ブロッキング層中の透明正孔輸送材料のイオン化ポテンシャル値との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
「光電変換素子」
図面を参照して、本発明にかかる一実施形態の光電変換素子について説明する。図1は、本実施形態の光電変換素子の構成を示す概略断面図である。本明細書の図面において、視認しやすくするため、各部の縮尺は適宜変更して示してある。
【0027】
図1に示されるように、有機光電変換素子1(光電変換素子1)は、基板10と、基板10上に形成された正孔捕集電極20と、正孔捕集電極20上に形成された電子ブロッキング層31と、電子ブロッキング層31上に形成された光電変換層32と、光電変換層32上に形成された正孔ブロッキング層33と、正孔ブロッキング層33上に形成された電子捕集電極40と、電子捕集電極40の表面及び、正孔捕集電極20から電子捕集電極40まで積層された積層体の側面を被覆してなる封止層50とを備える。
【0028】
光電変換素子1において、電子ブロッキング層31と光電変換層32と正孔ブロッキング層33とによって受光層30が形成されている。
【0029】
また、光電変換素子1において、電子捕集電極40を光入射側の電極としており、電子捕集電極40上方から光が入射すると、この光が電子捕集電極40を透過して光電変換層32に入射し、ここで電荷が発生する。発生した電荷のうちの正孔は正孔捕集電極20に移動し、電子は電子捕集電極40に移動する。
【0030】
電子捕集電極40及び正孔捕集電極20間にバイアス電圧(外部電場)を印加することで、光電変換層32で発生した電荷のうち、正孔を正孔捕集電極20に、電子を電子捕集電極40に移動させることができる。光電変換効率(感度)、暗電流、光応答速度において、優れた特性を得るために、正孔捕集電極20と電子捕集電極40との間に印加する外部電場としては、1V/cm以上1×10V/cm以下が好ましい。
【0031】
光電変換素子1において、正孔ブロッキング層33は、外部電圧印加時に電子捕集電極40からの正孔注入を抑制する層であり、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体と、イオン化ポテンシャルが5.5eV以上である透明正孔輸送材料とを含む層である。また、正孔ブロッキング層33は、上に形成する層(本実施形態では電子捕集電極40)の形成時、光電変換層32を保護して成膜ダメージを抑制する機能を有する。
【0032】
フラーレン及び/又はフラーレン誘導体としては特に制限なく、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC80、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC96、フラーレンC240、フラーレン540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ等が挙げられる。以下に代表的なフラーレンの骨格を示す。
【化1】
【0033】
また、フラーレン誘導体とはこれらに置換基が付加された化合物のことを表す。フラーレン誘導体の置換基として好ましくは、アルキル基、アリール基、又は複素環基である。アルキル基として更に好ましくは、炭素数1〜12までのアルキル基であり、アリール基、及び複素環基として好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、ベンズイミダゾール環、イミダゾピリジン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、またはフェナジン環であり、さらに好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、またはチアゾール環であり、特に好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、またはピリジン環である。これらはさらに置換基を有していてもよく、その置換基は可能な限り結合して環を形成してもよい。なお、複数の置換基を有しても良く、それらは同一であっても異なっていてもよい。また、複数の置換基は可能な限り結合して環を形成してもよい。
【0034】
透明正孔輸送材料としては、イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であれば特に制限されない。イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であれば、正孔輸送材料であっても電子捕集電極40からの光電変換層32への正孔注入を効果的に抑制することができる。
【0035】
かかる透明正孔輸送材料としては、下記化合物1〜化合物4等が挙げられる。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【0036】
正孔ブロッキング層33は、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体と、透明正孔輸送材料との比率が一定の層でもよいし、膜厚方向に比率の異なる傾斜組成層であってもよい。
【0037】
正孔ブロッキング層33中の上記比率は特に制限されないが、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体の含量が少なすぎると、正孔ブロッキング層33中の電子輸送能が低下してしまい、光電変換層32で発生した電子(キャリア)を電子捕集電極40に輸送する効率が低下し、感度が低下してしまう。
【0038】
また、既に述べたように、フラーレン及びフラーレン誘導体は可視光を吸収するために、正孔ブロッキング層33中でも、吸収した光によりキャリアが発生する。正孔ブロッキング層33中のフラーレン及び/又はフラーレン誘導体の含量が多すぎると、正孔ブロッキング層33中の正孔輸送能が低下してしまい、応答速度の低下を引き起こす。
【0039】
かかる観点から、正孔ブロッキング層33中のフラーレン及び/又はフラーレン誘導体の含量は、30体積%以上80体積%以下であることが好ましく、50体積%以上75体積%以下であることがより好ましい。
【0040】
また、正孔ブロッキング層33は、複数の材料が混ざり合った又は分散された混合層であってもよいし、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体と、透明正孔輸送材料との比率が異なる複数の積層であってもよいが、混合層であることが好ましい。
【0041】
正孔ブロッキング層33の成膜方法は、特に制限されないが、成膜時のすべての工程は真空中で行われることが好ましく、基本的には化合物が直接、外気の酸素、水分と接触しないようにすることが好ましい。かかる成膜方法としては、真空蒸着法が挙げられる。真空蒸着法においては、水晶振動子、干渉計等の膜厚モニタ−を用いて蒸着速度をPIもしくはPID制御することが好ましい。
【0042】
混合層である場合は、透明正孔輸送材料とフラーレンとを同時に蒸着可能な共蒸着法を用いることができ、共蒸着法は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、フラッシュ蒸着等を用いて実施することが好ましい。
【0043】
正孔ブロッキング層33の膜厚は、正孔ブロッキング層としての機能を充分発揮できる膜厚であれば特に制限されないが、厚すぎると、光電変換層32に適切な電界強度を印加するために必要な供給電圧が高くなるため好ましくない。従って、正孔ブロッキング層33の膜厚は、5nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましく、10nm以上20nm以下であることが更に好ましい。
【0044】
後記実施例及び比較例及びその結果をまとめた表2に示されるように、光電変換素子1は、正孔ブロッキング層33において、正孔ブロッキング層33内において発生した正孔の、正孔ブロッキング層33内における輸送速度を低下させることなく、良好に電極からの正孔注入を抑制し、良好な光電流/暗電流のS/N比と良好な応答速度を達成することができる。
【0045】
以下に、光電変換素子1の正孔ブロッキング層33以外の構成について詳細に説明する。
【0046】
<基板及び電極>
基板10としては特に制限なく、シリコン基板、ガラス基板等を用いることができる。
【0047】
正孔捕集電極20は、光電変換層32で発生した電荷のうちの正孔を捕集するための電極であり、後記する撮像素子の構成においては画素電極に相当する。正孔捕集電極20としては、導電性が良好であれば特に制限されないが、用途に応じて、透明性を持たせる場合と、逆に透明を持たせず光を反射させるような材料を用いる場合等がある。
【0048】
具体的には、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硼化物、有機導電性化合物、これらの混合物等が挙げられ、更に具体的には、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル、チタン、タングステン、アルミ等の金属及びこれらの金属の酸化物や窒化物などの導電性化合物(一例として窒化チタン(TiN)を挙げる)、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITO又は窒化チタンとの積層物などが挙げられる。正孔捕集電極20として特に好ましいのは、窒化チタン、窒化モリブデン、窒化タンタル、窒化タングステンのいずれかの材料である。
【0049】
電子捕集電極40は、光電変換層32で発生した電荷のうちの電子を捕集する電極であり、本実施形態では受光側に配された透明電極である。電子捕集電極40としては、光電変換層32に光を入射させるために、光電変換層32が感度を持つ波長の光に対して十分に透明な導電性材料であれば特に制限されないいが、光電変換層32に入射する光の絶対量が大きく、外部量子効率を高くするために、透明導電性酸化物を用いることが好ましい。電子捕集電極40は、後記する撮像素子の構成においては画素電極に相当する。
【0050】
電子捕集電極40としては、具体的には、ITO、IZO、SnO2、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO2、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)のいずれかの材料が挙げられる。
【0051】
電子捕集電極40の光透過率は、可視光波長において、60%以上が好ましく、より好ましくは80%以上で、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0052】
電極(20,40)を形成する方法は特に限定されず、電極材料との適正を考慮して適宜選択することができる。具体的には、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式等により形成することができる。
【0053】
電極の材料がITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾルーゲル法など)、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法で形成することができる。更に、ITOを用いて作製された膜に、UV−オゾン処理、プラズマ処理などを施すことができる。電極の材料がTiNの場合、反応性スパッタリング法をはじめとする各種の方法が用いられ、更にアニール処理、UV−オゾン処理、プラズマ処理などを施すことができる。
【0054】
TCOなどの透明導電膜を電子捕集電極40とした場合、DCショート、あるいはリーク電流増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層32に導入される微細なクラックがTCOなどの緻密な膜によってカバレッジされ、反対側の下部電極20との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る電極の場合、リーク電流の増大は生じにくい。電子捕集電極40の膜厚を、光電変換層32の膜厚(すなわち、クラックの深さ)に対して制御する事により、リーク電流の増大を大きく抑制できる。電子捕集電極40の厚みは、光電変換層32厚みの1/5以下、好ましくは1/10以下であるようにする事が望ましい。
【0055】
通常、導電性膜をある範囲より薄くすると、急激な抵抗値の増加をもたらすが、本実施形態に係る光電変換素子を組み込んだ固体撮像素子では、シート抵抗は、好ましくは100〜10000Ω/□でよく、薄膜化できる膜厚の範囲の自由度は大きい。また、上部電極40は厚みが薄いほど吸収する光の量は少なくなり、一般に光透過率が増す。光透過率の増加は、光電変換層32での光吸収を増大させ、光電変換能を増大させるため、非常に好ましい。薄膜化に伴う、リーク電流の抑制、薄膜の抵抗値の増大、透過率の増加を考慮すると、電子捕集電極40の膜厚は、5〜100nmであることが好ましく、5〜20nmである事がより好ましい。
【0056】
<受光層>
受光層30は、少なくとも電子ブロッキング層31と光電変換層32と既に述べた正孔ブロッキング層とを含む層である。
【0057】
受光層30の成膜方法は特に制限されず、それぞれの乾式成膜法又は湿式成膜法により形成することができるが、正孔ブロッキング層の説明においても述べたように、成膜時のすべての工程は真空中で行われることが好ましく、基本的には化合物が直接、外気の酸素、水分と接触しないようにすることが好ましい。かかる成膜方法としては真空蒸着法が挙げられる。真空蒸着法においては、水晶振動子、干渉計等の膜厚モニタ−を用いて蒸着速度をPIもしくはPID制御することが好ましい。また、2種以上の化合物を同時に蒸着する場合には共蒸着法を用いることができ、共蒸着法は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、フラッシュ蒸着等を用いて実施することが好ましい。
【0058】
受光層30を乾式成膜法により形成する場合、形成時の真空度は、受光層形成時の素子特性の劣化を防止することを考慮すると、1×10−3Pa以下が好ましく、4×10−4Pa以下がさらに好ましく、1×10−4Pa以下が特に好ましい。
【0059】
受光層30の厚みは、10nm以上1000nm以下が好ましく、さらに好ましくは50nm以上800nm以下、特に好ましくは100nm以上600nm以下である。10nm以上とすることにより、好適な暗電流抑制効果が得られ、1000nm以下とすることにより、好適な光電変換効率(感度)が得られる。
【0060】
<<光電変換層>>
光電変換素子1において、光電変換層32は、光を受光し、その光量に応じた電荷を発生するものであり、有機の光電変換材料を含んで構成されている。
【0061】
光電変換層32としては特に制限されないが、p型有機半導体又はn型有機半導体を含有した層であることが好ましく、有機p型化合物と、有機n型化合物を混合したバルクへテロ層(混合層)を少なくとも一部に含むことがより好ましい。光電変換層としてバルクへテロ層を用いることにより、光電変換効率(感度)を向上させることができる。最適な混合比率でバルクへテロ層を作製することにより、光電変換層の電子移動度、正孔移動度を高くすることができ、光電変換素子の光応答速度を高速にすることができる。
【0062】
更に、光電変換層32は、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体をn型有機半導体として含むことが好ましい。フラーレン及び/又はフラーレン誘導体を含むことにより、フラーレン分子またはフラーレン誘導体分子が連なった状態になって電子の経路が形成されるため、電子輸送性が向上して、光電変換層のキャリア拡散長が短いという欠点を補い、有機光電変換素子の高速応答性が実現可能となる。
【0063】
光電変換層32において、フラーレン又はフラーレン誘導体が多すぎるとp型有機半導体が少なくなって接合界面が小さくなり励起子解離効率が低下して入射光の吸収量が低下する。フラーレン及び/又はフラーレン誘導体の光電変換層32における総含量は、40体積%以上85体積%以下であることが好ましい。
【0064】
光電変換層32におけるフラーレン又はフラーレン誘導体については、正孔ブロッキング層33と同様であるので、ここでの説明は割愛する。
【0065】
光電変換層32において、フラーレン又はフラーレン誘導体と共に混合されるp型有機半導体は、ドナー性有機半導体(化合物)であり、主に正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物あり、さらに詳しくは2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物である。従って、ドナー性有機化合物は、電子供与性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。
【0066】
p型有機半導体としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ピラン化合物、キナクリドン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等を用いることができ、トリアリールアミン化合物、ピラン化合物、キナクリドン化合物、ピロール化合物、フタロシアニン化合物、メロシアニン化合物、縮合芳香族炭素環化合物が好ましい。
【0067】
高いSN比を達成可能なp型有機半導体としては、特許第4213832号公報等に記載されたトリアリールアミン化合物、下記化合物5等が挙げられる。
【化6】
【0068】
光電変換層32は、有機ELの発光層(電気信号を光に変換する層)とは異なり非発光性の層である。非発光性層とは、可視光領域(波長400nm〜730nm)において発光量子効率が1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下の層であることを意味する。光電変換層32において、発光量子効率が1%を超えると、センサや撮像素子に適用した場合にセンシング性能又は撮像性能に影響を与えるため、好ましくない。
【0069】
<<電子ブロッキング層>>
電子ブロッキング層31は、正孔捕集電極20から光電変換層32に電子が注入されるのを抑制するための層である。有機材料単独膜で構成されてもよいし、複数の異なる有機材料あるいは無機材料の混合膜で構成されていてもよい。
【0070】
電子ブロッキング層31は、複数層で構成してあってもよい。このようにすることで、電子ブロッキング層31を構成する各層の間に界面ができ、各層に存在する中間準位に不連続性が生じる。この結果、中間準位等を介した電荷の移動がしにくくなるため電子ブロッキング効果を高めることができる。但し、電子ブロッキング層31を構成する各層が同一材料であると、各層に存在する中間準位が全く同じとなる場合も有り得るため、電子ブロッキング効果を更に高めるために、各層を構成する材料を異なるものにすることが好ましい。
【0071】
電子ブロッキング層31は、正孔捕集電極20からの電子注入障壁が高くかつ正孔輸送性が高い材料で構成することが好ましい。電子注入障壁としては、隣接する電極の仕事関数よりも、電子ブロッキング層の電子親和力が1eV以上小さいことが好ましい、より好ましくは1.3eV以上、特に好ましいのは1.5eV以上である。
【0072】
電子ブロッキング層31は、正孔捕集電極20と光電変換層32との接触を充分に抑制し、また正孔捕集電極20表面に存在する欠陥やゴミの影響を避けるために、20nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、60nm以上であることが更に好ましい。
【0073】
既に述べた正孔ブロッキング層33及び電子ブロッキング層31より構成される電荷ブロッキング層は、厚くしすぎると、光電変換層に適切な電界強度を印加するために必要な、供給電圧が高くなってしまう問題や、電荷ブロッキング層中のキャリア輸送過程が、光電変換素子の性能に悪影響を与えてしまう問題を生じる可能性がある。従って、正孔ブロッキング層33及び電子ブロッキング層31の合計膜厚は、300nm以下となるように設計されることが好ましい。該合計膜厚は、200nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましい。
【0074】
電子ブロッキング層31には、電子供与性有機材料を用いることができる。具体的には、低分子材料では、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体などを用いることができ、高分子材料では、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体や、その誘導体を用いることができる。電子供与性化合物でなくとも、充分な正孔輸送性を有する化合物であれば用いることは可能である。具体的には、例えば、特開2008−72090号公報に記載された化合物等を好ましく用いることができる。
【0075】
電子ブロッキング層31としては無機材料を用いることもできる。一般的に、無機材料は有機材料よりも誘電率が大きいため、電子ブロッキング層31に用いた場合に、光電変換層32に電圧が多くかかるようになり、光電変換効率(感度)を高くすることができる。電子ブロッキング層31となりうる材料としては、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化クロム銅、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム銅、酸化ストロンチウム銅、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム銅、酸化インジウム銀、酸化イリジウム等がある。
【0076】
電子ブロッキング層31が単層の場合にはその層を無機材料からなる層とすることができ、または、複数層の場合には1つ又は2以上の層を無機材料からなる層とすることができる。
【0077】
<封止層>
封止層50は、光電変換素子1、もしくは後記する撮像素子100の作製後に、水分子や酸素分子などの光電変換材料を劣化させる因子の侵入を阻止して、長期間の保存/使用にわたって、光電変換層の劣化を防止するための層である。また、封止層50は、封止層成膜後の撮像素子100の作製工程において溶液、プラズマなどに含まれる光電変換層を劣化させる因子の侵入を阻止して光電変換層を保護するための層でもある。
【0078】
封止層50は、正孔捕集電極20、電子ブロッキング層31、光電変換層32、正孔ブロッキング層33及び電子捕集電極40を覆って形成されている。
【0079】
光電変換素子1では、入射光は封止層50を通じて光電変換層32に到達するので、光光電変換層32に光を効率よく入射させるために、封止層50は、光電変換層32が感度を持つ波長の光に対して十分に透明である必要がある。かかる封止層50としては、水分子を浸透させない緻密な金属酸化物・金属窒化物・金属窒化酸化物などセラミクスやダイヤモンド状炭素(DLC)などがあげられ、従来から、酸化アルミニウム、酸化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素やそれらの積層膜、それらと有機高分子の積層膜などが用いられている。
【0080】
封止層50は、単一材料からなる薄膜で構成することもできるが、多層構成にして各層に別々の機能を付与することで、封止層50全体の応力緩和、製造工程中の発塵等によるクラック、ピンホールなどの欠陥発生の抑制、材料開発の最適化が容易になることなどの効果が期待できる。例えば、封止層50は、水分子などの劣化因子の浸透を阻止する本来の目的を果たす層の上に、その層で達成することが難しい機能を持たせた「封止補助層」を積層した2層構成を形成することができる。3層以上の構成も可能だが、製造コストを勘案するとなるべく層数は少ない方が好ましい。
【0081】
封止層50の形成方法は、特に制限されず、既に成膜された光電変換層32等の性能、膜質をなるべく劣化させない方法で成膜されることが好ましい。
【0082】
有機光電変換材料は、水分子、酸素分子などの劣化因子の存在で顕著に性能が劣化してしまう。そのために劣化因子を浸透させない緻密な金属酸化物、金属窒化酸化物などで光電変換層全体を被覆して封止することが必要である。従来から、酸化アルミニウム、酸化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素やそれらの積層構成、それらと有機高分子の積層構成などを封止層として、各種真空成膜技術で形成されている。
【0083】
しかしながら、従来の封止層は、基板表面の構造物、基板表面の微小欠陥、基板表面に付着したパーティクルなどによる段差において、薄膜の成長が困難なので(段差が影になるので)平坦部と比べて膜厚が顕著に薄くなる。このために段差部分が劣化因子の浸透する経路になってしまう。この段差を封止層で完全に被覆するには、平坦部において1μm以上の膜厚になるように成膜して、封止層全体を厚くする必要がある。封止層形成時の真空度は、1×10Pa以下が好ましく、5×10Pa以下がさらに好ましい。
【0084】
画素寸法が2μm未満、特に1μm程度の撮像素子とした場合、封止層50の膜厚が大きいと、カラーフィルタと光電変換層との距離が大きくなり、封止層内で入射光が回折/発散し、混色が発生する恐れがある。従って、画素寸法が1μm程度の撮像素子への適用を考えた場合、封止層50の膜厚を減少させても素子性能が劣化しないような封止層材料/製造方法が必要になる。
【0085】
原子層堆積(ALD)法は、CVD法の一種で、薄膜材料となる有機金属化合物分子、金属ハロゲン化物分子、金属水素化物分子の基板表面への吸着/反応と、それらに含まれる未反応基の分解を、交互に繰返して薄膜を形成する技術である。基板表面へ薄膜材料が到達する際は上記低分子の状態なので、低分子が入り込めるごくわずかな空間さえあれば薄膜が成長可能である。そのために、従来の薄膜形成法では困難であった段差部分を完全に被覆し(段差部分に成長した薄膜の厚さが平坦部分に成長した薄膜の厚さと同じ)、すなわち段差被覆性が非常に優れる。そのため、基板表面の構造物、基板表面の微小欠陥、基板表面に付着したパーティクルなどによる段差を完全に被覆できるので、そのような段差部分が光電変換材料の劣化因子の浸入経路にならない。封止層50の形成を原子層堆積法で行なった場合は従来技術よりも効果的に必要な封止層膜厚を薄くすることが可能になる。
【0086】
原子層堆積法で封止層50を形成する場合は、先述した封止層50に好ましいセラミクスに対応した材料を適宜選択できる。もっとも、本発明の光電変換層は有機光電変換材料を使用するために、有機光電変換材料が劣化しないような、比較的に低温で薄膜成長が可能な材料に制限される。アルキルアルミニウムやハロゲン化アルミニウムを材料とした原子層堆積法によると、有機光電変換材料が劣化しない200℃未満で緻密な酸化アルミニウム薄膜を形成することができる。特にトリメチルアルミニウムを使用した場合は100℃程度でも酸化アルミニウム薄膜を形成でき好ましい。酸化珪素や酸化チタンも材料を適切に選択することで酸化アルミニウムと同様に200℃未満で緻密な薄膜を形成することができ好ましい。
【0087】
封止層は、水分子などの光電変換材料を劣化させる因子の侵入を十分阻止するために、10nm以上の膜厚であることが好ましい。撮像素子において、封止層の膜厚が大きいと、封止層内で入射光が回折または発散してしまい、混色が発生する。封止層の膜厚としては、200nm以下であることが好ましい。
【0088】
なお、原子層堆積法により形成した薄膜は、段差被覆性、緻密性という観点からは比類なく良質な薄膜形成を低温で達成できる。もっとも、薄膜材料の物性が、フォトリソグラフィ工程で使用する薬品で劣化してしまうことがある。例えば、原子層堆積法で成膜した酸化アルミニウム薄膜は非晶質なので、現像液や剥離液のようなアルカリ溶液で表面が侵食されてしまう。
【0089】
また、原子層堆積法のようなCVD法で形成した薄膜は内部応力が非常に大きな引張応力を持つ例が多く、半導体製造工程のように、断続的な加熱、冷却が繰返される工程や、長期間の高温/高湿度雰囲気下での保存/使用により、薄膜自体に亀裂の入る劣化が発生することがある。
【0090】
従って、原子層堆積法により成膜した封止層50を用いる場合は、耐薬品性に優れ、且つ、封止層50の内部応力を相殺可能な封止補助層を形成することが好ましい。
【0091】
かかる補助封止層としては、例えば、スパッタ法などの物理的気相成膜(PVD)法で成膜した耐薬品性に優れる金属酸化物、金属窒化物、金属窒化酸化物などのセラミクスのいずれか1つを含む層が挙げられる。スパッタ法などのPVD法で成膜したセラミクスは大きな圧縮応力を持つことが多く、原子層堆積法で形成した封止層50の引張応力を相殺することができる。
【0092】
「撮像素子」
次に、光電変換素子1を備えた撮像素子100の構成について、図2を参照して説明する。図2は、本発明の一実施形態を説明するための撮像素子の概略構成を示す断面模式図である。この撮像素子は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮像装置、電子内視鏡、携帯電話機等の撮像モジュール等に搭載して用いられる。
【0093】
撮像素子100は、図1に示したような構成の複数の有機光電変換素子1と、各有機光電変換素子の光電変換層で発生した電荷に応じた信号を読み出す読み出し回路が形成された回路基板とを有し、該回路基板上方の同一面上に、複数の有機光電変換素子が1次元状又は二次元状に配列された構成となっている。
【0094】
撮像素子100は、基板101と、絶縁層102と、接続電極103と、画素電極104と、接続部105と、接続部106と、受光層107と、対向電極108と、緩衝層109と、封止層110と、カラーフィルタ(CF)111と、隔壁112と、遮光層113と、保護層114と、対向電極電圧供給部115と、読出し回路116とを備える。
【0095】
画素電極104は、図1に示した有機光電変換素子1の正孔捕集電極20と同じ機能を有する。対向電極108は、図1に示した有機光電変換素子1の電子捕集電極40と同じ機能を有する。受光層107は、図1に示した有機光電変換素子1の正孔捕集電極20と電子捕集電極40との間に設けられる受光層30と同じ構成である。封止層110は、図1に示した有機光電変換素子1の封止層50と同じ機能を有する。画素電極104と、これに対向する対向電極108の一部と、これら電極で挟まれる受光層107と、画素電極104に対向する緩衝層109及び封止層110の一部とが、有機光電変換素子を構成している。
【0096】
基板101は、ガラス基板又はSi等の半導体基板である。基板101上には絶縁層102が形成されている。絶縁層102の表面には複数の画素電極104と複数の接続電極103が形成されている。
【0097】
受光層107は、複数の画素電極104の上にこれらを覆って設けられた全ての有機光電変換素子で共通の層である。
【0098】
対向電極108は、受光層107上に設けられた、全ての有機光電変換素子で共通の1つの電極である。対向電極108は、受光層107よりも外側に配置された接続電極103の上にまで形成されており、接続電極103と電気的に接続されている。
【0099】
接続部106は、絶縁層102に埋設されており、接続電極103と対向電極電圧供給部115とを電気的に接続するためのプラグ等である。対向電極電圧供給部115は、基板101に形成され、接続部106及び接続電極103を介して対向電極108に所定の電圧を印加する。対向電極108に印加すべき電圧が撮像素子の電源電圧よりも高い場合は、チャージポンプ等の昇圧回路によって電源電圧を昇圧して上記所定の電圧を供給する。
【0100】
読出し回路116は、複数の画素電極104の各々に対応して基板101に設けられており、対応する画素電極104で捕集された電荷に応じた信号を読出すものである。読出し回路116は、例えばCCD、MOS回路、又はTFT回路等で構成されており、絶縁層102内に配置された図示しない遮光層によって遮光されている。読み出し回路116は、それに対応する画素電極104と接続部105を介して電気的に接続されている。
【0101】
緩衝層109は、対向電極108上に、対向電極108を覆って形成されている。封止層110は、緩衝層109上に、緩衝層109を覆って形成されている。カラーフィルタ111は、封止層110上の各画素電極104と対向する位置に形成されている。隔壁112は、カラーフィルタ111同士の間に設けられており、カラーフィルタ111の光透過効率を向上させるためのものである。
【0102】
遮光層113は、封止層110上のカラーフィルタ111及び隔壁112を設けた領域以外に形成されており、有効画素領域以外に形成された受光層107に光が入射する事を防止する。保護層114は、カラーフィルタ111、隔壁112、及び遮光層113上に形成されており、撮像素子100全体を保護する。
【0103】
このように構成された撮像素子100では、光が入射すると、この光が受光層107に入射し、ここで電荷が発生する。発生した電荷のうちの正孔は、画素電極104で捕集され、その量に応じた電圧信号が読み出し回路116によって撮像素子100外部に出力される。
【0104】
撮像素子100の製造方法は、次の通りである。
対向電極電圧供給部115と読み出し回路116が形成された回路基板上に、接続部105,106、複数の接続電極103、複数の画素電極104、及び絶縁層102を形成する。複数の画素電極104は、絶縁層102の表面に例えば正方格子状に配置する。
【0105】
次に、複数の画素電極104上に、受光層107、対向電極108、緩衝層109、封止層110を順次形成する。受光層107、対向電極108、封止層110の形成方法は、上記光電変換素子1の説明において記したとおりである。緩衝層109については、例えば真空抵抗加熱蒸着法によって形成する。次に、カラーフィルタ111、隔壁112、遮光層113を形成後、保護層114を形成して、撮像素子100を完成する。
【実施例1】
【0106】
(実施例1)
基板として、ガラス基板を用意し、基板上に、TiN正孔捕集電極(100nm厚)をスパッタ法により成膜し、次いで、上記化合物1を真空蒸着法により電子ブロッキング層を成膜した(100nm厚)。
【0107】
次に、光電変換層として、化合物5とC60の混合層を共蒸着により成膜し(400nm厚)、更に、光電変換層上に、正孔ブロッキング層として化合物1とC60の混合層を、共蒸着により成膜した(10nm厚)。電子ブロッキング層、真空ブロッキング層、正孔ブロッキング層の蒸着は、いずれも真空蒸着装置を用いて、5.0×10-4Pa以下真空度で、蒸着速度3Å/sで成膜を行った。光電変換層の成膜は、化合物5とC60との混合比が、化合物5:C60=1:3(体積比)となる条件とし、正孔ブロッキング層の成膜は、化合物1とC60との混合比が、化合物1:C60=1:2(体積比)となる条件として行った。
【0108】
ついで上部電極はITO(酸化インジウム錫)をDCスパッタ法により、10nmの膜厚で形成し、更に、正孔捕集電極、電子ブロッキング層、光電変換層、正孔ブロッキング層、電子捕集電極を被覆する封止層として、100nm厚の酸化アルミニウム層を原子層堆積法により形成して本発明の光電変換素子を得た。
【0109】
(実施例2)
正孔ブロッキング層の組成を、化合物1とC60との混合比が、化合物1:C60=1:3(体積比)となる条件とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0110】
(実施例3)
正孔ブロッキング層の組成を、化合物1とC60との混合比が、化合物1:C60=1:1(体積比)となる条件とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0111】
(実施例4)
正孔ブロッキング層の膜厚を20nmとした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0112】
(実施例5)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物2とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0113】
(実施例6)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物3とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0114】
(実施例7)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物4とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した
【0115】
(比較例1)
正孔ブロッキング層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0116】
(比較例2)
正孔ブロッキング層の組成を、C60(100質量%)とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0117】
(比較例3)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物6とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0118】
(比較例4)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物7とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0119】
(比較例5)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物8とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0120】
(比較例6)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物9とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0121】
(比較例7)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物10とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0122】
(比較例8)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物11とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0123】
(比較例9)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物12とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0124】
(比較例10)
正孔ブロッキング層の化合物1を、化合物13とした以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0125】
(評価)
上記実施例及び比較例の光電変換素子について、感度、暗電流、光応答速度の評価を実施した。感度、暗電流、光応答速度の評価は、光電変換素子の電子捕集電極に正のバイアスを3.0×10V/cm印加した状態で実施した。暗電流は、遮光下でKeithley社製6430型ソースメータを用いて測定した。感度は、素子に波長560nm、エネルギー50μW/cmの光を入射した時の電流値を、Keithley社製6430型ソースメータを用いて測定し、その電流値から暗電流を減算して求めた。光応答速度は、素子に中心波長525nmのLED光を入射し、入射した光をオフにした時間から100μs後における残像電流の割合(電流値/光入射時の電流値)にて評価した。
【0126】
各例に用いた化合物1〜4及び6〜13とC60のイオン化ポテンシャルと、イオン化ポテンシャルと電子親和力の差については表1に、表2に作製した素子の評価結果を示す。
【0127】
また、各例において用いた化合物のイオン化ポテンシャルの値と暗電流との関係を図3に、イオン化ポテンシャルと残像との関係を図4に示す。
【0128】
表2及び図3図4に示されるように、正孔ブロッキング層のない比較例1に比して、実施例1〜実施例7では、本発明における正孔ブロッキング層の導入により、低い暗電流値、及び、残像の少ない良好な応答性が得られることが確認された。
【0129】
また、本発明における正孔ブロッキング層の条件を満足しない比較例2,3、8、9、10においては、実施例に比して、応答性の低下が確認された。比較例2及び比較例3では、正孔ブロッキング層中で発生した正孔の輸送速度が実施例に比して遅くなり、その正孔が残像の要因となったことが応答性の低下を引き起こしたと考えられる。
【0130】
また、比較例4、5、6、7は、用いた化合物(化合物7〜化合物10)のイオン化ポテンシャルが、5.5eV以下であるために、電子捕集電極から光電変換素子に正孔注入が起こり、暗電流が実施例に比べ大きく増加した。以上より、本発明の有効性が確認された。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【符号の説明】
【0134】
1 有機光電変換素子(光電変換素子)
10,101 基板
20 正孔捕集電極(電極)
30 受光層
31 電子ブロッキング層
32 光電変換層
33 正孔ブロッキング層
40 電子捕集電極(電極)
50 封止層
100 撮像素子
106 信号読み出し回路
120 回路基板
図1
図2
図3
図4