【文献】
森永均, 外2名,2009年度精密工学会大会学術講演会講演論文集,2009年,p. 317-318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、有機酸を固定化したコロイダルシリカを水に混合して調製される。従って、研磨用組成物は、有機酸を固定化したコロイダルシリカを含有する。この研磨用組成物は、窒化ケイ素を研磨する用途、より具体的には、半導体配線基板のような研磨対象物における窒化ケイ素を含んだ表面を研磨する用途で主に使用される。
【0010】
研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、コロイダルシリカの表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0011】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均一次粒子径は5nm以上であることが好ましく、より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。コロイダルシリカの平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度が向上する有利がある。
【0012】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均一次粒子径はまた、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。コロイダルシリカの平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチが生じるのを抑えることができる有利がある。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定されるコロイダルシリカの比表面積に基づいて算出される。
【0013】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均二次粒子径は10nm以上であることが好ましく、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上である。コロイダルシリカの平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度が向上する有利がある。
【0014】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均二次粒子径はまた、150nm以下であることが好ましく、より好ましくは120nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。コロイダルシリカの平均二次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチが生じるのを抑えることができる有利がある。なお、コロイダルシリカの平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光を用いた光散乱法で測定することができる。
【0015】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの形状は非球形であることが好ましい。非球形状のコロイダルシリカは、2個以上の一次粒子が会合したものであってもよい。
研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均会合度は1.2以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上である。コロイダルシリカの平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度が向上する有利がある。
【0016】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均会合度はまた、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下である。コロイダルシリカの平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に欠陥が生じたり表面粗さが増大したりするのを抑えることができる有利がある。
【0017】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量は0.05質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。コロイダルシリカの含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度が向上する有利がある。
【0018】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量はまた、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。コロイダルシリカの含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、コロイダルシリカの凝集が起こるのを抑えることもできる有利がある。
【0019】
研磨用組成物のpHの値は6以下である必要がある。pHが6を超える場合には、研磨用組成物を用いて窒化ケイ素を高速度で研磨することは困難である。研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度のさらなる向上という点からは、研磨用組成物のpHの値は5以下であることが好ましく、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4以下である。
【0020】
研磨用組成物のpHの値はまた、1以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上、特に好ましくは2.5以上である。研磨用組成物のpHが高くなるにつれて、研磨用組成物による多結晶シリコンの研磨速度に対する窒化ケイ素の研磨速度の比が高くなる、すなわち多結晶シリコンに対して窒化ケイ素をより優先的に研磨することができる有利がある。
【0021】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整するのにpH調整剤を使用してもよい。使用されるpH調整剤は、無機酸又は有機酸であってもよいし、あるいはキレート剤であってもよい。
【0022】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸及びリン酸が挙げられる。中でも好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸である。
【0023】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2−フランカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、3−フランカルボン酸、2−テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸及びフェノキシ酢酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸及びイセチオン酸等の有機硫酸を使用してもよい。中でも好ましいのは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸及び酒石酸のようなジカルボン酸、並びにクエン酸のようなトリカルボン酸である。
【0024】
無機酸又は有機酸の代わりにあるいは無機酸又は有機酸と組み合わせて、無機酸又は有機酸のアンモニウム塩やアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、又は弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0025】
pH調整剤として使用できるキレート剤の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、イミノ二酢酸、アセトアミドイミノ二酢酸、ニトリロ三プロパン酸、ニトリロ三メチルホスホン酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸及びエチレンジアミン四酢酸が挙げられる。
【0026】
研磨用組成物は、窒化ケイ素を高速度で研磨することができる一方、多結晶シリコンについては高速度で研磨しないものであってもよい。窒化ケイ素だけでなく多結晶シリコンも含んだ研磨対象物の表面を研磨する用途で研磨用組成物を使用する場合にはそのような性能が求められることがある。この場合、多結晶シリコンの研磨速度に対する窒化ケイ素の研磨速度の比は2以上であることが好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは8以上である。
【0027】
本実施形態によれば以下の利点が得られる。
・本実施形態の研磨用組成物は、スルホン酸やカルボン酸等の有機酸を固定化したコロイダルシリカを含有し、pHが6以下である。pH6以下のもとでは、有機酸を固定化したコロイダルシリカのゼータ電位はマイナスである。その一方、同じpH6以下のもとで窒化ケイ素のゼータ電位はプラスである。そのため、研磨用組成物のpHが6以下であれば、研磨用組成物中のコロイダルシリカが窒化ケイ素に対して電気的に反発することがない。よって、この研磨用組成物によれば、窒化ケイ素を高速度で研磨することができる。
【0028】
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均一次粒子径が5nm以上である場合、さらに言えば7nm以上又は10nm以上である場合には、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度をさらに向上させることができる。
【0029】
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均一次粒子径が100nm以下である場合、さらに言えば90nm以下又は80nm以下である場合には、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチが生じるのを良好に抑えることができる。
【0030】
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均二次粒子径が10nm以上である場合、さらに言えば20nm以上又は30nm以上である場合には、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度をさらに向上させることができる。
【0031】
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均二次粒子径が150nm以下である場合、さらに言えば120nm以下又は100nm以下である場合には、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチが生じるのを良好に抑えることができる。
【0032】
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均会合度が1.2以上である場合、さらに言えば1.5以上である場合には、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度をさらに向上させることができる。
【0033】
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの形状が非球形である場合には、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度をさらに向上させることができる。
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均会合度が4.0以下である場合、さらに言えば3.0以下又は2.5以下である場合には、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に欠陥が生じたり表面粗さが増大したりするのを良好に抑えることができる。
【0034】
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量が0.05質量%以上である場合、さらに言えば0.1質量%以上又は1質量%以上である場合には、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度をさらに向上させることができる。
【0035】
・研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量が20質量%以下である場合、さらに言えば15質量%以下又は10質量%以下である場合には、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、コロイダルシリカの凝集が起こるのを抑えることもできる。
【0036】
・研磨用組成物のpHの値が5以下である場合、さらに言えば4.5以下又は4以下である場合には、研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度をさらに向上させることができる。
【0037】
・研磨用組成物のpHの値が1以上である場合、さらに言えば1.5以上、2以上又は2.5以上である場合には、研磨用組成物による多結晶シリコンの研磨速度に対する窒化ケイ素の研磨速度の比を高くすることができる。
【0038】
・研磨用組成物による多結晶シリコンの研磨速度に対する窒化ケイ素の研磨速度の比が2以上である場合、さらに言えば4以上、6以上又は8以上である場合には、窒化ケイ素及び多結晶シリコンを含んだ研磨対象物の表面を研磨する用途で研磨用組成物を使用したとき、多結晶シリコンに対して窒化ケイ素をより優先的に研磨することができる。
【0039】
前記実施形態は次のように変更してもよい。
・前記実施形態の研磨用組成物は、有機酸を固定化したコロイダルシリカに加えて別の砥粒をさらに含有してもよい。
【0040】
・前記実施形態の研磨用組成物は、水溶性高分子をさらに含有してもよい。水溶性高分子は、コロイダルシリカの表面又は研磨対象物の表面に吸着して研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度をコントロールすることが可能であることに加え、研磨中に生じる不溶性の成分を研磨用組成物中で安定化する働きも有する。使用できる水溶性高分子の例としては、ポリオキシアルキレン鎖を有する化合物、より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸、及びポリオキシアルキレン鎖を有するシリコーンオイルが挙げられる。中でも好ましいのは、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールである。
【0041】
・前記実施形態の研磨用組成物が水溶性高分子を含有する場合、研磨用組成物中の水溶性高分子の含有量は0.001g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.005g/L以上、さらに好ましくは0.01g/L以上である。水溶性高分子の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による多結晶シリコンの研磨速度に対する窒化ケイ素の研磨速度の比が高くなる、すなわち多結晶シリコンに対して窒化ケイ素をより優先的に研磨することができる有利がある。
【0042】
・前記実施形態の研磨用組成物が水溶性高分子を含有する場合、研磨用組成物中の水溶性高分子の含有量は10g/L以下であることが好ましく、より好ましくは5g/L以下、さらに好ましくは1g/L以下である。水溶性高分子の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物による多結晶シリコンの研磨速度が向上する有利がある。
【0043】
・前記実施形態の研磨用組成物は、過酸化水素等の酸化剤をさらに含有してもよい。
・前記実施形態の研磨用組成物は、防腐剤や防カビ剤のような公知の添加剤を必要に応じてさらに含有してもよい。防腐剤及び防カビ剤の具体例としては、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類及びフェノキシエタノールが挙げられる。
【0044】
・前記実施形態の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。
・前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0045】
・前記実施形態の研磨用組成物は、窒化ケイ素を研磨する以外の用途で使用されてもよい。
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0046】
実施例1〜14及び比較例1〜4では、コロイダルシリカを水に混合し、適宜pH調整剤を加えることにより研磨用組成物を調製した。比較例5では、pH調整剤を使ってpH2に調整した水を研磨用組成物として調製した。各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカ及びpH調整剤の詳細、並びに各研磨用組成物のpHを測定した結果を表1に示す。
【0047】
なお、表1の“コロイダルシリカ”欄中、“A”はスルホン酸を固定化したコロイダルシリカを表し、“B”は有機酸が固定化されていない通常のコロイダルシリカを表す。いずれの例で使用したコロイダルシリカも平均会合度は2であった。
【0048】
各例の研磨用組成物を用いて、直径200mmの窒化ケイ素膜ブランケットウェーハ及びポリシリコン膜ブランケットウェーハの表面を、表2に記載の研磨条件で60秒間研磨したときの研磨速度を表1の“研磨速度”欄に示す。研磨速度の値は、大日本スクリーン製造株式会社の光干渉式膜厚測定装置“ラムダエースVM−2030”を用いて測定される研磨前後のウェーハの厚みの差を研磨時間で除することにより求めた。また、こうして求めた各例の研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度を同じ研磨用組成物による多結晶シリコンの研磨速度で除して得られる値を表1の“窒化ケイ素の研磨速度/多結晶シリコンの研磨速度”欄に示す。
【0050】
【表2】
表1に示すように、実施例1〜14の研磨用組成物を使用した場合にはいずれも、30nm/分を超える研磨速度で窒化ケイ素を研磨することができた。それに対し、有機酸を固定化したコロイダルシリカを含有していない比較例1〜3の研磨用組成物の場合、及びスルホン酸を固定化したコロイダルシリカを含有しているもののpHが6を上回る比較例4の研磨用組成物の場合には、窒化ケイ素の研磨速度に関して得られた値は低かった。また、コロイダルシリカを含有していない比較例5の研磨用組成物の場合には、窒化ケイ素を全く研磨することができなかった。
【0051】
次に、上記した実施形態、変更例及び実施例より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・前記研磨用組成物において、前記有機酸を固定化したコロイダルシリカは、チオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後にチオール基を酸化することにより得られる、スルホン酸を固定化したコロイダルシリカである。