特許第6025910号(P6025910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6025910電子線を用いた撮像方法および電子線装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025910
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】電子線を用いた撮像方法および電子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20161107BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   H01J37/22 502J
   H01J37/28 B
【請求項の数】25
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-92678(P2015-92678)
(22)【出願日】2015年4月30日
(62)【分割の表示】特願2011-125475(P2011-125475)の分割
【原出願日】2011年6月3日
(65)【公開番号】特開2015-135833(P2015-135833A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】津野 夏規
(72)【発明者】
【氏名】数見 秀之
(72)【発明者】
【氏名】望月 譲
(72)【発明者】
【氏名】三羽 貴文
(72)【発明者】
【氏名】木村 嘉伸
(72)【発明者】
【氏名】横須賀 俊之
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−295043(JP,A)
【文献】 特開2006−140162(JP,A)
【文献】 特開2006−286685(JP,A)
【文献】 特開2002−043378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00−37/02、37/05、
37/09−37/244、37/252−37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を試料に照射して前記試料から放出された電子を検出し、前記試料が有する情報を画像化する電子線を用いた撮像方法において、
前記試料の観察予定領域に前記電子線を所定時間照射する電子線照射工程と、
前記電子線照射工程の所定照射時間内にあって前記所定照射時間より短い時間に設定された検出時間で、前記試料から放出された電子を検出する放出電子検出工程と、
前記放出された電子の検出信号に基づいて前記試料の情報を画像化する画像化工程と、を含み、
前記電子線照射工程において、前記所定時間が第1の照射時間と前記第1の照射時間と異なる第2の照射時間からなり、少なくとも第1および第2の照射時間を用いて前記試料の観察予定領域に前記第1の照射時間と前記第2の照射時間との間にインターバル時間を設けて電子線を照射することを特徴とする電子線を用いた撮像方法。
【請求項2】
前記2つの照射時間の少なくとも1つの照射時間を持つ電子線照射中に、前記試料から放出された電子を検出することを特徴とする請求項1記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項3】
電子線を試料に照射して前記試料から放出された電子を検出し、前記試料が有する形態を画像化する電子線を用いた撮像方法において、
前記試料の観察予定領域に前記電子線を所定時間照射する電子線照射工程と、
前記電子線照射工程の所定照射時間内にあって該所定照射時間より短い時間に設定された検出時間で、前記試料から放出された電子を検出する放出電子検出工程と、
前記放出された電子の検出信号に基づいて前記試料の埋もれた構造または積層構造の界面を画像化する画像化工程と、を含むことを特徴とする電子線を用いた撮像方法。
【請求項4】
前記電子線照射工程において、前記所定時間の照射を複数回繰り返し、
前記複数回繰り返し照射のうちの少なくとも1回の電子線照射中に、前記試料から放出された電子を検出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項5】
前記電子線照射工程において、前記所定時間が第1の照射時間と該第1の照射時間と異なる第2の照射時間からなり、少なくとも第1および第2の照射時間を用いて前記試料の観察予定領域に前記第1の照射時間と前記第2の照射時間との間にインターバル時間を設けて電子線を照射し、
前記2つの照射時間の少なくとも1つの照射時間を持つ電子線照射中に、前記試料から放出された電子を検出することを特徴とする請求項3に記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項6】
前記第1の照射時間の間に前記試料に帯電がなされ、
前記第2の照射時間の間に、前記試料の帯電を検出することを特徴とする請求項1、2、5のいずれか1項に記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項7】
前記第1の照射時間に照射される電子数が100個から10000個の範囲であって、
前記第2の照射時間に照射される電子数が1個から100個の範囲であって、
前記第1の照射時間から前記第2の照射時間が実行されるまでのインターバル時間が、0.001msから1000msであることを特徴とする請求項6記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項8】
前記電子線の入射エネルギが、1eVから3000eVであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項9】
前記放出された電子の過渡特性を取得し、該過渡特性に基づいて前記電子線の照射時間と前記試料から放出された電子の検出条件とを設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項10】
前記電子線の照射と異なるタイミングで断続的にエネルギ線を照射する工程を、さらに有し、
前記放出電子検出工程において、前記電子線を所定時間照射する条件に同期して、前記試料から放出された電子を検出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項11】
前記インターバル時間は2つ以上の異なるインターバル時間であり、
前記画像化工程は、前記異なるインターバル時間にて検出された結果に基づき、試料の深さ方向にて異なる情報を画像化することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子線を用いた撮像方法。
【請求項12】
電子線を試料に照射して前記試料から放出された電子を検出し、前記試料が有する情報を画像化する電子線装置において、
前記試料の観察予定領域に前記電子線を所定時間照射する電子線照射光学系と、
前記電子線の所定照射時間内にあって前記所定照射時間より短い時間に設定された検出時間で、前記試料から放出された電子を検出する放出電子検出部と、
前記放出された電子の検出信号に基づいて前記試料の情報を画像化する画像化部と、を含み、
前記電子線照射光学系は、前記所定時間が第1の照射時間と前記第1の照射時間と異なる第2の照射時間からなり、少なくとも第1および第2の照射時間を用いて前記試料の観察予定領域に前記第1の照射時間と前記第2の照射時間との間にインターバル時間を設けて電子線を照射するよう制御することを特徴とする電子線装置。
【請求項13】
前記2つの照射時間の少なくとも1つの照射時間を持つ電子線照射中に、前記試料から放出された電子を検出することを特徴とする請求項12記載の電子線装置。
【請求項14】
電子線を試料に照射して前記試料から放出された電子を検出し、前記試料が有する形態を画像化する電子線装置において、
前記試料の観察予定領域に前記電子線を所定時間照射する電子線照射光学系と、
前記電子線の所定照射時間内にあって該所定照射時間より短い時間に設定された検出時間で、前記試料から放出された電子を検出する放出電子検出部と、
前記放出された電子の検出信号に基づいて前記試料の埋もれた構造または積層構造の界面を画像化する画像化部と、を含むことを特徴とする電子線装置。
【請求項15】
前記電子線照射光学系において、前記所定時間の照射を複数回繰り返し、
前記複数回繰り返し照射のうちの少なくとも1回の電子線照射中に、前記試料から放出された電子を検出することを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の電子線装置。
【請求項16】
前記電子線照射光学系において、前記所定時間が第1の照射時間と該第1の照射時間と異なる第2の照射時間からなり、少なくとも第1および第2の照射時間を用いて前記試料の観察予定領域に前記第1の照射時間と前記第2の照射時間との間にインターバル時間を設けて電子線を照射し、
前記2つの照射時間の少なくとも1つの照射時間を持つ電子線照射中に、前記試料から放出された電子を検出することを特徴とする請求項14に記載の電子線装置。
【請求項17】
前記第1の照射時間の間に前記試料に帯電がなされ、
前記第2の照射時間の間に、前記試料の帯電を検出することを特徴とする請求項12、13、16のいずれか1項に記載の電子線装置。
【請求項18】
前記第1の照射時間に照射される電子数が100個から10000個の範囲であって、
前記第2の照射時間に照射される電子数が1個から100個の範囲であって、
前記第1の照射時間から前記第2の照射時間が実行されるまでのインターバル時間が、0.001msから1000msであることを特徴とする請求項17記載の電子線装置。
【請求項19】
前記電子線の入射エネルギが、1eVから3000eVであることを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の電子線装置。
【請求項20】
前記放出された電子の過渡特性を取得し、該過渡特性に基づいて前記電子線の照射時間と前記試料から放出された電子の検出条件とを設定することを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の電子線装置。
【請求項21】
前記電子線の照射と異なるタイミングで断続的にエネルギ線を照射するエネルギ線照射部を、さらに有し、
前記エネルギ線照射部において、前記電子線を所定時間照射する条件に同期して、前記試料から放出された電子を検出することを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の電子線装置。
【請求項22】
前記インターバル時間は2つ以上の異なるインターバル時間であり、
前記画像化部は、前記異なるインターバル時間にて検出された結果に基づき、試料の深さ方向にて異なる情報を画像化することを特徴とする請求項12又は13に記載の電子線装置。
【請求項23】
電子線を放出する電子銃と、
料の観察予定領域に前記電子線を所定時間照射する電子線照射光学系と、
前記試料を保持する試料ホルダと、
前記試料から放出された電子を検出する検出器と、
前記検出器の検出タイミングと検出時間を制御する検出制御部と、
前記検出器により検出された電子の信号から、画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部により得られる画像を表示する画像表示部と、を有し、
前記電子線照射光学系は、前記試料の観察予定領域に前記電子線を照射する所定時間と照射回数と該照射間のインターバル時間を設定し、
前記検出制御部は、前記設定された所定照射時間内にあって該所定照射時間より短い検出時間が設定されることを特徴とする電子線装置。
【請求項24】
前記検出制御部は、前記検出器の複数の検出タイミングと検出時間を制御し、
前記複数のタイミングで検出された電子の信号を複数の記憶部に保存する信号記憶部を有し、
前記画像形成部において、前記信号と前記試料への照射位置から、複数の画像を形成することを特徴とする請求項23記載の電子線装置。
【請求項25】
前記電子線が照射される前記試料の界面に対向して設置され、前記試料からの電界を制御する電極部をさらに、有し、
前記電極部に印加する極性に応じて、前記試料から放出された電子の進路を制御することを特徴とする請求項23記載の電子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線を用いた試料形態を観察する電子顕微鏡に係り、特に試料の内部構造や界面状態を観察する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の拡大観察可能な顕微鏡として電子線を用いた電子顕微鏡があり、試料表面の詳細な形状や組成の観察に利用されている。走査型電子顕微鏡(以下SEMと略す)は、電子源に印加された電圧によって加速された電子線を電子レンズで集束し、その集束電子線(1次電子)を偏向器により試料上で走査する。1次電子照射によって試料から放出された電子(2次電子)は、検出器で検出される。2次電子信号は走査信号に同期して検出され、2次元画像を構成する。試料からの2次電子の放出率は、試料表面の形状により異なるため、検出信号に差が生じ、形状を反映したコントラストが得られる。SEMでは、微細な表面形状の観察が最も一般的なアプリケーションである。
【0003】
近年、絶縁体もしくは、絶縁体と導体で構成された試料がSEMの観察対象となる事例が増えている。対象が、絶縁体である場合、観察中の、画像ドリフトや形状コントラストの喪失といった像障害が問題となる。この障害は、電子線照射による帯電が2次電子の検出量に影響し生じる電位コントラストが、形状コントラストに重畳されるためである。前記帯電による電位コントラストの影響を少なくする目的で、電子線のパルス化により、照射する電子数を制御し、画像化する手法が、非特許文献1に開示されている。特許文献1には、電子線を断続的に照射し、パルス化する一般的な手法として、ブランキング電極とブランキングスリットを用いる方式が開示されている。特許文献2には、パルス電子照射による2次電子を検出し、各照射位置からの2次電子信号で、2次元画像を構成する撮像方法が開示されている。特許文献3には、所定の時間間隔で同一箇所に、複数回パルス電子を照射し、画像化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−71775号公報
【特許文献2】特開昭58−197643号公報
【特許文献3】特開2004−31379号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】W.K.Wong,J.C.H.Phang,J.T.L Thong,SCANNING,Vol.17,312−315(1995)
【非特許文献2】S.Gorlich and K.D.Herrmann,W. Reiners,E.Kubalek,Scanning Electron Microscopy,Vol.II,1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した帯電が2次電子の検出量に影響し生じる電位コントラストは、単一材料で構成された試料の表面形状を観察する際には、不要なコントラストである。一方、複数の材料で構成された積層構造を持つ試料を観察する際、表面形状とは異なる情報が画像に重畳されることが経験的に知られている。電位コントラストに反映される電子線照射下での帯電電荷の量は、試料の容量や抵抗などの電気特性に依存する(非特許文献2を参照)。さらには、前記電気特性は埋もれた構造や積層構造の界面を反映している。つまり、当該電位コントラストが抽出できれば、埋もれた構造や積層構造の界面の観察や診断が可能となる。
【0007】
しかしながら、当該帯電による電位コントラストは、観察中に、見えたり、見えなくなったりする。これは、帯電電荷が、時間に依存して、蓄積と緩和を繰り返すからである。従来のパルス電子線を用いた観察方法では、照射時間内に含まれるすべての2次電子信号を検出する。結果、必要な試料情報を持たない2次電子信号をも積算してしまうため、画像のコントラストは弱いものとなってしまうか、不要な試料情報が画像に重畳されてしまい、像解釈が困難となる課題がある。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、画質と試料情報の選択性を向上させるパルス電子線を用いた撮像方法および走査電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
2次電子信号の時間変化について、埋もれた構造観察を例に説明する。図1Aは、実験に使用した試料の断面図である。前記試料1は、シリコン酸化膜2の領域Aと、シリコン酸化膜中にポリシリコン3が埋め込まれた領域Bで構成されている。図1Bは、パルス電子照射下での2次電子信号の過渡応答を取得した結果であり、0.5msのパルス幅を持つパルス電子照射における、領域Aと領域Bの、2次電子信号の時間変化である。
【0010】
2次電子信号は、照射のパルス幅と同じ0.5msのパルス形状を示している。2次電子信号はパルス電子照射中に減衰し、定常となる。2次電子の放出数が、照射電子数より多い場合、試料表面は正に帯電する。この正の帯電によって試料からの2次電子放出が減衰し、結果、照射電子数と2次電子の放出数が等しくなる状態で、定常となる。図1Bから判るように、照射時間が、0.01ms以下である照射開始直後と、2次電子の信号が定常となる、0.4ms以上では、領域Aと領域B間の2次電子信号の差はほとんどない。
【0011】
一方、0.1msから0.3msの範囲では、領域Aと領域B間の2次電子信号の差が拡大する。つまり、埋もれた構造を反映する画像は、2次電子信号に差が生じる特定の時間領域に現れる。
【0012】
本願発明は、このような2次電子信号の過渡応答に関する研究に基づき、なされてものであって、本発明によるパルス電子線を用いた観察方法は、2次電子検出における検出タイミングと検出時間を制御する工程を含むところにある。この方法によれば、パルス電子照射中の、2次電子信号を検出する時間領域が選択できる。図1Bに示すように、試料情報は、照射中の特定の時間領域に現れる。2次電子の検出時間領域を選択することで、必要な試料情報を持たない2次電子信号や、不要な情報を含んだ2次電子信号を除することができるので、画質向上が期待できる。
【0013】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法は、複数のパルス電子を同一箇所に照射する工程と、2次電子を検出するタイミングを複数のパルス電子のうちの少なくとも1つ以上のパルス電子と同期する工程を含むところにある。試料情報は、特定のパルス電子照射数で現れる。この方法によれば、必要な情報を持つパルス電子からの2次電子の信号を選択的に取得できるため、画質に加え、情報の選択性の向上が期待できる。
【0014】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法は、異なる断続条件で、複数のパルス電子を同一箇所に照射する工程と、2次電子を検出するタイミングを異なる断続条件のうちの少なくとも1つ以上のパルス電子と同期する工程を含むところにある。試料情報は、照射で誘起された状態が緩和する過程で現れる。この方法によれば、状態を誘起する電子照射処理と、画像化に用いる電子照射とを切り分けることができるので、画質向上が期待できる。
【0015】
ここで、異なる断続条件のうち、第一の断続条件が、電子照射で試料を帯電処理する断続条件で、第二の断続条件が、試料の帯電を検出する断続条件であり、検出時に同期する断続条件が、前記第二の断続条件である。この方法によれば、必要な試料情報として、試料の埋もれた構造や界面状態を反映した試料情報を選択できる。
【0016】
ここで、前記第一の断続条件が、電子数100個から10000個を照射する条件で、前記第二の断続条件が、電子数1個から100個を照射する断続条件であり、第一の断続条件と第二の断続条件との間隔が0.001msから1000msである。
【0017】
ここで、前記第二の断続条件が、同一箇所に複数回照射される条件であり、第二の断続条件に同期して得られる2次電子の検出信号を積算し、画像化する工程を含むところにある。この方法によれば、信号積算による画質向上が期待できる。
【0018】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法は、異なる照射回数とパルス幅とパルス間のインターバル時間をもつ異なる断続条件で、複数のパルスを同一箇所に照射する際、少なくとも2つ以上の断続条件を選択し、2次電子を検出するタイミングを選択した断続条件と同期する工程と、同期検出した2次電子を選択した断続条件毎に画像化する工程を含むところにある。この方法によれば、複数の試料情報を一度のシーケンスで可視化できるので、試料の解析効率向上が期待できる。
【0019】
ここで、第一の断続条件は、表面形態を反映する条件で、第二の断続条件は、試料の帯電を処理する条件で、第三の断続条件は、帯電を制御する条件であり、検出同期する選択した断続条件が、第一と第三の断続条件である。本設定により、試料表面形態と、内部構造を反映した画像が同時に解析できる。
【0020】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法は、第一の断続条件と第二の断続条件で、パルス電子を同一箇所に照射する場合において、第一から第二の断続条件が実行される間隔を変化させる工程と、前記間隔の変化に同期して、2次電子の検出タイミングを変化させる工程を含むところにある。この方法によれば、第一の断続条件で誘起した状態の緩和過程が、時間分解で観察できる。ここで、断続的な電子線の入射エネルギは1eVから3000eVである。
【0021】
また、本願発明のパルス電子線を用いた観察方法において、2次電子の過渡特性に基づきパルス電子の断続条件と、2次電子の検出条件を設定する工程を含むところにある。この方法によれば、好適な観察条件を短時間で設定することができる。
【0022】
本願発明の電子線を用いた走査電子顕微装置は、電子線を放出する手段と、電子線を断続的にパルス照射する手段と、前記電子線の断続条件を制御する手段と、前記電子線の照射位置を位置決めする手段と、前記電子線を試料に集束する手段と、前記試料からの2次電子を検出する手段と、前記2次電子の検出タイミングと検出時間を制御する手段と、前記2次電子の検出信号と前記照射位置から画像を形成する手段と、前記画像を表示する手段とを有するものである。
【0023】
また、本願発明の電子線を用いた走査電子顕微装置は、電子線を放出する手段と、電子線を断続的にパルス照射する手段と、前記電子線の断続条件を制御する手段と、前記電子線の照射位置を位置決めする手段と、前記電子線を試料に集束する手段と、前記試料からの2次電子を検出する手段と、前記2次電子を検出するパルスを選択する手段と、前記2次電子の検出信号と前記照射位置から画像を形成する手段と、前記画像を表示する手段とを有するものである。
【発明の効果】
【0024】
本願発明によれば、2次電子信号の検出時間領域の制御により、必要な試料情報を持つ信号が選択的に検出できるため、高画質で、情報選択性の高い試料形態の観察や分析ができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】実施例1で用いる試料の断面図。
図1B】2次電子信号の時間変化を示す説明図。
図2】本発明の電子顕微鏡の一例を示す構成図。
図3A】SEMの画像形成に関する説明図。
図3B】実施例1の撮像方法の一例を示す説明図。
図4A】実施例1の撮像方法で用いる2次電子信号プロファイルの一例を示す図。
図4B】実施例1の撮像方法で取得した画像の一例を示す図。
図5】実施例2の試料の一例を示す断面図。
図6A】パルス電子の照射タイムチャートの一例を示す図。
図6B】複数のパルス電子照射下での2次電子の信号変化を示す説明図。
図7】実施例2のパルス電子照射と検出のタイムチャートの一例を示す説明図。
図8】本発明の電子顕微鏡の一例を示す構成図。
図9】実施例3のパルス電子照射と検出のタイムチャートの一例を示す説明図。
図10】実施例3のパルス電子照射と2次電子放出の関係を示す説明図。
図11】実施例4のパルス電子照射と検出のタイムチャートの一例を示す説明図。
図12】実施例5のパルス電子照射と検出のタイムチャートの一例を示す説明図。
図13】実施例5のパルス電子照射と2次電子放出の関係を示す説明図。
図14】実施例6のパルス電子照射と検出のタイムチャートの一例を示す説明図。
図15】パルス間のインターバルと2次電子の信号変化を示す説明図。
図16】本発明の撮像条件を設定するフローチャートの一例を示す図。
図17】本発明の撮像条件を設定するGUIの一例を示す図。
図18】実施例8の電子顕微鏡の一例を示す構成図。
図19】実施例8のパルス電子およびエネルギ線の照射と検出のタイムチャートの一例を示す説明図。
図20】実施例9の電子顕微鏡の一例を示す構成図。
図21A】電界制御電極の極性に対応した試料の電子線照射面付近の電界を示す図。
図21B】電界制御電極の極性に対応した試料の電子線照射面付近の電界を示す図。
図22】実施例9の試料の一例を示す断面図。
図23A】電界制御電極に正の電圧を印加した場合のパルス電子照射下での電子放出信号を示す図。
図23B】電界制御電極に負の電圧を印加した場合のパルス電子照射下での電子放出信号を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0027】
本実施例では同一箇所への単一パルス照射における撮像方法と装置について述べる。本実施例における走査電子顕微鏡の構成例を図2に示す。走査電子顕微鏡10は電子光学系、ステージ機構系、制御系、画像処理系、操作系により構成されている。電子光学系は電子銃11、パルス生成器12、絞り13、偏向器14、対物レンズ15、検出器16により構成されている。ステージ機構系はXYZステージ上の試料ホルダ17、試料18、により構成されている。制御系は電子銃制御部19、パルス制御部20、偏向走査信号制御部21、対物レンズコイル制御部22、検出器制御部23により構成されている。画像処理系は、検出信号処理部24、画像形成部25、画像表示部26により構成されている。操作系は、操作インターフェース27とSEM制御部28により構成されている。本願発明では、別途パルス生成器12を設ける構成としたが、パルスで電子線照射可能な電子銃を用いても実施可能である。この場合、パルス制御部は、電子銃制御部に組み込むことも可能である。
【0028】
図1Bに示したように、0.5msのパルス電子を照射した場合、0.1msから0.3msの範囲で、図1Aにおける位置Aと位置Bの2次電子信号に差が生じる。よって、位置A、B間でコントラストを得るには、0.1msから0.3msの2次電子信号を積算する必要がある。
【0029】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を図3A,Bに示す。図3AはSEMの画像形成について説明したものである。前記偏向器14により制御された照射位置からの2次電子信号を検出し、画素31の明るさとする。前記照射位置を変えながら、2次電子信号を検出する。前記照射位置の座標と2次電子信号の強度から、画像が形成される。本実施例では同一箇所を同一画素で定義した。図3Bは同一画素に照射されるパルス電子の断続条件のタイムチャート32と、検出器制御のタイムチャート33と、このとき得られる2次電子の信号波形34との関係について示している。本実施例における断続条件は、パルス幅である。パルス電子は、タイムチャート32に示すように、前記パルス制御部20により、パルス幅Tで単一画素に断続的に照射される。パルス電子照射中の2次電子は、前記検出器制御のタイムチャート33に示すように、タイミングTと検出時間Tで、検出され、前記2次電子の信号波形34が得られる。
【0030】
図1Aの試料を観察する場合、パルス幅Tは0.5ms、タイミングTは0.1msで、検出時間Tは0.2msが望ましい。本実施例では、検出器制御部23により、検出タイミングと検出時間を制御する構成としたが、照射時間内に含まれるすべての2次電子信号を取得し、検出信号処理部24によるデータ処理で、前記時間領域内に含まれる2次電子信号を切り出しても構わない。
【0031】
当該パルス電子線照射下での撮像方法を用いて、図1Aの試料を、電子線の入射エネルギ300eVで、観察した結果を図4Bに示す。通常、300eVで可視化できる深さは10nm程度である。
【0032】
なお、本実施例では、電子線の入射エネルギ300eVを用いたが、本発明に係る装置および撮像対象の制約を考慮して、1eVから3000eVの範囲のエネルギを設定することができる。しかしながら、パルス電子照射と2次電子の検出タイミングと検出時間の制御により、図4Aの2次電子信号プロファイル40、さらには、図4BのSEM画像41のように、ポリシリコン3が埋もれている領域で明るいコントラストが得られる。観察したポリシリコン3は、本実施例では円柱形状(例えば、半導体素子中のプラグなど)であるので、上面は図4Bのように円形であり、断面は図4Aのように矩形形状となっている。
【0033】
このように本実施例を用いれば、必要な試料情報が含まれる時間領域を選択して、2次電子信号が検出できるので、高画質での試料解析が可能になる。
【実施例2】
【0034】
本実施例では、同一箇所に複数のパルス電子を照射する場合における撮像方法について述べる。装置は、図2と同様の構成を用いた。本実施例で用いた試料を図5に示す。試料は酸化膜51とポリシリコン膜52の積層構造になっている。酸化膜とポリシリコン膜の界面は、正常界面を持つ領域Aと、荒れた界面53を持つ領域Bに分かれている。前記試料を用いて、2次電子信号とパルス数の関係について調べた。その結果を図6Bに示す。
【0035】
図6Aは、パルス電子の照射タイムチャートである。電子線の断続条件は、パルス幅Tは0.05msで、パルス間のインターバルTは、0.5msで、照射したパルス数Nは12ショットで設定した。図6Bは、領域Aと領域Bにおける2次電子信号と照射パルス数の関係を示す図である。図中では、1回目の照射パルスから12回目のパルスに対応して得られた2次電子信号の強度を任意スケールで示している。この2次電子信号は、パルス内に含まれる2次電子信号の平均値とした。領域Aと領域Bともにパルス数の増加に伴い減衰し、定常となる。領域Aと領域Bにおける2次電子信号の強度の差はパルス数N=4で最大となっている。このように、界面の状態を反映した領域Aと領域Bの差は、特定のパルスに現れる。つまり、同一箇所で複数のパルス電子を照射する場合、パルスを選択して2次電子信号を検出する必要がある。
【0036】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を図7に示す。タイムチャート70は、電子線の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。パルス電子は、パルス幅Tと、パルス間のインターバルTと、パルス数Nの断続条件で制御される。前記断続条件を持つパルス電子は同一箇所に照射される。本実施例では、前記同一箇所を、同一画素で定義し、ここでは、同一画素内に複数のパルスが照射されていればよい。
【0037】
タイムチャート70に示すパルス電子に同期して、タイムチャート71に示すように、検出器制御部23で、検出開始パルスNと、検出パルス数Nが制御される。本実施例では、パルス幅Tは0.05msで、パルス間のインターバルT=0.5ms、照射したパルス数N=12ショット、検出開始パルスN=3、検出パルス数N=6とした。本実施例では、指定したパルス照射中の2次電子すべてを取得する構成としたが、実施例1に示すように、検出パルスの指定に加え、パルス中の検出タイミング、検出時間を指定しても構わない。当該撮像方法により、界面状態を反映した試料情報を持つパルスのみ検出できるため、高いコントラストで、界面の解析ができる。本実施例では、検出器制御部23により、検出パルスを選択する構成としたが、同一箇所に照射される複数回のパルスに含まれるすべての2次電子信号を取得し、検出信号処理部24によるデータ処理で、前記検出パルス内に含まれる2次電子信号を切り出しても構わない。このように本実施例を用いれば、必要な試料情報が含まれるパルスを選択して、2次電子信号が検出できるので、高画質での試料解析が可能になる。
【実施例3】
【0038】
本実施例では、同一箇所に複数のパルス電子条件で照射する場合の撮像方法について述べる。本実施例における走査電子顕微鏡の構成例を図8に示す。走査電子顕微鏡80は、図2に示した走査電子顕微鏡10と、パルス生成の方式が異なる。本実施例ではビーム分割器81により、一度電子線を2本に分割し、各電子線で断続条件が設定可能なマルチパルス生成器82により、第一の断続条件を持つパルス電子83と、第二の断続条件を持つパルス電子84が生成される。前記第一と第二の断続条件を持つパルス電子は対物レンズにより同一箇所に集束される。本実施例では、同一箇所を照射領域の重なりで定義した。ここで、前記第一と第二の断続条件を持つパルス電子の照射領域が一部でも重なっていればよく、前記第一と第二の断続条件を持つパルス電子が同じ照射領域である必要はない。本実施例では電子線を分割して、複数の断続条件を制御する構成としたが、図2に示す構成であっても、パルス制御部20により、複数の断続条件を組み合わせた制御信号を生成することで、前記第一と第二の断続条件を持つパルス電子が制御できる。
【0039】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を図9に示す。タイムチャート90は、ひとつのチャートで、第一と第二の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバルである。パルス電子は、第一の断続条件であるパルス幅Tp1と、第二の断続条件であるパルス幅Tp2で制御され、第一のパルス電子と第二のパルス電子は、インターバルTで同期して照射される。2次電子信号は、タイムチャート91に示すように、第二のパルスに同期して、検出される。
【0040】
本実施例では、図10に示した埋もれた構造を観察する場合を例にパルス電子の撮像方法を説明する。試料は、図1Aと同様に、シリコン酸化膜2の領域Aと、シリコン酸化膜中にポリシリコン3が埋め込まれた領域Bで構成されている。第一のパルス電子100により、生成された試料帯電101は、試料の埋もれた形態に応じて蓄積されるため、領域Aと領域Bで差が生じる。さらに、前記試料帯電101は、領域Aと領域Bで、帯電緩和の時定数が異なるため、インターバルTで差が拡大する。前記試料帯電に、第二のパルス電子102を照射すると、帯電の保持量に応じて、2次電子の信号パルス103に差が生じる。前記試料帯電101の差を得るため、第一のパルス電子100は、数1000個の電子が照射される条件であることが望ましい。因みに、電子の個数は、照射される電子線から求めた電流量(I)と印加するパルスのパルス幅(t)とを掛け合わせ、その値を素電荷量(q)で除算して求めることができる。
【0041】
第二のパルス電子102は、第一のパルス電子で形成した試料帯電101を壊さない程度である、数10個の電子が照射される条件であることが望ましい。また、インターバルTは、誘電緩和の時定数程度である0.001msから1000msの範囲内に設定することが望ましい。ここで、第一のパルス電子100は、前記試料帯電101を形成するためのパルス照射であり、画像には寄与しない。試料帯電101の差を検出する第二のパルス電子102のみ検出することで、埋もれた構造を反映した画像が得られる。本実施例では、検出器制御部23により、第二のパルス条件と同期検出する構成としたが、同一箇所に照射される複数のパルス電子条件に含まれるすべての2次電子信号を取得し、検出信号処理部24によるデータ処理で、前記第二のパルス条件に含まれる2次電子信号を切り出しても構わない。このように本実施例を用いれば、試料帯電を処理するパルスと、試料帯電を検出するパルスを切り分けて、画像が形成できるため、情報の選択性が高まり、高画質での試料解析が可能になる。
【実施例4】
【0042】
本実施例では、同一箇所に複数のパルス電子条件で照射する場合の撮像方法について述べる。装置は、図2と同様の構成を用いた。
【0043】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を図11に示す。タイムチャート110は、ひとつのチャートで、第一と第二の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。パルス電子は、第一の断続条件であるパルス幅Tp1と、第二の断続条件であるパルス幅Tp2で制御され、第一のパルス電子と第二のパルス電子は、インターバルTi1で同期して照射される。第二のパルス電子は、インターバルTi2でN回照射される。このとき第二のパルス電子をN回照射することで、帯電が進行しないよう、インターバルTi2で調整される。このとき、N回照射される第二のパルス電子の総数が、インターバルTi2で緩和する電荷数と同等もしくは、差が100個以下であることが望ましい。2次電子信号は、タイムチャート111に示すように、第二のパルスに同期して、検出される。検出されたN−1回の2次電子信号は、検出信号処理部24により積算され、1画素での信号となる。本実施例では、検出器制御部23により、第二のパルス条件と同期検出する構成としたが、同一箇所に照射される複数のパルス電子条件に含まれるすべての2次電子信号を取得し、検出信号処理部24によるデータ処理で、前記第二のパルス条件に含まれる2次電子信号を抽出し、積算しても構わない。このように本実施例を用いれば、画像を構成するパルスを積算できるため、高画質での試料解析が可能になる。
【実施例5】
【0044】
本実施例では、同一箇所に複数の断続条件で照射し、試料情報の異なる画像を一度に可視化するパルス電子線の撮像方法について述べる。装置は、図2と同様の構成を用いた。複数のパルス電子条件は、パルス制御部20で制御した。本実施例では、画像形成部25に複数のメモリを設置し、検出信号処理部24からの信号を、メモリ選択して書き込むことができる。本装置により、複数の画像を一度に処理することができる。
【0045】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を図12に示す。タイムチャート120は、ひとつのチャートで、第一と第二と第三の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。パルス電子は、第一のパルス電子121のパルス幅Tp1と、第二のパルス電子122のパルス幅Tp2と、第三のパルス電子123のパルス幅Tp3で制御され、前記第一のパルス電子と前記第二のパルス電子は、インターバルTi12で、前記第二のパルス電子と前記第三のパルス電子は、インターバルTi23で同期して照射される。2次電子信号は、タイムチャート124に示すように、第一のパルスに同期して、検出する第一の2次電子信号125第三のパルスに同期して、検出する第二の2次電子信号126が、各々別のメモリに保存される。最終的には、第一の2次電子信号125と第二の2次電子信号126による2種類の画像が形成される。
【0046】
本実施例では、図13に示した表面形状と埋もれた構造を同時に観察する場合を例にパルス電子の撮像方法を説明する。本実施例で用いた試料を図13に示す。前記試料は、シリコン酸化膜2の領域Aと、シリコン酸化膜中にポリシリコン3が埋め込まれた領域Bで構成されている。さらに領域Bには表面に段差形状がある。第一のパルス電子は、電子線照射下での帯電が2次電子信号にほとんど影響しない照射条件に設定する。このとき2次電子の信号は表面の形態に依存する。試料の角度変化や、エッジによって2次電子の放出量が異なるため、領域Aと領域Bで、第一の2次電子信号125に差が生じる。その後、前記実施例3と同様に、第二のパルス電子によって、帯電130を形成し、前記帯電を第三のパルス電子で検出する。このとき得られる第二の2次電子信号126は、試料の埋もれた構造を反映している。第一の2次電子信号125と第二の2次電子信号126によって、表面の形状の情報を持つ画像と、埋もれた構造を持つ画像を同時に取得することができる。
【0047】
このように本実施例を用いれば、複数の断続条件を持つ、パルス電子を異なる試料情報に分類して、画像が形成できるため、複数の試料情報を同時に可視化、分析することが可能になる。
【実施例6】
【0048】
本実施例では、同一箇所に複数の断続条件で照射し、試料情報の時間変化を可視化するパルス電子線の撮像方法について述べる。装置は、図2と同様の構成を用いた。複数のパルス電子条件は、パルス制御部20で制御した。本実施例では、画像形成部25に複数のメモリを設置し、検出信号処理部24からの信号を、メモリ選択して書き込むことができる。本装置により、複数の画像を一度に処理できる。
【0049】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を図14に示す。タイムチャート140は、ひとつのチャートで第一と第二の断続条件を表したものである。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。第一のパルス電子141はパルス幅Tp1で照射され、第二のパルス電子142以降は、パルス幅Tp2でN回、照射される。前記パルス電子間のインターバルは、各パルス間で、インターバルTi12、インターバルTi23…と設定できる。
【0050】
本実施例では、図1Aに示した埋もれた構造を観察する場合を例にパルス電子の撮像方法を説明する。第一のパルス電子で表面に帯電を形成する。このとき第一のパルス電子からのインターバル時間Ti12を変化させながら、第二のパルスを照射すると、図15に示すように、第一のパルス電子と第二のパルス電子のインターバルTi12に応じた、2次電子の信号変化が得られる。インターバルの長さに応じて、第一のパルス電子で得られる帯電の緩和量が異なるため、第二のパルス電子で得られる2次電子信号が変化する。前記帯電の緩和量は、試料の埋もれた構造に起因し、図15に示すように複数の時定数を持つ。前記時定数を解析することで、内部構造を解析できる。インターバル時間の依存性を各画素で取得することで、内部の三次元構造を復元できる。
【0051】
本実施例では、異なるインターバルで取得する、帯電検出用の第二から第Nまでのパルス電子を各メモリに保存し、帯電の時間分解像を取得する。当該時間分解像解析により、三次元構造を構築できる。このように本実施例を用いれば、帯電の時間分解像が取得できるため、三次元構造の解析ができる。
【実施例7】
【0052】
本実施例では、撮像条件の設定方法について述べる。装置構成は図2と同じ構成である。本実施例における撮像条件の設定方法を示したフローチャートを図16に示す。
【0053】
条件設定モード(ステップ160)では、2次電子信号の過渡特性から、パルス電子線の断続条件と検出条件を決定する。2次電子信号の過渡特性は、あらかじめ、過渡特性を取得したデータベースから推定する方法と、試料上のランダムな位置で、過渡特性を取得する方法がある。本実施例では、試料上のランダムな位置で、過渡特性を取得する方法を例に説明する。試料上のランダムな位置を自動または、手動で選択し、図1Bのパルス照射中の2次電子信号変化と、図14の2次電子信号のパルス間インターバル時間依存性を取得する(ステップ161)。図1Bと、図15から、2次電子の信号定常時の照射電子量と、信号緩和の時定数が解析できる(ステップ162)。ランダムな位置から得られた定常時の照射電子量と、緩和時定数を比較し、パルス照射の断続条件を決定する(ステップ163)。たとえば、定常時の照射電子量の差が緩和時定数の差よりも大きい場合、前記実施例1の単一パルスに設定することが望ましく、緩和時定数の差の方が大きい場合、前記実施例2または3に示した複数のパルス電子を照射することが望ましい。前記実施例2の複数のパルス電子を照射する場合を例に説明する。定常時の照射電子量の差から好適なパルス幅を設定し、緩和時定数の差から、好適なパルス間のインターバルおよび照射数を設定する(ステップ164)。検出条件は、必要な情報が得られる時間領域や、画像のSNを鑑みて選択する(ステップ165)。また、たとえば、前記実施例2の図6に示すようにパルス数と2次電子信号の関係を取得して、検出条件を設定することも可能である。その後、条件設定を終了し、観察に入ることができる(ステップ166)。
【0054】
本実施例における撮像条件の設定のGUIを図17に示す。撮像条件の設定を選択すると、操作インターフェース27のモニタに、図17のGUIが表示される。ウィンドウ170は2次電子信号の過渡特性を取得するウィンドウで、パルス照射中の2次電子信号変化や、2次電子信号のパルス間インターバル時間依存性などの過渡特性データが表示される。ウィンドウ171は、前記2次電子信号の過渡特性の結果から解析される特性値が表示される。前記過渡特性データや、前記特性値から、ウィンドウ172でパルス断続方法が選択できる。さらに、断続条件は、ウィンドウ173で、検出条件は、ウィンドウ174により設定できる。このように本実施例を用いれば、撮像条件の設定が容易に実施できるため、画像が短時間で取得できる。
【実施例8】
【0055】
本実施例では、同一箇所に断続的なエネルギ線と、断続的な電子線で試料形態を可視化するパルス電子線の撮像方法について述べる。装置の構成を、図18に示す。図2の装置構成に、断続的なエネルギ線源181と、エネルギ線制御部182が付加されている。本実施例では、断続的なエネルギ源としてパルスレーザを用いた。本発明は、X線、光、赤外線などのエネルギ線を用いることができ、本実施例に限定されるものではない。
【0056】
本実施例におけるパルス電子線照射下での撮像方法を図19に示す。タイムチャート190は、ひとつのチャートで、第一の断続条件と第二の断続条件を表している。本実施例における断続条件は、パルス幅、パルス間のインターバル、パルス電子の照射回数である。本実施例では、異なる断続条件である第一のパルス電子と、第二のパルス電子が、同一箇所に照射される。タイムチャート191はパルスレーザの照射タイミングを示している。前記パルスレーザは、前記第一のパルス電子と第二のパルス電子間に照射される。タイムチャート192は、2次電子の検出タイミングを示しており、本実施例では、前記第二のパルス電子と同期することとした。パルスレーザによる誘電分極の応答によって、前記第一のパルスで処理された試料の帯電の緩和特性が変化する。前記緩和特性の変化は、試料の組成や、構造に依存するため、第二のパルス電子による2次電子信号は、試料の組成や構造を反映する。
【0057】
このように本実施例を用いれば、電子線照射で誘起される状態に依存した試料情報だけでない、情報が選択できるようになり、分析可能な試料情報の種類が拡大できる。
【実施例9】
【0058】
本実施例では、試料から放出された2次電子の軌道を制御した状態で、断続的な電子線を特定し、2次電子を検出するパルス電子線を用いた解析方法について述べる。
【0059】
装置の構成を、図20に示す。図2の装置構成に加え、試料上部に、試料からの電界を制御する電極201が設置してある。前記電極には、電圧印加部202により試料の電子線照射面付近の電界が制御できる。図21は、電界の向きと2次電子軌道の関係を表した図である。図21Aに示すように、試料に対し、正の電圧を電極201に印加した場合、2次電子は、試料と電極間の電界によって加速され、すべてのエネルギの2次電子が試料から放出される。2次電子の放出が、1次電子より多い場合、試料の表面は、正に帯電する。
【0060】
一方、図21Bに示すように、試料に対し、負の電圧を電極201に印加した場合、2次電子は、試料と電極間の電界によって減衰され、一部のエネルギの2次電子は、試料に戻される。試料に戻される2次電子の量に応じて、試料は負に帯電する。図21に示すように、電界の向きによって、試料帯電の極性を切り替えることができる。図22は、本実施例で用いた、埋もれた界面をもつ試料の断面図である。シリコンカーバイト222に、埋もれた界面221が存在している。埋もれた界面221は、シリコンカーバイト結晶内に含まれる積層欠陥である。図22は、前記電極201に正の電圧を印加した場合のパルス電子照射下での電子放出信号(図23A)と、前記電極201に負の電圧を印加した場合のパルス電子照射下での2次電子放出信号(図23B)である。正の電圧では、埋もれた界面の無い領域Aと、埋もれた界面が存在する領域Bで、パルス照射中の信号に差は無く、検出タイミングを調整しても、領域A、B間で、2次電子放出信号差を得ることができない。
【0061】
一方、図23Bに示すように、負の電圧では、埋もれた界面が存在する領域Bで、2次放出電子信号は、過渡的に変化することが判る。前記領域Bの埋もれた界面である積層欠陥は、電子を捕捉しやすい性質がある。領域Aでは、電界によって戻された2次電子は、試料を介して、流れ出る。領域Bでは、戻された2次電子を捕捉し、負に帯電する。負帯電の進行に応じて、2次放出電子信号は、過渡的に変化する。パルス電子照射直後の領域A、B間の2次電子放出信号の差は、小さく、10から30msで、2次電子放出信号の差は最大となる。よって、図3のパルス電子照射と検出のタイムチャートを用いた場合、本実施例では、10から30msの範囲で、画像化に用いる電子信号を検出することが望ましい。このように本実施例を用いれば、試料に応じて帯電による過渡特性を制御できるため、情報の選択性が高まり、高画質での試料解析が可能になる。
【符号の説明】
【0062】
1:試料断面図、
2:シリコン酸化膜、
3:ポリシリコン、
10:走査電子顕微鏡、
11:電子銃、
12:パルス発生器、
13:絞り、
14:偏向器、
15:対物レンズ、
16:検出器、
17:試料ホルダ、
18:試料、
19:電子銃制御部、
20:パルス制御部、
21:偏向制御部、
22:対物レンズコイル制御部、
23:検出器制御部、
24:検出信号処理部、
25:画像形成部、
26:画像表示部、
27:操作インターフェース、
28:SEM制御部、
30:画像、
31:画素、
32,33:タイムチャート、
34:信号波形、
40:プロファイル、
41:SEM画像、
50:試料、
51:酸化膜、
52:ポリシリコン、
53:界面、
70,71:タイムチャート、
80:走査電子顕微鏡、
81:ビーム分割器、
82:マルチパルス生成器、
83,84:パルス電子、
90,91:タイムチャート、
100:パルス電子、
101:試料帯電、
102:パルス電子、
103:信号パルス、
110,111:タイムチャート、
120:タイムチャート、
121,122,123:パルス電子、
124:タイムチャート、
125,126:2次電子信号、
130:試料帯電、
140:タイムチャート、
141,142,143,144:パルス電子、
145:タイムチャート、
146,147,148:パルス電子、
170,171,172,173,174:ウィンドウ、
181:エネルギ線源、
182:エネルギ線源制御部、
190,191,192:タイムチャート。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23A
図23B