(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光信号中継装置は、所定範囲内の波長を有する光信号を受信し、受信した前記光信号の波長成分とともに前記所定範囲にわたる波長の前記ASEを送信する、請求項1に記載の光信号中継装置。
前記制御部は、前記駆動電流に対応する前記ASEの強度を、前記半導体光増幅器が受ける光信号の強度に基づいて補正し、補正した前記ASEの強度に基づいて前記駆動電流の大きさを調整する、請求項1または請求項2に記載の光信号中継装置。
前記半導体光増幅器が受けるべき光信号の強度の範囲は、前記半導体光増幅器の利得が飽和する強度を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光信号中継装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0020】
(1)本発明の実施の形態に係る光信号中継装置は、受信した光信号を増幅して送信する光信号中継装置であって、前記光信号を受けて増幅する半導体光増幅器と、前記半導体光増幅器に供給する駆動電流の大きさを変更することにより前記半導体光増幅器の利得または出力を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記駆動電流と前記半導体光増幅器のASE(Amplified Spontaneous Emission)の強度との関係、および前記半導体光増幅器が受ける光信号の強度と前記半導体光増幅器のASEの強度との関係に基づいて、前記駆動電流の大きさを調整する。
【0021】
このような構成により、半導体光増幅器において、駆動電流の変動によるASEのレベルの変動を考慮して駆動電流の大きさを適切に調整できることに加えて、さらに、入力光信号のレベルの変動によるASEのレベルの変動を考慮して駆動電流の大きさを適切に調整することができる。これにより、利得一定制御または出力一定制御等の半導体光増幅器の出力光信号のレベル制御を精度良く行なうことが可能となる。したがって、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置では、受信した光信号を増幅して送信する光信号中継装置において、送信する光信号のレベルをより精度良く制御することにより、光通信システムの通信限界距離を延ばすことができる。
【0022】
(2)好ましくは、前記光信号中継装置は、所定範囲内の波長を有する光信号を受信し、受信した前記光信号の波長成分とともに前記所定範囲にわたる波長の前記ASEを送信する。
【0023】
このような構成により、特に、広範な波長範囲の光信号を伝送する必要のある光信号中継装置において、半導体光増幅器の出力光信号のレベル制御を精度良く行い、光通信システムの通信限界距離を延ばすことができる。
【0024】
(3)好ましくは、前記制御部は、前記駆動電流に対応する前記ASEの強度を、前記半導体光増幅器が受ける光信号の強度に基づいて補正し、補正した前記ASEの強度に基づいて前記駆動電流の大きさを調整する。
【0025】
このような構成により、半導体光増幅器において、駆動電流の変動によるASEのレベルの変動に関わらず、たとえば半導体光増幅器の出力光信号のレベルのより正確な値を取得しながら、さらに、入力光信号のレベルの変動によるASEのレベル変動に応じて、取得した半導体光増幅器の出力光信号のレベルの値を適切に補正することができる。
【0026】
(4)好ましくは、前記半導体光増幅器が受けるべき光信号の強度の範囲は、前記半導体光増幅器の利得が飽和する強度を含む。
【0027】
このような構成により、特に、入力光信号のレベルについて広範なダイナミックレンジが必要となる光信号中継装置において、半導体光増幅器の出力光信号のレベル制御を精度良く行い、光通信システムの通信限界距離を延ばすことができる。
【0028】
(5)本発明の実施の形態に係る通信制御方法は、半導体光増幅器を含み、受信した光信号を増幅して送信する光信号中継装置を備える光通信システムにおける通信制御方法であって、前記半導体光増幅器の出力光の強度を取得するステップと、取得した前記強度に基づいて、前記半導体光増幅器に供給する駆動電流の大きさを変更することにより前記半導体光増幅器の利得または出力を制御するステップとを含み、前記半導体光増幅器の利得または出力を制御するステップにおいては、前記駆動電流と前記半導体光増幅器のASEの強度との関係、および前記半導体光増幅器が受ける光信号の強度と前記半導体光増幅器のASEの強度との関係に基づいて、前記駆動電流の大きさを調整する。
【0029】
これにより、半導体光増幅器において、駆動電流の変動によるASEのレベルの変動を考慮して駆動電流の大きさを適切に調整できることに加えて、さらに、入力光信号のレベルの変動によるASEのレベルの変動を考慮して駆動電流の大きさを適切に調整することができる。これにより、利得一定制御または出力一定制御等の半導体光増幅器の出力光信号のレベル制御を精度良く行なうことが可能となる。したがって、本発明の実施の形態に係る通信制御方法では、受信した光信号を増幅して送信する光信号中継装置において、送信する光信号のレベルをより精度良く制御することにより、光通信システムの通信限界距離を延ばすことができる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、以下に記載する実施の形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0031】
[構成および基本動作]
図1は、本発明の実施の形態に係る光通信システムの構成を示す図である。
【0032】
図1を参照して、光通信システム301は、たとえばGE−PONであり、上位ネットワークに接続された局側装置201と、光信号中継装置101と、1または複数のONU202と、光カプラ211,212とを備える。なお、光通信システム301は、10G−EPONであってもよいし、他の種類の光通信システムであってもよい。
【0033】
局側装置201は、PONの上位側に位置する光終端装置であり、電話局および変電所等に設置され、複数のONU202と通信を行なう。また、ONU202は、PONの下位側に位置する光終端装置であり、加入者側の建物、および屋外の電柱上等に設置され、1つの局側装置201と通信を行なう。
【0034】
光通信システム301において、各ONU202は、光カプラ211から分岐された複数の光ファイバに接続されている。光カプラ211および光信号中継装置101は、1つの光ファイバを介して接続されている。光カプラ212および光信号中継装置101は、1つの光ファイバを介して接続されている。光カプラ212から分岐された光ファイバには、1または複数のONU202も接続されている。また、光カプラ212および局側装置201は、1つの光ファイバを介して接続されている。
【0035】
このように、光通信システム301では、複数の光カプラを用いる構成により、局側装置201または光信号中継装置101と任意の数のONU202とを接続することができる。
【0036】
各ONU202と局側装置201とは、光ファイバおよび光カプラを介して、また、ONU202の接続位置に応じて光信号中継装置101を介して接続され、互いに光信号を送受信する。光通信システム301では、各ONU202は、共通の通信回線すなわちPON回線を介して上り光信号を局側装置201へ送信し、また、各ONU202から局側装置201への光信号が時分割多重される。また、光通信システム301では、局側装置201から各ONU202へ連続的な光信号が送信される。
【0037】
局側装置201は、自己とONU202との間に接続される光信号中継装置101を介してONU202との間で光信号を送受信可能である。
【0038】
光信号中継装置101は、局側装置201から送信された光信号のONU202への中継、およびONU202から送信された光信号の局側装置201への中継を行なう。
【0039】
以下、ONUから上位ネットワークへの方向を上り方向と称し、上位ネットワークからONUへの方向を下り方向と称する。
【0040】
図2は、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置の構成を示す図である。
【0041】
図2を参照して、光信号中継装置101は、電気/光変換器11と、下り信号中継部12と、光/電気変換器13と、上り信号再生部14とを備える。
【0042】
光/電気変換器13は、ONU202から送信される上り光信号を受信して電気信号に変換し、上り信号再生部14へ出力する。
【0043】
上り信号再生部14は、たとえば、光/電気変換器13から受けた電気信号からクロックを抽出し、抽出したクロックを用いて当該電気信号の波形整形を行なうとともに当該電気信号を電気/光変換器11へ出力する。
【0044】
電気/光変換器11は、上り信号再生部14から受けた電気信号を上り光信号に変換して局側装置201へ送信する。
【0045】
下り信号中継部12は、局側装置201から送信される下り光信号を受信し、受信した下り光信号を増幅してONU202へ送信する。上り光信号および下り光信号は、送信すべきデータの論理値に応じたレベルを有する。また、上り光信号および下り光信号のデューティ比は、たとえば50%である。
【0046】
図3は、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置における下り信号中継部の構成を示す図である。
【0047】
図3を参照して、下り信号中継部12は、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)21と、光カプラ22,23と、電流供給部24と、入力検知部25と、制御部26と、出力検知部27と、記憶部28とを含む。
【0048】
光カプラ22は、局側装置201から受信した下り光信号を分岐して半導体光増幅器21および入力検知部25へ出力する。
【0049】
半導体光増幅器21は、光カプラ22から受けた下り光信号を増幅して光カプラ23へ出力する。半導体光増幅器21の利得は、電流供給部24から供給される駆動電流に応じて変化する。具体的には、駆動電流が大きくなると半導体光増幅器21の利得が大きくなり、駆動電流が小さくなると半導体光増幅器21の利得が小さくなる。
【0050】
光カプラ23は、半導体光増幅器21から受けた下り光信号を分岐してONU202および出力検知部27へ出力する。
【0051】
入力検知部25は、フォトダイオード等の受光素子31と、図示しない電流電圧変換回路およびA/Dコンバータとを含む。入力検知部25において、受光素子31は、光カプラ22から受けた下り光信号の強度に応じた大きさの電流、すなわち半導体光増幅器21の入力光の強度に応じた大きさの電流を出力する。電流電圧変換回路は、受光素子31の出力電流を電圧に変換して出力する。A/Dコンバータは、電流電圧変換回路から受けた電圧のレベルを示すデジタル信号を制御部26へ出力する。
【0052】
出力検知部27は、フォトダイオード等の受光素子32と、図示しない電流電圧変換回路およびA/Dコンバータとを含む。出力検知部27において、受光素子32は、光カプラ23から受けた下り光信号の強度に応じた大きさの電流、すなわち半導体光増幅器21の出力光の強度に応じた大きさの電流を出力する。電流電圧変換回路は、受光素子32の出力電流を電圧に変換して出力する。A/Dコンバータは、電流電圧変換回路から受けた電圧のレベルを示すデジタル信号を制御部26へ出力する。
【0053】
制御部26は、半導体光増幅器21に供給する駆動電流の大きさを変更することにより半導体光増幅器21の利得または出力を制御する。
【0054】
具体的には、制御部26は、たとえば、入力検知部25から受けたデジタル信号および出力検知部27から受けたデジタル信号の少なくともいずれか一方に基づいて駆動電流の大きさを決定し、決定した駆動電流の大きさを示す制御信号を電流供給部24へ出力する。
【0055】
電流供給部24は、駆動電流を半導体光増幅器21に供給し、制御部26から受けた制御信号に従って、半導体光増幅器21に供給する駆動電流の大きさを変更する。
【0056】
制御部26は、半導体光増幅器21の利得が一定になるように駆動電流の大きさを調整する。あるいは、制御部26は、半導体光増幅器21の出力する光信号の強度が目標値になるように駆動電流の大きさを調整する。
【0057】
より詳細には、たとえば、制御部26は、入力検知部25から受けたデジタル信号および出力検知部27から受けたデジタル信号から現在の半導体光増幅器21の利得、具体的には、半導体光増幅器21の入力光信号のレベルと半導体光増幅器21の出力光信号のレベルとの比を算出する。そして、制御部26は、半導体光増幅器21の利得が一定となるように駆動電流の大きさを変更する利得一定制御を行なう。
【0058】
あるいは、たとえば、制御部26は、出力検知部27から受けたデジタル信号から半導体光増幅器21の出力光信号のレベルを算出する。そして、制御部26は、半導体光増幅器21の出力光信号のレベルが目標値となるように駆動電流の大きさを変更する出力一定制御を行なう。
【0059】
ここで、半導体光増幅器およびエルビウムドープファイバ増幅器(EDFA:Erbium Doped Fiber Amplifier)は、光信号を受けていない状態でも自然放出光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)を発生する。
【0060】
このため、出力検知部27の検知する信号には、伝送すべき光信号に加えて、半導体光増幅器21のASEが含まれる。
【0061】
半導体光増幅器21における、ASEのレベルをPaseとし、ASEおよび雑音を含まない光信号の利得をGとし、また、半導体光増幅器21の入力光のレベルをPinとすると、半導体光増幅器21の出力光のレベルPoutは、以下の式(1)で表される。
Pout=G×Pin+Pase ・・・(1)
【0062】
また、ASEのレベルPaseは、以下の式(2)で表される。
Pase=(G−1)×nsp×h×ω ・・・(2)
【0063】
式(2)において、nspは反転分布パラメータであり、hはプランク定数であり、ωは角周波数である。
【0064】
[課題]
光信号中継装置101では、光通信システムへの適用の柔軟性を高める目的で、広い帯域の光信号を伝送することが要求される。
【0065】
このため、光信号中継装置101は、所定範囲内たとえば1480nmから1500nmまでの範囲内の波長を有する下り光信号を受信し、受信した下り光信号の波長成分とともに当該所定範囲にわたる波長のASEを送信する。
【0066】
すなわち、受信する下り光信号の帯域外のASEが下り光信号とともに光信号中継装置101から後段の装置へ送信されることになる。
【0067】
図4は、半導体光増幅器における駆動電流とASEのレベルとの関係の一例を示す図である。
図4において、横軸は、半導体光増幅器の駆動電流を示し、単位は[mA]である。縦軸は、半導体光増幅器のASEのレベルを示し、単位は[mW]である。
図4は、半導体光増幅器が光信号を受けていない状態における駆動電流とASEのレベルとの関係を示している。
【0068】
図4を参照して、半導体光増幅器は、駆動電流が大きくなるにつれてASEのレベルが大きくなる特性を有する。
【0069】
このため、制御部26は、半導体光増幅器21への駆動電流と半導体光増幅器21のASEの強度との関係に基づいて、当該駆動電流の大きさを調整する。
【0070】
より詳細には、記憶部28は、たとえば
図4に示すような特性、すなわち駆動電流とASEのレベルとの対応関係を示すASEテーブル1を記憶している。
【0071】
制御部26は、記憶部28におけるASEテーブル1を参照することにより、半導体光増幅器21に供給されている駆動電流に対応するASEのレベルPase_Tを取得する。そして、制御部26は、半導体光増幅器21の出力光のレベルPoutから、取得したASEのレベルPase_Tを差し引いた値を半導体光増幅器21の出力光信号のレベルL1として用いて、利得一定制御または出力一定制御を行なう。
【0072】
半導体光増幅器21の出力光信号のレベルL1は、以下の式(3)で表される。
L1=G×Pin=Pout−Pase_T ・・・(3)
【0073】
図4に示すような特性、すなわち半導体光増幅器が光信号を受けていない状態における駆動電流とASEのレベルとの特性を使用する構成により、出力光信号のレベルL1=0となり、出力光のレベルPout=ASEのレベルPase_Tとなるため、演算処理を簡素化することができる。
【0074】
図5は、半導体光増幅器における入力光信号の強度と利得との関係の一例を示す図である。
図5において、横軸は、半導体光増幅器の時間平均入力レベルすなわち所定時間あたりの入力光信号の平均レベルを示し、単位は[dBm]である。縦軸は、半導体光増幅器の利得を示し、単位は[dB]である。グラフG1〜G4は、半導体光増幅器に供給される駆動電流がそれぞれ399mA、299mA、199mAおよび99mAの場合を示す。
【0075】
図5を参照して、半導体光増幅器は、駆動電流が大きくなるにつれて利得が大きくなる特性を有する。
【0076】
光信号中継装置の受信する光信号の強度が大きい場合、半導体光増幅器の出力が飽和する。すなわち、半導体光増幅器の利得が飽和する。ここでは、飽和領域とは、非飽和領域における利得から0.2dB以上利得が低下する時間平均入力レベルの領域であると定義する。この例では、半導体光増幅器に供給される駆動電流が199mAの場合、概ね、時間平均入力レベルが−20dBm未満の領域が非飽和領域であり、−20dBm以上の領域が飽和領域である。
【0077】
光信号中継装置101では、半導体光増幅器21が受けるべき光信号の強度の範囲は、半導体光増幅器21の利得が飽和する強度を含む。
【0078】
半導体光増幅器の利得が飽和すると、光信号中継装置から送信される光信号のレベルに誤差が生じるため、光通信システム、具体的には光信号中継装置から光受信器までの通信限界距離が小さくなってしまう。
【0079】
上記のように、光信号中継装置の受信する光信号の強度が大きくなると、半導体光増幅器の利得が減少する。
【0080】
ここで、式(2)より、半導体光増幅器の利得Gが減少すると、ASEのレベルPaseが減少する。すなわち、半導体光増幅器の受ける光信号のレベルが大きくなると、ASEのレベルPaseが減少する。
【0081】
図6は、半導体光増幅器における出力光のスペクトラムの一例を示す図である。
図6において、横軸は、半導体光増幅器の出力光の波長を示し、単位は[nm]である。縦軸は、半導体光増幅器の出力光のレベルを示し、単位は[dBm]である。グラフG11〜G14は、半導体光増幅器の入力光信号のレベルがそれぞれ−20dBm、−15dBm、−7dBmおよび−2dBmの場合を示す。
図6は、半導体光増幅器に供給する駆動電流の値を180mAと一定にした状態における出力光のスペクトラムを示している。
【0082】
図6を参照して、半導体光増幅器では、駆動電流を一定にした状態においても、入力光信号のレベルが増加するとASEのレベルが減少することが分かる。
【0083】
具体的には、入力光信号の波長範囲外における半導体光増幅器の出力光の波長成分は、ASEである。半導体光増幅器の入力光信号のレベルが−20dBmおよび−15dBmの比較的低い状態では、ASEのレベルはほぼ一定である(グラフG11およびG12)。一方、半導体光増幅器の入力光信号のレベルが−7dBmおよび−2dBmと高くなると、ASEのレベルが減少する(グラフG13およびG14)。
【0084】
このように、半導体光増幅器では、入力光信号のレベルが増加すると、出力光信号のレベルは利得飽和により増加しにくくなるとともに、ASEのレベルは減少する。
【0085】
前述のように、光送信器から光信号中継装置までの距離、および光信号中継装置から光受信器までの距離は、光通信システムの設置場所等により異なる場合が多い。このため、光信号中継装置は、様々な強度の光信号を受信することになる。
【0086】
入力光信号のレベルについて広範なダイナミックレンジが光信号中継装置において必要となる場合、上記のようなASEのレベル変動により、半導体光増幅器の出力光信号のレベルの算出に誤差が生じ、利得一定制御または出力一定制御等の出力光信号のレベル制御を精度良く行なうことが困難となり、光通信システムの通信限界距離が小さくなってしまう。このため、光信号中継装置において、入力光信号のレベルについて広範なダイナミックレンジを確保することは困難である。
【0087】
本願発明者らは、上記のような半導体光増幅器の特性に着目し、このような問題点を解決する方法を発見した。すなわち、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置では、以下のような構成および動作により、このような問題点を解決する。
【0088】
図7は、半導体光増幅器における入力光信号の強度とASEのレベルとの関係の一例を示す図である。
図7において、横軸は、半導体光増幅器が受ける光信号の時間平均入力レベルすなわち所定時間あたりの入力光信号の平均レベルを示し、単位は[dBm]である。左側の縦軸は、半導体光増幅器の波長幅1.0nmあたりのASEのレベルを示し、単位は[dBm]である。右側の縦軸は、半導体光増幅器が受ける光信号の時間平均入力レベルに対応するASEのレベルの補正係数Pase_dを示す。グラフG21は、半導体光増幅器が受ける光信号の時間平均入力レベルを示し、グラフG22は、補正係数Pase_dを示す。
【0089】
図7を参照して、グラフG21に示すように、半導体光増幅器は、入力光信号のレベルが大きくなるにつれてASEのレベルが小さくなる特性を有する。
【0090】
制御部26は、半導体光増幅器21への駆動電流と半導体光増幅器21のASEの強度との関係、および半導体光増幅器21が受ける光信号の強度と半導体光増幅器21のASEの強度との関係に基づいて、出力光信号のレベルを算出し、当該駆動電流の大きさを調整する。
【0091】
たとえば、制御部26は、半導体光増幅器21への駆動電流に対応する半導体光増幅器21のASEの強度を、半導体光増幅器21が受ける光信号の強度に基づいて補正し、補正したASEの強度に基づいて出力光信号のレベルを算出し、当該駆動電流の大きさを調整する。たとえば、制御部26は、半導体光増幅器21が受ける光信号の強度が大きい場合に当該対応のASEの強度を小さい値に補正する。
【0092】
より詳細には、記憶部28は、たとえばグラフG21に示すような特性に基づいて求められた補正係数Pase_d、すなわち入力光信号のレベルと補正係数Pase_dとの対応関係を示すASEテーブル2を記憶している。
【0093】
具体的には、グラフG22に示すように、補正係数Pase_dは、たとえば、入力光信号のレベルが−30dBmの場合におけるASEのレベルに対する、入力光信号の各レベルにおけるASEのレベルの比である。すなわち、入力光信号のレベルが−30dBmの場合における補正係数Pase_dは1であり、入力光信号のレベルが−30dBmより大きくなるにつれて補正係数Pase_dは1から減少していく。
【0094】
制御部26は、記憶部28におけるASEテーブル2を参照することにより、半導体光増幅器21が受ける光信号のレベルに対応する補正係数Pase_dを取得する。そして、制御部26は、前述のようにASEテーブル1から取得したASEのレベルPase_Tに、ASEテーブル2から取得した補正係数Pase_dを乗じた値を半導体光増幅器21の出力光信号のレベルL2として用いて、利得一定制御または出力一定制御を行なう。
【0095】
半導体光増幅器21の出力光信号のレベルL2は、以下の式(4)で表される。
L2=G×Pin=Pout−Pase_T×Pase_d ・・・(4)
【0096】
式(4)は、半導体光増幅器21における利得飽和によるASEのレベルの減少分を補正するための式と考えることができる。すなわち、光信号中継装置101では、半導体光増幅器21への駆動電流に基づいて得られたASEのレベルを、半導体光増幅器21における利得の減少分補正する。
【0097】
図8は、光信号中継装置における入力光信号のレベルと出力光信号のレベルの測定結果の誤差との関係の一例を示す図である。
図8において、横軸は、光信号中継装置における半導体光増幅器が受ける光信号の時間平均入力レベルすなわち所定時間あたりの入力光信号の平均レベルを示し、単位は[dBm]である。縦軸は、光信号中継装置における半導体光増幅器の出力光信号のレベルの目標値からの誤差を示し、単位は[dB]である。
【0098】
グラフG31は、式(3)を用いて出力光信号のレベル制御を行なった場合、すなわち駆動電流とASEの強度との対応関係のみを考慮した場合の誤差であり、グラフG32は、式(4)を用いて出力光信号のレベル制御を行なった場合、すなわち駆動電流とASEの強度との対応関係に加えて、入力光信号とASEの強度との対応関係も考慮した場合の誤差である。
【0099】
図8を参照して、グラフG31より、式(3)を用いて出力光信号のレベル制御を行なった場合には、入力光信号のレベルが−17dBm程度から大きくなるにつれて誤差が増加し、入力光信号のレベルが0dBmの場合において誤差が約0.68dBまで上昇している。
【0100】
一方、式(4)を用いて出力光信号のレベル制御を行なった場合には、グラフG32より、入力光信号のレベルが増加しても誤差は約0.25dB以内に収まっている。すなわち、入力光信号のレベルについて広範なダイナミックレンジが光信号中継装置101において必要となる場合でも、ASEのレベル変動に関わらず、利得一定制御または出力一定制御等の出力光信号のレベル制御を精度良く行なうことが可能となる。
【0101】
[動作]
次に、本発明の実施の形態に係る光通信システムにおける光信号中継装置の動作について説明する。
【0102】
光通信システム301における各装置は、コンピュータを備え、当該コンピュータにおけるCPU等の演算処理部は、以下のフローチャートの各ステップの一部または全部を含むプログラムを図示しないメモリから読み出して実行する。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、外部からインストールすることができる。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、記録媒体に格納された状態で流通する。
【0103】
図9は、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置が半導体光増幅器の制御を行なう際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
【0104】
具体的には、
図9を参照して、まず、制御部26は、電流供給部24から半導体光増幅器21に供給されている駆動電流の値を取得する(ステップS1)。
【0105】
次に、制御部26は、出力検知部27から受けたデジタル信号に基づいて半導体光増幅器21の出力光のレベルPoutを取得する(ステップS2)。
次に、制御部26は、ASEテーブル1を参照することにより、取得した駆動電流値に対応するASEのレベルPase_Tを取得する(ステップS3)。
【0106】
次に、制御部26は、入力検知部25から受けたデジタル信号に基づいて半導体光増幅器21の入力光信号のレベルを取得する(ステップS4)。
【0107】
次に、制御部26は、ASEテーブル2を参照することにより、取得した入力光信号のレベルに対応する補正係数Pase_dを取得する(ステップS5)。
【0108】
次に、制御部26は、式(4)に従い、補正係数Pase_dによってASEのレベルPase_Tを補正し、補正後のASEのレベル、およびレベルPoutを用いて、半導体光増幅器21の出力光信号のレベルL2を算出する(ステップS6)。
【0109】
次に、制御部26は、算出したレベルL2が目標の信号光パワーの範囲内であるか否かを判定する(ステップS7)。そして、制御部26は、算出したレベルL2が目標の信号光パワーでない場合には(ステップS7でNO)、目標の信号光パワーに対する差分に基づいて駆動電流を設定する(ステップS8)。
【0110】
制御部26は、電流供給部24から半導体光増幅器21に供給されている駆動電流の値を所定周期で取得する(ステップS1)ことにより、
図9に示す動作を繰り返す。
【0111】
なお、駆動電流の値、出力光のレベルおよび入力光信号のレベルの取得(ステップS1,S2,S4)は、
図9に示す順番に限らず、レベルL2の算出(ステップS6)の前であれば、他の順番であってもよいし、並行して行われてもよい。
【0112】
また、半導体光増幅器21の入力光信号の強度が、半導体光増幅器21の利得の飽和する強度である状態において、半導体光増幅器21の出力一定制御を行なう場合、入力光信号のレベルの変動によるASEのレベルの変動を、駆動電流とASEのレベルとの対応関係を示すASEテーブル1にあらかじめ加味したテーブルを用いてもよい。これにより、半導体光増幅器21の入力光信号のレベルの取得の有無に関わらず、半導体光増幅器21の出力一定制御を精度良く行なうことが可能となる。
【0113】
ところで、たとえば特許文献1に記載の技術を光信号中継装置に適用した場合、半導体光増幅器の出力光パワーが、目標の信号光パワーに雑音光パワーを加えたパワーとなるように半導体光増幅器の駆動電流が制御される。このような特許文献1に記載の技術を超えて、光信号中継装置から送信される光信号のレベルをより精度良く制御し、光通信システムの通信限界距離を延ばす技術が望まれる。
【0114】
そこで、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置では、半導体光増幅器21は、光信号を受けて増幅する。制御部26は、半導体光増幅器21に供給する駆動電流の大きさを変更することにより半導体光増幅器21の利得または出力を制御する。そして、制御部26は、半導体光増幅器21への駆動電流と半導体光増幅器21のASEの強度との関係、および半導体光増幅器21が受ける光信号の強度と半導体光増幅器21のASEの強度との関係に基づいて、当該駆動電流の大きさを調整する。
【0115】
このような構成により、半導体光増幅器21において、駆動電流の変動によるASEのレベルの変動を考慮して駆動電流の大きさを適切に調整できることに加えて、さらに、入力光信号のレベルの変動によるASEのレベルの変動を考慮して駆動電流の大きさを適切に調整することができる。これにより、利得一定制御または出力一定制御等の半導体光増幅器21の出力光信号のレベル制御を精度良く行なうことが可能となる。
【0116】
したがって、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置では、受信した光信号を増幅して送信する光信号中継装置において、送信する光信号のレベルをより精度良く制御することにより、光通信システムの通信限界距離を延ばすことができる。
【0117】
また、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置は、所定範囲内の波長を有する光信号を受信し、受信した光信号の波長成分とともに当該所定範囲にわたる波長のASEを送信する。
【0118】
このような構成により、特に、広範な波長範囲の光信号を伝送する必要のある光信号中継装置101において、半導体光増幅器21の出力光信号のレベル制御を精度良く行い、光通信システムの通信限界距離を延ばすことができる。
【0119】
また、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置では、制御部26は、半導体光増幅器21への駆動電流に対応する半導体光増幅器21のASEの強度を、半導体光増幅器21が受ける光信号の強度に基づいて補正し、補正したASEの強度に基づいて当該駆動電流の大きさを調整する。
【0120】
このような構成により、半導体光増幅器21において、駆動電流の変動によるASEのレベルの変動に関わらず、たとえば半導体光増幅器21の出力光信号のレベルのより正確な値を取得しながら、さらに、入力光信号のレベルの変動によるASEのレベル変動に応じて、取得した半導体光増幅器21の出力光信号のレベルの値を適切に補正することができる。
【0121】
また、本発明の実施の形態に係る光信号中継装置では、半導体光増幅器21が受けるべき光信号の強度の範囲は、半導体光増幅器21の利得が飽和する強度を含む。
【0122】
このような構成により、特に、入力光信号のレベルについて広範なダイナミックレンジが必要となる光信号中継装置101において、半導体光増幅器21の出力光信号のレベル制御を精度良く行い、光通信システムの通信限界距離を延ばすことができる。
【0123】
また、本発明の実施の形態に係る通信制御方法では、半導体光増幅器21の利得または出力を制御する際、まず、半導体光増幅器21の出力光の強度を取得する。次に、半導体光増幅器21への駆動電流と半導体光増幅器21のASEの強度との関係、および半導体光増幅器21が受ける光信号の強度と半導体光増幅器21のASEの強度との関係に基づいて、出力光信号のレベルを算出し、当該駆動電流の大きさを調整する。すなわち、半導体光増幅器21に供給する駆動電流の大きさを変更することにより半導体光増幅器21の利得または出力を制御する。
【0124】
これにより、半導体光増幅器21において、駆動電流の変動によるASEのレベルの変動を考慮して駆動電流の大きさを適切に調整できることに加えて、さらに、入力光信号のレベルの変動によるASEのレベルの変動を考慮して駆動電流の大きさを適切に調整することができる。これにより、利得一定制御または出力一定制御等の半導体光増幅器21の出力光信号のレベル制御を精度良く行なうことが可能となる。
【0125】
したがって、本発明の実施の形態に係る通信制御方法では、受信した光信号を増幅して送信する光信号中継装置において、送信する光信号のレベルをより精度良く制御することにより、光通信システムの通信限界距離を延ばすことができる。
【0126】
なお、本発明の実施の形態に係る光通信システムでは、光信号中継装置101が制御部26および記憶部28を備える構成であるとしたが、これに限定するものではない。光通信システム301における光信号中継装置101以外の他の装置が制御部26および記憶部28を備え、半導体光増幅器21の入力光および出力光の監視、利得一定制御または出力一定制御、ならびに半導体光増幅器21への駆動電流の制御を行なう構成であってもよい。
【0127】
また、本発明の実施の形態に係る光通信システムでは、下り方向において、半導体光増幅器の入力光および出力光の監視、利得一定制御または出力一定制御、ならびに半導体光増幅器への駆動電流の制御を行なう構成であるとしたが、これに限定するものではなく、上り方向において、下り方向と同様に、半導体光増幅器の入力光および出力光の監視、利得一定制御または出力一定制御、ならびに半導体光増幅器への駆動電流の制御を行なう構成とすることも可能である。
【0128】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0129】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
【0130】
[付記1]
受信した光信号を増幅して送信する光信号中継装置であって、
前記光信号を受けて増幅する半導体光増幅器と、
前記半導体光増幅器に供給する駆動電流の大きさを変更することにより前記半導体光増幅器の利得または出力を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記駆動電流と前記半導体光増幅器のASE(Amplified Spontaneous Emission)の強度との関係、および前記半導体光増幅器が受ける光信号の強度と前記半導体光増幅器のASEの強度との関係に基づいて、前記駆動電流の大きさを調整し、
前記光信号中継装置はPONにおいて用いられ、
前記光信号は、局側装置から宅側装置へ送信される下り光信号である、光信号中継装置。