(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記入射光は、同じ波長の信号光と参照光を含むものであって、前記無偏光分岐部と、波長板と、偏光性分岐部とにより形成される偏光位相分離素子により前記入射光が分岐されるものであることを特徴とする請求項1に記載の光受信装置。
互いに直交するs偏光の光とp偏光の光を合波させる偏光ビームスプリッタを備え、異なる方向から入射する前記信号光と参照光を偏光ビームスプリッタにより合波することにより前記偏光位相分離素子への入射光を生成することを特徴とする請求項2に記載の光受信装置。
前記無偏光分岐部により分岐された2つの光の分岐方向と前記偏光性分岐部により分岐された光の分岐方向とが所定の角度を成すように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光受信装置。
前記偏光性分岐部は偏光性回折格子であって、入射光の常光偏光成分を回折せず透過するとともに異常光偏光成分を回折する、または、入射光の異常光偏光成分を回折せず透過するとともに常光偏光成分を回折することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光受信装置。
前記波長板は、前記s偏光の光と前記p偏光の光との間で、位相差を与えない第1の領域と、前記s偏光の光と前記p偏光の光との間で、90°の奇数倍に略等しい位相差を与える第2の領域を有し、前記第2の領域にのみ、高分子液晶を有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光受信装置。
前記波長板は、前記s偏光の光と前記p偏光の光との間で、位相差を与えない第1の領域と、前記s偏光の光と前記p偏光の光との間で、90°の奇数倍に略等しい位相差を与える第2の領域を有し、前記第1の領域および前記第2の領域は、いずれも高分子液晶を有し、前記第1の領域における高分子液晶は厚さ方向に略平行に配向されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光受信装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
〔第1の実施の形態〕
(光受信装置)
第1の実施の形態における光受信装置について説明する。
図2は、本実施の形態における光受信装置の構成図である。本実施の形態における光受信装置100は、X軸方向の直線偏光の信号光SとY軸方向の直線偏光の参照光Rを含む伝送光を出射する光ファイバーや光導波路など光伝送部70と、光伝送部70からの出射光を光検出器60へ集光する集光レンズ80と、集光レンズ80と光検出器60の光路中に配置する偏光位相分離素子10から構成されている。偏光位相分離素子10は、無偏光分岐部となる無偏光回折格子20と波長板30と偏光性分岐部となる偏光性回折格子40からなり、この順番に配置された偏光位相分離素子10に入射する収束光である入射光50が、4つ光束である光53a、53b、53c、53dに分岐される。この4つ光束はそれぞれ光検出器60の分割された光検出器の受光面60a、60b、60c、60dに集光される。偏光位相分離素子10の機能は後述する。
【0023】
光伝送部70の出射光である信号光Sと参照光Rは、ホモダイン検出に適合するように同一波長で、信号光Sは強度変調および位相変調された光情報を含み、参照光Rは一定強度で位相がそろっている。
【0024】
本実施の形態における光受信装置に適合する波長の制約は無いが、デジタルコヒーレント光受信装置のホモダイン検出に適合する可干渉長を有する波長幅の充分狭い伝送光であって、例えば、長距離伝送のWDM(Wavelength Division Multiplexing)波長多重光通信に用いられるSバンド(1460〜1530nm)、Cバンド(1530〜1565nm)、Lバンド(1565〜1625nm)の各波長チャネルに対応した波長である。
【0025】
尚、光検出器60(60a、60b、60c、60d)で電気信号に変換された光強度信号は、電子信号処理回路(図示せず)を用いてAD変換後にデジタル信号処理され、信号光Sに含まれる強度変調信号および位相変調信号として検出される。
【0026】
WDM光通信において光ファイバー中を長距離伝送された信号光の偏光は揃っていないため、光ファイバーの出射光を偏光ビームスプリッタPBS(Polarization Beam Splitter)を用いてs偏光とp偏光に分離し、s偏光の信号光とp偏光の信号光に対して
図2の光受信装置を適用すればよい。この場合、参照光は信号光の直線偏光と直交するように、s偏光の信号光に対してはp偏光とし、p偏光の信号光に対してはs偏光とする。
【0027】
尚、信号光に対し直交する直線偏光の参照光は、PBSを用いて同一の光軸に効率よく合波できる。また、参照光は、信号光と同一波長で、可干渉長が長い狭い発振波長幅の局部発振光源であるレーザを別途準備して発生させる。具体的には、10Hz以下の発振波長幅が好ましい。
【0028】
光検出器60は、外部からのノイズを低減するために大きさを小さくする場合があるが、このような光検出器60に対して光を十分小さく集光するために、集光レンズ80の像側開口数は大きくすることが好ましい。例えば、波長1.5μmの光に対して30μm以下に集光する場合、回折限界の式から開口数は0.03以上である必要がある。開口数が大きいレンズの場合、偏光位相分離素子10には入射角度の大きい光線が入射する。開口数が0.03である場合、入射角度は1.7°以下となる。開口数が大きい場合、偏光位相分離素子10への入射角度は大きくなるので偏光位相分離素子10への入射角度は1.7°以上となりうる。
【0029】
(偏光位相分離素子)
本実施の形態における光受信装置において用いられる偏光位相分離素子の実施の形態について説明する。
図3は、本実施の形態における偏光位相分離素子の構成図である。本実施の形態における偏光位相分離素子10は、無偏光分岐部である無偏光回折格子20、波長板30および偏光性分岐部である偏光性回折格子40を有し、
図3に示すように、この順に光が入射するように構成されている。
【0030】
無偏光回折格子20は、例えば、光学的に等方性の屈折率を示す等方性材料からなる透明基板の表面に周期的な凹凸が形成されたものであったり、透明基板の表面に、他の等方性材料が凹凸状に形成されたものであったりしてもよい。回折格子の断面が矩形状の凹凸である場合、±1次回折光の回折効率が最大になるように設定すると、+1次回折光と−1次回折光の光量をそれぞれ大きくすることができ、直進透過する0次回折光(直進透過光)を小さくすることができるので、効率よく2つの光に分岐することができる。
【0031】
この場合、矩形状の回折格子によって分岐された+1次回折光と−1次回折光の光量は等しくなるので波長などの変動がある場合でも+1次回折光と−1次回折光の光量比を一定に保つことができ、後述する位相差検出処理が容易になる。また、回折格子の断面がブレーズ形状の凹凸またはブレーズ状を階段状に近似した擬似ブレーズ形状の凹凸である場合、0次回折光と例えば+1次回折光の光量をそれぞれ大きくすることができ、−1次回折光を小さくすることができるので、効率よく2つの光に分岐することができる。尚、回折角度は、入射する光の波長と回折格子の周期の幅(格子ピッチ)によって決定する。例えば、回折角度を大きくして光を分岐させる場合は、格子ピッチを狭く設計するとよい。
【0032】
回折角度と格子ピッチはグレーティング方程式に従うので、格子ピッチをP
gの無偏光回折格子20に波長λの光が入射した場合、屈折率n
gを有する媒質に出射されるm次の回折光の回折角度θ
g(m)は、下記の式を満たす。
【0033】
n
gsinθ
g(m)=mP
g/λ
また、波長板30までの距離をL
gwとし波長板30の位置における光の径をφ
wとすると分岐される光を+1次回折光と−1次回折光とした場合、下記の式を満たしていると、
L
gw{tanθ
g(+1)−tanθ
g(−1)}>φ
w
波長板30上で分岐された光を分離することができ、ノイズの原因となる迷光の発生を低減することができるので好ましい。分岐される光を+1次回折光と0次回折光とした場合、下記の式を満たしていると、
L
gwtanθ
g(+1)>φ
w
波長板30上で分岐された光を分離でき、ノイズの原因となる2つの分岐された光間のクロストークを低減できるので好ましい。
【0034】
また、光が出射される側の媒質の平均的な屈折率n
gが大きい場合、回折角度が小さくなるため2つの分岐される光の間のクロストークを低減するために素子の厚みが大きくなってしまう。したがって、無偏光回折格子20と波長板30の間の媒質の平均的な屈折率は小さい方が好ましく、平均的な屈折率として1.6以下であることが好ましく、1.45以下であるとより好ましく、1.4以下であるとさらに好ましい。1.6以下の屈折率の材料としてBK7などのホウケイ酸ガラスを用いることができ、1.45以下の屈折率の材料として石英ガラスやホタル石などの材料を用いることができ、1.4下の屈折率の材料としてフッ素樹脂や空気などの材料を用いることができる。無偏光回折格子20の格子ピッチとして5μmであると好ましく、2μm以下であるとより好ましい。
【0035】
無偏光回折格子20の回折光は、格子断面の凹凸部長手方向と入射光の成す平面に対し垂直でかつ0次回折光の進行方向を含む面内の方向に進行する。即ち、0次回折光または±1次回折光の分岐方向は格子凹凸部長手方向と直交する。
図3において、入射光50は無偏光回折格子20により±1次回折光がY軸方向に発生するように、回折格子の長手方向が直線でX軸方向となるように設計されている。
【0036】
波長板30は、無偏光回折格子20で分岐された2つの光それぞれに対応した、第1の領域31と第2の領域32を有しており、第1の領域31または第2の領域32のいずれかは、信号光と参照光との間に90°の位相差が与えられるように設定されていればよい。例えば、第1の領域31は等方性材料から構成され、第2の領域32は複屈折性材料から構成され、第2の領域32の厚さを調整することで所望の位相差を与えることができる。また、第1の領域31または第2の領域32のいずれか一方は、透明な等方性材料から構成されているものに限らず、空気であってもよい。一方が空気である場合、他方の領域にのみ所望の位相差を与えられるように設計された複屈折性材料が備えられていればよい。詳細の構成については後述する。
【0037】
偏光性回折格子40は、入射する光のうち互いに直交する偏光状態の光毎、透過または回折させて進行する方向が互いに異なるように作用する。例えば、入射する光のうち、第1の直線偏光の光は直進透過させ、第1の直線偏光の光と直交する第2の直線偏光の光を回折させる機能を有する。偏光性回折格子40は、例えば、光学的に複屈折性を示す複屈折性材料と等方性材料とが、断面が周期的な凹凸を形成するように構成される。そして、複屈折性材料の常光屈折率n
oまたは異常光屈折率n
e(n
o≠n
e)と、等方性材料の屈折率n
sとが略一致する材料を組み合わせることによって、上記の作用を得ることができる。
【0038】
偏光性回折格子40の回折効率は(n
e−n
o)と複屈折材料の厚みの積を光の波長λによって除算した因子に依存するため、(n
e−n
o)が小さい場合には複屈折材料の厚みの影響が大きくなる。複屈折材料の厚みが大きくなると光の入射角度の変化に応じて光路長の変化が大きくなるため、光の入射角度に対する回折効率の変動が大きくなる。したがって、(n
e−n
o)>0.01となる複屈折材料を用いることが好ましく、(n
e−n
o)>0.04となる複屈折材料を用いるとより好ましく、(n
e−n
o)>0.05となる複屈折材料を用いるとより好ましく、(n
e−n
o)>0.065となる複屈折材料を用いるとさらに好ましい。
【0039】
尚、回折角度は、無偏光回折格子20と同様に、回折角度を大きくして光を分岐させる場合、格子ピッチを狭く設計するとよい。偏光性回折格子40の回折光は、格子断面の凹凸部長手方向と入射光の成す平面に対し垂直でかつ0次回折光の進行方向を含む面内の方向に進行する。即ち、0次回折光または±1次回折光の分岐方向は格子凹凸部長手方向と直交する。
図3に示す例では、Z軸方向に進行する入射光50に対して、無偏光回折格子20により回折光がY軸方向に発生するように格子の長手方向が直線でX軸方向となるように設計され、偏光性回折格子40により回折光がY軸方向に発生するように格子の長手方向が直線でX軸方向となるように設計されている。
【0040】
図3に示すような配置とする場合、無偏光回折格子30によって発生する不要な回折光が偏光性回折格子40を透過することで、所望の光と同一の地点に到達しないように各回折素子の格子ピッチおよび素子の厚さを設計することが好ましい。これは所望の光と不要な回折光が同一地点に到達すると光の干渉が生じて検出する光の光量が変動するためである。このような設計はグレーティング方程式と光線追跡法を用いることで可能である。このような設計の一例として無偏光回折格子30の格子ピッチと偏光性回折格子40の格子ピッチを互いに整数倍としないようにすることができる。
【0041】
入射する光のうち互いに直交する偏光状態の光の進行方向を互いに異ならせるものであれば偏光性回折格子40の位置に偏光性回折格子40の代わりに偏光分離機能を有する素子を配置してもよい。偏光分離機能として複屈折を有する材料のウォークオフを利用することができる。また、複屈折材料の厚みに傾斜を持たせ2つの異なる光学軸方向の屈折率の違いによって異なる方向に屈折させるものを用いてもよい。
【0042】
次に、偏光位相分離素子10の作用について説明する。本実施の形態における偏光位相分離素子10に入射した入射光50は、無偏光回折格子20により透過および/または回折によって、互いに分離した2つの光51aと51bとに分岐される。尚、入射光50は信号光と参照光とが合波された光であり、
図3において偏光位相分離素子10にはZ軸方向に入射する。矢印Sは信号光の偏光方向を示すものであり、矢印Rは参照光の偏光方向を示すものである。
図3では、矢印Sに示される信号光の偏光方向はX軸方向であり、矢印Rに示される参照光の偏光方向はY軸方向とし、信号光Sの偏光方向と参照光Rの偏光方向とは、略直交して入射する。
【0043】
分岐された光51aは、波長板30における第1の領域31に入射し、分岐された光51bは、波長板30における第2の領域32に入射する。波長板30における第1の領域31に入射した光51aは、信号光と参照光、つまり、X軸方向の光成分とY軸方向の光成分とにおいて位相差が付加されることなく光52aとして出射される。一方、波長板30における第2の領域32に入射した光51bは、信号光と参照光との間で90°の位相差が付加され光52bとして出射される。尚、位相差は90°に限らず、90°の奇数倍となるようにすれば同様の効果を得ることができるが、波長板の厚さを薄くできることを考えると位相差が90°とすることが好ましい。
【0044】
次に、光52a及び光52bは、偏光性回折格子40に入射する。偏光性回折格子40に用いる複屈折性材料の光学軸40aは、直行する信号光Sの偏光方向と参照光Rの偏光方向の中間で、略45°の角度をなすことが好ましい。よって、偏光性回折格子40に入射した光52a及び光52bはそれぞれ、光学軸40aの方向の直線偏光の光と光学軸40aと直交する方向の直線偏光の光とに分岐される。即ち、偏光性回折格子40に入射した光52aは、光学軸40aに直交する偏光方向の光53aと光学軸40aと平行な偏光方向の光53bとに分岐され出射される。尚、光学軸は、遅相軸または進相軸のいずれかである。例えば、光学軸40aが遅相軸であって、複屈折性材料の異常光屈折率n
eとなる方向とし、複屈折性材料の常光屈折率n
oと等方性材料の屈折率n
sと略一致(n
o≒n
s、n
e≠n
s)している場合を考える。このとき、光53aは、光学軸40aに直交する直線偏光の光であるため、偏光性回折格子40において回折されることなくそのまま直進して出射され、光53bは、光学軸40aに平行な直線偏光の光であるため、偏光性回折格子40において回折されて出射される。
【0045】
このため、偏光位相分離素子10に入射した入射光50は、進行方向が異なる4つの光53a、53b、53c及び53dとして出射され、4つの光53a、53b、53c及び53dは、入射光50の位相差を基準にしたとき、信号光Sと参照光Rとの位相差が、各々180°、0°、270°、90°となる。
【0046】
次に、本実施の形態における偏光位相分離素子10の機能について、ジョーンズベクトルを用いて説明する。信号光Sの電場強度(=1)に対して電場強度がA倍となるような参照光Rを入射させるとすると、入射する入射光50における電場E
1は、数1に示す式で表される。ここで、△φは参照光Rの位相を基準にした信号光Sの位相差であり、信号光Sに位相変調された位相情報が含まれる場合、位相差△φを検出できればよい。
【0047】
【数1】
この後、無偏光回折格子20によって2つの光51a及び光51bに分岐され、更に、波長板30を透過した、光52aにおける電場E
2、光52bにおける電場E
3は、数2、数3に示す式で表される。
【0049】
【数3】
尚、数2におけるα、数3におけるβは、光を分岐した際における強度の係数である。また、数3におけるMは、s偏光とp偏光との間において、90°の位相差を与えるジョーンズ行列であり、例えば、数4に示されるものである。
【0050】
【数4】
更に、偏光性回折格子40によって、光52aは光53aと光53bとに分岐され、光53aにおける電場E
4、光53bにおける電場E
5は、数5、数6に示す式で表される。同様に、偏光性回折格子40によって、光52bは光53cと光53dとに分岐され、光53cにおける電場E
6、光53dにおける電場E
7は、数7、数8に示す式で表される。
【0054】
【数8】
ここで、数5におけるP
1、数6におけるP
2は、偏光子を表すジョーンズ行列であり、例えば、数9、数10に示す式で表される。尚、γ、δは強度の係数を示す。
【0056】
【数10】
ここで、数9及び数10に示す式を用い、α、β、γ、δを1とした場合、電場E
4、E
5、E
6及びE
7により得られる光信号強度I
4、I
5、I
6及びI
7は、以下のように、表すことができる。
【0057】
I
4=(1+A
2−2AcosΔφ)/4、
I
5=(1+A
2+2AcosΔφ)/4、
I
6=(1+A
2+2AsinΔφ)/4、
I
7=(1+A
2−2AsinΔφ)/4、
上記光信号強度I
4、I
5、I
6及びI
7に基づき、下記の演算を行うことにより、A倍に増強された光強度信号Sigを検出することができる。
【0058】
Sig={(I
4−I
5)
2+(I
6+I
7)
2}
1/2
={(AcosΔφ)
2+(AsinΔφ)
2}
1/2
=A
これより、偏光位相分離素子を透過した4つの光それぞれを検出し、更に、演算機能を有する光検出器を備えることで、光強度信号Sigを高い感度で検出することができる。従って、この光受信装置を用い、信号光Sに含まれる強度変調された光情報の検出において、高いS/N比を得ることができる。
【0059】
さらに、下記の演算を行うことにより、参照光Rと信号光Sの位相差△φを検出することができる。
【0060】
(I
6―I
7)/(I
5―I
4)={(AsinΔφ)/(AcosΔφ)}
=tanΔφ
従って、
Δφ=tan
−1{(I
6―I
7)/(I
5―I
4)}
その結果、参照光Rは位相が一定のため、信号光Sに含まれる位相変調された情報を高いS/N比で検知できる。
【0061】
例えば、Δφの値が、0°、90°、180°、270°の4値である場合、光検出器60が、I
4−I
5の演算、I
7−I
6の演算を行う機能を有するとすると、Sig1=I
4−I
5=AcosΔφ、Sig2=I
7−I
6=AsinΔφより、下記に基づき、Δφの値を知ることができる。
【0062】
Δφ=0°の場合、(Sig1、Sig2)=A(1、0)、
Δφ=90°の場合、(Sig1、Sig2)=A(0、1)、
Δφ=180°の場合、(Sig1、Sig2)=A(−1、0)、
Δφ=270°の場合、(Sig1、Sig2)=A(0、−1)、
即ち、位相情報を検知することが可能な小型で組立等の製造が容易な光受信装置100を得ることができる。
【0063】
(波長板)
次に、本実施の形態における偏光位相分離素子10に用いられる波長板30について説明する。波長板30としては、様々な構成のものが考えられる。尚、
図3に示すように、第1の領域31と第2の領域32は、無偏光回折格子20で分岐した2つの光51a、51bがそれぞれ入射するように配置されていればよく、第1の領域31と第2の領域32の形状やこれらの領域の境界線がどのようなものでもよい。
【0064】
図4は、波長板30の具体的な構成として、波長板30a、波長板30b及び波長板30cの断面模式図を例示したものである。これらの波長板30a、波長板30b及び波長板30cは、いずれも
図2及び
図3に示される波長板30として用いることができるものである。具体的には、
図4(a)に示されるように、波長板30aは、第1の領域31aにおいて、等方性材料33aが透明基板35a及び36aに挟持され、第2の領域32aにおいて、複屈折性材料となる高分子液晶34aと等方性材料33aとが透明基板35a及び36aに挟持される構造を有する。
図4(a)においては、高分子液晶34aは、Y軸方向に平行に配向される。波長板30aは、透明基板36a上に一様に高分子液晶膜を成膜した後、フォトリソグラフィ及びエッチング加工により第1の領域31aにおける高分子液晶膜を除去し、第2の領域32aにのみ高分子液晶34aを形成し、この後、充填剤となる等方性材料33aを透明基板35aと透明基板36aとの間に、充填させることにより形成することができる。尚、第2の領域32aには等方性材料33aが備えられていない(空気)構造であってもよい。
【0065】
また、
図4(b)に示されるように、波長板30bは、第1の領域31bが、透明基板面に垂直方向(Z軸方向)に配向された垂直配向液晶33bを有し、第2の領域32bが、透明基板面に水平方向に配向された水平配向液晶34bを有する。
図4(b)においては、水平配向液晶34bは、Y軸方向に平行に配向される。このような波長板30bの形成方法は、透明基板35b及び36bにおいて、第1の領域31bでは液晶が垂直配向するように、第2の領域32bでは液晶が水平配向するように、配向処理を行い、配向処理の行われた面を対向させて液晶を封入して製造することができる。尚、配向処理の方法としては、配向膜のラビング、光配向処理、イオンビーム照射、配向させるための溝形成等の方法を用いることができる。
【0066】
また、
図4(c)に示されるように、波長板30cは、透明基板33c上の第1の領域31cには何も形成せず、基板33c上の第2の領域32c上にのみ複屈折層34cとして構造複屈折を有する材料やフォトニック結晶を形成することにより発生する位相差を調整するものである。この他、複屈折層34cとして延伸した高分子フィルムを形成したものでもよい。また、第1の領域または第2の領域を透過する光に対して、位相差を与えないものとして、媒質が空気であってもよく、その場合、波長板は、実質的に第1の領域または第2の領域のいずれかに配置するものであって、入射する波長λの光に対して90°の奇数倍の位相差を与える複屈折性材料を形成すればよい。
【0067】
また、常光屈折率n
woと異常光屈折率n
we(n
wo≠n
we)との関係においては、(n
we−n
wo)>0.01となる複屈折材料を用いることが好ましく、(n
we−n
wo)>0.04となる複屈折材料を用いるとより好ましく、(n
we−n
wo)>0.05となる複屈折材料を用いるとさらに好ましく、(n
we−n
wo)>0.065となる複屈折材料を用いるとより好ましい。また、用いることのできる複屈折材料の観点より、0.3>(n
we−n
wo)となるものが好ましい。
【0068】
(偏光性回折格子)
次に、偏光性回折格子40について説明する。本実施の形態における偏光位相分離素子10に用いられる偏光性回折格子40は、
図5に示すように、断面がブレーズ形状または、ブレーズ形状を階段状に近似した擬似ブレーズ形状を有し、高分子液晶からなる複屈折性材料層44と、等方性材料が、複屈折性材料層44の凹凸を平坦化するように配置されてなる等方性材料層45とが、透明基板42及び43に挟持される構造を有する。尚、複屈折性材料層44は、凸状となる部分が+Y方向に厚くなるような(擬似)ブレーズ形状の傾きを有するが、逆の傾きを有するものでもよく、さらに、光学軸の方向が45°方向であれば、X−Y平面において複屈折性材料層44の長手方向が任意の方向に揃うものでもよい。
【0069】
また、複屈折性材料層44の配向方向(例えば遅相軸)は、
図5のX−Y平面において、X軸より45°の角度をなす方向とする。尚、等方性材料の屈折率をn
sとするとき、等方性材料は、高分子液晶の常光屈折率n
oまたは異常光屈折率n
e(n
o≠n
e)のいずれか一方に略一致する材料によって構成されている。尚、偏光性回折格子として、断面が(擬似)ブレーズ形状とすると、透過または回折して分岐する光の利用効率を高くできる点で好ましいが、これに限らず矩形状の周期的凹凸を有するものでもよい。
【0070】
ここで、屈折率の関係をn
s≒n
o、n
s≠n
eとするとき、高分子液晶の遅相軸方向となる異常光屈折率の方向の偏光成分の光は回折され、高分子液晶の進相軸方向となる常光屈折率の方向の偏光成分の光は回折されることなく直進透過する。このような偏光性回折格子40は、透明基板42上に高分子液晶膜を形成した後、フォトリソグラフィとエッチングを繰り返し行うことにより擬似ブレーズ形状となる高分子液晶からなる複屈折性材料層44を形成し、この後、透明基板42と透明基板43との間に、充填剤として等方性材料を充填した等方性材料層45を形成して作製することができる。また、複屈折性材料層44の形成方法としては、構造複屈折又はフォトニック結晶を格子状に形成する方法により作製することも可能である。
【0071】
波長板30の第1の領域31と第2の領域32を透過する無偏光回折格子20で分岐された2つの光に対して、偏光性回折格子40における複屈折性材料層44の凸状の格子パターン(格子ピッチおよび格子長手方向)が異なるように形成してもよい。ここで、無偏光回折格子20および偏光性回折格子40の格子パターンに応じて発生する4つの分岐光が集光する位置に光検出器60の受光面を配置する。
【0072】
入射する光のうち互いに直交する偏光状態の光の進行方向を互いに異ならせるものであれば、偏光性回折格子40の位置に偏光性回折格子40の代わりに、偏光分離機能を有する素子を配置してもよい。
【0073】
このような偏光分離機能素子の例として、複屈折材料のウォークオフを用いる偏光分離機能素子90aを
図6に示す。
図6においてX'軸は
図3における40a方向と直交した方向であり、Y'軸は40aと同じ方向となっている。偏光分離機能素子90aは複屈折材料91を用いており、その光学軸はY'軸からY'Z面内で所定の角度となる方向を向いている。このような複屈折材料91に対して光を入射すると、X'偏光方向の光とY'偏光方向の光でポインティングベクトルの方向が異なるいわゆるウォークオフが生じる。ウォークオフが生じることで、X'偏光方向の光とY'偏光方向の光を分離することができる。
【0074】
また、このような偏光分離機能素子の他の例として、複屈折材料の厚みに傾斜を持たせた偏光分離機能素子90bを
図7に示す。
図7においてX'軸は、
図3における40a方向と直交した方向であり、Y'軸は40aと同じ方向となっている。偏光分離機能素子90bは複屈折材料92を用いており、その光学軸はX'軸方向を向いている。また、複屈折材料92はY'軸方向に厚みが傾斜している。このような複屈折材料92に対して、光を入射すると複屈折材料92の出射側の界面においてX'偏光方向の屈折率とY'偏光方向の屈折率が異なることで屈折角が変化し、X'偏光方向の光とY'偏光方向の光が異なる方向へ出射される。このようにしてX'偏光方向の光とY'偏光方向の光を分離することができる。
【0075】
また、このような偏光分離機能素子の他の例として、複屈折材料の厚みに傾斜を持たせた偏光分離機能素子90cを
図8に示す。
図8において、X'軸は
図3における40a方向と直交した方向であり、Y'軸は40aと同じ方向となっている。偏光分離機能素子90cは複屈折材料93を用いており、その光学軸はX'軸方向を向いている。また、複屈折材料93はY'軸方向に厚みが傾斜しており、偏光分離機能素子90cは等方性材料94によって平坦化されている。このような偏光分離機能素子90cに対して光を入射すると、複屈折材料93と等方性材料94の界面においてX'偏光方向の屈折率とY'偏光方向の屈折率が異なることで屈折角が変化し、X'偏光方向の光とY'偏光方向の光が異なる方向へ出射される。このようにしてX'偏光方向の光とY'偏光方向の光を分離することができる。
【0076】
図8では等方性材料94と複屈折材料93の光学軸方向の屈折率が一致した例を示しているが、このような場合に限らず等方性材料94と複屈折材料93の光学軸方向の屈折率が一致していない場合にも、等方性材料94と複屈折材料93の界面で2つの偏光方向の光が異なる方向に屈折させることが可能である。また、
図8では、単一の鋸刃状の複屈折材料の形状としているが、これに限らず複数の鋸刃状の凹凸を有する複屈折材料の形状としてもよい。このようにすることで複屈折材料の厚みを小さくすることができる。
【0077】
複屈折材料91、92、93として複屈折性を有する結晶を用いてもよい。また、有機材料を用いてもよく、フィルム材料や液晶材料を用いることができる。液晶材料を用いる場合、高分子液晶を用いると温度特性が安定化されるため好ましい。また、液晶材料を用いる場合、ガラスなど材料で作られたセルの内に液晶を封じたものであってもよい。このような場合、液晶材料の厚みや光学軸が
図6から
図8に示すようにすればよい。
【0078】
(偏光位相分離素子の入射角依存性)
次に、本実施の形態における偏光位相分離素子10の入射角度依存性について説明する。
図9は、本実施の形態における偏光位相分離素子10の波長板30の第2の領域32において生じるp偏光とs偏光の位相差と、従来の偏光位相変換分離素子、即ち、特許文献1に記載されている偏光位相変換分離素子となる角度選択性偏光変換素子において生じるp偏光とs偏光の位相差とについて、入射角度依存性を計算した結果である。尚、計算方法は、4×4行列法を用い、入射角度は空気中からの入射を想定した角度を示している。
【0079】
従来の角度選択性偏光変換素子については、光学軸を光軸と一致させた水晶において計算を行ったものであり、水晶における常光屈折率を1.557、異常光屈折率を1.567とし、入射角度10°で生じる位相差が、90°となるように、厚さを0.86mmとして行った。一方、本実施の形態における波長板30については、第2の領域32に、水平配向している高分子液晶膜を形成した場合について、入射角度依存性の計算を行ったものであり、高分子液晶における常光屈折率を1.510、異常光屈折率を1.552とし、厚さを2.4μmとして行った。
【0080】
図9に示されるように、本実施の形態における偏光位相分離素子10の波長板30では、入射角度が変化しても、出射される光のs偏光とp偏光との間に生じる位相差は略90°で、殆ど変化しないのに対し、従来の偏光位相変換分離素子に用いられる角度選択性偏光変換素子では、入射角度が変化すると、出射される光の位相差も変化してしまう。
【0081】
このような入射角度に対する依存性の違いは、複屈折材料の光学軸の方向に依存している。波長板の光学軸が光軸と一致した方向を向いている場合、角度が変化することによって、屈折率楕円体の断面の形が変化し各偏光における屈折率が変化することにより、角度依存性を生じる。これに対して、本実施の形態における波長板の光学軸は、波長板面内を向いており、特に、入射光の入射方向のベクトルを波長板面内へ投影した場合に、投影されたベクトルの方向が光学軸と直交する方向になるようにしている。このように配置することで入射角度が変化した際にも屈折率楕円体の断面の形が変化しないため波長板によって生じる位相差の良好な角度依存性を得ることができる。
【0082】
このように、本実施の形態において用いられる波長板30は、従来の角度選択性偏光変換素子に比べ、光の入射角度依存性が極めて低く、光学設計の自由度が大きく、製造のバラツキにより光学特性が大きく変化することも少ない。
【0083】
次に、無偏光回折格子20の回折光の進行方向と偏光性回折格子40の回折光の進行方向とが同一方向とならないように、偏光位相分離素子における偏光性回折格子の複屈折性材料層44からなる凸状部分の長手方向が、無偏光回折格子20の格子長手方向であるX軸方向と角度をなすように形成された偏光位相分離素子について、
図10に示す偏光位相分離素子11の構成図を用いて説明する。
【0084】
偏光位相分離素子10と偏光位相分離素子11の相違点は、偏光性回折格子41の複屈折性材料層44からなる凸状部分の長手方向のみで、他の構成は同じである。その結果、入射光50が無偏光回折格子20により回折され、2つの光51a及び51bとなって進行し、偏光性回折格子41により回折されないで直進透過する偏光成分の透過光である光53a及び53cに対し、偏光性回折格子41により回折される偏光成分の+1次回折光である光53b及び53dの光軸は、光53a及び53cの分岐光の光軸で規定される平面内には存在しない。
【0085】
理想的ブレーズ形状に作製された場合を除き、回折素子の入射光は複数の回折次数に対応する回折角度に回折光が発生する。無偏光回折格子20では、信号検出目的の±1次回折光以外の回折光が発生する。また、偏光性回折格子41では、信号検出目的の光は複屈折性材料層44の光学軸40aに平行な直線偏光で発生する+1次回折光と、光学軸40aに直交する直線偏光の0次回折光だが、それぞれの+1次回折光および0次回折光以外の回折光が製造ばらつきなどに起因して発生する。このような不要な回折光が光検出器の受光面に入射すると信号のS/N比低下となる。特に、無偏光回折格子の透過・回折光と偏光性回折格子の透過・回折光の多重透過・回折光が多数発生するため、迷光化しやすい。
【0086】
しかし、偏光位相分離素子11では、無偏光回折格子20の透過・回折光の方向と偏光性回折格子41の透過・回折光の方向が異なるため、4つの分岐された信号光である光53a、53b、53c、53dの集光位置にそれぞれ配置された光検出器60a、60b、60c、60dの受光面には発生した迷光が混入しない。その結果、光信号情報を高いS/N比を維持して電気信号情報に変換され、高精度の強度変調情報および位相変調情報が検知できる。尚、偏光位相分離素子11は、
図2及び
図3において、偏光位相分離素子10に代えて用いることができる。
【0087】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態における光受信装置について説明する。
図11は、本実施の形態における光受信装置の構成図である。本実施の形態における光受信装置200において、光受信部100aと光受信部100bの部分は
図2に示す第1の実施の形態の光受信装置100とほぼ同じ構成であるため説明を省略する。
【0088】
光ファイバー等の光伝送部271より強度変調および位相変調された光情報を含む信号光Sが発散光252となって出射し、集光レンズ283により平行光となる。この信号光Sは、光ファイバー伝送中に偏光状態が変化し、
図11においてY軸方向の直線偏光であるp偏光成分とX軸方向の直線偏光であるs偏光成分が位相差を有して合成された楕円偏光となっている。
【0089】
信号光Sのp偏光成分Sbは、PBS293を透過し、ホモダイン検出部である光受信部100bに入射する。一方、信号光Sのs偏光成分Saは、PBS293およびPBS292で反射された後、ホモダイン検出部である光受信部100aに入射する。
【0090】
信号光Sと同一波長で直線偏光の参照光Rは、可干渉長が長く狭い発振波長幅の局部発振光源であるレーザ光源272を用いて生成され、
図11のX−Y平面内でX軸方向に対して45°傾斜した直線偏光の発散光251となって出射する。集光レンズ281により平行光となった参照光Rは同じ振幅比率のX軸およびY軸方向の偏光成分を有し、Y軸方向の直線偏光であるp偏光成分Raは、PBS291およびPBS292を透過し、ホモダイン検出部である光受信部100aに入射する。一方、X軸方向の直線偏光であるs偏光成分Rbは、PBS291および180°光路を切り替える全反射プリズム294で全反射され、PBS293で反射された後、ホモダイン検出部である光受信部100bに入射する。
【0091】
尚、光受信部100aに入射した光は複数の光受光面を有する光検出器261aにより検出され、光受信部100bに入射した光は複数の光受光面を有する光検出器261bにより検出される。
【0092】
図2に示した第1の実施の形態に比べ、光受信装置内にホモダイン検出に必用な参照光を生成するレーザ光源272を備え、外部からの信号光入力のみで、部品点数が少なく小型・軽量の90°光ハイブリッド位相ダイバーシティ・ホモダイン光受信装置を実現できる。また、信号光の偏光状態が伝送中に変化し、光検出器261a及び261bで検知される信号光強度が変化しても、合算信号強度の変動は無いため、偏波ダイバーシティ検出となっている。尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
実施例として、第1の実施の形態における光受信装置について説明する。本実施例における光受信装置は、
図2に示されるようにWDM光通信におけるCバンド波長帯の90°光ハイブリッド位相ダイバーシティ・ホモダイン光受信装置となる光受信装置100である。
【0094】
信号光Sおよび参照光Rの波長を1545nm、入射側および出射側NAが約0.12で有効径が約1mmの集光レンズ80、偏光位相分離素子11、光検出器60をこの順番に配置する。集光レンズ80と偏光位相分離素子11および光検出器60との間隔は、それぞれ約0.5mmと4.5mmとする。偏光位相分離素子11は
図10に示す構成および機能を有する。
【0095】
無偏光回折格子20は、厚さ2mmの石英ガラス基板の平面上に、X軸方向が長手方向でY軸方向に周期的な凹凸加工を行った回折格子であり、周期的な凹凸構造のピッチが3μm、凹凸の深さが約1.76μmとなるように加工する。石英ガラスの屈折率を1.44とすると、波長1545nmの光に対して、Y軸方向に±1次回折光が発生しその効率は約40%、0次回折効率は約0%となる。±1次回折光の光線を追跡すると、厚さ2mmの石英ガラス基板を通過後、+1次回折光と−1次回折光は空間的に重ならない。
【0096】
波長板30は
図4(b)の波長板30bと同様の構造を有しており、厚さ0.3mmの一対の石英ガラス基板で高分子液晶を挟持した構造となっている。一対の石英ガラス基板は第1の領域31b、第2の領域32bに対してそれぞれ垂直配向処理、X方向が異常光方向となるような水平配向処理がなされ、配向処理を施した平面を対向させるように重ね、その空隙を液晶で満たすようにする。高分子液晶の異常光屈折率を1.65、常光屈折率を1.53とし、高分子液晶の厚さを約3.22μmとする。このとき垂直配向をした第1の領域31bではX軸方向とY軸方向の直線偏光に対して位相差が発生せずに、第2の領域32bではX軸方向とY軸方向の直線偏光に対して約180°の位相差が発生する。第1の領域31bには無偏光回折格子による+1次回折光が入射し、第2の領域32bには−1次回折光が入射するので、−1次回折光はX軸方向とY軸方向の直線偏光に対して約180°の位相差が与えられる。
【0097】
偏光性回折格子40は厚さ0.3mmの石英ガラス基板のX−Y平面上でX軸方向から45度方向に配向した高分子液晶を16段の擬似ブレーズ形状とし、充填材によって厚さ0.3mmの石英ガラス基板と貼り合わせる。高分子液晶の異常光屈折率を1.65、常光屈折率を1.53、充填材の屈折率を1.53とする。ブレーズ形状は長手方向がY軸方向で、X軸方向に対して周期的に配置され、回折格子ピッチは10μm、ブレーズの各段の高さは約0.8μmである。RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法によって回折効率を計算すると、常光屈折率となる方向の直線偏光が入射した場合には回折せずに直進透過し、異常光屈折率となる方向の直線偏光が入射した場合にはX軸方向に+1次回折光が発生しその効率が約92%となる。
【0098】
無偏光回折格子20、波長板30および偏光性回折格子40を光入射側よりこの順番で一体化し、素子厚約3.2mmの偏光位相分離素子11を作製する。
【0099】
以上のように偏光位相分離素子11に入射した入射光50は4つの光束となる光53a、53b、53c、53dに分岐され、光検出器60(60a、60b、60c、60d)の各受光面に集光される。無偏光回折格子20の他の回折光、偏光性回折格子40の他の回折光およびそれらの多重回折光は、光検出器60の受光面と異なる位置に集光されるため、信号検出目的の光のS/N比低下につながる迷光とはならない。
【0100】
光検出器60により電気信号に変換された光信号強度I
4、I
5、I
6及びI
7を実施の形態で説明した方法で、I
4−I
5及びI
7−I
6の演算を行うことにより、Sig1=I
4−I
5=AcosΔφ、Sig2=I
7−I
6=AsinΔφとなる。その結果、信号光Sの信号強度が参照光RによりA倍に増幅され、参照光Rに対する信号光Sの位相差△φの値を検知できる。即ち、デジタルコヒーレント光伝送で有効な90°光ハイブリッド位相ダイバーシティ・ホモダイン光受信装置において、高いS/N比で光強度情報と位相情報を検知できる小型で組立等の製造が容易な光受信装置となる。
【0101】
本実施の形態における光受信装置に用いられる偏光位相分離素子として、無偏光分岐部が無偏光回折格子からなり、偏光性分岐部が偏光性回折格子からなる構成例について説明したが、他の光学素子を用いてもよい。例えば、無偏光回折格子の代わりに入射面で空間2分割された断面が二等辺三角形の三角柱プリズムを用い、入射角の異なるプリズム斜面の屈折を利用して入射光を2方向に分岐してもよい。また、偏光性回折格子の代わりにウオラストンプリズム、グラントムソンプリズムなどの複屈折結晶を用いて入射直交偏光を分岐してもよい。
【0102】
(実施例2)
実施例2の光受信装置は実施例1の無偏光回折格子20のみを変更したものであり、その他の構成については実施例1と同じものである。
【0103】
無偏光回折格子20は、厚さ0.5mmの石英ガラス基板の平面上に、X軸方向が長手方向でY軸方向に周期的な凹凸加工を行った回折格子であり、周期的な凹凸構造のピッチが1.9μm、凹凸の深さが約1.76μmとなるように加工する。石英ガラスの屈折率を1.44とすると、波長1545nmの光に対して、Y軸方向に±1次回折光が発生しその効率は約40%、0次回折効率は約0%となる。無偏光回折格子20と波長板30の間が空気となるように1.5mmの間隔となるように設置する。このようにすることで無偏光回折格子20の回折部と波長板30の波長板部の平均的な屈折率を(0.5×1.44+1.5×1+0.3×1.44)/2.3=1.15と小さくすることができる。±1次回折光の光線を追跡すると、厚さ2mmの石英ガラス基板を通過後、+1次回折光と−1次回折光は空間的に重ならない。
【0104】
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。