【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、総務省、「超高速・低消費電力光ネットワーク技術の研究開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
偏波を送信情報で変調した主信号と、当該偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中する信号系列とが多重化後に光変換されて、光伝送路へ送信された光信号を、当該光伝送路から受信する光受信装置であって、
前記受信された信号光を、偏波成分毎のデジタル受信信号に変換する変換部と、
前記デジタル受信信号の波長分散による信号歪を、当該信号歪の補償を行うために更新可能に記憶された分散補償量に応じて補償する補償部と、
前記補償された信号から前記特定周波数に電力が集中する信号系列を抽出するフィルタ部と、
前記抽出された特定周波数の信号系列における前記補償された信号のタイミングの、送信側の基準となるタイミングに対するずれから残留分散量を推定する推定部と、
前記推定された残留分散量から、当該残留分散量を打ち消す分散補償量を求め、この求めた分散補償量で、前記補償部に記憶された分散補償量を更新する更新部と、
前記推定と前記更新とが、同一回数で少なくとも2回以上行なわれるように制御する回数制御部と、
を備えることを特徴とする光受信装置。
前記更新部は、前記信号歪が予め定められた許容範囲内に収まる場合の残留分散量を示す第2閾値を用い、前記残留分散量が第2閾値以下となった場合に、前記分散補償量の更新を止め、前記残留分散量が第2閾値を超えた際に、前記分散補償量の更新を再開する処理を行う
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光受信装置。
前記更新部は、前記推定部から出力される複数の前記残留分散量の平均値を算出し、この平均値で前記補償部に記憶された分散補償量を更新する処理を、前記回数制御部が制御する回数分行う
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光受信装置。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバ通信では、光受信装置に局部発振用レーザを備えて、光送信装置から光ファイバ(光伝送路)を経由して受信した光信号と電界とをミキシングするコヒーレント受信が行なわれている。このコヒーレント光通信システムにおいては、後述の波長分散を補償する波長分散推定技術が適用されている。
【0003】
波長分散は、光信号の波長によって伝播速度が異なる現象である。波長が同一であれば、伝播速度は同じだが、波長が異なれば伝播時間が異なってくる。送信側で変調された光信号は、一定の波長幅を有する。しかし、光信号は光ファイバ中の帯域幅で伝播時間が異なるために、ベースバンド信号であれば、信号の波形歪みが起きて劣化する。なお、波長分散は、1nm波長が異なる際にどれだけ伝播時間に差があるかを示す[ps/nm]の単位で表される。
【0004】
波長分散推定技術は、上述した信号歪の補償を行う技術であり、最初に、その補償を行うために必要なトレーニング信号系列を含む光信号を光送信装置から光ファイバへ送信し、この送信信号を光受信装置で受信する。次に、その受信信号中のトレーニング信号系列から、光ファイバ中の波長分散量を推定して波長分散を補償する。このように、光ファイバを伝搬中に光信号のパルス幅が時間的に広がる波長分散により生じる信号の歪を補償する技術である。
【0005】
この波長分散推定技術が用いられたコヒーレント光通信システムの一例として、特許文献1に記載のものがある。このシステムでは、光送信装置で、後述する複数の周波数帯域に集中した電力を有するトレーニング信号系列を、オーバヘッドに挿入して時間多重した信号を光ファイバへ送信する。この送信信号を光ファイバから光受信装置で受信し、受信信号中のトレーニング信号系列の各周波数成分の到着時刻差から、波長分散量の推定を行う。
【0006】
この推定された波長分散量に基づいて、波長分散による信号の歪みを補償し、補償された信号を出力する。補償された信号においては、更に適応等化機能により、偏波モード分散や、光送受信装置及び伝送路中で歪んだ信号が補償され、この補償後の信号が復調され、送信側から送信された信号が得られる。
【0007】
なお、上述した「複数の周波数帯域に集中した電力を有するトレーニング信号系列」とは、言い換えれば、「複数の特定周波数に電力が集中するトレーニング信号系列」のことである。
「複数の特定周波数に電力が集中する」とは、
図6(a)に示すように、横軸に周波数f、縦軸にパワーPwを取った際に、f軸上の特定周波数f1,f2に棒グラフで示すパワー成分が突出することをいう。パワー成分は、ピーク周波数である。
更に説明すると、例えばBPSK(Binary Phase Shift Keying)信号の−S,S,−S,S,…を、
図6(b)に示すように、I,Qの時間軸上に時間波形(=信号系列)S,−Sで表し、この時間波形S,−SをFFT(高速フーリエ変換)して周波数領域で見ると、上記パワー成分となる。このパワー成分(ピーク周波数)を、「特定周波数に電力が集中する」と表現している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1のコヒーレント光通信システムでは、予め波長分散推定を行い、この推定値で波長分散補償を行っているが、同一の推定値での波長分散補償しか行っていない。このため、波長分散が大きい光ファイバに、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、8QAM(Quadrature Amplitude Modulation)及び16QAM等の多値変調信号を光送信装置から送信した場合、波長分散が大きくなるので、波長分散の推定誤差が大きくなる傾向にある。その推定誤差が大きいと、十分な波長分散補償が行なえず、光受信装置における適応等化機能の補償精度の低下に繋がる等の悪影響を及ぼし、通信の信頼性が低下するという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、波長分散推定精度を向上させることで、十分な波長分散補償を行い、通信の信頼性を向上させることができる光受信装置及びコヒーレント光通信システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、偏波を送信情報で変調した主信号と、当該偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中する信号系列とが多重化後に光変換されて、光伝送路へ送信された光信号を、当該光伝送路から受信する光受信装置であって、前記受信された信号光を、偏波成分毎のデジタル受信信号に変換する変換部と、前記デジタル受信信号の波長分散による信号
歪を、当該信号歪の補償を行うために更新可能に記憶された分散補償量に応じて補償する補償部と、前記補償された信号から前記特定周波数に電力が集中する信号系列を抽出するフィルタ部と、前記抽出された特定周波数の信号系列
における前記補償された信号のタイミングの、送信側の基準となるタイミングに対するずれから残留分散量を推定する推定部と、前記推定された残留分散量から、当該残留分散量を打ち消す分散補償量を求め、この求めた分散補償量で、前記補償部に記憶された分散補償量を更新する更新部と、前記推定と前記更新とが、
同一回数で少なくとも2回以上行なわれるように制御する回数制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、2回目で更新された分散補償量での信号歪の補償は、1回目で更新された分散補償量での補償により信号歪が減少した信号に対して行なわれる。このため、2回目の補償では、1回目の補償による信号歪よりも、更に信号歪を減少させることができる。つまり、1回目より2回目、2回目より3回目といった具合に推定更新回数が多くなる程に、信号歪がより減少して行く。即ち、複数回数の残留分散量の推定及び分散補償量の更新を行うことで、信号歪を低減又は無くすことが可能となる。このように、波長分散推定精度を向上させることで、十分な波長分散補償を行い、通信の信頼性を向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記推定部は、前記フィルタ部で抽出された信号系列の周波数の電力値を、予め定められた第1閾値と比較し、第1閾値を超える電力値の周波数を検出する検出部と、前記検出された電力値の周波数における前記送信時の周波数に対す
るずれを算出し、この算出結果を残留分散量として前記更新部へ出力する算出部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中する信号系列を含む受信信号から、第1閾値を超える電力値を検出することにより特定周波数を検出するので、特定周波数を適正に検出することができる。更に、適正に検出された特定周波数を、送信時の周波数
に対するずれを残留分散量として算出する。これにより、信号の送信側に対す
るずれ量を示す残留分散量を正確に得ることができる。正確な残留分散量からは正確な分散補償量が得られるので、この分散補償量で信号歪の補償を行えば、より適正に信号歪を低減又は無くすことができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、前記更新部は、前記信号歪が予め定められた許容範囲内に収まる場合の残留分散量を示す第2閾値を用い、前記残留分散量が第2閾値以下となった場合に、前記分散補償量の更新を止め、前記残留分散量が第2閾値を超えた際に、前記分散補償量の更新を再開する処理を行うことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、更新部は、推定部により推定される残留分散量が第2閾値以下となり、信号歪が予め定められた許容範囲内に収まった場合に、分散補償量の更新を止めるので、無駄な更新動作及び更新による補償動作を抑制することができる。また、推定される残留分散量が第2閾値を超えた際に分散補償量の更新を再開するので、信号歪の補償を効率良く行うことができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか1項において、前記更新部は、前記推定部から出力される複数の前記残留分散量の平均値を算出し、この平均値で前記補償部に記憶された分散補償量を更新する処理を、前記回数制御部が制御する回数分行うことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、複数の残留分散量の平均値を求めて更新することにより、より残留分散量を減少させることができ、この一連の処理を複数回行うので、より正確に信号歪の補償を行うことができる。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の光受信装置と、偏波を送信情報で変調して主信号を生成し、当該偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中する信号系列を生成し、この生成された信号系列と前記生成された主信号とを多重化した後に光変換して光信号を生成し、この生成された光信号を光伝送路を経由させて前記光受信装置へ送信する光送信装置と、を備えることを特徴とするコヒーレント光通信システムである。
【0020】
この構成によれば、光送信装置から、偏波を送信情報で変調した主信号に、当該偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中する信号系列を多重化した後に光信号として送信する。この送信された光信号を光受信装置で受信して特定周波数を検出し、これを送信時の特定周波数と比較すれば、伝送時の波長分散に応じた残留分散量を正確に求めることができる。この正確な残留分散量から得られる分散補償量で信号歪の補償を行えば、より適正に信号歪を低減又は無くすことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、波長分散推定精度を向上させることで、十分な波長分散補償を行い、通信の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
<実施形態の構成及び動作>
図1は、本発明の実施形態に係るコヒーレント光通信システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すコヒーレント光通信システム100は、遠隔地等に離間して配置された各多重装置40が光ファイバ50で接続され、各多重装置40に光送信装置10及び光受信装置20が接続されて構成されている。
【0024】
図1の左側の光送信装置10はバイナリ系列の送信情報を変調して光信号を生成し、この光信号を多重装置40に出力する。この光信号は、多重装置40において図示せぬ他の光信号と多重化され、光ファイバ50を介して、右側の多重装置40へ伝送される。なお、多重装置40は、例えば、波長多重や時分割多重等を実行する機能を有する。右側の多重装置40は、伝送されてきた信号光を多重分離により取り出し、光受信装置20に出力する。光受信装置20は、図示せぬ局部発振用レーザを備えてコヒーレント受信を行い、この受信された光信号から元の送信情報を取得する。
【0025】
<光送信装置>
光送信装置10は、送信信号を、平行又は直交するX偏波とY偏波とを利用して並列伝送(もしくはMIMO:Multiple-Input Multiple-Output伝送)を実行する機能を有する。この光送信装置10は、
図2に示すように、送信信号変調部11と、信号多重部12と、電気光変換部13と、n個のトレーニング信号系列生成部(生成部ともいう)14a〜14nと、トレーニング信号系列選択部(選択部ともいう)15とを備えて構成されている。なお、各構成要素部11〜15は、X偏波とY偏波用の2系列を備えるが、2系列とも同じものなので、
図2では1系列のみを示し、その説明を行う。
【0026】
送信信号変調部11は、送信するデータのバイナリ系列でX偏波(又はY偏波)を変調し、送信シンボル系列(主信号)を出力する。変調方式としては、例えば、BPSK変調やQPSK変調、QAM変調等が挙げられるが、これ以外の変調方式であっても構わない。
【0027】
各生成部14a〜14nは、各々異なる複数の特定周波数に電力が集中するトレーニング信号系列(信号系列)を生成し、選択部15へ出力する。
選択部15は、各生成部14a〜14nで生成された複数のトレーニング信号系列から、一部のトレーニング信号系列を選択し、信号多重部12へ出力する。
【0028】
信号多重部12は、その選択されたトレーニング信号系列を、送信信号変調部11から出力される主信号と時間多重し、この時間多重した信号系列を電気光変換部13へ出力する。
電気光変換部13は、信号多重部12から出力された信号系列を電気信号から光信号に変換し、この光信号を
図1の左側に示す多重装置40を介して光ファイバ50へ送信する。この送信された光信号は、
図1の右側に示す多重装置40を介して光受信装置20へ送信される。
【0029】
<光受信装置>
次に、光受信装置20について
図3を参照して説明する。
光受信装置20は、偏波分割部21と、光電気変換部22x,22yと、AD変換部23x,23yと、波長分散補償部24x,24yと、適応等化部25と、復調部26と、トレーニング信号系列フィルタ部31と、残留分散量推定部32と、分散補償量更新部33と、推定更新回数制御部34とを備えて構成されている。この構成において、符号にxを付したものはX偏波の処理に係り、符号にyを付したものはY偏波の処理に係ることを表す。
【0030】
なお、偏波分割部21と、光電気変換部22x,22yと、AD変換部23x,23yとを備えて、請求項記載の変換部が構成される。また、波長分散補償部24x,24yは補償部24x,24y、トレーニング信号系列フィルタ部31はフィルタ部31、残留分散量推定部32は推定部32、分散補償量更新部33は更新部33、推定更新回数制御部34は回数制御部34ともいう。
【0031】
偏波分割部21は、多重装置40(
図1)を介して光ファイバ50から受信した光信号に対して光領域で偏波分離を行い、2つの直交する偏波(X偏波、Y偏波)に分割し、この分割された各偏波を光電気変換部22x,22yへ出力する。偏波分割部21は、例えば、図示せぬ偏波ダイバシティ90度ハイブリッドカプラ及び局部発振用レーザを備えて偏波分割を実行する。X偏波は光電気変換部22xに出力され、Y偏波は光電気変換部22yに出力される。
【0032】
光電気変換部22xは、偏波分割部21から受信した信号光であるX偏波を電気信号に変換し、この電気信号をAD変換部23xに出力する。例えば、光電気変換部22xは、局部発振用レーザを用いて、コヒーレント受信した信号光の光電界を直交する成分に分離し、電気のアナログ信号に変換する。光電気変換部22yは、Y偏波に対して光電気変換部22xと同様の処理を実行する。
【0033】
AD変換部23x,23yは、光電気変換部22x,22yから受信したアナログ信号をデジタル信号(デジタル受信信号という)に変換して補償部24x,24yへ出力する。
【0034】
波長分散補償部24x,24yは、AD変換部23x,23yで変換されたデジタル受信信号の波長分散による信号歪みを、信号歪の補償を行うための分散補償量に応じて補償し、この補償したデジタル受信信号を適応等化部25及びフィルタ部31へ出力する。なお、分散補償量は、補償部24x,24yの図示せぬ記憶部に更新可能に記憶されている。
【0035】
適応等化部25は、補償部24x,24yで補償されたデジタル受信信号から偏波多重信号を分離し、この分離した偏波多重信号において偏波モード分散及び送受信や伝送路中で歪んだ信号を補償し、この補償した信号を復調部26へ出力する。
【0036】
復調部26は、適応等化部25より入力される信号から、X偏波及びY偏波の各々で送信された送信シンボル系列の主信号を復調し、送信側から送られてきた元の主信号(X偏波及びY偏波の各々による送信情報)を出力する。
【0037】
トレーニング信号系列フィルタ部31は、補償部24x,24yで補償された信号から、トレーニング信号系列の各特定周波数の信号を抽出する。つまり、光送信装置10において生成された複数の特定周波数に電力が集中するトレーニング信号系列を抽出する。フィルタ部31は、バンドパスフィルタ等により構成される。
【0038】
残留分散量推定部32は、フィルタ部31で抽出された各特定周波数のトレーニング信号系列を用いて、補償部24x,24yで補償された信号の残留分散量(後述)を推定する。
詳細に説明すると、抽出されたトレーニング信号系列の各周波数f1,f2(
図6参照)は、光ファイバ50(
図1)における波長分散により、速く送信される場合と、遅く送信される場合とがあり、波長の長い部分と短い部分とに応じてずれが生じる
。
【0039】
例えば、周波数f1のトレーニング信号が送信時の基準KよりもΔ3速く送信されてきた場合、残留分散量は(K+Δ3)−K=Δ3となる。一方、周波数f2のトレーニング信号が基準KよりもΔ2遅く送信されてきた場合、残留分散量は(K−Δ2)−K=−Δ2となる。つまり、残留分散量とは、送信信号に対する光ファイバ50を介した受信信号の周波数のずれ量である。この残留分散量は、波長分散量に対応している。
【0040】
また、推定部32は、例えば
図4に示すように、電力検出部32a及び変動時間算出部32bを備えて構成される。なお、電力検出部32aは請求項記載の検出部、変動時間算出部32bは請求項記載の算出部である。
電力検出部32aは、トレーニング信号系列の周波数の電力値を、予め定められた第1閾値と比較し、第1閾値を超える特定周波数f1,f2の電力値を検出する。
変動時間算出部32bは、その検出された電力値の特定周波数f1,f
2のずれを算出し、この算出結果を残留分散量として更新部33へ出力する。
【0041】
図3に戻って、分散補償量更新部33は、推定部32で推定された残留分散量から、信号歪の補償を行う際に用いられる分散補償量を求め、この分散補償量を、補償部24x,24yでのデジタル受信信号の信号歪の補償に用いるように更新する。この更新は、補償部24x,24yの記憶部に記憶された分散補償量に、今回求めた分散補償量を上書きして行う。
【0042】
例えば、更新部33は、周波数f1のトレーニング信号系列の残留分散量が、基準KよりもΔ3速い場合の値Δ3である場合、そのトレーニング信号系列をΔ3だけ遅くすればよいので、分散補償量を−Δ3に更新する。また、周波数f2のトレーニング信号系列の残留分散量が基準KよりもΔ2遅い場合の値−Δ2である場合、そのトレーニング信号系列をΔ2だけ速めればよいので、分散補償量を+Δ2に更新する。この更新された分散補償量を補償部24x,24yが用いて、デジタル受信信号の信号歪の補償を行うことにより、信号歪が低減又は無くなる。
【0043】
推定更新回数制御部34は、図示せぬ記憶部に少なくとも2回以上の回数が設定され、この回数となるように、推定部32での残留分散量の推定回数、並びに更新部33での分散補償量の更新回数を制御する。推定回数と更新回数の双方は同一である。
【0044】
例えば、回数制御部34には、推定及び更新を行う推定更新回数の「3」が設定されているとする。また、補償部24x,24yには、予め任意の分散補償量が初期値として設定されており、システム立上時にはその設定された分散補償量により信号歪の補償を行うようになっているとする。
【0045】
まず、システム立上後に、推定部32での1回目の推定による残留分散量が+Δ8であり、更新部33では分散補償量が−Δ8となるように1回目の更新が行なわれたとする。1回目の更新では、補償部24x,24yにおいて、分散補償量−Δ8により信号歪の補償が行なわれる。この補償後の残留分散量は、1回目の更新後の分散補償量−Δ8により信号歪の補償が行なわれるため、1回目推定の残留分散量+Δ8よりも小さい値となる。例えば、1回目の分散補償量更新後の補償による残留分散量が+Δ3になったとする。
【0046】
この際、2回目の推定による残留分散量は+Δ3となるので、更新部33では分散補償量が−Δ3となるように2回目の更新が行なわれる。2回目の更新では、補償部24x,24yにおいて、分散補償量−Δ3により信号歪の補償が行なわれる。この補償後の残留分散量は、2回目推定の残留分散量+Δ3よりも小さくなる。例えば+Δ1になったとする。
【0047】
次に、3回目の推定による残留分散量は+Δ1となるので、更新部33では分散補償量が−Δ1となるように3回目の更新が行なわれる。3回目の更新では、補償部24x,24yにおいて、分散補償量−Δ1により信号歪の補償が行なわれる。この補償後の残留分散量は、3回目推定の残留分散量+Δ1よりも小さくなる。例えば+Δ0.5となったり、信号歪が無くなったりする状態となる。
【0048】
このように、残留分散量の推定回数及び分散補償量の更新回数の双方を昇順に増やすことにより、1回目より2回目、2回目より3回目といった具合に推定更新回数が多くなる程に信号歪がより減少して行く。
【0049】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態の光受信装置20は、偏波を送信情報で変調した主信号と、当該偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中するトレーニング信号系列とが多重化後に光変換されて光ファイバ50へ送信された光信号を、当該光ファイバ50から受信する。
【0050】
本実施形態の特徴は、その受信された信号光を、偏波成分毎のデジタル受信信号に変換する変換部としての偏波分割部21、光電気変換部22x,22y及びAD変換部23x,23yと、補償部24x,24yと、フィルタ部31と、推定部32と、更新部33と、回数制御部34とを備えて構成したことにある。
【0051】
補償部24x,24yは、デジタル受信信号の波長分散による信号歪みを、当該信号歪の補償を行うために更新可能に記憶された分散補償量に応じて補償する。
フィルタ部31は、その補償された信号から特定周波数に電力が集中するトレーニング信号系列を抽出する。
推定部32は、その抽出された特定周波数のトレーニング信号系列を用いて、補償された信号の
タイミングの、送信側の基準となるタイミングに対するずれから残留分散量
を推定する。
更新部33は、推定された残留分散量から、当該残留分散量を打ち消す分散補償量を求め、この求めた分散補償量で、補償部24x,24yに記憶された分散補償量を更新する。
回数制御部34は、上記の推定と更新とが、少なくとも2回以上行なわれるように制御する。
【0052】
この構成によれば、2回目で更新された分散補償量での信号歪の補償は、1回目で更新された分散補償量での補償により信号歪が減少した信号に対して行なわれる。このため、2回目の補償では、1回目の補償による信号歪よりも、更に信号歪を減少させることができる。つまり、1回目より2回目、2回目より3回目といった具合に推定更新回数が多くなる程に、信号歪がより減少して行く。即ち、複数回数の残留分散量の推定及び分散補償量の更新を行うことで、信号歪を低減又は無くすことが可能となる。このように、波長分散推定精度を向上させることで、十分な波長分散補償を行い、通信の信頼性を向上させることができる。
【0053】
また、推定部32は、フィルタ部31で抽出されたトレーニング信号系列の周波数の電力値を、予め定められた第1閾値と比較し、第1閾値を超える電力値の周波数を検出する電力検出部32aと、検出された電力値の周波数における送信時の周波
数のずれを算出し、この算出結果を残留分散量として更新部33へ出力する変動時間算出部32bとを備える構成とした。
【0054】
この構成によれば、偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中するトレーニング信号系列を含む受信信号から、第1閾値を超える電力値を検出することにより特定周波数を検出するので、特定周波数を適正に検出することができる。更に、適正に検出された特定周波数を、送信時の周波
数のずれを残留分散量として算出する。これにより、信号の送信側に対す
る残留分散量を正確に得ることができる。正確な残留分散量からは正確な分散補償量が得られるので、この分散補償量で信号歪の補償を行えば、より適正に信号歪を低減又は無くすことができる。
【0055】
この他、更新部33は、信号歪が予め定められた許容範囲内に収まる場合の残留分散量を示す第2閾値を用い、残留分散量が第2閾値以下となった場合に、分散補償量の更新を止め、残留分散量が第2閾値を超えた際に、分散補償量の更新を再開する処理を行うようにしてもよい。
【0056】
これによって、更新部33は、推定部32により推定される残留分散量が第2閾値以下となり、信号歪が予め定められた許容範囲内に収まった場合に、分散補償量の更新を止めるので、無駄な更新動作及び更新による補償動作を抑制することができる。また、推定される残留分散量が第2閾値を超えた際に分散補償量の更新を再開するので、信号歪の補償を効率良く行うことができる。
【0057】
また、更新部33は、推定部32から出力される複数の残留分散量の平均値を算出し、この平均値で補償部24x,24yに記憶された分散補償量を更新する処理を、回数制御部34が制御する回数分行うようにしてもよい。
【0058】
例えば、
図5に縦軸に残留分散量[ps/nm]、横軸に推定更新回数をとったグラフに示すように、1回目e1に更新した分散補償量による信号歪の補償では、残留分散量が約−120[ps/nm]であり、2回目e2では残留分散量が約110[ps/nm]であったとする。更新部33は、1回目e1と2回目e2との残留分散量の平均値を算出する。この平均値の残留分散量は、eaに示すように、略−5[ps/nm]となる。
【0059】
このように、複数の残留分散量の平均値を求めて更新することにより、より残留分散量を減少させることができ、この一連の処理を複数回行うので、より正確に信号歪の補償を行うことができる。
【0060】
また、コヒーレント光通信システム100を、上述した光受信装置20と光送信装置10とを備えて構成とした。光送信装置10は、偏波を送信情報で変調して主信号を生成し、当該偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中するトレーニング信号系列を生成し、この生成されたトレーニング信号系列と生成された主信号とを多重化した後に光変換して光信号を生成し、この生成された光信号を光ファイバ50を経由させて光受信装置20へ送信する。
【0061】
この構成によれば、光送信装置10から、偏波を送信情報で変調した主信号に、当該偏波において異なる複数の特定周波数に電力が集中するトレーニング信号系列を多重化した後に光信号として送信する。この送信された光信号を光受信装置20で受信して特定周波数を検出し、これを送信時の特定周波数と比較すれば、伝送時の波長分散に応じた残留分散量を正確に求めることができる。この正確な残留分散量から得られる分散補償量で信号歪の補償を行えば、より適正に信号歪を低減又は無くすことができる。
【解決手段】光受信装置20は、光伝送路から受信した信号光を偏波成分毎のデジタル受信信号に変換する偏波分割部21、光電気変換部22x,22y及びAD変換部23x,23yと、デジタル受信信号の波長分散による信号歪みを、当該信号歪の補償を行うために記憶された分散補償量に応じて補償する補償部24x,24yと、補償信号から複数の特定周波数に電力が集中する信号系列を抽出するフィルタ部31と、抽出された各特定周波数の信号系列を用いて、補償信号の送信側に対する波長のずれ量を残留分散量として推定する推定部32と、推定残留分散量を打ち消す分散補償量を求め、この分散補償量で補償部24x,24yに記憶の分散補償量を更新する更新部33と、上記推定と更新を少なくとも2回以上行うように制御をする回数制御部34とを備える。