【実施例】
【0057】
本発明を以下の実施例(変形例を含む)によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1及び比較例1]
(比較例1)
比較例1においては、
図7に示す従来と同様な構成の縦型配置のHVPE装置を用いて、サファイア基板である種結晶基板1上に、低温成長GaNバッファ層を介して2〜20μmのGaN層を成長した。HVPE装置は、上部の原料部32と下部の成長部33とに分かれており、結晶成長を行うリアクター(成長炉)20の原料部32の外周部には原料部ピーク30が、リアクター20の成長部33の外周部には成長部ピーク31がそれぞれ設けられている。原料部ピーク30によってリアクター20内の原料部32は約800℃に、また成長部ピークによってリアクター20内の成長部33は500〜1200℃に加熱される。
原料部32から成長部33に向けて、ガスを供給するV族ライン(V族ガス供給配管)23、III族ライン(III族ガス供給配管)25、エッチング/ドープライン(エッチングガス/ドープガス供給配管)24の3系統のガス供給ラインが設置されている。V族ライン23からは、窒素源であるNH
3(アンモニアガス)とともにキャリアガスとして水素ガス、窒素ガスあるいはこれらの混合ガスが供給される。III族ライン25からは、HClとともにキャリアガスとして水素ガス、窒素ガスあるいはこれらの混合ガスが供給される。III族ライン25の途中には金属ガリウム27を貯留するGa融液タンク26が設置されており、ここでHClガスと金属ガリウムが反応しGaClガスが生成され、GaClガスが成長部33へと送り出される。エッチング/ドープライン24からは、未成長時およびアンドープGaN層成長時には水素と窒素の混合ガスが、n型GaN層成長時にはSi源であるジクロロシラン(SiH
2Cl
2、水素希釈により濃度100ppm)とHClガスと水素ガス及び窒素ガスが導入される。また、エッチング/ドープライン24からは、成長後にリアクター20内に付着したGaNを除去するために行う1100℃程度の温度でのベーキング時には、塩化水素ガスと水素、窒素が導入される。
リアクター20内の成長部33には3〜100rpm程度の回転数で回転するトレー3が水平に設置され、そのガス供給ライン23〜25の出口と対向したトレー3の設置面(載置面)4上に種結晶基板1が設置される。トレー3は鉛直方向に配設された回転軸(支持軸)13上に設けられており、回転軸13の回転によりトレー3が回転する。原料ガスは種結晶基板1上へのGaN成長に使用された後、リアクター20の最下流部から外部に排気される。リアクター20内での成長は、比較例1では全て常圧(1気圧)にて実施した。
各ラインの配管23、24、25、Ga融液タンク26、トレー3の回転軸13は高純度石英製であり、トレー3はSiCコートのカーボン製である。サファイア基板としては、表面がC面からM軸方向に0.3°傾斜した表面を持ち、厚さが900μm、直径が100mmのものを用いた。
【0059】
HVPE成長としては、以下のように実施した。サファイア基板1をトレー3上にセットした後、純窒素を流しリアクター20内の大気を追い出す。次に、3slmの水素ガスと7slmの窒素ガスとの混合ガス中にて、成長部33の基板温度を1100℃として、10分間保持した。その後、基板温度を550℃として、低温成長GaNバッファ層を1200nm/時の成長速度で20nm成長した。この際に流すガスとしては、III族ライン25からHClを1sccm、水素を2slm、窒素を1slm、V族ライン23からアンモニアを1slmと水素を2slm、エッチング/ドープライン24から水素を3slmそれぞれ供給した。
低温成長GaNバッファ層の成長後、基板温度を1050℃に上昇し、2〜20mmのアンドープGaN層を120μm/時の成長速度で成長した。この際に流すガスとしては、III族ライン25からHClを100sccm、水素を2slm、窒素を1slm、V族ライン23からアンモニアを2slmと水素を1slm、エッチング/ドープライン24から水素を3slmとした。
成長後にアンモニア2slmと窒素8slmを流しつつ、基板温度を室温付近まで冷却した。その後、数十分間窒素パージを行い、リアクター20内を窒素雰囲気としてから、基板を取り出した。
【0060】
上記のようにして、2〜20μmの範囲でGaN層の厚さを異にする複数のエピタキシャルウエハを作製した。各GaN層厚さのエピタキシヤルウエハについて20枚ずつ作製した際の、歩留、GaN層のX線回折(XRD)測定による(0002)回折の半値幅の平均値および(10−12)回折の半値幅の平均値を
図8に丸印○で示す。ここで歩留としては、GaN層に長さ5mm以上のクラックが1本でも生じたものを不良と考えて算出した。
図8(a)、(b)、(c)に示すように、GaN層の厚さが4μmまでは歩留がほぼ100%であり、GaN層の厚さが増加とともにXRD半値幅は減少した。しかしながら、GaN層の厚さを5μm以上にすると、クラックが発生しはじめ、歩留が減少する(
図8(a))。また、クラックの発生に伴い、GaN層の結晶性が劣化し、XRD半値幅が増大している(
図8(b)、(c))。
【0061】
上記の従来のHVPE装置で成長したGaN層の断面を蛍光顕微鏡(紫外光を当て、可視光領域の光を観察する)で観察したところ、
図9に示すような色の違うGaN結晶の領域が見られた。
図9の下部には、
図9の上部の蛍光顕微鏡による観察像における結晶領域の輪郭線の図を示す。なお、
図9に示す蛍光顕微鏡による観察像は、GaN自立基板上にGaN結晶を厚く成長させた場合の観察像を示しているが、GaN結晶2 aの主表面(C面)から300μmの位置での、C面から傾いた面上に成長した外周端部のGaN結晶2bの厚さが44μmであり、GaN結晶2bの厚さがGaN結晶2aの厚さの10分の1以上であり、GaN結晶の外周端部に大きな応力が発生し、クラックの発生が見られた。
GaNのバンドギャップに対応する発光そのものは紫外領域なので蛍光顕微鏡では観察できないが、不純物濃度が異なると欠陥準位の濃度が変化するため色の違いとなって観察される。つまり、
図1、
図2を用いて説明したように、
図9において色の異なる2つの領域は不純物濃度の違いを反映したものであり、各々別の結晶面上に成長したために不純物の取り込み効率の違いにより不純物濃度の違いが生じているのである。
具体的には、図中、淡い灰色の部分がC面f
1で成長したGaN結晶2aで、黒に近い濃い灰色の部分がC面f
1から傾いた面f
2で成長したGaN結晶2bの領域である。これらの各領域の不純物濃度をマイクロラマン測定により調べたところ、C面f
1で成長したGaN結晶2aでは0.5×10
18/cm
3〜5×10
18/cm
3程度のn型であったのが、C面f
1から傾いた面f
2で成長したGaN結晶2bでは同じn型ではあるものの、GaN結晶2aの2倍以上の1×10
19/cm
3〜5×10
19/cm
3という極めて高い不純物濃度となっていた。成長時にはドーピングガスを流さなかったが、成長装置の構成部材などから放出された不純物が成長中に結晶に取り込まれたものと考えられる。これらの各領域についてSIMS測定を行った結果、これらのn型伝導性はSiおよび酸素の取り込みによるものであることが判明した。このことより、外周部のC面から傾いた面f
2上に成長した結晶2bは、C面f
1上の結晶2aよりも不純物の取り込み効率が高く、極めて高い不純物濃度となっているため、平坦部に成長した結晶2aとの間に応力が発生し、これが膜厚を増やすほどクラックが発生し歩留が低下する原因となっていると推測される。
【0062】
(実施例1)
比較例1におけるGaN結晶の外周端部に成長する高不純物濃度のGaN結晶2bの成長を抑制するために、上記
図7のHVPE装置における種結晶基板1を支持し回転するトレー3及び回転軸(支持軸)13を含む構造部分を、
図4と同様な構造に改造し、実施例1の方法を実施する
図10のHVPE装置とした。すなわち、
図10に示すHVPE装置では、種結晶基板1の設置面(載置面)4の外周部全体にパージガスgを導入できる構造とした。
図10のHVPE装置では、回転軸13及びパージガスgを供給する供給管11を一体的に回転させている。
トレー3の外周面と側壁10aの内周面との間に形成される環状のパージガスgのガス放出口19の上方には、設置面4から3mmの高さまで側壁10aを設けた。トレー3の設置面4と側壁10aの側面とにより、るつぼ形状ないし浅いカップ形状の容器の内面を構成した。側壁10aの側面と種結晶基板1の外周端面との距離は5mmとした。
この実施例1のHVPE装置を用いて、上記比較例1と同様の条件でサファイアの種結晶基板1上にGaN層の成長を行った。低温成長GaNバッファ層と1050℃でのアンドープGaN層の成長時の各ラインの流量は上記比較例1と同じとした。ただし、種結晶基板1周囲のパージガスgとして3slmの窒素を導入した点が、上記比較例1と異なる。
【0063】
このようにして成長した様々な厚さのGaN層を有するエピタキシヤルウエハを、各GaN層厚さについて20枚ずつ作製したときの、歩留、X線回折(XRD)測定による(0002)回折の半値幅の平均値および(10−12)回折の半値幅の平均値を
図8のバツ印×で示す。従来方法を適用した
図7のHVPE装置を用いた比較例1では、GaN層厚が5μmを超えると歩留が急激に低下したが、実施例1の
図10のHVPE装置によるGaN層成長では、GaN層の厚さが8μmまでは、ほぼ100%の歩留であった。実施例1では、GaN層の厚さが8μmを超えると徐々に歩留は低下したが、その低下の度合いは比較例1よりもずっと緩やかであり、20μmの厚さにおいてもなお15%の歩留が得られた。また、比較例1では歩留が低下するGaN層の厚さが5〜6μmにおいて、最小のXRD半値幅として(0002)回折では120秒、(10−12)回折では350秒が得られた。これを超える厚さにおいてXRD半値幅が増加した。これに対して、実施例1のHVPE装置によるGaN層では、15μmの厚まで半値幅が減少し続け、最小の半値幅として(0002)回折では60秒、(10−12)回折では150秒が得られた。
すなわち、実施例1の
図1 0に示すHVPE装置を用いることにより、従来よりも厚いGaN層を歩留良く成長でき、このようにして成長した厚いGaN層においては、従来よりも改善した結晶性を得られるということが示された。
【0064】
実施例1のHVPE装置によるGaN層の断面を、蛍光顕微鏡により観察した結果を
図12に模式的に示す。比較例1の
図9の場合と同様に、C面f
1上のGaN結晶2aとC面f
1から傾いた面f
2上のGaN結晶2bとで色の違いは見られることもあったが、その場合でもC面から傾いた面f
2の法線方向d
2に成長したGaN結晶2bの厚さは非常に薄く、最大でもC面f
1の法線方向d
1で成長したGaN結晶2aの10分の1未満の厚さであった。すなわち、種結晶基板1の外周に窒素パージを行った結果、種結晶基板1の外周部付近の成長原料が希釈されると共に、水素ガスやHClガスによるエッチング作用が強まり、GaN結晶2の外周端部にあるC面から傾いた面上のGaN結晶2bの成長速度が、C面上のGaN結晶2aの成長速度の10分の1未満となっているということである。実施例1のGaN結晶2に対するマイクロラマン測定の結果、結晶2a、結晶2bのそれぞれの不純物濃度は、比較例1と同様な不純物濃度であった。
以上の結果より、実施例1の
図10のHVPE装置を用いたことにより、GaN結晶2の外周部のC面から傾いた面上への高不純物濃度の結晶2bの成長が抑制され、クラックが抑制されたと考えられる。また、この結果、クラックを防止しつつ厚くGaN層2を成長できるようになったため、従来以上の結晶性の改善が達成されたのである。
【0065】
更に、実施例1の方法を用いると、サファイアの異種基板上にGaN層を成長し、成長後にエピタキシヤルウエハを室温にまで冷やした際のエピタキシヤルウエハの曲率半径を、比較例1よりも大きくできることが判明した。
サファイア基板上にGaN層を成長した場合には、GaN表面を上に向けた場合に、上側に凸伏にエピタキシヤルウエハが反る。例えば、比較例1により直径2インチで350μm厚のサファイア基板上にGaN層を8μm成長した場合には、その反り量(GaN表面の中心と端部の高低差)はおよそ120μmであり、その際のウエハの曲率半径は2.6m程度である。これを、実施例1の方法を用いると、同一のサファイア基板上にGaN層を8μm成長した場合、反り量は50μmと小さくなり、曲率半径は6mと大きくなる。
【0066】
様々ひな厚さのサファイア基板上に様々な厚さのGaN層を成長し、比較検討したところ、サファイア基板上のGaN層の曲率半径R(m)は、GaN層の厚さをt(μm)とすると、係数Aを用いて、
R=A/t ……式(1)
と記述できることが明らかとなった。
【0067】
つまり、本発明の製造方法により作製されたエピタキシャルウェハは、前述した式(2)を満たし、曲率半径が大きく、反り量の小さいエピタキシヤルウエハとなる。上記のGaN層の上に発光ダイオードやトランジスタ構造を形成し、これにフォトリソグラフィープロセスなどを施す場合に有利である。フォトグラフィープロセスにおいて、エピタキシヤルウエハが大きく反っていると、エピタキシヤルウエハに転写する素子パターンの分解能が劣化し、微細な素子を形成することが不可能となり、フォトリソグラフィー工程の歩留が低下するなどの悪影響がある。
【0068】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の方法において、サファイアの種結晶基板1外周部へのパージガスgである上記窒素ガスの流量を、2.0slmから10slmの範囲で種々に変更して、実施例1と同様の実験を行った。
【0069】
パージ窒素ガスの流量が2slm以上の場合には、エピタキシヤルウエハの歩留、GaNの結晶性、エピタキシヤルウエハの曲率半径ともに実施例1の結果とほぼ同等の結果が得られた。また、パージ窒素ガス流量が2〜5slmの間では、C面から傾いた面の成長速度はC面上の成長速度の10分の1未満から0の範囲であった。このため、従来例のような外周部での応力の発生が抑制され、クラックの発生が抑制されたのである。
また、パージ窒素流量が6slm以上でも、実施例1とほぼ同等の結果が得られた。しかしこの場合には、断面の蛍光顕微鏡の観察においてもC面から傾いた面上での成長は全く見られなかった。この場合には、サファイア基板上の成長領域の広さが、パージ窒素ガス流量5slmの場合よりも縮小しており、GaN成長層の端面では成長ではなくエッチグが生じていると判断された。エッチング速度は、C面上の成長速度と同等の成長速度から10分の1の成長速度までの範囲であった。
このエッチング速度は、更に速くても歩留と結晶性の観点からは問題が無い。しかしながら、エッチング速度が速すぎると、最終的に得られる結晶の大きさが極端に小さくなるので、実用的にはエッチング速度は意図した成長面(C面)上の成長速度以下であるのが望ましいと考える。
【0070】
ここで、パージ窒素ガス流量を増やした場合に、まずC面から傾いた面上の成長速度が減少し、更にはエッチングが生じることの意味を考える。本実施例でのGaNの成長においては、成長雰囲気に水素を含む。 GaNは高温では水素によりエッチングされることが知られており、GaNが成長するということは、成長速度がエッチング速度を上回った結果と考えられる。すなわち、本実施例の状況においては、GaNの成長を成長とエッチングが共存する環境で行っており、エピタキシヤルウエハ外周部を窒素でパージし原料ガスを希釈することで、GaN結晶の外周部でのエッチング作用が強められ、成長速度の減少やエッチングが観察されることになる。
上記のエッチングが、エピタキシヤルウエハ外周端部のGaN結晶にのみ作用することから、本実施例のパージ窒素ガスの流量の範囲では、エッチング作用はるつぼ状の容器の側壁内面から距離が離れると急速に弱まるものと考えられる。
(参考例)
実施例2の製造方法において、パージ窒素ガスの流量を1slm以下とした場合、エピタキシヤルウエハの歩留、GaNの結晶性、エピタキシヤルウエハの曲率半径ともに比較例1とほぼ同様の結果となった。
これは、パージガスgの流量が少なかったために、エピタキシャルウェハのC面から傾いた面の法線方向の成長速度がC面上の成長速度の1/5以上となっており、C面から傾いた面の法線方向に成長した不純物濃度の高い結晶部分がC面上の結晶の成長厚の1/10以上となったため、従来例と同様に外周部に応力が発生したのが原因と考えられる。よって、パージガスgは1slmよりも多いほうがよく、2slm以上が好適であることが分かる。
【0071】
(実施例3)
実施例3では、実施例2と同様の実験を、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガスをアルゴン、ヘリウムに変えて行ったところ、実施例2とほぼ同様の結果が得られた。この結果から、パージガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム以外の不活性ガスを用いて、本発明の効果が得られるものと考えられる。
【0072】
(実施例4)
実施例4では、実施例2と同様の実験を、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガスを水素、塩素、塩化水素といったGaNをエッチングするガスを用いた。その結果、パージガス流量の範囲は実施例2とは異なるが、C面から傾いた面上での成長速度をC面上の成長速度の10分の1未満となるように適切にパージガス流量を調整することで、実施例2と同様の結果が得られた。
また、実施例4の方法は、原料ガスとして供給するガスに含む水素の量を、実施例1〜3の場合よりも減らせるという利点がある。このため、実施例1〜3よりも意図した成長面におけるエッチング作用が減り、原料効率が向上するという利点がある。
【0073】
(実施例5)
実施例5では、
図7に示すHVPE装置のトレー3上に、高さ3mmの円筒状の金属製のリングを追加して設置し、リングの内周面とトレー3の設置面4とによって、るつぼ形状の容器の内面を構成した。上記リングの材質としてはTi(チタン)とし、成長前にHVPE装置内でアンモニア2slm、水素8slm中で2時間窒化処理を施し、リングの表面を窒化チタンに変えて結晶成長を行った。
このリングを追加したHVPE装置で、比較例1と同様の実験を行ったところ、実施例1の場合と同様の歩留向上、結晶性改善、曲率半径増大の効果が得られた。また、この場合には、C面から傾いた面に対するエッチングが生じており、そのエッチング速度はC面上の成長速度の3分の1程度であった。
【0074】
実施例5では、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガス供給がなかったが、パージガス供給と同等の効果が得られたのは、容器の側壁を構成するリングの金属窒化物が触媒となり、原料ガス中に含まれる水素が分解され強いエッチング作用を持つ原子状水素を発生したためと考えられる。
同様の側壁として、例えば石英やカーボンのリングで構成した場合には、クラックは抑制されなかった。また、金属窒化物のリングを用いた場合でも、原料ガス中の水素の総流量を1slm以下とした時には、C面から傾いた面上の成長速度が速くなり、クラックが生じた。以上の結果から、金属窒化物の存在と、ある程度の水素の量が必要であることが示され、金属窒化物の触媒効果による原子状水素の発生によるエッチング作用の発現という考えが裏付けられる。
また、原料ガス中の水素流量を2〜7slmの範囲で変えた場合には、実施例2のパージガス流量を変えた場合と同様に、C面から傾いた面上での成長速度(エッチング速度)が変化したが、成長速度としてはC面上の成長速度の10分の1未満であり、エッチング速度としてはC面上の成長速度以下であり、この範囲においては、実施例1と同様の歩留向上と結晶性の改善効果が見られた。
【0075】
(実施例6)
実施例6では、実施例5と同様の実験を、容器側壁を構成するリングの金属材料をZr、Nb、Ta、Cr、W、Mo、Niのいずれかとして行った。その結果、実施例5と同様の結果が得られた。
【0076】
(実施例7)
実施例7では、実施例1〜6と同様の実験を、GaN層の最上部の2〜3μmの成長時にエッチング/ドープライン24よりジクロロシラン(SiH
2Cl
2)を導入し、0.5×10
18/cm
3〜5×10
18/cm
3の不純物濃度のn−GaN層を成長した。成長条件により異なるバックグラウンドの不純物濃度(アンドープでの不純物濃度)と、ジクロロシランによるドープとを併用した成長である。この場合にも、実施例1〜6と同様の結果を得た。
【0077】
(実施例8)
実施例8では、実施例1〜7同様の実験を、成長温度、ガス流量、成長速度、成長圧力を様々に変えて行った。得られる歩留やXRD半値幅は上記実施例とは若干異なるものの、GaN結晶外周部のC面から傾いた面の成長速度がC面の成長速度の10分の1未満で有る場合に、歩留向上と結晶性の改善が見られるという実施例1〜7と同様の結果が得られた。
また、これまでの実験全体を通じて、GaN成長層のGa極性のC面と、外周に発生するC面から傾いた面とのなす角度は、GaN結晶のM軸方向を向いた端部ではM面が形成され90度となりやすく、それ以外の端部では
図12に示すように、C面とC面から傾いた面のなす角度が110度〜135度程度である傾斜した面が生じた。
【0078】
(実施例9)
実施例9では、実施例1〜8と同様の実験を、GaN結晶と側壁の距離を0.5〜20mmの範囲で変化させて行った。上記の距離が1mmよりも小さい場合には、成長中に、エピタキシヤルウエハのGaN結晶端面が容器側壁と接触する場合が生じた。この場合、エピタキシヤルウエハ端面のGaN結晶と側壁が固着したのが原因で、成長中に応力が発生し、クラックが発生しやすくなった。また、上記の距離が10mmよりも大きい場合には、エピタキシヤルウエハ端部のみに局所的にエッチング作用を加えることが難しくなり、クラックを生じさせないような条件を選択すると、GaN層が成長する領域の縮小が顕著に見られた。
以上より、GaN結晶と側壁との距離としては1〜10mmが適切と判断した。
【0079】
以上の実施例から、歩留良く厚くて結晶性の高い(XRD半値幅の狭い)GaN層を成長するためには、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁とGaN結晶外周との距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、るつぼ形状の容器の内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器の内面のうち成長開始時にGaNと接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、上記実施例により実現されるGaN層の特徴としては、意図的に成長をおこなった面上(実施例では主にGa極性のC面)の結晶の外周部にある不純物濃度の高い結晶部分の成長厚が、意図的に成長をおこなった面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。また、上記実施例によるGaNエピタキシヤルウエハは、従来法よりも大きな曲率半径を持つ点も、デバイス応用上は重要な利点である。
【0080】
[実施例10及び比較例2]
実施例10及び比較例2では、上記特許文献3に記載のボイド形成剥離法(VAS法)によるGaN自立基板の製作を行った。
【0081】
(比較例2)
図13にVAS法の概要を示す。まず種結晶基板としてボイド基板40を準備した(
図13(a))。ボイド基板40は、サファイア基板41上に有機金属気相成長法(MOVPE法)などで厚さ300nm程度のGaN薄膜を成長し、その表面にTi膜を蒸着し、水素、アンモニア中で熱処理することで得られる。上記熱処理により、Ti膜を網目構造のTiN層43に変換するとともに、GaN薄膜に多数のボイド44が形成されたボイド含有GaN層43としたものである。
次に、ボイド基板40上に、HVPE法により厚くGaN層45を成長し(
図13(b))、その後、ボイド部分よりサファイア基板41を剥離して、GaN自立基板となるGaN結晶(GaN単結晶)46を得た(
図13(c))。
サファイア基板41としては、C面からA軸あるいはM軸方向、またはその間の方向に0.05〜2°の範囲で傾斜した表面を持ち、厚さが300〜1500μm、直径が35〜200mmのものを用いた。上記のボイド基板製作時のTiの厚さは5〜100nmとした。
【0082】
HVPE成長の条件としては、例えば、基板温度800〜1200℃、圧力10kPa〜120kPaで、30〜1000μm/時の成長速度とし、上記ボイド基板40上に、35〜200mm径で50μm〜10mm厚のGaN単結晶を製作した。成長装置としては、
図7に示すHVPE装置を用いた。各ラインの流量は以下の範囲とした。III族ライン25からHClを25〜1000ccm、水素を2slmに加え、窒素をIII族ライン25の総流量が3slmとなる流量とした。V族ライン23からアンモニアを1〜2slmと水素を1slmに加えて、窒素をV族ライン23の総流量が3slmとなる流量とした。また、エッチング/ドープライン24からは水素を3slm流した。
【0083】
ボイド基板上に形成されるGaN単結晶の転位密度は、ボイド基板製作時のTiの厚さで決定される。Ti膜が薄いほど、ボイド基板のMOVPE成長したボイド含有GaN層43中の転位がその上に形成される厚いGaN単結晶45に伝播されやすいため、高転位密度となる。Ti膜厚が5〜100nmの範囲で得られるGaN単結晶の転位密度は、1×10
4/cm
2〜1×10
8/cm
2の範囲である。
また、得られたGaN結晶は、成長終了後にいずれも表面にピットがほとんど無い鏡面であった。このGaN結晶中の電子濃度としては、アンドープ成長あるいは成長中に添加するジクロロシランの流量を調整して、1×10
15/cm
3〜5×10
18/cm
3の範囲とした。
【0084】
これらの各種条件の組み合わせにより、50μm〜10mm厚のGaN結晶(GaN層)を成長した場合の歩留(同条件で20枚成長した際の不良ではない割合、5mm以上の長さのクラックが生じると不良と定義した)の成長厚依存性を
図14の丸印○に示す。歩留は、キャリア濃度や転位密度にはほとんど依存せず、GaN結晶の厚さのみに強く依存した。GaN結晶の厚さが100μm以下の場合、100%近い歩留が得られたが、GaN結晶の厚さが100μmを超えると歩留は急激に減少し、800μmを超える厚さのGaN自立基板(GaN結晶)の歩留は10%未満であった。
【0085】
これらのGaN自立基板(GaN結晶)の断面を蛍光顕微鏡で観測したところ、
図9に示す様に比較例1と同様な異なる色の領域がGaN自立基板の端部に観測され、側面に垂直な方向の成長速度は主面に垂直な成長速度の1/10以上であった。これらの各部分のGaN結晶をマイクロラマン法で調査したころ、自立基板(GaN結晶)端部の傾いた面上に成長したGaN結晶と、Ga極性のC面上に成長したGaN結晶では不純物濃度が異なり、C面上のGaN結晶では0.5×10
18/cm
3〜5×10
18/cm
3程度のn型であったのが、C面から傾いた面で成長したGaN結晶では同じn型ではあるものの、その2倍以上の1×10
19/cm
3〜5×10
19/c m
3という極めて高い不純物濃度となっていた。
【0086】
(実施例10)
一方、実施例10では、実施例5と同様に
図7のトレー3上に触媒となる金属窒化物のリングを設置したHVPE装置、あるいは
図10に示すHVPE装置を用い、実施例1〜9などと同様に、種結晶基板であるボイド基板40外周に、希釈ガス、エッチングガスあるいは水素ガスを導入する本発明の方法により、実施例1〜9と同様に、C面から傾いた面のGaN結晶の成長速度を、C面のGaN結晶の成長速度の10分の1未満とした場合には、
図14のバツ印×に示す様に歩留は劇的に向上した。GaN層の厚さが1500μmまでは、ほぼ100%の歩留が得られ、最も厚い10mmの場合にも10%の歩留を維持していた。
【0087】
ただし、上記の結果はGaN層4 5の表面が容器側壁の高さよりも低い位置にある場合に限った話であり、GaN層45の成長表面が側壁の高さよりも高くなった場合には、歩留が急激に低下した。これは、GaN層45の表面が側壁よりも高くなると、GaN結晶の外周部でのエッチング作用が弱まり、外周部での成長が生じるために応力が発生したためである。また、GaN結晶45と側壁との距離が1mmよりも小さい場合にも、側壁とGaN結晶が固着しクラックが発生し、歩留が悪化した。GaN結晶45と側壁の距離が10mmよりも広い場合には、歩留低下は生じないものの、エッチング作用を端面のみに局在させることが困難となり、GaN結晶の成長領域が大幅に縮小してしまった。
また、実施例8でも述べたように、GaN成長層のGa極性のC面と、外周に発生するC面から傾いた面とのなす角度は、GaN結晶のM軸方向を向いた端部ではM面が形成され90度となりやすく、それ以外の端部では
図12に示すように、C面とC面から傾いた面のなす角度が110度〜135度程度である傾斜した面が生じやすかった。しかし、成長条件を適切に選ぶことで、外周全体でこの角度を90度とすることも可能である。
【0088】
実施例10及び比較例2から、歩留良く厚いGaN自立基板を得るためには、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁と基板外周の距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、るつぼの内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器内面のうち成長開始時に種結晶基板と接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、本実施例により実現されるGaN自立基板の特徴としては、GaN自立基板の外周部にC面上の結晶より高い不純物濃度の結晶部分の成長厚が、C面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。
【0089】
[実施例11及び比較例3]
一般的に、VAS法を含む各種の手法により異種基板上に実現されるGaN自立基板は、成長中のGaN結晶には厚さ方向に、例えば10
8/cm
2から10
5/cm
2までという大幅な転位密度の低減が生じる。この転位密度の低減に伴いGaN結晶中には残留歪が導入されるため、このような異種基板上に成長したGaN自立基板には多くの場合、歪が残留した状態となっている。典型的には、C面を表面とするGaN自立基板の場合、成長直後にはC面が2〜4mの曲率半径を持つことになる。
この歪の存在が、実施例10の
図8などに示すように、本発明の方法を用いた場合においてさえも、GaN成長厚が1500μmを超えるとクラックの発生により歩留が低下する原因となっている。
このような残留歪は、VAS法などにより得られるGaN自立基板の裏面を研磨して除去することで大幅に低減できる。例えば、1500μm厚のGaN自立基板を成長後に裏面を1000μm除去すると、成長直後に2〜4mであったC面の曲率半径は10m以上にまで増大する。このような裏面を研磨したGaN自立基板を種結晶とすると、残留応力が極めて小さくなるため、異種基板上の成長では不可能なほど厚いGaN層を成長できると期待できる。
【0090】
(比較例3)
比較例3では、実施例1 0において本発明の方法で、VAS法により成長した1500μm厚のGaN自立基板の裏面(N極性のC面)を1000μm研磨し、更に表面側(Ga極性のC面)を100μm研磨し平坦度を高めた400μm厚のGaN自立基板を種結晶として用いた。そして、このGaN自立基板のGa極性側の表面にHVPE法によりGaN層を成長した。
種結晶となるGaN基板としては、表面がGa極性のC面からA軸あるいはM軸方向、あるいはその中間の方向に0.05〜2゜の範囲で傾斜した表面を持ち、厚さが400mm、直径が35〜200mmのものを用いた。典型的な転位密度としては1×10
6/cm
2であった。
【0091】
HVPE成長の条件としては、例えば、基板温度800〜1200℃、圧力10kPa〜120kPaで、30〜1000μm/時の成長速度とし、50μm〜100mm厚のGaN単結晶を製作した。成長装置としては、
図7に示すHVPE装置を用いた。各ラインの流量は以下の範囲とした。III族ライン25からHClを25〜1000ccm、水素を2slmに加え、窒素をIII族ライン25の総流量が3slmとなる流量とした。V族ライン23からアンモニアを1〜2slmと水素を1slmに加えて、窒素をV族ライン23の総流量が3slmとなる流量とした。また、エッチング/ドープライン24からは水素を3slm流した。
また、ここで用いたGaN単結晶(種結晶)は、VAS法による成長終了後にいずれも表面にピットがほとんど無い鏡面であった。GaN結晶中の電子濃度としては、アンドープ成長あるいは成長中に添加するジクロロシランの流量を調整して、1×10
15/cm
3〜5×10
18/cm
3のものを準備した。
【0092】
これらの各種条件の組み合わせにより、50μm〜100mm厚のGaN結晶(GaN層)を成長した場合の歩留(5mm以上の長さのクラックが生じると不良)の成長厚依存性を
図15の丸印○に示す。この場合にも、歩留は、キャリア濃度や転位密度にはほとんど依存せず、GaN結晶の厚さのみに強く依存した。VAS法によるGaN結晶(種結晶基板)上に新たに成長したGaN結晶の厚さが500μm以下の場合、100%近い歩留が得られたが、GaN結晶の成長層の厚さが1mmを超えると歩留は急激に減少し、10mmを超える厚さのGaN自立基板(GaN結晶)の歩留は10%未満であった。
【0093】
これらのGaN自立基板の断面を蛍光顕微鏡で観測したところ、
図2に模式的に示す様に、
図9と同様な異なる色の領域が端部に観測され、それぞれの面に垂直な方向の成長速度はほぼ同等であった。これらの各部分をマイクロラマン法で調査したころ、ウエハ端部の傾いた面上に成長した結晶と、Ga極性のC面上に成長した結晶では不純物濃度が異なり、C面上の結晶では0.5×10
18/cm
3〜5×10
18/cm
3程度のn型であったのが、C面から傾いた面で成長した結晶では同じn型ではあるものの、その2倍以上の1×10
19/cm
3〜5×10
19/cm
3という極めて高い不純物濃度となっていた。
【0094】
(実施例11)
一方、実施例11では、実施例5と同様に
図7のトレー3上に触媒となる金属窒化物のリングを設置したHVPE装置、あるいは
図10に示すHVPE装置を用い、実施例1〜9などと同様に、種結晶基板であるGaN基板の外周に、希釈ガス、エッチングガスあるいは水素ガスを導入する本発明の方法によりGaN結晶の成長を行った。C面から傾いた面の成長速度を実施例1〜9と同様に意図した成長面の成長速度の10分の1未満とした場合には、
図15のバツ印×に示す様に歩留は劇的に向上した。VAS法によるGaN結晶(種結晶基板)上に新たに成長したGaN結晶の厚さが5mmまでほぼ100%の歩留が維持され、このGaN結晶の成長層の厚さが100mmの場合でもなお50%の歩留が維持された。
【0095】
図16に、実施例11を用いGaN自立基板を種結晶として成長したGaN自立基板の外周端部の断面を蛍光顕微鏡で観察した結果を模式的に示す。端面の高不純物濃度の結晶2bは存在するものの、その量は少なく、結晶2bの成長速度は最大でもC面上の結晶2aの成長速度の10分の1未満と見積もられた。また、GaN結晶2の成長厚が薄い場合には、結晶成長に伴い端部にC面から傾いた結晶面f
2が生じるため、C面f
1の面積が徐々に縮小していた。しかしながら、C面f
1が縮小し続けることはなく、GaN結晶2をある程度(最大でも2mm程度)厚く成長し、端面と側壁の距離がある値となった後は、端面がC面に対して90度の垂直な面f
3を成したまま、C面の形状と面積を一定に保ちつつ成長が進行した。これは、端面と容器側壁の内面との距離が広がることにより、側壁側からのエッチング作用が弱まり、端面での成長とエッチングが釣り合ったために生じる現象である。
【0096】
ただし、上記の結果はC面で成長するGaN結晶2aの表面が容器の側壁の高さよりも低い位置にある場合に限った話であり、GaN結晶2aの成長表面が側壁の高さよりも高くなった場合には、歩留が急激に低下した。これは、GaN結晶2a表面が側壁よりも高くなると、GaN結晶2の外周部でのエッチング作用が弱まり、外周部での結晶成長が生じるために応力が発生したためである。また、GaN結晶と側壁との距離が1mmよりも小さい場合にも、側壁とGaN結晶が固着しクラックが発生し、歩留が悪化した。GaN結晶と側壁の距離が10mmよりも広い場合には、歩留低下は生じないものの、エッチング作用を端面のみに局在させることが困難となり、GaN結晶の成長領域が大幅に縮小してしまった。
【0097】
実施例11及び比較例3から、歩留良く厚いGaN自立基板を得るためには、種結晶として窒化物半導体自立基板を用いた場合においても、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁とGaN結晶外周との距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、容器の内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器内面のうち成長開始時に種結晶基板と接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、本実施例により実現されるGaN自立基板の特徴としては、GaN自立基板の外周部にC面上の結晶より高い不純物濃度の結晶部分の成長厚が、C面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。
【0098】
(実施例12)
実施例11において、GaN成長厚が5mmを超える場合に歩留が低下したのは、種結晶基板として用いたGaN自立基板に僅かながら歪が残留しているためである。そこで、実施例12では、成長中にGaN結晶の外周端面ばかりではなく、歪の残留する種結晶基板のGaN自立基板の裏面にもエッチング作用を加えることで、更なる歩留の向上を試みた。
【0099】
実施例12で用いた方法としては、実施例11と同様の方法において、種結晶基板の裏面に高さ1〜2mmの石英製、カーボン製、あるいは、金属窒化物のブロック(上記実施形態の
図6に示すようなブロック17)を設置し、種結晶基板を設置面(例えば容器の底面)より浮かし、種結晶基板の裏面にもエッチング作用が生じるようにした。例えば、設置面の中心にもパージガスの出口を設け、そこから水素、塩素、塩化水素などのエッチング性のガスを導入する方法や、設置面を金属窒化物とし、原料ガスに水素を添加するなどの方法を用いた。
【0100】
これらの方法による種結晶基板の裏面のエッチング速度は、温度や、成長雰囲気、成長圧力、パージガス流量などにより変化したが、エッチング速度がGa極性のC面の成長速度の100分の1以上の場合に、実施例11よりも高い歩留を得ることができた。歩留は裏面のエッチング速度が高まると上昇したが、裏面のエッチング速度がGa極性のC面の成長速度の20分の1以上では一定となった。
図17に裏面のエッチング速度がGa極性のC面の成長速度の20分の1の場合の、歩留とGaN成長層の厚さの関係を示す。 GaN成長の厚さが100mmの場合でもなお90%の高い歩留を維持している。
【0101】
(実施例13)
実施例13では、実施例11、12と同様の実験を、Ga極性のC面ではなく、N極性のC面を成長面としてGaNを成長させてGaN自立基板を作製した。
この場合、従来のHVPE装置を用いた場合には、GaN結晶の端面は
図16とは逆の傾きを持ち、成長に従いC面が拡大する。このためN面成長によるGaN自立基板の成長は、より大口径のGaN基板を実現するためには非常に有効な手法である。
しかしながら、従来のHVPE装置を用いた場合には、N面成長においても、Ga面成長と同様に、端面での成長結晶による応力が発生し、高い歩留を得るのは困難であった。
【0102】
しかし、本発明の方法を用いることにより、N面成長においても実施例11、12と同様に高い歩留でGaN自立基板の作製が可能であることが確認された。更に、この場合、N面の拡大傾向とエッチング作用が釣り合うことで、円筒状の容器形状を踏襲したN面の面積が一定のままGaN結晶が成長した、円柱状の自立基板を得ることができた。このような自立基板は、これをスライスすることにより一定の径のウエハを効率良く生産できるため、工業的に非常に有用な形態である。
【0103】
また、特にN面成長においては、例えば、
図5に示す上記実施形態のように、容器12の側壁12aの側面と種結晶基板1が載置される容器12の底壁12bの載置面15とのなす角度θが90度より大きく135度以下の範囲とし、側壁12aの側面が開口部に向けて開くようにすることで、GaN結晶2の端部にエッチング作用を施しつつ、かつ、種結晶基板1よりN面の面積を拡大することが可能となる。
容器の側面と容器の載置面とのなす角度θが135度より大きい場合には、GaN結晶端部に出易い結晶面が135度以下の角度を持つため、GaN層の成長とともに、容器側面とGaN結晶の外周端部の距離が増加し、GaN結晶の外周端部にGaN成長が生じ、このGaN成長によりクラックが発生し易くなり、従来法と同等の結果しか得られない。
この角度θが135度以下の場合には、容器側面とGaN結晶外周端部の距離は、GaN結晶端部への成長とエッチングが釣り合う距離に一定に保たれやすいため、GaN結晶の外周端部の成長速度はほぼ0に保たれ、クラックの発生が抑制される。特に、角度θが120度以下の場合には、これより小さな角度を成す安定なGaNの結晶面が少ないため、より高い成長歩留を得ることができ、
図14や
図17に示す上記実施例の結果とほぼ同じ結果が得られる。
【0104】
次に、本発明の変形例を以下に述べる。
(変形例1)
変形例1では、実施例1〜9と同様の実験を、サファイア基板の径を50〜200mm、サファイア基板の表面(主表面)をGa極性のC面から0.1〜2度の範囲でA軸、M軸あるいはその中間の方向に傾いた面や、A面、M面、R面やその他の半極性面や、それらの面の微傾斜面などとした場合にも行ったが、実施例1〜9とほぼ同様の結果が得られた。
【0105】
(変形例2)
変形例2では、変形例1と同様の実験を、サファイア基板を、SiC基板、Si基板に変更して行ったが、変形例1と同様の効果が確認された。
【0106】
(変形例3)
変形例3では、実施例1〜9と同様の実験を、バッファ層を低温成長GaNバッファ層から、低温成長AlNバッファ層、高温成長AlNバッファ層に変えて行った。各バッファ層の厚さは10nm〜2μmの間であった。いずれの場合においても、実施例1〜9と同様の結果が得られた。
【0107】
(変形例4)
変形例4では、実施例1〜9と同様の実験を、種結晶基板の上面に凹凸加工を施した種結晶基板を用いて行った。凹凸加工の形状としては、凸部の高さが0.1〜2μm、間隔が1〜10μm、形状が椀形、円錐型、三角錐形〜六角錐形の多角錐形、およびこれらの頂上に平坦部を有する形状などを用いた。また凸部の配置としては、三角格子状あるいは四角格子状の格子の目の位置に配置し、格子の辺がA軸あるいはM軸を向くものを用いた。これらの凹凸加工を施した種結晶基板を用いた窒化物半導体層を下地として、発光素子を形成すると、平坦な種結晶基板上を用いた場合の発光素子よりも光取出し効率が向上するという利点がある。
変形例4のいずれの場合においても、本発明の窒化物半導体結晶の製造方法を適用した場合、実施例1〜9と同様の効果が得られた。
【0108】
(変形例5)
変形例5では、実施例10〜1 3と同様の実験をA面、M面、R面やその他の半極性面や、それらの微傾斜面などとした場合にも行ったが、実施例10〜13とほぼ同様の結果が得られた。
【0109】
(変形例6)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法の原理は、成長方法としては、HVPE法に限らず、MOVPE法、安熱合成法、Naフラックス法に変えた場合においても適用可能である。
【0110】
(変形例7)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法は、GaN以外の窒化物半導体材料、例えば、AlN、InN、BNや、GaNを合むこれらの材料の混晶に対しても適用可能である。
【0111】
(変形例8)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法の原理は、窒化物半導体以外の半導体や、半導体以外の結晶性の材料に関しても適用可能である。
【0112】
(変形例9)
本発明の方法は、
図7、
図10に示すような縦型配置の結晶成長装置(HVPE装置、MOVPE装置)ばかりではなく、
図18に示す水平フロー配置のMOVPE装置、HVPE装置にも適用可能である。すなわち、
図18に示すように、矩形筒体状のリアクター(成長炉)50を水平の配置し、リアクター50の底壁の開口部に、側壁51aを有する容器51を設け、容器51内にはトレー3を容器51の底壁51bから隔てて設置する。底壁51bにはエッチング作用を持つガスgを供給する供給管53が接続されており、供給管53を貫通させて回転軸52が設けられている。トレー3は回転軸52上に回転自在に支持され、リアクター50の外周部にはピーク(図示せず)が設けられている。原料ガスGは、リアクター50内を一端から他端へと水平に流れ、トレー3上に設置された種結晶基板1上で結晶が成長する。一方、供給管52から容器51内に供給されたガスgは、トレー3との底壁10bとの間を、トレー3に沿って放射状に流れ、トレー3の外周面と側壁10aの内周面との隙間から流出する。
また、本発明の方法は、例えば、サセプタ上の同一円周上に沿って複数の種結晶基板を配置し、サセプタ上の複数の種結晶基板を自公転させ、サセプタの中心部からサセプタに沿って放射状に各種結晶基板に原料ガスを流す結晶成長装置、すなわち中心吹出し自公転型の多数枚チャージ型の結晶成長装置にも適用可能である。
更には、
図7、
図10、
図18のような成長面が上を向くフェースアップ型の配置ばかりではなく、成長面が下側を向くフェースダウン型の配置や、成長面が鉛直方向や斜め傾斜した方向を向く結晶成長装置に対しても、種結晶基板の保持方法を工夫することで適用可能である。ただし、種結晶基板の裏面をエッチングする場合には、種結晶基板を全てエッチングしてしまうと、成長開始時の位置から結晶がずれたり、落下したりするので、裏面のエッチング量をある程度の量に抑える必要がある。