(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
a)機能性分子を含有し、表面にチオール基を有するシリカナノ粒子と、マレイミド基及びアミノ基を有するリンカー分子とを溶媒中に共存させ、これにより前記チオール基と前記マレイミド基との間でチオエーテル結合を形成させて、リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子を得る工程、及び
b)前記のリンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子と、カルボジイミドと、抗体とを水系溶媒中に共存させ、前記リンカー分子が有するアミノ基と、前記抗体が有するカルボキシル基との間でアミド結合を形成させる工程
を含む、標識抗体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明をその好ましい実施態様に基づき以下に詳細に説明する。
【0011】
本発明の製造方法には、機能性分子を含有し、かつ、表面にチオール基を有するシリカナノ粒子が用いられる。当該シリカナノ粒子は、いわゆる標識用粒子としての性能を備えたものである。本発明の製造方法では、上記シリカナノ粒子に、当該シリカナノ粒子表面のチオール基を介して特定のリンカー分子を共有結合させ、さらに、当該リンカー分子の別の部位に抗体が有するカルボキシル基を介して当該抗体を共有結合させる。これにより、上記シリカ粒子表面のチオール基の量に応じた量の抗体が結合した標識抗体が得られる。こうして得られる標識抗体は、各種診断試薬、検査試薬等の分析試薬に用いることができる。
【0012】
上記機能性分子含有シリカナノ粒子における「機能性分子」に特に制限はないが、分析試薬等において検出指標となりうる標識分子を採用することが好ましい。当該機能性分子として、蛍光分子、吸光分子、磁性分子、放射性分子、pH感受性色素分子等を例示することができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0013】
機能性分子含有シリカナノ粒子は、機能性分子とシランカップリング剤とを、共有結合、イオン結合その他の化学結合又は物理的吸着により結合させた生成物(機能性分子が結合したオルガノアルコキシシラン)を得、この生成物と1種又は2種以上のシラン化合物(シロキサン成分)とを、例えばアンモニア水含有溶媒中で、加水分解・縮重合させてシロキサン結合を形成させることにより調製することができる。
上記アンモニア水含有溶媒としては、例えば、水/エタノールを体積比で1/10〜1/1とした混合液に、例えば28%程度のアンモニア水を、アンモニア濃度が0.2〜3wt%になるように加えた溶液を用いることができる。
前記シラン化合物(シロキサン成分)に特に制限はなく、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)やテトラメトキシシランのようなテトラアルコキシシランの他、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤も用いることができる。中でも、TEOSを好適に用いることができる。
なお、上記シラン化合物としてMPS等のチオール基を有するものを使用すると、得られる機能性分子含有シリカナノ粒子の表面にはチオール基が存在することになるため、後述する機能性分子含有シリカナノ粒子表面へのチオール基の導入操作は必ずしも必要なくなる。
【0014】
機能性分子とシランカップリング剤とを共有結合させる場合には、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、マレイミド基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、アルデヒド基、パラニトロフェニル基、ジエトキシメチル基、エポキシ基、シアノ基等の活性基を有する機能性分子と、これらの活性基と反応しうる官能基(例えば、アミノ基、水酸基、チオール基等)を有するシランカップリング剤を用いることができる。
【0015】
NHSエステル基を有する機能性分子において、当該機能性分子が蛍光分子である場合の好適な例としては、5−(及び−6)−カルボキシテトラメチルローダミン−NHSエステル(商品名、emp Biotech GmbH社製)、下記式で表されるDY550−NHSエステル、下記式で表されるDY630−NHSエステル(いずれも商品名、Dyomics GmbH社製)等のNHSエステル基を有する蛍光色素化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
機能性分子がスクシンイミド基を有する場合には、アミノ基を有するシランカップリング剤と結合させることができる。アミノ基を有するシランカップリング剤の具体例として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でも、APSを好適に用いることができる。
【0019】
上述のように調製される機能性分子含有シリカナノ粒子の形状は、長軸と短軸の比が2以下の球状である。また、平均粒径は1〜1000nmであることが好ましく、20〜500nmであることがより好ましい。
当該平均粒径は透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した100個の標識粒子の合計の投影面積から複合粒子の占有面積を画像処理装置によって求め、この合計の占有面積を、選択した複合粒子の個数(100個)で割った値に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)として算出することができる。
所望の平均粒径のシリカナノ粒子は、YM−10、YM−100(いずれも商品名、ミリポア社製)等の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行うことで得ることができる。また、適切な重力加速度で遠心分離を行い、上清又は沈殿を回収することで得ることもできる。
【0020】
続いて機能性分子含有シリカナノ粒子の表面にチオール基を導入する方法について説明する。
【0021】
シリカナノ粒子表面へのチオール基の導入は通常の方法により得ることができ、例えば、Journal of Colloid and Interface Science,159,150−157(1993)や、国際公開2007/074722A1公報に記載される方法を採用することができる。
例えば、機能性分子含有シリカナノ粒子を水とエタノールの混合溶媒に分散させ、チオール基を有するシランカップリング剤とアンモニア水とを添加して攪拌することで、機能性分子含有シリカナノ粒子の表面にチオール基を導入することができる。
チオール基を有するシランカップリング剤は、当該チオール基がアルキレン基又はアルキレンオキシ基を介してケイ素原子に結合した構造であることが好ましい。当該アルキレン基又はアルキレンオキシ基の炭素数は、2〜10が好ましく、2〜5がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。このようなシランカップリング剤として、メルカプトアルキルトリアルコキシシランがより好ましく、その具体例としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、11−メルカプトウンデシルトリメトキシシランが挙げられる。
上記の水とエタノールの混合溶媒は水/エタノールが体積比で1/10〜1/1とすることが好ましい。また、機能性成分含有シリカナノ粒子の最終濃度は0.1〜2wt%とすることが好ましく、添加するチオール基を有するシランカップリング剤の量は、機能性分子含有シリカナノ粒子1gに対して、0.2〜20mmolとすることが好ましい。また、アンモニア水の添加は、例えば28%程度のアンモニア水を用いて、アンモニア濃度が0.2〜3wt%になるように加えることが好ましい。
【0022】
上記のチオール基導入方法は、コアとなる機能性分子含有シリカナノ粒子を調製し、これを分離洗浄してからチオール基導入操作を行うために、時間と労力がかかる。また、チオール基を高い再現性で所望量導入することも難しい。通常は、高い再現性でチオール基を導入するために、チオール基を有するシラン化合物を十分に反応させる。しかし、この十分な反応は、機能性分子含有シリカナノ粒子表面に導入されるチオール基の量を過剰にし、粒子表面の疎水性が上昇して(すなわちゼータ電位の絶対値が低くなり)粒子同士の凝集が生じやすくなってしまう。
したがって、より簡便な方法で、しかもチオール基の導入量を自由に、かつ高い再現性で制御できる方法を用いて、チオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子を調製することが好ましい。
このような調製方法として、例えば以下の工程を含む方法(連続法)が挙げられる。
【0023】
(連続法)
機能性分子が結合したオルガノアルコキシシランとテトラアルコキシシランとをアンモニア水含有溶媒中で混合し、該溶媒中に該機能性分子を含有するシリカのコア粒子を形成させて該コア粒子の分散液を得る工程、及び
上記工程で得られた分散液に、チオール基を有するシランカップリング剤とテトラアルコキシシランを添加して、シリカのコア粒子にシェル層を形成させる工程。
【0024】
上記のチオール基を有するシランカップリング剤と上記テトラアルコキシシランの添加割合を調節することで、導入されるチオール基の量を自由に調節することができる。当該テトラアルコキシシランとしてはTEOSが好適である。
上記連続法では、機能性分子含有シリカナノ粒子の調製からチオール基の導入を連続的に行うことができるため作業時間と労力も大幅に改善される。
【0025】
チオール基が導入された機能性分子含有シリカナノ粒子のゼータ(ζ)電位の絶対値は20〜70mVであることが好ましい。ゼータ電位の絶対値が上記範囲内である粒子は、凝集が抑制され、分散性がより高まる。
ゼータ電位は、ゼータサイザーナノ(商品名、マルバーン社製)、ELS−Z1(商品名、大塚電子社製)、NICOMP 380ZLS(商品名、IBC社製)等を用いて測定することができる。
【0026】
機能性分子含有シリカナノ粒子表面のチオール基の量は、SH基に結合することで発色する試薬によって後述する方法で定量することができる。本発明に用いるチオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子におけるチオール基の量は、シリカナノ粒子の単位表面積あたりの密度として、0.002〜0.2個/nm
2とすることが好ましい。表面のチオール基の密度が0.002個/nm
2より小さいと、リンカー分子を介して結合する生体分子の量が少なく、標識試薬として十分に機能しにくい場合がある。また、表面のチオール基の密度が0.02個/nm
2より多いと、シリカナノ粒子表面の疎水性が高まり過ぎて、疎水性相互作用による非特異的な吸着の増加、及び粒子の分散性の低下が生じやすい。本発明に用いるチオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子におけるチオール基の量は、シリカナノ粒子の単位表面積あたりの密度が、0.005〜0.1/nm
2であることがより好ましく、0.01〜0.05/nm
2であることがさらに好ましい。
【0027】
(シリカナノ粒子表面のチオール基量の定量法)
シリカナノ粒子表面のチオール基量は、DNTB(5,5'-Dithiobis(2-nitrobenzoic acid))を試薬として用いて行うことができる。DNTBを用いたチオール基の定量法としては、例えば、Archives of Biochemistry and Biophysics, 82, 70(1959)の方法で行うことができる。具体的な方法の一例としては、リン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した10mMのDNTBの溶液20μLと、200mg/mLに調製したシリカナノ粒子コロイド2.5mLとを混合し、1時間後に412nmの吸光度を測定し、標準物質としてγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)を用いて作成した検量線からチオール基量を定量することができる。
【0028】
本発明に用いるリンカー分子は、分子内にマレイミド基とアミノ基とを有する限り特に制限はないが、当該マレイミド基とアミノ基とが、2価の脂肪族基もしくはアリーレン基又はこれらの組み合わせ介して連結している分子であることが好ましい。上記2価の脂肪族基の炭素数は1〜20の整数が好ましく、2〜10の整数がより好ましい。また、上記アリーレン基としては、フェニレンが好適である。
リンカー分子は、マレイミド基とアミノ基とをそれぞれ1つずつ有することが好ましい。
本発明に用いるリンカー分子の分子量は特に制限されないが、150〜5000であることが好ましい。
分子内にマレイミド基とアミノ基を有するリンカー分子としては、例えば、N−(4−アミノフェニル)マレイミド、N−(2−アミノエチル)マレイミド塩酸塩、N−アセチルアミノマレイミドが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の製造方法においては、まず、上記リンカー分子のマレイミド基と、機能性分子含有シリカナノ粒子の表面に導入されたチオール基との間にチオエーテル結合を形成させ、リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子を得る。
上記のマレイミド基とチオール基との反応は、用いるリンカー分子が塩酸塩などの塩である場合は水や緩衝液中で行うことができる。用いるリンカー分子が塩でない場合は非プロトン性溶媒中で行う。プロトン性溶媒を用いると、マレイミド基が溶媒分子と反応し、その結果チオール基との反応性が低下する場合があるため、非プロトン性溶媒を用いた方がマレイミドの反応性が高い。上記非プロトン性溶媒は、シリカナノ粒子が分散しうるものであれば制限はないが、極性溶媒であることが好ましい。この極性非プロトン性溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ピリジン、N−メチルピロリドン、N−シクロヘキシルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。中でもN,N−ジメチルホルムアミドが好適である。
通常、生化学分野においては、マレイミド基とチオール基との反応は、抗体等の生体分子の活性低下を防ぐために、やむを得ず水系溶媒を用いて行われることが多い。しかし、本発明の製造方法では、マレイミド基は機能性分子含有シリカナノ粒子のチオール基と反応させればよく、抗体と反応させる必要がないため、マレイミド基とチオール基との反応を非プロトン系溶媒中で極めて効率よく行わせることができる。
【0030】
上記反応においては、チオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子の溶媒中における濃度は0.05〜2質量%とすることが好ましく、チオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子1mgに対し0.1〜5mgのリンカー分子を反応させることが好ましい。反応温度は0〜60℃であることが好ましく、0〜40℃であることがより好ましい。反応時間は5分以上が好ましく、5〜120分であることがより好ましい。
【0031】
上記のように調製した、リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子に、当該リンカーを介して抗体を結合することで、抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子が製造される。具体的には、上記抗体と、後述するカルボジイミドとを水系溶媒中に共存させて当該抗体のカルボキシル基を活性エステル化し、この活性エステルと、リンカー分子が有するアミノ基との間でアミド結合を形成させる。この結合反応も水系溶媒中で行われる。抗体とカルボジイミドとの混合による抗体が有するカルボキシル基の活性エステル化は、抗体とリンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子との混合前に行ってもよいし、当該混合後に行ってもよいし、当該混合と同時に行ってもよい。
すなわち、本発明において「リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子と、カルボジイミドと、抗体とを水系溶媒中に共存させ」とは、下記(a)〜(d)のいずれの形態も包含する意味に用いる。
(a)リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子と、カルボジイミドと、抗体とを同時に水系溶媒中に混合する形態、
(b)抗体とカルボジイミドとを予め水系溶媒中に共存させた後、これと、リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子とを混合する形態、
(c)リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子と抗体とを予め水系溶媒中に共存させた後、これと、カルボジイミドとを混合する形態、
(d)リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子とカルボジイミドとを予め水系溶媒中に共存させた後、これと、抗体とを混合する形態。
【0032】
上記抗体としては、免疫グロブリン(whole抗体)や、それを酵素分解して得られるF(ab’)
2やFab、重鎖の可変領域(VH)と軽鎖の可変領域(VL)とをリンカーを介してタンデムに連結したscFvやsc(Fv)
2、VHとVLがリンカーを介して連結したユニット2つからなるダイアボディー、人工的に化学合成した、VH及びVLを含むポリアミノ酸、大腸菌や酵母等を発現系として用いて作製された、VH及びVLを含む組換えタンパク質ないし組換えポリアミノ酸を含む。すなわち、本発明において「抗体」とは、VH及びVLを有する分子ないしユニットを意味し、VH及びVLを有する限り、その形態は限定されない。
【0033】
上記水系溶媒に特に制限はないが、緩衝液であることが好ましく、リン酸緩衝液、ほう酸緩衝液、炭酸緩衝液等の通常の水系緩衝液を好適に用いることができる。
【0034】
上記カルボジイミドとしては特に制限はなく、カルボキシル基の活性エステル化のために通常用いられるものを採用することができる。例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどを用いることができる。また、カルボジイミドと共に、N−ヒドロキシスクシンイミドやスルホN−ヒドロキシスクシンイミド等を共存させ、カルボジイミドにより生じた活性エステル基を、より安定な活性エステル基に誘導化してもよい。
【0035】
機能性分子含有シリカナノ粒子表面に結合したリンカー分子と抗体とのアミド結合による連結に際しては、リンカー分子が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子1mgに対して、抗体を5〜500μg共存させて反応させることが好ましい。
反応温度は0〜60℃であることが好ましく、10〜40℃であることがより好ましい。また、反応時間は5分以上が好ましく、5〜600分であることがより好ましい。
【0036】
上述の各工程を経ることにより、水系溶媒中に、抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子、すなわち標識抗体が得られる。
上記で得られた標識抗体に残存する活性エステルの反応性を無くすために、さらに、ウシ血清アルブミンやカゼイン等を加えて混合しても良い。
【0037】
本発明の製造方法で製造された標識抗体において、機能性分子含有シリカナノ粒子表面への抗体の結合量は通常の方法で測定することができる。例えば、UV法、Lowry法、Bradford法で定量することができる。
【0038】
本発明の製造方法で製造された標識抗体は、平均粒径が1〜1000nmであることが好ましく、20〜500nmであることがより好ましい。
当該平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した50個の粒子の合計の投影面積から粒子の占有面積を画像処理装置によって求め、この合計の占有面積を、選択した粒子の個数(50個)で割った値に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)を求めた値である。
前記平均粒径は、一次粒子が凝集してなる二次粒子の粒径は含まない。
【0039】
本発明の製造方法で製造された標識抗体の粒度分布の変動係数、いわゆるCV値は特に制限はないが、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明の製造方法で製造された標識抗体においては、機能性分子含有シリカナノ粒子表面への抗体の結合量が、機能性分子含有シリカナノ粒子に導入されたチオール基の量と正の相関関係を示すため、チオール基の導入量を制御することで、抗体の結合量を精密に制御することができる。例えば、特定の同じ条件で作製したチオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子であれば、粒子表面のチオール基の量は一定であるから、常に一定量の抗体を結合した機能性分子含有シリカナノ粒子を得ることができる。これにより、抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子を所望の検出試験や分析試験に用いた際に、得られる出力値(例えば蛍光強度)のばらつきを大幅に抑えることができ、定量性及び信頼性に優れた試験を行うことが可能となる。また、機能性分子含有シリカナノ粒子表面のチオール基の量を測定しておくことで、抗体の結合量を見積もることができる。したがって、チオール基の結合量を変えた機能性分子含有シリカナノ粒子を複数作製しておけば、目的に応じて抗体が所望量結合した機能性分子含有シリカナノ粒子を調製することができる。
【0041】
本発明の製造方法では、抗体は、自身が有するカルボキシル基を介して、機能性分子含有シリカナノ粒子表面に結合する。すなわち、機能性分子含有シリカナノ粒子表面には、抗体のアミノ酸配列におけるカルボキシル末端(C末端)と、リンカー分子のアミノ基とがアミド結合しているものが多く存在することになる。これにより、抗体の可変領域がシリカ粒子側とは反対側(シリカ粒子の外側)に配向しやくなるなどして、標的抗原の捕捉能が向上すると考えられる。
標的抗原の捕捉能の向上は、より低分子の抗体を用いた場合により顕著になる。例えば、抗体として、F(ab’)
2抗体やFab抗体などのフラグメント抗体、scFvやsc(Fv)
2などの一本鎖抗体、VH及びVLを含むポリアミノ酸を用いた場合により顕著である。
【0042】
本発明の製造方法では、表面にチオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子を用いるが、このチオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子を用いることにより、はじめて抗体と機能性分子含有シリカナノ粒子とを、簡便かつ均質に結合させることが可能になる。機能性分子含有シリカナノ粒子と抗体とをリンカー分子を介して強固かつ安定に結合させる方法としては、例えば、機能性分子含有シリカナノ粒子の表面にチオール基ではなく、アミノ基を導入し、リンカー分子が有する活性エステル基と当該アミノ基を共有結合させ、さらにリンカー分子が有するマレイミド基と、抗体に導入したチオール基とを共有結合させる方法等も考えられる。しかし、実際には、表面にアミノ基を導入した機能性分子含有シリカナノ粒子は凝集しやすく、実用性に劣る。これは、表面にチオール基を有するシリカナノ粒子に比べて、表面にアミノ基を有するシリカナノ粒子は、疎水性がより高まることが原因と考えられる。
本発明の製造方法では、リンカー分子として炭素鎖の長さの異なるものや芳香環を含むものを選択することができ、リンカー分子の構造を適宜選択することによって、機能性分子含有シリカナノ粒子の表面に結合する抗体の標的抗原捕捉能をより効果的に引き出すことができる。
【0043】
本発明の標識抗体は、上述した本発明の製造方法により得られうる粒子である。本発明の標識抗体は、機能性分子を含有するシリカナノ粒子を標識粒子とし、その表面にリンカーを介して抗体が結合している。機能性分子を含有するシリカナノ粒子とリンカーとはチオエーテル結合により連結し、前記抗体と前記リンカーとの連結構造は、
*−C(=O)−NH−
**(*は抗体側を示し、**はリンカー側を示す。)で表される。
別の表現をすれば、本発明の標識抗体は、機能性分子を含有するシリカナノ粒子が有するチオール基と、リンカー分子が有するマレイミド基とが、チオエーテル結合により結合した構造、及び、該リンカー分子が有するアミノ基と、抗体が有するカルボキシル基とが、アミド結合により結合した構造を有する。
チオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子、リンカー分子、抗体は、上述の本発明の製造方法で説明したものと同義である。
【0044】
本発明の標識抗体は、標識試薬として使用することができ、後述する各種の分析試薬に標識試薬として含有させることができる。
本発明の標識抗体は、標的抗原の捕捉能に優れる。加えて、抗原抗体反応に基づく結合でない、いわゆる非特異的吸着がより抑えられる。本発明の標識抗体を含む分析試薬を用いた分析結果は、後述する実施例に示されるように、高感度で、かつ信頼性に優れる。
【0045】
本発明のコロイドは、本発明の標識抗体を分散媒中に分散してなる。
【0046】
上記分散媒に特に制限はなく、本発明の標識抗体を均一に分散しうるものであればよいが、親水性の溶媒であることが好ましい。親水性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、水とメタノールの混合溶媒、水とエタノールの混合溶媒、PBS(リン酸緩衝食塩水)、Tris緩衝液、HEPES緩衝液等の緩衝液が挙げられる。
【0047】
また、本発明のコロイドには、本発明の標識抗体の非特異的な吸着をさらに防止する観点から、ポリエチレングリコール(PEG)、血清アルブミン(BSA)などの任意のブロッキング剤を含有させてもよい。また、アジ化ナトリウム等の防腐剤を含有させてもよい。
【0048】
本発明のコロイド中には、本発明の標識抗体が安定に存在しており、抗体の標的抗原捕捉能を維持しながら長期保存することが可能である。
本発明のコロイドは、標識試薬液として用いることができる。また、分析試薬に含まれる標識試薬の調製に用いることができる。
【0049】
本発明の分析試薬は、本発明の標識抗体を含む。本発明の分析試薬は、抗体が認識しうる標的抗原を検出するための検出試薬、該標的抗原を定量するための定量試薬、該標的抗原を分離するための分離試薬、該標的抗原を単離して回収するための回収試薬、該標的抗原を標識する標識試薬等として使用される。
上記標的抗原に特に制限はなく、通常の分析・検査・診断における検出対象となる分子等が挙げられる。その一例として、ウイルス抗原、食物アレルゲン、血液検査等における各種マーカー、毒素、細胞膜タンパク質、細胞膜糖鎖、免疫グロブリン等が挙げられる。
本発明の分析試薬の好適な例として、コンジュゲートパッドに本発明の標識抗体が保持されたテストストリップを有するイムノクロマトグラフィー装置等が挙げられる。
【実施例】
【0050】
[参考例1] チオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子の調製−1
(機能性分子含有シリカナノ粒子の調製)
機能性分子として蛍光分子であるカルボキシローダミン6Gを含有するシリカナノ粒子を調製した。
【0051】
5−(及び−6)−カルボキシローダミン6G・スクシンイミジルエステル(商品名、emp Biotech GmbH社製)31mgを10mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。ここに12μLのAPS(信越シリコーン社製)を加え、室温(23℃)で1時間反応を行い5−(及び−6)−カルボキシローダミン6G−APS複合体(5mM)を得た。
得られた5−(及び−6)−カルボキシローダミン6G−APS複合体の溶液600μLと、エタノール140mL、TEOS(信越シリコーン社製)6.5mL、蒸留水20mL及び28質量%アンモニア水15mLを混合し、室温で24時間反応を行った。
反応液を18000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行い、上清を除去した。沈殿した機能性分子含有シリカナノ粒子に蒸留水を4mL加え、該粒子を分散させ、再度18000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行った。本洗浄操作をさらに2回繰り返し、蛍光分子含有シリカナノ粒子の分散液に含まれる未反応のTEOSやアンモニア等を除去し、平均粒径271nmの蛍光分子含有シリカナノ粒子1.65gを得た。収率約94%。
【0052】
(チオール基の導入)
上記で得た粒子1gを水/エタノール=1/4の混合液150mLに分散させた。これにMPS(和光純薬株式会社製)を1.5mL加えた。続いて28%アンモニア水20mLを加え、室温で4時間混合した。
反応液を18000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行い、上清を除去した。沈殿したシリカナノ粒子に蒸留水を10mL加え、粒子を分散させ、再度18000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行った。本洗浄操作をさらに2回繰り返し、チオール基を有する蛍光分子含有シリカナノ粒子の分散液に含まれる未反応のMPSやアンモニア等を除去し、チオール基が導入された蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aと呼ぶ。)を得た。
【0053】
(チオール基の定量分析)
上記のチオール基導入蛍光シリカナノ粒子A500mgを用いて、DNTBによるチオール基の定量分析を行った。その結果、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aの粒子表面のチオール基の密度は、0.046個/nm
2であった。
【0054】
[参考例2] チオール基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子の調製−2
14質量%のアンモニア水をエタノールで5倍希釈して175mLのアンモニア水含有溶媒を調製した。該アンモニア水含有溶媒にTEOS(信越シリコーン社製)1.5mL(6.75mmol)と、参考例1で調製した5−(及び−6)−カルボキシローダミン6G−APS複合体(5mM)1.5mLとを添加して、40℃で30分攪拌することで蛍光分子を含有するコア粒子が形成された溶液(以下、コア蛍光粒子含有溶液と呼ぶことがある。)を得た。
【0055】
上記コア蛍光粒子含有溶液に、TEOS(信越シリコーン社製)1.5mL(6.75mmol)と、10mMの濃度になるようにジメチルホルムアミド(DMF、和光純薬社製)に溶解した5−(及び−6)−カルボキシローダミン6G−APS550μL(5.5μmol)とを追添し、40℃で30分攪拌することでコア蛍光粒子にシェル層を形成させ、蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、第1蛍光シリカナノ粒子と呼ぶことがある。)を含む溶液を得た。
【0056】
上記第1蛍光シリカナノ粒子含有溶液にTEOS500μL(2.26mmol)と、10mMの濃度になるようにDMFに溶解した5−(及び−6)−カルボキシローダミン6G−APS265μL(2.65μmol)とを追添し、40℃で30分攪拌して第1蛍光シリカナノ粒子にさらにシェル層を形成させた粒子(以下、第2蛍光シリカナノ粒子ということがある。)を含む溶液を得た。
【0057】
第2蛍光シリカナノ粒子の表面にメルカプトプロピル基を導入するために、上記第2シリカナノ粒子含有溶液に、表1の条件1の混合比で調製したMPS(和光純薬株式会社製)とTEOSの混合液(MPS/TEOS混合液)1mLを追添した。室温で30分攪拌することで、表層にヒドロキシル基とメルカプトプロピル基とを有する蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Bと呼ぶ。)を含む溶液を得た。同様に、表1の条件2及び3の混合比で調製したMPS/TEOS混合液を添加して調製した蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、それぞれ、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子C、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Dと呼ぶ。)を含む溶液も調製した。
MPS/TEOS混合液は追添の直前に調製した。
【0058】
【表1】
【0059】
(チオール基の定量分析)
条件1〜3で得られたチオール基導入蛍光シリカナノ粒子B〜Dをそれぞれ500mg用いてDNTBによるチオール基の定量分析を行った。その結果、粒子表面のチオール基の密度は、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Bが0.012個/nm
2、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Cが0.056個/nm
2、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Dが0.072個/nm
2であった。
【0060】
[比較例1] 標識抗体の製造(抗体のアミノ基を介した結合−1)
参考例1で作製したチオール基導入蛍光シリカナノ粒子A(平均粒径260nm)の分散液(濃度25mg/ml、分散媒:蒸留水)40μLに、DMF460μLを加え、15000×gの重力加速度で10分遠心分離した。上清を除去し、DMFを500μL加え遠心分離し、上清を除去した。再度DMFを500μL加えチオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aを分散させた。これにリンカー分子として3−マレイミド安息香酸を1mg加え、30分混合することで、上記リンカー分子のマレイミド基とチオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aのチオール基との間でチオエーテル結合を形成させた。
この反応液を15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去後、蒸留水90.6μLを加え、粒子を分散させた。続いて、0.5M MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)(pH6.0)100μL、50mg/mL NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド) 230.4μL、19.2mg/mL EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)75μLを加え混合した。これに抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体(6.2mg/ml、マウス由来、HyTest社製)を4.0μL加え、10分間混合した。
15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させた。続いて15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させてコロイドを得た。
【0061】
このコロイドをサンプルとして、タンパク定量を行った。タンパク定量はPierceBCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。その結果、抗体の結合量は、抗体が結合した蛍光分子含有シリカナノ粒子(標識抗体)1gあたり8.5mgであった。
【0062】
続いて上記コロイドに10%BSAを10μL加え10分間混合した。15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。10mM KH
2PO
4(pH7.5)を500μL加え、粒子を分散させ、15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させ、抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子が分散したコロイド(以下、比較例のコロイドAと呼ぶ。)を得た。
【0063】
[比較例2] 標識抗体の製造(抗体のアミノ基を介した結合−2)
参考例2で調製したチオール基導入蛍光シリカナノ粒子B〜Dを用いて、比較例1と同様の方法で抗体の結合処理を行い、粒子が分散した各コロイドを得た。タンパク定量の結果、抗体が結合した蛍光分子含有シリカナノ粒子(標識抗体)1gあたりの抗体の結合量は、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Bを用いた場合は3.7mg、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Cを用いた場合は9.2mg、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Dを用いた場合は12.8mgであった。
【0064】
続いて、上記各コロイドに10%BSAを10μL加え10分間混合した。15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。10mM KH
2PO
4(pH7.5)を500μL加え、粒子を分散させ、15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させ、抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子が分散したコロイド(上記チオール基導入蛍光シリカナノ粒子B〜Dに対応して、以下、比較例のコロイドB〜Dと呼ぶ。)を得た。
【0065】
[実施例1] 標識抗体の製造(抗体のカルボキシル基を介した結合−1)
参考例1で作製したチオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aを用いて、以下の方法で抗体を結合させた。
チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aの分散液(濃度25mg/ml、分散媒:蒸留水)40μLに、DMF460μLを加え、15000×gの重力加速度で10分遠心分離した。上清を除去し、DMFを500μL加え遠心分離し、上清を除去した。再度DMFを500μL加えチオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aを分散させた。これにリンカー分子としてN−(4−アミノフェニル)マレイミドを1mg加え、30分混合することで、上記リンカー分子のマレイミド基とチオール基導入蛍光シリカナノ粒子のチオール基との間でチオエーテル結合を形成させた。
この反応液を15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去後、蒸留水90.6μLを加え、粒子を分散させた。続いて、0.5M MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)(pH6.0)100μL、50mg/mL NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド) 230.4μL、19.2mg/mL EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)75μLを加え混合した。これに抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体(6.2mg/ml、マウス由来、HyTest社製)を4.0μL加え、10分間混合した。
15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させた。続いて15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させてコロイドを得た。
このコロイドをサンプルとして、タンパク定量を行った。タンパク定量はPierceBCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。その結果、蛍光分子含有シリカナノ粒子1gあたりの抗体の結合量は、7.9mgであった。
【0066】
続いて上記コロイドに10%BSAを10μL加え10分間混合した。15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。10mM KH
2PO
4(pH7.5)を500μL加え、粒子を分散させ、15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させ、抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子Aが分散したコロイド(以下、本発明のコロイドAと呼ぶ。)を得た。
【0067】
[実施例2] 標識抗体の製造(抗体のカルボキシル基を介した結合−2)
参考例2で調製したチオール基導入蛍光シリカナノ粒子B〜Dを用いて、実施例1と同様の方法で抗体の結合処理を行い、粒子が分散した各コロイドを得た。タンパク定量の結果、抗体が結合した蛍光分子含有シリカナノ粒子1gあたりの抗体の結合量は、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Bを用いた場合は4.2mg、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Cを用いた場合は8.8mg、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Dを用いた場合は11.3mgであった。
【0068】
続いて、上記各コロイドに10%BSAを10μL加え10分間混合した。15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。10mM KH
2PO
4(pH7.5)を500μL加え、粒子を分散させ、15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させ、抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子が分散したコロイド(上記チオール基導入シリカナノ粒子B〜Dに対応して、以下、本発明のコロイドB〜Dと呼ぶ。)を得た。
【0069】
[試験例1] イムノクロマト法試験
【0070】
(イムノクロマトグラフィー用テストストリップの作製)
抗体固定化メンブレンを以下の方法で作製した。
メンブレン(丈25mm、商品名:Hi−Flow Plus120 メンブレン、MILLIPORE社製)の端から約6mmの位置に、幅約1mmのA型インフルエンザ用テストラインとして、ウサギ由来の抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体(ポリクローナル抗体、自社製)を1mg/mL含有する溶液((50mMKH
2PO
4,pH7.0)+5%スクロース)を0.75μL/cmの塗布量で塗布した。
【0071】
続いて、幅約1mmのコントロールラインとして、ヤギ由来の抗マウスIgG抗体(AKP Goat anti−mouse IgG Antibody、BioLegend社製)を1mg/mL含有する溶液((50mMKH
2PO
4,pH7.0)シュガー・フリー)を0.75μL/cmの塗布量で塗布し、50℃で30分乾燥させた。なお、テストラインとコントロールラインとの間隔は3mmとした。
前記抗体固定化メンブレン、サンプルパッド(Glass Fiber Conjugate Pad(GFCP)、MILLIPORE社製)、及び吸収パッド(Cellulose Fiber Sample Pad(CFSP)、MILLIPORE社製)をバッキングシート(商品名AR9020,Adhesives Research社製)上で組み立てた。なお、メンブレンはA型インフルエンザ用テストラインがサンプルパッド側、コントロールラインが吸収パッド側になる向きで構成した。
【0072】
(検出装置)
光源と光学フィルタと光電子倍増管(PMT)からなる検出ユニットを有し、該検出ユニットが、モーターによって一定速度で直線移動する機構を備え、PMTの受光強度を50μ秒ごとに記録する記録機構を備えた検出装置を作製した。なお、検出ユニットは、光源が532nmのレーザダイオードであり、レーザダイオードをサンプルに照射し、反射光を550nm以上の波長の光のみを透過する光学フィルタを透過させた後に光電子増倍管(PMT)で受光する機構を有する。
【0073】
(インフルエンザ核タンパク質の迅速判定)
表2に示す組成で、A型インフルエンザ核タンパク質の溶液を調製した。続いて同混合液100μLと、比較例のコロイドA(2.5mg/mL)2μLの混合液をテストストリップのサンプルパッド部分に滴下した。比較例のコロイドB〜D、本発明のコロイドA〜Dについても同様に試験を実施した。15分後、上記検出器によって測定しラインの発光強度を数値化した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、同じチオール基導入蛍光シリカナノ粒子を使用したコロイドを比較すると、A型インフルエンザ核タンパク質が含まれないサンプル(0ng/mL)では比較例のコロイドに比べて本発明のコロイドはテストライン強度が抑えられ、非特異的な吸着がより少ないことがわかった。一方、A型インフルエンザ核タンパク質が含まれるサンプル(20ng/mLおよび50ng/mL)では、比較例のコロイドに比べて本発明のコロイドはテストライン強度が大幅に高められていた。
【0076】
[比較例3] 標識抗体の製造(抗体のアミノ基を介した結合−3)
機能性分子含有シリカ粒子として参考例1で作製したチオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aを用い、抗体としてFab化した抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体を用いて比較例1と同様の方法でシリカ粒子と抗体を結合させた。得られたコロイドをサンプルとしてタンパク定量を行った結果、抗体の結合量は、抗体が結合した蛍光分子含有シリカナノ粒子1gあたり7.1mgであった。
【0077】
続いて、上記コロイドに10%BSAを10μL加え10分間混合した。15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。10mM KH
2PO
4(pH7.5)を500μL加え、粒子を分散させ、15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させ、Fab化した抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子が分散したコロイド(以下、比較例のコロイドA’と呼ぶ。)を得た。
【0078】
[実施例3] 標識抗体の製造(抗体のカルボキシル基を介した結合−3)
機能性分子含有シリカ粒子として参考例1で作製したチオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aを用い、抗体として、比較例3で用いたのと同一のFab化した抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体を用いて、実施例1と同様の方法でシリカ粒子と抗体を結合させた。得られたコロイドをサンプルとしてタンパク定量を行った結果、抗体の結合量は、抗体が結合した蛍光分子含有シリカナノ粒子1gあたり8.5mgであった。
【0079】
続いて、上記コロイドに10%BSAを10μL加え10分間混合した。15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。10mM KH
2PO
4(pH7.5)を500μL加え、粒子を分散させ、15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH
2PO
4(pH7.5)を400μL加え、粒子を分散させ、Fab化した抗A型インフルエンザ核タンパク質抗体が結合した機能性分子含有シリカナノ粒子が分散したコロイド(以下、本発明のコロイドA’と呼ぶ。)を得た。
【0080】
[試験例2] イムノクロマト法試験
試験例1と同様の方法で、イムノクロマト試験を実施した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すようにA型インフルエンザ核タンパク質が含まれないサンプル(0ng/mL)では、比較例3のコロイドに比べて実施例3のコロイドはテストライン強度が顕著に抑えられていた。しかも、A型インフルエンザ核タンパク質が含まれるサンプル(20ng/mLおよび50ng/mL)では、比較例3のコロイドに比べて実施例3のコロイドはテストライン強度がより大幅に高められていた。表2の結果と表3の結果を比較すると、通常の抗体(ホール(whole)抗体)を結合させた場合に比べて(表2)、フラグメント抗体を用いた場合(表3)は、抗体のアミノ基を介してシリカ粒子と結合させたものと、抗体のカルボキシル基を介してシリカ粒子と結合させたものとの間で、後者(表3)の方がテストライン強度の差が大きくなることがわかった。一般に、血液サンプル等の生検体をサンプルとした場合には、ホール抗体よりもフラグメント抗体の方が非特異的な吸着が少なく検出感度が良好となることが知られている。そのため、フラグメント抗体を用いた場合においてより一層の利点を有する本発明の標識抗体は、実際の検査の現場においてより有用な検査ツールとなりうる。