特許第6028346号(P6028346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028346
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】発光印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20161107BHJP
   B42D 25/387 20140101ALI20161107BHJP
【FI】
   B41M3/14
   B42D15/10 387
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-55696(P2012-55696)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-188910(P2013-188910A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
(72)【発明者】
【氏名】藤井 里絵
【審査官】 藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−143669(JP,A)
【文献】 特開2011−110745(JP,A)
【文献】 特開2001−088411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/00−25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に、前記基材とは異なる色の印刷画像を備え、
前記印刷画像は、情報部と背景部とから成り、
前記情報部は、紫外線発光能を有した第一の発光色で発光し、前記第一の発光色と補色の物体色を有する第一のインキで形成された情報要素が一定のピッチで第一の方向に複数配置されて第一の有意情報を構成して成り、
前記背景部は、紫外線発光能を有さないか、又は、前記第一の発光色と異なる第二の発光色で発光する紫外線発光能を有した第二のインキで形成された潜像要素が前記一定のピッチで前記第一の方向に複数配置されて第二の有意情報を構成する潜像要素群と、前記第一のインキで形成されたカモフラージュ要素が前記一定のピッチで前記第一の方向に複数配置されたカモフラージュ要素群とから成り、
前記潜像要素群と前記カモフラージュ要素群は、可視光下において等色であり、
前記情報要素、前記潜像要素及び前記カモフラージュ要素は、重なり合うことなく配置されて成り、
前記印刷画像は、各領域の最大面積率と最小面積率との差が50%を超えない範囲であり、かつ、前記背景部の面積率は、前記情報部の面積率以上から成り、
可視光下で観察した場合には、前記第一の有意情報を構成している領域と、それ以外の領域との面積率の差によって、前記第一の有意情報が視認でき、紫外線を照射して観察した場合には、前記情報要素と前記カモフラージュ要素が前記第一の発光色で発光することで、前記第一の発光色と前記物体色の補色の関係により前記情報要素と前記カモフラージュ要素が白色に視認されて基材の色に近づき、前記第一の有意情報が消失し、前記潜像要素が発光しないか、あるいは前記第二の発光色で発光することで、前記第二の有意情報が視認でき、観察条件の違いによって画像がチェンジすることを特徴とする発光印刷物。
【請求項2】
前記情報要素、前記潜像要素及び前記カモフラージュ要素は、画線及び画素のいずれか又はそれらの組合せから成ることを特徴とする請求項1記載の発光印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野において、可視光下で観察できる画像が、紫外線を照射した場合に全く異なる画像に変化する発光印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光体、燐光体、蓄光体等に代表される、いわゆる紫外線励起発光体は、紫外線を照射することで励起して発光する特性を有している。この発光という現象は、容易に目視確認可能であるとともに、コピー機による複写物や家庭用プリンターによる出力物では再現が困難であるため、銀行券や諸証券等のセキュリティ印刷物に対して、真正品と偽造品を区別するための真偽判別要素の一つとして、従来から広く用いられてきた。
【0003】
発光体印刷の真偽判別技術としての優位性は、かつては限られた専門業者や特殊印刷に従事する者しか発光体を入手できないという材料自体の入手難易度に依存している面があった。しかし、昨今、発光体は雑貨量販店等において比較的安価で販売されており、特殊印刷に従事することのない一般人であっても様々な種類の発光体を容易に入手することができる状況になっているため、紫外線を照射することで発光画像が出現するだけの効果しか有さない、単純な発光画像を形成する技術の偽造防止技術としての価値は大きく低下してきている。
【0004】
これらの事情を鑑み、紫外線を照射した場合に単に発光画像が出現する、従来のような単純な発光画像ではなく、複雑な画像構成と特殊な機能性材料を用い、よりユニークな視覚効果を実現した発光画像やその形成方法が開示されている。それらの技術の一例を示す。
【0005】
既に、本出願人は曲線の集合模様を、潜像を施さない部分を連続線、潜像を施した部分を分岐した分断線で構成し、それぞれの部分の面積率が等しく、有色蛍光インキで印刷することを特徴とする複写防止模様を有する印刷物であって、可視光下で観察した場合には単なる曲線の集合模様として認識されるが、紫外線を照射することで、潜像が周辺よりも強く発光することを特徴とする印刷物を出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、本出願人は、条件によって可視色が変化する機能性画像表示材料を用いることで異なる画像を出現させる画像表示体であって、一つの第1の領域と、第1の領域に隣接する一つの第2の領域とが複数組配置され、各々の第2の領域の周囲が、複数の第1の領域により囲まれ、第1の領域には、第1の画像を構成する第1のドット領域と、第1のドット領域以外の第1の背景領域とを有し、第2の領域には、第2の画像を構成する第2のドット領域と、第2のドット領域以外の第2の背景領域とを有し、第1の背景領域と第2の背景領域には機能性画像表示材料を用い、第1のドット領域には、機能性画像表示材料が備えた第1の色と等色の画像表示材料を用いたことを特徴とし、通常光の下で、肉眼で見える画像と、特定の視認条件のもと(紫外線光照射時を含む)で視認できる画像とが異なる、すなわち通常光と紫外線光照射時に観察される画像が、全く相関がなく異なる画像のチェンジ効果を有する画像表示体を出願している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4085175号公報
【特許文献2】特許第4844891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術は、1種類の有色蛍光インキで形成されているにもかかわらず、潜像だけを極めて微細な画素で構成することによって、目視上、単なる曲線の集合として認識される画像の中で、潜像が周囲より強く発光するという優れた特徴を有している。しかしながら、潜像は、印刷によって再現可能な大きさの限界に近い微細な画素で構成するため、ドットゲインの制御が難しく、ドットゲインの発生の度合いによっては発光画像が所望の効果を発しない場合があり、製造難易度が高いという問題があった。また、紫外線の照射によって、曲線の集合の中に潜像画像が出現するものの、曲線の集合自体が不可視となる効果はなく、一つの画像から異なる画像へと画像自体が変化するような画像のチェンジ効果は有さず、変化が乏しいという問題があった。
【0009】
特許文献2に記載の技術は、通常光下でAという画像が見えていたとすると、紫外線を照射した場合にはAが消失してBという画像が出現する、いわゆる画像のチェンジ効果を有する技術であって、従来の技術と比較すると、画像の変化に優れ、発光画像の視認性を高く保つことができるという特徴を有している。しかしながら、画像のチェンジ効果を高く保つためには、三種類のインキ(一つの機能性表示材料と二つの着色インキ)を必要とし、加えて、三種類のインキによって構成される三つの画像が、お互いに重なり合う領域がなく完全に隣り合う、いわゆる「毛抜き合わせ」と呼ばれる、最も難易度の高い刷り合わせを要求することから、安定して連続製造するには極めて高い技術が必要であった。また、紫外線照射時にAの画像を消失させてBの画像を出現させるためには、可視光下で非等色であった二つの領域の色彩を、発光時には等色に変化させる必要があった。反射色は異なるが、発光時の色彩が等しいペアインキを作製するためには、発光体とインキに関する専門的な知識が必要であり、仮に作製できたとしても、発光している印刷物を観察すると、発光色か、発光強度の違いから、観察者が感知できる程度には色彩が異なっているのが常であった。以上のように、特許文献2に記載の技術は、インキ製造、印刷物製造の難易度が極めて高いという問題があった。
【0010】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、製造の難易度が低く、かつ、安定した連続製造が可能で、紫外線照射時に出現する発光画像に可視画像が反映されてしまうことがなく、可視光下で観察される画像と、紫外線を照射した場合に観察される画像とが、全く相関のない異なる画像であることを特徴とする、画像のチェンジ効果に優れた発光印刷物に関わる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明における発光印刷物は、基材上の少なくとも一部に、基材とは異なる色の印刷画像を備え、印刷画像は、情報部と背景部とから成り、
情報部は、紫外線発光能を有した第一の発光色で発光する第一のインキで形成された情報要素が一定のピッチで第一の方向に複数配置されて第一の有意情報を構成して成り、
背景部は、紫外線発光能を有さないか、又は、第一の発光色と異なる第二の発光色で発光する紫外線発光能を有した第二のインキで形成された潜像要素が一定のピッチで第一の方向に複数配置されて第二の有意情報を構成する潜像要素群と、第一のインキで形成されたカモフラージュ要素が一定のピッチで第一の方向に複数配置されたカモフラージュ要素群とから成り、
潜像要素群とカモフラージュ要素群は、可視光下で等色であり、
情報要素、潜像要素及びカモフラージュ要素は、重なり合うことなく配置されて成り、
印刷画像は、所定の領域の最大面積率と最小面積率との差が50%を超えない範囲であり、かつ、背景部の面積率は、情報部の面積率以上から成り、
可視光下で観察した場合には、第一の有意情報を構成している領域と、それ以外の領域との面積率の差によって、第一の有意情報が視認でき、紫外線を照射して観察した場合には、情報要素とカモフラージュ要素が第一の発光色で発光することで、第一の有意情報が消失し、潜像要素が発光しないか、あるいは第二の発光色で発光することで、第二の有意情報が視認でき、観察条件の違いによって画像がチェンジすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明における発光印刷物は、情報要素、潜像要素及びカモフラージュ要素が、画線及び画素のいずれか又はそれらの組合せから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発光印刷物においては、印刷画像中に可視光下で視認できる画像が、紫外線を照射した場合に全く相関のない異なる画像に変化する、いわゆる画像のチェンジ効果を有する。このため、従来技術のように紫外線照射時に出現する発光画像に可視画像が反映されてしまうことがなく、可視画像及び発光画像のいずれも視認性が高いため、真偽判別性に優れる。
【0014】
本発明の発光印刷物において、印刷画像を形成するペアインキは、可視光下で少なくとも同じ色相であって、発光時には単に非等色であればよい。よって、最も簡単なペアインキの作製方法としては、特定色の着色インキを選択して二つに分け、片方には発光顔料を入れ、片方には発光顔料を入れなければよい。発光顔料の多くは無色透明であることから、前記のような方法で印刷画像を形成する上で必要なペアインキは容易に作製できる。また、それぞれのインキで形成する二つの画像は一定の刷り合わせ精度を要求するものの、従来技術のような厳密な毛抜き合わせまでは必要とせず、また、ドットゲインの厳重な管理をすることなくチェンジング効果を奏することが可能であるため、製造の難易度が低く、安定した連続製造が可能である。
【0015】
以上の手法で形成した発光印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることからコストパフォーマンスに優れ、また最新のデジタル機器を用いたとしても発光画像の再現は不可能であることから、偽造防止効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明における発光印刷物を示す。
図2】本発明における発光印刷物の構成の概要を示す。
図3】(a)は潜像部を示し、(b)は情報部を示す。
図4】(a)は潜像要素群を示し、(b)はカモフラージュ要素群を示す。
図5】(a)は第二のインキで構成する画像を示し、(b)は第一のインキで構成する画像を示す。
図6】(a)は本発明における発光印刷物を可視光下で観察した場合に、観察者に視認できる画像を示し、(b)は本発明における発光印刷物に紫外線を照射した場合に、観察者に視認できる画像を示す。
図7】は本発明の発光印刷物を画素で形成した例を示し、(a)は背景部を示し、(b)は情報部を示す。
図8】本発明の発光印刷物を画素で形成した例を示し、(a)は、本発明の潜像要素群を示し、(b)は、カモフラージュ要素群を示す。
図9】各要素における画線や画素の組合せの例を示す。
図10】本発明の一実施例における発光印刷物を示す。
図11】(a)は潜像部を示し、(b)は情報部を示す。
図12】(a)は潜像要素群を示し、(b)はカモフラージュ要素群を示す。
図13】(a)は第二のインキで構成する画像を示し、(b)は第一のインキで構成する画像を示す。
図14】(a)は、本発明の一実施例における発光印刷物を可視光下で観察した場合に観察者に視認できる画像を示し、(b)は、本発明における発光印刷物に紫外線を照射した場合に、観察者に視認できる画像を示す。
図15】(a)は本発明の一実施例における発光印刷物を可視光下で観察した場合に観察者に視認できる画像を示し、(b)は本発明における発光印刷物に紫外線を照射した場合に観察者に視認できる画像を示し、(c)は本発明における発光印刷物を透過光で観察した場合に視認できる画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0018】
図1に、本発明における発光印刷物(1)を示す。発光印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材と異なる色を有する印刷画像(3)が形成されて成る。基材(2)は印刷画像(3)が形成できれば、紙、プラスチック、金属等であってもよく、その材質は問わない。印刷画像(3)は、透明以外の基材と異なる色であればよく、基材(2)の中に収まる限り、大きさにも制限はない。
【0019】
まず、本発明の印刷画像(3)の構成の概要を図2に示す。印刷画像(3)は、一定の濃度で形成された背景部(4)と、第一の有意情報を表した情報部(5)とを有し、背景部(4)は、第二の有意情報を表した潜像要素群(6)と、それと対を成し潜像要素群(6)をカモフラージュするカモフラージュ要素群(7)から成る。以上が、本発明の印刷画像(3)の構成の概要である。
【0020】
続いて、各画像の具体的な構成について説明する。図3に示すように、印刷画像(3)は、背景部(4)と情報部(5)から構成されて成る。本実施の形態でいう第一の有意情報とは「七宝」画像を指す。背景部(4)は、図3(a)に示すように濃淡差のない一定の濃度で構成された画像を表し、一方の情報部(5)は、図3(b)に示すように第一の有意情報を表して成る。なお、説明の便宜上、印刷画像(3)の中には、第一の有意情報である「七宝」を表した画像及び第二の有意情報であるアルファベットの「NPB」の文字が視認できるが、通常の可視光下での観察においては「NPB」の文字は不可視である。また、効果については後述するが、「NPB」の文字は紫外線を照射した場合にのみ視認できる。
【0021】
本発明における「可視光下の観察」とは、発光印刷物(1)に波長が400nmから700nmの可視光が入射し、発光印刷物(1)から生じる反射光を観察者が観察している状況を指し、より厳密には、正反射光よりも拡散反射光が相対的に多い観察角度に観察者の視点がある状況を指す。また、一方の「紫外線を照射して観察」とは、発光印刷物(1)に200nmから400nmまでの波長帯に含まれる紫外線を照射し、観察者が、発光印刷物(1)から発せられる発光を観察している状況を指す。
【0022】
また、後で詳細に説明する背景部(4)及び情報部(5)は、それぞれ複数の要素によって形成されるが、本発明における要素とは、画線及び画素のいずれか又はそれらの組合せによって構成される。
【0023】
加えて、本明細書で言う「画線」とは、印刷画像を形成する最小単位である印刷網点を特定の方向に一定の距離連続して配置したものであり、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線を言う。一方、本明細書で言う「画素」とは、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を一塊にしたものであり、円や三角形、四角形を含む多角形、星型等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等も含まれる。
【0024】
以下、本実施の形態においては、印刷画像(3)を形成する全ての要素が、画線によって形成されている場合について説明する。
【0025】
図3(a)に示す背景部(4)は、画線幅W1の背景要素(8)を規則的に一定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に複数配置することで一定の濃度を形成して成る。また、図3(b)に示す情報部(5)は、画線幅W2の情報要素(9)を規則的に一定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に複数配置することで第一の有意情報である「七宝」の画像を形成して成る。なお、本実施の形態においては、背景要素(8)及び情報要素(9)は全て同じ幅で形成した例で説明しているが、いずれの要素の画線幅も同じ幅で形成する必要はない。
【0026】
本発明の印刷画像(3)は、一定の階調(濃度)を有する背景部(4)の領域の中に、情報部(5)の領域が重なることで、一定の濃度で形成された背景部(4)中に濃淡差が生じ、情報部(5)が表す第一の有意情報である「七宝」の画像が印刷画像(3)の中に視認できる形態で構成されている。このとき、第一の有意情報である「七宝」を構成している領域は、背景要素(8)のみで形成され、「七宝」以外の領域は、背景要素(8)と情報要素(9)とから形成されている。なお、背景部(4)の領域の中に、情報部(5)の領域が重なるとは、それぞれが配置される場所が重なるという意味であって、それぞれを構成する要素である背景要素(8)と情報要素(9)とは重なり合わない。本発明において、背景要素(8)の画線幅(W1)と、情報要素(9)の画線幅(W2)とは、互いが重なり合わないという条件を満たせば、同じ画線幅でもよく、異なった画線幅でもよい。
【0027】
印刷画像(3)は一定の濃淡の範囲で形成する必要があり、具体的には印刷画像(3)の第一の有意情報である「七宝」以外の領域の面積率と第一の有意情報である「七宝」を構成している領域の面積率の差異が50%を超えない範囲で画像を形成する必要がある。仮に、印刷画像の第一の有意情報である「七宝」以外の領域の面積率と第一の有意情報である「七宝」を構成している領域の面積率の差異が50%を越える場合には、印刷画像中の濃淡差が大きくなりすぎて、UV光を照射した場合に第一の有意情報が消失する効果が失われ、第二の有意情報と第一の有意情報が混ざり合って視認できてしまうことから、本発明の特徴である画像のチェンジ効果が得られなくなる。よって、このような構成は避けなければならない。
【0028】
以上の構成を満たした上で、情報部(5)と背景部(4)とは、それぞれ適切な面積率の範囲で構成することが望ましい。情報部(5)は10%以上50%以下の面積率の範囲で構成することが望ましい。特に情報部(5)の面積率が10%より低い場合、可視光下の観察で視認できる第一の有意情報の視認性が低下するため望ましくなく、情報部(5)の面積率が50%を超える場合、紫外線照射時に第一の有意情報が消失しきらないために望ましくない。可視光下の観察で容易に第一の有意情報が視認でき、かつ、紫外線照射時に第一の有意情報を消失させるための情報部の適切な面積率は、用いるインキの物体色の色相と色濃度、発光の色相と発光強度等に応じて変化するために、インキが異なれば適宜調整し、直す必要がある。また、背景部(4)の面積率は、紫外線照射時に第一の有意情報を消失させる効果を高めるために、情報部(5)の面積率以上で構成する必要がある。以上のことより、印刷画像(3)を構成している各要素の所定の領域の最大面積率と最小面積率の差が10%以上50%以下で、本発明の特徴である画像のチェンジ効果を効果的に得られる。
【0029】
なお、説明の便宜上、本明細書中の図の全てにおいて背景要素(8)は、横線が入った画線で表現し、情報要素(9)は、縦線が入った画線で表現しているが、これらの表示は、それぞれの画線の構成を区別しやすくするために行っているものであって、実際の各画線が横線や縦線で形成されているわけではない。実際には各画線内部や画素内部は塗りつぶされて成る。
【0030】
図4に、背景部(4)を構成している二つの要素群を示す。二つの要素群のうちの一つは、図4(a)に示す潜像要素群(6)であり、他の一つは、図4(b)に示すカモフラージュ要素群(7)であって、これらの要素群は、画像の形成に用いるインキの違いによって区分けされている。
【0031】
潜像要素群(6)は、一定の画線幅(W1)の潜像要素(10)が、第一の方向(図中S1方向)にピッチ(P1)で規則的に配置されることで、第二の有意情報を形成して成る。なお、本実施の形態における第二の有意情報とは、アルファベットの「NPB」の文字である。
【0032】
一方、カモフラージュ要素群(7)は、潜像要素(10)と同じ画線幅(W1)のカモフラージュ要素(11)が、同じく第一の方向(図中S1方向)にピッチ(P1)で規則的に配置されて、背景部(4)中で潜像要素群(6)がネガポジ反転した画像を形成している。つまり、前述した背景要素(8)は、潜像要素(10)とカモフラージュ要素(11)とに区分けされて成り、潜像要素(10)とカモフラージュ要素(11)は、第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で規則的に配置されていればよく、位相が異なっていても問題ない。ただし、隠蔽性を考慮すると、同じ位相が望ましい。
【0033】
潜像要素群(6)とカモフラージュ要素群(7)は、可視光下の観察においては目視上等色であり、潜像要素群(6)が形成している第二の有意情報は、可視光下の観察においてカモフラージュ要素群(7)によってカモフラージュされ、背景部(4)の中に隠蔽される構成となっている。なお、隠蔽性を考慮すると、潜像要素群(6)がカモフラージュ要素群(7)によって囲まれていることが望ましい。
【0034】
図5に、本発明における発光印刷物を形成するのに用いる二つの画像、すなわち第一のインキで形成する画像及び第二のインキで形成する画像を示す。図5(a)に示すのは、第二のインキで形成する画像であり、潜像要素群(6)のみである。図5(b)に示すのは、第一のインキで形成する画像(12)であり、情報部(5)及びカモフラージュ要素群(7)が組み合わさった画像である。
【0035】
ここで、本発明で用いる第一のインキと第二のインキについて説明する。第一のインキと第二のインキは、可視光下で少なくとも物体色の色相が同じである必要がある。ただし、本実施の形態では、潜像要素群(6)とカモフラージュ要素群(7)が同じ面積率であることから、第一のインキと第二のインキは色相だけでなく、色彩自体が同じである必要があり、この二つのインキは目視上等色である必要がある。
【0036】
二つのインキが等色でない場合は、同じ面積率で形成された潜像要素群(6)とカモフラージュ要素群(7)は等色とならず、可視光下の観察において、背景部(4)の中に存在する潜像要素群(6)を完全に隠蔽することができない。
【0037】
なお、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。また、本発明における「等色」とは、観察者が色彩を有する二つの観察対象を特に注意をせずに一瞥した場合に、二つの観察対象が異なった色彩ではなく、同じ色彩であると感じる状態のこととする。例えば、色差ΔEが6以下の値とする。また、本発明でいう「色相が同じ」とは、二つの色において赤、青、黄といった色の様相が一致し、可視光領域の波長の強弱の分布が二つの色において相関を有することである。
【0038】
本発明の第一のインキは、紫外線を照射することで発光する、発光能を有する必要がある。発光の形態は蛍光、燐光、蓄光のいずれであってもよく、発光波長は可視領域でも赤外域のような不可視領域でも問題ない。ただし、認証性を考慮すると、可視領域に発光波長を有するものが望ましい。また、可視光下で第一の有意情報を視認できるために、第一のインキは、透明以外の基材と異なる色彩の物体色を有する必要がある。第一のインキの物体色と発光色は特に制限するものではないが、インキの色濃度(物体色の色濃度)が濃く、基材が白か淡い色である場合に、第一のインキの物体色と発光色を補色か、補色に近い関係にすることが望ましい。これは、第一のインキの物体色と発光色を補色か、補色に近い関係にすることで発光色を白色として、基材の色に近づけることで第一の有意情報の消失効果を高めるためである。
【0039】
第二のインキの物体色は、第一のインキと少なくとも色相が同じであって、かつ、第一のインキと発光色が異なるか、あるいは発光しない必要がある。仮に、第一のインキが赤色で発光する場合、第二のインキは発光しないか、赤色以外の色で発光する必要がある。これらは、第二の有意情報を可視光下で隠蔽し、かつ、紫外線照射時に第二の有意情報を可視化させるために必要と成る特性である。
【0040】
紫外線照射時に第一の有意情報を消失させるためには、情報部(5)の面積率と第一のインキの色(物体色)の濃さ、加えて第一のインキの発光強度をバランスさせて設計する必要がある。一つの目安としては、色を濃くした場合には、強く発光するようにインキを設計する必要があり、色を淡くした場合には、弱く発光するようにインキを設計する必要がある。また、情報部(5)の面積率は10%から50%の範囲の中でも、できるだけ小さな面積率で設計した方が、紫外線照射時の第一の有意情報の消失効果は相対的に高くなる傾向にあり、インキの設計も容易になる。仮に、情報部(5)を小さな面積率で設計した場合には、通常の観察条件下で視認できる第一の有意情報の視認性を確保するためにインキはやや濃く設計する必要があり、紫外線照射時の第一の有意情報の消失効果を高めるために発光強度はインキの色濃度に合わせて強くなるよう設計する必要がある。インキの設計はこれらの要素が複雑に関係することから、その都度、最適な構成を見出す必要がある。
【0041】
以上のような性能を備えた第一のインキを用いて図5(b)の情報部(5)とカモフラージュ要素群(7)とを含んだ画像(12)を印刷し、また第二のインキで図5(a)の潜像要素群(6)を印刷する。印刷方式は、オフセット印刷で十分な効果を発揮するが、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷、スクリーン印刷等で形成してもよい。
【0042】
本発明の効果について、図6を用いて説明する。発光印刷物(1)を可視光下で観察した場合、より具体的には、光源(13)と観察者の視点(14a)が、図6(a)に示すような位置関係で観察した場合、観察者(14a)には、情報部(5)を形成している第一の有意味情報である「七宝」の画像が視認できる。
【0043】
また、発光印刷物(1)に紫外線を照射した場合、より具体的には紫外線光源(15)と観察者の視点(14b)が、図6(b)に示すような位置関係で観察した場合、印刷画像(3)のうち情報部(5)とカモフラージュ要素群(7)が適切な強度で発光することで第一の有意情報が不可視となり、潜像要素群(6)を形成している第二の有意情報であるアルファベットの「NPB」の文字が視認できる。以上が本発明の発光印刷物(1)の効果である。
【0044】
続いて、紫外線照射の有無で、印刷画像(3)中に視認できる画像が異なる原理について説明する。可視光下での観察において、第二の有意情報を表した潜像要素群(6)と、これと対を成すカモフラージュ要素群(7)とは目視上等色であることから、潜像要素群(6)は、カモフラージュ要素群(7)によって背景部(4)中に隠蔽されて不可視である一方、第一の有意情報を表した情報部(5)を構成する情報要素(9)は、背景部(4)を構成する背景要素(8)と重なり合わないよう配置されていることから、面積率の違いによって印刷画像(3)中に濃淡差が生じる。よって、観察者には第二の有意情報は視認できず、第一の有意味情報である「七宝」の画像が視認できる。
【0045】
一方、紫外線を照射した場合、第一のインキが適切な強度で発光することで、第一のインキの色濃度が淡く変化して、情報部(5)とカモフラージュ要素群(7)とのコントラストが小さくなって不可視となり、一方の第二のインキで形成された潜像要素群(6)は第一のインキと異なる色相で発光するか、あるいは発光しないことで潜像要素群(6)以外の領域と強いコントラストを生じる。よって、紫外線を照射した場合には、第一の有意情報が視認できず、第二の有意情報であるアルファベットの「NPB」の文字が視認できる。
【0046】
以上の原理によって、通常の可視光下での観察と紫外線を照射した場合の観察において、発光印刷物(1)の印刷画像(3)中に視認できる画像が、第一の有意情報から第二の有意情報へと変化する効果が生じる。
【0047】
本発明の発光印刷物(1)を構成する背景部(4)及び情報部(5)を構成する各要素のピッチ(P1)は、印刷の再現性及び画像の解像度を考慮して、0.1mmから5mmが望ましい。
【0048】
ここまで、情報要素(9)、潜像要素(10)及びカモフラージュ要素(11)が全て画線である例で説明したが、全ての要素を画素で形成してもよい。例として、図7に、本発明の発光印刷物の印刷画像(3´)を全て画素で形成した場合の例を示す。
【0049】
この場合、背景部(4´)は、一定の画素幅(R1)及び、一定の画素高さ(H1)の画素を一定のピッチ(P2)で直線状に複数配置し構成される背景要素(8´)が、第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で規則的に複数配置されて成り、情報部(5´)は、一定の画素幅(R2)及び、一定の画素高さ(H2)の画素を一定のピッチ(P2)で直線状に複数配置し構成される情報要素(9´)が、第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で規則的に複数配置されて成り、背景要素(8´)と情報要素(9´)は、重なり合わずに隣接して印刷画像(3´)を形成して成る。なお、背景要素(8´)を構成している複数の画素は、ランダムに配列されるのではなく、図に示すように規則的に配列されている。
【0050】
また、画素の高さ(H1)に関しては、画素幅(R1)と同一でもよく違ってもよく、画素の高さ(H2)に関しては、画素幅(R2)と同一でもよく違ってもよい。本発明における「S1方向」とは、背景要素(8´)及び情報要素(9´)が画素の場合、図面中における上下方向のことであり、図に示すように画素が規則的に配置されている状態である。
【0051】
背景部(4´)は、図8(a)に示す潜像要素群(6´)とカモフラージュ要素群(7´)によって成り、潜像要素群(6´)は、潜像要素(10´)から成り、カモフラージュ要素群(7´)は、カモフラージュ要素(11´)から成る。以上のような画素構成を用いても、本発明の発光印刷物を形成することができる。
【0052】
以上のように、情報要素(9)、潜像要素(10)及びカモフラージュ要素(11)は、画線、画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組み合わせで形成される。つまり、図9(a)に示すように、情報要素(9)及び潜像要素(10)を画素で形成し、カモフラージュ要素(11)を画線で形成するなど、要素ごとの単位で画線と画素を組み合わせてもよい。また、図9(b)に示すように、情報要素(9)、潜像要素(10)及びカモフラージュ要素(11)において、それぞれの各要素同士で画線と画素を組み合わせてもよい。また、図9(c)に示すように、情報要素(9)、潜像要素(10)及びカモフラージュ要素(11)において、それぞれの各要素の中で画線と画素を組み合わせてもよい。
【0053】
また、本実施の形態では潜像要素(10)とカモフラージュ要素(11)とを等しい幅(W1)で形成したが、これに限定されるものではない。潜像要素(10)とカモフラージュ要素(11)の画線幅や画素幅、画素高さ、すなわち二つの要素の面積率は、求める効果に応じてそれぞれ異ならせることも可能である。仮に、潜像要素(10)の画線幅を、カモフラージュ要素の画線幅の2倍の幅で構成することも可能である。このような場合、第一のインキは、第二のインキと同じ色相であって、かつ、2倍の色濃度で設計する必要がある。このような構成を用いることで、面積率が異なっていても、潜像要素群(6)とカモフラージュ要素群(7)を等色にすることができ、本発明の発光印刷物を形成することができる。このような二つの画線幅を意図的に変えた形態は、主として紫外線を照射した場合の第二の有意情報の視認性を向上させたい場合に有効である。
【0054】
また、情報要素(9)の画線幅も必ずしも一定の幅である必要はない。本実施の形態においては、情報部(5)の表す第一の有意情報の「七宝」画像が単純な2値画像であることから、情報要素(9)の画線幅を一定の値としたが、情報部(5)の表す第一の有意情報が、例えば、人の顔や風景のような多階調画像である場合には、画像の濃度に応じて画線幅(W2)の値を変えて形成してもよい。つまり、濃い部分の画線幅は太く、淡い部分の画線幅は細く形成すればよい。また、情報要素(9)の幅や高さは、背景要素(6)と重なり合わない範囲で、かつ、情報部(5)の面積率が10%から50%の範囲に収まるのであれば変化させてもなんら問題はない。
【0055】
また、第一のインキに関しては、浸透成分を含んだ有色浸透インキであってもよく、その場合の形態については、実施例2において説明する。
【0056】
以下、前述の発明を実施するための最良の形態に従って、具体的に作製した発光印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
実施例1は、発光印刷物(1−1)を構成する三つの要素である、情報要素(9−1)、潜像要素(10−1)及びカモフラージュ要素(11−1)を、それぞれ画線によって形成した例である。
【0058】
図10に、本発明における発光印刷物(1−1)を示す。発光印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、淡い赤色を有する印刷画像(3−1)が形成されて成る。基材(2−1)には、一般的な白色上質紙(日本製紙製)を使用した。
【0059】
印刷画像(3−1)は、図11(a)に示す背景部(4−1)と図11(b)に示す情報部(5−1)から構成した。
【0060】
図11(a)に示す背景部(4−1)は、画線幅0.25mmの背景要素(8−1)をピッチ0.40mmでS1方向に規則的に複数配置して一定の濃度で形成した。実施例1における背景部(4−1)の面積率は、約63%である。
【0061】
また、図11(b)に示す情報部(5−1)は、背景要素(8−1)と異なる画線幅0.05mmの情報要素(9−1)をピッチ0.4mmでS1方向に規則的に複数配置することで第一の有意情報である「七宝」の画像を形成した。実施例1における情報部(5−1)の面積率は約13%である。
【0062】
背景要素(8−1)と情報要素(9−1)とは、互いに重なり合わない位置に隣接させて配置して、印刷画像(3−1)中に第一の有意情報である「七宝」の画像を濃淡差によって表現した。
【0063】
図12に、背景部(4−1)を構成している二つの要素群を示す。二つの要素群は、インキの違いによって区分けされる。一つは、図12(a)に示す潜像要素群(6−1)であり、他の一つは、図12(b)に示すカモフラージュ要素群(7−1)である。
【0064】
潜像要素群(6−1)は、画線幅0.25mmの潜像要素(10−1)をS1方向にピッチ0.4mmで規則的に配置し、第二の有意情報であるアルファベットの「NPB」の文字を形成した。一方のカモフラージュ要素群(7−1)は、同じく画線幅0.25mmのカモフラージュ要素(11−1)を同じくS1方向にピッチ0.4mmで規則的に複数配置し、潜像要素群(6−1)と対を成す、潜像要素群(6−1)をネガポジ反転させた画像を形成した。すなわち、前記の背景要素(8−1)とは、潜像要素(10−1)か、あるいはカモフラージュ要素(11−1)のいずれかに区分けされる。
【0065】
図13は、第一のインキで形成した画像及び第二のインキで形成した画像を示す。図13(a)に示すのは、第二のインキで形成した画像であり、潜像要素群(6−1)のみである。図13(b)に示すのは、第一のインキで形成した画像(12−1)であり、情報部(5−1)及びカモフラージュ要素群(7−1)が組み合わさった画像である。
【0066】
第一のインキは、表1に示す配合で作製し、第二のインキは表2に示す配合で作製した。第一のインキ及び第二のインキは、いずれも淡い赤色であり、同じ面積率で基材に印刷した場合には、可視光下の観察において等色に見える特性を有する。また、紫外線を照射した場合には第一のインキに含まれる蛍光顔料が緑色で発光し、インキの物体色の赤色成分と合成されて白味がかった淡い緑色に見える特性を有し、第二のインキは発光しない特性を有する。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
図13(a)に示した潜像要素群(6−1)を、第二のインキを使用してオフセット印刷方式で印刷し、図13(b)に示した画像(12−1)を、第一のインキを使用して、同じくオフセット印刷方式で印刷して本発明の発光印刷物(1−1)を得た。
【0070】
図14に、本発明の発光印刷物(1−1)の効果を示す。図14(a)に示すように、通常の可視光下の観察において、情報部(5−1)が構成する第一の有意情報である「七宝」の画像が淡い赤色で視認でき、図14(b)に示すように、紫外線を照射した場合には、印刷画像(3−1)全体が白味がかった淡い緑色に変化して「七宝」の画像が目視上消失する中で、潜像要素群(6−1)が構成する第二の有意情報であるアルファベットの「NPB」の文字だけが発光せずに視認できた。以上のように、本発明の発光印刷物(1−1)において、可視光下の観察と紫外線を照射した場合の観察とにおいて、それぞれ異なる画像にチェンジする効果を得ることができた。
【実施例2】
【0071】
実施例2は、第一のインキに発光能だけでなく、すかし効果を有した着色浸透インキを用いて発光印刷物(1−2)を形成した例であって、紫外線を照射した場合だけでなく、透過光で観察した場合にも第二の有意情報が視認できる例である。
【0072】
実施例2における画線構成は実施例1で図10から図13に示した構成と同じであり、画線構成の説明は割愛する。異なるのは第一のインキと第二のインキのみである。第一のインキと第二のインキについて以下に説明する。
【0073】
実施例2における第一のインキは、紫外線によって発光する特性を有するだけでなく、印刷した画像が透過光下で透けて見える(非印刷部よりも明るく観察される)効果を有する浸透成分を含む浸透型インキに、色材をわずかに混合することで形成した有色浸透インキであり、淡い青色を有する。第二のインキは第一のインキと等色の淡い青色のインキであり、発光能を有さない。
【0074】
有色浸透インキは、基材に印刷した場合に、反射光下でははっきりと視認できる色彩を有した印刷画像を形成できる一方、透過光下ではその印刷画像は不可視か、ほとんど視認し難い程度の淡い色彩に変化する特徴を有する。簡潔に表現すると「すかすと画像が消える」効果を有したインキである。
【0075】
なお、本明細書でいう浸透成分とは、印刷時に用紙内部へと浸透して印刷領域の透過率を上昇させる働きを成す成分のことを指し、具体的には、セルロースの屈折率(1.49)に近い樹脂やワックス、動植物油等を指す。これらの成分は、印刷した場合に用紙の中に存在するセルロース繊維間の空隙を埋め、主として用紙内部における光の散乱を抑制することで光の透過率を上げる働きを成す。
【0076】
また、本明細書でいう浸透型インキとは、浸透成分を含んだインキであり、一般的にはすかしインキ等と称して販売されているようなインキを指す。このようなインキとしては、T&K TOKA製ベストワン透かしインキ、帝国インキ製ユニマーク、東洋インキ製SMXすかしインキ、合同インキ製E2ニス等が存在する。本発明の有色浸透インキは、これらのインキを用いても作製可能である。
【0077】
実施例2において使用した第一のインキを表3に示す。浸透型インキに青色の透過性着色材料と青色に発光する蛍光顔料を混合することで作製した。また、第二のインキを表4に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
第一のインキを用いて図13(b)の画像(12−1)をオフセット印刷方式で印刷し、第二のインキを用いて図13(a)の潜像要素群(6−1)をオフセット印刷方式で印刷して発光印刷物(1−2)を得た。
【0081】
図15に、本発明の発光印刷物(1−2)の効果を示す。図15(a)に示すように、通常の可視光下の観察において、情報部(5−1)が表す第一の有意情報である「七宝」の画像が淡い青色で視認でき、図15(b)に示すように、紫外線を照射した場合、印刷画像(1−2)全体が青色で発光して「七宝」の画像が目視上消失する中、潜像要素群(6−1)であるアルファベットの「NPB」の文字だけが発光せずに視認できた。また、発光印刷物(1−2)を図15(c)に示すように光に透かして、透過光で観察した場合、第一の有意情報である「七宝」の画像が光を透過することで淡く変化して背景部(4−1)とほぼ同じコントラストとなって不可視となり、対して潜像要素群(6−1)であるアルファベットの「NPB」の文字だけが光を透過せずに暗く出現することで、第二の有意情報が視認できた。
【0082】
以上のように、可視光下の観察と紫外線を照射した場合の観察とにおいて、それぞれ異なる画像にチェンジする効果を得ることができたとともに、透過光下でも可視光下で観察された画像とは異なる画像にチェンジする効果を得ることができた。
【0083】
実施例2の形態においては、印刷物の真偽は印刷物を単に光にかざして透かすだけで判別できるため、紫外線ランプを必要とせず、万人にとって極めて利便性が高い形態であると言える。
【0084】
また、本発明本来の、紫外線を照射した場合の画像のチェンジングの効果も全く損なわれないため、より厳密な確認を要求する場合には紫外線を照射して真偽判別を行うこともできる。実施例2で形成した発光印刷物は真偽判別性に優れ、偽造抵抗力も高い形態であるといえる。
【符号の説明】
【0085】
1、1−1、1−2 発光印刷物
2、2−1 基材
3、3´、3−1 印刷画像
4、4´、4−1 背景部
5、5´、5−1 情報部
6、6´、6−1 潜像要素群
7、7´、7−1 カモフラージュ要素群
8、8´、8−1 背景要素
9、9´、9−1 情報要素
10、10´、10−1 潜像要素
11、11´、11−1 カモフラージュ要素
12、12−1 第一のインキで形成する画像
13、13−1、13−2 光源
14a、14b、14a−1、14b−1、14a−2、14b−2、14c−2 観察者の視点
15、15−1、15−2 紫外線ランプ
H1、H2 画素の高さ
P1、P2 ピッチ
R1、R2 画素幅
S1 第1の方向
W1、W2 画線幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15