(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6028545
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】セシウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20161107BHJP
B01D 37/02 20060101ALI20161107BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20161107BHJP
B01D 39/08 20060101ALI20161107BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20161107BHJP
C22B 26/10 20060101ALI20161107BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
G21F9/12 501J
B01D37/02 D
B01D37/02 E
C02F1/28 A
B01D39/08 Z
G21F9/12 501B
G21F9/06 521B
G21F9/06 521G
G21F9/06 521M
C22B26/10
C22B7/00 G
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-263022(P2012-263022)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-109461(P2014-109461A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】316003760
【氏名又は名称】宗澤 潤一
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】宗澤 潤一
(72)【発明者】
【氏名】西 和俊
【審査官】
藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−137016(JP,A)
【文献】
特開平01−206294(JP,A)
【文献】
土壌中のセシウムを低濃度の酸で抽出することに成功,[online],日本,国立研究開発法人 産業技術総合研究所,2011年 8月31日,URL,http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20110831/pr20110831.html
【文献】
プルシアンブルーを利用して多様な形態のセシウム吸着材を開発,[online],日本,国立研究開発法人 産業技術総合研究所,2011年 8月24日,URL,http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20110824/pr20110824.html
【文献】
植物系放射性セシウム汚染物を除染・減容するための実証試験プラント,[online],日本,国立研究開発法人 産業技術総合研究所,2012年11月12日,URL,http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20121112/pr20121112.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/06
B01D 36/00−37/04
B01D 39/00−41/04
B01J 20/00−20/34
C02F 1/28
C22B 1/00−61/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウムイオンを含有する被処理液にプルシアンブルーのナノ粒子を添加し、セシウムイオンを該プルシアンブルーナノ粒子に吸着させる吸着工程と、
その後、このプルシアンブルーナノ粒子含有液を、濾材上にプルシアンブルーナノ粒子の付着堆積物層を有する濾過手段によって濾過する濾過工程と、
を有するセシウムの回収方法。
【請求項2】
請求項1において、前記プルシアンブルーナノ粒子含有液を前記濾材に通液して該濾材上に前記付着堆積物層を形成することを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記プルシアンブルーナノ粒子含有液を前記濾材に循環通液することを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項4】
請求項1において、前記プルシアンブルーナノ粒子含有液を遠心分離して沈降分と上澄分とに分離し、この上澄分を前記濾材に通液して該濾材上に前記付着堆積物層を形成することを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項5】
請求項4において、前記上澄分を前記濾材に循環通液することを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、該沈降分を前記吸着工程に返送することを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記濾過手段を逆洗し、逆洗排水を前記吸着工程に返送することを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記濾過手段を逆洗し、逆洗排水を遠心分離してセシウム吸着プルシアンブルーナノ粒子の脱水ケーキを得ることを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、プルシアンブルーナノ粒子の1次粒子の粒径が50nm以下であることを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記濾材が合成樹脂の繊維の織布よりなることを特徴とするセシウムの回収方法。
【請求項11】
請求項10において、該織布の通気度が0.1〜5cm3/cm2・secであることを特徴とするセシウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プルシアンブルーのナノ粒子を用いたセシウムの回収方法に係り、特に水中に溶解した放射性セシウムの回収に好適な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に溶解した放射性セシウムを回収する方法として、吸着材で回収する手法が挙げられる。現在、ゼオライトをはじめとする、さまざまな材料が吸着材として検討され、一部は実際の除染現場で使用されている。吸着材は、除染後の廃棄物量が少ないものとなるように、セシウムを大量に吸着することができる高い吸着能を有することが望ましい。また、環境中には、放射性セシウムより他の金属イオンが遥かに多量に存在するため、吸着材には、セシウムだけを吸着する選択性の高い吸着能を有することが求められる。
【0003】
都市ごみ焼却飛灰からはセシウムが水に溶出しやすいことが報告されている。純水中の放射性セシウムイオンをよく吸着することで知られているベントナイトの焼却灰洗浄水からのセシウム吸着能力は、純水に対するそれに比べて大幅に低く、100分の1程度である(環境省第5回災害廃棄物安全評価検討会資料)。この理由の1つとして、ベントナイトが、セシウムだけでなく、焼却灰洗浄水中の他のイオンも吸着することが挙げられる。
【0004】
セシウムの高効率回収が可能な高選択性セシウム吸着材の候補として、プルシアンブルーが挙げられる。プルシアンブルーはチェルノブイリ原子力発電所事故の際に、牛乳中のセシウム低減のために家畜に投与されたことがある。
【0005】
プルシアンブルーがセシウム選択吸着特性を有する理由は、セシウムイオンの水和半径がプルシアンブルーの内部空孔のサイズに合致するためであると考えられている。
【0006】
特許文献1には、プルシアンブルーのナノ粒子よりなる放射性セシウム吸着材とそれを用いた放射性セシウムの分離方法が記載されている。
【0007】
また、本出願人より、プルシアンブルーナノ粒子を用いた放射性セシウム除染について発表がなされている(平成23年8月24日、平成23年8月31日、産総研プレス発表)。このセシウム吸着材用プルシアンブルーナノ粒子の一次粒径を粉末X線回折の結果から推定したところ5〜10ナノメートル(nm)であった。また、電子顕微鏡像からも一次粒径は10nm程度であることが認められた。一般に、比表面積が大きくなると、吸着能は増すと考えられている。60μm程度に造粒したナノ粒子吸着材のBET法によって求めた比表面積は、390m
2/gであり、従来のプルシアンブルーとして報告されている値(100m
2/g程度)よりもかなり大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−200856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、プルシアンブルーのナノ粒子は、セシウムの吸着量が多く、またセシウムの選択的吸着性にも優れており、このプルシアンブルーナノ粒子をセシウム含有水中に供給すると、セシウムイオンが選択的に且つ急速にプルシアンブルーナノ粒子に吸着される。従って、放射性セシウムイオンを吸着したプルシアンブルーナノ粒子を水から分離すれば、放射性セシウムで汚染された水を除染することができる。ところが、このプルシアンブルーナノ粒子は、ナノサイズであるため、固液分離処理が容易ではない。
【0010】
また、放射性セシウムイオンを吸着したプルシアンブルーナノ粒子を減容する技術が求められている。
【0011】
本発明は、放射性セシウムの除染を容易かつ効率的に行い、しかも廃棄物量が著しく少量となるセシウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のセシウムの回収方法は、セシウムイオンを含有する被処理液にプルシアンブルーのナノ粒子を添加し、セシウムイオンを該プルシアンブルーナノ粒子に吸着させる吸着工程と、その後、このプルシアンブルーナノ粒子含有液を、濾材上にプルシアンブルーナノ粒子の付着堆積物層を有する濾過手段によって濾過する濾過工程とを有する。
【0013】
本発明では、前記プルシアンブルーナノ粒子含有液を前記濾材に循環通液して該濾材上に前記付着堆積物層を形成することが好ましい。
【0014】
前記吸着工程の後、前記プルシアンブルーナノ粒子含有液を遠心分離して沈降分と上澄分とに分離し、この上澄分を前記濾材に循環通液して該濾材上に前記付着堆積物層を形成してもよい。この場合、該沈降分を前記吸着工程に返送することが好ましい。
【0015】
プルシアンブルーナノ粒子の1次粒子の粒径は50nm以下であることが好ましい。
【0016】
前記濾材としては合成樹脂繊維の織布が好ましい。この場合、該織布の通気度は0.1〜5cm
3/cm
2・secであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
セシウムイオンを含有する被処理液にプルシアンブルーナノ粒子を添加すると、セシウムイオンが速やかにプルシアンブルーナノ粒子に吸着される。このセシウムイオンを吸着したプルシアンブルーナノ粒子を含む液をプルシアンブルーナノ粒子の付着堆積物層を有する濾材で濾過する。プルシアンブルーナノ粒子は、粒径が極めて小さく、濾材単独では殆ど濾別されないが、プルシアンブルーナノ粒子の付着堆積物層には十分に捕捉される。
【0018】
プルシアンブルーナノ粒子含有液を付着堆積物層を有した濾過手段に循環通液することにより、プルシアンブルー濃度が著しく低い、濾過処理水が得られる。プルシアンブルーナノ粒子は、セシウムの選択的吸着特性に著しく優れるので、この濾過処理水中の放射性セシウム濃度は著しく低いものとなる。
【0019】
付着堆積物層は、プルシアンブルーナノ粒子含有液を濾材に通液することにより、比較的粒径の大きい二次粒子が濾材上に付着堆積して形成される。即ち、プルシアンブルーナノ粒子は、粒径が極めて小さく、濾材をほぼ素通り状に通過するが、一部の粒径の大きい二次粒子は濾材に捕捉される。そして、通液を継続すると、それよりも粒径の小さい粒子も徐々に捕捉されるようになり、プルシアンブルーナノ粒子の捕捉量が徐々に増加して遂には濾材上にプルシアンブルーナノ粒子の付着堆積物層が形成される。この付着堆積物層によれば、粒径の小さいプルシアンブルーナノ粒子が効率よく捕捉される。
【0020】
本発明では、プルシアンブルーナノ粒子含有液をまず遠心分離し、上澄分のみを付着堆積物層を有した濾過手段に通液することにより、濾過を効率よく行うことができる。遠心分離の沈降分については、プルシアンブルーにセシウム吸着容量が残っている場合、吸着工程に返送し、放射性セシウムの吸着に用いることができる。このようにすれば、放射性セシウムを高濃度に含んだプルシアンブルーナノ粒子が回収される。ただし、セシウム吸着容量が残っていても、再利用することなく、系外に取り出して保管してもよい。
【0021】
本発明では、付着堆積物層を全く又は殆ど有しない濾材にこの上澄分を通液し、該濾材上に付着堆積物層を形成することが好ましい。
【0022】
プルシアンブルーナノ粒子の付着堆積物層が厚く堆積した場合には、濾材を逆洗する。この逆洗排水を吸着工程に返送することにより、プルシアンブルーナノ粒子に多量の放射性セシウムを吸着させることができる。ただし、逆洗排水を遠心分離して放射性セシウム含有脱水ケーキとしてもよい。
【0023】
このようにして、本発明によると、プルシアンブルーナノ粒子に対し多量のセシウムを吸着させることができる。このプルシアンブルーナノ粒子はセシウム吸着量が多いので、原液(放射性廃液)に比べて量(体積)が著しく少ない。そのため、放射性セシウム吸着プルシアンブルーナノ粒子の保管が容易である。
【0024】
また、プルシアンブルーナノ粒子はセシウムの選択的吸着性に優れると共に、セシウム飽和吸着量も多いので、セシウムを選択的に高度に濃縮して回収することができると共に、処理水中のセシウム濃度は著しく低いものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明において、プルシアンブルーのナノ粒子を単にナノ粒子ということがある。
【0027】
本発明方法で対象とする被処理液は、セシウム特に放射性セシウムを含有するものである。この被処理液としては、放射性物質で汚染された原子力発電所設備水、汚染地域の湖沼水、河川水、地下水、プール等の槽状体の貯留水のほか、除染排水、放射性物質汚染土壌の酸抽出水、廃棄物焼却灰の洗浄排水などが例示される。これらの被処理液は、セシウムのほかに各種の金属イオンや固形分を含んでいる。被処理液のセシウム濃度については特に制限はなく、100Bq/L程度の低濃度汚染水から10万Bq/L程度の高濃度汚染水まで処理可能である。
【0028】
プルシアンブルーナノ粒子の添加によるセシウム吸着処理に先立って、被処理液から濾過処理、遠心分離処理等によって固形物を除去しておくことが望ましい。放射性セシウムはイオン化して溶解しており、除去された固形物の付着放射性セシウム量は極く微量である。
【0029】
このように必要に応じ固形物除去処理した被処理液に対しプルシアンブルーナノ粒子を添加し、セシウムを吸着させる。プルシアンブルーナノ粒子としては一次粒子径(平均粒径)が50nm以下であって、二次粒子径(凝集径)(平均粒径)が5nm〜1mm程度のものがセシウム吸着性能、付着堆積物層形成能から好ましいが、一次粒径が大きく二次粒径が10〜100μm程度の、顔料、所謂「紺青」等も使用可能である。(測定法(一次粒径):X線回折装置で測定、回折ピークから結晶格子径を算出して求めた値。測定法(二次粒径):レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した値。)
ナノ粒子のN
2ガスを用いたBET法で測定した比表面積は150〜2500m
2/g程度が吸着能力、取り扱い上望ましい。このプルシアンブルーナノ粒子の好適な組成については後述する。プルシアンブルーナノ粒子の添加量は、0.2〜10kg/m
3特に1〜5kg/m
3程度が好ましい。被処理液中のセシウム濃度が高いほど、上記の範囲内でプルシアンブルーナノ粒子の添加量を多くすることが好ましい。
【0030】
プルシアンブルーナノ粒子のセシウム吸着速度は極めて大きいので、被処理液にプルシアンブルーナノ粒子を添加してから約0.1〜1hr以内に吸着が終了する。そこで、このナノ粒子添加水を好ましくはデカンタ等によって遠心分離し、沈降分と上澄分とに分離する。沈降分中のプルシアンブルーナノ粒子に十分な吸着容量が残っている場合には、吸着工程に戻して再利用(被処理液に添加)するのが好ましい。プルシアンブルーナノ粒子が飽和吸着に近い状態になっている場合には、沈降分を系外に取り出し、保管する。
【0031】
この遠心分離による上澄分を濾過工程に供する。この濾過工程では、上澄分を濾材に通液して透過させる。好ましくは、上澄分を循環させて濾過する。なお、遠心分離は必須ではなく、プルシアンブルーナノ粒子の添加液をそのまま濾過工程に供してもよい。
【0032】
この濾過のシステムの一例を
図1に示し、処理フローの一例を
図2に示す。タンク1内の液(プルシアンブルーを添加した液又はそれを遠心分離した上澄分)は、配管2、ポンプ3によって送液され、流入口4から濾過器5のシェル(外殻)6内に流入する。該シェル6内には、多数の孔8aを有した筒状支持体8と、該筒状支持体8の外周を取り巻く濾材7とが設置されている。筒状支持体8としては、パンチングプレートよりなるもの、ロッドを縦及び周方向に配置した格子状のもの等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0033】
濾材7としては、多孔質の布、シート又はフィルムよりなるものが好適であり、中でも、0.5〜1.2mm特に0.9〜1mm程度の厚さの合成樹脂の繊維の織布が好適である。合成樹脂としては、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンなどを用いることができるが、これに限定されない。織布の織りとしては、平織、朱子織、綾織などが例示されるが、これに限定されない。織布の通気度は0.1〜5cm
3/cm
2・sec特に0.3〜1.3cm
3/cm
2・sec程度が好適である。
【0034】
液は、濾材7、孔8aを通って筒状支持体8内に流入し、次いで連通口9を通過してヘッダー室10に流入し、流出口11及び配管12を経てタンク1に返送される。
【0035】
濾過運転の開始当初は、付着堆積物層Mは形成されておらず、液中のプルシアンブルーナノ粒子の大部分は濾材7を素通り状に通過するが、一部の比較的粒径の大きい二次粒子が濾材7に捕捉され、次第にその捕捉量が増大し、これに伴って比較的小粒径の粒子も捕捉されるようになり、遂には付着堆積物層Mが形成される。付着堆積物層Mが形成されると、粒径の小さいプルシアンブルーナノ粒子も付着堆積物層Mに捕捉され、付着堆積物層Mの厚さが大きくなる。なお、濾過工程からの液を遠心分離してから濾過する場合には、遠心分離なしに直に濾過する場合に比べて、濾材7として目開きの小さいものを用いることが好ましい。
【0036】
濾材7に付着した付着堆積物層Mの厚さが所定以上になった場合には、濾過器5への液の導入を停止し、水又は空気等の気体で濾材7を逆洗する。水又は空気等を図示しない逆洗ラインによってヘッダー9に供給すると、濾材7に付着していた付着堆積物層が剥離し、シェル6内を落下する。底部の排出弁15を開とすると、排出口14から付着堆積物層を含んだスラリーが流出する。このスラリー中のプルシアンブルーナノ粒子の残存吸着容量が多いときには、このスラリーをセシウム吸着工程に返送する。プルシアンブルーナノ粒子のセシウム吸着量が飽和吸着に近い場合や、セシウム吸着量の少ないプルシアンブルーを保管する場合などには、吸着工程のスラリーを遠心分離処理し、脱水ケーキとし、保管容器等に収容して保管する。
【0037】
セシウムを吸着したプルシアンブルーナノ粒子の保管には、ステンレス等の耐食性材料よりなる密閉容器を用いるのが好ましく、密閉容器への自動充填も可能である。
【0038】
濾材7の逆洗が終了した後、濾過器5に液を循環通液する。この場合も、通液を開始するとまず粒径の大きい二次粒子が濾材7に捕捉されて付着堆積物層Mが形成され、その後、粒径の小さいプルシアンブルーナノ粒子も捕捉され、付着堆積物層Mの層厚が大きくなる。
【0039】
なお、実際のタンク1の容積は濾過器5の容積よりも大きいので、タンク1に対し複数、例えば2個の濾過器5を並列に接続し、一部の濾過器5で濾過を行っているときに他の濾過器で逆洗を行うようにするのが好ましい。
【0040】
タンク1から配管2、濾過器5、配管12を経て循環している液中のプルシアンブルーナノ粒子濃度が所定濃度以下となったときには、濾過処理水を流出口16を通して系外に取り出す。
【0041】
なお、本発明では濾過助剤を用いてもよい。
【0042】
図3は、プルシアンブルーの結晶構造を示すものである。プルシアンブルーは立方格子状であり、格子定数は約0.5nmである。水和したセシウムイオンは、この格子にほぼすっぽりと入り込む大きさであるため、プルシアンブルーはセシウムを選択的に吸着する。
【0043】
プルシアンブルーをナノ粒子とすることにより、セシウムの吸着速度が大きくなる。また、プルシアンブルーナノ粒子の格子間隙に入り込んだセシウムイオンが粒子の芯部にまで拡散移動する距離が短いので、プルシアンブルーナノ粒子のほぼ全体がセシウムの吸着に利用され、速やかにほぼ飽和吸着状態となるまでセシウムを吸着させることができる。
【0044】
プルシアンブルーの化学式は、Fe(III)
4[Fe(II)(CN)
6]
3で表わされるが、本発明で用いるプルシアンブルーは、結晶水を含んでいたり、一部の鉄イオンが他の金属、例えばバナジウム、クロム、マンガン、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属で置換された、次式で表わされるプルシアンブルー型金属錯体であってもよい。
A
xM
A[M
B(CN)
6]
y・zH
2O
Aは陽イオンに由来する原子である。xは0〜2、yは1〜0.3、zは0〜20である。M
A,M
Bは金属原子である。
【0045】
プルシアンブルーナノ粒子を製造するには、例えばフェロシアン化ナトリウム水溶液に硝酸鉄水溶液を等モルにて添加し、撹拌して反応させ、生成したプルシアンブルーを遠心分離によって沈降させ、次いで必要に応じ水、メタノール等で洗浄すればよい。ただし、プルシアンブルーの製造方法はこれに限定されない。沈殿物の1次粒子は、粒径50nm以下、例えば平均粒径が10〜20nmのナノ粒子である。なお、ナノ粒子の粒径は透過型電子顕微鏡の撮像から計測した値である。
【0046】
吸着工程において被処理液に添加する場合、プルシアンブルーの飛散防止のために、分散液、スラリー、含水固形物などの形態で添加することが好ましいが、プルシアンブルーナノ粒子の乾燥物として添加してもよい。いずれの形態でプルシアンブルーを被処理液に添加しても、プルシアンブルーは直ちに液中に分散し、セシウムを吸着する。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
<プルシアンブルーナノ粒子の調製>
フェロシアン化ナトリウム・10水和物14.5gを水60mLに溶解した水溶液に硝酸鉄・9水和物16.2gを水に溶解した水溶液30mLを混合し、5分間攪拌した。析出した青色のプルシアンブルー沈殿物を遠心分離し、これを水で3回、続いてメタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥した。このときの収量は11.0gであり、収率はFe
4[Fe(CN)
6]
3・15H
2Oとして97.4%であった。
【0048】
作製したプルシアンブルーを粉末X線回折装置で解析した結果、標準試料データベースから検索されるプルシアンブルー(Fe
4[Fe(CN)
6]
3)と一致した。また、FT−IR測定においても、2080cm
−1付近にFe−CN伸縮振動に起因するピークが現れており、この固形物がプルシアンブルーであることを示した。このプルシアンブルーのBET比表面積は300m
2/g、一次粒子の平均粒径は16nm、二次粒子の平均粒径は55μmであった。
【0049】
<模擬被処理液の調製>
純水に炭酸セシウムを溶解させると共に、塩酸を添加してpH6、セシウム濃度100ppbのセシウム溶液を調製し、これを被処理液とした。
【0050】
<濾材>
濾材として、ポリプロピレン織布(平織、通気度0.4cm
3/cm
2・sec、厚さ1mm)の円筒形バッグ(直径80mm、長さ240mm)を用いた。
【0051】
<吸着処理>
上記被処理液50Lに上記プルシアンブルーを40g添加し、10min間撹拌し、セシウムを吸着させた。
【0052】
<濾過処理>
このプルシアンブルー添加液をポンプを用いて上記織布に0.3MPaゲージの圧力で0.52L/minにてワンパス通水した。通水開始当初は、プルシアンブルーは素通り状であったが、5min経過頃から付着堆積物層の形成が認められ、これと共に濾液の色が淡くなり始め、50min後には濾液は無色透明となった。50min後の通水量は0.295L/minまで低下したが、その後100min後では0.255L/minと通水量の低下は減少した。
【0053】
濾液中のプルシアンブルー含有量を測定したところ、
0min後: プルシアンブルー含有量 800ppm
15min後: プルシアンブルー含有量 50ppm
30min後: プルシアンブルー含有量 10ppm
50min後: プルシアンブルー含有量 0ppm
70min後: プルシアンブルー含有量 0ppm
100min後:プルシアンブルー含有量 0ppm
であった。
【0054】
この実験より、セシウム水溶液中のセシウムをほぼ完全に除去できることが確認された。なお、この濾材に合計30L通水し、50min経過時から100min経過時までの50min間に13Lの無色透明水を得た。被処理液30L通水を処理し形成された付着堆積物の容積は19cm
3であった。これは、当初の水溶液30Lの1/1573であり、セシウムが1573倍に濃縮されたことを意味する。
【0055】
また、プルシアンブルーナノ粒子5000ppmスラリーを遠心分離機にて脱水し、50ppmスラリー上澄液と含水率90重量%以下の脱水ケーキを得た。
【符号の説明】
【0056】
1 タンク
5 濾過器
7 濾材
8 筒状支持体