(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜13のいずれか1項に記載の投影機構(19)において、前記手段(3)は、電気エネルギー、磁気エネルギー、及び/又は電磁エネルギーを入射結合するよう構成される投影機構。
請求項1〜14のいずれか1項に記載の投影機構において、前記入射結合手段(3)は、複数の電極を有する前記連続領域の縁部における電気接点(15〜20、26〜33)として具現される投影機構。
請求項1〜18のいずれか1項に記載の投影機構(1)において、前記コーティング(14)は、193nmの波長を有する投影光に対して少なくとも80%、特に少なくとも95%の透明度を有する投影機構。
請求項1〜19のいずれか1項に記載の投影機構(1)において、該投影機構(1)は、前記入射結合手段(3)を用いた前記層材料の加熱が投影光の吸収による前記光学素子(2)の加熱よりも大きいように構成される投影機構。
請求項1〜22のいずれか1項に記載の投影機構(1)において、該投影機構(1)の光学特性及び/又は前記素子(2)の位置を検出するセンサデバイス(9)と、該センサ素子(9)が発生したセンサ信号(S)に応じて前記入射結合手段を制御する制御デバイス(10)とをさらに備えた投影機構。
請求項1〜23のいずれか1項に記載の投影機構(1)を作動させる方法であって、エネルギーを層材料(9)に連続的に入射結合し、それにより得られるコーティング(14)の温度分布が、特に放射光が誘発する前記投影機構(1)の結像特性の変化が少なくとも部分的に補償されるように光学素子(2)の光学特性を変える方法。
【背景技術】
【0002】
集積電気回路及び他の微細構造又はナノ構造コンポーネントの工業製造は、概してリソグラフィ法を用いて行われる。この場合、複数のパターン層を適当な基板、例えば半導体ウェーハに施す。層のパターニングのために、最初に、特定の波長域の放射線に対して高感度のフォトレジストでパターン層を覆う。作製対象構造の方位分解能は光の波長に直接応じて決まるので、最小限の波長を有する光を露光に用いることが得策である。現在のところ、深紫外線(DUV:深紫外線、VUV:真空紫外線)、又は遠紫外線、極紫外線スペクトル域の特定の光又は放射線が用いられる。これをEUV=極紫外線とも称する。
【0003】
DUV又はVUVシステム用の従来の光波長は、目下のところ248nm、193nm、及び場合によっては157nmである。より高いリソグラフィ分解能を得るためには、数ナノメートルの波長を有する軟X線放射線(EUV)までの放射線が用いられる。13.5nmの波長を有する光では、例えばリソグラフィ目的で放射源及び光学ユニットを制御することが可能である。
【0004】
したがって、フォトレジストでコーティングした対応のウェーハは、露光装置により露光される。この場合、マスク又はレチクル上に作製される構造パターンが、投影レンズを用いてフォトレジストに結像される。EUV放射線は物質により大いに吸収されるので、反射光学ユニット及びマスクの使用が増えつつある。約193nmまでの放射線には屈折光学ユニットが通常は用いられる。
【0005】
フォトレジストの現像後、ウェーハに化学プロセスが施される結果として、ウェーハの表面がマスク上のパターンに従ってパターニングされる。処理されなかった残留フォトレジストは、続いて層の残りの部分から濯ぎ落とされる。ドーピング等の半導体製造又は加工のためのさらに他の既知の方法を続けることができる。全ての層が半導体構造の製造用のウェーハに施されるまで、このプロセスが繰り返される。
【0006】
ウェーハ表面へのリソグラフィ微細構造又はナノ構造の結像中、露光されるのは通常はウェーハ全体ではなく狭い領域だけである。ウェーハ表面は、概して1つずつ又はスロット毎に露光される。この場合、ウェーハ及びレチクル又はマスクの両方が段階的に走査されて相互に対して逆平行に動かされる。この場合、露光区域は矩形領域であることが多い。
【0007】
光学系を形成するレンズ素子又はミラーにおける投影光の吸収の結果として、結像収差が生じる可能性がある。不均一加熱等の光誘導効果は、レンズ素子又はミラーの光学特性の局所的変化につながり得る。特に、マイクロリソグラフィ構造をできる限り欠陥なくウェーハに結像できるようにするために、かかる結像収差を補償する機構が望まれる。
【0008】
例として、特許文献1は、個別駆動可能な電熱線を瞳面の付近で光学素子の表面に施すことを提案した。特許文献2は、熱的に操作可能な補正層を反射層の下に有するミラーの様式のアダプティブ光学素子を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特に透過光動作において、投影光が誘発する結像収差を補償し、好ましくは遮蔽(shading)を生じさせることなくこれを達成することを可能にする措置を取ることが望ましい。したがって、本発明の目的は、改良型の投影機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、特許請求項1に記載の特徴を備えた投影機構により達成される。
【0012】
したがって、リソグラフィ構造情報を結像する投影機構であって、導電層材料からなるコーティングを少なくとも部分的に有する光学素子を備え、コーティングが投影光を遮る素子を有しない連続領域を備え、層材料及び/又は光学素子が温度変化に応じて光学特性、特に屈折率又は光路長を変える投影機構が提案される。投影機構は、層材料が入射エネルギー(coupled-in energy)を熱エネルギーに変換するようにエネルギーを層材料に入射結合する(coupling energy into the layer material)少なくとも1つの手段をさらに備える。
【0013】
層材料は、例えば、グラフェン、クロム、及び硫化モリブデン(MoS
2)からなる群から選択される。
【0014】
コーティングを設けた光学素子は、波面マニピュレータのように働くことができ、特に連続領域内で光学特性の局所的変化を可能にする。光学素子は、例えば視野に近接して光学系に挿入され得る。光学素子上の構造による投影機構のビーム経路における遮蔽は、生じないことが好ましい。したがって、リソグラフィ構造情報の結像は、透過光動作においてさえもコーティングにより妨害されない。層材料は入射エネルギーを特に熱エネルギーに変換するので、入射結合手段は、特に、層材料で覆われた連続領域における所期の操作されたエネルギー又は熱分布を可能にする。したがって、投影機構は、投影光に対して透明な正確に局所的に駆動可能な加熱層を備える。
【0015】
導電性材料は、費用効果的に励起することができ、その結果として目標通りに局所的に熱を発生させることができる。コーティングは、投影機構のビーム経路に配置されるが、例えば従来の手法の電熱線グリッドの場合に生じるような回折又は遮蔽につながらない。
【0016】
複数の連続領域から光学素子の一部を覆うことがさらに可能である。層材料は実質的に透明なので、コーティングされた領域間の境界面で遮蔽が生じない。
【0017】
一実施形態では、入射結合手段は、連続領域の横外側に配置される。好ましくはビーム経路外に設けた側方の入射結合手段は、特に、レンズ素子又は平面板をその温度分布に関して目標通りに操作することを可能にする。光誘導効果を補償できるので、投影機構はこうして特に良好な結像特性を提供する。
【0018】
他の実施形態では、光学素子は視野に近接して配置される。遮蔽素子が存在するので通常は瞳に近接して設けなければならない従来の波面マニピュレータとは対照的に、提案される投影機構は、視野に近接した位置決めを可能にする。これは、特にコーティング材料による使用光の吸収が皆無であるか又はわずかにしかないことにより可能となる。この点で、連続領域にコーティングを有する光学素子を像面又は中間像面の付近に設けることが可能である。特に、光学素子は、既存の投影機構を後付けするために用いることもできる。結果として、汎用の波面マニピュレータが得られる。
【0019】
投影機構の場合、連続領域は、投影光を遮る素子を有しないことが好ましい。光学素子における従来の導体機構は、回折パターンをもたらし得るか、又は付随して特に像面における使用時に妨害的に結像される。
【0020】
投影機構の一実施形態では、層材料は、光学素子の表面上の連続領域に均一に配置される。層材料は、例えば、蒸着により施すことができるか、又は光学素子の表面上に膜のように施しておくことができる。特に、わずか数単原子層を備えると共に例えばミラー又はレンズ素子の表面に施すことができる材料が知られている。
【0021】
別の実施形態では、光学素子は、コーティングが2つの外面間にあるよう構成される。例として、コーティングを平面板間の複数の中間層の1つとして設けることもできる。
【0022】
層材料は、線形電気抵抗を有することが好ましい。線形電気抵抗の場合、入射電気エネルギーによる熱操作を特に費用効果的に且つ正確に局所化して確立することができる。
【0023】
投影機構の場合、層材料は、グラフェン、クロム、及び/又は硫化モリブデンを含むことが好ましい。上記材料は、マイクロリソグラフィで用いる投影光に対して適当な透明性を有する。
【0024】
好ましくは、248nm又は193nmの波長での吸収が10%以下である。投影光の上記波長での吸収率が5%未満であることが特に好ましい。
【0025】
層材料が反射される放射線に対して不透明である反射光学素子も用いることができることも考えられる。
【0026】
上記材料、特にグラフェンは、幾何学的連続領域にわたって均一に施すことができる。層材料としての金属の場合、例えば接点を介した電気輸送により、又は例えばマイクロ波による照射により、単純な方法でエネルギーを入射結合することがさらに可能である。
【0027】
一実施形態では、層材料は単層及び/又は多層グラフェンのみを含む。グラフェンは、193nmの波長域で十分に透明且つ導電性である。さらに、グラフェンは、わずか数ナノメートルの粗さ値を示す特に平滑な材料である。特に、グラフェンでのコーティングは、例えば0.3nm〜25nmの厚さを含み得る。この場合、透明度は80%を超えることが好ましい。特に好ましくは、コーティングはグラフェン単層の様式である。これにより、リソグラフィ用途の投影光の場合に95%を超える、特に好ましくは97%を超える透明度を得ることが可能である。
【0028】
層材料は、ドープ導電性グラフェンをさらに含み得る。ドーピングは、n型ドーピング又はp型ドーピングとして行うことができる。グラフェン単層又はグラフェン多層による対応の透明コーティングは導電率に優れているので、電気エネルギー又は電磁エネルギーが入射結合する結果としての発熱が、光学素子における連続領域で所期の局部温度発生をもたらす。波面の操作をこうして目標通りに好都合に達成することができる。グラフェン加熱層をコーティングとして挙げることもできる。
【0029】
化学蒸着を用いてグラフェンを生成することが考えられる。
【0030】
投影機構の一実施形態では、コーティングは溝を有する。特に多層グラフェンコーティングの場合、溝又は割目を設けることが可能である。一実施形態では、溝又は割目は、使用投影光の波長よりも横方向範囲が小さい。溝は、例えば波長よりも幅が小さい。結果として、溝又は割目の結果として光学的に外乱が生じない。他方では、溝又は割目により連続領域内で領域を画定することが可能である。この点で、温度発生をより目標通りに局所化して行うことができる。
【0031】
例えば黒鉛層厚が減るので、電気特性が割目の領域で変わる。この点で、電気抵抗の増加がそこで生じる。かかる溝又は割目は、サブラムダ凹条(sub-lambda indentations)とも称し、ラムダ(λ)は投影光の波長を示す。例として、100nmから1又は数グラフェン単層の溝が可能である。かかるサブラムダ溝は、結像収差を補償するための光学素子のコーティング又は領域の温度の特に目標通りの変更を可能にする。
【0032】
一実施形態では、入射結合手段は、複数の電極を有する連続領域の縁部における電気接点として具現される。例として、コーティングを有する連続領域の周りに円形又は環状に延びる金属電極を作製することが可能である。原理上、コーティング材料に沿って電流を注入するためには2つの電極で十分である。コーティング材料は、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する電気抵抗により加熱される。結果として、例として、グラフェンに隣接する各媒体が加熱され、変更された屈折率又は異なる光路長等の変更された光学特性を得る。電気接点は、比較的費用効果的に作製することができ、例えば蒸着又は接着により施すことができる。この場合、電極はコーティングと側方で電気接触し得る。
【0033】
投影機構に磁気エネルギーを入射結合する手段を設けることも可能である。例として、入射結合手段はコイル機構を含み得る。コイル機構は、例えば誘導ホブの様式でコーティングに渦電流を誘導し、その結果としてさらに熱を発生させることができる。層材料における電流の誘導又は誘導加熱の1つの利点は、入射結合手段を投影機構のビーム経路外で用いることができ、層材料と直接接触しないことである。
【0034】
適当な入射結合手段により、マイクロ波等の電磁放射線を導入することがさらに可能である。コーティングの特に正確な局部加熱を、例えば所望の干渉パターンの生成により行うことで、個々の領域を局所的に加熱することができる。
【0035】
コーティング材料の電子構造が変わってその光学特性が結像収差を補償するために制御可能となるような材料特性で、エネルギーを入射結合する手段を構成することも可能である。
【0036】
投影機構のさらに別の実施形態では、コーティングを冷却するデバイスがさらに設けられる。対応の冷却デバイスはヒートシンクとして働く。例えば、コーティングの縁部に同様に設けた冷却手段が、エネルギーがコーティング材料に入射結合される結果として生じる熱流を目標通りに制御することを可能にする。例として、実質的に円形のレンズ素子又は板としての光学素子の実施形態の場合、例えばペルチェ素子を有する、光学素子の縁部の周りに延びる冷却環を用いることが可能である。その場合、冷却接点がヒートシンクをもたらすことで、コーティングへの所期の熱的影響をもたらすことができる。
【0037】
投影機構の一実施形態では、連続領域は少なくとも20mm
2の面積を含む。特に好適な一実施形態では、連続領域は特に少なくとも24mm
2の面積を含む。連続領域は、例えば、丸形又は矩形に、又はスロットの幾何学的形状で構成される。特に投影機構をリソグラフィ露光用のステッパ又はスキャナで用いる場合、矩形領域が特に好ましい。さらに、例えば矩形のグラフェン表面又は膜は比較的容易に作製することができる。鎌形又は三日月形に具現した光学素子のコーティング領域がさらに考えられる。このような上記幾何学的形状は、反射EUVシステムで用いる場合に存在し得る。
【0038】
投影光用のコーティングは、193nmの波長で少なくとも80%の透明度を有する。特に、コーティングの透明度は少なくとも95%である。グラフェンコーティングは、対応の透明度を達成する。
【0039】
好ましくは、投影機構は、入射結合手段を用いた層材料の加熱が投影光の吸収による光学素子の加熱よりも大きいよう構成される。したがって、層材料の加熱が、光学素子のガラス又は反射面等の不所望に加熱される光学材料から生じる収差よりも目標通りに大きい場合、投影光が誘発する結像収差を単純に補償することができる。
【0040】
光学素子は、例えば、レンズ素子等の屈折素子である。
【0041】
光学素子は、ミラー等の反射素子でもあり得る。その場合、ミラーは概して、コーティングが施される基板と、例えば特に193nm付近の範囲の波長を有する極紫外光、DUV光、又はVUV光を反射するさらに他の反射層とを備える。反射光学素子についても、例えば電気エネルギー又は磁気エネルギーを用いて外部から加熱できる材料としてグラフェンが特に好都合である。ミラーとしての使用の場合、光学素子を、側方に装着される、すなわちビーム経路内にない電極により駆動できることも有利である。
【0042】
コーティング材料としてのグラフェンは、特に薄い状態であり粗さが小さい、すなわちコーティング表面に対して均一に配置できるので、層応力がほとんど生じず、これは特にEUV光学ユニットの場合に有利である。行列状の電熱線配置とは対照的に、グラフェンコーティングは変形をもたらさない。
【0043】
投影機構の一発展形態では、投影機構の結像特性を検出するよう構成され且つ/又は光学素子の位置を検出する、センサデバイスがさらに設けられる。
【0044】
例えば、センサデバイスが発生したセンサ信号に応じて入射結合手段を制御する制御デバイスが設けられる。特に、例えば、光学素子の又は投影機構における他の光学素子の結像特性に応じて電流源を駆動することが可能である。したがって、コーティングを用いた入熱の自動適合が、制御デバイスにより制御下で行われ得る。この場合、センサにより検出される光学投影機構全体の結像特性を最適化することができる。
【0045】
例として、CCD検出器がセンサとして適している。さらに、例えば所定の位置に対する光学素子の相対位置を検出する位置敏感型センサを設けることが可能である。検出された干渉パターンを用いて、例として、光学素子のレンズ素子表面又はミラー表面を検出及び測定することができる。さらに、温度センサを用いることができる。
【0046】
さらに、対応の投影機構を作動させる方法が提案される。この場合、エネルギーを層材料に連続的に入射結合し、それにより得られるコーティングの温度分布が、特に放射光が誘発する投影機構の結像特性の変化が少なくとも部分的に補償されるように光学素子の光学特性を変える。
【0047】
この場合、本方法は、
コーティング材料で複数の電流密度を各所定期間にわたり発生させるステップ、
特に熱モデルを用いて光学素子の外乱温度分布を検出するステップ、及び/又は
検出された外乱温度分布が誘発する光学素子の光学特性の変化を補償するために層材料で温度分布を発生させるステップ
の1つ又は複数を含むことができる。
【0048】
例として、いずれの場合も所定の領域を加熱する電流が、コーティングに順次注入される。光学素子のコーティング及び材料の熱伝導特性が限られているので、結果として幾何学的温度分布が生じる。その結果、事実上いかなる所望の温度分布パターンも発生させることができる。得られる温度分布は、条件に連続的に適合させることができる。例として、コーティングへのエネルギーの入射結合は、投影機構の検出された結像特性に応じて適合されるので、結像収差の低減が得られる。
【0049】
本投影機構又は本方法のさらに他の可能な実施態様又は変形形態は、明確には述べないが、例示的な実施形態に関して上述又は後述する特徴又は態様の組み合わせも包含する。この場合、当業者であれば、改良又は補足として個々の態様を各基本形態に加えることもするであろう。
【0050】
本発明のさらに他の構成は、従属請求項及び後述する本発明の例示的な実施形態の主題である。添付図面を参照して例示的な実施形態に基づき本発明を以下でより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0052】
別段の指示がない限り、同一の又は機能的に同一の要素には図中で同じ参照符号を付す。
【0053】
図1は、投影機構を備えたリソグラフィ装置の例示的な実施形態の概略図を示す。この場合、リソグラフィ装置1は、投影光Lを発生させる照明デバイス8を備える。深紫外線スペクトル域の波長が、マイクロリソグラフィ又はナノリソグラフィ用途に用いられることが増えつつある。特に、193nmの波長が慣習的である。対応するUV投影光Lは、例えばフッ化アルゴンエキシマレーザにより供給される。照明デバイス8は、集光用の光学デバイスを備えるが、これらの光学デバイスのより具体的な詳細は示さない。
【0054】
リソグラフィ装置1は、マスク又はレチクル7に保存又は再現されたリソグラフィ構造情報を加工対象のウェーハ11の適当なフォトレジストに結像するよう働く。ウェーハ11の露光は、部分毎に、レチクル又はマスク7を物体面OEで段階的に動かすことにより行われることが多い。矢印R1の方向の移動を
図1に示す。同時に、露光対象のウェーハ11を、ウェーハステーション12を用いて像面BEで逆平行に動かす。その方向を
図1にR2で示す。ウェーハ11の縞状又は通常は矩形の各部分をこうして連続的に露光することができる。これは走査又はステッピングとも称する。
【0055】
実際の光学ユニットは、種々の光学素子2、5、6を備えた光学系4で実現される。例として、レンズ素子5、ミラー6、又は平面板が光学素子として適している。屈折タイプ、反射タイプ、又は他のタイプの光学素子等の複数の光学コンポーネントを、対応の光学系4で用いることができる。
【0056】
光学系4で用いる光学素子の材料は、投影光ビームLにより不均一に加熱され得る。特に、ガラス又はセラミック等のそれぞれ用いられる材料の熱膨張が生じ得る。したがって、これは、結像特性の望ましくない変化を伴い得る。投影光が誘発する対応の効果を補償するために、層材料からなる面状(areal)コーティングを少なくとも部分的に有する光学素子2が、光学系又は投影機構4に設けられる。さらに、エネルギーを光学素子2のコーティング又は層材料に入射結合する入射結合手段3が設けられる。光学素子2における層材料は、第1に温度変化の結果として屈折率又は光路長を変え、第2に手段3により入射結合されたエネルギーを熱エネルギーに変換するよう構成される。この場合、エネルギーを入射結合する手段、例えば接点又は照射手段3は、ビーム経路の横外側に、すなわち明らかに光軸A外に配置される。
【0057】
例えばレンズ素子表面上のグラフェン層であり得るコーティングは、層材料への、また間接的に光学素子2の作製材料への所期の入熱を可能にする。グラフェンは特に、193nm付近の投影光に対して実質的に透明なので、透過光動作における波面マニピュレータについて述べることも可能である。グラフェンからなるもの等のコーティングは、特に容易に面状且つ均一に実現できるので、光学素子2又は波面マニピュレータ2を視野に近接して配置する可能性がある。
【0058】
リソグラフィ装置は、例えばCCDカメラとして構成したセンサデバイス9をさらに備える。CCDカメラ9は、例えば、光学素子4の結像特性を検出して対応のセンサ信号Sを制御デバイス10に供給し、制御デバイス10は、投影機構又はリソグラフィ装置1を作動させる方法を実施するよう設計したものである。適当な制御信号CTにより、制御デバイス10は、結像収差を低減又は補償できるようエネルギーを光学素子2のコーティングに入射結合する手段を制御する。代替的に、光学系4に設けたレンズ素子及び/又はミラーの表面の位置を直接検出するセンサデバイス9を設けることも可能である。概して、制御デバイス10は、波面マニピュレータ2、3を用いてリソグラフィ装置の結像特性の最適化を行う。センサ9は、例えばレンズ素子収差を検出することができ、制御デバイス10は、ビーム経路内の波面マニピュレータの面状の透明コーティングへの温度入力又は入熱を制御する。
【0059】
原理上、光学素子2の結像関連特性に影響を及ぼす変数を検出するセンサデバイス9が適している。例として、重量、位置、温度等を検出することができる。
【0060】
光学素子2の可能な例示的な実施形態を、
図2A〜
図9でより詳細に説明する。
【0061】
図2A及び
図2Bは、波面マニピュレータとして構成することができる光学素子の例示的な第1実施形態の概略図を示す。
【0062】
図2Aは断面を示し、
図2Bは平面図を示す。例えば、
図1に示すように光学系のビーム経路で用いる光学素子2は、屈折特性を有し得る。しかしながら、波面操作が使用材料の熱的影響により行われるにすぎないことも考えられる。例として、石英ガラス平面板13が、視野に近接してリソグラフィ装置(
図1を参照)のビーム経路に挿入される。
【0063】
図2Aは、特に193nmのUV放射線に対して透明なガラス体13を示す。薄い透明層100がガラス体13の表面113に施される。透明層100は、原理上、クロム又は硫化モリブデン等の金属を含み得る。しかしながら、好ましくは、グラフェンがコーティング材料として用いられる。この場合、連続領域100にグラフェンコーティング14が設けられる。連続領域100は、光学素子2の光学的使用領域を含み、例えば、20mm
2〜24mm
2の矩形スロットに相当する。以下でグラフェンコーティング又はグラフェン加熱層と称するこの均一なコーティングのサイズは、波面マニピュレータ2を視野に近接してビーム経路に挿入することを可能にする。グラフェン層を作製する方法に応じて、より大きな細長いストリップ状領域も考えられる。例として、結像目的で用いる投影光がいずれの場合もコーティングを通過するよう狭く細長いストリップコーティングを実施することが可能である。特にリソグラフィ装置としてのステッパの場合、レンズ素子又はミラーの短冊状領域のみが光学的に用いられる。しかしながら、グラフェン加熱層を半径40mm〜160mmの円形に具現した幾何学的形状も考えられる。特にVUV用途の場合、光学「照射領域(footprint)」の複雑な幾何学的形状も可能である。
【0064】
望ましくない熱効果の特に高度の補償を必要とする表面領域にのみグラフェン加熱層を設けることがさらに可能である。例えば、レンズ素子の光学的使用領域の外縁領域がある。
【0065】
図2A及び
図2Bの図及び実施形態では、波面マニピュレータ2は、コーティング14に導電接続した2つの電極3A、3Bをさらに有する。
図2Bの平面図は、円形ガラス板13の対向縁部に配置した2つの面状電極3A、3Bを示す。電気接点又は電極3A、3Bを用いて、電流密度jを有する電流を導電性グラフェン層14で発生させることができる。熱エネルギーWへの電流の変換の結果として、グラフェン層14の所期の加熱が生じる。所期の加熱の結果として、又は電流密度分布jとしての電気エネルギーの所期の入射結合の結果として、第1にグラフェンを加熱することができるが、第2に電流jの領域のガラス体13も加熱することができ、その結果として光学特性全体が変わる。例として、光路長又は屈折率が加熱の結果として変わる。
【0066】
層材料又はグラフェンコーティングは、第1に透明であり第2に導電性である。さらに、グラフェン材料は、特に平滑であり、わずか数ナノメートルの粗さを有する。この点で、グラフェンは、温度分布を設定できる透明の導電性コーティングとして働く。全範囲を参照する国際公開第2011/016837号は、グラフェン層の作製法及び特性について述べている。グラフェンは、好ましくは厚さ1nm未満の単層として施すことができ、193nmの波長を有する光に対する透明度は97%を超える。しかしながら、複数のグラフェン層をコーティングとして設けることも考えられる。好ましくは、グラフェンコーティングは最大24nmの厚さを有する。対応のグラフェンコーティング又は膜は、最大375S/cmの導電率を有する。特に8nm〜24nmのグラフェンコーティングを石英ガラスに容易に塗布できることが、調査により明らかとなった。
【0067】
電極の側方配置が、ここで電流を面状の均一なコーティング14に印加することを可能にする。グラフェンコーティングの導電率又は電気特性を変えるために、グラフェン材料のドーピングも可能である。グラフェンコーティングは、特に化学蒸着(CVD)により行うことができる。この場合、触媒層が通常は設けられ、そこに炭化水素含有ガスが加えられる。例えばニッケル−クロム層等の各触媒には、グラフェンが触媒の表面上で成長するという効果がある。1つ又は複数の層を含み得るグラフェン層は、ガラス板又はレンズ素子表面等の実際のキャリアにその後施される。成長したグラフェン層をさらに他の基板に転写する対応の方法が知られている。
【0068】
投影光に対して透明なグラフェン加熱層又はコーティング14は、例えば、矩形又は平行六面体の材料層としてモデル化することができる。ステッパ又はスキャナとしてのリソグラフィ装置が、概してストリップ状の像をウェーハ構造に縁部を明瞭に(with edge acuity)結像するためには、原理上は約200mm
2の連続領域100で十分である。例として、この領域又はコーティング材料は、幅b、長さl、及び高さ又は厚さhを有する。電流を縁部から又は周縁に注入した場合、断面ストリップF=b×lが生じる。グラフェンの[S/m]での導電率σに基づいて、電気抵抗R=l(σF)が生じる。概して、グラフェン層の場合にオーム抵抗が考えられ得る。したがって、グラフェンストリップ100で発生した熱出力P=U
2/R及び面積関連熱出力密度P/(bl)=σhU
2/l
2が得られる。厚さh=8nm、推定導電率σ=375S/cm、及び電圧U=52Vとすると、80W/m
2の熱出力密度が生じる。この場合、グラフェンのストリップ又は平行六面体は、幅b=1mm及び長さl=10cmを有すると考えられる。グラフェン層が少数しかない、又は例えばわずか1ナノメートルの1つの単層しかない場合、より高い電圧が必要だが、特に厚さh=1nmを与える上記計算例の場合、これは約146Vである。かかる電圧はリソグラフィ装置で管理可能である。この点で、単純に駆動できる電流源又は電圧源により、エネルギーをコーティングに費用効果的に入射結合することができる。
【0069】
図3は、波面マニピュレータとしての光学素子の発展形態を示す。光学素子102は、例えばグラフェンコーティング14を有する石英ガラス板又はレンズ素子の様式であり、複数の電極15、16、17、18、19、20が周縁に設けられる。接点又は電極15〜20が、コーティング14と電気的に接触して円形ガラス板13の円周に配置される。さらに、6つの電極15〜20に結合した制御可能な電流源22が設けられる。制御可能な電流源22を用いて、グラフェンで対応の電流密度を発生させる各電流J1〜J6を接点15〜20に、又は好ましくは均一なグラフェン層として構成したコーティング14に注入することが可能である。制御可能な電流源22は、適当な制御信号C1を用いて制御デバイス10により制御される。
【0070】
さらに、例として、制御可能な冷却素子21が、同様にコーティング14又はガラス体13と熱的に接触して設けられる。例えばペルチェ素子として構成することができるこの冷却素子21は、各リソグラフィ装置のビーム経路外にもある。
【0071】
電界線Eを、
図3の平面図においてグラフェン加熱層14に示し、当該電界線は接点15〜20間に延びる。例として、電極15と電極18との間の電流密度jを破線矢印として示す。制御電流源22を作動させると、その結果として高い電界線密度の領域で特に高い熱出力が得られる。接点電極15の付近の対応領域23を、
図3に点線で示す。電流が均一に注入される場合、グラフェン層14の領域23にはより大きな加熱が起こる。冷却接点21はヒートシンクとしてさらに動作できるので、qで示し点線矢印で表す熱流が例えば生じる。この点で、複数の電極15〜20及び電流J1〜J6の所期の注入により、所期の操作された熱変換をグラフェン層で発生させること、したがって温度を局所的に変えることが可能である。したがって、例として、制御デバイス10を用いて、各投影系の光学素子の加熱又は投影光の吸収の結果としての光学素子の加熱の結果として生じ得る結像収差の補償を確保することが可能である。
【0072】
図3の例示的な図の代替として、制御デバイス10は、例えば電流が電極17及び18間に実質的に流れるようにも電流源22を制御することができる。すなわち、
図3の向きでは、電気エネルギーの熱エネルギーへの変換がガラスディスク13の右上の領域で起こる。ペルチェ素子として具現した冷却素子21により冷却が同時に行われる場合、熱流(図示せず)がガラス板13又はグラフェンコーティング14の上縁部で生じる。この点で、透明の導電性グラフェン層14は、例えばレンズ素子102として具現した光学素子の所期の熱操作を可能にする。
【0073】
図4A及び
図4Bは、波面マニピュレータとしての対応の光学素子の例示的な第3実施形態を示す。光学素子202は、例えば、2つの石英ガラス板又はフッ化カルシウム板24、25間のグラフェン層14として構成される。
図4Aは断面図を示し、
図4Bは平面図を示す。
【0074】
グラフェン層、例えば1nm厚の3層を再度想定する。この例示的な実施形態では、14個の電極15〜20、26〜33が、グラフェンコーティング14と電気的に接触して周縁に配置される。電流が、制御デバイス(
図4A及び
図4Bには図示せず)及び対応の電流源又は電圧源による制御下でグラフェン層14に注入される。グラフェン層14の熱出力密度、したがって加熱は、層を通る各電流に応じて決まる。
【0075】
続いて、コーティングで得られる温度分布が光学素子の光学特性を変えて結像特性の望ましくない変化が補償されるように、エネルギーが層材料に連続的に入射結合される。この目的で、結果として適当な温度分布パターンを個々の温度分布パターンの重畳により発生させることができる。
【0076】
例えば、環状の熱出力分布を発生させるために、電極対間に電流密度を順次、すなわち連続的に発生させることが可能である。
図4Bは、例として、電極19及び15間の電流密度j1、電極15及び31間の電流j2を示す。電極30及び28間の電流(j3)、電極30及び26間の電流(j4)、電極27及び19間の電流(j5)、及び電極20及び17間の電流(j6)をさらに示す。グラフェン層14の所望の熱分布又は所望の操作加熱を達成するために、電流が連続的に、すなわち電流密度j1が時点t1で、電流密度j2が時点又は所定期間t2で、電流密度j3、j4、j5、及びj6がさらに他の時点又は期間t3〜t6で注入される。各熱出力が積算されて所望の熱出力分布を形成する。この場合、付随的に加熱される石英ガラス板24、25の熱容量を利用することができる。原理上、多数の周縁に配置された電極15〜20、26〜33と、事実上任意に注入可能な電流及び電流方向とを用いて、コーティング及び隣接するレンズ素子材料で任意の所望の幾何学的熱出力分布を発生させることが可能である。注入された電流密度j1〜j6の結果としての個々の熱出力は、これらが順次供給されても積算される。
【0077】
図4Bに示す14個の電極よりも多くの電極を設けることも可能である。この点で、波面マニピュレータの特定の実施形態及び実施態様では、異なる電極対の順次駆動が制御デバイスにより行われる。グラフェンは導電性なので、先の例示的な実施形態で述べたような接点電極を介した接点接続を費用効果的に実現することができる。
【0078】
図5A及び
図5Bは、視野で、すなわち視野に近接して用いることができる波面マニピュレータ302の例示的な第4実施形態を示す。
図5Aは断面図を示し、
図5Bは平面図を示す。例として、グラフェン層14を有するフッ化カルシウム又は石英ガラス板13がこの場合も設けられる。波面マニピュレータ302の
図5A及び
図5Bにおける実施形態では、接点電極が設けられない。正確には、制御可能な磁石を用いて誘導によりエネルギーがグラフェン層14に入力される。したがって、電磁コイル34〜41がグラフェンコーティング14を有するガラスディスク13の周りに配置される。
【0079】
図5Bは、電磁コイル34〜41が例えば円形のガラス板13の円周に配置されることを示す。例えば、個別に駆動可能な電磁コイル34〜41は、交番磁場を生成する。例として、磁場Bを
図5Aに示す。誘導ホブの場合のように、例えばグラフェン層14において誘導により渦電流が生成される。磁場Bの時間的且つ幾何学的構成の選択により、グラフェン層14において局所的に正確な渦電流生成を設定することが可能である。
【0080】
グラフェン層14で電流を生成するための磁気エネルギーの非接触供給と、その後の熱エネルギーへの変換とは、特に、例えば各光学素子302を超高真空で用いなければならない場合に適している。磁場はこのとき、例えば不純物を有し得る電極材料を光学素子302に直接存在させる必要なく、真空領域外で生成することができる。この点で、光学素子13はミラーとして理解することもできる。特に、深紫外光を用いた投影の場合に、反射光学ユニットが用いられる。グラフェン層14で発生した電流はさらに、グラフェン層14の加熱、したがってグラフェン層14及び潜在的には付随して加熱されたガラス板13の両方の光学特性の変更をもたらす。
【0081】
図6A及び
図6Bは、エネルギーが電磁放射線を用いて入力される波面マニピュレータのさらに別の実施形態を示す。
図6Aは、例えばグラフェン層14を2つのガラス層24、25間に配置した光学素子402の断面図を示す。
図6Bは、ビーム経路内で用いられるグラフェンコーティング14を有するガラス板の平面図を示す。グラフェン14は導電性であり、特に例えば190nm〜250nmの使用波長に対して透明なので、例えばマイクロ波照射によりエネルギーを入射結合することができる。マイクロ波MWは、グラフェン層14で電流を、したがって熱を発生させる。この目的で、マイクロ波放射線MWの導入に適した4つのマイクロ波アンテナ42、43、44、45が、グラフェンでコーティングしたガラス板24、25の周りに設けられる。マイクロ波MWの使用波長又は周波数は、グラフェンの電子特性に適合させることができる。
【0082】
図6Bは、制御信号C1、C2、C3、C4によりマイクロ波アンテナ42、43、44、45を駆動する制御デバイス10をさらに示す。特にマイクロ波の形態の電磁放射線の導入を用いて、例えばグラフェン層14の領域を目標通りに加熱することができる。この点で、操作された入熱を局所的に目標通りに行うことができる。複数のマイクロ波アンテナ42、43、44、45を用いて、例えば干渉パターンによりグラフェンの所望の加熱を局所的に所定の幾何学的形状で得ることがさらに可能である。
【0083】
コーティング材料として用いる材料の電子構造が特定の電磁放射線の導入により変更されることも考えられる。
【0084】
さらに、提示したエネルギーをコーティング材料に入射結合する機構も相互に組み合わせて用いることができる。例として、
図4A及び
図4Bに示すような電極機構を用いること、また電磁コイル並びにマイクロ波発生器も用いることが考えられる。概して、特にグラフェンを用いる場合、これにより、発熱を局所的に設定することが単純且つ柔軟に可能となる。
【0085】
図7A及び
図7Bは、実質的に別個に加熱できるコーティングサブセグメントの局所的な画定の1つの可能性を示す。透過光動作における投影光の遮蔽も回折もこの場合は生じない。
【0086】
したがって、
図7A及び
図7Bは、波面マニピュレータとして具現した光学素子502の例示的な第6実施形態を示す。
図7Aは断面図からの抜粋であり、
図7Bは平面図である。
【0087】
図7Aは、この場合もガラス体25の抜粋を示し、グラフェンコーティング14が上記ガラス体に施される。グラフェン層14は、多層に具現され、
図7Aの例では3つの層14A、14B、14Cで示される。グラフェンに電気的に結合する電極15を周縁に図示する。溝を多層グラフェン層に組み込むことが可能である。
図7Aは、溝、割目、又は凹条46を断面で示す。溝46は、化学的又は機械的に、例えば機械的応力により達成することができる。溝46の領域では、上の2つの単層14C及び14Bが例えば除去されて、単層14Aのみがガラス体25上に直接残る。
【0088】
この場合、溝46の範囲fはf<λであり、λは使用投影光の波長である。λ=193nmの場合の紫外光を用いると、例えばfは50nm〜100nmである。ここではサブラムダ凹条とも称する溝により、光が回折しないので、層が実質的に光学的に透明なままであり、ビーム経路にいかなる外乱も引き起こさない。しかしながら、溝46の領域で電気抵抗が増加するので、
図7Bに示すような個々の層領域又はセグメント50〜54は、相互に独立してより良好に駆動され得る。
【0089】
溝46は、例えば
図7Bに示すように、領域又はセグメント50〜54を画定し、その境界内で、溝46〜49を通して電流による入熱増加が目標通りに可能である。
図7Bは、周縁に9つの電極15〜20、26、27、28と、コーティング14において5つのセグメント50、51、52、53、54を相互から区切る4つのサブラムダ凹条46、47、48、49とを示す。電極15〜20、26、27、28の適当な駆動が、特に、コーティングの部分領域又はセグメント50〜54を相互に独立して加熱することを可能にする。
【0090】
溝46、47、48、49の抵抗増加により、セグメントを各電流の流れによって個別により容易に加熱することもできる。溝をキャリア材料、すなわちガラス体25の表面125まで完全に形成することも考えられる。しかしながら、その場合、電場強度が溝に対して横方向に生じる。例として、溝幅f=100nmで隣接セグメント間の電位差が1Vとすると、10
7V/mの電場強度が生じ得る。したがって、好ましくは、むしろ溝底部又は谷に単層又は多層が残る。
【0091】
図8A及び
図8Bは、波面マニピュレータ602のさらに別の例示的な実施形態を示す。この場合、グラフェン層14は、この場合も2つの石英ガラス板24、25間に配置される。例として、グラフェン層は3層である。電極機構15〜20、26〜33がその隙間で側方に設けられる。
図4A及び
図4Bと同様に、電極15〜20、26〜33を個別に相互に別個に目標通りに駆動できることで、実質的にいかなる所望の電流分布も、したがって熱流の幾何学的形状も順次発生させることができる。
【0092】
コイルリング又は冷却接点55が、光学素子の周りに環状に設けられる。環状の冷却接点55は、例えば、ペルチェ素子として、又は金等の金属から具現することができる。冷却環55は、加熱されたグラフェン及び隣接するガラス層における電気エネルギーの熱エネルギーへの変換により発生した熱を放散するために、ヒートシンクとして働く。3層として存在し得る1nmの薄いグラフェン層14であるとすると、12000W/mKの熱伝導率が予想される。すなわち、幅1mmで長さ10cmのグラフェンストリップは、温度差を80Kとすると8μWの熱出力を輸送する。さらに、熱は石英ガラス板24、25へ輸送される。
【0093】
概して、特にUV光に対して透明な無遮蔽波面マニピュレータが、
図8A及び
図8Bにおける配置で得られる。一方の外面、例えば上側の石英ガラス板24の表面124は、ゼロ波面変形を補償するために非球面状に構成することができる。
【0094】
図9は、視野で、すなわち視野に近接して用いることができる波面マニピュレータの光学素子802のさらに別の例示的な実施形態を示す。例として、グラフェンコーティング14を有するフッ化カルシウム又は石英ガラス板13がこの場合も設けられる。コーティング14が板の表面に少しずつ施されることで、セグメント又は部分領域50、51、52が得られる。幾何学的に同一のコーティング部でのコーティング対象の領域14の張り合わせ(parqueting)が考えられる。しかしながら、不規則な被覆も可能である。グラフェンを用いて、フレーク又は膜片50、51、52としてのグラフェンを光学素子702の表面に施すことが可能である。コーティング領域14の全体的に不連続な区域にもかかわらず、コーティング材料が十分に薄く透明に選択されるので、コーティング部分領域50、51、52間の境界に回折も遮蔽も起こらない。
【0095】
原理上、レンズ素子又は板表面の全体をグラフェン薄板で覆うこともできる。
【0096】
最後に、
図10は、波面マニピュレータとして用いることができる光学素子802の例示的な第9実施形態を示す。光学素子802は、反射素子、例えばミラーとして構成される。
図10における例示的な実施形態でも、特にグラフェン層14がエネルギー入射結合による所期の入熱に備えて設けられる。ミラー802は、例えば適当なセラミック又はチタンケイ酸塩ガラスからなる基板56を備える。グラフェン層14が基板56に施され、例えば多層の層機構57が適時に反射コーティングとして上記グラフェン層に設けられる。
【0097】
外側では、例えば電極3A、3Bが周方向に設けられる。電極の幾何学的形状及び配置は、先の例示的な実施形態で説明したように実施することができる。特に
図10に示すような反射光学ユニット又は光学素子の場合、反射コーティング57は、入射UV放射線に応じて変形及び加熱し得る。グラフェン加熱層14により、加熱を目標通りに局所的に補償することができるか、又は均一な温度分布を得ることができる。この点で、電極3A、3Bに隣接するグラフェンを加熱層として用いることができる。グラフェンには、特に平滑であり表面粗さがほとんどないという利点がある。この点で、結像収差を発生させることなく、反射コーティング層57もしっかりと精密に配置することができる。この場合のグラフェンの1つの利点は、特に、電気輸送及び熱輸送に関してその厚さが小さく伝導率が良好なことでもある。
【0098】
図11〜
図14は、先の図に示したように、光学系における光学素子の可能な位置を示す。
【0099】
図11は、例えばグラフェンコーティングを有する波面マニピュレータを用いる光学系の例示的な第1実施形態の概略図を示す。この場合、
図11は、国際公開第2005/069055号に
図32として示すような光学ユニット104を示す。光軸Aに沿って、屈折素子58及び反射素子59の両方が物体面OEから像面BEまで設けられる。
【0100】
図11の図は、3つの瞳面P1、P2、P3の位置をさらに示す。光学系104の従来の実施形態では、平面板が光軸上で瞳面P1の右側に設けられる。平面板の代わりに、例えばグラフェンコーティングを有する波面マニピュレータ2がここでは設けられる。瞳面P1の右側の配置は、瞳にも視野にも近接しておらず、中間である。グラフェンコーティングを、例えば10mm
2〜20mm
2の連続領域にわたって均一に実現できるので、この場所における波面マニピュレータの位置は、ビーム経路を妨害することなく可能である。視野に近接して、波面マニピュレータを
図11に点線矢印2’で示す位置に設けることが可能である。各レンズ素子を、グラフェンコーティングを有する平面板とレンズ素子とに分割することで、波面操作が行われるようにすることができる。光学素子における波面マニピュレータの代替的な実現は、2’’及び一点鎖線矢印で示す。
【0101】
図12は、波面マニピュレータを備えた光学系のさらに別の例示的な実施形態を示す。
図12に示す投影レンズ204は、例えば、米国出願公開第2008/0174858号に
図3として開示されている。この場合も、複数のレンズ素子及びミラー59が物体面OEと像面BEとの間に設けられる。
図12は、3つの瞳面P1、P2、P3をさらに示す。中間像面Z1及びZ2をさらに示す。波面マニピュレータを上述のように用いるために、2つの代替的な位置を
図12に示す。位置2は、瞳P1の付近に瞳に実質的に近接して設けられる。しかしながら、中間位置2’も考えられる。視野に近接して、波面マニピュレータをミラー59に設けることが可能である。光学素子における波面マニピュレータの代替的な実現は、2’’及び一点鎖線矢印で示す。
【0102】
図13は、例えばグラフェンコーティングを有する波面マニピュレータを用いる光学系304の例示的な第3実施形態の概略図を示す。この場合、
図13は、米国出願公開第2008/0024746号に
図4aとして示すようなEUV光学ユニットを示す。光学系は、ここでは8つのミラー59を備える。光軸Aに沿って、反射光学素子59としてのミラーが物体面OEから像面BEまで設けられる。例えばミラー基板の1つのグラフェン加熱層としての波面マニピュレータは、特に瞳2’に近接して設けることができる。さらに別のマニピュレータ2’’が、例えば視野に近接して第4ミラー59に設けられる。
【0103】
最後に、
図14は、例えばグラフェンコーティングを有する波面マニピュレータを用いることができる光学系404の例示的な第4実施形態の概略図を示す。この場合、
図14は、欧州特許第1 881 520号に
図6として示すような193nmの波長用の液浸光学ユニットを示す。光学系は、物体面OEとウェーハ又は像面BEとの間に、屈折光学素子、すなわちレンズ素子と並んでミラー59もここでは備える。欧州特許第1 881 520号からの既知の配置と比べると、用いる光学素子の少なくとも1つが波面マニピュレータとして具現される。
図14は、グラフェン加熱層に関する視野に近接した配置に可能な位置を破線矢印2’、2’’で示す。
【0104】
特に、加熱層として働くグラフェンコーティングを有する波面マニピュレータを、具体的には特に従来の平面板がビーム経路内で設けられるビーム経路内の場所に設けることが得策であることが分かり得る。グラフェン層は透明なので、視野に近接した領域での配置も可能となる。
【0105】
概してこれにより、例えば不透明電極又は加熱機構による、視野の遮蔽及び回折による外乱を伴わずに、結像収差を補償するための容易に実現可能な波面操作を得ることが費用効果的に可能となる。
【0106】
本発明は、例示的な実施形態に基づき説明したが、それに限定されるのではなくさまざまな方法で変更することができる。コーティングについて提案した材料並びにその厚さ及び幾何学的表現は、単なる例にすぎないものと理解すべきである。主にグラフェンについて論じたが、熱的に励起することができる他のコーティング材料も可能である。波面マニピュレータを用いて、言及した放射線誘発加熱に加えて、各レンズ素子又はミラーの材料特性の変更に起因した効果を補償することも可能である。例えば、比較的長い動作後に、結像特性を変え得る材料損傷が起こり得る。